特許第6807419号(P6807419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6807419-EUV用ペリクル 図000003
  • 特許6807419-EUV用ペリクル 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807419
(24)【登録日】2020年12月9日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】EUV用ペリクル
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/62 20120101AFI20201221BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20201221BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20201221BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20201221BHJP
   C09J 133/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   G03F1/62
   C09J201/00
   C09J11/04
   C09J183/04
   C09J133/00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-28426(P2019-28426)
(22)【出願日】2019年2月20日
(62)【分割の表示】特願2015-205215(P2015-205215)の分割
【原出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-113857(P2019-113857A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2019年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【弁理士】
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀越 淳
【審査官】 冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6669464(JP,B2)
【文献】 国際公開第2015/156257(WO,A1)
【文献】 特開2011−252109(JP,A)
【文献】 特開2011−053603(JP,A)
【文献】 特開2015−018228(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188710(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/045414(WO,A1)
【文献】 米国特許第06623893(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00− 1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が一方の端面に接着層を介して貼り付けられたペリクルフレームと、前記ペリクルフレームの他方の端面に設けられた粘着層を有するペリクルであって、前記接着層が接着剤100質量部に対して熱伝導性充填剤100〜4,000質量部を配合してなる接着剤組成物から得られ、EUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項2】
熱伝導性充填剤が、金属酸化物の粉末、金属炭酸塩の粉末、金属水酸化物の粉末、窒化物の粉末、炭化ケイ素の粉末、及びダイヤモンドの粉末からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項3】
熱伝導性充填剤が、酸化アルミニウム、酸化チタン及び酸化亜鉛からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項4】
熱伝導性充填剤が、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項5】
熱伝導性充填剤が、窒化ホウ素及び窒化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項6】
接着剤が、シリコーン系接着剤又はアクリル系接着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項7】
熱伝導性充填剤の熱伝導率が、接着剤の熱伝導率よりも2W/(m・K)以上高い請求項1〜6のいずれか1項に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル
【請求項8】
接着剤が、150℃×1000時間の耐熱試験後のアルミ引張せん断接着強さが、試験前の初期値に対して70%以上の値を示す接着剤である請求項1〜5のいずれか1項に記載のEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル。
【請求項9】
フォトマスクに請求項1〜8のいずれか1項に記載のペリクルを貼り付けてなるEUV露光を用いた半導体製造に使用されるペリクル付フォトマスク
【請求項10】
請求項9記載のペリクル付フォトマスクを使用してEUV露光することを特徴とする半導体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるペリクル、特には、EUV(Extreme Ultra-Violet)光を用いてリソグラフィーを行う際に用いるEUV用ペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造或いは液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、単にフォトマスクと記述する)にゴミが付着していると、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
【0003】
このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミ除けとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
一般に、ペリクルは、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース或いはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜をアルミニウム、ステンレス、ポリエチレンなどからなるペリクルフレームの上端面にペリクル膜の良溶媒を塗布した後、風乾して接着する(特許文献1参照)か、アクリル樹脂やエポキシ樹脂などの接着剤で接着する(特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。さらに、ペリクルフレームの下端にはフォトマスクに接着するためのポリブテン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層、及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)から構成される。
【0005】
そして、このようなペリクルをフォトマスクの表面に取り付けて、フォトマスクを介して半導体ウエハー或いは液晶用原版に形成されたフォトレジスト膜を露光する場合には、ゴミなどの異物は、ペリクルの表面に付着しフォトマスクの表面には直接付着しないため、フォトマスクに形成されたパターン上に焦点が位置するように、露光用の光を照射すれば、ゴミなどの異物の影響を回避することが可能になる。
【0006】
ところで、近年では、半導体デバイス及び液晶ディスプレイは、ますます高集積化、微細化してきているのが実情である。現在では、32nm程度の微細パターンをフォトレジスト膜に形成する技術も実用化されつつある。32nm程度のパターンであれば、半導体ウエハー或いは液晶用原版と投影レンズとの間を超純水などの液体で満たし、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザーを用いて、フォトレジスト膜を露光する液浸露光技術や多重露光などの従来のエキシマレーザーを用いた改良技術によって対応可能である。
【0007】
しかし、次世代の半導体デバイスや液晶ディスプレイにはさらに微細化した10nm以下のパターン形成が要求されており、このような微細化した10nm以下のパターン形成のためには、もはや、従来のエキシマレーザーを用いた露光技術の改良では対応することは不可能である。
【0008】
そこで、10nm以下のパターンを形成するための方法として、13.5nmを主波長とするEUV光を使用したEUV露光技術が本命視されている。このEUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細なパターンを形成する場合には、どのような光源を用いるか、どのようなフォトレジストを用いるか、どのようなペリクルを用いるかなどの技術的課題を解決することが必要であり、これら技術的課題のうち、新たな光源と新たなフォトレジスト材料については、開発が進み、種々の提案がなされている。
【0009】
その中で、半導体デバイス或いは液晶ディスプレイの歩留りを左右するペリクルについては、例えば、特許文献3に、EUVリソグラフィーに用いるペリクル膜として、透明で光学的歪を生じない厚さ0.1〜2.0μmのシリコン製フィルムが記載されているものの、未解決な問題も残っており、EUV露光技術を実用化する上で大きな障害となっているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭58−219023号公報
【特許文献2】特公昭63−27707号公報
【特許文献3】米国特許第6623893号明細書
【特許文献4】米国特許第4861402号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特に、ペリクル膜をペリクルフレームに貼り付けるための接着剤の材料については、従来のi線(波長365nm)を用いた露光、フッ化クリプトン(KrF)エキシマレーザー光(波長248nm)を用いた露光、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザー光(波長193nm)を用いた露光では、その接着力のみを考慮して選択されていた。
【0012】
ところが、EUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細なパターンを形成する場合には、最近行われたシミュレーションの結果では、シリコン製ペリクル膜にEUV光が照射されている部分には、そのEUV光のエネルギーによって500℃付近まで加熱される可能性がある。ペリクル膜、接着剤、ペリクルフレームはそれぞれ材質が異なり、線膨張係数が異なるため、加熱された場合、それぞれの材質で膨張割合が異なる。
【0013】
また、一般に有機物の接着剤は熱伝導率が低いため、ペリクル膜が受けたEUV光の照射エネルギーによって発生した熱を、ペリクルフレームに伝えて放熱することができない。したがって、その熱によりペリクル膜が歪んでしまい、微細な露光ができなくなる。また、最悪の場合には、ペリクル膜の破損や、ペリクル膜の脱落といった可能性も考えられる。そのため、EUV光の照射エネルギーによって生じた熱を速やかに外部に放熱する必要がある。
【0014】
参考データとして、以下に各種材料の熱伝導率、線膨張係数を示す。
[参考データ(1):各種材料の熱伝導率]
シリコン(ペリクル膜):170W/(m・K)
石英ガラス(フォトマスク):1.5W/(m・K)
シリコーン樹脂(接着剤):0.2W/(m・K)
アクリル樹脂(接着剤):0.2W/(m・K)
アルミニウム(ペリクルフレーム):240W/(m・K)
【0015】
[参考データ(2):各種材料の線膨張係数]
シリコン(ペリクル膜):2.4×10−6(/K)
石英ガラス(フォトマスク): 0.5×10−6(/K)
シリコーン樹脂(接着剤): 300×10−6(/K)
アクリル樹脂(接着剤): 200×10−6(/K)
アルミニウム(ペリクルフレーム): 23×10−6(/K)
【0016】
そこで、本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、EUV光の照射エネルギーによって、ペリクル膜の歪みや破損、脱落が起こらないEUV用ペリクルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、多くの種類がある接着剤の中で、接着剤100質量部に対して熱伝導性充填剤100〜4,000質量部を配合してなる接着剤組成物が、例えば、EUV露光技術の使用に際し好適であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0018】
本発明に係るEUV用ペリクルは、少なくともペリクル膜と、前記ペリクル膜が一方の端面に接着層を介して貼り付けられたペリクルフレームと、前記ペリクルフレームの他方の端面に設けられたペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着層を有するペリクルである。そして、上記課題を解決するために、前記接着層としての接着剤に熱伝導性充填剤を配合してなる接着剤組成物を使用したことを特徴とする。
本発明において、熱伝導性充填剤とは接着層の接着剤よりも熱伝導率が高い物質の粉末を意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、EUV露光のエネルギーによりペリクル膜に発生した熱を速やかにペリクルフレームに伝え、放熱することができる。その結果、ペリクル膜の歪みや破損、脱落といったことのないEUV用ペリクルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のペリクルの一実施態様の縦断面図である。
図2】接着剤塗布装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1は本発明のペリクルの一実施態様を示す縦断面図である。このペリクル1では、ペリクル1を貼り付けるフォトマスク(又はそのガラス基板部分)の形状に対応した通常四角枠状(長方形枠状又は正方形枠状)のペリクルフレーム13の上端面に接着層12を介してペリクル膜11が張設され、ペリクルフレーム13の下端面にはペリクルをフォトマスクに貼り付けるための粘着層14が形成されている。また粘着層14の下端面には、粘着層14を保護するための離型層(セパレータ)15が剥離可能に貼り付けられている。接着層12は、接着剤に熱伝導性充填剤を配合してなる接着剤組成物によって形成されている。
【0023】
ここで、ペリクル膜の材質に特に制限はなく、公知のものを使用することができる。EVU露光に使用する場合には、EUV光に対して透過率の高いシリコン等が好ましい。
【0024】
ペリクルフレームの材質にも特に制限はなく、アルミニウム、ステンレス等の金属、合金、ポリエチレンなどの合成樹脂等の公知のものを使用することができるが、放熱性の点から金属製のものが好ましい。
【0025】
本発明において、ペリクル膜とペリクルフレームは接着層を介して接着される。該接着層は接着剤に熱伝導性充填剤を配合してなる接着剤組成物によって形成される。該接着層は、ペリクルフレームの上端面に所定の幅(通常、ペリクルフレームのフレーム幅と同じ又はそれ以下)で設けられ、ペリクルフレームの上端面の周方向全周に亘って、ペリクル膜をペリクルフレームに貼り付けることができるように形成されている。
【0026】
前記接着剤としては、ポリブテン系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤等の任意の接着剤を前記接着剤組成物の基材として使用することができるが、シリコーン系接着剤、アクリル系接着剤が特に前記接着剤組成物の基材として好適に使用できる。
【0027】
前記シリコーン系接着剤としては、例えば、信越化学工業株式会社から市販されているシリコーン系接着剤を使用することができるが、高温での使用が想定されるため、耐熱性の高い接着剤が好ましい(例えば、信越化学工業株式会社製のシリコーン接着剤である商品名KE−101A/B、KE−1285A/B、KE−1803A/B/C、KE−1854、KE−1880など)。
【0028】
また、前記アクリル系接着剤としては、例えば、綜研化学株式会社から市販されているアクリル系接着剤(商品名SKダインシリーズなど)を使用することができる。
【0029】
前記接着剤は高温時でも接着力が良好であり、例えば、KE1285A/Bのアルミ引張せん断接着強さは初期値1.5MPaに対して、150℃×1000時間の耐熱試験後でも1.8MPaと接着力を維持している。
この150℃×1000時間の耐熱試験後のアルミ引張せん断接着強さが、試験前の初期値に対して70%以上の値であれば、EUV光により接着剤が加熱された場合も接着力を保つことができるため好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
また、前記シリコーン系接着剤では特には耐熱性が高く、高温時における揮発成分が少ないことから、信越化学工業株式会社製の商品名KE−101A/Bが好ましい。また、前記アクリル系接着剤では接着力や作業性から、綜研化学株式会社製の商品名SK−1425が好ましい。
【0031】
前記熱伝導性充填剤は、熱伝導率が高いものほど接着層全体としての熱伝導率を高めることができるので好ましい。特に、前記接着剤よりも熱伝導率が2W/(m・K)以上高いものが好ましく、5W/(m・K)以上高いものがより好ましい。
【0032】
前記熱伝導性充填剤としては、酸化銀、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉄等の金属酸化物の粉末、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛等の金属炭酸塩の粉末、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物の粉末、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化炭素等の窒化物の粉末、炭化ケイ素の粉末、及びダイヤモンドの粉末が例示される。特に酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化ホウ素、及び窒化アルミニウムが熱伝導率が高く取り扱いが容易であるために好ましい。これらの熱伝導性充填剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0033】
参考データとして、以下に各種熱伝導性充填剤の熱伝導率を示す。
[参考データ(3):各種熱伝導性充填剤の熱伝導率]
酸化アルミニウム:36W/(m・K)
酸化チタン:8W/(m・K)
酸化亜鉛:25W/(m・K)
窒化ホウ素:210W/(m・K)
【0034】
前記熱伝導性充填剤の配合量は、接着剤100質量部に対して100〜4,000質量部であり、特に200〜4,000質量部とすることが好ましい。該熱伝導性充填剤が少なすぎる場合には熱伝導特性が不十分であり、該熱伝導性充填剤が多すぎる場合には接着剤との均一な混練りが不能となることがある。
【0035】
本発明における接着剤組成物は、接着剤に熱伝導性充填剤のみを配合したものであっても、また、必要に応じて着色剤や酸化防止剤等の任意の添加剤の1種または2種以上を本発明の目的を損なわない範囲においてさらに配合したものであってもよい。
【0036】
ペリクルフレームへの前記接着剤組成物の塗布は、例えば塗布装置にて行うことができる。図2は、本発明において、接着層の形成に好適に使用される接着剤塗布装置の一例を示す模式図である。この接着剤塗布措置2は、シリンジ23が、シリンジ23をXYZ軸方向に移動させることができるように固定レール及び可動レールを組み合わせて構成した3軸ロボット22を介して、架台21上方に取り付けられている。このシリンジ23の先端にはニードル25が取り付けられ、前記接着剤組成物が満たされたシリンジ23をエア加圧式ディスペンサ(図示せず)に接続し、3軸ロボット22の制御部(図示せず)によりロボット動作と塗布液吐出の両方を制御する。そして、接着剤塗布装置2の架台21上にセットされたペリクルフレーム24上を、前記接着剤組成物をニードル25から滴下しながら移動させることにより、ペリクルフレーム24上に前記接着剤組成物を塗布することができる。
【0037】
また、前記接着剤組成物の移送手段(図示せず)は、エア加圧、窒素加圧などの気体加圧によるものに限らず、シリンジポンプ、プランジャーポンプ、チューブポンプなど、供給量及び吐出・停止が制御できる各種の移送手段が利用できる。
【0038】
さらに、前記接着剤組成物の粘度が高くて塗布装置による塗布が困難な場合には、必要に応じてトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソオクタン、イソパラフィン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジイソプルピルエーテル、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤を添加することができる。
【0039】
また、粘着層14はペリクルフレーム13の下端面に形成され、フォトマスクへの貼付けに使用される。粘着剤の材質にも特に制限はなく、シリコーン系粘着剤、アクリル系粘着剤等の公知のものを使用することができる。その形成方法は上記接着層の形成方法と同様の方法にて形成される。また、離形層(セパレータ)15は ペリクルをフォトマスクに貼り付けるまで、粘着層を保護する目的で使用され、ペリクルの使用時には取り除かれる。そのため、離型層(セパレータ)は、粘着層をペリクルの使用時まで保護することが必要な場合に、適宜設けられる。製品ペリクルでは、一般に、離型層(セパレータ)を貼り付けたもので流通する。離型層(セパレータ)の材質にも特に制限はなく、公知のものを使用することができ、また、離型層(セパレータ)は公知の方法で粘着層に貼り付ければよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0041】
[実施例1]
はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。このペリクルフレームをクリーンルームに搬入し、中性洗剤と純水により、十分に洗浄・乾燥させた。
次に図2に示される接着剤塗布装置2の架台21上に前記ペリクルフレーム24の上端面(接着剤塗布端面)が上向き水平になるようにペリクルフレーム24を固定した。
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)400質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)200質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得た。更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製した。
そして調製した前記接着剤組成物原料を図2に示した接着剤塗布装置2のポリプロピレン(PP)製シリンジ23に充填した。シリンジ23はエア加圧式ディスペンサ(岩下エンジニアリング株式会社製、図示せず)に接続され、3軸ロボット22の制御部(図示せず)によりロボット動作と塗布液吐出の両方が制御され、自動運転により、ペリクルフレーム24の上端面の周方向全周に、ニードル25から前記接着剤組成物原料を滴下して、上端面の平坦部に該接着剤組成物原料を塗布した。
その後、前記接着剤組成物原料が流動しなくなるまで風乾させた後、前記ペリクルフレーム下端面にフォトマスクへの貼付け用粘着剤として、シリコーン系粘着剤(信越化学工業株式会社製、製品名:X−40−3122)を塗布した。そして、高周波誘導加熱装置により前記ペリクルフレームを130℃まで加熱し、前記接着剤組成物原料から溶媒を完全に蒸発させると共に該接着剤組成物原料及び前記粘着剤を硬化させて、接着層及び粘着層を形成した。
その後、ペリクル膜を前記ペリクルフレームの前記接着剤組成物原料塗布端面側に貼り付け、カッターにて外側の不要膜を切除しペリクルを完成させた。
【0042】
[実施例2]
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にBW−53(日本軽金属株式会社製水酸化アルミニウム粉:製品名)400質量部とBF−013(日本軽金属株式会社製水酸化アルミニウム粉:製品名)200質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得、更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製したほかは、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0043】
[実施例3]
アクリル系接着剤SK−1425(綜研化学株式会社製アクリル系粘着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)400質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)200質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得、更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製したほかは、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0044】
[実施例4]
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)100質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)50質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得、更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製したほかは、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0045】
[実施例5]
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)2400質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)1200質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得、更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製したほかは、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0046】
[比較例1]
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)60質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)30質量部を添加、混合することにより均一な組成物を得、更にトルエンを100質量部添加し希釈して接着剤組成物原料を調製したほかは、実施例1と同様にペリクルを作製した。
【0047】
[比較例2]
シリコーン系接着剤KE−101A/B(信越化学工業株式会社製シリコーン系接着剤:製品名:硬化後の熱伝導率 0.2W/(m・K))100質量部にアルミナAS−30(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)3000質量部とアルミナAL−47−1(昭和電工株式会社製酸化アルミニウム粉:製品名)1500質量部を添加、混合したが、シリコーン系接着剤成分に比して熱伝導性充填剤の充填量が多過ぎるため、均一な組成物を調製することができなかった。
【0048】
実施例1〜5、比較例1は以下の加熱試験、熱伝導率測定にて評価した。
【0049】
[加熱試験]
前記実施例1〜5及び比較例1で作製したペリクルをガラス基板に貼り付け、加熱試験を行った。ガラス基板への貼り付け及び加熱試験条件は以下の通りである。
前記ペリクルを、粘着層側を下側にしてガラス基板に置き、プレス機にてペリクルフレームに10MPaの圧力を5分間加え、ガラス基板にペリクルを貼り付けた評価用サンプルを作製した。この評価用サンプルをオーブンに入れ、ペリクル膜に120℃の熱風が当たるように配置し、240時間の加熱試験を行い、試験前後におけるペリクルの状態を確認した。結果を表1に示す。
【0050】
[熱伝導率測定]
75mm×150mmの金属製枠体に実施例1〜5及び比較例1で調製した接着剤組成物原料を硬化後の厚さが12mmのブロック状になるように充填した。硬化は接着剤組成物原料を枠体ごとホットプレートに乗せ、130℃に加熱して行い、溶媒を完全に蒸発させると共に該接着剤組成物原料を硬化させて熱伝導率測定用サンプルを作製した。このサンプルについて熱伝導率計(商品名:Kemtherm QTM−D3迅速熱伝導率計、京都電子工業株式会社製)を使用して熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[総合評価]
前記加熱試験、及び前記伝導率測定の結果に基づき、下記の基準で総合評価を行った。結果を表1に示す。
○:ペリクルの状態、熱伝導率がいずれも良好である場合
×:ペリクルの状態、熱伝導率のうち、いずれかでも不良である場合
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から、実施例1〜5においては、ペリクル膜に発生した熱を速やかにペリクルフレームに伝え、放熱することができ、その結果、本発明により、ペリクル膜の歪みや破損、脱落ということのない、EUV露光技術の使用に際し好適であるEUV用ペリクルを提供できることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
1 ペリクル
11 ペリクル膜
12 接着層
13 ペリクルフレーム
14 粘着層
15 離型層(セパレータ)
2 接着剤塗布装置
21 架台
22 3軸ロボット
23 シリンジ
24 ペリクルフレーム
25 ニードル
図1
図2