【実施例】
【0034】
(評価試験1)
乳酸菌を含む培養液を低粘度化する方法について検討するため、サンプル1及び2の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル1及び2の作製条件及び評価結果については、表1にも示す。
【0035】
(サンプル1)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌として明治ブルガリアヨーグルト(フルーツ入りソフトタイプヨーグルト)(株式会社明治製)用のブルカリア菌株(以下、「菌株Y」という)を含む培養液を作製した。以下、全てのサンプルにおける乳酸菌の培養において、随時、炭酸カリウム又は水酸化ナトリウムを添加して、pHを5.0〜6.0に制御する中和培養を行った。この培養液を、高圧ホモジナイザー(Niro Soavi社製、型番:Panda 2K)を用いて低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、2×10
7Paで1回処理を行った。乳酸菌培養液を低粘度化した結果、乳酸菌のうち42%が死滅していることが分かった。なお、乳酸菌数は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に記載の方法で測定した。
【0036】
(サンプル2)
サンプル1と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(菌株Y)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて低粘度化した。なお、この高せん断ミキサーは、サンプル1で用いた高圧ホモジナイザーよりもせん断応力が弱い。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、20,000rpmで3回処理を行った。乳酸菌培養液を低粘度化した結果、乳酸菌のうち8%が死滅していることが分かった。
【0037】
【表1】
【0038】
サンプル1,2の結果から、せん断応力が小さい装置によって乳酸菌培養液を低粘度化することにより、乳酸菌の死滅を抑制できることが分かった。
【0039】
(評価試験2)
遠心分離による濃縮の前後での乳酸菌の数の変化について検討するため、サンプル3〜7の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル3〜7の作製条件及び評価結果については、表2にも示す。
【0040】
(サンプル3)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で1回処理した。なお、この処理は、10,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前(せん断処理後、且つ濃縮する前)に対する濃縮後に含まれる乳酸菌数の割合(乳酸菌回収率)は99%以上であった。
【0041】
なお、乳酸菌回収率は、下式(1)にしたがって算出した(後述のサンプル4〜7についても同様)。式(1)において、軽液とは、培養液を遠心機にかけたときに上層側に分離した液を意味する。
【0042】
【数1】
【0043】
(サンプル4)
サンプル3と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約6mPa・sとなるまで、15,000rpm以上で1回処理した。なお、この処理は、7,500Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は97%であった。
【0044】
(サンプル5)
サンプル3と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。なお、この処理は、20,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0045】
(サンプル6)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)と明治ブルガリアヨーグルト(プレーンタイプ)(株式会社明治製)から分離したサーモフィラス菌(以下、菌株Zという)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。なお、この処理は、20,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は95%であった。
【0046】
(サンプル7)
サンプル6と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、26,000rpm以上で3回処理した。なお、この処理は、39,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0047】
【表2】
【0048】
サンプル3とサンプル4の比較より、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を用いた場合には、せん断工程において与えるせん断応力の大きさが7,500Paをこえると、例えば、8,000Paや9,000Paにすると、97%よりも大きい乳酸菌回収率(例えば、98%以上や99%以上の回収率)が得られることが分かった。また、サンプル3のようにせん断工程において与えるせん断応力の大きさを10,000Paとすることにより、99%以上の乳酸菌回収率が得られることが確認された。
【0049】
サンプル5とサンプル6の結果より、せん断する工程において同一のせん断力を加える場合には、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を用いる方が、ブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を用いるよりも、濃縮したときの乳酸菌回収率が高くなることが分かった。
【0050】
一方で、サンプル6とサンプル7の結果より、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を用いる場合でも、39,000Pa相当のせん断応力を与えることにより、濃縮したときの乳酸菌回収率を99%以上に向上させることが可能であることが分かった。
【0051】
以上のことから、乳酸菌の菌種に応じて、最適なせん断条件が存在することが確認できた。
【0052】
(評価試験3)
得られた乳酸菌濃縮物の発酵活力について検討するため、サンプル8〜12の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル8〜12の作製条件及び評価結果については、表3にも示す。サンプル8〜12における乳酸酸度の経時変化を、
図2に示す。
【0053】
(サンプル8)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理し、液体窒素に浸漬することで凍結した。サンプル8では、せん断処理を行った後、濃縮処理は行っていない。
【0054】
得られた培養液を、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に0.075%で接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。このときの発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル8では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。
【0055】
乳酸酸度の測定は、0.1規定の水酸化ナトリウム、及び指示薬としてのフェノールフタレイン液を用いた中和滴定により行った。なお、中和に寄与した酸が全て乳酸に由来すると仮定している。後述のサンプル9〜12においても、乳酸酸度の測定方法は同一である。
【0056】
(サンプル9)
サンプル8と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮し、液体窒素に浸漬することで凍結した。このとき、濃縮倍率は5倍であった。
【0057】
得られた濃縮液を、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に0.015%の濃度で接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。接種した濃縮液に含まれる乳酸菌の数は、サンプル8において接種した培養液に含まれる乳酸菌の数と同じになるように調整した。乳酸菌の発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル9では、酸度が0.80に到達するまでに4時間30分を要した。
【0058】
(サンプル10〜12)
サンプル8と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。このとき、濃縮倍率は5倍であった。
【0059】
得られた濃縮液に、保護剤を添加して撹拌により混合した。保護剤としては、ショ糖32重量%、リン酸水素二カリウム8重量%、リン酸二水素カリウム8重量%を含む水溶液を用いた。保護剤の添加量は、サンプル10,11及び12のそれぞれにおいて、濃縮液100gに対して20g、50g及び5gとした。保護剤を添加した濃縮液を、液体窒素に浸漬することで凍結した。
【0060】
保護剤を添加した濃縮液(凍結後)のそれぞれを、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。接種した濃縮液に含まれる乳酸菌の数は、サンプル8において接種した培養液に含まれる乳酸菌の数と同じになるように調整した。乳酸菌の発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル10では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。サンプル11では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。サンプル12では、酸度が0.80に到達するまでに4時間30分を要した。
【0061】
【表3】
【0062】
サンプル8〜サンプル12までの比較により、サンプル9とサンプル12は、濃縮していないサンプル8と比較して、酸度0.80に達するまでの時間がやや延びているが、発酵の状態はほぼ同じであった。
【0063】
サンプル9〜サンプル12の比較により、サンプル10及びサンプル11は、サンプル9及び12よりも酸度0.80に達するまでの時間が短くなっている。濃縮後の乳酸菌培養液と保護剤との比率を5:1以上2:1以下とすることにより、凍結の際に受ける乳酸菌のダメージを緩和することができ、乳酸菌の発酵活力が向上することが分かる。
【0064】
(評価試験4)
本発明の乳酸菌培養液の濃縮方法を工業的に実施可能であることを確認するため、以下のサンプル13を作製した。
【0065】
(サンプル13)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。作製した培養液の体積は1,000Lであった。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、2000/05、型番:DRS:2G−4M−8Fジェネレータ)を用いて、低粘度化した。具体的には、11,500rpm以上で3回相当(滞在時間で換算)した。
【0066】
続いて、低粘度化した培養液を連続式遠心分離機(Westfalia Separator社製、型番:CFD130)を用いて給液流量1000L/hr(滞在時間10分に相当)で6,800rpmの回転数(10,000×Gの遠心力に相当)で遠心濃縮した。その結果、乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0067】
サンプル13において99%以上の乳酸菌回収率を実現できたことから、本発明は工業的に効果的な乳酸菌培養液の濃縮方法であることが確認できた。
【0068】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。