特許第6807677号(P6807677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6807677微生物培養液の濃縮方法及び微生物濃縮物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6807677
(24)【登録日】2020年12月10日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】微生物培養液の濃縮方法及び微生物濃縮物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20201221BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20201221BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C12N1/00 K
   C12N1/02
   C12N1/00 L
   C12M1/00 C
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-140287(P2016-140287)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-7639(P2018-7639A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】柏木 和典
(72)【発明者】
【氏名】安田 智
(72)【発明者】
【氏名】石田 淳也
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−161237(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/101175(WO,A1)
【文献】 特開2007−089511(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/113815(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/068276(WO,A1)
【文献】 特開2011−217679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
A23C 1/00−23/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種または複数種の微生物を含む培養液を準備する第1の工程と、
前記第1の工程で準備した培養液を、所定温度における前記培養液の粘度が予め定められた粘度まで低下するように、せん断処理する第2の工程と、
前記第2の工程でせん断処理した培養液を遠心分離することにより、前記微生物を含む濃縮液を分離させる第3の工程と、
を備え
前記微生物は、増粘多糖類を産生する乳酸菌である、微生物培養液の濃縮方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物培養液の濃縮方法において、
前記第1の工程で準備した培養液は、さらに、保護剤を含む、微生物培養液の濃縮方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の微生物培養液の濃縮方法において、
前記第2の工程でのせん断処理が、7,500〜13,000Paのせん断力で、15℃での粘度が1〜5mPa・sになるまでせん断する処理である、微生物培養液の濃縮方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の微生物において、
前記培養液が乳由来の成分を含む、微生物培養液の濃縮方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の微生物培養液の濃縮方法により得られた、微生物濃縮物。
【請求項6】
1種または複数種の微生物を含む培養液を準備する第1の工程と、
前記第1の工程で準備した培養液を、所定温度における前記培養液の粘度が予め定められた粘度まで低下するように、せん断処理する第2の工程と、
前記第2の工程でせん断処理した培養液を遠心分離することにより、前記微生物を含む濃縮液を分離させる第3の工程と、
を備え、
前記微生物は、増粘多糖類を産生する乳酸菌である、微生物培養液の濃縮物の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の微生物培養液の濃縮物の製造方法において、
前記第1の工程で準備した培養液は、さらに、保護剤を含む、微生物培養液の濃縮物の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の微生物培養液の濃縮物の製造方法において、
前記第2の工程でのせん断処理が、7,500〜13,000Paのせん断力で、15℃での粘度が1〜5mPa・sになるまでせん断する処理である、微生物培養液の濃縮物の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の微生物において、
前記培養液が乳由来の成分を含む、微生物培養液の濃縮物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌等の微生物培養液の濃縮方法,及びその濃縮方法を用いて得られた微生物濃縮物に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、ヨーグルト等の発酵乳製品の製造に用いられる。乳酸菌は、乳酸菌培養液から菌体を分離、濃縮し、その菌体濃度を高めた濃縮菌体として工業的に用いられる。
【0003】
乳酸菌の濃縮方法としては、遠心分離による方法、分離膜を用いたクロスフロー濾過による方法などがある。また、特許文献1には、膜分離装置のフィルターの上方から乳酸菌培養液を供給し、フィルターでケーシング側に濾過された液体をケーシングに設けた排出口より系外に排出した後、乳酸菌を含む残液を回収して乳酸菌の濃縮液を得る乳酸菌の濃縮方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−245586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
微生物培養液を濃縮しようとした場合、特に、脱脂粉乳培地を用いた培養液や、培養中に多糖類を産生する菌株を用いた培養液で、濃縮が困難となる。本発明は、濃縮後に含まれる微生物の数が多くなる微生物培養液の濃縮方法を提供することを目的とする。また、本発明は、含有する微生物の数が多い微生物濃縮物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の微生物培養液の濃縮方法は、1種または複数種の微生物を含む培養液を準備する第1の工程と、第1の工程で準備した培養液を、所定温度における培養液の粘度が予め定められた粘度まで低下するように、せん断処理する第2の工程と、第2の工程でせん断処理した培養液を遠心分離することにより、微生物を含む濃縮液を分離させる第3の工程と、を備え、微生物は、増粘多糖類を産生する乳酸菌である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、濃縮後に含まれる微生物の数が多い微生物濃縮物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、乳酸菌の濃縮方法のフローチャートである。
図2図2は、サンプル8〜12の経時に対する乳酸酸度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態1>
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。実施形態1では、微生物として乳酸菌を培養した乳酸菌培養液を工業的規模で濃縮し、乳酸菌濃縮物を得る方法について説明する。
【0010】
乳酸菌培養液としては、例えば、発酵乳の製造に主として用いられているラクトバシルス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)などの乳酸菌の培養液や、発酵乳以外の乳製品、肉製品の製造に用いられるロイコノストック属(Leuconostoc)、ペディオコッカス属(Pediococcus)等の乳酸菌の培養液が挙げられる。
【0011】
ラクトバシルス属の乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルッキイ・サブスピーシス・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)等が挙げられる。ストレプトコッカス属の乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等が挙げられる。
【0012】
図1は、乳酸菌培養液の濃縮方法のフローチャートである。本実施形態の乳酸菌培養液の濃縮方法は、乳酸菌を培養する工程S1(本発明の「第1の工程」に相当。)、乳酸菌培養液をせん断処理する工程S2(本発明の「第2の工程」に相当。)、せん断処理した乳酸菌培養液を遠心分離する工程S3(本発明の「第3の工程」に相当。)、保護剤を添加する工程S4、及び乳酸菌培養液を凍結する工程S5を備える。以下、各工程について説明する。
【0013】
初めに、工程S1において、乳酸菌を培養する。乳酸菌の菌種としては、例えば、ブルガリア菌OLL1171、ブルガリア菌OLL1073R−1、サーモフィラス菌OLS3615、サーモフィラス菌OLS3078を用いることができる。
【0014】
ブルガリア菌OLL1171(Lactobacills delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1171)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号「NITE BP−01569」で寄託されているものである。ブルガリア菌OLL1073R−1(Lactobacills delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R−1)は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許微生物寄託センターに受託番号「FERM BP−10741」で寄託されているものである。サーモフィラス菌OLS3615(Streptococcus thermophilus OLS3615)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号「NITE BP−01696」で寄託されているものである。サーモフィラス菌OLS3078(Streptococcus thermophilus OLS3078)は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号「NITE BP−01697」で寄託されているものである。
【0015】
また、乳酸菌培養液の製造に使用される培地は、通常微生物が増殖しうる栄養源を含有する。栄養源としては、乳由来の成分(ホエイ、カゼイン、脱脂粉乳、ホエイタンパク濃縮物(WPC)、ホエイタンパク分離物(WPI)等)、酵母エキス、大豆エキス、トリプチケース等のペプトン、ブドウ糖、乳糖等の糖類、乳清ミネラル等のミネラル類など、またはこれらを多く含有する食品である。栄養源として、とりわけ脱脂粉乳を用いるのが好ましいが、この例に制限されるものではない。
【0016】
培地は、例えば、121℃以上で1分〜10分の条件において滅菌を行う。そして、培地に対して、例えば0.05〜1.00%程度の濃度で乳酸菌を接種した培地を、例えば30〜45℃の雰囲気においてpHが4.0〜6.0となるように中和しながら、4〜16時間程度培養する。これにより、乳酸菌培養液が得られる。工程S1による培養を行った後の乳酸菌培養液において、乳酸菌の濃度は、例えば10〜1011cfu/mLである。また、例えば、栄養源として乳(脱脂粉乳)を使用した乳酸菌培養液では、工程S1において、乳酸菌から増粘多糖類などが産生される。このため、乳酸菌培養液の粘度は、乳酸菌の接種前における培地の粘度よりも高くなっている。工程S1による培養を行った後の乳酸菌培養液の粘度は、例えば、15℃における測定で、5〜50mPa・sである。
【0017】
次に、工程S1で得られた乳酸菌培養液を、工程S2において、高せん断ミキサー等を用いてせん断処理する。乳酸菌培養液に加えるせん断応力は、7,500〜100,000Paであることが好ましい。これにより、後の工程S3において、遠心分離後の乳酸菌培養液における乳酸菌の回収率を高めることができる。
【0018】
なお、一度に加えるせん断応力は、7,500〜13,000Paであることが好ましい。これにより、せん断力により乳酸菌が受ける損傷を抑制することができる。7,500〜13,000Paのせん断応力によるせん断処理を1回のみ行うか、あるいは、複数回に分けて行うことにより、乳酸菌培養液に対して7,500〜100,000Paのせん断応力を与えることができる。
【0019】
工程S2においてせん断処理を行った後の乳酸菌培養液は、もとの乳酸菌培養液(工程S1による培養を行った後の乳酸菌培養液)よりも粘度が低下している。せん断処理を行った後の乳酸菌培養液の粘度は、例えば、15℃における測定で1〜5mPa・s程度である。
【0020】
次に、工程S2において低粘度化した乳酸菌培養液に対して、工程S3において遠心分離する。遠心分離機としては、分離板型の遠心機を用いることができる。遠心分離は、例えば、5,000〜20,000×Gの遠心力を加え、滞在時間を2〜15分間程度として行う。
【0021】
これにより、乳酸菌培養液が、高濃度で乳酸菌を含む下層の乳酸菌培養液と、乳酸菌をほとんど含まない上層の軽液に分離される。下層の乳酸菌培養液には、もとの乳酸菌培養液に含まれる乳酸菌を高効率で回収することが可能である。なお、工程S1〜工程S3の諸条件を使用する菌種等に応じて適宜調整することにより、95%以上、さらには99%以上の乳酸菌を回収することも可能である。濃縮後の乳酸菌培養液において、乳酸菌の濃度は、例えば、10〜1012cfu/mLとなる。
【0022】
次に、工程S3で濃縮された乳酸菌培養液に対して、工程S4において、保護剤を添加する。保護剤は、後の工程S5の凍結によって受ける乳酸菌が受けるダメージ(特に、貯蔵初期段階に誘発されたダメージ)から乳酸菌を保護する機能を有する。このような保護剤としては、例えば、乳糖やショ糖といった糖質の水溶液、リン酸水素二カリウムやリン酸二水素カリウムの水溶液といったpH緩衝剤、グルタミン酸などのアミノ酸類の水溶液、これらの混合物等が挙げられる。濃縮された乳酸菌培養液と保護剤との混合液における保護剤成分の固形分含量が、例えば、2〜25%程度となるように、濃縮された乳酸菌培養液に対して保護剤を添加する。保護剤を添加した後、乳酸菌培養液を撹拌する。
【0023】
次に、保護剤を添加した乳酸菌培養液を、工程S5において凍結する。凍結は、具体的には、乳酸菌培養液もしくはそれを缶に充填したものを−180℃以下の液体窒素中に投入し、5〜10分程度保存することによって行う。これにより、固形またはペレット状の乳酸菌濃縮物が得られる。
【0024】
得られた乳酸菌濃縮物は、例えば、−55℃以下の冷凍庫で保存する。
【0025】
保存された乳酸菌濃縮物は、解凍した後、滅菌済の生乳や脱脂粉乳還元液などの培地に接種して、ヨーグルト等の乳製品の製造に用いることができる。
【0026】
<その他の実施形態>
実施形態1では、微生物の例として乳酸菌について説明したが、微生物として、酵母菌、麹カビ、納豆菌等の微生物であっても本発明を適用して微生物濃縮物を得ることができる。
【0027】
酵母菌としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae、Zygosaccharomyces rouxii等が挙げられる。酵母菌を培養した酵母菌培養液を濃縮した酵母菌濃縮物は、例えば、清酒、味噌、醤油の製造に用いることができる。
【0028】
麹カビとしては、例えば、Aspergillus oryzea、Aspergillus sojae等が挙げられる。麹カビを培養した麹カビ培養液を濃縮した麹カビ濃縮物は、例えば、日本酒、味噌、醤油、みりん等の製造に用いることができる。
【0029】
納豆菌としては、例えば、Bacillus subtilius natto等が挙げられる。納豆菌を培養した納豆菌培養液を濃縮した麹カビ濃縮物は、例えば、納豆の製造に用いることができる。
【0030】
(本実施形態の効果)
本実施形態の乳酸菌培養液の濃縮方法を用いることにより、従来の濃縮方法による乳酸菌濃縮物よりも多数の乳酸菌を含む乳酸菌濃縮物を得ることができる。換言すると、乳酸菌数あたりの乳酸菌濃縮物の体積を小さくすることができる。
【0031】
乳酸菌数あたりの乳酸菌濃縮物の体積を小さくできることにより、乳酸菌培養液の保存スペースや保存コストを削減することができる。また、乳酸菌培養液の流通コストを削減することができ、その結果、環境負荷を低減することができる。
【0032】
また、乳酸菌数あたりの乳酸菌濃縮物の体積を小さくできることにより、ヨーグルト等の食品へ加工するときに投入する乳酸菌培養液の量を減らすことができ、結果として、食品の微生物汚染リスクを低減することができる。さらに、乳酸菌自体が食品へ及ぼす風味への影響を抑制することができる。
【0033】
また、本実施形態の濃縮方法によれば乳酸菌培養液を高い効率で濃縮できるので、乳酸菌濃縮物の生産性を向上させることができ、結果として、製造コストを低減することができる。
【実施例】
【0034】
(評価試験1)
乳酸菌を含む培養液を低粘度化する方法について検討するため、サンプル1及び2の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル1及び2の作製条件及び評価結果については、表1にも示す。
【0035】
(サンプル1)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌として明治ブルガリアヨーグルト(フルーツ入りソフトタイプヨーグルト)(株式会社明治製)用のブルカリア菌株(以下、「菌株Y」という)を含む培養液を作製した。以下、全てのサンプルにおける乳酸菌の培養において、随時、炭酸カリウム又は水酸化ナトリウムを添加して、pHを5.0〜6.0に制御する中和培養を行った。この培養液を、高圧ホモジナイザー(Niro Soavi社製、型番:Panda 2K)を用いて低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、2×10Paで1回処理を行った。乳酸菌培養液を低粘度化した結果、乳酸菌のうち42%が死滅していることが分かった。なお、乳酸菌数は、「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に記載の方法で測定した。
【0036】
(サンプル2)
サンプル1と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(菌株Y)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて低粘度化した。なお、この高せん断ミキサーは、サンプル1で用いた高圧ホモジナイザーよりもせん断応力が弱い。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、20,000rpmで3回処理を行った。乳酸菌培養液を低粘度化した結果、乳酸菌のうち8%が死滅していることが分かった。
【0037】
【表1】
【0038】
サンプル1,2の結果から、せん断応力が小さい装置によって乳酸菌培養液を低粘度化することにより、乳酸菌の死滅を抑制できることが分かった。
【0039】
(評価試験2)
遠心分離による濃縮の前後での乳酸菌の数の変化について検討するため、サンプル3〜7の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル3〜7の作製条件及び評価結果については、表2にも示す。
【0040】
(サンプル3)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で1回処理した。なお、この処理は、10,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前(せん断処理後、且つ濃縮する前)に対する濃縮後に含まれる乳酸菌数の割合(乳酸菌回収率)は99%以上であった。
【0041】
なお、乳酸菌回収率は、下式(1)にしたがって算出した(後述のサンプル4〜7についても同様)。式(1)において、軽液とは、培養液を遠心機にかけたときに上層側に分離した液を意味する。
【0042】
【数1】
【0043】
(サンプル4)
サンプル3と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約6mPa・sとなるまで、15,000rpm以上で1回処理した。なお、この処理は、7,500Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は97%であった。
【0044】
(サンプル5)
サンプル3と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。なお、この処理は、20,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0045】
(サンプル6)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)と明治ブルガリアヨーグルト(プレーンタイプ)(株式会社明治製)から分離したサーモフィラス菌(以下、菌株Zという)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。なお、この処理は、20,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は95%であった。
【0046】
(サンプル7)
サンプル6と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約4mPa・sとなるまで、26,000rpm以上で3回処理した。なお、この処理は、39,000Paのせん断応力に相当する。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。培養液を濃縮した結果、濃縮の前後での乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0047】
【表2】
【0048】
サンプル3とサンプル4の比較より、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を用いた場合には、せん断工程において与えるせん断応力の大きさが7,500Paをこえると、例えば、8,000Paや9,000Paにすると、97%よりも大きい乳酸菌回収率(例えば、98%以上や99%以上の回収率)が得られることが分かった。また、サンプル3のようにせん断工程において与えるせん断応力の大きさを10,000Paとすることにより、99%以上の乳酸菌回収率が得られることが確認された。
【0049】
サンプル5とサンプル6の結果より、せん断する工程において同一のせん断力を加える場合には、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を用いる方が、ブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を用いるよりも、濃縮したときの乳酸菌回収率が高くなることが分かった。
【0050】
一方で、サンプル6とサンプル7の結果より、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を用いる場合でも、39,000Pa相当のせん断応力を与えることにより、濃縮したときの乳酸菌回収率を99%以上に向上させることが可能であることが分かった。
【0051】
以上のことから、乳酸菌の菌種に応じて、最適なせん断条件が存在することが確認できた。
【0052】
(評価試験3)
得られた乳酸菌濃縮物の発酵活力について検討するため、サンプル8〜12の乳酸菌培養液を作製し、以下の実験を行った。サンプル8〜12の作製条件及び評価結果については、表3にも示す。サンプル8〜12における乳酸酸度の経時変化を、図2に示す。
【0053】
(サンプル8)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理し、液体窒素に浸漬することで凍結した。サンプル8では、せん断処理を行った後、濃縮処理は行っていない。
【0054】
得られた培養液を、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に0.075%で接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。このときの発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル8では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。
【0055】
乳酸酸度の測定は、0.1規定の水酸化ナトリウム、及び指示薬としてのフェノールフタレイン液を用いた中和滴定により行った。なお、中和に寄与した酸が全て乳酸に由来すると仮定している。後述のサンプル9〜12においても、乳酸酸度の測定方法は同一である。
【0056】
(サンプル9)
サンプル8と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮し、液体窒素に浸漬することで凍結した。このとき、濃縮倍率は5倍であった。
【0057】
得られた濃縮液を、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に0.015%の濃度で接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。接種した濃縮液に含まれる乳酸菌の数は、サンプル8において接種した培養液に含まれる乳酸菌の数と同じになるように調整した。乳酸菌の発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル9では、酸度が0.80に到達するまでに4時間30分を要した。
【0058】
(サンプル10〜12)
サンプル8と同様に、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1073R−1)とサーモフィラス菌(菌株Z)を含む培養液を作製した。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、型番:magic LAB)を用いて、低粘度化した。具体的には、15℃における測定で、粘度が約5mPa・sとなるまで、20,000rpm以上で2回処理した。続いて、低粘度化した培養液を回分式の遠心機(株式会社トミー精工製、型番:Suprema25)を用いて10,000×Gで12分間濃縮した。このとき、濃縮倍率は5倍であった。
【0059】
得られた濃縮液に、保護剤を添加して撹拌により混合した。保護剤としては、ショ糖32重量%、リン酸水素二カリウム8重量%、リン酸二水素カリウム8重量%を含む水溶液を用いた。保護剤の添加量は、サンプル10,11及び12のそれぞれにおいて、濃縮液100gに対して20g、50g及び5gとした。保護剤を添加した濃縮液を、液体窒素に浸漬することで凍結した。
【0060】
保護剤を添加した濃縮液(凍結後)のそれぞれを、脱脂粉乳13.8%溶解液(95℃達温殺菌)の培地に接種し、43℃で培養して乳酸菌を発酵させた。接種した濃縮液に含まれる乳酸菌の数は、サンプル8において接種した培養液に含まれる乳酸菌の数と同じになるように調整した。乳酸菌の発酵の度合いを調べるため、乳酸酸度を測定した。サンプル10では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。サンプル11では、酸度が0.80に到達するまでに4時間15分を要した。サンプル12では、酸度が0.80に到達するまでに4時間30分を要した。
【0061】
【表3】
【0062】
サンプル8〜サンプル12までの比較により、サンプル9とサンプル12は、濃縮していないサンプル8と比較して、酸度0.80に達するまでの時間がやや延びているが、発酵の状態はほぼ同じであった。
【0063】
サンプル9〜サンプル12の比較により、サンプル10及びサンプル11は、サンプル9及び12よりも酸度0.80に達するまでの時間が短くなっている。濃縮後の乳酸菌培養液と保護剤との比率を5:1以上2:1以下とすることにより、凍結の際に受ける乳酸菌のダメージを緩和することができ、乳酸菌の発酵活力が向上することが分かる。
【0064】
(評価試験4)
本発明の乳酸菌培養液の濃縮方法を工業的に実施可能であることを確認するため、以下のサンプル13を作製した。
【0065】
(サンプル13)
脱脂粉乳、乳糖、酵母エキスからなる培地を用いて、乳酸菌としてブルガリア菌(OLL1171)とサーモフィラス菌(OLS3615)を含む培養液を作製した。作製した培養液の体積は1,000Lであった。この培養液を、高せん断ミキサー(IKA社製、2000/05、型番:DRS:2G−4M−8Fジェネレータ)を用いて、低粘度化した。具体的には、11,500rpm以上で3回相当(滞在時間で換算)した。
【0066】
続いて、低粘度化した培養液を連続式遠心分離機(Westfalia Separator社製、型番:CFD130)を用いて給液流量1000L/hr(滞在時間10分に相当)で6,800rpmの回転数(10,000×Gの遠心力に相当)で遠心濃縮した。その結果、乳酸菌回収率は99%以上であった。
【0067】
サンプル13において99%以上の乳酸菌回収率を実現できたことから、本発明は工業的に効果的な乳酸菌培養液の濃縮方法であることが確認できた。
【0068】
以上、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
図1
図2