特許第6808190号(P6808190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6808190リチウム二次電池用電解液、及び、これを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808190
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用電解液、及び、これを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20201221BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20201221BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20201221BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M4/134
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-120360(P2016-120360)
(22)【出願日】2016年6月17日
(65)【公開番号】特開2017-224544(P2017-224544A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年4月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発(ALCA))「次世代蓄電池/リチウム空気二次電池の基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19 条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100143085
【弁理士】
【氏名又は名称】藤飯 章弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 光
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/051784(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/057311(WO,A1)
【文献】 特開2003−243030(JP,A)
【文献】 特開2003−92135(JP,A)
【文献】 特表2006−524913(JP,A)
【文献】 特開2013−20835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質に金属リチウムを用いたリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用電解液であって、
溶媒と、リチウム塩と、添加剤とを含み、
前記添加剤のカチオン成分は、下記の化学式1で表されるピリジニウムイオンであり、前記添加剤は、前記リチウム二次電池用電解液に対して濃度0.01〜0.5molL-1で含まれることを特徴とするリチウム二次電池用電解液。
[化学式1]
但し、Xは炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。
【請求項2】
前記化学式1におけるアルキル基は、炭素数が4〜8であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池用電解液。
【請求項3】
前記化学式1で表される化合物は、1−n−ヘキシルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数6の直鎖状のアルキル基)であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウム二次電池用電解液。
【請求項4】
正極と、
負極と、
請求項1から3のいずれかに記載のリチウム二次電池用電解液とを含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電解液、及び、これを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話に代表される小型携帯機器用の電源、深夜電力貯蔵システム、太陽光発電に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車のための蓄電システムなどに関連して、各種の高エネルギー密度電池の開発が精力的に行われている。このような電池として、リチウム二次電池が注目されている。このリチウム二次電池は、一般に、正極活物質としてリチウム金属酸化物を用い、負極活物質として、金属リチウム、リチウム合金、又はリチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料もしくはLTO(チタン酸リチウム)等を用い、電解液として、リチウム塩を常温で液体の有機溶媒に溶解してなる電解液が用いられて構成されている。電解液の有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、プロピオラクトン、バレロラクトン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、メトキシエトキシエタン、プロピレンカーボネートなどが用いられている(例えば、先行文献1の背景技術参照)。この中でも負極材料として金属リチウムを用いるような系は、より高エネルギー密度の電池を実現できるとして注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−020835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、負極に金属リチウムを用いた場合、上述の電解液を用いると、充電時において負極における負極活物質層の表面に析出した金属リチウムが簡単に負極活物質層表面から剥離してしまい、負極活物質層と集電体との間での密着性が低下し、効率の良い電池を得ることが難しいという問題があった。
【0005】
本発明は、かかる問題に鑑み、負極活物質層の表面に析出した金属リチウムと集電体との間の密着性を高めることができるリチウム二次電池用電解液、及び、これを用いたリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、負極活物質に金属リチウムを用いたリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用電解液であって、溶媒と、リチウム塩と、添加剤とを含み、前記添加剤のカチオン成分は、下記の化学式1で表されるピリジニウムイオンであり、前記添加剤は、前記リチウム二次電池用電解液に対して濃度0.01〜0.5molL-1で含まれることを特徴とするリチウム二次電池用電解液により達成される。
[化学式1]
但し、Xは炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。

【0007】
また、このリチウム二次電池用電解液において、前記化学式1におけるアルキル基は、炭素数が4〜8であることが好ましい。
【0008】
また、前記化学式1で表される化合物は、1−n−ヘキシルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数6の直鎖状のアルキル基)であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の上記目的は、正極と、負極と、上述のリチウム二次電池用電解液とを含むリチウム二次電池により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負極活物質層の表面に析出した金属リチウムと集電体との間の密着性を高めることができるリチウム二次電池用電解液、及び、これを用いたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るリチウム二次電池の一例を示す分解斜視図である。
図2】本発明の効果を確認するための確認試験において使用した半電池の構成を示す概略構成断面図である。
図3図2に示す半電池における2極セルの構成を示す概念図である。
図4】確認試験においてリチウム二次電池用電解液としてサンプルAを採用した場合の洗浄後作用極表面のSEMによる観察結果写真である。
図5】確認試験においてリチウム二次電池用電解液としてサンプルBを採用した場合の洗浄後作用極表面のSEMによる観察結果写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るリチウム二次電池に用いられるリチウム二次電池用電解液について説明する。このリチウム二次電池用電解液は、溶媒と、リチウム塩と、添加剤とを含み、当該添加剤のカチオン成分は、下記の化学式1で表されるピリジニウムイオンである。ここで、化学式1中において、Xは炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。以後、特に明記しない場合は直鎖状もしくは分岐状に限定しない。より好ましくは、炭素数4〜8のアルキル基である。
[化学式1]
【0013】
化学式1中において、Xは炭素数4〜8のアルキル基であることがより好ましく、具体例としては、1−ブチルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数4のアルキル基)、1−ペンチルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数5のアルキル基)、1−ヘキシルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数6のアルキル基)、1−ヘプチルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数7のアルキル基)、1−オクチルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数8のアルキル基)等を挙げることができる。なお、化学式1で表される化合物は、1−n−ヘキシルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数6の直鎖状のアルキル基)であることがより好ましい。
【0014】
また、添加剤のアニオン成分は、上記カチオンの対イオンとして通常採用されるものであればよく、例えば、BF、PF、SOCF、N(SOF)、N(SOCF、N(SO、N(SOF)(SOCF、N(CFSO、N(CSO、CFSO、CSO、C(CFSO、N(CFSO)(CSO、N(CFSO)(CSO、N(CFSO)(CSO、LiClO等が挙げられる。これらのアニオンの中でも、イオンの解離性に優れる傾向にあるPFが好ましい。
【0015】
なお、上述の添加剤の他に、例えば、ビニレンカーボネート(VC)やビニルエチレンカーボネート(VEC)といった不飽和炭素結合有機化合物、エチレンスルフィド(ES)や1,3-プロパンスルトン(1,3-PS)といった含硫黄有機化合物、クロロエチレンカーボネート(ClEC)やフルオロエチレンカーボネート(FEC) といった含ハロゲン有機化合物、リチウムビス(サリシラト)ボレート(LiBSB)やリチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)といった有機化合物を本発明に係るリチウム二次電池用電解液に添加してもよい。
【0016】
また、リチウム二次電池用電解液が有する溶媒は、リチウム二次電池用電解液の溶媒として一般的に使用される溶媒であれば特に限定されず、カーボネート系、エステル系、エーテル系、ケトン系、アルコール系または非プロトン性溶媒を使用することができる。前記カーボネート系溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)などが使用可能であり、前記エステル系溶媒としては、メチルアセテート、エチルアセテート、n−プロピルアセテート、1,1−ジメチルエチルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、γ−ブチロラクトン、デカノリド(decanolide)、バレロラクトン、メバロノラクトン(mevalonolactone)、カプロラクトン(caprolactone)などが使用可能である。前記エーテル系溶媒としては、ジブチルエーテル、テトラグリム、トリグリム、ジグリム、ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフランなどが使用可能であり、前記ケトン系溶媒としては、シクロヘキサノンなどが使用可能である。また、前記アルコール系溶媒としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが使用可能であり、前記非プロトン性溶媒としては、RCN(Rは、C2〜C20の直鎖状、分枝状または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含むことができる)などのニトリル類、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、1,3−ジオキソランなどのジオキソラン類、スルホラン(sulfolane)類などが使用可能である。
【0017】
また、溶媒は、上述した材料を単独または2つ以上混合して使用することができ、2つ以上を混合して使用する場合の混合比率は、目的の電池性能に応じて適切に調節すればよい。
【0018】
また、リチウム二次電池用電解液が有するリチウム塩もリチウム二次電池用電解液のリチウム塩として一般的に使用されるリチウム塩であれば特に限定されないが、例えば、LiN(CFSO(以下、「Li[TFSA]」と呼ぶこともある。)や、LiN(SOF)(リチウムビス(フルオロスルホニル)、以下、「Li[FSA]」と呼ぶこともある。)等を例示することができる。なお、電解液中で解離してリチウムイオンを供給するものであれば、他のリチウム塩も用いることができる。そのようなリチウム塩は、特に限定されるものではないが、例えば、LiN(CSO(以下、「Li[BETI]」と呼ぶこともある。)、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFSO)(CSO)、LiPF、LiBF、LiClO、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOF)(SOCF)、及びこれらの任意の組み合わせから選択されるものが挙げられる。また、リチウム塩は、リチウム二次電池用電解液に対して0.5〜2mol L-1で含まれるように設定することが好ましい。リチウム塩の濃度が上記範囲に含まれると、電解液が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解液性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0019】
また、上記化学式1で表されるピリジニウムイオンを含む添加剤は、リチウム二次電池用電解液に対して0.01〜0.5mol L-1で含まれることが好ましい。このような数値範囲に設定することにより、負極活物質層の表面に析出した金属リチウムと集電体との間の密着性をより一層効果的に高めることができる。
【0020】
上述のリチウム二次電池用電解液によれば、リチウム二次電池の充電時において負極における負極活物質層の表面に析出した金属リチウムが負極活物質層表面から剥離しにくくなり、集電体との間での密着性が悪化することを防止することができ、放電に寄与できない部分(デッドリチウム)の発生が抑制され、効率の良いリチウム二次電池を得ることが可能となる。
【0021】
次に、上述のリチウム二次電池用電解液を含むリチウム二次電池について以下図面を用いて説明する。なお、リチウム二次電池は、その形態によって、円筒型、角型、コイン型、パウチ型などに分類されるが、円筒型を例に採り説明する。図1は、本発明に係るリチウム二次電池の一例を示す分解斜視図である。このリチウム二次電池1は、円筒型であって、負極2、正極4、および負極2と正極4との間に配置されたセパレータ3、電池容器10、そして、前記電池容器10を封入する封入部材11を主な部分として構成されている。また、電池容器10内には、負極2、正極4、およびセパレータ3を含浸させる電解液(本発明にかかるリチウム二次電池用電解液)が封入されている。このようなリチウム二次電池1は、負極2、正極4、およびセパレータ3を順次に積層した後、螺旋状に巻き取られた状態で電池容器10に収納して構成される。ここで、電解液の具体的な内容は前述の通りであるので詳細な説明は省略する。
【0022】
リチウム二次電池が備える正極4は、集電体と、当該集電体上に形成される正極活物質層とを含む。集電体としては、例えば、Alを使用することができるが、これに限定されるものではない。正極活物質層は、正極活物質、バインダー、そして、選択的に導電剤を含むように構成されている。正極活物質としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用することができる化合物、つまり、リチウムの可逆的な挿入および脱離が可能な化合物(リチエイテッド挿入化合物)を使用することができる。具体的には、コバルト、マンガン、ニッケルまたはこれらの組み合わせの金属とリチウムとの複合酸化物、つまり、リチウム金属酸化物のうちの1種以上のものを使用することができる。なお、この化合物の表面にコーティング層を有するものも使用することができ、または前記化合物とコーティング層を有する化合物とを混合して使用することもできる。前記コーティング層は、コーティング元素化合物であって、コーティング元素のオキシド、コーティング元素のヒドロキシド、コーティング元素のオキシヒドロキシド、コーティング元素のオキシカーボネートまたはコーティング元素のヒドロキシカーボネートを含むことができる。これらコーティング層をなす化合物は、非晶質または結晶質であるとよい。前記コーティング層に含まれるコーティング元素としては、Mg、Al、Co、K、Na、Ca、Si、Ti、V、Sn、Ge、Ga、B、As、Zrまたはこれらの混合物を使用することができる。コーティング層形成工程は、前記化合物にこれら元素を用いて正極活物質の物性に悪影響を与えない方法(例えば、スプレーコーティング、浸漬法など)でコーティングできればいかなるコーティング方法を用いてもよく、これについては当該分野に従事する者によく理解できる内容であるので、詳細な説明は省略する。
【0023】
また、前記バインダーは、正極活物質粒子を互いに付着させやすくし、また、正極活物質を電流集電体に付着させやすくする役割を果たし、その代表例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロライド、カルボキシル化されたポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエンラバー、アクリレーテッドスチレン−ブタジエンラバー、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリイミドアミドなどを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、前記導電剤は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において、化学変化を起こさずに電子伝導性材料であればいかなるものでも使用可能であり、その例として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック(例、スーパー−P)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末、金属繊維などを使用することができ、また、ポリフェニレン誘導体などの導電性材料を1種または1種以上混合して使用することができる。
【0025】
リチウム二次電池が備える負極2は、集電体と、前記集電体上に形成された負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質としては、リチウム二次電池の負極活物質として使用することができる化合物、つまり、リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質、金属リチウム、金属リチウムの合金、リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質、または遷移金属酸化物を使用することができる。
【0026】
リチウムイオンを可逆的に挿入/脱離可能な物質としては、炭素物質であって、リチウム二次電池において一般に使用される炭素系負極活物質であればいかなるものでも使用することができ、その代表例としては、結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの組み合わせを使用することができる。前記結晶質炭素の例としては、無定形、板状、鱗片状(flake)、球状または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛のような黒鉛が挙げられ、前記非晶質炭素の例としては、ソフトカーボン(soft carbon)またはハードカーボン(hard carbon)、メソフェーズピッチ炭化物、焼成されたコークスなどが挙げられる。
【0027】
リチウム金属の合金としては、リチウムと、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Si、Sb、Pb、In、Zn、Ba、Ra、Ge、AlまたはSnの金属との合金が使用できる。
【0028】
リチウムをドープおよび脱ドープ可能な物質としては、Si、SiO(0<x<2)、Si−C複合体、Si−Q合金(前記Qは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族ないし16族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせであり、Siではない)、Sn、SnO、Sn−C複合体、Sn−R(前記Rは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、13族ないし16族元素、遷移金属、希土類元素またはこれらの組み合わせであり、Snではない)などが挙げられる。前記QおよびRの具体的な元素としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Sc、Y、Ti、Zr、Hf、Rf、V、Nb、Ta、Db、Cr、Mo、W、Sg、Tc、Re、Bh、Fe、Pb、Ru、Os、Hs、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、B、Al、Ga、Sn、In、Tl、Ge、P、As、Sb、Bi、S、Se、Te、Poまたはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
前記負極活物質層はまた、バインダーを含み、選択的に導電剤をさらに含むこともできる。バインダーは、負極活物質粒子を互いに付着させやすくし、また、負極活物質を電流集電体に付着させやすくする役割を果たし、その代表例として、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルクロライド、カルボキシル化されたポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ブタジエンラバー、アクリレーテッドスチレン−ブタジエンラバー、エポキシ樹脂、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリイミドアミドなどを使用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
前記導電剤は、電極に導電性を付与するために使用されるものであり、構成される電池において化学変化を起こさずに電子伝導性を有する材料であればいかなるものでも使用可能であり、その例として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック(例、スーパー−P)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維などの炭素系物質や、銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維などの金属系物質、ポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー、またはこれらの混合物を含む導電性材料を使用することができる。
【0031】
また、負極における集電体としては、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔、チタン箔、ニッケル発泡体(foam)、銅発泡体、伝導性金属がコーティングされたポリマー基材、またはこれらの組み合わせを使用することができる。
【0032】
前記負極2と前記正極4はそれぞれ、活物質、導電剤、およびバインダーを溶媒中で混合して活物質組成物を製造し、この組成物を電流集電体に塗布して製造する。このような電極の製造方法は当該分野で広く知られた内容であるので、本明細書で詳細な説明は省略する。前記溶媒としては、N−メチルピロリドンなどを使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
リチウム二次電池が備えるセパレータ3は、負極2と正極4とを分離し、リチウムイオンの移動通路を提供するもので、リチウム二次電池において通常使用されるものであればすべて使用可能である。つまり、電解液のイオンの移動に対して低抵抗でかつ電解液含湿能力に優れたものが使用できる。例えば、ガラス繊維、ポリエステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミドまたはこれらの組み合わせの中から選択されたものであり、不織布または織布の形態でもよい。例えば、リチウムイオン電池には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのようなポリオレフィン系高分子セパレータが主に使用され、耐熱性または機械的強度確保のためにセラミック成分または高分子物質が含まれているコーティングされたセパレータが使用されてもよく、選択的に単層または多層構造で使用できる。
【実施例】
【0034】
発明者らは、本発明にかかるリチウム二次電池用電解液に関する上記効果についての確認試験を行ったので、以下、この確認試験の内容及び試験結果について説明する。なお、確認試験にて使用したリチウム二次電池用電解液は、本発明にかかるリチウム二次電池用電解液の一例であって、当該電解液を構成する溶媒やリチウム塩、添加剤については、これらに限定されるものではない。
【0035】
まず、確認試験には、図2の概略構成断面図に示すような半電池50を用いた。この半電池50は、ケーシング51、作用極52、対極53及びスペーサ54を備えている。ケーシング51は、底部511、側壁部512及び天井部513を備えており、その内部に作用極52、対極53及びスペーサ54により構成される2極セル60を収納できるように構成されている。なお、ケーシング51は、露点マイナス80度以下のアルゴン置換グローブボックス内で密閉され、内部515にはアルゴンガスが充填されている。
【0036】
上述のように、ケーシング51の内部515には、作用極52、対極53及びスペーサ54により構成される2極セル60が配置されている。作用極52は、銅(Cu)により形成される電極であり、2極セル60の構成を示す図3の概念図に示すように、円盤状の作用極本体521と、これに接続する作用極配線部522とを備えている。対極53は、銅箔の一方面にLi(リチウム)層を貼り合わせて形成した電極であり、図3に示すように、円盤状の対極本体531と、これに接続する対極配線部532とを備えている。ここで、作用極配線部522と対極配線部532とは、ケーシング51に形成された貫通孔を介してケーシング51の外部に引き出され、図示しない電源装置に接続されている。また、対極53は、Li(リチウム)層が作用極52に対向するようにして配置されている。スペーサ54は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK;polyetheretherketone)により形成される部材であり、内径が10mmとなるリング状(円状)に構成されている。また、スペーサ54の高さは1mmとなるように設定されている。このスペーサ54は、作用極本体521と対極本体531との間に配置されている。なお、スペーサ54の高さが1mmであることから、スペーサ54の両側に配置される作用極本体521と対極本体531との電極間距離は1mmとなる。また、作用極本体521、スペーサ54及び対極本体531により囲まれる領域61内には、リチウム二次電池用電解液が充填されている。
【0037】
リチウム二次電池用電解液としては、サンプルA(実施例1)、サンプルB(比較例1)を準備した。サンプルAは、本発明に関するリチウム二次電池用電解液であり、溶媒としてプロピレンカーボネート(PC)を、リチウム塩としてLiPFを採用し、添加剤として、1−n−ヘキシルピリジニウムイオン(上記化学式1におけるXが炭素数6の直鎖のアルキル基)をカチオン成分、ヘキサフルオロリン酸イオン(PF)をアニオン成分とする化合物を採用した。ここで、リチウム塩(LiPF)は、リチウム二次電池用電解液に対して1molL-1で含まれるように設定し、添加剤ヘキサフルオロリン酸1−n−ヘキシルピリジニウムは、リチウム二次電池用電解液に対して0.2molL-1で含まれるように設定した。
【0038】
サンプルBは、比較用のリチウム二次電池用電解液であり、プロピレンカーボネート(PC)を溶媒とし、リチウム塩としてLiPFを採用し,添加剤を含まないように構成した。サンプルBにおけるリチウム塩(LiPF)は、リチウム二次電池用電解液に対して1molL-1で含まれるように設定した。
【0039】
このように構成された装置にリチウム二次電池用電解液の各サンプルを充填し、電流密度:512μAcm−2の電流を、通電時間:15000秒として、作用極及び対極間に流し、作用極上にリチウム金属を析出させた後、上記半電池から作用極を取り出して、ジメチルカーボネート(DMC)を貯留した容器内に浸漬して洗浄を行った。
【0040】
リチウム二次電池用電解液としてサンプルA及びサンプルBを用いた場合の、SEM観察結果をそれぞれ図4及び5に示す。なお、図4は、サンプルAを用いた場合の観察結果であり、図5は、サンプルBを用いた場合の観察結果である。
【0041】
サンプルAについては、図4に示すように、析出したリチウム金属が洗浄によって剥がれ落ちることなく作用極上に密着して残存していることが確認され、良好な密着性を備えることがわかる。これに対し、上記化学式1にて示されるピリジニウムイオンを含む添加剤を備えないサンプルBについては、図5に示すように、析出したリチウム金属の多くが洗浄によって作用極上から剥がれ落ち、銅(Cu)により形成される電極表面の広範な領域が露出していることが確認され、密着性に欠けることがわかる。
【0042】
以上より、上記化学式1にて示されるピリジニウムイオンを含む添加剤を備える本発明にかかるリチウム二次電池用電解液は、負極活物質層の表面に析出した金属リチウムと集電体との間の密着性を高めることが可能となり、実際のリチウム二次電池の電解液として使用した際に、リチウム二次電池の充電時において負極における負極活物質層の表面に析出した金属リチウムが負極活物質層表面から剥離しにくくなり、集電体との間での密着性が悪化することを防止することができ、放電に寄与できない部分(デッドリチウム)の発生が抑制され、効率の良いリチウム二次電池を得ることが可能となることがわかる。
【符号の説明】
【0043】
1 リチウム二次電池
2 負極
3 セパレータ
4 正極
図1
図2
図3
図4
図5