特許第6808503号(P6808503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6808503
(24)【登録日】2020年12月11日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】部材接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/20 20060101AFI20201221BHJP
   C23C 4/067 20160101ALI20201221BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20201221BHJP
   B23K 20/00 20060101ALI20201221BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20201221BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   B23K20/20
   C23C4/067
   H01L21/302 101G
   B23K20/00 340
   C22C21/00 D
   B23K35/28 310A
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-5291(P2017-5291)
(22)【出願日】2017年1月16日
(65)【公開番号】特開2017-140651(P2017-140651A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-20436(P2016-20436)
(32)【優先日】2016年2月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【弁理士】
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】中村 亮太
(72)【発明者】
【氏名】森田 正
(72)【発明者】
【氏名】虫明 克彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一寿
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/133839(WO,A1)
【文献】 特開2009−144186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/20
B23K 20/00
B23K 35/28
C22C 21/00
C23C 4/067
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属又は金属化合物からなる第一の被接合部材と、第二の金属又は金属化合物からなる第二の被接合部材とを接合して一体化する方法であって、
前記第一の被接合部材と前記第二の被接合部材の接合面の少なくともいずれかに、水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜を溶射によって形成する溶射工程と、
前記第一の被接合部材と前記第二の被接合部材とを、前記接合膜を挟んだ状態で互いに接近する方向に加圧しながら加熱して圧着する加圧圧着工程とを有する部材接合方法。
【請求項2】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、インジウムを0.1重量%以上20重量%以下含有する請求項1記載の部材接合方法。
【請求項3】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、ビスマスを0.1重量%以上20重量%以下含有する請求項1又は2のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項4】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを0.04重量%以上8重量%以下含有する請求項2又は3のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項5】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.13重量%以上4重量%以下含有する請求項2乃至4のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項6】
前記溶射工程において、前記インジウムを、前記水崩壊性のアルミニウム合金のアルミニウム結晶粒中に粒径10nm以下の粒子が分散されるように溶射する請求項2記載の部材接合方法。
【請求項7】
前記溶射工程において、前記ビスマスを、前記水崩壊性のアルミニウム合金のアルミニウム結晶粒中に粒径10nm以下の粒子が分散されるように溶射する請求項3記載の部材接合方法。
【請求項8】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、インジウムを2.0重量%以上3.5重量%以下含有する請求項1記載の部材接合方法。
【請求項9】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを0.2重量%以上0.5重量%以下含有する請求項8記載の部材接合方法。
【請求項10】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.13重量%以上0.25重量%以下含有する請求項8又は9のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項11】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、ビスマスを0.2重量%以上2重量%以下含有する請求項1記載の部材接合方法。
【請求項12】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを1.5重量%以上8重量%以下含有する請求項11記載の部材接合方法。
【請求項13】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.2重量%以上4重量%以下含有する請求項11又は12のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項14】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にセリウムを0.2重量%以上2重量%以下含有する請求項11乃至13のいずれか1項記載の部材接合方法。
【請求項15】
前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にマグネシウムを0.2重量%以上2重量%以下含有する請求項11乃至14のいずれか1項記載の部材接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属又は金属化合物からなる一対の被接合部材を、容易に剥離可能な状態で接合する技術に関し、例えば真空槽内に配置される部材を接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエッチング装置等のプラズマ処理装置の真空槽は、アルミニウム等の金属で形成されているが、プラズマプロセス中に真空槽内の表面部分はプラズマに晒される。このため、真空槽内のプラズマに晒される面は耐プラズマ性のシールド部材で被覆され、プラズマにより真空槽の表面部分が削れてパーティクルが発生することを抑制している。
【0003】
このような耐プラズマ性のシールド部材としては、酸化イットリウムの溶射皮膜を設けたものが使用されているが、真空槽内にCF系の処理ガスを供給すると、酸化イットリウムがCF系のガスと反応し、酸化イットリウムの溶射皮膜が消耗してしまうという課題がある。
【0004】
このような課題に対しては、シールド部材として、バルクの酸化イットリウムの部材を使用することが考えられるが、シールド部材を固定する固定部材がプラズマに晒されないようにシールド部材を裏面だけで固定することは困難であった。
さらに、これらのシールド部材は、母材を傷付けずに取り外し可能なように取り付けることが求められる。
【0005】
このように真空装置や化学処理装置では、内部環境に対して不要な部分が露出しないように、母材に対して裏面だけで特定の部材を固定し、かつメンテナンスや部材の交換時に、母材を傷付けずに、容易に特定の部材を取り外す方法が求められている。
【0006】
このような部材としては、例えば、耐食部材、非反応性部材、汚染防止部材、触媒部材、消耗部材などがあげられる。
さらに、母材と電気的に接続された状態で密着し、かつ、取り外し並びに取り付けが容易な電極部材の固定方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−256063号公報
【特許文献2】国際公開2012−026349号公報
【特許文献3】特開2013−140950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来の技術の課題を考慮してなされたもので、その目的とするところは、例えば真空槽内において使用される部材と他の部材を簡素な工程で接合及び剥離することができ、また、このような部材の再利用を容易で且つ安価に行うことができる部材の接合技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明は、第一の金属又は金属化合物からなる第一の被接合部材と、第二の金属又は金属化合物からなる第二の被接合部材とを接合して一体化する方法であって、前記第一の被接合部材と前記第二の被接合部材の接合面の少なくともいずれかに、水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜を溶射によって形成する溶射工程と、前記第一の被接合部材と前記第二の被接合部材とを、前記接合膜を挟んだ状態で互いに接近する方向に加圧しながら加熱して圧着する加圧圧着工程とを有する部材接合方法である。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、インジウムを0.1重量%以上20重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、ビスマスを0.1重量%以上20重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを0.04重量%以上8重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.13重量%以上4重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記溶射工程において、前記インジウムを、前記水崩壊性のアルミニウム合金のアルミニウム結晶粒中に粒径10nm以下の粒子が分散されるように溶射することもできる。
本発明の場合、前記溶射工程において、前記ビスマスを、前記水崩壊性のアルミニウム合金のアルミニウム結晶粒中に粒径10nm以下の粒子が分散されるように溶射することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、インジウムを2.0重量%以上3.5重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを0.2重量%以上0.5重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.13重量%以上0.25重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、アルミニウム100重量%に対し、ビスマスを0.2重量%以上2重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にシリコンを1.5重量%以上8重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にチタンを0.2重量%以上4重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にセリウムを0.2重量%以上2重量%以下含有することもできる。
本発明の場合、前記水崩壊性のアルミニウム合金は、更にマグネシウムを0.2重量%以上2重量%以下含有することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、第一の被接合部材と第二の被接合部材の接合面の少なくともいずれかに、水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜を溶射によって形成し、これら第一の被接合部材と第二の被接合部材とを接合膜を挟んだ状態で互いに接近する方向に加圧しながら加熱して圧着することから、非常に簡素な工程で第一及び第二の被接合部材を接合することができる。
【0011】
また、第一及び第二の被接合部材を水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜によって接合しているため、水を用いることによって、第一及び第二の被接合部材を損傷させることなく容易に剥離することができる。
【0012】
したがって、本発明によれば、例えば成膜装置の真空槽内に使用される防着部材等の部材に対となる部材を接合し、この対となる部材を剥離することにより、防着部材等を損傷させることなくその再利用を容易で且つ安価に行うことができる。
【0013】
また、例えばプラズマ処理装置のシールド容器のプラズマに曝される部分に耐プラズマ性の部材を接合してプラズマ処理を行い、その後、プラズマによって消耗した耐プラズマ性の部材を剥離することにより、耐プラズマ性の部材を容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る部材接合方法の一例を示す流れ図
図2】(a)〜(g):本発明に係る部材接合方法の一例を示す工程図
図3】(a)(b):接合膜の形成方法の他の例を示す説明図
図4】本発明を適用したプラズマ処理装置の例を示す概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る部材接合方法の一例を示す流れ図である。
また、図2(a)〜(g)は、本発明に係る部材接合方法の一例を示す工程図である。
【0016】
本例では、まず、接合すべき一対の被接合部材として、第一の金属又は金属化合物からなる第一の被接合部材1と、第二の金属又は金属化合物からなる第二の被接合部材2とを用意する(図2(a)参照)。
【0017】
本発明の場合、第一及び第二の被接合部材1、2を構成する金属材料としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、ステンレス(例えばJISに規定されているSUS304、SS400等)、アルミニウム−マグネシウム系合金(例えばJISに規定されているA5052等)、アルミニウム−マグネシウム−シリコン系合金(例えばJISに規定されているA6061等)等があげられる。
この場合、第一及び第二の被接合部材1、2を構成する金属材料は、同一であっても異なっていてもよい。
【0018】
一方、第一及び第二の被接合部材1、2を構成する金属化合物材料としては、酸化アルミニウム(Al23)、石英(SiO2)、酸化イットリウム(III)(Y23)、Y23−ZrO2固溶体、Y23−Al23固溶体、Y23−Al23−ZrO2固溶体、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:Y3Al512)、フッ化イットリウム(III)等があげられる。
この場合、第一及び第二の被接合部材1、2を構成する金属化合物材料は、同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
なお、第一及び第二の被接合部材1、2の形状は特に限定されず、例えば図2(a)に示すように、それぞれ平滑な接合面1a、2aを有する種々の部材を用いることができる。
【0020】
本例では、最初の工程として、図1のプロセスP1に示す溶射工程を行う。
この場合、上述した第一の被接合部材1と第二の被接合部材2の接合面1a、2aの少なくともいずれかに、水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜を溶射によって形成する。なお、本発明では、粉末の水崩壊性のアルミニウム合金や、線状の水崩壊性のアルミニウム合金を溶射する溶射装置、コールドスプレー装置を用いてもよい。
【0021】
ここでは、例えば図2(b)に示すように、支持台10上に配置した例えば第一の被接合部材1の接合面1aの表面に対し、支持台10に対して相対移動可能な溶射装置11から、水崩壊性のアルミニウム合金の溶融微粒子12を噴出し、図2(c)に示すように、第一の被接合部材1の接合面1a上に溶射膜からなる接合膜3を形成する。
本発明の場合、水崩壊性のアルミニウム合金としては、アルミニウムに、インジウム(In)を含有するものを好適に用いることができる。
【0022】
アルミニウムにインジウムを含有するアルミニウム合金から得られた溶射膜は、水分の存在する雰囲気中で溶解するようになる。すなわち、溶射膜からなる接合膜が水崩壊性を発現するようになる。
【0023】
本発明の場合、アルミニウム合金中におけるインジウムの含有量については特に限定されることはないが、アルミニウム100重量%に対し、インジウムを0.1重量%以上20重量%以下含有させることが好ましい。
【0024】
この場合、アルミニウム100重量%に対するインジウムの含有量が0.1重量%より小さいと、溶射膜からなる接合膜と水との反応性が低下する傾向があり、他方、アルミニウムに対するインジウムの含有量が20重量%を超えると、反応性が高過ぎて大気中の水分によって崩壊し、また溶射材料を形成することが困難になる傾向がある。
【0025】
また、本発明の場合、水崩壊性のアルミニウム合金としては、アルミニウムに、ビスマス(Bi)を含有するものを好適に用いることができる。
アルミニウムにビスマスを含有するアルミニウムから得られた溶射膜は、上述したインジウムの場合と同様、水分の存在する雰囲気中で溶解するようになり、溶射膜からなる接合膜が水崩壊性を発現するようになる。
【0026】
本発明の場合、アルミニウム合金中におけるビスマスの含有量については特に限定されることはないが、上述したインジウムの場合と同様、アルミニウム100重量%に対し、ビスマスを0.1重量%以上20重量%以下含有させることが好ましい。
【0027】
この場合、アルミニウム100重量%に対するビスマスの含有量が0.1重量%より小さいと、溶射膜からなる接合膜と水との反応性が低下する傾向があり、他方、アルミニウムに対するビスマスの含有量が20重量%を超えると、反応性が高過ぎて大気中の水分によって崩壊し、また溶射材料を形成することが困難になる傾向がある。
【0028】
なお、本発明では、水崩壊性のアルミニウム合金として、アルミニウムに、インジウムとビスマスの両方を含有するものを用いることもできる。
すなわち、本発明に用いる水崩壊性のアルミニウム合金は、少なくともインジウム又はビスマスのいずれかを含有するものであればよい。
【0029】
アルミニウムに、インジウムとビスマスの両方を含有させた場合、アルミニウム合金中におけるインジウム及びビスマスの含有量については特に限定されることはないが、アルミニウム100重量%に対し、インジウム及びビスマスを0.1重量%以上20重量%以下含有させることが好ましい。
【0030】
この場合、アルミニウム100重量%に対するインジウム及びビスマスの含有量が0.1重量%より小さいと、溶射膜からなる接合膜と水との反応性が低下する傾向があり、他方、アルミニウムに対するインジウム及びビスマスの含有量が20重量%を超えると、反応性が高過ぎて大気中の水分によって崩壊し、また溶射材料を形成することが困難になる傾向がある。
【0031】
本発明の場合、特に限定されることはないが、溶射膜からなる接合膜と水との反応性を向上させる観点からは、溶射工程において、インジウム、ビスマスを、上述した水崩壊性のアルミニウム合金のアルミニウム結晶粒中に粒径10nm以下の粒子が分散されるように溶射することが好ましい。
【0032】
なお、粒径10nmより大きいインジウム、ビスマスの粒子が存在していたり、インジウム、ビスマスの粒子の一部が粒界に存在している場合であっても、アルミニウム結晶粒中に、粒径10nm以下のインジウム、ビスマスの粒子が分散していれば、水崩壊性は発現する。
【0033】
一方、本発明の場合、上述した水崩壊性のアルミニウム合金には、更にシリコンを含有させることもできる。
この場合、水崩壊性のアルミニウム合金中のシリコンの含有量については特に限定されることはないが、アルミニウム100重量%に対し、シリコンを0.04重量%以上8重量%以下含有させることが好ましい。
【0034】
アルミニウム100重量%に対するシリコンの含有量が0.04重量%より小さいと、溶射膜と水との反応性の制御効果が低下する傾向があり、他方、アルミニウムに対するシリコンの含有量が8重量%を超えると、溶射膜と水との反応性が低下する傾向がある。
【0035】
なお、溶射膜の水崩壊性を制御する必要がない場合や、高温の水を用いて溶射膜を崩壊させる等の場合は、アルミニウム合金に含有させるシリコンの含有量は上述した範囲外とすることができる。
【0036】
本発明の場合、水崩壊性のアルミニウム合金には、更にチタンを含有させることもできる。
この場合、水崩壊性のアルミニウム合金中のチタンの含有量については特に限定されることはないが、アルミニウム100重量%に対し、0.13重量%以上4重量%以下含有させることが好ましい。
【0037】
アルミニウム100重量%に対するチタンの含有量が0.13重量%より小さいと、アルミニウム中の不純物の影響を受け、加圧加熱工程を経た後の溶射膜の溶解性が低下する傾向があり、他方、4重量%を超えると、アルミニウム合金中におけるチタンの偏析が大きくなる傾向があり、このような材料を用いて溶射する場合に、溶射状態や得られた溶射膜の見た目の状態が悪化する要因となる。
【0038】
本発明に用いる水崩壊性のアルミニウム合金である、アルミニウムにインジウムを含有する合金の一例としては、例えば、Al−In−Si−Tiがあげられる。
このAl−In−Si−Tiからなる合金は、Al100重量%に対し、2.0重量%以上3.5重量%以下、好ましくは2.5重量%以上3.0重量%以下のIn、0.2重量%以上0.5重量%以下のSi、及び0.13重量%以上0.25重量%以下、好ましくは0.15重量%以上0.25重量%以下、さらに好ましくは0.17重量%以上0.23重量%以下のTiを含有するものを好適に用いることができる。
【0039】
ここで、Inの含有量が2重量%未満であるとAl合金からなる溶射膜(以下、「Al合金溶射膜」という。)と水との反応性が低下する傾向があり、3.5重量%を超えるとAl合金溶射膜と水との反応性が非常に高くなる傾向があり、Al合金溶射膜の取り扱いが難しくなる場合があるとともに、In量の増加に伴いコストが大となる。また、Siが0.2重量%未満であるとAl合金溶射膜と水との反応性の制御効果が低下する傾向があり、0.5重量%を超えるとAl合金溶射膜と水との反応性が低下し始める傾向があり、さらにSiが0.6重量%を超えるとAl合金溶射膜と水との反応性そのものが低下する傾向がある。
【0040】
一方、Tiが0.13重量%未満であると、Al中の不純物の影響を受け、熱履歴を経た後のAl合金溶射膜の溶解性が低下する傾向があり、0.25重量%を超えると、Al合金におけるTiの偏析が大きくなる傾向があり、この材料を用いて溶射する場合に、溶射状態や得られたAl合金溶射膜の見た目の状態が悪化する要因となる。Ti添加量に関しては、Si添加量やCu等の不純物濃度を考慮すると、0.15重量%以上が好ましく、0.17重量%以上がさらに好ましく、また、Tiの偏析を考慮すると0.23重量%以下が好ましい。
【0041】
また、本発明に用いる水崩壊性のアルミニウム合金である、アルミニウムにビスマスを含有する合金の一例としては、例えば、Al−Bi−Si−Ti−Ce−Mgがあげられる。
このAl−Bi−Si−Ti−Ce−Mgからなる合金は、Al100重量%に対し、0.2重量%以上2重量%以下、好ましくは0.5重量%以上1.5重量%以下のBi、1.5重量%以上8重量%以下、好ましくは3重量%以上5重量%以下のSi、0.2重量%以上4重量%以下、好ましくは1重量%以上2重量%以下のTi、0.2重量%以上2重量%以下、好ましくは0.2重量%以上0.5重量%以下のCe、及び0.2重量%以上2重量%以下、好ましくは0.5重量%以上2重量%以下のMgを含有するものを好適に用いることができる。
【0042】
ここで、Biの含有量が0.2重量%未満であると水との反応性が低下する傾向があり、0.2重量%以上0.5重量%未満であれば若干水との反応性が低い傾向はあるが、0.5重量%以上であれば水との反応性は満足される傾向があり、2重量%を超えると水との反応性が高くなる傾向がある。
【0043】
Siが1.5重量%未満であると水との反応性の制御効果が低下する傾向があり、5重量%を超えると、溶融材料をインゴットからワイヤーに加工する場合、インゴットからの伸線が難しくなる傾向があり、そして8重量%を超えるとワイヤーまで加工することはできない傾向がある。
【0044】
Tiが0.2重量%未満であると、固着工程などに熱履歴を経た場合において、Al合金溶射膜の溶解性が低下する傾向があり、Ti添加量が高いほど熱履歴を経た後のAl合金溶射膜の溶解性は向上する傾向があるが、溶融材料をインゴットからワイヤーに加工する場合に、Tiの含有量が4重量%程度より大きくなるに従いインゴットからの伸線が困難になる傾向がある。
【0045】
Ceが未添加であると、熱履歴を経た後のAl合金溶射膜の溶解性が劣る傾向があり、0.5重量%を超えると格別の溶解性の向上は得られなくなる。Mgが未添加であると、熱処理を経た後のAl合金溶射膜は安定性が低く、大気中の水分と反応し、粉化現象が発生する。Mgの添加量が0.2重量%未満であると、熱処理後の表面に若干の粉化現象が観察されるが、0.5重量%以上では粉化現象は発生しない。溶融材料をインゴットに加工する場合に、2重量%程度より大きくなるに従いインゴットからの伸線が困難になる傾向がある。
【0046】
なお、上述した各添加物の添加量は、接合される部材の材質、接合される部材に要求される水崩壊性のしやすさ、固着工程における加熱の条件、溶解条件(水の温度)などにより決定することができ、上述した組成に限定されるものではない。
【0047】
次に、上述した溶射工程P1に続き、図1のプロセスP2に示すように、溶射膜からなる接合膜3の表面3aを研磨する研磨工程を行う。
すなわち、一般に溶射によって形成された膜は、溶融した微粒子の噴射によって形成されるものであるから、その表面には凹凸が存在する。
【0048】
そこで、このような溶射膜からなる接合膜3の表面3aを平滑にするため、その表面3aの研磨を行うものである。
この場合、接合膜3の表面3aを研磨する手段としては、例えば研磨紙を有する手段のほか、ラップ研磨、電解研磨、化学研磨、機械加工による手段を用いるとよい。
このような研磨工程P2により、図2(d)に示すように、第一の被接合部材1の接合面1a上に、表面3aが平滑化された接合膜3を形成することができる。
【0049】
なお、本発明は、上記第一の被接合部材1の接合面1a上に接合膜3を形成する場合のみならず、上述した方法と同一の方法により、第二の被接合部材2の接合面2a上に接合膜3を形成する場合(図3(a)参照)を含む。
【0050】
すなわち、第二の被接合部材2が溶射膜(接合膜3)と固着し難い材料からなる場合、固着し難い第二の被接合部材2側に溶射膜(接合膜3)を形成することで、第一及び第二の被接合部材1、2を固着することが可能になる場合がある。
【0051】
なお、第一及び第二の被接合部材1、2のうち一方のみに溶射膜(接合膜3)を形成する場合には、溶射膜(接合膜3)を形成しない方の被接合部材の表面を研磨して平滑化することが好ましい。
【0052】
また、溶射膜(接合膜3)と固着される相手方の被接合部材の接合面に、メッキ法やスパッタリング法により固着され易い材料の薄膜を形成することで、第一及び第二の被接合部材1、2を固着することが可能になる場合がある。
【0053】
さらに、本発明は、第一及び第二の被接合部材1、2の両方の接合面1a、2a上にそれぞれ接合膜3を形成する場合(図3(b)参照)も含む。
すなわち、第一及び第二の被接合部材1、2が共に溶射膜(接合膜3)と固着し難い材料からなる場合は、第一及び第二の被接合部材1、2の両方に溶射膜(接合膜3)を形成し貼合わせることで、これらを固着することができる。
【0054】
本例では、さらに、図2(e)に示すように、第二の被接合部材2の接合面2aを接合膜3の表面3aに接触させて第二の被接合部材2を接合膜3上に配置し、図1のプロセスP3に示す加熱圧着工程を行う。
【0055】
この場合、図2(f)に示すように、接合膜3を挟んだ状態の第一及び第二の被接合部材1、2を、例えば一対の押圧部材12、13を有する加圧治具14に装着した状態で加熱炉4内に配置し、この加圧治具14によって第一及び第二の被接合部材1、2を接合膜3を挟んで互いに接近する方向に加圧しながら、加熱炉4内のヒーター4aによって大気中で所定時間(例えば1〜数時間程度)加熱する。
なお、加熱温度は、第一及び第二の被接合部材1、2並びに接合膜3の材料によって異なるが、概ね200℃〜400℃である。
【0056】
また、溶射の方式は、溶線式のフレーム溶射である。
さらに、接合方法としては、HIP(熱間等方圧加圧法)、ホットプレス法など一般的な加熱・圧着方法を使用することができる。
このような加熱圧着工程により、第一及び第二の被接合部材1、2が接合膜3によって固着される。
【0057】
本発明の場合、加熱圧着工程中の加熱により、アルミニウム粒子中に分散した微小な(例えば粒径10nm以下の)インジウム、ビスマスの粒子の少なくとも一部、並びに、アルミニウム粒子の粒界等に存在するインジウム、ビスマスが第一及び第二の被接合部材1、2の接合面に析出して接合に寄与すると考えられる。ただし、アルミニウム結晶粒中にインジウム、ビスマスが分散する構造が維持されることで、水崩壊性は維持される。
【0058】
そして、固着してから所定時間経過後、上述した加圧治具14に装着された第一及び第二の被接合部材1、2を加熱炉4から取り出して加圧冶具14から取り外すことにより、図2(g)に示すように、第一及び第二の被接合部材1、2が接合膜3によって接合された部材接合体5が得られる。
【0059】
この部材接合体5を分離する場合には、水の中に部材接合体5を配置する。なお、水には、湯、水蒸気等が含まれる。本発明による接合膜3は高温の水ほど溶解しやすい性質を有する。また、水蒸気等を噴霧することにより接合膜3を溶解させることもできる。
【0060】
これにより、アルミニウム合金の粒子中に分散したインジウム、ビスマスの粒子の存在により、アルミニウム合金が水と反応して溶解し、第一の被接合部材1と第二の被接合部材2とを容易に分離することができる。
【0061】
以上述べた本実施の形態によれば、第一の被接合部材1と第二の被接合部材2の接合面1a、2aの少なくともいずれかに、水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜3を溶射によって形成し、これら第一の被接合部材1と第二の被接合部材2とを接合膜3を挟んだ状態で互いに接近する方向に加圧しながら加熱して圧着することから、非常に簡素な工程で第一及び第二の被接合部材1、2を接合することができる。
【0062】
特に、水崩壊性のアルミニウム合金として、アルミニウムに、少なくともインジウム又はビスマスのいずれかを含有させたものを用いることにより、例えばアルミニウム−スズ系合金を拡散接合させる場合と比較して接合温度の低温化を図ることができる。
【0063】
また、このような水崩壊性のアルミニウム合金の溶射膜によって第一及び第二の被接合部材1、2を接合させることから、幅広い材料の部材を接合することができ、しかも、大気圧中において低加圧力で部材の接合を行うことができる。
【0064】
さらに、第一及び第二の被接合部材1、2を水崩壊性のアルミニウム合金からなる接合膜3によって接合しているため、水を用いることによって、第一及び第二の被接合部材1、2を損傷させることなく容易に剥離することができ、これにより部材の再利用を容易で且つ安価に行うことができる。
【0065】
図4は、本発明を適用したプラズマ処理装置の例を示す概略構成図である。
本例のプラズマ処理装置20は、例えば図示しない真空槽内に配置されるもので、真空処理の際に発生するプラズマを遮蔽するためのシールド容器20aを有している。
このシールド容器20aは、例えばアルミニウム又はステンレス鋼等の金属からなる円筒形状の側壁21を有し、この側壁21の上部に絶縁体24を介して上部電極25が装着されている。
【0066】
上部電極25は、シールド容器20aの下部に配置されたステージ30と対向する位置に多数のガス孔を有するシャワーヘッド部26が設けられ、図示しない整合器を介して高周波電源50に接続されている。
また、上部電極25のシャワーヘッド部26には、ガス供給源52からプラズマ生成用のガスが供給されるようになっている。
【0067】
シールド容器20a内に設けられたステージ30は、例えばアルミニウムからなるもので、絶縁性の保持部(図示せず)によってシールド容器20aに保持されている。また、ステージ30の側面には、プラズマを遮蔽するためのリング状のボトムシールド31が設けられている。
【0068】
ステージ30は、図示しない整合器を介して高周波電源51が接続されている。
この高周波電源51は、バイアス用の高周波電力をステージ30に対して印加するもので、これによりステージ30は、下部電極として機能する。
【0069】
ステージ30の上部には、処理対象物である基板8を静電吸着力で保持する静電チャック40が設けられている。
静電チャック40は、その内部に設けられた吸着電極44が、直流電源52に接続され、この直流電源52から吸着電極44に対して直流電流が印加されるように構成されている。
【0070】
静電チャック40の基板8を配置する領域の周縁部には、例えば石英からなるフォーカスリング41が設けられている。このフォーカスリング41は、生成されたプラズマを基板8上で均一に分布させるためのものである。
【0071】
シールド容器20aの側壁21とステージ30の側部のボトムシールド31との間には、真空排気を行うための排気路27が設けられている。この排気路27の途中の位置には、ガスの流れを整えるためのバッフル板28が設けられている。
【0072】
本例においては、シールド容器20aの側壁21の表面と、ボトムシールド31の表面と、バッフル板28の表面に、上述した本発明方法により作成された、溶射膜からなる接合膜23とシールド部材22が設けられている。
【0073】
ここでは、シールド容器20aの側壁21、ボトムシールド31及びバッフル板28が、本発明における第一の被接合部材に相当し、シールド部材22が、本発明における第二の被接合部材に相当する。
【0074】
また、本例では、静電チャック40に設けられたフォーカスリング41の表面に、上述した本発明方法により作成された、溶射膜からなる接合膜43とシールド部材42が設けられている。
ここでは、フォーカスリング41が、本発明における第一の被接合部材に相当し、シールド部材42が、本発明における第二の被接合部材に相当する。
【0075】
本例の場合、接合膜23、43は、上述したように、アルミニウムに少なくともインジウム又はビスマスのいずれかを含有する水崩壊性のアルミニウム合金からなるものである。
【0076】
一方、シールド部材22、42は、シールド容器20a内で発生したプラズマを遮蔽するためのもので、酸化イットリウム(III)(Y23)からなるものを好適に用いることができる。
この場合、シールド部材22、42として、例えば平板状のバルク材からなる部材を用いれば、消耗するごとに溶射膜を複数回形成する従来技術の場合とメンテナンスが容易になるとともに、溶射の場合と比較して厚膜化が可能になるのでランニングコストを抑えることができるので好ましい。
【0077】
以上述べた本例によれば、プラズマによって酸化イットリウムが消耗したシールド部材22、42を水処理によって容易に剥離することができるので、シールド部材22、42の再利用を容易で且つ安価に行うことができるプラズマ処理装置20を提供することができる。
【0078】
なお、本明細書では、真空槽内に配置される部材を例にとって説明したが、本発明はこれに限られず、真空槽内に配置される部材のみならず、種々の部材を接合する場合に適用することができるものである。
【実施例】
【0079】
<接合試験>
SUS304からなる第一の被接合部材の表面に、後述する水崩壊性のアルミニウム合金(サンプル1、サンプル2)を溶射して溶射膜を形成した。
【0080】
この溶射膜を#1200番の研磨紙で研磨した後、表1に示す試験材料からなる第二の被接合部材を接触させて加圧冶具に装着し、大気中(Cuは真空中)で加圧しながら1時間加熱した。
【0081】
加圧加熱後、水崩壊性のアルミニウム合金の組成と、第一の被接合部材と第二の被接合部材の接合状態との関係を確認した。その結果を表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
接合できた水崩壊性のアルミニウム合金と試験材料の組みあわせには「〇」を記載し、接合できなかった試験材料の組み合わせには「×」を記載した。
表1中、「サンプル1」は、Al100重量%に対し、Inを3重量%、Siを0.4重量%、Tiを0.2重量%含有する水崩壊性のアルミニウム合金であり、「サンプル2」は、Al100重量%に対し、Biを1重量%、Siを3重量%、Tiを0.6重量%、Ceを0.2重量%、Mgを0.5重量%含有する水崩壊性のアルミニウム合金である。
【0084】
また、試験材料のうち、アルミニウム合金であるA1070と、A5052、A6061の組成は、下記表2に示すものである。
【0085】
【表2】
【0086】
<評価結果>
表1から明らかなように、「サンプル1」と比較して「サンプル2」の方が接合できる試験材料の種類が多いので、アルミニウムに含有させる金属としてはInよりBiの方が優れていると考えられる。
【0087】
また、各試験材料について、「サンプル1」では、加熱温度が300℃を超えると、接合できても水崩壊性が失われ、「サンプル2」では、425℃を超えると水崩壊性が失われる結果を得た。
【0088】
以上述べたように、本発明によれば、幅広い材料の部材を簡素な工程で接合することができることが確認された。また、例えばアルミニウム−スズ系合金を拡散接合させる場合(400℃〜600℃)と比較して接合温度の低温化を図ることができ、また、大気圧中において低加圧力で部材の接合を行うことができることも確認された。
【符号の説明】
【0089】
1…第一の被接合部材
1a…接合面
2…第二の被接合部材
2a…接合面
3…接合膜
4…加熱炉
5…部材接合体
11…溶射装置
図1
図2
図3
図4