特許第6809048号(P6809048)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809048ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その成形品およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809048
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その成形品およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20201221BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20201221BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20201221BHJP
   C08G 75/0227 20160101ALN20201221BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08K3/013
   C08L101/00
   !C08G75/0227
【請求項の数】5
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-168121(P2016-168121)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35230(P2018-35230A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】荒木 俊
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 創
(72)【発明者】
【氏名】小川 智
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−147960(JP,A)
【文献】 特開2016−147959(JP,A)
【文献】 特開2002−293940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/02
C08G 75/0227
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有しており、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖のうち、一般式(1.1)で表される前記構成単位の割合が95〜100質量%であり、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点が330〜450℃の範囲であり、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【化1】
[一般式(1.1)中、Ar2bは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、Ar置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。]
【請求項2】
請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【請求項3】
高熱伝導性材料用途、二次電池用ガスケット材料用途、水廻り用途、電気・電子部品用途、電気自動車部品を含む自動車部品用途、内装用材料用途、精密部品用途、フィルムまたは繊維用途である、請求項2記載の成形品。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を配合して溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有しており、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖のうち、一般式(1.1)で表される前記構成単位の割合が95〜100質量%であり、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点が330〜450℃の範囲であり、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【化2】
[一般式(1.1)中、Ar2bは置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、Ar置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。]
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物、その成形品およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下「PPS樹脂」と略すことがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下「PAS樹脂」と略すことがある。)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、例えば、p−ジクロロベンゼンと、硫化ナトリウム又は水硫化ナトリウムと、水酸化ナトリウムとを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる溶液重合により製造されている(例えば、特許文献1参照)。現在市販されているポリフェニレンスルフィド樹脂は、一般にこの方法により生産されている。
【0004】
しかしながら、当該方法は、モノマーにジクロロベンゼンを用いることから、合成後の樹脂中に残存するハロゲン濃度が高くなる傾向にあった。また、高温高圧・強アルカリという過酷な環境下で重合反応を行う必要があるため、接液部に高価・難加工性のチタン、クロム又はジルコニウムを用いた重合容器を使用する必要があった。
【0005】
そこで、重合モノマーにジクロロベンゼンを用いることなく、かつ、温和な重合条件で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法が知られている。例えば、特許文献2には、ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成する前駆体として溶媒可溶性のポリ(アリーレンスルホニウム塩)が開示されている。ポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、メチルフェニルスルホキシドのようなスルフィニル基を1つ有するスルホキシド(以下、「1官能性スルホキシド」ということがある。)を酸存在下で単独重合させる方法により製造される(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【0006】
上記のポリフェニレンスルフィド樹脂は、その高い耐熱性及び結晶性に基づく寸法安定性から、主に自動車のエンジン廻り部品として使用されている。しかし、近年部品の小型化に伴い、更に高度な寸法安定性が要求されるようになりつつあり、ポリフェニレンスルフィド樹脂を超える耐熱性及び寸法安定性を有する成形品の開発が望まれている。
【0007】
また、非特許文献1にて示す重合反応において、トリフルオロメタンスルホン酸を溶媒として用いることが一般的だが、上記の酸は強い腐食性があるため、安全面及び工業的な観点から、重合溶液中の酸性度を下げる製法が希求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,354,129号明細書
【特許文献2】特開平10−182825号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】JOURNAL OF MACROMOLECULAR SCIENCE Part A−Pure and Applied Chemistry、Volume 40、Issue 4、p.415−423
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ポリフェニレンスルフィド樹脂を超える耐熱性及び寸法安定性を有する成形品、当該成形品を提供するための樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは種々の検討を行った結果、ビフェニル骨格を有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることにより、結晶性で高度な耐熱性を有する成形品、当該成形品を提供するための樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、 ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有しており、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に関する。
【0013】
【化1】
[一般式(1.1)中、Ar及びAr2bはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。]
【0014】
また、本発明は、前記記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品に関する。
【0015】
また、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を配合して溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有しており、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されないことを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法に関する。
【0016】
【化2】
[一般式(1.1)中、Ar及びAr2bはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。]
【0017】
また、本発明は、前記記載の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品の製造方法に関する。
【0018】
すなわち、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品、に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂を超える耐熱性及び寸法安定性を有する成形品、当該成形品を提供するための樹脂組成物及びそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ポリマー合成例1bで得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の赤外吸収スペクトルである。
図2】ポリマー合成例2で得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有しており、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されないことを特徴とする。
【0023】
【化3】
[一般式(1.1)中、Ar及びAr2bはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。]
【0024】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、下記一般式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有するポリマーである。ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖は、実質的に、一般式(1.1)で表される構成単位のみから構成されていてもよい。より具体的には、ポリアリーレンスルフィド樹脂の主鎖のうち、一般式(1.1)で表される構成単位の割合が95〜100質量%の範囲、又は98〜100質量%の範囲であってもよい。
【0025】
【化4】
【0026】
式中、Ar及びAr2bはそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、2つのArは同一でも異なってもよい。
【0027】
Ar及びAr2bの結合の態様は特に制限されるものではないが、Ar及びAr2bは、アリーレン基中の遠い位置でS及びArと結合することが好ましい。例えば、Ar及びAr2bがフェニレン基である場合、Ar及びAr2bは、パラ位で結合する単位(1,4−フェニレン基)、又はメタ位で結合する単位(1,3−フェニレン基)であることが好ましく、パラ位で結合する単位であることがより好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性及び結晶性の面で、Ar及びAr2bは、パラ位で結合する単位で構成されることが好ましい。
【0028】
Ar又はAr2bで表されるアリーレン基が有し得る置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、エステル基、及びカルボキシ基が挙げられる。
【0029】
一般に、このような主鎖を有するポリアリーレンスルフィド樹脂中には、後述のスルホキシド化合物に由来すると考えられる少量のスルホニル基が残存していることがあるが、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂は、スルホニル基を実質的に含まない。本発明者らの知見によれば、スルホニル基を実質的に無くすことで、高い融点を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が得られる。これは、残存するスルホニル基に起因する非晶部分の割合が小さくなるためであると推察される。
【0030】
ポリアリーレンスルフィド樹脂がスルホニル基を実質的に含まないことを反映して、このポリアリーレンスルフィド樹脂の赤外吸収スペクトルにおいて、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されない。スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークは、通常、波数1170〜1140cm−1の範囲の領域に観測される。本明細書において、「スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されない」とは、波数1170〜1140cm−1の範囲の領域に、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収のピークトップが観測されないことを意味する。ここで、波数1170〜1140cm−1の範囲の領域において、極小値又は平坦部に挟まれている極大値がある場合であっても、その極小値又は平坦部からの極大値の高さと、波数1200〜1170cm−1の範囲に観測される吸収ピークの極小値からの極大値の高さとの比が0.1以下のものはピークとはみなさない。赤外吸収スペクトルの測定は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂を400℃のホットプレートで加熱して溶融させ、急冷する方法により作製した非晶フィルムを測定サンプルとして用いて測定される。
【0031】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の質量平均分子量は、8,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。重量平均分子量がこのような範囲にあることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂がより優れた耐熱性及び機械特性を発揮し得る。本明細書において、「質量平均分子量」は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定される値(標準ポリスチレンによる換算値)を意味する。ゲル浸透クロマトグラフィーの測定条件は、質量平均分子量の測定値に実質的な影響を及ぼさない範囲で、適宜設定できる。
【0032】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度は、70〜200℃の範囲であることが好ましく、80〜180℃の範囲であることがより好ましく、120〜180℃の範囲であることが更に好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。
【0033】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の融点は、100〜450℃の範囲であることが好ましく、180〜420℃の範囲であることがより好ましく、280〜400℃の範囲であることが更に好ましく、330〜380℃の範囲であることが更に好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点は、示差走査熱量測定(DSC)によって決定することができる。
【0034】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の5%熱分解温度(T5%d)は、200〜800℃の範囲であることが好ましく、300〜650℃の範囲であることがより好ましく、350〜600℃の範囲であることが更に好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の5%熱分解温度は、熱重量・示差熱分析(TG−DTA)により測定される値のことを示す。
【0035】
<ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法>
以上のようなポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、
下記一般式(3.1):
【0036】
【化5】

で表されるスルホキシド化合物を酸の存在下で重合して、下記一般式(2.1):
【0037】
【化6】

で表される構成単位を含む主鎖を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を生成させる工程と、
ポリ(アリーレンスルホニウム塩)を脱アルキル化又は脱アリール化して、上記式(1.1)で表される構成単位を含む主鎖を有するポリアリーレンスルフィド樹脂を生成させる工程と、を含む方法により、製造することができる。式(3.1)で表されるスルホキシド化合物を得る方法に関しては後述される。
【0038】
これら式中のAr及びAr2bは、式(1.1)中のAr及びAr2bと同様に定義される。Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、又は置換基として炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を有していてもよいアリール基を表し、Xは、アニオンを表す。Ar2aは置換基を有していてもよいアリール基を表し、これは式(1.1)中のAr2bに対応するアリール基である。Ar2aで表されるアリール基が有し得る置換基は、Ar2bと同様である。
【0039】
としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、並びに、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。当該アリール基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を、芳香環に結合した置換基として1〜4個の範囲で有していてもよい。
【0040】
のアニオンとしては、例えば、スルホネート、カルボキシレート、リン酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及びハロゲンイオン等が挙げられる。
【0041】
式(3.1)で表されるスルホキシド化合物の重合反応は、酸を含む反応液中で行うことができる。酸は、有機酸、又は無機酸のいずれであってもよい。酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、青酸、テトラフルオロほう酸等の非酸素酸;硫酸、リン酸、過塩素酸、臭素酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、モリブデン酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸等の無機オキソ酸;硫酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、プロトン残留ヘテロポリ酸塩、モノメチル硫酸、トリフルオロメタン硫酸等の硫酸の部分塩若しくは部分エステル;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸等の1価若しくは多価のカルボン酸;モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲン置換カルボン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等の1価若しくは多価のスルホン酸;ベンゼンジスルホン酸ナトリウム等の多価のスルホン酸の部分金属塩;五塩化アンチモン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛、塩化銅、塩化鉄等のルイス酸等を挙げることができる。これらの酸のうち、反応性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸の使用が好ましく、スルホニル基を含まないポリアリーレン樹脂が得られ易いという観点から、メタンスルホン酸がより好ましい。酸としてトリフルオロメタンスルホン酸を用いる際は、後述する溶媒と共に用いることが好ましい。これらの酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
重合反応に用いられる酸の量は、式(3.1)で表されるスルホキシド化合物100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部の範囲、より好ましくは200〜1000質量部の範囲である。
【0043】
式(3.1)で表されるスルホキシド化合物の重合反応は、酸と共に脱水剤の存在下で行ってもよい。脱水剤の使用も、スルホニル基を含まないポリアリーレンスルフィド樹脂の生成に寄与し得る。脱水剤としては、例えば、酸化リン、五酸化二リン等のリン酸無水物;ベンゼンスルホン酸無水物、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、パラトルエンスルホン酸無水物等のスルホン酸無水物;無水酢酸、無水フルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸等のカルボン酸無水物;無水硫酸マグネシウム、ゼオライト、シリカゲル、塩化カルシウム等を挙げることができる。これらの脱水剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。スルホニル基を含まないポリアリーレンスルフィド樹脂を得るために、メタンスルホン酸及び五酸化二リンの組み合わせが特に好ましい。
【0044】
重合反応に用いられる脱水剤の量は、式(3.1)で表されるスルホキシド化合物100質量部に対して、好ましくは5〜150質量部の範囲、より好ましくは30〜100質量部の範囲である。
【0045】
重合反応の反応液は、溶媒を含むことができる。酸と溶媒の併用も、スルホニル基を含まないポリアリーレンスルフィド樹脂の生成に寄与し得る。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジクロロメタン(塩化メチレン)、クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;スルホラン、DMSO等の含硫黄系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。トリフルオロメタンスルホン酸を使用する場合には、スルホニル基を含まないポリアリーレンスルフィド樹脂を得るために、トリフルオロメタンスルホン酸と、ジクロロメタン又はアセトニトリルとの組み合わせが好ましい。
【0046】
重合反応において酸と溶媒を併用する際の溶媒の量は、酸100質量部に対して、50〜5000質量部の範囲が好ましく、100〜1000質量部の範囲がより好ましい。溶媒の量が上記範囲内であれば、重合反応中の酸性度が低くなり、生成されるポリアリーレンスルフィド樹脂にスルホニル基がより含まれ難いものとなる。
【0047】
重合反応の反応温度は、好ましくは−30〜150℃の範囲、より好ましくは0〜100℃の範囲である。
【0048】
重合反応により生成したポリ(アリーレンスルホニウム塩)を脱アルキル化又は脱アリール化する反応は、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤を含む反応液中で効率的に進行させることができる。脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の例は、求核剤及び還元剤を含む。求核剤としては、含窒素芳香族化合物、アミン化合物、及びアミド化合物等が挙げられる。還元剤としては、金属カリウム、金属ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、及びヒドラジン等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の量は、反応が適切に進行するように設定すればよいが、通常、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)100質量部に対して、100〜50,000質量部の範囲で設定される。
【0049】
含窒素芳香族化合物としては、ピリジン、キノリン、及びアニリン等が挙げられる。これらの化合物のうち、汎用化合物であるピリジンが好ましい。
【0050】
アミン化合物としては、トリアルキルアミン、及びアンモニア等が挙げられる。
【0051】
アミド化合物は、芳香族アミド化合物、又は脂肪族アミド化合物であることができる。
脂肪族アミド化合物は、例えば、下記一般式(9)で表される。
【0052】
【化7】
【0053】
一般式(9)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を表し、R11とR13は結合して環状構造を形成していてもよい。炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、及びデシル基が挙げられる。
【0054】
脂肪族アミド化合物は、芳香族アミド化合物に比べ水への混和性が高く、反応混合物の水洗によって容易に除去可能である。このため、脂肪族アミド化合物を用いた場合、芳香族アミド化合物を用いた場合に比べ、ポリアリーレンスルフィド樹脂中の脂肪族アミド化合物の残存量をより低減することができる。
【0055】
脂肪族アミド化合物を脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として用いることは、樹脂加工する際等のガス発生を抑制し、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の品質向上及び作業環境の改善、更には金型のメンテナンス性をより向上させることができるため好ましい。脂肪族アミド化合物は有機化合物の溶解性にも優れることから、当該脂肪族アミド化合物の使用は、反応混合物からポリアリーレンスルフィドのオリゴマー成分を容易に除去することも可能にする。その結果、ガス発生の一因にもなり得る当該オリゴマー成分を、当該脂肪族アミド化合物により除去することで、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の品質を相乗的に向上させることができる。
【0056】
脂肪族アミド化合物は、例えば、ホルムアミド等の1級アミド化合物、β−ラクタム等の2級アミド化合物、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素等の3級アミド化合物から選択することができる。脂肪族アミド化合物は、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の溶解性及び水への溶解性の観点から、R12及びR13が脂肪族基である脂肪族3級アミド化合物を含むことが好ましい。3級アミド化合物の中でもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0057】
脂肪族アミド化合物は、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として機能するほか、溶解性に優れることから反応溶媒として用いることもできる。反応溶媒として脂肪族アミド化合物のみを用いてもよいし、これとトルエン等の他の溶媒を併用してもよい。
【0058】
ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の脱アルキル化又は脱アリール化の反応温度は、反
応が適切に進行するように適宜調整することができるが、例えば、50〜250℃の範囲、又は80〜230℃の範囲であってもよい。
【0059】
ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法は、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の脱アルキル化又は脱アリール化によって生成したポリアリーレンスルフィド樹脂を、水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で洗浄する工程を更に含んでもよい。この洗浄工程により、ポリアリーレンスルフィド樹脂に含まれる脱アルキル化剤又は脱アリール化剤等の残存量をより確実に低減することができる。この傾向は、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤が脂肪族アミド化合物であるときに特に顕著である。
【0060】
ポリアリーレンスルフィド樹脂中の脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の残存量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と脱アルキル化剤又は脱アリール化剤等の他の成分とを含む樹脂全体の質量を基準として、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは700ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。樹脂中の脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の残存量が1000ppm以下であると、ポリアリーレンスルフィド樹脂の品質に対する実質的な影響をより低減できる。
【0061】
洗浄工程において使用する溶媒は、特に制限されるものではないが、未反応物を溶解させるものであることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、塩酸、酢酸水溶液、シュウ酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶媒等;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン溶剤等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの溶媒のうち、反応試薬の除去及び樹脂のオリゴマー成分の除去の観点から、水又はN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0062】
反応生成物としてのポリアリーレンスルフィド樹脂を、必要により、塩基性化合物を含む水溶液との接触により塩基処理してもよい。塩基処理によって、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子構造中に存在するヒドロキシ基又はカルボキシ基を金属塩に変換することができる。
【0063】
塩基処理に用いる塩基性化合物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム;炭酸カリウム;リン酸ナトリウムが挙げられる。
【0064】
<式(3.1)で表されるスルホキシド化合物を製造する方法>
(方法1)
式(3.1)で表されるスルホキシド化合物は、例えば、
下記一般式(5.1):
【0065】
【化8】

で表されるジアリールジスルフィドと下記一般式(6.1):
【0066】
【化9】

で表されるスルフィド化合物との反応によって、下記一般式(4.1):
【0067】
【化10】

で表されるスルフィド化合物を生成させる工程と、
式(4.1)で表されるスルフィド化合物を酸化して式(3.1)で表されるスルホキシド化合物を生成させる工程と、を含む方法により得ることができる。
【0068】
(方法2)
あるいは、式(3.1)で表されるスルホキシド化合物は、
下記一般式(6.1):
【0069】
【化11】

で表されるスルフィド化合物を酸化して下記一般式(8.1):
【0070】
【化12】

で表されるスルホキシド化合物を生成させる工程と、
式(8.1)で表されるスルホキシド化合物と下記一般式(5.1):
【0071】
【化13】

で表されるジアリールジスルフィドとの反応によって式(3.1)で表されるスルホキシド化合物を生成させる工程と、を含む方法により得ることもできる。
【0072】
これら式中、Ar、Ar2a、及びRは式(3.1)と同様に定義される。式(5.1)中の2つのAr2aは同一でも異なっていてもよい。Yはハロゲン原子を表す。
は、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、臭素原子であることが好ましい。
【0073】
方法1において式(5.1)で表されるジアリールジスルフィドと式(6.1)で表されるスルフィド化合物との反応は、適当な溶媒中で行うことができる。この反応に用いる溶媒は、上述したものから適宜選択することができる。反応温度は、例えば−100〜100℃の範囲、又は−78〜10℃の範囲あってもよい。
【0074】
式(5.1)で表されるジアリールジスルフィドの具体例としては、ジフェニルジスルフィド、ジナフチルジスルフィド等の無置換ジアリールジスルフィド;ビス(2−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、ビス(2−アミノフェニル) ジスルフィド、ビス(2−カルボキシフェニル)ジスルフィド等の置換基を有するジアリールジスルフィド;2,2’−ジベンゾチアゾリルジスルフィド等の複素環を有するジアリールジスルフィド等を挙げることができる。
【0075】
式(6.1)で表されるスルフィド化合物は、例えば、下記一般式(7.1):
【0076】
【化14】

で表される芳香族化合物と、式:Rで表されるハロゲン化炭化水素とを、硫黄の存在下で反応させることで得ることができる。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、並びに、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。当該アリール基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を、芳香環に結合した置換基として1〜4個の範囲で有していてもよい。またYとしては塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってもよく、RとYの組み合わせは上記記載の中から適宜選択できる。式(7.1)中、Arは式(6.1)のArと同様に定義される。Y及びYは、ハロゲン原子を表し、YとYは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0077】
式(7.1)で表される芳香族化合物としては、例えば、4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル、4,4’−ジブロモビフェニル、4,4’−ジブロモビナフチル、10,10’−ジブロモ−9,9’−ビアントラセン等の無置換芳香族化合物;4,4’−ジブロモ−2−ビフェニルアミン、4,4’−ジブロモ−2,2’−ビフェニルジアミン等の置換基を有する芳香族化合物、等を挙げることができる。
【0078】
式(6.1)で表されるスルフィド化合物とハロゲン化炭化水素との反応は、上述した溶媒から選択される溶媒を含む反応液中で行うことができる。
【0079】
式(4.1)で表されるスルフィド化合物は、酸化剤を含む反応液中で酸化することができる。酸化剤は、特に制限されないが、例えば、過マンガン酸カリウム、酸素、オゾン、有機ペルオキシド、過酸化水素、硝酸、m−クロロペルオキシ安息香酸、オキソン(登録商標)、及び四酸化オスミニウムから選択することができる。この反応は、適宜選択される溶媒中で行うことができる。反応温度は、適宜設定すればよいが、例えば−20〜100℃の範囲、又は0〜70℃の範囲であってもよい。
【0080】
方法2を構成する各反応も、方法1を構成する各素反応と同様に行うことができる。例えば、式(6.1)で表されるスルフィド化合物の酸化反応は、式(4.1)で表されるスルフィド化合物と同様の条件で、酸化剤の存在下で行うことができる。
【0081】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂のハロゲン含有量は、900ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0082】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂のナトリウム含有量は、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。ナトリウム含有量がこのような範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることにより、耐薬品性に優れた成形品を作製することができる。
【0083】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の加熱時のガス発生量は、0.2質量%以下の範囲とすることができ、好ましくは0.15質量%以下の範囲とすることができる。加熱時のガス発生量を抑制することができることにより、作業環境の改善等に寄与することができる。さらに、成形時に金型の汚れを抑えることができ、生産性が向上する。
【0084】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、1種又は2種以上の無機質充填剤を含有することができる。無機充填剤を含有することにより、高剛性、高耐熱安定性の組成物が得られる。無機充填剤としては、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ及び酸化チタン等の粉末状充填剤、タルク及びマイカ等の板状充填剤、ガラスビーズ、シリカビーズ及びガラスバルーン等の粒状充填剤、ガラス繊維、炭素繊維及びウォラストナイト繊維等の繊維状充填剤、並びにガラスフレークが挙げられる。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンブラック、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機質充填剤を含有することが特に好ましい。
【0085】
無機充填剤の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは5〜200質量部の範囲、更に好ましくは15〜150質量部の範囲である。無機質充填剤の含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の機械的強度保持の点でより優れた効果が得られる。
【0086】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び架橋性樹脂から選ばれる、ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の樹脂とを含有することができる。これら樹脂は、無機質充填剤とともに樹脂組成物中に配合することもできる。
【0087】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合されうる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、シリコーン樹脂、及び液晶ポリマー(液晶ポリエステル等)が挙げられる。
【0088】
ポリアミドは、アミド結合(−NHCO−)を有するポリマーである。ポリアミド樹脂としては、例えば、(i)ジアミンとジカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、(ii)アミノカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、及び(iii)ラクタムの開環重合から得られるポリマー等が挙げられる。ポリアミドは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0089】
ポリアミドを得るためのジアミンの例としては、脂肪族系ジアミン、芳香族系ジアミン、及び脂環族系ジアミン類が挙げられる。脂肪族系ジアミンとしては、直鎖状又は側鎖を有する炭素原子数3〜18の範囲のジアミンが好ましい。好適な脂肪族系ジアミンの例としては、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカンメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,15−ペンタデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,17−ヘプタデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0090】
芳香族系ジアミンとしては、フェニレン基を有する炭素原子数6〜27の範囲のジアミンが好ましい。好適な芳香族系ジアミンの例としては、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジ(m−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、4,4'−ジ(p−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、ベンジジン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、4,4'−ジアミノ−3,3',5,5'−テトラメチルジフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、及び2,2'−ジメチルベンジジンが挙げられる。
これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0091】
脂環族系ジアミンとしては、シクロヘキシレン基を有する炭素原子数4〜15の範囲のジアミンが好ましい。好適な脂環族系ジアミンの例としては、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンメタン、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンプロパン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジメチル−ジシクロヘキシレンメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、及びピペラジンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0092】
ポリアミドを得るためのジカルボン酸としては、脂肪族系ジカルボン酸、芳香族系ジカルボン酸、及び脂環族系ジカルボン酸を挙げることができる。
【0093】
脂肪族系ジカルボン酸としては、炭素原子数2〜18の範囲の飽和又は不飽和のジカルボン酸が好ましい。好適な脂肪族系ジカルボン酸の例としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、プラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0094】
芳香族系ジカルボン酸としては、フェニレン基を有する炭素原子数8〜15の範囲のジカルボン酸が好ましい。好適な芳香族系ジカルボン酸の例としては、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4'−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、及び1,4−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、トリメリット酸、トリメシン酸、及びピロメリット酸等の多価カルボン酸を、溶融成形可能な範囲内で用いることもできる。
【0095】
アミノカルボン酸としては、炭素原子数4〜18の範囲のアミノカルボン酸が好ましい。好適なアミノカルボン酸の例としては、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、14−アミノテトラデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、及び18−アミノオクタデカン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0096】
ポリアミドを得るためのラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ζ−エナントラクタム、及びη−カプリルラクタムが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0097】
好ましいポリアミドの原料の組み合わせとしては、ε−カプロラクタム(ナイロン6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン6,6)、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、及びm−キシリレンジアミン/アジピン酸が挙げられる。これらの中でも、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、又は1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸から得られるリアミド樹脂が更に好ましい。
【0098】
熱可塑性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量がこれらの範囲にあることにより、耐熱性、耐薬品性及び機械的物性の更なる向上という効果が得られる。
【0099】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に含有されうるエラストマーとしては、熱可塑性エラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー及びシリコーン系エラストマーが挙げられる。なお、本明細書において、熱可塑性エラストマーは、前記熱可塑性樹脂ではなくエラストマーに分類される。
【0100】
エラストマー(特に熱可塑性エラストマー)は、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有することが好ましい。これにより、接着性及び耐衝撃性等の点で特に優れた樹脂組成物を得ることができる。係る官能基としては、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。係る官能基を有する熱可塑性エラストマーは、例えば、α−オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のα−オレフィン類が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10の範囲のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基、カルボキシ基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0101】
エラストマーの含有量は、その種類、用途により異なるため一概に規定することはできないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。エラストマーの含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の耐熱性、靭性の確保の点でより一層優れた効果が得られる。
【0102】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に含有されうる架橋性樹脂としては、2以上の架橋性官能基を有するものが挙げられる。架橋性官能基としては、エポキシ基、フェノール性水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、酸無水物基、及びイソシアネート基などが挙げられる。架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。
【0103】
エポキシ樹脂としては、芳香族系エポキシ樹脂が好ましい。芳香族系エポキシ樹脂は、ハロゲン基又は水酸基等を有していてもよい。好適な芳香族系エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、及びビフェニルノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの芳香族系エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら芳香族系エポキシ樹脂の中でも特に、他の樹脂成分との相溶性に優れる点から、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0104】
架橋性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜30質量部の範囲である。架橋性樹脂の含有量がこれら範囲にあることにより、成形品の剛性及び耐熱性の向上という効果が特に顕著に得られる。
【0105】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有するシラン化合物とを含有することができる。係るシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0106】
シラン化合物の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。シラン化合物の含有量がこれらの範囲にあることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記他の成分との相溶性向上という効果が得られる。
【0107】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤及び滑剤等のその他の添加剤を含有してもよい。添加剤の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0108】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は特に制限なく、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分とを、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは(該融点+10℃)〜(該融点+100℃)となる温度範囲、さらに好ましくは(該融点+20℃)〜(該融点+50℃)となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0109】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、例えば、繊維状の充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のトップフィーダーに替えて、サイドフィーダーから該押出機内に投入することもでき、形状保持と分散性を向上させることもでき好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3〜0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0110】
このようにして得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分とを前記含有量となるよう配合してなる溶融混練物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度範囲で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0111】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックス(海成分)とし、当該マトリックス中に、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分ないし、それらに由来する成分が島状に分散した海島構造を有するモルフォロジーを形成するものであることが好ましい。
【0112】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種の溶融成形に供することが可能であるが、特に離型性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されるものではなく、一般的な方法により成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは(該融点+10℃)以上の温度範囲、より好ましくは(該融点+10℃)〜(該融点+100℃)の温度範囲、さらに好ましくは(該融点+20℃)〜(該融点+50℃)の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口から金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃の温度範囲、好ましくは120〜200℃の温度範囲に設定すればよい。
【0113】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガソリンなどの石油類や、エンジンオイル、ATFオイルなどのオイルに対して優れた耐膨潤性を有する。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の膨潤度は、好ましくは1.5%以下の範囲であり、さらに好ましくは1.0%以下の範囲である。ただし、膨潤度は、成形品を、薬剤(メタノール/イソオクタン/トルエン=15/42.5/42.5(体積比))に浸漬し、80℃で2000時間静置した際の重量を測定して、浸漬前の重量に対して、浸漬後の重量の増加率で評価するものとする。
【0114】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガソリンなどの石油類や種々のオイル、薬剤への膨潤を抑制することができ、薬剤の接する部品として寸法安定性や容器としての密閉性などを担保することができるため好ましい。その結果、数年レベルの長期的な使用が可能となり、また部品の交換頻度の低減や厚みの低減など、耐久寿命や小型化薄肉化の観点からも好ましい。
【0115】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の実施形態としては、単独で又は前記他の成分などの材料と組み合わせて、射出成形、押出成形、圧縮成形及びブロー成形のような各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形品に加工することができる。本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、加熱されたときのガス発生量が少ないことから、高品質の成形品の容易な製造を可能にする。
【0116】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤のうち、高熱伝導性を有するもの(以下、高熱伝導性無機質充填剤という)とを組合せることによって、熱伝導性に優れる成形品に加工することができる。高熱伝導性無機質充填剤としては、熱伝導率が20以上〔W/m・K〕の範囲のものが好ましいものとして挙げられ、例えば、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられ、これらを単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。その際、優れた熱伝導性を示すことから、高熱伝導性無機質充填剤の組成物中の割合は、成形品が高い熱伝導性を示すことから、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、10質量部以上の範囲であることが好ましく、かつ、成形性や成形品が高い機械的強度等を示すことから、300質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0117】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、上述した熱可塑性エラストマーとを組合せることによって、耐冷熱衝撃性に優れる流体用配管を含む水廻り用途の成形品に加工することができる。
【0118】
なお、流体用配管としては、例えばパイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)、など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品(流体用配管)が挙げられる。また、その他に水廻り用途としては、トイレ関連部品、給湯器関連部品、ポンプ関連部品、風呂関連部品等の水廻り用途に適した材料である。特に弁、栓といった開閉部品は、一般に恒常的に高応力負荷が係り、酸性或いはアルカリ性の洗浄剤及び特に冬場における冷気と熱水との温度差によるダメージが大きく、その結果長期に亘る使用が困難なため、本発明の組成物は、特にこの開閉部品の分野において有用である。
【0119】
さらに本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を電気自動車部品に用いると、加熱によるガス発生量を低減させることができるため、ガス成分である硫黄原子を含む低分子量化合物と銅などの金属材料(導電性材料)との接触を低減でき、その結果、高い電圧が繰り返し印加された場合であっても両者の反応を抑制でき、トリー(樹枝状の破壊痕跡)の発生や進展を抑制して、耐トラッキング性を向上させることも可能となる。その結果、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車に搭載する部品(以下、自動車部品という)などに用いることができるだけでなく、とりわけ高い安全性が要求される電気自動車分野、すなわち、リチウムイオン二次電池を備え、電気モーターを動力源とする、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)等に、例えば、パワーモジュール、コンバータ、コンデンサ、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサー、ジャンクションブロック等を収納するケースなど、特にDLIシステムのイグニッションコイル用ケースなどとして好適に用いられる。
【0120】
その他、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、リチウムイオン等の二次電池用ガスケット材料、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、OA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの寸法安定性を求められる精密部品を、例えば射出成形、圧縮成形、インサート成形により得るために用いることができる。また、本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、コンポジット、シート及びパイプ等のための押出成形、引抜成形等の各種成形加工用の材料、並びに、繊維又はフィルム用の材料として幅広く有用である。
【0121】
なお、本発明において、「1〜10」の範囲といった場合、1以上、かつ10以下の範囲を表すものとする。
【実施例】
【0122】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0123】
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造例〕
【0124】
1.評価法
1−1.同定方法(NMR測定)
BRUKER製DPX−400の装置にて、化合物を各種重溶媒に溶解させて、各種NMRを測定した。
【0125】
1−2.同定方法(質量分析)
JEOL製MS−700Tを用いて、化合物の分子量を測定した。
【0126】
1−3.同定方法(元素分析)
Yanaco製MT−5を用いて、化合物を構成する元素の比率を測定した。
【0127】
1−4.赤外吸収スペクトル
日本分光株式会社製「FT/IR−6100」を用いて、赤外吸収スペクトルを測定した。合成した樹脂を400℃のホットプレートで加熱して溶融させ、急冷することで作製した非晶フィルムを測定サンプルとして用いた。
【0128】
1−5.ガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamondを用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40〜400℃の範囲まで測定を行い、ガラス転移温度を求めた。
【0129】
1−6.融点(Tm)
パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamondを用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40〜400℃の範囲まで測定を行い、融点を求めた。
【0130】
1−7.5%熱分解温度(T5%d
TG−DTA装置(株式会社リガク TG−8120)を用いて、20mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温速度で測定を行い、5%重量減少温度を測定した。
【0131】
1−8.質量平均分子量
センシュー科学製高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC−7000を用いて、質量平均分子量を測定した。平均分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
溶媒:1−クロロナフタレン
投入口:250℃
温度:210℃
検出器:UV検出器(360nm)
サンプル濃度:1g/L
流速:0.7mL/min
【0132】
2.モノマーの合成
以下に示す実施例では、下記の試薬を使用した。
4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル:東京化成工業株式会社、純度>98%
ヨードメタン:関東化学株式会社、特級
ヨウ化銅:関東化学株式会社、純度>99%
硫黄:関東化学株式会社
炭酸カリウム:ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級
N,N−ジメチルホルムアミド(脱水):関東化学株式会社、特級
水素化ホウ素ナトリウム:関東化学株式会社
セライト:和光純薬工業株式会社、No. 503
n−ブチルブロミド:東京化成工業株式会社、純度>98%
tert‐ブチルリチウム(n‐ペンタン溶液)1.6mol/L:関東化学株式会社
テトラヒドロフラン(脱水):関東化学株式会社
ジフェニルジスルフィド:関東化学株式会社、特級
塩化アンモニウム:ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級
硝酸(1.38):和光純薬工業(株)製、試薬特級、含量60〜61%の範囲、密度1.38g/mL
ジクロロメタン:関東化学株式会社、特級
メタンスルホン酸:和光純薬工業株式会社、和光特級
五酸化二リン:和光純薬工業株式会社、和光特級
【0133】
(モノマー合成例1a)
4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニルの合成
【0134】
【化15】
【0135】
3つ口フラスコに、4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル100質量部、ヨウ化銅10質量部、硫黄300質量部、炭酸カリウム1,700質量部を入れ、フラスコ内を窒素置換した。フラスコにN,N−ジメチルホルムアミド(脱水)を20,000質量部加えた後、100℃で17時間攪拌した。その後、0℃で水素化ホウ素ナトリウム400質量部を加え、50℃で6時間攪拌した。続いて0℃でヨードメタン900質量部を加え、25℃で20時間攪拌した。攪拌後10%塩酸に反応溶液を注いで反応を停止し、セライトろ過、ジクロロメタンによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。ヘキサンを展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離した。分離した目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニルを収率43%で得た。H−NMR及び13C−NMRにより生成物を確認した。
【0136】
H−NMR(溶媒CDCl):2.52、7.32、7.43、7.48、7.54[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):15.9、121.5、127.0、127.4、128.5、132.0、136.8、138.4、139.6[ppm]
【0137】
(モノマー合成例1b)
4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0138】
【化16】
【0139】
窒素置換した3つ口フラスコに、4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニル100質量部、テトラヒドロフラン(脱水)4000質量部を加えた。−78℃下で反応溶液にt−ブチルリチウム400質量部を加え、1時間攪拌した。続いて、反応溶液にジフェニルジスルフィド100質量部を加え、25℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液を塩化アンモニウム水溶液に注いで反応を停止し、ジエチルエーテルによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。ヘキサンを展開溶媒としてカラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離し、目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去することで4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率73%で得た。H−NMR、13C−NMR、EI−MS、元素分析により生成物を確認した。
【0140】
H−NMR(溶媒CDCl):2.52、7.24−7.28、7.30−7.34、7.39、7.50[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):15.9、127.0、127.3、127.4、127.6、129.4、131.3、131.5、135.0、135.8、137.1、138.1、139.4[ppm]
EI−MS:m/z 308(M
元素分析(計算値):C 73.98(73.70)、H 5.23(5.23)
【0141】
(モノマー合成例1c)
4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0142】
【化17】
【0143】
ナスフラスコに、4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニル100質量部、ジクロロメタン2000質量部を入れ、硝酸40質量部を加えた。反応溶液を25℃で3時間攪拌し、飽和炭酸カリウム水溶液にて中和し、反応を停止した。その後、ジクロロメタンによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。クロロホルムを展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離し、目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率72%で得た。H−NMR、13C−NMR、EI−MS、元素分析により生成物を確認した。
【0144】
H−NMR(溶媒CDCl):2.77、7.30、7.35、7.39、7.43、7.52、7.71[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):44.1、124.3、127.7、128.0、128.0、129.5、130.9、132.0、135.0、136.9、143.4、144.8[ppm]
EI−MS:m/z 324(M
元素分析(計算値):C 70.33(70.19)、H 4.97(4.98)
【0145】
(モノマー合成例2a)
4−n−ブチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0146】
【化18】
【0147】
ヨードメタンの代わりにn−ブチルブロミド700質量部用いたこと以外はモノマー合成例1aと同様の操作を行って4−ブロモ−4’−(n−ブチルチオ)ビフェニルを収率72%にて得た。その後、 窒素置換した3つ口フラスコに、4−ブロモ−4’−(n−ブチルチオ)ビフェニル100質量部、テトラヒドロフラン(脱水)4,000質量部を加えた。反応溶液を、−78℃下でt−ブチルリチウム400質量部を加え、1時間攪拌した。続いて反応溶液にジフェニルジスルフィド100質量部を加え、25℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液を塩化アンモニウム水溶液に注いで反応を停止し、ジエチルエーテルによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した。脱水した反応溶液を、ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。粗生成物を、ヘキサンを展開溶媒としてカラムクロマトグラフィーにより分離し、目的生成物を含む溶液を回収した。ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで4−n−ブチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率72%にて得た。H−NMR、13C−NMR、EI−MS、元素分析により生成物を確認した。
【0148】
H−NMR(溶媒CDCl):0.94、1.47、1.67、2.96、7.24−7.28、7.31、7.34−7.40、7.49、7.51[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):13.8、22.1、31.3、33.2、127.3、127.4、127.7、129.0、129.4、131.3、131.4、135.7、136.7、137.6、139.3[ppm]
EI−MS:m/z 350(M
元素分析(計算値):C 75.21(75.38)、H 6.35(6.33)
【0149】
(モノマー合成例2b)
4−n−ブチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0150】
【化19】
【0151】
4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの代わりに4−n−ブチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを用いたこと以外は、モノマー合成例1cと同様の操作を行って4−n−ブチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率85%にて得た。H−NMR、13C−NMR、EI−MS、元素分析により生成物を確認した。
【0152】
H−NMR(溶媒CDCl):0.93、1.42−1.50、1.59−1.78、2.83、7.29−7.43、7.53、7.69[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):13.8、22.0、24.3、57.2、124.7、127.6、127.8、128.0、129.5、130.9、131.8、135.0、136.7、138.3、143.0、143.1[ppm]
EI−MS:m/z 366(M
元素分析(計算値):C 72.09(72.12)、H 6.05(6.10)
【0153】
(ポリマー合成例1a)
ポリ{メタンスルホン酸メチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}の合成
【0154】
【化20】
【0155】
セパラブルフラスコに、4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニル100質量部、五酸化二リン50質量部を加え、更にメタンスルホン酸500質量部を0℃で滴下した。反応溶液を25℃で20時間攪拌した後、アセトンに注いで反応を停止した。析出した固体をろ過で取り出し、アセトンで洗浄した。その後、洗浄した固体を減圧乾燥することで、ポリ{メタンスルホン酸メチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}を収率93%にて得た。H−NMRにより生成物を確認した。
【0156】
H−NMR(溶媒DMSO−d):3.84、7.63、7.87、8.04、8.15[ppm]
【0157】
(ポリマー合成例1b)
ポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の合成
【0158】
【化21】
【0159】
得られたポリ{メタンスルホン酸メチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}100質量部、N−メチル−2−ピロリドン2000質量部をフラスコに加えた。反応溶液を25℃で30分攪拌した後、120℃で20時間攪拌した。反応溶液を水に投入して反応を停止し、析出物をろ過にてろ別した。続いて、析出物をクロロホルム、NMP、水で洗浄し、得られた固体を減圧乾燥することで、ポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を収率43%にて得た(以下、PAS−1と表記することがある)。
【0160】
得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)について熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)が164℃、融点が347℃、5%熱分解温度(T5%d)が507℃であった。図1は、得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の赤外吸収スペクトルを示す。図1の赤外吸収スペクトルにおいて、波数1160cm−1の付近に、スルホニル基のS=Oの伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されなかった。このことは、得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)が実質的にスルホニル基を有していないことを示す。
【0161】
(ポリマー合成例2)
ポリ{メタンスルホン酸n−ブチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}、及びポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の合成
【0162】
【化22】
【0163】
4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの代わりに4−n−ブチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを用いたこと以外はポリマー合成例1aと同様の操作を行って、ポリ{メタンスルホン酸n−ブチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}を収率95%にて得た。H−NMRにより生成物を確認した。
【0164】
H−NMR(溶媒DMSO−d):0.81、1.40、1.54、4.31、7.40、7.82、7.99、8.04、8.15[ppm]
【0165】
得られたポリ{メタンスルホン酸n−ブチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}を用いたこと以外はポリマー合成例1bと同様の操作を行うことで、ポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を収率56%にて得た(以下、PAS−2と表記することがある)。
【0166】
得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)について熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)が159℃、融点が348℃、5%熱分解温度(T5%d)が507℃であった。図2は、得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)の赤外吸収スペクトルを示す。図2の赤外吸収スペクトルにおいて、波数1160cm−1の付近に、スルホニル基のS=O伸縮振動に由来する吸収ピークが観測されなかった。
【0167】
〔比較合成例〕
圧力計、温度計、コンデンサ−、デカンタ−を連結した撹拌翼付きジルコニウムライニングの1リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)220.5g(1.5モル)、NMP29.7g(0.3モル)、47.43質量%NaSH水溶液177.29g(1.5モル)、及び48.71質量%NaOH水溶液123.18g(1.5モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで2時間掛けて昇温して、水177.98gを留出させた後、釜を密閉した。その際、共沸により留出したp−DCBはデカンタ−で分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後、内温を160℃に冷却し、NMP267.65g(2.7モル)を仕込み、230℃まで昇温し、230℃で5時間撹拌した後、250℃まで40分で昇温し、250℃で1時間撹拌した。冷却後、得られたスラリーを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS(表1においてPAS−3と表記) 154gを得た。
得られた固体について熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)92℃、融点277℃であったことから、ポリフェニレンスルフィドが生成していることを確認した。
【0168】
実施例1〜4、比較例1
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(PASコンポジット)〕
<原料>
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を調製するため、以下の材料を準備した。
【0169】
(充填剤・添加剤)
・エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・GF:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径10μm、長さ3mm)
・エラストマー:住友化学製、ボンドファースト7L
・CF:ピッチ系炭素繊維、引張弾性率560GPa
・CaCO(炭酸カルシウム):丸尾カルシウム株式会社製、「カルテックス5」(粉末状、平均粒径1.2μm)
【0170】
<評価法>
[浸漬試験による膨潤特性]
・試験片…1mm(厚)×60mm(幅)×60mm(長)
・浸漬液:メタノール/イソオクタン/トルエン=15/42.5/42.5(体積比)
・浸漬条件:80℃×2000時間
・試験結果…浸漬前後の重量をn=3で量り、以下の式より重量増加率を算出し、その平均値を膨潤特性の試験結果とした。
(重量増加率)= ((浸漬後重量)−(浸漬前重量))/(浸漬前重量)×100
【0171】
[ガス発生量]
ガスクロマトグラフ質量分析装置(島津製作所製、GC-2010)を用いて、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の所定量のサンプルを325℃で15分間加熱し、そのときのガス発生量を質量%として定量した。
【0172】
<コンパウンドの作製と評価>
表1に示す配合組成で各原料を、タンブラーを用いて均一に混合した後、2軸混練押出機(TEM−35B、東芝機械)を用いて6ゾーンの各バレル温度の範囲が370〜410℃の範囲になるように溶融混練して、ペレット状のコンパウンドを得た。得られたコンパウンドを、3ゾーンの各シリンダー温度を370〜410℃の範囲にし、金型温度:200℃の条件で射出成形し、曲げ特性、シャルピー衝撃強さ、耐酸性試験、耐アルカリ性試験又は耐熱水性試験に用いる試験片を作製し、各種評価を行った。また、PASコンパウンドについて、発生ガス量を測定した。評価結果を表1に示す。
【0173】
【表1】
【0174】
表1に示される結果から明らかなように、ポリマー合成例1、2のPAS樹脂を用いた実施例1〜4のものの膨潤度(浸漬前後の重量増加率)は、比較合成例のPAS樹脂を用いた比較例1のものよりも著しく小さく、耐膨潤性に優れることが明らかとなるだけでなく、かつ、発生ガス量も比較合成例のPAS樹脂を用いた比較例1に比して顕著に低減できることが明らかとなった。その理由は、確定した理論ではないものの、結晶性で、かつ高度な耐熱性を持つビフェニル骨格に由来するものと考えられる。
図1
図2