(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
屈折率異方性を有し、第1電界振動方向を有する第1波長の光に対して第1屈折率を有し、前記第1電界振動方向に直交する第2電界振動方向を有する前記第1波長の光に対して前記第1屈折率とは異なる第2屈折率を有し、前記第2電界振動方向を有し前記第1波長とは異なる波長の第2波長の光に対して前記第2屈折率とは異なる第3屈折率を有する第1基材と、
前記第1基材の内部に分散され、前記第2電界振動方向を有する前記第1波長の光に対して前記第2屈折率を有し、前記第2電界振動方向を有する前記第2波長の光に対して前記第3屈折率とは異なる第4屈折率を有する第1微小光学部材とを備える光偏向素子であって、
前記光偏向素子は、光学要素をさらに備え、
前記光学要素は、
前記第1微小光学部材が分散され、前記第2電界振動方向を有する前記第2波長の光に対して前記第4屈折率を有する第2基材、または、
前記第1基材の内部に分散され、前記第2電界振動方向を有する前記第2波長の光に対して前記第3屈折率を有する第2微小光学部材、である光偏向素子。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下では、適宜図面を参照しながら、一実施形態の光偏向素子と、光偏向素子を用いた光偏向シート、光偏向窓材、採光システム等について説明する。
【0007】
図1は、本実施形態の光偏向素子10の構造と機能とを模式的に示した概念図である。光偏向素子10は、第1の面11と、第2の面12と、基材20と、微小光学部材30とを備え、基材20の内部に複数の微小光学部材30が分散されて構成される。
図1では、第1の面11に光が入射し、光偏向素子10の内部で偏向された後、第2の面12から出射される構成となっているが、偏向される光の入射する面、出射する面は特に限定されず、適宜構成することができる。光偏向素子10は、様々な形状をとり得るが、例えば数十μm〜数cm等の範囲の厚さをもった板状またはシート状に構成される。
【0008】
図1には、光偏向素子10中の微小体積要素29を拡大して示した。微小光学部材30は、少なくとも2種類の所定の光学特性の異なる微小光学部材31、32aを含む。ここで、所定の光学特性とは、光偏向に影響を与える物性パラメータであり、基材20の屈折率と微小光学部材31、32aの屈折率との差で引き起こされる散乱、特にミー散乱の散乱断面積に影響を与える物性パラメータであることが好ましい。本実施形態では、微小光学部材30の所定の光学特性は、所定の波長の屈折率、アッベ数、主分散、所定の2つの波長の部分分散および部分分散比、ならびに平均粒子径で構成される群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。以下では、微小光学部材31と微小光学部材32aとは屈折率が異なるとして説明する。微小光学部材30の形状は特に限定されないが、粒子状であることが不要な反射、散乱等を防ぐうえで好ましい。
なお、本明細書において、「屈折率が等しい」、とは、比較対象の間で屈折率の差が小さく微小光学部材30および基材20による光散乱の散乱断面積への影響が十分小さい場合を指し、例えば、屈折率の差が0.01未満であることを意味する。また、本明細書において、「屈折率が異なる」とは、上記の定義で屈折率が等しい場合以外を指す。さらに、屈折率の比較で「以上」「以下」を用いる場合は、上記の定義で「屈折率が等しい」場合をも含む。また、平均粒子径は、例えば、微小光学部材の粒子径dを顕微鏡法による円相当径とし、頻度分布が最大の最頻粒子径で規定することができる。
【0009】
微小光学部材30は屈折率異方性を有してもよいが、光偏向素子10の構成が複雑になるため、以下の実施形態では、光偏向のメカニズムの一般的な説明をする場合を除き、微小光学部材30は等方的な屈折率を有するものとして説明する。加工性の観点から、微小光学部材30はガラス粒子であることが好ましい。
【0010】
光偏向素子10は、後に詳述するが、基材20の内部を進む光に対する、基材20と微小光学部材30との屈折率の差の異方性、および/または、屈折率の差の大きさの異方性に基づいて、光偏向素子10内の様々な位置を進む光を偏向する。簡潔に述べると、光偏向素子10は、光偏向素子10内を進行する光が感じる屈折率に関して、基材20の屈折率と微小光学部材30の屈折率との差が、より小さくなる方向に光の進行方向が近付くように光を偏向する。なお、屈折率は電界の振動方向により定まることに留意されたい。
【0011】
図1中、入射光71aおよび出射光72a等の、光偏向素子10の外部を進む光は実線矢印で示し、光偏向素子10の内部を進む光の進行方向は破線矢印で示した。
図1では、光偏向素子10の内部において、X軸方向、Y軸方向に電界の振動方向がある光、例えば、Z軸方向に進む光の屈折率は、Z軸方向に電界の振動方向がある光、つまり、Z軸に垂直な方向に進む光の屈折率よりも小さいものとして、Z軸方向に光を偏向する場合を示した。
なお、特に断りの無い限り、
図1中の座標軸に示された通り、Z軸を第1の面11に垂直に設定し、X軸および、X軸に垂直なY軸を、Z軸に垂直な方向に設定する。
【0012】
図2は、基材20および微小光学部材31、32aの所定の波長の光に対する屈折率を例示した図である。以下、微小光学部材31を第1微小光学部材31、微小光学部材32aを第2微小光学部材32aと呼んで区別する。
図2のグラフでは、横軸を可視領域での波長、縦軸を屈折率として示した。基材20の屈折率は、Z軸方向に進行する光に対して最小値をとり(点線52nz参照)、Z軸に垂直な方向、すなわち、X軸方向またはY軸方向に進行する光に対して最大値をとる(実線52nx、52ny参照)。第1微小光学部材53aの屈折率は、基材20のZ軸方向の屈折率よりも基材20のX軸方向およびY軸方向の屈折率に近い値に設定されている。
【0013】
図2において、波長λ1の光に対しては、第1の微小光学部材31の屈折率53aと、基材20のX軸およびY軸方向の屈折率52nx、52nyとは等しく(当該屈折率をn1とする)、第2の微小光学部材32aの屈折率53bはn1よりも大きく、基材20のZ軸方向の屈折率52nzはn1よりも小さい設定になっている。一方、波長λ2の光に対しては、第2の微小光学部材32aの屈折率53bと、基材20のX軸およびY軸方向の屈折率52nx、52nyとは等しく(当該屈折率をn2とする)、第1の微小光学部材31の屈折率53aはn2よりも小さく、基材20のZ軸方向の屈折率52nzはn1よりも小さい設定になっている。
【0014】
この場合、第1微小光学部材31の屈折率53aと、基材20のX軸およびY軸方向の屈折率52nx、52nyとの差に着目すると、波長λ1の光に対する場合は波長λ2の光に対する場合と比べて小さい。従って、第1微小光学部材31は、波長λ2の光に比べて、波長λ1の光をより強くZ軸方向に近付くように偏向する。
【0015】
一方、第2微小光学部材32aの屈折率53bと、基材20のX軸およびY軸方向の屈折率52nx、52nyとの差に着目すると、波長λ2の光に対する場合は、波長λ1の光に対する場合と比べて小さい。従って、第2微小光学部材32aは、波長λ1の光に比べて、波長λ2の光をより強くZ軸方向に近付くように偏向する。
【0016】
本実施形態の光偏向素子10は、屈折率の波長依存性が異なる第1微小光学部材31と第2微小光学部材32aとを備える。これにより、1種類の基材20と1種類の微小光学部材30とで構成される光偏向素子に比べて、光の偏向度合の波長依存性をより小さくすることができるので、入射光71aに対する出射光72aの色の変化をより小さくすることができる。
【0017】
なお、
図2では、波長λ1の光に対して、第1微小光学部材31の屈折率53aと第2微小光学部材32aの屈折率53bとが、基材20の屈折率の最大値以上の値をとるように設定した。しかし、基材20の屈折率に関して、X軸方向およびY軸方向の屈折率52nx、52nyがZ軸方向の屈折率52nzよりも小さくなるように構成し、ある波長の光に対して、第1微小光学部材31の屈折率53aと第2微小光学部材32aの屈折率53bとが、基材20の屈折率の最小値以下の値をとるように設定してもよい。
【0018】
基材20のとり得る屈折率の最大値と最小値の中間の値を微小光学部材30の屈折率として設定すると、理論上、偏向する方向に広がりが出る。従って、偏向する方向の広がりを少なくしたい場合には、所定の波長の光に対し、第1微小光学部材31の屈折率53aおよび/または第2微小光学部材32aの屈折率53bは、基材20の取り得る屈折率の最大値以上、または、最小値以下とすることが好ましい。
【0019】
可視領域内におけるある波長、または、可視領域内の一部若しくは全ての波長域において、第1微小光学部材31の屈折率53aと第2微小光学部材32aの屈折率53bとの差Δnは、0.1未満であることが好ましく、0.05未満であることがさらに好ましい。これにより、第1微小光学部材31または第2微小光学部材32aの一方による光偏向の度合が、他方による光偏向の度合と著しく異なってしまうことを防ぐことができる。
【0020】
基材20は、配向複屈折を有し、内部に配向複屈折を有する光透過性材料を含んで構成される。配向複屈折を有するためには、基材20は、ベンゼン環またはナフタレン環を備える樹脂を含む材料からなることが好ましい。後述のミー散乱による散乱断面積は、基材20の屈折率と微小光学部材30の屈折率との差に依存し、電界の振動方向に依存する散乱の程度に差がある方が効率よく偏向されるから、光偏向を効率よく行うためには、基材20は、固有複屈折の絶対値の大きい光透過性材料を含む材料からなることが好ましい。以上を鑑み、基材20は、ポリエチレンナフタレート(以下、PENと呼ぶ)またはポリエチレンテレフタレート(PET)等の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。特に、PENは、固有複屈折が顕著に高く、弾性率が高いため屈曲可能なシート状に成型することもできる等、加工性にも優れるため好ましい。
【0021】
本実施形態では、微小光学部材30は、粒子状であり、光偏向素子10により偏向する光の波長をλとして、微小光学部材30の粒子径dが、円相当径で0.1λ〜10λ程度に設定されている。これにより、本実施形態の光偏向素子は、本願出願人が先に出願して公開されたWO2011/158956号(以下、参考文献1と呼ぶ)に記載の微小光学部材と同様に、ミー散乱の理論に基づいて散乱され効率的に偏向される。
【0022】
(光偏向の基本的なメカニズム)
以下では、基材20と微小光学部材30とを含む光偏向素子10により、入射光を所望の方向に偏向して出射する基本的なメカニズムを説明する。説明をわかりやすくするため、基材20に微小光学部材30が一種類しか含まれていないとし、適宜波長λ1の光が、第1微小光学部材31が分散されて含まれる基材20に入射する場合を例に(
図2参照)説明する。詳細な理論やシミュレーション結果に関しては、参考文献1を参照されたい。
【0023】
本実施形態では、
図1中の座標軸に示される通り、光偏向素子10の第1の面11に垂直な方向にZ軸を設定し、Z軸に垂直な平面に沿って互いに直交するX軸およびY軸を設定する。基材20において、X軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
axとし、Y軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
ayとし、Z軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
azとする。また、微小光学部材30において、X軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
bxとし、Y軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
byとし、Z軸方向に電界成分が振動する光の屈折率をn
bzとする。
【0024】
本実施形態の光偏向素子10では、微小光学部材30の屈折率は、基材20の屈折率との比較において、所定の関係をもつように構成される。すなわち、屈折率n
bzと、屈折率n
azとの差の絶対値が、屈折率n
bxと、屈折率n
axとの差の絶対値、および、屈折率n
byと、屈折率n
ayとの差の絶対値よりも大きくなるように構成される。すなわち、以下の数式(1)および(2)で表される屈折率の関係を満たすように構成される。
|n
az−n
bz|>|n
ax−n
bx| …(1)
|n
az−n
bz|>|n
ay−n
by| …(2)
【0025】
屈折率は、光の電界成分の振動方向毎に定義され、電界成分の振動方向と、光の進行方向とは直交する。ミー散乱の理論によれば、基材20の屈折率と微小光学部材30の屈折率との差の絶対値が大きい方が、散乱断面積は大きい(参考文献1の
図22、
図25等を参照)。上記の数式(1)および(2)を満たす場合、電界成分がZ軸方向、すなわち第1の面11に垂直な方向に振動し、XY平面に沿って進む光は、Z軸方向に進む光、例えば、電界成分がX軸方向またはY軸方向に振動する光よりも大きな散乱断面積で散乱されることになる。従って、様々な方向に進む光、すなわち電界成分が様々な方向に振動する光のうちで、Z軸方向に進む光は、たとえばX軸あるいはY軸方向に進む光に比べて散乱される程度が低い。そして、各微小光学部材30による散乱(後述の
図5参照)により、様々な方向に進む光が生み出され、散乱されにくい方向に進む光は進行方向を変えずに進み、散乱されやすい方向に進む光は再び散乱するので、結果として、光偏向素子10の内部を進む光はX軸やY軸方向に近付くようには偏向せず、Z軸方向に近付くように偏向される。
【0026】
より詳しく言えば、光偏向素子10は、第1の面11から入射した光の少なくとも一部を、基材20の屈折率と微小光学部材30の屈折率との差の絶対値が最も小さい方向に対して垂直ないずれかの方向に近付くように偏向する。光偏向素子10は、特に、入射面に対して基材20の屈折率と微小光学部材30の屈折率とが対称となるように分布している場合には、光偏向素子10に入射した光は対称性から平均的に入射面に沿った方向に進むから、上記いずれかの方向のうち、入射面に沿った方向に偏向される。
【0027】
微小光学部材30が等方性の屈折率を有する場合、基材20の内部での微小光学部材30の配向を調整する必要がないため製造工程が複雑化することを防ぐことができる。以下の説明は、波長λ1の光に対する第1微小光学部材31を例に、微小光学部材を等方性の屈折率n
bを有するガラス粒子とし、さらに、基材20の屈折率を、屈折率n
axが屈折率n
ayおよび屈折率n
bと等しく、屈折率n
azがこれらの屈折率n
ax、n
ay、n
bと異なる場合を前提とする。
【0028】
図3は、波長λ1の光に対する、光偏向素子10の基材20と第1微小光学部材31とのそれぞれの方向の屈折率を示した図である。光偏向素子10は、基材20の内部においてX軸方向に電界成分が振動する光の屈折率n
axおよびY軸方向に電界成分が振動する光の屈折率n
ayと、第1微小光学部材31の屈折率n
b(=n
bx=n
by=n
bz)とが等しい。一方、基材20の内部において、Z軸方向に電界成分が振動する光の屈折率n
azは、第1微小光学部材31の屈折率n
bよりも小さい。
【0029】
XY平面に沿って電界成分が振動する光であるZ軸方向に進む光は、基材20と第1微小光学部材31とで屈折率が等しいため、第1微小光学部材31により散乱されないか、その他の方向に進む光に比べ弱く散乱される。Z軸に沿って電界成分が振動する光、つまり、XY平面に沿って進む光は、基材20と第1微小光学部材31とで屈折率が異なるため、その他の方向に進む光よりも、強く散乱される。
【0030】
図4は、波長λ1の光に対する、光偏向素子10の基材20と第1微小光学部材31とのそれぞれの三次元方向の屈折率を、グラフで示した図である。光偏向素子10の内部を進む光の電界成分の振動方向について、三次元方向の屈折率は、
図3で示したX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の屈折率が実質的に連続的に変化するように構成される。この点を反映し、基材20の三次元方向の屈折率は、屈折率楕円体40で示される。一方、微小光学部材30の屈折率は、等方的であるため屈折率球41となる。XY平面上で屈折率楕円体40と屈折率球41とが重なる断面49は円の形状であるが、Y軸が斜視的に表されているため輪郭が楕円(破線)で図示される。
【0031】
例えば、電界成分がXZ平面で振動する光を考える。Z軸からX軸の方向に向けて光の電界成分の振動方向までの角度をθとすると、電界成分がθ方向に振動する光の屈折率の差は破線矢印48の長さで示される。X軸方向から、Z軸方向まで電界成分の振動方向を変化させたとすると、上記光の基材20での屈折率と第1微小光学部材31での屈折率との差は、増加していくことがグラフから読み取れる。同様に、X軸方向以外の電界成分の振動方向の光に対しても、電界成分の振動方向がXY平面に沿った方向から、Z軸に沿った方向に変化していくと、光の基材20での屈折率と第1微小光学部材31での屈折率との差は、増加していくことがわかる。
なお、以降では、光の振動方向がXZ平面内にない場合でも、Z軸から光の振動方向までとった角度をθ(0度≦θ≦90度)とする。
【0032】
以上説明した内容と、ミー散乱における散乱断面積が屈折率の差(の絶対値)と正の相関を有することとを併せ、光偏向素子10は、電界成分の振動方向とZ軸との角度が90度に近い光ほど、より弱く散乱する傾向を示すことになる。
【0033】
図5は、光偏向素子10の内部での、第1微小光学部材31の各々についての、光の入射方向と出射方向とを説明するための図である。Z軸に対して光の進行方向がなす角度をφ(0度≦φ≦90度)とする。
図5(a)では、第1微小光学部材31に対し、基材20の内部を進む光はφ=0度、すなわちZ軸方向に沿って入射する。この場合、光の電界成分の振動方向(光の進行方向と垂直)を示す角度θは90度となるため、基材20と第1微小光学部材31とは屈折率が等しく、第1微小光学部材31に入射した光は散乱されず、入射光と同一の方向であるZ軸方向に出射される。
【0034】
一方、
図5(b)では、第1微小光学部材31に対し、基材20の内部を進む光は、基材20の屈折率と第1微小光学部材31の屈折率が異なる方向から入射する(φ≠0)。この場合、光の電界成分の振動方向は、光の進行方向に垂直なあらゆる方向をとり得る。
図4のグラフにおいては、屈折率楕円体40と屈折率球41とをZ軸に対してφの角度の法線方向をもつ平面で切った断面において、基材20と第1微小光学部材31とのそれぞれの電界成分の振動方向毎の屈折率が示される。基材20の屈折率と第1微小光学部材31の屈折率とが異なる方向に電界成分が振動する光の場合、第1微小光学部材31は、入射した光を散乱し、入射方向とは異なる方向を含んだ様々な方向に光を出射する。
【0035】
図6は、光偏向素子10の内部で、複数の第1微小光学部材31による散乱により、光偏向素子10への入射光が偏向される点を説明する図である。光偏向素子10の第1の面11から入射した光は、例えば第1微小光学部材31aにおいて散乱され、Z軸方向に散乱された光は、他の第1微小光学部材31bに散乱されずそのまま光偏向素子10から出射される。一方、第1微小光学部材31aで散乱されてX軸方向に近い方向に進む光は、再び別の微小光学部材31cで散乱される。第1微小光学部材31cで散乱された光のうちZ軸方向に進むものは、他の第1微小光学部材31に散乱されずZ軸方向に進む光として出射される。
なお、偏向させたい方向とは別の方向に進む光であって、例えば、入射光がXZ平面内を進む場合のY軸方向に電界成分が振動する光のように、散乱断面積が小さい電界成分の振動方向も存在し得る(
図4参照)。しかしながら、既に述べたように、散乱により様々な方向の光が生み出され、全体として屈折率の差の絶対値の小さいZ軸方向に向けて、入射光は偏向される(参考文献1の
図27等も参照)。
【0036】
(光偏向素子10の製造方法について)
図7は、光偏向素子10を製造する流れを示すフローチャートである。Z軸に関して軸対称の屈折率を有し、Z軸方向の屈折率がX軸方向およびY軸方向の屈折率より小さい基材20(
図4参照)は、正の固有複屈折をもった配向複屈折を有する材料をX軸およびY軸に二軸延伸することで好適に作成される。
なお、基材20に必要な屈折率の異方性に応じて、延伸の方向、延伸倍率を適宜調節し、電界成分の振動方向により様々な屈折率の分布をもった基材20を実現することができる。また、適宜一軸延伸や、ローラにより押しつぶして延伸する方法を用いてもよい。
なお、
図7のフローチャートでは、2種類のガラス粒子を混練する構成としているが、異なる光学特性を有する2種類以上の微小光学部材30が混錬されるのであれば、特に微小光学部材30の態様は限定されない。
【0037】
ステップS1001において、ビーズミル等の粉砕機により、異なる屈折率を有する2種類の、微小光学部材30の原料となるガラス材料を破砕し、2種類のガラス粒子を作成する。破砕後のガラス粒子は、粒子の大きさについて、入射する光の波長をλとしたときに円相当径が0.1λ〜10λとなるものを含むように適宜調節される。2種類のガラス粒子が作成されたら、ステップS1003に進む。ステップS1003において、2種類のそれぞれのガラス粒子について、気流分級機等の分級装置により、ガラス粒子を分級し、円相当径が0.1λ〜10λとなるガラス粒子を取り出す。ステップS1003が終了したら、ステップS1005に進む。
以下の実施形態において、入射する光の波長λは、使用態様に応じて例えば可視光線に対応する光の波長とすることができ、具体的には360nm以上、または380nm以上、あるいは400nm以上等とすることができ、また、760nm以下、あるいは780nm以下等とすることができる。
【0038】
ステップS1005において、ステップS1003で得られた2種類のガラス粒子の表面を処理する。例えば、ヘンシェルミキサーを用いてガラス粒子とシランカップリング剤とを混合して撹拌し、ガラス粒子の表面にシランカップリング処理を行うことにより、樹脂とガラス粒子との密着性を向上させてもよい。表面処理が終わったら、ステップS1007に進む。ステップS1007において、二軸混練装置等の混練装置により、ステップS1005で得られた2種類のガラス粒子を、基材20の原料である熱可塑性樹脂を溶融したものに所定の割合で混練する。
なお、ステップS1005における表面処理は、適宜省略してもよい。
【0039】
図8は、2種類のガラス粒子を混練する際の割合を決定する方法を説明するための図である。図中、左上のグラフは、所定の波長の光について、第1微小光学部材31が基材20に分散された場合の、粒子半径に対するミー散乱の散乱断面積の理論値を示すグラフである。図中、右上のグラフは、所定の波長の光について、第2微小光学部材32aが基材20に分散された場合の、粒子半径に対するミー散乱の散乱断面積の理論値を示すグラフである。左上のグラフと右上のグラフとでは、少なくとも一部の波長域について、波長の変化に対して散乱断面積が逆方向に変化している。
【0040】
第1微小光学部材31に関する散乱断面積のデータと第2微小光学部材32aに関する散乱断面積のデータとを所定の割合で足し合わせて重み付け平均をとり、
図8中、下のグラフのように、適宜最小二乗法等を用いて散乱断面積に波長依存性が少なくなるような割合が算出される。上記割合の算出では、製造する光偏向素子の用途に応じて適宜入射角や電界の振動方向等について適切な光を想定して最適化することが好ましい。求めた割合で第1微小光学部材31と第2微小光学部材32aとが熱可塑性樹脂に混練される。2種類のガラス粒子が所定の割合で熱可塑性樹脂に混練されたら、ステップS1009に進む。
なお、基材20の原料である熱可塑性樹脂は、延伸前に複屈折を示していないものを用いることも好ましい。これにより、延伸時における各方向の屈折率の調整が比較的容易になる。
【0041】
ステップS1009において、単層押し出し装置等の押出機により、2種類のガラス粒子が混練された熱可塑性樹脂をシート成型する。シート成型されたら、ステップS1011に進む。
【0042】
ステップS1011において、延伸機により、所定の温度で熱可塑性樹脂のシートが二軸延伸される。延伸は、基材20において所望の屈折率が得られるように適宜延伸倍率、温度等が調節される。好ましくは、延伸倍率は、基材20の屈折率が最大となる方向の屈折率の値が、微小光学部材31または微小光学部材32aの屈折率と等しいか、より小さい値になるように設定される。延伸は、加工可能な程度において、より低い温度で行う方が、樹脂の結晶化による光透過性の低下を防ぐことができるので好ましい。PENは、ガラス転移点Tg以下の温度での延伸でも、ナフタレン環同士の平行性が良くなり延伸により配向し、複屈折を生じることが知られている。従って、基材20の材料としてPENを用いた場合、2種類のガラス粒子に用いられているいずれかまたは両方のガラスの転移点Tg以下の温度で延伸することが、光透過性の低下を防ぐために好ましい。また、延伸において、ロールプレス等により、加熱とともに、適宜加圧することも好ましい。ロールプレスによりシートの表面が平たん化されて、無駄な散乱光の発生が抑制される。熱可塑性樹脂が延伸され、光偏向素子10が成型されたら、ステップS1013に進む。
【0043】
ステップS1013において、ステップS1011で得られた光偏向素子10の光学特性を実験により確認する。光偏向素子10に適宜所定の方向の偏光成分を有する光を照射し、光強度等を検出し、光強度分布を作成する等して評価する。光学特性が評価されたら、処理を終了する。
なお、製造条件が安定している場合は、光学特性の評価ステップは省略することも可能である。
【0044】
(窓材について)
上述の光偏向素子10は、入射する光を偏向する光偏向窓材に好適に用いられる。光偏向窓材は、直射日光を構造物内部の奥行方向等に偏向するとともに、適度に拡散させ、色合いを調整しつつ直射日光の不快なぎらつきを抑えることができる。
【0045】
図9は、光偏向素子10を用いて作成した光偏向窓103の正面図である。光偏向窓103は、窓枠109と、光偏向窓材102を備えて構成される。
【0046】
図10は、光偏向窓103のA−A端面図である。光偏向窓材102は、光偏向素子10(
図1)をシート状に形成した光偏向シート101と、光透過層106と、コート層107とを備えて構成される。光偏向シート101は、本実施形態の光偏向素子10を備え、入射光を、光透過層106に垂直な方向または光透過層106に垂直な方向から15度以下、30度以下、45度以下等の所定の角度の方向に向けて偏向する。光透過層106は、ガラス板や樹脂板等の、通常の構造物等に用いられる、光透過性を有する板状窓材により構成され、外光を取り入れつつ、外気を遮るものである。コート層107は、光偏向窓材102の表面の保護のため、擦り傷等が容易に形成しない材質で構成される。コート層が紫外線等の所望の光を遮断する構成にしてもよい。
なお、光偏向窓材102は三層からなるものとして説明したが、層の数や各層の構成は適宜調整してもよい。また、光偏向窓材102は、光偏向シート101が挟み込まれて形成されるが、光透過層106に光偏向シート101が着脱可能に接着される構成としてもよい。これにより、光偏向シート101の厚さを調整したり、季節による太陽の方角等に合わせ、適切な向きに光偏向シート101を配置することができる。
【0047】
(採光システムについて)
図11は、本実施形態の光偏向シート101を用いた採光システム200の例を示した図である。建築物51において、光透過層106を備える窓材105に沿って光偏向シート101が配置されている。これにより、太陽5からの仰角の大きい直射日光に対しても、奥行き方向に光を偏向することができ、また、微小部材による散乱光であるため、建築物51の内部に居る人間にとって不快なぎらつきを避けることができる。
なお、本実施形態の採光システム200は、建築物51のみならず、テントや組み立てバンガロー等の仮設構造物や、電車や車等の乗り物にも好適に採用することができる。また、
図11では、光偏向シート101を窓材105に片側から貼付する構成にしたが、
図10のように光偏向シート101を光透過層106やコート層107等で挟み込む形にしてもよい。
【0048】
また、光偏向素子10の他の応用として、ファイバー等の光を通す媒体と接続し、建築物51の各部屋に光を誘導し、光源または熱源として利用する他、建築物51への直射日光を建築物51の外部へと誘導することにより、排熱等したりすることができる。
【0049】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の光偏向素子10は、基材20および第1微小光学部材31に加え、さらなる光学要素である第2微小光学部材32aをさらに備え、第2微小光学部材32aは、基材20の内部に分散された微小光学部材であって、第1微小光学部材31とは、波長λ1等の光に対して屈折率が異なる。
これにより、光偏向素子10に入射する複数の波長の光について、波長による偏向の度合の違いを少なくすることができ、入射光の色合いと出射光の色合いが大きく変化することを防ぐことができる。また、適宜出射光の色合いの調整を行うことができる。
【0050】
(2)本実施形態の光偏向素子10において、第2微小光学部材32aは、平均粒子径が第1微小光学部材31の平均粒子径と異なる微小粒子であるか、または、波長λ1等の光に対して第1微小光学部材31の屈折率とは異なる屈折率を有する微小粒子であるとすることができる。これにより、ミー散乱の散乱特性の違いを利用して、効果的に波長による偏向の度合の違いを少なくすることができる。
【0051】
(3)本実施形態の光偏向素子10において、波長λ1の光に対する、第1微小光学部材31の屈折率および/または第2微小光学部材32aの屈折率は、波長λ1を有し任意の電界の振動方向を有する光に対して基材20が示す最大屈折率以上か、最小屈折率以下である。これにより、第1微小光学部材31および/または第2微小光学部材32aにより偏向される光の方向の精度を上げることができる。
【0052】
(4)本実施形態の光偏向素子10において、第1微小光学部材31、第2微小光学部材32aは、粒子状であって、偏向する光の波長をλとしたとき、第1微小光学部材31、第2微小光学部材32aの円相当径は0.1λ〜10λである。これにより、ミー散乱を利用して効率的に光偏向を行うことができ、さらに反射材を用いないためぎらつきを防ぐことができる。
【0053】
(5)本実施形態の光偏向素子10は、第1微小光学部材31、第2微小光学部材32aはガラス粒子である。これにより、容易に加工することができる。また、ガラス粒子は材料を選択することにより、適した屈折率の材料を採用できると共に、材料による吸収が少ない。
【0054】
(6)本実施形態の光偏向素子の製造方法は、延伸により配向複屈折性が変化するPEN等の光透過性材料に、複数の異なる光学特性の微小光学部材30を混錬することと、微小光学部材30が混錬された当該光透過性材料を延伸してシート状の部材101を形成することと、を備える。これにより、微小光学部材30を複数準備する他は、1種類の微小光学部材30を備える光偏向素子を製造する時と同等の手間で、波長により偏向の度合の変化がより小さい光偏向素子10を製造することができる。
【0055】
(7)本実施形態の光偏向素子の製造方法において、微小光学部材31と微小光学部材32aとで異なる光学特性は、平均粒子径または屈折率である。これにより、ミー散乱を利用して波長により偏向の度合の変化がより小さい光偏向素子10を製造できる。
【0056】
(8)本実施形態の光偏向シート101は、光偏向素子10をシート状に形成してなる。これにより、様々な場所に容易に設置し、出射光の色合いが調整された光偏向を実現することができる。
【0057】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態においては、
図1で示されたように、第1微小光学部材31と第2微小光学部材32aとを基材20に分散させる構成とした。しかし、光偏向素子が、第1微小光学部材を基材20に分散させた第1の層と、第2微小光学部材を基材20に分散させた第2の層とを備えてもよい。これにより、1種類の基材と1種類の微小光学部材から構成される光偏向素子を様々に組み合わせて、光偏向の度合の波長依存性が減少した光偏向素子10aを構成することができる。
【0058】
図12は、本変形例の光偏向素子10aの構造を示す概念図である。光偏向素子10aは、第1の層13と、第2の層14を備える。第1の層13は、第1微小光学部材31と基材20を備える。
図12では、第1の層13の微小体積要素29aを拡大して図示している。第2の層14は、第2微小光学部材32aと、基材20とを備える。
図12では、第2の層14の微小体積要素29bを拡大して図示している。言い換えると、第1基材20aを備える層13、14を一つの層とすると、当該層は、第1微小光学部材31が分散されている第1の層13と、第2微小光学部材32aが分散されている第2の層14に分かれている。
【0059】
第1の層13および第2の層14は、入射光71a、71bの透過方向に対して直列に配置され、入射光71a、71bは第1の層および第2の層14を透過した後、それぞれ出射光72a、72bとして出射される。これにより、入射光71aのように第1の層13ではあまり偏向されない光でも、第1の層13とは異なる第2微小光学部材32aを備える第2の層14を透過する間に偏向させることができる。
なお、第1の層13および第2の層14は、層状ではなく、任意の形状にすることができる。また、第1の層13と第2の層14で異なる屈折率の基材20を用いてもよい。
【0060】
第1の層13の厚さと、第2の層14の厚さとは、光偏向素子10aを透過した光の偏向の度合の波長依存性が少なくなるように適宜調節される。光偏向素子10aの製造方法においては、例えば、
図8で示したように、2種類の微小光学部材30と基材20に関する、波長ごとの、粒子半径に対する散乱断面積のデータに基づいて、光偏向素子10a全体の厚さに対する、第1の層13の厚さと第2の層14の厚さの割合を決定することができる。第1微小光学部材31に関する散乱断面積のデータと第2微小光学部材32aに関する散乱断面積のデータとを所定の割合で足し合わせて重み付け平均をとり、
図8中、下のグラフのように散乱断面積に波長依存性が少なくなるような割合が算出される。光偏向素子10aの製造方法においては、求めた上記割合から第1の層13の厚さと第2の層32bの厚さとが決定され、決定された厚さの第1の層13と第2の層14とが光の透過方向に対して直列に配置される。
【0061】
(変形例2)
上述の実施形態の
図1では、光偏向素子10の第1の面11と対向する第2の面から偏向した光を出射する構成にしたが、入射光を45度〜135度、または90度等の任意の角度偏向し、光偏向素子の側面から出射する構成にしてもよい。これにより、特に太陽電池等の平面状のパネル等において、コンパクトな形状で効率的に光を集光することができる。
【0062】
図13は、本変形例の光偏向素子10bの構造を示す概念図である。光偏向素子10bは、第1の面11と、第2の面12と、基材20と、微小光学部材30とを備える。
図13中では、基材20の内部の微小体積要素29dを拡大して図示した。微小光学部材30は、第1微小光学部材31と、第2微小光学部材32aとを備える。
【0063】
光偏向素子10bは、第1の面11から入射する入射光71cを、第1の面11および第1の面11と対向する第2の面12とは異なる面から出射光72cとして出射する。
【0064】
図14は、本変形例における基材20および微小光学部材31、32aの所定の範囲の波長の光に対する屈折率を例示した図である。
図14のグラフでは、横軸を可視領域での波長、縦軸を屈折率として示した。基材20の屈折率は、Z軸方向において最小値をとり(実線52nz参照)、Z軸に垂直な方向、例えば、X軸方向およびY軸方向において最大値をとる(点線52nx、52ny参照)。
図2とは実線と点線の定義が入れ替わっているので留意されたい。第1微小光学部材31の屈折率53aは、基材20のX軸方向およびY軸方向の屈折率52nx、52nyよりも基材20のZ軸方向の屈折率52nzに近い値に設定されている。
【0065】
図14において、波長λ3の光に対しては、第1の微小光学部材31の屈折率53aと、基材20のZ軸方向の屈折率52nzとは等しく(当該屈折率をn3とする)、第2の微小光学部材32aの屈折率53bはn3よりも小さく、基材20のX軸方向およびY軸方向の屈折率52nx、52nyはn3よりも大きい設定になっている。一方、波長λ4の光に対しては、第2の微小光学部材32aの屈折率53bと、基材20のZ軸方向の屈折率52nzとは等しく(当該屈折率をn4とする)、第1の微小光学部材31の屈折率53aはn4よりも大きく、基材20のX軸方向およびY軸方向の屈折率52nx、52nyはn4よりも大きい設定になっている。
【0066】
この場合、第1微小光学部材31の屈折率53aと、基材20のZ軸方向の屈折率52nzとの差に着目すると、波長λ3の光に対する場合は、波長λ4の光に対する場合と比べて小さい。従って、第1微小光学部材31は、波長λ3の光に対して、波長λ4の光に比べて、波長λ3の光をより強くZ軸方向と垂直なX軸またはY軸方向等に近付くように偏向する。
【0067】
一方、第2微小光学部材32aの屈折率53bと、基材20のZ軸方向の屈折率52nzとの差に着目すると、波長λ4の光に対する場合は、波長λ3の光に対する場合と比べて小さい。従って、第2微小光学部材32aは、波長λ4の光に対して、波長λ3の光に比べて、波長λ4の光をより強くZ軸方向と垂直なX軸またはY軸方向に近付く方向に偏向する。
【0068】
本実施形態の光偏向素子10bは、屈折率の波長依存性が異なる第1微小光学部材31と第2微小光学部材32aとを備える。これにより、1種類の基材20と1種類の微小光学部材30とで構成される光偏向素子に比べて、光の偏向の波長依存をより小さくすることができるので、入射光71cに対する出射光72cの色の変化をより小さくすることができる。
【0069】
光偏向素子10bは、基材20の屈折率との関係で、第1微小光学部材31および第2微小光学部材32aの屈折率が変わる他は、上述の実施形態の光偏向素子10と同様の方法(
図7参照)で製造することができる。
【0070】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る光偏向素子10cは、第1の実施形態に係る光偏向素子10と同様の構成を有しているが、異なる所定の光学特性を有する複数の基材20(20a、20b)を備える点が、第1の実施形態とは異なっている。ここで、所定の光学特性とは、光偏向に影響を与える物性パラメータであり、基材20と微小光学部材31、32aとの屈折率の差で引き起こされる散乱、特にミー散乱の散乱断面積に影響を与える物性パラメータが好ましい。本実施形態では、基材20における所定の光学特性は、所定の振動方向を有し所定の波長の光に対する屈折率、所定の電界成分の振動方向を有する光に対するアッベ数、主分散、所定の2つの波長の部分分散および部分分散比、ならびに屈折率の最大値と最小値との差で構成される群から選択される少なくとも一つがより好ましい。以下では、基材20aと基材20bとは所定の電界成分の振動方向を有する所定の波長の光に対し屈折率が異なる(
図16参照)として説明する。第1の実施形態との同一部分については第1の実施形態と同一の符号で参照し、場合に応じ説明を省略する。
【0071】
図15は、第2の実施形態の光偏向素子10cの構造を示す概念図である。光偏向素子10cは、第1の面11と、第2の面12と、第1の層15と、第2の層16とを備える。第1の層15は、第1基材20aと、第1基材20aに分散された第1微小光学部材31とを備える。第2の層16は、第2基材20bと、第2基材20bに分散された第1微小光学部材31とを備える。
図15中では、第1の層15の内部の微小体積要素29aおよび第2の層16の内部の微小体積要素29eを拡大して図示した。
なお、第1の層15と、第2の層16とに光学特性の異なる微小光学部材が分散されている構成にしてもよい。
【0072】
光偏向素子10cは、入射光71a、71bをそれぞれ第1の面11または第2の面12に垂直な方向に偏向し、第2の面12から出射光72a、72bとして出射する。光偏向素子10cは、第1基材20aと第2基材20bとの光学特性が異なるため、例えば光偏向の波長依存性等が原因で、入射光71aのように第1の層15で光偏向の度合が弱い場合でも、第2の層16で光偏向させることができる。これにより、光の偏向の程度を波長ごとにより均一にすることができ、1種類の基材20と1種類の微小光学部材30とで構成される光偏向素子よりも、入射光と出射光とで色の変化を少なくすることができる。
【0073】
第1基材20aと第2基材20bとの組成は特に限定されないが、第1基材20aと、第2基材20bとは、PENまたはPET等の、同一の化合物を含み、配向複屈折性が異なる熱可塑性樹脂を備えることが好ましい。これにより、同一の原料から異なる光学特性を有する基材が製造でき、製造の際の延伸倍率により屈折率等の光学特性を容易に調節することができる。
【0074】
第1微小光学部材31は異方性をもつ屈折率を有してもよいが、光偏向素子10の構成が複雑になるため、本実施形態では、第1微小光学部材31は等方的な屈折率のガラス粒子として説明する。
【0075】
図16は、第2の実施形態における第1微小光学部材31と、第1基材20aおよび第2基材20bとの所定の波長の光に対する屈折率を例示した図である。
図16のグラフでは、横軸を可視領域での波長、縦軸を屈折率として示した。第1微小光学部材31の屈折率53は実線で示した。第1基材20aの屈折率は、Z軸方向において最小値をとり(点線52−1nz参照)、Z軸に垂直な方向、例えば、X軸方向およびY軸方向において最大値をとる(一点鎖線52−1nx、52−1ny参照)。第2基材20bの屈折率は、Z軸方向において最小値をとり(破線52−2nz参照)、X軸方向、Y軸方向において最大値をとる(二点鎖線52−2nx、52−2ny参照)
図2とは各線の定義が異なっているので留意されたい。第1微小光学部材31の屈折率53は、基材20aのZ軸方向の屈折率52−1nzよりもX軸方向およびY軸方向の屈折率52−1nx、52−1nyに近い値に設定されている。第1微小光学部材31の屈折率53は、基材20bのZ軸方向の屈折率52−2nzよりもX軸方向およびY軸方向の屈折率52−2nx、52−2nyに近い値に設定されている。
【0076】
図16では、同一の熱可塑性樹脂から延伸倍率を異ならせてXY方向に二軸延伸し第1基材20aおよび第2基材20bを形成した場合を想定している。第1基材20aよりも第2基材20bの方が延伸倍率が高くなっているため、屈折率の取り得る範囲(各基材のX軸およびY軸方向の屈折率に対応する曲線とZ軸方向の屈折率に対応する曲線との間の数値範囲)は、第1記載20aよりも第2基材20bの方が広くなっている。
なお、各波長に対する所望の光偏向の度合が実現できれば、第1微小光学部材31と第1基材20aと第2基材20bとにおける屈折率の値は特に限定されない。
【0077】
図16において、波長λ5の光に対しては、第1微小光学部材31の屈折率53と、基材20aのX軸およびY軸方向の屈折率52−1nx、52−1nyとは等しく(当該屈折率をn5とする)、第2基材20bのX軸およびY軸方向の屈折率52−2nx、52−2nyはn5よりも大きく、基材20aおよび基材20bのZ軸方向の屈折率52−1nz、52−2nzはn5よりも小さい設定になっている。一方、波長λ6の光に対しては、第1微小光学部材31の屈折率53と、基材20bのX軸およびY軸方向の屈折率52−2nx、52−2nyとは等しく(当該屈折率をn6とする)、第1基材20aのX軸およびY軸方向の屈折率52−1nx、52−1nyはn6よりも大きく、基材20aおよび基材20bのZ軸方向の屈折率52−1nz、52−2nzはn6よりも小さい設定になっている。
【0078】
この場合、第1微小光学部材31の屈折率53と、基材20aのX軸およびY軸方向との屈折率52−1nx、52−1nyとの差に着目すると、波長λ5の光に対する場合は、波長λ6の光に対する場合と比べて小さい。従って、第1微小光学部材31は、波長λ6の光に比べて、波長λ5の光をより強くZ軸方向に近付くように偏向する。
【0079】
一方、第1微小光学部材31の屈折率53と、基材20bのX軸およびY軸方向との屈折率52−1nx、52−1nyとの差が、波長λ6の光に対する場合は、波長λ5の光に対する場合と比べて小さい。従って、第1微小光学部材31は、波長λ5の光に比べて、波長λ6の光をより強くZ軸方向に近付くように偏向する。
【0080】
本実施形態の光偏向素子10cは、屈折率の波長依存性が異なる第1基材20aと第2基材20bとを備える。これにより、1種類の基材20と1種類の微小光学部材30とで構成される光偏向素子に比べて、光の偏向の波長依存をより小さくすることができるので、入射光71aおよび71bに対する出射光72a、72bの色の変化をより小さくすることができる。
【0081】
(光偏向素子10cの製造方法について)
図17は、光偏向素子10cを製造する流れを示すフローチャートである。Z軸に関して軸対称の屈折率を有し、Z軸方向の屈折率がX軸方向およびY軸方向の屈折率より小さい第1基材20aおよび第2基材20b(
図16参照)は、正の固有複屈折をもった配向複屈折を有する材料をX軸およびY軸に二軸延伸することで好適に作成される。
なお、基材20a、20bに必要な屈折率の異方性に応じて、延伸の方向、延伸倍率を適宜調節し、電界成分の振動方向について様々な屈折率の分布をもった基材20a、20bを実現することができる。また、適宜一軸延伸や、ローラにより押しつぶして延伸する方法を用いてもよい。
【0082】
ステップS2001において、ジェットミル等の粉砕機により、第1微小光学部材31の原料となるガラス材料を破砕し、ガラス粒子を作成する。破砕後のガラス粒子は、粒子の大きさについて、入射する光の波長をλとしたときに円相当径が0.1λ〜10λとなるものを含むように適宜調節される。ガラス粒子が作成されたら、ステップS2003に進む。ステップS2003において、ステップS2001で作成されたガラス粒子について、気流分級機等の分級装置により、ガラス粒子を分級し、円相当径が0.1λ〜10λとなるガラス粒子を取り出す。ステップS2003が終わったら、ステップS2005に進む。
【0083】
ステップS2005において、ステップS2003で得られたガラス粒子の表面を処理する。例えば、ヘンシェルミキサーを用いてガラス粒子とシランカップリング剤とを混合して撹拌し、ガラス粒子の表面にシランカップリング処理を行うことにより、樹脂とガラス粒子との密着性を向上させてもよい。表面処理が終わったら、ステップS2007に進む。ステップS2007において、二軸混練装置等の混練装置により、ステップS2005で得られたガラス粒子を、基材20aおよび基材20bの原料である熱可塑性樹脂を溶融したものに所定の量混練する。ステップS2007が終了したら、ステップS2009に進む。
なお、ステップS2005における表面処理は、適宜省略してもよい。また、第1基材20a、第2基材20bの原料である熱可塑性樹脂は、延伸前に複屈折を示していないものを用いることも好ましい。これにより、延伸時における各方向の屈折率の調整が比較的容易になる。さらに、熱可塑性樹脂に対し、原料となるモノマー等の段階すなわち重合前の段階でガラス粒子を混練し、重合させた後に延伸することもできる。
【0084】
ステップS2009において、単層押し出し装置等の押出機により、ガラス粒子が混練された熱可塑性樹脂の複数のシートを成型する。ステップS2009が終了したら、ステップS2011に進む。ステップS2011において、延伸機により、所定の温度でステップS2011で成型した複数の熱可塑性樹脂のシートがそれぞれ異なる延伸倍率で二軸延伸される。
【0085】
図18は、基材20aおよび基材20bの延伸倍率を決定する方法を説明するための図である。図中、左上のグラフは、所定の波長の光について、第1微小光学部材31が第1基材20a(延伸倍率2倍)に分散された場合の、粒子半径に対するミー散乱の散乱断面積の理論値を示すグラフである。図中、右上のグラフは、所定の波長の光について、第1微小光学部材31が基材20b(延伸倍率3倍)に分散された場合の、粒子半径に対するミー散乱の散乱断面積の理論値を示すグラフである。左上のグラフと右上のグラフとでは、一部の波長域で波長の変化に対して散乱断面積が逆方向に変化している。
【0086】
様々な延伸倍率の基材について検討し、第1基材20aに関する散乱断面積のデータと第2基材20bに関する散乱断面積のデータとを第1基材20aおよび第2基材20bにおける第1微小光学部材31の密度により重み付け平均をとり、
図18中、下のグラフのように散乱断面積に波長依存性が少なくなるような延伸倍率が算出される。上記割合の算出では、製造する光偏向素子の用途に応じて適宜入射角や電界の振動方向等について適切な光を想定して最適化することが好ましい。求めた延伸倍率で熱可塑性樹脂が延伸され、第1基材20a第2基材20bとが形成される。熱可塑性樹脂が延伸され、光偏向素子10cが成型されたら、ステップS2013に進む。
なお、延伸倍率の調整に加え、第1の層15と第2の層16との厚さを調整してもよい。
【0087】
ステップS2013において、ステップS2013で延伸した複数のシートを積層等して、光の透過方向に対して直列に配置し、光偏向素子10cを成型する。ステップS2013が終了したら、ステップS2015に進む。ステップS2015において、ステップS2013で得られた光偏向素子10cの光学特性等を実験により確認する。光偏向素子10cに適宜所定の方向の偏光成分を有する光を照射し、光強度等を検出し、光強度分布を作成する等して評価する。光学特性が評価されたら、処理を終了する。
なお、製造条件が安定している場合は、光学特性の評価ステップは省略することも可能である。
【0088】
上述の第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態により得られる作用効果の他に、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の光偏向素子10cは、第1微小光学部材31と第1基材20aに加え、さらなる光学要素として、第1微小光学部材31が分散された第2基材20bを備え、第2基材20bは、波長λ6等の光に対し第1基材20aの屈折率とは異なる屈折率を有し、第1基材20aと第2基材20bとが光の透過方向に対して直列に配置されている。これにより、光偏向素子10cに入射する複数の波長の光について、波長による偏向の度合の違いを少なくすることができ、入射光の色合いと出射光の色合いが大きく変化することを防ぐことができる。また、適宜色合いの調整を行うことができる。
【0089】
(2)本実施形態の光偏向素子10cにおいて、第1基材20aに分散された第1微小光学部材31の光学特性と、第2基材20bに分散された微小光学部材の光学特性とは等しい。これにより、光学特性の異なる複数の微小光学部材を製造することなく、波長による偏向の度合の違いを少なくすることができる。
【0090】
(3)本実施形態の光偏向素子10cにおいて、第1基材20aおよび/または第2基材20bは、PET等のナフタレン環またはベンゼン環を含む熱可塑性樹脂とすることができる。これにより、延伸倍率を異ならせることにより、出射光の色合いの調整をより柔軟に行うことができる。
【0091】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。特に、光偏向素子10,10a,10b,10c等は、光学特性が異なる三種類以上の微小光学部材30および/または三種類以上の基材20を備えることができる。また、各光偏向素子10,10a,10b,10c等を複数組み合わせて構成することもできる。