(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809095
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20201221BHJP
F27D 15/00 20060101ALI20201221BHJP
F27D 15/02 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
C04B5/00 C
F27D15/00 A
F27D15/02 B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-192149(P2016-192149)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-52779(P2018-52779A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 宏
(72)【発明者】
【氏名】三條 翔太
(72)【発明者】
【氏名】竹田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】加地 伸行
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−124095(JP,A)
【文献】
河原 正泰, 小森 慎太郎,銅スラグからの重金属の溶出性,Journal of MMIJ,2013年,129 巻 5 号 ,p. 192-196,URL,https://doi.org/10.2473/journalofmmij.129.192
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02, C04B40/00−40/06, C04B103/00−111/94
F27D 15/00
F27D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅製錬によって銅を製造するときに生成する副産物である溶融スラグであり、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグを、
大気圧雰囲気下で、900℃以上の温度、20秒以上30分未満の時間で熱処理する工程を含み、
前記熱処理後に得られるスラグは、JISK0058−2に準じて測定されるAs及びPbの溶出量が150mg/kg未満である
スラグの製造方法。
【請求項2】
前記スラグは、Pbを0.01質量%以上0.2質量%以下、Asを0.01質量%以上0.2質量%以下の割合で含有する
請求項1に記載のスラグの製造方法。
【請求項3】
前記スラグは、Feを35質量%以上45質量%以下の割合で含有する
請求項1又は2に記載のスラグの製造方法。
【請求項4】
前記スラグは、さらにCaOを1.0質量%以上6.0質量%以下の割合で含む
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスラグの製造方法。
【請求項5】
前記スラグは、水砕されたものである
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグの製造方法に関するものであり、より詳しくは、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグから、その不純物の溶出を有効に抑制したスラグを効率的に得るスラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートに配合される細骨材としては、従来、海砂や川砂、砂利等が用いられてきたが、天然資源であるこれらの砂は、環境保護の観点から採取量の削減や禁止の動きが強化されてきている。
【0003】
このような背景から、非鉄金属製錬、例えば銅の乾式製錬において副生成するスラグについて、コンクリート用細骨材としての適用がJIS A5011−3として規格化され、安定的に供給可能なことから天然資源の各種砂からの代替の動きが加速している。
【0004】
ところが、スラグを適用するにあたっては、平成15年環境省告示第19号に規定される有害物質の含有量試験(JIS K0058−2:2005)、及び平成3年環境庁告示第46号に規定される有害物質の溶出量試験(JIS K0058−1:2005)の結果に基づいて、土壌汚染に関する基準を満たすことが求められている。特に、平成15年環境省告示第19号に規定される有害物質の含有量試験(JIS K0058−2:2005)に基づく基準では、その規制が強化されており、As(砒素)、Pb(鉛)の溶出量については、可能な限り低減させることが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1、非特許文献1においては、上述した有害物質の含有量試験及び有害物質の溶出量試験の両方において、スラグからのAs及びPbの溶出量を抑えたスラグを安定的に製造する技術が示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献に記載の技術は、スラグを500℃〜800℃の温度で加熱するというものであるが、30分以上の時間を要することが記載されており、そのため大量のスラグを処理するにあたってかなりの長時間が必要となる。
【0007】
銅製錬のプロセス等から生成するスラグは大量であり、大量のスラグを短時間で処理して、As及びPbの溶出量を抑えたスラグを効率的に製造する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−124095号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】河原正泰、小森慎太郎、「銅スラグからの重金属の溶出性」、Jounal of The Mining and Materials Processing Institute of Japan、 Vol. 129(2013) p192−196
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、As及びPbを不純物として含有するスラグにおいて、その不純物の溶出の少ないスラグを短時間の処理で効率的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、スラグに対して、大気圧雰囲気下で、900℃以上の温度、20秒以上30分未満の時間で熱処理を施すことで、効率的な操作で、As及びPbの溶出量を有効に抑制したスラグを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、Fe及びSiを主成分とし、As及びPbを不純物として含有するスラグを、大気圧雰囲気下で、900℃以上の温度、20秒以上30分未満の時間で熱処理する工程を含み、前記熱処理後に得られるスラグは、JISK0058−2に準じて測定されるAs及びPbの溶出量が150mg/kg未満である、スラグの製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記スラグは、Pbを0.01質量%以上0.2質量%以下、Asを0.01質量%以上0.2質量%以下の割合で含有する、スラグの製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記スラグは、Feを35質量%以上45質量%以下の割合で含有する、スラグの製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記スラグは、さらにCaOを1.0質量%以上6.0質量%以下の割合で含む、スラグの製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記スラグは、水砕されたものである、スラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、As及びPbを不純物として含有するスラグにおいて、その不純物の溶出の少ないスラグを短時間の処理で効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0019】
本実施の形態に係るスラグの製造方法は、銅の乾式製錬等の非鉄金属製錬のプロセスにて副産物として生成されるスラグであって、Fe及びSiを主成分とし、さらにAs及びPbを不純物として含有するスラグから、それらAs及びPbの溶出量を抑制したスラグを製造する方法である。
【0020】
主成分とは、スラグ中の含有割合が51質量%以上のものをいう。Fe及びSiを主成分とするスラグでは、主成分の含有割合とは、Fe及びSiの合計含有割合をいう。
【0021】
具体的に、このスラグの製造方法は、Fe及びSiを主成分とし、かつAs及びPbを不純物として含有するスラグに対して、大気圧雰囲気下で、900℃以上の温度、20秒以上30分未満の時間で熱処理する工程を含むことを特徴としている。このような方法により得られる熱処理後のスラグにおいては、JISK0058−2に準じて測定されるAs及びPbの溶出量が150mg/kg未満となる。このように、本実施の形態に係るスラグの製造方法によれば、30分未満の極めて短い時間で、As及びPbの溶出量を抑制したスラグを安定的に製造することができる。
【0022】
(原料のスラグ)
原料のスラグは、上述せいたように、Fe及びSiを主成分とし、さらにAs及びPbを含むスラグである。例えば、原料スラグの組成としては、Feの含有量が35質量%〜45質量%であり、SiO
2の含有量が25質量%〜40質量%であり、不純物成分としてPbを0.01質量%〜0.2質量%、Asを0.01質量%〜0.2質量%の割合で含む。また、この原料スラグにおいては、Cuを0.5質量%〜3.0質量%、CaOを1.0質量%〜6.0質量%、及びその他の不純物として例えばAl
2O
3(アルミナ)、MgO(マグネシア)等を含んでいてもよい。
【0023】
なお、このようなスラグとしては、例えば、非鉄製錬スラグ、廃棄物溶融スラグ等が挙げられ、より具体的には、銅の製錬プロセスにて副産物として生成する銅スラグ(例えば、自溶炉スラグ、錬かん炉スラグ)が挙げられる。
【0024】
加熱処理に対象となる原料スラグとしては、水砕されたものであることが好ましい。なお、水砕されたスラグを「水砕スラグ」という。加熱処理の対象となるスラグは、重金属溶出性を抑えるために、加熱処理による表面の酸化被膜の種類や膜厚を調整し、あるいは結晶化度を調整する観点から、予め水砕された水砕スラグを用いることが好ましい。スラグを水砕する方法としては、例えば、加圧水を噴射して粒状化する方法や、スラグを水槽に注入して急冷させることで粒状化する方法等が挙げられる。
【0025】
通常、スラグは、非鉄製錬等の副産物として得られるものであり、水砕することにより、副産物であるスラグに対する冷却処理を兼ねることができ、大気中で徐冷するのに比べると冷却に要する時間を短くすることができる。また、水砕して急冷させることにより、スラグ組成をより均一にすることができる。このように、例えば製錬プロセスにて炉から取り出したスラグを使用する場合には、得られたスラグを水砕することによって、効率的に冷却し、加熱処理前のスラグを短時間で製品用途に適切な組成とすることができる。また、水砕することで、運搬しやすい粒度に効率的に調整することができる。
【0026】
(As及びPbの溶出抑制処理)
本実施の形態に係るスラグの製造方法においては、上述した原料のスラグに対して、900℃以上の温度、20秒以上30分未満の時間の条件で熱処理する。
【0027】
ここで、Fe及びSiを主成分とするスラグにおいて、微量含まれている不純物のAsやPbの溶出を抑制したスラグを得る方法として、結晶化を促進する方法がある。ところが、原料として水砕スラグを用いる場合には、この水砕処理により結晶化を促進させることは難しく、加熱及び冷却の工程が必要となる。また、スラグの表層をマグネタイトで覆うことによって溶出をバリアする層を形成する方法として、大気圧雰囲気下で500℃程度の温度に加熱する方法が知られているが、処理に長時間を要する。
【0028】
本発明者らは、900℃以上の温度条件で、かつ、20秒以上30分未満の短時間で熱処理することによって、スラグの表層のマグネタイト化と結晶性化の促進との、両方の作用を効率的に実現することができ、不純物であるAs及びPbの溶出を有効に抑えることができることを見出した。
【0029】
熱処理における温度条件について、900℃未満であると、処理に長時間を要してしまうとともに、スラグ表層のマグネタイト化を有効に促進させることができない。なお、温度の上限値としては、特に限定されないが、1500℃以下であることが好ましい。熱処理温度が1500℃を超えても、それ以上に効果の向上は期待されず、熱エネルギーが増大して効率的な処理を行うことができない。
【0030】
また、熱処理の時間条件について、20秒未満であると、熱処理が不十分となってAs及びPbの溶出を効果的に抑えることができない。一方で、30分を超えると、処理時間が長くなって非効率となるとともに、結晶化が有効に促進されず、十分に溶出を抑えることができない可能性がある。
【0031】
熱処理における加熱方法としては、特に限定されず、例えば、キルンのようなもので加熱することができ、また、バーナー等を使用して加熱してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
<原料スラグの調製>
表1に示したような組成のスラグを原料スラグとして用いた。このスラグは、銅の溶融製錬(自溶炉)によって銅を製造するときに生成した副産物の溶融スラグを、水冷却によって水砕産物(水砕スラグ)とした。なお、スラグを適切に水砕するのに必要な水量は、スラグ1t当たり10m
3〜20m
3であった。そして、水砕後のスラグに対して、篩い分けや破砕等の処理によって粒度調整加工を行い、粒径2mm以下に整粒した試験サンプルのスラグを調製した。
【0034】
【表1】
【0035】
<加熱処理>
次に、試験サンプルのスラグを、アルミナ製の坩堝に装入し、下記表2の条件に基づいて加熱処理を施した。
【0036】
<加熱処理後に得られたスラグの評価>
(平成15年環境省告示第19号(含有量試験))
JIS K0058−2に準じ、得られたスラグを粉砕して試料を得たのち、当該試料を用いて「六価クロム化合物及びシアン化合物以外の物質についての検液の調製」の項に従って検液を調製した。そして、得られた検液を用いて、JIS K0102:2008に従い、ICP−AES(発光分光分析)法によりPb、Asの濃度を測定した。下記表2に測定結果を示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2の結果に示すように、大気雰囲気下、900℃以上の温度で20秒以上30分未満の熱処理を施した実施例1〜4では、JIS K0058−2に準じて測定されるAs、Pbの溶出量が、規格値の150mg/kg未満となり、有効に溶出を抑制できた。
【0039】
一方、比較例1〜4では、熱処理温度が低いか、あるいは熱処理時間が短かったため、As、Pbの溶出量は、規格値の150mg/kgを超える値となった。
【0040】
なお、従来例1では、熱処理温度800℃で、1時間の熱処理を行った。その結果、As、Pbの溶出量は、規格値の150mg/kg未満となったものの、スラグを処理するに当たり長時間を要するという問題が生じた。