(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項7に記載のインクジェット記録用インクが、粘度3mPa・s〜20mPa・s及び表面張力20mN/m〜40mN/mの範囲に調整される工程[1]、及び、前記粘度及び表面張力の範囲に調整されたインクが、記録媒体と純水との接触時間100m秒における前記記録媒体の吸水量が10g/m2以下である記録媒体へ吐出される工程[2]、ならびに、50℃〜100℃で乾燥される工程[3]を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のインクは、ポリオレフィン(A)、尿素結合を有する化合物(B)、水性媒体(C)及び色材(D)を含有することを特徴とするものである。前記ポリオレフィン(A)、前記化合物(B)及び前記色材(D)は、溶媒である水性媒体(C)に溶解または分散した状態で存在することが好ましい。
【0014】
(ポリオレフィン(A))
前記ポリオレフィン(A)は、前記インク非吸収性または難吸収性の記録媒体に本発明のインクを印刷して得た印刷物に優れた耐磨耗性とセット性とを付与する。
【0015】
前記ポリオレフィン(A)としては、オレフィン系モノマーを主成分とするモノマーの重合体又は共重合体を使用する。前記オレフィン系モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、メチルブテン、メチルペンテン、メチルへキセン等のα−オレフィン、ノルボネン等の環状オレフィン等を使用することができる。
【0016】
前記ポリオレフィン(A)としては、酸化ポリオレフィンを使用することもできる。
【0017】
前記酸化ポリオレフィンとしては、例えば、ポリオレフィンを、熱分解や酸やアルカリ成分を用いた化学的分解などにより、分子内に酸素原子が導入されたものを使用することができる。前記酸素原子は、例えば、極性を有するカルボキシル基等を構成する。
【0018】
前記ポリオレフィン(A)としては、融点が90℃以上200℃以下であるものを使用することが好ましく、120℃以上160℃未満であるものを使用することが、より一層優れたセット性と耐磨耗性とを備えた印刷物を形成するうえでより好ましい。なお、前記ポリオレフィン(A)の融点は、JIS K 0064に準拠した融点測定装置によって測定した値を指す。
【0019】
前記ポリオレフィン(A)は、前記したとおり水性媒体(C)等の溶媒中に溶解または分散した状態で存在することが好ましく、水性媒体(C)等の溶媒中に分散したエマルジョンの状態であることがより好ましい。
【0020】
その場合、前記ポリオレフィン(A)によって形成されるポリオレフィン(A)粒子は、平均粒子径10nm〜200nmであることが好ましく、30nm〜150nmであることが、例えばインクジェット記録法で印刷する際にインクの良好な吐出性と印刷後の良好なセット性とを両立するうえでより好ましい。なお、前記ポリオレフィン(A)の平均粒子径は、日機装社製マイクロトラックUPA粒度分布計を用い、動的光散乱法で測定した値を示す。
【0021】
前記ポリオレフィン(A)の含有量は、特に限定されないが、より一層優れた耐摩耗性を備えた印刷物を形成でき、かつ、本発明のインクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる吐出安定性に優れたインクを得るうえで、前記インクの全量に対して0.1質量%〜10質量%であることが好ましく、0.5質量%〜6質量%がより好ましい。
【0022】
(尿素結合を有する化合物(B))
本発明のインクとしては、前記ポリオレフィン(A)とともに尿素結合を有する化合物(B)を組み合わせ使用する。前記化合物(B)を前記ポリオレフィン(A)と組み合わせ使用することによって、前記インク非吸収性または難吸収性の記録媒体に本発明のインクを印刷して得た印刷物に優れた耐磨耗性とセット性とを付与することができる。
【0023】
前記尿素結合を有する化合物(B)としては、尿素または尿素誘導体を使用することができる。
【0024】
前記尿素誘導体としては、例えばエチレン尿素、プロピレン尿素、ジエチル尿素、チオ尿素、N,N−ジメチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等を、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0025】
なかでも、前記化合物(B)としては、尿素、エチレン尿素または2−ヒドロキシエチル尿素を使用することが、より一層優れた耐摩耗性とセット性とを備えた印刷画像を形成するうえで特に好ましい。
【0026】
前記化合物(B)の含有量は、より一層優れた耐摩耗性を備えた印刷物を形成でき、かつ、本発明のインクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる吐出安定性や、セット性に優れたインクを得るうえで、前記インクの全量に対して1質量%〜20質量%であることが好ましく、2質量%〜15質量%であることがより好ましく、3質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
前記ポリオレフィン(A)と前記化合物(B)とは、それらの質量割合[ポリオレフィン(A)/化合物(B)]が1/6〜6/1となる範囲で使用することが好ましく、1/5〜1/1の範囲で使用することが、インクの耐摩耗性を奏するうえでより好ましい。
【0028】
また、前記尿素及び尿素誘導体は、保湿機能が高く湿潤剤として機能するため、プリンターのノズル付近におけるインクの乾燥や凝固を防止し、インクの優れた吐出性を確保することができる。一方、保湿性を有する尿素及び尿素誘導体は、加熱されると水を放出しやすいため、インク非吸収性または難吸収性の記録媒体に本発明のインクを印刷した後の加熱工程で記録媒体にセットしやすく(乾燥しやすく)、すみやかに印刷物を形成することができる。
【0029】
(水性媒体(C))
本発明のインクは、溶媒として水性媒体(C)を含有するものを使用する。
【0030】
前記水性媒体(C)としては、水を単独、または、水と後述する水溶性有機溶剤との混合溶媒を使用することができる。
【0031】
前記水としては、具体的にはイオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を使用することができる。
【0032】
前記水溶性有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールおよびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、および、トリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールや2−ブタノール等のブチルアルコール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;スルホラン;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類などを、単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0033】
また、前記水溶性有機溶剤としては、前記したものの他にインクの速乾性を高めるうえで、沸点が100℃以上200℃以下であり、かつ20℃での蒸気圧が0.5hPa以上である水溶性有機溶剤を用いることができる。
【0034】
前記範囲の沸点及び蒸気圧を有する水溶性有機溶剤としては、例えば3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン、エチルラクテート等が挙げられ、これらのものを2種以上組み合わせ使用することができる。
【0035】
前記水溶性有機溶剤のなかでも、インクの良好な分散安定性の維持や、例えばインクジェット装置が備えるインク吐出ノズルの、前記インクに含まれる溶剤の影響による劣化を抑制するうえで、HSP(ハンセン溶解度パラメータ)の水素結合項δ
Hが6〜20の範囲であるような水溶性有機溶剤を使用することが好ましい。
【0036】
前記範囲のHSPの水素結合項を有する水溶性有機溶剤としては、具体的には、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコール−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが好ましく、より好ましくは3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールである。
【0037】
水性媒体(C)としては、インクジェット記録時のインクの吐出安定性を確保するために、グリセリン、ジグリセリンおよび/またはこれらの誘導体である有機溶剤として、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ジグリセリン脂肪酸エステル、一般式(1)で表されるポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテル、一般式(2)で表されるポリオキシエチレン(n)ポリグリセリルエーテル等を使用することができる。これらのものを2種以上同時に用いてもよい。本発明においては、グリセリン及びn=8〜15のポリオキシプロピレン(n)ポリグリセリルエーテルを選択することが特に好ましい。
【0039】
一般式(1)及び一般式(2)中のm、n、o及びpは、各々独立して1〜10の整数を示す。
【0040】
前記水性媒体(C)の配合量は、インク全量に対し1質量%〜30質量%であることが好ましく、5質量%〜25質量%であることが、セット性に優れ、インクジェット方式で吐出する場合に求められる良好な吐出性を備え、鮮明な印刷物の製造に使用できるためより好ましい。
【0041】
(色材(D))
本発明で使用する色材(D)としては、公知慣用の顔料や染料等を使用することができる。なかでも、前記色材(D)としては、耐候性等に優れた印刷物を製造するうえで、顔料を使用することが好ましい。また、前記色材(D)としては、前記顔料が樹脂で被覆された着色剤を使用することもできる。
【0042】
前記顔料としては、特に限定はなく、水性グラビアインクや水性インクジェット記録用インクにおいて通常使用される有機顔料または無機顔料を使用することができる。
【0043】
また、前記顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができる。
【0044】
前記無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法またはサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラック等を使用することができる。
【0045】
前記有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等を使用することができる。
【0046】
前記顔料のうち、ブラックインクに使用可能なカーボンブラックとしては、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等を使用することができる。
【0047】
また、イエローインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0048】
また、マゼンタインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、269、282等、C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0049】
また、シアンインクに使用可能な顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0050】
また、白インクに使用可能な顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。これらは、表面処理されていてもよい。
【0051】
前記顔料は、インク中に安定に存在させるために、水性媒体(C)に良好に分散させる手段を講じてあることが好ましい。
【0052】
前記手段としては、例えば
(i)顔料を顔料分散剤と共に、後述する分散方法で水性媒体(C)中に分散させる方法
(ii)顔料の表面に分散性付与基(親水性官能基および/またはその塩)を直接またはアルキル基、アルキルエーテル基またはアリール基等を介して間接的に結合させた自己分散型顔料を水性媒体(C)に分散および/または溶解させる方法が挙げられる。
【0053】
前記自己分散型顔料としては、例えば、顔料に物理的処理または化学的処理を施し、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させたものを使用することができる。前記自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸および/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理等や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法によって製造することができる。
【0054】
自己分散型顔料を含有する水性インクは、前記顔料分散剤を含む必要がないため、顔料分散剤に起因する発泡等がほとんどなく、吐出安定性に優れたインクを調製しやすい。また、自己分散型顔料を含有する水性インクは、取り扱いが容易で、顔料分散剤に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物の製造に使用することができる。
【0055】
自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能であり、そのような市販品としては、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キヤボット社製)が挙げられる。
【0056】
前記色材(D)としては、前記インクの全量に対して1質量%〜20質量%の範囲で使用することが好ましく、2質量%〜10質量%の範囲で使用することが、インク中における前記顔料等の色材(D)の分散安定性をより一層向上させるうえで好ましい。
【0057】
(顔料分散剤)
前記顔料分散剤は、前記色材(D)として顔料を使用する場合に、好適に使用することができる。
【0058】
前記顔料分散剤としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、前記水性樹脂の塩を使用することができる。前記顔料分散剤としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BASF社製のEFKAシリーズ、日本ルーブリゾール株式会社製のSOLSPERSEシリーズ、エボニック社製のTEGOシリーズ等を使用することができる。
【0059】
前記顔料分散剤としては、粗大粒子を著しく低減でき、その結果、本発明のインクをインクジェット方式で吐出する場合に求められる良好な吐出性を付与するうえで、後述するポリマー(E)を使用することが好ましい。
【0060】
前記ポリマー(E)としては、アニオン性基を有するものを使用することができ、なかでも、水への溶解度が0.1g/100ml以下であり、かつ、前記アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成可能な、数平均分子量が1000〜6000の範囲内のポリマーを使用することが好ましい。
【0061】
前記ポリマー(E)の水への溶解度は、次のように定義した。すなわち、目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー(E)0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mlに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間浸漬後、ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。ポリマー(E)を封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
【0063】
また、本発明において、アニオン性基の塩基性化合物による中和率を100%にしたときに水中で微粒子を形成するか否かは、次のように判断した。
(1)ポリマー(E)の酸価を予め、JIS試験方法K 0070−1992に基づく酸価測定方法により測定する。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー(E)0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定し酸価を求める。
(2)水50mlに対して、ポリマー(E)を1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とする。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後24時間室温で放置する。
【0064】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認する。
【0065】
本発明で使用するポリマー(E)が形成する微粒子の水中で安定をより一層向上させるために、前記微粒子の粒子径は、5nm〜1000nmの範囲であることが好ましく、7nm〜700nmの範囲であることがより好ましく、10nm〜500nmの範囲であることが最も好ましい。また、前記微粒子の粒度分布は、狭いほうがより分散安定性に優れる傾向にあるが、粒度分布が広い場合であっても、従来よりも優れた分散安定性を備えたインクを得ることができる。なお、前記粒子径及び粒度分布は、前記微粒子の測定方法と同様に、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い測定した。
【0066】
本発明で使用するポリマー(E)の中和率は、以下の式により決定した。
【0068】
また、前記ポリマー(E)の酸価は、JIS試験方法K 0070−1992に基づいて測定した。具体的には、テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
【0069】
(ポリマー(E) 数平均分子量)
前記ポリマー(E)の数平均分子量は1000〜6000の範囲のものを使用することが好ましく、1300〜5000であることがより好ましく、1500〜4500であることが、水性媒体(C)中における顔料等の色材(D)の凝集等を効果的に抑制でき、前記色材(D)の良好な分散安定性を備えたインクを得るうえでより好ましい。
【0070】
なお、前記数平均分子量は、GPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィー)によって測定されるポリスチレン換算の値とし、具体的には以下の条件で測定した値とする。
【0071】
(数平均分子量(Mn)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
【0072】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
【0073】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0074】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0075】
(表面張力)
前記ポリマー(E)としては、それを含む水性樹脂分散体の表面張力が30dyn/cm以上であることが好ましく、40dyn/cm以上であることがより好ましく、水の表面張力に近い65dyn/cm〜75dyn/cmであるものを使用することが特に好ましい。なお、前記表面張力は、ポリマー(E)1gを水に添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和したポリマー溶液について測定した値である。
【0076】
前記ポリマー(E)としては、水に対し、未中和の状態では不溶もしくは難溶性であり、且つ100%中和された状態では微粒子を形成するポリマーを使用することができ、親水性基であるアニオン性基のほかに疎水性基を1分子中に有するポリマーであるならば、特に限定はされない。
【0077】
このようなポリマーとして、疎水性基を有するポリマーブロックとアニオン性基を有するポリマーブロックとを有するブロックポリマーがあげられる。ポリマー(E)において、前記アニオン性基の数と水への溶解度は、必ずしも酸価や、ポリマー設計時のアニオン性基の数で特定されるものではなく、例えば同一の酸価を有するポリマーであっても、分子量の低いものは水への溶解度が高くなる傾向にあり、分子量の高いものは水への溶解度は下がる傾向にある。このことから、本発明においては、ポリマー(E)を水への溶解度で特定している。
【0078】
前記ポリマー(E)は、ホモポリマーでも良いが、共重合体であることが好ましく、ランダムポリマーであってもブロックポリマーであっても、交互ポリマーであっても良いが、なかでもブロックポリマーであることが好ましい。また、ポリマーは分岐ポリマーであっても良いが、直鎖ポリマーであることが好ましい。
【0079】
また、前記ポリマー(E)は設計の自由度からビニルポリマーであることが好ましく、本発明において所望される分子量や、溶解度特性を有するビニルポリマーを製造する方法としては、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合といった、「リビング重合」を用いることにより製造することが好ましい。
【0080】
なかでも、前記ポリマー(E)は(メタ)アクリレートモノマーを原料の1つとして用い製造されるビニルポリマーであることが好ましく、そのようなビニルポリマーの製造方法としては、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合が好ましく、さらにブロックポリマーの分子量や各セグメントをより精密に設計できる観点からリビングアニオン重合が好ましい。
【0081】
(リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマー(E))
リビングアニオン重合によって製造される前記ポリマー(E)は、具体的には、一般式(3)で表されるポリマーである。
【0083】
一般式(3)中、A
1は有機リチウム開始剤残基を表し、A
2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックを表し、A
3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表し、nは1〜5の整数を表し、Bは芳香族基またはアルキル基を表す。
【0084】
一般式(3)中、A
1は有機リチウム開始剤残基を表す。有機リチウム開始剤として具体的にはメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム(n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムなど)、ペンチルリチウム、へキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトシキメチルリチウムなどのアルキルリチウム;ベンジルリチウム、α−メチルスチリルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、フェニルエチルリチウムなどのフェニルアルキレンリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウムなどのアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウムなどのアルキニルリチウム;フェニルリチウム、ナフチルリチウムなどのアリールリチウム;2−チエニルリチウム、4−ピリジルリチウム、2−キノリルリチウムなどのヘテロ環リチウム;トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウム、トリメチルマグネシウムリチウムなどのアルキルリチウムマグネシウム錯体などが挙げられる。
【0085】
有機リチウム開始剤は、有機基とリチウムとの結合が開裂し有機基側に活性末端が生じ、そこから重合が開始される。従って得られるポリマー末端には有機リチウム由来の有機基が結合している。本発明においては、該ポリマー末端に結合した有機リチウム由来の有機基を、有機リチウム開始剤残基と称する。例えばメチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はメチル基となり、ブチルリチウムを開始剤として使用したポリマーであれば、有機リチウム開始剤酸基はブチル基となる。
【0086】
前記一般式(3)中、A
2は疎水性基を有するポリマーブロックを表す。A
2は、前述の通り適度な溶解性のバランスのバランスを取る目的の他、顔料と接触したときに顔料への吸着の高い基であることが好ましく、その観点から、A
2は芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックであることが好ましい。
芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロックとは、具体的には、スチレン系モノマー等の芳香族環を有するモノマーや、ビニルピリジン系モノマー等の複素環を有するモノマーを単独重合または共重合して得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロックである。
【0087】
芳香環を有するモノマーとしては、スチレン、p−tert−ブチルジメチルシロキシスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、m−tert−ブトキシスチレン、p−tert−(1−エトキシメチル)スチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、p−フロロスチレン、α−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン、などのスチレン系モノマーや、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどがあげられる。
【0088】
また、複素環を有するモノマーとしては、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジンなどのビニルピリジン系モノマーがあげられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0089】
前記一般式(3)中、A
3はアニオン性基を含むポリマーブロックを表す。A
3は、前述の通り適度な溶解性を与える目的の他、顔料分散体となったときに水中で分散安定性を付与する目的がある。
前記ポリマーブロックA
3におけるアニオン性基は、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基または燐酸基等があげられる。なかでも、カルボキシル基がその調製やモノマー品種の豊富さ入手し易さから好ましい。また2つのカルボキシル基が分子内または分子間において脱水縮合した酸無水基となっていてもよい。
【0090】
前記A
3のアニオン性基の導入方法は特に限定はなく、例えば該アニオン性基がカルボキシル基の場合は、(メタ)アクリル酸を単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーのポリマーブロック(PB1)であってもよいし、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを単独重合もしくは他のモノマーと共重合させて得たホモポリマーまたはコポリマーの、該アニオン性基に再生可能な保護基の一部または全てがアニオン性基に再生されたポリマーブロック(PB2)であってもよい。
【0091】
なお、前記ポリマーブロックA
3で使用する(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートとの総称を表す。
【0092】
(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレートとして具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸iso−プロピル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸iso−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸iso−アミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ラウリル、(メタ)アクリル酸n−トリデシル、(メタ)アクリル酸n−ステアリル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタジエニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸ペンタフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸オクタフルオロペンチル、(メタ)アクリル酸ペンタデカフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール−ポリブチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリアルキレンオキサイド基含有(メタ)アクリレート等があげられる。これらのモノマーは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0093】
リビングアニオン重合法においては、使用するモノマーがアニオン性基等の活性プロトンを持つ基を有するモノマーの場合、リビングアニオン重合ポリマーの活性末端が直ちにこれら活性プロトンを持つ基と反応し失活するため、ポリマーが得られない。リビングアニオン重合では活性プロトンを持つ基を有するモノマーをそのまま重合することは困難であるため、活性プロトンを持つ基を保護した状態で重合し、その後、保護基を脱保護することで活性プロトンを持つ基を再生することが好ましい。
【0094】
このような理由から、前記ポリマーブロックA
3においては、脱保護をすることによりアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。該モノマーを使用することで、重合時には前述の重合の阻害を防止できる。また保護基により保護されたアニオン性基は、ブロックポリマーを得た後に脱保護することにより、アニオン性基に再生することが可能である。
【0095】
例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、カルボキシル基をエステル化し、後工程として加水分解等で脱保護することによりカルボキシル基を再生することができる。この場合のカルボキシル基に変換可能な保護基としてはエステル結合を有する基が好ましく、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基;イソプロポキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基;t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基;ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基;エトキシエチルカルボニル基等のアルコキシアルキルカルボニル基などが挙げられる。
【0096】
アニオン性基がカルボキシル基の場合、使用できるモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、トリデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコサニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のフェニルアルキレン(メタ)アクリレート;エトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの(メタ)アクリレートは、1種で用いることも2種以上併用することもできる。また、これらの(メタ)アクリレートの中でも、t−ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートを用いると、カルボキシル基への変換反応が容易であることから好ましい。また、工業的に入手のしやすさを考慮すると、t−ブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0097】
一般式(3)中、Bは芳香族基または炭素原子数1〜10のアルキル基を表す。またnは1〜5の整数を表す。
【0098】
リビングアニオン重合法においては、(メタ)アクリレートモノマーを求核性の強いスチレン系ポリマーの活性末端に直接重合しようとした場合、カルボニル炭素への求核攻撃により、ポリマー化できない場合がある。このため、前記A
1−A
2に(メタ)アクリレートモノマーの重合を行う際には反応調整剤を使用し、求核性を調整した後、(メタ)アクリレートモノマーを重合することが行われる。一般式(3)におけるBは該反応調整剤に由来する基である。反応調整剤としては、具体的にはジフェニルエチレンやα−メチルスチレン、p−メチル−α−メチルスチレン等があげられる。
【0099】
(マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合)
リビングアニオン重合法は、反応条件を整えることにより、従来のフリーラジカル重合で用いられるようなバッチ方式により実施できる他、マイクロリアクターによる連続的に重合する方法を挙げることもできる。マイクロリアクターは、重合開始剤とモノマーの混合性が良好であるため、反応が同時に開始し、温度が均一で重合速度を揃えることができるため、製造される重合体の分子量分布を狭くできる。また同時に、成長末端が安定であるためブロックの両成分が混じりあわないブロック共重合体を製造することが容易になる。また、反応温度の制御性が良好であるため副反応を抑えることが容易である。
【0100】
マイクロリアクターを使用したリビングアニオン重合の一般的な方法を、マイクロリアクターの模式図である
図1を参照しながら説明する。
第一のモノマーと重合を開始させる重合開始剤とを、それぞれチューブリアクターP1及びP2(
図1中7及び8)から、複数の液体を混合可能な流路を備えるT字型マイクロミキサーM1(
図1中1)に導入し、T字型マイクロミキサーM1内で、第一のモノマーをリビングアニオン重合し第一の重合体を形成する(工程1)。
【0101】
次に、得られた第一の重合体をT字型マイクロミキサーM2(
図1中2)に移動させ、同ミキサーM2内で、得られた重合体の成長末端を、チューブリアクターP3(
図1中9)から導入された反応調整剤によりトラップし、反応調節を行う(工程2)。
なお、このとき反応調整剤の種類や使用量により、前記一般式(3)におけるnの数をコントロールすることが可能である。
【0102】
次に、前記T字型マイクロミキサーM2内の反応調節を行った第一の重合体を、T字型マイクロミキサーM3(
図1中3)に移動させ、同ミキサーM3内で、チューブリアクターP4から導入された第二のモノマーと、前記反応調節を行った第一の重合体とを、連続的にリビングアニオン重合を行う(工程3)。
【0103】
その後メタノール等活性プロトンを有する化合物で反応をクエンチすることで、ブロック共重合体を製造する。
【0104】
本発明の一般式(3)で表されるポリマー(E)を、前記マイクロリアクターで製造する場合は、前記第一のモノマーとして芳香環または複素環を有するモノマーを使用し、前記開始剤として有機リチウム開始剤により反応させることで、前記A
2の芳香環または複素環を有するモノマーのポリマーブロック(該ポリマーブロックA
2の片末端には前記A
1の有機リチウム開始剤残基である有機基が結合している)を得る。
次に、反応調整剤を使用して成長末端の反応性を調整した後、前記アニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを前記第二のモノマーとして反応させポリマーブロックを得る。
【0105】
この後、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生することにより、前記A
3即ちアニオン性基を含むポリマーブロックが得られる。
【0106】
前記アニオン性基に再生可能な保護基のエステル結合を、加水分解等の脱保護反応によりアニオン性基に再生させる方法を詳細に述べる。
【0107】
エステル結合の加水分解反応は、酸性条件下でも塩基性条件下でも進行するが、エステル結合を有する基によって条件がやや異なる。例えばエステル結合を有する基がメトキシカルボニル基等の第1級アルコキシカルボニル基又はイソプロポキシカルボニル基等の第2級アルコキシカルボニル基の場合は、塩基性条件下で加水分解を行うことでカルボキシル基を得ることができる。この際、塩基性条件下とする塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の金属水酸化物などが挙げられる。
【0108】
また、エステル結合を有する基が、t−ブトキシカルボニル基等の第3級アルコキシカルボニル基の場合は、酸性条件下で加水分解を行うことにより、カルボキシル基を得ることができる。この際、酸性条件下とする酸性化合物としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸等の鉱酸;トリフルオロ酢酸等のブレステッド酸;トリメチルシリルトリフラート等のルイス酸などが挙げられる。t−ブトキシカルボニル基の酸性条件下で加水分解の反応条件については、例えば、「日本化学会編第5版 実験化学講座16 有機化合物の合成IV」に開示されている。
【0109】
さらに、t−ブトキシカルボニル基をカルボキシル基に変換する方法として、上記の酸に代えて、陽イオン交換樹脂を用いた方法も挙げられる。前記陽イオン交換樹脂としては、例えば、ポリマー鎖の側鎖にカルボキシル基(−COOH)、スルホ基(−SO
3H)等の酸基を有する樹脂が挙げられる。これらの中でも、当該樹脂の側鎖にスルホ基を有する強酸性を示す陽イオン交換樹脂が、反応の進行を速くできることから好ましい。本発明で使用できる陽イオン交換樹脂の市販品としては、例えば、オルガノ株式会社製強酸性陽イオン交換樹脂「アンバーライト」等が挙げられる。この陽イオン交換樹脂の使用量は、効果的に加水分解できることから、前記一般式(3)で表されるポリマー100質量部に対し、5質量部〜200質量部の範囲が好ましく、10質量部〜100質量部の範囲がより好ましい。
【0110】
また、エステル結合を有する基が、ベンジルオキシカルボニル基等のフェニルアルコキシカルボニル基の場合は、水素化還元反応を行うことにより、カルボキシル基に変換できる。この際、反応条件としては、室温下、酢酸パラジウム等のパラジウム触媒の存在下で、水素ガスを還元剤として用いて反応させることにより定量的にフェニルアルコキシカルボニル基をカルボキシル基に再生できる。
【0111】
上記のように、エステル結合を有する基の種類によってカルボキシル基への変換の際の反応条件が異なるため、例えばA
3の原料としてt−ブチル(メタ)アクリレートとn−ブチル(メタ)アクリレートを用い共重合して得られたポリマーは、t−ブトキシカルボニル基とn−ブトキシカルボニル基とを有することになる。ここで、t−ブトキシカルボニル基が加水分解する酸性条件下では、n−ブトキシカルボニル基は加水分解しないことから、t−ブトキシカルボニル基のみを選択的に加水分解してカルボキシル基へ脱保護が可能となる。したがって、A
3の原料モノマーであるアニオン性基に再生可能な保護基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマーを適宜選択することにより親水ブロック(A
3)の酸価の調整が可能となる。
【0112】
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(E)において、ポリマーブロック(A
2)とポリマーブロック(A
3)は、明確に分離されている方が、得られる水性顔料分散体の安定性において有利である。ポリマーブロック(A
2)とポリマーブロック(A
3)のモル比A
2:A
3は、100:10〜100:500の範囲であることが好ましく、A
2:A
3=100:10〜100:450であることが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出性を維持することができ、かつ、より一層、発色性などに優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえでより好ましい。
【0113】
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(E)において、ポリマーブロック(A
2)を構成する芳香環または複素環を有するモノマー数は5〜40の範囲が好ましく、6〜30の範囲がなお好ましく、7〜25の範囲が最も好ましい。またポリマーブロック(A
3)を構成するアニオン性基の数は、3〜20の範囲が好ましく、4〜17の範囲がなお好ましく、5〜15の範囲が最も好ましい。
前記ポリマーブロック(A
2)とポリマーブロック(A
3)のモル比A
2:A
3を、ポリマーブロック(A
2)を構成する芳香環または複素環を有するモル数と、(A
3)を構成するアニオン性基のモル数のモル比で表した場合は100:7.5〜100:400が好ましい。
【0114】
また、前記一般式(3)で表されるポリマー(E)の酸価は40mgKOH/g〜400mgKOH/gが好ましく、40mgKOH/g〜300mgKOH/gでより好ましく、40mgKOH/g〜190mgKOH/gであることが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出性を維持することができ、かつ、より一層耐磨耗性等に優れた印刷物を製造可能なインクを得るうえでより好ましい。
【0115】
なお、本発明におけるポリマーの酸価は、前記ポリマー(E)の微粒子の測定方法と同様の酸価測定方法による酸価とした。
【0116】
(中和剤 塩基性化合物)
本発明のインクジェット記録用インクにおいて、前記ポリマー(E)のアニオン性基は中和されていることが好ましい。
【0117】
前記ポリマー(E)のアニオン性基を中和する塩基性化合物としては、公知慣用のものがいずれも使用出来、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物等の無機塩基性物質や、アンモニア、トリエチルアミン、アルカノールアミンの様な有機塩基性化合物を用いることが出来る。
本発明においては、水性顔料分散体中に存在する前記ポリマー(E)の中和量は、ポリマーの酸価に対して100%中和されている必要はない。具体的には、前記ポリマー(E)の中和率が20%〜200%になるように中和されることが好ましく、80%〜150%がなお好ましい。
【0118】
(その他添加剤)
本発明のインクは、前記成分のほかに必要に応じて、前記ポリオレフィン(A)以外のバインダー樹脂、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を含有するものを使用することができる。
【0119】
前記その他のバインダー樹脂としては、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を1種もしくは数種併用して使用することができる。なかでも、アクリル系樹脂を使用することが好ましく、再分散性に優れたインクを得るうえでアミド基を有するアクリル系樹脂を使用することが好ましい。
【0120】
前記アクリル系樹脂として、アミド基を有するアクリル系単量体及び必要に応じてその他の単量体の重合体を使用することができる。
【0121】
前記アミド基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0122】
前記アミド基を有するアクリル系単量体は、前記アクリル樹脂の製造に使用する単量体の全量に対し5質量%以下の範囲で使用することが好ましい。具体的には、前記アミド基を有するアクリル系単量体は、単量体全量に対し0.5質量%〜5質量%で使用することが好ましく、0.5質量%〜4質量%であることがさらに好ましく、1.5質量%〜3質量%であることが、親水性と疎水性のバランスが良好であるため分散安定性に優れ、かつ、インクの再分散性(例えば、インクジェット方式でインクを吐出する場合であれば、ノズルでのインクの詰まりを防止できる性質)に優れたインクを得るうえで特に好ましい。
【0123】
前記アミド基を有するアクリル系単量体と組み合わせ使用可能なその他の単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸やそのアルカリ金属塩、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリルアマイド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアマイド等のアミド基を有するアクリル系単量体、(メタ)アクリロニトリル、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体が挙げられる。
【0124】
また、前記その他の単量体としては、アクリル系単量体と重合反応しうるエチレン性不飽和基を有する単量体を使用することができ、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸などのビニルスルホン酸化合物、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、ナフチルビニルピリジン等のビニルピリジン化合物、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0125】
前記その他の単量体としては、顔料との親和性の観点からスチレンやベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族基を有する単量体を使用することが好ましい。
【0126】
また、前記インク非吸収性または難吸収性の記録媒体へのインクの付着性をより一層向上させるうえで、前記アクリル系樹脂としては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定時の展開溶媒であるテトラヒドロフランに不溶で分子量の測定が困難な成分を含有するものを使用してもよい。
【0127】
なお、アクリル系樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる分子量測定時の展開溶媒であるテトラヒドロフランに不溶の成分は、数平均分子量が少なくとも100,000、質量平均分子量が少なくとも500,000とみなすことができる。
【0128】
前記アクリル系樹脂は、水性媒体(C)中で分散した状態にあり、各種の分散形態が挙げられ、例えばアクリル系樹脂と乳化剤と水性媒体(C)とを含有する水分散体を使用することができる。
【0129】
前記アクリル系樹脂の平均粒子径は、特に限定はないが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出性を維持するうえで小さいものを使用することが好ましい。前記平均粒子径は、例えば「日機装株式会社製「マイクロトラック粒度分析計「UPA−EX150」により測定した値が10nm〜200nmの範囲の平均粒子径であることが好ましい。
【0130】
前記アクリル系樹脂は、インク全量中、3質量%〜15質量%の範囲で使用することが好ましく、3質量%〜12質量%の範囲で使用することがより好ましく、3質量%〜9質量%の範囲で使用することが、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に求められる良好な吐出性を備え、高光沢の印刷物を製造可能なインクを得るうえで特に好ましい。
【0131】
前記任意成分に使用可能な湿潤剤は、インクの乾燥防止を目的として添加することができる。湿潤剤のインク中の含有量は3質量%〜50質量%であることが好ましい。
【0132】
湿潤剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0133】
前記任意成分に使用可能な浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。前記浸透剤の含有量は、インクの全量に対して3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、実質的に含有しないことがさらに好ましい。
【0134】
前記界面活性剤は、インクの表面張力を低下させるなどすることでインクのレベリング性を向上させるうえで使用することができる。
【0135】
前記界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0136】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0137】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。中でもアセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物が、記録媒体に対するインク液滴の接触角を低減し、良好な印刷物を得られることからより好ましい。
【0138】
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0139】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7〜20の範囲であることが好ましい。
【0140】
前記界面活性剤はインクの全質量に対し、0.001質量%〜2質量%の範囲で使用することが好ましく、0.001質量%〜1.5質量%の範囲で使用することより好ましく、0.01質量%〜1質量%の範囲で使用することが、より一層優れたセット性と耐磨耗性とを備えた印刷物を製造可能なインクを得るうえでさらに好ましい。
【0141】
(インクの製造方法)
本発明のインクは、例えばポリオレフィン(A)、尿素結合を有する化合物(B)、水性媒体(C)、色材(D)及び必要に応じて前記任意成分を混合することによって製造することができる。
【0142】
前記混合の際には、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用することができる。
【0143】
前記インクの製造方法としては、より具体的にはばポリオレフィン(A)、尿素結合を有する化合物(B)、水性媒体(C)、色材(D)及び必要に応じて前記任意成分を、一括して混合し、攪拌などすることによって製造する方法が挙げられる。
【0144】
また、前記とは別のインクの製造方法としては、例えば<1>前記ポリマー(E)等の顔料分散剤と、前記顔料等の色材(D)と必要に応じて溶媒等とを混合することで色材(D)を高濃度で含有する色材分散体aを製造する工程、<2>前記尿素結合を有する化合物(B)と必要に応じて溶媒とを混合することによって組成物bを製造する工程、<3>前記ポリオレフィン(A)と前記水性媒体(C)等とを含有する組成物cを製造する工程、ならびに、<4>前記色材分散体aと前記組成物bと前記組成物cとを混合する工程を経ることによって製造する方法が挙げられる。
【0145】
前記方法で得られたインクは、必要に応じて遠心分離処理や濾過処理を行うことが、インク中に混入した不純物を除去するうえで好ましい。
【0146】
(インクの物性)
本発明のインクとしては、32℃の粘度が、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは3.0mPa・s以上、更により好ましくは5.0mPa・s以上である。また、インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、好ましくは12mPa・s以下、より好ましくは9.0mPa・s以下、更に好ましくは7.0mPa・s以下である。前記範囲の粘度を有するインクであれば、例えばインクジェット方式でインクを吐出する際に、良好な吐出性を維持することが可能となる。
【0147】
本発明のインクのpHは、インクの保存安定性及び吐出性を向上させ、インク非吸収性または難吸収性の記録媒体に印刷した際のドット径の広がり、印字濃度、耐擦過性を向上させるうえで、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更により好ましくは8.0以上である。前記インクのpHの上限は、インクの塗布または吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出ノズル、インクの流路等)の劣化を抑制し、かつ、インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくするうえで、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更により好ましくは10.0以下である。
【0148】
(記録媒体)
本発明のインクは、複写機で一般的に使用されているコピー用紙(PPC紙)等のインク吸収性に優れた記録媒体、インクの吸収層を有する記録媒体、インクの吸収性を全く有しない非吸収性の記録媒体、または、インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体に印刷することが可能である。とりわけ、本発明のインクは、インク非吸収性または難吸収性の記録媒体に対して印刷した場合であっても、セット性や耐摩耗性に優れた印刷物を得ることができる。
【0149】
前記難吸収性の記録媒体としては、記録媒体と純水との接触時間100m秒における前記記録媒体の吸水量が10g/m
2以下である記録媒体を、本発明のインクと組み合わせ使用することが、より一層優れた耐摩耗性を備えた印刷物を得るうえで好ましい。
【0150】
なお、前記の吸水量は、自動走査吸液計(熊谷理機工業(株)社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて、純水の接触時間100msにおける転移量を測定し、100m秒の吸水量とした。測定条件を以下に示す。
【0151】
[Spiral Method]
Contact Time:0.010〜1.0(sec)
Pitch:7(mm)
Lencth per sampling:86.29(degree)
Start Radius:20(mm)
End Radius:60(mm)
Min Contact Time:10(ms)
Max Contact Time:1000(ms)
Sampling Pattern:50
Number of sampling points:19
[Square Head]
Slit Span:1(mm)
Width:5(mm)
【0152】
吸収性の記録媒体の例としては、例えば普通紙、布帛、ダンボール、木材等があげられる。また吸収層を有する記録媒体の例としては、インクジェット専用紙等があげられ、この具体例としては、例えば、株式会社ピクトリコのピクトリコプロ・フォトペーパー等が挙げられる。
【0153】
インクの吸水性の低い難吸収性の記録媒体には、印刷本紙などのアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙などが使用できる。これら難吸収性の記録媒体は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものであり、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+(坪量104.7g/m
2、接触時間100m秒における吸水量(以下の吸水量は同じ)4.9g/m
2)」、日本製紙(株)製の「オーロラコート」、UPM社製のFinesse Gloss(UPM社製、115g/m
2、吸水量3.1g/m
2)及びFiness Matt(115g/m
2、吸水量4.4g/m
2)等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。
【0154】
インクの吸収性を有しない非吸水性の記録媒体の例には、例えば食品用の包装材料に使用されているもの等を使用することができ、公知のプラスチックフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等が挙げられる。特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。またバリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをした上記フィルムでもよいし、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムを併用してもよい。
【0155】
前記プラスチックフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、1軸もしくは2軸方向に延伸されたものでも良い。さらにフィルムの表面は、未処理であってもよいが、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等、接着性を向上させるための各種処理を施したものが好ましい。
【0156】
前記プラスチックフィルムの膜厚は用途に応じて適宜変更されるが、例えば軟包装用途である場合は、柔軟性と耐久性、耐カール性を有しているものとして、膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。より好ましくは10μm〜30μmである。この具体例としては、東洋紡株式会社のパイレン、エスペット(いずれも登録商標)などが挙げられる。
【実施例】
【0157】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0158】
(ポリマー(E)の調製方法)
(合成例1)
重合開始剤としてブチルリチウム(BuLi)と第一のモノマーとしてスチレン(St)とを
図1におけるチューブリアクターP1及びP2とから、
図1におけるT字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させ重合体を形成させた。
【0159】
次に、得られた重合体を
図1におけるチューブリアクターR1を通じて
図1におけるT字型マイクロミキサーM2に移動させ、該重合体の成長末端を、
図1におけるチューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α−メチルスチレン(α−MeSt))によりトラップした。
【0160】
次いで、第二のモノマーとしてメタクリル酸tert−ブチルエステル(t−BMA)を
図1に示すチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、
図1におけるチューブリアクターR2を通じて移動させた前記重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後メタノールで反応をクエンチしてブロック共重合体(PA−1)を製造した。
【0161】
この際、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。また、マイクロリアクターに導入するモノマーおよび反応調整剤はテトラヒドロフランで溶解し、またBuLiは市販の2.6Mヘキサン溶液をヘキサンで希釈し、その希釈濃度及び導入速度により、ブロック共重合体(PA−1)のmol比を調整した。モル比は表1に示した。
【0162】
得られたブロック共重合体(PA−1)は、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解させ、反応溶液を減圧下で留去し、得られた固体を粉砕して、ポリマー(P−1)の粉体を得た。
【0163】
(ポリマーの物性値の測定方法)
得られたポリマー(P−1)の物性値は以下のように測定した。
【0164】
(数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定方法)
ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)法により、下記の条件で測定した。
【0165】
測定装置:高速GPC装置(東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」)
カラム:東ソー株式会社製の下記のカラムを直列に接続して使用した。
【0166】
「TSKgel G5000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G4000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G3000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
「TSKgel G2000」(7.8mmI.D.×30cm)×1本
検出器:RI(示差屈折計)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/分
注入量:100μL(試料濃度0.4質量%のテトラヒドロフラン溶液)
標準試料:下記の標準ポリスチレンを用いて検量線を作成した。
【0167】
(標準ポリスチレン)
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−1000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−2500」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン A−5000」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−1」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−2」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−4」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−10」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−20」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−40」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−80」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−128」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−288」
東ソー株式会社製「TSKgel 標準ポリスチレン F−550」
【0168】
(酸価の測定方法)
JIS試験方法K 0070−1992に準拠して測定した。テトラヒドロフランに試料0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定することにより求めた。
【0169】
(水への溶解度の測定方法)
目開き250μmおよび90μmの篩を用い250μm〜90μmの範囲に粒子径を整えたポリマー0.5gを、400メッシュ金網を加工した袋に封入し、水50mlに浸漬、25℃の温度下で24時間緩やかに攪拌放置した。24時間浸漬後、ポリマーを封入した400メッシュ金網を110℃に設定した乾燥機で2時間乾燥させた。ポリマーを封入した400メッシュ金網の水浸漬前後の重量の変化を測定し、次式により溶解度を算出した。
【0170】
【数3】
【0171】
(水中での微粒子形成の判断方法、および平均粒径(nm)の測定方法))
(1)ポリマーの酸価を、予めJIS試験方法K 0070−1992に基づく酸価測定方法により測定した。具体的には、テトラヒドロフランにポリマー0.5gを溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、0.1M水酸化カリウムアルコール溶液で滴定し酸価を求めた。
(2)水50mlに対して、ポリマー(E)を1g添加後、得られた酸価を100%中和するだけの0.1mol/L水酸化カリウム水溶液を加え、100%中和とした。
(3)100%中和させた液を、25℃の温度下で、2時間超音波洗浄器(株式会社エスエヌディ超音波洗浄器US−102、38kHz自励発振)中で超音波を照射させた後24時間室温で放置した。
【0172】
24時間放置後、液面から2センチメートルの深部にある液をサンプリングしたサンプル液を、動的光散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製、動的光散乱式粒子径測定装置「マイクロトラック粒度分布計UPA−ST150」)を用い、微粒子形成による光散乱情報が得られるか判定することにより、微粒子が存在するか確認するとともに、その平均粒子径を測定した。
【0173】
(表面張力の測定方法)
前記「水中での微粒子形成の判断方法」で作製したサンプル液と同様のサンプル液の表面張力を、ウィルヘルミ表面張力計を用い測定した。
【0174】
前記合成例で得られたポリマーの原料、反応条件、物性値を表1に示す。
【0175】
【表1】
【0176】
表1中、
BuLiはノルマルブチルリチウムを表し、
Stはスチレンを表し、
αMeStはαメチルスチレンを表し、
tBMAはメタクリル酸tert−ブチルエステルを表す。
【0177】
(製造例 水性顔料分散体の製造方法)
以下の製造例の方法で、水性顔料分散体を得た。なお使用する原料の使用量は、後述の表中に記載した。
【0178】
(製造例1 水性顔料分散体(K1)の製造方法)
顔料としてカーボンブラック(三菱化学株式会社製:C.I.ピグメントブラック7)を150g、ポリマー(E)としてポリマー(P−1)を45g、水溶性溶剤としてトリエチレングリコールを135g、34質量%水酸化カリウム水溶液20gを、1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで、25分間混練を行う工程1を行った。
【0179】
続いて、インテンシブミキサー容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水450gを徐々に加えた後、イオン交換水140gを加え混合する工程2を行い、顔料濃度は15.0質量%の水性顔料分散体(K1)を得た。
【0180】
(バインダー樹脂(PB−1)の調製方法)
(合成例2)
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を装備した4つ口のフラスコに、「ニューコール707SF」〔日本乳化剤(株)製アニオン性乳化剤〕16g、「ノイゲンTDS−200D」〔第一工業製薬(株)製ノニオン性乳化剤〕6.5gおよび脱イオン水220gを仕込み、窒素気流下に80℃に昇温した後、過硫酸アンモニウム0.8gを脱イオン水16gに溶解させた水溶液を添加した。さらに2−エチルヘキシルアクリレート60g、スチレン100g、メタクリル酸メチル27g、アクリルアミド3g、メタクリル酸6gの混合液を、3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間反応せしめた後、25℃まで冷却し、28質量%アンモニア水1.5gで中和せしめ、脱イオン水を加えて不揮発分を45質量%に調整して、ガラス転移温度(Tg)35℃、平均粒子径50nm、酸価20mgKOH/gのアクリル系樹脂水分散液(PB−1)を得た。 アクリル系樹脂分散液(PB−1)の最終固形分濃度は39質量%であった。
【0181】
(水性インクの調製)
(実施例1 水性インクの調製方法)
水性顔料分散体として水性顔料分散体(K1)を40.00gに、AQUACER507(BYK社製ポリオレフィン、平均粒子径50nm、融点130℃、不揮発分35質量%)17.14g、トリエチレングリコール0.6g、蒸留水20.36g、MB((株)ダイセル社製3−メトキシ−1−ブタノール)15.00g、尿素5.0g、トリエタノールアミン0.20g、ACTICIDE MV4(ソー・ジャパン(株)社製防腐剤)0.10g、及びSURFYNOL 104PG50(エアープロダクツ社製アセチレンジアルコール系界面活性剤)1.60gを加えて攪拌し、黒色水性インク(J1)を調製した。
【0182】
(実施例2〜10 水性インクの調製方法)
インクの組成を表2および表3に記載の組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、水性インク(J2)〜(J10)を得た。
【0183】
(比較例1〜4 水性インクの調製方法)
インクの組成を表4に記載の組成に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、水性インク(H1)〜(H4)を得た。
【0184】
【表2】
【0185】
【表3】
【0186】
【表4】
【0187】
表中、略語は以下の通りである。
【0188】
TEG:トリエチレングリコール
3MB:(株)ダイセル製3−メトキシ−1−ブタノール
TEA:トリエタノールアミン
MV4:ソー・ジャパン(株)社製防腐剤ACTICIDE MV4
SF104PG:エアープロダクツ社製SURFYNOL 104PG50
AQ507:BYK社製ポリオレフィンワックス、不揮発分35質量%、融点130℃
AQ515:BYK社製ポリオレフィンワックス、不揮発分35質量%、融点135℃
AQ530:BYK社製ポリオレフィンワックス、不揮発分30質量%、融点130℃
AQ539:BYK社製ポリオレフィンワックス、不揮発分35質量%、融点90℃
AQ593:BYK社製ポリオレフィンワックス、不揮発分30質量%、融点160℃
水:イオン交換水
【0189】
(水性インクの評価)
水性インク(J1)〜(J12)及び(H1)〜(H2)の特性の評価は以下のようにおこなった。結果は表5〜表7に記載した。
【0190】
[耐磨耗性評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。また、インクジェットヘッドとOPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム)及びPETフィルム(エスペットE5102;東洋坊(株)製二軸延伸ポリエステルフィルム)のコロナ処理面とのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧、標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して100%濃度ベタ印刷を実施した後、60℃の温風乾燥機で5分間インクを乾燥させることによって印刷物を得た。
【0191】
次に、太平理化学工業製「ラビングテスター」のヘッド部分に小津産業(株)製「ベンコットAP−2」を固定し、前記印刷物の印刷面を500g荷重で夫々10回擦過した。
【0192】
次に、前記印刷物の擦過面をスキャナーで読み取り、前記擦過面積に対して、非擦過面と同程度の色を有する割合(色残存率)を画像解析ソフト『ImageJ』にて解析した。
◎:印刷物の色残存率が70%以上
○:印刷物の色残存率が50%以上70%未満
×:印刷物の色残存率が50%未満
【0193】
[セット性評価]
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B−YHに、実施例及び比較例で得た水性インクをそれぞれ充填し、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧−5.0kPaに設定することで供給圧を調整した。また、インクジェットヘッドとOPPフィルム(パイレンP2161;東洋坊(株)製二軸延伸ポリプロピレンフィルム)及びPETフィルム(エスペットE5102;東洋坊(株)製二軸延伸ポリエステルフィルム)のコロナ処理面とのギャップは1.2mmに設定した。ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧、標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定して100%濃度ベタ印刷を実施した後、60℃の温風乾燥機で1分間インクを乾燥させることによって印刷物を得た。
【0194】
前記印刷物を温風乾燥機から取り出し、室温下に1分間放置した後、印刷物の印刷面に、上記とは別のOPPフィルムのコロナ未処理面を重ね、100g/cm
2荷重になるように重石をセットし、1分間放置した。
【0195】
1分後、重石を外し、前記印刷物に重ねたOPPフィルムをはがした後、前記印刷物の印刷面をスキャナーで読み取り、前記印刷面積に対して、OPPフィルムを重ねる前と同程度の色を有する割合(色残存率)を画像解析ソフト『ImageJ』にて解析した。
【0196】
○:印刷物の色残存率が70%以上
×:印刷物の色残存率が70%未満
【0197】
【表5】
【0198】
【表6】
【0199】
【表7】
【0200】
実施例1〜12の水性インクでは、OPP及びPETフィルム上での耐磨耗性、及びセット性がいずれも良好な結果となることを確認した。特に融点が120℃以上160℃未満の融点を有するポリオレフィンを使用した実施例1〜4、及び実施例7〜12の水性インクではいずれも塗膜残存率が70%以上となり、特に良好な結果となることを確認した。
【0201】
一方、比較例1の水性インクでは、尿素類を含まない組成であるため、OPP及びPE基材での耐摩耗性が不十分であった。比較例2の水性インクでは、ポリオレフィンを含まないため、OPP及びPETフィルム上での耐摩耗性が不良であった。