(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外枠部は、天然繊維、ガラス繊維及び高分子材料繊維の少なくとも一つから構成される不織布、金属材料から構成される多孔質材料、高分子材料から構成される多孔質材料、前記外枠部の厚み方向への貫通孔を有する金属材料ならびに前記外枠部の厚み方向への貫通孔を有する高分子材料からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものである請求項1、請求項2及び請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導シート。
鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1種の黒鉛粒子を含有する熱伝導フィラ(A)と、熱可塑性材料(B)とを含有する組成物を準備する工程と、
前記組成物をシート化してシートを得る工程と、
前記シートの複数枚を重ねるか、前記シートの1枚を折り畳むか、又は前記シートの1枚を捲回させるかにより積層体を作製する工程と、
前記積層体の側端面をスライスして熱伝導シート部を作製する工程と、
作製した前記熱伝導シート部に、前記熱伝導シート部の少なくとも一方の表面における外周部を覆う外枠部を取り付ける工程と、
を有し、
前記外枠部は、前記熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持する開口部を有し、
前記開口部は前記外枠部の厚み方向への貫通孔であるか、前記開口部の孔径が10μm〜2000μmであるか、又は、前記外枠部は、金属材料から構成される多孔質材料、前記外枠部の厚み方向への貫通孔を有する金属材料及び前記外枠部の厚み方向への貫通孔を有する高分子材料からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものである熱伝導シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲には、「〜」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の含有率は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率を意味する。
本開示において組成物中の各成分の粒子径は、組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
本開示において「積層」との語は、層を積み重ねることを示し、二以上の層が結合されていてもよく、二以上の層が着脱可能であってもよい。
【0015】
〔熱伝導シート〕
本開示の熱伝導シートは、熱伝導フィラ(A)と、熱可塑性材料(B)とを含有する熱伝導シート部と、前記熱伝導シート部の少なくとも一方の表面における外周部を覆う外枠部と、を備え、前記外枠部は、前記熱伝導シート部の成分が入りこみ、入りこんだ成分を保持する開口部を有する。
【0016】
本開示の熱伝導シートは、熱可塑性材料(B)を含有する熱伝導シート部の外周部を覆う外枠部を有しており、外枠部における開口部に熱可塑性材料(B)等の熱伝導シート部の成分が入りこんで保持される構造である。ここで、熱伝導シートが熱に曝された際、開口部に熱伝導シート部の成分が入りこんで保持されるアンカー効果により、熱伝導シート部の成分のフローが抑制され、熱伝導シート部の成分が熱伝導シートの外側方向にフローしてしまう現象(ポンプアウト)が抑制される。
なお、開口部に入りこんで保持される熱伝導シート部の成分としては、熱伝導フィラ(A)、熱可塑性材料(B)及びその他の成分の少なくとも一つが挙げられる。
【0017】
以下、本開示の熱伝導シートが備える熱伝導シート部及び外枠部について順番に説明する。
【0018】
(熱伝導シート部)
熱伝導シート部は、熱伝導フィラ(A)と、熱可塑性材料(B)とを含有する。
【0019】
<熱伝導フィラ(A)>
熱伝導フィラ(A)は、熱伝導性を有するフィラであれば特に制限されない。熱伝導フィラ(A)としては、銀、銅、アルミニウム等の高熱伝導性金属の粒子、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、酸化マグネシウム等のセラミックスの粒子、黒鉛粒子などが挙げられる。なお、熱伝導フィラ(A)としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
熱伝導フィラ(A)としては、特に、熱抵抗が少なく、かつ熱伝導性に優れる点から、黒鉛粒子が好ましく、後述する鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1種の黒鉛粒子がより好ましい。
【0021】
熱伝導フィラ(A)の質量平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法を適応したレーザー回折式粒度分布装置(例えば、日機装株式会社製「マイクロトラックシリーズMT3300」)を用いて測定され、重量累積粒度分布曲線を小粒子径側から描いた場合に、重量累積が50%となる粒子径に対応する。
【0022】
熱伝導フィラ(A)の粒子径分布は特に制限されず、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒子径分布が単一のピークを有する単分散系であっても、粒子径分布が複数のピークを有する多分散系であってもよい。また粒子径分布が狭いものであっても、粒子径分布が広いものであってもよい。
【0023】
熱伝導シート部中の熱伝導フィラ(A)の含有率は、例えば、熱伝導性と密着性とのバランスの点から、15体積%〜50体積%であることが好ましく、20体積%〜45体積%であることがより好ましく、25体積%〜40体積%であることがさらに好ましい。
熱伝導フィラ(A)の含有率が15体積%以上であると、熱伝導性がより向上する傾向にある。熱伝導フィラ(A)の含有率が50体積%以下であると、粘着性及び密着性の低下をより効果的に抑制できる傾向にある。
【0024】
熱伝導フィラ(A)の含有率(体積%)は、次式により求めた値である。
熱伝導フィラ(A)の含有率(体積%)=(Aw/Ad)/((Aw/Ad)+(Bw/Bd)+(Cw/Cd))×100
Aw:熱伝導フィラ(A)の質量組成(質量%)
Bw:熱可塑性材料(B)の質量組成(質量%)
Cw:その他の任意成分の質量組成(質量%)
Ad:熱伝導フィラ(A)の密度
Bd:熱可塑性材料(B)の密度
Cd:その他の任意成分の密度
【0025】
熱伝導フィラ(A)としては、鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1種の黒鉛粒子を含有していてもよい。また、黒鉛粒子が鱗片状粒子の場合には面方向、黒鉛粒子が楕球状粒子の場合には長軸方向又は黒鉛粒子が棒状粒子の場合には長軸方向が、厚み方向に配向していてもよい。
かかる構成であることで、熱伝導シート部は、熱抵抗が小さく、熱伝導性に優れる。
【0026】
黒鉛粒子の形状は、鱗片状が好ましい。鱗片状の黒鉛粒子を選択することで、熱伝導性がより向上する傾向にある。これは例えば、鱗片状の黒鉛粒子は、熱伝導シート部中で、所定の方向へより容易に配向するためと考えることができる。また、黒鉛粒子の結晶中の六員環面が、鱗片状粒子の面方向、楕球状粒子の長軸方向又は棒状粒子の長軸方向に配向していることが好ましい。なお、六員環面とは、六方晶系において六員環が形成されている面であり、(0001)結晶面を意味する。
【0027】
黒鉛粒子の結晶中の六員環面が、鱗片状粒子の面方向、楕球状粒子の長軸方向又は棒状粒子の長軸方向に配向しているかどうかは、X線回折測定により確認することができる。黒鉛粒子の結晶中の六員環面の配向方向は、具体的には以下の方法で確認する。
【0028】
まず、鱗片状粒子の面方向、楕球状粒子の長軸方向又は棒状粒子の長軸方向が、シートの面方向に沿って配向した測定用サンプルシートを作製する。測定用サンプルシートの具体的な作製方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0029】
樹脂と、樹脂に対して10体積%以上の量の黒鉛粒子との混合物をシート化する。ここで用いる「樹脂」とは、X線回折の妨げになるピークが現れない材料で、かつシート物を形成可能な材料であれば特に制限されない。具体的には、アクリルゴム、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、SIBS(スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体)等、バインダとしての凝集力を有する非晶質樹脂を使用することができる。
【0030】
この混合物のシートを、元の厚みの1/10以下となるようにプレスし、プレスしたシートの複数枚を積層して積層体を形成する。この積層体をさらに1/10以下まで押しつぶす操作を3回以上繰り返して測定用サンプルシートを得る。この操作により、測定用サンプルシート中では、黒鉛粒子が鱗片状粒子の場合には面方向、楕球状粒子の場合には長軸方向、及び棒状粒子の場合には長軸方向が、測定用サンプルシートの面方向に沿って配向した状態になる。
【0031】
上記のように作製した測定用サンプルシートの表面に対してX線回折測定を行う。2θ=77°付近に現れる黒鉛の(110)面に対応するピークの高さH
1と、2θ=27°付近に現れる黒鉛の(002)面に対応するピークの高さH
2とを測定する。このように作製した測定用サンプルシートでは、H
1をH
2で割った値が0〜0.02となる。
【0032】
このことより、「黒鉛粒子の結晶中の六員環面が、鱗片状粒子の場合には面方向、楕球状粒子の場合には長軸方向、及び棒状粒子の場合には長軸方向に配向している」とは、黒鉛粒子を含有するシートの表面に対し、X線回折測定を行い、2θ=77°付近に現れる黒鉛粒子の(110)面に対応するピークの高さを、2θ=27°付近に現れる黒鉛粒子の(002)面に対応するピークの高さで割った値が0〜0.02となる状態をいう。
【0033】
本開示において、X線回折測定は以下の条件で行なう。
装置:ブルカー・エイエックスエス株式会社製「D8DISCOVER」
X線源:波長1.5406nmのCuKα、40kV、40mA
ステップ(測定刻み幅):0.01°
ステップタイム:720sec
【0034】
ここで、「黒鉛粒子が鱗片状粒子の場合には面方向、楕球状粒子の場合には長軸方向、及び棒状粒子の場合には長軸方向が熱伝導シート部の厚み方向に配向している」とは、鱗片状粒子の場合には面方向、楕球状粒子の場合には長軸方向、及び棒状粒子の場合には長軸方向と、熱伝導シート部の表面とのなす角度(以下、「配向角度」ともいう)が、60°以上であることをいう。配向角度は、80°以上であることが好ましく、85°以上であることがより好ましく、88°以上であることがさらに好ましい。
【0035】
配向角度は、熱伝導シート部の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、任意の50個の黒鉛粒子について、鱗片状粒子の場合には面方向と、楕球状粒子の場合には長軸方向と、及び棒状粒子の場合には長軸方向と、熱伝導シート部の表面(主面)とのなす角度(配向角度)を測定したときの平均値である。
【0036】
黒鉛粒子の粒子径は特に制限されない。黒鉛粒子の平均粒子径は、熱伝導シート部の平均厚みの1/2〜平均厚みであることが好ましい。黒鉛粒子の平均粒子径が熱伝導シート部の平均厚みの1/2以上であると、熱伝導シート部中に効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導率が向上する傾向にある。黒鉛粒子の平均粒子径が熱伝導シート部の平均厚み以下であると、熱伝導シート部の表面からの黒鉛粒子の突出が抑えられ、熱伝導シート部の表面の密着性に優れる傾向にある。
【0037】
尚、特開2008−280496号公報に記載されているような積層スライス法を用いる場合、原料として用いる黒鉛粒子の粒子径は、質量平均粒子径として、熱伝導シート部の平均厚みの1/2倍以上であることが好ましく、平均厚みを超えてもよい。原料として用いる黒鉛粒子の粒子径が熱伝導シート部の平均厚みを超えてもよい理由は、例えば、熱伝導シート部の平均厚みを超える粒子径の黒鉛粒子を含んでいても、黒鉛粒子ごとスライスして熱伝導シート部を形成するため、結果的に黒鉛粒子が熱伝導シート部の表面から突出しないからである。またこのように黒鉛粒子ごとスライスすると、熱伝導シート部の厚み方向に貫通する黒鉛粒子が多数生じ、極めて効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する傾向にある。
【0038】
積層スライス法を用いる場合、原料として用いる黒鉛粒子の粒子径は、質量平均粒子径として、熱伝導シート部の平均厚みの1倍〜5倍であることがより好ましい。黒鉛粒子の質量平均粒子径が、熱伝導シート部の平均厚みの1倍以上であると、さらに効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する。熱伝導シート部の平均厚みの5倍以下であると、黒鉛粒子の表面部に占める面積が大きくなりすぎることが抑えられ、密着性の低下が抑制できる。
【0039】
黒鉛粒子としては、例えば、球状黒鉛粉末、鱗片黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、薄片化黒鉛粉末、酸処理黒鉛粉末、膨張黒鉛粉末及び炭素繊維フレークが挙げられる。中でも、黒鉛粒子としては、結晶化度が高くかつ大粒子径の鱗片が得やすい点から、シート化した膨張黒鉛を粉砕して得る膨張黒鉛粉末が好ましい。
【0040】
黒鉛粒子の粒子径分布は特に制限されず、横軸に粒子径を、縦軸に頻度をとった粒子径分布が単一のピークを有する単分散系であっても、粒子径分布が複数のピークを有する多分散系であってもよい。また粒子径分布が狭いものであっても、粒子径分布が広いものであってもよい。
前述のように大粒子の方が効率的な熱伝導パスを形成でき、熱伝導性の点から好適であるが、大粒子かつ粒度分布が狭いと、大粒子どうしにより形成される空隙も大きくなる傾向にあるため、熱伝導シート部の面内で熱伝導性のバラツキが大きくなる傾向にある。このため、適度に小粒子を存在させて大粒子により生じた空隙に小粒子が充填できるよう、ある程度広い粒子径分布であるか、又は複数のピークが存在する多分散の粒子径分布であることが好ましい。粒子径分布の形状は、粒子形状等により大きく異なるため、定量的に一概に限定されないが、上記の理由から、熱伝導シート部の平均厚みに近い平均粒子径を有する大粒子と、大粒子により形成される空隙の大きさよりも小さい平均粒子径を有する小粒子とを含有し、且つ小粒子がその空隙に収まる量で含有されるような粒子径分布であることがより好ましい。
【0041】
熱伝導フィラ中の黒鉛粒子の含有率は、熱伝導フィラ全体積に対して、例えば、50体積%〜100体積%であることが好ましく、80体積%〜100体積%であることがより好ましく、95体積%〜100体積%であることがさらに好ましく、100体積%であることが特に好ましい。
【0042】
<熱可塑性材料(B)>
熱伝導シート部は、熱可塑性材料(B)を含有する。熱伝導シート部が熱可塑性材料(B)を含有することにより、熱伝導シート部は柔軟性に優れ、発熱体、放熱体等に対する密着性が良好な熱伝導シートが得られる傾向にある。
さらに、熱伝導シートが熱に曝された際、開口部に熱可塑性材料(B)等の熱伝導シート部の成分が入りこんで保持されているため、熱伝導シート部の成分のフローが抑制され、熱伝導シート部の成分が熱伝導シートの外側方向にフローしてしまう現象(ポンプアウト)が抑制される。
【0043】
熱可塑性材料(B)としては、熱可塑性を示す材料であれば特に限定されず、例えば、熱可塑性ゴム成分が挙げられる。熱可塑性ゴム成分としては、ガラス転移温度が50℃以下である熱可塑性ゴム成分であってもよく、ガラス転移温度が−70℃〜20℃である熱可塑性ゴム成分であってもよい。
なお、熱可塑性ゴム成分のガラス転移温度は、示差走査熱量装置(DSC)を用いて測定することができる。
【0044】
熱可塑性ゴム成分は、特に制限されず、アクリル酸エステル(アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル)と他のモノマーとの共重合で得られるアクリルゴム;エチレンとプロピレンとを触媒にて反応させて得られるエチレン−プロピレンゴム;イソブチレンとイソプレンとの共重合で得られるブチルゴム;ブタジエンとスチレンとの共重合で得られるスチレンブタジエンゴム;アクリロニトリルとブタジエンとの共重合で得られるアクリロニトリルブタジエンゴムなどが挙げられる。
【0045】
上記熱可塑性ゴム成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。熱可塑性ゴム成分の重量平均分子量は、10万〜200万の範囲であってもよく、20万〜150万の範囲であってもよい。熱可塑性ゴム成分の重量平均分子量が10万以上であると、熱伝導シート部のガラス転移温度の低下が抑制され、電子機器内部の温度変化に伴う熱伝導シートの物性の変動が抑えられて熱伝導性の変動が抑えられる傾向にある。また、熱可塑性ゴム成分の重量平均分子量が200万以下であると、熱伝導性フィラ(A)との混合性が向上し、且つ、タック性及び弾性に優れる熱伝導シートが得られる傾向にある。
なお、熱可塑性ゴム成分の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。
【0046】
また、熱可塑性材料(B)としては、前述の熱可塑性ゴム成分以外の成分を用いてもよい。例えば、テルペンフェノール樹脂を熱可塑性材料(B)として用いてもよい。
【0047】
熱伝導シート部における熱可塑性材料(B)の含有率は、特に制限されず、例えば、10体積%〜60体積%であることが好ましく、15体積%〜50体積%であることがより好ましく、20体積%〜40体積%であることがさらに好ましい。
【0048】
熱可塑性ゴム成分としては、具体的に、アクリルゴムとして、商品名:HTR−811DS、重量平均分子量:50万、ナガセケムテックス株式会社製;商品名:HTR−811DR、重量平均分子量:50万、ナガセケムテックス株式会社製;商品名:HTR−280改2DR、重量平均分子量:53万、ナガセケムテックス株式会社製;商品名:Nipol AR31、日本ゼオン株式会社製;商品名:Nipol AR51、日本ゼオン株式会社製;商品名:Nipol AR71、日本ゼオン株式会社製;商品名:Nipol AR32、日本ゼオン株式会社製;商品名:Nipol AR42W、日本ゼオン株式会社製;等が例示できる。
【0049】
<その他の成分>
熱伝導シート部は、熱伝導フィラ(A)及び熱可塑性材料(B)以外のその他の成分を、目的に応じて含有していてもよい。例えば、熱伝導シート部は、難燃性を付与する目的で、難燃剤を含有していてもよい。
【0050】
難燃剤は特に限定されず、通常用いられる難燃剤から適宜選択することができる。例えば、赤りん系難燃剤及びりん酸エステル系難燃剤が挙げられる。中でも、安全性に優れ、可塑性効果により密着性が向上する点から、りん酸エステル系難燃剤が好ましい。
【0051】
赤りん系難燃剤としては、純粋な赤りん粉末の他に、安全性又は安定性を高める目的で種々のコーティングを施したもの、マスターバッチ化したもの等を用いてもよい。具体的には、燐化学工業株式会社製のノーバレッド、ノーバエクセル、ノーバクエル、ノーバペレット(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0052】
りん酸エステル系難燃剤としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の脂肪族リン酸エステル;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジ2,6−キシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(イソプロピル化フェニル)ホスフェート、リン酸トリアリールイソプロピル化物等の芳香族リン酸エステル;レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート等の芳香族縮合リン酸エステルなどが挙げられる。
これらの中でもビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が、耐加水分解性に優れ、かつ可塑効果により密着性を向上する効果に優れる点から好ましい。
【0053】
熱伝導シート部中の難燃剤の含有率は制限されず、難燃性が発揮される量で用いることができ、40体積%以下とすることが好ましく、難燃剤成分が熱伝導シート部の表面に染み出すことによる熱抵抗の悪化を抑制する点から、30体積%以下とすることが好ましい。
【0054】
熱伝導シート部は、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカルトラップ剤、pH調整剤等の添加剤を含有していてもよく、好ましくは酸化防止剤を含有してもいてもよい。これらの添加剤の含有率は、熱伝導シート部中、5体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
熱伝導シート部の平均厚みは特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、熱伝導シート部の平均厚みは、50μm〜3000μmとすることができ、熱伝導性及び密着性の点から、100μm〜1000μmであることが好ましく、200μm〜500μmがより好ましい。
熱伝導シート部の平均厚みは、マイクロメータを用いて3箇所の厚みを測定し、その算術平均値として与えられる。
【0056】
熱伝導シート部は、少なくとも一方の面に保護フィルムを有していてもよく、両面に保護フィルムを有していることが好ましい。これにより、熱伝導シート部の粘着面を保護することができる。
【0057】
保護フィルムは、例えば、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルナフタレート、メチルペンテン等の樹脂フィルム、コート紙、コート布、及びアルミ等の金属箔が使用できる。これらの保護フィルムは、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて多層フィルムとしてもよい。保護フィルムは、シリコーン系、シリカ系等の離型剤などで表面処理されていることが好ましい。
【0058】
(外枠部)
外枠部は、熱伝導シート部の表面における外周部を覆い、かつ熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持する開口部を有するものであれば特に限定されない。
【0059】
外枠部の厚みは、特に限定されず、例えば、前述の熱伝導シートの厚みに応じて適宜調整すればよい。外枠部の厚みは、例えば、1μm〜100μmであることが好ましく、5μm〜50μmであることがより好ましく、5μm〜30μmであることがさらに好ましい。外枠部の厚みが1μm以上であることにより、開口部を好適に形成でき、かつ熱伝導シート部に取り付ける際のハンドリング性に優れる傾向にある。外枠部の厚みが100μm以下であることにより、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に介在させて放熱装置とした際、熱伝導シートと発熱体又は放熱体との間に隙間が発生することが抑制され、熱抵抗の増加が抑制される傾向にある。
外枠部の厚みは、マイクロメータを用いて3箇所の厚みを測定し、その算術平均値として与えられる。
【0060】
熱伝導シート部の厚みAに対する外枠部の厚みBの比率は、0.01〜0.5であることが好ましく、0.02〜0.3であることがより好ましく、0.05〜0.2であることがさらに好ましい。前述の比率が、0.01以上であることにより、熱伝導シートの体積に対して外枠部に有した開口部の体積が十分に存在することで、ポンプアウトを抑制する効果が高くなり、より高い圧力に対してもポンプアウトを抑制できる傾向にある。前述の比率が、0.5以下であることにより、熱伝導シートを発熱体と放熱体との間に介在させて放熱装置とした際、熱伝導シートと発熱体又は放熱体との間に隙間が発生することが抑制され、熱抵抗の増加が抑制される傾向にある。
【0061】
外枠部は、熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持する開口部を有する。
【0062】
開口部の形状としては、熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持できる形状であれば特に限定されない。開口部は、熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を好適に保持し、熱伝導シート部の成分のフローを好適に抑制する点から、前記外枠部の厚み方向への貫通孔であることが好ましい。
【0063】
外枠部の厚み方向から見たときの開口部の形状としては、特に限定されない。外枠部の厚み方向から見たときの開口部の形状は、円形、楕円形、四角形等の多角形などであってもよい。また、開口部としては、外枠部に複数配置されていてもよく、規則的あるいは不規則的に配置されていてもよい。
【0064】
また、開口部は、外枠部の厚み方向と垂直な方向において熱伝導シート部と接触する面側に形成された溝であってもよい。外枠部に開口部として溝を設ける場合、熱伝導シート部の成分が外側方向にフローすることを好適に抑制するため、開口部の厚み方向と直交し、かつ外枠部の端部と平行な方向に溝を設けることが好ましい。また、外枠部に開口部として溝を設ける場合、一定の間隔で規則的に溝を複数設けてもよく、不規則的に溝を複数設けてもよい。
【0065】
外枠部に設けられた開口部は、外枠部が予め有するものであってもよく、外枠部を加工して設けたものであってもよい。外枠部を加工して開口部を設ける場合、例えば、銅箔等の外枠部にパンチング等によって開口部、好ましくは貫通孔を設けてもよい。
【0066】
また、開口部の形状が円形である場合、開口部の孔径は、開口部に熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を好適に保持する点から、10μm〜2000μmであることが好ましく、50μm〜1000μmであることがより好ましく、80μm〜500μmであることがさらに好ましい。10μm以上であると、熱伝導シート部の成分が開口部に入りこみやすくなり、フロー抑制効果が向上する傾向にある。また、2000μm以下であると、外枠部自体の強度を良好にし、熱伝導シート部のフロー時に外枠部にかかる負荷による外枠部の破損を抑制できる傾向にある。
【0067】
外枠部に開口部が複数設けられている場合、開口部の中心間距離は、10μm〜3000μmであることが好ましく、30μm〜1000μmであることがより好ましく、50μm〜500μmであることがさらに好ましい。10μm以上であると、外枠部自体の強度を良好にし、熱伝導シート部のフロー時に外枠部にかかる負荷による外枠部の破損を抑制できる傾向にある。また、3000μm以下であると、熱伝導シート部の成分が開口部に入りこむことによるフロー抑制効果をより好適に得ることができる傾向にある。
開口部の中心間距離は、開口部が3つ以上設けられている場合、マイクロメータを用いて3箇所の中心間距離を測定し、その算術平均値として与えられる。
【0068】
また、外枠部における開口部が設けられた表面の開口率は、開口部に入りこんだ熱伝導シート部の成分を好適に保持する点から、5%〜80%であることが好ましく、10%〜60%であることがより好ましく、15%〜40%であることがさらに好ましい。なお、開口率とは、外枠部の開口部が設けられた表面において、当該表面の全面積(開口部及び開口部以外の合計面積)に対する開口部の面積の割合を指す。
【0069】
外枠部は、天然繊維、ガラス繊維、高分子材料繊維等から構成される不織布、金属材料から構成される多孔質材料、高分子材料から構成される多孔質材料、外枠部の厚み方向への貫通孔を有する金属材料及び外枠部の厚み方向への貫通孔を有する高分子材料からなる群より選択される少なくとも一つから形成されたものであることが好ましく、中でも、外枠部の厚み方向への貫通孔を有する金属材料、及び金属材料から構成される多孔質材料から形成されたものであることがより好ましい。金属材料としては、導電性、軟質性等の点から、銅、アルミニウム等が挙げられ、ハンドリング性の点から銅が好ましい。また、天然繊維としては、麻、綿が挙げられ、高分子材料としては、ポリイミド、ナイロン(ポリアミド)、ビニロン、ポリエステル、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0070】
また、外枠部の構成としては、耐熱性、ハンドリング性等の点から、開口部を有する銅箔が好ましく、開口部として貫通孔を有する銅箔がより好ましい。
【0071】
図1に本発明の一形態に係る熱伝導シート10の概略構成を示す。
図1に示すように、熱伝導シート10は、熱伝導シート部1と、熱伝導シート部1の一方の表面における外周部を覆う外枠部2と、を備える。なお、煩雑になることを避けるため、
図1の(a)では開口部3の記載を省略している。また、
図1の(b)に示すように、外枠部2における開口部3は、貫通孔であってもよい。なお、
図1における各構成の大きさは概念的なものであり、各構成の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0072】
〔熱伝導シートの製造方法1〕
熱伝導シートの製造方法1として、前述の熱伝導シートを製造する方法について以下に説明する。
【0073】
その製造方法は、熱伝導フィラ(A)と、熱可塑性材料(B)とを含有する組成物を準備する工程(「準備工程」ともいう)と、前記組成物をシート化して熱伝導シート部を作製する工程(「熱伝導シート部作製工程」ともいう)と、
作製した前記熱伝導シート部に、前記熱伝導シート部の少なくとも一方の表面における外周部を覆う外枠部を取り付ける工程(「外枠部取り付け工程」ともいう)と、を有し、前記外枠部は、前記熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持する開口部を有する。
また、熱伝導シートの製造方法は、熱伝導シート部作製工程後外枠部取り付け工程前に、熱伝導シート部を保護フィルムに貼り付けてラミネートする工程(ラミネート工程)をさらに有していてもよい。
【0074】
かかる方法で製造された熱伝導シートは、熱伝導シートが熱に曝された際、開口部に熱伝導シート部の成分が入りこんで保持されているため、熱伝導シート部の成分のフローが抑制され、熱伝導シート部の成分が熱伝導シートの外側方向にフローしてしまう現象(ポンプアウト)が抑制される。
【0075】
<準備工程>
熱伝導シート部を構成する組成物の調製は、熱伝導フィラ(A)、熱可塑性材料(B)、任意成分であるその他の成分等を均一に混合することが可能であれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。また、組成物は市販のものを入手して準備してもよい。組成物の調製の詳細は、特開2008−280496号公報の段落[0033]を参照することができる。
【0076】
<熱伝導シート部作製工程>
熱伝導シート部作製工程は、先の工程で得られた組成物をシート化できれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。例えば、圧延、プレス、押出、及び塗工からなる群から選択される少なくとも1つの成形方法を用いて実施することが好ましい。
【0077】
<ラミネート工程>
ラミネート工程は、熱伝導シート部作製工程にて得られた熱伝導シート部を保護フィルムに貼り付けられれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。
【0078】
〔熱伝導シートの製造方法2〕
熱伝導シートの製造方法2として、熱伝導フィラ(A)が鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1種の黒鉛粒子を含有する場合における熱伝導シートを製造する方法について以下に説明する。
【0079】
その製造方法は、鱗片状粒子、楕球状粒子及び棒状粒子からなる群より選択される少なくとも1種の黒鉛粒子を含有する熱伝導フィラ(A)と、熱可塑性材料(B)とを含有する組成物を準備する工程(「準備工程」ともいう)と、前記組成物をシート化してシートを得る工程(「シート作製工程」ともいう)と、前記シートの複数枚を重ねて、前記シートの1枚を折り畳んで、又は前記シートの1枚を捲回させて積層体を作製する工程(「積層体作製工程」ともいう)と、前記積層体の側端面をスライスして熱伝導シート部を作製する工程(スライシング工程)と、作製した前記熱伝導シート部に、前記熱伝導シート部の少なくとも一方の表面における外周部を覆う外枠部を取り付ける工程(「外枠部取り付け工程」ともいう)と、を有し、前記外枠部は、前記熱伝導シート部の成分が入りこみ、入り込んだ熱伝導シート部の成分を保持する開口部を有する。
また、熱伝導シートの製造方法は、スライシング工程後外枠部取り付け工程前に、スライシング工程にて得られたスライスシートを保護フィルムに貼り付けてラミネートする工程(ラミネート工程)をさらに有していてもよい。
【0080】
熱伝導シートをかかる方法で製造することで、効率的な熱伝導パスが形成され易く、そのため高熱伝導性と密着性に優れる熱伝導シートが得られる傾向にある。
さらに、かかる方法で製造された熱伝導シートは、熱伝導シートが熱に曝された際、開口部に熱伝導シート部の成分が入りこんで保持されているため、熱伝導シート部の成分のフローが抑制され、熱伝導シート部の成分が熱伝導シートの外側方向にフローしてしまう現象(ポンプアウト)が抑制される。
【0081】
<準備工程>
熱伝導シート部を構成する組成物の調製は、前述の黒鉛粒子を含有する熱伝導フィラ(A)、熱可塑性材料(B)及び任意成分であるその他の成分等を均一に混合することが可能であれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。また、組成物は市販のものを入手して準備してもよい。組成物の調製の詳細は、特開2008−280496号公報の段落[0033]を参照することができる。
【0082】
<シート作製工程>
シート作製工程は、先の工程で得られた組成物をシート化できれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。例えば、圧延、プレス、押出、及び塗工からなる群から選択される少なくとも1つの成形方法を用いて実施することが好ましい。シート作製工程の詳細は、特開2008−280496号公報の段落[0034]を参照することができる。
【0083】
<積層体作製工程>
積層体作製工程は、先の工程で得られたシートの積層体を形成する。積層体は、例えば、独立した複数枚のシートを順に重ね合わせた形態に限らず、1枚のシートを切断せずに折り畳んだ形態であっても、又はシートの1枚を捲回させた形態であってもよい。積層体作製工程の詳細は、特開2008−280496号公報の段落[0035]〜[0037]を参照することができる。
【0084】
<スライシング工程>
スライシング工程は、先の工程で得られた積層体の側端面をスライスできれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。熱伝導シートの厚み方向に貫通する黒鉛粒子によって極めて効率的な熱伝導パスが形成され、熱伝導性がより向上する点から、黒鉛粒子の質量平均粒子径の2倍以下の厚みでスライスすることが好ましい。スライシング工程の詳細は、特開2008−280496号公報の段落[0038]を参照することができる。
【0085】
<ラミネート工程>
ラミネート工程は、スライシング工程にて得られたスライスシートを保護フィルムに貼り付けられれば、いずれの方法であってもよく、特に限定されない。
【0086】
〔放熱装置〕
放熱装置は、発熱体と放熱体の間に、上述の熱伝導シートを介在させてなる。熱伝導シートを介して発熱体と放熱体とが積層されていることで、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝導することができる。また、発熱体から放熱体を取り外す際に容易に熱伝導シートを除去することができる。
【0087】
熱伝導シート部の表面の一方に外枠部が設けられている場合、熱抵抗を好適に抑制する点から、放熱体側に外枠部を位置させた状態で、発熱体と放熱体の間に熱伝導シートを介在させることが好ましい。
【0088】
熱伝導シートを特に好適に使用できる温度範囲が、例えば、−10℃〜150℃であることから、発熱体としては、例えば、半導体パッケージ、ディスプレイ、LED、電灯、自動車用パワーモジュール及び産業用パワーモジュールを好適な発熱体の例として挙げることができる。
【0089】
放熱体としては、例えば、アルミ又は銅のフィン、板等を利用したヒートシンク、ヒートパイプに接続されているアルミ又は銅のブロック、内部に冷却液体をポンプで循環させているアルミ又は銅のブロック、及びペルチェ素子ならびにこれを備えたアルミ又は銅のブロックが挙げられる。
【0090】
放熱装置は、発熱体と放熱体とに熱伝導シートの各々の面を接触させることで構成される。発熱体と熱伝導シートの一方の面とを接触させる方法、及び放熱体と熱伝導シートの他方の面とを接触させる方法は、それぞれを十分に密着させた状態で固定できる方法であれば特に制限されない。
【0091】
具体的には、発熱体と放熱体との間に熱伝導シートを配置し、0.1MPa〜3MPa程度に加圧可能なクリップ等の治具で固定し、この状態で発熱体を発熱させるか、又はオーブン等により60℃〜180℃程度に加熱する方法が挙げられる。この方法で好ましい圧力の範囲は、0.15MPa〜2MPaであり、好ましい温度の範囲は、80℃〜150℃である。圧力を0.1MPa以上又は加熱温度を60℃以上とすることで、優れた密着性が得られる傾向にある。また、圧力が3MPa以下又は加熱温度が180℃以下であることで、密着の信頼性がより向上する傾向にある。これは熱伝導シートが過度に圧縮されて厚みが薄くなったり、周辺部材の歪み又は残留応力が大きくなりすぎたりすることを抑制できるためと考えられる。
【0092】
熱伝導シートは、発熱体と放熱体との間に配置して圧着する前の初期厚みに対する、圧着後により減少した厚みの割合(圧縮率)が、5%〜35%であってもよい。
【0093】
固定においては、クリップの他、ネジ、バネ等の治具を用いてもよく、接着剤等の通常用いられる手段でさらに固定されていることが、密着を持続させる上で好ましい。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
[実施例1]
下記材料をニーダー混練機(株式会社モリヤマ製、DS3−SGHM−E型加圧双腕型ニーダー)に投入し、100℃で30分混練し、組成物を得た。
【0096】
<熱伝導フィラ(A)>
・熱伝導フィラ(A)である鱗片状の膨張黒鉛粉末(日立化成株式会社製、長径の平均値500μm〜1000μm、密度2.165g/cm
3):2154g
<熱可塑性材料(B)>
(B−1)成分・・・アクリル酸エステル共重合樹脂(アクリル酸ブチル/アクリル酸エチル/アクリロニトリル/アクリル酸共重合体、ナガセケムテックス株式会社製、商品名「HTR−280改2DR」、重量平均分子量53万、Tg=−39℃、密度1.06g/cm
3):444g
(B−2)成分・・・テルペンフェノール(ヤスハラケミカル株式会社製、商品名「YSポリスターT80」、軟化点80℃、密度0.96g/cm
3):333g
<その他の成分(C)>
・難燃剤として芳香族縮合リン酸エステル(大八化学工業株式会社製、商品名「CR−741」、密度1.26g/cm
3):1067g
【0097】
組成物全体に対する、(A)成分、(B−1)成分、(B−2)成分及び(C)成分のそれぞれの含有率(体積%)は、順に、38.9体積%、15.9体積%、13.1体積%及び32.1体積%であった。
【0098】
(熱伝導シート部の作製1)
得られた組成物を押し出し成形機(株式会社パーカー製、商品名:HKS40−15型押し出し機)に投入し、幅20cm、厚み2mmの平板形状に押出して一次シートを得た。得られた一次シートを、50mm×200mmの型刃を用いてプレス打ち抜きし、打ち抜いたシートを積層し、高さが150mmになるよう、高さ150mmのスペーサを挟んで積層方向に90℃で2分間圧力をかけ、積層体を得た。次いで、この50mm×150mm×200mmの積層体の側端面を木工用スライサーでスライスし、縦150mm×横200mm×厚み0.2mmの熱伝導シート部(以下、「熱伝導シート(I)」ともいう)を得た。
【0099】
(熱伝導シート部の熱抵抗測定)
熱伝導シート部の熱伝導性の評価として、熱抵抗を測定した。熱伝導シート(I)を、10mm角に切り抜き、発熱体であるトランジスタ(2SC2233)と放熱体である銅ブロックとの間に挟み、トランジスタを2MPaの圧力で押し付けながら電流を通じた際のトランジスタの温度:T1(℃)及び銅ブロックの温度:T2(℃)を測定し、測定値及び印加電力:W1(W)から、熱抵抗:X(K/W)を以下の式に基づき算出した。
X=(T1−T2)/W1
その結果、実施例1にて作製した熱伝導シート(I)の熱抵抗は0.08K/Wであった。
【0100】
(フロー評価)
孔あき銅箔付き熱伝導シートについて、以下のようにしてフロー評価を行った。
フロー評価は30mm×30mmの大きさの孔あき銅箔付き熱伝導シートについて評価した。熱伝導シート(I)及び孔あき銅箔(1)(JX金属株式会社製、JIS:C1100)を30mm×30mmに打ち抜き、さらに、孔あき銅箔(1)については、内側を20×20mmに打ち抜き、外枠部を作製した。次に、熱伝導シート(I)の表面に、
図1に示す外枠部2に対応する孔あき銅箔(1)を接触させた後、ロール成形機(日立機械エンジニアリング株式会社製、商品名:V2S−SR型シーティング熱ロール機)を用い、温度80℃、ロール間のギャップは熱伝導シート部の厚み(実施例1では0.2mm)に設定して、熱伝導シート(I)の外周部に外枠部を圧着させた。これにより、孔あき銅箔付き熱伝導シートを作製した。孔あき銅箔(1)は、厚み0.01mm、孔径100μm、孔の中心間距離154μmとなるように貫通孔を設けたものを用いた。
作製した孔あき銅箔付き熱伝導シートの上下に離型処理がなされているPETフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製、品番:A31B、厚み38μm)を置き、120℃に熱した熱圧プレス機(株式会社井元製作所製、小型加熱プレス機、型式:IMC−18EE型)の熱板に挟み圧縮してフロー性を確認した。熱伝導シート部が0.2mmのときは最大圧力3MPaで5秒圧縮した。
圧縮前の熱伝導シート部の縦方向及び横方向において、圧縮後の熱伝導シート部の長さの最大値(mm)をそれぞれ測定し、圧縮前の熱伝導シート部の縦方向及び横方向の長さ(mm)に対する割合(%)をそれぞれ算出し、より値が高い方を変化率とした。変化率の数値が低いほどフローが抑制されていることを示す。
なお、圧縮後の熱伝導シート部の長さの最大値は標準ABSデジマチックキャリパ(株式会社ミツトヨ製、CD−15CPX)で測定した。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
孔あき銅箔(1)の代わりに、厚み0.015mm、孔径200μm、孔の中心間距離430μmとなるように貫通孔を設けた孔あき銅箔(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
孔あき銅箔(1)の代わりに、厚み0.048mmであるポリフェニレンスルフィド不織布(日本バイリーン株式会社製、品番「PS−0020」、目付量19g/m
2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
孔あき銅箔(1)の代わりに、厚み0.033mmであるビニロン不織布(廣瀬製紙株式会社製、品番「VN1012」、目付量12g/m
2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0104】
[実施例5]
厚み0.2mmの熱伝導シート(I)の代わりに厚み0.5mmの熱伝導シート(II)を作製し、作製した熱伝導シート(II)を用いた点、及びフロー性評価の際、最大圧力3MPaで5秒圧縮する代わりに最大圧力1MPaで5秒圧縮した点以外は、実施例1と同様にしてフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0105】
[実施例6]
厚み0.2mmの熱伝導シート(I)の代わりに厚み0.5mmの熱伝導シート(II)を作製し、作製した熱伝導シート(II)を用いた点、及びフロー性評価の際、最大圧力3MPaで5秒圧縮する代わりに最大圧力1MPaで5秒圧縮した点以外は、実施例2と同様にしてフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0106】
[比較例1]
実施例1と同様の条件で熱伝導シート(I)を作製した。作製した熱伝導シート(I)に銅箔を圧着せずに、前述のフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0107】
[比較例2]
実施例1と同様の条件で熱伝導シート(I)を作製した。作製した熱伝導シート(I)の外周部に、孔無し銅箔(貫通孔を設ける前の銅箔、厚み0.012mm、JX金属株式会社製、JIS:C1100)を実施例1と同様の条件で圧着させ、銅箔付き熱伝導シートを作製した。そして、前述のフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0108】
[比較例3]
実施例5と同様の条件で熱伝導シート(II)を作製した。作製した熱伝導シート(II)に銅箔を圧着せずに、前述のフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0109】
[比較例4]
実施例5と同様の条件で熱伝導シート(II)を作製した。作製した熱伝導シート(II)の外周部に、孔無し銅箔(貫通孔を設ける前の銅箔、厚み0.012mm、JX金属株式会社製、JIS:C1100)を実施例5と同様の条件で圧着させ、銅箔付き熱伝導シートを作製した。そして、前述のフロー評価を行った。
フロー評価の結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示すように、比較例1及び比較例3では、外枠部が設けられていないため、変化率が120%以上となっており、熱伝導シート(I)及び熱伝導シート(II)がつぶれ、フロー量が多かった。
さらに、比較例2及び比較例4の孔無し銅箔付き熱伝導シートでは、フローをある程度抑制する効果は得られているが、その効果は十分でなかった。
一方、実施例1〜実施例6の孔あき銅箔又は不織布である外枠部を備える熱伝導シートでは、変化率が、熱伝導シートの厚み及び圧縮圧力条件が同じ比較例1〜4とそれぞれ比較して小さく、フローを抑制することができた。
なお、実施例1〜実施例6のフロー評価後の試験片の外枠部の孔を上部から顕微鏡により観察した結果、熱伝導シートの成分が孔内に入りこんでいる状態が確認された。孔内に熱伝導シート部の成分が入りこむことにより、中心から外周部方向へかかるフロー力(圧力)が緩和され、さらに、アンカー効果により、フローが抑制されたと考えられる。