(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のある実施形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
ここで、本明細書において“質量%”と“重量%”、“質量ppm”と“重量ppm”とは、それぞれ同義である。また、単に“ppm”と記載した場合は、“重量ppm”のことを示す。
【0018】
<化学強化ガラス>
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、ガラス表面に、イオン交換された圧縮応力層を有する。
本明細書において圧縮応力層とは、原料であるガラスを硝酸カリウム等の無機塩と接触させることによって、ガラス表面の金属イオン(Naイオン)と無機塩中のイオン半径の大きいイオン(Kイオン)とがイオン交換されることで形成される高密度層のことである。ガラス表面が高密度化することで圧縮応力が発生し、ガラスを強化することができる。
【0019】
(ガラス組成)
本実施の形態で使用されるガラスはホウ素及びナトリウムを含んでいればよく、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有するものである限り、種々の組成のものを使用することができる。具体的には、例えば、ボロシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。
ホウ素を含むガラスであることで、面強度と透過率のバランスに優れた化学強化ガラスを得ることができる。また、ホウ素を含むガラスは、低脆性と高硬度の両方の特徴を有し、高強度が求められる化学強化ガラスに適している。さらに、ホウ素を多く含むガラスは耐酸性が低く、酸等の薬品による処理が容易である。
【0020】
酸化物基準のモル%で表示した組成で、B
2O
3の含有量は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上、よりさらに好ましくは3%以上、特に好ましくは4%以上である。B
2O
3の含有量が0.5%以上であることにより、面強度と透過率のバランスに優れ、低脆性と高硬度の両方の特徴を有し、酸等の薬品による処理が容易な化学強化ガラスを得ることができる。B
2O
3の含有量は好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、よりさらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下である。B
2O
3の含有量が20%以下であることにより、耐酸性が極端に低くならなくなる。
【0021】
SiO
2はガラスの骨格を構成する必須成分であり、また、ガラス表面に傷(圧痕)がついた時のクラックの発生を低減させる、または化学強化後に圧痕をつけた時の破壊率を小さくする成分である。酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO
2が56%以上であることにより、ガラスとしての安定性や耐酸性、耐候性またはチッピング耐性が向上することから好ましい。SiO
2はより好ましくは58%以上、さらに好ましくは60%以上である。SiO
2が72%以下であることにより、ガラスの粘性が低下して溶融性が向上する、または表面圧縮応力を大きくしやすくなることから好ましい。より好ましくは70%以下、さらに好ましくは69%以下である。
【0022】
Al
2O
3はイオン交換性能およびチッピング耐性を向上させるために有効な成分であり、表面圧縮応力を大きくする成分であり、または110°圧子で圧痕をつけた時のクラック発生率を小さくする必須成分である。酸化物基準のモル%で表示した組成で、Al
2O
3が8%以上であることにより、イオン交換により、所望の表面圧縮応力値または圧縮応力層厚みを得ることができることから好ましい。より好ましくは9%以上、さらに好ましくは10%以上である。Al
2O
3が20%以下であることにより、ガラスの粘性が低下し均質な溶融が容易になる、または耐酸性が向上することから好ましい。Al
2O
3はより好ましくは18%以下、さらに好ましくは16%以下、特に好ましくは14%以下である。
【0023】
Na
2Oはイオン交換により表面圧縮応力層を形成させ、またガラスの溶融性を向上させる必須成分である。酸化物基準のモル%で表示した組成で、Na
2Oが8%以上であることにより、イオン交換により所望の表面圧縮応力層を形成することが容易となることから好ましい。より好ましくは9%以上、さらに好ましくは10%以上、特に好ましくは11%以上である。Na
2Oが25%以下であることにより、耐候性または耐酸性が向上する、または圧痕からクラックが発生しにくくなることから好ましい。より好ましくは22%以下、さらに好ましくは21%以下である。耐酸性を特に向上させたい場合、Na
2Oは好ましくは17%以下、より好ましくは16.5%以下である。
【0024】
さらに具体的には、例えば、以下のガラスの組成が挙げられる。
酸化物基準のモル%で表示した組成で、SiO
2を56〜72%、Al
2O
3を8〜20%、B
2O
3を3〜20%、Na
2Oを8〜25%、K
2Oを0〜5%、MgOを0〜15%、CaOを0〜15%、SrO
2を0〜15%、BaOを0〜15%およびZrO
2を0〜8%を含むガラス
【0025】
(デルタ透過率)
本実施の形態の化学強化ガラスはさらに、デルタ透過率が+0.1%以上であり、好ましくは+0.2%以上である。本実施の形態においてデルタ透過率は下記方法により算出される。デルタ透過率がプラスとなることより、本実施の形態の化学強化ガラスは透過率が高いガラスであると言える。
〔デルタ透過率の算出方法〕
化学強化ガラスを2つに切断し、ガラスAおよびガラスBを準備する。ガラスAの波長400nmにおける透過率を、島津製作所社製紫外可視分光光度計(SolidSpec−3700)を用いて測定する。ガラスBは、HFおよびHClの混合液でガラス片面における除去量が0.05〜0.10mmとなるようにエッチング処理を行う。エッチング処理を行ったガラスBに対し化学強化処理を行う。化学強化処理は、硝酸カリウム100重量%の無機塩を450℃に加熱した溶融塩に、ガラスBを2時間接触させる。化学強化処理後のガラスBの波長400nmにおける透過率を、ガラスAと同様の方法で測定する。デルタ透過率は、ガラスAの透過率からガラスBの透過率を減じることで求められる。
【0026】
(水素濃度プロファイル)
本実施の形態の化学強化ガラスは、ガラス表層における水素濃度プロファイルが特定の範囲にある。具体的には、ガラスの最表面からの深さXの領域における水素濃度Yを線形近似した直線が、X=0.1〜0.4(μm)において下記関係式(I)を満たす。
Y=aX+b (I)
〔式(I)における各記号の意味は下記の通りである。
Y:水素濃度(H
2O換算、mol/L)
X:ガラスの最表面からの深さ(μm)
a:−0.390〜−0.010
b:0.060〜0.250〕
【0027】
ガラスの強度に関し、ガラス中の水素(水分)の存在によってガラスの強度が低下することは知られているが、本発明者らは、化学強化処理後に強度が低下することがあり、その主原因は雰囲気中の水分がガラスに侵入することにより化学的欠陥が生成するためであることを見出した。また、この現象は化学強化に限らず、ガラスの製造工程において昇温工程を経ることにより発生することも見出されている。
ガラス中の水素濃度が高いと、ガラスのSi−O−Siの結合ネットワークの中に水素がSi−OHの形で入り、Si−O−Siの結合が切れる。ガラス中の水素濃度が高いとSi−O−Siの結合が切れる部分が多くなり、化学的欠陥が生成され易くなり、強度が低下すると考えられる。
【0028】
上記関係式(I)は、最表面からの深さX=0.1〜0.4μmの領域において成り立つものである。イオン交換により形成される圧縮応力層の厚さは、化学強化の程度によるが、5〜50μmの範囲で形成される。そして、ガラスへの水素の侵入深さは、拡散係数、温度および時間に従い、水素の侵入量はこれらに加えて雰囲気中の水分量が影響する。化学強化後の水素濃度は、最表面が最も高く、圧縮応力層が形成されていない深部(バルク)にかけて徐々に低下する。上記関係式(I)はその低下具合を規定したものであるが、最表面(X=0μm)では、経時変質により水分濃度が変化する可能性があるため、その影響がないと考えられる近表面(X=0.1〜0.4μm)の領域において成り立つものとした。
【0029】
式(I)において、aは水素濃度の低下具合を規定する傾きである。aの範囲は−0.390〜−0.010であり、好ましくは−0.280〜−0.030であり、より好ましくは−0.170〜−0.050である。
式(I)において、bは最表面(X=0μm)における水素濃度に相当する。bの範囲は0.060〜0.250であり、好ましくは0.080〜0.220であり、より好ましくは0.100〜0.190である。
【0030】
一般的に、ガラスの強度低下は、外部からの機械的な圧力によりガラス表面に存在する微小クラックが伸展することが原因と考えられている。非特許文献2によれば、クラックの先端のガラス構造がSi−OHリッチな状態であるほど、クラックが伸展しやすいと考察されている。クラックの先端が雰囲気中に暴露されていると仮定すれば、クラックの先端のSi−OH量は、ガラス最表面の水素濃度と正の相関を示すと推測される。従って、最表面の水素濃度に相当するbは上記に示す程度の低い範囲が好ましい。
図4および
図5に示す通り、化学強化工程を経たガラスについては、水素の侵入深さに顕著な違いが認められなかった。水素の侵入深さは化学強化工程条件に依存して変化する可能性が高いが、仮に変化しないとすれば、最表面の水素濃度に相当するbと水素濃度の低下具合を規定する傾きに相当するaには負の相関が現れる。従って、aは上記に示す程度の高い範囲が好ましい。
【0031】
このように、本発明では、表層の水素濃度そのもののみを規定するのではなく、水素濃度プロファイルに着目し、表層水素濃度とその低下具合を特定の範囲に規定することで、化学強化ガラスの強度を大幅に向上できることを見出したものである。
【0032】
〔水素濃度プロファイル測定方法〕
ここで、ガラスの水素濃度プロファイル(H
2O濃度、mol/L)とは以下の分析条件下で測定したプロファイルである。
ガラス基板の水素濃度プロファイルの測定には二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometory:SIMS)を用いた。SIMSにて定量的な水素濃度プロファイルを得る場合には、水素濃度既知の標準試料が必要である。標準試料の作製方法および水素濃度定量方法を以下に記す。
1)測定対象のガラス基板の一部を切り出す。
2)切り出したガラス基板の表面から50μm以上の領域を研磨あるいはケミカルエッチングによって除去する。除去処理は両面とも行う。すなわち、両面での除去厚みは100μm以上となる。この除去処理済みガラス基板を標準試料とする。
3)標準試料について赤外分光法(Infrared spectroscopy:IR)を実施し、IRスペクトルの3550cm
−1付近のピークトップの吸光度高さA
3550および4000cm
−1の吸光度高さA
4000(ベースライン)を求める。
4)標準試料の板厚d(cm)をマイクロメーターなどの板厚測定器を用いて測定する。
5)文献Aを参考に、ガラスのH
2Oの赤外実用吸光係数ε
pract(L/(mol・cm))を75とし、式IIを用いて標準試料の水素濃度(H
2O換算、mol/L)を求める。
標準試料の水素濃度 = (A
3550−A
4000)/(ε
pract・d)・・・式II
文献A)S.Ilievski et al.,Glastech.Ber.Glass Sci.Technol.,73(2000)39.
【0033】
測定対象のガラス基板と上記の方法によって得られた水素濃度既知の標準試料を同時にSIMS装置内へ搬送し、順番に測定を行い、
1H
−および
30Si
−の強度の深さ方向プロファイルを取得する。その後、
1H
−プロファイルから
30Si
−プロファイルを除して、
1H
−/
30Si
−強度比の深さ方向プロファイルを得る。標準試料の
1H
−/
30Si
−強度比の深さ方向プロファイルより、深さ1.0μmから1.3μmまでの領域における平均
1H
−/
30Si
−強度比を算出し、この値と水素濃度との検量線を、原点を通過するように作成する(1水準の標準試料での検量線)。この検量線を用い、測定対象のガラス基板のプロファイルの縦軸の
1H
−/
30Si
−強度比を水素濃度へ変換する。これにより、測定対象のガラス基板の水素濃度プロファイルを得る。なお、SIMSおよびIRの測定条件は以下の通りである。
【0034】
〔SIMSの測定条件〕
装置:アルバック・ファイ社製 ADEPT1010
一次イオン種:Cs
+
一次イオンの加速電圧:5kV一次イオンの電流値:50nA
一次イオンの入射角:試料面の法線に対して60°
一次イオンのラスターサイズ:300×300μm
2
二次イオンの極性:マイナス
二次イオンの検出領域:60×60μm
2(一次イオンのラスターサイズの4%)
中和銃の使用:有
横軸をスパッタ時間から深さへ変換する方法:分析クレータの深さを触針式表面形状測定器(Veeco社製Dektak150)によって測定し、一次イオンのスパッタレートを求める。このスパッタレートを用いて、横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。
1H
−検出時のField Axis Potential:装置ごとに最適値が変化する可能性がある。バックグラウンドが十分にカットされるように測定者が注意しながら値を設定する。
【0035】
〔IRの測定条件〕
装置:Thermo Fisher Scientific社製Nic−plan/Nicolet 6700
分解能:4cm
−1
積算:16
検出器:TGS検出器
【0036】
上記分析条件により測定したガラスの水素濃度プロファイル(H
2O濃度、mol/L)から関係式(I)を導くには、以下の手順による。
図6及び
図7に示す通り、0.1から0.4μmの深さ領域の水素濃度プロファイルに対して線形近似を行う。得られた近似直線の式を関係式(I)とする。
また、a及びbを制御する手段としては、例えば、化学強化工程における融剤濃度、ナトリウム濃度、温度、時間等を変更することが挙げられる。
【0037】
(ガラス面強度)
本実施の形態の化学強化ガラスの強度(面強度)は、ボールオンリング(Ball on Ring;BOR)試験により評価することができる。
【0038】
(ボールオンリング試験)
本実施の形態の化学強化ガラスは、ガラス板を直径30mm、接触部が曲率半径2.5mmの丸みを持つステンレスからなるリング上に配置し、該ガラス板に直径10mmの鋼からなる球体を接触させた状態で、該球体を静的荷重条件下で該リングの中心に荷重するBOR試験により測定したBOR面強度F(N)で評価する。
本実施の形態の化学強化ガラスは、F≧1500×t
2を満たすことが好ましく、F≧2000×t
2であることがより好ましい[式中、FはBOR試験により測定したBOR面強度(N)であり、tはガラス基板の板厚(mm)である。]。BOR面強度F(N)がかかる範囲であることにより、薄板化した場合にも優れた面強度を示す。
【0039】
図2に、本実施の形態で用いたBOR試験を説明するための概略図を示す。BOR試験では、ガラス板1を水平に載置した状態で、SUS304製の加圧治具2(焼入れ鋼、直径10mm、鏡面仕上げ)を用いてガラス板1を加圧し、ガラス板1の面強度を測定する。
【0040】
図2において、SUS304製の受け治具3(直径30mm、接触部の曲率R2.5mm、接触部は焼入れ鋼、鏡面仕上げ)の上に、サンプルとなるガラス板1が水平に設置されている。ガラス板1の上方には、ガラス板1を加圧するための、加圧治具2が設置されている。
【0041】
本実施の形態においては、実施例及び比較例後に得られたガラス板1の上方から、ガラス板1の中央領域を加圧する。なお、試験条件は下記の通りである。
加圧治具2の下降速度:1.0(mm/min)
この時、ガラスが破壊された際の、破壊荷重(単位N)をBOR面強度とし、20回の測定の平均値をBOR平均面強度とする。ただし、ガラス板の破壊起点がボール押しつけ位置より2mm以上離れている場合は、平均値算出のためのデータより除外する。
【0042】
(端面の表面粗さ)
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、好ましくはガラス端面の算術平均粗さRaが300nm以下であり、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは20nm以下である。端面の算術平均粗さRaをかかる範囲とすることで、曲げ強度が特に高いガラスとすることができる。
なお、端面の算術平均粗さはJIS B0601(2001年)に基づいて測定することができる。測定装置としては、例えば、Mitsutoyo社製Surfest SV−600を使用することができる。測定サンプルを所定の位置にセット後、上記JIS B0601で定められた基準長さ、区間数、ピッチを設定し測定を実施する。測定スキャン速度は0.5mm/secとする。
【0043】
(ガラス曲げ強度(端面強度))
本実施の形態における曲げ強度は、JIS R1601(2008年)に定める試験方法で測定される4点曲げ強度を指標とする。本実施の形態に係る化学強化ガラスは、かかる方法で測定される曲げ強度が300MPa以上、好ましくは500MPa以上、より好ましくは1000MPa以上である。
【0044】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、さらに、下記物性を有する。
AFM表面観察によって測定される測定範囲10μm×5μmにおける主面の表面粗さが、好ましくは0.21nm〜1.0nmである。なお、従来の化学強化ガラス板の表面粗さは0.15nm〜0.2nmである。
【0045】
<化学強化ガラスの製造方法>
ガラスの製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造することができる。
【0046】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用することができる。例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等)、フロート法、ロールアウト法およびプレス法等の様々な成形方法を採用することができる。
【0047】
ガラスの厚みは、特に制限されるものではないが、化学強化処理を効果的に行うために、通常5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。また、後述する酸処理による面強度の向上効果が特に現れる観点から、板厚が1mm以下であることがさらに好ましく、0.7mm以下であることが特に好ましい。
【0048】
また、本実施の形態で使用されるガラスの形状は特に限定されない。例えば、均一な板厚を有する平板形状、表面と裏面のうち少なくとも一方に曲面を有する形状および屈曲部等を有する立体的な形状等の様々な形状のガラスを採用することができる。
【0049】
本実施の形態に係る化学強化ガラスは、ガラス表面に、イオン交換された圧縮応力層を有する。イオン交換法では、ガラスの表面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成させる。具体的には、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(典型的には、Liイオン、Naイオン)をイオン半径のより大きいアルカリイオン(典型的には、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラスの表面に圧縮応力が残留し、ガラスの強度が向上する。
【0050】
本実施の形態の製造方法において、化学強化は、硝酸カリウム(KNO
3)を含有する無機塩にガラスを接触させることにより行なわれる。これによりガラス表面のNaイオンと無機塩中のKイオンとがイオン交換されることで高密度な圧縮応力層が形成される。無機塩にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩を塗布する方法、無機塩の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させる方法が望ましい。
【0051】
無機塩としては化学強化を行うガラスの歪点(通常500〜600℃)以下に融点を有するものが好ましく、本実施の形態においては硝酸カリウム(融点330℃)を含有する塩が好ましい。硝酸カリウムを含有することでガラスの歪点以下で溶融状態であり、かつ使用温度領域においてハンドリングが容易となることから好ましい。無機塩における硝酸カリウムの含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0052】
無機塩はさらに、K
2CO
3、Na
2CO
3、KHCO
3、NaHCO
3、K
3PO
4、Na
3PO
4、K
2SO
4、Na
2SO
4、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含有することが好ましく、中でもK
2CO
3、Na
2CO
3、KHCO
3及びNaHCO
3からなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含有することがより好ましい。
【0053】
上記塩(以下、「融剤」と称することもある。)は、Si−O−Si結合に代表されるガラスのネットワークを切断する性質を有する。化学強化処理を行う温度は数百℃と高いので、その温度下でガラスのSi−O間の共有結合は適度に切断され、後述する酸処理による低密度化が進行しやすくなる。
【0054】
なお、共有結合を切断する度合いはガラス組成や用いる塩(融剤)の種類、化学強化処理を行う温度、時間等の化学強化処理条件によっても異なるが、Siから伸びている4本の共有結合のうち、1〜2本の結合が切れる程度の条件を選択することが好ましいものと考えられる。
【0055】
例えば融剤としてK
2CO
3を用いる場合には、無機塩における融剤の含有量を0.1mol%以上とし、化学強化処理温度を350〜500℃とすると、化学強化処理時間は1分〜10時間が好ましく、5分〜8時間がより好ましく、10分〜4時間がさらに好ましい。
【0056】
融剤の添加量は表面水素濃度制御の点から0.1mol%以上が好ましく、0.5mol%以上がさらに好ましく、1mol%以上がより好ましく、2mol%以上が特に好ましい。また生産性の観点から各塩の飽和溶解度以下が好ましい。過剰に添加するとガラスの腐食につながるおそれがある。例えば、融剤としてK
2CO
3を用いる場合には、24mol%以下が好ましく、12mol%以下がより好ましく、8mol%以下が特に好ましい。
【0057】
無機塩は、硝酸カリウム及び融剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化学種を含んでいてもよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のアルカリ塩酸塩やアルカリホウ酸塩などが挙げられる。これらは単独で添加しても、複数種を組み合わせて添加してもよい。
以下、ガラスを溶融塩に浸漬させる方法により化学強化を行う態様を例に、本発明のある実施形態の製造方法を説明する。
【0058】
(溶融塩の製造1)
溶融塩は下記に示す工程により製造することができる。
工程1a:硝酸カリウム溶融塩の調製
工程2a:硝酸カリウム溶融塩への融剤の添加
【0059】
(工程1a−硝酸カリウム溶融塩の調製−)
工程1aでは、硝酸カリウムを容器に投入し、融点以上の温度に加熱して溶融することで、溶融塩を調製する。溶融は硝酸カリウムの融点(330℃)と沸点(500℃)の範囲内の温度で行う。特に溶融温度を350〜470℃とすることが、ガラスに付与できる表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスおよび強化時間の点からより好ましい。
【0060】
硝酸カリウムを溶融する容器は、金属、石英、セラミックスなどを用いることができる。中でも、耐久性の観点から金属材質が望ましく、耐食性の観点からはステンレススチール(SUS)材質が好ましい。
【0061】
(工程2a−硝酸カリウム溶融塩への融剤の添加−)
工程2aでは、工程1aで調製した硝酸カリウム溶融塩中に、先述した融剤を添加し、温度を一定範囲に保ちながら、攪拌翼などにより、全体が均一になるように混合する。複数の融剤を併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。
温度は硝酸カリウムの融点以上、すなわち330℃以上が好ましく、350〜500℃がより好ましい。また、攪拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0062】
(溶融塩の製造2)
上記の溶融塩の製造1では、硝酸カリウムの溶融塩の調製後に融剤を加える方法を例示したが、溶融塩はまた、下記に示す工程により製造することができる。
工程1b:硝酸カリウムと融剤の混合
工程2b:硝酸カリウムと融剤との混合塩の溶融
【0063】
(工程1b―硝酸カリウムと融剤の混合―)
工程1bでは、硝酸カリウムと融剤とを容器に投入して、攪拌翼などにより混合する。複数の融剤を併用する場合、添加順序は限定されず、同時に添加してもよい。容器は上記工程1aで用いるものと同様のものを用いることができる。
【0064】
(工程2b―硝酸カリウムと融剤との混合塩の溶融―)
工程2bでは、工程1bにより得られる混合塩を加熱して溶融する。溶融は硝酸カリウムの融点(330℃)と沸点(500℃)の範囲内の温度で行う。特に溶融温度を350〜470℃とすることが、ガラスに付与できる表面圧縮応力(CS)と圧縮応力層深さ(DOL)のバランスおよび強化時間の点からより好ましい。攪拌時間は1分〜10時間が好ましく、10分〜2時間がより好ましい。
【0065】
上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bを経て得られる溶融塩において、融剤の添加により析出物が発生する場合には、ガラスの化学強化処理を行う前に、当該析出物が容器の底に沈殿するまで静置する。この析出物には、飽和溶解度を超えた分の融剤や、融剤のカチオンが溶融塩中で交換された塩が含まれる。
【0066】
本実施の形態の製造方法で用いる溶融塩は、Na濃度が好ましくは500重量ppm以上であり、より好ましくは1000重量ppm以上である。溶融塩におけるNa濃度が500重量ppm以上であることで、後述する酸処理工程により、低密度層が深化しやすくなるため好ましい。Na濃度の上限としては特に制限はなく、所望の表面圧縮応力(CS)が得られるまで許容できる。
なお、化学強化処理を1回以上行なった溶融塩にはガラスから溶出したナトリウムが含まれている。したがって、Na濃度が既に上記範囲内であれば、ガラス由来のナトリウムをそのままNa源として用いてもよいし、Na濃度が満たない場合や、化学強化未使用の溶融塩を用いる場合には、硝酸ナトリウム等の無機ナトリウム塩を添加することにより調整することができる。
以上、上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bにより、溶融塩を調製することができる。
【0067】
(化学強化)
次に、調製した溶融塩を用いて化学強化処理を行う。化学強化処理は、ガラスを溶融塩に浸漬し、ガラス中の金属イオン(Naイオン)を、溶融塩中のイオン半径の大きな金属イオン(Kイオン)と置換することで行われる。このイオン交換によってガラス表面の組成を変化させ、ガラス表面が高密度化した圧縮応力層20を形成することができる[
図1(a)〜
図1(b)]。このガラス表面の高密度化によって圧縮応力が発生することから、ガラスを強化することができる。
【0068】
なお実際には、化学強化ガラスの密度は、ガラスの中心に存在する中間層30(バルク)の外縁から圧縮応力層表面に向かって徐々に高密度化してくるため、中間層30と圧縮応力層20との間には、密度が急激に変化する明確な境界はない。ここで中間層とは、ガラス中心部に存在し、圧縮応力層に挟まれる層を表す。この中間層は圧縮応力層とは異なり、イオン交換がされていない層である。
【0069】
本実施の形態における化学強化処理は、具体的には、下記工程3により行うことができる。
工程3:ガラスの化学強化処理
【0070】
(工程3−ガラスの化学強化処理−)
工程3では、ガラスを予熱し、上記工程1a及び工程2a又は工程1b及び工程2bで調製した溶融塩を、化学強化を行う温度に調整する。次いで予熱したガラスを溶融塩中に所定の時間浸漬したのち、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷する。なお、ガラスには、化学強化処理の前に、用途に応じた形状加工、例えば、切断、端面加工および穴あけ加工などの機械的加工を行うことが好ましい。
【0071】
ガラスの予熱温度は、溶融塩に浸漬する温度に依存するが、一般に100℃以上であることが好ましい。
【0072】
化学強化温度は、被強化ガラスの歪点(通常500〜600℃)以下が好ましく、より高い圧縮応力層深さを得るためには特に350℃以上が好ましい。
【0073】
ガラスの溶融塩への浸漬時間は1分〜10時間が好ましく、5分〜8時間がより好ましく、10分〜4時間がさらに好ましい。かかる範囲にあれば、強度と圧縮応力層の深さのバランスに優れた化学強化ガラスを得ることができる。
【0074】
本実施の形態の製造方法では続いて、化学強化処理後に下記工程を行う。
工程4:ガラスの洗浄
工程5:工程4を経た後のガラスの酸処理
上記工程5まで経た時点で、ガラス表面には圧縮応力層の極表層が変質した、具体的には低密度化された、低密度層10をさらに有することとなる[
図1(b)〜
図1(c)]。低密度層とは、圧縮応力層の最表面からNaやKが抜け(リーチングし)、代わりにHが入り込む(置換する)ことによって形成される。
この低密度層が存在することで本実施の形態の化学強化ガラスの透過率が高いことに寄与するものと考えられる。
以下、工程4及び工程5について詳述する。
【0075】
(工程4−ガラスの洗浄−)
工程4では工水、イオン交換水等を用いてガラスの洗浄を行う。中でもイオン交換水が好ましい。洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0〜100℃で洗浄することが付着した塩を完全に除去させる点から好ましい。
【0076】
(工程5−酸処理−)
工程5では、工程4で洗浄したガラスに対して、さらに酸処理を行う。
ガラスの酸処理とは、酸性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより化学強化ガラス表面のNa及び/又はKをHに置換することができる。
溶液は酸性であれば特に制限されずpH7未満であればよく、用いられる酸が弱酸であっても強酸であってもよい。具体的には塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、炭酸及びクエン酸等の酸が好ましい。これらの酸は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
酸処理を行う温度は、用いる酸の種類や濃度、時間によっても異なるが、100℃以下で行うことが好ましい。
酸処理を行う時間は、用いる酸の種類や濃度、温度によっても異なるものの、10秒〜5時間が生産性の点から好ましく、1分〜2時間がより好ましい。
酸処理を行う溶液の濃度は、用いる酸の種類や時間、温度によって異なるものの、容器腐食の懸念が少ない濃度が好ましく、具体的には0.05重量%〜20重量%が好ましい。
【0078】
上記酸処理工程5の終了後に、工程4と同様の洗浄工程を有することが好ましい。洗浄工程で用いられる洗浄液は中性または弱酸性であることが好ましく、水であることが特に好ましい。
【0079】
また、上記酸処理工程5および上記洗浄工程の終了後には、アルカリ処理を行わないことが好ましい。アルカリ処理とは、塩基性(pH7超過)の溶液中に化学強化ガラスを浸漬させることによって行わる。溶液としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基や、これらの組合せが挙げられる。アルカリ処理を行うことで、化学強化ガラスのデルタ透過率が低下してしまう。
【0080】
加えて、上記酸処理工程5および上記洗浄工程の終了後には、化学強化ガラスの面研磨やエッチング処理を行わないことが好ましい。面研磨やエッチング処理を行うことによっても、化学強化ガラスのデルタ透過率が低下してしまう。
【0081】
(鏡面研磨)
本実施の形態の製造方法では、ガラス表面に圧縮応力層を有するために行う化学強化処理(工程3)の前に、ガラス端面を鏡面研磨することが好ましい。これによりガラスの曲げ強度を高めることができる。ガラス端面とは、一方のガラス主面(表面)と他方のガラス主面(裏面)とを接続する面を指す。ガラス端面とは例えば、ガラス板の素板を切り出したときの切断面を指し、また、必要に応じて切断後に面取り加工を施した場合は面取り面を含む。鏡面研磨とは、研磨後の端面の算術平均粗さRaが300nm以下、好ましくは50nm以下、より好ましくは20nm以下となるような研磨工程であることが好ましい。なお、本実施の形態の製造方法では、鏡面研磨後に、イオン交換、洗浄、酸処理等の各工程を行なうが、これらの工程によって端面の算術平均粗さが影響されることは少ない。したがって、鏡面研磨後の端面の表面粗さは、全工程を経て得られる本実施の形態の化学強化ガラスの端面の表面粗さとほぼ同等となる。
【0082】
鏡面研磨の方法としては、研磨後の端面の算術平均粗さRaが上記範囲を達成できれば特に限定されない。具体的には、研磨砥粒を含有する研磨剤を供給しながら連続的に運動するブラシをガラス端面に接触させる方法、いわゆる遊離砥粒によって研磨する方法、番手の大きい砥粒を固着した固定砥粒(砥石)によって研磨する方法等が挙げられる。また、研磨に代えて端面にエッチング処理を実施してもよい。これらの方法を適宜選択し、研磨時間等を調整することにより、研磨後の端面の算術平均粗さRaが上記範囲となるように鏡面研磨を行うことができる。
【0083】
研磨砥粒を含有する研磨剤を供給しながら連続的に運動するブラシをガラス端面に接触させる方法を具体的に説明する。
図3は、ガラス板1の端面1Cを研磨するブラシ研磨装置130の側面図である。同図に示すブラシ研磨装置130は、複数枚のガラス板1を積層して積層体120を構成し、その積層体120の外周部を回転する研磨ブラシ134によって研磨して、個々のガラス板1の端面1Cを一括して研磨する装置である。積層体120を構成する際には、ガラス板1が間隔調整部材122を介在させて積層され、積層方向の間隔が所定の値に調整される。
【0084】
ブラシ研磨装置130は積層体保持部132、研磨ブラシ134、研磨ブラシ134を駆動する駆動部(不図示)、及び研磨液138を供給する研磨液供給部136を備えている。
【0085】
積層体保持部132は、積層体120を着脱可能に保持する。同図に示す例では、積層体120を積層方向の両側から挟んで保持している。
【0086】
研磨ブラシ134は、軸134Aと、軸134Aの外周に放射状に設けられた多数のブラシ毛134Bとによって構成される。軸134Aは、所定の外径を有する円筒状に形成される。ブラシ毛134Bは、帯状体に植設されたものを軸134Aの外周に螺旋状に巻き付けることによって、軸134Aの外周に設けられる。ブラシ毛134Bは、例えば、ポリアミド樹脂等からなる可撓性の線材で構成される。この線材には、アルミナ(Al
2O
3)、炭化ケイ素(SiC)、ダイヤモンド等の粒子が含まれていてもよい。
【0087】
研磨液供給部136は、研磨ブラシ134と積層体120との接触部に研磨液を供給する。研磨液138は、研磨材と分散媒とを含有し、所定の比重に調整される。研磨材としては、例えば、酸化セリウム、ジルコニア等が使用される。研磨材の平均粒径(D50)は、例えば、5μm以下であり、好ましくは2μm以下である。研磨液の比重は、1.1〜1.4とすることが好ましい。
【0088】
次に、ブラシ研磨装置130の作用について説明する。
【0089】
まず、研磨ブラシ134を一定の回転速度で回転させる。
次に、研磨ブラシ134を積層体120に向けて水平に移動させ、研磨ブラシ134を積層体120の外周部に押圧当接させる。この際、所定の押し込み量で当接するように、研磨ブラシ134を水平に移動させる。
【0090】
次に、研磨ブラシ134と積層体120との接触部に研磨液供給部136から研磨液138を所定の供給量で供給する。
【0091】
次に、研磨ブラシ134を軸方向(ガラス板1の積層方向)に所定速度で往復移動させる。これにより、複数枚のガラス板1の端面1Cを一括して研磨処理することができ、端面1Cの算術平均粗さRaが300nm以下のガラス板1を得ることができる。
【0092】
本実施の形態の製造方法によれば取り扱う薬液の安全性が高いため特別な設備を必要としない。したがって、透過率が高くかつ面強度が格段に向上した化学強化ガラスを安全かつ効率的に得ることができる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0094】
<評価方法>
本実施例における各種評価は以下に示す分析方法により行った。
(ガラスの評価:表面応力)
本実施例の化学強化ガラスの圧縮応力層の圧縮応力値および圧縮応力層の深さは、表面応力計(例えば、折原製作所製FSM−6000)等を用いて測定することができる。また、圧縮応力層の深さは、EPMA(electron probe micro analyzer)等を用いて測定したイオン交換深さによって代用することができる。実施例では、表面圧縮応力値(CS、単位はMPa)および圧縮応力層の深さ(DOL、単位はμm)は折原製作所社製表面応力計(FSM−6000)を用いて測定した。
【0095】
(ガラスの評価:除去量)
ガラスの除去量厚みは、薬液処理前後の重量を分析用電子天秤(HR−202i;AND製)により測定し、次の式を用いて厚み換算することにより求めた。
(片面あたりの除去量厚み)=[(処理前重量)−(処理後重量)]/(ガラス比重)/処理面積/2
このとき、ガラス比重を2.48(g/cm
3)として計算した。
【0096】
(ガラスの評価:面強度)
ガラス面強度は前述の(ボールオンリング試験)にて記載の方法に従い、面強度を測定した。
【0097】
(ガラスの評価:水素濃度)
前述の〔水素濃度プロファイル測定方法〕にて記載した方法に従い、水素濃度プロファイルを測定し、関係式(I)を導出した。
【0098】
(ガラスの評価:デルタ透過率)
前述の〔デルタ透過率の算出方法〕にて記載した方法に従い、透過率を測定し、デルタ透過率を算出した。エッチング処理は、HF10重量%、HCl18.5重量%を含む25℃の水溶液にガラスを300秒間程度浸漬し、イオン交換水で洗浄することにより行った。ガラス片面における除去量は0.09mmである。
【0099】
(ガラスの評価:ガラス端面の表面粗さ)
ガラス端面の表面粗さはJIS B0601(2001年)に基づいて測定した。
装置はMitsutoyo社製Surfest SV−600を使用し、測定サンプルを所定の位置にセット後、上記JIS B0601(2001年)で定められた基準長さ、区間数、ピッチを設定し測定を実施した。測定スキャン速度は0.5mm/secとした。
【0100】
<実施例1>
(化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム5100g、炭酸カリウム270g、硝酸ナトリウム210gを加え、マントルヒーターで450℃まで加熱して炭酸カリウム6mol%、ナトリウム10000重量ppmの溶融塩を調製した。50mm×50mm×0.56mmのアルミノボロシリケートガラスXを用意し、200〜400℃に予熱した後、450℃の溶融塩に2時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは水洗いし、次の工程に供した。
アルミノボロシリケートガラスX組成(モル%表示):SiO
2 67%、B
2O
3 4%、Al
2O
3 13%、Na
2O 14%、K
2O <1%、MgO 2%、CaO <1%
【0101】
(酸処理工程)
1.5重量%の硝酸(HNO
3;関東化学社製)をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて41℃に温度調整を行った。前記化学強化工程で得られたガラスを、調整した硝酸中に120秒間浸漬させ、酸処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
以上より、実施例1の化学強化ガラスを得た。
【0102】
<実施例2>
1.5重量%の硝酸の代わりに、0.5重量%の硝酸を使用した点以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0103】
<実施例3>
1.5重量%の硝酸の代わりに、3.6重量%の塩酸(HCl;関東化学社製)を使用した点以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0104】
<比較例1>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表1に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程を実施していないこと以外は実施例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0105】
<比較例2>
化学強化工程の後、下記条件のフッ酸エッチング処理を行ったこと以外は比較例1と同様に化学強化ガラスを製造した。
フッ酸エッチング:HF1.0重量%、HCl18.5重量%を含む25℃の水溶液に化学強化後のガラス板を120秒間浸漬し、イオン交換水で洗浄した。
【0106】
<参考例1>
酸処理工程の後、下記アルカリ処理工程を行った以外は実施例1と同様にして化学強化ガラスを製造した。
(アルカリ処理工程)
4.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて40℃に温度調整を行った。酸処理工程で得られたガラスを、調整した水酸化ナトリウム水溶液中に120秒間浸漬させ、アルカリ処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
【0107】
こうして得られた化学強化ガラスについて各種評価を行なった。結果を表1に示す。
また、
図4及び
図5に、実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2、参考例で得られた各化学強化ガラスの表層の水素濃度プロファイルをプロットしたグラフを示す。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例の化学強化ガラスは、透過率が高くかつ面強度が大幅に向上したことが分かる。
【0110】
次に、端面研磨工程を加えた実施例について説明する。
【0111】
<実施例4>
(端面研磨工程)
50mm×50mm×0.55mmのアルミノボロシリケートガラスXを100枚用意し、
図3に示すブラシ研磨装置130を用いて端面を研磨した。研磨液は、分散体を水として、平均粒径(D50)1.5μmの酸化セリウムからなる研磨材を分散させたものを使用した。
アルミノボロシリケートガラスX組成(モル%表示):SiO
2 67%、B
2O
3 4%、Al
2O
3 13%、Na
2O 14%、K
2O <1%、MgO 2%、CaO <1%
【0112】
(化学強化工程)
SUS製のカップに硝酸カリウム5100g、炭酸カリウム270g、硝酸ナトリウム210gを加え、マントルヒーターで450℃まで加熱して炭酸カリウム6mol%、ナトリウム6000重量ppmの溶融塩を調製した。上記端面研磨工程後のアルミノボロシリケートガラスXを200〜400℃に予熱した後、450℃の溶融塩に2時間浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは水洗いし、次の工程に供した。
【0113】
(酸処理工程)
6.0重量%の硝酸(HNO
3;関東化学社製)をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて40℃に温度調整を行った。前記化学強化工程で得られたガラスを、調製した硝酸中に120秒間浸漬させ、酸処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
以上より、実施例4の化学強化ガラスを得た。
【0114】
<比較例3>
化学強化工程において溶融塩中のナトリウム量が表2に示す値であり、炭酸カリウム添加量を0gとし、酸処理工程を実施していないこと以外は実施例4と同様に化学強化ガラスを製造した。
【0115】
<参考例2>
酸処理工程の後、下記アルカリ処理工程を行った以外は実施例4と同様にして化学強化ガラスを製造した。(アルカリ処理工程)
4.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて40℃に温度調整を行った。酸処理工程で得られたガラスを、調整した水酸化ナトリウム水溶液中に120秒間浸漬させ、アルカリ処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
【0116】
こうして得られた化学強化ガラスについて各種評価を行なった。結果を表2に示す。なお、図示しないが、実施例4は、実施例3と同様の水素濃度プロファイルを示し、比較例3は、比較例1と同様の水素濃度プロファイルを示し、参考例2は、参考例1と同様の水素濃度プロファイルを示した。また、面強度についても、実施例4は実施例3と同等であり、比較例3は比較例1と同等であり、参考例2は参考例1と同等であった。
【0117】
【表2】
【0118】
実施例の化学強化ガラスは、透過率が高くかつ、端面を鏡面研磨されたことにより面強度がより大幅に向上したことが分かる。
【0119】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2015年1月20日出願の日本特許出願(特願2015−008853)、および、2015年7月15日出願の日本特許出願(特願2015−141400)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。