特許第6809386号(P6809386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6809386原料供給方法およびシリコン単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809386
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】原料供給方法およびシリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20201221BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20201221BHJP
   C30B 15/28 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C30B29/06 502A
   C30B15/14
   C30B15/28
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-114880(P2017-114880)
(22)【出願日】2017年6月12日
(65)【公開番号】特開2019-1665(P2019-1665A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2019年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 塁
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−180799(JP,A)
【文献】 国際公開第02/068732(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/063023(WO,A1)
【文献】 特開2009−221062(JP,A)
【文献】 特開2008−069055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際し、坩堝内のシリコン融液に固体のシリコン原料をチャージする原料供給方法であって
記坩堝を囲むメインヒータのパワーと前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータのパワーとを制御し、チャージされた前記シリコン原料を融解する複数回の融解工程を備え
2回目の前記融解工程は、チャージ前における前記シリコン融液の残量に基づいて、前記メインヒータのパワーを1回目の前記融解工程のパワーよりも上げるとともに、前記ボトムヒータのパワーを前記1回目の前記融解工程のパワーよりも下げる制御、若しくは、前記メインヒータおよび前記ボトムヒータのパワーを前記1回目の前記融解工程のパワーと同じにする制御、いずれかを行うことを特徴とする原料供給方法。
【請求項2】
請求項1に記載の原料供給方法において、
前記融解工程は、チャージ前における前記シリコン融液の残量が基準量未満の場合、前記メインヒータおよび前記ボトムヒータのパワーを、引き上げ工程または直前の前記融解工程のパワーと同じにすることを特徴とする原料供給方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の原料供給方法において、
3回目以降の前記融解工程は、チャージ前における前記シリコン融液の残量が基準量以上の場合、前記メインヒータのパワーを直前の前記融解工程時のパワーよりも上げるとともに、前記ボトムヒータのパワーを直前の前記融解工程時のパワーよりも下げることを特徴とする原料供給方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の原料供給方法において
前記シリコン原料をチャージする前に、前記メインヒータおよび前記ボトムヒータのパワーを下げて前記シリコン融液の表面を固化させる固化工程を備えることを特徴とする原料供給方法。
【請求項5】
請求項4に記載の原料供給方法において、
前記固化工程は、前記シリコン原料をチャージする前における前記シリコン融液の残量が増えるにしたがって、前記シリコン融液の表面を固化させるために設定する前記メインヒータのパワーを小さくすることを特徴とする原料供給方法。
【請求項6】
チョクラルスキー法を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、
坩堝を囲むメインヒータおよび前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータを用いて、固体のシリコン原料のみが充填された前記坩堝を加熱することで、シリコン融液を生成する初期融液生成工程と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の原料供給方法を用いて、前記シリコン融液に固体のシリコン原料をチャージするリチャージ工程とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
チョクラルスキー法を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、
坩堝を囲むメインヒータおよび前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータを用いて、固体のシリコン原料のみが充填された前記坩堝を加熱することで、シリコン融液を生成する初期融液生成工程と、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の原料供給方法を用いて、前記シリコン融液に固体のシリコン原料をチャージする追加チャージ工程と、
前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料供給方法およびシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際し、坩堝内のシリコン融液に固体のシリコン原料をチャージする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の方法では、坩堝の周囲を加熱するサイドヒータと底部を加熱するボトムヒータとを用い、固体のシリコン原料が充填された坩堝を加熱することで、シリコン融液を生成する。そして、新たに固体のシリコン原料をチャージするときには、サイドヒータのパワーを上げるとともに、ボトムヒータのパワーを0にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−180799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような方法では、チャージ前におけるシリコン融液の残量にかかわらず、サイドヒータとボトムヒータとのパワーを、同じように制御している。このため、チャージ前のシリコン融液の残量が少ない場合、シリコン融液の液面から坩堝底部までの距離が短く、かつ、シリコン融液の熱容量が小さく温度が下がりやすいため、新たにチャージした冷たいシリコン原料によってシリコン融液が固化し、その固化が坩堝底部まで到達して坩堝が破損するおそれがある。
【0005】
このような坩堝の破損を抑制するために、ボトムヒータのパワーを0にするのではなくチャージ前の状態を維持し、シリコン融液の加熱量を増やすことで、新たなチャージによるシリコン融液の固化を抑制することが考えられる。しかし、この場合、ボトムヒータのパワーを維持したまま複数回のチャージを行うと、ボトムヒータの加熱によって坩堝の内面が劣化してパーティクルが発生し、このパーティクルに起因してシリコン単結晶に有転位化が発生するおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、チャージ時における坩堝の破損とシリコン単結晶の有転位化とを抑制できる原料供給方法およびシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の原料供給方法は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際し、坩堝内のシリコン融液に固体のシリコン原料をチャージする原料供給方法であって、チャージ前における前記シリコン融液の残量に基づいて、前記坩堝を囲むメインヒータのパワーと前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータのパワーとを制御し、チャージされたシリコン原料を融解する融解工程を備えていることを特徴とする。
【0008】
チャージ前のシリコン融液の残量が少ない場合、上述のように、新たなシリコン原料との接触によるシリコン融液の固化が発生すると、その固化が坩堝底部に到達しやすい。一方、シリコン融液の残量が多い場合、シリコン融液の液面から坩堝底部までの距離が長く、かつ、シリコン融液の熱容量が大きいため、シリコン融液の固化が発生しても、その固化が坩堝底部に到達しにくい。つまり、固化したシリコン融液の底部への到達によって坩堝が破損するリスクは、チャージ前のシリコン融液の残量が少ないほど高くなる。
【0009】
本発明によれば、シリコン融液の残量が少ないため、坩堝の破損リスクが高い場合には、チャージ前と比べて、メインヒータのパワーを上げるとともに、ボトムヒータのパワーを維持することで、シリコン融液の加熱量をチャージ前と同等以上にすることができる。したがって、チャージ時のシリコン融液の固化を抑制でき、坩堝の破損を抑制できる。
また、シリコン融液の残量が多いため、坩堝の破損リスクが低い場合には、チャージ前と比べて、メインヒータのパワーを維持するとともにボトムヒータのパワーを下げる、または、メインヒータのパワーを上げるとともに、ボトムヒータのパワーを下げることで、坩堝内面の劣化が抑制され、パーティクルの発生を抑制できる。したがって、坩堝の破損を抑制できるとともに、シリコン単結晶の有転位化を抑制できる。
なお、シリコン融液の残量が多い場合としては、すでに少なくとも1回のチャージを行っている場合や、シリコン単結晶引き上げ後もシリコン融液が十分に残っている場合が例示できる。
本発明では、融解工程におけるボトムヒータのパワーを0を超える値に制御する。
【0010】
本発明の原料供給方法において、前記融解工程は、前記メインヒータのパワーを上げるとともに、前記ボトムヒータのパワーを下げることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、メインヒータのパワーを上げるとともに、ボトムヒータのパワーを下げるため、シリコン融液の加熱量を大きく減らすことなく、ボトムヒータによる坩堝の劣化を抑制できる。したがって、坩堝の破損とシリコン単結晶の有転位化とを確実に抑制できる。
【0012】
本発明の原料供給方法において、前記融解工程は、前記シリコン融液の残量が基準量未満の場合、前記メインヒータおよび前記ボトムヒータのパワーを維持し、前記基準量以上の場合、前記メインヒータのパワーを上げるとともに、前記ボトムヒータのパワーを下げることが好ましい。
【0013】
シリコン融液の基準量は、チャージ前に坩堝に入っているシリコン融液の深さが245mm程度となる量を目安にすることが好ましい。
本発明によれば、シリコン融液の残量が基準量未満か否かを判断するだけの簡単な方法で、坩堝の破損とシリコン単結晶の有転位化とを確実に抑制できる。
【0014】
本発明の原料供給方法において、前記シリコン原料をチャージする前に、前記メインヒータおよび前記ボトムヒータのパワーを下げて前記シリコン融液の表面を固化させる固化工程を備え、前記融解工程は、前記固化工程前の前記メインヒータのパワーと前記ボトムヒータのパワーとを基準にして前記パワーを制御することが好ましい。
【0015】
シリコン融液表面を固化させずにシリコン原料をチャージする場合、シリコン原料との衝突によってシリコン融液が飛び散って、坩堝内周面に付着して固化するおそれがある。この固化したシリコンがシリコン単結晶の引き上げ中に坩堝内に落下すると、有転位化が発生するおそれがある。
本発明によれば、シリコン融液の表面を固化させてからシリコン原料をチャージすることで、チャージ時におけるシリコン融液の飛び散りに起因する有転位化を抑制できる。
【0016】
本発明の原料供給方法において、前記固化工程は、前記シリコン原料をチャージする前における前記シリコン融液の残量が増えるにしたがって、前記シリコン融液の表面を固化させるために設定する前記メインヒータのパワーを小さくすることが好ましい。
【0017】
本発明によれば、シリコン融液の残量が少ない場合、シリコン融液が固化する時間が早いため、メインヒータのパワーを大きく下げてしまうと、その固化が坩堝底部に到達してしまうおそれがある。一方、シリコン融液の残量が多い場合、シリコン融液が固化する時間が遅いため、メインヒータのパワーをあまり下げないと、固化するまでの時間が長くなってしまうおそれがある。
本発明によれば、シリコン融液の残量が増えるにしたがって、メインヒータのパワーを小さくするため、シリコン融液の固化が坩堝底部に到達することを抑制できるとともに、固化するまでの時間の長期化を抑制できる。
【0018】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、坩堝を囲むメインヒータおよび前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータを用いて、固体のシリコン原料のみが充填された前記坩堝を加熱することで、シリコン融液を生成する初期融液生成工程と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程と、上述の原料供給方法を用いて、前記シリコン融液に固体のシリコン原料をチャージするリチャージ工程とを備えていることを特徴とする。
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法を用いたシリコン単結晶の製造方法であって、坩堝を囲むメインヒータおよび前記坩堝の下方に設けられたボトムヒータを用いて、固体のシリコン原料のみが充填された前記坩堝を加熱することで、シリコン融液を生成する初期融液生成工程と、上述の原料供給方法を用いて、前記シリコン融液に固体のシリコン原料をチャージする追加チャージ工程と、前記シリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ工程とを備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、リチャージ工程や追加チャージ工程における坩堝の破損とシリコン単結晶の有転位化とを抑制できるため、シリコン単結晶の生産性と品質とを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態に係るシリコン単結晶の製造方法の説明図であり、(A)は1回目の融解工程時の状態を示し、(B)は2回目の融解工程時の状態を示し、(C)は融解工程終了時の状態を示す。
図2】前記一実施形態および本発明の実施例における実施例1のリチャージ工程のメインヒータとボトムヒータのパワー制御の説明図。
図3】前記実施例における比較例1のリチャージ工程のメインヒータとボトムヒータのパワー制御の説明図。
図4】前記実施例におけるフリー化率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施形態]
本発明の一実施形態として、シリコン単結晶の製造方法について図面を参照して説明する。
本実施形態では、外周研削後の直胴部の直径が300mmとなるようなシリコン単結晶を製造する場合を例示するが、直径は200mm、450mmなど他の大きさであってもよい。また、抵抗率調整用のドーパントを添加してもよいし、しなくてもよい。
【0022】
まず、図1(A)に示すような単結晶引き上げ装置の坩堝1に固体のシリコン原料を充填する。シリコン原料の充填は、チャンク管方式を用いて行うが、原料フィーダ方式を用いてもよいし、カットロッド方式を用いてもよい。
チャンク管方式で用いる原料供給装置5は、固体のシリコン原料Sを充填したチャンク管と称される円筒状の石英管51を、坩堝1のシリコン融液Mの液面直上まで下降させた後、石英管51の下端開口部に装着されている底蓋52を下方に移動させ、石英管51の下端開口部を開くことにより、シリコン融液Mにシリコン原料Sを供給する。
【0023】
次に、単結晶引き上げ装置は、坩堝1を囲む円筒状のメインヒータ2のパワーと、坩堝1の下方に設けられた円環板状のボトムヒータ3のパワーとを制御し、坩堝1を加熱することで、当該坩堝1内のシリコン原料Sを融解させ、シリコン融液Mを生成する(初期融液生成工程)。
その後、単結晶引き上げ装置は、減圧下の不活性雰囲気中において、坩堝1を回転させつつ上昇させながら、シリコン単結晶を引き上げる(引き上げ工程)。
【0024】
次に、単結晶引き上げ装置は、坩堝1内のシリコン融液Mにシリコン原料Sをチャージする(リチャージ工程、原料供給方法)。リチャージ工程は、図2に示すように、少なくとも1回の固化工程と、固化工程と同じ回数の融解工程とを備えている。
固化工程は、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを当該固化工程を行う前よりも下げてシリコン融液Mの表面を固化させる。
融解工程は、チャージ前におけるシリコン融液Mの残量に基づいて、メインヒータ2のパワーとボトムヒータ3のパワーとを、直前に行われた固化工程前のパワーを基準にして制御し、チャージされたシリコン原料Sを融解する。この融解工程は、ボトムヒータ3のパワーを0を超える値に制御する。
【0025】
1回目の固化工程は、引き上げ工程直後であって、例えばシリコン融液Mの残量が図1(A)に示すような状態のときに、図2に示すように、メインヒータ2のパワー(電力値)を引き上げ工程時のP51からP4に下げるとともに、ボトムヒータ3のパワーを引き上げ工程時のP21から0に下げる。このメインヒータ2およびボトムヒータ3のパワー調整によって、シリコン融液Mの表面が固化する。
なお、図2に示す引き上げ工程時のメインヒータ2のパワーP51は、シリコン単結晶の下端をシリコン融液Mから切り離した後の値であって、シリコン単結晶育成中の値よりも高くなっている。
【0026】
図1(A)に示す状態において行う1回目の融解工程は、固化したシリコン融液Mの表面に原料供給装置5を用いてシリコン原料Sをチャージした後、このチャージ前のシリコン融液Mの残量が基準量未満であるため、図2に示すように、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを固化工程前の引き上げ工程時のパワー(P51、P21)に戻す。つまり、1回目の固化工程前のパワーを維持する。
このような1回目の融解工程を行うことによって、固化した表面が融解して、当該表面上のシリコン原料Sがシリコン融液M内に入り込んで融解し、図1(B)に示すように、シリコン融液Mの量が増える。この1回目の融解工程では、シリコン融液Mの残量が基準量未満であり、液面から坩堝1の底部までの距離が短く、かつ、シリコン融液Mの熱容量が小さく温度が下がりやすいため、新しいシリコン原料Sがシリコン融液M内に入り込んだときに、シリコン融液Mの固化が坩堝1の底部まで到達するおそれがあるが、シリコン融液Mの加熱量が引き上げ工程時と同じため、新しいシリコン原料Sのチャージに起因するシリコン融液Mの固化を抑制でき、坩堝1の破損を抑制できる。
なお、シリコン融液Mの基準量は、坩堝1の直径や深さ、シリコン原料Sのサイズ、1回当たりのシリコン原料Sのチャージ量などによって設定すればよい。
【0027】
次に行う2回目の固化工程は、図2に示すように、メインヒータ2のパワーをP51からP3(<P4)に下げるとともに、ボトムヒータ3のパワーをP21から0に下げることで、1回目の固化工程と同じように、シリコン融液Mの表面を固化させる。
【0028】
2回目の融解工程は、図1(B)に示すように、原料供給装置5を用いてシリコン原料Sをチャージした後、このチャージ前のシリコン融液Mの残量が基準量以上であるため、図2に示すように、メインヒータ2のパワーを1回目の融解工程時のパワー(2回目の固化工程前のパワー)(P51)よりも上げてP61にするとともに、ボトムヒータ3のパワーを1回目の融解工程時のパワー(P21)よりも下げてP11にする。
このような2回目の融解工程を行うことによって、固化した表面上のシリコン原料Sがシリコン融液M内に入り込んで融解し、図1(C)に示すように、シリコン融液Mの量が増える。この2回目の融解工程では、シリコン融液Mの残量が基準量以上であり、液面から坩堝1の底部までの距離が長く、かつ、シリコン融液Mの熱容量が大きく温度が下がりにくいため、新しいシリコン原料Sがシリコン融液M内に入り込んだときに、シリコン融液Mの固化が坩堝1の底部まで到達するおそれがなく、坩堝1の破損を抑制できる。また、ボトムヒータ3のパワーを1回目の融解工程時よりも下げるため、坩堝1の内面の劣化を抑制でき、パーティクルの発生を抑制できる。したがって、次に製造するシリコン単結晶の有転位化を抑制できる。
また、ボトムヒータ3のパワーを下げる一方、メインヒータ2のパワーを1回目の融解工程時よりも上げるため、シリコン融液の加熱量が大きく減ることがなく、新しいシリコン原料Sのチャージに起因するシリコン融液Mの固化を確実に抑制できる。
【0029】
この後、必要に応じて、シリコン融液Mが所望の量になるまで、3回目以降の固化工程および融解工程を行う。
3回目以降の固化工程は、ボトムヒータ3のパワーを1,2回目の固化工程と同じように制御する一方で、メインヒータ2のパワーを直前に行った固化工程時よりも下げる。例えば、図2に示すように、3,4回目の固化工程は、メインヒータ2のパワーをP2(<P3),P1(<P2)に制御する。
また、3回目以降の融解工程は、図2に示すように、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを2回目の融解工程と同じように制御する。
【0030】
そして、リチャージ工程が終了したら、次のシリコン単結晶を引き上げる。上記リチャージ工程では坩堝1からのパーティクルの発生が抑制されるため、当該リチャージ工程後に製造されたシリコン単結晶は、有転位化の発生が抑制される。
【0031】
[実施形態の作用効果]
上記実施形態によれば、シリコン融液Mの残量に基づいて、メインヒータ2とボトムヒータ3のパワーを制御するため、チャージ時における坩堝1の破損とシリコン単結晶の有転位化とを抑制できる。
【0032】
固化工程を行うため、チャージ時にシリコン融液Mが飛び散って坩堝1の内周面に付着することを抑制でき、当該付着物がシリコン単結晶の引き上げ中にシリコン融液Mに落下して、当該引き上げ中のシリコン単結晶への混入に起因する有転位化を抑制できる。
特に、固化工程では、シリコン原料をチャージする前におけるシリコン融液Mの残量が増えるにしたがって、シリコン融液Mの表面を固化させるために設定するメインヒータ2のパワーを小さくするため、シリコン融液Mの固化が坩堝1の底部に到達することを抑制できるとともに、固化するまでの時間の長期化を抑制できる。
【0033】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0034】
例えば、上記実施形態では、本発明の原料供給方法をリチャージ工程として適用したが、追加チャージ工程として適用してもよい。追加チャージ工程に適用する場合、初期融液生成工程後と引き上げ工程との間に、上記実施形態のリチャージ工程と同様にメインヒータ2とボトムヒータ3のパワーを制御すればよい。なお、本発明の原料供給方法を、追加チャージ工程とリチャージ工程の両方に適用して、シリコン単結晶を製造してもよい。
【0035】
2回目の融解工程において、メインヒータのパワーを1回目の融解工程時と同じにするとともに、ボトムヒータのパワーを上記実施形態と同様に制御してもよいし、メインヒータ2のパワーを上記実施形態と同様に制御するとともに、ボトムヒータ3のパワーを1回目の融解工程時と同じにしてもよく、後者の場合、1回目の融解工程時のボトムヒータ3のパワーを坩堝1の底部が劣化しない程度に設定することが好ましい。
2回目の融解工程におけるメインヒータ2とボトムヒータ3のパワー制御を1回目の融解工程から行ってもよい。
3回目以降の融解工程において、メインヒータ2のパワーを直前の融解工程時よりも上げるとともに、ボトムヒータ3のパワーを直前の融解工程時よりも下げてもよい。
固化工程は、行わなくてもよいし、行う場合であっても、シリコン融液Mの残量が増えるにしたがってメインヒータ2のパワーを上げなくてもよい。固化工程を行わない場合において、シリコン融液Mの残量に応じてメインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを制御する場合、1回目の融解工程時には、引き上げ工程時のパワー(図2の例では、メインヒータ2はP51、ボトムヒータ3はP21)を基準にし、2回目以降の融解工程時には、直前の融解工程時のパワー(図2の例では、メインヒータ2はP51またはP61、ボトムヒータ3はP21またはP11)を基準にして、上げたり下げたりすればよい。つまり、固化工程を行わない場合、N回目(Nは整数)の融解工程は、シリコン融液Mの残量が基準量以上の場合、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーがシリコン原料を融解可能なパワーに設定された工程のうち、当該融解工程に最も近い工程のパワーを基準にして、メインヒータ2のパワーを上げるとともに、ボトムヒータ3のパワーを下げればよく、シリコン融液Mの残量が基準量未満の場合、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを前記最も近い工程のパワーのまま維持すればよい。
融解工程において、シリコン原料Sのチャージを行う前に、メインヒータ2およびボトムヒータ3のパワーを制御してもよいし、両者を同じタイミングで行ってもよい。
【0036】
メインヒータ2の代わりに、上下方向に並ぶ上段ヒータと下段ヒータとから構成された二段ヒータを用いてもよいし、三段以上のヒータで構成された多段ヒータを用いてもよい。この場合、融解工程において坩堝1の底部の劣化を抑制するために、当該底部から離れた上段のヒータほどパワーを大きくすることが好ましい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0038】
[評価サンプルの製造]
〔実施例1〕
上記実施形態のシリコン単結晶の製造方法を用いて、外周研削後の直胴部の直径が300mmとなるような2本のシリコン単結晶を、マルチ引き上げ法によって製造した。マルチ引き上げ法とは、シリコン単結晶を引き上げるごとにシリコン原料をチャージして、複数本のシリコン単結晶を引き上げる方法のことを意味する。
まず、新しい坩堝1を用いて、1本目のシリコン単結晶を製造した後、リチャージ工程を行った。リチャージ工程前のシリコン融液の残量は、140kgであった。
リチャージ工程として、図1(A)に示すように、坩堝1の上端とメインヒータ2の上端との距離Hが250mmとなるように、坩堝1の高さを調整して、図2に示すようなそれぞれ4回ずつの固化工程および融解工程を行った。各融解工程では、70kgずつのシリコン原料Sをチャージした。
その後、2本目のシリコン単結晶を引き上げた。
マルチ引き上げ法によって2本のシリコン単結晶を製造する工程を11回行い、各工程における2本目のシリコン単結晶を実施例1の評価サンプルとした。
【0039】
〔比較例1〕
実施例1の坩堝1とは異なる新しい坩堝1を用いたことと、図2に示すリチャージ工程の代わりに図3に示すリチャージ工程を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で2本のシリコン単結晶をマルチ引き上げ法によって製造した。
図3に示すリチャージ工程は、それぞれ4回ずつの固化工程および融解工程を行い、2〜4回目の融解工程におけるメインヒータ2のパワーを引き上げ工程時と同じP51にするとともに、ボトムヒータ3のパワーを引き上げ工程時と同じP21にしたこと以外は、シリコン原料Sのチャージ量も含めて図2に示すリチャージ工程と同じである。
マルチ引き上げ法によって2本のシリコン単結晶を製造する工程を14回行い、各工程における2本目のシリコン単結晶を比較例2の評価サンプルとした。
【0040】
[評価]
実施例1の評価サンプル11本、比較例1の評価サンプル14本について、フリー化率を評価した。フリー化率とは、直胴部における引き上げ方向上端から有転位化が発生している領域の上端までの部分の重量を、引き上げ前における坩堝1内のシリコン融液Mの重量で除した値である。
実施例1の評価サンプルおよび比較例1の評価サンプルのそれぞれにおけるフリー化率の平均値を図4に示す。
【0041】
図4に示すように、実施例1の方が比較例1よりもフリー化率が高く、有転位化が抑制されていることが確認できた。
実施例1のフリー化率が高い理由は、2回目以降の融解工程において、シリコン融液Mの残量が1回目の融解工程よりも増えると、ボトムヒータ3のパワーを下げているため、坩堝1の底部の劣化が抑制され、これに伴いパーティクルの発生も抑制されているためと考えられる。
一方、比較例1のフリー化率が低い理由は、2回目以降の融解工程において、シリコン融液Mの残量が1回目の融解工程よりも増えても、ボトムヒータ3のパワーを下げていないため、坩堝1の底部が劣化してしまい、これに伴いパーティクルが発生しているためと考えられる。
また、実施例1および比較例1のいずれにおいても、チャージ時のシリコン融液Mの固化に起因する坩堝1の破損が発生しなかった。
以上のことから、シリコン融液Mの残量に基づいて、メインヒータ2とボトムヒータ3のパワーを制御することで、チャージ時における坩堝1の破損とシリコン単結晶の有転位化とを抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0042】
1…坩堝、2…メインヒータ、3…ボトムヒータ、M…シリコン融液、S…シリコン原料。
図1
図2
図3
図4