特許第6809400号(P6809400)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809400
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20201221BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C30B29/06 502B
   C30B15/10
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-134449(P2017-134449)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-14633(P2019-14633A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2019年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】玉置 晋
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 伸光
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/110966(WO,A1)
【文献】 特開2013−133226(JP,A)
【文献】 特開平11−269000(JP,A)
【文献】 特開平11−171687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶引き上げ装置を用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、
円筒状の側部および当該側部の下端に連続する底部を有する石英坩堝の重量に基づいて、前記単結晶引き上げ装置に配置する石英坩堝を選定する選定工程であって、重量が大きい前記石英坩堝を酸素濃度が高くなる傾向にある前記単結晶引き上げ装置に配置し、重量が小さい前記石英坩堝を酸素濃度が低くなる傾向にある前記単結晶引き上げ装置に配置する選定工程と、
前記選定工程で選定された前記石英坩堝が配置された前記単結晶引き上げ装置を用いて、シリコン単結晶を育成する育成工程とを備えていることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記選定工程は、前記石英坩堝の重量に基づいて、複数の単結晶引き上げ装置のそれぞれに対して配置する石英坩堝を選定し、
前記育成工程は、前記選定工程で選定された前記石英坩堝が配置された前記複数の単結晶引き上げ装置を用いて、前記シリコン単結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記選定工程は、さらに前記側部の内径に基づいて、前記石英坩堝を選定することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記選定工程は、さらに前記底部における曲面状のR部の肉厚に基づいて、前記石英坩堝を選定することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法において、
前記選定工程は、さらに前記底部の曲面状のR部における前記石英坩堝の周方向に沿う複数箇所の肉厚のばらつきに基づいて、前記石英坩堝を選定することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を製造するに際し、シリコン単結晶の酸素濃度を調整するための検討がなされている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1の方法では、石英坩堝における底部の肉厚に対し、シリコン融液の対流との接触部分である開口部の肉厚を厚くして、当該接触部分の内壁の温度をシリコン融液の再結晶温度よりも高く、かつ、接触部分以外の温度よりも低くする。これにより、石英坩堝内壁からの対流によるシリコン融液への酸素の溶け込み抑制し、シリコン単結晶の酸素濃度を低くしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−221780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような単結晶引き上げ装置(以下、「引き上げ装置」という場合がある)では、石英坩堝を使用期間に応じて交換する必要がある。複数の石英坩堝を用いて育成したシリコン単結晶の酸素濃度を狙い値にしたい場合、各石英坩堝を用いた育成時に、引き上げ速度あるいはシリコン単結晶や石英坩堝の回転速度などの育成条件を同じにすることが考えられる。
しかしながら、育成条件を同じにしても、シリコン単結晶の酸素濃度が狙い値から大きく外れてしまうことがあり、酸素濃度の狙い値からの乖離を抑制するために育成条件の大幅な調整が必要であった。
【0005】
本発明の目的は、シリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を容易に抑制可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシリコン単結晶の製造方法は、単結晶引き上げ装置を用いたチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の製造方法であって、円筒状の側部および当該側部の下端に連続する底部を有する石英坩堝の重量に基づいて、前記単結晶引き上げ装置に配置する石英坩堝を選定する選定工程と、前記選定工程で選定された前記石英坩堝が配置された前記単結晶引き上げ装置を用いて、シリコン単結晶を育成する育成工程とを備えていることを特徴とする。
【0007】
同じ仕様で石英坩堝を製造しても、形状の公差の影響によって、複数の石英坩堝間で重量が異なる場合がある。公差範囲内で形状が異なってしまう部位としては、石英坩堝の内壁が考えられる。石英坩堝の内壁の形状が異なると、シリコン融液の対流の発生状態も異なってしまうと考えられる。
これらのことから、石英坩堝から溶出する酸素が対流によってシリコン単結晶の固液界面に運ばれたときに、対流の発生状態の差異によって、単位時間当たりに固液界面に運ばれる酸素量が異なってしまい、その結果、同じ育成条件でシリコン単結晶を育成しても、酸素濃度の狙い値からの乖離が大きくなってしまう場合があると考えられる。
【0008】
本発明によれば、石英坩堝の重量に基づいて、所定の引き上げ装置に対して適切な内壁形状を有する石英坩堝が選定されるため、この選定された複数の石英坩堝を用いてシリコン単結晶を育成するに際し、同じ育成条件を適用した場合、各石英坩堝におけるシリコン融液の対流の発生状態をほぼ同じにすることができる。その結果、複数の石英坩堝(製造バッチ)で育成されたシリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を、育成条件の大幅な調整を行うことなく容易に抑制できる。
【0009】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記選定工程は、前記石英坩堝の重量に基づいて、複数の単結晶引き上げ装置のそれぞれに対して配置する石英坩堝を選定し、前記育成工程は、前記選定工程で選定された前記石英坩堝が配置された前記複数の単結晶引き上げ装置を用いて、前記シリコン単結晶を育成することが好ましい。
【0010】
引き上げ装置のホットゾーンに着目すると、ホットゾーンの条件は、引き上げ装置ごとに異なる。ここで、ホットゾーンとは、シリコン単結晶の育成中に高温になる領域のことをいう。ホットゾーンの条件とは、チャンバ、石英坩堝、黒鉛坩堝、ヒータ、熱遮蔽体、シリコン融液、シリコン単結晶などの材質、形状、配置、使用期間などに起因する熱特性のことをいう。
ホットゾーンの条件が異なると、全く同じ形状の石英坩堝を用いてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶を育成しても、シリコン融液の加熱状態が異なってしまうため、シリコン融液における対流の発生状態も異なってしまう。
【0011】
本発明によれば、石英坩堝の重量に基づいて、複数の引き上げ装置に対して適切な内壁形状を有する石英坩堝が選定されるため、ホットゾーンが異なる複数の引き上げ装置を用いて、ほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶を育成した際に、各引き上げ装置におけるシリコン融液の対流の発生状態をほぼ同じにすることができる。その結果、複数の引き上げ装置で育成されたシリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。また、各引き上げ装置に応じて適切な石英坩堝を選定することで、各引き上げ装置間における酸素濃度を狙い値にするための育成条件の違いを、最小限に抑制することができる。さらに、複数の引き上げ装置を用いて、同じ特性のシリコン単結晶を製造できるため、生産能力を向上できる。
なお、「ほぼ同じ育成条件」とは、育成条件が許容範囲内で異なっていることを意味し、例えば、シリコン単結晶育成時におけるヒータの温度プロファイル、坩堝22の回転速度、チャンバ内の圧力、チャンバ内のアルゴンガスなどの不活性ガス流量が、基準値に対して±10%の範囲内で異なることを言う。
【0012】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記選定工程は、さらに前記側部の内径に基づいて、前記石英坩堝を選定することが好ましい。
【0013】
同じ仕様で石英坩堝を製造しても、複数の石英坩堝間において、公差範囲内で側部の内径が異なる場合がある。側部の内径が異なると、側部の肉厚も異なると考えられる。側部の肉厚は、当該側部からシリコン融液に溶出する酸素量に影響を与える。
本発明によれば、所定の引き上げ装置に対して適切な内径を有する石英坩堝が選定されるため、この選定された複数の石英坩堝を用いたシリコン単結晶の育成に際し、同じ育成条件を適用した場合、各石英坩堝における側部からの酸素の溶出量をほぼ同じにすることができる。その結果、複数の石英坩堝で育成されたシリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を、容易に抑制できる。
また、ほぼ同じ育成条件を用いた場合に、側部からの酸素の溶出量が所定量になるようなホットゾーンを有する引き上げ装置を、複数の引き上げ装置の中から選定することで、複数の引き上げ装置間での育成条件を大幅に変更することなく、シリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【0014】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記選定工程は、さらに前記底部における曲面状のR部の肉厚に基づいて、前記石英坩堝を選定することが好ましい。
【0015】
同じ仕様で石英坩堝を製造しても、複数の石英坩堝間において、公差範囲内でR部の肉厚が異なる場合がある。R部の肉厚は、当該R部からシリコン融液に溶出する酸素量に影響を与える。なお、R部とは、底部の縦断面視における水平方向両端に位置する曲面状の部分を意味する。
本発明によれば、所定の引き上げ装置に対して適切なR部の肉厚を有する石英坩堝が選定されるため、複数の石英坩堝を用いた育成に際し、同じ育成条件を適用した場合、各石英坩堝における側部からの酸素の溶出量をほぼ同じにすることができ、複数の石英坩堝で育成されたシリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を、容易に抑制できる。
また、ほぼ同じ育成条件を用いた場合に、R部からの酸素の溶出量が所定量になるようなホットゾーンを有する引き上げ装置を、複数の引き上げ装置の中から選定することで、複数の引き上げ装置間での育成条件を大幅に変更することなく、シリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【0016】
本発明のシリコン単結晶の製造方法において、前記選定工程は、さらに前記底部の曲面状のR部における前記石英坩堝の周方向に沿う複数箇所の肉厚のばらつきに基づいて、前記石英坩堝を選定することが好ましい。
【0017】
同じ仕様で石英坩堝を製造しても、複数の石英坩堝間において、R部における石英坩堝の周方向に沿う複数箇所の肉厚のばらつきの大きさが公差範囲内で異なる場合がある。上記複数箇所の肉厚のばらつきの大きさが異なると、シリコン融液の対流に影響を与える内壁の形状も異なると考えられる。
本発明によれば、R部における複数箇所の肉厚のばらつきに基づいて、所定の引き上げ装置に配置する石英坩堝を選定するため、この選定された複数の石英坩堝を用いたシリコン単結晶の育成に際し、同じ育成条件を適用した場合、各石英坩堝におけるシリコン融液の対流の発生状態をほぼ同じにすることができる。その結果、複数の石英坩堝で育成されたシリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を、容易に抑制できる。
また、ほぼ同じ育成条件を用いた場合に、対流が所定の発生状態になるようなホットゾーンを有する引き上げ装置を、複数の引き上げ装置の中から選定することで、複数の引き上げ装置間での育成条件を大幅に変更することなく、シリコン単結晶における酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る単結晶引き上げ装置の概略構成を示す模式図。
図2】前記単結晶引き上げ装置の石英坩堝の縦断面図。
図3】前記石英坩堝の選定条件の説明図。
図4】シリコン単結晶の製造方法を示すフローチャート。
図5】本発明の実験例2の実施例における重量および側部内径に基づく石英坩堝の選定方法を示す説明図。
図6】前記実験例2の実施例における重量およびR部肉厚に基づく石英坩堝の選定方法を示す説明図。
図7】前記実験例2の実施例におけるR部肉厚のばらつきに基づく石英坩堝の選定方法を示す説明図。
図8】前記実験例2の実施例および比較例における第1区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図9】前記実験例2の実施例および比較例における第2区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図10】前記実験例2の実施例および比較例における第3区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図11】前記実験例2の実施例および比較例における第4区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図12】前記実験例2の実施例および比較例における第5区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図13】前記実験例2の実施例および比較例における第6区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
図14】前記実験例2の実施例および比較例における第7区分の酸素濃度の狙い値からの乖離を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
〔単結晶引き上げ装置の構成〕
図1に示すように、単結晶引き上げ装置(引き上げ装置)1は、CZ法(チョクラルスキー法)に用いられる装置であって、チャンバ21と、このチャンバ21内に配置された坩堝22と、この坩堝22を加熱するヒータ23と、引き上げ部24と、熱遮蔽体25と、断熱材26を備えている。なお、二点鎖線で示すように、一対の電磁コイル28をチャンバ21の外側において坩堝22を挟んで対向するように配置してもよい。
【0020】
チャンバ21の上部には、Arガスなどの不活性ガスをチャンバ21内に導入するガス導入口21Aが設けられている。チャンバ21の下部には、チャンバ21内の気体を排出するガス排気口21Bが設けられている。
【0021】
坩堝22は、シリコンを融解してシリコン融液Mとするものである。坩堝22は、所定の速度で回転および昇降が可能な支持軸27に支持されている。坩堝22は、石英坩堝221と、この石英坩堝221を収容する黒鉛坩堝222とを備えている。石英坩堝221は、1本あるいは複数のシリコン単結晶SMを育成するごとに交換される。一方、黒鉛坩堝222は、シリコン単結晶SMを1本製造するごとには交換されず、石英坩堝221を適切に支持できなくなったと考えられた時点で交換される。
【0022】
ヒータ23は、坩堝22の周囲に配置されており、坩堝22内のシリコンを融解する。なお、坩堝22の下方に、二点鎖線で示すようなボトムヒータ231をさらに設けてもよい。
引き上げ部24は、一端に種結晶SCが取り付けられる引き上げケーブル241と、この引き上げケーブル241を昇降および回転させる引き上げ駆動部242とを備えている。
熱遮蔽体25は、シリコン単結晶SMを囲むように設けられ、ヒータ23から上方に向かって放射される輻射熱を遮断する。
なお、本実施形態におけるホットゾーンは、チャンバ21、坩堝22、ヒータ23、引き上げケーブル241、熱遮蔽体25、断熱材26、支持軸27、シリコン融液M、シリコン単結晶SMなどである。
【0023】
〔石英坩堝の構成〕
次に、石英坩堝221の詳細な構成について説明する。
図2に示すように、石英坩堝221は、円筒状の側部221Aと、当該側部221Aの下端に連続する曲面状の底部221Bとを備えている。底部221Bの縦断面視における水平方向両端に位置する曲面状の部分は、R部221Cを構成している。
【0024】
〔シリコン単結晶の製造方法〕
次に、本発明のシリコン単結晶の製造方法として、複数の引き上げ装置を用いたシリコン単結晶の製造方法について説明する。
複数の引き上げ装置1は、同じ型式の場合、通常、同じ仕様に基づき製造されるが、ホットゾーンの構成部材の形状や配置の公差、使用期間の長さなどによって、全く同じ形状の石英坩堝221を用いてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成しても、シリコン融液Mの加熱状態が異なってしまう場合がある。シリコン融液Mの加熱状態が異なると、シリコン融液M内の対流の発生状態や、当該シリコン融液Mに溶け込む酸素量が異なってしまい、その結果、各引き上げ装置1で育成されたシリコン単結晶SM間の酸素濃度が大きくばらついてしまう。
そこで、まず、各引き上げ装置1のホットゾーンに応じた適切な重量、側部221Aの内径D(図2参照)、R部221Cの肉厚TR(図2参照)、R部221Cの肉厚TRのばらつきを有する石英坩堝221を選定する。
【0025】
具体的には、作業者は、まず、石英坩堝221の重量を基準にした複数の区分を設定する。例えば、図3に示すように、N(Nは2以上の整数)個の区分(第1〜第N区分)を設定する。次に、作業者は、図4に示すように、重量に基づいて、各区分に該当する石英坩堝221を選定する(ステップS1)。
後述するステップS2〜S4の処理において、さらに異なる条件で選定が行われることから、当該ステップS1の処理では、各区分に対して複数の石英坩堝221を選定することが好ましい。
【0026】
次に、作業者は、ステップS1に基づき選定した石英坩堝221から、側部221Aにおける任意の高さ位置の内径Dに基づいて、各区分に該当する石英坩堝221を選定する(ステップS2)。このステップS2の処理は、各区分に対して、図3に示すように、適切な内径範囲を予め設定しておき、内径が各区分の内径範囲に入っている石英坩堝221を選定する。各区分の内径範囲は、全区分で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0027】
この後、作業者は、ステップS2に基づき選定した石英坩堝221から、R部221Cの任意の1箇所の肉厚TRに基づいて、各区分に該当する石英坩堝221を選定する(ステップS3)。このステップS3の処理では、例えば、図2に示すように、縦断面視で円弧状の底上部221Dと、この底上部221Dに連続し底上部221Dよりも曲率半径が大きい円弧状の底下部221Eとから底部221Bが構成されている場合、底上部221Dと底下部221Eとの境界Pにおける肉厚を、R部221Cの肉厚TRとして用いてもよい。そして、ステップS3の処理は、各区分に対して、図3に示すように、適切な肉厚範囲を予め設定しておき、肉厚TRが各区分の肉厚範囲に入っている石英坩堝221を選定する。各区分の肉厚範囲は、全区分で同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
次に、作業者は、ステップS3に基づき選定した石英坩堝221から、R部221Cの周方向に沿った複数箇所の肉厚TRのばらつきの大きさに基づいて、各区分に該当する石英坩堝221を選定する(ステップS4)。このステップS4の処理では、例えば、境界Pと同じ高さ位置の複数箇所の肉厚TRを用いてもよいが、他の高さ位置の肉厚TRを用いてもよい。また、ステップS4の処理は、各区分に対して、図3に示すように、適切なばらつき範囲を予め設定しておき、肉厚TRのばらつきが各区分のばらつき範囲に入っている石英坩堝221を選定する。肉厚TRの測定箇所は、間隔が同じであってもよいし、異なっていてもよい。各区分のばらつき範囲は、全区分で同じであってもよいし、異なっていてもよい。ばらつきとしては、最小値と最大値との差、標準偏差、分散などを用いることができるが、本実施形態では最小値と最大値との差を用いる。
【0029】
以上のステップS1〜S4が本発明の選定工程に該当する。
なお、ステップS1〜S4で用いる重量、内径D、肉厚TR、肉厚TRのばらつきは、引き上げ装置1の作業者が測定してもよいし、石英坩堝221の製造者が測定してもよい。
石英坩堝221の肉厚TRの測定方法としては、例えば、レーザ変位計を用い、非接触にて石英坩堝221の外周面における任意の点と、当該任意の点の反対側に位置する内周面上の点とを測定して算出する方法が例示できる。
また、上述の重量範囲、内径範囲、肉厚範囲、ばらつき範囲は、予め準備した複数の石英坩堝221の重量、内径D、肉厚TR、肉厚TRのばらつきの平均値に基づいて設定してもよいし、平均値とは関係ない所定の値に基づいて設定してもよい。
【0030】
次に、作業者は、ステップS1〜S4の処理を経て、各区分に対して最終的に選定された石英坩堝221を、各区分に対応する引き上げ装置1に配置する(ステップS5)。各区分に対応する引き上げ装置1とは、該当する区分の石英坩堝221を配置して、他の区分の石英坩堝221が配置された引き上げ装置1と、ほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成したときに、各シリコン単結晶SM間で酸素濃度がほぼ同じになるような特性(ホットゾーン)を有する引き上げ装置1のことを意味する。
そして、各引き上げ装置1において、育成条件をほぼ同じにしてシリコン単結晶SMの育成を行う(ステップS6:育成工程)。ステップS6においてほぼ同じにする育成条件としては、シリコン単結晶SMの酸素濃度を所定の狙い値にするための条件であって、シリコン単結晶SMの引き上げ速度や回転速度、石英坩堝221の上昇速度や回転速度、ヒータ23の設定パワー、チャンバ21の雰囲気、シリコン融液Mの量などが例示できる。
その後、1本のシリコン単結晶SMを育成するごとに、石英坩堝221を各区分に対応するものに交換して、育成条件を変更せずに従前と同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成する。
【0031】
[実施形態の作用効果]
上記実施形態によれば、第1〜第N区分の重量に該当する石英坩堝221を選定することで、各区分の引き上げ装置1のホットゾーンに応じて、適切な内壁形状を有する石英坩堝221を配置することができる。このため、各引き上げ装置1においてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した場合に、シリコン融液Mの対流の発生状態を各引き上げ装置1においてほぼ同じにすることができる。したがって、各引き上げ装置1および複数の製造バッチで育成されるシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる上、複数の引き上げ装置1を用いて、同じような酸素濃度のシリコン単結晶SMを製造できるため、生産能力を向上できる。
また、それぞれの引き上げ装置1においては、複数の石英坩堝221の使用時において同じ育成条件を用い、各引き上げ装置1間においては、ほぼ同じ育成条件を用いるため、育成条件の大幅な調整を行うことなく、酸素濃度の狙い値からの乖離を容易に抑制できる。
【0032】
内径が各区分の内径範囲に入っている石英坩堝221を選定することで、各区分の引き上げ装置1のホットゾーンに応じて、適切な内径Dの側部221Aを有する石英坩堝221を配置することができる。このため、各引き上げ装置1においてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した場合に、側部221Aからの酸素の溶出量をほぼ同じにすることができる。したがって、各引き上げ装置1および複数の製造バッチで製造されたシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【0033】
肉厚TRが各区分の肉厚範囲に入っている石英坩堝221を選定することで、各区分の引き上げ装置1のホットゾーンに応じて、適切な肉厚TRのR部221Cを有する石英坩堝221を選定することができる。このため、各引き上げ装置1においてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した場合に、R部221Cからの酸素の溶出量をほぼ同じにすることができ、各引き上げ装置1および複数の製造バッチで製造されたシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【0034】
肉厚TRのばらつきが各区分のばらつき範囲に入っている石英坩堝221を選定することで、各区分の引き上げ装置1のホットゾーンに応じて、R部221Cの肉厚TRのばらつきが所定値以下に納められた適切な石英坩堝221を選定することができる。このため、各引き上げ装置1においてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した場合に、シリコン融液Mの対流の発生状態をほぼ同じにすることができ、各引き上げ装置1および複数の製造バッチで製造されたシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を最小限に抑制できる。
【0035】
[変形例]
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しな
い範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
【0036】
例えば、本発明のシリコン単結晶の製造方法は、一個の坩堝22を利用し、1本のシリコン単結晶SMを育成するごとにシリコンをチャージして、複数本のシリコン単結晶SMを育成するいわゆるマルチ引き上げ法に適用してもよい。複数本分のシリコン単結晶SMを一度に坩堝22に収容し、複数本のシリコン単結晶SMを1本ずつ引き上げるいわゆる抜き取り引き上げ法に適用してもよい。
本発明の選定工程は、ステップS1〜S4の工程のうち、少なくともステップS1の工程を含んでいればよい。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0038】
[実験例1:石英坩堝の形状と酸素濃度との関係調査]
まず、同じ仕様で製造された155個の石英坩堝221を準備した。そして、各石英坩堝221の重量、側部221Aの内径Dおよび肉厚TS(図2参照)、底部221BにおけるR部221Cの肉厚TR、底部221Bにおける最底部221Fの肉厚TB(図2参照)、石英坩堝221の内部高さH(図2参照)を測定した。
そして、1基の引き上げ装置1に対して、石英坩堝221を順次配置し、各石英坩堝221について1本ずつのシリコン単結晶SMを同じ育成条件で育成した。この育成条件は、シリコン単結晶SMの酸素濃度が所定の狙い値となるような条件である。
この後、各シリコン単結晶SMにおける固化率16%の位置の酸素濃度を測定した。固化率とは、シリコン単結晶を引き上げる前のシリコン融液の総重量に対する固化した重量の割合を意味する。
【0039】
石英坩堝221の重量、側部221Aの内径D、側部221Aの肉厚TS、底部221BにおけるR部221Cの境界Pの肉厚TR、底部221Bにおける最底部221Fの肉厚TB、石英坩堝221の内部高さHの平均値からの乖離と、酸素濃度の狙い値からの乖離との相関性を求めた。その結果を以下の表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、重量、側部221Aの内径D、R部221Cの肉厚TRが、酸素濃度との間に負の相関性があり、側部221Aの肉厚TS、最底部221Fの肉厚TB、内部高さHが酸素濃度との相関がないことが確認できた。また、酸素濃度との相関があるパラメータのうち、特に重量の相関性が高かった。
以上のことから、石英坩堝221の重量、側部221Aの内径D、R部221Cの肉厚TRに基づいて、引き上げ装置1のホットゾーンに応じて適切な石英坩堝221を選定することで、酸素濃度の狙い値からの乖離が最小限に抑制されたシリコン単結晶SMを育成できることが確認できた。また、内径D、肉厚TRについては、酸素濃度との関係において、測定位置にかかわらず同じ傾向があると考えられるため、任意の測定位置を決めて内径D、肉厚TRを測定し、その測定結果を石英坩堝221の選定に利用すればよい。
【0042】
例えば、石英坩堝221の重量と酸素濃度との間には負の相関性があるため、重量が大きい石英坩堝221を、酸素濃度が高くなる傾向にある引き上げ装置に割り当て、逆に、重量が小さい石英坩堝221を、酸素濃度が低くなる傾向にある引き上げ装置に割り当てればよい。なお、酸素濃度が高い傾向や低い傾向にある引き上げ装置が存在する理由は、ホットゾーンの条件の違いによってシリコン融液の加熱状態に差異が生じ、この差異によってシリコン融液における対流の発生状態が異なってしまうためである。
また、石英坩堝221における側部221Aの内径D、R部221Cの肉厚TRにも、それぞれ酸素濃度との間に負の相関性がある。このため、内径Dが大きいあるいは肉厚TRが厚い石英坩堝221を、酸素濃度が高くなる傾向にある引き上げ装置に割り当て、逆に、内径Dが小さいあるいは肉厚TRが薄い石英坩堝221を、酸素濃度が低くなる傾向にある引き上げ装置に割り当てればよい。
このように石英坩堝221を引き上げ装置に割り当てることにより、複数の引き上げ装置を用いて製造されるシリコン単結晶間の酸素濃度のばらつきを抑制し、かつ、各引き上げ装置を用いて製造される全てのシリコン単結晶における酸素濃度が狙い値から乖離することを極力抑制することができると考えられる。
【0043】
[実験例2:選定工程の効果の確認]
〔実施例〕
まず、同じ仕様で製造された複数の石英坩堝221を準備した。そして、各石英坩堝221の重量、側部221Aの内径D、R部221Cにおける境界Pの肉厚TRを測定した。肉厚TRについては、1個の石英坩堝221について8箇所測定した。測定位置は、境界Pと同じ高さ位置であって、石英坩堝221の周方向に等間隔で離れた8箇所とした。
また、全ての石英坩堝221の重量の平均値に基づいて、以下の表2に示す7つの区分を設定した。
【0044】
【表2】
【0045】
そして、全ての石英坩堝221の側部221Aの内径Dの平均値を求めた。各石英坩堝221における重量の平均値からの乖離と、側部内径の平均値からの乖離との関係を図5に示す。
側部内径の平均値からの乖離が−0.8mm以上、+0.8mm以下の範囲を側部221Aの内径Dに基づく選定範囲とした場合、図5に示す枠E1〜E7内の特性を有する石英坩堝221が、それぞれ第1〜第7区分のものとして選定される。
【0046】
また、全ての石英坩堝221のR部221Cの肉厚TRの平均値を求めた。各石英坩堝221における重量の平均値からの乖離と、R部肉厚の平均値からの乖離との関係を図6に示す。
各区分におけるR部肉厚の平均値からの乖離の平均値を求め、当該平均値との差が−0.45mm以上、+0.45mm以下の範囲を、R部221Cの肉厚TRに基づく選定範囲とした場合、図6に示す枠F1〜F7内の特性を有する石英坩堝221が、それぞれ第1〜第7区分のものとして選定される。
【0047】
また、各石英坩堝221について、8箇所の肉厚TRの測定結果の最小値と最大値との差をばらつきとして求めた。次に、全ての石英坩堝221のばらつきの平均値と標準偏差とを求めた。そして、図7に示すように、平均値と標準偏差との和以下の範囲(図7中、平均値を「Ave.」、標準偏差を「σ」と記載)を、R部221Cの肉厚TRのばらつきに基づく選定範囲として、ばらつきが閾値G以下の石英坩堝221を、第1〜第7区分のものとして選定した。
【0048】
そして、図5図7に基づく基準によって第1〜第7区分に対して選定された石英坩堝221を、各区分に対応する引き上げ装置1に配置して、全区分の引き上げ装置1間においてはほぼ同じ育成条件で、1基ごとの引き上げ装置1においては複数の石英坩堝221の使用時において同じ育成条件で、シリコン単結晶SMを育成した。各石英坩堝221について1本ずつシリコン単結晶SMを育成し、実験例1と同じ位置の酸素濃度を測定した。
第1〜第7区分の引き上げ装置1で育成されたシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離(「測定結果」−「狙い値」))を、図8図14に示す。
【0049】
〔比較例〕
まず、上記実施例と同じ仕様で製造された複数の石英坩堝221を準備した。そして、任意に選択した石英坩堝221を各区分の引き上げ装置1に配置して、全区分の引き上げ装置1間において、および、各引き上げ装置1における複数の石英坩堝221の使用時において、それぞれ実施例と同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した。各石英坩堝221について1本ずつシリコン単結晶SMを育成し、実施例と同じ位置の酸素濃度を測定した。なお、酸素濃度の狙い値は実施例と同じである。
第1〜第7区分の引き上げ装置1で育成されたシリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を、図8図14に示す。
【0050】
〔評価〕
図8図14において、各区分の実施例および比較例のそれぞれにおける酸素濃度の狙い値からの乖離の平均値を直線Lで結んだ。図8図14に示すように、全ての区分の引き上げ装置1において、酸素濃度の狙い値からの乖離の平均値は、実施例の方が比較例よりも小さかった。
このことから、石英坩堝221の重量、側部221Aの内径D、R部221Cの肉厚TR、複数箇所における肉厚TPのばらつきに基づいて、各区分に対応する石英坩堝221を選定して、各区分の引き上げ装置1に配置することで、全区分の引き上げ装置1においてほぼ同じ育成条件でシリコン単結晶SMを育成した場合に、各シリコン単結晶SMにおける酸素濃度の狙い値からの乖離を小さくできることが確認できた。
【0051】
また、図8図14に示すように、全ての区分の引き上げ装置1において、酸素濃度のばらつきは、実施例の方が比較例よりも小さかった。
このことから、各引き上げ装置1単位で考えると、石英坩堝221の重量、側部221Aの内径D、R部221Cの肉厚TR、複数箇所における肉厚TPのばらつきに基づいて、各区分に対応する石英坩堝221を選定することで、複数の石英坩堝221の使用時において同じ育成条件を適用しても、酸素濃度の狙い値からの乖離を小さくできることが確認できた。
【符号の説明】
【0052】
1…単結晶引き上げ装置、221…石英坩堝、221A…側部、221B…底部、221C…R部、SM…シリコン単結晶。
図1
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