特許第6809432号(P6809432)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809432
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】硬化性オルガノポリシロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20201221BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20201221BHJP
   C08K 5/56 20060101ALI20201221BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20201221BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20201221BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K5/56
   C09K3/10 G
   H01L23/30 R
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-200077(P2017-200077)
(22)【出願日】2017年10月16日
(65)【公開番号】特開2019-73611(P2019-73611A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2019年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】特許業務法人牛木国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 知樹
(72)【発明者】
【氏名】荒木 正
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−533503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/07
C08K 5/56
C08L 83/05
C09K 3/10
H01L 23/29
H01L 23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】
(式(1)中、R1は−Si(CH32(−CH=CH2)であり、R2は同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であり、Arは炭素数6以上のアリーレン基であり、aは1〜1,000の整数であり、bは1〜5,000の整数であり、a+bは10〜6,000の整数である。なお、各繰り返し単位の配列はランダムでもよい。)
(B)1分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分100質量部に対して1〜20質量部、及び
(C)下記一般式(3)又は下記一般式(4)で示されるルテニウム化合物を含有するルテニウム硬化触媒:触媒量、
【化2】
(式(3)中、R3はヘテロ原子及び/若しくは芳香族環を含有してもよい炭素数2〜50の炭化水素配位子を示す。ただし、少なくとも1個のR3は、アレーン配位子である。式(3)中、Xはハロゲン原子であり、eは1〜5の整数、f及びgは0〜20の整数である。但し、f=g=0の場合を除く。)
【化3】
(式(4)中、Arは炭素数6〜50のη6−アレーン配位子を示し、Xはハロゲン原子であり、iは1〜5の整数、j及びkは0〜20の整数である。)
を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(B)成分が下記一般式(2)
【化4】
(式(2)中、R2は同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基を示す。式(2)中、Aは水素原子又はメチル基であり、c、dはそれぞれ0〜60の整数であり、c+dは1〜120の整数である。ただし、1分子中に3個以上のSiH基を有する。)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである請求項1に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を有する電気電子部品。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるオイルシール。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるシーラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主鎖中にアリーレン基を有するオルガノポリシロキサンを主剤(ベースポリマー)として含有し、かつ、ルテニウム硬化触媒を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関し、特には、高い耐熱性を有する硬化物を与える硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物の硬化物を有する物品等に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素−酸素結合の繰り返し単位をもつポリシロキサン、いわゆるシリコーン樹脂又はシリコーンゴムは、一般的に耐熱性、耐候性、耐寒性、耐油性、耐薬品性、柔軟性等の特徴を有し、電気電子材料、シーラント、車載用部品等に広く用いられている。通常、これらの用途に用いられるシリコーン樹脂又はシリコーンゴムは、高耐熱性が要求されており、高耐熱性のシリコーン樹脂又はシリコーンゴムを得るために、セリウム塩を用いた耐熱性付与等に代表されるように(特許文献1)、希土類元素、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル等の金属の酸化物、ケイ酸塩、脂肪酸塩又は炭酸塩を添加したり、シリカ等のフィラーを添加したりする手法がある。
【0003】
しかし、上記の手法においては希土類元素の入手の安定性が問題となったり、事前に金属塩をオルガノポリシロキサンと混合し、加熱処理した反応生成物の添加が必要なため、工程の短縮化が問題となる(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−291148号公報
【特許文献2】特開2015−007203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、上記問題点がなく、高耐熱性の硬化物を与える硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物の硬化物を用いた電気電子部品、オイルシール、シーラント等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、主鎖中にアリーレン基を導入し、末端にビニル基を有するアリーレン基を有するオルガノポリシロキサン、1分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及びルテニウム触媒を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物が高耐熱性の硬化物を与えることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
従って、本発明は、下記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物の硬化物を用いた電気電子部品、オイルシール、シーラント等を提供するものである。
【0008】
[1]
(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサン:100質量部、
【化1】

(式(1)中、Rは−Si(CH(−CH=CH)であり、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であり、Arは炭素数6以上のアリーレン基であり、aは1〜1,000の整数であり、bは1〜5,000の整数であり、a+bは10〜6,000の整数である。なお、各繰り返し単位の配列はランダムでもよい。)
(B)1分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:(A)成分100質量部に対して1〜20質量部、及び
(C)ルテニウム硬化触媒:触媒量、
を含有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[2]
(B)成分が下記一般式(2)
【化2】

(式(2)中、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基を示す。式(2)中、Aは水素原子又はメチル基であり、c、dはそれぞれ0〜60の整数であり、c+dは1〜120の整数である。1分子中に3個以上のSiH基を有する。)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである[1]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3]
(C)成分が下記一般式(3)で示されるルテニウム化合物を含有するルテニウム硬化触媒である[1]又は[2]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化3】

(式(3)中、Rは水素原子、ヘテロ原子及び/若しくは芳香族環を含有してもよい炭素数2〜50の炭化水素配位子を示す。式(3)中、Xはハロゲン原子であり、eは1〜5の整数、f及びgは0〜20の整数である。但し、f=g=0の場合を除く。)
[4]
(C)成分が下記一般式(4)で示されるルテニウム化合物を含有するルテニウム硬化触媒である[1]から[3]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化4】

(式(4)中、Arは炭素数6〜50のη−アレーン配位子を示し、Xはハロゲン原子であり、iは1〜5の整数、j及びkは0〜20の整数である。)
[5]
[1]から[4]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を有する電気電子部品。
[6]
[1]から[4]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるオイルシール。
[7]
[1]から[4]のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物からなるシーラント。
【発明の効果】
【0009】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、原料入手が容易であり、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物は耐熱性が高く、電気電子部品、オイルシール、シーラント等に好適である。近年、電気電子部品の高性能化及び小型化により、その動作温度は高温化している。これに伴い、電気電子部品に使用される部材も高耐熱性が要求されてきている。この様な状況の中で、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、現在広く用いられている、白金触媒を利用した付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物と比較して、さらなる高耐熱性を発現させることが可能となるため、高温環境下での使用が要求される種々の電子部材の性能向上に大きく貢献可能なことが期待される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
[(A)成分]
(A)成分は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の主剤(ベースポリマー)であり、主鎖中に、シルアリーレンシロキサン単位[−Si(R−Ar−Si(RO−]としてアリーレン基を有すると共に、分子鎖両末端にビニル基(ビニルジメチルシロキシ基)を有する直鎖状のオルガノポリシロキサンであり、下記一般式(1)で示されるものである。
【化5】

(式(1)中、Rは−Si(CH(−CH=CH)であり、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であり、Arは炭素数6以上のアリーレン基であり、aは1〜1,000の整数であり、bは1〜5,000の整数であり、a+bは10〜6,000の整数である。なお、各繰り返し単位の配列はランダムでもよい。)
【0012】
上記の炭素数1〜20のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、シクロヘキシル基等が例示され、上記の炭素数6〜20のアリール基としてはフェニル基等が例示され、上記のハロゲン置換基としては3,3,3−トリフルオロプロピル基等が例示される。Arは炭素数6以上のアリーレン基であり、特に6〜20のアリーレン基が好ましく、炭素数6以上のアリーレン基としては、o,m,p−フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等が例示される。
【0013】
一般式(1)において、分子中のシルアリーレンシロキサン単位[−Si(R−Ar−Si(RO−]の繰り返し数(重合度)を示すaは1〜1,000の整数、好ましくは5〜600の整数、より好ましくは10〜300程度の整数であり、分子中のジシロキサン単位[−Si(RO−]の繰り返し数(重合度)を示すbは1〜5,000の整数、好ましくは50〜1,200の整数、より好ましくは80〜1,000程度の整数であり、a+bは10〜6,000の整数であり、通常、10〜5,300の整数、好ましくは100〜1,600の整数、より好ましくは200〜1,200程度の整数である。また、b≧aであることが好ましく、b≧aのとき、100×a/(a+b)=4〜50であることが好ましい。例えば、a=100、b=1,900のとき、100×a/(a+b)=5となり、a=100、b=100であれば、100×a/(a+b)=50である。また、100×a/(a+b)=50より大きい場合、式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは室温(25℃±10℃)下で高粘度オイル又は固体となり、作業性が低下する場合がある。逆に100×a/(a+b)=4より小さい場合、式(1)で示されるオルガノポリシロキサン中のアリーレン基の割合が少ないため、十分な耐熱性を得ることが困難となる場合がある。
【0014】
一般式(1)で示される化合物において、シルアリーレンシロキサン単位[−Si(R−Ar−Si(RO−]とジオルガノシロキサン単位[−Si(RO−]との配列はランダムでもよい。
【0015】
一般式(1)で示される化合物としては、フェニレン基、ナフチレン基及び/又はビフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0016】
本発明において、繰り返し単位の繰り返し数(重合度)は、例えば、テトラヒドロフラン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)として求めることができる。より具体的には、上記一般式(1)で示される化合物等のポリスチレン換算での数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析において、東ソー株式会社製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM−N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度:40℃、注入量:50μL、サンプル濃度:0.3質量%の条件にて測定した値である(以下同じ)。
【0017】
(A)成分は、本発明の組成物中、好ましくは17〜99質量%、より好ましくは50〜98質量%含有する。
【0018】
[(B)成分]
(B)成分は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の架橋剤であり、上記(A)成分と付加反応し、アリーレン基を有するオルガノポリシロキサン硬化物を形成する構成要素である。該(B)成分は、1分子中に3個以上のSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、下記一般式(2)で示される、分子鎖(両)末端及び/又は分子鎖途中(非末端)のケイ素原子に結合した水素原子(SiH基)を1分子中に3個以上有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンであることが好ましい。
【化6】

(式(2)中、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基を示す。式(2)中、Aは水素原子又はメチル基であり、c,、dはそれぞれ0〜60の整数であり、c+dは1〜120の整数である。)
【0019】
一般式(2)で示される化合物としては、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0020】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のSiH基量は、5.0〜2,000 mmol/100gであることが好ましく、10〜1,500 mmol/100gであることがより好ましい。
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの粘度は特に限定されないが、作業性および分散性の観点から、25℃における粘度が0.5〜1,000 mPa・sであることが好ましく、1〜500 mPa・sであることがより好ましい。なお、本発明における粘度は、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定した値である。
【0021】
本発明の組成物における(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して、1〜20質量部であり、1〜10質量部であることが好ましく、2〜5質量部であることがより好ましい。該(B)成分の配合量が1質量部未満であると硬化不良を引き起こし、目的の硬化物を得ることが不可能であったり、該(B)成分の配合量が20質量部よりも多いと、期待される耐熱性硬化物を得ることが困難となったり、得られる硬化物が硬くなったりするおそれがある。また、同様の理由により、(B)成分は、(A)成分中のビニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比が、0.8〜3モル/モル、好ましくは1.0〜2.5モル/モルとなる量で配合することもできる。
【0022】
[(C)成分]
(C)成分は、(A)成分中のビニル基と(B)成分中のヒドロシリル基との付加反応を促進し、硬化物を得るためのルテニウム硬化触媒であり、例えば、下記一般式(3)で示されるルテニウム化合物が挙げられる。
【化7】
【0023】
式(3)中、Rは水素原子または、ヘテロ原子及び/若しくは芳香族環を有してもよい炭素数2〜50の炭化水素配位子であり、該配位子としては、ベンゼン、シメン、シクロペンタジエン等のアレーン配位子;ブタジエン、シクロオクタジエン、アセチレン等のオレフィン配位子;アルキン配位子;アセチルアセトン、カルボニルに代表される様な酸素原子を配位中心として有する配位子;リン、窒素、硫黄等の配位性原子を有する配位子が挙げられる。
式(3)中、Xはハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子である。eは1〜5の整数、f及びgは0〜20の整数である。但し、f=g=0の場合を除く。
【0024】
また上記ルテニウム化合物の中でも、入手の簡便性及び期待される耐熱性を発現させる観点から、下記一般式(4)で示されるルテニウム硬化触媒が好適である。
【化8】

(式(4)中、Arは炭素数6〜50のη−アレーン配位子を示し、Xはハロゲン原子であり、iは1〜5の整数、j及びkは0〜20の整数である。)
【0025】
ルテニウム化合物の具体例としては、ルテニウム二核錯体である下記式(5)で表されるジ−μ−クロロ−ビス[クロロ(p−シメン)ルテニウム(II)]に代表されるハロゲン架橋アレーンルテニウム二核錯体及びその類縁体等が好ましい。
【化9】
【0026】
上記ルテニウム化合物を触媒として使用する際の状態は問わないが、他の成分との相溶性の観点から、トルエン等の有機溶媒に溶解させた溶液、もしくは該溶液を分散剤(例えば、オルガノポリシロキサン等)に分散させ、該有機溶媒を揮発させたものを該ルテニウム化合物含有硬化触媒として使用することが好ましい。分散剤として用いられるオルガノポリシロキサンとしては、下記式(6)で表される分子鎖中(分子鎖途中あるいは分子鎖非末端のジオルガノシロキサン単位中)にフェニル基を有するオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【化10】

(式(6)中、Rは−Si(CH(−CH=CH)であり、Rは同一又は異種の炭素数1〜20のアルキル基及びその基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であり、Rは炭素数6〜20のアリール基及びそれらの基の水素原子の一部がハロゲン原子で置換された基から選ばれる基であり、lは1〜5,000の整数、好ましくは5〜1,000の整数、より好ましくは10〜500の整数であり、mは1〜1,000の整数、好ましくは2〜200の整数、より好ましくは3〜50の整数であり、l+mは10〜6,000の整数、好ましくは20〜1,200の整数、より好ましくは30〜600の整数である。なお、各繰り返し単位の配列はランダムでもよい。)
【0027】
式(6)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンの具体例として、例えば、下記式(7)で示される様な分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体や該共重合体中のジフェニルシロキサン単位をメチルフェニルシロキサン単位で置換した分子鎖両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体などが挙げられる。
【化11】

(式(7)中、Meはメチル基を示し、Phはフェニル基を示す。)
【0028】
本発明の組成物における(C)成分の配合量は、いわゆる触媒量でよく、好ましくは、(A)成分に対して、ルテニウム原子の質量換算で0.1〜1,000ppm、より好ましくは5〜100ppmである。これらの範囲から逸脱した配合を行うと、本発明の組成物の硬化物を得るための硬化時間の著しい増大や、該硬化物の高耐熱性が十分に発現されない可能性がある。
【0029】
[耐熱性]
本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性に関して、230℃空気雰囲気下において初期の硬度と230℃にて600時間経過後の硬度との差が、JIS K7312に規定されるアスカー(Type C)にて15以下であることを特徴としており、この硬度差よりも大きい変化を呈する硬化物であると、高温下に曝された際の該硬化物の硬度変化が大きすぎるため、電気電子部品、オイルシール(自動車用オイルシール)、シーラント(建築用シーラント)等への用途に適さない。また、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物に関して、230℃における600時間経過後の質量変化が、初期値(0時間)の90%以上の質量を維持することを特徴としている。質量変化が90%未満の硬化物の場合、該硬化物から揮発する成分が多くなり、電気電子部品用途に用いた際の接点障害の要因となり得る。以上の点から上記条件を満たす本発明の組成物は、電気電子部品、オイルシール(自動車用オイルシール)、シーラント(建築用シーラント)等への用途に適している。
【0030】
[その他の成分]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上記(A)〜(C)成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、反応抑制剤、無機質充填剤、ケイ素原子結合水素原子及びケイ素原子結合アルケニル基を有しない無官能性オルガノポリシロキサン(いわゆる無官能性ジメチルシリコーンオイル等)、耐熱性付与剤、難燃性付与剤、チクソ性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0031】
反応抑制剤は、上記の付加反応等を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、アセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。
【0032】
無機質充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、結晶性シリカ、沈降性シリカ、中空フィラー、シルセスキオキサン、ヒュームド二酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉄、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、層状マイカ、カーボンブラック、ケイ藻土、ガラス繊維等の無機質充填剤;該無機質充填剤の表面を、オルガノアルコキシシラン化合物、オルガノクロロシラン化合物、オルガノシラザン化合物、低分子量シロキサン化合物等の有機ケイ素化合物で疎水化処理をした無機質充填剤等が挙げられる。また、シリコーンゴムパウダー、シリコーンレジンパウダー等を配合してもよい。
【0033】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物の製造方法
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記(A)〜(C)成分、及び必要により、その他の成分の所定量を乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。
また、得られた硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、150℃±10℃で約12〜400時間、好ましくは24〜170時間、より好ましくは36〜120時間程度加熱することにより硬化するが、その成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
【0034】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化物が高い耐熱性を有することから、高温環境下で使用される電気電子部品、オイルシール、シーラント等として好適に使用でき、具体的には、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物層を有する電気電子部品、該組成物の硬化物からなる自動車用オイルシール、該組成物の硬化物からなる建築用シーラント等を例示することができる。
【0035】
[実施例]
以下に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0036】
室温は25℃を示し、部は質量部を示し、(A)成分の各重合度(a、b)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ分析において、東ソー株式会社製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM−N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度:40℃、注入量:50μL、サンプル濃度:0.3質量%の条件にて測定した数平均重合度を示す。粘度は25℃における回転粘度計による測定値である。
【0037】
[実施例1]
(A)成分である、下記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、(C)成分である、下記式(5)で表されるジ−μ−クロロ−ビス[クロロ(p−シメン)ルテニウム(II)]を、下記式(7)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンに分散した溶液5.9部((A)成分に対してルテニウム原子換算で16ppm)及び(B)成分である、下記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.4部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物1とし、該組成物1を150℃、100時間加熱処理することで硬化物1を作製した。
【0038】
【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

(式(7)中、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。)
【化16】

【化17】
【0039】
[実施例2]
(A)成分である、上記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、(C)成分である、上記式(5)で表されるジ−μ−クロロ−ビス[クロロ(p−シメン)ルテニウム(II)]を、上記式(7)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンに分散した溶液30.3部((A)成分に対してルテニウム原子換算で85ppm)及び(B)成分である、上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.9部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物2とし、該組成物2を150℃、100時間加熱処理することで硬化物2を作製した。
【0040】
[実施例3]
(A)成分である、上記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、(C)成分である、上記式(8)で表されるシクロペンタジエニルビス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)クロリドを、上記式(7)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンに分散した溶液10.4部((A)成分に対してルテニウム原子換算で30ppm)及び(B)成分である上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.9部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物3とし、該組成物3を150℃、85時間加熱処理することで硬化物3を作製した。
【0041】
[実施例4]
(A)成分である、上記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、(C)成分である、上記式(9)で表される(ヘキサメチルベンゼン)ルテニウム(II)ジクロリドダイマーを、上記式(7)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンに分散した溶液28.0部((A)成分に対してルテニウム原子換算で80ppm)及び(B)成分である、上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.9部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物4とし、該組成物4を150℃、85時間加熱処理することで硬化物4を作製した。
【0042】
[比較例1]
(A)成分である、上記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、硬化触媒として白金原子を0.5質量%含有する塩化白金酸ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液を0.1部及び(B)成分である、上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.2部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物5とし、該組成物5を150℃、0.5時間加熱処理することで硬化物5を作製した。
【0043】
[比較例2]
上記式(1)で表されるフェニレン基を有しないオルガノポリシロキサン(R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=0、b=200)100部に対して、(C)成分である、上記式(5)で表されるジ−μ−クロロ−ビス[クロロ(p−シメン)ルテニウム(II)]を、上記式(7)で表される分子鎖中にフェニル基を有するオルガノポリシロキサンに分散した溶液5.7部((A)成分に対してルテニウム原子換算で16ppm)及び(B)成分である、上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.3部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで硬化性組成物6とし、該組成物6を150℃、100時間加熱処理することで硬化物6を作製した。
【0044】
[比較例3]
(A)成分である、上記式(1)で表されるフェニレン基を有するオルガノポリシロキサン((R=−Si(CH(−CH=CH)、R=メチル基、A=p−フェニレン基、a=11、b=250)100部に対して、(B)成分である、上記式(2)で表され、25℃での粘度が100 mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(A=メチル基、R=メチル基、c=16、d=28、SiH量;5.5 mmol/100g)2.9部を添加し、室温下で均一になるまでよく混合し、遠心脱泡することで組成物7とし、該組成物7を150℃、100時間加熱処理したが、該組成物7は硬化せず、該組成物7の硬化物を得ることはできなかった。
【0045】
上記硬化物1〜6について、230℃空気雰囲気下における経時のゴム硬度変化をJIS K7312に規定されるアスカー(Type C)を用いて測定した。測定した硬度の、初期値(0時間)と600時間経過後の測定値との変動差を求めた。また残存質量率(%)を精密天秤(METTLER TOLEDO社製 XS204)で随時計量することで求めた。これら2つの値の変化から耐熱性の評価を行った。結果を表1、2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜4の組成物1〜4から得られた硬化物1〜4は、本発明の要件を満たすものであり、600時間経過後の硬度変化は、変動差8〜9であり、良好な耐熱性を有していることが明らかとなった。また600時間経過後の残存質量率(%)に関しても全ての時間において95%以上を有していた。
一方、比較例1の組成物5から得られた硬化物5の600時間経過時における硬度変化は、変動差16となった。これは、本発明に必須である(C)成分の代わりの白金触媒が、硬化物中に含まれるために、耐熱性が低下したと考えられる。
また、比較例2の組成物6から得られた硬化物6の600時間経過時における硬度変化は、変動差47となった。これは、本発明に必須である(A)成分が含まれていないため、アリーレン基を主鎖に有するオルガノポリシロキサン由来の耐熱性が発現されなかったと考えられる。以上、比較例1、2の硬度変化は、実施例1〜4の硬度変化と比較して大幅に増加しており、硬化物5、6は、硬化物1〜4と比較して、耐熱性が劣っていた。
また比較例1、2の残存質量率(%)に関しても600時間経過後に90%以下となっており、実施例1〜4の残存質量率(%)と比較して低かった。以上の結果から、(A)成分及び(C)成分は本発明の組成物に必須であることが明らかとなった。
更に、比較例3の組成物は、本発明の組成物に必須である(C)成分が含まれていないため、(A)成分と(B)成分との付加反応が進行せず、架橋構造が形成されないため、硬化物を得ることができなった。このことから(C)成分は本発明の組成物に必須である。
以上のことから、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物から得られる硬化物が高耐熱性の発現に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化することにより得られる硬化物は、高い耐熱性を有することから、高温環境下で使用されるシーリング剤、接着剤及びコーティング剤等として有用である。