【0030】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は上記実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の改良ならびに設計の変更などが可能である。
上記実施形態では、引き上げ速度を遅くすることで固液界面が下凸形状となるように制御したが、これに限定されない。
例えば、引き上げ中のn型シリコン単結晶インゴット6を、
図1に二点鎖線で示すように、これを囲繞するように配置された水冷体50により冷却することで、固液界面Sを下凸形状に制御してもよい。
また、いわゆるマルチ引き上げ法によってn型シリコン単結晶インゴット6を引き上げることで、固液界面Sを下凸形状となるように制御してもよい。具体的には、
図1に二点鎖線で示すように、ドーパント添加融液41の液面41Aの位置における坩堝31の内径をA、液面41Aからの坩堝31の深さをBとして、B/Aが0.5以下となる量のドーパント添加融液41を収容し、このドーパント添加融液41からn型シリコン単結晶インゴット6を引き上げてもよい。その後、1本のn型シリコン単結晶インゴット6を製造する毎に坩堝31にシリコン多結晶原料とドーパントとを追加して、次のn型シリコン単結晶インゴット6を製造してもよい。
また、上記の方法を組み合わせることで、固液界面Sが下凸形状となるように制御してもよい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、以下において、n型シリコン単結晶インゴット、n型シリコンウェーハを、単に、シリコン単結晶インゴット、シリコンウェーハと称して説明する。
【0033】
〔実施例1:固液界面形状とシリコンウェーハの面内抵抗のばらつきとの相関調査〕
まず、チョクラルスキー法により、肩部、直胴部、テール部を有するシリコン単結晶インゴットを製造した。
この製造に際し、
図3に示すように、引き上げ速度を直胴部の位置に応じて制御した。この制御では、直胴部の0mm(直胴部上端)の位置から200mmの位置にかけては、引き上げ速度をほぼ直線的に遅くし、200mmの位置から直胴部下端の位置にかけては、引き上げ速度を一般的な速度よりも遅い0.4mm/minで一定にした。このように制御した理由は、引き上げ速度を変化させることで、ドーパント添加融液の対流が変化し、固液界面の形状を制御できると考えたからである。
なお、他の製造条件は以下の通りである。
ドーパント :赤リン
赤リン濃度 :インゴットから切り出したシリコンウェーハの抵抗率が
0.7mΩ・cm以上2.0mΩ・cm以下となる濃度
インゴット直径:150mm
直胴部の長さ :1000mm
磁場の印加 :なし
【0034】
次に、上記条件で製造したシリコン単結晶インゴットの直胴部を、中心軸に直交する方向に切断し、複数の円筒状ブロックを作成した。そして、この円筒状ブロックを中心軸を通る位置で縦方向(中心軸方向)に切断し、その切断面をX線で撮影して固液界面の形状を確認した。その結果を
図4に示す。なお、
図4に示す「固液界面の凸形状高さ」とは、固液界面の外縁の位置を0、引き上げ方向を正方向とした場合の、固液界面中央の高さを意味する。
図4に示すように、固液界面の形状は、直胴部の400mmの位置では水平(高さ0mm)であり、400mmより上端側では上凸形状であり、400mmより下端側では下凸形状であった。
このことから、引き上げ速度を遅くすることで、固液界面の形状を下凸形状に制御できることが確認できた。
【0035】
次に、上記条件で製造した別のシリコン単結晶インゴットの直胴部から、真円板状の複数のシリコンウェーハを切り出し、RRGを評価した。RRGの評価は、シリコンウェーハの中心を通る直線上の複数の位置で抵抗値を測定し、この測定結果に基づいて行った。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、固液界面が下凸形状の場合のRRGは、上凸形状の場合のRRGよりも小さいことがわかった。
また、
図4に示す結果を用いて、固液界面の凸形状高さとRRGとの相関を調べたところ、
図5に示す結果が得られた。この
図5の結果から、固液界面の下凸形状の高さを、−4mm以下にすることで、RRGが8%以下になることがわかる。
【0036】
ここで、
図5の結果から、下凸形状の高さが高いほどRRGが小さくなると推測できるが、高さを高くした場合に別の問題が発生することも考えられる。そこで、下凸形状の高さの下限値を調べるために、高さが−15mm、−16mmのサンプルを作成して評価したところ、有転位化が発生することがわかった。
以上のことから、直径が150mmのシリコン単結晶インゴットを製造する場合、固液界面の下凸形状の高さを、−14mm以上−4mm以下にすることで、RRGが8%以下になることが確認できた。
【0037】
また、上記の結果は、シリコン単結晶インゴットの直径が150mmの場合であるが、他の直径の場合でも、固液界面の凸形状高さとRRGとの間には同様の相関があると考えられる。
したがって、シリコン単結晶インゴットの直径がDmmの場合、固液界面の下凸形状の高さを、−0.0933D(−14mm/150mm)以上−0.02D(−4mm/150mm)以下にすることで、RRGが8%以下になると考えられる。
【0038】
〔実施例2:実施例1の調査で得られた結果の検証〕
まず、表1に示す条件で、実験例1のシリコン単結晶インゴットを製造した。この製造に際し、直胴部の上端領域、中央領域、下端領域における固液界面の形状が表1に示す形状になるように、引き上げ速度を制御した。また、ドーパントとして赤リンを添加し、磁場の印加は行わなかった。
そして、上端領域、中央領域、下端領域における固液界面の中央の高さ、固液界面の形状、凸形状比率、RRGを上記実施例1と同様の方法で調べた。
その結果を表1に示す。
なお、表1中、「直胴部の上端領域」とは、直胴部の上端を0%、下端を100%の位置とした場合、5%以上30%未満の領域である。また、「中央領域」、「下端領域」とは、それぞれ30%以上60%未満の領域、60%以上90%未満の領域である。また、「凸形状比率」とは、固液界面中央の高さHを直胴部の直径Dで除した値である。
【0039】
【表1】
【0040】
実験例1の結果から、凸形状比率が−0.0933以上−0.02以下の条件を満たす下端領域では、RRGが8%以下となり、上記条件を満たさない上端領域、中央領域では、RRGが8%を超えた。すなわち、凸形状比率とRRGとの相関は実施例1の結果と同様であった。
【0041】
また、直胴部上端の抵抗率をそれぞれ0.02Ω・cm、0.5Ω・cm、4Ω・cmとし、引き上げ速度を変更したこと以外は、実験例1と同じ条件で、実験例2,3,4のシリコン単結晶インゴットを製造し、実験例1と同様の評価を行った。
表1に示すように、直胴部上端の抵抗率が0.02Ω・cm(2mΩ・cm)以上4Ω・cm以下の範囲では、抵抗率が変わっても、凸形状比率とRRGとの相関は実施例1の結果と同様であった。また、この結果から、直胴部上端の抵抗率が2mΩ・cm未満、あるいは4Ω・cmを超える場合でも、同様の結果が得られると推測できる。
【0042】
また、直胴部の長さを600mmとし、引き上げ速度を変更したこと以外は、実験例1と同じ条件で、実験例5のシリコン単結晶インゴットを製造し、実験例1と同様の評価を行った。
表1に示すように、直胴部の長さが変わっても、凸形状比率とRRGとの相関は実施例1の結果と同様であった。また、この結果から、直胴部の長さが600mm未満、あるいは1000mmを超える場合でも、同様の結果が得られると推測できる。
【0043】
また、直胴部の直径をそれぞれ200mm、200mm、100mm、100mmとし、引き上げ速度を変更したこと以外は、実験例1と同じ条件で、実験例6,7,8,9のシリコン単結晶インゴットを製造し、実験例1と同様の評価を行った。
表1に示すように、直胴部の直径にかかわらず、凸形状比率とRRGとの相関は実施例1の結果と同様であった。また、この結果から、直胴部の直径が100mm未満、あるいは200mmを超える場合でも、同様の結果が得られると推測できる。
【0044】
以上のことから、直胴部の直径、直胴部の長さ、直胴部上端の抵抗率にかかわらず、凸形状比率H/Dが−0.0933以上−0.02以下となるように固液界面形状を制御することで、RRGが8%以下のシリコンウェーハを得られることがわかった。
【0045】
〔実施例3:固液界面形状とシリコンウェーハの面内抵抗分布との相関調査〕
実施例1のRRG評価に用いたシリコンウェーハのうち、固液界面が上凸形状(凸形状高さが5mm)の部分から切り出したシリコンウェーハ(実験例10)、および、下凸形状(凸形状高さが−5mm)の部分から切り出したシリコンウェーハ(実験例11)の抵抗分布を
図6に示す。以下において、シリコンウェーハの中心を0%の位置、外縁を100%の位置とした場合における、0%の位置から20%の位置までの領域を第1領域、20%の位置から80%の位置までの領域を第2領域、60%の位置から100%の位置までの領域を第3領域と称して説明する。
【0046】
図6に示すように、上凸形状部分から得られた実験例10では、第3領域の抵抗率の平均値が第2領域の抵抗率の最大値および第1領域の抵抗率の最小値よりも大きいことがわかった。
一方、下凸形状部分から得られた実験例11では、第3領域の平均値が、第2領域の最大値より小さく、かつ、第1領域の最小値より大きいという特徴的な抵抗分布を有していることがわかった。
以上のように、実験例11に示される特徴的な抵抗分布がRRGに良好な結果をもたらし、RRGを8%以下とすることができることがわかった。すなわち、結晶方位が<111>であること、直径Dに対する固液界面中央の高さHが一定以上の大きさを持つ下凸形状であることが複合的に作用して、特徴的な面内抵抗率分布を形成し、その結果、RRGを8%以下にすることができることがわかった。