特許第6809785号(P6809785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 名古屋工業大学の特許一覧 ▶ 株式会社今仙電機製作所の特許一覧

<>
  • 特許6809785-歩行支援機 図000002
  • 特許6809785-歩行支援機 図000003
  • 特許6809785-歩行支援機 図000004
  • 特許6809785-歩行支援機 図000005
  • 特許6809785-歩行支援機 図000006
  • 特許6809785-歩行支援機 図000007
  • 特許6809785-歩行支援機 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809785
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】歩行支援機
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/00 20060101AFI20201221BHJP
【FI】
   A61H3/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-250597(P2015-250597)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-113193(P2017-113193A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年11月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 基
(72)【発明者】
【氏名】佐野 明人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 光久
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝
(72)【発明者】
【氏名】多良 信太郎
【審査官】 今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−164451(JP,A)
【文献】 特開2016−059763(JP,A)
【文献】 特開2013−236741(JP,A)
【文献】 特表2005−523111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 1/02− 3/00
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の大腿部の側方に配置される第1リンク部と、
身体に直接又は間接的に固定され、第1回転支持部が取り付けられるベースとなるベース部を備えた支持部と、
前記支持部に対して前記第1リンク部を回転可能に支持し、かつ前記第1リンク部を前方向への付勢又は後方向への付勢に切り替え可能であるトルク発生装置を有する第1回転支持部と、
前記第1リンク部に直接又は間接的に設けられた使用者の大腿部又は下腿部に装着される腿装着部材と、
を備え、
前記第1回転支持部は、突起部を外周に有し中心からの距離が前記突起部に近づくほど長くなる偏心円に形成されており、前記ベース部に固定されている回転プレートと、前記回転プレートの周面を押圧する付勢力発生装置と、を有し、
前記付勢力発生装置の位置を移動させて前記突起部を超えて反対側に移動させることによって、前記第1リンク部を前方向への付勢及び後方向への付勢に切り替え可能である前記トルク発生装置を有することを特徴とする歩行支援機。
【請求項2】
前記トルク発生装置に固定的に取付けられる角度調整部材を有し、前記角度調整部材は前記ベース部に回転可能に取付けられ、前記角度調整部材を操作することによって、前記トルク発生装置の前記ベース部に対する角度を調整可能であることを特徴とする請求項1に記載の歩行支援機。
【請求項3】
前記第1回転支持部は、前記トルク発生装置が複数設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の歩行支援機。
【請求項4】
前記第1回転支持部は、前記トルク発生装置が前記ベース部に対して両側に対称配置となるように設けられ、それぞれの前記トルク発生装置は、前記ベース部に対する取付角度がそれぞれ異なるように取付けられていることを特徴とする請求項3に記載の歩行支援機
【請求項5】
前記トルク発生装置には、角度センサーが設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歩行支援機。
【請求項6】
前記支持部の少なくとも一部は、弾性部材であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の歩行支援機。
【請求項7】
前記腿装着部材は、腿当部が腿の前側に配置されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の歩行支援機。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行支援機に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、脚を患った人に有効な歩行支援機として、使用者の腰に装着される腰装着部材と、使用者の大腿部の側方に配置される第1リンク部と、前記腰装着部材と第1リンク部を回転可能に支持する第1回転支持部と、使用者の大腿部又は下腿部に装着される腿装着部材と、前記腿装着部材と前記第1リンク部を回転可能に支持する第2回転支持部と、を備え、前記第1リンク部は、複数の棒状部材からなることを特徴とする歩行支援機を提案している(特許文献1)。
【0003】
かかる歩行支援機は、腰に装着して使用される歩行支援機であり、主として、片麻痺等の歩行能力の弱くなった人に対して自然な歩行を補助するために軽いアシストを行なう装置である。そのため、健常者に対して荷物運搬等の重労働の肉体的負担を軽減する目的で使用したり、山道等の補助を目的で使用したりする場合には、アシスト力が小さい上、アシスト方向も一定方向のみであったため、有効性が低かった。
【0004】
健常者へのアシストは、筋肉により自ら脚を動かすことが可能であるため、筋肉のつき方の違いなどで使用者によって欲するアシストが異なるものとなり、また使用者の使用目的によっても欲するアシストが異なる場合がある。例えば、登山をする際において、通常の登山者の場合、大腿を上げる動作における筋力の余力が少なく、ボトルネックとなり、疲労を感じやすい。この場合は、股関節を屈曲方向にアシストすることが効果的であると考えられる。これに対し、登山上級者の場合、大腿部を上げる筋力が十分に備わっており、大腿部を大きく上げることのない歩き方を習得しているといった具合に、大腿部を上げる動作に関する筋力に余力がある者も多い。こうした登山上級者の場合、大腿部を上げる動作をアシストするよりも、伸展する方向にアシストした方が疲労軽減に対して貢献する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2014−164483
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、こうした課題を鑑みてなされたものであり、付勢力の発生範囲を調整可能とするとともに、付勢力の方向も変更可能な歩行支援機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的を達成するために、以下の手段を採った。
【0008】
本発明の歩行支援機は、使用者の大腿部の側方に配置される第1リンク部と、身体に直接又は間接的に固定される支持部と、前記支持部に対して前記第1リンク部を回転可能に支持し、かつ第1リンク部を前方向への付勢又は後方向への付勢に切り替え可能であるトルク発生装置を有する第1回転支持部と、第1リンク部に直接又は間接的に設けられた使用者の大腿部又は下腿部に装着される腿装着部材と、を備えていることを特徴とする。本発明にかかる歩行支援機によれば、アシスト方向が股関節を屈曲する方向と伸展する方向の切り替え、すなわち、脚を前方向に運ぶ方向と後方向に運ぶ方向の切り替えを可能とすることができる。そのため、使用者に応じて、必要な方向のアシストを行なうことができる。
【0009】
また、本発明にかかる歩行支援機において、前記トルク発生装置は、支持部に対して角度を調整可能な角度調整部材を有していることを特徴とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、角度調整部材によって付勢力を発生させる範囲を変更することができる。これにより、使用者に応じて最適な位置でアシストすることが可能になる。また、歩行支援機を装着したまま、歩いた状態でもアシスト位置を変更することができるようになる。
【0010】
さらに、本発明にかかる歩行支援機において、前記第1回転支持部は、トルク発生装置が複数設けられていることを特徴とするものであってもよい。第1回転支持部に複数のトルク発生装置を設けることで強い回転力を得て、第1リンク部をより強い力で移動させることができ、健常者に対しても最適なアシストをすることができる。
【0011】
さらに、本発明にかかる歩行支援機において、複数の前記トルク発生装置は、それぞれの取り付け角度が変更可能であることを特徴とするものであってもよい。複数のトルク発生装置の取付角度をそれぞれ別々に調整することで、トルク特性及びアシスト範囲の調整を行なうことができるようになる。
【0012】
さらに、本発明にかかる歩行支援機において、前記トルク発生装置には、角度センサーが設けられていることを特徴とするものであってもよい。かかる角度センサーを設けておくことよって、使用者の歩行中の作動角度、歩幅アシスト力、アシスト範囲、方向設定等のログを取ることで、種々のデータ処理を行なうことができるようになる。
【0013】
さらに、本発明にかかる歩行支援機において、前記支持部の少なくとも一部は、弾性部材であることを特徴とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、第1回転支持部自体に力が加わった場合に、位置を変更させたり、捻る方向等に移動させることができるので、使用者による微妙な脚の動きの違いに対応させることができるようになる。
【0014】
さらに、本発明にかかる歩行支援機において、前記腿装着部は、腿当部が腿の前側に配置されていることを特徴とするものであってもよい。かかる構成を採用することによって、より効率的に脚にアシスト力を伝えることができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる歩行支援機によれば、付勢力の発生範囲を調整可能とするとともに、付勢力の方向も変更可能とすることができる歩行支援機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態にかかる歩行支援機100の構成の概略を示す正面斜視図である。
図2図2は、実施形態にかかる歩行支援機100の第1回転支持部20の構成の概略を示す分解斜視図である。
図3図3は、実施形態にかかる歩行支援機100の第1回転支持部20の構成の概略を示す側面図である。
図4図4は、実施形態にかかる歩行支援機100の回転プレート21を示す模式図である。
図5図5は、実施形態にかかる歩行支援機100の第1回転支持部20の構成の概略を示す側面図である。
図6図6は、実施形態にかかる歩行支援機100の腿装着部材50を示す部分斜視図である。
図7図7は、実施形態にかかる歩行支援機100の使用状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態にかかる歩行支援機100を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態及び図面は、本発明の実施形態の一部を例示するものであり、これらの構成に限定する目的に使用されるものではない。なお、各図において対応する構成要素には同一又は類似の符号が付されている。なお、本発明の歩行支援機100は、両脚用であっても片脚用であってもよいが、片脚用の歩行支援機100は、両脚用の歩行支援機100のいずれか一方のみを取り付けるのみの違いであるので、両脚用の歩行支援機100を説明することによって片脚用の歩行支援機100の説明に代える。また、右脚用と左脚用とは、左右対称であるので、使用者の左脚に装着して使用される左脚用の歩行支援機100を説明することにより、右脚用の歩行支援機100の説明に代える。
【0018】
図1は、第1実施形態にかかる歩行支援機100の斜視図である。本実施形態の歩行支援機100は、図1に示すように、主として、身体に直接又は間接的に固定される支持部10と、第1リンク部30と、支持部10に対して第1リンク部30を回転自在に支持する第1回転支持部20と、大腿部に装着する腿装着部材50と、を有する。図1には、左右一対の歩行支援機100と、この歩行支援機100が取り付けられる背負子90とが図示されている。
【0019】
支持部10は、第1回転支持部20がトルクを発生させて第1リンク部30を回転させる際に、第1回転支持部20の固定側、いわゆる支点としての機能を有する。支持部10は、図2に示すように、身体や背負子等に固定される固定部11、第1回転支持部20が取り付けられるベースとなるベース部12、及びこれら固定部11とベース部12との間に配置される弾性部材からなる緩衝部材13とを組み合わせて作製されている。固定部11は、身体に直接に、又は間接的に取り付けられて支持部10全体の位置を固定する機能を有する。第1実施形態は、背負子90に固定されている例が示されている。ベース部12は、後述する第1回転支持部20が取り付けられる部材である。図2に示すように、後述する角度調整部材60を回転可能に支持するため回転軸12aを略中心に有し、その周囲には、角度調整部材60の回転を確保するために円弧状に設けられた円弧部12bと、この円弧部12bの外周側に、角度調整部材60の角度を把握するための角度目盛12cが設けられている。緩衝部材13は、プラスチック、金属、その他の弾性部材で作製されており、剛性を有しつつ、一定の捻り、伸張又は短縮が可能な形態を有している。緩衝部材13は、長手方向の伸張、圧縮等にも対応可能とするため、屈曲して形成されている。これら固定部11、ベース部12及び緩衝部材13は、螺合部材95によってそれぞれ固定されている。固定部11と緩衝部材13とは、第1回転支持部20を使用者の大転子の側方に配置するため、その位置を調整可能なように複数の異なる位置に取り付けられるように設けられている。
【0020】
支持部10には、第1回転支持部20が第1リンク部30を回転させるために加えられたトルクに対応する反力が加わることになる。そのため、支持部10は、この反力に対して負けない力で支持、固定される必要がある。一方で、第1回転支持部20に一切のがたつきがなくなるほど完全に固定してしまうと、第1リンク部30が脚の動きに合わせて動きづらくなる可能性がある。すなわち、完全に前後方向のみの移動のみで、足の運び時の多少の捻り等にも対応できなくなってしまう可能性がある。そこで、支持部10は、固定部11、ベース部12、及びこれら固定部11とベース部12との間に固定される緩衝部材13とを組み合わせて作製されており、支持部10に緩衝機能、弾性機能を持たせてある。これにより、緩衝部材13が若干捻られたり、伸ばされたりすることで脚の複雑な動きに追従させることができるようになる。一方で、従来のように腰ベルト等で固定した場合には、腰への固定が緩いためベルト自体が移動したり、変形したりして第1回転支持部20が大きく移動しやすく、第1リンク部30に力が効果的に伝達されないおそれがある。そこで、固定部11で確実に固定を確保しつつ、緩衝部材13による適度に捻りや撓みで脚の動きに追従可能にした。なお、固定部11を固定する部位は特に限定するものではないが、好ましくは、上半身又は上半身に取り付けられた部材(例えば背負子、金属の入った防護服等)に取り付けると良い。より好ましくは、少なくとも臍より上方の位置に取り付けることが好ましい。臍より上方に取り付けることで第1回転支持部20からの距離を確保することができ、より弱い力でベース部12を支持し、上半身にかかる力を低減することができるからである。身体に直接取り付ける場合は、例えば、胸ベルトを延設部に設けて胸にベルトを巻回して固定する方法等が考えられる。また、間接的に上半身に取り付けられる部材の例としては、背負子、消防士のボンベ、金属の入った防護服等に取り付けることが考えられる。勿論、これらに限定されるものではなく、その他の場所に取り付けても良い。
【0021】
第1回転支持部20は、図1に示すように、第1リンク部30にトルクをかけて回転させるための部材である。第1回転支持部20は、図2に示すように、主として、2つのトルク発生装置29で作製されている。トルク発生装置29は、略円盤状の回転プレート21と、この回転プレート21を回転自在となるように内側に配置する外側ハウジング22と、この外側ハウジング22に設けられている付勢力発生装置24と、を備えている。
【0022】
回転プレート21は、図3に示すように、円盤状に形成されており、その略中心には取付孔が設けられており、この取付孔を利用して固定用螺合部材91で外側ハウジング22内に回転自在に取り付けられている。回転プレート21は、図4に示すように、側面の一部から側方方向に突出する突起部21aを有しており、この突起部21aの先端と中心を結ぶ線Cに対して線対称に形成されている。外周は、中心からの距離が突起部21aに近づくほど長くなる偏心円に形成されている。すなわち、線分D、線分E、線分Fと順に長くなるように形成されている。回転プレート21には、複数のネジ孔21bが設けられており、後述する角度調整部材60に固定される。
【0023】
外側ハウジング22は、図2に示すように、回転プレート21が収容可能な凹部を有しており、その周囲には、第1リンク部30を固定する第1リンク取付部23と、外側ハウジング22を一定の回転方向に付勢させる付勢力発生装置24と、が設けられている。
【0024】
第1リンク取付部23は、図2に示すように、第1リンク部30が挿入される2つの第1リンク部挿入孔23aと、この2つの第1リンク部挿入孔23aを締め付けることが可能な締付用片23dと、締付用ボルト23eとを有している。第1リンク部30は、第1リンク部挿入孔23aに挿入した後、締付用ボルト23eで締め付けることにより、第1リンク取付部23に固定される。なお、ここに示した第1リンク部30の取付方法はあくまで一例であり、その取付方法は特に限定するものではなく、他の方法によって固定しても構わない。なお、第1リンク取付部23の第1リンク部挿入孔23aは、固定に必要な長さ以上の長さ(深さ)を有する孔に形成しておくとよい。かかる構成を採用することで、第1リンク部30を構成する棒状部材の差し込み量によって、第1リンク部30の長さを調整することができる。
【0025】
付勢力発生装置24は、図2に示すように、外側ハウジング22から歩行支援機100を身体に取り付けた状態で略下方に延出するように設けられている。付勢力発生装置24は、図3に示すように、筒状部材24aと、この筒状部材24aに内蔵された圧縮バネ24cとを備えている。圧縮バネ24cは、先端にローラーが設けられた押圧部24bを備えており、回転プレート21の周面を押圧している。回転プレート21は、前述したように偏心に形成されており、半径Dの位置から半径Fの位置に向かって、徐々に半径が長くなるように形成されていることから、矢印αの方向に回転プレート21が回転移動するに従って圧縮バネ24cは圧縮されて弾性エネルギーが蓄勢されていく。よって、回転プレート21は、矢印αとは反対の方向に付勢されることになる。実際には、回転プレート21は、ベース部12を介して身体の腰の部分に回転できないように固定されているため、歩行支援機100が身体に取り付けられている状態では、外側ハウジング22側が矢印βの方向に付勢され、第1リンク部30が付勢されて脚をアシストする。さらに、図5に示すように、付勢力発生装置24の位置をさらに移動させて、突起部21aを越えて線Cの反対側に移動させることによって、外側ハウジング22側が矢印γの方向に付勢され、第1リンク部30は逆方向に付勢されることになる。
【0026】
こうして作製されたトルク発生装置29は、図2に示すように、ベース部12に対して両側にそれぞれ1つずつが対称配置となるように、それぞれ角度調整部材60を介して取り付けられる。なお、両側に取り付けられるそれぞれのトルク発生装置29は、対称の形態をしている。角度調整部材60とトルク発生装置29は、移動不可能に固定的に取り付けられる。角度調整部材60のうちのいずれか一方には、操作しやすいように操作者が把持可能なレバー部61が設けられている。角度調整部材60は、ベース部12の両側からボルト93等によって挟持するように固定される。この際にボルトは、円弧部12b内を通過するように配置される。この際の固定力は、歩行支援機100のアシストによる反力に耐えて移動しない適度な摩擦力を有するとともに、使用者がレバー部61を操作することによって、トルク発生装置29のベース部12に対する角度を変更可能な程度の強度で取り付けられる。よって、この角度調整部材60に固定的に取り付けられるトルク発生装置29は、歩行支援機100を使用中に操作することなく移動することはないが、使用者自らがレバー部61を動かすことで中心軸を中心に回転移動させることができる。なお、角度調整部材60には、現在の角度が分かるように、角度目盛12cを指す指針部64が設けられている。なお、図2に示すように、トルク発生装置29には、角度センサー又は傾斜センサー等の各種センサーを内蔵させてもよい。
【0027】
第1リンク部30は、腿装着部材50に力を伝える伝達部材であり、主として、歩行支援機100が身体に取り付けられた際に、脚の大腿部の外側方に配置される。本実施形態においては、図1に示すように、第1リンク部30は、2本の弾性を有する棒状部材が前後に平行又はほぼ平行に配置されて形成されているものを使用している。勿論、これに限定するものではなく、一枚の大きな金属製の板材等で第1リンク部30を構成してもよい。2本の弾性を有する棒状部材を使用することで、それぞれの棒状部材が個別に湾曲したりすることが可能であるため、より捻りや押圧に対して緩衝しやすくすることができる。すなわち、重量物を持ち運んだり、斜面を登坂したりする際に、人それぞれの脚に応じてかかる負担の場所と部位が若干異なるものであるが、この相違をさらに緩衝することができる。棒状部材の素材としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等の繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。棒状部材の断面形状としては、四角形、三角形、円形等種々の断面形状のものを使用することができる。また、中空の筒状部材(パイプ状部材)を使用してもよい。使用者に直接接触する可能性があることや、いずれの曲げ方向にも同様の曲げ弾性を有し、かつ弾性を調整しやすいこと等の理由からパイプ状のCFRPを使用するとよい。2本の棒状部材は、異なる太さの棒状部材を使用したり、異なる素材からなる棒状部材を使用したりして、2本の棒状部材の弾性力、ねじり剛性等が異なる物性を有するものを使用してもよい。このように、本実施形態における歩行支援機100によれば、第1リンク部30の剛性、捻り、湾曲等をより細やかに調整することができる。また、2本の棒状部材を非平行に配置してもよい。例えば、上側(第1回転支持部20側)の間隔が狭く下側(第2回転支持部40側)の間隔が広くなるように配置したり、またこの逆に配置したりしてもよい。
【0028】
腿装着部材50は、図6に示すように、プラスチック、布等で作製された腿に当てがわれる腿当部54と、この腿当部54に形成された貫通孔54aに通され大腿部に巻回する腿装着ベルト55(図7参照)と、腿当部54を腿の大腿部の正面側に配置させるための架設部材53と、を備えており、第1リンク部30の先端に取り付けられる。腿当部54を正面側に配置し、かつ腿当部54の両端に腿装着ベルト55を配置することにより、腿を屈曲する方向にアシストする場合には、腿当部54の両端で引っ張ることにより、腿を伸展させる方向にアシストする場合には、腿当部54で押すようにアシストすることになる。かかる構成を採用することによって、腿に巻く腿装着ベルトの圧迫感を感じにくくすることができ、腿にフィットするため、横への脚の運びに対してもずれることなく、追従しやすくすることができる。また、アシスト方向を切り替えても、ズレによるロスがなく、効率よくアシスト力を脚に伝達することができる。
【0029】
こうして作製された歩行支援機100は、図1に示すように、背負子90の両側に右脚用及び左脚用のものがそれぞれ取り付けられて使用される。歩行支援機は。図7に示すように、それぞれの第1回転支持部20が使用者の大転子の側方に配置されるように調整して取り付けられる。
【0030】
こうして使用者に装着された歩行支援機100は、以下のように作用する。まず初めに、大腿部を前に移動させるアシスト、すなわち、股関節を屈曲させる方向にアシストする場合について説明する。使用者が歩行する際には、歩行支援機100が取り付けられた脚は、支持脚と遊脚とを繰り返すことになる。歩行支援機100は、第1リンク部30が大腿部に沿って移動し、自然な遊脚と支持脚の動きに合わせて移動する。この際に、第1リンク部30は、付勢力発生装置24によって第1リンク部30が前方方向へ付勢されている。そのため、脚が遊脚となった場合には、下腿部が前方方向へ振り出されるように促進される。このように前方へ脚を押し出す力が付加されるため、重い荷物を運搬している場合や坂道を登坂する場合であっても第1回転支持部20による強いトルクにより、普段の力若しくは普段の力よりも弱い力で脚を容易に移動させることができる。また、歩行支援機100は、脚が外側へ広がることを同時に防止するので、重い荷物を運んでいる際のよろめき等を効果的に防止することができる。この際に最も強い付勢力を欲する範囲が使用者によって異なることがある。こうした場合には、レバー部61を移動させることによって、付勢力の働く範囲を変更させることができる。付勢力が必要な範囲は、異なる使用者間だけでなく、例えば同じ登山者であっても坂の角度等の路面状況によったり、同じ荷物運搬業者であっても運ぶ荷物の重さ等によって必要な範囲が異なったりする場合がある。こうした場合にレバー部61の位置を変更することによって、歩行支援機100を取り外すことなく、その付勢力のかかる範囲を変更することができる。
【0031】
脚が前方へ移動すると、付勢力発生装置24の弾性エネルギーが解放されるが、脚が地面に着地し支持脚となり、反対側の脚が前方に押し出されると、第1リンク部30は、第1回転支持部20を中心に後方側へ回転移動する。すると、再度、回転プレート21によって圧縮バネ24cが押圧され、弾性エネルギーが蓄勢される。そして、再度遊脚となったときに遊脚を前方へ押し出すことができる。こうして、歩行時において遊脚となった場合には常に前方へ脚を押し出すことができる。
【0032】
次に、大腿部を後方に移動させる場合、すなわち、股関節を伸展させる方向にアシストする場合について説明する。アシストする方向を逆転させるには、先述したように、付勢力発生装置24の押圧部24bが突起部を越えて反対側に位置するように外側ハウジング22を移動させることで、反対側方向に付勢力が発生する。そして、レバー部61によって最適な位置に付勢力が発生するように、調整する。こうして後方方向へのアシストにすると、例えば登山の場合に、坂の前方かつ上方に脚を移動した後に、股関節を伸展させる方向にアシストされ、上半身を上方へ移動させようとする方向へ補助が働くことになる。このようにアシスト方向の切り替えも脚により押圧部24bの位置を変更させ、かつレバー部61で付勢力のかかる位置を変更することで歩行支援機100を身体から取り外すことなく変更することができる。
【0033】
このように本発明にかかる歩行支援機100によれば、付勢力の発生する範囲を自由に設定することができる。しかも、歩行支援機100を身体に取り付けた状態に加え、歩行中であってもレバー部61によって変更することができる。また、同様に、歩行支援機100を身体に取り付けた状態で脚によって付勢力発生装置24の押圧部24bの位置を変更することで、反対方向に付勢力を変更することができる。
【0034】
また、トルク発生装置29を複数設けることによって、トルク発生装置29を一つ設けた場合と比較して、第1回転支持部20の直径を大きくすることなく、大きなトルクを発生させることができる。また、それぞれのトルク発生装置29に係る負荷は、1つのトルク発生装置29を設けた場合と同様の力しかかからないので、それぞれの部品に与える負荷が大きくなることはない。そのため、トルクは強くなっているにもかかわらず、1つの場合と同様の信頼度及び寿命を有した第1回転支持部20を提供することができる。また、2つの第1回転支持部20を取り付けるのに際して、それぞれのトルク発生曲線が異なるように、すなわち、それぞれのトルク発生装置29のそれぞれの取付角度が異なるように設けることで、第1リンク部30の位置に応じて負荷を調整することができるようになる。例えば、荷物を持ち上げる動作に必要な脚の動きに応じて、最も力が必要な部位でトルクを最も発生させたり、登山等で斜面を歩く場合に、筋力の余力の大きい股関節の伸展動作部でばねに力を蓄えて、余力の小さい股関節の屈曲時に第1回転支持部20の回転トルクを配分し、屈曲動作をアシストさせたりといった具合である。なお、トルクそのものの強さの調整は、付勢力発生装置24によって調整することができる。
【0035】
また、使用者が実際に歩行する場合には、脚が完全に前後運動するものではなく、外側に広がるような円弧を描きながら、脚は移動していくことから、第1リンク部30には、捻りの力が加わる場合がある。また、歩行時の腰の捻りや足の着地時において足が急激に向きを替えたりする場合において、支持部10及び第1リンク部30によってこの捻りを吸収することができる。そのため、脚に余計な力が加わることなく、自然な状態で歩くことができる。こうした支持部10及び第1リンク部30の捻りは、歩行時のみではなく、起立時に身体を捻ろうとした場合や、着座をする場合等にも捻りの力が加わることがあるが、こうした状況においても捻りの力を吸収することができる。さらに、この捻りの吸収に2本の弾性を有する棒状部材や弾性部材を使用することによって、金属板等を使用した場合と比較して、初期状態に戻りやすくなる。この捻れを復帰しようとする力によって、使用者は正しい歩行に規制されることになる。
【0036】
また、第1回転支持部20には、角度センサー又は傾斜センサーが設けられているので、支持部10に対する第1回転支持部20の回転角度等のデータから、歩行中の作動角度、歩幅、アシスト力、アシスト範囲、方向設定等のログを蓄積することで、今後の歩行支援機に必要かつ有効な様々なデータを収集することができる。
【0037】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
上述した実施の形態で示すように、健常者の肉体的負担の軽減を行なう歩行支援機として産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…支持部、11…固定部、12…ベース部、12a…回転軸、12b…円弧部、12c…角度目盛、13…緩衝部材、20…第1回転支持部、21…回転プレート、21a…突起部、21b…ネジ孔、22…外側ハウジング、23…第1リンク取付部、23a…第1リンク部挿入孔、23d…締付用片、23e…締付用ボルト、24…付勢力発生装置、24a…筒状部材、24b…押圧部、24c…圧縮バネ、29…トルク発生装置、30…第1リンク部、50…腿装着部材、53…架設部材、54…腿当部、54a…貫通孔、55…腿装着ベルト、60…角度調整部材、61…レバー部、64…指針部、90…背負子、91…固定用螺合部材、95…螺合部材、100…歩行支援機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7