特許第6809852号(P6809852)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6809852
(24)【登録日】2020年12月14日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】熱電変換素子および熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20201221BHJP
   H01L 35/32 20060101ALI20201221BHJP
   C01B 33/06 20060101ALN20201221BHJP
   B22F 3/10 20060101ALN20201221BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/32 Z
   H01L35/32 A
   !C01B33/06
   !B22F3/10 H
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-178296(P2016-178296)
(22)【出願日】2016年9月13日
(65)【公開番号】特開2018-46090(P2018-46090A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2019年5月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100108914
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 壯兵衞
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(72)【発明者】
【氏名】田所 准
(72)【発明者】
【氏名】菊地 大輔
(72)【発明者】
【氏名】須齋 京太
【審査官】 田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−154761(JP,A)
【文献】 特開2016−115866(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/125823(WO,A1)
【文献】 特開2012−256759(JP,A)
【文献】 特開2007−246326(JP,A)
【文献】 特開2014−157876(JP,A)
【文献】 特開2010−206024(JP,A)
【文献】 特開2010−027631(JP,A)
【文献】 特開2012−134409(JP,A)
【文献】 特開2001−044519(JP,A)
【文献】 特開2006−057124(JP,A)
【文献】 特開2009−280877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/14
H01L 35/32
B22F 3/10
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型Siクラスレート化合物からなるp型熱電変換材料部と、
n型Siクラスレート化合物からなるn型熱電変換材料部と、
を有し、
前記p型熱電変換材料部と前記n型熱電変換材料部が高温側で直接接合され、かつ低温側で乖離されているU字型熱電変換素子であって、
前記p型Siクラスレート化合物および前記n型Siクラスレート化合物は、共に、AxBySizXw組成を有し、
x+y+z+w=54であり、wは0を含み、Aは、BaまたはSrであり、Bは、Ga、Al、Cu、Ni、AuおよびPtからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、XはB(ホウ素)またはPdの1種または2種から選ばれる任意添加元素である、U字型熱電変換素子。
【請求項2】
前記AxBySizXw中のAはBaである、請求項1に記載のU字型熱電変換素子。
【請求項3】
前記n型Siクラスレート化合物は、前記AxBySizXw中のBがGaおよびAlである組成を有する、請求項1または2に記載のU字型熱電変換素子。
【請求項4】
前記n型Siクラスレート化合物は、前記AxBySizXw中のBがCuである組成を有する、請求項1または2に記載のU字型熱電変換素子。
【請求項5】
前記n型Siクラスレート化合物は、前記AxBySizXw中のBがNiである組成を有する、請求項1または2に記載のU字型熱電変換素子。
【請求項6】
前記p型Siクラスレート化合物は、前記AxBySizXw中のBがAuまたはPtである組成を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のU字型熱電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のU字型熱電変換素子を使用した熱電変換モジュール。
【請求項8】
請求項7に記載の熱電変換モジュールを搭載した移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料であるSiクラスレート化合物を用いた熱電変換素子、およびこれを利用した熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電変換素子として熱電変換材料部と電極層とを組み合わせたものは知られており、特に複数の熱電変換材料部を電気的に配列したものが熱電変換モジュールとして使用されている。
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。現実に熱電変換する場合は、p型熱電変換材料部とn型熱電変換材料部とを用いてこれらを交互に電気的に直列に接続する構造とする。熱電変換モジュールの性質を利用すると、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は、環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
そこで、廃熱発電のような400〜800℃程度の高温域で使用される熱電変換材料が求められている。 そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。有望なクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、コスト面などからBa−Ga−Al−Si系やBa−Ga−Al−Ge系のクラスレート化合物が注目されている。
Siクラスレート化合物においては、Ba、Ga、Al、Siからなるクラスレート化合物の組成や合成法について既にいくつか開示されている。たとえば、特許文献1には、単位格子あたりx個(10.8≦x≦12.2)のSi原子が、Al原子とGa原子のいずれかで置換されているBa(Al,Ga)Si46−xの単結晶とその製造方法が開示されている。
【0004】
ところで、クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールにおいては、熱電変換材料部と電極とを高温部および低温部で接合する必要がある。たとえば、室温〜250℃の温度範囲において用いられるBi−Te系クラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールでの、これらの接合は、熱の影響をほとんど考慮することなく、ハンダ、ロウ材などを使用した比較的容易な方法によって実現される。
しかしながら、Siクラスレート化合物を使用した熱電変換モジュールは室温〜900℃の温度範囲において用いられるため、高温部における熱電変換材料部と電極との接合部分の耐熱性を含めた熱対策を考慮する必要がある。廃熱発電のような400〜800℃程度の高温において、熱電変換材料と電極との元素の相互拡散によって、接合界面に化合物層が形成される場合があり、たとえばSiクラスレート化合物の場合、クラスレート化合物を構成するSiと電極材料との化合物であるシリサイドが形成されることがある。このようなシリサイドは一般的に高融点で、非シリサイドの電極材料と線膨張係数が異なり、熱サイクルによる割れ、クラックが生じる原因となりうる。また、Ag電極の場合は、シリサイドは形成されないが、拡散が早く特性劣化の恐れがある。
【0005】
このため、モジュール作製時に、pおよびn型熱電変換材料を電気的に直列に接続し、かつ、相互拡散による金属間化合物を形成せず、かつ、接触抵抗を低減させる必要がある。その解決方法のひとつとして、電極を備えない素子として例えばU字型素子とすることが考えられる。
U字型素子としては、たとえば、特許文献2において、低温側の放熱性を高め、かつ高温側の接合部を局所的に効率良く加熱するために、鉄−シリコン系の熱電変換素子を用いて、高温側でp型材料とn型材料とを接合することが提案されている。また、特許文献3では、製造コストを増加させることなく発電効率を向上させるために、U字型素子の製造方法の一つが開示されている。特許文献4では、層状ペロブスカイト構造を有するp型熱電変換材料とn型熱電変換材料を用いて、一部を直接接合することを開示している。さらに、特許文献5では、スカッテルダイト系熱電変換材料を用いて、p型材およびn型材の一部を直接接合することで、高温でも耐えうる素子を開示している。
【0006】
しかしながら、これら従来技術はいずれもSiクラスレート化合物を用いたU字型素子に関するものではない。Siクラスレートにおいては、遷移金属元素(例えば、Fe、Ni、Co、Cu)の相互拡散によって、遷移金属シリサイドが接合界面近傍に形成され、接合面における割れ欠けや素子抵抗に与える影響が大きいという問題がある。特に、3種以上の元素が含有される一般的なSiクラスレートにおいては、遷移金属シリサイドのほかに、別の化合物が同時に形成される場合も多々ある。これは、遷移金属シリサイドの形成によって界面近傍の組成が、Siクラスレートの狭い固溶域からはずれてしまうためである。この場合、さらに接合面における割れ欠けや素子抵抗に与える影響が大きい。したがって、U字型素子の形成によっても、接合面にシリサイドが形成され、熱サイクルによる割れ、クラックが生じるという問題が依然として残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−6742号公報
【特許文献2】特開平1−144501号公報
【特許文献3】特開2010−206024号公報
【特許文献4】特開2010−27631号公報
【特許文献5】特許2000−252526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主な目的は、クラスレート化合物を使用したU字型素子を形成する際に、界面における遷移金属シリサイドを含む化合物の形成がされないか、またはされにくく、かつ、高温でのサイクル耐久性の良好な熱電変換素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、p型Siクラスレート化合物からなるp型熱電変換材料部とn型Siクラスレート化合物からなるn型熱電変換材料部の直接接合時に、遷移金属シリサイドは形成されないか、またはされにくい組み合わせを見出した。
すなわち、本発明は、p型Siクラスレート化合物からなるp型熱電変換材料部と、n型Siクラスレート化合物からなるn型熱電変換材料部と、を有し、前記p型熱電変換材料部と前記n型熱電変換材料部が直接接合しており、前記p型Siクラスレート化合物および前記n型Siクラスレート化合物は、共に、ASi組成を有し、Aは、BaまたはSrであり、Bは、Ga、Al、Cu、Ni、AuおよびPtからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、XはB(ホウ素)またはPdの1種または2種から選ばれる任意添加元素である熱電変換素子を用いることにより上記課題を解決することができることを見出した。ここで、x+y+z+w=54となるが、これはSiクラスレート化合物の格子上の原子の数から決まるものである。また、wは0を含み、これはXが任意添加元素であることを示している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、n型Siクラスレート化合物からなる熱電変換材料部とp型Siクラスレート化合物からなる熱電変換材料部とが、高温側で直接接合されており、その界面で、割れやクラックなどは検出されず、電気的にも物理的にも良好に接合された熱電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】U字型熱電変換素子の外観図である。
図2】本発明の熱電変換素子モジュールの構造を模式的に示す図であり、(a)は熱電変換素子モジュールの内部構造を模式的に示す斜視図であり、(b)は熱電変換素子モジュールの断面を模式的に示す断面図である。
図3】実施例の熱電変換素子の界面近傍における抵抗値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前述したようにSiクラスレート化合物の接続面近傍においては、遷移金属元素、例えば、Fe、Ni、Co、Cuの相互拡散によって、遷移金属シリサイドが近傍に形成され熱サイクルによる割れ、クラックが生じるという問題がある。この理由については、遷移金属シリサイドのように一般的に高融点で硬い金属間化合物が形成されると、Siクラスレート材料との線膨張係数差に起因して800℃などの高温環境下での熱サイクルにより耐久性が低下することが分かった。また、CuやNiなどの電極材料に比べて高抵抗な遷移金属シリサイドは素子抵抗の上昇につながる。特に、鉄シリサイドのように低効率でコンタミネーションによる影響がでにくい材料とは異なり、比較的高効率でコンタミネーションの影響が出やすいSiクラスレート化合物では高温での性能維持が難しい。
【0013】
しかしながら、p型およびn型のSiクラスレート化合物の組み合わせとして、両者共に、ASi組成を有し、ここで、x+y+z+w=54であり、wは0を含み、Aは、BaまたはSrであり、Bは、Ga、Al、Cu、Ni、AuおよびPtからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であり、XはB(ホウ素)またはPdの1種または2種から選ばれる任意添加元素である。このような組成を有する熱電変換素子を用いることにより、界面における遷移金属シリサイドを含む化合物の形成を防止することができる。
【0014】
(熱電変換素子)
熱電変換素子を構成するSiクラスレート化合物の上記組成ASi中のAはBaであってもよい。また、上記組成ASi中のBはGaおよびAlであってもよい。上記組成ASi中のBはCuまたはNiであってもよい。
また、p型熱電変換材料部を構成するSiクラストレート化合物の上記組成ASi中のBは、p型熱電変換材料部を形成することができれば、Ga、Al、Cu、Ni、AuおよびPtからなる群より選ばれる1種または2種以上の元素であればよい。一般的に、BがAuまたはPtであるときにp型熱電変換材料部を形成する傾向にある。
【0015】
本発明の一実施形態のp型およびn型熱電変換材料部を構成するSiクラスレート化合物して、上記組成ASi中のAとしてBaを選択し、同BとしてGaおよびAlを選択したBa−Ga−Al−Siクラスレート化合物が挙げられる。Ba−Ga−Al−Siクラスレート化合物は、主に、基本的な格子がSiのクラスレート格子から構成され、Ba元素がその内部に内包され、クラスレート格子を構成する原子の一部がGa、Alで置換された構造を有している。このクラスレート化合物は、Ba、Ga、Si、Alが同時に含まれた化合物である。
【0016】
本発明の一実施形態のクラスレート化合物の化学式は、例えばクラスレート化合物の化学式BaGaAlSiの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Siの各組成比a、b、c、dは概ね、次のような関係[1]を有する。また、Ga、Al、Siの各組成比b、c、dは概ね、次のような関係[2]を有する。これらのような関係を満たせば、当該クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
a+b+c+d=54 … [1]
b+c+d=46 … [2]
なお、熱電変換材料部11および12には、Siクラスレート化合物を主成分として、少量の他の添加物、不純物が含まれてもよい。
【0017】
Siクラスレート化合物として、上記Ga、Al以外の元素でも置換できるSiクラスレート化合物は存在する。例えば、BaGaAlCuNiAuPtSiの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Cu、Ni、Au、Pt、Siの各組成比a、b、c、d、e、f、g、hは概ね次のような関係[3]を有する。また、Ga、Al、Cu、Ni、Au、Pt、Siの各組成比b、c、d、e、f、g、hは概ね次のような関係[4]を有する。これらのような関係を満たせば、当該クラスレート化合物はSiクラスレート相を主体とするものとして実現され、理想的な結晶構造をとりうる。
a+b+c+d+e+f+g+h=54 … [3]
b+c+d+e+f+g+h=46 … [4]
【0018】
例えばSiクラスレート化合物をつくる組成として、化学式BaGaAlSiなら、7≦a≦9,0≦b≦15,0≦c≦15,27≦h≦35となる。例えばSiクラスレート化合物をつくる組成として、化学式BaCuSiなら、7≦a≦9,2≦d≦10,36≦h≦44となる。例えばSiクラスレート化合物をつくる組成として、化学式BaNiSiなら、7≦a≦9,1≦e≦7,39≦h≦45となる。例えばSiクラスレート化合物をつくる組成として、化学式BaAuSiなら、7≦a≦9,2≦f≦10,36≦h≦44となる。例えばSiクラスレート化合物をつくる組成として、化学式BaPtSiなら、7≦a≦9,1≦g≦7,39≦h≦45となる。また、Siクラスレート化合物として、Ba−Ga−Al−Siクラスレート化合物に、少量の他の添加物、不純物が含まれたクラスレート化合物が使用されてもよい。すなわち、Siクラスレート化合物はBa−Ga−Al−Si−X(X=B(ホウ素)、Pd)系クラスレート化合物であってもよい。BやPdは、ゼーベック係数を上昇させるのに有用な場合がある。
【0019】
さらに、Ba−Ga−Al−Si−X系クラスレート化合物では、化学式BaGaAlSiの組成比のうち、Ba、Ga、Al、Si、Xの各組成比a、b、c、d、xが概ね、次のような関係[5]を有する。
a+b+c+d+x=54 … [5]
なお、Ba−Ga−Al−Si−X系のクラスレート化合物にも、少量の他の添加物、不純物が含まれてもよい。
【0020】
(U字型熱電変換素子)
図1に示すようにU字型熱電変換素子は基本的に、熱電変換材料部11、12を備えている。熱電変換材料部11はSiクラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料から構成されており、n型熱電特性を示す。また、熱電変換材料部12はSiクラスレート化合物を主成分とする熱電変換材料から構成されており、p型熱電特性を示す。p型およびn型熱電変換材料部を電気的に接続されており、これらが図2(a)に示すように、モジュール60として組み込まれる。
【0021】
U字型熱電変換素子における直接接合された側を高温側とすることが好ましい。この場合、n型熱電変換材料部とp型熱電変換材料部とが乖離された側が低温側とする。
U字型熱電変換素子における低温側では、ハンダや金属ペーストなど従来の接合方法で電極および配線を容易に接続することが可能である。
接合が非常に困難な高温側では、U字熱電変換素子を使用することで、高温での熱サイクルにおいても良好な接合状態を維持できる。また、U字型熱電変換素子を低温側つなげたような形態でもよい。この場合は、低温側における接合界面の数が少なくなるために、素子抵抗が小さくなるメリットがある。
【0022】
(熱電変換モジュール)
熱電変換モジュールは、熱電変換素子に加わる熱エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を持つモジュールである。
図2(a)に示すように、熱電変換モジュール60は主に、U字型熱電変換素子、低温側配線42、高温側絶縁基板51および低温側、絶縁基板によって構成されている。
図2(b)に示すように、熱電変換モジュール60では、U字型熱電変換素子はp型熱電変換材料部12の低温側と、別のU字型熱電変換素子のn型熱電変換材料部11の低温側とが、低温側配線を介して電気的に直列に配列された構成を有している。
【0023】
高温側配線および低温側配線は、n型熱電変換材料部11とp型熱電変換材料部12とを電気的に直列に接続する機能を備える。
低温側配線42の材料としては、導電性金属であればよく、Cu、AgまたはAlなどが使用できる。
高温側絶縁基板51および低温側絶縁基板52は、n型熱電変換材料部11およびp型熱電変換材料部12と、低温側配線42とを、固定する機能を備え、さらに熱電変換モジュール60が均一に受熱する機能を備える。
【0024】
高温側絶縁基板51の材料は、使用する上限温度(例えば800℃)以上の融点を持ち、U字型熱電変換素子の高温側との間で絶縁される材料であればよく、たとえばアルミナであってよい。また、低温側絶縁基板52の材料は、高温側絶縁基板51と同一であってもよく、異なっていてもよいが、低温側配線42との間で絶縁される材料である必要がある。
なお、熱電変換モジュール60では、高温側絶縁基板51がなくてもよい。
この場合、U字型熱電変換素子の高温側と高温側絶縁基板51との接続がなくなり、U字型熱電変換素子にかかる熱応力が緩和され、高温における熱電変換モジュール60の信頼性が向上する。
このような熱電モジュールは、自動車などの移動体に搭載されてもよい。その際、移動体の廃熱を利用して電気を得ることに使用できる。
【0025】
(製造方法)
調製工程では、所定の組成を有しかつ均一な組成のクラスレート化合物のインゴットを製造する。まず、所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量の原料(Ba、Ga、Al、Siなど)を秤量し混合させる。原料は、単体であってもよいし、合金や化合物であってもよく、その形状は、粉末でも片状でも塊状であってもよい。また、Siの原料として単体のSiではなくAl−Siの母合金を用いると、融点が低下するので好ましい。
【0026】
溶融時間としては、すべての原料が液体状態で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、製造に要するエネルギーを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。そのため、溶融時間は、1〜100分でよく、さらに1〜10分でもよく、特に、1〜5分であってもよい。
原料混合物からなる粉末を溶融する方法は、特に限定されず、種々の方法を用いることができる。溶融方法としては、抵抗発熱体による加熱、高周波誘導溶解、アーク溶解、プラズマ溶解、電子ビーム溶解などが挙げられる。ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブルなどが、加熱方法に応じて用いられる。溶融の際は、材料の酸化を防ぐために、不活性ガス雰囲気または真空雰囲気下で行われるのが好ましい。
【0027】
短時間で均質に混ざり合った状態とするためには、好ましくは微細な粉末状の原料が混合される。ただし、Baは、酸化を防ぐために、塊状を呈するものが好ましい。また、溶融時に機械的または電磁的な攪拌を加えるのも好ましい。
溶融後、インゴットにするためには、鋳型を用いて鋳造しても、ルツボ中で凝固させてもよい。できあがったインゴットの均質化のために、溶融後にアニール処理を行ってもよい。
調製工程によって得られたインゴットを、ボールミルなどを用いて粉砕し、微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子は、焼結性を向上するために細かい粒度が望まれる。微粒子の粒径は、好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは1μm以上75μm以下である。
【0028】
所望の粒径の微粒子とするためには、ボールミルなどでインゴットを粉砕した後、粒度を調製する。粒度の調製方法は、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けなどがあげられる。ふるい分けをガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法などに変えて微粉末を製造してもよい。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
(熱電変換素子サンプルの作製)
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のAl、Ga、Si、Au、Cu、Ni、Ptを表1に記載の配合比率で(配合量(g))で秤量し、原料混合物を調整した。
【0030】
【表1】
【0031】
表1において、サンプルA〜IはSiクラスレート化合物の熱電変換材料の原料混合物である。この原料混合物を、Ar(アルゴン)雰囲気中において、水冷銅ハース上で300Aの電流で1分間アーク溶解した後、原料の不均一を解消するためにインゴットを反転して、再度アーク溶解を行う工程を5回繰り返し、そのまま水冷銅ハース上で常温まで冷却することによりクラスレート化合物を有するインゴットを得た。その後、インゴットの均一性を高めるために、アルゴン雰囲気で、900℃で6時間のアニール処理を行った。
【0032】
得られたインゴットを、メノウ製遊星ボールミルを用いて粉砕し、微粒子を得た。このとき、得られた粒子の粒径が75μm以下となるようにISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いて粒度を調製した。得られた各サンプルの焼結用微粒子の極性を確認するために、特性評価用焼結体を作製した。焼結型に各微粒子を充填し、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて焼結を行った。焼結時には、圧力50MPaまで加圧した後に加熱した。真空雰囲気下にて焼結を行ったが、Arガスなどの不活性雰囲気下でもよい。焼結型表面を測温することで、900〜1050℃程度まで加熱を行い、その温度で5分間焼結をしてから、加圧状態を解除し、室温まで冷却を行った。
【0033】
冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
サンプルそれぞれは成分が異なることから、同じSiクラスレートではあるものの適当な焼結温度は異なる。焼結温度が特に低ければ、低密度な焼結体となり割れの原因となりうる。また、焼結温度が特に高ければ、サンプルが溶融してしまう。そのため、温度と焼結の進行度合いとを確認しながら、適当な焼結温度を選択する必要がある。
【0034】
(熱電変換材料の評価)
サンプルA〜Iがクラスレート化合物であることを確認するために、X線回折装置(リガク社製Geigerflex)を使用して、インゴットの中心部分を切り出して粉末X線回折で分析した。その結果、すべてのサンプルにおいて、タイプ1クラスレート相が生成していることが確認された。得られた結果から、式[4]に基づき最強ピーク比を算出したところ、最強ピーク比が95%以上であることを確認した。
さらに、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で熱電変換材料の組成分析を行った。結果、表2のサンプルA〜Iにおいて、所望の組成BaGaAlSi(a+b+c+d=54)の化合物と、BaAuSi(a+b+c+e=54)の化合物とが得られた。
【0035】
また、焼結体の中心を切り出し、ゼーベック係数を測定した。800℃におけるゼーベック係数の結果を表2に示した。サンプルA〜Gはn型熱電変換材料部としての特性を有し、サンプルHおよびIはp型熱電変換材料部としての特性を有している。このようにして、Siクラスレート化合物のn型およびp型熱電変換材料部を作製した。
「ゼーベック係数S」および「電気抵抗率ρ」は、四端子法によりアルバック理工(株)製の熱電特性評価装置 ZEM−3を用いて測定した。
【0036】
【表2】
【0037】
(U字型熱電変換素子の作製)
U字型熱電変換素子を作製するために、n型熱電変換材料とp型熱電変換材料部を接合するために、得られた焼結用粒子を、焼結型に設置し焼結を行った。ここで、表3のようにn型熱電変換材料部としてサンプルA、p型熱電変換材料部としてサンプルHを使用した。焼結型には、まず、サンプルAの粒子を充填し、その後サンプルHの粒子を充填する。このとき、なるべくサンプルAを水平に設置し、サンプルAとHの境界が水平になることが望ましい。さらには、サンプルAとサンプルHとを混合した粒子を、サンプルAとサンプルHとの間に充填してもよい。この場合、サンプルAとサンプルHとの境界では、固相拡散をより促進することができ、より強固な接合界面を持つ。
【0038】
焼結は、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて、圧力50MPaまで加圧した後に加熱した。真空雰囲気下にて焼結を行ったが、Arガスなどの不活性雰囲気下でもよい。焼結型表面を測温することで、900℃まで加熱を行い、その後900℃で5分間焼結してから、加圧状態を解除し、900℃から室温まで冷却を行った。
このとき、サンプルAおよびサンプルHがともに緻密に焼結されることが望ましく、両者の焼結温度より高温な900℃を選択した。
冷却温度が500℃以上では真空雰囲気で保持することが好ましいが、500℃未満では大気雰囲気で保持してもかまわない。
【0039】
サンプルAとサンプルHが直接固相拡散することで接合できれば良いので、他の作製方法を挙げる。サンプルAの粒子を先に焼結型に充填し、サンプルAの焼結体を作製した。さらに、得られたサンプルAの焼結体を焼結型に設置し、サンプルHの粒子を充填する。これをサンプルAのときよりも、低い温度で焼結することで、サンプルAとBが直接接合された焼結体が得られる。これは、先に記載したようにサンプル毎に焼結温度が異なり、サンプルAはサンプルHよりも焼結温度が高いためである。また、サンプルAとサンプルHと別々に焼結してもよい。その場合、サンプルAとサンプルHの焼結体を接した状態で通電接合を行う。サンプルAとHが固相拡散により接合される。
【0040】
このようにしてサンプルAとサンプルHが直接接合された熱電変換材料の焼結体を得た。得られた焼結体を図1に示されるU字型の形状に加工整形を行った。サンプルAおよびHの低温側はそれぞれ縦2×横2mmとし、高温側接合部は縦2×横5mmとして、高さを5mmとした。このとき、低温側ではCuやAlなどの配線を接続しやすいようにNiめっきを施した。
このようにしてサンプルAおよびサンプルBの一部が直接接合された1対のU字型熱電変換素子を得た。また、このU字型熱電変換素子8対を電気的に直列に接続することで、図2(a)の熱電変換モジュール60と同様の構成を有する熱電変換モジュールを作製した。
【0041】
また、実施例1において得られた焼結体のサンプルAのみの部分、およびサンプルBのみの部分を切り出し、熱電特性を評価したところ、サンプルAはn型特性、サンプルBはp型特性を示した。
電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)を用いて、得られたU字型熱電変換素子の、界面近傍の組成マッピングを行った。サンプルA(上部)とサンプルB(下部)の界面では新たな化合物層が形成されることなく、元素拡散によって直接接合されている。Al、Gaについては、サンプルAにのみ存在し、AuについてはサンプルBにのみ存在することが分かった。Ba、Siについては、サンプルAおよびBに存在する。
【0042】
また、得られた焼結体から、界面が含まれるように2mm×2mm×5mmに加工整形を行い、界面での接触抵抗を測定した。サンプルA側の端から1μmピッチにて、サンプルAからサンプルBまで測定位置を動かしたときの抵抗値を測定した結果を図3に示した。図3に示されるように、界面での抵抗値のギャップは確認されなかった。これは、界面でのクラックや割れが存在しないこと、界面での抵抗値の異なる化合物が形成されていないことを示している。
これらの評価から、実施例1におけるU字型熱電変換素子は、n型熱電変換材料部のサンプルAとp型熱電変換材料部のサンプルBとが、高温側で直接接合されており、その界面には、割れやクラックなどは存在せず、シリコン化合物を含む金属間化合物を形成せずに固相拡散によって、電気的にも物理的にも良好に接合されていることがわかった。「クラック」はひびが入ることで、「割れ」はひびが貫通していることを意味する。
【0043】
(焼結時の界面特性)
焼結時にサンプルB側からの金属の溶融を確認した。これは、クラスレート化合物が溶融開始する温度(少なくとも900℃以上)まで熱電変換材料が加熱されたことを意味し、十分な元素拡散が施されているといえる。それにもかかわらず、界面近傍に割れやクラックは確認されなかった。
【0044】
(焼入れ後の耐久性)
得られたU字型熱電変換素子を高温側に直火(およそ800℃程度)にかけ、水につけた。このとき、n型熱電変換材料部とp型熱電変換材料部のそれぞれの低温側にテスターを接続し、抵抗値、電流値を測定した。これを10回繰り返した。外観上、割れやクラックは発生せず、抵抗値、電流値は試験前と同等であった。通常、実装時には空冷が想定されるモジュールにもかかわらず、このような過酷な試験を行っても劣化しないことがわかり、熱サイクルの耐久性が非常に高いことがわかった。
【0045】
(高温での抵抗値測定)
得られたモジュールの抵抗値を室温および700℃で測定した。急激な抵抗上昇は見られないことから、高温での割れやクラックの発生はないことがわかった。
【0046】
(実施例2〜8)
実施例2〜8において、表3に示さる組合せにより、サンプルA〜Hから、n型熱電変換材料部とp型熱電変換材料部とそれぞれを選択し、実施例1と同様にU字型熱電変換素子を作製した。
【0047】
【表3】
【0048】
実施例2〜8において、実施例1と同様に、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)により界面近傍に割れやクラックの発生の確認、焼入れ後の耐久性についての抵抗およびと電流値の測定、室温および700℃でのモジュールの抵抗値を測定したところ、すべて実施例1と同様に、高温での割れやクラックの発生はなく、熱サイクルの耐久性が高いことが確認された。
以上のように、p型熱電変換材料部とn型熱電変換材料部との直接接合時に遷移金属シリサイドは形成されない組み合わせを見つけ出した。上述した組成を有するn型Siクラスレート化合物とp型Siクラスレート化合物の組み合わせで接合した場合に、遷移金属シリサイドを含む化合物は界面に形成されず、高温でのサイクル耐久性の良好なU字型熱電変換素子を提供できることがわかった。
【0049】
(比較例1〜3)
表4に示されるように、Fe、Cu、Coの微粉末を、実施例1におけるn型原料サンプルHの代わりとして、SPS法にてサンプルAと一体焼結を行った。それぞれの熱電変換素子を比較例1〜3とする。
比較例1〜3では、界面近傍を電子線マイクロアナライザー(島津製作所製EPMA−1610)で確認したときに、シリコン化合物が形成されていることがわかった。また、水焼き入れの試験では、すべてでクラックが発生した。
【0050】
【表4】
【0051】
(比較例4および5)
CrSi、MnSiの微粉末を、実施例1におけるサンプルHの代わりとして、SPS法にてサンプルAと一体焼結を行った。それぞれの熱電変換素子を比較例4および5とする。
比較例4および5では、接合界面近傍に新たな化合物形成は確認されなかったが、水焼き入れの試験では、すべてでクラックが発生した。すなわち、Siクラスレートと遷移金属シリサイドとの接合は非常に困難であることがわかった。したがって、Siクラスレートとの界面に遷移金属シリサイドが形成される遷移金属との接合も非常に困難であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、n型Siクラスレート化合物からなる熱電変換材料とp型Siクラスレート熱電変換材料とが、直接接合されており、その界面には、割れやクラックなどは存在せず、電気的にも物理的にも良好に接合された熱電変換素子およびこれを使用した熱電変換素モジュールを提供することができ、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0053】
11 n型熱電変換材料部
12 p型熱電変換材料部
42 低温側配線
51 高温側絶縁基板
52 低温側絶縁基板
60 熱電変換モジュール
図1
図2
図3