特許第6810385号(P6810385)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810385
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】電磁波シールドフィルム
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20201221BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20201221BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   H05K9/00 M
   H05K9/00 A
   H05K9/00 U
   H05K9/00 W
   B32B9/00 A
   B32B18/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-232271(P2016-232271)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-88510(P2018-88510A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 直明
【審査官】 鹿野 博司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/081043(WO,A1)
【文献】 特開2008−270370(JP,A)
【文献】 特開2014−239185(JP,A)
【文献】 特開平11−233660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 9/00
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材である樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方の表面に配置される金属膜と、もう一方の表面に配置される磁性膜と、前記金属膜の表面上に配置された絶縁性セラミック膜と、から構成される電磁波シールドフィルムであって、前記磁性膜は、ソフトフェライトであるNi−ZnフェライトまたはMn−Znフェライトから選ばれる一種であり、前記絶縁性セラミック膜は、窒化アルミ二ウム(AlN)からなる電磁波シールドフィルム。
【請求項2】
前記金属膜は銅、ニッケル、銀の群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項3】
前記磁性膜の膜厚は、0.5μm以上100μm以下である請求項1または2に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項4】
前記金属膜の膜厚は、0.5μm以上10μm以下である請求項1から3に記載の電磁波シールドフィルム。
【請求項5】
前記絶縁性セラミック膜の膜厚は、0.5μm以上5μm以下である請求項1から4に記載の電磁波シールドフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット型端末等の通信機器に使用されるプリント配線板や部品には、電子回路から外部への電磁波の放射を遮蔽する目的で、あるいは、外部から電子回路への電磁波の侵入を遮蔽することを目的として、様々な種類の電磁波シールドフィルムが使用されている。このような電磁波シールドフィルムの一例として、電磁波シールド層に金属薄膜を用いた構成が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電磁波シールド層に0.1μmの厚みのAg層を用い、電波やノイズを反射して、内部に侵入する量を大きく減衰させることが開示されている。
【0004】
モールドされた部品やケースに収められた部品から発生するノイズについては、部品内部やケース内部で反射を繰り返し多重反射によるノイズの増幅という問題がある。この内部で発生ずるノイズの問題を解決する対策として、特許文献2には、扁平状ナノ結晶軟磁性体磁性粉末を樹脂中に50〜1000phr分散させた広帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収体シートが開示されている。
【0005】
しかし、電磁波吸収体シートは主に電子機器からのノイズ放射の抑制や機器内部での電磁干渉(共鳴、クロストーク)の低減や機器内部での吸収はできても、表面抵抗値も高く、外部からくる電波やノイズの反射特性が低いためシールド特性が不十分であった。
【0006】
また、電磁波吸収シートを作製する場合、磁性粉をシートに練り込むことが多く、要求特性に応じて膜厚を変えることが難しいという問題もあった。一方、モールドされた部品やケースに収められた部品は蓄熱しやすく小型・高密度になっている機器には電磁波シールドと共に高い放熱性も要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−65675号公報
【特許文献2】特開H11−354973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明はノイズの問題を解決するために反射と吸収の機能を両立させ、また部品から発生する熱を効率的に放熱する機能を備える安価な電磁波シールドフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁波シールドフィルムは、基材である樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方の表面に配置される金属膜と、もう一方の表面に配置される磁性膜と、前記金属膜の表面上に配置された絶縁性セラミック膜と、から構成される電磁波シールドフィルムであって、前記磁性膜は、ソフトフェライトであるNi−ZnフェライトまたはMn−Znフェライトから選ばれる一種であり、前記絶縁性セラミック膜は、窒化アルミ二ウム(AlN)からなる電磁波シールドフィルムである
【0010】
また、本発明の金属膜は、金属膜は銅、ニッケル、銀の群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。また磁性膜の膜厚は、0.5μm以上100μm以下であることが好ましい。また、金属膜の膜厚は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。また絶縁性セラミックである窒化アルミ二ウム膜の膜厚は、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により得られる電磁波シールドフィルムは、基材の一方のフィルム表面に配置される金属膜はケースの外部からのノイズを反射し、またもう一方のフィルム表面に配置される磁性膜はケースの内部から発生するノイズを吸収するため、ノイズ対策に効果的な電磁波シールドフィルムである。また、本発明により得られる電磁波シールドフィルムは、金属膜の表面に配置される絶縁性セラミック膜はケース内部の部品から発生する熱を効率よく放熱する機能を有するため、蓄熱対策にも効果があり、小型・高密度になっている機器に適用する電磁波シールドフィルムとしては極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0013】
本発明に係る電磁波シールドフィルムは、基材である樹脂フィルムと、前記樹脂フィルムの一方の表面に配置される金属膜と、もう一方の表面に配置される磁性膜と、前記金属膜の表面上に配置された絶縁性セラミック膜と、から構成される電磁波シールドフィルムであって、前記磁性膜は、ソフトフェライトであるNi−ZnフェライトまたはMn−Znフェライトから選ばれる一種であり、前記絶縁性セラミック膜は、窒化アルミ二ウム(AlN)からなる電磁波シールドフィルムである。
【0014】
本発明において、基材となる樹脂フィルムは、用途により好適な材料を選択することができる。例えば、汎用的に用いられる安価なポリエチレンテレフラテート(PET)樹脂のほか、低誘電率を有する液晶ポリマー(LCP)樹脂、高透明性を有するシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、耐熱性を有するポリイミド(PI)樹脂など、使用する用途に応じて選択する。
【0015】
本発明において、金属膜は基材であるフィルムの一方のフィルム表面に配置し、外部からの障害電波やノイズを機器や部品に侵入させないために、導電性の高い金属膜が形成される。導電率の観点から、金属膜の材料としては銀、銅、ニッケルなどを用いることができる。特性とコストの面から、銅がより好ましい。
【0016】
金属膜の厚さは、薄すぎると抵抗値が高くなり、シールド効果が十分でなくなる。また、厚くすると抵抗値は、ある膜厚以上では一定の値となり、シールド性はそれ以上高くならない。以上の理由により、金属膜の膜厚は0.5μm以上10μm以下とすることができ、0.5μm以上4μm以下とすることが好ましい。
【0017】
本発明において、磁性膜は前記した基材のフィルムを挟んで金属膜と反対側のフィルム表面に配置される、障害電波やノイズを吸収する機能を有する膜である。磁性膜は、高い電気抵抗と周波数選択性の損失特性を有し、二次的な電磁障害のような副作用を伴うことなく高周波ノイズを吸収し抑制する。この抑制効果は、磁性膜の厚さと透磁率の積に比例することが知られている。特に最近のスマートフォンや電子機器は比較的高い周波数で動作するため高い透磁率を持つことが望ましい磁性体を選択することが望ましい。
【0018】
本発明の磁性膜を構成する磁性材料は、ソフトフェライトであり、特にNi−ZnフェライトやMn−Znフェライトから選ばれる磁性材料であることが重要である。磁性膜の膜厚は、0.5μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上50μm以下とすることが好ましい。また磁性粉は、ノイズの種類、機器の動作周波数に合わせて材料、膜厚を変えて形成することが望ましい。
【0019】
本発明において、絶縁性セラミック膜は金属膜の表面に配置される膜であり、部品から発生する熱を効率よく放熱する機能を有する膜である。一般的にセラミックスは熱伝導性が低いが、本発明で使用する窒化アルミ二ウムからなる絶縁性セラミック膜は、高い熱伝導性を有する。特に最近のスマートフォンや電子機器は、高密度に実装されているため高い熱伝導率を持つ絶縁性セラミックを選択することが重要である。
【0020】
本発明の絶縁性セラミック膜を構成する材料は、窒化アルミ二ウムであり、熱伝導率は285W/m・kである。アルミナは汎用的で安価な材料であるが、熱伝導率は32W/m・kと一桁低いため材料として選択できない。セラミックスの中で最も熱伝導率の高い材料はSiCであるが、成膜が難しいことから、次に熱伝導率の高い窒化アルミ二ウムを選択した。窒化アルミ二ウム膜は、比較的容易に形成できる材料であり、本発明の目的に最適な材料である。絶縁性セラミック膜の膜厚は、0.5μm以上5μm以下とすることができ、0.5μm以上2μm以下とすることが好ましい。
【0021】
次に、本発明に係る電磁波シールドフィルムの製造方法について説明する。まず、基材の樹脂フィルムを用途に合わせて選択した材質のフィルムを準備する。汎用的に用いられる安価なポリエチレンテレフラテート(PET)樹脂のほか、低誘電率を有する液晶ポリマー(LCP)樹脂、高透明性を有するシクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、耐熱性を有するポリイミド(PI)樹脂など、使用する用途に応じて選択する。
【0022】
次に、樹脂フィルムの一方のフィルム表面に金属膜を成膜する。前述したように、銀、銅、ニッケルなど導電性の高い金属を基材のフィルムの表面に0.5μm以上10μm以下の厚みとなるように成膜する。金属膜を成膜するには、金属原料を電子銃で加熱して蒸発させる蒸着法、ターゲットを用いてアルゴンイオンを加速させターゲットの金属をたたき出して成膜するスパッタリング法、または蒸着やスパッタリングで成膜した金属を核として電気めっきで金属を成膜するめっき法が好適に適用できる。
【0023】
いずれの方法でも本発明の電磁波シールドフィルムを製造することが可能であるが、膜質の面からはスパッタリング法が優れ、生産性の面からは蒸着法が優れ、厚膜化の面ではめっき法が適している。それぞれ要求特性とコストにより判断して適宜選択することが望ましい。また、例えば銅は大気に触れると容易に酸化するため、銅表面にNi合金やCr合金を銅の膜厚より薄く成膜し耐食性を向上させ抵抗値を上昇させないようにすることもできる。
【0024】
その他にも、基材のフィルムと金属膜との密着を向上させるためにアルゴンイオンでフィルム表面を洗浄する方法や、酸素プラズマを発生させフィルム表面に活性基を付ける方法、フィルムに表面に金属膜厚より薄い、クロム、ニッケル、ニクロム合金を成膜する方法などを用いることで密着力を上げて、電磁波シールドフィルムの効果をより長期にわたって維持することができる。
【0025】
次に、基材の樹脂フィルムの金属膜を成膜した面と反対側のフィルム表面に磁性膜を成膜する。磁性膜は、磁性材料の粉末と樹脂を混合したものをスプレー塗装もしくはスクリーン印刷により成膜する方法や、金属膜と同様にスパッタリング法やめっき法により磁性材料を成膜することができる。膜厚は最終的に0.5μm以上100μm以下の厚みとなるように成膜する。
【0026】
磁性材料としては、ソフトフェライトであるNi−ZnフェライトやMn−Znフェライトの粉末を用意する。平均粒径20μm以上100μmの粉末が分散性、価格の面から好ましい。50μm以上100μmの粉末がより好ましい。磁性粉をアクリル樹脂などで分散させ、有機溶剤で粘度調整してスプレー塗布又はスクリーン印刷を行う。用いるバインダー樹脂は、使用する基材である樹脂フィルムと密着性が高い樹脂バインダーを用いるのが好ましい。
【0027】
また、スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で成膜する場合は、所望の膜組成のターゲットを用意し、めっき法で成膜する場合は所望の膜組成のメッキ液を用意することで、磁性膜を得ることができる。スパッタリング法やめっき法で成膜することにより、より均一な膜組成が得られるためより好ましい。
【0028】
次に、放熱機能を有する絶縁性セラミック膜を、基材の樹脂フィルムの金属膜を成膜した面の表面に成膜する。絶縁性セラミック膜は、本発明ではスパッタリング法により成膜することにより得ることができる。アルミニウム金属ターゲットを用い、窒素雰囲気で成膜することでフィルム上にAlN膜は成膜される。単結晶でなくアモルファス膜なら加熱もいらず比較的短時間で成膜される。膜厚は、放熱する熱量により設定するのが好ましいが、0.5μm以上5μm以下の厚みとすることで本発明の効果を問題なく得ることができる。また、基材の樹脂フィルムの表面と、金属膜の表面の両面に絶縁性セラミック膜を形成することでさらに効率的に放熱効果を得ることができる。
【0029】
金属膜表面に窒化アルミ二ウム膜を成膜することで、金属膜の銅の酸化を防止する効果も期待できる。通常行われるニクロム合金などの保護膜が不要となる利点もある。さらに、金属膜表面に窒化アルミ二ウム膜を成膜することで、効率的に放熱できるため、冷却性能が上がることが期待でき、樹脂フィルム側の表面に接着剤層を設けることが可能となるなど、使用用途が広がることが期待できる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
【0031】
(実施例1)
厚さが100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、サイズ20cm角)を基材の樹脂フィルムとして用いた。まず、その片面に金属層として銅をスパッタリング法で成膜した。スパッタリング装置は、芝浦製作所製スパッタリング装置(型式CFS−4ES)を用いた。スパッタリングターゲットは、3インチ径の99.9%銅を用いた。スパッタリングの成膜条件としては、到達真空度は6.5×10−3Pa、スパッタDC出力は200Wとした。なお、反応ガスとしてアルゴンガスを15sccm導入し、基板温度は室温で、1.5μm成膜した。さらに、この上に防錆効果を持たせるためにニクロム合金を0.01μm成膜した。
【0032】
得られた金属膜のシート抵抗を、4探針法により抵抗率計ロレスターにより測定した。得られた金属層の表面抵抗率は0.05Ω/□であり、十分な導電率を有していた。
【0033】
続いて、磁性膜の製造条件として、Ni‐Znフェライト(Ni0.3Zn0.7O・Fe)ターゲットを用意し、先に金属膜を成膜したフィルムの反対側の面にスパッタリング法で成膜を行った。スパッタリング条件は、到達真空度は5.5×10−3Pa、スパッタDC出力は250W、反応ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスを1:1の比率で20sccm導入し、基板温度は室温でスパッタリングし、Ni‐Znフェライトの磁性膜を0.6μm成膜した。
【0034】
得られた電磁波シールドフィルムのシールド特性をアドバンテスト法で測定した結果、金属膜(銅膜)側は35dBと高い値を得られ、99%電波を反射していた。また、磁性膜側は10dBと、低い数値となっており、反射せずノイズを吸収していることが分かった。
【0035】
続いて、純度99.9質量%のアルミニウム金属ターゲットを用いて、スパッタさせ、膜厚が0.6μmの窒化アルミ二ウム膜を金属膜と反対側の樹脂フィルム表面に成膜して、電磁波シールドフィルムを得た。その時のスパッタリングの成膜条件としては、到達真空度は5.5×10−3Pa、スパッタRF出力は300Wとした。なお、反応ガスとしてアルゴンガスと窒素ガスを1:1の比率で20sccm導入し、基板温度は室温で、40分間成膜し、電磁波シールドフィルムを得た。
【0036】
この電磁波シールドフィルムを機器に貼り付けて機器を1時間作動させたところ、機器の温度は室温から40℃に温度上昇したことが分かった。
【0037】
(比較例1)
基材の樹脂フィルムと金属膜を実施例1と同様にして、金属膜として銅層を1.5μmの厚さで成膜し、基材の樹脂フィルムに銅からなる金属膜のみを積層した電磁波シールドフィルムを得た。
【0038】
得られたフィルムの電磁波シールド特性をアドバンテスト法で測定した結果、35dBと高い値を得た。しかし、反対側からのノイズは反射するが吸収はされず周囲に反射した。
【0039】
また、この電磁波シールドフィルムを機器に貼り付けて機器を1時間作動させたところ、機器の温度は室温から60℃の温度上昇したことが分かった。
【0040】
以上のように、本発明の電磁波シールドフィルムは、効果的に外からの電磁波を反射し、内部からの電磁波を吸収し且つ効率的に放熱していることが確認できた。