【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<試験例1>
[小麦ふすま加工品の製造]
原料として、北海道産中力系小麦から得られた小麦ふすまを用いた。過熱水蒸気処理前の小麦ふすまの水分含有量は、13.9質量%であった。
小麦ふすま50gを秤量し、スチームオーブンQF−5100CB−R(L)(直本工業社)を用いて、下記表1に示す条件にて過熱水蒸気処理を行った後、超遠心粉砕機ZM 200(ヴァーダー・サイエンティフィック社)で粉砕し、実施例1〜10及び比較例2、3の小麦ふすま加工品を得た。比較例1の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行わず、粉砕処理のみ行った。参考例1として、小麦ふすま50gを200℃のホットプレートで10分間焙煎した後、粉砕処理を行って調製した焙煎小麦ふすまを使用した。各小麦ふすま加工品の平均粒径は200〜400μmであった。
【0042】
[小麦ふすま加工品の分析]
得られた小麦ふすま加工品について、水分の含有量、可溶性タンパク質の割合、糊化した澱粉の含有量、アクリルアミドの含有量及び脂質の含有量を、以下の手順により測定した。
【0043】
(水分の含有量)
アルミ容器に試料(小麦ふすま加工品)10gを秤量し、送風乾燥機で130℃、1時間乾燥させた。乾燥後の試料の重量を測定し、乾燥前の試料から乾燥後の試料の重量を減じることで、試料に含まれる水分量を算出した。
【0044】
(可溶性タンパク質の割合)
(I)小麦ふすま加工品の可溶性粗蛋白質含量の測定
100mlの三角フラスコに試料2gを秤量し、0.05規定酢酸40mlを加えて、25℃で60分間振盪させ懸濁液を調整した。懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離させた後、吸引濾過を行い、濾液を回収した。上記三角フラスコを0.05規定酢酸40mlで洗って、上記懸濁液と同様に遠沈管に移して、遠心分離、吸引濾過を行い、濾液を回収した。濾液を合わせて100mlにメスアップした。ケルダールチューブに得られた液の25mlを入れて、分解促進剤(FOSS社)1錠および濃硫酸15mlを加えた。
ケルテック分解炉(FOSS社)を用いて、250℃から徐々に昇温し、420℃になってから90分間分解処理を行った。この後、ケルテック蒸留システムを用いて、分解処理した液体を蒸留および滴定して、下記の数式により、試料の可用性粗蛋白質含量を求めた。
可溶性粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
(II)小麦ふすま加工品の全粗蛋白質含量の測定
上記(I)で用いたのと同じケルダールチューブに、試料を0.5g秤量し、これに上記(I)で用いたものと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸15mlを加えた。420℃で2時間30分間分解処理を行った後、上記(I)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、分解処理した液体を蒸留および滴定して、下記の数式により、試料の全粗蛋白質含量を求めた。
全粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N/S
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
(III)可溶性タンパク質の算出
上記(I)で求めた試料の可溶性粗蛋白質含量および上記(II)で求めた試料の全粗蛋白質含量から、下記の数式により、可溶性タンパク質を算出した。
可溶性タンパク質(%)=(可溶性粗蛋白含量/全粗蛋白含量)×100
【0045】
(糊化した澱粉の含有量)
STARCH DAMAGE ASSAY KIT(Megazyme社)を用いて、キットのプロトコールに従って分析した。
【0046】
(アクリルアミドの含有量)
(I)試験溶液の調整
100mlメスフラスコに試料10gを秤量し、100mg/lの内標準溶液(CIL製)20μlを加え水で定容した。20mlを、珪藻土カラム(Agilent製)に負荷し、室温にて30分間放置後、酢酸エチル150mlを加えて300mlナス型フラスコに回収した。10%ジエチレングリコール/メタノール溶液0.1mlを加え、減圧濃縮後、窒素気流下で乾固した。水40mlを加えて溶解後、アクリルアミドを固相抽出カラムSep−Pak AC−2(Waters製)に吸着させ、メタノール5mLで溶出した。溶出液に10%ジエチレングリコール/メタノール溶液0.1mlを加え、窒素気流下で乾固し、残留物にメタノール1mlを加えて溶解した。5%キサントヒドロール/メタノール溶液0.1mlおよび0.3mol/l塩酸/メタノール溶液0.1mlを加え、40℃、2時間誘導体化した後、窒素気流下で乾固し、水5ml、酢酸エチル2ml、塩化ナトリウム2gを加えて2分間振とう後、酢酸エチル層を分取した。無水硫酸ナトリウム1gを加えて、脱水し、試験溶液とした。
(II)GC−MS分析
(I)で調整した試験溶液及び誘導体化した標準溶液をGC−MSに供し、得られたクロマトグラムからピーク面積を求め、標準溶液の分析結果から検量線を求めて、内標準法により定量した。
装置:GCMS−QP2010Plus(島津製作所製)
カラム:DB−5MS(Agilent製)
カラムオーブン昇温条件:40℃(2min)→20℃/min→320℃(15min)
キャリアガス:高純度ヘリウム
注入量:2μl
注入口温度:250℃
注入モード:スプリットレス高圧注入法(200kpa)
制御モード:線速度一定(1ml/min)
インターフェース温度:240℃
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
測定イオン:アクリルアミド誘導体化物定量イオンm/z 251.10
定性イオンm/z 234.15
アクリルアミド−13C3 誘導体化物定量イオンm/z 254.15
定性イオンm/z 237.10
検出器電圧:チューニング結果からの相対値
分析時間:21min
【0047】
(脂質の含有量)
日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(I)酸分解法に従って分析した。
【0048】
[小麦ふすま加工品の評価]
以下の評価基準に従って、10人の専門パネラーがエグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さを評価し、その平均値を算出して、小数点第1位を四捨五入した値を評価点とした。
(エグミ及び臭みの低減効果)
0:エグミ及び臭みが非常に強い
1:エグミ及び臭み低減効果はほとんど得られず、エグミ及び臭みが非常に強い
2:エグミ及び臭み低減効果が若干認められるが、エグミ及び臭みが強い
3:エグミ及び臭み低減効果が認められ、エグミ及び臭みの強さは許容範囲内である
4:エグミ及び臭みが低減され、エグミ及び臭みが弱い
5:エグミ及び臭みが効果的に低減され、エグミ及び臭みはほとんど感じられない
(焙煎臭の強さ)
0:焙煎臭は全く感じられない
1:焙煎臭はほとんど感じられない
2:焙煎臭が若干感じられる
3:焙煎臭がやや感じられる
4:焙煎臭を強く感じる
5:焙煎臭を非常に強く感じる
【0049】
更に、小麦ふすま加工品のエグミ及び臭みの強さと、焙煎臭の強さを総合的に判断してA〜Dの四段階で評価した。C以上を合格とした。
【0050】
試験例1の結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
可溶性タンパク質の割合が7.5〜14%である実施例1〜10の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが低減されていた。過熱水蒸気処理を行っていない比較例1の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが非常に強かった。比較例2及び3の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行ったが、可溶性タンパク質の割合が15%超であり、エグミ及び臭みが非常に強く感じられた。参考例1の焙煎ふすまは、焙煎臭が非常に強く、小麦ふすま本来の好ましい風味が感じられなかった。これらの結果から、可溶性タンパク質の割合が15%以下であるとエグミ及び臭みが低減されることが確認された。
【0053】
可溶性タンパク質の割合が7.5%である実施例10は、エグミ及び臭みの低減効果は良好であったが、焙煎臭がやや強く感じられた。焙煎臭の付与を抑え、小麦ふすま本来の好ましい風味を維持する観点からは、可溶性タンパク質の割合は8%以上が好ましいことが示唆された。
【0054】
<試験例2>
過熱水蒸気処理前の小麦ふすまに、下記表2に示す量の水を加え混合した後、下記表2に示す条件で試験例1と同様に小麦ふすま加工品を製造し、試験例1と同様に評価を行った。試験例2の結果を下記表2に示す。ただし、実施例17、20、22、23、比較例4は、過熱水蒸気後の水分含有量が、それぞれ、20.5質量%、26.4質量%、17.3質量%、35.7質量%、43.0質量%であり、15質量%超であったため、得られた小麦ふすま加工品を50℃の送風乾燥機で乾燥させた後に、各種分析を行った。乾燥後の水分含有量は、表2に示すように、実施例17が10.8質量%、実施例20が5.2質量%、実施例22が4.5質量%、実施例23が5質量%、比較例4が5.6質量%であった。
【0055】
【表2】
【0056】
糊化した澱粉の含有量が1.5〜8.1質量%である実施例11〜23の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みがほとんど感じられなかった。また、焙煎臭が弱く、小麦ふすま本来の風味が感じられた。糊化した澱粉の含有量が11質量%である比較例4は、エグミの強さは許容範囲であり、焙煎臭は全く感じられなかったことから、全体評価としては合格点であった。しかしながら、後述する試験例4および試験例5で示すように、糊化した澱粉の含有量が10質量%を超える小麦ふすま加工品は、二次加工適性に劣っていた。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量は10質量%以下が好適であることが確認された。
【0057】
<試験例3>
本試験では、北海道産中力系小麦、北海道産強力系小麦、北米産薄力系小麦及び北米産強力系小麦から得られた小麦ふすまを原料として用いた。下記表3に示す条件で試験例1と同様に実施例24〜27の小麦ふすま加工品を製造した。比較例5〜8の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行わず、粉砕処理のみ行った。得られた小麦ふすま加工品を試験例1と同様に評価した。試験例3の結果を下記表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例24〜27の結果から、小麦の種類にかかわらず、エグミ及び臭みが効果的に低減され、焙煎臭がなく、小麦ふすま本来の風味を有する小麦ふすま加工品が得られることが確認された。
【0060】
<試験例4>
実施例4、実施例17、実施例18、実施例19、実施例20、実施例22および、比較例4の小麦ふすま加工品を使用して、下記A〜Eの工程にて小麦ふすま加工品を含有するパンを製造した。
【0061】
A.強力粉(キングスター、昭和産業株式会社製)90質量部、小麦ふすま加工品10質量部、イースト2質量部、食塩1.5質量部、グラニュー糖3質量部と、水76質量部をボウルに入れた。生地の状態を見ながら水分量を微調整して、ミキサーを用いて低速で2分間、中低速で2分間ミキシングした。
B.Aにショートニング2質量部を加え、更に中低速で2分間ミキシングした。生地の捏上温度は27±0.5℃とした。
C.Bの生地を28℃、湿度80%の条件下で90分間発酵させた後、パンチを行い、更に30分間発酵させた。
D.Cの生地を500gに分割し、丸めを行った後、28℃、湿度80%の条件下でベンチタイムを25分間とった。
E.Dの生地をロール状に成形して型に詰め、38℃、湿度80%の条件下でホイロを40分間とった後、205℃で30分間焼成した。
【0062】
得られた小麦ふすま加工品を含有するパンは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンは、許容範囲ではあったものの、生地の丸めや成形を行う際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するパンは、ミキシング時のべた付きが強く、ミキサーへの生地の付着が多く認められた。また、生地の丸めや成形を行う際に、生地のべた付きが強かった。
【0063】
<試験例5>
実施例4、実施例17、実施例18、実施例19、実施例20、実施例22および、比較例4の小麦ふすま加工品を使用して、下記A〜Cの工程にて小麦ふすま加工品を含有するうどんを製造した。
【0064】
A.中力粉(めんのちから、昭和産業株式会社製)76質量部、小麦ふすま加工品10質量部、加工でん粉(SF−1500、昭和産業株式会社製)10質量部、粉末グルテン(パウダーグルA、グリコ栄養食品株式会社製)4質量部を横型ピンミキサーに入れた。食塩4%を溶解した水35質量部を加え、15分間ミキシングし、生地を製造した。
B.Aの生地を、ロール製麺機にて圧延し、製麺した。
C.Bの麺を、2Lの沸騰水中で15分間茹でた。
【0065】
得られた小麦ふすま加工品を含有するうどんは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、許容範囲ではあったものの、ロール製麺機にて圧延する際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、ロール製麺機にて圧延する際に、生地がべたつき、ロールへの生地の付着が多く認められた。
【0066】
試験例4及び試験例5の結果から、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉の含有量が11質量%であると二次加工適性に劣ることが確認された。また、糊化した澱粉の含有量を好ましくは6.8質量%以下、より好ましくは5.9質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下とすることで、二次加工適性が良好になることが確認された。
【0067】
実施例18の小麦ふすま加工品と実施例20の小麦ふすま加工品を比較すると、糊化した澱粉の含有量は同程度であったが、可溶性タンパク質の割合は、実施例18が5.5%、実施例20が9.4%であり、実施例18の方が少なかった。また、試験例4及び試験例5において、実施例18の方が実施例20よりも生地がべたつく傾向にあることが確認された。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量が同程度の場合、可溶性タンパク質の割合が少なくなるほど二次加工適性が劣る傾向にあることが示唆された。また、可溶性タンパク質の割合は、二次加工適性の観点から5%以上が好ましいことが示唆された。