特許第6810543号(P6810543)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810543
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】小麦ふすま加工品
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20201221BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20201221BHJP
【FI】
   A23L7/10 Z
   A23L7/10 H
   A23L5/00 K
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-125405(P2016-125405)
(22)【出願日】2016年6月24日
(65)【公開番号】特開2017-225423(P2017-225423A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2019年3月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美樹
(72)【発明者】
【氏名】市野 正明
(72)【発明者】
【氏名】田久 陽子
【審査官】 山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0250212(US,A1)
【文献】 特開昭58−183050(JP,A)
【文献】 特開2014−140366(JP,A)
【文献】 特開2013−243984(JP,A)
【文献】 特開2012−254024(JP,A)
【文献】 特表2016−501556(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0152781(US,A1)
【文献】 中国食品学報,2015年,Vol.15, No.8 ,p.170-177
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A21D
WPIDS/FSTA/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5〜13%であり、糊化した澱粉の含有量が1〜6.8質量%である、小麦ふすま加工品。
【請求項2】
パン類用、菓子類用、麺類用、又は皮類用である請求項1に記載の小麦ふすま加工品。
【請求項3】
小麦ふすまを開放系の装置を用いて、温度が150〜400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含み、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合を8.513%とし、糊化した澱粉の含有量を1〜6.8質量%とする、小麦ふすま加工品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の小麦ふすま加工品を含む食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦ふすま加工品に関する。より詳しくは、小麦ふすま加工品、該小麦ふすま加工品の製造方法、該小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物及び該小麦ふすま加工品を含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦ふすまは、食物繊維、ミネラル、ビタミンが豊富な食品素材として注目されており、小麦ふすまを使用した食品の市場は拡大している。しかし、小麦ふすまは特有のエグミと臭みを有しており、小麦ふすまを使用した食品は味及びにおい等の風味に劣る。
【0003】
小麦ふすまを加工する技術は種々提案されている。例えば、特許文献1〜4には、小麦ふすまを微粉砕、焙煎又は湿熱処理する技術が記載されている。また、特許文献5には、100質量部の小麦ふすまを100〜300質量部の水の共存下で加熱処理した後、乾燥させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−204411号公報
【特許文献2】特開2013−243984号公報
【特許文献3】特開2015−181463号公報
【特許文献4】特表2016−501556号公報
【特許文献5】特開2014−140366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の小麦ふすまを微粉砕する方法では、エグミ及び臭みなどの好ましくない風味を低減する効果が弱く、食品に配合できる量が限定されてしまう場合がある。従来の小麦ふすまを焙煎する方法では、香ばしさや焙煎臭といった独特の風味が付与されるため、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みだけではなく、小麦ふすまが本来有する好ましい風味までマスキングされてしまう。従来から行われている加熱処理の条件では、加熱処理後に乾燥工程が必要で製造負荷や製造コストの観点から好ましくなく、また、風味を改善する効果が不十分な場合がある。
そこで、本発明は、小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が8.5〜13%であり、糊化した澱粉の含有量が1〜6.8質量%である、小麦ふすま加工品を提供する。
また、本発明は、小麦ふすまを開放系の装置を用いて、温度が150〜400℃である過熱水蒸気(但し、高圧過熱水蒸気は除く)により処理する工程を含み、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合を8.513%とし、糊化した澱粉の含有量を1〜6.8質量%とする、小麦ふすま加工品の製造方法を提供する。
また、本発明は、上記小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物を提供する。
また、本発明は、上記小麦ふすま加工品を含む食品を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小麦ふすま本来の風味を有し、且つ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが低減された小麦ふすま加工品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0009】
<小麦ふすま加工品>
本実施形態に係る小麦ふすま加工品は、タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合が3〜15%である。可溶性タンパク質の割合が3%未満であると、小麦ふすま加工品を配合した食品を製造する際に加工適性が劣る場合がある。また、焙煎臭が強く、小麦ふすま本来の好ましい風味が感じられない場合もある。可溶性タンパク質の割合が15%超であると、小麦ふすま特有のエグミや臭みが強く、風味に劣る場合がある。タンパク質の総質量に対する可溶性タンパク質の割合は、エグミや臭みを効果的に低減できることから、14%以下が好ましく、13%以下がより好ましい。また、小麦ふすま加工品を配合した食品を製造する際の加工適性を向上し、小麦ふすま本来の好ましい風味を維持する観点から、5%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上が更に好ましく、9%以上がより更に好ましい。
可溶性タンパク質の割合は、0.05規定の酢酸に溶解するタンパク質の量を、ケルダール法にて測定した総タンパク質量で割ることにより算出することができる。
【0010】
本明細書において、「小麦ふすま本来の風味を有する」及び「小麦ふすま本来の風味が残っている」とは、焙煎臭が弱く、小麦ふすまの好ましい風味(味及びにおいなど)が感じられることを意味する。従来の小麦ふすま加工方法では、焙煎によって付与される強い焙煎臭が小麦ふすま本来の風味をマスキングしてしまう場合があった。これに対して、本実施形態に係る小麦ふすま加工品は、焙煎臭が弱く、小麦ふすまに由来する好ましい風味を有している。
【0011】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品において、糊化した澱粉の含有量は、小麦ふすま加工品の総質量に対して1〜10質量%である。糊化した澱粉の含有量を1質量%以上とすることで、エグミ及び臭みを低減することができる。糊化した澱粉の含有量が10質量%超であると、小麦ふすま加工品を配合した食品を製造する際に加工適性が劣る。
糊化した澱粉の含有量は、小麦ふすま加工品全量中のα−アミラーゼによって分解される澱粉の含有量を測定することによって求めることができる。例えば、AACC法76−31により測定することができる。
【0012】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品において、糊化した澱粉の含有量は、エグミを効果的に低減できることから、1.5質量%以上が好ましい。また、小麦ふすま加工品を含む食品を製造する際の加工適性がより良好になることから、7質量%以下が好ましく、6質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましく、4.5質量%以下がより更に好ましい。
【0013】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品において、脂質の含有量は、小麦ふすま加工品の総質量に対して4.0質量%以上とすることができ、4.3質量%以上とすることもできる。小麦ふすま加工品の風味を改善するために、脱脂処理を行い、小麦ふすま加工品の脂質の含有量を低下させる場合があるが、本実施形態に係る小麦ふすま加工品は、風味が良好であるため、脱脂処理を行う必要がない。小麦ふすま加工品の脂質の含有量を、小麦ふすま加工品の総質量に対して4.0質量%以上とすることにより、脱脂処理による小麦ふすま加工品の製造工程の負荷を低減させることができることに加え、パン類等の小麦ふすま加工品を含む食品の味や食感を向上させることができる。
脂質の含有量は、日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(I)により分析した値である。
【0014】
後述するように、本実施形態に係る小麦ふすま加工品は、小麦ふすまを過熱水蒸気処理することにより得られる。過熱水蒸気処理後の小麦ふすま加工品の水分含有量が15質量%超の場合、腐敗菌の繁殖を防止し保存性を高めるため、過熱水蒸気処理後に乾燥処理を行って小麦ふすま加工品の水分量を低減させることが好ましい。
乾燥工程を省略して製造上の負荷や製造コストを抑える観点からは、過熱水蒸気処理後の小麦ふすま加工品の水分含有量を15質量%以下とすることが好ましい。
水分の含有量は、加熱乾燥法により測定することができる。
【0015】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品は、食品へ配合しやすくするため、粉末状であることが好ましい。小麦ふすま加工品の平均粒径は、好ましくは20〜500μmであり、より好ましくは30〜300μmである。このような範囲とすることで、小麦ふすま加工品を配合した食品の食感がより良好となる。また、小麦ふすま加工品を他の原料と混合した際に偏りが生じにくくなるため、二次加工適性がより向上する。
平均粒径は、例えば、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置「マイクロトラックMT3300EXII」(日機装株式会社製)を用いて乾式で測定することができる。
【0016】
<小麦ふすま加工品の製造方法>
上述した本発明の一実施形態に係る小麦ふすま加工品は、以下に示す製造方法により得ることができる。
【0017】
原料となる小麦ふすまは、小麦から常法に従って得ることができる。小麦の産地、品種などは特に限定されず自由に選択することができる。
【0018】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品の製造方法は、小麦ふすまを過熱水蒸気により処理する工程を含む。過熱水蒸気を用いることで、焙煎臭を付与することなくエグミ及び臭みを低減することが可能であり、得られる小麦ふすま加工品は小麦ふすま本来の風味を有している。また、過熱水蒸気処理を採用することで、従来の湿熱処理や飽和水蒸気処理よりも短時間でエグミ及び臭みを効果的に低減することが可能である。
【0019】
また、過熱水蒸気処理を行うことにより、焙煎処理などにより加熱する場合と比較して、小麦ふすま加工品中のアクリルアミドの含有量を低く抑えることが可能である。アクリルアミドは健康に悪影響を及ぼす可能性があることから、食品中のアクリルアミド含有量は一般的に低い方が好ましい。
【0020】
過熱水蒸気の温度は、130〜500℃が好ましい。このような範囲とすることで、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みを効果的に低減することができる。また、小麦ふすま加工品の二次加工適性が向上し、小麦ふすま加工品を含む食品の風味がより良好となる。
【0021】
エグミ及び臭みを効果的に低減するため、過熱水蒸気の温度は150℃以上がより好ましく、160℃以上が更に好ましく、180℃以上がより更に好ましい。また、焙煎臭の発生を抑制するため、過熱水蒸気の温度は400℃以下がより好ましく、300℃以下が更に好ましく、250℃以下がより更に好ましい。また、焙煎臭を低減する観点からは、過熱水蒸気の温度が高いほど短時間で処理することが好ましい。過熱水蒸気の温度を500℃以下とすることで、処理時間を極端に短くする必要がなくなるため、処理時間の調整に要する負担が軽減される。
【0022】
過熱水蒸気の量は、エグミ及び臭みを効果的に抑制する観点から、原料の小麦ふすま1kgに対して0.15kg以上であることが好ましい。また、過熱水蒸気の量は、処理時間当たりの過熱水蒸気量又は処理時間を調整することによって制御することができる。エグミ及び臭みを効果的に低減する観点から、処理時間当たりの過熱水蒸気量は、1kg/h以上が好ましい。
【0023】
過熱水蒸気による処理時間は、0.1秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましい。これにより、製造工程の制御がより容易となり、小麦ふすま加工品の品質がより安定する。また、過熱水蒸気による処理時間は、製造上の負荷及び製造コストの観点から15分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、5分以下が更に好ましい。また、過熱水蒸気による処理時間は、過熱水蒸気の温度に応じて決定することが好ましい。過熱水蒸気の温度が250℃超の場合、焙煎臭の発生を抑制するため、処理時間は3分以下が好ましく、1分以下がより好ましい。
【0024】
過熱水蒸気処理に使用する装置は、上述した条件で処理可能な装置であれば、特に限定されず、開放系の装置及び密閉系の装置のいずれを用いてもよい。また、小麦ふすまを中空の搬送用シュートを用いて搬送する工程中に過熱水蒸気を噴出できる装置を設け、搬送中に過熱水蒸気処理をすることもできる。
【0025】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品の製造方法は、過熱水蒸気による処理工程の前に、又は、過熱水蒸気による処理工程中に、小麦ふすまに加水する工程を設けてもよい。過熱水蒸気処理前又は過熱水蒸気処理と同時に加水を行った場合でも、加水を行わない場合と同様に、小麦ふすま本来の風味を有しつつ、エグミ及び臭みが少ない小麦ふすま加工品を得ることができる。
【0026】
加水工程において添加される水の量は、過熱水蒸気処理する前の小麦ふすまに対して50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、10質量%以下がより更に好ましい。加水量が多い場合、過熱水蒸気による処理時間を長くしたり、過熱水蒸気処理工程の後に乾燥工程を設けたりすることが必要な場合がある。一方で、加水量が小麦ふすまに対して30質量%以下の場合、過熱水蒸気による処理時間を長くしたり、別途乾燥工程を設けたりする必要がなく、製造上の負荷や製造コストの観点から好ましい。
【0027】
本実施形態に係る小麦ふすま加工品の製造方法は、過熱水蒸気により処理する工程の前に、原料の小麦ふすまを粉砕する工程を含んでもよい。また、過熱水蒸気により処理する工程の後に、小麦ふすま加工品を粉砕する工程を含んでもよく、過熱水蒸気により処理する工程の前後に小麦ふすまを粉砕する工程を含んでもよい。このように、粉砕処理は、過熱水蒸気処理の前に行ってもよく、過熱水蒸気処理の後に行ってもよいが、過熱水蒸気処理の後に行うことがより好ましい。小麦ふすま加工品の平均粒径を好適範囲に調整しやすいためである。粉砕後の小麦ふすま加工品の平均粒径は20〜500μmが好ましく、30〜300μmがより好ましい。
【0028】
小麦ふすま加工品の粉砕方法は、特に限定されず、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕などの公知の方法を用いることができる。例えば、パルペライザー(株式会社ダルトン製)、ジェットミル(株式会社セイシン企業製)などが挙げられる。また、分級機を内蔵した衝撃型微粉砕機のACMパルペライザー(ホソカワミクロン株式会社製)を用いてもよい。
【0029】
小麦ふすま加工品の平均粒径の調整方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。ロール式粉砕、衝撃式粉砕及び気流式粉砕などにおいて通常用いられる粉砕装置を使用して平均粒径を調整してもよく、粉砕後に分級することで平均粒径を調整してもよい。粉砕後の分級により調整する場合、任意に分級点を設定した気流式分級機にて分取し、回収すればよい。また、平均粒径が特定の範囲になるような目開きの篩を用いて平均粒径を調整してもよい
【0030】
<小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物>
本発明の一実施形態に係る穀粉組成物は、上述した本発明の一実施形態に係る小麦ふすま加工品を含む。本実施形態に係る穀粉組成物は、小麦ふすま加工品以外に、穀粉及び/又はその他の粉末状原料を含むことが好ましい。
【0031】
小麦ふすま加工品以外の穀粉は、目的に応じて選択することができ、例えば、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、米粉、オーツ粉、そば粉、ヒエ粉、アワ粉、ともろこし粉などが挙げられる。
【0032】
その他の粉末状原料は、目的に応じて選択することができ、例えば、澱粉類、糖類、乳成分、卵成分、増粘多糖類、乳化剤、酵素製剤、食塩、炭酸カルシウムなどの無機塩類、ビタミン類、イースト、イーストフード、膨張剤、着色料、香料などが挙げられる。
【0033】
本実施形態に係る穀粉組成物は、パン類用、菓子類用、麺類用又は皮類用として好適に用いられる。本実施形態に係る穀粉組成物に含まれる上記小麦ふすま加工品の割合は、用途に応じて適宜決定すればよい。小麦ふすま加工品の割合は、小麦ふすま加工品と小麦ふすま加工品以外の穀粉との合計量中1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。穀粉組成物中の、小麦ふすま加工品と小麦ふすま加工品以外の穀粉との合計量における小麦ふすま加工品の含有量をこのような範囲にすることにより、本実施形態の穀粉組成物と、水と、必要に応じてその他の粉末原料とを混合することで、簡便に食品を製造することができる。また、小麦ふすま加工品の割合は、穀粉組成物の全量中40質量%以上または50質量%以上とすることもできる。小麦ふすま加工品の含有量をこのような範囲とし、本実施形態の穀粉組成物と小麦ふすま加工品以外の穀粉とを所望の比率で混合することにより、食品に配合する小麦ふすま加工品の量を所望の範囲に調整することができる。
【0034】
<小麦ふすま加工品を含む食品>
本発明の一実施形態に係る食品は、上述した本発明の一実施形態に係る小麦ふすま加工品を含む。当該食品は、小麦ふすま本来の風味を有しつつ、小麦ふすま特有のエグミ及び臭みが少ない。食品の種類は特に限定されないが、パン類、菓子類、麺類及び皮類が好ましい。
【0035】
パン類としては、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、デニッシュペストリー、バラエティブレッド、調理パン、蒸しパンなどが挙げられる。菓子類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ビスケット、クッキー、クラッカーなどが挙げられる。
【0036】
麺類の種類としては、例えば、パスタ類、うどん、そうめん、ひやむぎ、中華麺、日本そばなどが挙げられる。麺類の形態としては、例えば、生麺、半乾燥麺、乾燥麺、茹で麺、蒸し麺、冷凍麺、即席麺、LL麺などが挙げられる。皮類としては、例えば、餃子の皮、春巻きの皮、ワンタンの皮、シュウマイの皮などが挙げられる。
【0037】
<小麦ふすま加工品を含む食品の製造方法>
小麦ふすま加工品を含む食品の製造方法は、小麦ふすま加工品又は小麦ふすま加工品を含む穀粉組成物を配合する工程を含む。本実施形態に係る製造方法は、好適には、小麦ふすま加工品を含むパン類、菓子類、麺類又は皮類の製造方法である。この場合、製造工程において、小麦ふすま加工品と水とを混合して生地を調製する工程を含むことが好ましい。
【0038】
糊化した澱粉の含有量が多い原料と水を配合した生地は、べたつきやすく、二次加工適性が劣る。本実施形態の製造方法で用いられる小麦ふすま加工品は、糊化した澱粉の含有量が1〜10質量%と少ない。このため、本実施形態の製造方法において調製される生地は、べたつきが少なく、加工しやすい。
【0039】
配合される小麦ふすま加工品の割合は、食品の種類に応じて適宜決定すればよい。小麦ふすま加工品に含まれる食物繊維、ミネラル、ビタミンなどを摂取するために、食品の紛体原料の全量中5質量%以上が好ましい。本実施形態の小麦ふすま加工品は、風味が良好であり、食品製造時の加工適性も良好であるため、食品の紛体原料の全量中10質量%以上含有させることができ、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上含有させることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
<試験例1>
[小麦ふすま加工品の製造]
原料として、北海道産中力系小麦から得られた小麦ふすまを用いた。過熱水蒸気処理前の小麦ふすまの水分含有量は、13.9質量%であった。
小麦ふすま50gを秤量し、スチームオーブンQF−5100CB−R(L)(直本工業社)を用いて、下記表1に示す条件にて過熱水蒸気処理を行った後、超遠心粉砕機ZM 200(ヴァーダー・サイエンティフィック社)で粉砕し、実施例1〜10及び比較例2、3の小麦ふすま加工品を得た。比較例1の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行わず、粉砕処理のみ行った。参考例1として、小麦ふすま50gを200℃のホットプレートで10分間焙煎した後、粉砕処理を行って調製した焙煎小麦ふすまを使用した。各小麦ふすま加工品の平均粒径は200〜400μmであった。
【0042】
[小麦ふすま加工品の分析]
得られた小麦ふすま加工品について、水分の含有量、可溶性タンパク質の割合、糊化した澱粉の含有量、アクリルアミドの含有量及び脂質の含有量を、以下の手順により測定した。
【0043】
(水分の含有量)
アルミ容器に試料(小麦ふすま加工品)10gを秤量し、送風乾燥機で130℃、1時間乾燥させた。乾燥後の試料の重量を測定し、乾燥前の試料から乾燥後の試料の重量を減じることで、試料に含まれる水分量を算出した。
【0044】
(可溶性タンパク質の割合)
(I)小麦ふすま加工品の可溶性粗蛋白質含量の測定
100mlの三角フラスコに試料2gを秤量し、0.05規定酢酸40mlを加えて、25℃で60分間振盪させ懸濁液を調整した。懸濁液を遠沈管に移して、5000rpmで5分間遠心分離させた後、吸引濾過を行い、濾液を回収した。上記三角フラスコを0.05規定酢酸40mlで洗って、上記懸濁液と同様に遠沈管に移して、遠心分離、吸引濾過を行い、濾液を回収した。濾液を合わせて100mlにメスアップした。ケルダールチューブに得られた液の25mlを入れて、分解促進剤(FOSS社)1錠および濃硫酸15mlを加えた。
ケルテック分解炉(FOSS社)を用いて、250℃から徐々に昇温し、420℃になってから90分間分解処理を行った。この後、ケルテック蒸留システムを用いて、分解処理した液体を蒸留および滴定して、下記の数式により、試料の可用性粗蛋白質含量を求めた。
可溶性粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N×(100/S)×(1/25)
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
(II)小麦ふすま加工品の全粗蛋白質含量の測定
上記(I)で用いたのと同じケルダールチューブに、試料を0.5g秤量し、これに上記(I)で用いたものと同じ分解促進剤1錠および濃硫酸15mlを加えた。420℃で2時間30分間分解処理を行った後、上記(I)で用いたのと同じケルテック蒸留滴定システムを用いて、分解処理した液体を蒸留および滴定して、下記の数式により、試料の全粗蛋白質含量を求めた。
全粗蛋白質含量(%)=0.14×(T−B)×F×N/S
式中、T=滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
B=ブランクの滴定に要した0.1規定硫酸の量(ml)
F=滴定に用いた0.1規定硫酸の力価
N=窒素蛋白質換算係数(5.70)
S=試料の秤取量(g)
(III)可溶性タンパク質の算出
上記(I)で求めた試料の可溶性粗蛋白質含量および上記(II)で求めた試料の全粗蛋白質含量から、下記の数式により、可溶性タンパク質を算出した。
可溶性タンパク質(%)=(可溶性粗蛋白含量/全粗蛋白含量)×100
【0045】
(糊化した澱粉の含有量)
STARCH DAMAGE ASSAY KIT(Megazyme社)を用いて、キットのプロトコールに従って分析した。
【0046】
(アクリルアミドの含有量)
(I)試験溶液の調整
100mlメスフラスコに試料10gを秤量し、100mg/lの内標準溶液(CIL製)20μlを加え水で定容した。20mlを、珪藻土カラム(Agilent製)に負荷し、室温にて30分間放置後、酢酸エチル150mlを加えて300mlナス型フラスコに回収した。10%ジエチレングリコール/メタノール溶液0.1mlを加え、減圧濃縮後、窒素気流下で乾固した。水40mlを加えて溶解後、アクリルアミドを固相抽出カラムSep−Pak AC−2(Waters製)に吸着させ、メタノール5mLで溶出した。溶出液に10%ジエチレングリコール/メタノール溶液0.1mlを加え、窒素気流下で乾固し、残留物にメタノール1mlを加えて溶解した。5%キサントヒドロール/メタノール溶液0.1mlおよび0.3mol/l塩酸/メタノール溶液0.1mlを加え、40℃、2時間誘導体化した後、窒素気流下で乾固し、水5ml、酢酸エチル2ml、塩化ナトリウム2gを加えて2分間振とう後、酢酸エチル層を分取した。無水硫酸ナトリウム1gを加えて、脱水し、試験溶液とした。
(II)GC−MS分析
(I)で調整した試験溶液及び誘導体化した標準溶液をGC−MSに供し、得られたクロマトグラムからピーク面積を求め、標準溶液の分析結果から検量線を求めて、内標準法により定量した。
装置:GCMS−QP2010Plus(島津製作所製)
カラム:DB−5MS(Agilent製)
カラムオーブン昇温条件:40℃(2min)→20℃/min→320℃(15min)
キャリアガス:高純度ヘリウム
注入量:2μl
注入口温度:250℃
注入モード:スプリットレス高圧注入法(200kpa)
制御モード:線速度一定(1ml/min)
インターフェース温度:240℃
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI
測定イオン:アクリルアミド誘導体化物定量イオンm/z 251.10
定性イオンm/z 234.15
アクリルアミド−13C3 誘導体化物定量イオンm/z 254.15
定性イオンm/z 237.10
検出器電圧:チューニング結果からの相対値
分析時間:21min
【0047】
(脂質の含有量)
日本油化学会制定 基準油脂分析試験法(I)酸分解法に従って分析した。
【0048】
[小麦ふすま加工品の評価]
以下の評価基準に従って、10人の専門パネラーがエグミ及び臭みの低減効果、焙煎臭の強さを評価し、その平均値を算出して、小数点第1位を四捨五入した値を評価点とした。
(エグミ及び臭みの低減効果)
0:エグミ及び臭みが非常に強い
1:エグミ及び臭み低減効果はほとんど得られず、エグミ及び臭みが非常に強い
2:エグミ及び臭み低減効果が若干認められるが、エグミ及び臭みが強い
3:エグミ及び臭み低減効果が認められ、エグミ及び臭みの強さは許容範囲内である
4:エグミ及び臭みが低減され、エグミ及び臭みが弱い
5:エグミ及び臭みが効果的に低減され、エグミ及び臭みはほとんど感じられない
(焙煎臭の強さ)
0:焙煎臭は全く感じられない
1:焙煎臭はほとんど感じられない
2:焙煎臭が若干感じられる
3:焙煎臭がやや感じられる
4:焙煎臭を強く感じる
5:焙煎臭を非常に強く感じる
【0049】
更に、小麦ふすま加工品のエグミ及び臭みの強さと、焙煎臭の強さを総合的に判断してA〜Dの四段階で評価した。C以上を合格とした。
【0050】
試験例1の結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
可溶性タンパク質の割合が7.5〜14%である実施例1〜10の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが低減されていた。過熱水蒸気処理を行っていない比較例1の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みが非常に強かった。比較例2及び3の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行ったが、可溶性タンパク質の割合が15%超であり、エグミ及び臭みが非常に強く感じられた。参考例1の焙煎ふすまは、焙煎臭が非常に強く、小麦ふすま本来の好ましい風味が感じられなかった。これらの結果から、可溶性タンパク質の割合が15%以下であるとエグミ及び臭みが低減されることが確認された。
【0053】
可溶性タンパク質の割合が7.5%である実施例10は、エグミ及び臭みの低減効果は良好であったが、焙煎臭がやや強く感じられた。焙煎臭の付与を抑え、小麦ふすま本来の好ましい風味を維持する観点からは、可溶性タンパク質の割合は8%以上が好ましいことが示唆された。
【0054】
<試験例2>
過熱水蒸気処理前の小麦ふすまに、下記表2に示す量の水を加え混合した後、下記表2に示す条件で試験例1と同様に小麦ふすま加工品を製造し、試験例1と同様に評価を行った。試験例2の結果を下記表2に示す。ただし、実施例17、20、22、23、比較例4は、過熱水蒸気後の水分含有量が、それぞれ、20.5質量%、26.4質量%、17.3質量%、35.7質量%、43.0質量%であり、15質量%超であったため、得られた小麦ふすま加工品を50℃の送風乾燥機で乾燥させた後に、各種分析を行った。乾燥後の水分含有量は、表2に示すように、実施例17が10.8質量%、実施例20が5.2質量%、実施例22が4.5質量%、実施例23が5質量%、比較例4が5.6質量%であった。
【0055】
【表2】
【0056】
糊化した澱粉の含有量が1.5〜8.1質量%である実施例11〜23の小麦ふすま加工品は、エグミ及び臭みがほとんど感じられなかった。また、焙煎臭が弱く、小麦ふすま本来の風味が感じられた。糊化した澱粉の含有量が11質量%である比較例4は、エグミの強さは許容範囲であり、焙煎臭は全く感じられなかったことから、全体評価としては合格点であった。しかしながら、後述する試験例4および試験例5で示すように、糊化した澱粉の含有量が10質量%を超える小麦ふすま加工品は、二次加工適性に劣っていた。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量は10質量%以下が好適であることが確認された。
【0057】
<試験例3>
本試験では、北海道産中力系小麦、北海道産強力系小麦、北米産薄力系小麦及び北米産強力系小麦から得られた小麦ふすまを原料として用いた。下記表3に示す条件で試験例1と同様に実施例24〜27の小麦ふすま加工品を製造した。比較例5〜8の小麦ふすま加工品は、過熱水蒸気処理を行わず、粉砕処理のみ行った。得られた小麦ふすま加工品を試験例1と同様に評価した。試験例3の結果を下記表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例24〜27の結果から、小麦の種類にかかわらず、エグミ及び臭みが効果的に低減され、焙煎臭がなく、小麦ふすま本来の風味を有する小麦ふすま加工品が得られることが確認された。
【0060】
<試験例4>
実施例4、実施例17、実施例18、実施例19、実施例20、実施例22および、比較例4の小麦ふすま加工品を使用して、下記A〜Eの工程にて小麦ふすま加工品を含有するパンを製造した。
【0061】
A.強力粉(キングスター、昭和産業株式会社製)90質量部、小麦ふすま加工品10質量部、イースト2質量部、食塩1.5質量部、グラニュー糖3質量部と、水76質量部をボウルに入れた。生地の状態を見ながら水分量を微調整して、ミキサーを用いて低速で2分間、中低速で2分間ミキシングした。
B.Aにショートニング2質量部を加え、更に中低速で2分間ミキシングした。生地の捏上温度は27±0.5℃とした。
C.Bの生地を28℃、湿度80%の条件下で90分間発酵させた後、パンチを行い、更に30分間発酵させた。
D.Cの生地を500gに分割し、丸めを行った後、28℃、湿度80%の条件下でベンチタイムを25分間とった。
E.Dの生地をロール状に成形して型に詰め、38℃、湿度80%の条件下でホイロを40分間とった後、205℃で30分間焼成した。
【0062】
得られた小麦ふすま加工品を含有するパンは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンは、許容範囲ではあったものの、生地の丸めや成形を行う際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するパンの方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するパンは、ミキシング時のべた付きが強く、ミキサーへの生地の付着が多く認められた。また、生地の丸めや成形を行う際に、生地のべた付きが強かった。
【0063】
<試験例5>
実施例4、実施例17、実施例18、実施例19、実施例20、実施例22および、比較例4の小麦ふすま加工品を使用して、下記A〜Cの工程にて小麦ふすま加工品を含有するうどんを製造した。
【0064】
A.中力粉(めんのちから、昭和産業株式会社製)76質量部、小麦ふすま加工品10質量部、加工でん粉(SF−1500、昭和産業株式会社製)10質量部、粉末グルテン(パウダーグルA、グリコ栄養食品株式会社製)4質量部を横型ピンミキサーに入れた。食塩4%を溶解した水35質量部を加え、15分間ミキシングし、生地を製造した。
B.Aの生地を、ロール製麺機にて圧延し、製麺した。
C.Bの麺を、2Lの沸騰水中で15分間茹でた。
【0065】
得られた小麦ふすま加工品を含有するうどんは、全てエグミや臭みがなく、ふすま本来の好ましい風味も感じられる良好な品質の物であった。一方、実施例18、実施例20および実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、許容範囲ではあったものの、ロール製麺機にて圧延する際に生地がややべた付く傾向が認められた。実施例18と実施例20とを比較すると、実施例18の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められ、実施例20と実施例22とを比較すると、実施例22の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地の方がこの傾向が強く認められた。また、比較例4の小麦ふすま加工品を含有するうどん生地は、ロール製麺機にて圧延する際に、生地がべたつき、ロールへの生地の付着が多く認められた。
【0066】
試験例4及び試験例5の結果から、小麦ふすま加工品中の糊化した澱粉の含有量が11質量%であると二次加工適性に劣ることが確認された。また、糊化した澱粉の含有量を好ましくは6.8質量%以下、より好ましくは5.9質量%以下、さらに好ましくは4.0質量%以下とすることで、二次加工適性が良好になることが確認された。
【0067】
実施例18の小麦ふすま加工品と実施例20の小麦ふすま加工品を比較すると、糊化した澱粉の含有量は同程度であったが、可溶性タンパク質の割合は、実施例18が5.5%、実施例20が9.4%であり、実施例18の方が少なかった。また、試験例4及び試験例5において、実施例18の方が実施例20よりも生地がべたつく傾向にあることが確認された。これらの結果から、糊化した澱粉の含有量が同程度の場合、可溶性タンパク質の割合が少なくなるほど二次加工適性が劣る傾向にあることが示唆された。また、可溶性タンパク質の割合は、二次加工適性の観点から5%以上が好ましいことが示唆された。