特許第6810610号(P6810610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6810610有機酸の産生促進剤、並びに炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6810610
(24)【登録日】2020年12月15日
(45)【発行日】2021年1月6日
(54)【発明の名称】有機酸の産生促進剤、並びに炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20201221BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20201221BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20201221BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20201221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201221BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61K31/353
   A61K31/12
   A61K35/745
   A61K35/747
   A61P43/00 111
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-565924(P2016-565924)
(86)(22)【出願日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2015006425
(87)【国際公開番号】WO2016103699
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-264242(P2014-264242)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-11269
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 明
(72)【発明者】
【氏名】夏目 みどり
(72)【発明者】
【氏名】川畑 球一
【審査官】 鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−195652(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/101175(WO,A1)
【文献】 特開2006−273852(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/033151(WO,A1)
【文献】 特開2009−084215(JP,A)
【文献】 特開2007−217435(JP,A)
【文献】 特開2013−147469(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2013−0057734(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第102614278(CN,A)
【文献】 特開平06−166618(JP,A)
【文献】 特表2008−500032(JP,A)
【文献】 LEE, J. H. et al.,Apple flavonoid phloretin inhibits Escherichia coli O157:H7 biofilm formation and ameliorates colon inflammation in rats,Infection and immunity,2011年,Vol.79, No.12,p.4819-4827
【文献】 DODDA, D. et al.,Protective effect of quercetin against acetic acid induced inflammatory bowel disease (IBD) like symptoms in rats: possible morphological and biochemical alterations,Pharmacological reports,2014年 2月,Vol.66, No.1,p.169-173
【文献】 MOCHIZUKI, M. et al.,(-)-Epigallocatechin-3-gallate reduces experimental colon injury in rats by regulating macrophage and mast cell,Phytotherapy research,2010年,Vol.24 Suppl. 1,p.S120-S122
【文献】 ZHANG, X. et al.,Fermentation in vitro of EGCG, GCG and EGCG3"Me isolated from Oolong tea by human intestinal microbiota,Food Research International,2013年,Vol.54, No.2,p.1589-1595
【文献】 KAWABATA, K. et al.,Flavonols enhanced production of anti-inflammatory substance(s) by Bifidobacterium adolescentis: prebiotic actions of galangin, quercetin, and fisetin,BioFactors,2013年,Vol.39, No.4,p.422-429
【文献】 FOGLIANO, V. et al.,In vitro bioaccessibility and gut biotransformation of polyphenols present in the water-insoluble cocoa fraction,Molecular Nutrition & Food Research,2011年,Vol.55(Suppl.1),p.S44-S55
【文献】 CURIEL, J. A. et al.,pH and dose-dependent effects of quercetin on the fermentation capacity of Lactobacillus plantarum,LWT - Food Science and Technology,2010年,Vol.43, No.6,p.926-933
【文献】 HUR, S. J. et al.,Review of natural products actions on cytokines in inflammatory bowel disease,Nutrition Research,2012年,Vol.32, No.11,p.801-816
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 35/00−35/768
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン及びエピガロカテキンガレートのいずれか1種又は2種以上を有効成分として含有する、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)による乳酸及び/又は酢酸の産生を促進するための乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤であって、
前記ケルセチンを含有する場合、前記ケルセチンの含有量が、0.0001〜50重量%であり、
前記タキシフォリンを含有する場合、前記タキシフォリンの含有量が、0.001〜5.0重量%であり、
前記フロレチンを含有する場合、前記フロレチンの含有量が、0.0001〜50重量%であり、
前記エピガロカテキンガレートを含有する場合、前記エピガロカテキンガレートの含有量が、0.0001〜50重量%である、前記産生促進剤。
【請求項2】
タキシフォリンを有効成分として含有する、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)による乳酸及び/又は酢酸の産生を促進するための乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤であって
記タキシフォリンのヒトに対する1日当たりの投与量が、0.1〜100mgである、前記産生促進剤。
【請求項3】
さらに、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)を含有する、請求項1又は2に記載の乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤。
【請求項4】
前記ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)の菌数のヒトに対する1日当たりの投与量が、2×10〜5×1010個である請求項に記載の乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤に含有される前記ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)の培養物の1g当たりに10個以上のビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)を含める場合、前記ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)の培養物のヒトに対する1日当たりの投与量が、5〜1000gである、請求項3又は4に記載の乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤。
【請求項6】
前記ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)が、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)JCM1275である、請求項1〜5のいずれかに記載の乳酸及び/又は酢酸の産生促進剤。
【請求項7】
タキシフォリン、フロレチン及びエピガロカテキンガレートのいずれか1種又は2種以上を有効成分として含有する、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)による酢酸の産生を促進するための酢酸の産生促進剤であって、
前記タキシフォリンを含有する場合、前記タキシフォリンの含有量が、0.001〜5.0重量%であり、
前記フロレチンを含有する場合、前記フロレチンの含有量が、0.0001〜50重量%であり、
前記エピガロカテキンガレートを含有する場合、前記エピガロカテキンガレートの含有量が、0.0001〜50重量%である、前記産生促進剤。
【請求項8】
タキシフォリンを有効成分として含有する、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)による酢酸の産生を促進するための酢酸の産生促進剤であって
記タキシフォリンのヒトに対する1日当たりの投与量が、0.1〜100mgである、前記産生促進剤。
【請求項9】
さらに、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)を含有する、請求項7又は8に記載の酢酸の産生促進剤。
【請求項10】
前記ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)の菌数のヒトに対する1日当たりの投与量が、2×10〜5×1010個である請求項に記載の酢酸の産生促進剤。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の酢酸の産生促進剤に含有される前記ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)の培養物の1g当たりに10個以上のラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)を含める場合、前記ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)の培養物のヒトに対する1日当たりの投与量が、5〜1000gである、請求項9又は10に記載の酢酸の産生促進剤。
【請求項12】
前記ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)が、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1181(FERM BP−11269)である、請求項7〜11のいずれかに記載の酢酸の産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビフィズス菌又は乳酸菌による有機酸の産生を促進する有機酸の産生促進剤、並びに炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの健康や疾病に腸内細菌叢が密接に関係していることが知られている。ヒトの腸内には500〜1000種類、100兆個以上の腸内細菌が生息していると言われ、一般に、ビフィズス菌や乳酸菌のような有用性のある微生物(有用菌)と、ウェルシュ菌のような有害性のある微生物(有害菌)が共に生息している。ヒトの健康維持のためには、有用菌を優勢種として、大腸などに存在させることが重要である。
すなわち、ビフィズス菌や乳酸菌は、生体内(腸内)において、乳酸や酢酸などの有機酸を産生する機能を有しており、これらの有機酸により、腸内細菌叢における有害菌の増殖を抑制や防止することが可能となり、便秘や下痢が生じるのを抑制することが可能となる。また、これら産生された乳酸や酢酸は、腸内細菌により酪酸に変換され、酪酸により炎症性腸疾患などが改善されることも報告されている。
【0003】
一方、近年では、便秘や下痢、炎症性腸疾患などの患者数が増加傾向にあり、ヒトの腸内細菌叢を効果的に改善することが求められている。このため、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数を増加させるための様々な手法が提案されている。
例えば、特許文献1には、ポリ−γ−グルタミン酸を有効成分として用いることにより、腸内ビフィズス菌の増殖を促進させることが記載されている。また、特許文献2には、植物由来の脂肪源を含む脂質組成物を用いることにより、腸内細菌叢の発達を促進させることが記載されている。
また、乳酸菌やオリゴ糖を含有する食品や飲料、サプリメントなどを摂取することにより、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌を増殖させることなども広く行われている。
これら従来技術によれば、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌を増殖させることにより、その有機酸の産生量を増加させることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−178764号公報
【特許文献2】特表2013−525421号公報
【特許文献3】特開平6−166618号公報
【特許文献4】特開平6−248267号公報
【特許文献5】特開2012−92138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来技術は、腸内の有用菌の菌数を増加させることにより、有機酸の産生を増加させるものであり、有用菌(微生物)自体の有機酸の産生効率を向上させるものではなかった。
また、乳酸菌やオリゴ糖を含む食品などには、乳酸菌の生残性に問題のあるものや、過剰摂取により、下痢になるものなどもあった。
このため、ビフィズス菌や乳酸菌の数量(菌数)に拘わらず、有用菌自体の有機酸の産生効率を向上させることが可能となれば望ましい。これらの有用菌自体の有機酸の産生効率を向上させることが可能となれば、有用菌の大量摂取が困難な場合や、腸内において、有用菌の増殖が困難な場合でも、腸内細菌叢を改善することが可能となり、炎症性腸疾患の予防効果及び/又は改善効果を期待することが可能となる。
【0006】
そこで、本発明者らは、様々な植物化学物質がビフィズス菌などによる有機酸の産生機能に与える効果について鋭意研究した結果、ポリフェノールを用いることにより、優れた有機酸の産生促進効果が得られることを見いだした。このようなポリフェノールとして、特に、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、エピガロカテキンガレート、及びプロシアニジンを挙げられる。
【0007】
ここで、ポリフェノールを用いて、腸内細菌叢の改善をすることに関連する技術として、特許文献3に記載の整腸用組成物を挙げられる。この整腸用組成物では、エピガロカテキンガレートなどを含有し、ヒトの腸内のpHを低下させて、腸内細菌叢や便秘症を改善することが可能であると記載されている。
しかしながら、特許文献3に記載の整腸用組成物は、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数を増加させるものであり、その数量に関係なくビフィズス菌や乳酸菌による有機酸の産生を促進することが可能なものではなかった。
【0008】
また、特許文献4には、ケルセチンやタキシフォリンなどを有効成分として用いた食品用添加物などが記載されている。しかしながら、この食品用添加物は、抗酸化剤として用いられるものであり、有機酸の産生促進に関連するものではなかった。
さらに、特許文献5には、フロレチンなどを有効成分とする皮膚化粧料などが記載されている。しかしながら、この皮膚化粧料などは、抗炎症剤などとして用いられるものであり、有機酸の産生促進に関連するものではなかった。
その他、各種ポリフェノールを有効成分として用いた、ビフィズス菌や乳酸菌による有機酸の産生を促進することが可能な組成物などに関連する先行文献は、見当たらなかった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、ビフィズス菌や乳酸菌の数量に拘わらず、これらの有用菌が産生する有機酸量を増加させることが可能な有機酸の産生促進剤、並びに炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、ポリフェノールを有効成分として含有する、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌による有機酸の産生を促進するための有機酸の産生促進剤である。
本発明の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)OLB6290(NITE P−75)、ビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7(FERM BP−11242)、及びビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)JCM1275のいずれか1種又は2種以上とすることが好ましい。乳酸菌は、ラクトバチルス属の乳酸菌であることが好ましく、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL 1181(FERM BP−11269)とすることが好ましい。
【0011】
本発明の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌によって産生される有機酸として、乳酸と酢酸を挙げられる。また、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、乳酸と酢酸が産生され、これらが他の腸内細菌により、酪酸に変換される。したがって、本発明の有機酸の産生促進剤を摂取することにより、腸内において、酪酸の量を増加させることも可能となっている。
【0012】
本発明の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノールとしては、フラボノイド、フロレチン、及びプロシアニジンのいずれか1種又は2種以上を含有させることが好ましい。このとき、フラボノイドとして、ケルセチン、タキシフォリン、エピガロカテキンガレートを用いることが好ましい。また、プロシアニンジンとして、カカオポリフェノールを用いることが好ましい。
【0013】
また、本発明の有機酸の産生促進剤において、上記のポリフェノールと上記のビフィズス菌とを有効成分として含有させることも好ましく、上記のポリフェノールと上記の乳酸菌とを有効成分として含有させることも好ましい。
さらに、本発明の炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤は、上記の有機酸の産生促進剤を含有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビフィズス菌や乳酸菌の数量に拘わらず、これらの有用菌自体の有機酸の産生効率を向上させ得る有機酸の産生促進剤、並びに炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各種のポリフェノールをそれぞれ含有させた培地を用いて培養したビフィズス菌によって産生された有機酸の濃度を表したグラフを示す図である。
図2】プロシアニジンとして、カカオポリフェノールを含有させた培地を用いて培養したビフィズス菌によって産生された有機酸の濃度を表したグラフを示す図である。
図3】各種のポリフェノールをそれぞれ含有させた培地を用いて培養した乳酸菌によって産生された有機酸の濃度を表したグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る有機酸の産生促進剤について説明する。本実施形態の有機酸の産生促進剤は、ポリフェノールを有効成分として含有する、ビフィズス菌又は乳酸菌による有機酸の産生を促進するための有機酸の産生促進剤である。
【0017】
ビフィズス菌は、グラム陽性の偏性嫌気性桿菌の一種であり、動物の生体内に広く生息している。ビフィズス菌は、糖を分解して、乳酸及び酢酸を産生する微生物である。ヒトの健康維持のためには、一生涯にわたって、ビフィズス菌を腸内に優勢種として存在させることが望ましい。
【0018】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌としては、特に限定されないが、例えば、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)OLB6290(NITE P−75)、ビフィドバクテリウム・ロンガムNo.7(FERM BP−11242)、又はビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)JCM1275などが好ましい。
【0019】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)OLB6290(ビフィズス菌 OLB6290)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、受託番号:NITE P−75として、2005年2月3日に寄託された微生物である。
【0020】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)No.7(ビフィズス菌 No.7)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、受託番号:FERM BP−11242として、1993年4月20日に寄託された微生物である。
【0021】
乳酸菌は、糖を分解して、乳酸を産生する微生物であり、乳酸のみを最終産物として作り出すホモ乳酸菌と、乳酸以外のものを同時に産生するヘテロ乳酸菌に分類される。乳酸菌としては、ラクトバチルス属の乳酸菌、ビフィドバクテリウム属の乳酸菌、エンテロコッカス属の乳酸菌、ラクトコッカス属の乳酸菌、ペディオコッカス属の乳酸菌、及びリューコノストック属の乳酸菌などが挙げられる。本明細書において、乳酸菌は、いわゆるビフィズス菌以外の乳酸を産生する微生物を意味する。
【0022】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、乳酸菌としては、特に限定されないが、グラム陽性の桿菌であるラクトバチルス属の乳酸菌が好ましい。例えば、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)が好ましく、具体的には、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1181(FERM BP−11269)が好ましい。
【0023】
ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1181(ブルガリア菌 OLL1181)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、受託番号:FERM BP−11269として、2010年7月16日に寄託された微生物である。
【0024】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌や乳酸菌によって産生される有機酸としては、乳酸と酢酸が挙げられる。また、乳酸と酢酸は腸内細菌により、酪酸に変換されるため、本実施形態の有機酸の産生促進剤を摂取することにより、腸内において、酪酸の量を増加させることも可能となる。
ビフィズス菌や乳酸菌によって産生される乳酸と酢酸は、腸内において、ウェルシュ菌などの有害菌の増殖を抑制して、腸内細菌叢を改善し、便秘や下痢が生じるのを抑制や防止することが可能である。また、酪酸には、炎症性腸疾患に対する優れた予防効果及び/又は改善効果のあることが知られている。
【0025】
本実施形態の有機酸の産生促進剤によれば、ビフィズス菌や乳酸菌の数量(菌数)が増加しなくても、ビフィズス菌や乳酸菌によって産生される乳酸及び酢酸の量を増加させることが可能である。このため、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌を増殖させることが困難な者が、本実施形態の有機酸の産生促進剤を摂取した場合でも、腸内において、乳酸及び酢酸の量を増加させることが可能になる。そして、腸内において、乳酸及び酢酸の量が増加することを通じて、腸内細菌叢が改善され、炎症性腸疾患に対する予防効果及び/又は改善効果を得ることが可能である。
【0026】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノールとしては、フラボノイドを含むことが好ましく、フラボノイドとしては、ジヒドロケルセチンの一種であるタキシフォリンを含むことが好ましい。
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、タキシフォリンの含量としては、好ましくは0.001〜5.0重量%、より好ましくは0.01〜4.0重量%、さらに好ましくは0.1〜3.0重量%である。
【0027】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ヒトに対する1日当たりのタキシフォリンの有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは0.1〜100mg、より好ましくは0.5〜50mg、さらに好ましくは1〜10mgである。
なお、ヒトに対する1日あたりの有効量は、1回で摂取(投与)してもよく、2回以上の複数回で摂取してもよい。以下の実施形態についても同様である。
【0028】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノールとして、フロレチンを含むことも好ましい。
本実施形態の有機酸産生促進剤において、フロレチンの含量としては、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%、さらに好ましくは0.01〜15重量%である。
また、本実施形態の有機酸産の生促進剤において、ヒトに対する1日当たりのフロレチンの有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは0.001〜50mg、より好ましくは0.01〜30mg、さらに好ましくは0.1〜15mgである。
【0029】
さらに、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノールとしては、ケルセチン、エピガロカテキンガレート、及びプロシアニジンのいずれか1種又は2種以上を含むことが好ましく、プロシアニジンとしては、特に、カカオポリフェノールを含むことが好ましい。
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ケルセチンの含量としては、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%、さらに好ましくは0.01〜15重量%である。また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、エピガロカテキンガレートの含量としては、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%、さらに好ましくは0.01〜15重量%である。また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、カカオポリフェノールの含量としては、好ましくは0.0001〜50重量%、より好ましくは0.001〜30重量%、さらに好ましくは0.01〜15重量%である。
【0030】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノールとしては、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、エピガロカテキンガレート、及びプロシアニジンのいずれか1種又は2種以上を組み合わせて含むことも好ましい。このとき、ポリフェノールの2種以上を組み合わせることにより、有機酸の産生促進について相乗効果を期待できる。
【0031】
本実施形態の有機酸の産生促進剤は、1食当たりの単位包装形態からなるものとすることが可能であり、該単位包装あたりに有効量のポリフェノールを含めた形態とすることも可能である。
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、包装形態としては、公知の包装(包材)を用いることが可能であり、特に制限されないが、例えば、紙、プラスチック、ガラス、ナイロン、ステンレス、アルミニウム、鉄、銅、銀、竹などを用いることが可能である。以下の実施形態でも同様である。
ただし、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、嫌気性菌であるビフィズス菌又は乳酸菌が含有されているため、包装形態としては、空気や酸素に触れないものとすることが好ましい。例えば、有機酸の産生促進剤の製造工程や包装工程において、空気や酸素に触れる可能性を除去する工程を設けることが好ましく、また、有機酸の産生促進剤を包装した後の保存において、空気や酸素が内部に透過しない包装(包材)を選択することが好ましい。
【0032】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、それを摂取する(投与する)方法としては、特に限定されず、経口、経管、経腸、血管注射、塗薬、座薬などの公知の摂取(投与)形態の全部を適用することが可能であり、経口、経管、経腸を適用することが好ましく、経口を適用することが特に好ましい。また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ポリフェノール以外の成分としては、その他の摂取可能な成分、各種の添加物、医薬品の原材料などを含有させてもよい。以下の実施形態についても同様である。
【0033】
[第二実施形態]
本発明の第二実施形態に係る有機酸の産生促進剤は、ビフィズス菌による有機酸の産生を促進するためのものであり、ポリフェノールのみならず、ビフィズス菌をも有効成分とする点で、第一実施形態と異なっている。その他の点については、第一実施形態と同様のものとすることが可能である。
有機酸の産生促進剤を第二実施形態のような構成にすれば、ポリフェノールと共に、ポリフェノールによって有機酸の産生が促進されたビフィズス菌を同時に摂取することが可能であるため、より確実にビフィズス菌に有機酸を産生させることが可能となる。
【0034】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ヒトに対する1日当たりのビフィズス菌の有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは2×10〜5×1010個、より好ましくは1×10〜5×1010個、さらに好ましくは5×10〜2×1010個である。
【0035】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌の培養物の1g当たりにビフィズス菌の菌数を10個以上で含有させる場合、ヒトに対する1日当たりのビフィズス菌の培養物の有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは5〜1000g、より好ましくは50〜500g、さらに好ましくは80〜200gである。
【0036】
このとき、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌の培養物の1g当たりにビフィズス菌の菌数を10個以上、10個以上、10個以上などで含有させれば良く、10個、10個、10個などで含有させても良い。本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌の培養物の1g当たりのビフィズス菌の菌数を増加させれば、ビフィズス菌の菌数を有効量で含有させつつ、ビフィズス菌の培養物の有効量を低減させることが可能であり、ビフィズス菌の培養物をより少量で摂取することで、有機酸の産生促進効果、並びに炎症性腸疾患の予防効果及び/又は改善効果を十分に得ることが可能となる。これは、第三実施形態における乳酸菌についても同様である。
【0037】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌の培養物は、公知の培地成分で、ビフィズス菌を培養(増殖)させて得ることが可能である。そして、この得られたビフィズス菌の培養液を遠心分離することなどにより、培養液の単位重量当たりのビフィズス菌の菌数を増やすことが可能である。本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ビフィズス菌は、例えば、培養(増殖)させたままの状態でもよく、凍結保護剤などと混合して凍結させた状態でもよく、凍結乾燥させた状態でもよい。これは、第三実施形態における乳酸菌についても同様である。
【0038】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、それを摂取するときの温度としては、好ましくは−30〜50℃、より好ましくは―20〜45℃、さらに好ましくは0〜45℃、さらに好ましくは0〜30℃、特に好ましくは0〜20℃、最も好ましくは0〜10℃である。これは、第三実施形態における乳酸菌についても同様である。
【0039】
[第三実施形態]
本発明の第三実施形態に係る有機酸の産生促進剤は、乳酸菌による有機酸の産生を促進するためのものであり、ビフィズス菌に代えて、乳酸菌を有効成分とする点で、第二実施形態と異なっている。その他の点については、第二実施形態と同様のものとすることが可能である。
有機酸の産生促進剤を第三実施形態のような構成にすれば、ポリフェノールと共に、ポリフェノールによって有機酸の産生が促進された乳酸菌を同時に摂取することが可能であるため、より確実に乳酸菌に有機酸を産生させることが可能となる。
【0040】
本実施形態の有機酸の産生促進剤において、ヒトに対する1日当たりの乳酸菌の有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは2×10〜5×1010個、より好ましくは1×10〜5×1010個、さらに好ましくは5×10〜2×1010個である。
【0041】
また、本実施形態の有機酸の産生促進剤において、乳酸菌の培養物の1g当たりに乳酸菌の菌数を10個以上で含有させる場合、ヒトに対する1日当たりの乳酸菌の培養物の有効量(摂取量,投与量)としては、好ましくは5〜1000g、より好ましくは50〜500g、さらに好ましくは80〜200gである。
【0042】
[第四実施形態]
本発明の第四実施形態に係る炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤は、第一実施形態〜第三実施形態のいずれかの有機酸の産生促進剤を含有するものとすることが好ましい。
このような炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤を摂取することにより、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌による有機酸の産生効率を向上することが可能である。このため、実際に産生された有機酸により、腸内において、有害菌の増殖が抑制され、腸内細菌叢の改善効果を通じて、炎症性腸疾患に対する優れた予防効果及び/又は改善効果を得ることが可能となる。
【0043】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る乳酸の製造方法について説明する。本実施形態の乳酸の製造方法は、ポリフェノールを有効成分として含有する、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌による有機酸の産生を促進する組成物を用いて、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、乳酸を製造する方法である。また、本実施形態の乳酸の製造方法は、ポリフェノールと、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌とを有効成分として含有する、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌による有機酸の産生を促進する組成物を用いて、ビフィズス菌又は乳酸菌により、乳酸を製造する方法とすることも好ましい。
本実施形態の乳酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される乳酸の濃度としては、(絶対値で)好ましくは0.01pM/cfu以上、より好ましくは0.1pM/cfu以上、さらに好ましくは1pM/cfu以上、特に好ましくは0.01nM/cfu以上である。また、ポリフェノールを無添加で、ビフィズス菌又は乳酸菌により、乳酸を製造する方法に比較した場合、本実施形態の乳酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される乳酸の濃度としては、(相対値で)好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上で増加する(促進される)。
【0044】
また、本実施形態の乳酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の10個当たりに製造される乳酸の濃度としては、(絶対値で)好ましくは1nM/10cfu以上、より好ましくは0.01mM/10cfu以上、さらに好ましくは0.1mM/10cfu以上、特に好ましくは1mM/10cfu以上である。また、ポリフェノールを無添加で、ビフィズス菌又は乳酸菌により、乳酸を製造する方法に比較した場合、本実施形態の乳酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される乳酸の濃度としては、(相対値で)好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上で増加する(促進される)。
なお、本実施形態として、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、乳酸を製造するためのポリフェノールの使用、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、乳酸の製造を促進するためのポリフェノールの使用などと表現することもできる。
【0045】
[第六実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る酢酸の製造方法について説明する。本実施形態の酢酸の製造方法は、ポリフェノールを有効成分として含有する、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌による有機酸の産生を促進する組成物を用いて、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、酢酸を製造する方法である。また、本実施形態の酢酸の製造方法は、ポリフェノールと、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌とを有効成分として含有する、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌による有機酸の産生を促進する組成物を用いて、ビフィズス菌又は乳酸菌により、酢酸を製造する方法とすることも好ましい。
本実施形態の酢酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される酢酸の濃度としては、(絶対値で)好ましくは1fM/cfu以上、より好ましくは0.01pM/cfu以上、さらに好ましくは0.1pM/cfu以上、特に好ましくは1pM/cfu以上である。また、ポリフェノールを無添加で、ビフィズス菌又は乳酸菌により、酢酸を製造する方法に比較した場合、本実施形態の酢酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される酢酸の濃度としては、(相対値で)好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上で増加する(促進される)。
【0046】
また、本実施形態の酢酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の10個当たりに製造される酢酸の濃度としては、(絶対値で)好ましくは0.1nM/10cfu以上、より好ましくは1nM/10cfu以上、さらに好ましくは0.01nM/10cfu以上、特に好ましくは0.1nM/10cfu以上である。また、ポリフェノールを無添加で、ビフィズス菌又は乳酸菌により、酢酸を製造する方法に比較した場合、本実施形態の酢酸の製造方法において、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数当たりに製造される酢酸の濃度としては、(相対値で)好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上で増加する(促進される)。
なお、本実施形態として、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、酢酸を製造するためのポリフェノールの使用、ビフィズス菌及び/又は乳酸菌により、酢酸の製造を促進するためのポリフェノールの使用などと表現することもできる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の実施形態に係る有機酸の産生促進剤の効果を確認するために実施した試験について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の構成に限定されるものではない。
【0048】
<試験1>
(試験方法)
ポリフェノールとして、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートの4種類を準備した。
具体的には、ケルセチン(quercetin、ケイマンケミカル カンパニー インコーポレーテッド)をDMSO(Dimethyl sulfoxide)に溶解させて20mMに調製した。また、タキシフォリン((+)-Taxifolin 1036 Extrasynthese、フナコシ株式会社)をDMSOに溶解させて40mMに調製した。また、フロレチン(Phloretin、シグマアルドリッチ ジャパン)をDMSOに溶解させて40mMに調製した。また、エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate、ケイマンケミカル カンパニー インコーポレーテッド)をDMSOに溶解させて20mMに調製した。そして、これら調製したケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートの各DMSO溶液をDMEM培地(DMEM、シグマアルドリッチ ジャパン)に0.01%で添加した。なお、対照として、ポリフェノールを加えていないDMSO(Dimethyl sulfoxide)をDMEM培地に0.01%で添加したものを準備した。
【0049】
上記で調製した各DMEM培地に、ビフィズス菌として、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)JCM1275を10cfu/mlで接種し、37℃、3時間で嫌気培養した。そして、培養上清中の乳酸および酢酸を長鎖・短鎖脂肪酸分析用のラベル化試薬(株式会社ワイエムシィ)により、ラベル化した後に、高速液体クロマトグフィー(HPLC、High performance liquid chromatography)を用いて、培養後の各培地における乳酸及び酢酸の濃度を測定した。HPLCの条件としては、Ascentis RP-amideカラム(100×30mm、3μm、シグマアルドリッチ ジャパン)を用い、移動相には、A相(0.01M 塩酸、pH 4.5):B相(アセトニトリル:メタノール=2:1)を13:7で、0.4ml/分とした。また、カラム温度を50℃、インジェクションを4μl、検出波長を400nmとした。その結果を図1に示す。
【0050】
また、培養前後の各培地におけるビフィズス菌の菌数を、培養前後の各培地の濁度(650nmの吸光度)と、あらかじめ作成した検量線によって算出した。
具体的な検量線の作成方法としては、ビフィズス菌の菌数の溶液における濁度(650nmの吸光度)を測定した後、ビフィズス菌をBCP加プレートカウント寒天培地により、37℃、72時間で嫌気培養し、コロニー数を計測した。そして、ビフィズス菌の菌数(cfu/ml)と濁度の検量線を作成した。
【0051】
(試験結果)
ポリフェノールを添加していない培地(DMSO)における有機酸の濃度としては、乳酸が3.46mM、酢酸が4.86mMであった。また、ケルセチンを添加した培地(QUE)における有機酸の濃度としては、乳酸が3.88mM、酢酸が5.41mMであった。また、タキシフォリンを添加した培地(TAX)における有機酸の濃度としては、乳酸が5.88mM、酢酸が7.44mMであった。また、フロレチンを添加した培地(PHL)における有機酸の濃度としては、乳酸が4.91mM、酢酸が6.26mMであった。また、エピガロカテキンガレートを添加した培地(EGCG)における有機酸の濃度としては、乳酸が5.25mM、酢酸が7.81mMであった。
【0052】
すなわち、ケルセチンの添加により、乳酸は12%で増加し、酢酸は11%で増加した。また、タキシフォリンの添加により、乳酸は70%で増加し、酢酸は53%で増加した。また、フロレチンの添加により、乳酸は42%で増加し、酢酸は29%で増加した。また、エピガロカテキンガレートの添加により、乳酸は42%で増加し、酢酸は29%で増加した。
【0053】
また、培養前後の各培地におけるビフィズス菌の菌数の算出の結果、いずれの培地のビフィズス菌の菌数も約10cfu/mlであった。このことから、培養前後の培地におけるビフィズス菌の菌数が変化しないことが確認された。
したがって、試験1の結果から、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートは、ビフィズス菌の菌数を変化させることなく、ビフィズス菌による乳酸及び酢酸の産生効率を向上し得ることが明らかとなった。
【0054】
<試験2>
(試験方法)
プロシアニジンとして、カカオポリフェノールを準備した。
具体的には、後述のように製造したカカオポリフェノール(Cacao bean polyphenol extract)をDMSOに溶解させて100mg/mlに調製した。なお、対照として、ポリフェノールを加えていないDMSO(Dimethyl sulfoxide)をDMEM培地に0.01%で添加したものを準備した。
【0055】
以下のようにして、カカオポリフェノールを製造した。
まず、カカオ豆の150kgを80℃、1時間で加熱した。次いで、エクスペラーを用いて、この加熱したカカオ豆を脱脂し、カカオパウダーの80kgを得た。この脱脂したカカオパウダーにエタノール(50%)の800kgを加えてから加熱した。そして、これを50℃に達温させた後に、1時間で攪拌抽出してから、この抽出液を4℃、1晩で放置した。スクリューデカンタ、フィルタープレスを用いて、この抽出液を濾過し、この濾液を27kgに減圧濃縮してから、エタノール(95%)の13kgを加えた。そして、この濃縮液を40℃、1時間で攪拌してから、1晩で冷蔵保存した。シャープレス遠心機を用いて、この濃縮液を遠心分離(25℃、12000rpm)した。そして、この遠心分離の上清液に酸性白土(ミズカエース#20)の35kgを加えてから1時間で攪拌した。ヌッチェを用いて、これを濾過し、この濾過液を減圧濃縮してから凍結乾燥して、粉末の6.3kgを得た。そして、この粉末の0.5kgに、樹脂の25L、水の50Lを投入し、30分間以上で攪拌した。この樹脂を回収してから、エタノール(80%)の75Lを投入し、20〜30分間で攪拌した。ヌッチェを用いて、これを濾過し、この濾過液を減圧濃縮してから凍結乾燥して、カカオポリフェノールを得た。
【0056】
上記で調製した各DMEM培地に、ビフィズス菌として、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)JCM1275を10cfu/mlで接種し、37℃、3時間で嫌気培養した。そして、試験1と同様にして、HPLCを用いて、培養後の培地における乳酸及び酢酸の濃度を測定した。その結果を図2に示す。
また、培養前後の各培地におけるビフィズス菌の菌数を、培養前後の各培地の濁度(650nmの吸光度)と、あらかじめ作成した検量線によって、試験1と同様に算出した。
【0057】
(試験結果)
ポリフェノールを添加していない培地(DMSO)における有機酸の濃度としては、乳酸が5.70mM、酢酸が11.80mMであった。また、カカオポリフェノールを添加した培地(CBP)における有機酸の濃度としては、乳酸が6.34mM、酢酸が13.18mMであった。
【0058】
すなわち、カカオポリフェノールの添加により、乳酸は11%で増加し、酢酸は12%で増加した。
【0059】
また、培養前後の各培地におけるビフィズス菌の菌数の算出の結果、いずれの培地のビフィズス菌の菌数も約10cfu/mlであった。このことから、培養前後の培地におけるビフィズス菌の菌数が変化しないことが確認された。
したがって、試験2の結果から、カカオポリフェノールは、ビフィズス菌の菌数を変化させることなく、ビフィズス菌による乳酸及び酢酸の産生効率を向上し得ることが明らかとなった。
【0060】
<試験3>
(試験方法)
ポリフェノールとして、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートの4種類を準備した。
具体的には、ケルセチン(quercetin、ケイマンケミカル カンパニー インコーポレーテッド)をDMSO(Dimethyl sulfoxide)に溶解させて200mMに調製した。また、タキシフォリン((+)-Taxifolin 1036 Extrasynthese、フナコシ株式会社)をDMSOに溶解させて400mMに調製した。また、フロレチン(Phloretin、シグマアルドリッチ ジャパン)をDMSOに溶解させて400mMに調製した。また、エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate、ケイマンケミカル カンパニー インコーポレーテッド)をDMSOに溶解させて200mMに調製した。そして、これら調製したケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートの各DMSO溶液をDMEM培地(DMEM、シグマアルドリッチ ジャパン)に0.01%で添加した。なお、対照として、ポリフェノールを加えていないDMSOをDMEM培地に0.01%で添加したものを準備した。
【0061】
上記で調製した各DMEM培地に、乳酸菌として、ラクトバチルス・デルブリッキー・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)OLL1181(FERM BP−11269)を10cfu/mlで接種し、37℃、3時間で嫌気培養した。そして、試験1と同様にして、HPLCを用いて、培養後の培地における酢酸の濃度を測定した。その結果を図3に示す。
また、培養前後の各培地における乳酸菌の菌数を、培養前後の各培地の濁度(650nmの吸光度)と、あらかじめ作成した検量線によって、試験1と同様に算出した。
【0062】
(試験結果)
ポリフェノールを添加していない培地(DMSO)における有機酸の濃度としては、酢酸が0.63mMであった。また、ケルセチンを添加した培地(QUE)における有機酸の濃度としては、酢酸が0.61mMであった。また、タキシフォリンを添加した培地(TAX)における有機酸の濃度としては、酢酸が0.97mMであった。また、フロレチンを添加した培地(PHL)における有機酸の濃度としては、酢酸が0.72mMであった。また、エピガロカテキンガレートを添加した培地(EGCG)における有機酸の濃度としては、酢酸が0.90mMであった。
【0063】
すなわち、ケルセチンの添加により、酢酸は3%で減少した。また、タキシフォリンの添加により、酢酸は54%で増加した。また、フロレチンの添加により、酢酸は14%で増加した。また、エピガロカテキンガレートの添加により、酢酸は43%で増加した。
【0064】
また、培養前後の各培地における乳酸菌の菌数の算出の結果、いずれの培地の乳酸菌の菌数も約108cfu/mlであった。このことから、培養前後の培地における乳酸菌の菌数が変化しないことが確認された。
したがって、試験3の結果から、タキシフォリン、フロレチン、及びエピガロカテキンガレートは、乳酸菌の菌数を変化させることなく、乳酸菌による酢酸の産生効率を向上し得ることが明らかとなった。
【0065】
以上で説明した通り、本実施形態の有機酸の産生促進剤によれば、ビフィズス菌や乳酸菌の菌数(数量)に拘わらず、これらの微生物が産生する有機酸の量を増加することが可能である。そして、このような有機酸の産生促進剤を含有する本実施形態の炎症性腸疾患の予防及び/又は改善剤によれば、腸内において、有害菌の増殖が抑制され、腸内菌叢の改善効果を通じて、炎症性腸疾患に対する優れた予防効果及び/又は改善効果を得ることが可能となる。
【0066】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々に変更して実施が可能である。例えば、上記の実施形態及び実施例では、ポリフェノールとして、ケルセチン、タキシフォリン、フロレチン、エピガロカテキンガレート、及びプロシアニジンを用いているが、これらと同様の効果を奏する、その他のポリフェノールを用いてもよい。また、もちろん、ビフィズス菌や乳酸菌として、実施形態に示した菌株以外の微生物を用いてもよい。さらに、第二実施形態と第三実施形態を組み合わせて、ポリフェノールとビフィズス菌及び乳酸菌とを有効成分として含有させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、下痢や便秘、炎症性腸疾患などの予防及び/又は改善を行うために、好適に利用することが可能である。
図1
図2
図3