特許第6811324号(P6811324)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811324
(24)【登録日】2020年12月16日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20201228BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20201228BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20201228BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   H01J37/22 502H
   H01J37/22 502B
   H01J37/28 B
   H01J37/244
   H01J37/20 A
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-528259(P2019-528259)
(86)(22)【出願日】2017年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2017024650
(87)【国際公開番号】WO2019008699
(87)【国際公開日】20190110
【審査請求日】2019年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】設楽 宗史
【審査官】 中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−171445(JP,A)
【文献】 特開昭61−025043(JP,A)
【文献】 特開昭62−172649(JP,A)
【文献】 特開平03−289551(JP,A)
【文献】 特開平08−148111(JP,A)
【文献】 特開2002−257765(JP,A)
【文献】 特開2005−147851(JP,A)
【文献】 特開2013−143364(JP,A)
【文献】 特開2015−179082(JP,A)
【文献】 特開2016−015315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/20
H01J 37/244
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線を照射する荷電粒子線源、
前記荷電粒子線が前記試料に対して照射される角度を偏向させる偏向器、
前記荷電粒子線を前記試料に対して照射することにより前記試料から反射される反射電子を検出してその強度を表す検出信号を出力する検出器、
前記検出信号を用いて前記試料の観察画像を生成する画像生成部、
を備え、
前記画像生成部は、前記試料に対して前記荷電粒子線を第1方向から照射することにより得られる第1画像と、前記試料に対して前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向から照射することにより得られる第2画像とを合成することにより、前記試料から反射した反射電子による電子チャネリングコントラストを強調した前記観察画像を生成する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記画像生成部は、前記第1画像のなかに含まれる結晶粒界を表す部分を抽出するとともに、前記第2画像のなかに含まれる結晶粒界を表す部分を抽出し、
前記画像生成部は、前記第1画像と前記第2画像それぞれから抽出した結晶粒界部分を重ね合わせることにより、前記試料の結晶粒界を強調した結晶粒界画像を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記画像生成部は、前記第1画像を第1配色で生成するとともに、前記第2画像を前記第1配色とは異なる第2配色で生成し、
前記画像生成部は、前記第1画像と前記第2画像を合成することにより、前記第1配色と前記第2配色が混合された前記観察画像を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記試料を載置する試料ステージを備え、
前記試料ステージの上面は、前記荷電粒子線装置の設置面に対して平行となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
前記偏向器は、前記第1方向から前記荷電粒子線を前記試料に対して照射させる際と、前記第2方向から前記荷電粒子線を前記試料に対して照射させる際の双方において、前記荷電粒子線の光軸に対して同じ傾斜角で前記荷電粒子線が前記試料に対して入射するように前記荷電粒子線を偏向させる
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記荷電粒子線装置はさらに、前記観察画像を表示画像として画面表示する表示部を備え、
前記画像生成部は、時間間隔ごとに繰り返し前記観察画像を生成することにより、前記表示部が画面表示する前記表示画像を更新し、
前記偏向器は、前記試料に対して前記荷電粒子線が前記第1方向から照射されるように前記荷電粒子線を偏向させる第1動作と、前記試料に対して前記荷電粒子線が前記第2方向から照射されるように前記荷電粒子線を偏向させる第2動作とを、前記時間間隔ごとに少なくとも1回切り替える
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記画像生成部は、前記試料に対して前記荷電粒子線を第3方向から照射することにより得られる第3画像と、前記試料に対して前記荷電粒子線を前記第3方向とは異なる第4方向から照射することにより得られる第4画像とを、前記第1画像と前記第2画像に対して合成することにより、前記観察画像を生成する
ことを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置であって、
前記荷電粒子線を照射する荷電粒子線源、
前記荷電粒子線が前記試料に対して照射される角度を偏向させる偏向器、
前記荷電粒子線を前記試料に対して照射することにより前記試料から反射される反射電子を検出してその強度を表す検出信号を出力する検出器、
前記検出信号を用いて前記試料の観察画像を生成する画像生成部、
前記荷電粒子線装置の動作を制御する制御部、
を備え、
前記画像生成部は、前記試料に対して前記荷電粒子線を第1方向から照射することにより得られる第1画像と、前記試料に対して前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向から照射することにより得られる第2画像とを生成し、
前記制御部は、前記第1画像と前記第2画像を比較することにより、前記試料の組成を特定し、その特定結果を記述したデータを出力し、
前記制御部は、前記第1画像の画素の第1輝度値と、前記第2画像の画素の第2輝度値との間の差分に基づき、前記試料の組成を特定する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記差分が判定閾値以上である場合は、前記試料の結晶方位に起因する輝度差が生じていると判定し、
前記制御部は、前記差分が前記判定閾値未満である場合は、前記試料の組成に起因する輝度差が生じていると判定する
ことを特徴とする請求項記載の荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性試料における結晶粒の粒径や形状は、材料特性と密接に関係している。例えば金属配線において結晶粒が微細化すると、結晶粒界の増加に起因して配線抵抗が増加することや、結晶粒の形状によって強度が変化することが知られている。そのため、結晶粒の状態を正確に把握することは、材料特性を知る上で重要である。
【0003】
走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて結晶粒を観察する際には、試料に電子ビームを照射することにより発生した反射電子から得られる電子チャンネリングコントラスト(Electron Channeling Contrast:ECC)観察が広く用いられている。ECC観察によって得られたコントラストは結晶方位に起因しているので、結晶粒の形状や転位などの結晶欠陥を観察することができる。
【0004】
ECC観察以外に結晶粒を把握する方法としては、後方散乱電子回折(Electron BackScatter Diffraction:EBSD)法がある。EBSD法は原理上、測定時間が長く、試料を70度傾斜する必要があるので、スループットが悪い。また高額な専用検出器を用いる必要がある。
【0005】
下記特許文献1は、試料から発生した信号によって、試料内部構造の3次元位置関係や密度分布を正確に特定する手法について開示している。その際に、試料もしくは電子ビームを傾斜させて信号を得ている。下記特許文献2は、強誘電体などのドメイン観察において、導電性膜の蒸着膜厚や観察条件を最適化することによりECCを最適化し、汎用性高くドメイン観察することができる手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−103387号公報
【特許文献2】特開2010−197269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ECC観察によって結晶粒の粒径や形状を把握することができるが、結晶方位によっては、隣り合う結晶粒のECCが低くなり、結晶粒を見落とす可能性がある。したがって正確に結晶粒を把握するためには、加速電圧や試料傾斜角度などのSEM条件を変更することにより電子の回折条件を変化させ、複数の異なるECC像を得る必要がある。具体的には、同一視野において複数のECC像を取得し、得られたECC像を比較する。
【0008】
SEM条件を変更した場合(例えば加速電圧を変更する)、試料に対する電子ビームの入射深さが変化するので、反射電子の発生深さが変化し、ECC像から得られる粒径が変化してしまう。また光学条件も変更されるので、観察位置のずれなども発生する。試料傾斜角度を変更した場合は、観察位置のずれや傾斜による倍率変化を補正する必要があり、精度が低下する可能性が懸念される。またステージを移動させる必要があるので、スループットも低下する。
【0009】
上記特許文献1は、試料の内部構造を特定する手法を記載しているが、試料表面における結晶粒の構成を特定することについては記載していない。上記特許文献2が記載している手法は、上述のようにスループットが低いことに加え、隣り合うドメインの画像コントラストが低く結晶粒を正確に把握することが困難である場合がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、試料に対して荷電粒子線を照射することにより前記試料を観察する荷電粒子線装置において、結晶性試料の結晶粒を正確に把握することができる技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る荷電粒子線装置は、記試料に対して荷電粒子線を第1方向から照射することにより得られる第1画像と、前記試料に対して前記荷電粒子線を前記第1方向とは異なる第2方向から照射することにより得られる第2画像とを用いて、結晶粒を把握する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る荷電粒子線装置によれば、結晶性試料において正確に結晶粒を把握することができる。上記した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る走査電子顕微鏡100の構成図である。
図2】ECC像の例を示す模式図である。
図3】配色した上で合成した合成像203の例である。
図4】結晶粒界抽出像の例である。
図5】EBSDによる分析結果である。
図6】電子ビーム2の走査方向を90度変更した後に取得した、ECC像204と205の例である。
図7】ニッケル合金上に炭素の異物703が存在する個所について取得したECC像の例を示す模式図である。
図8】コンピュータ27が試料11の構成を解析する手順を説明するフローチャートである。
図9図2で示した模式図の、類似個所における観察例である。
図10図7で示した模式図の類似個所における観察例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る走査電子顕微鏡100の構成図である。走査電子顕微鏡100は、試料11に対して電子ビーム2を照射することにより試料11の観察画像を取得する装置である。走査電子顕微鏡100は、電子顕微鏡本体70、制御部80、入出力部90を備える。
【0015】
高圧電源制御回路19は、電子銃1に対して高電圧を印加する。電子銃1は、高電圧が印加されると電子ビーム2を出射する。電子銃1から発生した電子ビーム2は、集束レンズ3と対物レンズ6によって、試料11に微小スポットとして集束するように照射される。集束レンズ制御回路20は集束レンズ3を制御し、対物レンズ制御回路23は対物レンズ6を制御する。
【0016】
電子ビーム2は、上段と下段の走査コイル4によって、試料11上において2次元的に走査される。走査コイル制御回路21は、走査コイル4を制御する。走査コイル制御回路21は、ライン走査を繰り返す。すなわち、ある位置から+X方向に走査した後、ある位置から1画素−Y方向にずれ、また+X方向に走査することを繰り返す。さらに、傾斜コイル5と焦点調整コイル7を併せて用いることにより電子ビーム2を傾斜させて、第1方向9や第2方向10から試料11に対して入射させることができる。傾斜コイル制御回路22は、傾斜コイル5を制御する。焦点調整コイル制御回路24は、焦点調整コイル7を制御する。
【0017】
ここでいう第1方向9と第2方向10は、試料11を載置している平面上における方向のことである。同平面に対する電子ビーム2の傾斜角(または電子ビーム2の光軸に対する傾斜角)は、第1方向9と第2方向10いずれにおいても同一である。
【0018】
コンピュータ27は、電子ビーム2の走査タイミングを制御する。1ラインごとに、傾斜なし/第1方向9/第2方向10を順次照射することにより、それぞれの入射方向に対応する観察画像を得ることができる。各制御回路は、これら3種類のビームから生成される3種類の観察画像を人間が目視しても違和感がない程度の時間間隔で、これら3種類のビームを切り替えることができる。例えば約1秒以下の時間間隔内でこれら3種類のビーム全てを同じ走査位置に対して照射することができる。
【0019】
試料11は、試料ステージ12に固定されている。試料ステージ12の上面(試料載置面)は、走査電子顕微鏡100の設置面に対して平行になるように構成することができる。試料ステージ12は、XYZ方向に試料11を移動させ、試料載置面を回転・傾斜させることができる。試料ステージ制御回路26は、試料ステージ12を制御する。
【0020】
試料11に対して電子ビーム2が照射されると、2次電子14、反射電子13、X線15が発生し、それぞれ2次電子検出器17、反射電子検出器16、X線検出器18によって検出される。2次電子検出器17と反射電子検出器16が検出した信号は、信号入力回路25を介してコンピュータ27に取り込まれる。コンピュータ27は、表示装置28上で試料11の観察画像を表示する。第1方向9と第2方向10によって得られた観察画像を画像メモリ29に記憶し、後述するようにこれら画像を合成して表示装置28上に表示することもできる。
【0021】
コンピュータ27は、高圧電源制御回路19、集束レンズ制御回路20、走査コイル制御回路21、傾斜コイル制御回路22、対物レンズ制御回路23、焦点調整コイル制御回路24、信号入力回路25、試料ステージ制御回路26などに接続され、これらを統括的に制御する。コンピュータ27には、キーボード、マウス、トラックボール、フォーカス倍率を変更する制御パネルなどの入力装置30が接続されている。ユーザは入力装置30を介して、観察画像の取得条件を設定することができる。
【0022】
X線検出器18が検出した信号は、元素分析用コンピュータ31に送られる。元素分析用コンピュータ31は、その信号を用いて試料11の構成元素を特定する。元素分析用コンピュータ31は、コンピュータ27と接続されており、高圧電源制御回路19などをコンピュータ27と同様に制御することができる。元素分析用コンピュータ31はさらに、試料11の観察画像を取り込み、同一視野の元素分析や画像解析を実施することもできる。
【0023】
図2は、ECC像の例を示す模式図である。ここでは結晶性試料であるニッケル合金を試料11として用いた。ECC像201は、第1方向9から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。ECC像202は、第2方向10から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。各ECC像において、点線部分の結晶粒界が不鮮明になっている。これは、第1方向9と第2方向10は電子ビーム2が試料11に対して入射する角度が異なるので、電子の回折条件が変化し、その結果として反射電子の発生量がECC像ごとに異なることに起因する。
【0024】
コンピュータ27は、ECC像201と202を合成することにより、合成像203を生成する。合成像203においては、いずれかのECC像上で不鮮明であった結晶粒界部分を他方の鮮明な結晶粒界部分によって補うことにより、画像全体にわたって鮮明な結晶粒界画像が得られている。したがって、ECC像を比較することなく、単一の合成像203をもって結晶粒を把握することができる。
【0025】
図3は、配色した上で合成した合成像203の例である。コンピュータ27は、例えばECC像201については赤色成分のみを有する画像として生成し、ECC像202については青色成分のみを有する画像として生成することができる。これらECC像を合成することにより、赤配色と青配色が混合した合成像203を得ることができる。その他の配色を用いてもよい。複数の配色を合成することにより、ユーザは結晶粒界をより鮮明に認識することができる。
【0026】
図4は、結晶粒界抽出像の例である。コンピュータ27は、ECC像201と202からそれぞれ結晶粒界を抽出し、抽出した結晶粒界を例えばパターンマッチングなどの手法で重ね合わせることにより、図4に例示するような結晶粒界抽出像を生成することができる。
【0027】
コンピュータ27は、ECC像201と202が画像メモリ29内に格納されるのと同時に合成像203や結晶粒界抽出像を生成してもよいし、ECC像201と202をいったん作成した後、オフライン処理によりこれら画像を作成してもよい。第1方向9において照射される電子ビーム2と第2方向10において照射される電子ビーム2が、それぞれ試料11の異なる部分に対して照射される場合もある。この場合は、傾斜コイル5によって照射方向を補正してもよいし、いったんECC像を取得した後にパターンマッチングなどによって対応する領域を重ね合わせてもよい。
【0028】
図5は、EBSDによる分析結果である。比較のため図3と同じ合成像を図5上段に示した。図5下段は同じ視野領域におけるEBSD分析結果である。合成像はEBSDによる分析結果と同等の結晶粒界を得ていることが分かる。
【0029】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る走査電子顕微鏡100は、第1方向9から電子ビーム2を照射することによりECC像201を生成し、第2方向10から電子ビーム2を照射することによりECC像202を生成し、これらを合成することにより合成像203を得る。これにより、電子ビーム2の入射方向に起因する電子チャネリングコントラストの違いを各ECC像によって補うことができるので、結晶性の試料11の結晶粒界を正確に特定することができる。
【0030】
本実施形態1に係る走査電子顕微鏡100は、ごく短い時間間隔のなかで第1方向9と第2方向10を切り替える。これにより、ほぼリアルタイムで合成像203を得ることができるので、ユーザは結晶粒界を最もよく特定することができる最適な観察条件を効率的に探索することができる。
【0031】
<実施の形態2>
走査コイル制御回路21(および走査コイル4)は、電子ビーム2を走査する方向を任意角度(例えば90°)回転させることにより、走査方向を変更することもできる。この機能はラスターローテーションなどと呼ばれている。本発明の実施形態2では、変更後の走査方向において取得したECC像を用いる動作例について説明する。走査電子顕微鏡100の構成は実施形態1と同様である。
【0032】
図6は、電子ビーム2の走査方向を90度変更した後に取得した、ECC像204と205の例である。後述する図9と方向を合わせるため、画像を−90度回転させている。図6によれば、図9と異なるECC像が得られていることがわかる。これは走査方向を回転させることにより、電子ビーム2が試料11に対して入射する方向が、第1方向9と第2方向10それぞれから90度回転していることによる。
【0033】
ECC像201と202に加えてECC像204と205を合成することにより、結晶粒をさらに正確かつ詳細に分析することができる。また90度以外の角度で走査方向を回転させてもよい。さらには、ECC像204、205と同様の画像を、複数の走査方向においてそれぞれ取得した上で合成してもよい。
【0034】
<実施の形態3>
ECCは試料11の結晶構造に応じて生じるので、電子ビーム2の入射方向に依拠して変化する。他方で試料11の各部分における組成の違いにより、観察画像の輝度値が他の部分とは異なる場合もある。これらはいずれも観察画像上の画素の輝度値の違いとして現れるので、その輝度値の違いが結晶構造によって生じたのか、それとも組成の違いによって生じたのかを区別するのは、一般に困難である。本発明の実施形態3では、これらの違いを区別する手法について説明する。走査電子顕微鏡100の構成は実施形態1と同様である。
【0035】
図7は、ニッケル合金上に炭素の異物703が存在する個所について取得したECC像の例を示す模式図である。ECC像701は第1方向9において取得したものであり、ECC像702は第2方向10において取得したものである。ECC像702においては、点線に示すように結晶粒界の輝度値が低下して不鮮明になっているが、異物703の輝度値はECC像701と702においてほとんど変化していない。これは、ECCが電子ビーム2の入射方向に依拠するのに対して、組成に起因する輝度値は入射方向に対する依存度が小さいからである。本実施形態3では、このことを利用して、輝度値の変化が組成に起因するのかそれとも結晶構造に起因するのかを区別する。
【0036】
例えば鉄に対して加速電圧30kVの電子ビームを入射した場合、反射電子の発生率は、電子ビームの入射角度が0度(試料11に対して垂直に電子ビームが入射)において約0.3であり、電子ビーム2を光軸に対して50度傾けても約0.4である。入射角度に代えて入射方向を変更した場合であっても、同様の傾向がある。このことは、組成の違いに起因する輝度値は電子ビーム2の入射方向や入射角度による影響が少ないことを示している。
【0037】
そこでコンピュータ27は、ECC像701と702との間で輝度値が所定閾値(例えば相対比5%)以上異なる領域についてはその輝度差がECCによって生じたものであり、輝度値の差分が所定閾値未満である領域についてはその輝度差が組成に起因して生じたと判断する。これにより、ECCと組成コントラストを区別することができる。すなわち、輝度差の発生要因が結晶方位によるのか、それとも組成によるのかを判断することができる。
【0038】
図8は、コンピュータ27が試料11の構成を解析する手順を説明するフローチャートである。以下図8の各ステップについて説明する。
【0039】
図8:ステップS801)
オペレータは入力装置30を介して、分析範囲や加速電圧などの分析条件を入力する。コンピュータ27はその分析条件指定を受け取る。
【0040】
図8:ステップS802)
オペレータは入力装置30を介して、試料11が結晶性試料であるか否かを指定する。コンピュータ27はその指定を受け取る。試料11が結晶性試料である場合はステップS803へ進み、結晶性試料でなければステップS806へ進む。本ステップは、試料11が非結晶性試料である場合において、ステップS803〜S805を省略するために設けたものである。したがってこれらのステップを省略する必要がなければ、本ステップも必要ない。
【0041】
図8:ステップS803)
コンピュータ27は、第1方向9と第2方向10それぞれにおける観察画像を取得し、その観察画像から結晶粒子を抽出する。
【0042】
図8:ステップS804)
オペレータは入力装置30を介して、解析の目的が試料11の組成コントラストを抽出することであるのか、それ以外(すなわち結晶粒を抽出する)を目的とするのかを選択する。組成コントラストを抽出することが目的である場合はステップS805へ進み、それ以外であればステップS807へ進む。
【0043】
図8:ステップS805)
コンピュータ27は、ステップS803において取得した2つ観察画像間で輝度値の差分が所定閾値未満である箇所を抽出する。電子ビーム2の入射方向を変えても輝度値が変化しない箇所は、試料11の組成を表している箇所であると推定することができる。
【0044】
図8:ステップS806)
コンピュータ27は、電子ビーム2を試料11に対して垂直に入射することにより、観察画像を取得する。あるいは第1方向9と第2方向10それぞれにおいて観察画像を取得し、これらを合成してもよい。本ステップの後はステップS808へスキップする。
【0045】
図8:ステップS807)
コンピュータ27は、ステップS803において取得した2つ観察画像間で輝度値の差分が所定閾値(ステップS805の閾値と同じ)以上である箇所を抽出する。電子ビーム2の入射方向を変えることにより輝度値が大きく変化する場合、その輝度値変化はECC(すなわち結晶方位に起因する輝度値変化)であると推定できる。本ステップの後はステップS808へ進む。
【0046】
図8:ステップS808)
コンピュータ27は、ステップS805〜S807において取得した画像を用いて、粒子の形状認識やその粒子の元素分析などの粒子特定を実施する。ステップS805やS807において、組成コントラストのみまたはECCのみを抽出しているので、本ステップにおいて粒子や結晶を正確に解析することができる。
【0047】
図8:ステップS809〜S810)
オペレータは入力装置30を介して、粒子解析を終了するか否かを選択する(S809)。終了しない場合は次の視野に移動し、ステップS802に戻る(S810)。解析を終了する場合は本フローチャートを終了する。
【0048】
<実施の形態3:まとめ>
一般にECCと組成コントラストを区別するためには、(a)形状などから経験的に判断する、(b)元素分析やEBSD分析を実施する、(c)試料11を傾斜させることにより電子ビーム2の回折条件を変更して複数枚の画像を取得し、これらを比較する、などの方法を用いる。しかしいずれの方法においても、以下に説明するようにスループットが低いなどのデメリットが生じる。
【0049】
ECCと組成コントラストを区別することは、特に粒子解析において重要となる。粒子解析は、画像から介在物や不純物などの粒子を抽出し、その形状、個数、組成を特定する分析手法である。結晶性試料において粒子解析を実施すると、ECCによる結晶粒を介在物などの粒子として抽出してしまう場合がある。一般に粒子解析はコンピュータによって自動的に実施されるので、粒子解析の過程において目視確認により組成コントラストとECCを経験的に判断することはできない。粒子解析中に試料11を傾斜させることにより電子ビーム2の回折条件を変更する方法や、EBSD分析は、精度やスループットの観点からデメリットがある。元素分析を用いる場合は、元素種別を特定することはできるものの、元素を特定した箇所が結晶粒なのか、それとも同一組成の粒子なのかを判断することができない。
【0050】
本実施形態3に係る走査電子顕微鏡100は、電子ビーム2の入射方向を偏向させて複数の観察画像を取得することにより、組成コントラストとECCを区別するので、効率的に試料11を解析することができる。例えば、第1方向9と第2方向10の間で輝度値が閾値以上変化した箇所を解析対象から除外することができる。さらには、輝度値が所定閾値以上変化した箇所のみを抽出し、その箇所に対して粒子解析を実施することにより、結晶粒分布を把握することができる。
【0051】
<実施の形態4>
図9は、図2で示した模式図の、類似個所における観察例である。試料11は、図2と同じくニッケル合金を用いた。ECC像206は、第1方向9から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。ECC像207は、第2方向10から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。ECC像206においては、矢印部の結晶粒を把握できるが、ECC像207においては、矢印部の結晶粒を把握できない。一方、ECC像206においては、矢頭部の結晶粒を把握できないが、ECC像207においては、矢頭部の結晶粒を把握できる。このように実際の観察においても、反射電子の発生量がECC像ごとに異なることを確認できる。
【0052】
図10は、図7で示した模式図の類似個所における観察例である。図7と同じくニッケル合金上に炭素の異物706が存在する個所について、ECC像を取得した。ECC像704は、第1方向9から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。ECC像705は、第2方向10から電子ビーム2を照射することにより取得した観察画像である。ECC像705においては、矢印部に示すように、結晶粒界の輝度値が低下しているが、異物706の輝度値は、ECC像704と705との間でほとんど変化していない。このように実際の観察においても、組成と結晶構造のどちらに起因するかにより、輝度値の変化がことなることを確認できる。
【0053】
<本発明の変形例について>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換える事が可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について他の構成の追加・削除・置換をすることができる。
【0054】
第1方向9において取得した観察画像と第2方向10において取得した観察画像を切り替えながら、試料11の凹凸によって発生する電子ビーム2の光路差を利用してアナグリフ画像を生成し、試料11の表面の3D画像を観察する機能は、ライブステレオ機能と呼ばれる。この機能は、2次電子14を用いて試料11の表面形状を観察するものであるので、本発明に係る手法と併用することができる。例えば、試料11の平坦部分の結晶粒を観察するために本発明に係る手法を用い、凹凸部分の3次元形状を観察するためにライブステレオ機能を用いることができる。
【0055】
本発明に係る手法は、結晶歪や結晶欠陥観察などのような、微小の結晶方位変化を検出するために用いることもできる。特に金属やInGaNなどの半導体において、微細な方位変化や結晶欠陥の個数は、試料特性に大きく起因する。特に結晶歪や結晶欠陥のコントラストは、電子の回折条件によっては、観察できない場合が多く存在する。したがって、簡便に方位変化を把握できる本発明の手法は、有用であると考えられる。
【0056】
本発明の手法は、導電性が乏しくチャージアップ現象が発生しやすい試料や、電子ビームによって試料形態が変化してしまう試料(例えば真珠やカタツムリの殻などの生体試料)に対して用いることもできる。EBSD分析は、スループットが低く高額装置が必要であることに加え、高加速電圧の電子ビームを多量に照射する必要があるので、チャージアップ現象や試料ダメージが発生しやすいというデメリットがある。特に絶面物にモールドされた金属やカタツムリの殻などの生体試料において、その現象は顕著である。本発明の手法は、一般的にECC像が観察される条件で使用できるので、EBSD分析のような高加速大電流条件を用いる必要がない。したがって、チャージアップ現象や電子ビームダメージを抑制しやすい。
【0057】
以上の実施形態において、コンピュータ27は解析結果を表示装置28上に画像として表示することを説明したが、その他の出力形式を用いることもできる。例えば結晶粒界の位置を記述したデータを記憶装置や通信ネットワークなどの適当な媒体に対して出力したり、プリンターやカメラなどで紙などの媒体に出力や印刷したりすることができる。あるいは組成コントラストとECCのいずれであると判定したのかを記述したデータを、その判定箇所の座標とともに出力することもできる。その他適当な出力形式を用いてもよい。
【0058】
以上の実施形態においては、走査電子顕微鏡100を荷電粒子線装置の例として説明したが、その他タイプの荷電粒子線装置においても、本発明と同様の手法を適用することにより、結晶性試料の結晶粒界を正確に特定することができる。
【符号の説明】
【0059】
1:電子銃
2:電子ビーム
3:集束レンズ
4:走査コイル
5:傾斜コイル
6:対物レンズ
7:焦点調整コイル
8:反射電子検出器
9:第1方向
10:第2方向
11:試料
12:試料ステージ
13:反射電子
14:2次電子
15:X線
16:反射電子検出器
17:2次電子検出器
18:X線検出器
19:高圧電源制御回路
20:集束レンズ制御回路
21:走査コイル制御回路
22:傾斜コイル制御回路
23:対物レンズ制御回路
24:焦点調整コイル制御回路
25:信号入力回路
26:試料ステージ制御回路
27:コンピュータ
28:表示装置
29:画像メモリ
30:入力装置
31:元素分析用コンピュータ
70:電子顕微鏡本体
80:制御部
90:入出力部
100:走査電子顕微鏡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10