【文献】
KUWAHARA A. et al.,Nat. Commun.,2015年 2月,No.6:6286,p.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、大量の細胞塊から目視で連続上皮構造を検出するには時間と労力とがかかるという課題があった。そのため、細胞塊から連続上皮構造を自動的に検出する方法が切望されていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、細胞塊から連続上皮構造等の特定の領域を自動的に検出することができる領域検出方法及び領域検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態に係る領域検出方法は、領域検出装置の動作方法である領域検出方法であって、細胞塊を撮像した画像を入力する入力ステップと、入力ステップにおいて入力された画像から、細胞塊の輪郭を、当該輪郭に沿った順番と共に検出する輪郭検出ステップと、輪郭検出ステップにおいて検出された輪郭及び順番に基づいて、細胞塊に含まれる特定の領域を検出する領域検出ステップと、領域検出ステップにおいて検出された領域を示す情報を出力する出力ステップと、を含む。
【0009】
本発明の一実施形態に係る領域検出方法では、画像から検出された細胞塊の輪郭及び順番に基づいて特定の領域が検出される。従って、本発明の一実施形態に係る領域検出方法によれば、細胞塊の輪郭に沿った連続上皮構造等の特定の領域を自動的に検出することができる。
【0010】
輪郭検出ステップにおいて、画像に対して輪郭追跡処理を行って細胞塊の輪郭を検出することとしてもよい。更に、輪郭検出ステップにおいて、画像に対して輪郭追跡処理の前に平滑化処理を行うこととしてもよい。この構成によれば、細胞塊の輪郭及び順番を確実かつ適切に検出することができる。
【0011】
領域検出ステップにおいて、画像における輪郭から細胞塊に向かう方向の画素の輝度値に基づいて特定の領域を検出することとしてもよい。また、領域検出ステップにおいて、画像における輪郭の形状に基づいて特定の領域を検出することとしてもよい。より具体的には、領域検出ステップにおいて、画像における輪郭の形状が、輪郭を構成する各画素についての輪郭接線方向の曲率として表現され、当該曲率に基づき前記特定の領域を検出することとしてもよい。この構成によれば、特定の領域を適切に検出することができる。
【0012】
また、特定の領域が、連続上皮構造の領域であることとしてもよい。この構成によれば、連続上皮構造の領域を自動的に検出することができる。
【0013】
また、細胞塊が、網膜組織を含むこととしてもよい。この構成によれば、網膜組織を含む細胞塊から特定の領域を自動的に検出することができる。
【0014】
ところで、本発明は、上記のように領域検出方法の発明として記述できる他に、以下のように領域検出装置の発明としても記述することができる。これはカテゴリが異なるだけで、実質的に同一の発明であり、同様の作用及び効果を奏する。
【0015】
即ち、本発明の一実施形態に係る領域検出装置は、細胞塊を撮像した画像を入力する入力手段と、入力手段によって入力された画像において、細胞塊の輪郭を、当該輪郭に沿った順番と共に検出する輪郭検出手段と、輪郭検出手段によって検出された輪郭及び順番に基づいて、細胞塊に含まれる特定の領域を検出する領域検出手段と、領域検出手段によって検出された領域を示す情報を出力する出力手段と、を備える。
【0016】
即ち、本発明の一実施形態は以下に関する。
[1]領域検出装置の動作方法である領域検出方法であって、
細胞塊を撮像した画像を入力する入力ステップと、
前記入力ステップにおいて入力された画像から、前記細胞塊の輪郭を、当該輪郭に沿った順番と共に検出する輪郭検出ステップと、
前記輪郭検出ステップにおいて検出された輪郭及び順番に基づいて、前記細胞塊に含まれる特定の領域を検出する領域検出ステップと、
前記領域検出ステップにおいて検出された領域を示す情報を出力する出力ステップと、
を含む領域検出方法。
[2]前記輪郭検出ステップにおいて、前記画像に対して輪郭追跡処理を行って前記細胞塊の輪郭を検出する上記[1]に記載の領域検出方法。
[3]前記輪郭検出ステップにおいて、前記画像に対して前記輪郭追跡処理の前に平滑化処理を行う上記[2]に記載の領域検出方法。
[4]前記領域検出ステップにおいて、前記画像における前記輪郭から細胞塊に向かう方向の画素の輝度値に基づいて前記特定の領域を検出する上記[1]〜[3]の何れかに記載の領域検出方法。
[5]前記領域検出ステップにおいて、前記画像における前記輪郭の形状に基づいて前記特定の領域を検出する上記[1]〜[4]の何れかに記載の領域検出方法。
[6]前記領域検出ステップにおいて、前記画像における前記輪郭の形状が、前記輪郭を構成する各画素についての輪郭接線方向の曲率として表現され、当該曲率に基づき前記特定の領域を検出する上記[5]に記載の領域検出方法。
[7]前記特定の領域が、連続上皮構造の領域である上記[1]〜[6]の何れかに記載の領域検出方法。
[8]前記細胞塊が、網膜組織を含む上記[1]〜[7]の何れかに記載の領域検出方法。
[9]細胞塊を撮像した画像を入力する入力手段と、
前記入力手段によって入力された画像において、前記細胞塊の輪郭を、当該輪郭に沿った順番と共に検出する輪郭検出手段と、
前記輪郭検出手段によって検出された輪郭及び順番に基づいて、前記細胞塊に含まれる特定の領域を検出する領域検出手段と、
前記領域検出手段によって検出された領域を示す情報を出力する出力手段と、
を備える領域検出装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態では、画像から検出された細胞塊の輪郭及び順番に基づいて特定の領域が検出される。従って、本発明の一実施形態によれば、細胞塊の輪郭に沿った連続上皮構造等の特定の領域を自動的に検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面と共に本発明に係る領域検出装置及び領域検出方法の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図1に、本実施形態に係る領域検出装置10を示す。領域検出装置10は、細胞塊を撮像(撮影)した画像を入力して、当該画像において細胞塊に含まれる特定の領域を検出する装置である。領域検出装置10は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)やメモリ、通信モジュール等のハードウェアを備えたコンピュータである。
【0021】
例えば、領域検出装置10は、上述したように多能性幹細胞から形成された細胞塊を撮像した画像から、特定の領域として特定の形態的特性(形態学的特徴)を持つ組織の領域を検出する。具体的には、網膜組織を含む細胞塊から、連続上皮構造の領域を検出する。領域検出装置10による検出を行うことで、細胞塊の染色等を行うことなく、連続上皮構造を含む細胞塊、及び当該細胞塊における連続上皮構造を把握することができ、容易に連続上皮構造を細胞塊から分離精製することができる。
【0022】
本発明の一実施形態において、細胞は、発生生物学上の細胞の形態学上の区分から、上皮細胞(epithelial cell)と間葉細胞(mesenchymal cell)とを含む。上皮細胞は、細胞が先端(apical)−基底(basal)方向の極性を持つ。apical側が間腔側であることが多く、一方、basal側が基底膜(basement membrane)を持ち、細胞外マトリクス(extra-cellular matrix)に接する。上皮細胞は、apical側の接着結合(adherence junction)や密着結合(tight junction)により上皮細胞同士が強固な結合をつくり、上皮組織(epithelium)を形成できる。上皮組織とは、上皮シートともいい、単層扁平上皮、単層円柱上皮、重層扁平上皮を含む。間葉細胞は、apical−basalの極性が弱い細胞であり、接着結合・密着結合の寄与が弱く、シートを形成しにくい。間葉細胞は、生体内では細胞外マトリクスの中で星状に散在して存在することが多い。
【0023】
本発明の一実施形態において、細胞塊は、細胞が集合して形成された塊であって、細胞同士が接着している塊である。細胞凝集体、胚様体(embryoid body)、スフェア(sphere)、スフェロイド(spheroid)も細胞塊に包含される。また、本明細書において「細胞塊」は、必ずしも複数の細胞からなるものでなくてもよく、1つの細胞からなるものであってもよい。即ち、本明細書における細胞塊は、「複数の細胞からなる細胞塊(aggregate)」及び「単一細胞」を包含する。本発明の一実施形態において、細胞塊は例えば、生体外で培養可能な細胞塊、生体から切り出した組織片、浮遊培養中の細胞塊、接着培養中の細胞塊、凍結した細胞塊、単一細胞、等が挙げられる。また、本発明の一実施形態において、細胞塊は、特に、生体外で培養可能な細胞塊、浮遊培養中の細胞塊、接着培養中の細胞塊としてもよい。本発明の一実施形態において、細胞塊は、増殖細胞、非増殖細胞(増殖停止した細胞)又はその両方を含む。本発明の一実施形態において、細胞塊は、上皮細胞、間葉細胞又はその両方を含む。細胞塊の中で上皮細胞、間葉細胞又はその両方が集合すると、細胞同士が結合して、組織をつくる。組織は、形態的特性を持つ。形態的特性とは、細胞の種類、細胞の配向、細胞生物学的な性質、細胞の物理的な性質、細胞の力学的な性質、組織が持つ細胞外基質の形質等によって制御される(決まる)。特定の形態的特性を持つ細胞塊の組織として、例えば、上皮組織、間葉組織、ロゼット、管腔構造及び連続上皮組織等が挙げられる。
【0024】
本発明の一実施形態において、連続上皮構造とは、上皮組織が連続している状態のことである。上皮組織が連続しているとは、例えば、接線方向に10細胞〜10000000細胞、並んでいる状態のことである。また、上皮組織が連続しているとは、特に、接線方向に30細胞〜10000000細胞、並んでいる状態のこととしてもよい。更には、上皮組織が連続しているとは、特に、接線方向に100細胞〜10000000細胞、並んでいる状態のこととしてもよい。上皮細胞が連続しているかどうかは、apical面のマーカーであるatypical-PKC、E-cadherin、N-cadherinの免疫染色、又は細胞核の染色(DAPI染色、PI染色、Hoechst染色、又は細胞核に局在するマーカータンパク(Rx、Chx10、Ki67、Crx等)の染色等が挙げられる)にて判別できる。連続上皮構造としては、動物の生体内の上皮組織、例えば、神経上皮構造、表皮上皮構造、腸上皮構造、肝細胞上皮構造等が挙げられる。動物の生体外にて培養した細胞も連続上皮構造を形成できる。動物の生体外にて培養できる連続上皮構造を持つ細胞塊としては、神経組織、表皮組織、腸上皮組織、肝臓組織等が挙げられる。神経組織の一例として、網膜組織(立体網膜を含む)が挙げられる。網膜組織は、公知の方法(例えば、非特許文献1及び2に記載の方法)にて作製することができる。
【0025】
本発明の一実施形態において、上皮組織に対する接線方向とは、上皮組織において一つ一つの細胞が一定方向に並んでいる場合の細胞が並んでいる方向のことをいい、上皮組織(又は上皮シート)に対して平行方向又は横方向のことをいう。本発明の一実施形態において、上皮組織に対する垂直方向とは、上皮組織において一つ一つの細胞が一定方向に並んでいる場合の細胞が並んでいる方向に直交する方向のことをいい、上皮組織(又は上皮シート)に対して垂直方向又は縦方向のことをいう。
【0026】
本発明の一実施形態における「網膜組織」とは、生体網膜において各網膜層を構成する視細胞、視細胞前駆細胞、桿体視細胞、錐体視細胞、介在神経細胞、水平細胞、双極細胞、アマクリン細胞、網膜神経節細胞(神経節細胞)、網膜色素上皮細胞(RPE)、毛様体周縁部細胞、これらの前駆細胞、又は網膜前駆細胞等の細胞が、一種類又は少なくとも複数種類、層状で立体的に配列した組織を意味する。それぞれの細胞が何れの網膜層を構成する細胞であるかは、公知の方法、例えば細胞マーカーの発現有無又はその程度等により確認できる。
【0027】
細胞塊に含まれる連続上皮構造は、明視野像において、形態的に下記の特徴を有する。
特徴1:細胞塊の外周に近い部分(表層)の輝度値が明るく(大きく)、細胞塊の表層から一定の深さの内部(細胞深層)の輝度値が小さいこと。
特徴2:細胞塊の輪郭がなめらかであること(即ち、曲率の変化量が少ないこと)。
特徴3:特徴1及び特徴2の形態上の特徴が、凝集体の接線方向に連続していること。
本特徴は、本発明者が見出し、本発明の基礎となる知見である。
【0028】
引き続いて、本実施形態に係る領域検出装置10の機能について説明する。
図1に示すように領域検出装置10は、入力部11と、輪郭検出部12と、領域検出部13と、出力部14とを備えて構成される。
【0029】
入力部11は、細胞塊を撮像した画像を入力する入力手段である。細胞塊を撮像した画像としては、例えば、明視野像、暗視野像、位相差像、ホフマン干渉像又は微分干渉像を用いることができ、特に限定されない。また、当該画像として、特に、位相差像、ホフマン干渉像又は微分干渉像を用いることとしてもよい。更には、当該画像として、特に、位相差像を用いることとしてもよい。当該画像としては、上記以外のもの、例えば、蛍光像も用いることができる。当該画像としては、少なくとも細胞塊の輪郭の一部が写っているものを用いる。また、特に、細胞塊の輪郭全てが写っている画像を用いることとしてもよい。また、特に、画像の背景の色は、細胞塊と明確に区別可能な色であることとしてもよい。
【0030】
画像を撮像する(取得する)撮像装置としては、顕微鏡を用いることができる。例えば、光学顕微鏡、倒立顕微鏡、正立顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡、スピニングディスク型共焦点顕微鏡、実体顕微鏡又はズーム顕微鏡等を用いることができる。0.3mm〜3mm程度の大きさの細胞塊の画像を撮像する装置としては、特に、倒立顕微鏡又は実体顕微鏡を用いることとしてもよい。例えば、位相差像を用いる場合には位相差顕微鏡、微分干渉像を用いる場合には微分干渉顕微鏡、ホフマン干渉像を用いる場合には倒立顕微鏡又は正立顕微鏡、蛍光像を用いる場合には蛍光顕微鏡を用いる。また、顕微鏡以外の撮像装置、例えば、カメラを用いることとしてもよい。入力部11に入力される画像は、例えば、
図2(a)〜(c)及び
図3〜
図8(a)に示されるような画像である。
【0031】
領域検出装置10は、例えば、
図1に示すように顕微鏡20と互いに情報の送受信が行えるように接続されている。入力部11は、顕微鏡20によって撮像されて得られた画像を顕微鏡20から受信して当該画像を入力する。また、入力部11は、上記以外の任意の方法、例えば、領域検出装置10のユーザの操作等によって予め領域検出装置10に記憶された画像を読み出して、画像を入力することとしてもよい。入力部11は、入力した画像を輪郭検出部12に出力する。
【0032】
輪郭検出部12は、入力部11によって入力された画像から、細胞塊の輪郭を、当該輪郭に沿った順番と共に検出(抽出)する、即ち、輪郭抽出処理を行う輪郭検出手段である。ここで 、本発明の一実施形態における輪郭とは、背景領域と細胞塊との境界を意味する。輪郭に沿った順番は、細胞塊の輪郭を示す特定画素を始点として、細胞塊の輪郭を示す画素の位置座標を時計回り又は反時計回りの順に区別可能な順番であればよい。
【0033】
輪郭検出部12は、例えば、画像に対して輪郭追跡処理を行って細胞塊の輪郭を検出する。また、輪郭検出部12は、特に、画像に対して輪郭追跡処理の前に二値化処理及び平滑化処理の少なくとも何れかを行うこととしてもよい。更には、輪郭検出部12は、特に、画像に対して二値化処理、平滑化処理、輪郭追跡処理の順に処理を行うこととしてもよい。輪郭抽出処理に用いる処理は、公知の方法、例えば、コンピュータ画像処理、田村秀行、オーム社、2002年に記載された方法を用いることができる。
【0034】
二値化処理とは、画像に含まれる各画素の輝度値(画素値、色調)を、定義された二つの値の一方に置換する処理である。定義された二つの値とは、任意の二つの値が挙げられ、例えば、輝度値0と輝度値255との組み合わせや、輝度値10と輝度値100との組み合わせが挙げられるが、特に限定されない。二値化処理としては、例えば、画像全体で共通の閾値を用いる手法、画像の局所ごとに異なる閾値を用いる手法等が挙げられるが、特に限定されない。例えば、定義された二つの値が輝度値0と輝度値255との組み合わせの場合、各画素の輝度値が閾値より高い場合は輝度値255(明)に置換し、各画素の輝度値が閾値より低い場合は輝度値0(暗)に置換する手法が挙げられる。二値化処理を行うことで、画像の細胞塊が写っている部分と、背景の部分とを容易に区別することができる。例えば、上記の場合、輝度値0の画素の部分(暗領域)を細胞塊が写っている部分(細胞塊領域)とし、輝度値255の画素の部分(明領域)を背景の部分(背景領域)とする。
【0035】
平滑化処理とは、画像の輝度値の空間的な分布を滑らかにする処理である。平滑化処理としては、例えば、移動平均フィルタ、ガウシアンフィルタ、膨張・縮小処理、又はこれらを組み合わせた処理が挙げられ、特に限定されない。また、平滑化処理としては、特に、膨張・縮小処理を用いることとしてもよい。平滑化処理を行うことで、飛び地(例えば、細胞塊の輪郭の外に位置する画素)を減少させる効果、及び細胞塊の輪郭の厚さを一定厚さ以上にする効果の少なくとも何れかの効果があり、細胞塊の輪郭(即ち、暗領域と明領域との境界)をより明確にすることができる。
【0036】
なお、平滑化処理を行わずに輪郭追跡処理を行う場合、画像によっては細胞塊の輪郭の順番である画素の順番(配列)が決定できず、輪郭抽出処理が適切に行えない場合がある。平滑化処理を行うことで、任意の画像において画素の順番の決定が可能となる。
【0037】
輪郭追跡処理(又は鎖近似処理、鎖状近似処理)とは、画像に含まれる細胞塊の輪郭(二値化処理を行った場合は、暗領域と明領域との境界)を検出し、輪郭を構成する各画素の位置座標を、輪郭に沿って順に羅列する処理である。輪郭追跡処理の方法としては、例えばTeh−Chinらの方法が挙げられ、特に限定されない(Teh,C.H. and Chin, R.T.,On the Detection of Dominant Points on Digital Curve. PAMI 11 8,pp 859−872,1989)。輪郭追跡処理の方法としては、例えば、輪郭追跡計算工程を含む方法が挙げられる。輪郭追跡計算工程とは、選択した画素(中心画素と呼ぶ)を中心とする周囲の隣接画素の輝度値を、一定方向(例えば時計回り方向や反時計回り方向)に対して順に羅列し、列の順方向に対して輝度値が減少する直前の画素(隣接輪郭画素)を抽出し、抽出された画素の位置を新たな中心画素とする計算のことである。
【0038】
例えば、輪郭検出部12は、明領域(輝度値255の画素)に隣接している暗領域の画素(輝度値0の画素)を1つ(例えば、暗領域の画素のうち、X座標及びY座標が最も小さい画素)を選択し、当該画素を細胞塊の輪郭の処理開始点(即ち、最初の中心点である初期位置、
図3〜
図8(a)では「0」と表示)として、上記の輪郭追跡計算工程を行う。輪郭検出部12は、抽出される隣接輪郭画素の位置が処理開始点の位置(初期位置)と一致するまで、複数回連続して輪郭追跡計算工程を行う。輪郭検出部12は、このようにして得られた中心画素の集合を細胞塊の輪郭を示す画素とする。
【0039】
輪郭検出部12は、上記の処理によって得られた細胞塊の輪郭を示す輪郭情報を画像と共に領域検出部13に出力する。本発明の一実施形態において、輪郭情報は、「輪郭を示す画素の位置座標の集合の情報」かつ「当該画素の順番(配列)」を含む情報である。輪郭情報は、輪郭を示す画素の位置座標の輪郭に沿った順番を区別可能である。輪郭情報として、特に、輪郭を示す画素の位置座標が、輪郭に沿った順番で羅列された情報(一覧)を用いることとしてもよい。
【0040】
領域検出部13は、輪郭検出部12によって検出された輪郭及び順番に基づいて、細胞塊に含まれる特定の領域を検出(抽出)する領域検出手段である。領域検出部13は、例えば、画像における輪郭から細胞塊に向かう方向の画素の輝度値に基づいて特定の領域を検出、又は、画像における輪郭の形状に基づいて特定の領域を検出するが、これらに限定されない。例えば、画像における輪郭の形状が、輪郭を構成する各画素についての輪郭接線方向の曲率として表現され、領域検出部13は、輪郭の形状に基づく検出として、当該曲率に基づいて特定の領域を検出する。検出対象となる領域は、予め設定されている。例えば、検出対象となる領域は、上述したように連続上皮構造の領域とされる。一部の態様において、領域検出部13は、具体的には、以下のように特定の領域を検出する。
【0041】
以下において、輪郭接線方向とは、画像に含まれる細胞塊の輪郭上の任意の点において、輪郭に平行な方向である。輪郭垂直方向とは、画像に含まれる細胞塊の輪郭上の任意の点において、輪郭に垂直な方向(そのうち、輪郭から細胞塊の外に向かう方向ではなく、輪郭から細胞塊に向かう方向)である。輪郭から細胞塊に向かう方向としては、例えば輪郭に30度〜150度の方向が挙げられる。また、当該方向を、特に、輪郭に60度〜120度の方向としてもよい。更には、当該方向を、特に、輪郭に90度の方向(輪郭に垂直な方法)としてもよい。
【0042】
領域検出部13は、輪郭検出部12から入力された輪郭情報に基づき、輪郭の形状を示す値として、輪郭を構成する各画素について輪郭接線方向の曲率(輪郭曲率分布)を算出する。領域検出部13は、曲率の算出対象の画素から輪郭の順番で予め設定された距離(例えば、予め設定された画素数。特に、輪郭に沿った距離)だけ前後に離れた2つの画素を特定する。領域検出部13は、曲率の算出対象の画素及び特定した2つの画素の位置座標を通る円を算出する。領域検出部13は、当該円の半径の逆数を曲率とする。曲率の算出対象の画素に対して、三点を通る円の中心が細胞塊(凝集体)の内部側(輪郭の内側)にある場合は、曲率を正とすることができる。曲率の算出対象の画素に対して、三点を通る円の中心が細胞塊(凝集体)の外部側(輪郭の外側)にある場合は、曲率を負とすることができる。曲率の算出対象の画素と、別途選んだ2つの画素の合計3つの画素が直線上に位置する場合には、曲率として任意の適当な値(例えば0)を使ってもよい。なお、曲率の算出方法は上記に限られず、任意の方法によって算出されてもよい。
図3〜
図6(c)及び
図7,
図8(b)に輪郭を構成する各画素について算出した曲率の例のグラフを示す。当該グラフでは、横軸(x軸)が輪郭に沿った画素の位置(輪郭を直線とした場合の画素の位置)を示している。この際の方向は、時計回りである。縦軸(y軸)が曲率の値を示している。
【0043】
一方で、領域検出部13は、輪郭を構成する各画素について、輪郭垂直方向の画素の(二値化前の)輝度値を特定する。この際、領域検出部13は、輪郭の画素の順番に基づき各画素からの輪郭垂直方向を特定する。例えば、輪郭垂直方向の算出対象の画素から輪郭の順番で予め設定された距離(例えば、予め設定された画素数。特に、輪郭に沿った距離)だけ前後に離れた2つの画素を特定する。領域検出部13は、輪郭垂直方向の算出対象の画素及び特定した2つの画素の位置座標を通る円を算出する。領域検出部13は、輪郭垂直方向の算出対象の画素、及び当該円の中心を通る直線上で、かつ、凝集塊内部に向かう方向を輪郭垂直方向とする。
図3〜
図6(b)に特定した輪郭垂直方向の画素の輝度値の例を示す。
図3〜
図6(b)では、横軸(x軸)が輪郭に沿った画素の位置を示しており、縦軸(z方向、深さ方向)が輪郭を構成する画素から深さ方向の画素の輝度値を示している。
【0044】
続いて、領域検出部13は、輪郭を構成する各画素について、特定した画素の輝度値から、輪郭垂直方向の予め設定された範囲(領域)について輝度値の平均値(輝度値分布)を算出する。当該範囲は、輪郭の位置からの深さ(距離)毎に複数設けられていてもよい。例えば、深さ毎に5つの範囲を設定し、それぞれの範囲について輝度値の平均値を算出する。
図3〜
図6(d)及び
図7,
図8(c)に輪郭を構成する各画素について算出した輝度値の平均値の例のグラフを示す。当該グラフでは、横軸(x軸)が輪郭に沿った画素の位置を示しており、縦軸(z方向、深さ方向)が輝度値の平均輝度値を示している。当該グラフにおいて、「1/5」で示した値が輪郭からの深さが最も浅い範囲の平均輝度値であり、「2/5」、「3/5」、「4/5」、「5/5」の順に深い範囲の平均輝度値である。
【0045】
上記の通り、曲率及び平均輝度値は、輪郭に沿った画素の順番を用いなければ算出することができない値である。領域検出部13は、上記のように算出した曲率及び平均輝度値に基づいて、特定の領域を検出する。連続上皮構造は、細胞塊の輪郭部分に位置する組織である。そこで、連続上皮構造の領域を検出する場合には、領域検出部13は、輪郭のどの部分が連続上皮構造に相当するかを検出する。領域検出部13は、連続上皮構造の領域を検出するための条件を予め記憶しておき、当該基準に基づいて当該領域を検出する。
【0046】
例えば、領域検出部13は、輪郭上の各点(輪郭の画素の位置座標)において、以下の条件を満たすか否かを判断する。
(条件1)曲率の絶対値Cが、予め設定した閾値C1よりも小さい(例えば、C1は0.10)。
(条件2)「1/5」及び「2/5」の平均輝度値が、予め設定した閾値(例えば、700)よりも大きい。
(条件3)「3/5」及び「5/5」の平均輝度値が、予め設定した閾値(例えば、500)よりも小さい。
(条件4)当該点を含み、上記の条件1〜3を連続して満たす範囲(輪郭の長さ:L)が、予め設定した長さ(例えば、350)以上。
【0047】
領域検出部13は、上記の条件1〜4を満たす点の位置に連続上皮構造が存在すると判定する。例えば、
図2の例の場合、
図2(a)の画像における0〜aの領域、b〜cの領域、及びc〜0の領域が、連続上皮構造が存在する領域として判定される。なお、上記の閾値は、画像を撮像する条件、検出の条件等に応じて、適宜、設定することとするのがよい。また、上記の条件自体も、検出する領域に係る組織等に応じて、適宜、設定し得る。
【0048】
領域検出部13は、検出した領域を示す情報を出力部14に出力する。当該情報は、例えば、当該領域の画像上の座標を示す情報である。
【0049】
出力部14は、領域検出部13によって検出された領域を示す情報を出力する出力手段である。例えば、出力部14は、当該領域を示す情報を表示出力する。表示出力する際には、検出対象の画像において当該領域を示す情報を重畳して、どの部分が検出された領域かを分かりやすく表示することとしてもよい。この出力を参照することで、容易に連続上皮構造を細胞塊から分離精製することができる。また、情報の出力は、表示に限られず、例えば、別の装置に送信することとしてもよい。以上が、本実施形態に係る領域検出装置10の機能である。
【0050】
引き続いて、
図9のフローチャートを用いて、本実施形態に係る領域検出装置10で実行される処理(領域検出装置10の動作方法)である領域検出方法を説明する。本処理では、まず、入力部11によって、細胞塊を撮像した画像が入力される(S01、入力ステップ)。続いて、輪郭検出部12によって、当該画像から、細胞塊の輪郭が、当該輪郭に沿った順番と共に検出される(S02、輪郭検出ステップ)。続いて、領域検出部13によって、検出された輪郭及び順番に基づいて、細胞塊に含まれる特定の領域が検出される(S03、領域検出ステップ)。続いて、出力部14によって、検出された領域を示す情報が出力される(S04、出力ステップ)。以上が、本実施形態に係る領域検出装置10で実行される処理である。
【0051】
上述したように本実施形態では、画像から検出された細胞塊の輪郭及び順番に基づいて特定の領域が検出される。本実施形態で検出対象として例示した連続上皮構造は細胞塊の輪郭に沿って存在している。そのため、画像における細胞塊の輪郭は、連続上皮構造の存在に応じたものとなっている。そこで、本実施形態のように輪郭の順番を用いることで、例えば、輪郭の曲率や輪郭垂直方向の画素の輝度値を算出して特定の領域の検出に用いることができる。これにより、精緻な特定の領域の検出が可能になる。従って、本実施形態によれば、細胞塊の輪郭に沿った連続上皮構造等の特定の領域を自動的に検出することができる。
【0052】
また、本実施形態のように輪郭の検出を輪郭追跡処理によって行うこととしてもよい。更に、輪郭追跡処理の前に二値化処理及び平滑化処理の少なくとも何れかを行うこととしてもよい。この際、特に「二値化処理、平滑化処理、輪郭追跡処理の順」又は「平滑化処理、二値化処理、輪郭追跡処理の順」で処理を行うこととしてもよい。更には、特に、二値化処理、平滑化処理、輪郭追跡処理の順に処理を行うこととしてもよい。これらの構成によれば、細胞塊の輪郭及び順番を確実かつ適切に検出することができる。但し、輪郭の検出は、輪郭の順番を検出可能な方法であれば、どのような方法で行われてもよい。
【0053】
また、本実施形態のように輪郭垂直方向の画素の輝度値を用いて特定の領域の検出を行うこととしてもよい。また、画素の輝度値について、輪郭垂直方向の変化を算出して、特定の領域の検出に利用してもよい。また、輪郭の曲率といった輪郭の形状を用いて特定の領域の検出を行うこととしてもよい。これらの構成によれば、特定の領域を適切に検出することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、網膜組織を含む細胞塊から、連続上皮構造の領域を検出する例を説明したが、領域の検出元となる細胞塊は網膜組織を含むものに限られない。また、検出対象となる特定の領域も、画像における細胞塊の輪郭に影響を及ぼすものであれば、連続上皮構造に限られず任意の領域としてもよい。また、細胞塊が一つの細胞である場合には、検出対象となる特定の領域として、例えばleading edge、growth cone、接着結合、密着結合等が挙げられ、特に限定されない。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0056】
<実施例1>
本実施例では、領域の検出対象となる細胞塊自体の生成についても説明する。ヒトiPS細胞(1231A3株、京都大学より入手)を「Scientific Reports,4,3594(2014)」に記載の方法に準じてフィーダーフリー培養した。フィーダーフリー培地としてはStemFit培地(AK03、味の素社製)、フィーダーフリー足場にはLaminin511-E8(ニッピ社製)を用いた。
【0057】
具体的な維持培養操作としては、まずサブコンフレントになったヒトiPS細胞(1231A3株)を、PBSにて洗浄後、TrypLE Select(Life Technologies社製)を用いて単一細胞へ分散した。その後、上記単一細胞へ分散されたヒトiPS細胞を、Laminin511−E8にてコートしたプラスチック培養ディッシュに播種し、Y27632(10μM)存在下、StemFit培地にてフィーダーフリー培養した。プラスチック培養ディッシュとして、6ウェルプレート(イワキ社製、細胞培養用、培養面積9.4cm
2)を用いた場合、単一細胞へ分散されたヒトiPS細胞の播種細胞数は6×10
3とした。播種した1日後に、Y27632を含まないStemFit培地に交換した。以降、1日〜2日に一回Y27632を含まないStemFit培地にて培地交換した。その後、播種した6日後に、サブコンフレント(培養面積の6割が細胞に覆われる程度)になるまで培養した。
【0058】
分化誘導操作としては、ヒトiPS細胞(1231A3株)を、StemFit培地を用いて、サブコンフレント1日前になるまでフィーダーフリー培養した。当該サブコンフレント1日前のヒトiPS細胞を、SB431542(5μM)及びSAG(300nM)の存在下、1日間フィーダーフリー培養した(Precondition処理)。
【0059】
Precondition処理したヒトiPS細胞を、TrypLE Select(Life Technologies社製)を用いて細胞分散液処理し、更にピペッティング操作により単一細胞に分散した。その後、上記単一細胞に分散されたヒトiPS細胞を非細胞接着性の96穴培養プレート(PrimeSurface 96V底プレート、住友ベークライト社製)の1ウェルあたり1.2×10
4細胞になるように100μlの無血清培地に浮遊させ、37℃、5%CO
2で浮遊培養した。その際の無血清培地(gfCDM+KSR)には、F-12培地とIMDM培地の1:1混合液に10% KSR、450μM 1−モノチオグリセロール、1×Chemically defined lipid concentrateを添加した無血清培地を用いた。浮遊培養開始時(浮遊培養開始後0日目)に、無血清培地にY27632(終濃度20μM)及びSAG(終濃度30nM)を添加した。浮遊培養開始後3日目に、Y27632及びSAGを含まず、ヒト組み換えBMP4(R&D社製)を含む培地にて、外来性のヒト組み換えBMP4の終濃度が1.5nM(55ng/ml)になるように新しい上記無血清培地を50μl添加した。その後、2〜4日に一回、Y27632及びヒト組み換えBMP4を含まない上記無血清培地にて半量培地交換した。半量培地交換操作としては、培養器中の培地を体積の半分量即ち75μl廃棄し、新しい上記無血清培地を75μl加え、培地量は合計150μlとした。
【0060】
このようにして得られた浮遊培養開始後17日目の細胞凝集体を、CHIR99021(3μM)及びSU5402(5μM)を含む無血清培地(DMEM/F12培地に、1% N2 supplementが添加された培地)で3日間即ち浮遊培養開始後20日目まで培養した。
【0061】
更に、当該浮遊培養開始後20日目の細胞凝集体をWntシグナル伝達経路作用物質及びFGFシグナル伝達経路阻害物質を含まない血清培地(DMEM/F12培地に、10% 牛胎児血清、1% N2 supplement、0.5μM レチノイン酸、及び100μMタウリンが添加された培地)で、43日間即ち浮遊培養開始後63日目まで浮遊培養した。浮遊培養開始後20日目から63日目までの間、2〜4日に一回、血清培地にて半量程度を培地交換した。
【0062】
このようにして得られた浮遊培養開始後63日目の細胞塊を倒立顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE Ti)で明視野像(位相差像)を観察したところ、細胞塊が立体組織を含んでおり、その一部が連続上皮構造を含んでいた。4個の上記細胞塊を、96ウェルディッシュに入れて、倒立顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE Ti)にて、4倍の対物レンズにて、カラーCCDカメラ(DS-Ri2)にて、カラーの明視野像(位相差像)を撮像した(
図2(a)〜(c))。
【0063】
当該浮遊培養開始後63日目の細胞塊を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、凍結切片を作成した。これらの凍結切片に関し、網膜組織マーカーの1つであるRx(抗Rax抗体、Takara社、ギニアピッグ)、網膜組織マーカーの1つであるChx10(抗Chx10抗体、Exalpha社、ヒツジ)、増殖細胞マーカーの1つであるKi67(抗Ki67抗体、Leica社、ウサギ)、又はCrx(抗Crx抗体、Takara社、ウサギ)について免疫染色を行った。これらの免疫染色された切片を、共焦点レーザー型顕微鏡(Olympus社製)を用いて免疫染色像を取得した(
図2(d)〜(f))。得られた免疫染色像を解析した結果、凝集塊の外周部に上皮組織(特に神経上皮組織)が形成され、その一部に連続上皮構造が形成されていることがわかった(
図2(d),(e)の矢印部分)。
【0064】
同一の細胞塊について免疫組織染色像と明視野像を比較し、免疫組織染色解析により検出された連続上皮構造(
図2(d),(e)の矢印部分)に対応する明視野像における連続上皮構造(
図2(a),(b)の矢印部分)における特徴を調べた。その結果、細胞塊に含まれる網膜組織の連続上皮構造では、明視野像において、形態的に下記特徴1〜3を有することをつきとめた。
特徴1.細胞塊の外周に近い部分(表層)の輝度値が明るく(大きく)、細胞塊の表層から一定深さの内部(細胞深層)の輝度値が暗い(小さい)こと。
特徴2.細胞塊の輪郭がなめらかであること(即ち、曲率の変化量が少ないこと)。
特徴3.特徴1及び特徴2の形態上の特徴が、凝集体の接線方向に連続していること。
なお、上述した条件1〜4は、上記の特徴1〜3の知見に基づいて得られたものである。
【0065】
上記方法で作製した浮遊培養開始後62日目の細胞塊を位相差顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE Ti)で目視にて観察したところ、細胞塊が立体組織を含んでおり、その一部が連続上皮構造を含んでいた。上記細胞塊を、96ウェルディッシュに入れて、倒立顕微鏡(ニコン社製、ECLIPSE Ti)にて、4倍の対物レンズにて、カラーCCDカメラ(DS-Ri2)にて、カラーの明視野像(位相差像)を撮像した(
図3(a))。明視野像に含まれる細胞塊の像から、上記の連続上皮構造の形態的な特徴を有する領域の有無を調べたところ、細胞塊には連続上皮構造を含んでいることを確認できた(
図3(a))。
【0066】
本実施形態の方法により、当該明視野像から連続上皮構造の領域を検出した。なお、輪郭の検出においては、二値化処理、平滑化処理及び輪郭追跡処理を行った。また、領域検出においては、上述した条件1〜4を用いた検出を行った。
図3(b)〜(d)は、
図3(a)の画像から取得された情報である。本実施例では、上述したように、
図3(a)の画像における0〜aの領域、b〜cの領域、及びc〜0の領域が、連続上皮構造が存在する領域として判定された。また、a〜bの領域が連続上皮構造でないと判定された。
【0067】
上記から、細胞塊の画像(明視野像)を取得し、当該画像をもとに輪郭情報を取得でき、明視野像及び輪郭情報から、曲率計算操作及び輝度値深度分布計算操作により画像から細胞塊の形態特性を示す値が抽出できた。そして、得られた形態特性(曲率プロット及び輝度値深度分布プロット)より、条件1〜4により連続上皮構造の領域を検出し特定できることがわかった。なお、本実施例の場合、二値化処理した後、平滑化処理として膨張・縮小処理を行わずに、輪郭追跡処理を行った場合、一部の画像において、輪郭情報が計算できない場合があった。この様な場合でも平滑化処理を行う事により輪郭情報が計算できたため、平滑化処理と組み合わせて輪郭追跡処理を行うこととしてもよい事が判明した。
【0068】
<実施例2>
実施例1記載の方法で作製した浮遊培養開始後62日目のそれぞれ異なる3つの細胞塊を、実施例1記載の方法でカラーの明視野像(位相差像)を撮像した(
図4〜
図6(a))。この明視野像から実施例1記載の方法で目視で判定したところ、
図4の画像の細胞塊が連続上皮構造を含んでいることを確認でき、一方、
図5及び
図6の細胞塊が連続上皮構造を含んでいないことがわかった。
【0069】
本実施形態の方法(実施例1記載の方法と同様の方法)により、これらの明視野像から連続上皮構造の領域を検出した。なお、
図4〜
図6(b)〜(d)は、
図4〜
図6(a)の画像から取得された情報である。
【0070】
図4の細胞塊では、
図4(a)の画像における0〜aの領域、及びb〜cの領域が、連続上皮構造が存在する領域として判定された。また、a〜bの領域、及びc〜0の領域が連続上皮構造でないと判定された。
図5及び
図6の細胞塊では、全ての領域が連続上皮構造でないと判定された。
【0071】
即ち、様々な形態の細胞塊からも連続上皮構造の検出できるか検討したところ、本実施形態の方法を用いれば、画像として明視野像を取得し、当該画像をもとに輪郭情報を取得できた。更に、明視野像及び輪郭情報から、曲率計算操作及び輝度値深度分布計算操作により画像の形態特性が抽出できた。そして、得られた形態特性(曲率プロット及び輝度値深度分布プロット)より、条件1〜4により連続上皮構造を検出し特定できることが実証できた。
【0072】
<実施例3>
実施例1記載の方法で作製した浮遊培養開始後63日目のそれぞれ異なる2つの細胞塊を、実施例1記載の方法でカラーの明視野像(位相差像)を撮像した(
図7,
図8(a))。
【0073】
本実施形態の方法(実施例1記載の方法と同様の方法)により、これらの明視野像から連続上皮構造の領域を検出した。なお、
図7,
図8(b),(c)は、
図7,
図8(a)の画像から取得された情報である。
【0074】
図7の細胞塊では、
図7(a)の画像における0〜aの領域、及びc〜dの領域が、連続上皮構造が存在する領域として判定された。また、a〜bの領域、b〜cの領域、及びd〜0の領域が連続上皮構造でないと判定された。
図8の細胞塊では、全ての領域が連続上皮構造でないと判定された。
【0075】
本実施形態により細胞塊の明視野像から検出された領域(形態的特性)が、実際の細胞塊の特性を相関しているかを調べた。
図7,
図8(a)に示された細胞塊を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、凍結切片を作成した。これらの凍結切片に関し、網膜組織マーカーの1つであるRx(抗Rax抗体、Takara社、ギニアピッグ)、網膜組織マーカーの1つであるChx10(抗Chx10抗体、Exalpha社, ヒツジ)、増殖細胞マーカーの1つであるKi67(抗Ki67抗体、Leica社、ウサギ)、又はCrx(抗Crx抗体、Takara社、ウサギ)について免疫染色を行った。これらの免疫染色された切片から、共焦点レーザー型顕微鏡(Olympus社製)を用いて免疫染色像を取得した(
図7,
図8(d))。
【0076】
図7の細胞塊では、得られた免疫染色像を解析した結果、0〜aの領域、及びc〜dの領域が網膜組織の連続上皮構造であり、a〜bの領域、b〜cの領域、及びd〜0の領域が網膜組織の連続上皮構造でないことがわかった。同様に、
図8の細胞塊では、得られた免疫染色像を解析した結果、連続上皮構造がほとんど含まれていないことがわかった。
【0077】
これらの結果から、細胞塊の明視野像を取得し、当該明視野像を本実施形態により画像解析することで、細胞塊の形態的特性、特に連続上皮構造を検出できることを実証できた。
【0078】
本出願で言及した全ての引用特許、特許出願及び文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。