(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811541
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】口臭抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20201228BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20201228BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20201228BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
A61K8/36
A23L33/10
A61Q11/00
A61K8/365
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-59661(P2016-59661)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-171610(P2017-171610A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 聡美
(72)【発明者】
【氏名】澤▲崎▼ 理子
(72)【発明者】
【氏名】長岡 誠二
(72)【発明者】
【氏名】北條 研一
【審査官】
山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第1997/008962(WO,A1)
【文献】
特開平05−017326(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1502330(CN,A)
【文献】
特開2012−211104(JP,A)
【文献】
特開2009−173650(JP,A)
【文献】
特開2004−203872(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2014−0065220(KR,A)
【文献】
特開2015−226533(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/105113(WO,A1)
【文献】
特開平01−275522(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/140673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸を有効成分として含有してなる、口臭抑制用食品組成物であって、有機酸としてクエン酸およびクエン酸ナトリウムを含み、クエン酸ナトリウムに対するクエン酸の配合比率(固形分換算質量)が1:1〜1:3であり、かつ、クエン酸およびクエン酸ナトリウムの配合量(固形分換算基準、合計量)が3〜15質量%である食品組成物(但し、ラクトパーオキシダーゼを含む食品組成物を除く)。
【請求項2】
タブレットの形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1回摂取に適した包装形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
複数回摂取に適した包装形態である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
有機酸を固形分換算質量で1回当たりの摂取量で10mg〜2gで含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口臭抑制用組成物に関し、より詳細には、口臭抑制用の食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者のオーラルケアに対する関心は高く、そのなかでも特に口臭ケアをターゲットとした商品に関しては、歯磨や洗口液に加えて、口腔清涼菓子の市場が拡大を続けている。口臭抑制を目的とした代表的な口腔清涼菓子にはミントフレーバーやメントールなどの清涼感を付与する成分が配合されており、一時的なすっきり感・爽快感が得られ、口臭が減少したような体感が得られる商品である。
【0003】
しかし、上記のような口腔清涼菓子で得られる体感は、清涼感を付与する配合成分に起因する一過性の爽快感によるものであり、口臭を根本から解決することはできない。また、殺菌成分を含む従来型の洗口剤を使用して口腔細菌を局所的あるいは一時的に排除することができたとしても、別の部位から口腔細菌が伝播・定着する恐れがあり、加えて、殺菌剤で安定した細菌叢をかく乱することでかえって病原菌が定着しやすくなる恐れもある(非特許文献1)。すなわち、口腔内を単に殺菌するだけでは口臭を根本から解決することはできない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】光岡知足:プロバイオティクス・プレバイオティクス・バイオジェニクス, 財団法人日本ビフィズス菌センター, 2011, 263-265
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は口臭を根本的に抑制することができる口臭抑制用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
口臭の主な原因物質は、唾液や舌苔に存在するグラム陰性偏性嫌気生菌の代謝によって生じる揮発性含硫化合物であるといわれている。本発明者らは、口臭の根本的な解決には口臭原因菌をはじめとする口腔細菌叢の適切なコントロールが必要であると考えた。クエン酸は口腔内細菌に対して殺菌効果があり、その殺菌効果により口腔環境が破壊される恐れが懸念された。実際に、後記実施例に示されるとおりクエン酸摂取により口腔内細菌数や口臭原因菌の細菌数は減少したものの、ビフィドバクテリウム属細菌の細菌数は減少せず、結果として口腔環境は破壊されず、顕著な口臭抑制効果が得られた。
【0007】
すなわち、本発明者らは、クエン酸含有タブレットを被験者に摂取させることで、顕著な口臭抑制効果が得られ、口腔内細菌の総細菌数が減少すること、その口臭抑制効果がクエン酸含有タブレットの摂取後、長期間持続すること、口腔内細菌に対する抗菌活性がクエン酸以外の有機酸にも認められることなどを見出した。食品素材の摂取により長期間の口臭抑制が認められた例はこれまで報告されておらず、上記知見は本発明者らにとって驚くべきことであった。
【0008】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]有機酸を有効成分として含有してなる、口臭抑制用組成物。
[2]有機酸がクエン酸、フィチン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸、乳酸およびこれらの塩からなる群から選択される1種または2種以上である、上記[1]に記載の組成物。
[3]有機酸としてクエン酸およびクエン酸ナトリウムを含む、上記[1]または[2]に記載の組成物。
[4]クエン酸ナトリウムに対するクエン酸の配合比率(固形分換算質量)が1:0.3〜1:3である、上記[3]に記載の組成物。
[5]食品組成物である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]タブレットの形態である、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]1回摂取に適した包装形態である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]複数回摂取に適した包装形態である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の組成物。
[9]有機酸を固形分換算質量で1回当たりの摂取量で10mg〜2gで含んでなる、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の組成物。
【0009】
本発明によれば、クエン酸などの有機酸を用いて口臭抑制用組成物を提供することができる。クエン酸などの有機酸はpH調整剤や酸味料などの食品添加物として長年使用実績があり、また、安価な素材であることから、本発明の組成物は安全性やコストの観点から非常に魅力的な技術であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】例1のタブレット摂取試験の試験スケジュールを示した図である。
【
図2A】例1のタブレットAについての口臭測定の結果を示した図である。
【
図2B】例1のタブレットBについての口臭測定の結果を示した図である。
【
図2C】例1のプラセボタブレットについての口臭測定の結果を示した図である。
【
図3】例1の細菌数検査の結果を示した図である。口腔細菌の総菌数、フソバクテリウム・ヌクレアタム(
Fusobacterium nucleatum)の菌数、ベイロネラ(
Veillonella)属細菌の菌数、ビフィドバクテリウム(
Bifidobacterium)属細菌の菌数の変化を、それぞれ示す。
【
図4】例2の口臭測定の結果を示した図である。AはタブレットAの摂取群の結果を、Bはプラセボタブレットの摂取群の結果を示す。
【
図5】例3のクエン酸と他の有機酸との抗菌活性の比較結果を示した図である。
【
図6】例4のクエン酸とメントールとの抗菌活性の比較結果を示した図である。
【0011】
本発明の組成物は口臭抑制に用いられるものであり、口臭抑制剤として用いることができる。ここで、「口臭」とは、呼気に含まれている口臭成分を人が感じるものをいい、呼気と共に口腔から発せられる悪臭の総称である。該悪臭の代表成分として硫化水素やメチルメルカプタンのような揮発性含硫化合物が挙げられる。
【0012】
本発明の口臭抑制用組成物は有機酸を有効成分として含んでなるものである。本発明に使用される有機酸は食品上許容されるものであれば特に限定されず、例えば、クエン酸、フィチン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸、乳酸が挙げられる。また、本発明に使用される有機酸は塩の形態であってもよく、食品上許容される塩であれば特に限定されない。本発明に使用される有機酸の塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩や、銅塩、鉄塩、亜鉛塩、セレン酸塩、などの遷移金属塩が挙げられ、好ましい例としては、クエン酸ナトリウム、フィチン酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなどのナトリウム塩が挙げられる。
【0013】
本発明の口臭抑制用組成物の有機酸含有量(固形分換算基準)は、口臭抑制効果が発揮される限り特に限定されないが、1〜99質量%、好ましくは1〜60質量%とすることができ、口臭抑制効果の発揮と摂取時の酸味を考慮すると、1.5〜30質量%がより好ましく、特に好ましくは3〜20質量%である。
【0014】
本発明の口臭抑制用組成物は好ましい態様においてクエン酸およびクエン酸ナトリウムのいずれかまたは両方を有効成分として含むものである。この場合、クエン酸およびクエン酸ナトリウムの配合量(固形分換算基準、両方配合する場合は合計量)は、1〜99質量%、好ましくは1〜50質量%とすることができ、口臭抑制効果の発揮と摂取時の酸味を考慮すると、1.5〜25質量%がより好ましく、特に好ましくは3〜15質量%である。
【0015】
本発明の口臭抑制用組成物は摂取時の風味をより良好にする観点からクエン酸およびクエン酸ナトリウムを両方含むことが好ましく、この場合の固形分質量でのクエン酸ナトリウムに対するクエン酸の配合比率(クエン酸ナトリウム:クエン酸)は1:0.3〜1:3とすることができ、好ましくは1:1〜1:3である。
【0016】
本発明の口臭抑制用組成物は口臭抑制作用が奏される限り、その形態や形状に特に制限はなく、固形状の形態であっても、液体、半液体、ゲル状、ペースト状などの形態であってもよい。本発明の口臭抑制用組成物としては、例えば、タブレット(例えば、トローチ、チュアブル錠)、ガム、グミ、キャンディ、錠菓、飲料などの食品組成物や、可食性フィルム、歯磨剤、洗口剤、うがい剤、義歯洗浄剤、ジェル、スプレー、口腔内崩壊錠などの口腔ケア組成物が挙げられ、携帯性や口腔内滞留性の観点から、タブレット、ガム、グミ、キャンディが好ましい。本発明の口臭抑制用組成物は、その剤型に応じ、有機酸以外に任意成分としてその他の公知の添加剤を配合することができる。
【0017】
本発明の口臭抑制用組成物をタブレットとして提供する場合には、有機酸以外に、糖質、賦形剤、甘味料、酸味料、香料、着色料、保存剤、安定化剤、乳化剤、果汁粉末、ゼラチン、植物抽出物などから選択される1種または2種以上の成分を配合し、常法により製造することができる。
【0018】
有機酸は優れた口臭抑制作用を有するため、日常摂取する食品や、サプリメントとして摂取する食品に含有させて提供することもできる。すなわち、本発明の口臭抑制用組成物は食品組成物として提供することができる。本発明の口臭抑制組成物を食品組成物として提供する場合には、本発明の組成物は有効成分である有機酸を配合する以外は、当該食品の通常の製造手順に従って製造することができる。
【0019】
本発明の有効成分である有機酸を食品組成物として提供する場合には、有機酸をそのまま食品に含有させることで調製することができ、該食品組成物は有機酸を有効量含有した食品である。ここで、有機酸を「有効量含有した」とは、個々の食品において通常喫食される量を摂取した場合に所定の範囲で有機酸が摂取されるような含有量をいう。
【0020】
本発明の口臭抑制用組成物は口臭抑制に有効な1回分の摂取量の有機酸を含んでなる組成物として提供することができる。口臭抑制に有効な1回当たりの有機酸の摂取量や、1日当たりの摂取回数は、摂取者の年齢、症状、体感に依存して決定することができ、また、摂取量や摂取回数の上限は、有機酸それぞれの1日摂取許容量を考慮して決定することができる。例えば、有効成分が有機酸(特に、クエン酸および/またはクエン酸ナトリウム)である場合は以下の通りである。すなわち、口臭抑制に有効な1回分のクエン酸および/またはクエン酸ナトリウムの摂取量は固形分換算質量で10mg〜2g/回であり、好ましくは、10mg〜500mg/回、より好ましくは15mg〜250mg/回、特に好ましくは30mg〜150mg/回である。また、口臭抑制に効果的な1日当たりの有機酸の摂取回数は、1〜10回/日であり、好ましくは、1〜5回/日である。
【0021】
本発明の口臭抑制用組成物を1回分の摂取量の有機酸を含む組成物として提供する場合には、1回分の有効摂取量を摂取できるように該組成物を単位包装形態で提供することが望ましい。包装形態で提供する場合、1回分の有効摂取量が摂取できるように摂取量に関する記載が包装になされているか、または該記載がなされた文書を一緒に提供することが望ましい。また、本発明の口臭抑制用組成物は継続摂取することでより優れた口臭抑制効果を発揮することができる。例えば、1日分の有効摂取量を複数包装で提供する場合には、摂取の便宜上、1日分の有効摂取量の複数包装をセットで提供することもできる。
【0022】
本発明の口臭抑制用組成物を提供するための包装形態は一定量を規定する形態であれば特に限定されず、例えば、包装紙、包装シート、袋、ソフトバック、紙容器、缶、ボトル、カプセル、プラスチックケース、チューブ、スプレーボトルなどの収容可能な容器などが挙げられる。
【0023】
本発明の口臭抑制用組成物は、摂取者自身が体感に応じて摂取量を決め摂取することができる。従って、本発明の口臭抑制用組成物は、好ましくは、摂取者の好みに応じて摂取量を調整できる形態、すなわち、複数回摂取に適した形態で提供することができ、このような形態としては、例えば、タブレット、粉末、ガム、グミ、キャンディが挙げられる。また複数回摂取に適した包装形態としては、プラスチックケース、缶、ボトル、包装紙などが挙げられる。例えば、本発明の口臭抑制用組成物は、複数回分(例えば、10〜15回分)の摂取量を含有する複数個のタブレットとして提供することができ、この場合のタブレットは1回分摂取量を1〜複数個(例えば、1〜10個程度)で摂取できるような形態が好ましい。複数回分(例えば、10〜15回分)の摂取量のタブレットは前記のような包装形態のいずれかをとることができ、保存および携帯の利便性と摂取の容易性からプラスチックケースが好ましい。
【0024】
本発明の口臭抑制用組成物はその効果をよりよく発揮させるために、3日以上継続的に摂取させることが好ましく、投与および摂取期間はより好ましくは1〜2週間、特に好ましくは1〜4週間である。ここで、「継続的に」とは毎日決められた回数の摂取を続けることを意味する。本発明の口臭抑制用組成物を包装形態で提供する場合には、継続的摂取のために一定期間(例えば、1週間)の有効摂取量をセットで提供してもよい。
【0025】
本発明の別の面によれば、口臭抑制が必要な対象に有効量の有機酸を投与する、あるいは摂取させることを含んでなる、口臭の抑制方法が提供される。本発明の口臭抑制方法は本発明の組成物に関する記載に従って実施することができる。
【実施例】
【0026】
例1:クエン酸による口臭抑制作用および口腔細菌低減作用の確認
(1)試験食品
試験食品として、クエン酸およびクエン酸ナトリウムの含有量が異なる3種のタブレット(タブレットA、タブレットBおよびプラセボタブレット)を常法に従って製造した。各タブレット(0.9g/1粒)におけるクエン酸、クエン酸ナトリウムおよび賦形剤の含有量は表1に示す通りである。
【0027】
【表1】
【0028】
(2)試験方法
20代〜50代の成人7名(男性5名、女性2名)を被験者とし、試験食品を毎日5粒ずつ3日間噛まずに舐めて摂取させた(口腔滞留時間はおよそ3〜5分程度)。摂取タイミングは、起床後、午前中(12時以前)、昼食後、午後、夜(18時以降)の各時間帯に1粒ずつ、1日計5回とした。摂取開始日を0日目とし、摂取開始日(0日目)および摂取最終日翌日(3日目)に口臭測定および唾液中の細菌検査を行った(0日目の朝一番の時間帯で口臭を測定し、口臭を測定した直後に0日目の朝分を接取し、摂取開始とした。0日目、1日目、2日目にタブレットを摂取し、3日目の朝に口臭を測定した)。試験スケジュールを
図1に示す。なお、測定前日は、アルコール、強烈な臭いを発する飲食品または発酵食品(ネギ、ニンニク、ニラ、納豆、キムチ、ヨーグルト、チーズ等)の摂取を控え、測定当日は、絶食・絶水の状態で測定を行った。
【0029】
口臭測定は、オーラルクロマ(アビメディカル株式会社)を用いて、口腔ガス中の口臭原因物質である揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン)の濃度を測定することにより行った。
【0030】
細菌検査は、起床直後の唾液を採取し、リアルタイムPCR法により、唾液中の総菌数ならびにビフィドバクテリウム(
Bifidobacterium)属細菌、フソバクテリウム・ヌクレアタム(
Fusobacterium nucleatum)およびベイロネラ(
Veillonella)属細菌の菌数をカウントした。
【0031】
得られた結果について、摂取前(0日目)と摂取後(3日目)との間でウィルコクソンの符号順位検定を行い、危険率(p値)5%未満であった場合に差が有意であると判定した。
【0032】
(3)結果
口臭測定の結果を
図2に示す。
図2の結果から、タブレットAの摂取により硫化水素が有意に抑制され、また、メチルメルカプタンも抑制されることが分かった(
図2A)。この傾向はタブレットBにおいても確認された(
図2B)。以上のことから、クエン酸が口臭抑制作用を有することが明らかとなった。
【0033】
細菌検査の結果を
図3に示す。
図3の結果から、クエン酸タブレットの摂取により口腔細菌の総菌数や、フソバクテリウム・ヌクレアタムおよびベイロネラ属細菌のような口臭原因菌の菌数が減少するが、ビフィドバクテリウム属細菌の菌数は減少しないことが明らかとなった。
【0034】
例2:クエン酸による口臭抑制作用の持続性の確認
例1で確認された口臭抑制作用の持続性を確認するために、クエン酸含有タブレットの単回摂取試験を行った。
【0035】
(1)試験食品
試験食品として、例1で使用したタブレットAおよびプラセボタブレットを使用した。
【0036】
(2)試験方法
20代〜40代の成人3名(男性1名、女性2名)を被験者とし、経時的に口臭測定を行った。具体的には、測定日当日、午前8時30分に口臭の測定を行った後、試験食品を噛まずに舐めて摂取させ、摂取後1、30、60、90、120、150および180分後の口臭を測定した。なお、測定前日の夜は、舌清掃・洗口剤の使用を禁止し、測定当日は、飲食・歯磨きを禁止した。
【0037】
口臭測定は、オーラルクロマ(アビメディカル株式会社)を用いて、口腔ガス中の口臭原因物質である揮発性硫黄化合物(硫化水素、メチルメルカプタン)の濃度を測定することにより行った。ここで、摂取前の濃度を100%とした場合の各時点での濃度の割合を算出し、経時的推移を評価した。
【0038】
(3)結果
口臭測定の結果を
図4に示す。
図4の結果から分かるように、試験食品の摂取直後は、いずれも口臭減少が認められたが、タブレットAの摂取によれば顕著な口臭抑制作用が認められた(
図4A)。また、試験食品の摂取120分後において比較すると、プラセボタブレット摂取ではほぼ摂取前の濃度に戻ったのに対して(
図4B)、クエン酸タブレット摂取では口臭抑制が維持されており、この効果は試験食品の摂取180分後まで持続が認められた。以上のことから、クエン酸摂取による口臭抑制作用には高い持続性が認められた。
【0039】
例3:クエン酸と他の有機酸との抗菌活性の比較検討
クエン酸と、その他食品に使用される有機酸(フィチン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸、フマル酸)とで抗菌活性について比較検討を行った。
【0040】
(1)試験方法
BL寒天培地(ニッスイ社製)にて前培養した(2〜3日)口臭原因菌の1つであるフソバクテリウム・ヌクレアタム(Japan Collection of Microorganisms(JCM)より入手)を、滅菌生理食塩水にて5マクファーランド相当に懸濁し、菌液を調製した。96ウェルプレートにおいて、クエン酸、フィチン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、乳酸またはフマル酸を1または3mMで含有するBHI培地(日本BD社製)100μLに菌液を5μLずつ接種し、37℃で嫌気培養した。接種72時間後の濁度(600nm)をプレートリーダー(テカンジャパン社製)を用いて測定し、マクファーランド濁度を特定した。各種有機酸の抗菌活性を、各種有機酸のフソバクテリウム・ヌクレアタム増殖に対する阻害率(阻害率(%)=100−(72時間後の濁度(有機酸添加)/72時間後の濁度(有機酸なし)×100))として算出した。
【0041】
(2)結果
抗菌活性の比較結果を
図5に示す。
図5の結果から、いずれの有機酸も口臭原因菌に対して濃度依存的な抗菌活性が認められた。また、クエン酸とフィチン酸が特に高い抗菌活性を有することが示された。
【0042】
なお、各培地のpHを確認したところ、フィチン酸3mM含有培地はpH5.0であるが、その他の有機酸含有培地においては対照培地(BHI培地)とほぼ変わらないpHであり(データ示さず)、培地のpHは阻害率に影響を与えていないと考えられる。
【0043】
例4:クエン酸とメントールとの抗菌活性の比較検討
クエン酸と、清涼菓子に使用されるメントールとで抗菌活性について比較検討を行った。
【0044】
(1)試験方法
BL寒天培地(ニッスイ社製)で前培養した(2〜3日)フソバクテリウム・ヌクレアタム(Japan Collection of Microorganisms(JCM)より入手)を滅菌生理食塩水にて1マクファーランド相当に懸濁し、菌液を調製した。クエン酸またはメントール(三栄源エフ・エフ・アイ社製、サンフィックスメントールNo.2697FG)を0、0.6、1または1.5mg/mLで含有するように作製されたBHI寒天プレート(日本BD社製)に菌液を100μLずつ播種し、37℃で培養した(n=3)。播種72時間後のフソバクテリウム・ヌクレアタムの菌数をコロニー単位で目視でカウントした。
【0045】
(2)結果
抗菌活性の比較結果を
図6に示す。
図6の結果から、クエン酸の方がメントールよりも抗菌活性が高いことが示された。このことは、最少阻止濃度(MIC)がクエン酸では1mg/mL、メントールでは1.5mg/mLとクエン酸の方が低いことからも明らかである。以上の結果から、クエン酸が口臭抑制のための口腔ケア素材として有用であることが明らかとなった。