特許第6811860号(P6811860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6811860
(24)【登録日】2020年12月17日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置およびクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   H01J37/20 G
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2019-524775(P2019-524775)
(86)(22)【出願日】2017年6月21日
(86)【国際出願番号】JP2017022854
(87)【国際公開番号】WO2018235194
(87)【国際公開日】20181227
【審査請求日】2019年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 晃成
(72)【発明者】
【氏名】細谷 幸太郎
【審査官】 右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−154478(JP,A)
【文献】 特開昭59−146145(JP,A)
【文献】 特開2017−037811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置するステージと、
前記試料の鉛直方向上方から荷電粒子線を前記試料上で走査する鏡筒と、
前記試料の鉛直方向上方でない位置に配置され、前記試料上の汚染物質を酸化して除去するクリーナと、
前記クリーナの使用の際に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節するステージ制御部と、
を備え
前記ステージ制御部は、前記試料と前記クリーナとの距離が、クリーニング効果を増大させる目安となる所定の値よりも小さくなるように前記ステージを移動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項2】
試料を載置するステージと、
前記試料の鉛直方向上方から荷電粒子線を前記試料上で走査する鏡筒と、
前記試料の鉛直方向上方でない位置に配置され、前記試料上の汚染物質を酸化して除去するクリーナと、
前記クリーナの使用の際に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節するステージ制御部と、
を備え
前記ステージ制御部は、前記試料と前記クリーナとの距離が、クリーニング効果を減少させる目安となる所定の値よりも大きくなるように前記ステージを移動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記ステージ制御部は、前記試料の形状に基づいて前記ステージを移動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記ステージ制御部は、前記鏡筒の位置に基づいて前記ステージを移動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記ステージ制御部は、前記クリーナの稼働中に前記ステージを連続的に移動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記ステージ制御部は、前記クリーナの稼働中に前記ステージを回転させる、
荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記ステージ制御部は、前記ステージの法線方向に前記クリーナが位置するように前記ステージを傾斜させる、
荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記クリーナを制御するクリーナ制御部と、
前記ステージ制御部と前記クリーナ制御部とに指示信号を送信するプロセッサと、
をさらに有する荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項に記載の荷電粒子線装置であって、
前記プロセッサは、ユーザが予め設定した時刻に前記ステージ制御部と前記クリーナ制御部とを連動させる、
荷電粒子線装置。
【請求項10】
荷電粒子線装置が実行するクリーニング方法であって、
前記荷電粒子線装置は、
試料を載置するステージと、
前記試料の鉛直方向上方から荷電粒子線を前記試料上で走査する鏡筒と、
前記試料の鉛直方向上方でない位置に配置され、前記試料上の汚染物質を酸化して除去するクリーナと、
前記ステージを移動させるステージ制御部と、
を備え、
前記ステージ制御部が、前記クリーナの使用の際に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節する調節ステップ、
を含み、
前記調節ステップにおいて、前記ステージ制御部は、前記試料と前記クリーナとの距離が、クリーニング効果を増大させる目安となる所定の値よりも小さくなるように前記ステージを移動させる、
クリーニング方法。
【請求項11】
荷電粒子線装置が実行するクリーニング方法であって、
前記荷電粒子線装置は、
試料を載置するステージと、
前記試料の鉛直方向上方から荷電粒子線を前記試料上で走査する鏡筒と、
前記試料の鉛直方向上方でない位置に配置され、前記試料上の汚染物質を酸化して除去するクリーナと、
前記ステージを移動させるステージ制御部と、
を備え、
前記ステージ制御部が、前記クリーナの使用の際に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節する調節ステップ、
を含み、
前記調節ステップにおいて、前記ステージ制御部は、前記試料と前記クリーナとの距離が、クリーニング効果を減少させる目安となる所定の値よりも大きくなるように前記ステージを移動させる、
クリーニング方法。
【請求項12】
請求項10に記載のクリーニング方法であって、
前記調節ステップは、前記ステージの法線方向に前記クリーナが位置するように前記ステージを傾斜させるステップであるクリーニング方法。
【請求項13】
請求項10に記載のクリーニング方法であって、
前記調節ステップは、前記クリーナの稼働中に前記ステージを回転させるステップであるクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料および装置内部の汚染物質を除去する機能を有する荷電粒子線装置およびクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な構造を有する試料の解析や分析に、SEM(Scanning Electron Microscopy:走査形電子顕微鏡)、TEM(Transmission Electron Microscopy:透過形電子顕微鏡)、またはSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy:透過形走査電子顕微鏡)が多用されるようになった。
【0003】
また、試料の断面作製または薄膜化をする必要がある場合、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)装置およびイオンミリング装置等が用いられている。さらに、近年では、SEMとFIBとの複合装置(FIB-SEM)が多く普及している。
【0004】
これらの荷電粒子線装置を用いて試料を観察する場合、試料汚染が大きな問題となる。試料汚染とは、試料に荷電粒子線を照射する際に放出される二次電子により、試料表面に吸着した炭化水素系のガスが分解され、非晶質の炭素となった固形物が試料表面に固着する現象である。試料汚染が生じると、微細構造が肥大化したり、表面に被覆が生じる。そのため、試料が有する本来の表面構造が観察できなくなることがある。
【0005】
上述した理由により、試料汚染の度合いが低い観察環境が強く要求されている。これまでに、試料室内への炭素系のガス放出を低減するなど試料汚染の低減を目的とした様々な対策がなされてきた。
【0006】
特許文献1には、対物レンズと試料との間に金属板でできたコールドトラップを設け、液体窒素の温度まで冷却した金属板により試料室内の分子を吸着させ、局所的に試料付近の分圧を低くする方法が開示されている。
【0007】
特許文献2には、活性酸素を試料に照射することにより固着した炭素を除去し、試料汚染の度合いを低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−110346号公報
【特許文献2】特開平10−154478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本願の発明者らは、上述した、試料汚染の原因物質(炭化水素系のガス)または試料上の汚染物質自体に作用して分解/除去できる装置(クリーナ)の効果は、試料までの距離に応じて偏りが生じやすいことを見出した。
【0010】
具体的には、目標がクリーナの近傍に位置する場合、クリーニング効果が高いのに対し、目標がクリーナから離れた箇所に位置する場合、クリーニング効果が低下する。
【0011】
図1は、クリーナの稼働時間ごとに試料の表面が変化する様子を示す図である。この実験では、クリーナは試料の斜め上方に位置し、試料の表面からクリーナまでの距離は均一でない。
【0012】
図1に示した試料の写真において、変色した箇所はクリーニング効果が表れた領域である。図1に示されているように、クリーナを稼働させた時間が長いほどクリーニング効果が表れた領域が広く、また試料表面のうち、クリーナに近い部分からクリーニング効果が表れている。
【0013】
電子顕微鏡装置内に搭載するクリーナの位置は、その構造上、試料の直上に配置することが困難である。そのため、試料表面においてクリーナからの距離に差異が生じ、上記のように試料上のクリーニング効果に偏りが生じてしまう。
【0014】
また、クリーナと試料との間に遮蔽物が存在する場合または試料表面の形状に凹凸がある場合、試料表面のうち、クリーナが直接見込まない領域のクリーニング効率が著しく低下する場合がある。
【0015】
クリーニング効果に偏りがあると、試料の一部が十分に清浄化されない一方で、試料の別の一部ではクリーナの作用、例えば、酸素ラジカルの影響が強すぎるため、試料へ損傷を与えることがある。
【0016】
また、試料のクリーニング効果は、クリーナ自体の性能に依存する度合いが大きく、これまでクリーナを置換することなくその効果を調節する手段がなかった。例えば、クリーニングの処理時間を短縮したい場合であっても、従来は電子顕微鏡本体にクリーニング効果を拡大するような機能が存在しなかった。
【0017】
また、試料が高分子である場合、クリーナの稼動によってその表面に損傷を受けやすく、当該試料の位置がクリーナに近いと、熱や荷電粒子などの影響で損傷を受け易い。そのような試料の場合、従来装置ではクリーナと試料の位置を制御する仕組みが存在しないため、損傷の回避は困難であった。
【0018】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、試料に対するクリーナのクリーニング効果を改善できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本開示は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、試料を載置するステージと、前記試料上の汚染物質を除去するクリーナと、前記クリーナの使用時に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節するステージ制御部と、を備える荷電粒子線装置を提供する。
【0020】
さらに別の例として、荷電粒子線装置が実行するクリーニング方法であって、前記荷電粒子線装置は、試料を載置するステージと、前記試料上の汚染物質を除去するクリーナと、前記ステージを移動させるステージ制御部と、を備え、前記ステージ制御部が、前記クリーナの使用時に、前記クリーナと前記試料との相対的な位置関係を、前記ステージを移動させることにより調節するステップ、を含むクリーニング方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、試料に対するクリーナのクリーニング効果を改善できる。上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】クリーナの稼働時間ごとに試料の表面が変化する様子を示す図である。
図2】実施例1の荷電粒子線装置の構成を示す断面図である。
図3】比較例における、試料とクリーナとの相対的な位置関係を示す図である。
図4】実施例1における、試料とクリーナとの相対的な位置関係を示す図である。
図5A】試料に対して斜め上方にクリーナが位置する比較例を示す図である。
図5B】試料に対して直上にクリーナが位置する実施例1を示す図である。
図6】試料とクリーナとの距離を調節する様子を示す図である。
図7】ステージ制御部がステージを回転させる様子を示す図である。
図8A】ステージ制御部が、クリーナから試料を遠ざけた上で、クリーナの稼働中にステージを回転させる様子を示す図である。
図8B】ステージ制御部がクリーナに試料を近づけた上で、クリーナの稼働中にステージを回転させる様子を示す図である。
図9】試料またはステージの法線方向がクリーナに向かうようにステージを調節した様子を示す図である。
図10A】ステージの傾斜角が最小の時のステージの位置を示す図である。
図10B】ステージの傾斜角が最大の時のステージの位置を示す図である。
図11】実行プログラムの例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本開示の種々の実施例について説明する。ただし、これらの実施例は本発明を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではない。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0024】
<実施例1>
図2は、実施例1の荷電粒子線装置Sの構成を示す断面図である。ここでは、荷電粒子線装置Sの例として走査電子顕微鏡を挙げて説明する。
【0025】
荷電粒子線装置Sは、電子ビーム1(荷電粒子線)を放出する電子銃2を有する電子銃室3と、集束レンズ4と、偏向コイル5と、対物レンズ6と、ステージ10と、検出器11と、試料室12と、装置内を真空に保つための排気ポンプ13と、排気配管14と、クリーナ15を制御するクリーナ制御部16と、ステージ10を制御するステージ制御部17と、クリーナ制御部16およびステージ制御部17に指示信号を送信する操作部18と、を備える。
【0026】
試料8および試料ホルダー9は、試料交換棒7を用いて試料室12内に設置される。試料ホルダー9は、ステージ10の傾斜が変わる際に、ステージ10に対する試料8の位置が変わったり、試料8がステージ10から落ちないように試料8を固定する。なお、電子銃2、電子銃室3、集束レンズ4、偏向コイル5および対物レンズ6は、鏡筒19内に収められている。
【0027】
操作部18は、例えば、ユーザによる指示を受け付ける入力部およびクリーナ制御部16およびステージ制御部17に指示信号を送信するプロセッサなどを備える。ユーザは、指示を入力部に入力することによって、クリーナ15およびステージ10を任意に動かすことができる。また、クリーナ制御部16とステージ制御部17とは互いに通信が可能に接続されており、荷電粒子線装置Sはクリーナ15とステージ10とを連動して制御することが可能である。
【0028】
電子銃2から取り出された電子ビーム1は、集束レンズ4と対物レンズ6とによって細く集束され、偏向コイル5によって試料8上を走査する。走査された試料8から放出された二次荷電粒子を検出器11で捕らえることにより、荷電粒子線装置Sは画像観察を可能とする。
【0029】
荷電粒子線装置Sの試料室12には、クリーナ15が配置されている。クリーナ15は、例えば、オゾン等を発生させ、試料8の表面に吸着または固着した炭化水素系の分子を一酸化炭素または二酸化炭素へ変化させることにより汚染物質を除去する。
【0030】
本開示の技術を適用できるクリーナ15は、プラズマの発生によって試料上の汚染物質に作用するものに限定されない。クリーナ15は、試料室12内のハイドロカーボン系物質に作用し、ステージ10や試料8上のハイドロカーボン成分を分解/除去することを目的としたクリーナ全般を指すものとする。なお、クリーナ15は、クリーナ15を制御するためのクリーナ制御部16と接続されている。
【0031】
ステージ制御部17は、クリーナ15の使用時に、クリーナ15と試料8との相対的な位置関係を、ステージ10を移動させることにより調節する。ここで、「クリーナ15の使用時」とは、クリーナ15が稼働している最中にステージ10が荷電粒子線を照射する際のポジションとは異なるポジションにあるか、または、クリーナ15が稼働している最中にステージ10が動いている状態にあることを意味する。ステージ制御部17は、指示信号をモータまたはアクチュエータ等に送信することによりステージ10の位置、傾きおよび姿勢を制御する。
【0032】
ステージ制御部17またはステージ制御部17を操作するコンピュータ(図示せず)は、記録部および指示信号を出力するプロセッサを有する。上記記録部には、例えば、試料室12の形状、ステージ10の大きさ、試料サイズが3次元座標として記録される。プロセッサは、上記座標データに基づいて、試料室12と、試料8およびステージ10と、が物理的に接触しない範囲を計算し、ステージ10を制御する指示信号を生成する。なお、試料サイズは、例えば、試料8に外接する直方体または球の寸法である。
【0033】
なお、試料8を試料ホルダー9に固定する際は、試料ホルダー9の所定の位置と試料8の中心とが一致するように固定する。試料8の中心は、例えば、試料に外接する円または球の中心である。また、試料ホルダー9がステージ10の定位置に載置されるように、例えば、試料交換棒7と荷電粒子線装置Sの試料投入口にはガイドまたは目印が設けられている。
【0034】
上では走査電子顕微鏡の構成について記載したが、集束イオンビーム装置、または、走査電子顕微鏡と集束イオンビーム装置との複合装置にクリーナ15を取り付けた場合にも本実施例の適用は可能である。即ち、本実施例は、荷電粒子線装置にクリーナ15を取り付けた装置全般に適用することができる。
【0035】
以下では、クリーナ15の稼動に連動してステージ10の位置を調節することによって、試料8上のクリーニング効果を均一にするためのステージ10の動作について説明する。
【0036】
図3は、比較例における、試料8とクリーナ15との相対的な位置関係を示す図である。荷電粒子線装置Sでは、通常、試料8の鉛直方向上方から粒子を照射するため、クリーナ15を試料8の直上に配置することは困難である。
【0037】
図3に示された例では、クリーナ15は、試料8の表面の法線方向に対して斜めの方向に配置されている。そのため、試料表面の一部はクリーナ15から近く、試料表面の別の一部はクリーナ15から離れている。
【0038】
既に述べたようにクリーナ15を使用したときのクリーニング効果は、クリーナ15から対象となる試料8までの距離に依存するため、図3に示された比較例では、上記距離の不均一さがクリーニング効果の不均一さにつながっている。
【0039】
図4は、実施例1における、試料8とクリーナ15との相対的な位置関係を示す図である。実施例1では、ステージ制御部17は、クリーナ15が試料表面またはステージ10の法線方向上方に位置するように、ステージ10の位置を制御する。その結果、実施例1の荷電粒子線装置Sは、試料表面上のクリーニング効果を平準化することが可能である。なお、このようなステージ10の位置調節を行うことにより以下の問題も解決することができる。
【0040】
既に述べたように、クリーナ15と試料8との間に遮蔽物が存在する場合、クリーナ15のクリーニング効果は低下してしまう。例えば、試料表面上に凹凸がある場合、試料表面のうち、クリーナ15が直視できる部分と、直視できない部分とでクリーニング効果に偏りが生じてしまう。
【0041】
また、試料8の形状がピンホール状の穴があいているような形状である場合、クリーナ15が直視できない穴の底の部分に対してクリーニング効果を発揮することは困難である。クリーナ15が試料表面の法線方向上方に位置するように、試料8とクリーナ15との相対的な位置関係を調節する本実施例の方法は、試料8の形状が凹凸を有する場合であっても、試料表面のクリーニング効果を均一にするのに有効な方法である。つまり、ステージ制御部17が、試料8の形状に基づいてステージ10を移動させることによって、試料表面のクリーニング効果を均一にすることができる。
【0042】
図5は、表面に凹凸が存在する試料8と、クリーナ15と、の配置を示す図である。図5Aは、試料8に対して斜め上方にクリーナ15が位置する比較例を示す図である。図5Bは、試料8に対して直上にクリーナ15が位置する実施例1を示す図である。図5Aおよび図5Bにおいて、クリーニング効果が充分に得られる領域20が点線で強調されている。
【0043】
図5Aに示されているようには、試料表面のうち、クリーナ15が直視できない領域は、クリーニング効果が充分に得られていない。これに対し、図5Bに示されているように、試料表面の法線方向上方にクリーナ15が位置するようにステージ10(および試料8)を傾斜させることによって、試料8の凹凸によるクリーニング効果の偏りを軽減し、試料表面全体に均一なクリーニング効果を付与することができる。
【0044】
<実施例2>
上述したように、クリーナ15から試料8までの距離がクリーニング効果を左右する。実施例2ではクリーナ15から試料8までの距離を任意に調節することによって、クリーニング効果の強度調整が可能となることを説明する。
【0045】
図6は、試料とクリーナ15との距離を調節する様子を示す図である。クリーナ15の効果は、弱すぎると汚染物質の除去ができないに留まるが、一方でクリーニング効果が強すぎる場合、特に高分子など炭素主体の元素構成である材料では、試料構造を変えてしまうなどの損傷を引き起こす可能性がある。
【0046】
このような場合、ステージ制御部17が、試料8とクリーナ15との距離が、クリーニング効果を減少させる目安となる所定の値よりも大きくなるようにステージ10の位置を調節する。このようにすると、試料8に対するクリーナ15の効果を弱め、試料8に対するダメージを軽減することが可能となる。
【0047】
一方、金属系の元素で構成される材料など、クリーナ15の動作によって損傷を受け難い試料の場合、ユーザは、処理時間の短縮などを目的に、より強いクリーニング効果を得たい場合がある。
【0048】
その場合、ステージ制御部17が、試料8とクリーナ15との距離が、クリーニング効果を増大させる目安となる所定の値よりも小さくなるようにステージ10の位置を調節することによって、試料8に対するクリーニング効果を高めることができる。上記所定の値は、試料8の材料成分ごとに定められ、クリーニング処理を施しても試料8の形状を変化させない目安となる値である。
【0049】
上記のとおり、実施例2では、ステージ制御部17がステージ10の位置を調節することによって、クリーナ15と試料8との距離を任意に調整し、クリーニング効果の調整が可能となる。
【0050】
<実施例3>
例えば、試料8のサイズが大きい場合、荷電粒子線装置Sの試料室12内の構造によっては、ステージ制御部17は、試料表面の法線方向上方にクリーナ15が位置するようにステージ10を調節できないことがある。
【0051】
例えば、鏡筒19の位置が試料8に近く且つサイズが大きい試料8の場合、ステージ制御部17がステージ10を傾斜させると、鏡筒19と試料8とが接触する恐れがある。そのような場合、ステージ制御部17は、ステージ10を傾斜させることなく、クリーナ15の稼働中にステージ10を回転させてもよい。
【0052】
図7は、ステージ制御部17がステージ10を回転させる様子を示す図である。図7に示されているように、ステージ制御部17が、ステージ10または試料8を回転させることによって、試料8上のクリーニング効果の偏りを緩和し、均一なクリーニング効果を得ることができる。この手法は、試料の大きさに依存せず、電子顕微鏡内に導入できる試料形状であれば実行することができるため、汎用性が高い手法である。
【0053】
なお、ステージ制御部17は、例えば、クリーナ15の稼働中にステージ10を連続的に移動させる。ステージ制御部17は、例えば、クリーナ15の稼働中にステージ10を回転させ続けてもよい。このようにすると、試料8に対するクリーニング効果の均一性が向上する。
【0054】
また、ステージ制御部17は、ステージ10の位置を移動させた後、クリーナ15の稼働中にステージ10を回転させてもよい。
【0055】
図8は、ステージ10が、移動した場所にて、クリーナ15の稼働中に回転する様子を示す図である。
【0056】
図8Aは、ステージ制御部17が、クリーナ15から試料8を遠ざけた上で、クリーナ15の稼働中にステージ10を回転させる様子を示す図である。ステージ制御部17が回転させる試料8の位置(またはステージ10の回転軸)をクリーナ15から遠ざけることによって、クリーニングによる試料8の損傷を軽減することが可能である。
【0057】
図8Bは、ステージ制御部17がクリーナ15に試料8を近づけた上で、クリーナ15の稼働中にステージ10を回転させる様子を示す図である。ステージ制御部17が、回転させる試料8の位置(またはステージ10の回転軸)をクリーナ15に近づけることによって、クリーニング効果を高めることが可能である。
【0058】
<実施例4>
荷電粒子線装置Sへのクリーナ15の搭載位置は、荷電粒子線装置Sが持つ取付けポートの位置に依存する。実施例4では、ステージ制御部17が、クリーナ15が取り付けられた位置に応じて試料8またはステージ10の位置や姿勢を制御し、クリーニング効果を調節する方法について説明する。
【0059】
例えば、クリーナ15の搭載位置が試料8の斜め上方の位置ではなく、荷電粒子線装置Sに対して真横に位置する場合も想定される。このような場合、ステージ制御部17は、クリーナ15が試料表面またはステージ10の法線方向に位置するようにステージ10の位置を制御することができる。
【0060】
図9は、試料8またはステージ10の法線方向がクリーナ15に向かうようにステージ10を調節した様子を示す図である。このように、ステージ制御部17が、クリーナ15の位置に応じてステージ10の位置または姿勢を制御することによって、クリーナ15の位置に依存することなく所望のクリーニング効果を得ることができる。
【0061】
<実施例5>
実施例1〜4では、試料8に対するクリーニング効果を向上させることを目的としたステージ10の制御を説明した。実施例5では、試料8を搭載するステージ10に対するクリーニング効果について記述する。
【0062】
試料室12内に存在するステージ機構は、例えば、経年劣化によってハイドロカーボン系成分および余剰なオイル成分が付着している。上記汚れは、試料汚染の原因となるため、ステージ10自体のクリーニングも試料汚染の予防に重要である。
【0063】
実施例5において、ステージ10は、例えば、クリーナ15に対して180度回転または傾斜するような機構を備えている。ステージ制御部17は、上記機構によって、クリーナ15から見えない領域がないようにステージ10を動作させる。
【0064】
ステージ10は、前述のような機構を備えていなくてもよい。その場合、ステージ制御部17は、例えば、クリーナ15の稼働中にステージ10が稼動範囲内で大きく移動させることを繰り返す。こうすると、ステージ10は一定のクリーニング効果を得ることができる。
【0065】
図10は、試料室12内のステージ10の可動範囲を示す図である。図10Aは、ステージ10の傾斜角が最小の時のステージ10の位置を示す図である。図10Bは、ステージ10の傾斜角が最大の時のステージ10の位置を示す図である。
【0066】
ステージ制御部17は、例えば、クリーナ15の稼働中に、ステージ傾斜角を最小値から最大値まで動かした後、ステージ傾斜角を逆に戻すという動きを連続的に繰り返し行う。このようにすると、ステージ10を移動させない場合と比べて、クリーニング効果を向上させることができる。
【0067】
<実施例6>
続いて、ユーザが、試料8の形状や、クリーナ15が取り付けられている位置などを操作部18を介して選択または指定し、その選択した条件に応じてステージ10を動作させる方法について説明する。
【0068】
荷電粒子線装置Sの試料室12内の構造や構成、または試料の形状によって、試料が試料室12内で稼動できる範囲には制限がある。そのため、ステージ10の稼動範囲を考慮して、所望するクリーニング効果を得るための最適なステージ座標を判断することはユーザにとって困難であり、煩雑な作業である。
【0069】
そこで、ユーザは、ステージ制御部17が予め記録されたプログラムにしたがってステージ10を制御するように設定してもよい。例えば、ユーザは、クリーナ15の位置を考慮し、ステージ10(または試料8)の稼動範囲の中から所望のクリーニング効果を得るためのステージ座標を把握して、ステージ10を移動させるプログラムを設計する。当該プログラムは、例えば、操作部18を介して、操作部18が有するメモリに記録する。このようにすると、ステージ10をマニュアルで操作する場合と比較して、ユーザの負担を軽減することができる。
【0070】
図11は、実行プログラムの例を示すフローチャートである。以下に、プロセッサがプログラムを読み込んでステージ10とクリーナ15とを稼働させる処理の流れについて説明する。
【0071】
(S100)
まず、ユーザが操作部18を介して、例えば、試料サイズ、クリーナ15の位置およびクリーニング強度を荷電粒子線装置Sに設定する。
【0072】
(S101)
ステージ制御部17が有するプロセッサは、ユーザが設定した試料サイズおよび試料室12の形状等のデータを参照して、機械的干渉を伴わずに、試料8の法線方向にクリーナ15が位置するようにステージ10を傾斜できるか否か判定する。試料8の法線方向にクリーナ15が位置するようにステージ10を傾斜できる場合(S101においてYES)、S102の処理に進む。試料8の法線方向にクリーナ15が位置するようにステージ10を傾斜できない場合(S101においてNO)、S103の処理に進む。
【0073】
(S102)
ステージ制御部17が、試料8の法線方向にクリーナ15が位置するようにステージ10を傾斜させる。
【0074】
(S103)
プロセッサが、ユーザが設定したクリーニング強度と試料8の材料とを参照して、クリーナ15と試料8との距離を近づけるか判定する。クリーナ15と試料8との距離を近づける場合(S103においてYES)、S104の処理に進む。クリーナ15と試料8との距離を近づけない場合(S103においてNO)、S105の処理に進む。
【0075】
(S104)
プロセッサが、予め記録された試料室12、鏡筒19および試料8のサイズ等の3次元座標を参照し、ステージ10を移動させる際に、試料8およびステージ10と、装置構成部品と、の機械的な干渉がないか判定する。機械的な干渉がない場合(S104においてYES)、S106の処理に進む。機械的な干渉がある場合(S104においてNO)、S107の処理に進む。
【0076】
(S105)
プロセッサが、ユーザが設定したクリーニング強度および試料8の材料を参照して、クリーナ15と試料8との距離を遠ざけるか判定する。クリーナ15と試料8との距離を遠ざける場合(S105においてYES)、S108の処理に進む。クリーナ15と試料8との距離を遠ざけない場合(S105においてNO)、S107の処理に進む。
【0077】
(S106)
ステージ制御部17が、クリーナ15と試料8との距離が近づくようにステージ10を移動させる。
【0078】
(S107)
ステージ制御部17が、ステージ10を回転させる。
【0079】
(S108)
プロセッサが、予め記録された試料室12、鏡筒19および試料8のサイズ等の3次元座標を参照し、ステージ10を移動させる際に、試料8およびステージ10と、装置構成部品と、の機械的な干渉がないか判定する。機械的な干渉がない場合(S108においてYES)、S109の処理に進む。機械的な干渉がある場合(S108においてNO)、S107の処理に進む。
【0080】
(S109)
ステージ制御部17が、クリーナ15と試料8との距離が遠ざかるようにステージ10を移動させる。
【0081】
(S110)
クリーナ制御部16がクリーナ15の動作を開始する。
【0082】
上記のように、鏡筒19の形状やクリーナ15の位置を考慮して、予めステージ10の制御をプログラミングしておくことによって、ユーザは、簡単な条件設定だけで、試料に対して目的とするクリーニングを実施することが可能となる。
【0083】
また、荷電粒子線装置Sは、ステージ10の動作開始とクリーナ15の稼動とを連動させてもよい。このようにすると、ユーザは上記のような簡単な設定のみで、ステージ10とクリーナ15との両方を制御できることとする。
【0084】
なお、ユーザは、操作部18を介してステージ10とクリーナ15との動作を開始する時刻を入力できる。そして、プロセッサは、ユーザが予め設定した時刻にステージ制御部とクリーナ制御部とを連動させてクリーニングを開始する。このようにすると、任意に設定した時間に、無人でクリーナ15を稼動させることが可能となる。また、スケジュール機能と連動させることで、荷電粒子線装置Sは定期的にクリーナ15を自動運転させることが可能となる。
【符号の説明】
【0085】
1…電子ビーム、2…電子銃、3…電子銃室、4…集束レンズ、5…偏向コイル
6…対物レンズ、7…試料交換棒、8…試料、9…試料ホルダー
10…試料ステージ、11…検出器、12…試料室、13…排気ポンプ
14…排気配管、15…クリーナ、16…クリーナ制御部
17…ステージ制御部、18…操作部、19…鏡筒
20…クリーニング効果を受けた箇所
【0086】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許文献はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11