(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、第1実施形態に係る質量分析装置100及び質量分析方法について
図1乃至
図4を参照して説明する。
図1は本実施形態にかかる質量分析装置100の構成を示す説明図である。
図2は質量分析装置100の一部の構成を示す説明図である。
図3及び
図4は本実施形態にかかる質量分析方法の説明図である。
【0008】
図1及び
図2に示すように、質量分析装置100は、分析室10と、分析室10内に配される試料保持部12と、イオンビーム源20と、イオン化光源であるレーザ光源30と、アシストエネルギー源40と、質量分析部50(分析部)と、制御部60と、を備える。
【0009】
分析室10は例えば排気装置を備える減圧チャンバ11を備える。分析室10は、内部に減圧状態の空間を構成可能とする。
【0010】
試料保持部12は、分析室10内に配置され、上面に試料を載置して支持する試料載置面12cを有し試料13を保持可能に設けられた試料台12aと、試料台12aを移動させる移動装置12bと、を備える。移動装置12bは制御部60に接続される。移動装置12bは、制御部60の制御により試料台12aを3軸方向に移動させ、試料台12aの位置を調整する。尚、これに加えて3軸のいずれかを軸として回動する機構を設けることも可能である。本実施形態において、試料台12a上の所定位置に、対象領域A1が配される。
【0011】
ここで、対象領域A1とは、質量分析部50と試料13との間であってイオンビーム源20によりスパッタされて生じた粒子が放出される領域であり、装置により適宜設定される。本実施形態において、試料台12aの試料載置面12cと質量分析部50とを結ぶ検出軸C4が粒子の放出方向及びイオン導入方向に沿う第1方向となり、試料台12aと質量分析部50との間であって試料台12aの第1方向における二次側に、対象領域A1が配される。一例として、本実施形態かかる質量分析装置100においては、第1方向が鉛直方向に沿い、第1方向二次側が上方となる例を示す。
【0012】
イオンビーム源20は例えば、試料台12a上に設置された試料13にイオンビームをパルス状に照射する収束イオンビーム装置(FIB)である。イオンビーム源20は、例えば試料台12a上の試料13が配置される領域にイオンビームを照射する。イオンビーム源20は、試料13からの粒子の少なくとも一部が所定の対象領域A1に放出される位置に、配置される。本実施形態において、イオンビーム源20は、対象領域A1の第1方向二次側であって検出軸C4から外れた側方位置、すなわち対象領域A1の斜め上方に、配される。イオンビーム源20は試料台12aの上の試料13に向けて、イオンビームを照射可能に配置されている。
【0013】
イオンビーム源20は、イオン源21と、加速電極22と、コンデンサレンズ23とアパーチャ24と、偏向電極25、26と、対物レンズ27と、これらを収容するとともに先端に照射口28aを有するケーシング28と、を備える。ケーシング28内において、所定のビーム軸C1に沿って、イオン源21から、イオンビームの二次側に向かって、加速電極22、コンデンサレンズ23、アパーチャ24、偏向電極25、26、対物レンズ27の順で、配列されている。
【0014】
イオン源21は供給される液体または気体から、加熱、高電圧印加、あるいはプラズマを用いた処理などにより、イオンを生成する。イオン源21は、酸素、セシウム、ガリウム、金、ビスマス、アルゴン、クリプトン、またはキセノンなどのイオンを生成する。
【0015】
加速電極22は、1以上の電極を備える。加速電極22は、イオン源21で生成されたイオンを引き出して加速することで、イオンビームを形成する。
【0016】
コンデンサレンズ23は、例えば複数の電極23aを備える。コンデンサレンズ23は、加速電極22とアパーチャ24の間に配置される。コンデンサレンズ23は、加速電極22で形成されたイオンビームを収束させ、イオンビームの径を小さくする。
【0017】
アパーチャ24は、孔が形成された電極板24aを備える。アパーチャ24は、コンデンサレンズ23の先端側であって偏向電極25との間に配置される。アパーチャ24は、コンデンサレンズ23の収差を低減する。
【0018】
複数の偏向電極25,26は、ビーム軸C1に沿ってアパーチャ24と対物レンズ27との間に並列して配置される。偏向電極25,26は、イオンビームを偏向させることでイオンビームの照射位置を調整する。
【0019】
対物レンズ27は、偏向電極25,26よりもビーム軸C1の二次側に配されている。対物レンズ27は、コンデンサレンズ23及びアパーチャ24で集束されたイオンビームをさらに集束させる。対物レンズ27は、イオンビームの焦点を試料13の表面に合わせる。
【0020】
レーザ光源30は、試料13に対してイオンビームを照射することにより、放出される粒子をイオン化するレーザ光LA1を照射する。レーザ光源30は、高密度のレーザ光を質量分析部50と試料13との間であってイオンビーム源20によりスパッタされて生じた粒子が放出される対象領域A1に向けて照射することで、対象領域A1の少なくとも一部を含む領域に強光子場を形成する。レーザ光源30は、レーザ発生器と、照射するレーザを集束させる光学系と、を備える。レーザ光源30は、試料台12aの、粒子が放出される第1方向の二次側にある対象領域A1の、側方、例えば水平方向に、配されている。レーザ光源30は、レーザ光LA1が試料13を避け、かつ試料13上の対象領域A1に向けて照射可能な位置に配置される。本実施形態では、例えば試料13よりも僅か、例えば100μm程度上方で、水平なレーザ光軸C2に沿って、対象領域A1に向けてレーザ光LA1を照射する。
【0021】
レーザ光源30から照射されるレーザ光LA1は、所定のパワー密度を有するパルスレーザ光であり、例えばフェムト秒レーザ光である。レーザ光LA1のパワー密度は、好ましくは、トンネルイオン化を起こすといわれる高強度であり、例えば10^14W/cm
2以上のパワー密度に設定される。
【0022】
アシストエネルギー源40は、照射エネルギーの強度及び照射タイミング(供給タイミング)が制御される。例えば、アシストエネルギー源40は、レーザ光LA1の照射と同時またはレーザ光LA1の照射よりも前に、当該レーザ光LA1よりも小さいエネルギーを対象領域A1に供給する。
【0023】
アシストエネルギー源40は、例えば、対象領域A1にアシストエネルギーとしてUV光(アシスト光)を供給することで、対象領域A1を励起環境とするUV光源を有するUVランプ41である。
【0024】
UVランプ41は、ビーム軸C1、レーザ光軸C2、及び検出軸C4に対して交差する方向から、試料13の対象領域A1に、UV光を照射可能な位置に配置されている。例えばUVランプ41は対象領域A1の、レーザ光源30とは異なる水平方向に配置されている。
【0025】
UV光LU1の照射範囲に少なくとも一部が含まれる対象領域A1に放出される試料由来の粒子は、レーザ光LA1によるイオン化に先だって、UV光LU1によって励起される。
【0026】
ここで、供給されるアシスト光は、対象領域A1に存在する粒子を、イオン化させることなく、かつ、後工程でのトンネルイオン化を促進できる程度のエネルギーを有する。
例えば、アシスト光は、電子が深い準位にありイオン化率が低い元素を、トンネルイオン化されやすい仮想準位である任意のアシスト準位にまで上げる。
【0027】
アシスト光が有するエネルギーはイオン化エネルギー以下であることが好ましい。また、アシスト光が有するパワー密度は、トンネルイオン化が起こる確率を抑制すると共に、非共鳴多光子イオン化も抑制できる程度であることが好ましい。具体的にはアシストエネルギーは、トンネルイオン化を起こすといわれる高強度である10^14W/cm
2よりも小さいパワー密度に設定しており、好ましくは、10^13W/cm
2以下のパワー密度に設定される。また、一定のアシスト効果を得るために、アシストエネルギーは、好ましくは、10^10W/cm
2よりも大きいパワー密度に設定される。
【0028】
また、アシスト光が有するエネルギーは、例えば対象とする分子の結合乖離エネルギーを基準として、当該結合乖離エネルギーよりも大きいエネルギーに設定されることが好ましい。
【0029】
また、アシスト光が有するエネルギーは、対象とする特定の元素のイオン化エネルギーを基準として、当該イオン化エネルギーよりも小さいエネルギー、すなわち当該イオン化エネルギーに対応する波長よりも長い波長、に設定されることが好ましい。すなわち、いわゆるイオン化エネルギーが大きい元素(イオン化しにくい元素)を対象として設定し、予めトンネルイオン化されやすい所定のアシスト準位に励起することで、イオン化率を高め、高感度の分析が可能になる。
【0030】
例えば、対象の元素をFとした場合、Fの第一イオン化エネルギーは,17.4eVであり、相当する光の波長は,71nmであるため、励起用のアシストエネルギーであるUV光は17.4eV未満のエネルギー、すなわち71nmよりも長波長が好ましい。また、例えばPを対象とした場合,第一イオン化エネルギーが10.5eV,光の波長で118nmとなるため、励起用のアシストエネルギーであるUV光は10.5eV未満のエネルギー、すなわち118nmよりも長波長が好ましい。さらに例えば、対象の元素を全元素中最もイオン化エネルギーの大きなHeとした場合には、第1イオン化エネルギーが24.6eVであり、相当する光の波長は50nmであるため、励起用のアシストエネルギーであるUV光は24.6eV未満のエネルギー、すなわち50nmよりも長波長が好ましい。
【0031】
質量分析部50は、セクター磁場型質量分析装置、飛行時間型質量分析装置、又は四重極型質量分析装置、等の種々の装置を適用可能である。質量分析部50は、対象領域A1の第1方向の二次側、すなわち上方に、配置される。
【0032】
例えば、質量分析部50は、対象領域A1を挟んで試料台12aの上方、すなわち第1方向二次側に、対向して配置されている。質量分析部50は、引込電極51と、静電レンズ52と、偏向電極53,54と、分離部55と、イオン検出部56と、これらを収容するケーシング58と、を備える。ケーシング58内において、所定の検出軸C4に沿って、イオンの入射側から二次側に向かって、引込電極51と、静電レンズ52と、偏向電極53,54と、分離部55と、イオン検出部56とが、並んで配置されている。
【0033】
イオン導入方向に沿う検出軸C4は、試料台12aの試料載置面12cの面方向に直交する鉛直方向に沿って延び、例えば水平に延びるレーザ光軸C2及びUV光の照射方向C3に対して直交している。レーザ光軸C2とUV光の照射方向C3とは対象領域A1において交差している。
尚、本実施形態では、各機構の配置関係を現実的に考えて各軸C1〜C4が交差する実施形態としているが、レーザ光軸C2が試料13に向かない方向を維持することができれば、各軸が交差しない構成や、一つの軸を共有するような構成とすることも可能である。
【0034】
引込電極51は、イオン化された元素を引き込み可能な電位勾配となる所定の電圧が印加されることで、試料台12aとの間に電界を形成する。この電界により、質量分析部50内に対象領域A1のイオンが引き込まれる。
【0035】
静電レンズ52は、引込電極51の二次側に配される。静電レンズ52は、通過するイオンを集束させる。
【0036】
偏向電極53,54は静電レンズ52の二次側に配される。偏向電極53,54は、イオンの軌道を分離部55に向けて偏向する。
【0037】
分離部55は、偏向電極33.34の二次側に配される。分離部55は、分析対象であるイオン化された元素を質量分離して二次側に通過させる。分離部55を通過したイオンは、イオン検出部56に導入される。
【0038】
イオン検出部56は、分離部55の二次側に配される。イオン検出部56は、分離部55を通過したイオンの数を計測する。イオン検出部56は検出したデータは制御部60に送る。
【0039】
制御部60は、質量分析装置100の各部に接続され、質量分析装置100の各部の動作を制御する。例えば制御部60は、分析室10の排気装置(不図示)や移動装置12b、イオンビーム源20、レーザ光源30、アシストエネルギー源40、及び質量分析部50に接続されている。例えば制御部60は、イオンビーム源20、レーザ光源30、アシストエネルギー源40、及び質量分析部50の各種レンズや電極へ印加される電圧の大きさや印加のタイミングを制御する。
【0040】
以下本実施形態にかかる質量分析方法について
図3及び
図4を参照して説明する。本実施形態にかかる質量分析方法は、減圧下で試料にイオンビームを照射して試料をスパッタすることと、スパッタにより試料から放出される粒子を励起するエネルギーを供給することと、粒子をイオン化するレーザ光を粒子に照射することと、を備える。
【0041】
まず、試料台12aの試料載置面12c上に試料13をセットする。制御部60は移動装置12bを制御することで、試料載置面12c上の試料13の位置調整を行う。
【0042】
次に、制御部60は、T1のタイミングで、アシストエネルギー源40を駆動し、所定の出力で対象領域A1にUV光LU1を照射し、光路に含まれる対象領域A1を励起状態とする。
【0043】
次いで、制御部60は、T2のタイミングで、イオンビーム源20を駆動し、パルス状のイオンビームを、試料13に向けて照射することで試料13をスパッタし、T3のタイミングでイオンビームの照射を停止する。イオンビーム源20から照射されるイオンビームによって試料台12a上の試料13がスパッタされ、試料13に由来する原子や分子などの粒子が、UV光LU1により励起状態となっている対象領域A1に、放出される。励起状態の対象領域A1に放出された粒子は、原子内の電子が励起される。この励起によって、電子が準位の低い位置にある、換言するとイオン化エネルギーが大きい、元素が、トンネルイオン化されやすい所定のアシスト準位まで上げられる。
【0044】
ここで、スパッタにより表面から放出される粒子の中には、複数の原子からなる粒子が多数含まれているが、予め照射されるUV光LU1により対象領域A1が励起状態となっているため、フラグメントイオンの乖離及び分解が促され、放出粒子中の単原子粒子の割合が増加する。
【0045】
制御部60は、T4のタイミングでレーザ光源30を駆動し、対象領域A1にレーザ光LA1を照射し、T5のタイミングでレーザ光LA1の照射を停止する。レーザ光LA1によって、強光子場が形成され、トンネル効果により粒子がイオン化される。すなわち、制御部60は、レーザ光LA1を照射する期間中は、UV光LU1を照射するように照射のタイミングを制御する。
【0046】
ここで、予め対象領域A1を励起状態とすることで、真空中の残留ガスや試料13の表面からの脱離ガスである残留ガス成分を、イオン化ではなく結合乖離させてフラグメント化するため、干渉となりうる分子量を持つガスがレーザ光路内において分解され、干渉しない状態となる。
【0047】
次に、制御部60は質量分析部50を駆動し、イオンの分析を行う。具体的には、制御部60は引込電極51に電圧を印加し、引込電極51と試料台12aとの間に電界を形成する。この電界により、質量分析部50内に対象領域A1のイオンが引き込まれる。電界により引き込まれたイオンは静電レンズ52を通過することで集束し、さらに偏向電極53,54により軌道が分離部55に向けて調整される。軌道調整されたイオンは分離部55によって質量分離して第1方向二次側である上方に通過し、分離部55を通過したイオンはイオン検出部56に導入される。イオン検出部56は、分離部55を通過したイオンの数を計測する。イオン検出部は検出されたデータを制御部60に送信し、制御部60は当該データから質量分析結果を得る。
【0048】
本実施形態にかかる質量分析装置100及び質量分析方法によれば、粒子を励起するアシスト光を供給するアシストエネルギー源40としてUVランプ41を設けたことにより、イオン化に先だって粒子を励起することでトンネルイオン化のイオン化率を向上することが可能となる。すなわち、イオン化エネルギーが高くトンネルイオン化が可能な範囲よりも下の準位に電子がある元素が、UV光LU1の照射によって励起されることで、トンネルイオン化が容易に可能なアシスト準位にまで上げられることで、レーザ光LA1によるイオン化を促進することが可能となる。このため、ハロゲンなどの電気的に陰性でイオン化エネルギーが高い元素についても、単一の分析部にて高感度に分析することができる。したがって、材料の機能性向上や生産管理への効果が期待できる。
【0049】
また、一般的に、スパッタにより表面から放出される粒子の中には,複数原子からなるものが多数存在しているが、本実施形態にかかる質量分析装置100は、イオン化前にアシストエネルギーの供給により粒子を励起することで、フラグメントイオンの乖離及び分解を促して、放出粒子中の単原子粒子の割合を増加させることができる。このため、質量分析装置100を用いた質量分析方法によれば、レーザ光LA1でのイオン化を促進することで、イオン化の感度が向上する。
【0050】
また、本実施形態にかかる質量分析装置100によれば、イオン化前にアシストエネルギーの供給により粒子を励起してフラグメントイオンの乖離及び分解を促すことで、真空中のガス種による質量スペクトルの干渉を低減することが可能である。すなわち、フェムト秒レーザは、そのイオン化率の高さから、真空中の残留ガス、試料表面からの脱離ガスをもイオン化検出する可能性が有り、固体中の微量元素をも高感度に検出する傾向があるが、本実施形態にかかる質量分析装置100は、イオン化前にアシストエネルギーを供給して、残留ガス成分をイオン化ではなく結合乖離させてフラグメント化することにより、干渉となりうる分子量を持つガスがレーザ光路で分解されて干渉しない状態となる。このため、残留ガスの干渉が少ない空間でのイオン化が可能であり、炭化水素類などの妨害イオンが検出されず、所望の元素の検出限界を下げることができる。
【0051】
例えば室温ではレーザ光の直径を0.5mmとした場合、数μ秒で分子運動によってその空間が再び残留ガスにより満たされる。したがって、アシストエネルギーの供給から概ね1μ秒以内にイオン化のためのレーザ光LA1を導入することで、残留ガスの少ない空間でのイオン化が可能であり、元素の検出限界を下げることができる。
【0052】
また、本実施形態において、アシストエネルギーとしてイオン化しない範囲で高いエネルギーを与えることが可能なUV光を用いることで,効率よく原子(粒子)を励起状態にできるという効果が得られる。
【0053】
以上説明した実施形態によれば、粒子を励起するエネルギーを供給するアシストエネルギー源を備えることにより、アシストエネルギーの供給により粒子を励起することでイオン化を促進し、イオン化の感度を向上できる。また、実施形態によれば、試料表面で発生したフラグメント粒子の乖離及び分解を促すことで、イオン化を促進することができる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態においては、連続的にUV光を照射する例を示したがこれに限られるものではない。例えば、アシストエネルギーであるUV光をパルスで照射することも可能である。例えば、UV光の照射のタイミングをイオンビーム源20からのイオンビーム照射のパルスと同期のパルスとしてもよい。具体的には、UV光をonするタイミングT1はレーザ光をonするタイミングT4以前であれば良く、イオンビームをonするタイミングT2やoffするタイミングT3と同時であっても良い。また、UV光をoffするタイミングはレーザ光をonするタイミングT4以降であれば良く、レーザ光をoffするタイミングT5と同時、或いはそれ以降であればよい。レーザ光を照射する期間中は、アシストエネルギーであるUV光を照射することが好ましい。
【0055】
上記実施形態においては、アシスト光としてUV光を照射するUVランプ41をアシストエネルギー源40として例示したが、これに限るものではない。例えばアシストエネルギー源40として、UVランプ41の他に、LEDや、ナノ秒UVレーザ装置等のUVレーザ装置を用いてもよい。
【0056】
また、他の実施形態として、アシストエネルギー源40は、供給するエネルギー(=波長)を調整可能に構成してもよい。具体的には、UVレーザ装置に複数の波長のUV光源を設ける、またはUVレーザ装置を異なる複数の波長のUV光源を選択的に切り換える或いは組み込める構成とすることで、照射するUV光の波長を調整可能に構成してもよい。この場合、使用現場にて対象とする元素の種類に対応する波長を選択し、あるいは出荷時特定の元素に対応する波長に設定することができる。
【0057】
このようにアシスト光として波長可変レーザを用いる場合、特定の準位を狙って励起状態を作ることができるため、イオン化の元素選択性を持たせながらも、アシスト光により感度が上がる場合がある。この場合、通常の共鳴イオン化よりも更にレーザ光のパワー密度を下げることができる。このため、アシスト光を波長可変とし、元素選択性を持たせることで、通常の共鳴イオン化ではイオン化ポテンシャルが高すぎてイオン化が難しい元素についても、高感度で、かつ、妨害イオンのない状態でイオン化検出ができるという効果が得られる。
【0058】
上記実施形態においては、粒子を励起するアシストエネルギーとして、UV光を例示したが、これに限られるものではない。例えばアシストエネルギーとして、UV光の他に、レーザ光、プラズマ、マイクロ波、電子線、等のエネルギーを用いてもよい。この場合、アシストエネルギー源40として、レーザ光を照射するレーザ装置や、プラズマを発生させるプラズマ発生装置や、マイクロ波を発振するマイクロ波発振器や、低速の電子線を照射する電子線源等を用いることで、アシストエネルギーを供給することが可能である。つまりは、供給するアシストエネルギーによって、対象の元素がトンネルイオン化する状態に少しでも近づけることができるように、目的元素のイオン化エネルギーより低いエネルギーを供給することが出来る構成であればどのような構成であってもよい。
【0059】
尚、イオン化エネルギーより低いエネルギーを供給する波長であっても、共鳴する波長(共鳴波長)に近い波長帯域で供給するとトンネルイオン化する場合があるため、このような波長帯域は避けることが望ましい。例えば、Tiにおいては310〜330nm付近、Mgにおいては280〜290nm付近、Pにおいては300nmや150nm付近の波長帯域がこれにあたる。
【0060】
また、イオンビーム源20や質量分析部50ではケーシング28、58内にレンズや電極などの光学系を収容したが、これに限られるものではなく、一部が外部に配されていてもよい。更に、イオンビーム源や質量分析部などは本実施形態の構造に限られるものではなく、一般的に知られている他の構造を有するものに置き換えることも可能である。また、上述の構成要素の他に電極やレンズ等必要に応じて構成要素の追加及び削減が可能である。
【0061】
上記実施形態においては、スパッタ中性粒子質量分析装置及びスパッタ中性粒子質量分析方法を例示したが、これに限られるものではなく、例えばガス試料を対象としたガス分析用の質量分析装置にも適用可能である。
【0062】
以上述べた少なくとも1つの実施形態の質量分析装置によれば、粒子を励起するエネルギーを供給するアシストエネルギー源を備えることにより、粒子を励起することでイオン化を促進し、イオン化の感度を向上できる。
【0063】
また、以上述べた少なくとも1つの実施形態の及び質量分析方法によれば、スパッタにより試料から放出される粒子を励起するエネルギーを粒子に供給することにより、粒子を励起することでイオン化を促進し、イオン化の感度を向上できる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
(1)
試料を保持可能に設けられた試料台と、
前記試料台の試料載置面に対向配置され、質量分析をする分析部と、
前記試料載置面に向けてイオンビームを照射可能に設けられたイオンビーム源と、
前記試料載置面と前記分析部の間の対象領域にアシストエネルギーを供給するアシストエネルギー源と、
前記対象領域にレーザ光を照射するレーザ光源と、
を備える質量分析装置。
(2)
前記アシストエネルギー源から供給するエネルギーは、質量分析する目的元素の第一イオン化エネルギーよりも小さい(1)に記載の質量分析装置。
(3)
前記アシストエネルギー源は、前記レーザ光よりもパワー密度の低い前記アシストエネルギーを供給する、(1)または(2)に記載の質量分析装置。
(4)
前記アシストエネルギー源は、UVランプ、LED、レーザ装置、プラズマ発生装置、マイクロ波発振器、及び電子線源のうち少なくともいずれか1つを備える(1)乃至(3)のいずれかに記載の質量分析装置。
(5)
前記レーザ光の照射タイミングと、前記アシストエネルギーの供給タイミングを制御する制御部を更に有する、(1)乃至(4)のいずれかに記載の質量分析装置。
(6)
試料にイオンビームを照射して前記試料をスパッタすることと、
前記スパッタにより前記試料から放出される粒子を励起するアシストエネルギーを前記粒子に供給することと、
前記粒子をイオン化するレーザ光を前記粒子に照射することと、
を備える質量分析方法。
(7)
前記レーザ光を照射する期間中は、前記アシストエネルギーを供給する、(6)に記載の質量分析方法。
(8)
前記アシストエネルギーは、質量分析する目的元素の第一イオン化エネルギーよりも小さい、(6)または(7)に記載の質量分析方法。
(9)
前記アシストエネルギーは、前記レーザ光よりもパワー密度が低い、(6)乃至(8)のいずれかに記載の質量分析方法。