特許第6812062号(P6812062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812062
(24)【登録日】2020年12月18日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】新規なエポキシ化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 303/28 20060101AFI20201228BHJP
   C08G 59/04 20060101ALI20201228BHJP
   C07D 301/14 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C07D303/28CSP
   C08G59/04
   C07D301/14
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-14425(P2016-14425)
(22)【出願日】2016年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-145202(P2016-145202A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-15550(P2015-15550)
(32)【優先日】2015年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100087631
【弁理士】
【氏名又は名称】滝田 清暉
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 成美
(74)【代理人】
【識別番号】100144543
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 有穂
(72)【発明者】
【氏名】須藤 篤
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−166540(JP,A)
【文献】 特開2003−246782(JP,A)
【文献】 特開平11−147997(JP,A)
【文献】 特開2014−139360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 303/28
C07D 301/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される新規なエポキシ化合物;

但し、上記式(1)中のR〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【請求項2】
下記一般式(2)で表される、新規なエポキシ化合物;

但し、上記式(2)中のR〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【請求項3】
少なくとも、請求項1及び/又は請求項2に記載された新規なエポキシ化合物と、脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリイソシアネート、並びに、ノボラック、レゾール及びビスフェノールから選択される多官能性ヒドロキシル含有化合物、ポリカルボン酸無水物、ポリカルボン酸、イミダゾール、ポリメルカプタン、及びジシアンジアミド、からなる群の中から選択される少なくとも1種のエポキシ硬化剤を含有してなることを特徴とする、エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤が、脂肪族アミンである、請求項3に記載されたエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記硬化剤が、水溶性のポリエチレンイミンである、請求項4に記載されたエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
myo−イノシトールをオルトエステル化する工程を介して請求項1又は2に記載されたエポキシ化合物を製造する方法であって、該方法が下記の工程を含むことを特徴とするエポキシ化合物の製造方法;
(A) myo−イノシトールが有する6個の水酸基の内3個を保護するために、myo−イノシトールをオルトエステル化合物とエステル交換反応させるオルトエステル化工程;
(B) 前記(A)の工程で得られたmyo−イノシトールオルトエステル化合物が有する、保護されていない3個の水酸基に、ハロゲン化アリル及びハロゲン化2-メチルアリルからなる群の中から選択される少なくとも1種の化合物を反応させてアリル基又は2−メチルアリル基を導入する工程;
(C) 前記(B)の工程で得られた化合物が有する、(A)工程で導入したオルトエステル結合を全て解消させて3個の水酸基を復活させる、脱保護工程;
(C2)前記(C)の工程で得られた化合物が有する、保護されていない3個の水酸基にアルキル化剤を反応させてアルキル化した化合物を得る工程;及び、
(D) 前記(C)の工程で得られた化合物が有するアリル基又は2−メチルアリル基を、酸化してエポキシ化する工程。
【請求項7】
myo−イノシトールをオルトエステル化する工程を介して請求項1又は2に記載されたエポキシ化合物を製造する方法であって、該方法が下記の工程を含むことを特徴とするエポキシ化合物の製造方法;
(E) myo−イノシトールが有する6個の水酸基の内3個を保護するために、myo−イノシトールをオルトエステル化合物とエステル交換反応させる工程;
(F) 前記(E)の工程で得られたmyo−イノシトールオルトエステル化合物が有する、保護されていない3個の水酸基に、アルキル化剤を反応させて3つの水酸基にアルキル基を導入させた化合物を得る工程;
(G) 前記(F)の工程で得られた化合物が有する、(E)工程で導入したオルトエステル結合を全て解消させて、脱保護する工程;
(H) 前記(G)の工程で得られた化合物が有する3個の水酸基に、ハロゲン化アリル及びハロゲン化2-メチルアリルの群から選択される少なくとも1種の化合物を反応させる工程;及び、
(I) 前記(H)の工程で得られた化合物が有するアリル基又は2−メチルアリル基に基づく不飽和結合を、酸化してエポキシ化する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文献未載の新規なエポキシ化合物及びその製造方法に関し、特に、親水性材料と反応し得る、新規な水溶性エポキシ化合物及びその製造方法、並びに、該新規なエポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、アミン類、カルボン酸類、フェノール類、メルカプタン類等と反応するため、架橋剤として使用され、塗料、注型材、接着剤、土木建築等の幅広い分野に使用されている(例えば、特許文献1〜3等)。近年、環境問題の観点から、有機溶媒を使用しない材料が望まれるようになって来たことに伴い、架橋剤として使用するエポキシ化合物に対しても、水溶性であることが求められるようになって来ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−298259号公報
【特許文献2】特開平08−283660号公報
【特許文献3】特開平07−268307号公報
【0004】
しかしながら、上記した、従来から使用されているエポキシ化合物の水への溶解性が悪いため、親水性の材料に対する反応性が悪いという欠点があった。また、これを改善するために乳化剤を併用した場合には、硬化物の耐水性が悪化するという欠点等があり、未だ、満足できるエポキシ化合物は得られていない。
そこで本発明者は、水溶性に優れたエポキシ化合物について鋭意研究した結果、水溶性の糖類であるイノシトールに複数のエポキシ基を導入することにより、親水性材料と反応する水溶性のエポキシ化合物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の第1の目的は、水溶性に優れたエポキシ化合物を提供することにある。
本発明の第2の目的は、親水性材料との反応性に優れたエポキシ化合物を提供することにある。
本発明の第3の目的は、親水性材料との反応性に優れた水溶性エポキシ化合物を容易に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、下記一般式(1)又は(2)で表される、新規なエポキシ化合物、及び、その製造方法、並びに、該新規なエポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂組成物である。






但し、上記式(1)及び(2)中のR〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状は環状のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す
【発明の効果】
【0007】
本発明のエポキシ化合物は、水溶性の糖類であるイノシトールに複数のエポキシ基を導入することによって得られるので、高い純度のものを容易に得ることができる。また、得られたエポキシ化合物は水溶性である上、親水性材料と反応するエポキシ基を3個有するので、架橋剤として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1で得られたトリエポキシ化合物のH−NMRを示す図である。
図2図2は、実施例1で得られたトリエポキシ化合物の13C−NMRを示す図である。
図3図3は、実施例3で得られたトリエポキシ化合物のH−NMRを示す図である。
図4図4は、実施例3で得られたトリエポキシ化合物の13C−NMRを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、記一般式(1)及び(2)で表される本発明の新規エポキシ化合物について詳述する
【0010】
本発明の、前記一般式(1)及び(2)で表されるエポキシ化合物については、その原料及び製造方法が特に限定されると言うことはないが、原料として特にイノシトールを選択することが、製造が容易であるので好ましい。また、イノシトールを原料とする場合の製造方法についても特に制限はないが、例えば、(i)エピクロルヒドリン又はメチルエピクロルヒドリンを用いてエポキシ基を導入したり、更に、必要に応じてアルキル化剤を用いてアルキル基を導入したりする製造方法、及び、(ii)不飽和結合としてアリル基又は2−メチルアリル基を有する、ハロゲン化アリル化合物及び/又はハロゲン化2−メチルアリル化合物を反応させて不飽和結合含有化合物を製造した後、過酸化物により、導入した前記不飽和結合を酸化することにより製造する方法が挙げられる。
【0011】
本発明においては、上記の製造方法の内、前記(ii)の方法である、過酸化物により不飽和結合を酸化することにより製造する方法が、ハロゲンを含む副生成物が混入し難く、環境適正に優れたエポキシ化合物が得られるので好ましい。また、過酸化物により不飽和結合を酸化する方法の中では、オルト酢酸トリメチルのようなオルトエステル化合物を用いて、myo−イノシトールに含まれる6つの水酸基のうちの3つの水酸基を保護し、残りの3つの水酸基に不飽和結合を有するハロゲン化合物を反応させることにより、3個の不飽和結合を有する化合物を得、次いで、前記保護基であるオルトエステル基をはずした後、過酸化物を用いて前記導入した前記不飽和結合を酸化する方法が、エポキシ基の数が3つ含まれる化合物の純度を高くすることができるので好ましい。
【0012】
エピクロルヒドリン、又はメチルエピクロルヒドリンを用いる前記(i)の方法は、通常のエポキシ化方法と同様に行うことができる。例えば、イノシトールを過剰のエピクロルヒドリン、又はメチルエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に、必要に応じてテトラアルキルアンモニウム塩のような触媒を用いて、20〜150℃、好ましくは30〜80℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。
【0013】
上記の反応に際するアルカリ金属水酸化物の使用量は、イノシトールの水酸基1当量に対して、0.8〜1.5当量、好ましくは0.9〜1.2当量の範囲である。尚、エピクロルヒドリン又はメチルエピクロルヒドリンの使用量は、イノシトールの水酸基1当量に対し、1.5〜30当量、好ましくは2〜15当量である。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリン、又はメチルエピクロルヒドリンを留去し、前記反応によって生じた無機塩を濾過工程により除去することによって、本発明のエポキシ化合物を得ることができる。
【0014】
上記エポキシ化合物に対しては、必要に応じて、ジメチルホルムアミドのような溶媒中で、硫酸ジメチル等のアルキル化剤をナトリウムヒドリド等の塩基性化合物と併用し、例えば、−30〜50℃の範囲で、1〜30時間反応させることにより、残存する水酸基にアルキル基を導入してもよい。
【0015】
次に、前記過酸化物により不飽和結合を酸化して本発明のエポキシ化合物を製造する場合に好ましい、オルト酢酸トリメチルのようなオルトエステル化合物を保護基として用い、myo−イノシトールを原料として本発明のエポキシ化合物を製造する、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明の、オルトエステル化合物を用いて、myo−イノシトールからエポキシ化合物を製造する方法は、以下の工程からなる。
【0017】
(A) myo−イノシトールが有する6個の水酸基の内3個を保護するために、myo−イノシトールをオルトエステル化合物とエステル交換反応させる工程;
(B) 前記(A)の工程で得られたmyo−イノシトールオルトエステル化合物が有する、保護されていない3個の水酸基に、不飽和結合としてアリル基又は2−メチルアリル基を有するハロゲン化アリル化合物及び/又はハロゲン化2−メチルアリル化合物を反応させる工程;
(C) 前記(B)の工程で得られた化合物が有する、(A)工程で導入したオルトエステル結合から保護基を全て脱離させて、脱保護する工程;及び、
(D) 前記(C)の工程で得られた化合物の不飽和結合を、酸化してエポキシ基に変換する工程。
【0018】
また、必要に応じて、前記(C)の工程と(D)の工程の間に、(C2)前記(C)の工程で得られた化合物が有する、保護されていない3個の水酸基に、アルキル化剤を反応させて1〜3固の水酸基にアルキル基を導入させた化合物を得る工程を設けてもよい。
【0019】
上記の方法によって得られるエポキシ化合物は、例えば下記一般式(1)で表される化合物である。
但し、上記式(1)中のR〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状は環状のアルキル基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0020】
前記(A)の工程では、先ず、原料であるmyo−イノシトールに、溶媒中でオルトエステル化合物を、必要に応じて酸触媒を用いて、例えば、30〜150℃、好ましくは80〜120℃の温度範囲で1〜10時間、エステル交換反応させる。その後、塩基性化合物を添加して酸触媒を中和した後、使用した溶媒を加熱及び減圧下で留去し、myo−イノシトールオルトエステル化合物を得る。
【0021】
前記(A)の工程で使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、又はイソプロパノール等のアルコール類;及びホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類が挙げられる。本発明においては、これらの中でもアミド類を使用することが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドを使用することが特に好ましい。
上記溶媒の使用量は特に限定されることはないが、原料であるmyo−イノシトール1mmolに対し、0.1〜100mL使用することが好ましく、0.5〜10mL使用することがより好ましい。
【0022】
前記(A)の工程に使用されるオルトエステル化合物としては、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチル、オルト蟻酸トリイソプロピル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルト安息香酸トリメチル等が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、オルト酢酸トリメチル又はオルト酢酸トリエチルを使用することが好ましく、特にオルト酢酸トリメチルを使用することが好ましい。
【0023】
上記オルトエステル化合物の使用量は特に限定されることはないが、原料であるmyo−イノシトール1mmolに対し、1〜10mmol使用することが好ましく、収率と余剰のオルトエステル化合物の除去のバランスの点から、1.2〜1.8mmol使用することがより好ましい。
【0024】
前記(A)の工程に使用される酸触媒としては、例えば、p−トルエンスルホン酸、o−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類、及びスルホン酸類の水和物が挙げられる。これらの中では、p−トルエンスルホン酸の水和物が好ましい。
上記酸触媒の使用量は特に限定されるものではないが、原料であるmyo−イノシトール1mmolに対し、0.001〜1mmol使用することが好ましく、0.01〜0.1mmol使用することが特に好ましい。
【0025】
前記(A)の工程に使用される塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸カリウム等の無機塩基性化合物、及び、トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基性化合物が挙げられる。本発明においては、これらの中でも、有機塩基性化合物を使用することが好ましく、トリエチルアミンを使用することが特に好ましい。
上記塩基性化合物の使用量は特に限定されるものではないが、原料であるmyo−イノシトール1mmolに対し、0.01〜1mmol使用することが好ましく、0.1〜0.5mmol使用することが特に好ましい。
【0026】
前記(B)の工程では、先ず、溶媒中で前記(A)の工程で製造したmyo−イノシトールオルトエステル化合物に、不飽和結合としてアリル基又は2−メチルアリル基を有するハロゲン化アリル化合物及び/又はハロゲン化2−メチルアリル化合物を、例えば、−78〜30℃、好ましくは−20〜20℃の範囲で、塩基性化合物を用いて1〜10時間反応させて、残存する3個の水酸基にアリル基を導入する。
次いで、過剰の塩基性化合物を水を用いて加水分解させた後、酢酸エチル等の有機溶媒を加えて有機層を抽出し、溶媒を加熱及び減圧下で留去し、不飽和結合としてアリル基又は2−メチルアリル基が付与された化合物を得る。
【0027】
前記(B)の工程に使用される溶媒としては、例えば、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類が挙げられる。本発明においては、これらの中でも特にN,N−ジメチルホルムアミドを使用することが好ましい。
上記溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、(A)の工程で製造した化合物1mmolに対し、0.1〜100mL使用することが好ましく、0.5〜10mL使用することがより好ましい。
【0028】
前記(B)の工程に使用される塩基性化合物としては、ナトリウムアミド、ナトリウムヒドリド、n−ブチルリチウム、及び、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の超強塩基性化合物;メトキシカリウム、エトキシカリウム、及び、t−ブトキシカリウム等の強塩基性化合物;及び、トリエチルアミンやトリ−n−ブチルアミン等の弱塩基性化合物等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも、超強塩基性化合物を使用することが好ましく、ナトリウムヒドリドを使用することが特に好ましい。
前記塩基性化合物の使用量は特に限定されるものではないが、(A)の工程で製造した化合物1mmolに対し、3〜10mmol使用することが好ましく、収率と余剰の塩基性化合物の加水分解による除去とのバランスの点から、4〜6mmol使用することがより好ましい。
【0029】
前記(B)の工程に使用されるハロゲン化アリル化合物としては、フッ化アリル、塩化アリル、臭化アリル、ヨウ化アリル等のハロゲン化アリルが挙げられ、ハロゲン化2−メチルアリル化合物としては、塩化2−メチルアリル、臭化2−メチルアリル、ヨウ化2−メチルアリルが挙げられる。
記ハロゲン化アリル化合物及び/又はハロゲン化2−メチルアリル化合物の使用量は特に限定されるものではないが、(A)の工程で製造した化合物1mmolに対し、1〜10mmol使用することが好ましく、3.2〜3.8mmol使用することがより好ましい。
【0030】
(C)の工程では、先ず、前記(B)の工程で製造した化合物に対し、溶媒中で酸触媒を用い、例えば、30〜120℃、好ましくは70〜100℃の範囲で、1〜50時間反応させて、3個の水酸基を保護していた(A)工程で導入したオルトエステル結合を解消させる。次いで、加熱及び減圧下で溶媒を留去して、水酸基を3つ有する化合物を得る。
【0031】
(C)の工程に使用される溶媒としては、メタノール、エタノール、及びイソプロパノール等のアルコール類、及び、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、並びに1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類が挙げられる。本発明においては、これらの中でもアルコール類を使用することが好ましく、エタノールを使用することがより好ましい。
上記溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、(B)工程で製造した化合物1mmolに対し、0.1〜100mLであることが好ましく、1〜5mLであることがより好ましい。
【0032】
(C)の工程で使用される酸触媒としては、塩酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、キシレンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。これらの中でも、安価に入手できることと脱保護の反応速度がより速いという観点から、塩酸又は硫酸を使用することが好ましく、塩酸を使用することがより好ましい。
上記酸触媒の使用量は特に限定されるものではないが、(B)の工程で製造した化合物1mmolに対し、0.1〜10mmol使用することが好ましく、1〜5mmol使用することがより好ましい。
【0033】
(C)の工程で製造された水酸基を3個持つ化合物には、化合物の融点、溶媒に対する溶解性等の特性を変えるために、必要に応じて、(C2)の工程により、3つの水酸基の内少なくとも一個の水酸基に対して、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基を導入してもよい。また、これらのアルキル基は同じであっても異なるものであっても良い。
【0034】
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、ネオヘキシル基、2−メチルペンチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、ネオヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ネオオクチル基、2−エチルヘキシル基、シクロオクチル基、n−ノニル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、ネオノニル基、シクロノニル基、n−デシル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基、ネオデシル基、及びシクロデシル基を挙げることができる。
本発明においては、これらの中でも炭素数1〜6の直鎖状のアルキル基を導入することが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基を導入することがより好ましい。
【0035】
前記(C2)の工程では、先ず、溶媒中で塩基性化合物の存在下、(C)の工程で製造した化合物とアルキル化剤とを、例えば0〜100℃、好ましくは10〜50℃の範囲で、1〜50時間反応させる。
その後、塩基性化合物を水で加水分解し、加熱及び減圧下で溶媒を留去することにより、例えば、3つの水酸基にアルキル基を導入させた化合物を得る。
【0036】
前記(C2)の工程に使用される溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類が挙げられる。本発明においては、これらの中でもN,N−ジメチルホルムアミドを使用することが好ましい。
上記溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、(C)工程で製造した化合物1mmolに対し、1〜50mL使用することが好ましく、3〜10mL使用することがより好ましい。
【0037】
前記(C2)の工程に使用される塩基性化合物としては、例えば、ナトリウムアミド、ナトリウムヒドリド、n−ブチルリチウム、及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の超強塩基性化合物;メトキシカリウム、エトキシカリウム、及びt−ブトキシカリウム等の強塩基性化合物;及び、トリエチルアミンやトリ−n−ブチルアミン等の弱塩基性化合物を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも超強塩基性化合物を使用することが好ましく、ナトリウムヒドリドを使用することがより好ましい。
上記塩基性化合物の使用量は特に限定されるものではないが、(C)の工程で製造した化合物1mmolに対して3〜10mmol使用することが好ましく、収率と余剰の塩基性化合物の加水分解による除去とのバランスの点から、4〜8mmol使用することが特に好ましい。
【0038】
前記(C2)の工程に使用されるアルキル化剤としては、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ−n−プロピル、硫酸ジイソプロピル、硫酸ジ−n−ブチル、硫酸ジ−n−ペンチル、硫酸ジ−n−ヘキシル、硫酸ジ−n−ヘプチル、硫酸ジ−n−オクチル、硫酸ジ−n−ノニル、硫酸ジ−n−デシル等の硫酸ジアルキル;臭化メチル、臭化エチル、臭化n−プロピル、臭化イソプロピル、臭化n−ブチル、臭化n−ペンチル、臭化n−ヘキシル、臭化n−ヘプチル、臭化n−オクチル、臭化n−ノニル、臭化n−デシル等の臭化アルキル;及びヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化n-プロピル、ヨウ化イソプロピル、ヨウ化n−ブチル、ヨウ化n−ペンチル、ヨウ化n−ヘキシル、ヨウ化n−ヘプチル、ヨウ化n−オクチル、ヨウ化n−ノニル、ヨウ化n−デシル等のヨウ化アルキルが挙げられる。本発明においては、これらの中でも硫酸ジアルキルを使用することが好ましく、硫酸ジメチルを使用することがより好ましい。
上記アルキル化剤の使用量は特に限定されるものではないが、(C)の工程で製造した化合物1mmolに対して1〜10mmol使用することが好ましく、3.2〜3.8mmol使用することがより好ましい。
【0039】
(D)の工程は、溶媒中で(C)又は(C2)の工程で得られた不飽和基含有化合物を、過酸化物を用いて、例えば、−30〜50℃、好ましくは−10〜30℃の範囲で、1〜50時間反応させた後、加熱及び減圧下で溶媒を留去して、前記不飽和基がエポキシ化されたエポキシ化合物を製造する。
【0040】
(D)の工程で使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソ−又はn−プロパノール、イソ−又はn−ブタノール、アミルアルコール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、グリセリン、モノアセチレン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ブチルベンゼン、ジエチルベンゼン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン、メシチレン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、及び、二硫化炭素等が挙げられる。本発明においては、これらの中でもハロゲン化脂肪族炭化水素系溶媒を使用することが好ましく、ジクロロメタンを使用することがより好ましい。
上記溶媒の使用量は特に限定されるものではないが、(C)又は(C2)の工程で製造した化合物1mmolに対し、0.5〜50mLであることが好ましく、1〜10mLであることがより好ましい。
【0041】
(D)の工程で使用される過酸化物としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸等の有機過酸化物;過マンガン酸等の無機過酸化物類;及びジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等のペルオキシド類が挙げられる。本発明においては、これらの中でも有機過酸化物類を使用することが好ましく、メタクロロ過安息香酸を使用することがより好ましい。
上記過酸化物の使用量は特に限定されるものではないが、(C)の工程で製造した化合物1mmolに対し、3〜10mmol使用することが好ましく、収率と余剰の過酸化物の除去とのバランスの点から、4〜7mmol使用することがより好ましい。
【0042】
(A)〜(D)及び(C2)の工程においては、必要に応じて、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、及びカラムクロマトグラフィー等の分離精製手段や、これらを組み合わせた手段によって分離精製を行ってもよい。
【0043】
更に、前記過酸化物により、前記アリル基又は2−メチルアリル基からなる不飽和結合を酸化して本発明のエポキシ化合物を製造する場合では、下記に示される方法により、上記一般式(2)とは異なる立体異性体を製造することもできる。
(E) myo−イノシトールが有する6個の水酸基の内3個を保護するために、myo−イノシトールをオルトエステル化合物とエステル交換反応させる工程;
(F) 前記(E)の工程で得られたmyo−イノシトールオルトエステル化合物が有する、保護されていない3個の水酸基に、アルキル化剤を反応させて3つの水酸基にアルキル基を導入させた化合物を得る工程;
(G) 前記(F)の工程で得られた化合物が有する、(E)工程で導入したオルトエステル結合を全て解消させて、脱保護する工程;
(H) 前記(G)の工程で得られた化合物が有する3個の水酸基に、不飽和結合としてアリル基又は2−メチルアリル基を有するハロゲン化アリル化合物及び/又はハロゲン化2−メチルアリル化合物を反応させる工程;及び、
(I) 前記(H)の工程で得られた化合物が有するアリル基又は2−メチルアリル基に基づく不飽和結合を、酸化してエポキシ化する工程。
【0044】
上記の方法によって得られるエポキシ化合物は、主に下記一般式(2)で表される化合物である。

但し、上記式(2)中のR〜Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10の、直鎖状、分岐状は環状のアルキル基を表し、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
【0045】
上記(E)の工程は、前記した(A)の工程と同じ工程である。
上記(F)の工程は、前記した(C2)の工程と同様の操作で行うことができる。
上記(G)の工程は、前記した(C)の工程に示される、オルトエステル結合を解消させる工程と同様の工程である。
上記(H)の工程は、前記した(B)の工程と同様の工程である。
上記(I)の工程は、前記した(D)の工程と同様の工程である。
(E)〜(I)の工程においては、必要に応じて、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、及びカラムクロマトグラフィー等の分離精製手段や、これらを組み合わせた手段によって分離精製を行ってもよい。
【0046】
イノシトールから製造される本発明のエポキシ化合物は、公知の硬化剤等の成分、例えば、特表2005−506402号公報に記載された脂肪族アミン、芳香族アミン、ポリイソシアネート、並びに、ノボラック、レゾール及びビスフェノールから選択される多官能性ヒドロキシル含有化合物、ポリカルボン酸無水物、ポリカルボン酸、イミダゾール、ポリメルカプタン、及びジシアンジアミド、からなる群の中から選択される少なくとも1種の硬化剤と混合して、エポキシ樹脂組成物として使用することができる。
上記硬化剤の中では、脂肪族アミン硬化剤を組み合わせることが好ましく、水溶性のポリエチレンイミンを組み合わせることがより好ましい。
【0047】
以下本発明を実施例により更に具体的に説明する。尚、以下の実施例等における%は、特に記載が無い限り質量基準である。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
(1)[myo−イノシトールオルトエステル化合物の合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコに、myo−イノシトール12g(66.6mmol)、オルト酢酸トリメチル12mL(94.3mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物1g(5.3mmol)、及びジメチルホルムアミド100mLを加え、100℃で2時間撹拌した。トリエチルアミン4mLを加えた後、減圧下で溶媒を留去し、次いで真空下で乾燥した。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)を用いて精製し、減圧下で溶媒を留去して無色の針状結晶を得た。この結晶をメタノールに溶解して再結晶させ、乾燥することによって、myo−イノシトールオルトエステル化合物9.57g[46.9mmol、収率:70%(mol基準)]を得た。
【0049】
(2)[トリアリル化合物の合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコに、60%ナトリウムヒドリド4.0g(100mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを入れ、0℃で、myo−イノシトールオルトエステル化合物4.08g(20mmol)のジメチルホルムアミド溶液30mLを加えた。更に臭化アリル6.06mL(70mmol)を加えて、室温で3時間撹拌した。その後、水15mLを加えて、過剰のナトリウムヒドリドを加水分解し、反応溶液を500mLの分液漏斗に移し、次いで、酢酸エチル300mLを加えて有機層を抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過によって不要な固体を除去した後、有機層から、減圧下で溶媒を留去して黄色液体を得た。得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)を用いて精製し、減圧下で溶媒を留去し、無色液状のトリアリル化合物5.27g[16.2mmol、収率:81%(mol基準)]を得た。
【0050】
(3)[トリオール体の合成]
撹拌子を入れた50mLのナスフラスコに、トリアリル化合物1.62g(5mmol)と、エタノールと1N塩酸の2:1の混合溶液20mLを加え、24時間加熱還流した。その後、反応溶液中の溶媒を減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)によって精製し、減圧下で溶媒を留去して白色固体のトリオール体、1.45g[4.83mmol、収率:97%(mol基準)]を得た。
【0051】
(4)[トリアリルトリメトキシドの合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコに、60%ナトリウムヒドリド0.816g(20.4mmol)、ジメチルホルムアミド10mL、及び、トリオール体1.20g(4mmol)のジメチルホルムアミド溶液24mLを加えた。更に、ジメチル硫酸1.20g(18.0mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。その後、水6mLを加えて、過剰のナトリウムヒドリドを加水分解し、反応溶液を300mLの分液漏斗に移し、酢酸エチル100mLを加えて有機層を抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過によって不要な固体を除去した後、得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)によって精製し、減圧下で溶媒を留去して無色液状のトリアリルトリメトキシド、1.14g[3.34mmol、収率:84%(mol基準)]を得た。
【0052】
(5)[トリエポキシ化合物の合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコにジクロロメタン20mLを入れ、次いでトリアリルトリメトキシド3.08g(9.00mmol)を加えて溶解させた。その後、69〜75%のメタクロロ過安息香酸9.98g(40.5mmol)を加え、0℃で1.5時間、室温で24時間撹拌した。その後、反応溶液の溶媒を減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)を用いて精製し、白色固体を得た。この白色固体をヘキサン/酢酸エチル=9/1の混合液を用いて再結晶し、真空乾燥してトリエポキシ化合物1.95g[4.99mmol、収率:95%(mol基準)]を得た。得られたトリエポキシ化合物について、H−NMR(測定装置:JMN−AL400、日本電子(株)製、測定溶媒:重クロロホルム)、及び13C−NMR(測定装置:JMN−AL400、日本電子(株)製、測定溶媒:重クロロホルム)を測定した。
H−NMRの測定結果を表1及び図1に、13C−NMRの測定結果を表2及び図2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
[実施例2]
半月板の攪拌翼を取り付けたスリーワンモーターが備え付けられた4つ口フラスコに、実施例1で得られたトリエポキシ化合物390mg(1mmol)、ポリエチレンイミン129mg(アミノ基数:3mmol)及び水4mLを加え、室温で10分、40℃で20時間撹拌を行った。その結果、エポキシ基とアミノ基の反応が進行し、系全体がゲル化した。このゲルにメタノール50mLを加えて細かく砕き、吸引濾過した後、更に120℃で真空乾燥したところ、架橋された白色粉末の高分子化合物516mg[収率:99%(mol基準)]が得られた。
このことは、本発明の新規エポキシ化合物が、水溶性のアミン化合物と反応して高分子量化すること、別言すれば、本発明の新規エポキシ化合物が水溶性アミン化合物の架橋剤としての性能を有しており、塗料、接着剤、注型材、土木建築等の広い分野の材料として、有用であることを実証するものである。
【0056】
[実施例3]
(1)[オルトエステルのトリメチル化物の合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコに、市販の60%ナトリウムヒドリドを、ヘキサンで洗浄した後のナトリウムヒドリド5.6g(140mmol)及びジメチルホルムアミド20mLを入れ、0℃で、実施例1の(1)工程で得られたmyo−イノシトールオルトエステル化合物5.41g(26.5mmol)のジメチルホルムアミド溶液30mLを加えた。さらに、ヨウ化メチル10mL(150mmol)を加えて室温で3時間撹拌を行った。その後、水15mLを加えて、過剰のナトリウムヒドリドを加水分解し、反応溶液を500mLの分液漏斗に移し、濾過によって不要な固体を除去した後、有機層から、減圧下で溶媒を留去して黄色液体を得た。得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(まず、ヘキサンでナトリウムヒドリドに付着した、洗いきれなかった油分を溶出させ、次に酢酸エチルで目的物を溶出)にかけて、オルトエステルのトリメチル化物5.87g[23.8mmol、収率:90%(mol基準)]を得た。
【0057】
(2)[トリオール体の合成]
撹拌子を入れた50mLのナスフラスコに、オルトエステルのトリメチル化物2.89g(11.7mmol)と、エタノールと1N塩酸の2:1の混合溶液20mLを加え、24時間加熱還流した。その後、反応溶液中の溶媒を減圧下で留去し、白色固体を得た。この白色固体を再結晶操作(メタノール/酢酸エチル=1/5(体積比)の混合溶液20mL)して、トリオール体1.54g[6.94mmol、収率:59%(mol基準)]を得た。
【0058】
(3)[トリアリル体の合成]
撹拌子を入れた50mLのナスフラスコに、市販の60%ナトリウムヒドリドを、ヘキサンで洗浄した後のナトリウムヒドリド1.6g(40mmol)及びジメチルホルムアミド5mLを入れ、トリオール体1.08g(4.86mmol)のジメチルホルムアミド溶液10mLを加えた。更に臭化アリル3.4mL(40mmol)を加えて、室温で24時間撹拌した。その後、水10mLを加えて、過剰のナトリウムヒドリドを加水分解し、反応溶液を500mLの分液漏斗に移し、次いで、水190mL、酢酸エチル250mLを加えて有機層を抽出した。有機層に硫酸ナトリウムを加えて脱水し、濾過によって不要な固体を除去した後、有機層から、減圧下で溶媒を留去して黄色液体を得た。得られた黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(まず、ヘキサンでナトリウムヒドリドに付着した、洗いきれなかった油分を溶出させ、次に酢酸エチルで目的物を溶出)を用いて精製し、減圧下で溶媒を留去し、無色液状のトリアリル化合物0.642g[0.187mmol、収率:39%(mol基準)]を得た。
【0059】
(4)[トリエポキシ化合物の合成]
撹拌子を入れた100mLのナスフラスコにジクロロメタン20mLを入れ、次いでトリアリル化合物0.632g(1.84mmol)を加えて溶解させた。その後、69〜75%のメタクロロ過安息香酸2.27g(9.2mmol)を加え、0℃で1.5時間、室温で8時間撹拌した。その後、反応溶液の溶媒を減圧下で留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:酢酸エチル)を用いて精製し、トリエポキシ化合物0.597g[1.53mmol、収率:83%(mol基準)]を得た。得られたトリエポキシ化合物について、H−NMR(測定装置:JMN−AL400、日本電子(株)製、測定溶媒:重クロロホルム)、及び13C−NMR(測定装置:JMN−AL400、日本電子(株)製、測定溶媒:重クロロホルム)を測定した。H−NMRの測定結果を、表3及び図3に、13C−NMRの測定結果を、表4及び図4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の新規なエポキシ化合物は水溶性である上、親水性材料と反応するエポキシ基を3個有するので架橋剤として極めて有用であると共に、高純度のものを安価且つ容易に得ることもでき、エポキシ化合物の応用分野を拡大することができるので、産業上極めて有意義である。
図1
図2
図3
図4