(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記壁部は、前記液膜形成面に対して実質的に垂直に設けられ、前記壁部の側面は、前記液膜形成面に対して垂直であって前記曲面部に連続する平面部を有する請求項1に記載の充填材。
前記設計工程において、前記壁部は、前記液膜形成面に対して実質的に垂直であり、前記壁部の側面は、前記液膜形成面に対して垂直であって前記曲面部に連続する平面部を有するように設計される請求項5に記載の充填材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本開示の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。尚、実施形態において示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は、開示内容の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。又、本願明細書及び図面において、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
充填材を用いた気液接触装置は、例えば、
図1のように概略的に記載することができる。平板材Fを用いた充填材1は、気液接触装置2の容器3内に装填され、気体−液体接触用の充填材として使用することができる。充填材1の上方に配置される散布管4から充填材1へ液体Aを散布するために、液体供給ライン5を通じて液体Aが散布管4へ供給される。ガス供給ライン6を通じてガスGを気液接触装置2へ供給すると、液体は、充填材1の平板材F上を平面に沿って流下し、上昇するガスGと接触する。この気液接触の間に、液体は、充填材1上で液膜を形成して、例えば、ガスG中の特定成分を吸収し、特定成分が除去されたガスG’は、容器3頂部に接続されるガス排出ライン7を通じて外部へ放出される。吸収液として機能した液体A’は、容器3の底部に貯留された後、底部に接続される排液ライン8を通じて外部へ排出される。充填材1は、長方形の平板材を立位に設置したものを使用し、気液接触装置2において、充填材1におけるガスG及び液体Aの流路は、所定間隔で並列する平板材間の真っ直ぐで簡素な薄層形状の間隙である。従って、流通抵抗が少なく、製造加工コストも削減可能であり、板材間の間隔を適宜調整してガス流量を制御できる。
【0024】
ガスと液体とを接触させる際のガスの流通抵抗は、操業時の消費エネルギーを左右する。操業費用を削減するには、このような並列する複数の平板材を用いて充填材1を構成することが有効である。しかし、容積当たりの気液接触面積を大きくするために平板材を薄くするに従って、強度が低下して変形や撓みを生じ易くなる。充填材は、供給される液体の重量及び落下エネルギーの負荷に対する耐久性だけでなく、多段構造の装置や大型の装置の場合には、積載される重量に対する耐久性や、装置の組立作業時に想定される負荷への耐力も必要となる。従って、鉛直方向の自立状態を良好に維持できる平板材であっても、操業時や組立持の負荷に耐えるように構造的な補強が必要となる場合がある。
【0025】
平板材の変形や撓みは、液体の流れ方向に沿って伸長する補強材を付設することによって防止可能である。例えば、
図2(a)に示すように、平板材Fの濡れ面(液膜形成面)に垂直なリブZを補強材として、液流れ方向に沿って平板材Fの両側端に立設すると、平板材Fの液流れ方向についての強度が向上して撓みや変形が抑制される。それと共に、複数の平板材F間の間隔を保持するスペーサーとしての役割もする。しかし、補強材の存在は、補強材を付設した部分における濡れ面積の損失だけでなく、その周辺の液膜への影響による濡れ面積の減少も懸念される。具体的には、平板材の表面を流下する液体Aによって形成される液膜が、
図2(a)のように補強材の付近で破断し、液体Aの流れが収束して局所に集中して流れる。このため、液流れ方向に伸長する液膜形成面上に液膜が形成されない部分が生じる現象(ドライアウト)を引き起こす。液膜が破断すると、濡れ面積(気液接触面積)が減少するだけでなく、液体Aの流速が増加して液体が充填材表面に滞留する時間が短くなる。従って、気液接触効率、つまり、吸収効率が著しく低下する。故に、補強の際に、液膜形成への影響を極力抑制した形態に構成する必要がある。
【0026】
図2(a)のような液膜形成においては、平板材F及びリブZの表面の濡れ性に起因して両部材の表面に沿った方向に張力が作用し、リブZ付近で液膜にメニスカス(液膜表面の湾曲)が形成される。この時、液膜の表面は、リブZの近くにおいて、
図2(b)に示すような、液膜の厚さが局所的に最小になる最小化領域Rtが現れた形状になる。この最小化領域Rtの出現が顕著になると、液膜破断が起こり、ドライアウトが生じる。つまり、最小化領域Rtが現れないような液膜形成が可能な条件が判明すれば、液膜形成時のドライアウトが抑制されて気液接触が良好に行われる充填材を提供することが可能である。
【0027】
メニスカス現象は、主に固気液三相の接触角で変化し、液体の物性や固体表面の状態等が影響因子となる。つまり、液膜形成は、液体の物性及び固−液接触条件によって変化する。このため、発明者等は、平面状の液膜形成面を有する本体部と、直線方向に沿って液膜形成面に対して立設される少なくとも1つの壁部とを有する充填材要素において、液体が壁部に沿って液膜形成面上を流れる状態において形成される液膜の表面形状について調査し、液膜形成に影響を及ぼす要素について検討した。その結果、
図3に示すように、壁部Wの根元において本体部Bとの境界が角にならずに連続するように湾曲した形状に充填材要素10を形成すると、ドライアウトの抑制に有効であることが判明した。つまり、充填材要素の一形態として、充填材要素10の壁部Wの側面Swが、本体部Bの液膜形成面Sfと接続する根元において、液膜形成面に連続するように湾曲する曲面部Scを有するものが提案される。この曲面部Scを通じて、液膜形成面Sfと壁部Wの側面Swとが滑らかに接続する。曲面部Scは、液体の液膜表面Saの形状に現れる最小化領域Rtの抑制に有効であり、最小化領域Rtが現れないように曲面部Scの湾曲を最適化することができる。
【0028】
例えば、円柱面状、つまり、円柱面に沿った凹面に曲面部Scを形成した場合、その曲率半径Rsには、液膜表面Saの形状から最小化領域Rtが消失し得る最適値が存在する。曲率半径Rsの最適値は、1)実験による測定、2)数値流体力学(CFD)に基づく流れの解析、或いは、3)理論計算、の何れかを利用して決めることができる。更に、これらの決定方法には、手法が異なる複数の形態が含まれており、一つの形態として、液膜形成面上に形成される液膜の表面形状を求めることによる決定手法が挙げられ、他の一形態として、臨界ウェーバー数We
cを求めることによる決定手法が挙げられる。液膜の表面形状を求める手法では、得られる表面形状の中で最適な表面形状になる時の曲率半径Rsを直接決定することができる。臨界ウェーバー数We
cを求める手法では、臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの相関関係を調べて、臨界ウェーバー数We
cが最小となる時の曲率半径Rsの値を最適値と見なすことができる。
【0029】
<実験測定による最適値の決定>
図4は、実験によって液膜表面Saの形状を測定した結果を示すグラフである。実験測定においては、
図3のような充填材要素10(SUS304
鋼製、壁部間距離:50mm、使用時の液膜形成面の水平面に対する角度β:60°)に液体として水(20℃、ウェーバー数We=0.8)を供給して液膜形成面Sf上を流下させて液膜を形成し、ニードルプローブPを用いた触針法に従って液膜表面Saの位置(液膜高さh)が測定される。壁部Wの側面Swからの距離xと、液膜高さh(本体部Bの液膜形成面を基準とする)との関係をグラフに示すことによって、
図4のような液膜の表面形状が得られる。
図4のグラフから、充填材要素10の曲面部Scにおける曲率半径Rsを変更することによって液膜の形状が変化することが解る。
図4において、曲率半径Rsが1〜3mmの範囲では明らかに液膜高さの最小化領域が存在する液膜形状を示すが、曲率半径Rsの増加につれて最小化領域が縮小して、曲率半径Rs=6mmにおいて消失する。従って、
図4の測定における設定条件では、充填材要素10の曲面部Scにおける曲率半径Rsの最適値は6mm程度となる。このように、壁部Wと本体部Bとの境界に設ける曲面部Scの曲率を変えて液膜の表面形状の変化を調べることによって、液膜の表面形状に最小化領域が現れないような最適な曲率を決定することができる。従って、所望の気液接触条件においてこのような測定を行うことで、好適な充填材要素の形状を設計できる。
【0030】
図4のグラフ作成に用いられる測定データから、曲率半径Rs毎に、最小液膜高さ、及び、中央部(距離:25mm)における平均液膜高さを抽出し、これらと曲率半径Rsとの関係を調べると、
図5のような結果が得られる。
図5において、液膜の中央部と最小化領域との高さの差は、曲率半径Rsが6mm付近において極めて小さくなって、最小化領域は殆ど消滅する。つまり、液膜の高さの差における変化は顕著で、判断に利用し易い。従って、液膜の高さの差に基づいた曲率半径Rsの最適値の決定は、データ処理による自動化に適した方法と言える。つまり、液膜の表面形状の測定データから液膜の高さの最小値と液膜中央部の値とを曲率半径Rs毎に抽出して、これらの高さの差を算出することによって、曲率半径Rsの最適値の決定を簡便に行える。
【0031】
図6は、実験測定によって得られる臨界ウェーバー数We
cと曲面部Scの曲率半径Rsとの関係の一例を示すグラフである。臨界ウェーバー数We
cは、液膜形成においてドライアウトが出現/消滅する臨界条件におけるウェーバー数Weであり、ウェーバー数Weは、下記式(1)によって表すことができる無次元数である(式中、ρは、液体の密度、U及びδは、Nusseltの理論式による液体の平均速度及び液膜の平均厚さ、σは、液体の表面張力である)。従って、ウェーバー数Weは、例えば、液膜形成面へ供給する液体の流量を増加させる(=液膜速度又は液膜厚さが増加する)ことによって増加する。又、ウェーバー数Weは、液膜の面積率(液膜形成面全体に対して液膜が形成される面積の割合)との相関性があることが判明している。具体的には、液膜の面積率は、ウェーバー数Weが増加するに従って増大し、臨界ウェーバー数We
cにおいて、液膜の面積率が1に達する(液膜が全面に形成され、ドライアウトが消滅する)。つまり、臨界ウェーバー数We
cは、ドライアウトが消滅する条件において取り得る液膜厚さの最小値に対応する。従って、充填材要素10の液膜形成面Sf上に液膜を形成する実験において得られる臨界ウェーバー数We
cと、充填材要素10の曲面部Scにおける曲率半径Rsとの関係を調べ、臨界ウェーバー数We
cが最小になる時の曲率半径Rsが最適値となる。
We = (ρ×U
2×δ)/σ (1)
【0032】
図6のグラフは、
図4の実験測定で用いた充填材要素10及び液体を用いて、液膜形成面に供給する液体の流量を徐々に増加させてドライアウトが消滅する臨界条件を決定し、その時の測定結果から求められる臨界ウェーバー数We
cに基づいて作成している。グラフ中の理論値は、壁部が無い平板材における臨界ウェーバー数We
cを後述の式(4)から求めた時の値を示す。測定によって得られる臨界ウェーバー数We
cが理論値に近づく程、曲面部の有効性が高いと見なすことができる。
図6における臨界ウェーバー数We
cは、曲率半径Rsが6mm程度において最小値を示し、臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの関係においても、曲面部Scの曲率半径Rsの最適値は6mm程度となる。しかも、曲率半径Rsが最適である時の臨界ウェーバー数We
cは、壁部がない平板材の数値と非常に近いことから、壁部がない平板材に非常に近い状態の液膜形成が実現されると言える。
【0033】
図4〜
図6から判るように、壁部Wの根元に曲面部を設けて円柱面状に湾曲させる設計において、曲率半径Rsを最適化することによって最小化領域の出現抑制が可能である。
図4〜
図6の液膜形成条件においては、最適値は約6mmであり、5.0〜6.5mm程度の曲率半径Rsでも良好に液膜を形成できる。液膜形成は、液体の表面張力、密度、動粘度や、液膜形成面の状態(材質、粗さ等)によって変化するので、このような条件が変化すれば、曲率半径Rsの最適値も変化する。又、液膜形成は、液膜形成面の角度βによっても変化するので、充填材の使用状況が異なれば、最適値も変化する。
図4〜
図6に示すような結果は、CFD解析を利用して得ることも可能であるので、実験測定に代えてCFD解析を用いて曲率半径Rsを決定することで、条件設定の変更に対応してもよい。
【0034】
使用する液体の種類を変えて、液体の物性が液膜形成に及ぼす影響を調べると、例えば、
図7〜
図10のような測定結果が得られる。液体として、エタノール濃度が20%の水溶液を用いると、液膜形成は、
図7のグラフのようになり、グリセリン濃度が60%の水溶液を用いると、液膜形成は、
図8のグラフのようになる。液体の粘性が高い60%グリセリン水溶液では、液膜高さが高く、最小化領域の出現も鈍くなる。
図7及び8から、臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの関係を調べると、各々、
図9及び10のグラフのようになる。
図9及び10において臨界ウェーバー数We
cが最小値を示す曲率半径Rs、つまり、曲率半径Rsの最適値は、
図9においては6.0mm程度となり、
図10においては6.5mm程度となる。このように、形成される液膜の形状は、液体の物性によって変化するが、何れにおいても、臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの関係は、同様の変化傾向を示す。従って、使用する液体を様々に変更しても、曲率半径Rsを最適化することによって、液膜形成における最小化領域の出現を抑制することができる。
【0035】
<理論計算による最適値の決定>
前述のウェーバー数Weを示す式(1)において、Nusseltの理論式による液体の平均速度U及び液膜の平均厚さδは、液膜流れの幅方向単位長さ当たりの流量Γ(m
2/s)を用いて、下記式(2)のように表される(式中、gは、重力加速度、βは、液膜形成面の水平面に対する角度)。従って、式(1)及び(2)から、液膜の平均厚さδは、ウェーバー数Weに対して式(3)のように求められる。
【数1】
【0036】
一方、壁部がない平板材における臨界ウェーバー数We
cの理論値は、以下の式(4)の解として与えられる(式中、θ
Aは、平板材に対する液体の前進接触角、νは液体の動粘度、σは表面張力、ρは密度である)。式(4)において、θ
Aが40〜110°、νが0.9〜7.6mm
2/s、σが34〜72mN/mの範囲においては、臨界ウェーバー数We
cの値は、0.1〜1.2の範囲の値であり、この値は、様々な液体及び接触角の値に対して、実験値と良い一致を示す。We
cに対する物性の影響は比較的小さく、粘性係数が水を基準として数倍程度までの範囲であれば、臨界ウェーバー数We
cの値は、θ
Aの関数として近似することができる。つまり、式(4)の左辺第3項が小さい時、臨界ウェーバー数We
cは、下記の式(5)によって近似的に評価することができる。
【数2】
【0037】
上述の式(4)の臨界ウェーバー数We
cを用いて、式(3)から液膜厚さδを求めて、これを臨界条件における液膜厚さδ
cとすると、幾何学的関係から下記式(6)が成立する。尚、式(6)中、Rcは、液膜表面が平坦な状態(最小化領域が消滅)となる場合の曲率半径Rsの値を示し、角度θ
Rは、液体の後退接触角である。従って、曲率半径Rsの最適値は、式(6)から得られるRcであり、式(7)で表される。このように、曲率半径Rsの最適値は、式(1)〜(7)を用いた理論計算によって決定することができ、この方法では、曲率半径Rsの最適値は、臨界ウェーバー数We
cに基づいて決定される。
(Rc−δc)=Rc×cosθ
R (6)
Rc = δc/(1−cosθ
R) (7)
【0038】
液膜の表面形状の理論計算について、壁部側面と液膜形成面とが垂直である(曲面部が設けられない)充填材要素上に形成される液膜の場合は、以下のようにして行うことができる。この場合、
図11に示すように、壁部側面から膜厚が最小厚さδmになる位置迄の範囲(メニスカス部分)の液膜の表面形状を円柱面(曲率半径:R)に近似し、それ以降の壁部から離れた部分における表面形状を、Nusseltの理論式による液膜の平均厚さδ
Nに漸近する連続曲面であるとすると、下記の式(8)のように液膜形状が近似的に表される。この時、x=Rcosθ
R における表面形状の曲率が一致するように、下記のようにλを設定すると、液膜が臨界条件(δ
N=δm)を満たす時、平均厚さδ
Nは、式(9)のようになる。
λ=2π(2(δ
N−δm)R)
1/2
【0040】
更に、式(9)における曲率半径R(メニスカス部分)及び最小厚さδmを決定するために、
図11の系におけるエネルギー増分ΔEが最小になる条件を決定する。エネルギー増分ΔEは、表面エネルギー変化分ΔEs、速度エネルギーの変化分ΔEk、及び、ポテンシャルエネルギー変化分ΔEpの合計(ΔE=ΔEs+ΔEk+ΔEp)であり、これらを求めて、エネルギー増分ΔEが最小になる曲率半径Rを決めることができ、式(9)から液膜の表面形状が決定される。尚、表面エネルギー変化分ΔEsは、壁部側面を濡らすエネルギー変化分(表面張力σを用いてヤングの方程式から求められる)、及び、気液界面面積の増加に伴う仕事量を求め、これらの和として定められる。速度エネルギーの変化分ΔEkは、Nusselt分布領域と一定速度領域とに区分した速度分布を仮定して、この速度分布を用いた速度エネルギーの積分によって求められる。速度分布における領域を区分する値としては、壁部付近の液膜に作用する重力と粘性力とが釣り合う条件によって決定される膜厚δcが用いられる。ポテンシャルエネルギー変化分ΔEpは、幾何学的な関係から求められる。
【0041】
図12は、壁部を有する平板材上に液膜を形成した場合の液膜の高さ(=膜厚)hと壁部からの距離xとの関係を実験測定又はCFD解析によって求めた結果を示す。上述の理論計算によって、式(9)から決定される液膜の表面形状も併せて
図12に記載している。実験測定及びCFD解析は、各々、設定条件が異なるが、何れの設定条件においても、実験測定又はCFD解析の結果と近い結果が理論計算によって得られることが判る。従って、壁部側面と液膜形成面とが曲面部を通じて連続するように形成された充填材要素上に形成される液膜についても、上述の理論計算において液膜形成面の形状に曲面部を加味して液膜の表面形状を決定し、曲面部の曲率半径Rsと液膜の表面形状との関係から曲率半径Rsの最適値を決定することができる。
【0042】
充填材の製造方法は、充填材要素を設計する設計工程と、原料素材を用いて充填材要素を作製する作製工程とを有する。設計工程において、本体部と少なくとも1つの壁部とを有する充填材要素を、壁部の側面が、液膜形成面と接続する根元において、液膜形成面に連続するように湾曲する曲面部を有するように設計する。その際に、以下のような決定手順による決定工程によって最適な曲率半径が得られ、そのような曲率半径を有する曲面部を設計することができる。
【0043】
<決定手順>
実験測定によって曲面部の曲率半径Rsの最適値を決定するには、充填材要素の素材を用いて、異なる曲率半径Rsで曲面部を設けた充填材要素の候補を作製し、各充填材要素を用いて、前述したような液膜の表面形状又は臨界ウェーバー数We
cの測定を繰り返し行う。
【0044】
表面形状の測定においては、結果として、
図4のような、各曲率半径Rsにおける表面形状のデータ(距離x及び液膜の高さh)が得られる。得られた表面形状から、最小化領域の出現が最も抑制された(又は消滅する)表面形状になる曲率半径Rsを決定する。或いは、
図5のような、各曲率半径Rsにおける液膜の高さの最小値と液膜中央部の値を、表面形状のデータから抽出し、液膜の高さの最小値と液膜中央部の値との差が最小になる曲率半径Rsを決定する。つまり、液膜の高さの最小値と液膜中央部の値との差を各曲率半径Rsについて計算し、これらを比較することで、曲率半径Rsの最適値が決定される。
【0045】
臨界ウェーバー数We
cの測定においては、
図6のような臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの関係が得られるので、得られた関係に基づいて、臨界ウェーバー数We
cが最小値になる曲率半径Rsを、最適値と決定する。
【0046】
上述の作業において、実験測定の代わりにCFD解析を行うことによって、曲率半径Rsの最適値を同様に決定できる。CFD解析は、既知の解析手法であるので、常法に従って行うとよい。一流体モデルにおける質量保存式(連続の式)及び運動量保存式(Navier-Stokes方程式)を解くことで、三次元非定常流れの数値的な解析結果が得られる。解析において、汎用熱流体解析ソフトウェアを用いることができ、例えば、FLUENT(登録商標、ANSYS社)等が挙げられる。気液界面の挙動は、界面追跡法用いて予測することができ、その一例としてVOF(Volume of Fluid)モデルなどが挙げられる。気体、液体及び固体(液膜形成面)の種類を定め、液膜形成面の角度β及び雰囲気温度を設定して、液体の流入境界における液膜厚さを規定し、一様流速で流入する条件で解析することができる。
【0047】
理論計算によって曲面部の曲率半径Rsの最適値を決定する方法の一例を以下に記載する。この方法においては、臨界ウェーバー数We
cと曲率半径Rsとの関係に基づいて曲率半径Rsの最適値を決定する。
【0048】
条件設定として、先ず、使用する充填材要素の素材及び液体の組成、及び、実施条件(温度)を設定し、これらに基づいて、液体の物性(密度、粘性、表面張力)、及び、固液接触に関する特性(前進接触角又は後退接触角)を設定する。更に、充填材要素の設置条件(液膜形成面の水平面に対する角度β)を定める。
【0049】
次に、前述の式(5)に従って、液体の前進接触角θ
Aから臨界ウェーバー数We
cを計算する。得られた臨界ウェーバー数We
cと、液体の動粘度ν、表面張力σ、密度ρ、液膜形成面の水平面に対する角度βとを用いて、前述の式(3)に示される液膜の平均厚さδを計算する。この計算値を、臨界条件における液膜厚さδ
cとして用いて、前述の式(7)から曲率半径Rcを求める。この値が、曲率半径Rsの最適値となる。
【0050】
得られた曲率半径Rsの最適値は、近似的な値であるが、この値に基づいて上述の実験計測又はCFD解析を行うと、最適値の確認や調整が可能である。つまり、実験測定及びCFD解析は、理論計算によって決定される曲率半径Rsの最適値を確認又は調整するために用いてもよい。理論計算によって曲率半径Rsの候補範囲を絞り、これに基づいて充填材要素を試作して実験測定やCFD解析を行うことによって、充填材要素を高精度で効率良く設計することができる。従って、気液接触装置2における実施条件の変更や装置改良に対応する場合においても有用である。曲率半径Rsは、概して、0.5〜50mm程度の範囲内の値を設定することができる。金属面に対する液体の後退接触角θ
Rは、20〜30°程度であることが多く、その場合、曲率半径Rsは、上述のような手法で3〜10mm程度の値に決定することができる。
【0051】
前術のように設計された充填材要素10を複数用意して、壁部の位置が列に揃うように並列状態に組み立てることによって、充填材1を構成することができる。充填材1を構成する際に、壁部Wがスペーサーとして機能し得る点を考慮すると、充填材要素10の設計において、スペーサーとしての要件に従って壁部Wの高さを設定すると良い。強度の観点から、壁部Wは、液膜形成面に対して実質的に垂直に設けるとよい。充填材1に液体A及びガスGを供給した際に、液膜形成及びガスの流通が良好に行える間隔で流路が構成されるように設定すると好都合である。ガスの流通抵抗が低くなるように壁部Wの高さ(壁部Wの頂部と液膜形成面とのレベル差)を設定するとよい。一般的な気液接触条件では、1mm程度以上の高さであると良く、1〜10mm程度に設定すると、容積当たりの気液接触効率などの点でも良好である。曲面部Scの曲率半径Rsに等しい高さの場合では、曲面部Scは、円柱面の1/4となり、高さが曲率半径Rsより小さくてもよい。高さが曲面部Scの曲率半径Rsを超える場合、壁部Wの側面Swは、液膜形成面に対して垂直であって曲面部Scの上側に連続する平面部を有する。しかし、高さが曲率半径Rsを超える形態において平面部がない構成も可能である。
【0052】
又、本体部を補強する点から、壁部Wの厚さ及び壁部W間の距離(≒液膜形成面の幅)は、補強要件を満たすように設定するとよい。液膜形成面の幅が減少すると、形成される液膜に最小化領域は生じ難くなるので、補強要件に基づいて設定される壁部W間の距離が小さいと、曲面部の曲率半径Rsは、最適値に特定する必要はなくなる。つまり、最適値を含むある程度の幅の範囲内に設定することが可能である。この点を考慮すると、曲面部Scの形状は、円柱面状には限定されず、壁部側面と液膜形成面とが連続するような他の凹曲面状、例えば、楕円柱面状などに形成することも可能である。この際、例えば、上述において説明した最適な曲率半径Rsの円柱面状の曲面部Scを参考にして、似通った形状の適正な湾曲に設計することができる。
【0053】
上述のような曲面部Scの設計に基づいて、長方形の平板材を用いて、
図3のような、液膜形成面の両側端に1対の壁部を有する充填材要素10を作製することができる。壁部間の距離(≒液膜形成面の幅)が壁部の高さの2倍以上に設定されるような、流れ方向に垂直な断面が略長方形である流路において、液膜形成面上を流れる液体を収束させずに、液流れ方向に伸長する液膜を好適に形成することができる。従って、液体とガスとが良好に接触する。実用的には、壁部間の距離が壁部の高さの5〜1000倍程度、特に10〜100倍程度であるような薄層状の流路を構成して、好適な液膜形成による効率的な気液接触と充填材要素の強度確保とを両立できる。このような構成は、容積当たりの気液接触面積を大きく設定できるので、ガスの圧力損失(つまり、エネルギー消費の増加)を抑制しつつ大容量の処理を効率的に実施することが可能である。従って、大型の気液接触装置への適用において有利である。
図3に示す充填材要素10の構成は、基本的な構成であり、様々な応用及び変形が可能である。以下に、その具体例を説明するが、本願における充填材要素10は、これらに限定されず、気液接触の実施環境や充填材の製造条件等を考慮して様々に変更することができる。
【0054】
図13(a)〜(c)の充填材要素10A,10B,10Cは、壁部と本体部とが一体に構成される実施形態であり、
図13(d)及び13(e)の充填材要素10D,10Eは、別体として用意した壁部及び本体部を接合して、充填材要素10A,10Cと同様の形状に構成する実施形態である。充填材要素10A,10B,10Cは、平板状の素材に溝を形成する切削加工や、溶融原料の型成形等によって作製することができる。充填材要素10D,10Eは、原料素材から各部を作製し、素材に適用可能な接合方法によって壁部と本体部とを接着することで得られるので、各部の成形加工に適用可能な方法が幅広い。
【0055】
図13(a)の充填材要素10Aは、本体部BAの両側端の壁部WA及び中央の壁部WA’を有し、
図3の形態に比べて、壁部による補強効果が大きい。つまり、壁部の数及び位置は、補強の必要度合いに応じて適宜変更すれることができる。本体部の両側端に壁部を設ける必要はなく、一側又は両側に壁部を設けない構成も可能である。例えば、
図13(b)の充填材要素10Bは、本体部BBの一側端には壁部が設けられず、又、壁部WB’は、中央から外れた位置に設けられる。この充填材要素10Bは、強度バランスの点で偏っているが、充填材要素から組み立てられる充填材全体としてのバランスが良好である、或いは、壁部の位置が全体として一列に揃うようであれば利用可能である。
【0056】
液膜形成面が鉛直になるように充填材要素を設置して使用した場合、壁部間の液膜形成面だけでなく、壁部と反対側の背面においても液膜が形成可能である。従って、そのような使用形態においては、両面において液膜破断を抑制し得ると好ましい。
図13(c)の充填材要素10Cは、複数の充填材要素を並列させて組み立てた充填材において、本体部BCの背面Sbにおける液膜破断を抑制可能な構成である。充填材要素10Cにおいて、壁部WC,WC’の先端が、根元と同様に広がって、根元の曲面部Scと同じ曲率半径の曲面部Sc’が形成される。従って、充填材要素10Cを積層状態に並列させた時、壁部WC,WC’の先端が隣りの充填材要素の背面に密接して、先端の曲面部Sc’が隣の充填材要素の背面と連続し、背面は、液膜形成面Sfと同じ状態になる。原料素材が金属等の展延性を有する場合、充填材要素10Cは、鍛造等の圧力による塑性加工を利用して、
図13(a)の形状の充填材要素10Aの壁部WA,WA’の先端を変形させて、壁部WC,WC’の先端部のように成形して得ることができる。素材が加熱等によって軟化する場合は、壁部先端を軟化させて同様に成形することができる。
図13(c)のような形態は、壁部WC,WC’の高さを低くして、壁部WC,WC’の側面を曲面部Sc,Sc’のみで構成するような変更も可能であり、その場合、壁部WC,WC’の高さは曲率半径Rsを超えるが、側面には平面部が含まれない。
【0057】
図13(d)及び13(e)の充填材要素10D,10Eにおいて、本体部BD,BEは、平板状である。従って、壁部WD、WD’,WE,WE’に相当するリブを加工して、平板に接合することによって作製できる。これらの形態は、1)壁部及び本体部を異なる素材で作製可能である、2)成形加工のやり直しが容易で製造ロスを削減し易い、などの利点がある。接合方法としては、例えば、公知の接着剤の利用や、熱圧着、溶着、融着等が挙げられる。又、充填材要素10D,10Eは、位置決めと接合とを同時に行えるように変形することができる。例えば、本体部BD,BEを構成する平板において、壁部を接合する位置に嵌め込み用の溝又は孔を設けて、この溝又は孔に嵌合し得る突起が壁部WD、WD’,WE,WE’の底面(接合面)から突出するように壁部を作製すると、突起を溝又は孔に嵌合することによって両者の接合が完了する。
【0058】
図14に示す充填材要素10Fは、表裏両面に液膜形成面を有する一実施形態である。本体部BFの両面において壁部WFが立設され、壁部WFの根元に曲面部Sc,Sc’が形成されるので、本体部BFの両面に好適な液膜形成面が形成される。故に、この実施形態は、鉛直な立位での使用については、単独でも複数による積層状態でも良い。
【0059】
図15(a)〜(e)は、塑性加工可能な薄層板状の素材に曲げ加工を施すことによって作製可能な充填材要素の実施形態を示す。従って、これらの実施形態では、本体部BG〜BKと壁部WG〜WKとが一体である。
【0060】
図15(a)の充填材要素10Gは、コルゲート様に曲げ加工を施した実施形態であり、一面においては、両側端に曲面部Scを有する液膜形成面が形成され、他面においては、曲面部Sc’を有する液膜形成面が形成される。従って、この実施形態では、充填材要素10Fと同様に、鉛直な立位での使用において、良好な液膜が両面に形成される。壁部WGに挟まれた液膜形成面の背面側において、液膜形状に最小化領域は生じず、背面側においても良好に液膜が形成される。
【0061】
図15(b)の充填材要素10Hは、
図13(a),(d)の充填材要素10A,10Dに対応する形状に成形した実施形態である。壁部WHの先端は、薄層板状素材の一部を屈折さて密接させることで形成され、壁部WHの根元を湾曲させて曲面部Scが形成される。これにより、両側端が曲面部Scに連続する液膜形成面が、一面側において構成される。従って、充填材要素10Hは、
図13(a),(d)の充填材要素10A,10Dと同様の機能を有し、鉛直方向から傾斜させて設置した状態(角度β<90°)での使用において、壁部WH間の液膜形成面上に良好な液膜が形成される。充填材要素10Hは、
図15(d)又は15(e)のように変形しても良い。充填材要素10Jの壁部WJは、薄層板状素材を密接しないようにV字形に屈折させて形成され、壁部WJの側面は本体部BJに対して垂直ではなく傾斜するが、壁部WJの根元には曲面部Scが同様に形成される。充填材要素10Kの壁部WKは、薄層板状素材を波形に湾曲させて形成され、壁部WKの根元には曲面部Scが同様に形成される。
【0062】
図15(c)の充填材要素10Iは、
図13(c),(e)の充填材要素10C,10Eに対応する形状に成形した実施形態である。壁部WIは、
図15(b)の壁部WHを形成した後に、壁部先端が根元と同様に広がるように成形加工を施すことによって得られ、
図13(c)の実施形態について記載したような塑性加工が利用可能である。
【0063】
このように、壁部側面と液膜形成面との境界に好適な湾曲の曲面部を有するように充填材要素を設計することによって、壁部による液膜形成への影響が抑制され、良好な状態で液膜が形成される充填材要素が提供される。平面状の液膜形成面に対して壁部が立設することによって、本体部が補強される。多数の充填材要素を並列させて充填材を組み立てる際に、壁部がスペーサーとしても機能するので、組み立て作業が容易である。従って、気液接触処理を行う際の充填材の変形や歪みが抑制できると共に、軽量化を図ることが可能である。故に、充填材を適用する装置の軽量化ができる。又、充填材の製造加工費用を削減でき、経済的に非常に有利である。
【0064】
上述のような薄層状の充填材要素を利用して、四角柱状や円柱状の充填材に限らず、多角柱状の充填材や楕円柱状等の様々な柱状の充填材を構成可能である。円柱状の充填材を構成するための充填材要素の本体部Bの形状は、円柱を軸方向に沿って等間隔に切断した平行な断面に対応する長方形であり、使用する充填材要素の横幅は各々異なる。全ての充填材要素を並べて充填材1を組み立て、これを、円環状の側壁を有する容器3内に装填する。充填材要素を並列させた状態において壁部が真っ直ぐ連なるように壁部の位置を揃えると、充填材全体としての強度が得られる。
【0065】
上述のような充填材1を用いた気液接触装置2によって処理されるガスGとして、例えば、化学プラントや火力発電所等の設備内で発生した廃ガス(排ガス)や反応ガスが挙げられ、屡々、二酸化炭素や、窒素酸化物、硫黄酸化物等の酸性ガスが特定成分として処理される。ガスGから除去する特定成分に応じて、吸収液として使用する液体Aが選択され、例えば、二酸化炭素の回収除去には、環状アミン化合物やアルカノール系アミンやフェノール系アミン、アルカリ金属塩等のアルカリ剤の水溶液が屡々用いられ、硫黄酸化物の除去には、カルシウム化合物、マグネシウム化合物などのアルカリ剤の水性液が一般的に用いられる。二酸化炭素の回収において屡々用いられるモノエタノールアミン(MEA)水溶液では、二酸化炭素との反応によって、カルバミン酸塩・アミン塩(カーバメート)、炭酸塩、重炭酸塩等が生じる。
【0066】
このため、気液接触装置2を構成する各部は、上述したようなガスGの成分や液体Aに含まれる化学薬剤に対して耐性を有する素材で製造される。そのような素材として、例えば、ステンレス綱、アルミニウム、ニッケル、チタン、炭素鋼、真鍮、銅、モネル、銀、スズ、ニオブ等の金属や、ポリエチレン、ポリプロピレン、PTFE等の樹脂が挙げられる。充填材1及びこれを構成する充填材要素も、少なくとも表面が、上述のような、処理するガスG及び使用する液体Aとの反応(腐食)を生じない耐食性の素材で構成される。素材は、やすりがけ、サンドブラスト処理、紫外線オゾン処理、プラズマ処理などの表面加工によって表面に微小な凹凸を形成して表面粗さを付与したものであっても良く、また、コーティング等による表面の改質によって、上述のような使用条件に合うように調製した素材であってもよい。金属素材を用いる場合、充填材要素は、厚さが均一な平板又は薄層材に、溝加工や曲げ加工を施すことによって容易に作成することができる。樹脂素材で作成する場合は、曲げ加工において熱を加える、或いは、型に溶融樹脂を投入して成型することによって作製可能である。金属線を用いた金網やパンチングメタル板、エキスパンドメタル板等の網目状の板材は、単体で自立可能な程度に強度を保持しつつ重量を減少させることが可能な板材であり、液体の濡れ広がりにおいても優れた性質を示すので、充填材として好ましい素材である。極めて目が細かい場合、蛇行流の集合体として形成される液膜は層状に近づいて、平板に類似した液膜形成が可能になるので、例えば、
図15のような充填材要素を構成する素材に適用しても良い。
【0067】
このように、本開示によって、排ガスや混合ガス等の被処理ガスから酸性ガスや有害ガス等の特定ガス成分を分離、除去又は回収するガス浄化装置、ガス分離装置等への適用に適した充填材が提供される。又、被処理ガスと吸収液との気液接触に優れた性能を発揮する充填材の製造方法が提案される。尚、本開示に係る充填材1は、上述のような特定成分を吸収・分離・除去するための気液接触装置に限らず、蒸留、精製、放散等の化学プロセスを含む種々の化学プラントにおいて使用される装置(蒸留塔、精製塔、放散塔(再生塔)等)に適用することも可能である。
【実施例】
【0068】
<試料の作製>
長さが60mmのステンレス
鋼(SUS304)製の平板材を用意し、断面が長方形の流路(横幅<50mm、深さ<5mm)を平板材の長さ方向に沿って形成した。この作業は、放電加工による削り出し、及び、φ20mmのエンドミルを用いた仕上げによって行った。更に、ラジアスエンドミルを用いて、流路の底面及び側面に加工を加えて、横幅が50mm、深さが5mmで、流路底面の両側に円柱面状に湾曲した曲面部(曲率半径Rs=1.0mm)を有する形状に仕上げた。
【0069】
上述の作業において使用するラジアスエンドミルを、先端の曲率が異なるものに変更して同様の作業を繰り返すことによって、流路の曲面部の曲率半径が異なる平板材(曲率半径Rs=2.5mm、3.0mm、4.5mm、5.5mm、6.0mm、6.5mm及び7.0mm)を得た。
【0070】
<液膜表面の形状測定>
上述の流路を形成した平板材を、充填材要素10の試料として用いて、液膜表面の形状測定を以下のように行った。
【0071】
水平面に対する平板材の角度βが60°であるように平板材を設置し、液体として水(20℃、ウェーバー数We=0.8)を所定の流量で流路に供給し、流路底面(液膜形成面)上を流下させて液膜を形成した。水の供給は、流路の幅方向単位当たりの供給量が同一になるように均等に行った。
【0072】
ニードルプローブ(触針の外径=0.5mm、鉛直方向に対する触針角度θ=10°)を用いた触針法に従って、流路の供給口から30mm下流側の位置における液膜表面を、流路の幅方向に沿って測定した。測定結果から、液膜形成面を基準とする液膜表面の位置として液膜高さを決定し、流路の側面からの距離と液膜高さとの関係をグラフに示すことによって、
図4のような表面形状が得られた。
【0073】
<臨界ウェーバー数We
cの測定>
液膜表面の形状測定と同様に平板材を設置し、流路に水を供給する際に、流量を徐々に増加させた。これによって、流路底面上に形成される液膜が拡がり、ドライアウト領域が消滅して流路底面全体に液膜が形成された時の水の流量を決定した。これを用いて、式(1)から臨界ウェーバー数We
cを計算した。得られた臨界ウェーバー数と曲面部の曲率半径との関係をグラフに示すと、
図6のようになった。
【0074】
<異なる液体を用いた測定1>
流路に供給する液体を、エタノール濃度(質量値)が20%の水溶液(20℃、ウェーバー数We=0.8)に代えたこと以外は同様にして、上述の液膜表面の形状測定を繰り返した。流路の側面からの距離と液膜高さとの関係を示すグラフを作成したところ、
図7のような表面形状が得られた。この結果から、曲面部の曲率半径Rsと臨界ウェーバー数We
cとの関係を求めたところ、
図9のようなグラフが得られた。このグラフにおいて、臨界ウェーバー数We
cが最小になる最適な曲率半径Rsは、約6.0mmであった。
【0075】
<異なる液体を用いた測定2>
流路に供給する液体を、グリセリン濃度(質量値)が60%の水溶液(20℃、ウェーバー数We=0.8)に代えたこと以外は同様にして、上述の液膜表面の形状測定を繰り返した。流路の側面からの距離と液膜高さとの関係を示すグラフを作成したところ、
図8のような表面形状が得られた。この結果から、曲面部の曲率半径Rsと臨界ウェーバー数We
cとの関係を求めたところ、
図10のようなグラフが得られた。このグラフにおいて、臨界ウェーバー数We
cが最小になる最適な曲率半径Rsは、約6.5mmであった。
【0076】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はこのような実施形態に限定されず、請求の範囲に記載された範疇において、当業者が想到し得る各種の変更例又は修正例についても当然に本開示の技術的範囲に属するものと理解される。