(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1工程では、前記シリコンウェーハのチルト角およびツイスト角がともに0°となるように、前記クラスターイオンの照射を行う、請求項1または2に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
前記第1工程と前記第2工程の間に、前記シリコンウェーハの表面を洗浄する工程をさらに有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1によれば、クラスターイオンを照射することにより形成した改質層が、モノマーイオン(シングルイオン)を注入することにより形成したイオン注入層よりも高いゲッタリング能力を有する。そして、この高いゲッタリング能力によって、裏面照射型固体撮像素子の白傷欠陥を低減することができると記載されている。しかしながら、本発明者らがその後さらに検討したところ、さらなる改善の余地があることが判明した。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み、高いゲッタリング能力を有しつつ、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができるエピタキシャルシリコンウェーハを得ることが可能なエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、高いゲッタリング能力を有しつつ、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができるエピタキシャルシリコンウェーハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、裏面照射型固体撮像素子の製造工程について検討した。裏面照射型固体撮像素子は、例えば
図3に示す工程を経て作製される。まず、裏面照射型固体撮像素子の基板となるエピタキシャルシリコンウェーハを用意する(
図3(A))。このシリコンエピタキシャルウェーハは、p
+シリコンウェーハと、該p
+シリコンウェーハの表層に形成された、クラスターイオンの構成元素である炭素が固溶してなる改質層(ゲッタリング層)と、該改質層上に形成されたp
-シリコンエピタキシャル層と、を有する。次に、p
-シリコンエピタキシャル層にフォトダイオードなどのデバイスを形成した後に、p
-シリコンエピタキシャル層上に配線層を形成する(
図3(B))。次に、エピタキシャルシリコンウェーハをアニールして、基板内に拡散した重金属を改質層に引き寄せて、デバイスを形成した領域(デバイス形成領域)の重金属の濃度を低減させる(
図3(C))。次に、エピタキシャルシリコンウェーハの表裏面を反転させた後に、支持基板とエピタキシャルシリコンウェーハとの間に配線層が位置するように、支持基板とエピタキシャルシリコンウェーハを接合する(
図3(D))。次に、p
+シリコンウェーハを研削して除去した後に、デバイス形成領域(厚さ:3μm程度)が残るように、p
-シリコンエピタキシャル層を薄膜化する(
図3(E))。以上の工程を経て、裏面照射型固体撮像素子が完成する。
【0009】
裏面照射型固体撮像素子では、p
-シリコンエピタキシャル層が最終的に薄膜化されるので、薄膜化する前のp
-シリコンエピタキシャル層は、表面照射型固体撮像素子における10μm程度と比較して、6μm程度と薄く設計されている。そのため、従来のようにシリコンウェーハの表面近傍に改質層が存在すると、改質層における炭素のピークは、p
-シリコンエピタキシャル層に形成されたデバイス形成領域の近くに位置することになる。このように炭素のピーク位置がデバイス形成領域に近いと、
図3(C)に示すアニール後の重金属の深さ方向の濃度プロファイルは、改質層に近づくにつれて高い濃度を示すが、その濃度プロファイルの裾(テイル)はデバイス形成領域にまで広がり、これに起因して裏面照射型固体撮像素子の暗電流が増加して、白傷欠陥が生じる場合があることが判明した。
【0010】
そこで、本発明者らは、さらなる検討を進めたところ、モノマーイオンを生成するための装置として従来から用いられているバーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて、C
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオンを生成すれば、従来と同じ照射エネルギーで比較した場合に、改質層におけるクラスターイオンの構成元素の深さ方向の濃度プロファイルのピークをシリコンウェーハの表面からより深い位置(150nm超えの位置)に形成することができ、その結果、高いゲッタリング能力を有しつつ、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができるエピタキシャルシリコンウェーハが得られることを知見した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)シリコンウェーハの表面に、バーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて生成したC
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオンを照射して、前記シリコンウェーハ内に、前記クラスターイオンの構成元素である炭素および水素が固溶してなる改質層を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記表面上にシリコンエピタキシャル層を形成する第2工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記改質層における前記炭素および前記水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークを、前記シリコンウェーハの前記表面からの深さが150nm超え2000nm以内の範囲にそれぞれ位置させることを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0012】
(2)前記第1工程では、前記クラスターイオンを170μA以上のビーム電流値で照射する、上記(1)に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0013】
(3)前記第1工程では、前記シリコンウェーハのチルト角およびツイスト角がともに0°となるように、前記クラスターイオンの照射を行う、上記(1)または(2)に記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0014】
(4)前記第1工程と前記第2工程の間に、前記シリコンウェーハの表面を洗浄する工程をさらに有する、上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法。
【0015】
(5)シリコンウェーハと、前記シリコンウェーハ内に形成された、炭素および水素が固溶してなる改質層と、前記改質層上に形成されたシリコンエピタキシャル層と、を有し、
前記シリコンウェーハの表面からの深さが150nm超え2000nm以内の範囲に、前記改質層における前記炭素および前記水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークがそれぞれ位置することを特徴とするエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0016】
(6)前記炭素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置と前記水素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置との差が1000nm以内である、上記(5)に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0017】
(7)前記炭素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク濃度と前記水素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク濃度がともに1×10
16atoms/cm
3以上である、上記(5)または(6)に記載のエピタキシャルシリコンウェーハ。
【0018】
(8)上記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の製造方法で製造されたエピタキシャルシリコンウェーハまたは上記(5)〜(7)のいずれか一つに記載のエピタキシャルシリコンウェーハのシリコンエピタキシャル層に、固体撮像素子を形成することを特徴とする固体撮像素子の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高いゲッタリング能力を有しつつ、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができるエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、
図1では説明の便宜上、実際の厚さの割合とは異なり、シリコンウェーハ10に対して改質層14およびシリコンエピタキシャル層16の厚さを誇張して示す。
【0022】
(エピタキシャルシリコンウェーハの製造方法)
図1を参照して、本発明の一実施形態によるエピタキシャルシリコンウェーハ100の製造方法を説明する。本実施形態では、第1工程にて、シリコンウェーハの表面10Aに、バーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて生成したC
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオン12を照射して、シリコンウェーハ10内に、クラスターイオン12の構成元素である炭素および水素が固溶してなる改質層14を形成する(
図1(A),(B))。この時、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークを、シリコンウェーハの表面10A(すなわち、クラスターイオン12を照射した側の表面)からの深さが150nm超え2000nm以内の範囲にそれぞれ位置させる。次に、第2工程にて、当該表面10A上にシリコンエピタキシャル層16を形成する(
図1(B),(C))。
図1(C)は、この製造方法によって得られたエピタキシャルシリコンウェーハ100の模式断面図である。以下、各工程を詳細に説明する。
【0023】
[第1工程]
図1(A),(B)を参照して、第1工程では、シリコンウェーハの表面10Aに、バーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて生成したC
nH
m(n=1,2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオン12を照射する。シリコンウェーハ10内に注入されたクラスターイオン12は、瞬間的に1350〜1400℃程度の高温状態となり融解し、その後、急速に冷却され、シリコンウェーハ10の所定の深さ位置で、クラスターイオン12の構成元素である炭素および水素が再結晶化して、局所的に高濃度に固溶してなる改質層14が形成される。なお、シリコンウェーハ10としては、チョクラルスキー法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスして得た単結晶シリコンウェーハを使用することができる。あるいは、このような単結晶シリコンウェーハに対して、任意の不純物を添加して、n型またはp型シリコンウェーハとしたものを用いてもよく、炭素および/または窒素を添加したものを用いてもよい。
【0024】
第1工程にて形成された改質層14は、ゲッタリングサイトとして働き、その理由は以下のように推測される。すなわち、シリコンウェーハ10に注入された炭素および水素は、シリコン単結晶の置換位置・格子間に高密度で局在する。そして、シリコン単結晶の平衡濃度以上で炭素および水素が固溶すると、重金属の固溶度(遷移金属の飽和溶解度)が極めて増加することが実験的に確認されている。つまり、平衡濃度以上に固溶した炭素および水素により重金属の固溶度が増加し、これにより重金属に対する捕獲率が顕著に増加するものと考えられる。
【0025】
ここで、本発明は、バーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて生成したC
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオンを照射して、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークを、シリコンウェーハ10の表面のうちクラスターイオン12を照射した側の表面10Aからの深さが150nm超え2000nm以内の範囲にそれぞれ位置させることが重要である。以下では、バーナス型イオン源およびIHC型イオン源、ならびにこれらのイオン源を備えるイオン照射装置70の一形態を、
図2(A)〜(C)を参照して詳細に説明する。なお、本明細書において「クラスターイオン」とは、2種以上の原子が複数集合して塊となったクラスターであって、正または負の電荷を有するものを意味する。また、本明細書において「クラスターサイズ」とは、1つのクラスターを構成する原子の個数を意味する。
【0026】
図2(A)を参照して、イオン照射装置70は、イオン源20と、前段加速機構30と、質量分析機構40と、後段加速機構50と、照射室60と、を有する。まず、イオン源20にてクラスターイオンを生成して、これをイオンビームとして取り出し、前段加速機構30に送る。次に、前段加速機構30にて、クラスターイオンを加速(前段加速)させて、イオンビームとして取り出し、質量分析機構40に送る。次に、質量分析機構40にて、磁場による質量分析を行って、所定の質量を有するクラスターイオンのみをイオンビームとして取り出し、後段加速機構50に送る。次に、後段加速機構50にて、クラスターイオンをさらに加速(後段加速)させて、イオンビームとして取り出し、照射室60に送る。次に、照射室60にて、ウェーハ固定台に載置および固定されたシリコンウェーハ10に対して、イオンビーム(クラスターイオンが集束した、束状に並進するビーム)を照射する。なお、
図2(A)における矢印はイオンビームを表わす。
【0027】
図2(A)に示すイオン源20としては、バーナス型イオン源またはIHC(Indirectly Heated Cathode)型イオン源を用いることができる。以下では、
図2(B),(C)を参照して、バーナス型イオン源またはIHC型イオン源を用いて、クラスターイオンを生成する方法をそれぞれ説明する。
【0028】
図2(B)を参照して、バーナス型イオン源20は、アークチャンバ21と、原料ガス導入口22と、イオン取出口23と、U字型のフィラメント24と、リフレクタ25と、電流電圧印加装置26と、磁場発生装置27と、真空ポンプ28と、を有する。アークチャンバ21は、イオン生成室を区画するチャンバである。原料ガス導入口22は、アークチャンバ21に設けられており、そこから原料ガスをアークチャンバ21内に導入する。イオン取出口23は、アークチャンバ21に、好ましくは原料ガス導入口22に対向した位置に設けられており、アークチャンバ21内で生成したクラスターイオンは、前段加速機構30によって加速される。フィラメント24およびリフレクタ25は、アークチャンバ21内に互いに対向した位置に設けられている。電流電圧印加装置26は、アークチャンバ21の外に設けられており、アークチャンバ21とフィラメント24に接続されている。磁場発生装置27は、アークチャンバ21の外に互いに対向するように設けられている。真空ポンプ28は、アークチャンバ21に接続されている。
【0029】
バーナス型イオン源20では、以下の方法によりクラスターイオンを生成する。まず、真空ポンプ28により、アークチャンバ21内を減圧する。次に、原料ガス導入口22からアークチャンバ21内に原料ガスを導入する。次に、電流電圧印加装置26により、アークチャンバ21に正の電圧を印加するとともに、フィラメント24に負の電圧を印加する。次に、磁場発生装置27により、アークチャンバ21内に磁場を発生させる。次に、電流電圧印加装置26によりフィラメント24に電流を流して、フィラメント24を加熱する。これにより、フィラメント24から放出された熱電子e
-が、電場と磁場の影響を受けて、フィラメント24とリフレクタ27との間を往復運動し、原料ガスと高い確率で衝突することで、原料ガスを高い効率で電離させる。その結果、密度の高い原料ガスのプラズマが生成する。次に、生成したプラズマに含まれる原料ガスのクラスターイオンをイオンビームとしてイオン取出口23から取り出す。
【0030】
図2(C)を参照して、IHC型イオン源は、バーナス型イオン源と異なり、フィラメント24が、プラズマに直接曝されないようにアークチャンバ21の外に設けられており、さらにカソード29がフィラメント24に対向するように、アークチャンバ21の壁に設けられており、カソード29にも電流電圧印加装置26が接続されている。なお、その他の構成は、
図2(B)を参照して説明したバーナス型イオン源と同様である。
【0031】
IHC型イオン源20では、以下の方法によりクラスターイオンを生成する。まず、真空ポンプ28により、アークチャンバ21内を減圧する。次に、原料ガス導入口22からアークチャンバ21内に原料ガスを導入する。次に、電流電圧印加装置26により、アークチャンバ21とフィラメント24に正の電圧を印加するとともに、カソード29に負の電圧を印加する。次に、磁場発生装置27により、アークチャンバ21内に磁場を発生させる。次に、電流電圧印加装置26によりフィラメント24に電流を流して、フィラメント24を加熱する。これにより、フィラメント24から放出された熱電子e
-が、カソード29に衝突し、カソード29を加熱させる。すると、カソード29からさらなる熱電子e
-が発生し、この熱電子e
-が電場と磁場の影響を受けて、カソード29とリフレクタ25との間を往復運動し、原料ガスと高い確率で衝突することで、原料ガスを高い効率で電離させる。その結果、密度の高い原料ガスのプラズマが生成する。次に、生成したプラズマに含まれる原料ガスのクラスターイオンをイオンビームとしてイオン取出口23から取り出す。
【0032】
なお、IHC型イオン源は、バーナス型イオン源に比べて、高密度のプラズマ形成に対して制御性がよいので、高いビーム電流値を確保しやすく、また、フィラメント24が直接プラズマに曝されないので、長寿命である。
【0033】
原料ガスは、2−メチルペンタンや2,4ジメチルペンタンなどが挙げられる。2-メチルペンタンや2,4ジメチルペンタンは、分子構造中にCH系を有しており、イオン源20における熱電子e
-によってC=C結合が切断され、その結果、C
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)といったクラスターサイズが小さなクラスターイオンが得られる。第1工程では、C
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオンを単独で、または2種以上を組み合わせて照射してもよいが、CH
3を照射することが特に好ましい。CH
3は、炭素に対する水素の濃度比が大きく、より多くの水素を注入することができるので、パッシベーション効果により界面準位起因の白傷欠陥をより抑制することができるからである。なお、このような特定の種類のクラスターイオンは、
図2(A)に示す質量分析機構40にて、公知または任意の方法で質量分析を行うことで取り出すことができる。
【0034】
さらに、原料ガスとして、ジエチルエーテルや2プロパノールや2メチル2プロパノールやテトラヒドロピランのように酸素を含むガスを用いてもよい。酸素を含むと、アークチャンバ21内やフィラメント24に堆積した炭素起因の堆積物が酸素イオンによりスパッタされるので、イオン源の寿命と性能を向上させることができるからである。なお、酸素に対する炭素の組成比は2倍以上にすることが好ましい。例えば、炭素と酸素の組成比が1:1のように酸素の比率が高いと、酸素イオンがフィラメント24を過剰にスパッタしてしまい、熱電子が発生しにくくなるおそれがあるからである。
【0035】
アークチャンバ21内の圧力は5.0×10
-2Pa以下とすることが好ましい。
【0036】
アークチャンバ21内の電圧(アーク電圧)は45V以上90V以下とすることが好ましく、アークチャンバ21内の電流(アーク電流)は100mA以上5000mA以下とすることが好ましい。このような電圧および電流の範囲であれば、170μA以上のビーム電流を実現することができる。
【0037】
磁場発生装置27により発生させる外部磁場は0.5A/m以上1.5A/m以下とすることが好ましい。
【0038】
原料ガスの流量は、3cc/min以上5cc/min以下とすることが好ましい。3cc/min以上であれば、C
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)といったクラスターサイズが小さなクラスターイオンであっても170μA以上のビーム電流値を確保することができ、5cc/min以下であれば、炭化堆積物の影響によるビーム電流値低下のおそれが少ないからである。
【0039】
なお、フィラメント24の材料は、一般的なタングステンを用いることができるが、フィラメント24に、原料ガスに含まれる電離されていない炭化水素化合物とフィラメント24の材料との反応生成物が形成されるのを抑制することで、イオン源20を長寿命化する観点から、タンタルを用いることがより好ましい。
【0040】
このようなバーナス型イオン源やIHC型イオン源は、従来、二酸化炭素やホスフィンを原料として炭素イオンやリンイオンなどのモノマーイオンを生成するための装置として用いられており、原料ガスの分子結合を完全に切断して原子イオンを生成することを目的とした装置であるため、原料ガスの電離効率が非常に高い。本実施形態は、このように電離効率が非常に高いバーナス型イオン源やIHC型イオン源を、クラスターイオンを生成するための装置として用いる、つまり、これらのイオン源にクラスターイオンを生成するための原料ガスを導入するので、例えば従来のC
nH
m(3≦n≦16、3≦m≦10)といったクラスターイオンよりもクラスターサイズが小さなクラスターイオンを170μA以上という高いビーム電流値で生成することができる。そのため、従来と同じ照射エネルギーで比較した場合に、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークを従来よりも深い位置、具体的には、シリコンウェーハの表面のうち、クラスターイオン12を照射した側の表面10Aから150nm超えの位置に形成することができ、その結果、高いゲッタリング能力を有しつつ、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができるエピタキシャルシリコンウェーハを得ることができるのである。なお、本明細書において「濃度プロファイル」とは、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定で得られた深さ方向の濃度分布を意味する。これに対して、特許文献1に記載の技術は、好ましくは近接ゲッタリングを可能とする技術であり、実際には表面照射型固体撮像素子に適したゲッタリング技術である。そのため、特許文献1に記載のイオン源は、本来、C
nH
m(3≦n≦16、3≦m≦10)といったクラスターサイズが大きなクラスターイオンを生成することを目的とした装置であり、イオン源のチャンバ内ではプラズマが発生しない。したがって、クラスターサイズが小さなクラスターイオンを高いビーム電流値で生成することは技術的に困難である。
【0041】
クラスターイオンの加速エネルギーは、前段加速機構30では30keV/Cluster以上40keV/Cluster以下とすることが好ましい。後段加速機構50では、40keV/Cluster以上970keV/Cluster以下とすることが好ましい。前段加速機構30および後段加速機構50による加速エネルギーが合計で70keV/Cluster以上であれば、炭素および水素の濃度プロファイルのピークをシリコンウェーハ表面10Aから深さが150nm以上にそれぞれ位置させることができ、970keV/Cluster以下であれば、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークを、シリコンウェーハの表面10Aからの深さが2000nm以内の範囲にそれぞれ位置させることができるからである。なお、本実施形態では、後段加速機構50通過後の加速エネルギーがシリコンウェーハ10に対するクラスターイオンの照射エネルギーとなる。
【0042】
クラスターイオンのドーズ量は、以下の範囲になるように、ビーム電流値やイオン照射時間を制御することにより調整することができるが、本実施形態では、イオン源20にて170μA以上という高いビーム電流値が得られるので、イオン照射時間は、従来のクラスターイオンの照射に比べて短く、例えば、ドーズ量を1.0×10
15atoms/cm
2として、CH
3のクラスターイオンを照射する場合、180s〜2120sの範囲から調整することができる。そのため、クラスターイオン照射に伴う、シリコンウェーハの表面10Aのダメージを抑制することができ、サイズ150nm以上のエピタキシャル欠陥を10個/ウェーハ以下に抑制することができる。ドーズ量は1×10
13atoms/cm
2以上1×10
16atoms/cm
2以下とすることが好ましく、5×10
13atoms/cm
2以下とすることがより好ましい。1×10
13atoms/cm
2以上であれば、炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク濃度をともに1×10
16atoms/cm
3以上にすることができるので、より高いゲッタリング能力を得ることができ、1×10
16atoms/cm
2以下であれば、エピタキシャル欠陥が発生するおそれがないからである。
【0043】
クラスターイオンの照射においては、シリコンウェーハの表面10Aの法線とイオンビームとがなす角度で定義されるチルト角を0°とすることが好ましく、シリコンウェーハ10をその中心まわりに基準位置(ノッチ)から回転させた角度で定義されるツイスト角を0°とすることが好ましい。クラスターイオンの照射に伴うシリコンウェーハの表面10Aのダメージを抑制することができるので、エピタキシャル欠陥を10個/ウェーハ以下に抑制することができるからである。
【0044】
[第2工程]
図1(B),(C)を参照して、第2工程では、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition)法により、シリコンウェーハ10の表面のうち改質層を形成した側の表面10A(すなわち、クラスターイオン12を照射した側の表面)上にシリコンエピタキシャル層16を一般的な条件で形成する。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどの原料ガスをチャンバ内に導入し、1000℃以上1150℃以下で、シリコンエピタキシャル層16をエピタキシャル成長させる。シリコンエピタキシャル層16の厚さは、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。1μm以上であれば、シリコンウェーハからのドーパントの外方拡散により、シリコンエピタキシャル層の抵抗率が変化するおそれもなく、10μm以下であれば、固体撮像素子の分光感度特性に影響が生じるおそれがないからである。特に、シリコンエピタキシャル層16の一部を、裏面照射型固体撮像素子を製造するためのデバイス形成領域とする場合には、シリコンエピタキシャル層16の厚さは3μm以上6μm以下とすることがより好ましい。
【0045】
以上、本実施形態を例にして本発明のエピタキシャルシリコンウェーハの製造方法を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲内において適宜変更を加えることができる。
【0046】
例えば、第1工程と第2工程との間に、シリコンウェーハの表面10AをSC−1洗浄(例えば、体積比でH
2O:H
2O
2:NH
4OH=5:1:1の溶液)やSC−2洗浄(例えば、体積比でH
2O:H
2O
2:HCl=6:1:1の溶液)を行う工程を有してもよい。これにより表面10Aのパーティクルや重金属を除去することができるからである。
【0047】
(エピタキシャルシリコンウェーハ)
図1(C)を参照して、上記製造方法によって得られるエピタキシャルシリコンウェーハ100について説明する。エピタキシャルシリコンウェーハ100は、シリコンウェーハ10と、シリコンウェーハ10内に形成された、炭素および水素が固溶してなる改質層14と、改質層14上に形成されたシリコンエピタキシャル層16と、を有する。また、シリコンウェーハの表面10Aからの深さが150nm超え2000nm以内の範囲に、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークがそれぞれ位置することを特徴とする。
【0048】
エピタキシャルシリコンウェーハ100によれば、以下の作用効果が得られる。すなわち、エピタキシャルシリコンウェーハ100は、クラスターイオン12の構成元素である炭素および水素の析出領域を局所的かつ高濃度にすることができるので、高いゲッタリング能力を有する。また、エピタキシャルシリコンウェーハ100は、シリコンウェーハの表面10Aからの深さが150nm超え2000nm以内の範囲に、改質層14における炭素および水素の深さ方向の濃度プロファイルのピークがそれぞれ位置するので、裏面照射型固体撮像素子における白傷欠陥をより抑制することができる。
【0049】
改質層14は、C
nH
m(n=1または2、m=1,2,3,4または5)のクラスターイオンの構成元素が固溶しているので、クラスターイオンを構成する元素種、および原子個数から、炭素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置と水素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク位置との差を1000nm以内とすることができる。
【0050】
より高いゲッタリング能力を得る観点から、炭素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク濃度と水素の深さ方向の濃度プロファイルのピーク濃度がともに1×10
16atoms/cm
3以上であることが好ましい。
【0051】
以上、本実施形態を例にして本発明のエピタキシャルシリコンウェーハを説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、特許請求の範囲内において適宜変更を加えることができる。
【0052】
(固体撮像素子の製造方法)
本発明の一実施形態による裏面照射型固体撮像素子の製造方法は、上記製造方法で製造されたエピタキシャルシリコンウェーハまたは上記エピタキシャルシリコンウェーハ、すなわちエピタキシャルシリコンウェーハ100の表面に位置するシリコンエピタキシャル層16に、固体撮像素子を形成することを特徴とする。この製造方法により得られる固体撮像素子は、従来に比べ白傷欠陥の発生をさらに抑制することができる。
【実施例】
【0053】
(発明例)
[クラスターイオンの生成]
原料ガスを2−メチルペンタンとして、
図2(C)に示すIHC型イオン源(日新イオン機器社製、型番:IMPHEAT)を用いて、イオンを生成した。アークチャンバ内の圧力を2.2×10
-2Pa、アークチャンバの電圧を76Vとし、電流を2200mAとし、外部磁場を0.6A/mとし、原料ガスの流量を4.0cc/minとした。
【0054】
ここで、
図2(A)に示す質量分析機構を用いて、IHC型イオン源で生成したイオンの質量を分析した。分析結果を
図4に示す。
図4に示すマス値(AMU)15に該当するフラグメントがCH
3のクラスターイオンであり、マス値(AMU)26に該当するフラグメントがC
2H
2のクラスターイオンある。CH
3のビーム電流値は325μAであり、C
2H
2のビーム電流値は250μAであった。したがって、IHC型イオン源を用いて、従来よりもクラスターサイズが小さなクラスターイオンを170μA以上という高いビーム電流値で生成することができることを確認した。なお、
図4に示すCH
3やC
2H
2以外のフラグメントは、水素や炭素の原子イオンまたは単原子分子イオンなどである。
【0055】
[エピタキシャルシリコンウェーハの作製]
上記の条件で生成したイオンの中からCH
3のクラスターイオンを取り出し、これをp型シリコンウェーハ10(厚さ:725μm、ドーパント:ボロン、ドーパント濃度:8.5×10
18atoms/cm
3)の表面に照射して(
図1(A))、シリコンウェーハ内に、クラスターイオンの構成元素である炭素および水素が固溶してなる改質層14を形成した(
図1(B))。ドーズ量は1×10
15atoms/cm
2とし、前段加速および後段加速の合計の照射エネルギーは80keV/Clusterとし、チルト角は0°とし、ツイスト角は0°とした。
【0056】
次に、シリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した後、水素をキャリアガス、ジクロロシランをソースガスとして1150℃でCVD法により、シリコンウェーハの表面のうち改質層を形成した側の表面上にシリコンエピタキシャル層(厚さ:6μm)、ドーパント:ボロン、ドーパント濃度:1.0×10
15atoms/cm
3)をエピタキシャル成長させ、本発明に従うエピタキシャルシリコンウェーハ100を作製した(
図1(C))。
【0057】
(比較例)
[クラスターイオンの生成]
原料ガスをシクロヘキサンとして、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS)を用いて、C
3H
5のクラスターイオンを生成した。なお、クラスターイオンのビーム電流値は850μAであった。
【0058】
[エピタキシャルシリコンウェーハの作製]
このクラスターイオンをp型シリコンウェーハ(厚さ:725μm、ドーパント:ボロン、ドーパント濃度:8.5×10
18atoms/cm
3)の表面に照射して、シリコンウェーハの表面に、クラスターイオンの構成元素である炭素および水素が固溶してなる改質層を形成した。ドーズ量は1×10
15atoms/cm
2とし、照射エネルギーは80keV/Clusterとし、チルト角は0°とし、ツイスト角は0°とした。
【0059】
次に、シリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した後、水素をキャリアガス、ジクロロシランをソースガスとして1150℃でCVD法により、シリコンウェーハの表面のうち改質層を形成した側の表面上にシリコンエピタキシャル層(厚さ:6μm)、ドーパント:ボロン、ドーパント濃度:1.0×10
15atoms/cm
3)をエピタキシャル成長させ、エピタキシャルシリコンウェーハを作製した。
【0060】
(評価方法および評価結果)
まず、各発明例および比較例について、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定を行い、照射元素(炭素および水素)の深さ方向の濃度プロファイルを得た。評価結果を
図5(A),(B)及び
図6(A),(B)に示す。
【0061】
発明例では、
図5(A),(B)に示すように、炭素の濃度プロファイルのピークは、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハとの界面(すなわちシリコンウェーハの表面のうちクラスターイオンを照射した側の表面)から167nmの位置にあり、ピーク濃度は5.37×10
19atoms/cm
3であった。また、水素の濃度プロファイルのピークは、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハとの界面から167nmの位置にあり、ピーク濃度は7.36×10
17atoms/cm
3であった。一方、比較例では、
図6(A),(B)に示すように、炭素の濃度プロファイルのピークは、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハとの界面から80nmの位置にあり、ピーク濃度は8.65×10
19atoms/cm
3であった。また、水素の濃度プロファイルのピークは、シリコンエピタキシャル層とシリコンウェーハとの界面から、80nmの位置にあり、ピーク濃度は1.35×10
18atoms/cm
3であった。したがって、発明例はピーク位置を比較例よりも深い位置に形成することができていた。
【0062】
次に、各発明例および比較例のシリコンエピタキシャル層の表面をNi汚染液(1.0×10
13atoms/cm
2)でスピンコート汚染法により故意に汚染した後に、窒素雰囲気下で900℃、30分の熱処理を行った。その後、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定を行い、Niの深さ方向の濃度プロファイルを得た。評価結果を
図7に示す。
【0063】
図7に示すように、各発明例および比較例とも、改質層がゲッタリングサイトとして機能することによって、高いゲッタリング能力を発揮することを確認することができた。さらに、発明例では、炭素および水素のピーク位置が比較例よりも深い位置に存在していたことに起因して、Niの濃度プロファイルの裾のシリコンエピタキシャル層への広がりを比較例よりも抑制することができていた。このことから、発明例によるエピタキシャルシリコンウェーハを用いて裏面照射型固体撮像素子を作製すれば、白傷欠陥を比較例よりも抑制することができることがわかる。