特許第6812992号(P6812992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6812992-SOIウェーハの製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6812992
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】SOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 27/12 20060101AFI20201228BHJP
【FI】
   H01L27/12 Z
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-10040(P2018-10040)
(22)【出願日】2018年1月24日
(65)【公開番号】特開2019-129233(P2019-129233A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】曲 偉峰
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−099516(JP,A)
【文献】 特開昭54−030780(JP,A)
【文献】 特開2006−156842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単結晶シリコン基板にBOX層及びSOI層が形成された構造を含むSOIウェーハの製造方法であって、
単結晶シリコン基板にレーザー照射を行い、前記単結晶シリコン基板の内部の一部の領域をポリシリコン化させることによって、ポリシリコン層を形成する工程、
前記レーザー照射を行った前記単結晶シリコン基板を酸化性雰囲気下で酸化熱処理をすることで、前記単結晶シリコン基板の表面及び前記ポリシリコン層を酸化して、表面酸化膜及びBOX層を形成する工程、及び
前記表面酸化膜を除去する工程、
を含むことを特徴とするSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記レーザーの焦点位置を調整することにより前記SOI層の厚さを調整することを特徴とする請求項1に記載のSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記レーザーの焦点深度を変化させて前記ポリシリコン層の厚さを調整することによって、前記BOX層の厚さを調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は絶縁膜上に形成された半導体層を有する、SOIウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁層上にシリコン層等の半導体層を有する基板は、SOI(Silicon on Insulator)ウェーハとして知られている。SOIウェーハの製造方法として幾つかの方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、SIMOXウェーハ(SIMOX法で作製されたSOIウェーハ)に形成する埋め込み酸化膜(BOX(Buried Oxide)層)を厚膜化し、埋め込み酸化膜のピンホールを低減し、又は、埋め込み酸化膜とその上のシリコン単結晶層との界面の平坦度を向上させる方法が開示されている。この方法は、単結晶シリコン基板に酸素イオンを注入した後に、不活性ガス雰囲気中でアニール処理することにより埋め込み酸化膜を形成し、その埋め込み酸化膜により表面の単結晶シリコン層を絶縁分離する。この方法では、アニール処理によって埋め込み酸化膜の厚さが酸素イオン注入量により計算される理論的な膜厚になった後に、基板に高温酸素雰囲気中で酸化処理を施す。アニール処理後の高温酸化では、濃度1%を超える酸素を供給し、1150℃以上かつ単結晶シリコン基板の融点温度未満の温度で該基板に酸化処理を施して、埋め込み酸化膜の上に更に酸化膜を形成する。これにより埋め込み酸化膜が厚膜化し、元の埋め込み酸化膜のピンホールが補修され、埋め込み酸化膜の界面の凹凸も平坦化される。この高温酸化処理は、ITOX(Internal Thermal Oxidation)と呼ばれる。
【0004】
しかしながら、この方法はイオン注入により酸素を注入する方法を採用しており、注入酸素の飛程近傍に注入酸素により生成した点欠陥が存在する。これの影響により、ITOX処理を行っても、完全な酸化膜とはならずに、ピンホールが生成されたり、また酸化膜が完全に形成されずに、酸化膜中にシリコンが残留するシリコン島が形成されることで、BOX層が完全な絶縁膜として機能することができないという問題を抱えている。
【0005】
特許文献2には、多孔質体の上に非多孔質半導体層を有する基板を準備する準備工程と、上記基板に酸化処理を施すことにより、上記多孔質体の少なくとも一部を酸化させて埋め込み酸化膜に変化させる酸化工程を経て作製される、SOIウェーハが記載されている。具体的には、HF溶液中にシリコン基板を浸漬し、陽極酸化を行うことで、多孔質シリコン、いわゆるポーラスシリコン層を形成する。この上に、シリコンエピ成長を行った後に、酸化処理を行うことで、ポーラス層を酸化し、BOX酸化膜とすることで、SOIウェーハとする方法である。
【0006】
この方法は、多孔質層の上に、シリコンエピ成長を行う必要があり、無欠陥層を形成することが困難である。また、ポーラスシリコンを形成する際に、HF溶液中で処理を行う必要があるが、陽極側をシリコン基板として、陰極材の準備が必要であるが、HFに対して耐性があり、かつ電気分解に強い材料となると、白金以外の材料を選択することができず、装置の作製上非常に困難を伴う。
【0007】
特許文献3には、貼り合わせ法が開示されている。具体的には、表面酸化膜のない表面活性シリコン層側単結晶シリコン基板と、厚さ100nm以下の表面酸化膜を有するベース側単結晶シリコン基板とを貼り合わせ、アニールにより貼り合わせを完了する。次に、表面活性シリコン層側単結晶シリコン基板の表面を研磨し、厚さ1.0μm程度の活性層を形成する。次に、このようにして得られるSOIウェーハを、1%を超えるO2ガス雰囲気中において1150℃以上かつ基板の融点未満の温度で数時間酸化処理することで埋め込み酸化膜を成長させ、表面活性シリコン層と埋め込み酸化膜との界面を貼り合わせ面から移動形成することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法である。
【0008】
また、貼り合わせ法の他の製法として、軽元素である水素イオンをイオン注入して酸化膜付きのシリコンウエーハと貼り合わせたのちに、500℃前後の低温で熱処理して、水素イオン注入層で剥離を行いSOI構造とする、いわゆるSumartCut(登録商標)法もある。現在のSOIウェーハは、これらの貼り合わせを用いた手法にて作製されるものが主流であるが、作製方法から分かるように、2枚の基板から1枚の基板を作製することで、コストがかかってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−263538号
【特許文献2】特開2005−229062号
【特許文献3】特開平8−222715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、1枚のシリコンウェーハから、SOI層及びBOX層に欠陥をできるだけ含まないSOIウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するために、本発明では、単結晶シリコン基板にBOX層及びSOI層が形成された構造を含むSOIウェーハの製造方法であって、単結晶シリコン基板にレーザー照射を行い、前記単結晶シリコン基板の内部の一部の領域をポリシリコン化させることによって、ポリシリコン層を形成する工程、前記レーザー照射を行った前記単結晶シリコン基板を酸化性雰囲気下で酸化熱処理をすることで、前記単結晶シリコン基板の表面及び前記ポリシリコン層を酸化して、表面酸化膜及びBOX層を形成する工程、及び前記表面酸化膜を除去する工程、を含むSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0012】
この方法によれば、1枚の単結晶シリコン基板からSOIウェーハを作製することが可能となる。またイオン注入を使用しないことから、イオン注入欠陥の影響も排除することが可能である。
【0013】
この場合、前記レーザーの焦点位置を調整することにより前記SOI層の厚さを調整することができる。
【0014】
また、前記レーザーの焦点深度を変化させて前記ポリシリコン層の厚さを調整することによって、前記BOX層の厚さを調整することができる。
【0015】
このような方法とすることで、製造条件の設定がしやすく、またSOI層やBOX層の厚さ精度が高いSOIウェーハの製造方法となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明により、1枚のシリコン基板から、SOI層及びBOX層に欠陥をできるだけ含まない高品質のSOIウェーハを簡便に作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のSOIウェーハの製造方法のフローの一例をウェーハの概略図とともに示した図である。
図2】実施例における、ポリシリコン層が形成された単結晶シリコン基板の断面SEM像である。
図3】実施例における、SOIウェーハの断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述のように、1枚のシリコンウェーハから、SOI層及びBOX層に欠陥をできるだけ含まないSOIウェーハの製造方法の開発が求められていた。
【0019】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、単結晶シリコン基板にレーザー処理を施し、基板内部にポリシリコン層を形成し、これを酸化してBOX層を形成することにより、SOIウェーハを製造できるとともに、このようにして製造されたSOIウェーハであれば、1枚のウェーハから作製され安価であり、かつ、SOI層及びBOX層に欠陥を含まないSOIウェーハとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
即ち、本発明は、単結晶シリコン基板にBOX層及びSOI層が形成された構造を含むSOIウェーハの製造方法であって、単結晶シリコン基板にレーザー照射を行い、前記単結晶シリコン基板の内部の一部の領域をポリシリコン化させることによって、ポリシリコン層を形成する工程、前記レーザー照射を行った前記単結晶シリコン基板を酸化性雰囲気下で酸化熱処理をすることで、前記単結晶シリコン基板の表面及び前記ポリシリコン層を酸化して、表面酸化膜及びBOX層を形成する工程、及び前記表面酸化膜を除去する工程、を含むSOIウェーハの製造方法である。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
図1に、本発明のSOIウェーハの製造方法の概略フローを示す。まず、単結晶シリコン基板1を準備する(図1(A))。単結晶シリコン基板1の表面には、予め表面保護のため薄い酸化膜を形成していてもよい。単結晶シリコン基板1にレーザー照射を行い、基板の内部の一部の領域をポリシリコン化し、ポリシリコン層2を形成する(図1(B))。次に、レーザー照射した単結晶シリコン基板1´に、酸化性雰囲気下で酸化熱処理を行い、単結晶シリコン基板1´の表面及びポリシリコン層2を酸化して、表面酸化膜3、BOX層4を形成するとともに、SOI層5もあわせて形成される(図1(C))。酸化熱処理の後、SOIウェーハ6´の表面酸化膜3を除去することにより、SOIウェーハ6を製造することができる(図1(D))。
【0023】
ここで、ポリシリコン層は空隙を多く含むために、単結晶シリコンの層よりも酸化速度が速い。このため、酸化熱処理において、酸化性雰囲気下に直接露出している単結晶シリコン基板の表面部分だけではなく、基板内部のポリシリコン層においても酸化反応が進む。一方、単結晶シリコン基板表面とポリシリコン層の間の領域は酸化性雰囲気下に直接さらされておらず、かつ、酸化反応も遅いため、酸化熱処理を行った後も、単結晶シリコンの状態を保っている。したがって、本発明のSOIウェーハの製造方法では、SOI層を形成することができる。
【0024】
また、準備する単結晶シリコン基板には、デバイス製造プロセスでドーパントイオンをイオン注入する際のスクリーン酸化と同様に、単結晶シリコン基板の表面に薄い酸化膜を形成しておくことで、単結晶シリコン基板への汚染を低減することが可能である。
【0025】
レーザー照射は、単結晶シリコン基板を室温にして行ってもよいし、例えば、400℃程度に加熱した状態で行ってもよい。この際、温度を高くし過ぎなければ、ポリ粒径(ポリシリコン層内の多結晶の粒径)が大きくなりすぎて、次の工程(酸化熱処理)で十分な酸化速度が得られなくなるようなこともない。このため、レーザー照射時の温度は800℃以下とすることが好ましい。
【0026】
レーザー照射は、YAGレーザーのような高出力レーザーでは、所定の深さ位置だけではなく、それ以外の半導体ウェーハ部分にも熱エネルギーが伝達する可能性がある。そのために、低出力レーザーである、例えば、フェムト秒レーザーのような超短パルスレーザを用いることがより好ましい。
【0027】
この場合、前記レーザーの焦点位置を調整することにより前記SOI層の厚さを調整することができる。
【0028】
また、前記レーザーの焦点深度を変化させて前記ポリシリコン層の厚さを調整することによって、前記BOX層の厚さを調整することができる。
【0029】
またこのレーザー照射時の焦点位置と焦点深度でSOI層厚が決まるが、この際、酸化熱処理で表面側も酸化されることを予め考慮し、狙いのSOI厚さよりも深く(厚くSOI層が形成されるように)設定することが好ましい。
【0030】
このような方法とすることで、非常に製造条件の設定がしやすく、また精度よくBOX層やSOI層を形成できるので、高品質のSOIウェーハの製造方法となる。
【0031】
レーザー照射後に、酸化熱処理を行う。この酸化熱処理は、レーザー照射で生成したポリシリコン層を十分に酸化しきる時間行うことができ、所要時間はポリシリコン層の厚さに依存する。酸化熱処理の際、最初に形成した薄い酸化膜(スクリーン酸化膜)は、スクリーン酸化膜としての機能を考えれば、酸化膜表面に汚染がある可能性があるので、あらかじめ除去しておくことが好ましい。さらに、酸化温度であるが、レーザー照射時に400℃付近で加熱した場合、また加熱を積極的に行っていない場合でも、シリコン基板内部に存在する酸素原子が酸素ドナーを形成し、局所的、ないしはウェーハ全体の抵抗率が変化している可能性がある。このドナー消去も考慮して、酸化温度は800℃以上の高温を使用することが好ましい。
【0032】
酸化熱処理が完了したら、最後に表面に形成された酸化膜(表面酸化膜)を除去することで、SOIウェーハの製造工程が終了する。
【0033】
このようにして作製されたSOIウェーハは、1枚のウェーハから作製されることから安価であり、本SOIウェーハを用いて製造された半導体装置も安価で供給されることが期待される。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[実施例]
抵抗率10Ω・cmのボロンドープ、直径200mm、結晶方位<100>の単結晶シリコン基板を準備した。まずこれをPyro雰囲気下、900℃・10分の酸化処理を行い、表面に20nmの薄い酸化膜を形成した。次にチタンサファイアレーザーを用い、ビーム波長を1080nmとして、ビーム径を約2μm、パルス幅を1nsec、1パルスのエネルギーを100mJとしてレーザー照射処理を行い、深さ2μmに約200nmのポリ層(ポリシリコン層)を形成した(図2)。その後、Pyro雰囲気下、1100℃の酸化熱処理でポリ層を約450nmの酸化膜に変化させた。その際、ウェーハ表面には約1000nmの表面酸化膜が形成されたので、最後にバッファードフッ酸で表面酸化膜を除去してSOIウェーハとした(図3)。
【0036】
その後、SOIウェーハ上に直径5mmのAu電極を形成し、100点の素子について、BOX耐圧を測定したところ、平均で350Vの破壊電圧を示し、最小破壊電圧は325Vと比較例での測定結果と比べて良好であり、欠陥の少ないBOX層が形成されていることが分かる。
【0037】
[比較例]
抵抗率10Ω・cmのボロンドープ、直径200mm、結晶方位<100>の単結晶シリコン基板を準備した。この基板に酸素のイオン注入を行い、1350℃で4時間アニールして作製したSIMOXウェーハに、直径5mmのAu電極を形成し、100点の素子について、BOX耐圧を測定したところ、平均で315Vの破壊電圧を示し、最小破壊電圧は195VとBOX膜欠陥に起因する不良が観察された。
【0038】
以上のように、本発明のSOIウェーハの製造方法であれば、1枚のシリコンウェーハから、SOI層及びBOX層に欠陥をできるだけ含まないSOIウェーハを高品質、低コストで製造できることが明らかになった。
【0039】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0040】
1、1´…単結晶シリコン基板、 2…ポリシリコン層、 3…表面酸化膜、
4…BOX層、 5…SOI層、 6、6´…SOIウェーハ。
図1
図2
図3