特許第6813020号(P6813020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6813020
(24)【登録日】2020年12月21日
(45)【発行日】2021年1月13日
(54)【発明の名称】ラテックスおよび摩擦材
(51)【国際特許分類】
   C08L 13/02 20060101AFI20201228BHJP
   C08L 61/10 20060101ALI20201228BHJP
   C08K 3/014 20180101ALI20201228BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20201228BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20201228BHJP
【FI】
   C08L13/02
   C08L61/10
   C08K3/014
   C09K3/14 520J
   F16D69/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-507284(P2018-507284)
(86)(22)【出願日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2017010737
(87)【国際公開番号】WO2017164076
(87)【国際公開日】20170928
【審査請求日】2019年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-58343(P2016-58343)
(32)【優先日】2016年3月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 清香
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−184533(JP,A)
【文献】 特開平08−100082(JP,A)
【文献】 特開2010−144081(JP,A)
【文献】 特開2010−100749(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/104350(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C09K 3/00− 3/32
F16D 69/00− 69/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数3〜9のα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を16〜50重量%、カルボキシル基含有単量体単位を1〜10重量%、および共役ジエン単量体単位を35〜80重量%の割合で含有し、ヨウ素価が60以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスであって、
前記カルボキシル基含有単量体単位は、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体単位、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体単位、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体単位から選択される少なくとも1つを含み、
前記ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が、前記ラテックス全体に対して2,400〜9,000重量ppmであり、かつ前記カルボキシル基含有ニトリルゴムに対して4,500〜33,000重量ppmであり、
前記ラテックスに含まれるカリウムの含有量が、前記ラテックス全体に対して2,100〜7,000重量ppmであり、
前記ラテックスに含まれるナトリウムの含有量が、前記ラテックス全体に対して1,600〜6,000重量ppmであることを特徴とするラテックス。
【請求項2】
pHが12未満である請求項1に記載のラテックス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のラテックスと、熱硬化性樹脂とを含有するラテックス組成物であって、
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、およびエポキシ樹脂から選択される少なくとも1つの樹脂であり、
前記熱硬化性樹脂の含有量が、前記ラテックス中に含有される前記カルボキシル基含有ニトリルゴム100重量部に対して、60〜400重量部であるラテックス組成物。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂である請求項に記載のラテックス組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載のラテックス組成物を、基材に付着または混合させてなる摩擦材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的安定性および熱安定性に優れ、しかも、耐熱性および摩擦特性にも優れたラテックス、および該ラテックスを用いて得られる摩擦材に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリル単量体単位を含むニトリルゴムのラテックスは、従来から多岐にわたる用途に用いられている。例えば、衣類、フィルターや断熱材等の工業資材、マスクや白衣等の衛生材料および自動車内装材や空調のフィルター等として広く利用されている不織布の原材料;乳首、手袋等のディップ成形用の組成物;自動車用や産業用の歯付きベルトやその他各種ベルトの基材織布とゴム部材との接着剤;タイヤコードなどのゴム補強用繊維の接着剤;繊維処理剤;電池バインダーや紙塗被用バインダーなどの各種バインダー;抄紙;紙塗被用組成物;樹脂改質用組成物;フォームラバー;各種シール材;塗料;摩擦材などの多岐にわたる分野で用いられている。
【0003】
このような非常に多岐にわたる用途において、ニトリルゴムのラテックスには、製造後の貯蔵や各種容器への充填出荷後の保存の過程における従来以上の貯蔵および保存安定性としての化学的安定性や熱安定性が求められるようになっている。また、ニトリルゴムのラテックスが用いられる部材、部品、機器等の一層の小型化等により、従来以上の高度な耐熱性も求められている。
【0004】
さらに、前記の用途の中で、自動車用、産業機械用のブレーキライニング、ディスクパッド、およびクラッチフェーシングなどの摩擦材においては、従来石綿(アスベスト)が基材として使用されていたが、アスベスト公害の問題から非アスベスト系摩擦材の開発が望まれている。現在、アスベストの代替材としてガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ロックウール、セラミック繊維、各種のスチールファイバー等の繊維基材を使用した摩擦材が開発され、使用されている。このような繊維基材を使用した摩擦材は、摩擦特性などを向上させるために、通常、繊維基材に、熱硬化性樹脂やゴム成分などを含んでなる樹脂組成物を付着または混合させることにより製造されている。
【0005】
たとえば、特許文献1では、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に、ゴム成分を配合してなる熱硬化性樹脂組成物を、基材繊維に付着させた後、ゴム剤を含む結着剤組成物をさらに付着させ、次いでこの基材繊維をうず巻状あるいは積層体状に予備成形した後、得られる予備成形品を加熱圧縮することを特徴とするクラッチフェーシングの製造方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術により得られるクラッチフェーシングは、耐熱性が十分でなく(たとえば、熱老化させた後の摩擦特性の変化量が大きく)、そのため、耐熱性の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−218636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、化学的安定性および熱安定性、しかも、耐熱性および摩擦特性に優れたラテックスを提供することを目的とする。さらに本発明は、該ラテックスを用いて得られる摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8〜60重量%の割合で含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスについて、ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量を所定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8〜60重量%の割合で含有し、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスであって、前記ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が、前記ラテックス全体に対して、2,300〜10,000重量ppmであることを特徴とするラテックスが提供される。
本発明のラテックスは、カリウムとナトリウムとの合計の含有量が、前記カルボキシル基含有ニトリルゴムに対して、4,500〜33,000重量ppmであることが好ましい。
本発明のラテックスは、pHが12未満であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記のラテックスと、熱硬化性樹脂とを含有するラテックス組成物が提供される。
本発明のラテックス組成物において、前記熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂であることが好ましい。
さらに、本発明によれば、上記のラテックス組成物を、基材に付着または混合させてなる摩擦材が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、化学的安定性および熱安定性に優れ、しかも、耐熱性および摩擦特性に優れたラテックス、および該ラテックスを用いて得られる摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ラテックス
本発明のラテックスは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8〜60重量%の割合で含み、かつ、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムを含有し、
前記ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が、前記ラテックス全体に対して、2,300〜10,000重量ppmであることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、上記構成を有するカルボキシル基含有ニトリルゴムを含有するラテックスについて、ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量を上記特定の範囲とすることにより、ラテックス自体の化学的安定性および熱安定性を向上させることができ、しかも、熱硬化性樹脂との相溶性(混和性)に優れたものとすることができるため、該ラテックスを熱硬化性樹脂および基材と混合して摩擦材を得た際に、得られる摩擦材を、耐熱性および摩擦特性に優れたものとすることができるものである。
【0015】
以下においては、まず、本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムについて説明する。本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8〜60重量%の割合で含有し、ヨウ素価が120以下である、カルボキシル基を含有するニトリルゴムである。
【0016】
本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、たとえば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、カルボキシル基含有単量体と、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な単量体とを共重合することにより得ることができる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、炭素数3〜18のものが好ましく、炭素数3〜9のものが特に好ましい。その具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、なかでもアクリロニトリルが好ましい。これらのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0018】
カルボキシル基含有ニトリルゴム中における、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、8〜60重量%であり、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは12〜58重量%、さらに好ましくは16〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、熱硬化性樹脂と混合した際における相溶性(混和性)が悪化し、結果として、得られる摩擦材の耐熱性が低下してしまう。一方、多すぎると弾性や耐寒性が低下してしまう。
【0019】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化等されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。カルボキシル基含有単量体を用いることにより、ニトリルゴムに、カルボキシル基を導入することができる。
【0020】
本発明で用いるカルボキシル基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0021】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0022】
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、アリルマロン酸、テラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0024】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸、またはメタクリル酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0025】
カルボキシル基含有ニトリルゴム中における、カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、好ましくは0.1〜20重量%、より好ましくは0.5〜15重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、熱硬化性樹脂との相溶性(混和性)および基材に対する接着性を良好なものとすることができる。一方で、カルボキシル基含有単量体単位を含有しない場合には、基材に対する接着性や、耐屈曲疲労性に劣るものとなってしまう。
【0026】
また、本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と、カルボキシル基含有単量体とともに、ゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体を共重合したものであることが好ましい。
【0027】
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0028】
カルボキシル基含有ニトリルゴム中における、共役ジエン単量体単位の含有量は、好ましくは20〜90重量%、より好ましくは35〜85重量%、さらに好ましくは50〜80重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、耐熱性や耐化学的安定性を良好なものとしながら、ゴム弾性を適切に向上させることができる。なお、上記共役ジエン単量体単位の含有量は、後述する水素化を行った場合には、水素化された部分も含めた含有量である。
【0029】
また、本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(上述の「カルボキシル基含有単量体」に該当するものを除く)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0030】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が3〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0031】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0032】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのジアルキルアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0033】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0034】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0035】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0036】
本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムのヨウ素価は、120以下であり、好ましくは60以下、より好ましくは45以下、さらに好ましくは38以下である。ヨウ素価が大きすぎると、ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量を上記特定の範囲にすることによる効果、特に、ラテックス自体の耐熱性の向上効果が得られなくなってしまう。
【0037】
本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムのポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは10〜200、より好ましくは15〜150、さらに好ましくは20〜140、特に好ましくは30〜130である。ポリマームーニー粘度を上記範囲とすることにより、機械特性を良好なものとしながら、加工性を向上させることが可能となる。
【0038】
また、本発明のラテックスを構成する、カルボキシル基含有ニトリルゴムにおけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有ニトリルゴム100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、特に好ましくは5×10−3〜8×10−2ephrである。カルボキシル基含有ニトリルゴムのカルボキシル基含有量を上記範囲とすることにより、基材に対する接着性を良好なものとすることができる。
【0039】
また、本発明のラテックスは、pHが12未満であることが好ましく、7.0〜11.5の範囲であることがより好ましく、7.5〜11.0の範囲であることがさらに好ましく、7.5〜10.0の範囲であることが特に好ましい。pHを上記範囲とすることで、熱硬化性樹脂との相溶性(混和性)をより高めることができ、これにより、得られる摩擦材を、耐熱性および摩擦特性により優れたものとすることができる。
【0040】
本発明のラテックスの製造方法は、特に限定されないが、上述した単量体を共重合し、必要に応じて、得られる共重合体中の炭素−炭素二重結合を水素化することによって得られる。重合方法は、特に限定されず公知の乳化重合法や溶液重合法によればよいが、工業的生産性の観点から乳化重合法が好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤に加えて、通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0041】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0042】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の添加量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部である。
【0043】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、乳化重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.02〜1.4重量部、より好ましくは0.1〜1.1重量部である。
【0044】
また、分子量調整剤としては、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができるという点より、メルカプタン類のなかでも、少なくとも3個の第3級以上の炭素原子と、その中の少なくとも1個の第3級炭素原子に直接結合したチオール基とを有する炭素数12〜16のアルキルチオール化合物(以下、適宜「第1アルキルチオール化合物」とする)と、前記「第1アルキルチオール化合物」以外の炭素数9〜16のアルキルチオール化合物(すなわち、第3級以上の炭素原子の数が3個未満である炭素数9〜16のアルキルチオール化合物、または、第3級以上の炭素原子の数が3個以上であり、かつ、第3級炭素原子に直接結合したチオール基を有しない炭素数9〜16のアルキルチオール化合物、以下、適宜「第2アルキルチオール化合物」とする)をそれぞれ単独で使用しても、または併用してもよい。そして、これらを併用する際における使用量は、第1アルキルチオール化合物の使用量を、乳化重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜0.6重量部、より好ましくは0.02〜0.4重量部とし、また、第2アルキルチオール化合物の使用量を、好ましくは0.01〜0.8重量部、より好ましくは0.1〜0.7重量部とすることが好ましい。
【0045】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、重合に用いる単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは80〜300重量部である。
【0046】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粘度調整剤、pH緩衝剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0047】
乳化重合における重合転化率は、本発明のラテックスを用いて製造される摩擦材の耐熱性および摩擦特性を向上させることができるという点より、60〜95%の範囲とすることが好ましく、75〜93%の範囲とすることがより好ましい。
【0048】
また、本発明においては、得られた共重合体について、必要に応じて、共重合体の水素化(水素添加反応)を行ってもよい。水素添加は公知の方法によればよく、乳化重合で得られた共重合体のラテックスを凝固した後、油層で水素添加する油層水素添加法や、得られた共重合体のラテックスをそのまま水素添加する水層水素添加法などが挙げられる。
【0049】
水層水素添加法においては、好適には上記乳化重合により調製した共重合体のラテックスに、必要に応じて水を加えて希釈し、水素添加反応を行う。水層水素添加法は、水素化触媒存在下の反応系に水素を供給して水素化する水層直接水素添加法と、酸化剤、還元剤および活性剤の存在下で還元して水素化する水層間接水素添加法とが挙げられるが、これらの中でも、水層直接水素添加法が好ましい。
【0050】
水層直接水素添加法において、水層における共重合体の濃度(ラテックス状態での濃度)は、凝集を防止するため50重量%以下であることが好ましい。水素化触媒は、白金族元素を含有する化合物を溶解または分散させて用いる。
白金族元素を含有する水素化触媒は、水溶性または水分散性の白金族元素化合物であればよく、具体的には、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、パラジウム化合物、オスミウム化合物、イリジウム化合物、または、白金化合物などが挙げられる。本発明の製造方法においては、このような水素化触媒を担体に担持することなく、上述した共役ジエン系重合体のラテックス中に溶解または分散させることで水素化反応に供するものである。水素化触媒としては、パラジウム化合物またはロジウム化合物が好ましく、パラジウム化合物が特に好ましい。また、2種以上の白金族元素化合物を併用してもよいが、その場合もパラジウム化合物を主たる触媒成分とすることが好ましい。
パラジウム化合物としては、水溶性または水分散性であり、水素化触媒活性を示すものであればよく特に限定されないが、水溶性のものが好ましい。また、パラジウム化合物としては、通常、II価またはIV価のパラジウム化合物が用いられ、その形態としては塩や錯塩が挙げられる。
パラジウム化合物としては、たとえば、酢酸パラジウム、蟻酸パラジウム、プロピオン酸パラジウムなどの有機酸塩;硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの無機酸塩;フッ化パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのハロゲン化物;酸化パラジウム、水酸化パラジウムなどの無機パラジウム化合物;ジクロロ(シクロオクタジエン)パラジウム、ジクロロ(ノルボルナジエン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどの有機パラジウム化合物;テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、ヘキサクロロパラジウム酸アンモニウムなどのハロゲン化塩;テトラシアノパラジウム酸カリウムなどの錯塩;などが挙げられる。これらのパラジウム化合物の中でも、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウムなどの有機酸塩または無機酸塩;塩化パラジウム;テトラクロロパラジウム酸ナトリウム、へキサクロロパラジウム酸アンモニウムなどのハロゲン化塩;が好ましく、酢酸パラジウム、硝酸パラジウムおよび塩化パラジウムがより好ましい。
また、ロジウム化合物としては、塩化ロジウム、臭化ロジウム、ヨウ化ロジウムなどのハロゲン化物;硝酸ロジウム、硫酸ロジウムなどの無機酸塩;酢酸ロジウム、蟻酸ロジウム、プロピオン酸ロジウム、酪酸ロジウム、吉草酸ロジウム、ナフテン酸ロジウム、アセチルアセトン酸ロジウムなどの有機酸塩;酸化ロジウム;三水酸化ロジウム;などが挙げられる。
白金族元素化合物としては、市販のものを用いてもよいし、あるいは公知の方法により製造したものを用いることもできる。また、白金族元素化合物を、共役ジエン系重合体のラテックス中に溶解または分散させる方法としては特に限定されず、白金族元素化合物を直接ラテックスに添加する方法、白金族元素化合物を水に溶解または分散した状態で、ラテックスに加える方法などが挙げられる。水に溶解または分散する場合には、たとえば、硝酸、硫酸、塩酸、臭素酸、過塩素酸、燐酸などの無機酸;それら無機酸のナトリウム塩、カリウム塩;酢酸などの有機酸;などを共存させると、水への溶解度が向上し、好ましい場合がある。
水素化触媒の使用量は、適宜定めればよいが、重合により得られた共重合体に対し、好ましくは5〜6000重量ppm、より好ましくは10〜4000重量ppmである。
【0051】
水層直接水素添加法においては、水素添加反応終了後、ラテックス中の水素化触媒を除去する。その方法として、たとえば、活性炭、イオン交換樹脂などの吸着剤を添加して攪拌下で水素化触媒を吸着させ、次いでラテックスをろ過または遠心分離する方法。またはラテックス中に存在する白金族元素化合物中の白金族元素を、錯化剤により錯化させることにより、不溶性錯体を形成させラテックスをろ過または遠心分離する方法を採ることができる。水素化触媒を除去せずにラテックス中に残存させることも可能である。また、水素添加反応終了後、必要に応じて、pH調整剤などを添加することにより、ラテックスのpHを調整してもよい。
【0052】
本発明のラテックスは、ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が、ラテックス全体に対して、2,300〜10,000重量ppmであり、好ましくは2,300〜9,800重量ppm、より好ましくは2,400〜9,000重量ppmである。ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量を上記範囲とすることにより、ラテックス自体の化学的安定性および熱安定性が向上し、さらに、該ラテックスを使用した各種用途における部材等の耐熱性が向上する。しかも、該ラテックスを熱硬化性樹脂と混合して製造される摩擦材は、耐熱性および摩擦特性に優れたものとなる。
【0053】
また、本発明のラテックスにおいて、カリウムとナトリウムとの合計の含有量が上記範囲であればよいが、ラテックス自体の化学的安定性および熱安定性、ならびに、摩擦材とした際における、耐熱性および摩擦特性をより高めることができるという点より、カリウム単独での含有量は、ラテックス全体に対して、好ましくは1,500〜8,500重量ppmであり、より好ましくは2,100〜7,000重量ppmである。また、ナトリウム単独での含有量は、ラテックス全体に対して、好ましくは1,000〜7,500重量ppmであり、より好ましくは1,600〜6,000重量ppmである。ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が少なすぎると、ラテックスの化学的安定性が低下してしまい、これにより、ラテックスに添加剤を配合した場合など、ラテックス中の金属原子の濃度が急激に変化した際に、ラテックス中に凝集物が発生しやすくなってしまう。また、ラテックスの熱硬化性樹脂に対する相溶性(混和性)も低下してしまい、熱硬化性樹脂と混合して用いるのに適さなくなってしまう。一方で、ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が多すぎると、カリウムおよびナトリウム(カリウムイオンおよびナトリウムイオン)の作用により、ラテックス中に凝集物が発生してしまう。
【0054】
本発明において、ラテックスに含まれるカリウムおよびナトリウムの合計の含有量を上記範囲とする方法としては、特に限定されないが、ラテックスの製造に用いる化合物や媒体として、カリウムやナトリウムを含有する化合物や媒体の種類や使用量を調整する方法などが挙げられる。
【0055】
具体的には、乳化重合を行う際に用いる乳化剤の種類や使用量を調整する方法、乳化重合の媒体として用いる水を、蒸留水、超純水およびイオン交換水等のなかから選択する方法、上述した単量体の共重合に用いる重合開始剤の調整剤の種類や使用量を調整する方法、上述した単量体の共重合に用いる重合停止剤の種類や使用量を調整する方法、乳化重合後に、ラテックス粒子同士の凝集(自己コアギュレーション)を抑制する後安定化のために添加する乳化剤の種類や使用量を調整する方法、共重合体に水素添加する際に用いる水素化触媒の調整剤(水素化触媒を水溶液にして用いる際におけるpH調整剤等)の種類や使用量を調整する方法、ラテックスの粘度を低下させる目的やpHを調整する目的として、およびpH緩衝剤として等、必要に応じて配合される塩など添加剤の種類や添加量を調整する方法などが挙げられる。あるいは、乳化重合により得られたラテックスに、カリウム源およびナトリウム源となる化合物を適宜添加する方法や、重合に用いる単量体にもカリウムやナトリウムが微量に含まれている場合もあるため、これらの量を調整する方法なども挙げられる。これらの方法は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0056】
なお、本発明のラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量は、ラテックス全体に対して、上記範囲とすればよいが、ラテックス中のカルボキシル基含有ニトリルゴム(すなわち、固形分)に対する量で、4500〜33000重量ppmとすることが好ましく、4500〜32000重量ppmとすることがより好ましく、4800〜29000重量ppmとすることがさらに好ましい。ラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量を、ラテックス中のカルボキシル基含有ニトリルゴム(すなわち、固形分)に対する重量で、上記範囲とすることにより、ラテックス自体の化学的安定性および熱安定性、ならびに、摩擦材とした際における、耐熱性および摩擦特性をより高めることができる。
【0057】
本発明のラテックスは、pHが12未満であることが好ましく、7.0〜11.5の範囲であることがより好ましく、7.5〜11.0の範囲であることがさらに好ましく、7.5〜10.0の範囲であることが特に好ましい。pHを上記範囲とすることにより、ラテックスの化学的安定性が向上する。
【0058】
なお、ラテックスのpHを上記範囲に調整する方法としては、特に限定されないが、例えば、ラテックス組成物を構成するカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスのpHを、予めpH調整剤により調整する方法を用いることができる。また、乳化重合時に用いる乳化剤の種類や使用量を調整する方法、上述した単量体の共重合に用いる重合開始剤や重合停止剤などの調整剤の種類や使用量を調整する方法、乳化重合後に、ラテックス粒子同士の凝集(自己コアギュレーション)を抑制する後安定化のために添加する乳化剤の種類や使用量を調整する方法、共重合体を水素添加する際に用いる水素化触媒の調整剤(水素化触媒を水溶液にして用いる際におけるpH調整剤等)の種類や使用量を調整する方法、ラテックスの粘度を低下させる目的やpHを調整する目的として、およびpH緩衝剤として等、必要に応じて配合される塩などの添加剤の種類や添加量を調整する方法、なども挙げられる。これらの方法は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0059】
ラテックス組成物
本発明のラテックス組成物は、上述した本発明のラテックスと、熱硬化性樹脂とを含有してなるものである。
【0060】
熱硬化性樹脂としては、加熱により硬化する樹脂であればよく、特に限定されないが、上述した本発明のラテックスに対する相溶性(混和性)に優れるという観点より、水溶性の熱硬化性樹脂が好ましく、たとえば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのなかでも、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができるという点より、フェノール樹脂またはエポキシ樹脂が好ましく、フェノール樹脂が特に好ましい。
【0061】
エポキシ樹脂としては、エポキシ基を有し、水溶性を呈する樹脂であればよく特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、α−ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂などを制限なく用いることができるが、これらのなかでも、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。なお、ここでいうエポキシ樹脂とは、3次元架橋して硬化型エポキシ樹脂となる前のいわゆるエポキシ樹脂前駆体を含むものである。
【0062】
エポキシ樹脂は硬化剤を使用してもよい。エポキシ樹脂の硬化剤としては、特に限定されないが、アミン類、酸無水物類、イミダゾール類、メルカプタン類、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0063】
フェノール樹脂としては、フェノール類とアルデヒド類とを、酸性触媒下または塩基性触媒下に、縮合した汎用のフェノール樹脂をいずれも用いることができる。
フェノール樹脂の調製に用いられるフェノール類としては、石炭酸、m−クレゾール、p−クレゾール、o−クレゾール、p−アルキルフェノールなどが好適に用いられ、それらの混合物も用いることができる。また、フェノール樹脂の調製に用いられるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどが好適に用いられ、それらの混合物も用いることができる。
【0064】
また、フェノール樹脂としては、レゾール型のフェノール樹脂、ノボラック型のフェノール樹脂のいずれをも使用可能であり、さらには、各種の変性フェノール樹脂を使用することもでき、これらは互いにブレンドして用いてもよい。さらに、用いるフェノール樹脂としては、フェノール類のアルデヒド類との縮合の程度、分子量、残存モノマーの残留率など、目的に応じて選択して使用すればよく、また、これらの物性が異なる種々のグレードのものが市販されているため、このような市販品を適宜使用してもよい。
【0065】
なお、ここでいうフェノール樹脂とは、3次元架橋して硬化型フェノール樹脂となる前のいわゆるフェノール樹脂前駆体を含むものである。また、変性フェノール樹脂としては、各種熱可塑性高分子で変性されたレゾール型のフェノール樹脂、またはノボラック型のフェノール樹脂が挙げられる。変性フェノール樹脂の変性に用いられる、熱可塑性高分子としては、特に限定されないが、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴムなどのエラストマーや、ポリアミド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、メチルメタクリレート系共重合体、ポリエステル樹脂、セルロースアセテート重合体、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0066】
本発明のラテックス組成物中における、熱硬化性樹脂の配合量は、ラテックス組成物中に含有されるカルボキシル基含有ニトリルゴム100重量部に対して、好ましくは40〜500重量部、より好ましくは50〜450重量部、さらに好ましくは60〜400重量部である。熱硬化性樹脂の配合量を上記範囲とすることにより、本発明のラテックス組成物を使用した摩擦材を得た際に、得られる摩擦材の耐熱性および摩擦特性をより高めることができる。
【0067】
また、本発明のラテックス組成物は、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテルなどの分散剤;グリコール類などの可撓化剤;界面活性剤;などをさらに含有していてもよい。
【0068】
また、本発明のラテックス組成物は必要に応じて、イソシアネート、ブロックドイソシアネート、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、マレイミド類、ビスアリルナジイミドなどの熱硬化性ポリイミド、エチレン尿素、2,6−ビス(2,4−ジヒドロキシフェニルメチル)−4−クロロフェノール、各種フェノール類-ホルムアルデヒド類の縮合物(例えばレゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物、モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物、クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物、レゾルシン−モノヒドロキシベンゼン−ホルムアルデヒド縮合物、レゾルシン−クロロフェノール−ホルムアルデヒド縮合物、一塩化イオウとレゾルシンの縮合物およびレゾルシン−ホルマリン縮合物との混合物などの変性レゾルシン−ホルマリン樹脂)、ポリエポキシド、変性ポリ塩化ビニル、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、シランカップリング剤、接着助剤、アルキルピリジニウムハロゲン化物類、重硫酸塩類、ジステアリルジメチルアンモニウム=メチル硫酸塩等の電荷添加剤、ワックス類などの離型剤、ステアリン酸等の加工助剤、シリカ、シリケート、クレー、ベントナイト、バーミキュライト、ノントロナイト、バイデライト(beidelite)、ヴォルコンスキー石(volkonskoite)、ヘクトライト、サポナイト、ラポナイト(laponite)、ソーコナイト、層状ポリ珪酸塩(magadiite)、ケニアイト(kenyaite)、レディカイト(ledikite)、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク等、及びそれらの混合物のような無機物の粒子等の充填剤、澱粉類等のバインダー、ポリビニルピロリドン等の安定剤、可塑剤、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、共架橋剤、酸化亜鉛、不飽和カルボン酸金属塩、トリアジンチオール類、吸水剤、無機顔料、有機顔料等の着色剤、キレート剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、圧縮回復剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、湿潤剤、タック防止剤、起泡剤、整泡剤、浸透剤、撥水・撥油剤・ブロッキング防止剤、ホルマリンキャッチャー、難燃剤、増粘剤、軟化剤、老化防止剤、オイル、オゾン劣化防止剤、懸濁助剤、凝結遅延剤、流体ロス剤、耐水化剤、滑剤などを配合することができる。
【0069】
架橋剤としては、有機過酸化物架橋剤、ポリアミン架橋剤等が挙げられる。
【0070】
共架橋剤としては、特に限定されないが、ラジカル反応性の不飽和基を分子中に複数個有する低分子または高分子の化合物が好ましく、たとえば、ジビニルベンゼンやジビニルナフタレンなどの多官能ビニル化合物;トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレートなどのイソシアヌレート類;トリアリルシアヌレートなどのシアヌレート類;N,N'−m−フェニレンジマレイミド、ジフェニルメタン-4,4'-ビスマレイミドなどのマレイミド類;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルセバケート、トリアリルホスフェートなどの多価酸のアリルエステル;ジエチレングリコールビスアリルカーボネート;エチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンのトリアリルエーテル、ペンタエリトリットの部分的アリルエーテルなどのアリルエーテル類;アリル化ノボラック、アリル化レゾール樹脂等のアリル変性樹脂;トリメチロールプロパントリメタクリレートやトリメチロールプロパントリアクリレートなどの、3〜5官能のメタクリレート化合物やアクリレート化合物;などが挙げられる。これらは1種または複数種併せて用いることができる。
【0071】
本発明のラテックス組成物は、各種ラテックスとブレンドしてもよい。ブレンドするラテックスとしては、アクリロニトリルブタジンゴムラテックス、スチレンアクリロニトリルブタジエン共重合体ラテックス、アクリロニトリルブタジエンビニルピリジン共重合体ラテックス、スチレンブタジエン共重合体ラテックス、スチレンブタジエンビニルピリジン共重合体ラテックス、ポリブタジンゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンラテックス、天然ゴムラテックス、ポリイソプレンゴムラテックス、エピクロルヒドリンのエマルション、エピクロルヒドリン-ポリエーテル共重合体のエマルション、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体のエマルション、フッ素ゴムラテックス、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ラテックス(エマルション)、アクリル酸エステル共重合体ラテックス、ポリ塩化ビニルエマルション、エチレン-酢酸ビニル共重合体ラテックス(エマルション)等が挙げられる。
【0072】
本発明のラテックス組成物に、熱硬化性樹脂を含有させる方法としては、たとえば、上述した本発明のラテックス組成物に、熱硬化性樹脂を混合する方法を用いることができる。この際において、熱硬化性樹脂は、そのまま配合してもよいし、水に溶解あるいは分散させて、溶液あるいは分散液の状態で配合してもよいが、熱硬化性樹脂を乳化剤の存在下で水に分散させてなる分散液の状態で配合することが好ましい。本発明のラテックス組成物においては、上述したように、ラテックス組成物を構成するラテックスに含まれるカリウムとナトリウムとの合計の含有量が上記範囲に制御されているため、化学的安定性および熱安定性に優れ、しかも、熱硬化性樹脂との相溶性(混和性)に優れたものであるため、ラテックス組成物を構成するラテックスと熱硬化性樹脂とが良好に相溶ないし混和し、得られる摩擦材の耐熱性および摩擦特性を優れたものとすることができる。
【0073】
摩擦材
本発明の摩擦材は、上述した本発明のラテックス組成物を、基材に付着または混合させることにより得られるものである。
【0074】
基材としては、特に限定されず、通常、繊維基材が用いられる。繊維基材としては、銅、ステンレス、真ちゅう、アラミド、カーボン、ガラス、チタン酸カリ、ロックウール、セラミック等の無機繊維または有機繊維などが挙げられる。
【0075】
本発明の摩擦材の製造方法としては特に限定されないが、たとえば、基材を、上述した本発明のラテックス組成物に浸漬させ、これにより、基材表面に本発明のラテックス組成物を付着させ、必要に応じて乾燥させることにより製造することができる。また、この際において、本発明のラテックス組成物に含有される熱硬化性樹脂の硬化を促進するために、乾燥を行った後に、必要に応じて加熱を行ってもよい。硬化のための加熱温度は、使用する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択すればよいが、通常、120〜240℃であり、加熱時間は、通常、30分〜8時間である。
【0076】
本発明の摩擦材は、上述した本発明のラテックス組成物を用いて得られるものであるため、耐熱性および摩擦特性に優れるものである。そのため、このような特性を活かし、自動車用、産業機械用のブレーキライニング、ディスクパッド、およびクラッチフェーシングなどの各種摩擦材として好適である。
【0077】
なお、上述した例においては、本発明のラテックスを熱硬化性樹脂と混合してラテックス組成物とし、得られたラテックス組成物を用いて摩擦材を製造する例を一例として挙げたが、本発明のラテックスは、化学的安定性および熱安定性に優れ、使用した用途における各種部材等の耐熱性にも優れるものであるため、このような摩擦材に限らず、それ以外の多岐にわたる用途にも、好適に用いることができる。
【0078】
たとえば、本発明のラテックスは、洋服芯地、和服芯地、下着等の衣類や、フィルター、研磨布、断熱材等の工業資材や、マスク、ガーゼ、白衣等の衛生材料や、自動車内装材および空調等のフィルター等として広く利用されている不織布の原材料;乳首、風船、手袋、バルーン、サック等をディップ成形するためのディップ成形用組成物;歯付きベルト(自動車用および一般産業用タイミングベルト、油中タイミングベルト、オイルポンプベルト等)、ポリリブドベルト、ラッブドベルト、Vベルト等の、基材の織布とゴム部材との接着力を高めるためのラテックス接着剤;各種ゴム補強用繊維(タイヤコード、心線等の撚りコード、ゴムホース用等の補強糸、短繊維、ダイヤフラム用基布)に用いる接着剤、繊維処理剤(繊維としてはナイロン等の脂肪族ポリアミドやアラミド等の芳香族ポリアミドを含むポリアミド繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、ガラス繊維、綿繊維、バサルト繊維等が挙げられる。また繊維の種類は1種類でもよいし、組み合わせて使用してもよい);電池バインダー、燃料電池バインダー、紙塗被用バインダー、セメント混和剤、内添含浸バインダー、インクジェット記録媒体用塗工バインダー等のバインダー;抄紙;紙塗被用組成物;樹脂改質用組成物;マットレス、パフ、ロール、衝撃吸収剤等に使用されているフォームラバー(ゴム発泡体);ジョイントシート、ALシート(糊を使用しない吸着シート)、ガスケット等のシート材およびシール材;塗料;など幅広い用途において、好適に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0080】
ヨウ素価
ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K6235に準じて測定した。
【0081】
ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合
ブタジエン単位(1,3−ブタジエン単位および飽和化ブタジエン単位)の含有割合は、ニトリルゴムについて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6384に従い、ケルダール法により、ニトリル基含有共重合体ゴム中の窒素含量を測定することにより算出した(単位:ephr)。
カルボキシル基含有量は、2mm角のニトリルゴム0.2gに、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、室温でチモールフタレインを指示薬とする滴定により、カルボキシル基含有ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位:ephr)。さらに、求めたカルボキシル基のモル数をメタクリル酸単位の量に換算することにより、ニトリルゴムにおけるメタクリル酸単位の含有割合を算出した。
【0082】
ラテックス中のカリウム量およびナトリウム量
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスを酸分解した後、ICP発光分析計(商品名「Optima4300DV、パーキンエルマー社製)を用いて、ICP−AES法により定量分析を行い、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス1kg中に存在するカリウムおよびナトリウムの量を測定した(単位:重量ppm)。
【0083】
450℃熱重量減少率
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスをシャーレに入れ、ひと晩風乾し、その後、温度110℃、乾燥時間30分間の条件で温風乾燥をし、固形分の試料を得た。得られた試料を、熱重量示差熱分析装置(商品名「EXSTAR−6000」、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を用いて、室温から700℃の温度範囲における試料の重量変化及び熱変化を測定した。なお、測定条件は、セル:Pt、試料量:約20mg、昇温速度:5℃/分、雰囲気:窒素100ml/分とした。室温時の試料の重量(乾燥重量)に対する、温度450℃時の資料の重量の減少割合を、下記式により、重量減少率として求めた。熱重量減少率の絶対値が小さいほど、熱安定性に優れると判断できる。
450℃熱重量減少率(%)={((450℃時の重量)−(室温時の重量))/(室温時の重量)}×100
【0084】
化学的安定性
まず、NaClの濃度が異なる3種類のNaCl水溶液を用意した。用意したNaCl水溶液のうち、NaClの濃度が2.5重量%であるものをNo.1のサンプルとし、NaClの濃度が3.0重量%であるものをNo.2のサンプルとし、NaClの濃度が4.0重量%であるものをNo.3のサンプルとした。次いで、用意した各NaCl水溶液を、30mlずつ秤量し、それぞれ100mlビーカーに入れた。その後、それぞれの100mlビーカー中に、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスを1滴(約0.2cm)滴下し、ラテックスが凝固した(NaCl水溶液に完全に拡散しなかった)NaCl水溶液の番号(No.1〜No.3)を記録した。ラテックスの凝固が、より高い濃度のNaCl水溶液まで発生しないほど、化学的安定性に優れると判断できる。
【0085】
伸び変化率
フィルム状の摩擦材様試験片を、変形3号ダンベルで打ち抜いて、常態の試験片を作製した。この常態の試験片を用いて、JIS K6258に基づいて、150℃に調整した鉱物油(HONDA社製 ウルトラG1)に、72時間浸漬することにより、高温油浸漬後の試験片を得た。得られた常態の試験片と、高温油浸漬後の試験片とについて、それぞれ、JIS K6251に基づいて、引張速度200mm/minで引っ張った際の伸びを測定した。常態の試験片の伸びに対する高温油浸漬後の試験片の伸びの変化率を、下記式により算出した。伸び変化率の絶対値が小さいほど、耐熱性に優れると判断できる。
伸び変化率(高温油浸漬後)(%)={((高温油浸漬後の試験片の伸び)−(常態の試験片の伸び))/(常態の試験片の伸び)}×100
【0086】
摩擦係数変化
フィルム状の摩擦材様試験片について、ヘイドン式表面性測定機(商品名「HEIDON−38」、新東科学社製)を用いて、表面の摩擦抵抗の測定を行なった。なお、測定は、測定治具として、ボール圧子(SUSφ10)を用い、試験加重500g(垂直荷重N)、試験温度200℃、試験速度600mm/min、移動距離15.0mm、往復回数100回の条件にて、試験片を水平に移動させた際に、ヘイドン式表面性測定機の動歪みアンプにかかる摩擦力F(単位:gf)を計測し、下記式に基づいて、往路の値を用いて摩擦係数μを計算することで行った。
μ=F/N
本測定では、試験片が静止している状態から、試験速度で一定となるまでの間、連続的に摩擦係数μの値を記録し、摩擦係数μが一定状態となった際の値を動摩擦係数μkとした。次いで、試験片を、150℃のギヤオーブン中で72時間静置することで、熱老化後の試験片を得た。この熱老化後の試験片についても、同様に動摩擦係数μkを測定し、熱老化後の動摩擦係数μkから、熱老化させる前の常態の試験片の動摩擦係数μkの値を差し引いた値を、摩擦係数変化(熱老化後)として求めた。なお、摩擦係数変化の値が小さいほど、高温環境下での摩擦特性に優れると判断できる。
【0087】
実施例1
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)の製造
反応器に、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル20部、メタクリル酸6部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.5部を、この順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン72部を仕込んだ。反応器を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤、およびキレート剤を適量仕込み、攪拌しながら約16時間重合反応を継続した。次いで、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合転化率85%で重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて残留単量体を除去し、アルカリ石鹸を適量添加した後、濃縮してニトリルゴムのラテックスを得た。
【0088】
次いで、ラテックスに含有されるゴムの乾燥重量に対して、パラジウム量が2000重量ppmになるように、オートクレーブ中に、ラテックスおよびパラジウム触媒(パラジウムの5倍モル当量の硝酸を添加してパラジウム触媒酸性水溶液とした)とpH緩衝剤(カリウム、ナトリウムを含有する)の塩を添加して、更に、重量平均分子量5,000のポリビニルピロリドンをパラジウムに対して5倍添加し、窒素ガスを10分間流してラテックス中の溶存酸素を除去した。次いで、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、固形分濃度約36重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−1)を得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−1)について、上述した方法に従い、各単量体単位の含有割合、ラテックス中のカリウム量およびナトリウム量、450℃熱重量減少率、および化学的安定性の評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−1)は、ラテックス全体に対するカリウム量が4500重量ppm、ナトリウム量が1900重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が40であり、カルボキシル基含有量が5×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−1)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0089】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
耐熱バットに、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)100部(固形分量換算)を投入し、フェノール樹脂(商品名「スミライトレジンPR−14170」、住友ベークライト社製)100部(固形分換算)を混合することで、フェノール樹脂含有ラテックス組成物を得た。得られたフェノール樹脂含有ラテックス組成物を、ひと晩風乾させた後、110℃、10分間の条件で、送風乾燥機により乾燥させた。その後、乾燥させて得られた固形物を、5mm厚の金型枠を用いて160℃、30分でプレスを行い硬化させることで、フィルム状の摩擦材様試験片を得た。そして、得られた摩擦材様試験片を用いて、上記方法にしたがい、伸び変化率、摩擦係数変化の測定を行った。結果を表1に示す。
【0090】
実施例2
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−2)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から31部に、水素添加反応を行う際における、パラジウム触媒とpH緩衝剤との塩の使用量を、パラジウム量で2000重量ppmから2500重量ppmに、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様に、固形分濃度約43重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−2)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−2)は、ラテックス全体に対するカリウム量が5000重量ppm、ナトリウム量が1690重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が20であり、カルボキシル基含有量が5×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−2)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0091】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−2)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
実施例3
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−3)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から30部に、メタクリル酸の量を6部から9部に、それぞれ変更するとともに、重合時において、重合転化率60%の時点で更にアクリロニトリル10部を添加し、かつ、水素添加反応における、パラジウム触媒とpH緩衝剤との塩の使用量を、パラジウム量で2000重量ppmから1500重量ppmに変更した以外は、実施例1と同様に、固形分濃度約44重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−3)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−3)は、ラテックス全体に対するカリウム量が4020重量ppm、ナトリウム量が2060重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が50、カルボキシル基含有量が8×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−3)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0093】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−3)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
実施例4
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−4)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から33部に変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度約36重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−4)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−4)は、ラテックス全体に対するカリウム量が4700重量ppm、ナトリウム量が1850重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が32、カルボキシル基含有量が4×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−4)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0095】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−4)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
比較例1
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−5)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から29部に、メタクリル酸の量を6部から9部に、それぞれ変更し、水素添加反応を実施しなかった以外は、実施例1と同様に、カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックスを得た。なお、比較例1では、水素添加反応は実施しなかったが、ニトリルゴムのラテックスに対して、実施例1と同様に、pH緩衝剤を添加し固形分濃度約37重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−5)を得た。次いで、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−5)について、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−5)は、カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス全体に対するカリウム量が9050重量ppm、ナトリウム量が1500重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が280、カルボキシル基含有量が8×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−5)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0097】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−5)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
比較例2
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−6)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から40部に変更し、水素添加反応を実施せず、pH緩衝剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度約40重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−6)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−6)は、ラテックス全体に対するカリウム量が2000重量ppm、ナトリウム量が1900重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が289、カルボキシル基含有量が5×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−6)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0099】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−6)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
比較例3
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−7)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から30部に、メタクリル酸の量を6部から4部に、それぞれ変更し、pH緩衝剤との塩の形態とはせずにパラジウム触媒を使用した(すなわち、pH緩衝剤自体を用いなかった)以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度約38重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−7)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−7)は、ラテックス全体に対するカリウム量が1000重量ppm、ナトリウム量が1020重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が39であり、カルボキシル基含有量が3×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−7)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0101】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−7)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
比較例4
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−8)の製造
重合時における、アクリロニトリルの量を20部から18部に、水素添加反応を行う際における、パラジウム触媒の使用量を、パラジウム量で2000重量ppmから2200重量ppmに、また、残留単量体を除去した後添加する石鹸の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして、固形分濃度約42重量%のカルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−8)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
なお、得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−8)は、ラテックス全体に対するカリウム量が2500重量ppm、ナトリウム量が8000重量ppmであった。また、カルボキシル基含有ニトリルゴムは、ヨウ素価が28であり、カルボキシル基含有量が4×10−2ephrであった。カルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−8)を風乾し取り出した固形分は、テトラヒドロフランに溶解し、不溶解分はなかった。
【0103】
フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片の製造
カルボキシル基含有ニトリルゴムのラテックス(A−1)に代えて、上記にて得られたカルボキシル基含有ニトリルゴムラテックス(A−8)を使用した以外は、実施例1と同様にして、フェノール樹脂含有ラテックス組成物および摩擦材様試験片を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を8〜60重量%の割合で含有し、かつ、ヨウ素価が120以下であるカルボキシル基含有ニトリルゴムを含むラテックスであって、ラテックスに含まれるカリウムおよびナトリウムの合計の含有量が、ラテックスに対して、2,300〜10,000重量ppmである場合には、得られたラテックスは、450℃熱重量減少率の絶対値が小さく、熱安定性に優れ、さらに、NaCl水溶液に滴下した際に、比較的高い濃度のNaCl水溶液(No.3)まで凝固が発生しなかったことから、化学的安定性にも優れるものであった(実施例1〜4)。しかも、実施例1〜4においては、ラテックスを熱硬化性樹脂と混合して作製した摩擦材は、伸び変化率(高温油浸漬後)の絶対値が小さいことから耐熱性に優れ、摩擦係数変化(熱老化後)が低いことから、高温環境下での摩擦特性にも優れることが確認された。
【0106】
一方、ニトリルゴムのヨウ素価が高すぎる場合には、得られたラテックスは、450℃熱重量減少率の絶対値が大きく熱安定性に劣るものであり、さらに、NaCl水溶液に添加するまでもなく固形分が浮遊してしまうか、比較的低い濃度のNaCl水溶液(No.1)に滴下しただけで凝固が発生してしまったことから、化学的安定性に劣るものであった。(比較例1,2)。なかでも、比較例1のラテックスは、ラテックスに含まれるカリウムおよびナトリウムの合計の含有量が多すぎたため、NaCl水溶液に添加するまでもなく固形分が浮遊してしまい、化学的安定性が特に劣るものであった。しかも、比較例1,2においては、得られた摩擦材は、伸び変化率(高温油浸漬後)の絶対値が大きいことから、耐熱性に劣り、さらに摩擦係数変化(熱老化後)が大きいことから、高温環境下での摩擦特性に劣るものであった。
また、ニトリルゴムのヨウ素価が上記範囲にあるものの、ラテックスに含まれるカリウムおよびナトリウムの合計の含有量が少なすぎる場合には、得られたラテックスは、比較的低い濃度のNaCl水溶液(No.1)に滴下しただけで凝固が発生していたことから、化学的安定性に劣るものであった(比較例3)。また、比較例3においては、得られた摩擦材は、耐熱性および摩擦特性に劣るものであった。
さらに、ニトリルゴムのヨウ素価が上記範囲にあるものの、ラテックスに含まれるカリウムおよびナトリウムの合計の含有量が多すぎる場合には、得られたラテックスは、NaCl水溶液に添加するまでもなく固形分が浮遊していたことから、化学的安定性が特に劣るものであった(比較例4)。また、比較例4においては、得られた摩擦材は、耐熱性および摩擦特性に劣るものであった。