(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被覆体を構成するフタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびそれらの誘導体から選択される一種以上の化学構造に含まれる炭素数が4以上20以下である、請求項7に記載の磁性コンパウンド。
前記樹脂へ、前記金属磁性粉末の100質量部に対して、前記フタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびそれらの誘導体から選択される一種以上の5質量部を被覆して作製した前記金属磁性粉末複合体を、30vol%含有させて前記磁性コンパウンドを構成した時、測定周波数2GHzにおける透磁率の実数部μ’が1.5以上、かつ、tanδμおよびtanδεが0.05以下を示す、請求項1から8のいずれかに記載の磁性コンパウンド。
前記磁性コンパウンドを、0.75GHz以上1.0GHz以下の範囲で0.05GHz刻みで測定した際における、透磁率の実数部μ’および誘電率の実数部ε’の標準偏差が0.01以下である、請求項1から9のいずれかに記載の磁性コンパウンド。
【背景技術】
【0002】
電子機器や通信機器において、市場の多様な機能に応じるべく、さまざまな材料の開発が盛況である。この中、高周波領域等に用いる機器において、複合的な機能材料が通信機器の性能を左右するため、重要な技術要素となっている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、高周波領域においても機能する磁性体複合材料について記載されている。この磁性体複合材料は、好ましくはアスペクト比(長軸長/短軸長)が1.5〜20の針状である磁性金属粒子を、例えばポリアリーレンエーテル樹脂やポリエチレン樹脂などの誘電体材料中に分散させることにより形成されている(特許文献1の請求項1や2、[0025])。
こうすることにより、GHz帯の高周波領域で使用する電子機器、通信機器に装備する高周波電子部品に好適に用いられ、しかも、所定の針状金属粒子を用いることにより、誘電体材料中で、金属粒子を配向させるか否かにかかわらず所定の磁気特性を備えることができる(特許文献1の[0024][0029])。
【0004】
また、特許文献2においては、広帯域で使用可能な小型アンテナに利用されうる複合磁性材料について記載されている。この複合磁性材料は、絶縁性材料中に複合磁性材料を分散させたものである。前記磁性粉末は、軟磁性金属を含む略球状の粉末であり、その平均粒子径D
50が0.1〜3μm、且つ、粒子内に平均結晶子径が2〜100nmの結晶子を有し、前記絶縁性材料として、各種樹脂が記載されている(特許文献2の[0018]〜[0021])。例えば、実施例において磁性粉末と熱可塑性のPC/ABS系樹脂と溶剤等を混合することでアンテナを作製している([0069])。このアンテナでは、周波数2GHzにおける誘電率の損失係数tanδεが0.01未満であり、全体積に対する前記磁性粉末の体積比率が2〜50vol%の構成で、アンテナの小型化を図れることが記載されている([0031][0032])。
【0005】
特許文献3においては、金属磁性粉末により、インダクタやアンテナ等における、GHz帯での損失係数を低く抑えられることが記載されている。鉄を主成分とする軟磁性金属粉末であり、平均粒子径が100nm以下、軸比(=長軸長/短軸長)が1.5以上、保磁力(Hc)が39.8〜198.9kA/m(500〜2500Oe)、飽和磁化100Am
2/kg以上である金属粉末を成形し、磁性部品は、kHz〜GHz帯での損失係数を低く抑える事ができることが開示されている(特許文献3の[0011]〜[0026])。
【0006】
特許文献4においては、耐熱性を有するボンド磁石において、磁石粉末とポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂とポリアミド(PA)樹脂を含み、コンパウンド中の磁石粉末の含有比率が79〜94.5wt%、PPS樹脂の含有比率が5〜20wt%、PA樹脂の含有比率が0.1〜2wt%、であることが記載されている(特許文献4の[請求項1])。
【0007】
このように金属磁性粉末と樹脂からなる磁性複合体(または、磁性コンパウンドともいう)については開示があるが、金属磁性粉末と樹脂材料からなる磁性コンパウンドにおいて、金属磁性粉末は無機化合物の微粒子であり、樹脂は高分子化合物である。つまり金属磁性粉末と樹脂とはそれぞれ化学性質および物性も全く異なるものであるため、どのような性能となるかは予測困難であり、先行技術のようにさまざまな試行錯誤が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
金属磁性粉末と樹脂材料等を混練した磁性コンパウンドは、電子機器の高性能化の要望に伴い、その特性向上が望まれ、他方、小型化の要請から機械的な強度の向上も望まれている。
特許文献1から4では、磁性材料と樹脂材料との磁性コンパウンド(複合磁性体)において、磁性材料の含有比率が高いものが開示されている。しかし、出願人らの検討によって達成できた磁性材料の性能の向上に伴い、コンパウンド中の磁性材料の含有量をある程度減じても十分な高周波特性が得られるようになってきた。しかし、かような磁性粉末を樹脂に分散させる場合、混練段階で発火したり、磁性粉末を添加しない場合に比較して、著しい強度の低下が生じたりすることがわかってきた。すなわち、機械的強度と高周波特性を共に満足するようなコンパウンド材料は未だ得られていない。
【0010】
例えば、特許文献4においては、PPS樹脂と磁石粉末の濡れ性が悪いことなどから、混練・成形時に他の予期せぬ影響が生じる場合があることなどが記載されている。シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂は、高周波特性に優れているが、金属磁性粉末との混練性は困難であることが確認されている。
【0011】
一方、小型化に伴い、細線化、フレキシブル基板、他の部品との干渉に耐えるため、より曲げ強度、靱性に優れた材料が望まれていた。特許文献1には、様々な樹脂が使用可能であるとして例示されているが、実施例として示されているポリエチレン樹脂は、比較的に機械的強度が高いとされている高密度のものでも曲げ強度が6.9MPa程度と弱いため、衝撃が加わりやすい実環境では使用されがたい。シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂は、曲げ強度は60MPa以上、弾性率1900MPa程度であることが確認されており、機械的強度の向上が期待できる。
【0012】
本発明の課題は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂のうち少なくともいずれかを用いて、高周波特性に優れ、かつ機械的強度に優れた磁性コンパウンドを提供し、本磁性コンパウンドからなるアンテナ、ならびに当該アンテナを使用する電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が知り得るところによれば、金属磁性粉末を樹脂に混ぜ込んだものからアンテナを形成すれば、波長短縮効果により、アンテナそのものを小さくすることができ、ひいては携帯機器やスマートフォンの小型化に貢献できる。
【0014】
従来は、特許文献1に代表されるように、アンテナ等に使用される磁性コンパウンド用材料としては、樹脂に混合する構成をとるものであっても、金属材料に関わる検討にとどまっていた。
【0015】
それに対し、本発明者は、樹脂に対して混合し、特性を発現しうる金属磁性粉末ではなく、金属磁性粉末を混ぜ込む対象となる樹脂に上述の課題を解決しうる糸口があると考え、検討を進めた。
【0016】
まず、混ぜ込みの候補になり得る樹脂としては、機械特性(とくに曲げ強度)に優れ、また樹脂そのものの損失が小さい材料を選択することが近道であると考えた。しかしながら、上述の通り特許文献3に開示した金属磁性粉末を、候補になり得る樹脂に対し混合することを試みたが、当該金属磁性粉末の発火による焼失が生じてしまうという知見を得た。また、手法としては樹脂割合を高くすることで、金属磁性粉末を樹脂で封止して、発火を防止する方法も考えられるが、当然金属磁性粉末の構成割合が低下し、磁性コンパウンドそのものの透磁率が低下するため、アンテナとして十分に動作しない可能性が考えられる。そこで、金属磁性粉末を樹脂に混ぜ込む手法について検討することとした。
【0017】
本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
金属磁性粉末と、
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂を有し、
前記金属磁性粉末
は、表面の全部がジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により被覆された
金属磁性粉末複合体を形成しており、
前記樹脂の含有量が21質量%以上である、磁性コンパウンドである。
【0018】
本発明の第2の態様は、
金属磁性粉末と、
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂を有し、
前記金属磁性粉末の表面の一部または全部が、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により
被覆された金属磁性粉末複合体を形成しており、
前記金属磁性粉末複合体における、高周波燃焼法での炭素計測値が0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記樹脂の含有量が21質量%以上である、磁性コンパウンドである。
【0019】
本発明の第3の態様は、
金属磁性粉末と、
樹脂とを有し、
前記樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂,変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂からなり、
前記金属磁性粉末
は、表面の全部がジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により被覆された
金属磁性粉末複合体を形成しており、
前記樹脂の含有量が21質量%以上である、磁性コンパウンドである。
【0020】
本発明の第4の態様は、
金属磁性粉末と、
樹脂とを有し、
前記樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂,変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂からなり、
前記金属磁性粉末の表面の一部または全部が、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により
被覆された金属磁性粉末複合体を形成しており、
前記金属磁性粉末複合体における、高周波燃焼法での炭素計測値が0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記樹脂の含有量が21質量%以上である、磁性コンパウンドである。
【0021】
本発明の第5の態様は、
金属磁性粉末と、
シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂を有し、
前記金属磁性粉末は、被覆工程においてジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により被覆処理され
金属磁性粉末複合体を形成したものであり、
前記金属磁性粉末複合体における、高周波燃焼法での炭素計測値が0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記樹脂の含有量が21質量%以上である、磁性コンパウンドである。
【0022】
本発明の第6の態様は、
金属磁性粉末と、
樹脂とを有し
前記樹脂としては、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂,変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上の樹脂からなり、
前記金属磁性粉末は、被覆工程においてジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体から選択される一種以上の被覆体により被覆処理され
金属磁性粉末複合体を形成したものであり、
前記金属磁性粉末複合体における、高周波燃焼法での炭素計測値が0.1質量%以上10質量%以下である、磁性コンパウンドである。
【0023】
本発明の第7の態様は、
前記被覆体が、フタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびそれらの誘導体から選択される一種以上である、第1から第6の発明のいずれかに記載の磁性コンパウンドである。
【0024】
本発明の第8の態様は、
前記被覆体を構成するフタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびそれらの誘導体から選択される一種以上の化学構造に含まれる炭素数が4以上20以下である、
第7の発明に記載の磁性コンパウンドである。
【0025】
本発明の第9の態様は、
前記樹脂へ、前記金属磁性粉末の100質量部に対して、前記フタル酸、マレイン酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、およびそれらの誘導体から選択される一種以上の5質量部を
被覆して作製した前記金属磁性粉末複合体を、30vol%含有させて前記磁性コンパウンドを構成した時、測定周波数2GHzにおける透磁率の実数部μ’が1.5以上、かつ、tanδμおよびtanδεが0.05以下を示す、
第1から第8の発明のいずれかに記載の磁性コンパウンドである。
【0026】
本発明の第10の態様は、
前記磁性コンパウンドを、0.75GHz以上1.0GHz以下の範囲で0.05GHz刻みで測定した際における、透磁率の実数部μ’および誘電率の実数部ε’の標準偏差が0.01以下である、
第1から第9の発明のいずれかに記載の磁性コンパウンドである。
【0027】
本発明の第11の態様は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の磁性コンパウンドにより構成されたアンテナである。
【0028】
本発明の第12の態様は、
第1から第10の発明のいずれかに記載の磁性コンパウンドにより構成されたアンテナを備えた電子機器である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上を用いて、高周波特性に優れ、かつ機械的強度に優れた磁性コンパウンドおよびその関連物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本実施形態について、次の順序で説明を行う。
1.磁性コンパウンド
1−1.金属磁性粉末
1−2.被覆体
1−3.樹脂
2.磁性コンパウンドの製造方法
2−1.準備工程
2−2.被覆工程
2−3.樹脂との混練工程
3.変形例等
本明細書において「〜」は所定の値以上かつ所定の値以下のことを指す。
【0032】
<1.磁性コンパウンド>
本実施形態における磁性コンパウンドは、金属磁性粉末と被覆体とシンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂とからなる。
以下、各構成について説明する。
【0033】
1−1.金属磁性粉末
本実施形態における金属磁性粉末は、一例としては、以下の構成を有する。
金属磁性粉末は、磁性特性、粒径などを適宜設計したものを用いれば良い。
磁性特性としては、飽和磁化(σs)により磁性コンパウンドの透磁率、誘電率を設定できる。ほかには、保磁力(Hc)、角形比(SQ)等、また粉体特性として、粒径、形状、BET(比表面積)、TAP(タップ)密度を調整すればよい。例えば、本実施形態における金属磁性粉末には、Fe(鉄)若しくは、FeとCo(コバルト)に、希土類元素(Y(イットリウム)を含む、以降同様。)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、Mg(マグネシウム)のうち少なくとも一種(以後「Al等」と呼ぶ。)が含まれる。
金属磁性粉末の原材料となる元素を含む水溶液中において、Yを含む希土類元素量を変化させることで、最終的に得られる金属粒子の軸比(=長軸長/短軸長)を変更することができる。
希土類元素が少ない場合は軸比が大きくなり、より損失を低減した金属粉末を得ることができるが、希土類元素が少なすぎる場合は透磁率が低減する。その一方、希土類元素が多い場合は軸比が小さくなり損失はやや大きくなるが、希土類元素を含まない場合と比べると透磁率が大きくなる。
【0034】
つまり、適切な希土類含有量とすることで、より低い損失と高い透磁率を有するようになるため、従来のkHzからGHz帯域といった広い範囲において利用できうる金属粉末を得ることが出来る。
【0035】
ここで、上述のように特性のバランスを維持するために適切な元素の含有範囲は、FeとCoの総和に対する希土類元素含有量で0at%(好適には0at%を超え)〜10at%とすることが望ましく、0at%を超え5at%以下がより好ましい。また、使用する希土類元素種としては、特にYやLaが好ましい。
【0036】
金属磁性粉末がCoを含む場合、Co含有量に関しては、原子割合でFeに対するCoの割合(以下「Co/Fe原子比」という)で0〜60at%を含有させる。Co/Fe原子比が5〜55at%のものがより好ましく、10〜50at%のものが一層好ましい。このような範囲において金属粉末は、飽和磁化が高く、かつ安定した磁気特性が得られやすい。
【0037】
また、Al等は焼結抑制効果も有しており、熱処理時の焼結による粒子の粗大化を抑制している。本明細書ではAl等は「焼結抑制元素」の1つとして扱っている。ただし、Al等は非磁性成分であり、あまりに多く含有させると磁気特性が希釈されるため好ましくない。FeとCoの総和に対するAl等含有量は1at%〜20at%とすることが望ましく、3at%〜18at%がより好ましく、5at%〜15at%が一層好ましい。
【0038】
本実施形態における金属磁性粉末は、金属成分からなるコアと主として酸化物成分からなるシェルから構成されるコア/シェル構造を有することが好ましい。コア/シェル構造を有しているか否かは、例えば、TEM写真により確認することができ、また組成分析は、例えばICP発光分析、ESCA(別名XPS)、TEM−EDX、SIMSなどの方法を採用することができる。
【0039】
なお、金属磁性粉末の平均一次粒子径は10nm以上500nm以下(好ましくは100nm以下)のナノ粒子であるのが好ましい。マイクロレベル(μm)の大きさの金属磁性粉末であっても用いることができるが、通信特性の向上、小型化の観点からより小さい粒径が望ましい。
【0040】
また、磁性コンパウンド中の金属磁性粉末の含有量は50vol%以下、好ましくは40vol%以下、一層好ましくは35vol%以下となるように、配合を調整するとよい。所望の優れた通信特性を得ながら、樹脂の曲げ強度を損なうことなく、弾性率の向上が図れるからである。
【0041】
また、樹脂の含有量は21質量%以上となるように配合を調整すると、磁性コンパウンドの曲げ強度を高く維持できるため望ましい。
【0042】
1−2.被覆体
本実施形態における被覆体は、後述の表面処理工程により金属磁性粉末の表面に形成される。おそらく、当該被覆体は、金属磁性粉末の表面の少なくとも一部または全部に付着して、金属磁性粉末複合体を形成されていると思われる。当該被覆体は、ジカルボン酸もしくは、その分子内の脱水作用によって生成した無水物、およびそれらの誘導体のうち少なくともいずれかにより構成される。ここで「誘導体」とは、官能基の導入、酸化、還元、原子の置き換えなど、母体の構造や性質を大幅に変えない程度の改変がなされた化合物をさし、「原子の置き換え」には、末端がアルカリ金属で置換がなされ、可溶性とされたものも含む。
【0043】
本発明者が検討したところ、ジカルボン酸のなかでも、樹脂のように分子量が何万もある高分子より、分子量が大きくない分子量が500以下のジカルボン酸が好ましい。さらに、ジカルボン酸及びその誘導体のなかでも、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸もしくはマレイン酸の誘導体、あるいは無水フタル酸もしくは無水マレイン酸の誘導体であることが好ましく、一層好ましくは、フタル酸もしくはマレイン酸を主骨格として、炭素数が4以上20以下である構造とするのが良い。なお、これらジカルボン酸、ジカルボン酸無水物又はその誘導体は必ずしも一種だけで構成する必要は無く、それらを複数使用することを妨げるものではない。炭素数が上記の範囲内ならば、分子の嵩が適度な大きさとなり、樹脂の中に金属磁性粉末複合体を添加し易くなるので適当である。
【0044】
なお、被覆する被覆体量としては、金属磁性粉末の表面を被覆体で被覆した金属磁性粉末複合体における高周波燃焼法での炭素計測値が0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。一方、磁性コンパウンド中においては、被覆剤は、粒子表面に残存するもの以外にも樹脂中へ分散され、または化合する可能性もある。このため、磁性コンパウンドとしては、金属磁性粉末の量と樹脂量を設定することで所望の各特性を得ることができる。
【0045】
1−3.樹脂
本実施形態における樹脂として極めて好適なのは、SPS(シンジオタクチックポリスチレン)樹脂、および、m−PPE(変性ポリフェニレンエーテル)樹脂うち少なくともいずれかである。実施例の項目で後述するように、SPSおよびm−PPEのうち少なくともいずれかを樹脂として採用し、当該樹脂と上記の金属磁性粉末複合体とで混練が可能となる。
なお、低損失材料、例えばIEC60250またはJISC2138:2007に規定された1MHzにおけるtanδεが0.05以下の熱可塑性樹脂であれば、上記以外の樹脂を使用したとしても本実施形態の効果を奏する場合もある。
【0046】
本発明に従う磁性コンパウンド(コンパウンド中における金属磁性粉末複合体の構成:30vol%相当)の高周波(2GHz)領域における磁気特性としては、複素比透磁率の実数部μ’が1.50以上、好ましくは1.70以上であることが好ましい。こうした特性を有する磁性コンパウンドは、透磁率が高いため十分な小型化効果を発揮することができ、かつリターンロスの小さいアンテナの構築に極めて有用である。
【0047】
また、本発明に従う磁性コンパウンドの磁気損失および誘電損失については、測定周波数2GHzにおいて、tanδμおよびtanδεが0.10以下、より好ましくは0.05以下であり、一層好ましくは0.02以下であるとよい。
【0048】
また、本発明に従う磁性コンパウンドの透磁率の実数部μ’および誘電率の実数部ε’は、0.75GHz以上1.0GHz以下の範囲において、0.05GHz刻みで測定した際の標準偏差が0.01以下であると、0.8GHz付近で使用するアンテナを作製した際に、安定したアンテナ特性が得られるため好ましい。
【0049】
<2.磁性コンパウンドの製造方法>
以下、磁性コンパウンドの製造方法について説明する。
【0050】
2−1.準備工程
本工程においては、磁性コンパウンドの作製に係る諸々の準備を行う。例えば、上記の金属磁性粉末などの各種原材料や、被覆体の原材料、混ぜ入れる対象となる樹脂を用意する。
【0051】
2−2.被覆工程(表面処理)
金属磁性粉末に対し、被覆体となる有機化合物(ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物およびその誘導体のうち少なくともいずれか)を添加して混合し、金属磁性粉末複合体を得る。ジカルボン酸のなかでも、樹脂のように分子量が何万もあるような高分子より、分子量が大きくない低分子量が500以下のジカルボン酸が好ましい。さらに、ジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、及びその誘導体のなかでも、フタル酸、無水フタル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸もしくはマレイン酸の誘導体、あるいは無水フタル酸もしくは無水マレイン酸の誘導体であることが好ましく、一層好ましくは、フタル酸もしくはマレイン酸を主骨格として、炭素数が4以上20以下である構造とするのが良い。なお、これらジカルボン酸、ジカルボン酸無水物、又はその誘導体は必ずしも一種だけで構成する必要は無く、複数種の有機化合物を使用することを妨げるものではない。また、炭素量が0.1質量%以上あれば、樹脂への分散が好適に行え好ましい。一方、炭素量が10質量%以下であれば、非磁性成分が過剰とならず、コンパウンドとしたときの透磁率が担保でき好ましい。
【0052】
なお、上記の有機化合物の添加量は、質量比で金属磁性粉末100に対して2〜15、より好ましくは2.5〜10、一層好ましくは5〜10である。
2以上だと、金属磁性粉末と樹脂とがなじむため、生産した時の製品の性質安定性が向上する。15以下だと、金属磁性粉末における非磁性成分が適量となり、被覆体が被覆された金属磁性粉末により構成される金属磁性粉末複合体そのものの磁気特性の低下を抑制できる。ひいては、金属磁性粉末複合体を樹脂に混ぜ入れて磁性コンパウンドにしたときの高周波特性を比較的高く維持することができ、最終的に形成されるアンテナの特性についても同様に比較的高く維持することができる。
【0053】
上記の被覆体が、金属磁性粉末複合体と当該樹脂との間の「ぬれ性」を向上させるメカニズムについての詳細は不明であるので、推測にとどまるが、有機化合物の構造式から鑑みて、カルボキシル基側が金属磁性粉末の表面に引き寄せられる一方、反対側(カルボキシル基が存在しない側)が疎水性の樹脂側になじむようになり、結果として金属磁性粉末複合体が樹脂によくなじむようになると考えられる。また、他説として、金属磁性粉末と、所定の有機化合物を混合して、その一部を金属磁性粉末に被覆させるが、「被覆に利用されていない」フリーな状態の当該有機化合物をあえて除去することなく金属磁性粉末複合体中に残存させ、そのままの状態とすることで、金属磁性粉末と有機化合物の複合体を形成したことにより、前述の「ぬれ性」作用以外においても何らかの分散作用も生じさせていると推察している。
【0054】
なお、表面処理の際に添加する溶媒(金属磁性粉末と被覆体とのなじみを向上させるために添加する液体)としては、上記の有機化合物が必ずしも完全に溶解するものでなくてもよい。上記の有機化合物と当該溶媒を加えたものに金属磁性粉末を加え、金属磁性粉末を当該溶媒に含浸させた後、溶媒を除去する方法を採用することが好ましい。
【0055】
また、上記の被覆体の溶液に金属磁性粉末を加え、自転公転併用式攪拌機で攪拌、もしくは剪断力を加えながら攪拌することでペースト化させる方法を採用してもよい。ペースト化の工程を経ることにより、上記の被覆体と金属磁性粉末が良くなじむように混合され、そのため、金属磁性粉末の表面に被覆体が吸着しやすくなり、ひいては金属磁性粉末複合体が形成されやすくなる。ただし、金属磁性粉末に対して満遍なく被覆体が行き渡るようであれば、問題はない。また、混練を行いながら溶媒の除去、乾燥を行うために、ミキサーなどを使用しても差し支えない。なお、当該除去、乾燥後において、被覆体を金属磁性粉末の粒子表面に残存させることが肝要である。
【0056】
また、金属磁性粉末と上記の被覆体との間の接触を効率的に生じさせつつ金属磁性粉末複合体を形成する必要があるので、高い剪断力を有した分散、混練機を用いてもよく、当該溶媒に対して強い剪断力を加えながら金属磁性粉末を当該溶媒に対して分散させてもよい。
【0057】
ペーストの作製後に、乾燥して粉末態にする方法を採用した際に用いられる、強い剪断力を有する分散機としては、タービン・ステータ型攪拌機として知られるプライミクス株式会社のT.K.ホモミクサー(登録商標)、IKA社のUltra−Turrax(登録商標)などが例示でき、コロイドミルとしては、プライミクス株式会社のT.K.マイコロイダー(登録商標)、T.K.ホモミックラインミル(登録商標)、T.K.ハイラインミル(登録商標)や、株式会社ノリタケカンパニーリミテドのスタティックミキサー(登録商標)、高圧マイクロリアクター(登録商標)、高圧ホモジナイザー(登録商標)等が例示できる。
【0058】
剪断力の強弱は、攪拌翼を有する装置であれば、攪拌翼の翼周速度で評価することができる。本実施形態において、「強い剪断力」とは、翼周速度が3.0(m/s)以上、好ましくは5.0(m/s)以上のものを指す。翼周速度が上記の値以上だと、剪断力が適度に高く、ペースト化の時間を短縮化でき、生産効率が適度に良い。ただし、金属磁性粉末に与えるダメージを低減することを考慮すると、翼周速度を低く調整してダメージを低減することも可能である。
【0059】
なお、翼周速度は、円周率×タービン翼の直径(m)×1秒あたりの攪拌回転数(回転数)で算出することができる。例えば、タービン翼の直径が3.0cm(0.03m)で、攪拌回転数が8000rpmであれば、1秒あたりの回転数は133.3(rps)となり、翼周速度は12.57(m/s)となる。
【0060】
得られたペースト状の処理物は、乾燥して溶媒を除くとよい。このときは、ペーストをバット上に広げ、溶媒の乾燥温度以上、被覆物質の分解温度未満に設定して乾燥することができる。溶媒の乾燥は、例えば酸化しやすい物質に対して被覆処理を行っている場合には、不活性雰囲気下、コスト面で考えると窒素中にて乾燥処理を行うことができる。
【0061】
ここで金属磁性粉末に対し強固に被覆されうる有機化合物を用いて表面処理を行う場合には、例えばろ過を行ってある程度の溶媒を除いた後に、乾燥を行うという手法を採用してもよい。こうすることにより、予め溶媒の含有量を減ずることができるので、乾燥時間を短縮することもできる。なお、当該被覆が強固か否かを確認するには、例えばろ液を蒸発させて、残留成分がどの程度あるかで評価することもできる。
【0062】
一方、ペーストにすることなく、溶媒と被着されうる有機化合物を混合後に、金属磁性粉末を添加し、攪拌混合を行いながら表面処理を行う方法を採用する際には、日本コークス株式会社のFMミキサー、株式会社カワタのスーパーミキサーといったものが使用できる。また、こうした装置に、溶媒を蒸発させるために加熱装置が付属したものを用いれば、処理後の粉末を取り出して乾燥に付す操作が必要なくなるので好ましい。
【0063】
こうした処理を行う際には、金属磁性粉末の酸化による特性低下を抑制する目的で、不活性雰囲気下で処理を施すのが好ましい。さらに、一旦溶媒と有機化合物を混合した液に不活性ガス(コスト的には窒素)を通気させる操作を施すのがより好ましい。処理容器内を不活性ガスで置換した後、金属磁性粉末を酸化しないように添加して、溶媒、有機化合物、金属磁性粉末を混合して混合体を作製した後、加熱処理を行って溶媒の乾燥温度以上、被覆物質の分解温度未満に設定して乾燥することができる。より短時間で乾燥するには、ミキサーを運転し、混合体を転動させながら乾燥させることが好ましい。
【0064】
こうして得られた、被覆体を表面に形成された金属磁性粉末複合体の凝集体において、分級機やふるいなどを用いて粗粒子を除くのがよい。あまりにも大きな粗粒子が存在していると、アンテナを作製する際に粗粒子のある部分に力がかかってしまい、機械的特性が悪化するおそれがある。篩を用いて分級する時には、500メッシュ以下の目開きのものを用いるのが適当である。
【0065】
なお、上記の工程を経て得られた金属磁性粉末複合体の特性および組成は、以下の方法により確認した。
(BET比表面積)
BET比表面積は、ユアサアイオニクス株式会社製の4ソーブUSを用いて、BET一点法により求められる。
【0066】
(金属磁性粉末複合体の磁気特性評価)
得られた金属磁性粉末複合体(または金属磁性粉末)の磁気特性(バルク特性)として、東英工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を使用して、外部磁場10kOe(795.8kA/m)で、保磁力Hc(OeまたはkA/m)、飽和磁化σs(Am
2/kg)、角形比SQを測定可能である。Δσsは、磁性粉を60℃、90%の高温多湿環境下に一週間放置した時の飽和磁化の低下割合を百分率(%)で示したものである。
【0067】
(TAP密度の測定)
特開2007−263860号明細書に記載された方法で測定可能である。また、JISK−5101:1991の手法を採用しても測定可能である。
【0068】
2−4.樹脂との混練工程
得られた金属磁性粉末複合体と上述の樹脂とを混練し、磁性コンパウンドを形成する。混練工程により樹脂中に金属磁性粉末が混ざっている分散された状態となる。混練後の状態は、樹脂中に金属磁性粉末が均一濃度に分散されているのが望ましい。樹脂に混ぜ込むことのできる金属磁性粉末複合体の量が多い場合、高周波を加えた際の透磁率がとりわけ高くなる一方、樹脂の有する機械的特性を劣化させることになる。そのため、金属磁性粉末複合体の添加量は機械的特性と高周波特性との間のバランスを考慮して検討する必要がある。
【0069】
磁性コンパウンドを作製する手段としては、特に制限はない。例えば、市販の混練機を用いて、混練強度等を調整すればよい。
樹脂、金属磁性粉末、上記の有機化合物を含む混合物を加熱し、磁性コンパウンドを作製する方法を採用しても構わないし、樹脂を溶融させたところに金属磁性粉末複合体を添加する方法を採用しても構わない。
【0070】
なお、樹脂の溶融温度は樹脂の溶融温度よりも高い温度で通常行い、樹脂の分解性が高いときには分解温度以下で設定する。
【0071】
また、樹脂の機械的強度などを改善するために、通常知られている添加物として知られている、繊維態であるガラス繊維、炭素繊維、石墨繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、麻繊維、ケナフ繊維、竹繊維、スチール繊維、木綿、レーヨン、アルミニウム繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、コットンフィブリル、窒化珪素ウイスカー、アルミナウイスカー、炭化珪素ウイスカー、ニッケルウイスカー、板状であるタルク、カオリンクレイ、マイカ、ガラスフレーク、アラゴナイト、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、有機化モンモリロナイト、膨潤性合成マイカ、黒鉛、粒状である炭酸カルシウム、シリカ、ガラスビーズ、酸化チタン、酸化亜鉛、ワラストナイト、バーミキュライト、シラスバルーン、ガラスバルーン、ナノ酸化チタン、ナノシリカ、カーボンブラックといったものを添加することができる。その他、添加によりアンテナとしての特性が低下しない範囲で、経時劣化抑制物質を添加することもできる。
【0072】
(磁性コンパウンドの特性評価)
上述の方法により得られた磁性コンパウンド0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機、もしくはホットプレス機を用い、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の磁性コンパウンドの成形体を形成する。その後、アジレント・テクノロジー株式会社製のネットワーク・アナライザー(E8362C)と株式会社関東電子応用開発製の同軸型Sパラメーター法サンプルホルダーキット(製品型番:CSH2−APC7、試料寸法:φ7.0mm−φ3.04mm×5mm)を用い、得られた磁性コンパウンドの成形体の高周波特性すなわち0.5〜5GHzの区間、測定幅は0.05GHz刻みで行い、透磁率の実数部(μ’)、透磁率の虚数部(μ”)、誘電率の実数部(ε’)、誘電率の虚数部(ε”)を測定し、高周波特性を確認した。ここで、tanδε=ε”/ε’であり、tanδμ=μ”/μ’で算出することができる。
【0073】
以上、本実施形態によれば、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂から選択される一種以上を用いて、高周波特性に優れ、かつ機械的強度に優れた磁性コンパウンドおよびその関連物を提供できる。
【0074】
<3.変形例等>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0075】
(金属磁性粒子、被覆体および樹脂)
本実施形態においては、金属磁性粒子、被覆体および樹脂に関し、主となる元素や化合物について詳述した。その一方、上記で列挙した元素や化合物以外のものを、金属磁性粒子、被覆体および樹脂が含有していても構わない。
【0076】
(アプリケーション)
本実施形態における磁性コンパウンドは、アンテナ、インダクタ、電波遮蔽材に用いることができる。特に、当該磁性コンパウンドにより構成されるアンテナ、更には当該アンテナを備えた電子通信機器(電子機器)においても、後述の実施例の項目で示すような比較的高い通信特性を享受することが可能である。つまり、本実施形態における磁性コンパウンドは、上記のような電子部品、アンテナ、電子機器等々へと加工可能なものであり、例えば磁性コンパウンドはアンテナ材料となり得るものである。
【0077】
このような電子通信機器としては、例えば、本実施形態におけるアンテナが受信した電波に基づいて電子通信機器としての機能を奏する部分と、受信した電波に基づいて当該部分を制御する制御部とを有するものが挙げられる。
【0078】
なお、本実施形態における電子通信機器としては、アンテナを備える関係上、通信機能を有する通信機器であるのが好ましい。しかしながら、アンテナにより電波を受信して機能を発揮する電子機器であれば、通話などの通信機能を備えない電子機器であっても差し支えない。
【実施例】
【0079】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
なお、本項目で挙げる各例における諸々の条件は、以下の各表に記載している。
表1は、実施例1〜6に関する各種条件、ならびに、750MHz〜1GHzにおける高周波特性および2GHzにおける高周波特性を記載したものである。
表2は、実施例1〜6に関し、800MHz、1.5GHz、2.5GHz、および3GHzにおける高周波特性を記載したものである。
【表1】
【表2】
その一方、表3は、比較例1〜4に関する各種条件、ならびに、750MHz〜1GHzにおける高周波特性および2GHzにおける高周波特性を記載したものである。
表4は、比較例1〜4に関し、800MHz、1.5GHz、2.5GHz、および3GHzにおける高周波特性を記載したものである。
また、表5は、比較例5〜7に関する各種条件、ならびに、750MHz〜1GHzにおける高周波特性および2GHzにおける高周波特性を記載したものである。
表6は、比較例5〜7に関し、800MHz、1.5GHz、2.5GHz、および3GHzにおける高周波特性を記載したものである。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
なお、各表の空欄は未測定または測定不能であった項目である。
以下、各例について説明する。
【0081】
<実施例1>
まず、フタル酸(和光純薬工業株式会社製特級試薬)25gに、溶媒としてエタノール(和光純薬工業株式会社製特級試薬)を500gになるように添加し、フタル酸をエタノールへと溶解させた。この溶液に対し、金属磁性粉末(DOWAエレクトロニクス株式会社製:鉄−コバルト金属粒子、長軸長:40nm、BET:37.3m
2/g、σs:179.3Am
2/kg、炭素含有量(高周波燃焼法):0.01質量%)500gを不活性雰囲気下で添加し、溶液中にて金属磁性粉末を沈降させた。これを大気中で高速攪拌機(プライミクス株式会社製TKホモミキサーMarkII)で8000rpmにおいて2分間にて撹拌により混合して、金属磁性粉末のペースト状態とした。
【0082】
得られたペーストをアルミのバット上に広げ、エタノールの揮発温度近傍(78℃)で1時間、その後120℃に昇温して1.5時間加熱し、ペーストからエタノールを除き、フタル酸と金属磁性粉末が混在した凝集体を得た。これにより金属磁性粉末の表面の一部以上はフタル酸により被覆された。得られた凝集体を500メッシュのふるいにかけて粗大粒子を除き、本例にかかる金属磁性粉末複合体とした。得られた金属磁性粉末複合体は、BET:34.9m
2/g、σs:173.5Am
2/kg、炭素含有量(高周波燃焼法):2.82質量%の特性を有したものだった。なお、得られた金属磁性粉末複合体の真密度を気相(Heガス)置換法で求めたところ、5.58g/cm
3であった。求めた真密度の値は、コンパウンド中の金属磁性粉末複合体の含有量を所望の割合にするための配合比の算出に使用した。
【0083】
成形体形成時の体積充填率が20vol%に相当する金属磁性粉末複合体と、比重1.18g/cm
3のXAREC(登録商標)SP105(SPS/出光興産株式会社製、シンジオタクチックポリスチレン)のみを11.5gそれぞれ窒素中で秤量して5号規格瓶に入れてフタをした。軽く手で振ってかき混ぜたあと、小型混練機(DSM Xplore(登録商標) MC15、Xplore Instruments社製)にて、窒素雰囲気中で、設定温度300℃、混練攪拌速度100rpmにて、10分間にて混練(樹脂および磁性粉の投入時間を含む)して、混練物すなわち磁性コンパウンドを作製した。
【0084】
得られた磁性コンパウンドは、小型混練機のオプション装置である射出成形機にシリンダ温度300℃、金型温度130℃の条件で投入し、曲げ試験用の成形体(ISO178規格サイズ:80mm×10mm×4mm)を作製したのち、デジタルフォースゲージ(株式会社イマダ製 ZTS−500N)を用い、支点間距離を16mmとして、曲げ強度を測定し、曲げ変位を算出した上で弾性率(MPa)を測定した。
【0085】
更に、高周波特性を測定するため、磁性コンパウンド0.2gを直径6mmのドーナツ形冶具中へ投入後、小型ホットプレス機(アズワン製)にて300℃で20分間加熱した。こうすることにより磁性コンパウンド中の樹脂を溶融させた後、加圧しながら、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体へと成形して冷却し、得られた成形体に対し、上記の実施の形態に記載の方法で高周波特性を測定した。
【0086】
<実施例2>
本例では、実施例1において、金属磁性粉末複合体の添加量を30vol%に相当する量に変更し、SPSの添加量を合わせて調整した以外は実施例1と同様にした。
【0087】
<実施例3>
本例では、実施例1において、金属磁性粉末複合体の添加量を40vol%に相当する量に変更し、SPSの添加量を合わせて調整した以外は実施例1と同様にした。
【0088】
<実施例4>
本例では、樹脂を比重1.06g/cm
3のザイロン(登録商標)AH−40(m−PPE/旭化成ケミカルズ株式会社製 変性ポリフェニレンエーテル)に変更した以外は実施例2と同様にした。
【0089】
<実施例5>
金属磁性粉末を500メッシュ篩で篩わけし、篩下の金属磁性粉末(50g)に、マレイン酸を磁性粉に対して5%(2.5g)、溶媒としてエタノールを磁性粉に対して30重量%(15g)添加して、メノウ乳鉢中で5分間混合させた。乾燥は60℃で2時間行って粉末を得た。
【0090】
比重1.18g/cm
3のXAREC(登録商標)SP105(SPS/出光興産株式会社製、シンジオタクチックポリスチレン)のみを11.5gそれぞれ窒素中で秤量して5号規格瓶に入れてフタをした。軽く手で振ってかき混ぜたあと、小型混練機(DSM Xplore(登録商標) MC15、Xplore Instruments社製)にて、窒素雰囲気中で、設定温度300℃、混練攪拌速度100rpmにて、10分間混練(樹脂および磁性粉の投入時間を含む)して、混練物すなわち磁性コンパウンドを作製した。
【0091】
そうして得られたコンパウンドを、小型混練機のオプション装置である射出成形機にシリンダ温度300℃、金型温度130℃の条件で投入し、曲げ試験用の成形体(ISO178規格サイズ:80mm×10mm×4mm)を作製した。得られた成形品について、それぞれ機械的強度(曲げ特性・曲げ弾性率)をそれぞれ測定した。
【0092】
さらに、高周波特性を測定するため、混練物0.2gを直径6mmのドーナツ形冶具中へ投入後、小型ホットプレス機(アズワン製)にて300℃で20分間加熱して樹脂を溶融させたのちに、加圧しながら成形して冷却し、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体とした。
【0093】
<実施例6>
使用する樹脂を比重1.06g/cm
3のザイロン(登録商標)AH−40(m−PPE/旭化成ケミカルズ株式会社製 変性ポリフェニレンエーテル)に変更した以外は実施例5と同様にし、同様の処理を行った。
【0094】
<比較例1>
本例では、実施例1において、フタル酸で表面処理していない金属磁性粉末を用いた。エポキシ樹脂(一液型エポキシ樹脂 テスク株式会社製)を、金属磁性粉末が30vol%になるように秤量し、株式会社EME社製真空攪拌・脱泡ミキサー(V−mini300)を用いて、当該金属磁性粉末をエポキシ樹脂に分散させペースト状にした。このペーストをホットプレート上で60℃、2時間乾燥させて、金属磁性粉末−樹脂の複合体を得た。この複合体を解粒して複合体の粉末を作製し、この複合体粉末0.2gをドーナッツ状の容器内に入れて、ハンドプレス機により1tの荷重をかけることにより、外径7mm、内径3mmのトロイダル形状の成形体とした。以降は実施例1と同様にして評価した。
【0095】
<比較例2>
本例では、比較例1に用いた金属磁性粉末を、実施例2で使用した金属磁性粉末複合体に変更した以外は同様にした。
【0096】
<比較例3>
本例では、実施例2において、金属磁性粉末複合体を加えない以外は同様にした。
【0097】
<比較例4>
本例では、実施例4において、金属磁性粉末複合体を加えない以外は同様にした。
【0098】
<比較例5>
本例では、実施例2において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理しなかった以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0099】
<比較例6>
本例では、実施例4において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理しなかった以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0100】
<比較例7>
本例においては、機械特性に優れ、また樹脂そのものの損失が小さい樹脂として知られているPPS樹脂と、磁性粉末との表面とのなじみを改善する手法として知られている、特開2013−77802号公報に記載の既存の技術である熱可塑性樹脂と芳香族ナイロンの混合樹脂を用いた上で、磁性コンパウンド各実施例とに同様の効果が見られるか確認した。具体的には、実施例1において、金属磁性粉末をフタル酸で表面処理せず、かつ、樹脂をジュラファイド(登録商標)(PPS/ポリフェニレンサルファイド樹脂 ポリプラスチックス株式会社製 A0220A9)と、芳香族ナイロン6T ベスタミド(登録商標)(ダイセル・エボニック株式会社製 HTplus M1000)を重量比で9対1の割合で混合した樹脂とした以外は同様にした。
本例においては、混練物の作製の際、混練物を大気中に取り出した段階で金属磁性粉末が発火して発煙が生じ、そもそも混練物を作製することができなかった。
【0101】
<結果>
上記の内容をまとめたのが、先に挙げた各表である。
上記の各表を見ると、いずれの実施例も、各表に記載した全ての周波数において、透磁率の実数部(μ’)、透磁率の虚数部(μ”)、誘電率の実数部(ε’)、誘電率の虚数部(ε”)、更には750MHz〜1GHzにおけるμ’やε’の標準偏差も含め、全てが良好な値となっていた。
その一方、比較例においては、透磁率の実数部(μ’)、透磁率の虚数部(μ”)、のうち、必ずいずれかが実施例よりも劣る結果となっていた。また、磁性粉を混ぜいれたサンプルについては、本発明に従うものの他はコンパウンドを製造する段階で、磁性粉の発火に起因した焼失がおこり、コンパウンドの作製ができなかった。
【0102】
以上の結果、上記の実施例によれば、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)樹脂および変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)樹脂のうち少なくともいずれかを用いて、高周波特性に優れ、かつ機械的強度に優れた磁性コンパウンドおよびその関連物を提供できることが明らかとなった。
【0103】
金属磁性粉末を樹脂に混ぜ込んだものでアンテナを形成すれば、波長短縮効果により、アンテナそのものを小さくすることができ、ひいては携帯機器やスマートフォンの小型化に貢献できる。アンテナの他、電波遮蔽材、インダクタなどへの利用も可能である。