【実施例1】
【0010】
図1はSEMの概略図である。該SEMは、一次荷電粒子線(ここでは一次電子線)を試料103に照射するSEM筐体102と、該筐体102を搭載し観察時に試料を収容する試料室101と、試料室101を搭載する架台100と、画像を表示するモニタ(表示部)104と、SEM全体のシステムを制御する制御部105と、を備える。
【0011】
図2はSEMの詳細図である。SEM筐体102は、一次電子線112を放出する電子源111と、一次電子線112を試料103上に集束させる対物レンズと、一次電子線112を電子源110直下から対物レンズ先端まで加速させ、該対物レンズを高いエネルギー状態で通過させるためのブースティング電極113及び制御電極114と、一次電子線112の照射により試料103から生じる信号電子121を検知する検出器122、123と、を備える。ブースティング電極113及び制御電極114により一次電子線112を加速すると、対物レンズにより集束作用を受ける際の一次電子線112のエネルギーは高くなるため、レンズ収差が低減し、分解能が改善する。
【0012】
ここで、対物レンズとは、電界重畳型の磁界レンズであり、2種類のモードを有する。一つは試料上への磁場の漏えいが無い非浸漬型の磁界レンズ119(非浸漬モード)であり、もう一つは試料上へ磁場を形成する浸漬型の磁界レンズ120(浸漬モード)である。前者は試料上への磁場の漏れがないため磁場の影響のない分析や磁性試料の観察に適しており、後者は試料上に磁場を形成することでレンズ焦点距離の短縮により高分解能観察に適している。このように、用途に応じて、磁界レンズのレンズモードを使い分けることで幅広い分析が可能である。
【0013】
非浸漬型の磁界レンズ119(第一のレンズ)は、第一の磁極片115の外側に配置され第二の磁極片116の内側に配置される第一のレンズコイル117に電流を流すことで、第一の磁極片115と第二の磁極片116の間に形成される。一方、浸漬型の磁界レンズ120(第二のレンズ)は、第二の磁極片116の外側に配置される第二のレンズコイル118に電流を流すことで、第二の磁極片116と試料103の間に形成される。一次電子線112が試料103上で集束するようコイルに流す電流を制御部105により制御することで、これらの磁界レンズの強度を制御できる。
【0014】
第一の磁極片115及び第二の磁極片116は軸対称な中空円錐形状であり、純鉄やパーメンジュールなどの軟磁性体材料で構成される。また、第二の磁極片116の試料側の開孔は第一の磁極片115の試料側の開孔より小さい。
【0015】
第一の磁極片115及び第二の磁極片116は電子源111と試料103の間に配置され、第二の磁極片116は第一の磁極片115の外側に配置される。第二の磁極片116の試料側先端部は第一の磁極片
115の試料側先端部よりも試料側に配置される。
【0016】
信号電子を検知する検出器には、SEM筐体102内に搭載される筐体内検出器122と、試料室101に搭載される試料室検出器123があり、例えば、シンチレータを用いた検出器や半導体を用いた検出器などが用いられる。
【0017】
図3は減速電界の概略図であり、Aは試料上に形成される第二の減速電界、Bは試料傾斜時の第二の減速電界、Cは抑制された第二の減速電界、を示す。
【0018】
ブースティング電極113は、光軸110に対して軸対称な中空円筒形状であり、第一の磁極片115の内側に配置され、電子源直下から第一の磁極片115の試料側の先端よりも下部まで配置される。
【0019】
制御電極114は、光軸110に対して軸対称な中空円錐形状であり、ブースティング電極113と第二の磁極片116の間に配置される。
【0020】
ブースティング電極113には正電圧を印加し、制御電極114にはブースティング電極113の電圧以下、かつ、試料103の電圧以上の電圧を印加する。ブースティング電極113と制御電極114の電圧値が異なる場合、該電位差により一次電子線112を減速する第一の減速電界130が形成され、制御電極114と第二の磁極片116及び試料103の電位差により一次電子線112を減速する第二の減速電界131が形成される。ここで、第二の磁極片116の先端部と試料103との間の距離、及び、制御電極114への印加電圧を適切な値に設定する。すると、第二の減速電界131は主に制御電極114と第二の磁極片116の電位差により形成され、試料103上への電界漏れを抑えることができる。
【0021】
即ち、ブースティング電極113、制御電極114、第二の磁極片116、及び、試料103が、互いに電気的に独立して配置され、試料103への印加電圧をVs、制御電極114への印加電圧をVc、ブースティング電極113への印加電圧をVbと定義すると、Vs≦Vc≦Vbを満たすようにする。
【0022】
例えば、第二の磁極片116の先端部と試料103との間の距離を4mmとした場合、接地された試料に対して制御電極114の電圧値が100V程度であれば、試料上の電界漏れを抑えることができる。このため、試料表面の凹凸や試料傾斜などの試料形態に依存して発生する第二の減速電界131の歪みを抑制することが可能となり、試料形態に依存して発生するレンズ性能の劣化を抑制することができる。
【0023】
また、ブースティング電極113及び制御電極114の電圧値はSEMの操作を行うためのGUI(表示部104)により任意に変更することが可能である。従って、観察条件による電極の電圧値の変更が容易となる。
【0024】
ここで、対物レンズのモード切替時にブースティング電極113の電圧を一定値に設定し、制御電極の電圧値のみを変更することで、ブースティング電極113の電圧値の変更に伴う光学条件の変化無しに対物レンズを使用することができる。
【0025】
次に、SEMの動作原理について説明する。電子源111から放出された一次電子線112は、ブースティング電極113の円筒内を高速で進行する。非浸漬モードの場合、一次電子線112は非浸漬型の磁界レンズ119による集束作用を受けた後、第一の減速電界130と第二の減速電界131により減速され試料103に照射される。一方、浸漬モードの場合、一次電子線112は第一の減速電界130で減速された後、浸漬型の磁界レンズ120による集束作用を受け、その後、試料103上に形成された第二の減速電界131により減速され試料103に照射される。このように、一次電子線112をブースティング電極113により加速させることで、一次電子線112は高いエネルギーをもって磁界レンズによる集束作用を受けるため、磁界レンズ通過時に発生する収差を低減することができる。
【0026】
レンズ作用により集束した一次電子線112は走査コイルの偏向作用によって試料上を走査する。一次電子線112が試料103に照射されると、信号電子121が放出される。信号電子121は筐体内検出器122あるいは試料室検出器123により検出される。
【0027】
制御電極114への印加電圧を制御することで、第一の減速電界130と第二の減速電界131の減速作用を制御できる。例えば、光軸110に対して非軸対称な表面形態を有する試料や光軸に対して試料を傾斜させ、試料上の第二の減速電界131を抑制したい場合、制御電極114の電位を試料電位に近づけるように制御すればよい。
【0028】
浸漬型の磁界レンズ120を高分解能化したい場合、第二の減速電界131を強めるために制御電極114の電圧値を高く設定する。また、非浸漬型の磁界レンズ119を高分解能化しつつ、傾斜試料や表面に凹凸のある試料を観察したい場合は、第二の減速電界131を弱めるために制御電極114の電圧値を第二の磁極片及び試料の電位に近くなるよう設定する。
【0029】
このように、対物レンズのそれぞれのモードにおいて、試料形態に依存せず、高分解能観察が可能となる。即ち、対物レンズのブースティング化において問題となる試料上での減速電界の歪みを制御電極114により抑制することができる。
【0030】
また、信号電子121が50eV程度の低いエネルギーをもつ二次電子の場合、第二の減速電界131によりSEM筐体102内に吸い上げられる。一方、二次電子に比べ比較的高いエネルギーをもつ後方散乱電子は第二の減速電界131により集束せず直進する。従って、第一及び第二の減速電界131の強度と検出器の配置によって、二次電子、後方散乱電子を弁別することが可能である。
【0031】
図4は対物レンズを形成する種々部品の分割ユニット141の断面図である。Aは分割ユニット141がSEMから分割される様子を示す。Bの分割ユニット141は、ブースティング電極の試料側先端部、制御電極、第一の磁極片の試料側先端部、及び、第二の磁極片の試料側先端部とから構成される。Cは、第一の磁極片の試料側先端部が分割ユニット141に含まれない例を示す。このように、必要に応じて、種々部品をSEMから着脱可能な構造とすることができる。これにより、対物レンズを形成するための電極や磁極片が不純物の付着やガスの吸着等により汚染した場合や干渉物により損傷した場合の修復が容易となり、メンテナンス性が向上する。
【0032】
図5は、分割箇所へ搭載される筐体内検出器
122の断面図である。この場合、検出面の汚染により信号電子の収量が低下した場合や検出器が故障した場合の修復が容易となる。分割箇所には筐体内検出器
122の他に、電子線を偏向するための偏向器や差動排気用の絞り穴を搭載することも可能である。このように、分割ユニット141とすることで、分割箇所への他部品の挿入が容易となる利点がある。
【0033】
分割ユニット141においては、ブースティング電極、制御電極、第一の磁極片、及び、第二の磁極片を、それぞれ電気的に独立させる必要があるため、絶縁部材140(樹脂材料やセラミックス材料等)を用いて固定される。
【0034】
図6は分割ユニットの固定方法の概略図であり、Aは第二の磁極片上116aに直接ネジで固定する方法、Bは第二の磁極片上116aに切られたネジに直接、第二の磁極片下116bを固定する方法を、C、Dは、樹脂材料やセラミックス材料等の絶縁物を用いて固定する方法を示す。Cでは第二の磁極片上に固定し、Dでは第一の磁極片に固定している。何れの場合も第二の磁極片上と第二の磁極片下の端面を隙間無く接合することを前提とする。その他にも樹脂の勘合による固定や磁気による吸着を利用した固定方法などが可能である。
【0035】
対物レンズの性能を発揮するためには、磁界レンズと電界レンズの中心軸合わせが必要である。即ち、磁界レンズを形成する第一、第二の磁極片及び電界レンズを形成するブースティング電極、制御電極位置の組付け精度が重要となる。本実施例ではこれらの組付け精度が必要な部品を分割ユニットとして纏めることで、小型化による組立性の向上や分割ユニットを消耗品として提供できる利点がある。
【0036】
図7は制御電極への電圧導入方法の概略図であり、Aは第二の磁極片の分割箇所から導入する方法を、Bは第二の磁極片の側面に空いた穴から導入する方法を示す。この穴は軸対称に2〜4つ備えることが好ましい。ブースティング電極下113bへの電圧の導入方法は、分割箇所でブースティング電極上113aに接合する方法や、制御電極と同様に第二の磁極片の外側から電圧導入する方法としても良い。接合の方法としては、バネを用いた接合やケーブルを用いた接合などが可能である。
【0037】
実施例1によれば、荷電粒子線を加速させるブースティング電極に加え、制御電極を追加することで、対物レンズのモードによらず、電界重畳による高分解能観察を実現できる。また、高分解能観察と試料上の電磁界フリーの観察を両立した荷電粒子線装置を提供できる。更に、磁極片及び電極の試料側先端部を分割ユニット化し着脱可能な構造とすることで、組立性やメンテナンス性の向上により安定して機能を提供できる。