(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水から成る有機化合物を含まない反応混合物と、ベータ型ゼオライト種結晶とを混合して加熱する工程を有するベータ型ゼオライトの製造方法であって、
(I)有機構造規定剤を使用することなしに合成されたものであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライトを用い、
(II)酸性水溶液と接触処理することにより、
(III)SiO2/Al2O3モル比が150以下である酸処理済ゼオライトを調製し、
これを前記ベータ型ゼオライト種結晶として用いることを特徴とするベータ型ゼオライトの製造方法。
前記ベータ型ゼオライト種結晶として、下記(i)を含む固液混合物を調製し、該固液混合物を前記反応混合物に添加する請求項1ないし5の何れか1項に記載のベータ型ゼオライトの製造方法。
(i)有機構造規定剤を使用することなしに合成され、前記粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライトを、酸性水溶液と接触させたもの
前記ベータ型ゼオライト種結晶として、上記(i)と下記(ii)とを混合して得られた固液混合物を用い、該固液混合物を前記反応混合物に添加する請求項6に記載のベータ型ゼオライトの製造方法。
(ii)有機構造規定剤を使用することなしに合成されて前記粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライトを、酸性水溶液と接触させていないもの
前記ベータ型ゼオライト種結晶として、上記(i)と下記(iii)とを混合して得られた固液混合物を用い、該固液混合物を前記反応混合物に添加する請求項6に記載のベータ型ゼオライトの製造方法。
(iii)有機構造規定剤を使用して合成したベータ型ゼオライトの焼成済結晶
【背景技術】
【0002】
合成ゼオライトは結晶性アルミノシリケートであり、その結晶構造に起因するオングストロームサイズの均一な細孔を有している。この特徴を生かして、合成ゼオライトは、特定の大きさを有する分子のみを吸着する分子ふるい吸着剤や親和力の強い分子を吸着する吸着分離剤、又は触媒基剤として工業的に利用されている。そのようなゼオライトの一つであるベータ型ゼオライトは、石油化学工業における触媒として、また自動車排気ガス処理用吸着剤として、現在世界中で多量に使用されている。ベータ型ゼオライトの特徴は、以下の非特許文献1に記載されているように、三次元方向に12員環細孔を有する点にある。また、その構造的特徴を示すX線回折図は、以下の非特許文献2に記載されている。
【0003】
ベータ型ゼオライトの合成法は種々提案されているところ、一般的な方法はテトラエチルアンモニウムイオンを有機構造規定剤(以下「OSDA」と略称する。)として用いる方法である。そのような方法は例えば以下の特許文献1ないし3及び非特許文献3に記載されている。これらの方法によればSiO
2/Al
2O
3比が10〜400のベータ型ゼオライトが得られる。しかしながら、テトラエチルアンモニウムイオンを含む化合物は高価である上に、ベータ型ゼオライト結晶化終了後はほとんどが分解してしまうため、回収して再利用することは不可能である。そのために、この方法により製造したベータ型ゼオライトは高価である。更に、結晶中にはテトラエチルアンモニウムイオンが取り込まれるため、吸着剤や触媒として使用する際には焼成除去する必要がある。その際の排ガスは環境汚染の原因となり、また、合成母液の無害化処理のためにも多くの薬剤を必要とする。このように、テトラエチルアンモニウムイオンを用いるベータ型ゼオライトの合成方法は高価であるばかりでなく、環境負荷の大きい製造方法であることから、OSDAを用いない製造方法の実現が望まれていた。
【0004】
このような状況の中で、OSDAを使用しないベータ型ゼオライトの合成方法が非特許文献4において提案された。この方法においては、テトラエチルアンモニウムイオンを用いて合成したベータ型ゼオライトを焼成して有機物成分を除去したものを種結晶として用い、これを、有機物を含まないナトリウムアルミノシリケート反応混合物に添加して、水熱処理を行うことにより結晶化を行うものである。しかしながら、この方法においては、テトラエチルアンモニウムイオンを用いて合成したベータ型ゼオライトを焼成して種結晶として用いる限り、使用量は減少するものの常にOSDAとしてのテトラエチルアンモニウムイオンが必要となる。またこの同文献には一種の種結晶が記載されているのみであり、またナトリウムアルミノシリケート反応混合物の組成も数値限定された一例のみである。したがって、合成されたベータ型ゼオライトの組成は同文献に記載されていないものの、決まった値のみとなると考えられる。
【0005】
一方、非特許文献4の著者による特許文献4には、種結晶のSiO
2/Al
2O
3比が記載されており、更にナトリウムアルミノシリケート反応混合物の組成が点組成ではなく点から離れた狭い範囲が記載されている。しかしながら特許文献4に記載の技術は、基本的には非特許文献4と同じ技術であり、反応混合物組成範囲が狭いために、ベータ型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比は限られた範囲のみに限定される。多様な需要に対応するためには幅広いSiO
2/Al
2O
3比範囲のゼオライトが望ましい。また、工業的量産化のためには、攪拌合成可能な条件の確立が望まれる。更に環境負荷を可能な限り低減するためには、焼成の必要がない種結晶を用い、OSDAを用いないベータ型ゼオライトの新しい製造方法の提案が望まれる。
【0006】
その後、本発明者が鋭意検討したところ、特許文献5及び非特許文献5に記載されているとおり、より広い反応混合物組成範囲で合成可能な条件が見出され、得られるベータ型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比も拡大された。また、特許文献5及び非特許文献5には、種結晶を添加することで、OSDAを使用せずにベータ型ゼオライトを合成し、更に合成されたベータ型ゼオライトをリサイクルにより再度種結晶として添加することで、OSDAを全く使用しないでベータ型ゼオライトを合成する方法が開示されている。この方法は本質的にOSDAを使用せず、環境負荷が究極的に小さいグリーンプロセスなので、この方法によれば、いわゆる“グリーンベータ型ゼオライト”を合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明に係るベータ型ゼオライトの製造方法は、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を含む反応混合物と、ベータ型ゼオライトからなる種結晶とを混合して加熱する工程を有する。
【0019】
本発明においては上記の種結晶に特徴の一つを有するものである。
より具体的には、本発明における種結晶は、以下の特徴を有するものである。
(I)有機構造規定剤を使用することなしに合成されたものであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライトを用い、
(II)酸性水溶液と接触処理することにより得られた、
(III)SiO
2/Al
2O
3モル比が150以下である酸処理済ゼオライト。
【0020】
種結晶を用いるベータ型ゼオライトの製造工程においては、種結晶の表面からベータ型ゼオライトの結晶成長が起きていると、本発明者は推定している。したがって、活性な結晶表面積が大きいほど種結晶の添加効果が大きいと推定される。結晶表面積を大きくするためには、粒子径を小さくすることが有効である。
【0021】
一般的に、合成ゼオライトは、大きさの異なる単一結晶体が凝集状態となっている結晶として合成されるので、単一結晶の粒子径分布を求めることは容易ではないが、凝集粒子を含む粒子径分布を求めることは可能である。そこで本発明者は、ベータ型ゼオライトの種結晶の粒子径分布と、得られるベータ型ゼオライトの特性との相関性を鋭意検討した結果、高純度のベータ型ゼオライトが得られる種結晶の最適な粒子径分布を求めることに成功した。
【0022】
「(I)有機構造規定剤を使用することなしに合成されたものであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライト」とは、例えば、従来の製造方法によってOSDAを用いずに得られたベータ型ゼオライト(
図1中の<9>)から好適な粒子径分布のものを分別して得られたものが挙げられる。(I)のベータ型ゼオライトは、OSDAを用いずに製造されたベータ型ゼオライト(
図1中の<9>)から得られたものであることが、本質的にOSDAを使用せず、繰り返し使用することで、環境負荷及びコストの究極的な低減を実現できるため好ましい。上述した理由から本発明における(I)の粒子径分布を有するベータ型ゼオライトは、このような繰り返し使用に耐えうるものである。従って、ここでいう「OSDAを用いずに製造されたベータ型ゼオライト」とは、<4>、<5>、<6>及び<9>の順;<4>、<5>、<7>、<6>及び<9>の順;<4>、<5>、<7>、<8>及び<9>の順;<10>、<5>、<6>及び<9>の順、<10>、<5>、<7>、<6>及び<9>の順、並びに<10>、<5>、<7>、<8>及び<9>の順のいずれで製造された種結晶であってもよい。また「OSDAを用いずに製造されたベータ型ゼオライト」は(I)〜(III)の工程を経て製造された種結晶であってもなくてもよい。(I)〜(III)の工程を経た種結晶は高純度であるため、繰り返し使用が容易となる。
【0023】
前記のOSDAを使用することなしに合成されたベータ型ゼオライト(
図1中の<9>)の中から、好適な粒子径分布の粒子を分別する方法は、例えば次に述べるとおりである。すなわち、(A)濾過の際に使用する濾布の目開きを調整することによって、小粒子径のもののみを分別する方法や、(B)結晶が分散しているスラリーを用い、沈降法によって分別する方法などが有効である。また(C)湿式分級法、(D)乾式分級法による分別も可能である。
【0024】
図1中の<9>である、従来の製造方法によってOSDAを用いずに得られたベータ型ゼオライトの粒子径分布は、一般的に10nm程度から100μm以上までの幅広い範囲にある。粒子径分布のピークが小粒子径側にシフトしており、粒子の大部分が小粒子径側に存在すれば、結晶表面積が大きくなり種結晶として有効に作用する。一方、粒子径分布のピークが大粒子径側にシフトしており、粒子の大部分が大粒子径側に存在すれば、結晶表面積が小さくなり種結晶としての効果は小さくなる。一方、OSDAを使用することなしに合成されたベータ型ゼオライトが、合成したままの状態で凝集体を形成することなく、下記の特定の粒度分布を有する場合は結晶粒子を分別する必要はない。
【0025】
以上の観点から本発明の製造方法において、(I)における酸処理前のベータ型ゼオライト種結晶は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において、粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であることを特徴の一つとしている。従って、上記(I)のベータ型ゼオライトは、累積体積90容量%における体積累積粒径D
90が10μm以下である。特に上記(I)のベータ型ゼオライトは、粒子径10μm以下の粒子が体積基準で93%以上であることが更に好ましく、93.5%以上であることが一層好ましい。ベータ型ゼオライト種結晶がこのような粒子径分布を有することで、高純度のベータ型ゼオライトを製造できる種結晶を首尾よく得ることができる。
【0026】
本発明の製造方法では、ベータ型ゼオライト種結晶は、上記(I)の粒径を有するベータ型ゼオライトについて(II)の酸処理を施したものであることを別の特徴としている。後述するように、この(I)の粒径を有するベータ型ゼオライトを用いた場合、酸処理を行うことにより、酸処理を行わない場合に比べて、短い時間で効率よくベータ型ゼオライトを製造できるという別異の効果も併せて奏されることが判明した。
【0027】
酸処理に供された後のベータ型ゼオライト種結晶も、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において、粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であることが好ましく、93%以上であることが更に好ましく、93.5%以上であることが一層好ましい。酸処理によって粒子径分布が変化することが本発明者の経験上観察されたことはないが、その後の洗浄、乾燥工程で乾燥凝集が起き易い。したがって、粒子径分布は、ベータ型ゼオライト合成後のスラリーまたは分別または分級したスラリー状態で測定することが好ましい。
【0028】
なお、先に述べた特許文献5及び非特許文献5においてもグリーンベータが生成しているが、これらの文献で採用しているグリーンベータの合成条件は本発明と相違している。これらの文献では、種結晶としてOSDAを使用することなしに合成され且つ体積基準のD
90が10μm以下のベータ型ゼオライト粒子は使用していない。それにもかかわらず、これらの文献において、本発明の条件を採用しない条件でグリーンベータが生成した理由としては、これらの文献ではグリーンベータの合成条件として高アルカリ濃度領域を採用していることに起因して、結晶化反応中に種結晶表面が溶解し、そのことに起因して種結晶の粒子径が実質的に小さくなったためではないかと、本発明者は推測している。
【0029】
レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって種結晶の粒子径分布を測定する場合には、測定装置として例えば(株)島津製作所製のナノ粒子径分布測定装置、SALD−7500nanoを用いる。この装置を用いる場合には、測定対象物を水に分散させて測定を行う。分散液は希薄液であり、その濃度が測定対象として適しているか否かは装置が自動的に判断する。測定前の前処理としては、ゼオライトを含む水溶液に対して、攪拌法などによる十分な分散処理の処理を行う。
【0030】
次に(II)の酸処理について更に説明する。
本発明者らは、ベータ型ゼオライト種結晶として、上記の(I)の粒子径分布を有する種結晶を用いる場合におけるベータ型ゼオライトの結晶化条件、結晶化度、純度及び細孔特性等を更に鋭意検討した。その過程の中で、ベータ型ゼオライト種結晶として、(I)の粒子径分布を有する種結晶を用いる場合には、酸性水溶液との接触処理(以下、単に「酸処理」ともいう)が施されたものを用いると、驚くべきことに、短い時間でベータ型ゼオライトを製造できる種結晶が得られることを知見した。このように、本発明の製造方法は、上述した不純物の生成が抑制される効果に加えて、製造時間の短縮を図ることができるものである。
【0031】
(II)の酸処理は、通常、ベータ型ゼオライトの結晶からアルミニウム原子を引き抜く処理であり、このため、通常(II)の酸処理後、ベータ型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比は酸処理前よりも高いものとなる。本発明において、酸処理後のベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3モル比は150以下である。これにより、本発明では、結晶化速度を促進して純度の高いベータ型ゼオライトの製造を可能とする。一方、酸処理後のベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3モル比は12以上であることが、ベータ型ゼオライトの製造時間を短縮しやすい観点から好ましい。これらの観点から、酸処理後のベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3モル比は12以上100以下であることがより好ましく、12以上50以下であることがより一層好ましい。
【0032】
一方、酸処理前のベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3モル比は、酸処理前のベータ型ゼオライトの製造容易性、及び、酸処理後に望ましい特性のベータ型ゼオライトが得やすいという観点から、8以上15以下であることがより好ましく、10以上13以下であることがより一層好ましい。
【0033】
例えば、反応混合物のSiO
2/Al
2O
3比によっては、ベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3比が低すぎると、ベータ型ゼオライトが生成しにくい場合がある。またベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3比に比べて、得られるベータ型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比が低くなる傾向も存在する。このため、ベータ型ゼオライト種結晶のSiO
2/Al
2O
3比を酸処理によって高めることで、これを用いた場合にベータ型ゼオライトを得やすくし、またグリーンベータの製造における種結晶の繰り返し使用をより一層容易にする、という効果も期待できる。
【0034】
酸処理後のベータ型ゼオライト種結晶のNa
2O/Al
2O
3モル比は0以上1以下となるが、どのような値となっても種結晶としての効果にはほとんど影響しない。
【0035】
酸処理に用いる酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよい。例えば無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。また有機酸としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、コハク酸等のカルボン酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。得られるベータ型ゼオライトの特性が優れている観点から、無機酸が好ましく、特に、塩酸、硝酸、硫酸が好ましい。
【0036】
酸処理の具体的な方法としては、(a)例えば、酸性水溶液の中に、上記(I)の特定の粒子径分布のベータ型ゼオライトを分散させたり、浸漬させる方法、(b)酸性水溶液を、上記(I)の特定の粒子径分布のベータ型ゼオライト充填層に流通させる方法等が挙げられる。
【0037】
酸処理に用いる酸性水溶液中の酸の濃度は、0.05N以上であることが、ベータ型ゼオライトの製造時間の短縮という本発明の効果を十分に発揮する種結晶を効率的に得やすい観点から好ましい。また、前記の酸性水溶液中の酸の濃度は、2N以下であることが、種結晶を、高純度のベータ型ゼオライトがより確実に得られるものとする観点から好ましい。これらの観点から、前記の酸性水溶液中の酸の濃度は、0.07N以上1.5N以下とすることがより好ましい。
【0038】
酸処理時の酸性水溶液の温度は25℃以上であることが、ベータ型ゼオライトの製造時間の短縮という効果を十分に発揮する種結晶を効率的に得やすい観点から好ましい。また、酸処理時の酸性水溶液の温度は、100℃以下であることが、種結晶を、高純度のベータ型ゼオライトがより確実に得られるものとするという観点から好ましい。これらの観点から、酸処理時の酸性水溶液の温度は、30℃以上80℃以下とすることがより好ましい。
【0039】
ベータ型ゼオライトを酸性水溶液と接触させる時間は0.1時間以上であることが、ベータ型ゼオライトの製造時間の短縮という本発明の効果を十分に発揮する種結晶を効率的に得やすい観点から好ましい。また、接触処理の時間は、10時間以下であることが、種結晶を、高純度のベータ型ゼオライトがより確実に得られるものとするという観点から好ましい。これらの観点から、接触処理の時間は、0.1時間以上5時間以下とすることがより好ましい。
酸処理後のベータ型ゼオライト種結晶は水等で洗浄することが好ましい。
【0040】
本発明においては、種結晶として、(I)の特定の粒子径分布を有し且つ(II)の酸処理が施された種結晶(1)(以下、「種結晶Z1」ともいう)と、それ以外の種結晶とを組み合わせて用いることができる。種結晶(1)以外の種結晶としては、(I)の特定の粒子径分布を有しOSDAを使用することなしに合成されたベータ型ゼオライトであって(II)の酸処理が施されていない種結晶(2)(以下、「種結晶Z2」ともいう)や、OSDAを使用して合成したベータ型ゼオライトの焼成済種結晶(3)(以下、「種結晶Z3」ともいう)を挙げることができる。
種結晶Z2は、<9>のベータ型ゼオライトの合成に有効であることは、本発明者らが検討済みである。しかしながら全種結晶中の種結晶Z2の割合が多すぎると製造時間の短縮という効果が得難いものとなる場合がある。この観点から、種結晶Z1と種結晶Z2とを組み合わせる場合、Z1/(Z1+Z2)×100の値は30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。また種結晶Z2としては、ベータ型ゼオライト(
図1中の<9>)から特定の粒子径分布の粒子を分別したもの(「種結晶(2))であることが、環境負荷と製造コストを同時に低減できる効果を高める観点から好ましい。
【0041】
前記の焼成済種結晶Z3(種結晶(3))は、
図1中の<4>に相当するものである。
図1における<4>の種結晶は、一般的な合成方法により得られたものであれば、その結晶粒子径分布に関わらず、<9>のベータ型ゼオライトの合成に有効であることは、特許文献4、非特許文献4及び5並びに本発明者のこれまでの検討結果から明らかである。したがって、本発明に従うベータ型ゼオライトの合成においても、反応混合物に添加する種結晶として、種結晶Z1と焼成済種結晶Z3を含むものを用いることができる。環境負荷と製造コストを同時に低減できる効果を高める観点から、例えば、種結晶Z1と種結晶Z3とを組み合わせる場合、Z1/(Z1+Z3)×100の値は30質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0042】
種結晶の添加量(例えば、Z1に加えて上述のZ2及び/又はZ3を用いる場合には、Z1、Z2及びZ3の合計量)は、反応混合物に含まれるシリカ源の質量、すなわち反応混合物に含まれるケイ素をSiO
2換算した質量に対して、1質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。種結晶の添加量は、この範囲内において少ないことが一般に好ましいが、反応速度や不純物の抑制効果などを考慮して種結晶の添加量が決められる。この観点から、種結晶の添加量は、反応混合物に含まれるシリカ源の質量に対して、1質量%以上20質量%以下の範囲であることが更に好ましい。
【0043】
種結晶Z1は固体の状態で反応混合物に添加してもよく、或いは該種結晶を含む固液混合物の状態で反応混合物に添加してもよい。固液混合物とは、種結晶を水に分散させたスラリー状のものをいう。この場合、種結晶として上述の種結晶Z1に加えて種結晶Z2及び/又はZ3も用いる場合には、種結晶Z1に種結晶Z2及び/又はZ3を追加混合して得られた固液混合物を用いることができる。上述のとおり、本発明で用いる種結晶は微粒のものであることから、これを固体の状態で用いると発塵が生じる場合があり、取り扱い性に欠けることがある。これに対して種結晶を固液混合物の状態で用いればそのような不都合を容易に回避することができる。固液混合物を用いる場合の媒体としては、不純物を含まない水を用いることが高品質、安全性及び経済性の観点から好ましい。
【0044】
種結晶を固液混合物の状態で用いる場合には、例えば、まず1)
図1における<9>のベータ型ゼオライトを含む反応混合物を取り出す。次に2)液体サイクロンなどの沈降分離装置、真空濾過装置などの濾過分離装置、又は遠心分離機などで10μm以上の粗粒を分離する。上述した濾布を用いた濾過も有効である。この2)の分離の後、10μm以下の粒子の洗浄を行った後、酸処理及び洗浄を行う。また3)過剰の液相を除去し濃縮する。このようにして得られた固液混合物中に、<10>の種結晶Z1が存在している。この後、必要に応じ、4)固液混合物中に種結晶Z2および/または種結晶Z3を追加混合して、種結晶供給源としての最終的な固液混合物が得られる。なお、このような固液混合物を種結晶供給源として使用する場合には、それに含まれるシリカ、アルミナ及びアルカリ並びに水を定量しておき、それらの分を差し引いて反応混合物を形成することが望ましい。
【0045】
種結晶と反応混合物との混合方法は特に限定されない。種結晶と反応混合物が均一に混合されるような方法であればよい。温度、時間も特に限定されず、常温下で混合すればよい。
【0046】
種結晶に含まれる陽イオンは、本発明のプロセスから必然的に含まれるイオンであればその種類に特に限定はない。
【0047】
種結晶と混合される反応混合物は、以下に示すモル比で表される組成となるように、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水を混合したものを用いることが好ましい。
SiO
2/Al
2O
3=8以上40未満、特に10以上30以下
Na
2O/SiO
2=0.05以上0.3以下、特に0.1以上0.3以下
H
2O/SiO
2=5以上50以下、特に10以上25以下
【0048】
前記のモル比を有する反応混合物を得るために用いられるシリカ源としては、シリカそのもの及び水中でケイ酸イオンの生成が可能なケイ素含有化合物を用いることができる。具体的には、湿式法シリカ、乾式法シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸ナトリウム、アルミノシリケートゲルなどが挙げられる。これらのシリカ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのシリカ源のうち、シリカ(二酸化ケイ素)やアルミノシリケートゲルを用いることが、不要な副生物を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0049】
アルミナ源としては、例えば水溶性アルミニウム含有化合物を用いることができる。具体的には、アルミン酸ナトリウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムなどが挙げられる。また、水酸化アルミニウムやアルミノシリケートゲルも好適なアルミナ源の一つである。これらのアルミナ源は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのアルミナ源のうち、アルミン酸ナトリウムやアルミノシリケートゲルを用いることが、不要な副生物(例えば不純物ゼオライト等)を伴わずにゼオライトを得ることができる点で好ましい。
【0050】
アルカリ源としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができる。なお、シリカ源としてケイ酸ナトリウムを用いた場合やアルミナ源としてアルミン酸ナトリウムを用いた場合、そこに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムは同時にNaOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のNa
2Oは反応混合物中のすべてのアルカリ成分の和として計算される。
【0051】
反応混合物を調製するときの各原料の添加順序は、均一な反応混合物が得られ易い方法を採用すればよい。例えば、室温下、水酸化ナトリウム水溶液にアルミナ源を添加して溶解させ、次いでシリカ源を添加して攪拌混合することにより、均一な反応混合物を得ることができる。種結晶は、シリカ源と混合しながら加えるか又はシリカ源を添加した後に加えることができる。その後、種結晶と反応混合物とが均一に分散するように攪拌混合する。アルミナ源としてアルミノシリケートゲルを用いる場合は、種結晶を分散させた水にアルミノシリケートゲルを入れてゲルスラリーとし、最後に水酸化ナトリウム水溶液を投入する方法が一般的であるが、添加順序は限定されない。反応混合物を調製するときの温度にも特に制限はなく、一般的には室温(20〜25℃)で行えばよい。
【0052】
前述したとおり、ベータ型ゼオライトの種結晶として
図1中の<10>を調製した後は、
図1における<10>、<5>、<6>及び<9>の順、<10>、<5>、<7>、<6>、<9>の順、並びに<10>、<5>、<7>、<8>及び<9>のうちのいずれかの順でグリーンベータを製造することができる。結晶化過程は一般的には、攪拌することなしに静置法で加熱する。攪拌は、例えば、種結晶と反応混合物との混合物を加熱している期間中にわたり行うことができる。
【0053】
結晶化過程で攪拌をする場合には、熟成させた後に加熱すると、結晶化が進行し易いので好ましい。熟成とは、反応温度よりも低い温度で一定時間その温度に保持する操作を言う。熟成の効果は、不純物の副生を防止すること、不純物の副生なしに攪拌下での均一加熱を可能にすること、及び反応速度を上げることなどの効果が知られているが、作用機構は必ずしも明らかではない。熟成の温度と時間は、前記の効果が最大限に発揮されるように設定される。本発明の場合、室温(20℃)以上100℃以下の温度、及び5時間から1日までの範囲で行うことができる。
【0054】
静置法及び攪拌法のどちらを採用する場合であっても、種結晶と反応混合物とを混合した後は、好ましくは100℃以上200℃以下、更に好ましくは120℃以上180℃以下の範囲の温度で、自生圧力下で加熱することができる。100℃以上の温度を採用することで結晶化速度を十分に速くすることができ、目的とするグリーンベータの生成効率を高めることができる。一方、200℃以下の温度を採用することで、高耐圧強度のオートクレーブを使用しなくても合成が可能になるので経済的に有利であり、また不純物が過度に発生しづらくなる。加熱時間は本製造方法において臨界的ではなく、結晶性の十分に高いベータ型ゼオライトが生成するまで加熱すればよい。一般に5時間以上150時間以下程度の加熱によって、満足すべき結晶性を有するベータ型ゼオライトが得られる。本発明では、上述したように酸処理を施した種結晶を用いることで、従来よりも加熱時間が短縮されたものとすることができる。上記の温度範囲における加熱時間は50時間超を必要とすることが通常であるが、本製造方法においては、これを下回る加熱時間により満足すべき結晶性のベータ型ゼオライトが得られる。本発明の製造方法において加熱時間は50時間以下であることが好ましく、40時間以下であることがより好ましい。
【0055】
攪拌法を採用する場合、攪拌の方法及び条件も特に限定されない。結晶化反応中は静置する方法を採用する場合であっても、昇温過程は内部温度を均一化する目的で攪拌することが好ましい。また、種結晶と反応混合物との均一化や、目的とするグリーンベータの粒子径の調整や、器壁への付着量の減少を目的として、結晶化反応中に低速度で攪拌したり、間歇攪拌したりすることも効果的である。
【0056】
加熱終了後は、生成した結晶粉末を濾過によって母液と分離した後、水又は温水で洗浄して乾燥する。このようにして得られたグリーンベータは、乾燥したままの状態で有機物を含んでいないので焼成の必要はなく、脱水を行えば吸着剤などとして使用可能である。また、固体酸触媒として使用する際は、例えば、結晶内のNa
+イオンをNH
4+イオンに交換した後、焼成することによってH
+型として使用することができる。
【0057】
本製造方法で得られたベータ型ゼオライトは、その大きな細孔径と細孔容積や固体酸特性を利用して、例えば種々の工業分野における吸着分離剤や石油化学工業における触媒として好適に用いられる。なお、本製造方法で得られたベータ型ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3のモル比は、通常8以上20以下であることが上記各種用途に用いる観点等から好ましい。
【0058】
また本発明は、「シリカ源、アルミナ源、アルカリ源及び水から成る有機化合物を含まない反応混合物と、ベータ型ゼオライト種結晶とを混合して加熱することにより製造されるベータ型ゼオライトであって、前記種結晶が、有機構造規定剤を使用することなしに合成されたものであり、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による粒子径分布において粒子径10μm以下の粒子が体積基準で90%以上であるベータ型ゼオライトを用い、酸性水溶液との接触処理により、SiO
2/Al
2O
3のモル比を150以下とした酸処理済ゼオライトである、ベータ型ゼオライト」を含むものである。本発明者は上記の方法で製造したベータ型ゼオライトは、上記の要件を満たさない種結晶を用いて製造したベータ型ゼオライトに比べて、高い純度のベータ型ゼオライトをより短縮された加熱時間により製造できることを確認した。本来ならば、この処理を施すことによるベータ型ゼオライトの構造や特性の変化については全て、何らかの手段を用いて測定した上で、本願の特許請求の範囲において直接明記することが望ましい。
しかしながら、少なくとも出願時においては、出願人の技術レベルでは本発明の効果と関係するその他のベータ型ゼオライトの構造又は特性を確認することができなかった。
また仮に全ての要因を突き止めたとしても、それら要因に係るベータ型ゼオライトの構造や特性を、新たな測定方法を確立して特定する必要があり、そのためには、著しく過大な経済的支出及び時間を要する。
以上の事情より、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みて、出願人は、本発明のベータ型ゼオライトの好ましい特徴の一つとして、上記の製造方法にて製造されるものであることを記載した。
以上の通り、本願出願時においては、特定の種結晶を用いて製造したベータ型ゼオライトの構成及び特徴を全て特定することが不可能であるという事情が存在した。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた分析機器は以下のとおりである。
粒子径分布測定装置:(株)島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置、SALD−7500nano、光源:半導体レーザー 405nm
粉末X線回折装置:(株)リガク製、UltimaIV、Cukα線使用、電圧40kV、電流30mA、スキャンステップ0.02°、スキャン速度2°/min
組成分析装置:(株)バリアン製、ICP−AES LIBERTY SeriesII
【0060】
〔参考例1〕
公知の特許公報に記載された方法(特公昭63−1244号公報、特公昭63−46007号公報、特公平2−32204号公報、特公平2−44771号公報、特公平2−47403号公報、特公平3−45009号公報、特公平3−53251号公報、特開平6−287015号公報)にしたがって、3号珪酸ソーダと硫酸バンド水溶液及び硫酸、純水を用いて、SiO
2/Al
2O
3比=16.0のアルミノシリケートゲルを調製した。合成したゲルスラリーを遠心分離機で濾過、純水で洗浄した後、含水アルミノシリケートゲルを得た。含有水分量は68.5wt%であった。このゲルを乾燥することなく、密閉保存して以下の参考例、実施例、比較例に使用した。
【0061】
〔参考例2〕
参考例1で調製したアルミノシリケートゲルと、50w/v%水酸化ナトリウム水溶液及び純水とを用いて、SiO
2/Al
2O
3比=16.0、Na
2O/SiO
2=0.23、H
2O/SiO
2=15の組成の反応混合物を調製し、これを種結晶と混合した後、150℃で43時間加熱して、OSDAをまったく使用することなしに、ベータ型ゼオライトを合成した。本参考例で使用した種結晶は、東ソー(株)製ベータ型ゼオライトHSZ931HOA(SiO
2/Al
2O
3比=31.8、焼成済み)である。反応混合物の総重量は4.5kgであり、合成には容量5Lのオートクレーブを用いた。反応終了後、生成スラリーの一部をNo.5Cの濾紙を用いて濾過、約50℃の温水で洗浄してスラリー中の全ての結晶を回収し、80℃で乾燥した(全結晶)。生成物がベータ型ゼオライトであることをX線回折測定により確認した後、生成スラリー中の全結晶の粒子径分布を測定した結果、10μm以下の粒子の割合は体積基準で23.9%であった。全結晶のX線回折図と粒子径分布図を
図2および
図3に示す。全結晶の組成分析の結果は、SiO
2/Al
2O
3比=11.9、Na
2O/SiO
2=0.94であった。
【0062】
〔参考例3〕
参考例2で得られた全結晶を含むスラリーを遠心分離機により母液と結晶を分離し、約50℃の温水で結晶の洗浄を行った。このとき用いた濾布の目開きは800メッシュであった。母液と結晶の分離、結晶の洗浄の際に濾布から漏れた結晶を含むスラリーを回収して、その結晶(濾別結晶)の粒子径分布を測定し、10μm以下の粒子の割合を求めた結果、10μm以下の粒子の割合は92.8%であった。その粒子径分布図を
図4に示す。濾布から漏れた結晶を含むスラリーは、No.5Cの濾紙を用いて濾過、約50℃の温水で洗浄して全ての結晶を回収し、80℃で乾燥した(濾別結晶)。濾別結晶のX線回折図を
図5に示す。濾別結晶の組成分析の結果は、SiO
2/Al
2O
3比=11.8、Na
2O/SiO
2=0.92であった。
【0063】
〔参考例4〕
参考例3で得られた濾別結晶8gを、プラスチック容器内の0.15N塩酸水溶液200mLに分散した後、容器を密閉してウ
オーターバス内で攪拌しながら60℃で2時間加熱した。その後、結晶を純水で濾過洗浄して、酸処理済結晶を得た。この結晶のX線回折図を
図6に示す。また、この結晶の組成分析の結果は、SiO
2/Al
2O
3比=13.8、Na
2O/SiO
2=0.09であった。その結果を表1に示す。
【0064】
〔参考例5〜8〕
参考例3で得られた濾別結晶8gを、濃度の異なる塩酸水溶液を用いた以外は参考例4と同様の方法で酸処理を行って酸処理済結晶を得た。それぞれの組成分析の結果を表1に示す。
【0065】
〔参考例9〜13〕
参考例3で得られた濾別結晶8gを、濃度の異なる硫酸水溶液を用いた以外は参考例4と同様の方法で酸処理を行って酸処理済結晶を得た。参考例12の結晶のX線回折図を
図7に示す。それぞれの組成分析の結果を表1に示す。
【0066】
〔参考例14〜17〕
参考例3で得られた濾別結晶8gを、濃度の異なる硝酸水溶液を用いた以外は参考例4と同様の方法で酸処理を行って酸処理済結晶を得た。参考例16の結晶のX線回折図を
図8に示す。それぞれの組成分析の結果を表1に示す。
【0067】
〔参考例18〜20〕
参考例2で得られた全結晶(10μm以下の粒子の割合:23.9%)8gについて、それぞれ濃度の異なる塩酸、硫酸および硝酸水溶液を用いた以外は参考例4と同様の方法で酸処理を行って酸処理済結晶を得た。それぞれの組成分析の結果を表1に示す。
【0068】
〔参考例21〕
参考例3で得られた濾別結晶8gについて、0.6N塩酸水溶液を用いた以外は参考例4と同様の方法で酸処理を行って酸処理済結晶を得た。その組成分析の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
〔実施例1〕
参考例1で得られたSiO
2/Al
2O
3比=16.0のアルミノシリケートゲルと純水、50w/v%水酸化ナトリウム水溶液を混合して表2に記載した組成の反応混合物を調製した。さらに、参考例4で得られた酸処理済種結晶を添加し、均一に攪拌した。酸処理済種結晶の添加量は、アルミノシリケートゲル中のシリカ成分の10wt%とした。この反応混合物を60ccのステンレス製加圧容器に入れて密封し、乾燥機中に静置して150℃で43時間加熱した。生成物を濾過、洗浄、乾燥した後、X線回折装置により測定した結果、生成物は
図9に示すように、ベータ型ゼオライトのみであった。そのSiO
2/Al
2O
3比は表2に示すとおりであった。
【0071】
表2における結晶化時間が、高純度のベータ型ゼオライトの製造に必要な最短時間であることを示すため、150℃での加熱時間を表2に記載のように短縮したときのX線回折装置による測定結果を表2に示す。表2における「ベータ型ゼオライト+アモルファス」とは、X線回折測定において、ベータ型ゼオライトを主成分とした、ベータ型ゼオライトとアモルファス物質との混合物が検出されたことを示す。この場合、アモルファス物質のブロードなピークが検出される。一方、単に「ベータ型ゼオライト」と記載されているのは、X線回折測定において、ベータ型ゼオライトのみが検出されたことを示す。結晶化の過程の生成物は、時間と共に、「アモルファス」(アモルファス物質単品)→「アモルファス+ベータ型ゼオライト」(アモルファス物質を主成分とする、アモルファス物質とベータ型ゼオライトとの混合物)→「ベータ型ゼオライト+アモルファス」→「ベータ型ゼオライト」と変化する。表2に示す結果から、実施例1においては、43時間という結晶化時間が概ね、アモルファス物質を生じさせずにベータ型ゼオライトを得るための最短時間であることが判る。
【0072】
〔実施例2〜5〕
種結晶として参考例5〜8で得られた塩酸処理済種結晶を用いた以外は実施例1と同様の方法でベータ型ゼオライトの合成を行った。結晶化条件と生成物、およびそのSiO
2/Al
2O
3比は表2に示すとおりであり、不純物の副生を伴わずに、ベータ型ゼオライトが高純度で生成した。なお表2における結晶化時間が、高純度のベータ型ゼオライトの製造に必要な最短時間であることを示すため、150℃での加熱時間を表2に記載のように短縮したときのX線回折装置による測定結果を表2に示す。
【0073】
〔実施例6〜10〕
種結晶として参考例9〜13で得られた硫酸処理済種結晶を用いた以外は実施例1と同様の方法でベータ型ゼオライトの合成を行った。結晶化条件と生成物、およびそのSiO
2/Al
2O
3比は表2に示すとおりであり、不純物の副生を伴わずに、ベータ型ゼオライトが高純度で生成した。実施例9で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図を
図10に示す。なお表2における結晶化時間が、高純度のベータ型ゼオライトの製造に必要な最短時間であることを示すため、150℃での加熱時間を表2に記載のように短縮したときのX線回折装置による測定結果も同表に併せて示す。
【0074】
〔実施例11〜14〕
種結晶として参考例14〜17で得られた硝酸処理済種結晶を用いた以外は実施例1と同様の方法でベータ型ゼオライトの合成を行った。結晶化条件と生成物、およびそのSiO
2/Al
2O
3比は表2に示すとおりであり、不純物の副生を伴わずに、ベータ型ゼオライトが高純度で生成した。なお本実施例の製造時間が、高純度のベータ型ゼオライトの製造に必要な最短時間であることを示すため、150℃での加熱時間を表2に記載のように短縮したときのX線回折装置による測定結果も同表に併せて示す。
【0075】
〔実施例15〜20〕
種結晶として酸処理済種結晶(参考例10又は12で得られたもの)と酸処理していない濾別結晶(参考例3、10μm以下の粒子の割合:92.8%)とを組合せて用いたか、或いは、酸処理済種結晶と東ソー(株)製ベータ型ゼオライトHSZ931HOA(SiO
2/Al
2O
3比=31.8、焼成済み)とを組合せて用いた。これらの点以外は実施例1と同様の方法でベータ型ゼオライトの合成を行った。それぞれの種結晶の混合割合、結晶化条件と生成物、およびそのSiO
2/Al
2O
3比は表3に示すとおりであり、不純物の副生を伴わずに、ベータ型ゼオライトが高純度で生成した。実施例17及び19で得られたベータ型ゼオライトのX線回折図をそれぞれ
図11及び
図12に示す。なお本実施例の製造時間が、高純度のベータ型ゼオライトの製造に必要な最短時間であることを示すため、本実施例において、結晶化時間を表3に記載のように短縮したときのX線回折装置による測定結果も併せて同表に示す。
【0076】
〔比較例1〕
参考例1で得られたSiO
2/Al
2O
3比=16.0のアルミノシリケートゲルと純水、50w/v%水酸化ナトリウム水溶液を混合して表4に記載した組成の反応混合物を調製した。さらに、参考例2で得られた酸処理していないベータ型ゼオライト全結晶(10μm以下の粒子の割合:23.9%)を添加し、均一に攪拌した。種結晶の添加量は、アルミノシリケートゲルのシリカ成分の10wt%とした。この反応混合物を60ccのステンレス製加圧容器に入れて密封し、乾燥機中で静置して150℃で43時間加熱した。生成物を濾過、洗浄、乾燥した後、X線回折装置により測定した結果、生成物はモルデナイト及びベータ型ゼオライトの混合物であり、モルデナイトを主成分とするゼオライトであった。
【0077】
〔比較例2〜5〕
参考例18〜21で得られた酸処理済種結晶を用いた以外は比較例1と同様の方法でベータ型ゼオライトの合成を行った。結晶化条件と生成物を表2に示す。表2に示す通り、生成物はモルデナイトとベータ型ゼオライトの混合物であるか、又はモルデナイトのみであり、高純度ベータ型ゼオライトは得られなかった。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
上記の通り、実施例1〜20では不純物の副生を伴わずにベータ型ゼオライトを高純度で製造できたことが判る。これに対し、特定の粒子径分布を有しておらず酸処理も行っていない種結晶を用いた比較例1、酸処理を行っているが特定の粒子径分布を有していない種結晶を用いた比較例2〜4、酸処理を行っており特定の粒子径分布を有しているがSiO
2/Al
2O
3比が150超である種結晶を用いた比較例5はいずれも、モルデナイトが主相となり、モルデナイトに比してベータ型ゼオライトはごく少量しか生成せず、高純度のベータ型ゼオライトが得られなかった。
また実施例1〜20では、製造時間が50時間を下回り、短い時間でベータ型ゼオライトが製造できた。