【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年12月23日 電気学会 制御研究会にて公開。 平成29年3月7日 計測自動制御学会 制御部門 第4回制御部門マルチシンポジウム(MSCS2017)にて公開。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の建設機械のポンプ制御装置では、作動油の温度に応じて、油圧ポンプの負荷トルクを変化させている。そのため、作動油の温度によっては、油圧アクチュエータが所期の出力を得られない。
【0007】
本発明の目的は、作動油の粘性が高い場合であっても、油圧ポンプの負荷トルクを確保しつつ、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れを抑制することができる作業機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本願の発明者は、静的補償器を用いるPQ制御ではなく、動的補償器を用いるPID制御に着目して検討を進めた。その結果、PID制御を用いれば、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れを抑制することはできるが、油圧ポンプの負荷トルクを目標負荷トルクに追従させ難くなるとの知見を得るに至った。
【0009】
そこで、本願の発明者は、油圧ポンプの負荷トルクを目標負荷トルクに追従させ難くなる原因について検討した。その結果、PID制御の積分要素が油圧システムの微分要素によって相殺されるために、油圧ポンプの負荷トルクを目標負荷トルクに追従させ難くなるという知見を得るに至った。
【0010】
ここで、油圧ポンプの負荷トルクを目標負荷トルクに追従させやすくするために、目標吐出流量の算出に用いるコントローラとして、二重積分要素を有するコントローラを採用することが考えられる。しかしながら、二重積分要素を有すると、目標吐出流量を算出するときの負荷が過大になってしまう。
【0011】
このような知見に基づいて更なる検討を行った結果、本願の発明者は、特定の場合にだけ、目標吐出流量の算出に二重積分要素を考慮すればよいことに気付いた。具体的には、作動油の粘性が高い状態であって、且つ、PQ制御が行われるような状態で、目標吐出流量を算出するときに、二重積分要素を考慮すればよいことに気付いた。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本発明による作業機械は、エンジンと、前記エンジンによって駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプが吐出する作動油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧ポンプの吐出流量を調整するポンプレギュレータと、前記作業機械のオペレータが前記油圧アクチュエータを駆動するために操作する操作装置と、前記作動油の温度を検出する温度検出装置と、前記油圧ポンプによって吐出された前記作動油の圧力を検出する油圧検出装置と、前記油圧ポンプの負荷トルクを取得する負荷トルク取得装置と、前記ポンプレギュレータの動作を制御することにより、前記油圧ポンプの動作を制御する制御装置とを備え、前記制御装置は、前記操作装置の操作量に応じて、前記油圧ポンプの目標負荷トルクを設定する目標負荷トルク設定部と、前記目標負荷トルクが所定の基準負荷トルクよりも小さいか否かを判定する目標負荷トルク判定部と、前記温度検出装置によって検出された前記作動油の温度が所定の基準温度よりも低いか否かを判定する検出温度判定部と、前記油圧ポンプの目標吐出流量を算出する吐出流量算出部と、前記油圧ポンプの吐出流量が前記目標吐出流量となるように、前記ポンプレギュレータの動作を制御するレギュレータ制御部とを含み、前記吐出流量算出部は、前記目標吐出流量として、前記目標負荷トルクが前記所定の基準負荷トルクよりも小さい場合には、前記負荷トルクが前記目標負荷トルクとなるような第1目標吐出流量を算出し、前記目標負荷トルクが前記所定の基準負荷トルク以上の大きさであって、且つ、前記作動油の温度が前記所定の基準温度以上である場合には、前記油圧検出装置によって検出された前記作動油の圧力に応じて、前記負荷トルクが前記所定の基準負荷トルクとなるような第2目標吐出流量を算出し、前記目標負荷トルクが前記所定の基準負荷トルク以上の大きさであって、且つ、前記作動油の温度が前記所定の基準温度よりも低い場合には、前記目標負荷トルクと前記負荷トルク取得装置によって取得された前記負荷トルクとの差分を用いた比例微分先行型のPID制御と、前記差分の二重積分とに基づいて、前記負荷トルクが前記所定の基準負荷トルクとなるような第3目標吐出流量を算出する。
【0013】
上記作業機械においては、第3目標吐出流量を算出する際に、動的制御器を用いるPID制御が行われる。そのため、静的制御器を用いるPQ制御と比べて、作動油の粘性が高い状況であっても、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れを回避することができる。
【0014】
また、上記作業機械においては、第3目標吐出流量を算出する際に、目標負荷トルクと負荷トルク取得装置によって取得された負荷トルクとの差分を用いた比例微分先行型のPID制御だけでなく、当該差分の二重積分も行われる。そのため、油圧ポンプの負荷トルクを目標負荷トルクへ追従させやすくなる。その結果、油圧ポンプの負荷トルクを確保することができる。
【0015】
特に、上記作業機械においては、比例微分先行型のPID制御(いわゆるI−PD制御)を行うので、通常のPID制御を行う場合と比べて、入力値のキック(つまり、目標値としての目標負荷トルクの変動に起因して発生する入力値の急激な上昇)を抑制することができる。
【0016】
上記作業機械において、好ましくは、前記吐出流量算出部は、前記比例微分先行型のPID制御による演算を行うPID制御器と、前記二重積分を行う二重積分器と、前記二重積分を行うことで得られる二重積分値に乗算される二重積分ゲインを取得する二重積分ゲイン取得部とを含み、前記二重積分ゲイン取得部は、前記油圧検出装置によって検出された前記作動油の圧力に応じて、前記二重積分ゲインを取得する。
【0017】
上記の態様においては、検出された作動油の圧力に応じて、二重積分ゲインを取得する。そのため、より適切な目標吐出流量を算出することができる。
【0018】
上記作業機械において、好ましくは、前記吐出流量算出部は、さらに、前記油圧検出装置によって検出された前記作動油の油圧に応じて、前記比例微分先行型のPID制御に用いられる制御ゲインを算出する制御ゲイン算出部を含む。
【0019】
上記の態様においては、検出された作動油の圧力に応じて、比例微分先行型のPID制御に用いられる制御ゲインが算出される。そのため、より適切な目標吐出流量を算出することができる。
【0020】
上記作業機械において、好ましくは、前記吐出流量算出部は、さらに、前記第1目標吐出流量及び前記第2目標吐出流量の何れかを算出する場合に、前記二重積分の結果をリセットする算出結果リセット部を含む。
【0021】
上記の態様においては、第3目標吐出流量の算出が行われないときに、二重積分の結果としての二重積分値がリセットされるので、二重積分値が蓄積され続けるのを防ぐことができる。その結果、次回の第3目標吐出流量の算出が行われるときに、適切な目標吐出流量を算出することができる。
【0022】
上記作業機械において、好ましくは、前記制御装置は、さらに、前記温度検出装置によって検出された作動油の温度に応じて、前記油圧ポンプの吐出流量を推定する吐出流量推定部を含み、前記負荷トルク取得装置は、前記吐出流量推定部によって推定された前記油圧ポンプの吐出流量と前記油圧検出装置によって検出された前記作動油の圧力とに基づいて、前記油圧ポンプの負荷トルクを取得する。
【0023】
上記の態様においては、第3目標吐出流量の算出が行われるときに、油圧ポンプの負荷トルクを実際に検出しなくてもよい。そのため、油圧ポンプの負荷トルクを検出するための装置を別途設けなくてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明による作業機械によれば、作動油の粘性が高い場合であっても、油圧ポンプの負荷トルクを確保しつつ、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳述する。
【0027】
図1を参照しながら、本発明の実施の形態による作業機械10について説明する。
図1は、作業機械10の主要な構成要素を示す説明図である。
【0028】
作業機械10は、例えば、下部走行体に対して上部旋回体が旋回可能に配置された構造を有する。作業機械10は、例えば、油圧システムを備える油圧ショベルである。
【0029】
作業機械10は、エンジン12と、油圧ポンプ14と、ポンプレギュレータとしてのレギュレータ16と、比例弁18と、油圧アクチュエータ20と、コントロールバルブ22と、リモコン弁24と、リリーフ弁26と、油圧検出装置としてのポンプ圧センサ28と、パイロット圧センサ30と、温度検出装置としての温度センサ32と、負荷トルク取得装置としてのトルクセンサ34と、制御装置としてのコントローラ40とを備える。
【0030】
エンジン12は、作業機械10の駆動源である。エンジン12は、例えば、過給機を備えていてもよい。
【0031】
油圧ポンプ14は、エンジン12によって駆動され、作動油を吐出する。油圧ポンプ14は、可変容量型の油圧ポンプである。油圧ポンプ14は、可変の傾転角を有している。当該傾転角がレギュレータ16及び比例弁18によって調節されることで、油圧ポンプ14の吐出流量が制御される。
【0032】
油圧アクチュエータ20は、油圧ポンプ14が吐出する作動油(つまり、油圧ポンプ14から供給される作動油)によって駆動される。油圧アクチュエータ20は、例えば、油圧モータであってもよいし、油圧シリンダであってもよい。油圧モータは、例えば、走行モータであってもよいし、旋回モータであってもよい。油圧シリンダは、例えば、ブームシリンダであってもよいし、アームシリンダであってもよいし、バケットシリンダであってもよい。
【0033】
コントロールバルブ22は、油圧ポンプ14から油圧アクチュエータ20に供給される作動油の方向及び流量を変化させる。コントロールバルブ22は、例えば、第1及び第2のパイロットポートを有する3位置のパイロット操作切換弁であり、第1及び第2のパイロットポートに対してパイロット圧が入力されることで駆動される。
【0034】
リモコン弁24は、コントロールバルブ22の動作状態を切り換えるために操作される。リモコン弁24は、操作装置としての操作レバー24Aと、弁本体24Bとを含む。弁本体24Bは、操作レバー24Aに与えられる操作に基づいて、コントロールバルブ22を作動させるためのパイロット圧を出力する。
【0035】
リリーフ弁26は、油圧ポンプ14から吐出される作動油の圧力が所定の圧力を超えないように、開閉動作を行う。
【0036】
ポンプ圧センサ28は、油圧ポンプ14が吐出する作動油の圧力であるポンプ圧を検出する。ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧に関する信号(ポンプ圧信号)は、コントローラ40に入力される。
【0037】
パイロット圧センサ30は、操作レバー24Aに与えられる操作の有無とその操作量に関する情報として、リモコン弁24のパイロット圧を検出する。パイロット圧センサ30によって検出されたリモコン弁24のパイロット圧に関する信号(レバー操作信号)は、コントローラ40に入力される。
【0038】
温度センサ32は、作動油の温度を検出する。温度センサ32が検出した作動油の温度に関する信号(温度信号)は、コントローラ40に入力される。
【0039】
トルクセンサ34は、油圧ポンプ14の負荷トルクを検出する。ここで、油圧ポンプ14の負荷トルクは、エンジン12から油圧ポンプ14に与えられるトルクである。トルクセンサ34が検出した油圧ポンプ14の負荷トルクに関する信号(負荷トルク信号)は、コントローラ40に入力される。
【0040】
コントローラ40は、ポンプレギュレータ16の動作を制御することにより、油圧ポンプ14の動作を制御する。
【0041】
コントローラ40は、例えば、中央演算処理装置が記憶装置に記憶されているプログラムを読み出して、所定の処理を行うことで実現される。なお、コントローラ40の少なくとも一部を、ASIC等の集積回路によって実現してもよい。
【0042】
図2を参照しながら、コントローラ40について説明する。
図2は、コントローラ40を示すブロック図である。
【0043】
コントローラ40は、目標負荷トルク設定部41と、目標負荷トルク判定部42と、検出温度判定部43と、吐出流量算出部44と、レギュレータ制御部45と、検出圧力判定部46とを備える。
【0044】
目標負荷トルク設定部41は、操作レバー24Aの操作量に応じて、油圧ポンプ14の目標負荷トルクを設定する。具体的には、目標負荷トルク設定部41は、パイロット圧センサ30によって検出されたリモコン弁24のパイロット圧に応じて、油圧ポンプ14の目標負荷トルクを設定する。油圧ポンプ14の目標負荷トルクは、例えば、参照テーブルを用いて設定してもよいし、所定の演算を行うことで設定してもよい。
【0045】
目標負荷トルク判定部42は、目標負荷トルクが所定の基準負荷トルクよりも小さいか否かを判定する。基準負荷トルクは、例えば、エンジン12の性能が最大限に発揮されるときの負荷トルクである。
【0046】
検出温度判定部43は、温度センサ32によって検出された作動油の温度が所定の基準温度よりも低いか否かを判定する。基準温度は、例えば、作動油の粘性が低いときの温度である。基準温度は、例えば、30℃である。
【0047】
吐出流量算出部44は、油圧ポンプ14の目標吐出流量を算出する。なお、吐出流量算出部44の詳細については、後述する。
【0048】
レギュレータ制御部45は、油圧ポンプ14の吐出流量が吐出流量算出部44によって算出された目標吐出流量となるように、レギュレータ16の動作を制御する。具体的には、吐出流量算出部44によって算出された目標吐出流量に対応する流量指令を生成し、当該流量指令により、レギュレータ16の動作を制御する。
【0049】
図3を参照しながら、吐出流量算出部44について説明する。
図3は、吐出流量算出部44を示すブロック図である。
【0050】
吐出流量算出部44は、第1吐出流量算出部441と、第2吐出流量算出部442と、第3吐出流量算出部443とを備える。
【0051】
第1吐出流量算出部441は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクが所定の基準負荷トルクよりも小さい場合に、目標吐出流量として、第1目標吐出流量を算出する。第1目標吐出流量は、油圧ポンプ14の負荷トルクが目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクとなるような吐出流量である。要するに、第1目標吐出流量は、いわゆるポジコン制御のために設定される目標吐出流量である。
【0052】
第2吐出流量算出部442は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクが所定の基準負荷トルク以上の大きさであって、且つ、温度センサ32によって検出された作動油の温度が所定の基準温度以上である場合に、目標吐出流量として、第2目標吐出流量を算出する。第2目標吐出流量は、所定の基準負荷トルクから得られる圧力−流量曲線(PQ曲線)に基づいて、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧力から算出される吐出流量である。要するに、第2目標吐出流量は、いわゆるPQ制御のために設定される目標吐出流量である。
【0053】
第3吐出流量算出部443は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクが所定の基準負荷トルク以上の大きさであって、且つ、温度センサ32によって検出された作動油の温度が所定の基準温度よりも低い場合に、目標吐出流量として、第3目標吐出流量を算出する。第3目標吐出流量は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクとトルクセンサ34によって検出された油圧ポンプ14の負荷トルクとの差分を用いた演算結果に基づいて算出される吐出流量である。第3目標吐出流量は、以下の式(1)に基づいて算出される。
【0055】
ここで、Q(t)は、目標吐出流量(吐出流量の指令値)である。T(t)は、負荷トルクである。Kp(t)は、比例ゲインである。Ki(t)は、積分ゲインである。Kd(t)は、微分ゲインである。e(t)は、目標負荷トルクTr(t)と負荷トルクT(t)との差分(Tr(t)−T(t))である。Kii(t)は、二重積分ゲインである。Σe(t)は、二重積分値(二重積分器による算出結果)である。
【0056】
比例ゲインKp(t)や、積分ゲインKi(t)、微分ゲインKd(t)は、例えば、一般化最少分散制御則(GMVC則)に基づいて算出される。二重積分ゲインKii(t)の算出については、後述する。
【0057】
図4を参照しながら、第3吐出流量算出部443について説明する。
図4は、第3吐出流量算出部443を示すブロック図である。
【0058】
第3吐出流量算出部443は、PID制御器4431と、二重積分器4432と、二重積分ゲイン取得部4433とを備える。
【0059】
PID制御器4431は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクとトルクセンサ34によって検出された油圧ポンプ14の負荷トルクとの差分(上記のe(t))を用いて、PID制御による演算を行うことにより、第1演算結果を算出する。ここで、PID制御器が行うPID制御は、比例微分先行型のPID制御である。PID制御器4431は、上記の式(1)のうち、第1項から第4項までの数式を用いて、第1演算結果を算出する。
【0060】
二重積分器4432は、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクとトルクセンサ34によって検出された油圧ポンプ14の負荷トルクとの差分(上記のe(t))を二重積分して、二重積分値(上記のΣe(t))を算出する。
【0061】
二重積分ゲイン取得部4433は、二重積分器4432による演算結果としての二重積分値に対して乗算される二重積分ゲイン(上記のKii(t))を取得する。
【0062】
第3吐出流量算出部443は、二重積分ゲイン取得部4433が取得した二重積分ゲインを二重積分器4432が算出した二重積分値に対して乗算することで得られる第2演算結果を算出する。第2演算結果は、上記の式(1)のうち、第5項の数式を用いて算出される。そして、第3吐出流量算出部443は、このようにして算出された第2演算結果を、PID制御器4431による演算結果(第1演算結果)に加えることにより、第3目標吐出流量を算出する。
【0063】
図5を参照しながら、二重積分ゲイン取得部4433について説明する。
図5は、二重積分ゲイン取得部4433を示すブロック図である。
【0064】
二重積分ゲイン取得部4433は、二重積分ゲイン算出部4434と、二重積分ゲイン選択部4435とを備える。
【0065】
二重積分ゲイン算出部4434は、ポンプ圧センサ28によって検出された作動油の圧力が所定の基準圧力以下の場合に、二重積分ゲインを算出する。基準圧力は、例えば、リリーフ弁26が動作しているときの圧力(リリーフ圧)であってもよいし、リリーフ圧付近の圧力(例えば、リリーフ圧の97%の圧力)であってもよい。
【0066】
二重積分ゲイン算出部4434は、ポンプ圧センサ28によって検出された作動油の圧力がP2以上であって且つP1以下である場合、以下の式(2)を用いて、二重積分ゲインを算出する。なお、P1は、上記基準圧力である。P2は、リリーフ弁26が動作していないときの圧力(例えば、リリーフ圧の70%の圧力)である。
【0068】
上記の式(2)において、K
II1は、圧力がP1のときの二重積分ゲインである。K
II2は、圧力がP2のときの二重積分ゲインである。
【0069】
なお、圧力がP2よりも低い場合、二重積分ゲイン算出部4434は、二重積分ゲインとして、K
II2を算出する。
【0070】
上記の二重積分ゲインK
II1及びK
II2は、例えば、一般化最少分散制御則(GMVC則)に基づいて算出される。
【0071】
二重積分ゲイン選択部4435は、ポンプ圧センサ28によって検出された作動油の圧力が所定の基準圧力よりも高い場合に、所定の二重積分ゲインを選択する。所定の二重積分ゲインは、例えば、ゼロである。
【0072】
図6を参照しながら、コントローラ40による油圧ポンプ14の動作制御について説明する。
図6は、油圧ポンプ14の動作制御を示すフローチャートである。
【0073】
コントローラ40は、先ず、ステップS11において、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクが所定の基準負荷トルク以上であるか否かを判定する。
【0074】
目標負荷トルクが基準負荷トルクよりも小さい場合(ステップS11:NO)、コントローラ40は、ステップS12において、第1目標吐出流量を算出する。その後、コントローラ40は、後述するステップS19以降の処理を実行する。具体的には、ステップS12で算出した第1目標吐出流量に基づいて、レギュレータ16を駆動する。
【0075】
目標負荷トルクが基準負荷トルク以上である場合(ステップS11:YES)、コントローラ40は、ステップS13において、温度センサ32によって検出された作動油の温度が所定の基準温度以上であるか否かを判定する。
【0076】
作動油の温度が基準温度以上である場合(ステップS13:YES)、コントローラ40は、ステップS14において、第2目標吐出流量を算出する。その後、コントローラ40は、後述するステップS19以降の処理を実行する。具体的には、ステップS14で算出した第2目標吐出流量に基づいて、レギュレータ16を駆動する。
【0077】
作動油の温度が基準温度よりも低い場合(ステップS13:NO)、コントローラ4−は、ステップS15において、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧が所定の基準圧力以上であるか否かを判定する。
【0078】
ポンプ圧が基準圧力よりも低い場合(ステップS15:NO)、コントローラ40は、ステップS16において、二重積分ゲインを算出する。続いて、コントローラ40は、ステップS17において、ステップS16で算出した二重積分ゲインを用いて、第3目標吐出流量を算出する。続いて、コントローラ40は、ステップS18において、ステップS17で算出した第3目標吐出流量に基づいて、レギュレータ16を駆動する。その後、コントローラ40は、油圧ポンプ14の動作制御を終了する。
【0079】
ポンプ圧が基準圧力以上である場合(ステップS15:YES)、コントローラ40は、ステップS19において、所定の二重積分ゲインを選択する。続いて、コントローラ40は、ステップS17以降の処理を実行する。具体的には、ステップS19で選択した二重積分ゲインを用いて第3目標吐出流量を算出し、当該第3目標吐出流量に基づいて、レギュレータ16を駆動する。
【0080】
このような作業機械10においては、目標負荷トルク設定部41によって設定された目標負荷トルクが所定の基準負荷トルク以上の大きさであって、且つ、温度センサ32によって検出された作動油の温度が所定の基準温度よりも低い場合(つまり、作動油の粘性が高い状態であるにも関わらず、大きな負荷トルクが必要になる場合)に、目標吐出流量として、第3目標吐出流量が算出される。第3目標吐出流量を算出する際には、PID制御器4431による算出結果(第1算出結果)と、二重積分器4432による二重積分値を用いた算出結果(第2算出結果)とが用いられる。
【0081】
ここで、PID制御器4431は、動的制御器として機能する。そのため、静的制御器を用いるPQ制御と比べて、作動油の粘性が高い状況であっても、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れを回避することができる。
【0082】
また、第3目標吐出流量を算出するときには、二重積分器4432による二重積分値を用いているので、油圧ポンプ14の負荷トルクを目標負荷トルクへ追従させやすくなる。その結果、油圧ポンプ14の負荷トルクを確保することができる。
【0083】
加えて、作業機械10においては、リリーフ弁26の作動状態に応じて、第2算出結果を算出するときに用いる二重積分ゲインを異ならせている。そのため、より適切な第3目標吐出流量を算出することができる。その理由は、以下のとおりである。
【0084】
作業機械10では、リリーフ弁26の作動状態に応じて、油圧システムの特性が変動する。具体的には、リリーフ弁26が作動している状態では、油圧システムを構成する配管の内部の圧力が一定になるので、作業機械10の油圧システムは、一次遅れ+むだ時間系のシステムとして扱うことができる。これに対して、リリーフ弁26が作動していない状態では、作業機械10の油圧システムは、微分要素を含むシステムとなる。なお、システムが微分要素を含むのは、油圧アクチュエータ20の動きが加速しているときに限定される。つまり、作業機械10の油圧システムは、区分的に微分要素を有するシステムである。
【0085】
作業機械10においては、リリーフ弁26が作動しているときに、二重積分ゲイン選択部4435によって選択された所定の二重積分ゲインを用いる。これに対して、リリーフ弁26が作動していないときには、二重積分ゲイン算出部4434によって算出された二重積分ゲインを用いる。つまり、作業機械10においては、油圧システムの特性に応じて、第3目標吐出流量(具体的には、第2算出結果)を算出する際に用いる二重積分ゲインを異ならせている。そのため、より適切な第3目標吐出流量を算出することができる。
【0086】
ここで、二重積分ゲイン選択部4435によって選択される所定の二重積分ゲインがゼロである場合、リリーフ弁26が作動していない状態では、第3目標吐出流量を算出するときに、第1算出結果のみが用いられる。そのため、より適切な第3目標吐出流量を算出することができる。
【0087】
[実施の形態の応用例1]
図7を参照しながら、本発明の実施の形態の応用例1について説明する。
図7は、応用例1で採用される吐出流量算出部44Aを示すブロック図である。
【0088】
応用例1では、上記実施の形態と比べて、吐出流量算出部44の代わりに、吐出流量算出部44Aが採用されている点で異なる。吐出流量算出部44Aは、吐出流量算出部44と比べて、算出結果リセット部444を備える点で異なる。
【0089】
算出結果リセット部444は、第1吐出流量算出部441又は第2吐出流量算出部442による目標吐出流量の算出が行われる場合に、二重積分器4432による算出結果(二重積分値)をリセットする。
【0090】
図8を参照しながら、応用例1における油圧ポンプ14の動作制御について説明する。
図8は、応用例1における油圧ポンプ14の動作制御を示すフローチャートである。
【0091】
応用例1における油圧ポンプ14の動作制御は、上記実施の形態における油圧ポンプ14の動作制御と比べて、ステップS12における第1目標吐出流量の算出及びステップS14における第2目標吐出流量の算出の何れかが行われた後であって、且つ、ステップS18におけるレギュレータ16の駆動が行われる前に、二重積分器4432による算出結果(二重積分値)をリセットする(ステップS20)点でのみ異なる。
【0092】
このような応用例1においても、上記実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0093】
加えて、上記の応用例1では、第3吐出流量算出部443による目標吐出流量の算出(第3目標吐出流量の算出)が行われない場合に、二重積分器4432による算出結果(二重積分値)をリセットする。そのため、二重積分器4432による算出結果(二重積分値)が蓄積され続けるのを防ぐことができる。その結果、次回の第3吐出流量算出部443による目標吐出流量の算出(第3目標吐出流量の算出)が行われるときに、適切な目標吐出流量を算出することができる。
【0094】
[実施の形態の応用例2]
図9を参照しながら、本発明の実施の形態の応用例2について説明する。
図9は、応用例2で採用される第3吐出流量算出部443Aを示すブロック図である。
【0095】
応用例2では、上記実施の形態と比べて、第3吐出流量算出部443の代わりに、第3吐出流量算出部443Aが採用されている点で異なる。第3吐出流量算出部443Aは、第3吐出流量算出部443と比べて、制御ゲイン算出部4436を備える点で異なる。
【0096】
制御ゲイン算出部4436は、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧に応じて、比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインを算出する。
【0097】
比例ゲインは、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧がP2以上であって且つP1以下である場合に、以下の式(3)を用いて、算出される。
【0099】
ここで、K
P1は、圧力がP1のときの比例ゲインである。K
P2は、圧力がP2のときの比例ゲインである。
【0100】
なお、圧力がP2よりも低い場合、制御ゲイン算出部4436は、比例ゲインとして、K
P2を算出する。圧力がP1よりも高い場合、制御ゲイン算出部4436は、比例ゲインとして、K
P1を算出する。
【0101】
上記の比例ゲインK
P1及びK
P2は、例えば、一般化最少分散制御則(GMVC則)に基づいて算出される。
【0102】
積分ゲインは、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧がP2以上であって且つP1以下である場合に、以下の式(4)を用いて、算出される。
【0104】
ここで、K
I1は、圧力がP1のときの積分ゲインである。K
I2は、圧力がP2のときの積分ゲインである。
【0105】
なお、圧力がP2よりも低い場合、制御ゲイン算出部4436は、積分ゲインとして、K
I2を算出する。圧力がP1よりも高い場合、制御ゲイン算出部4436は、積分ゲインとして、K
I1を算出する。
【0106】
上記の積分ゲインK
I1及びK
I2は、例えば、一般化最少分散制御則(GMVC則)に基づいて算出される。
【0107】
微分ゲインは、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧がP2以上であって且つP1以下である場合に、以下の式(5)を用いて、算出される。
【0109】
ここで、K
D1は、圧力がP1のときの微分ゲインである。K
D2は、圧力がP2のときの微分ゲインである。
【0110】
なお、圧力がP2よりも低い場合、制御ゲイン算出部4436は、微分ゲインとして、K
D2を算出する。圧力がP1よりも高い場合、制御ゲイン算出部4436は、微分ゲインとして、K
D1を算出する。
【0111】
上記の微分ゲインK
D1及びK
D2は、例えば、一般化最少分散制御則(GMVC則)に基づいて算出される。
【0112】
図10を参照しながら、応用例2における油圧ポンプ14の動作制御について説明する。
図10は、応用例2における油圧ポンプ14の動作制御を示すフローチャートである。
【0113】
応用例2における油圧ポンプ14の動作制御は、上記実施の形態における油圧ポンプ14の動作制御と比べて、ステップS16における二重積分ゲインの算出及びステップS19における二重積分ゲインの選択の何れかが行われた後であって、且つ、ステップS17における第3目標吐出流量の算出が行われる前に、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧に応じて、比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインを算出する(ステップS21)点でのみ異なる。
【0114】
このような応用例2においても、上記実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0115】
加えて、上記応用例2では、ポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧に応じて、比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインを算出する。そのため、より適切な第3目標吐出流量を算出することができる。
【0116】
[実施の形態の応用例3]
図11を参照しながら、本発明の実施の形態の応用例3について説明する。
図11は、応用例3で採用されるコントローラ40を示すブロック図である。
【0117】
応用例3では、上記実施の形態と比べて、コントローラ40の代わりに、コントローラ40Aが採用されている点で異なる。コントローラ40Aは、コントローラ40と比べて、吐出流量推定部47及び負荷トルク取得部48を備える点で異なる。
【0118】
吐出流量推定部47は、温度センサ32によって検出された作動油の温度に応じて、油圧ポンプ14の吐出流量を推定する。具体的には、以下のとおりである。
【0119】
先ず、油圧ポンプ14の吐出流量が目標吐出流量に到達するまでの時間的な遅れ要素を作動油の温度ごとに予め設定しておく。例えば、実際に測定した遅れ時間(油圧ポンプ14の吐出流量が目標吐出流量に到達するまでの時間)と作動油の温度との関係を記憶装置(図示せず)に保存しておく。そして、温度センサ32によって検出された作動油の温度に応じた遅れ時間を用いて、油圧ポンプ14の吐出流量を推定する。油圧ポンプ14の吐出流量の推定には、例えば、一次遅れ近似が用いられる。
【0120】
負荷トルク取得部48は、吐出流量推定部47によって推定された油圧ポンプ14の吐出流量とポンプ圧センサ28によって検出されたポンプ圧とを乗算することで得られる算出結果に基づいて、油圧ポンプ14の負荷トルクを取得する。つまり、応用例3では、負荷トルク取得部48が、負荷トルク取得装置として機能する。そのため、応用例3では、トルクセンサ34は不要になる。
【0121】
このような応用例3においても、上記実施の形態と同様な効果を得ることができる。
【0122】
加えて、応用例3では、トルクセンサ34がなくても、油圧ポンプ14の負荷トルクを取得することができる。
【実施例】
【0123】
本発明の実施の形態による作業機械としての油圧ショベルが備える油圧システムの低温状態での動作制御について、シミュレーションを行った。具体的には、油圧ショベルの上部旋回体が下部走行体に対して旋回するときの油圧ポンプの負荷トルクを一定にする動作制御について、シミュレーションを行った(実施例)。その際、リリーフ弁が開いた状態と、リリーフ弁が閉じた状態との各々について、以下の表1に示すように、比例ゲイン、積分ゲイン、二重積分ゲイン及び微分ゲインを設定した。なお、これらのゲインを算出する際には、一般化最小分散制御則(GMVC則)による算出結果と、後述する比較例2の制御ゲインを用いた。
【0124】
【表1】
【0125】
油圧ポンプの負荷トルクについてのシミュレーション結果を、
図12Aに示す。油圧ポンプの吐出流量についてのシミュレーション結果を、
図12Bに示す。ポンプ圧(油圧ポンプから吐出された作動油の圧力)についてのシミュレーション結果を、
図12Cに示す。なお、
図12Aでは、目標負荷トルクTr(t)を破線で示している。
【0126】
また、比較のために、油圧ショベルの上部旋回体が下部走行体に対して旋回するときの油圧ポンプの負荷トルクを一定にする動作制御として、PQ制御による場合(比較例1)と、PID制御による場合(比較例2)とについても、シミュレーションを行った。比較例1のシミュレーション結果を、
図13A、
図13B及び
図13Cに示す。比較例2のシミュレーション結果を、
図14A、
図14B及び
図14Cに示す。
【0127】
実施例は、比較例1と比べて、流量指令に対する油圧ポンプの応答遅れに起因するハンチングを抑制できることを確認できた。また、実施例は、比較例2と比べて、油圧ポンプの負荷トルクの目標負荷トルクに対する追従性が向上することにより、油圧ポンプの負荷トルクを確保することができるようになることを確認できた。
【0128】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、これらはあくまでも例示であって、本発明は、上述の実施の形態の記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0129】
本発明において、作業機械は、所定の作業を行うことができるものであれば、特に限定されない。作業機械は、例えば、自走式の作業機械である。自走式の作業機械は、例えば、下部走行体と上部旋回体とを備える。作業機械は、例えば、油圧式の作業機械である。油圧式の作業機械は、例えば、油圧ショベルである。
【0130】
本発明において、作業機械は、有人運転されるものであってもよいし、無人運転されるものであってもよい。
【0131】
本発明において、負荷トルク取得装置は、油圧ポンプの負荷トルクを取得するものであれば、特に限定されない。負荷トルクは、直接検出して取得してもよいし、測定データから推測することで取得してもよい。