【実施例】
【0026】
以下、本発明による銀粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0027】
[実施例1]
銀756gを含む硝酸銀溶液76.8kgに26質量%のアンモニア水溶液3.9kgを添加して生成した銀アンミン錯体水溶液に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液363gを添加した後、還元剤として23質量%のホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)8.9kgを添加し、その直後に、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)106gに第1の表面処理剤としてパルミチン酸(和光純薬工業株式会社製、C
16H
32O
2、分子量256)2.7gを溶解した溶液を添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。このスラリーをろ過し、水洗して得られたケーキを熱処理により乾燥して、(第1の表面処理剤で処理した)銀粉756gを得た。
【0028】
次に、このようにして得られた(第1の表面処理剤で処理した)銀粉100gと第2の表面処理剤としてのオクタン酸(C
8H
16O
2、分子量144)20gとを、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gを入れた300mLのビーカーに添加し、攪拌機により50℃で5時間攪拌した後のスラリーをメンブレンフィルターでろ過し、得られた銀粒子をネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gで洗浄した後、70℃で3時間真空乾燥して、(第2の表面処理剤で処理した)銀粉を得た。
【0029】
このようにして得られた銀粉について、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布およびBET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出するとともに、銀粉の表面の脂肪酸の分析を行った。
【0030】
粒子断面の観察は、集束イオンビーム(FIB)装置(JEOL社製のJEM−9310FIB)で切断した銀粉の断面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(JEOL社製JSM−6700F)で観察することによって行った。その結果、FE−SEM写真から、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であることが確認された。
【0031】
レーザー回折法による粒度分布は、銀粉0.1gをイソプロピルアルコール30mLに添加し、出力50Wの超音波洗浄器により2分間分散させた後、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定した。その結果、D
10=1.1μm、D
50=2.2μm、D
90=3.9μmであった。
【0032】
BET比表面積は、銀粉を60℃で10分間脱気した後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb HM model−1210)を用いて、窒素吸着によるBET1点法で測定した。その結果、BET比表面積は0.49m
2/gであった。
【0033】
タップ密度(TAP)は、銀粉30gを計量して20mLの試験管に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、タップ密度=試料質量(30g)/タッピング後の試料体積(cm
3)から算出した。その結果、タップ密度は5.4g/cm
3であった。
【0034】
強熱減量値(Ig−loss)は、銀粉3gを秤量(w1)して磁性るつぼに入れ、電気炉(アドバンテック社製のKM−1302)により800℃で30分強熱した後、冷却し、再度秤量(w2)することにより、強熱減量値(%)=(w1−w2)×100/w1から求めた。その結果、強熱減量値は0.51%であった。
【0035】
銀粉の表面の脂肪酸の分析は、試料を加熱して発生したガスをガスクロマトグラフ(GC)に導入する前処理装置として熱分解装置(パイロライザ)(フロンティア・ラボ株式会社製のマルチショット・パイロライザEGA/Py−3030D)を使用するとともに、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)(アジデント・テクノロジー株式会社製の7890A/5975C)を使用し、熱分解装置の熱分解炉の温度を300℃(2分間)、インターフェイス温度を400℃としてシングルショット分析を行った。なお、ガスクロマトグラフ(GC)のキャリアガスとしてHeガス(カラム1流量1.2mL/分、カラム2流量1.7mL/分)を使用し、注入口温度を280℃とし、オーブン温度を40℃から15℃/分で昇温させて280℃で保持し、インターフェイス温度を280℃とし、キャピラリーカラム(J&Wサイエンティフィック社製のDB−1(30m、0.25mm、1μm))を使用し、試料の注入量を1μLとし、スプリット比を1とした。また、質量分析計(MS)のイオン源温度を300℃、Qポール温度を150℃、スキャンモードを10−800とした。その結果、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸(C
7H
14O
2、分子量130)とオクタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。なお、GC/MSのチャートにおいて、ピークの高さが最大ピークの3%未満のピークに対応する物質は不純物であると判断した。
【0036】
また、示差熱・熱重量同時測定装置(TG/DTA装置)により測定した発熱ピーク温度は185.2℃であった。
【0037】
次に、得られた銀粉90質量%と溶剤としてブチルカルビトール(BC)10質量%とをプロペラレス自公転式真空攪拌脱泡機で混合(30秒間×2回)して得られたペーストをスクリーン印刷機(マイクロテック社製)によって4枚のアルミナ基板上にそれぞれ導体幅500μm、測定長37.5mm(測定長/導体幅=75)の導体ラインの形状にスクリーン印刷した後、熱風式乾燥機によりそれぞれ130℃で30分間と120℃で30分間加熱して焼成することによって導電膜を形成し、それぞれの導電膜の体積抵抗率を算出した。導電膜の体積抵抗率は、表面粗さ計(株式会社小坂研究所製のサーフコーダSE−30D)を用いてアルミナ基板上の導電膜の表面とその導電膜を印刷していない部分との段差を測定することによって導電膜の膜厚を求めるとともに、導体ラインの実測抵抗値をデジタルマルチメータ(アドバンテスト株式会社製のR6551)により測定し、体積抵抗率(μΩ・cm)=膜厚(μm)×実測抵抗値(Ω)/0.75から算出した。その結果、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では30.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では60.0μΩ・cmであった。
【0038】
[実施例2]
第2の表面処理剤として、オクタン酸に代えて、ヘプタン酸(C
7H
14O
2、分子量130)20gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0039】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=1.2μm、D
50=2.6μm、D
90=4.8μmであり、BET比表面積は0.51m
2/gであった。また、タップ密度は3.9g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.50%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は183.7℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では28.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では45.0μΩ・cmであった。
【0040】
[実施例3]
第2の表面処理剤として、オクタン酸に代えて、プロピオン酸(C
3H
6O
2、分子量74)20gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0041】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=1.8μm、D
50=3.7μm、D
90=7.1μmであり、BET比表面積は0.49m
2/gであった。また、タップ密度は3.1g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.47%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、プロピオン酸とヘプタン酸とオクタン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は173.8℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では21.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では30.1μΩ・cmであった。
【0042】
[比較例1]
第2の表面処理剤による処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0043】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=1.2μm、D
50=2.4μm、D
90=4.0μmであり、BET比表面積は0.51m
2/gであった。また、タップ密度は3.7g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.53%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ペンタデカン酸(C
15H
30O
2、分子量242)とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は189.6℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は209.8μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0044】
[実施例4]
銀725gを含む硝酸銀溶液78.0kgに26質量%のアンモニア水溶液3.8kgを添加して生成した銀アンミン錯体水溶液に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液951gを添加した後、還元剤として3質量%のヒドラジン水溶液7.0kgを添加し、その直後に、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)178gに第1の表面処理剤としてパルミチン酸(和光純薬工業株式会社製)4.6gを溶解させた溶液を添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。このスラリーをろ過し、水洗して得られたケーキを熱処理により乾燥して、(第1の表面処理剤で処理した)銀粉を725g得た。
【0045】
次に、このようにして得られた(パルミチン酸で被覆された)銀粉100gと第2の表面処理剤としてのミリスチン酸(C
14H
28O
2、分子量228)20gとを、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gを入れた300mLのビーカーに添加し、攪拌機により50℃で5時間攪拌した後のスラリーをメンブレンフィルターでろ過し、得られた銀粒子をネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gで洗浄した後、70℃で3時間真空乾燥して、(第2の表面処理剤で処理した)銀粉を得た。
【0046】
このようにして得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0047】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=0.4μm、D
50=1.3μm、D
90=2.4μmであり、BET比表面積は0.99m
2/gであった。また、タップ密度は4.8g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.36%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ミリスチン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は201.3℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は203.8μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0048】
[実施例5]
第2の表面処理剤として、ミリスチン酸に代えて、ヘプタン酸20gを使用した以外は、実施例4と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0049】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=0.7μm、D
50=1.8μm、D
90=3.3μmであり、BET比表面積は1.10m
2/gであった。また、タップ密度は4.5g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.24%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は193.4℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では14.0μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では24.9μΩ・cmであった。
【0050】
[比較例2]
第2の表面処理剤による処理を行わなかった以外は、実施例4と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0051】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D
10=0.4μm、D
50=1.3μm、D
90=2.3μmであり、BET比表面積は1.08m
2/gであった。また、タップ密度は4.3g/cm
3であり、強熱減量値(Ig−loss)は0.37%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ペンタデカン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は201.7℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は、9.9×10
8μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0052】
これらの実施例および比較例で得られた銀粉の特性を表1および表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
これらの実施例および比較例からわかるように、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換することにより、凝集が少なく分散性に優れた銀粉であり且つ良好な導電膜を形成することができる銀粉を製造することができる。特に、実施例1〜3および5のように、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜10の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換すると、120℃の低温で加熱しても、導電性ペーストを焼成して導電膜を形成することができる。