特許第6814529号(P6814529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6814529-銀粉およびその製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6814529
(24)【登録日】2020年12月23日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】銀粉およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/02 20060101AFI20210107BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210107BHJP
   B22F 9/24 20060101ALI20210107BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20210107BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20210107BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20210107BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   B22F1/02 B
   B22F1/00 K
   B22F9/24 E
   H01B1/00 M
   H01B1/22 A
   H01B5/00 M
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-63560(P2015-63560)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-183374(P2016-183374A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年1月17日
【審判番号】不服2019-6307(P2019-6307/J1)
【審判請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 悠
【合議体】
【審判長】 中澤 登
【審判官】 亀ヶ谷 明久
【審判官】 粟野 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−146271(JP,A)
【文献】 特開2009−289745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC B22F 1/00-8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜7の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜7の脂肪酸に置換することにより、表面が炭素数15〜16の脂肪酸と炭素数3〜7の脂肪酸とからなる脂肪酸のみで被覆された銀粉を製造することを特徴とする、銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉が、銀イオンを含有する水性反応系に前記炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させることによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉が、銀イオンを含有する水性反応系に前記炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させて得られたスラリーをろ過し、水洗し、乾燥することによって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と前記炭素数3〜7の脂肪酸との混合を、溶媒に溶解させることによって行うことを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
表面が炭素数15〜16の脂肪酸と炭素数3〜7の脂肪酸とからなる脂肪酸のみで被覆されていることを特徴とする、銀粉。
【請求項6】
前記銀粉の示差熱分析における発熱ピーク温度が201.3℃以下であることを特徴とする、請求項5に記載の銀粉。
【請求項7】
前記銀粉のレーザー回折法による平均粒径が0.1〜5μm、BET比表面積が0.1〜2m/g、タップ密度が3〜6g/cmであることを特徴とする、請求項5または6に記載の銀粉。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載の銀粉を導体として用いたことを特徴とする、導電性ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉およびその製造方法に関し、特に、積層コンデンサの内部電極や回路基板の導体パターン、プラズマディスプレイパネルや太陽電池の基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペースト用の銀粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層コンデンサの内部電極、回路基板の導体パターン、太陽電池やプラズマディスプレイパネル(PDP)用基板の電極や回路などの電子部品に使用する導電性ペーストとして、銀粉をガラスフリットとともに有機ビヒクル中に加えて混練することによって製造される導電性ペーストが使用されている。このような導電性ペースト用の銀粉は、電子部品の小型化、導体パターンの高密度化、ファインライン化などに対応するため、粒径が適度に小さく、粒度が揃っていることが要求されている。
【0003】
このような導電性ペースト用の銀粉を製造する方法としては、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯体含有水溶液を生成した後、還元剤を加えることにより銀粉を還元析出させ、その後に乾燥する方法が知られている。
【0004】
このような方法において、凝集が少なく分散性に優れた銀粉を生成するために、銀塩含有水溶液にアルカリまたは錯化剤を加えて、酸化銀含有スラリーまたは銀錯塩含有水溶液を生成し、還元剤を加えて銀粒子を還元析出させた後、銀含有スラリー溶液またはそのろ過中に脂肪酸などの分散剤として脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属化合物、キレート剤、高分子分散剤のいずれか1種以上を加えることにより、表面を分散剤で被覆した銀粉を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−88206号公報(段落番号0002−0004)
【特許文献2】特開2005−220380号公報(段落番号0013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、分散剤として脂肪酸を使用する場合に、炭素数の大きいステアリン酸やオレイン酸などを使用すると、凝集が少なく分散性に優れた銀粉を生成することができるものの、その銀粉を使用して作製した導電性ペーストを焼成することによって形成した導電膜の体積抵抗率が高くなり、良好な導電膜を形成することができないという問題がある。一方、炭素数の小さいプロピオン酸などを使用すると、凝集が少なく分散性に優れた銀粉を生成することができなくなる。
【0007】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、凝集が少なく分散性に優れた銀粉であり且つ良好な導電膜を形成することができる銀粉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換することにより、凝集が少なく分散性に優れた銀粉であり且つ良好な導電膜を形成することができる銀粉を製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明による銀粉の製造方法は、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換することを特徴とする。
【0010】
この銀粉の製造方法において、炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉は、銀イオンを含有する水性反応系に炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させることによって製造することができる。また、炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉は、銀イオンを含有する水性反応系に炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させて得られたスラリーをろ過し、水洗し、乾燥することによって製造するのが好ましい。また、炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸との混合を、溶媒に溶解させることによって行うのが好ましい。また、炭素数3〜14の脂肪酸は、炭素数3〜10の脂肪酸であるのが好ましい。
【0011】
また、本発明による銀粉は、表面が炭素数15〜16の脂肪酸と炭素数3〜14の脂肪酸(好ましくは炭素数3〜10の脂肪酸)で被覆されていること、あるいは、表面が炭素数3〜5の脂肪酸と炭素数6〜10の脂肪酸で被覆されていることを特徴とする。これらの銀粉において、示差熱分析における発熱ピーク温度が201.3℃以下であるのが好ましい。また、銀粉のレーザー回折法による平均粒径が0.1〜5μm、BET比表面積が0.1〜2m/g、タップ密度が3〜6g/cmであるのが好ましい。
【0012】
さらに、本発明による導電性ペーストは、上記の銀粉を導体として用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、凝集が少なく分散性に優れた銀粉であり且つ良好な導電膜を形成することができる銀粉を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例4、5および比較例2の銀粉のガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による銀粉の製造方法の実施の形態では、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換する。
【0016】
炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉は、銀イオンを含有する水性反応系に(第1の表面処理剤としての)炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させることによって製造することができる。また、炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と(第2の表面処理剤としての)炭素数3〜14の脂肪酸を溶媒に溶解させて混合することにより、炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換することができる。
【0017】
銀イオンを含有する水性反応系としては、硝酸銀、銀錯体または銀中間体を含有する水溶液またはスラリーを使用することができる。銀錯体を含有する水溶液は、アンモニア水、アンモニウム塩、キレート化合物などを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。銀中間体を含有するスラリーは、水酸化ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを硝酸銀水溶液に添加することにより生成することができる。これらの中で、銀粉が適当な粒径と球状の形状を有するようにするためには、硝酸銀水溶液にアンモニア水を添加して得られるアンミン錯体水溶液を使用するのが好ましい。銀アンミン錯体中のアンモニアの配位数は2であるため、銀1モル当たりアンモニア2モル以上を添加する。また、アンモニアの添加量が多過ぎると錯体が安定化し過ぎて還元が進み難くなるので、アンモニアの添加量は銀1モル当たり8モル以下であるのが好ましい。なお、還元剤の添加量を多くするなどの調整を行なえば、アンモニアの添加量が8モルを超えても適当な粒径の球状銀粉を得ることができる。
【0018】
還元剤としては、アスコルビン酸、亜硫酸塩、アルカノールアミン、過酸化水素水、ギ酸、ギ酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、グリオキサール、酒石酸、次亜燐酸ナトリウム、水素化硼素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ピロガロール、ぶどう糖、没食子酸、ホルマリン、無水亜硫酸ナトリウム、ロンガリットなどを使用することができる。これらの中で、アスコルビン酸、アルカノールアミン、水素化硼素ナトリウム、ヒドロキノン、ヒドラジンおよびホルマリンからなる群から選ばれる1種類以上を使用するのが好ましく、特に、安価であることからホルマリンを使用するのが好ましい。これらの還元剤を使用すれば、適当な粒径の銀粒子を得ることができる。還元剤の添加量は、銀の反応収率を上げるためには、銀に対して1当量以上にする必要がある。還元力の弱い還元剤を使用する場合には、銀に対して2当量以上の還元剤、例えば、10〜20当量の還元剤を添加してもよい。また、還元剤の添加方法については、銀粉の凝集を防ぐために、1当量/分以上の速さで添加するのが好ましい。この理由は明確ではないが、還元剤を短時間で投入することで、銀粒子の還元析出が一挙に生じて、短時間で還元反応が終了し、発生した核同士の凝集が生じ難いため、分散性が向上すると考えられる。したがって、還元剤の添加時間が短いほど好ましく、例えば、還元剤を100当量/分以上の速さで添加してもよく、また、還元の際には、より短時間で反応が終了するように反応液を攪拌するのが好ましい。
【0019】
また、銀イオンを含有する水性反応系にpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、一般的な酸や塩基が使用することができ、例えば、硝酸、水酸化ナトリウムなどを使用することができる。
【0020】
銀イオンを含有する水性反応系に添加する第1の表面処理剤は、炭素数15〜16の脂肪酸であり、このような脂肪酸として、ペンタデカン酸(C1530)、パルミチン酸(C1632)などを挙げることができる。これらの第1の表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と混合する第2の表面処理剤は、炭素数3〜14の脂肪酸であり、このような脂肪酸として、プロピオン酸(C)、ヘプタン酸(C14)、オクタン酸(C16)、デカン酸(C1020)、ラウリン酸(C1224)、トリデカン酸(C1326)、ミリスチン酸(C1428)などを挙げることができる。これらの第2の表面処理剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と(第2の表面処理剤としての)炭素数3〜14の脂肪酸を溶解させる溶媒としては、ネオエタノールを使用することができる。
【0023】
炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉は、銀イオンを含有する水性反応系に炭素数15〜16の脂肪酸と還元剤を添加して銀粒子を還元析出させて得られたスラリーをろ過し、水洗し、乾燥することによって得られる。銀粒子を還元析出させることによって得られた銀含有スラリーを固液分離し、水洗すると、銀に対して1〜200質量%の水を含み、流動性がほとんどない塊状のケーキが得られる。このケーキの乾燥を早めるために、ケーキ中の水分を低級アルコールなどで置換してもよい。このケーキを強制循環式大気乾燥機、真空乾燥機、気流乾燥装置などの乾燥機により乾燥することによって、乾燥した銀粉が得られるが、銀粉の粒子内部の閉鎖された空隙を保持するために、乾燥温度を100℃以下するのが好ましい。
【0024】
上述した銀粉の製造方法の実施の形態により、表面が炭素数15〜16の脂肪酸と炭素数3〜14の脂肪酸で被覆された銀粉、あるいは、表面が炭素数3〜5の脂肪酸と炭素数6〜10の脂肪酸で被覆された銀粉であって、示差熱分析における発熱ピーク温度が201.3℃以下である銀粉を製造することができる。この銀粉は、レーザー回折法による平均粒径(D50)が0.1〜5μm、BET比表面積が0.1〜2m/g、タップ密度が3〜6g/cmであるのが好ましい。また、この銀粉は、表面が炭素数15〜16の脂肪酸のみで被覆された銀粉より低い強熱減量値を有する。
【0025】
上記の銀粉を導体として使用して導電性ペーストを製造することができる。例えば、上記の銀粉を樹脂と混合することにより、導電性ペーストを製造することができる。なお、樹脂の例として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、エチルセルロースなどを挙げることができる。これら樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、導電性ペーストをより低温で加熱して焼成することによって導電膜を形成するためには、上記の炭素数3〜14の脂肪酸が、炭素数3〜10の脂肪酸であるのが好ましく、炭素数3〜8の脂肪酸であるのがさらに好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明による銀粉およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0027】
[実施例1]
銀756gを含む硝酸銀溶液76.8kgに26質量%のアンモニア水溶液3.9kgを添加して生成した銀アンミン錯体水溶液に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液363gを添加した後、還元剤として23質量%のホルムアルデヒド水溶液(ホルマリン)8.9kgを添加し、その直後に、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)106gに第1の表面処理剤としてパルミチン酸(和光純薬工業株式会社製、C1632、分子量256)2.7gを溶解した溶液を添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。このスラリーをろ過し、水洗して得られたケーキを熱処理により乾燥して、(第1の表面処理剤で処理した)銀粉756gを得た。
【0028】
次に、このようにして得られた(第1の表面処理剤で処理した)銀粉100gと第2の表面処理剤としてのオクタン酸(C16、分子量144)20gとを、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gを入れた300mLのビーカーに添加し、攪拌機により50℃で5時間攪拌した後のスラリーをメンブレンフィルターでろ過し、得られた銀粒子をネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gで洗浄した後、70℃で3時間真空乾燥して、(第2の表面処理剤で処理した)銀粉を得た。
【0029】
このようにして得られた銀粉について、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布およびBET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出するとともに、銀粉の表面の脂肪酸の分析を行った。
【0030】
粒子断面の観察は、集束イオンビーム(FIB)装置(JEOL社製のJEM−9310FIB)で切断した銀粉の断面を電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(JEOL社製JSM−6700F)で観察することによって行った。その結果、FE−SEM写真から、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であることが確認された。
【0031】
レーザー回折法による粒度分布は、銀粉0.1gをイソプロピルアルコール30mLに添加し、出力50Wの超音波洗浄器により2分間分散させた後、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製のマイクロトラックMT3300EXII)を用いて測定した。その結果、D10=1.1μm、D50=2.2μm、D90=3.9μmであった。
【0032】
BET比表面積は、銀粉を60℃で10分間脱気した後、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製のMacsorb HM model−1210)を用いて、窒素吸着によるBET1点法で測定した。その結果、BET比表面積は0.49m/gであった。
【0033】
タップ密度(TAP)は、銀粉30gを計量して20mLの試験管に入れ、落差20mmで1,000回タッピングし、タップ密度=試料質量(30g)/タッピング後の試料体積(cm)から算出した。その結果、タップ密度は5.4g/cmであった。
【0034】
強熱減量値(Ig−loss)は、銀粉3gを秤量(w1)して磁性るつぼに入れ、電気炉(アドバンテック社製のKM−1302)により800℃で30分強熱した後、冷却し、再度秤量(w2)することにより、強熱減量値(%)=(w1−w2)×100/w1から求めた。その結果、強熱減量値は0.51%であった。
【0035】
銀粉の表面の脂肪酸の分析は、試料を加熱して発生したガスをガスクロマトグラフ(GC)に導入する前処理装置として熱分解装置(パイロライザ)(フロンティア・ラボ株式会社製のマルチショット・パイロライザEGA/Py−3030D)を使用するとともに、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)(アジデント・テクノロジー株式会社製の7890A/5975C)を使用し、熱分解装置の熱分解炉の温度を300℃(2分間)、インターフェイス温度を400℃としてシングルショット分析を行った。なお、ガスクロマトグラフ(GC)のキャリアガスとしてHeガス(カラム1流量1.2mL/分、カラム2流量1.7mL/分)を使用し、注入口温度を280℃とし、オーブン温度を40℃から15℃/分で昇温させて280℃で保持し、インターフェイス温度を280℃とし、キャピラリーカラム(J&Wサイエンティフィック社製のDB−1(30m、0.25mm、1μm))を使用し、試料の注入量を1μLとし、スプリット比を1とした。また、質量分析計(MS)のイオン源温度を300℃、Qポール温度を150℃、スキャンモードを10−800とした。その結果、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸(C14、分子量130)とオクタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。なお、GC/MSのチャートにおいて、ピークの高さが最大ピークの3%未満のピークに対応する物質は不純物であると判断した。
【0036】
また、示差熱・熱重量同時測定装置(TG/DTA装置)により測定した発熱ピーク温度は185.2℃であった。
【0037】
次に、得られた銀粉90質量%と溶剤としてブチルカルビトール(BC)10質量%とをプロペラレス自公転式真空攪拌脱泡機で混合(30秒間×2回)して得られたペーストをスクリーン印刷機(マイクロテック社製)によって4枚のアルミナ基板上にそれぞれ導体幅500μm、測定長37.5mm(測定長/導体幅=75)の導体ラインの形状にスクリーン印刷した後、熱風式乾燥機によりそれぞれ130℃で30分間と120℃で30分間加熱して焼成することによって導電膜を形成し、それぞれの導電膜の体積抵抗率を算出した。導電膜の体積抵抗率は、表面粗さ計(株式会社小坂研究所製のサーフコーダSE−30D)を用いてアルミナ基板上の導電膜の表面とその導電膜を印刷していない部分との段差を測定することによって導電膜の膜厚を求めるとともに、導体ラインの実測抵抗値をデジタルマルチメータ(アドバンテスト株式会社製のR6551)により測定し、体積抵抗率(μΩ・cm)=膜厚(μm)×実測抵抗値(Ω)/0.75から算出した。その結果、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では30.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では60.0μΩ・cmであった。
【0038】
[実施例2]
第2の表面処理剤として、オクタン酸に代えて、ヘプタン酸(C14、分子量130)20gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0039】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=1.2μm、D50=2.6μm、D90=4.8μmであり、BET比表面積は0.51m/gであった。また、タップ密度は3.9g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.50%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は183.7℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では28.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では45.0μΩ・cmであった。
【0040】
[実施例3]
第2の表面処理剤として、オクタン酸に代えて、プロピオン酸(C、分子量74)20gを使用した以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0041】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=1.8μm、D50=3.7μm、D90=7.1μmであり、BET比表面積は0.49m/gであった。また、タップ密度は3.1g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.47%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、プロピオン酸とヘプタン酸とオクタン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は173.8℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では21.2μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では30.1μΩ・cmであった。
【0042】
[比較例1]
第2の表面処理剤による処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0043】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に閉鎖された空隙が存在する球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=1.2μm、D50=2.4μm、D90=4.0μmであり、BET比表面積は0.51m/gであった。また、タップ密度は3.7g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.53%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ペンタデカン酸(C1530、分子量242)とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は189.6℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は209.8μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0044】
[実施例4]
銀725gを含む硝酸銀溶液78.0kgに26質量%のアンモニア水溶液3.8kgを添加して生成した銀アンミン錯体水溶液に、20質量%の水酸化ナトリウム水溶液951gを添加した後、還元剤として3質量%のヒドラジン水溶液7.0kgを添加し、その直後に、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)178gに第1の表面処理剤としてパルミチン酸(和光純薬工業株式会社製)4.6gを溶解させた溶液を添加して、銀粒子を含むスラリーを得た。このスラリーをろ過し、水洗して得られたケーキを熱処理により乾燥して、(第1の表面処理剤で処理した)銀粉を725g得た。
【0045】
次に、このようにして得られた(パルミチン酸で被覆された)銀粉100gと第2の表面処理剤としてのミリスチン酸(C1428、分子量228)20gとを、ネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gを入れた300mLのビーカーに添加し、攪拌機により50℃で5時間攪拌した後のスラリーをメンブレンフィルターでろ過し、得られた銀粒子をネオエタノール(大伸化学株式会社製)100gで洗浄した後、70℃で3時間真空乾燥して、(第2の表面処理剤で処理した)銀粉を得た。
【0046】
このようにして得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0047】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=0.4μm、D50=1.3μm、D90=2.4μmであり、BET比表面積は0.99m/gであった。また、タップ密度は4.8g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.36%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ミリスチン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は201.3℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は203.8μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0048】
[実施例5]
第2の表面処理剤として、ミリスチン酸に代えて、ヘプタン酸20gを使用した以外は、実施例4と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜と120℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0049】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=0.7μm、D50=1.8μm、D90=3.3μmであり、BET比表面積は1.10m/gであった。また、タップ密度は4.5g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.24%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ヘプタン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は193.4℃であった。また、導電膜の体積抵抗率は、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜では14.0μΩ・cmであり、120℃で30分間加熱して焼成した導電膜では24.9μΩ・cmであった。
【0050】
[比較例2]
第2の表面処理剤による処理を行わなかった以外は、実施例4と同様の方法により得られた銀粉について、実施例1と同様の方法により、粒子断面を観察し、レーザー回折法による粒度分布、BET比表面積を測定し、タップ密度および強熱減量値を算出し、銀粉の表面の脂肪酸の分析し、発熱ピーク温度を求めるとともに、得られた銀粉を使用して作製した導電性ペーストを130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率を算出した。
【0051】
その結果、得られた銀粉の形状は、粒子の内部に空隙が存在しない緻密な球状銀粉であった。また、得られた銀粉の粒度分布は、D10=0.4μm、D50=1.3μm、D90=2.3μmであり、BET比表面積は1.08m/gであった。また、タップ密度は4.3g/cmであり、強熱減量値(Ig−loss)は0.37%であった。また、銀粉の表面の脂肪酸のピークとして、ペンタデカン酸とパルミチン酸であると推定されるピークが観察された。また、発熱ピーク温度は201.7℃であった。また、130℃で30分間加熱して焼成した導電膜の体積抵抗率は、9.9×10μΩ・cmであった。なお、120℃で30分間加熱した場合は、導電性ペーストを焼成することができず、導電膜を得ることができなかった。
【0052】
これらの実施例および比較例で得られた銀粉の特性を表1および表2に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
これらの実施例および比較例からわかるように、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜14の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換することにより、凝集が少なく分散性に優れた銀粉であり且つ良好な導電膜を形成することができる銀粉を製造することができる。特に、実施例1〜3および5のように、表面が炭素数15〜16の脂肪酸で被覆された銀粉と炭素数3〜10の脂肪酸とを混合して炭素数15〜16の脂肪酸の少なくとも一部を炭素数3〜14の脂肪酸に置換すると、120℃の低温で加熱しても、導電性ペーストを焼成して導電膜を形成することができる。
図1