特許第6815112号(P6815112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6815112焼成複合菓子及び焼成複合菓子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6815112
(24)【登録日】2020年12月24日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】焼成複合菓子及び焼成複合菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/54 20060101AFI20210107BHJP
   A23L 21/10 20160101ALI20210107BHJP
【FI】
   A23G1/54
   A23L21/10
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-139355(P2016-139355)
(22)【出願日】2016年7月14日
(65)【公開番号】特開2018-7624(P2018-7624A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年7月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年5月に、森永製薬株式会社の商談担当が、本願発明の複合焼成菓子の試供品を別紙一覧の商談先に配布又は開示した。(株)RJオグラ本社CGC 他。30条記事欠損あり。
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】信田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】梶野 朋子
(72)【発明者】
【氏名】家本 直季
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−207196(JP,A)
【文献】 特開2010−207198(JP,A)
【文献】 特開2005−185258(JP,A)
【文献】 特表2014−533522(JP,A)
【文献】 特開2014−096991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00−9/52
A23L 21/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレートと、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材とが接合され、所定形状に成形されていて、少なくともその表面の全部または一部が焼成されている焼成複合菓子であって、前記水系柔軟性食品素材は、グリセリン及び/又はソルビトールを少なくとも含有し、且つ、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたペクチンゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するソースであることを特徴とする焼成複合菓子
【請求項2】
前記チョコレートは、含気されたチョコレートである請求項1記載の焼成複合菓子。
【請求項3】
前記含気されたチョコレートの比重が0.95以下である請求項2記載の焼成複合菓子。
【請求項4】
前記水系柔軟性食品素材は、その水分活性が0.50〜0.80である請求項1〜3のいずれか1つに記載の焼成複合菓子。
【請求項5】
前記水系柔軟性食品素材は、その水分含量が15〜35質量%である請求項1〜4のいずれか1つに記載の焼成複合菓子。
【請求項6】
前記チョコレートに対する前記水系柔軟性食品素材の質量比が85:15〜55:45である請求項1〜5のいずれか1つに記載の焼成複合菓子。
【請求項7】
チョコレートと、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材とを接合し、所定形状に成形して、少なくともその表面の全部または一部を焼成する焼成複合菓子の製造方法であって、前記水系柔軟性食品素材は、グリセリン及び/又はソルビトールを少なくとも含有し、且つ、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたペクチンゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するソースであることを特徴とする焼成複合菓子の製造方法
【請求項8】
前記チョコレートは、含気されたチョコレートである請求項記載の焼成複合菓子の製造方法。
【請求項9】
前記含気されたチョコレートの比重が0.95以下である請求項記載の焼成複合菓子の製造方法。
【請求項10】
前記水系柔軟性食品素材は、その水分活性が0.50〜0.80である請求項のいずれか1つに記載の焼成複合菓子の製造方法。
【請求項11】
前記水系柔軟性食品素材は、その水分含量が15〜35質量%である請求項10のいずれか1つに記載の焼成複合菓子の製造方法。
【請求項12】
前記チョコレートに対する前記水系柔軟性食品素材の質量比が85:15〜55:45である、請求項11のいずれか1つに記載の焼成複合菓子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョコレートと水系柔軟性食品素材とが接合され、焼成されてなる焼成複合菓子、及びその焼成複合菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョコレートと食品素材とが接合されてなる複合菓子が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、油脂性菓子生地表面を吸湿させ、これを焼成することを特徴とする菓子の製造法が記載され、その油脂性菓子生地を付着又は被覆する菓子としては、ビスケット、クラッカー、パイ、シュウ、ウエハース等の焼き菓子、ドロップ、ヌガー、ゼリー等のキャンディ類、ナッツ類、パン類、乾燥果実、スナック菓子等が例示できることが記載されている。
【0004】
また、例えば、下記特許文献2には、チョコレートの表層のみを熱風による加熱により溶融した後、前記チョコレート表面に粉体をまぶして付着させることを特徴とする粉体付きチョコレートの製造方法が記載され、チョコレートはシェルチョコレートにセンターを有するもので構成されていてもよく、センターとしては、シェルチョコレートとは異なるガナッシュ等のチョコレートの他、キャラメル、クリーム、キャンディなどが使用でき、また、ナッツ類の破砕物、スナック類、パフ類、ビスケット、クッキー類のクラムなどの粉粒体も使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−245594号公報
【特許文献2】特開2002−335863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、意外にも、チョコレートと水分を含む軟らかな食品素材とが接合され、焼成されてなる焼成複合菓子は、従来提供されて来なかった。本発明者らの研究によれば、水系柔軟性食品素材をチョコレートと接合して焼成する場合、接合後、チョコレートと水系柔軟性食品素材の収縮・変形の差によりチョコレートにひびが入ってしまう場合があったり、焼成により水系柔軟性食品素材が突沸したりダレてしまう場合があったり、水系柔軟性食品素材の水分による微生物的リスクの問題があったり、など種々の忌避要因があり、そのため従来提供されて来なかったものと考えられた。例えば、上記特許文献1の実施例に示されているセンターはビスケット、ウエハース、クッキー等であった。また、上記特許文献2では、チョコレートの表層のみを熱風による加熱により溶融するにとどまっていた。
【0007】
よって、本発明は、新たな菓子の提供を目的として、チョコレートと水系柔軟性食品素材とが接合され、焼成されてなる焼成複合菓子、及びその焼成複合菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究したところ、チョコレートと水系柔軟性食品素材とを接合し、焼成すると、そのチョコレートにはケーキのようなしっとりとした食感が付与されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の焼成複合菓子は、チョコレートと、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材とが接合され、所定形状に成形されていて、少なくともその表面の全部または一部が焼成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の焼成複合菓子によれば、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材を利用して、それをチョコレートと接合し、所定形状に成形したうえ、焼成してなるので、水系柔軟性食品素材の水分が接合後及び/又は焼成後のチョコレートに適度に移行することにより、そのチョコレートにはケーキのようなしっとりとした食感が付与されて、水系柔軟性食品素材の軟らかい食感との相性が良い複合菓子となる。
【0011】
本発明の焼成複合菓子においては、前記チョコレートは、含気されたチョコレートであることが好ましい。その場合、前記含気されたチョコレートの比重が0.95以下であることが好ましい。これによれば、その含気により、水系柔軟性食品素材からチョコレートへの水分の移行が進行し易くなり、チョコレートにより十分にしっとりとした食感を付与することができる。また、チョコレートと水系柔軟性食品素材の収縮・変形の差が低減されて、例えばチョコレートにひびが入ってしまうというようなトラブルを抑えることができる。
【0012】
また、前記水系柔軟性食品素材は、その水分活性が0.50〜0.80であることが好ましい。これによれば、微生物的リスクを抑えつつ、チョコレートに適度なしっとり感を付与することができる。
【0013】
また、前記水系柔軟性食品素材は、その水分含量が15〜35質量%であることが好ましい。これによれば、チョコレートに、より適度なしっとり感を付与することができる。
【0014】
また、前記チョコレートに対する前記水系柔軟性食品素材の質量比が85:15〜55:45であることが好ましい。これによれば、チョコレートにより適度なしっとり感を付与することができる。
【0015】
また、前記水系柔軟性食品素材は、グリセリン及び/又はソルビトールを少なくとも含有していることが好ましい。これによれば、グリセリン及び/又はソルビトールの保水力により、みずみずしさを保ちつつ水分活性を抑えて、微生物的リスクを抑えることができる。
【0016】
また、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤含有ソースであることが好ましい。これによれば、チョコレートとの接合を行ない易く、また、所定形状に成形し易い。
【0017】
また、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたペクチンゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するソースであることが好ましい。これによれば、水系柔軟性食品素材に軟らかい食感を付与しつつ、より良好に耐熱性を付与することができる。また、チョコレートとの接合を行ない易く、また、所定形状に成形し易い。
【0018】
一方、本発明の焼成複合菓子の製造方法は、チョコレートと、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材とを接合し、所定形状に成形して、少なくともその表面の全部または一部を焼成することを特徴とする。
【0019】
本発明の焼成複合菓子の製造方法によれば、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材を利用して、それをチョコレートと接合し、所定形状に成形したうえ、焼成してなるので、水系柔軟性食品素材の水分が接合後及び/又は焼成後のチョコレートに適度に移行することにより、そのチョコレートにはケーキのようなしっとりとした食感が付与されて、水系柔軟性食品素材の軟らかい食感との相性が良い複合菓子を得ることができる。
【0020】
本発明の焼成複合菓子の製造方法においては、前記チョコレートは、含気されたチョコレートであることが好ましい。その場合、前記含気されたチョコレートの比重が0.95以下であることが好ましい。これによれば、その含気により、水系柔軟性食品素材からチョコレートへの水分の移行が進行し易くなり、チョコレートにより十分にしっとりとした食感を付与することができる。また、チョコレートと水系柔軟性食品素材の収縮・変形の差が低減されて、例えばチョコレートにひびが入ってしまうというようなトラブルを抑えることができる。
【0021】
また、 前記水系柔軟性食品素材は、その水分活性が0.50〜0.80であることが好ましい。これによれば、微生物的リスクを抑えつつ、チョコレートに適度なしっとり感を付与することができる。
【0022】
また、前記水系柔軟性食品素材は、その水分含量が15〜35質量%であることが好ましい。これによれば、チョコレートに、より適度なしっとり感を付与することができる。
【0023】
また、前記チョコレートに対する前記水系柔軟性食品素材の質量比が85:15〜55:45であることが好ましい。これによれば、チョコレートにより適度なしっとり感を付与することができる。
【0024】
また、前記水系柔軟性食品素材は、グリセリン及び/又はソルビトールを少なくとも含有するものであることが好ましい。これによれば、グリセリン及び/又はソルビトールの保水力により、みずみずしさを保ちつつ水分活性を抑えて、微生物的リスクを抑えることができる。
【0025】
また、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤含有ソースであることが好ましい。これによれば、チョコレートとの接合を行ない易く、また、所定形状に成形し易い。
【0026】
また、前記水系柔軟性食品素材は、(1)ゲル状にセットしたペクチンゼリー又はその粉砕流動物、及び/又は(2)増粘剤としてヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有するソースであることが好ましい。これによれば、水系柔軟性食品素材に軟らかい食感を付与しつつ、より良好に耐熱性を付与することができる。また、チョコレートとの接合を行ない易く、また、所定形状に成形し易い。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、焼成してもダレない耐熱性を有している水系柔軟性食品素材を利用して、それをチョコレートと接合し、所定形状に成形したうえ、焼成してなるので、水系柔軟性食品素材の水分が接合後及び/又は焼成後のチョコレートに適度に移行することにより、そのチョコレートにはケーキのようなしっとりとした食感が付与されて、水系柔軟性食品素材の軟らかい食感との相性が良い複合菓子となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による焼成複合菓子の一実施形態を示す斜視図である。
図2】本発明による焼成複合菓子の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明において用いられる水系柔軟性食品素材としては、少なくとも水分を含み、みずみずしく柔らかい食感を呈する食品素材であればよく、特に制限はないが、焼成してもダレない耐熱性を有している必要がある。ここで、「焼成してもダレない耐熱性」とは、100〜400℃程度の焼成雰囲気下において、水系柔軟性食品素材の組織が壊れずに元の組織を保つことを意味している。例えば、ゲル化剤として知られるペクチンを含有するゼリーや増粘剤として知られるヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含有するソースなどが挙げられる。ペクチンとしては、高メトキシルペクチン(HMペクチン)でもよく、低メトキシルペクチン(LMペクチン)でもよい。
【0030】
水系柔軟性食品素材は、その水分活性が0.50〜0.80であることが好ましく、0.55〜0.70であることがより好ましい。水系柔軟性食品素材の水分活性がこの範囲未満であると、チョコレート部分の食感に与える影響が乏しくなる傾向となり、好ましくない場合がある。水系柔軟性食品素材の水分活性がこの範囲を超えると、チョコレート部分の食感に経時的な変化が生じやすくなる傾向となり、好ましくない場合がある。
【0031】
水系柔軟性食品素材は、その水分含量が15〜35質量%であることが好ましく、18〜25質量%であることがより好ましい。水系柔軟性食品素材の水分含量がこの範囲未満であると、チョコレート部分の食感に与える影響が乏しくなる傾向となり、好ましくない場合がある。水系柔軟性食品素材の水分含量がこの範囲を超えると、チョコレート部分の食感に経時的な変化が生じやすくなる傾向となり、好ましくない場合がある。水分含量は、例えば、カールフィッシャー法、乾燥法、乾燥助剤法などの水分含量試験法によって求めることができる。
【0032】
水系柔軟性食品素材は、グリセリン及びソルビトールからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。グリセリンやソルビトールには保水力を高める効果があるので、微生物学的リスクを回避するために、水系柔軟性食品素材の水分活性を抑えて調製した場合でも、水分によるみずみずしさが保たれる。
【0033】
水系柔軟性食品素材は、糖類を少なくとも含むものであることが好ましい。糖類を少なくとも含むことにより、水分を所定以上含有し、且つ、柔軟性を有する食感と成し易い。糖類としては、砂糖、はちみつ、麦芽糖、ブドウ糖、糖アルコール、果糖ぶどう糖液糖等が挙げられる。
【0034】
水系柔軟性食品素材の原料としては、上記の条件を満たす限り、上記以外にも、油脂、乳化剤、香料、増粘多糖類、pH調整剤、塩類等の原料を適宜使用することができる。ただし、その油分含量は40質量%未満に調製することが好ましく、20%未満に調製することがより好ましい。水系柔軟性食品素材の油分含量がこの範囲を超えると、その比熱が減少し、焼成時にチョコレートの急激な温度上昇がおこるのを防ぐ効果が乏しくなって、チョコレートの食感が硬くなる傾向となり、好ましくない場合がある。なお、比熱は比熱容量の測定方法(DSC)で測定できる。
【0035】
本発明において用いられるチョコレートとしては、その種類等に特に制限はなく、周知の技術により調製することができる。規約や法規上の規定によって限定されず、例えば、純チョコレート、チョコレート、準チョコレート、純ミルクチョコレート、ミルクチョコレート、準ミルクチョコレートなどであってもよく、カカオマスやココアパウダーを含まないホワイトチョコレートなどであってもよい。原料としては、カカオマス、ココアパウダー、ココアバター、ココアバター代用脂、ココアバター代替脂、ココアバター類似脂、その他の植物性油脂、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、砂糖、乳糖、マルトース、トレハロースなどの糖類、レシチンなどの乳化剤、香料などが用いられる。常法に従って上記原料をミキシングし、リファイニングを行った後、コンチングを行うこと等により調製することができる。
【0036】
チョコレートには、必要に応じて、コンチング工程後、加熱、冷却、加圧、減圧しながら激しく撹拌する、いわゆるホイップ処理を施して、気泡を含有させてもよい。撹拌は、例えば、ミキサー、含気ミキサー装置等を用いて行うことができる。
【0037】
チョコレートに含気させる場合、チョコレートの比重が0.50〜1.15となるように含気させることが好ましく、0.60〜0.95となるように含気させることより好ましい。ただし、含気し過ぎると粘度が上昇して作業性が悪くなる傾向となり、好ましくない場合がある。比重は、例えば、流動性を有する状態のチョコレートを200ml容のカップにすり切り入れてその質量を測定する方法などで測定することができる。あるいは、断面の顕微鏡写真を画像解析する方法などでも測定することができる。具体的には、例えば、固化して流動性を有しない状態のチョコレートを切断し、断面の顕微鏡写真を画像解析に付して、断面積に対して気泡が占める面積の割合を、偏りなく計測することで、比重を求めることができる。更にはまた、焼成複合菓子から一定形状に切り出してサンプリングし(必要に応じて冷凍下でサンプリングして)、その質量を測定するとともに、その容積を水や油などの液相置換法や、菜種やビーズを用いた粉体置換法や、3Dレーザースキャン装置(例えば、株式会社アステックス製、商品名「3D Laser Scanner SELNAC−VM」、英弘精機社製、商品名「Volscan」)などで測定し、それらの測定値から比重を算出してもよい。なお、本発明において「含気されたチョコレート」とは、上記の手段等により撹拌する、いわゆるホイップ処理を施して、気泡を含有させたチョコレートを意味し、通常その比重は1.2未満である。
【0038】
また、チョコレートは、砂糖、ココアパウダー、ノンテンパー型油脂、トレハロース及び/又はマルトースを含有するものであることが好ましい。これによれば、ノンテンパー型油脂により焼成によるブルームが抑制され、トレハロース及び/又はマルトースによりチョコレートのべたつきが抑制された複合菓子とすることができる。なお、「ノンテンパー型油脂」とは、チョコレートを構成する、カカオ豆に由来しない油脂であって、チョコレートにブルームが発生するのを防ぐためのテンパリング処理を不要とする、該油脂のことである。ブルームが発生するのを防ぐ油脂であるか否かは、それをココアバターで置き換えたときとの比較により、容易に判別できる。具体的には、パーム油等の分画軟質部や大豆油等の液状油をトランス異性化硬化して得られるトランス酸型油脂、ヤシ油、パーム核油、ババス油のようなラウリン酸基を多く含むグリセリドからなる油脂及びその分画油より得られるラウリン酸型油脂、1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(SSU)といった非対称型グリセリドや、それを2−不飽和脂肪酸−1,3−ジ飽和脂肪酸のトリグリセリドといったSUS型のグリセリドと共存させた油脂などである。
【0039】
ノンテンパー型油脂の配合量は、チョコレート中に20〜45質量%であることが好ましく、25〜40質量%であることがより好ましい。トレハロースの配合量は、チョコレート中に0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。マルトースの配合量は、チョコレート中に0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。また、トレハロース及びマルトースを配合させる場合、その合計配合量は、チョコレート中に0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましい。
【0040】
また、チョコレートには、本発明の作用効果を害しない範囲で、呈味材を配合してもよい。呈味材としては、例えばナッツ類の粉砕物、果汁パウダー、果物凍結乾燥チップ、コーヒーチップ、キャラメル、抹茶、カカオニブ、膨化型スナック食品、ビスケットチップ、キャンディーチップ、チョコレートチップ、ドライフルーツ、又はマシュマロなどが用いられる。なお、以下、「チョコレート」は、呈味材を含む場合はそれを含む意味であるものとする。
【0041】
本発明の焼成複合菓子は、上記に説明した水系柔軟性食品素材とチョコレートとを用いて、それらが接合され、所定形状に成形されていて、少なくともその表面の全部または一部が焼成されていることを特徴とする。
【0042】
また、本発明の焼成複合菓子の製造方法は、上記に説明した水系柔軟性食品素材とチョコレートとを用いて、それらを接合し、所定形状に成形して、少なくともその表面の全部または一部を焼成することを特徴とする。
【0043】
ここで、「少なくともその表面の全部または一部が焼成されている」又は「少なくともその表面の全部または一部を焼成する」とは、焼成によるエネルギーが複合菓子の全体もしくはその一部に伝達するようにして、少なくともチョコレート全体もしくはその一部の食感がその焼成によりが変化をきたすようにすればよく、また、「それらが接合され、所定形状に成形されていて」又は「それらを接合し、所定形状に成形して」とは、焼成複合菓子が少なくともそのような焼成履歴を経ることができる形状であればよい。その焼成の程度は、所望の食感となるように適宜設定することができ、接合や成形の形態にも特に制限はない。
【0044】
本発明による焼成複合菓子においては、チョコレートに対する水系柔軟性食品素材の質量比が90:10〜55:45であることが好ましく、85:15〜55:45であることがより好ましく、80:20〜60:40であることが更により好ましい。チョコレートに対する水系柔軟性食品素材の質量比がこの範囲未満であると、水系柔軟性食品素材がチョコレート部分の食感に与える影響が乏しくなる傾向となり、好ましくない場合がある。チョコレートに対する水系柔軟性食品素材の質量比がこの範囲を超えると、水系柔軟性食品素材によってチョコレート部分の食感に経時的な変化が生じやすくなる傾向となり、好ましくない場合がある。
【0045】
本発明による焼成複合菓子の大きさは、適宜設定すればよいが、焼成後の大きさにして、最小径あるいは短辺の長さが0.5〜5.0cmとなるようにすることが好ましく、1.0〜2.5cmとなるようにすることがより好ましい。大きさが上記範囲未満であると成形し難くなる傾向があるので好ましくない。また、大きさが上記範囲を超えると自重により、焼成時の保形性の確保が難しくなる傾向があるので好ましくない。
【0046】
チョコレートと水系柔軟性食品素材との接合や、その成形方法としては、例えば、モールド成形により、モールド(型)内に、チョコレートによってシェル、水系柔軟性食品素材によってセンター、チョコレートによってボトムを、順次作製する方法、押出成形により、押出成形装置の二重ノズルから、その内側ノズルからは水系柔軟性食品素材を、その外側ノズルからはチョコレートを、それぞれ押し出し、所定形状になるように切断する方法、被覆成形により、所定形状にした水系柔軟性食品素材をエンロバーなどを用いてチョコレートでコーティングする方法、ワンショットデポジターを用いて、外側ノズルからチョコレートの押出しを開始した後、内側ノズルから水系柔軟性食品素材の押出しを行い、内側ノズルからの押出しを終了した後、外側ノズルからの押出しを終了させる方法等を採用することができる。このうち特に押出成形装置による製造が好ましい。これによれば、効率的に製造することができ、生産コストを抑えることができる。
【0047】
チョコレートと水系柔軟性食品素材との接合や、その成形方法の好ましい形態としては、例えば、図1に示すように、チョコレート11と水系柔軟性食品素材12とを、それぞれ所定の厚みを有する上下2層に積層して、所定長さで切断し、焼成して、全体として略直方体の形状をなすようにした焼成複合菓子10aや、あるいは、図2に示すように、水系柔軟性食品素材12を棒状あるいは略直方体の形状にして内側にし、その外周を覆うようにチョコレート11を外側にして、それぞれ所定の厚みを有する内外2層に形成して、所定長さで切断し、焼成し、全体として略直方体の形状をなすようにした焼成複合菓子10bなどが挙げられる。
【0048】
なお、水系柔軟性食品素材は、ペクチン等のゲル化剤によりゲル状にセットしたゼリーの粉砕流動物であったり、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等の増粘剤によって適度な粘度に調製されたソースであったりすることができる。これによれば、上記押出成形機等への機械適性が良好で、チョコレートへの接合や、所定形状への成形が成し易い。なお、本発明において「ゲル状にセットしたゼリーの粉砕流動物」または「ゲル状にセットしたペクチンゼリーの粉砕流動物」とは、ペクチンゼリー等のゼリーを、ゲル強度0.1〜50.0N程度に一旦ゲル状に調製し、そのゲル状に調製したゼリーを、好ましくは長径0.1〜5.0mm程度の大きさの細片を一部残存する程度、好ましくはゼリー全体の5〜50質量%程度残存する程度に潰して流動性をもたせた状態のものをいう。その際のゲル強度及び破断距離は以下のように測定した値である。
【0049】
(ゲル強度及び破断距離の測定)
レオメーター(例えばサン科学製:CR−500DX)を用いて、プランジャー直径10mm、移動速度40mm/分、進入距離20mmの条件で圧縮試験を行い、ゲルが破断したときの破断強度(N)を意味する。
【0050】
焼成は、オーブン、シュバンクバーナー、ガスバーナー、電子レンジなどを用いて行うことができる。焼成条件は、用いる装置の能力、特性に応じ、適宜調整すればよい。その調整によって、例えば、チョコレートからなる外層の表層が手で持ったときにべとつかない程度に焼成により熱変性しているようにすることが好ましい。また、水系柔軟性食品素材の食感や風味等ができるだけ維持されるようにすることが好ましい。オーブンの場合には、250〜400℃、好ましくは250〜350℃で10〜60秒間などが典型的である。焼成後には、送風等による強制冷却を行うことにより、除熱してもよい。なお、手で持ったときにべとつかないかどうかは、通常菓子をつまむ程度の力で表面を触り、チョコレートが手指に付着するか否かにより判断することができる。
【実施例】
【0051】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
<調製例1>(HMペクチン 水分25%)
表1に示す配合で、HMペクチンを使用したペクチンゼリーを調製した。具体的には、HMペクチン1質量部を水20質量部に分散し、加熱溶解させた。更に砂糖35質量部、果糖ぶどう糖液糖25質量部、グリセリン15質量部を投入し、加熱溶解させた。最終水分が25質量%になるように調整し、色素0.1質量部、フレーバー0.2質量部、50%クエン酸液1質量部を投入した。冷却し、調製例1のペクチンゼリーを得た。
【0053】
【表1】
【0054】
<調製例2>(HMペクチン 水分15%)
水の配合を調整して最終水分を15質量%とした以外は調製例1と同様にして、調製例2のペクチンゼリーを得た。
【0055】
<調製例3>(HMペクチン 水分35%)
水の配合を調整して最終水分を35質量%とした以外は調製例1と同様にして、調製例3のペクチンゼリーを得た。
【0056】
<調製例4>(LMペクチン 水分25%)
表2に示す配合で、LMペクチンを使用したペクチンゼリーを調製した。具体的には、LMペクチン1質量部を水20質量部に分散し、加熱溶解させた。更に砂糖35質量部、果糖ぶどう糖液糖25質量部、グリセリン15質量部、第三リン酸カルシウム0.1質量部を投入し、加熱溶解させた。最終水分が25質量%になるように調整し、色素0.1質量部、フレーバー0.2質量部、50%クエン酸液1質量部を投入した。冷却し、ペクチンゼリーを得た。
【0057】
【表2】
【0058】
<調製例5>(含気チョコレート 比重0.9)
表3に示す配合で、含気チョコレートを調製した。具体的には、含気チョコレート生地の原料として、砂糖31質量部、トレハロース10質量部、ココアパウダー15質量部、全脂粉乳15質量部、ココアバター8質量部、植物油脂21質量部、レシチン0.5質量部、フレーバー0.05質量部を配合し、常法に従い、混合、リファイニング、コンチングの処理を行って、チョコレート生地を得た(20℃での固体脂含量(SFC)の値は10%)。このチョコレート生地を、加圧式のミキサーにて2気圧下で所定時間撹拌し、比重0.9の含気チョコレートを調製した。
【0059】
【表3】
【0060】
<調製例6>(チョコレート 比重1.2)
含気しない以外は調製例5と同様にして、調製例6のチョコレート(比重1.2)を得た。
【0061】
<調製例7>(含気チョコレート 比重1.1)
含気を調整して比重1.1とした以外は調製例5と同様にして、調製例7の含気チョコレートを得た。
【0062】
<調製例8>(含気チョコレート 比重0.95)
含気を調整して比重0.95とした以外は調製例5と同様にして、調製例8の含気チョコレートを得た。
【0063】
<調製例9>(チョコレートソース)
表4に示す配合で、チョコレートソースを調製した。具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)3.0質量部を10℃以下の冷水25.0質量部に分散し、更にグリセリン15質量部、上記表3の配合で調製したチョコレート生地57質量部を混合し、冷却させ、チョコレートソースを得た。
【0064】
【表4】
【0065】
[製造例1]
調製例1のペクチンゼリーを、細片が一部残存する程度に潰して流動性をもたせた。そのペクチンゼリーを、調製例5の含気チョコレート3.5質量部に対し1.5質量部の割合になるように、含気チョコレートの内部に充填し、成形した。その形状としては、含気チョコレートからなる外層の外形が、およそ長さ2.5cm×幅1.7cm×高さ1.5cmの略直方体であり、その内層に含まれるペクチンゼリーの形状が、およそ長さ2.5cm×幅1.3cm×高さ0.6cmの略直方体形状であって、ペクチンゼリーの長さ・幅方向からなる側面は、含気チョコレートに覆われており、ペクチンゼリーの幅・高さからなる側面は、成形時の切断面であって、含気チョコレートに覆われていない形状に成形した。これをトンネル型オーブンに通して、焼成雰囲気温度350℃、焼成時間30秒の条件で焼成し、製造例1の焼成複合菓子を得た。なお、焼成後の形状としては、含気チョコレートからなる外層の外形が、およそ長さ2.8cm×幅2.0cm×高さ1.1cmに、その内層に含まれるペクチンゼリーの形状が、およそ長さ2.6cm×幅1.5cm×高さ0.5cmに、それぞれ収縮・変形していた。
【0066】
[製造例2]
調製例6の含気していないチョコレートを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例2の焼成複合菓子を得た。
【0067】
[製造例3]
調製例7の含気チョコレートを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例3の焼成複合菓子を得た。
【0068】
[製造例4]
調製例8の含気チョコレートを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例4の焼成複合菓子を得た。
【0069】
[製造例5]
調製例2のペクチンゼリーを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例5の焼成複合菓子を得た。
【0070】
[製造例6]
調製例3のペクチンゼリーを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例6の焼成複合菓子を得た。
【0071】
[製造例7]
調製例4のペクチンゼリーを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例7の焼成複合菓子を得た。(LMペクチンの実施例を追加しました。)
[製造例8]
調製例9のチョコレートソースを用いた以外は、製造例1と同様にして、製造例8の焼成複合菓子を得た。
【0072】
[製造例9]
使用する含気チョコレートとペクチンゼリーの質量比を、含気チョコレートを4.25質量部に、ペクチンゼリーを0.75質量部に、それぞれ変えた以外は、製造例1と同様にして、製造例9の焼成複合菓子を得た。
【0073】
[製造例10]
使用する含気チョコレートとペクチンゼリーの質量比を、含気チョコレートを2.75質量部に、ペクチンゼリーを2.25質量部に、それぞれ変えた以外は、製造例1と同様にして、製造例10の焼成複合菓子を得た。
【0074】
(評価)
製造例1〜10の焼成複合菓子の食感について評価した。その結果を、各菓子の構成とともに表5にまとめて示す。なお、表5に「○」又は「△」で示す評価は、下記評価結果を総合的にまとめたものであり、「○」は非常に良好であったことを示し、「△」はやや劣る面もあるが概ね良好であったことを示す。
【0075】
【表5】
【0076】
その結果以下のことが明らかとなった。
【0077】
(1)製造例1では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。
(2)製造例2では、表面付近は少し硬く、内部は軟らかい食感に焼き上がった。ただし、焼成時に若干焼きダレが生じ形状が少し歪になってしまった。表面付近が少し硬くなってしまったのは、チョコレートが含気されておらず、ペクチンゼリーからの水分がチョコレート部分に移行し難かったためであると考えられた。
(3)製造例3では、表面付近は少し硬く、内部は軟らかい食感に焼き上がった。ただし、焼成時に若干焼きダレが生じ形状が少し歪になってしまった。表面付近が少し硬くなってしまったのは、チョコレートの含気が少なく、ペクチンゼリーからの水分がチョコレート部分に移行し難かったためであると考えられた。
(4)製造例4では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。
(5)製造例5では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。なお、製造例1より食感変化の効果は小さかった。
(6)製造例6では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。ただし、ペクチンゼリーからの水分移行により食感に経時的な変化が生じやすい傾向があった。
(7)製造例7では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。
(8)製造例8では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。
(9)製造例9では、表面は少ししっとり、内部は少し軟らかい食感に焼き上がった。
(10)製造例10では、表面はしっとり、内部は軟らかい食感に焼き上がった。
図1
図2