(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、前記コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、前記金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における前記金属製密封容器に充填された前記不活性ガスの漏洩を検知する方法において、
前記金属製密封容器の底部の温度と前記外気の前記給気口における給気温度とを監視してそれらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたとき、あるいは、それらの実測温度データに連動する前記不活性ガスの漏洩に関連する物理量に変化が表れたときに、前記不活性ガスの漏洩があったものと判断する
ことを特徴とする放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法。
前記物理量は前記金属製密封容器の内底部近傍の前記不活性ガスの温度であり、前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度から前記不活性ガスの温度を推測し、前記給気温度の低下にも拘わらず、前記不活性ガスの温度が上昇する傾向がみられるときに前記不活性ガスの漏洩があったものと判断することを特徴とする請求項1記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法。
前記物理量は前記金属製密封容器の底部から前記外気に放出される熱流束であり、前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度との温度差に前記金属製密封容器の底面での熱伝達率を掛けて熱流束を求め、前記熱流束の変動が閾値熱流束変動よりも大きくなるときに、前記不活性ガスの漏洩があったものと判断することを特徴とする請求項1記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法。
前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を前記熱流束に加えることで、前記給気温度の変動に起因する前記熱流束の変動分を除外する補正を行うことを特徴とする請求項3記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法。
前記金属製密封容器の底部の温度は前記金属製密封容器の底部の中心の温度であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法。
遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、前記コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、前記金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における前記金属製密封容器に充填された前記不活性ガスの漏洩を検知する装置において、
前記金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、
前記外気の前記給気口における給気温度を測定する第2の温度センサと、
前記第1の温度センサと前記第2の温度センサとの測定温度を比較監視して、それらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたとき、あるいはそれらの実測温度データに連動する前記不活性ガスの漏洩に関連する物理量に変化が表れたときに前記不活性ガスの漏洩があったものと推定するガス漏洩推定手段とを備える
ことを特徴とする放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置。
前記ガス漏洩推定手段は、前記実測温度データに連動する前記不活性ガスの漏洩に関連する物理量を対象とし、該物理量は前記金属製密封容器の内底部近傍の前記不活性ガスの温度であり、前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度から前記不活性ガスの温度を推測し、前記給気温度の低下にも拘わらず、前記不活性ガスの温度が上昇する傾向がみられるときに前記不活性ガスの漏洩があったものと判断する
ことを特徴とする請求項6記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置。
前記ガス漏洩推定手段は、前記実測温度データに連動する前記不活性ガスの漏洩に関連する物理量を対象とし、該物理量は前記金属製密封容器の底部から前記外気に放出される熱流束であり、前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度との温度差に前記金属製密封容器の底面での熱伝達率を掛けて熱流束を求め、前記熱流束の変動が閾値熱流束変動よりも大きくなるときに、前記不活性ガスの漏洩があったものと判断する
ことを特徴とする請求項6記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置。
前記ガス漏洩推定手段は、前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を前記熱流束に加えることで、前記給気温度の変動に起因する前記熱流束の変動分を除外する補正を行うことを特徴とする請求項8記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置。
前記第1の温度センサは前記金属製密封容器の底部の中心の温度を測るものであることを特徴とする請求項6から9のいずれか1つに記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置。
遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、前記コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、前記金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における前記金属製密封容器に充填された前記不活性ガスの漏洩を検知するガス漏洩検知プログラムにおいて、
コンピュータに、前記金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、前記外気の前記給気口における給気温度を測定する第2の温度センサとから前記金属製密封容器の底部の温度TBと給気温度TINを読み込むデータ受部と、
前記金属製密封容器の底部の温度TBと前記給気温度TINを用いて前記金属製密封容器の内底部附近の前記不活性ガスの温度を算出する温度計算部と、
前記不活性ガスの温度と前記給気温度TINの変化を監視する温度変化監視部と、
前記給気温度TINが低下しても前記不活性ガスの温度が上昇するときにガス漏洩と判断するガス漏洩判定部として機能させるガス漏洩推定手段として機能させ、
ガス漏洩推定手段を実現させる放射性物質密封容器のガス漏洩検知プログラム。
遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、前記コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、前記金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における前記金属製密封容器に充填された前記不活性ガスの漏洩を検知するガス漏洩検知プログラムにおいて、
コンピュータに、前記金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、前記外気の前記給気口における給気温度を測定する第2の温度センサとから前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度を読み込むデータ受部と、
前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度及び空気側の熱伝達係数を用いて前記金属製密封容器の底部から外の空気に伝わる熱流束を算出する熱流束計算部と、
前記金属製密封容器の初期内圧と監視期間時の発熱量よりガス漏洩を判断する閾値熱流束変動を算出する閾値熱流束計算部と、
前記熱流束の変動分を求めて監視対象として設定しその変化を監視する熱流束変化監視部と、
前記閾値熱流束変動よりも前記熱流束変動が大きくなったときにガス漏洩と判定するガス漏洩判定部として機能させ、
ガス漏洩推定手段を実現させる放射性物質密封容器のガス漏洩検知プログラム。
前記コンピュータに、前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を前記熱流束計算部で算出した前記熱流束の変動に加えることで、前記給気温度の変動に起因する熱流束変動を除外する補正を行い、前記給気温度の変動の影響を除いた熱流束変動を算出する熱流束変動計算部をさらに機能させることを特徴とする請求項13記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、引用文献1記載の発明は、コンクリート容器内に収められたキャニスタの頂部と底部との上下2箇所の温度を図る必要があるために、キャスク頂部と底部との2点に熱電対を取り付ける工事を施工しなければならず、工事が容易ではない。なかでも、キャニスタの底部に熱電対を直接取り付ける工事は、コンクリートキャスクの給気口の構造によっては施工し難いものとなる。
【0008】
また、金属製キャニスタに対して熱電対のような温度センサを直接接触するように設置する場合には、金属キャニスタの腐食(異種金属の接合に起因する異種金属接触腐食)や、温度センサ・熱電対の放射線による損傷・劣化を伴う問題がある。
【0009】
キャニスタの底部の温度は給気温度(外気温度)に影響を受け易い(左右されやすく)のに対し、キャニスタの頂部の温度は給気温度の影響を受け難いといった特性を有している。
【0010】
そこで、キャニスタの頂部あるいは底部のいずれか一方での測定で、尚且つキャニスタに対し非接触での測定により、ヘリウムガスなどの不活性ガスの漏洩の有無を検出することができる手法の開発が望まれる。
【0011】
本発明は、かかる要望に応えるものであり、キャニスタ底部温度と給気温度との計測データのみを利用し、キャニスタに対し温度センサの取り付け施工が簡単な放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法及び装置並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた
給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における金属製密封容器に充填された不活性ガスの漏洩を検知する方法において、金属製密封容器の底部の温度
と外気の給気口における給気温度とを監視
してそれらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたとき、あるいは
、それらの実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量に変化が表れたときに、不活性ガスの漏洩があったものと判断するようにしている。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法において、ガス漏洩推定手段の監視対象を実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量とし、該物理量が金属製密封容器の内底部近傍の不活性ガスの温度であり、金属製密封容器の底部の温度と給気温度から不活性ガスの温度を推測し、給気温度の低下にも拘わらず、不活性ガスの温度が上昇する傾向がみられるときに不活性ガスの漏洩があったものと判断するようにしている。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法において、ガス漏洩推定手段の監視対象を実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量とし、該物理量が金属製密封容器の底部から外気に放出される熱流束であり、金属製密封容器の底部の温度と給気温度との温度差に金属製密封容器の底面での熱伝達率を掛けて熱流束を求め、熱流束の変動が閾値熱流束変動よりも大きくなるときに、不活性ガスの漏洩があったものと判断するようにしている。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法において、前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を熱流束に加えることで、給気温度の変動に起因する熱流束の変動分を除外する補正を行うるようにしている。
【0016】
また、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法において、金属製密封容器の底部の温度は金属製密封容器の底部の中心の温度であることを特徴としている。
【0017】
また、請求項6記載の発明は、遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた
給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における金属製密封容器に充填された不活性ガスの漏洩を検知する装置において、金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、
外気の給気口における給気温度を測定する第2の温度センサと、第1の温度センサと第2の温度センサとの測定温度を比較監視して
、それらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたとき、あるいはそれらの実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量に変化が表れたときに不活性ガスの漏洩があったものと推定するガス漏洩推定手段とを備えるようにしている。
【0018】
また、請求項7記載の発明は、請求項6記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置において、ガス漏洩推定手段の監視対象を実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量とし、該物理量が金属製密封容器の内底部近傍の不活性ガスの温度であり、金属製密封容器の底部の温度と給気温度から不活性ガスの温度を推測し、給気温度の低下にも拘わらず、不活性ガスの温度が上昇する傾向がみられるときに不活性ガスの漏洩があったものと判断するようにしている。
【0019】
また、請求項8記載の発明は、請求項6記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置において、ガス漏洩推定手段の監視対象を実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量とし、該物理量は前記金属製密封容器の底部から前記外気に放出される熱流束であり、前記金属製密封容器の底部の温度と前記給気温度との温度差に前記金属製密封容器の底面での熱伝達率を掛けて熱流束を求め、前記熱流束の変動が閾値熱流束変動よりも大きくなるときに、前記不活性ガスの漏洩があったものと判断するようにしている。
【0020】
また、請求項9記載の発明は、請求項8記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置において、ガス漏洩推定手段が、前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を熱流束に加えることで、給気温度の変動に起因する熱流束の変動分を除外する補正を行うようにしている。
【0021】
また、請求項10記載の発明は、請求項6から9のいずれか1つに記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置において、第1の温度センサが金属製密封容器の底部の中心の温度を測るようにしている。
【0022】
さらに、請求項11記載の発明は、請求項6から9のいずれか1つに記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置において、第1の温度センサが、金属製密封容器の給気口から挿入され且つ金属製密封容器の底部に向けて昇降可能なリフターに搭載された金属板の金属製密封容器の底部とは対向しない反対側の裏面に取り付けられ、金属製密封容器の底部に金属板を押し当てて金属板の裏面温度を測るようにしている。
【0023】
また、請求項12記載の発明は、遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた
給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における金属製密封容器に充填された不活性ガスの漏洩を検知するガス漏洩検知プログラムにおいて、コンピュータに、金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、
外気の給気口における給気温度を測定する第2の温度センサとから金属製密封容器の底部の温度T
Bと給気温度T
INを読み込むデータ受部と、金属製密封容器の底部の温度T
Bと給気温度T
INを用いて金属製密封容器の内底部附近の不活性ガスの温度を算出する温度計算部と、不活性ガスの温度と給気温度T
INの変化を監視する温度変化監視部と、給気温度T
INが低下しても不活性ガスの温度が上昇するときにガス漏洩と判断するガス漏洩判定部として機能させるガス漏洩推定手段として機能させ、ガス漏洩推定手段を実現させるようにしている。
【0024】
また、請求項13記載の発明は、遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器と、使用済燃料と不活性ガスとを収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器とで構成され、コンクリート製貯蔵容器の上下に設けた
給気口と排気口とを通じて外気を自然対流させることにより、金属製密封容器内の使用済燃料の崩壊熱を除去する放射性物質密封容器における金属製密封容器に充填された不活性ガスの漏洩を検知するガス漏洩検知プログラムにおいて、コンピュータに、金属製密封容器の底部の温度を測定する第1の温度センサと、
外気の給気口における給気温度を測定する第2の温度センサとから金属製密封容器の底部の温度と給気温度を読み込むデータ受部と、金属製密封容器の底部の温度と給気温度及び空気側の熱伝達係数を用いて金属製密封容器の底部から外の空気に伝わる熱流束を算出する熱流束計算部と、金属製密封容器の初期内圧と監視期間時の発熱量よりガス漏洩を判断する閾値熱流束変動を算出する閾値熱流束計算部と、熱流束の変動分を求めて監視対象として設定しその変化を監視する熱流束変化監視部と、閾値熱流束変動よりも熱流束変動が大きくなったときにガス漏洩と判定するガス漏洩判定部として機能させ、ガス漏洩推定手段を実現させるようしている。
【0025】
また、請求項14記載の発明は、請求項13記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知プログラムにおいて、コンピュータに、前記給気温度の変動分に係数αをかけて算定される熱流束を熱流束計算部で算出した熱流束の変動に加えることで、給気温度の変動に起因する熱流束変動を除外する補正を行い、給気温度の変動の影響を除いた熱流束変動を算出する熱流束変動計算部をさらに機能させるようにしている。
【発明の効果】
【0026】
請求項1及び6記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法及び装置によれば、金属製密封容器の底部周辺の温度情報のみで金属製密封容器からの充填ガス例えばヘリウムガスの漏洩を判断することができるので、温度センサの取り付け施工が金属製密封容器の底部側の1箇所で済み、金属製密封容器の頂部と底部との2箇所にそれぞれ熱電対を取り付ける場合に比べて工事が簡易なものとなる。
【0027】
また、請求項2,3、7,8,12及び13記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法及び装置並びにプログラムによれば、ガス漏洩時に必ず上昇する金属製密封容器内の底部近傍の不活性ガスの温度あるいはそれに起因する熱流束を求めてガス漏洩の判断を行うようにしているので、これらが高くなる兆候があれば、明らかな異変、すなわち漏洩を疑う決定的な根拠となると共に、金属製密封容器底部温度に対する給気温度の変動の影響を除外することが容易となる。このため、金属製密封容器底部温度の上昇量が少なく給気温度の変動との差分が小さい場合、例えば、ガス漏洩に伴う圧力変化が0.5気圧程度と少ない場合でも、ガス漏洩の判断ができる。
【0028】
また、請求項4、9及び14記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法及び装置並びにプログラムによれば、健全状態での統計処理において、給気温度T
INの変動に係数をかけたものを熱流束に加えて給気温度T
INの変動分を熱流束から差し引く補正をしているので、給気温度T
INの変化が大きいために熱流束の変動が大きくなっても、この給気温度由来の熱流束の変動の影響が除外されて正確な漏洩の判断を下すことができる。
【0029】
また、請求項5及び10記載の放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法及び装置によれば、ガスのリーク時における金属製密封容器の底部の温度変化は中心ほど大きく変化することから、検出感度が良好なものとなる。
【0030】
また、請求項11記載の発明によると、金属製密封容器の底部温度を測定する第1の温度センサは、金属板を介在させて金属製密封容器の底面に当接させ、金属板の裏面温度を測定して金属製密封容器の底部温度の代替としているので、温度センサが受ける放射線(γ線)の影響を抑えることができ、温度センサの劣化を防ぐことができる。しかも、金属板の裏面温度を金属製密封容器の底部温度の代替として用いても、不活性ガスの漏洩検知において遜色ない。また、金属製密封容器の底部にアクセス容易な給気流路を有するコンクリートキャスクにおいて、給気口からリフターを挿入するといった簡単な作業で、金属製密封容器の底部に温度センサを配置できるので温度センサ取り付け作業が容易である。また、温度センサのメンテナンス・交換が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0033】
図1に本発明にかかる放射性物質密封容器のガス漏洩検知装置の実施の一形態を示す。この実施形態にかかる放射性物質密封容器は、コンクリート製乾式キャスクあるいは単にコンクリートキャスクと呼ばれるものであり、その形式には特に拘るものではないが、例えば
図1に示すように、遮蔽機能を有する非密封型のコンクリート製貯蔵容器(以下、単にコンクリート容器と呼ぶ)2と、使用済燃料を収納して溶接により密封する構造の金属製密封容器(以下、単にキャニスタと呼ぶ)1とにより構成されており、コンクリート容器2の上下に設けた空気の流通口(給気口7および排気口8)を通じて外気5を自然対流させることによりキャニスタ1内の使用済燃料の崩壊熱が効率的に除去される構造とされている。尚、図中の符号3はコンクリート容器2の蓋部(以下、単にコンクリート蓋と呼ぶ)、4はリフター付き移動型温度計、5は外気、6はキャニスタ1を支える支持脚、9は流路である。
【0034】
ここで、キャニスタ1は、一般に金属製、例えばステンレス鋼製であり、溶接により円筒状の密封容器を構成する。このキャニスタ1は、一般に二重蓋とされ、放射性物質を収容した容器の中及び内側の蓋と外側の蓋との間に不活性ガスを充填して溶接で密封されているが、場合によっては一つの蓋で構成されることもある。
【0035】
キャニスタ1に封入するガスとしては例えばヘリウム(He)の使用が好ましい。ヘリウムは、空気よりも熱伝導率の高い不活性ガスであり、負圧でも本発明は実施可能であるが、正圧にすることで放射性物質の熱をキャニスタ1に伝えて除熱する性能を高めうる。また、ヘリウムによる除熱性能を高めるためにより高い圧力に保つこともある。例えば米国で実施されている例では8気圧程度に保たれている。因みに、充填ガスは必ずしもヘリウムガスに限定されるものではなく、空気よりも熱伝導率の高い他の不活性ガスが用いられることもある。この場合には、採用された不活性ガスが検出の対象物になる。
【0036】
尚、放射性物質貯蔵容器の構造、形状、材質等は本実施形態の例に限定されず、必要機能を満たすものを適宜選択可能である。例えば、コンクリートキャスクの構造は、
図2(A)に示す鉄板(充填コンクリート:CFS)製コンクリートキャスクであったり、
図2(B)に示す低圧損蓋を使用したCFS製コンクリートキャスクであったり、
図2(C)に示す鉄筋コンクリート(RC)製コンクリートキャスクであっても良い。また、給気口の形態も、
図2(A)及び(B)に示すような階段型であっても、
図2(C)に示すような十字溝型であっても良い。十字溝型の給気口7は、コンクリート容器2の底部を径方向に互いに直交させて直線的に貫通(横切る)する十字型溝16とその交差部で中心部に設けられた縱穴17とで構成され、縦穴17部分からキャニスタ1の底面が覗けるもので、コンクリート容器2の内部の流路9と縱穴17部分を介して接続されるものである。また、コンクリート容器2に導入される冷却流体としては、外気をそのまま流入させるようにしているが、場合によっては、一定の温度域や湿度に調整した空気または空気以外の冷却ガスを送り込むようにしても良い。
【0037】
ここで、十字溝型の給気口7を備えるコンクリートキャスクの場合には、
図1(A)に示すように、リフター付き移動型温度計4を給気口7を利用して挿入することにより、キャニスタ1を収容したコンクリート容器2内の所定の位置に後から第1及び第2の温度センサ13,14を配置させることが簡単にできる。また、階段状の給気口7を備えるタイプのコンクリート容器2の場合には、リフター付き移動型温度計4でのキャニスタ底部へのアクセスが難しいことから、
図1(B)に示すように、コンクリートキャスクの製作時に、予め中心部まで貫通する測定通路18を形成しておくことが望ましい。これにより、リフター付き移動型温度計4を測定通路18を経て挿入し、中央においてリフター11を操作して金属板10及び第1の温度センサ13を上昇させることにより、キャニスタ底面1
Bに押し当てることができる。温度センサ、特に第1の温度センサ13をリフター付き移動型温度計4として構成すれば、たとえ、放射線で温度センサ13が劣化してもリフター11を操作するだけで第1の温度センサ13がキャニスタ底部1
Bから取り外せるので、第1の温度センサ13が故障したときの交換作業が容易なものとなる。勿論、第1及び第2の温度センサ13,14は、リフター付き移動型温度計4として構成する必要はなく、例えば単独の(言い換えると、各々独立した)温度センサとしてキャニスタ底面1
B及び給気口7に別々に予め固定配置するようにしても良い(図示省略)。
【0038】
リフター付き移動型温度計4は、例えば、伸縮可能なコイルやばね、あるいはパンタグラフ式伸縮機構や流体圧伸縮機構などから成るリフター(昇降機構)11に第1の温度センサ13を裏面(キャニスタ底部1
Bとは対向しない反対側の面)に貼着した金属板10を搭載して、リフター11の昇降・伸び縮みによって第1の温度センサ13を貼着した金属板10をキャニスタ底面1
Bに押しつけたり、キャニスタ底面1
Bから引き離したりするように設けられている。このリフター11は、給気口7から挿入した場合、キャニスタ底部1
Bの真下に到達できる十分な長さ(例えば約2m)のロッド12の先端に設置してある。また、第2の温度センサ14はロッド12の後端側寄りの部分に備え付けられ、ロッド12の先端側のリフター11をキャニスタ底部中央の真下にまで送り込んだときに、給気口7の入り口付近に第2の温度センサ14が配置されて給気口7の入り口付近に近い部分で給気温度T
INが計測されるように設けられている。さらに、ロッド12の先端の下側には、車輪あるいはボールなどの転動体15を備え、ロッド12を含むリフター11、金属板10及び第1の温度センサ13が容易に移動(出し入れ)可能に設けられている。そして、ロッド12の手元に備えられた出し入れ用の操作手段(図示省略)によって、リフター11の昇降が図られる。かかる構成のリフター付き移動型温度計4によれば、ロッド12を使って先端のリフター11をキャニスタ底部中心下に送り込み、リフター11を上昇させて金属板10・第1の温度センサ13をキャニスタ底部1
Bに押し当てることにより、キャニスタ底部温度T
Bと給気口7での給気温度T
INとを同時に測定することができる。
【0039】
ここで、第1の温度センサ13は、キャニスタ底面1
Bの径方向中心の温度を測定することが好ましい。不活性ガスの漏洩が生じた場合のキャニスタ底部における温度変化は、底面1
Bの中心位置において最も大きい。したがって、キャニスタ底面1
Bの中心位置における温度を監視することで、検知感度をより向上でき、更に信頼性の高いガス漏洩検知を行うことができると期待される。しかしながら、第1の温度センサ13は、キャニスタ底面1
Bの径方向中心の温度を測定することに特に限られるものではなく、中心から離れた位置、例えばキャニスタ底面1
Bの縁寄りの位置に配置されてキャニスタ底面1
Bの径方向中心から離れた位置の温度変化を検出するようにしても良い。
【0040】
各温度センサ13,14としては、例えば熱電対もしくはサーミスターのような温度計測手段を使うことが好ましい。この場合、構造が簡単で且つ安価であるといったメリットの他に、構造が簡単なので長期間にわたって壊れ難く安定的に作動することが期待できる。これら2つの温度センサ13,14は温度計測装置19に電気的に接続されて、ゼーベック効果による熱起電力を利用して温度の測定が行われる。
【0041】
尚、第1の温度センサ13は、不活性ガスの漏洩検知感度をより高める上ではキャニスタ底面1
Bに直接押しつける(言い換えると、直接接触させる)ことによってキャニスタ底部温度T
Bを直接測ることが望ましい。しかしながら、放射線による損傷・劣化を伴う問題があることから、第1の温度センサ13は、キャニスタ底部1
Bに直接押しつけられる金属板10の裏面(即ち、キャニスタの底部とは対向しない反対側の面)に配置して金属板10の裏面温度T
BIを測定するように設けられている。この場合には、金属板10が保護カバーとなって放射線例えばγ線などが遮蔽されることで、第1の温度センサ13の放射線による損傷を防ぐことができる。しかも、金属板10は熱伝導率が良く、金属板10の裏面温度T
BIはキャニスタ底部温度T
Bとほぼ同じ値になることから、キャニスタ底部温度T
Bを直接測定する場合に比べても遜色がない。しかしながら、このことは、キャニスタ底部温度T
Bそのものを直接測定することを否定しているものではない。勿論、キャニスタ底部1
Bに第1の温度センサ13を直接接触させてキャニスタ底部温度T
Bを直接測るようにしても良く、或いは、金属板を介在させたり非接触式温度計を用いたりなどして、キャニスタ底部温度T
Bを間接的に若しくは非接触で測定するようにしても良い。
【0042】
この竪型のコンクリートキャスクにおいて、本発明にかかるガス漏洩検知装置は、キャニスタ底部温度T
Bを測定する第1の温度センサ13と、キャニスタ1とコンクリート容器2との間を通過する外気の給気温度(入口での温度。言い換えると、冷却空気として流入する外気の、給気口7における温度)T
INを測定する第2の温度センサ14と、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとを監視してそれらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたとき、あるいは、それらの実測温度データに連動する(言い換えると、それらの実測温度データが用いられて算定される)不活性ガスの漏洩に関連する物理量に変化が表れたときに不活性ガスの漏洩があったものと推定するガス漏洩推定手段21とを備えるようにしている。
【0043】
ここで、前者のキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたときとは、例えば
図12あるいは
図10に示すように、不活性ガスとしてのヘリウムの漏洩開始後に給気温度T
INの下降に拘わらずキャニスタ底部温度T
Bが上昇し始める、あるいは給気温度T
INの下降に追従せずに(ほぼ温度変化を起こさずに時間軸を平行移動し)温度維持を図ってから、その後給気温度との差をだんだんと広げて行くなどの挙動を示す場合である。つまり、キャニスタ底部温度T
Bの有意な上昇(給気温度T
INの日変動に単に追従しているだけでない温度上昇)に伴って、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの間の温度差が時間経過と共に拡大し、尚且つその温度差が保たれる傾向を示すときに、不活性ガスの漏洩があったものと判断できる。したがって、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを比較監視することにより、それらの間の温度差が増大した(温度差が有意な変動である)ことを示す視覚的情報から、キャニスタからヘリウムなどの不活性ガスが漏洩したことを直感的に知ることができる。
【0044】
他方、後者のキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの2つの実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量とは、例えば、キャニスタ内部の底面に近い位置での不活性ガスとしてのヘリウムの温度T
H、あるいは、キャニスタ底面から空気(即ち、キャニスタ底面下方の雰囲気。具体的には、コンクリート容器との間に存在する冷却空気)に放出される熱流束q
3である。これら物理量を求め、その変化を利用してガス漏洩を判断する場合には、キャニスタ底部温度T
Bに対する給気温度T
INの変動の影響を除外することが容易となるので、キャニスタ底部温度T
Bの上昇量が少ない場合にも有用である。例えば、ケース1やケース3のように圧力変化が0.5気圧程度である場合には、ガス漏洩時のキャニスタ底部温度T
Bの変化と給気温度T
INの変動との差分が大きくないので、判断し難い場合がある。このような場合には、後者のキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの2つの実測温度データに連動する(言い換えると、2つの実測温度データが用いられて算定される)不活性ガスの漏洩に関連する物理量を求める手法が適用し易い。
【0045】
以下に、本発明者が行った、放射性物質密封容器における不活性ガスとしてのヘリウムガスの漏洩が惹起するキャニスタ底部周辺温度への影響についての実験とその結果を説明すると共にガス漏洩推定手法について説明する。
【0046】
まず、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとを監視してそれらの実測温度データ間の相関性に有意な変化が表れたときに不活性ガスの漏洩があったものと推定することが可能であることについて説明する。
【0047】
<実験>
(1)ヘリウム漏洩試験条件
実物大コンクリートキャスク模型を用いたキャニスタからのヘリウムリーク試験を行った。リーク試験で使用したキャスク構造を
図2(A),(B),(C)に示す。また、試験条件を表1に示す。
【表1】
【0048】
<ケース1>
図2(A)に示す構造のコンクリートキャスクのキャニスタ1に開閉可能なバルブ(図示省略)を設け、そのキャニスタ1内に、原子炉使用済燃料棒を模擬する電気ヒータ(図示省略)を収容し、大気圧レベル(ゲージ圧力で0kPa)でヘリウムガスを充填した。そして、電気ヒータの発熱によって使用済燃料棒からの実際の発熱が再現されるように調整し、コンクリートキャスクにおける使用済原子燃料の初期貯蔵状態(発熱量22.6kW)を模擬した。電気ヒータの発熱によりキャニスタ1の内圧は上昇し、ゲージ圧力で56kPaで定常状態となった。その後、
図2(A)に示す3箇所の測定点にそれぞれ設置してある熱電対によって、キャニスタ頂部温度T
T,キャニスタ底部温度T
B ,給気温度T
INを継続的に測定した。更にその後、キャニスタ1に設けたバルブを緩めて急激にヘリウムガスを漏洩させ、2日かけて50kPa減圧し、4日後にキャニスタ1の内圧が大気圧レベル程度となるまで減圧した。尚、貯蔵する使用済み核燃料の発熱量即ち崩壊熱量は、貯蔵期間と貯蔵燃料の種類が分かれば、解析コードを用いて簡単に計算できる値である。したがって、貯蔵期間に応じて、崩壊熱計算を行うと、発熱量を得ることができる。つまり、貯蔵する燃料の種類が分かれば、貯蔵期間に応じて崩壊熱計算により発熱量を得ることができる。そして、発熱量が計算できるので、キャニスタ内の温度即ちヘリウム温度が求められる。因みに、コンクリートキャスクのタイプ、貯蔵期間、初期内圧の値は、貯蔵管理上、実際に即して設定可能な数値である。
【0049】
<ケース2>
また、
図2(B)に示す構造のコンクリートキャスク(蓋の構造がケース1とは低圧損蓋である点で異なる)のキャニスタ1に同様にヘリウムガスを充填して、キャニスタ1の内圧を上昇させてゲージ圧力で151kPaで定常状態とし、
図2(B)に示す3箇所の測定点の温度即ち、キャニスタ頂部温度T
T,キャニスタ底部温度T
B ,給気温度T
INを継続的に測定した。キャニスタ1の内圧はヘリウムガスを急激に漏洩させて約1日で大気圧レベル程度となるまで減圧した。
【0050】
<ケース3>
また、ケース1及び2とは給気口の形状が異なる
図2(C)に示す構造のコンクリートキャスクのキャニスタ1に同様にヘリウムガスを充填して、キャニスタ1の内圧を上昇させてゲージ圧力で59kPaで定常状態とし、
図2(C)に示す3箇所の測定点の温度即ち、キャニスタ頂部温度T
T,キャニスタ底部温度T
B ,給気温度T
INを継続的に測定した。キャニスタ1の内圧はヘリウムガスを急激に漏洩させて2〜3時間で大気圧レベル程度となるまで減圧した。
【0051】
(2)ヘリウム漏洩試験結果
各測定点における温度測定結果を
図3から
図14に示す。
(i) まず、
図3〜
図8において、ケース1からケース3でのキャニスタ頂部温度T
Tとキャニスタ底部温度T
B のキャニスタ1の内部圧力との関係並びにキャニスタ頂部温度T
Tとキャニスタ底部温度T
B の給気温度T
INとの関係を説明する。いずれのケースにおいても、ヘリウム漏洩直後(横軸の0が漏洩開始時点)から、キャニスタ頂部温度T
Tは下降し、キャニスタ底部温度T
B は上昇した(
図3,
図5,
図7)。また、
図4、
図6及び
図8に示すように、キャニスタ1の底部は給気口7から流入する外気・冷却空気の影響を大きく受け、キャニスタ底部温度T
B が給気温度T
INの日変動に追従して変化したことが判明した。そして、コンクリートキャスクの構造が異なっても、程度の差こそあれ、同じ傾向を示した。因みに、ヘリウムガスの内圧を大きくしたケース2においては、ヘリウム漏洩・圧力変化がキャニスタ頂部温度T
T及びキャニスタ底部温度T
B に与える影響は大きく表れた。
【0052】
(ii)
図9〜
図14は、キャニスタ内圧およびキャスクの種類が異なる場合のガス漏洩時(横軸の0が漏洩開始時点)のキャニスタ底部温度T
Bの温度変化を示したものである。キャニスタ底部温度T
Bは、給気口の近傍であるため、給気温度T
INの日変動の影響を大きく受けることが分かる。また、キャニスタの熱容量が大きいことから、空気からキャニスタ表面に温度が伝わる際に減衰するため、キャニスタ底部温度T
Bの温度変動幅は、給気温度T
INの変動幅の約1/2となっている。
【0053】
(iii) 以上の実験結果から、キャニスタ底部温度T
Bだけを監視することにより、キャニスタ1内で何かが起きているということはわかるものの、それがヘリウム漏洩であると確信を以て断言することは難しい。しかし、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとを比較監視することにより、ヘリウムガス漏洩前にはキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの温度変動が僅かの遅れを伴ってほぼ重なっていたものが、キャニスタ1内からヘリウムの漏洩が生じたときに、キャニスタ内部の温度が上昇し始めると共にキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの間に温度差が生じ、尚且つその温度差(相対差)が時間経過と共に拡大し、さらにその後にはその温度差が保もたれる傾向を示すことが知見された(
図10及び
図12参照)。即ち、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの温度差が増大する要因は、キャニスタ1からのヘリウムガス漏洩であると推測される。この傾向は、明らかな異変、すなわちヘリウムガス漏洩を疑う根拠情報として利用できるものであって、
図14に示すように、流路形状の異なるキャスクを用いたケース3においても観られた。尚、表示装置25への画像表示は、各測定量の平均値を一致させたマルチ表示とすれば、両温度の差異(相対差)が拡大して行く傾向を複数のグラフの乖離状況として視覚的且つ直感的に容易に把握することができるが、これに特に限られるものではない。
【0054】
依って、例えば
図12や
図10に示すように、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを比較監視することにより、両者の温度差が増大する、言い換えると、温度差が有意に変動するときに、キャニスタからヘリウムが漏洩したものと判断できる。即ち、ヘリウム漏洩情報を取得できることが判明した。因みに、実験では、リフター11の先端に厚さ5mmの金属板(金属製保護カバー)10を設け、その裏面に熱電対・第1の温度センサ13を備えて、キャニスタ底部からの放射線(γ線)を直接受けることを回避しながらキャニスタ底部温度T
Bを測定した。この場合においても、金属板10は熱伝導性が良いことから、キャニスタ底部温度T
Bと金属板10の裏面温度T
BIとは、ほぼ同じ値となることが実験結果からも確認された。
【0055】
次に、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの2つの実測温度データに連動する(言い換えると、2つの実測温度データが用いられて算定される)不活性ガスの漏洩に関連する物理量を求めて、この物理量に変化からガス漏洩を判断する漏洩検知システムについて説明する。
【0056】
上述の漏洩検知システムは、ガス漏洩時のキャニスタ底部温度T
Bの上昇が大きく、温度変化からキャニスタ内に異常が生じたことを示す兆候として捉え易いコンクリートキャスク例えばキャニスタ内圧が高いケース2のようなコンクリートキャスクにおいては簡易な手法として好ましい。しかし、ケース1やケース3のように、圧力変化が0.5気圧程度と小さくガス漏洩時のキャニスタ底部温度T
Bの変化と給気温度T
INの変動との差分が大きくならないコンクリートキャスクの場合には、不活性ガス漏洩の判断が判断し難い場合がある。これはキャニスタ底部温度T
Bが給気温度T
INの変動に影響を受けていることに起因するものと思われる。そこで、不活性ガス漏洩を示す情報から給気温度T
INの変動の影響を除外することが望まれる。
【0057】
この給気温度T
INの変動の影響を除外する手法として、本発明者は、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの実測温度データに基づいて、これらに連動する不活性ガスとしてのヘリウムガスの漏洩に関連する物理量、例えばキャニスタ内部の底面に近い位置でのヘリウム温度T
Hあるいはキャニスタ底面から空気(即ち、底面下方の冷却空気)に放出される熱流束q
3を求め、それらに変化が表れたときにキャニスタ1からのヘリウムガス漏洩が発生したと判断できることを知見した。この漏洩検知システムは、ヘリウムガス漏洩時のキャニスタ底部温度T
Bの上昇量が少ないコンクリートキャスク構造においても有用である。
【0058】
<キャニスタ内部の底面に近い位置でのヘリウム温度T
Hの場合>
キャニスタ底部温度T
Bを利用するガス漏洩判断では、如何に給気温度T
INの影響を除外するかが重要な要因の1つとなる。一方、本発明方法の有意な点は、不活性ガスの漏洩が起こると、キャニスタ内底部の温度が上昇することにある。徐々にではあるが、年々、崩壊熱の減少によりキャニスタ内部の温度は低下していく中で、キャニスタ内部の不活性ガスの温度が上昇する現象は、外気温度の影響を除いては、異常が起こっている以外に他の根拠が考えられないからである。
【0059】
つまり、不活性ガスとしてのヘリウムの温度T
Hが上昇する要因は、(1)ヘリウム漏洩の発生、(2)給気温度T
INの上昇の二つが考えられる。よって、(2)の給気温度T
INの上昇が発生した状態で、ヘリウム温度T
Hが上昇しても、確実に漏洩が起きたと判断することはできない。つまり、給気温度T
INとヘリウム温度T
Hとが共に上昇するという条件を判断基準として用いることは好ましくなく、また、ヘリウム温度T
Hが上昇することのみを検出しても、漏洩の判断はできない。他方、給気温度T
INは、一般には24時間の間に必ず上下に変動する。朝から昼にかけて温度上昇し、昼から夜にかけては温度低下する。そこで、給気温度T
INの日変動の中で、「給気温度T
INが低下したにもかかわらずヘリウム温度T
Hが上昇した場合」に、ヘリウム漏洩が起きたと判断するようにすれば、キャニスタ底部温度T
Bから給気温度T
INの影響(外気温の影響)を除外することができる。
【0060】
即ち、ヘリウムガス漏洩に関連する物理量として、キャニスタの底部温度T
Bと給気温度T
INから推測するキャニスタの内底部近傍のヘリウム温度T
Hを利用する実施形態の場合には、給気温度T
INの低下にも拘わらずヘリウム温度T
Hが上昇する傾向がみられるときに、ヘリウムガスの漏洩があったものと判断する。
図16に示すように、ヘリウム温度T
Hを求めると、給気温度T
INが低下したにも関わず、ヘリウム温度T
Hの上昇がみられれば、これば明らかな異変、すなわち漏洩を疑う根拠として使用できる。
【0061】
<キャニスタ底面から空気に放出される熱流束q
3の場合>
また、キャニスタ底面から空気(即ち、キャニスタ底面周囲の雰囲気。具体的には、コンクリート容器との間に存在する冷却空気)に放出される熱流束q
3を利用することによっても、ヘリウムガスの漏洩を判断できる。本発明者の実験によって、キャニスタ底面から外気へ放出される熱流束q
3は、
図17に示すように、給気温度T
INの変化に伴って変動するが、ヘリウムガスの漏洩が起きた時には変動しながらも全体の傾向としては上昇し始め、ヘリウムガスの漏洩開始前の通常時(言い換えると、健全状態即ちガス漏洩が起きていない状態の時)よりも明らかにおおきくなることが知見された。つまり、この熱流束が明らかに大きくなるという現象は、キャニスタ内部の温度が上昇したことを意味していることから、漏洩の根拠となる。そこで、キャニスタの底部温度T
Bと給気温度T
INとの両実測温度からキャニスタ底面から空気(即ち、底面下方の冷却空気)に放出される熱流束q
3を求め、この熱流束q
3が給気温度T
INの変動にも拘わらず熱流束q
3が明らかに大きくなる傾向がみられるときに、ヘリウムガスの漏洩があったものと判断することができる。
【0062】
ここで、キャニスタ底面から空気に放出される熱流束q
3について、給気温度T
INの変動に起因する熱流束q
3の変動が大きいと、ヘリウムガスの漏洩の判断が難しいものとなる虞がある。そこで、給気温度T
INの変動分ΔTに健全状態におけるデータを用いた統計処理によって求めた係数αをかけて算定される熱流束を熱流束q
3に加えることで、給気温度T
INの変動に起因する熱流束q
3の変動を除外する補正を行うことが好ましい。ここで、ΔT=T
IN−T
IN0であり、α=Φ×h
aである。なお、T
IN0は基準とする給気温度である。また、h
aは空気の熱伝達率であり、Φは実数である。
【0063】
さらに、具体的にキャニスタ底面近傍の温度情報を利用する漏洩検知システムの漏洩検知の原理について説明する。
【0064】
キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを用いて、不活性ガスとしてのヘリウムの、キャニスタ内部の底面に近い位置での温度T
Hを計算する。すなわち、観測結果であるキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INからヘリウム漏洩が原因として生じるキャニスタ内底部近傍のヘリウム温度T
Hを求める。
【0065】
熱の流れと境界条件を
図15に示す。該図において、熱は、キャニスタ内部からキャニスタ底部のステンレス板を通じて、大気(空気)に流れる。キャニスタ内のヘリウムとステンレス板の間の伝熱形態は定かではないため、ここでは、キャニスタ底面内側から高さl
H離れた場所でのヘリウム温度をT
Hとして、ステンレス板に熱伝導で熱が伝わると仮定した。熱流束q
1、q
2、q
3は、それぞれ以下の式で表現される。
【0068】
【数3】
ここで、
q
1=q
2=q
3であるので、数式1と数式2より、数式4が求められる。
【0069】
【数4】
数式2と数式3より、数式5が求められる。
【0070】
【数5】
よって、数式4と数式5より、数式6が求められる。
【0071】
【数6】
なお、空気側の熱伝達(h
a)は、伝熱ハンドブック(日本機械学会)より、下向き加熱平板の自然対流伝熱相関式を用いる。
したがって、数式7が得られる。
【0073】
数式1乃至数式7における各記号の意味は以下の通りである。
l
H:キャニスタ底面からヘリウム温度T
Hの観測点までの距離(m)
l
s:キャニスタ底面厚さ(m)
λ
H:ヘリウムの熱伝導率(W/m/K)
λ
s:ステンレスの熱伝導率(W/m/K)
λ
a:空気の熱伝導率(W/m/K)
q
1:キャニスタ内ヘリウムからキャニスタ底面への熱流束(W/m
2)
q
2:キャニスタ底面を通過する熱流束(W/m
2)
q
3:キャニスタ底面から空気への熱流束(W/m
2)
h
a:キャニスタ底面と空気間の熱伝達率(W/m
2/K)
T
H:キャニスタ内底面近傍のヘリウム温度(K)
T
BI:キャニスタ底面内側温度(K)
T
B:キャニスタ底面外側温度(K)
T
IN:給気温度(K)
Gr
l:グラスホフ数(−)
β:空気の熱膨張率(1/K)
ν
a:空気の動粘性係数(m
2/s)
g:重力加速度(m/s
2)
Nu
a:空気側のヌッセルト数(−)
Pr
a:空気のプラントル数(−)
L:代表長(m)(ここでは、キャニスタ直径である。1.6mに設定された。)
【0074】
なお、グラスホフ数Gr
lは以下の数式8のように表される。
【0076】
また、空気側のヌッセルト数Nu
aは以下の数式9のように表される。
【0078】
キャニスタ内部の底面近傍のヘリウム温度T
Hは、数式6に示すように、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを用いて表される。ここで、キャニスタ底面内側からの高さl
Hは、唯一任意に決められる値であり、また、λ
Hについてもヘリウム温度T
Hの温度依存性を考えると、ヘリウム温度T
Hの値によって、決定される値となる。この問題において、ヘリウム温度T
Hの絶対値は、重要ではなく、ヘリウム温度T
Hがキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INの変化に応じて、どのように変化するかが重要であることから、ヘリウム温度T
Hは、現実的な値になるように、キャニスタ底面内側からの高さl
Hを仮定するものとする。ここでは、l
H/λ
Hが0.05となるように設定した。つまり、キャニスタ内部ではどのような熱の伝わり方をしているか不明であり、ヘリウムの絶対温度を求める必要が無く、仮定したヘリウム温度T
Hの変化が分かれば良い。
【0079】
ケース1を対象として計算で求めたヘリウム温度T
Hと試験で得られたキャニスタ底部温度T
B,給気温度T
INおよびキャニスタ内圧との関係を
図16に示す。なお、
図16における各温度については、通常時(例えば本発明者が行った実験では、ヘリウムガス漏洩開始時点よりも96時間前の値を採用したが、この時間に特定の意義はない。)の各温度(即ち、基準温度)を差し引いて、その後の温度変化(即ち、基準温度からの温度変化)を比較している。ここで、「通常時」とは、ガス漏洩が起きていない時であるが、例えば貯蔵開始から数か月間、あるいは一年間で収集された最初の温度データベースを利用することが好ましい。キャニスタは、使用済燃料を入れ、密封検査された後、コンクリートキャスクに挿入されることから、初期の時点における漏洩は考えられない。初期の溶接欠陥については、溶接検査が義務付けられているので、初期欠陥はないと考える。また、ヘリウムガス漏洩の要因は、キャニスタのSCC(応力腐食割れ)であるので、キャニスタをコンクリートキャスクに入れてから、塩がある程度付着し、さらに、溶接部温度が100℃を下回る(水分が発生する状態)時点、即ち貯蔵開始から数十年たった後(今回の試験では、40年後という結果を得ている)がターゲットとなる。そこで、貯蔵開始から数か月間、あるいは一年間で、最初の通常時温度データベースを構築しておけば、その後は、データベースを更新することにより、異常があれば、即座に判明する。
【0080】
そして、
図16より、ヘリウム温度T
Hの変動は、ヘリウム漏洩が起きていない通常時には給気温度T
INの変動に追従している。これに対し、ヘリウム漏洩開始約6時間後から、24時間の間において、給気温度T
INの低下にも関わらず、ヘリウム温度T
Hは、上昇する傾向がみられた(図中の楕円内)。更に、24時間以後においては、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
IN、ヘリウム温度T
Hとキャニスタ底部温度T
Bの間に一定の温度差が生じていることが分かった。
【0081】
次に、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを用いて、キャニスタ底面から空気に放出される熱流束q
3を求め、この熱流束q
3が明らかに大きくなるという熱流束の有意な上昇を検知した場合に、キャニスタ内部の温度が上昇したこと即ちヘリウム漏洩が発生したと判断できることについて説明する。
【0082】
図17は、熱流束q
3と給気温度T
INを合わせて示したものである。
図17より、通常時(−96〜0時間)は、ある一定(例えば、約635W/m
2)の熱流束で、キャニスタ底面からの放熱(q
3)が観られるが、漏洩開始後からは、徐々に放熱量が増加し、最終的には、約20W/m
2の増加(約655W/m
2)がみられた。しかしながら、熱流束q
3には変動があり、この変動は、給気温度T
INの変動と強い相関がみられた。すなわち、給気温度T
INが低下すると、キャニスタ底部温度T
Bとの温度差が大きくなって放熱量が増大する一方で、給気温度T
INが上昇すると、キャニスタ底部温度T
Bとの温度差が小さくなって放熱量が低下することが分かった。勿論、給気温度T
INの変動の影響を受けるとしても、ヘリウムガスの漏洩が起こると、
図17に示すように、熱流束q
3の値が明らかに高くなる。このことから、ヘリウムガスの漏洩を判断することができる。
【0083】
ここで、熱流束q
3は給気温度の変動の影響を受ける。そこで、熱流束q
3から給気温度の変動による要因を除外するために、給気温度の変動分ΔTに係数αをかけて算定される熱流束を熱流束q
3に加えることで気温変動に起因する熱流束の変動を極力除外することが好ましい。因みに、係数αは、特定の値に限定されるものではなく、パラメータとして変化させ、最も適した値が適宜選択される。具体的には例えば、0.7程度に設定されることが考えられる。この操作により求めた熱流束の変動(熱流束変動q
3’)を
図18に示す。この図より、給気温度の変動に起因する熱流束の変動の程度が抑制されていることが確認できる。そして、0時間から36時間後までの間において、キャニスタ底面からの放熱量が増加していることが分かる。これは、キャニスタ底面近傍のヘリウム温度T
Hが上昇したことに起因する。すなわち、このことは、ヘリウム漏洩が生じたことを意味している。
【0084】
以上の実験結果は、ケース1におけるものであるが、
図19、
図20、
図21に示すように、ケース2においても、ヘリウム温度T
Hあるいは熱流束q
3若しくは熱流束変動q
3’によってヘリウムガスの漏洩を判断することができる。例えば、
図19より、ヘリウム漏洩後、給気温度T
INが低下しているにも関わらず、ヘリウム温度T
Hが増加する傾向と、給気温度T
IN、キャニスタ底部温度T
B、ヘリウム温度T
H間の温度差が増大する傾向は、ケース1と同様であることが分かる。また、
図21は、ケース1と同様にキャニスタ底部から放熱される熱流束(気温変動に起因する熱流束を極力除外したもの)を示したものであり、ケース1と同様にヘリウム漏洩後の熱流束が増加していることが分かる。なお、ケース2では、ケース1に比べて、内圧変化が大きく、温度変化および熱流束の変化が大きくなっている。
【0085】
更に、
図22、
図23、
図24に示すように、ケース3においても、ヘリウム温度T
Hあるいは熱流束q
3若しくは熱流束変動q
3’によってヘリウムガスの漏洩を判断することができる。この試験においては、漏洩開始から24時間分のデータしか取得されていないことから、ケース1とケース2に比べて、漏洩後の大きな変化が分かりづらいものとなっているが、漏洩後、給気温度T
INが低下しているにも関わらず、ヘリウム温度T
Hが増加する傾向と、給気温度T
IN、キャニスタ底部温度T
B、ヘリウム温度T
H間の温度差が増大する傾向は、ケース1およびケース2と同様であることが分かる。
【0086】
以上のことから、ヘリウム温度T
Hあるいは熱流束q
3若しくは熱流束変動q
3’によってヘリウムガスの漏洩を検出できることが判明した。
【0087】
次いで、上述の本発明にかかる不活性ガス(ヘリウムガス)漏洩検知手法を適用したガス漏洩検知装置の一実施形態を説明する。
【0088】
まず、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの実測温度データに連動する不活性ガスの漏洩に関連する物理量として、キャニスタ内部の底面に近い位置でのヘリウム温度T
Hを利用した例について説明する。
【0089】
本実施形態にかかるガス漏洩検知装置においては、給気温度T
INの変動を考慮したものとして構成させているものであって、
図25に示すように、記憶部24に格納されるガス漏洩検知プログラム29の実行によって、コンピュータ20に、第1の温度センサ13及び第2の温度センサ14の温度計測装置19からキャニスタ底部温度T
B及び給気温度T
INを読み込むデータ受部21aと、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INを用いてキャニスタ内底部附近のヘリウム温度T
Hを算出する温度計算部21bと、温度監視時間インターバルΔtを設定するΔt設定部21cと、各監視対象データを設定する監視対象温度データ設定部21dと、ヘリウム温度T
Hと給気温度T
INの変化を監視する温度変化監視部21eと、給気温度T
INが低下してもヘリウム温度T
Hが上昇するときにガス漏洩と判定するガス漏洩判定部21fとして機能させるガス漏洩推定手段21を実現させている。
【0090】
ガス漏洩検知プログラム29は、同時に、コンピュータ20を、監視対象であるヘリウム温度T
Hと給気温度T
INの変化を表示装置25に常時表示させる表示制御部22としてコンピュータを機能させる。因みに、この表示は、特にコンピュータによる演算処理を行わずとも現存のデータロガーのモニターを使用すれば実施できるし、データロガー附属のソフトをパソコンにインストールすることでも容易に表示できる機能である。また、表示の切り替えは、市販のデータロガーのモニターの使用、あるいはパソコンにインストールされたデータロガー附属のソフトで容易に実行できる一般的な機能である。尚、図中の符号23は制御部(中央処理装置)、26は警告手段、27は入力部、28はメモリである。
【0091】
以下に、ガス漏洩検知プログラム29による、キャニスタ内部の底面に近い位置でのヘリウム温度を利用したガス漏洩監視並びに漏洩判断を行う機能を
図26に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0092】
まず、第1及び第2の温度センサ13,14で検出したキャニスタ底部温度T
B及び給気温度T
INを温度計測装置19から読み込む(ステップ101)。
【0093】
次に、キャニスタ底部温度T
B及び給気温度T
INを用いてキャニスタ内底部近傍のヘリウム温度T
Hを算出する(ステップ102)。例えば、コンピュータによる、前述の数式6の演算処理によって、ヘリウム温度T
Hが算出される。
【0094】
温度監視時間インターバルΔtを設定する(ステップ103)。ここで、温度監視時間インターバルΔtは、任意に決めれる値であるが、本実施形態にかかる漏洩判断手法では、給気温度T
INの24時間内での変動を利用しているので、温度監視時間インターバルΔtを24時間に設定することなどは無意味であり、たとえば、1時間とか2時間とかいった、給気温度T
INの日変動が計測データに現れる時間を設定することが好ましい。
【0095】
監視データの設定並びに監視を行う(ステップ104)。監視データは、上述のヘリウム温度T
Hと給気温度T
INであり、時間tにおけるヘリウム温度T
H(t)と給気温度T
IN(t)及び温度監視時間インターバルΔt後のヘリウム温度T
H(t+Δt)と給気温度T
IN(t+Δt)を監視する。
【0096】
そして、監視データの時間tから温度監視時間インターバルΔt後の温度変動を比較する。即ち、上述のヘリウム温度T
Hについて「T
H(t+Δt)> T
H(t)」の関係が成立し且つ給気温度T
INについて「T
IN(t+Δt)< T
IN(t)」の関係が成立するか否かを常時監視する(ステップ105)。この関係が成立する場合、次にそれがノイズのような一時的な現象であるかどうかをチェックする(ステップ106)。ノイズであるか否かの判断は、例えば、突出したデータが現れた場合に、その前後データと比べて、一定温度の差異がある場合は、ノイズと判断することができる。また、ノイズは、サンプリングタイムを変えることでも除去できるので、この場合には、このステップ106は必要としない。また、表示装置25におけるモニタリングにおいては、
図18に示すように、グラフ上に表れるひげのように突出したデータはノイズと容易に判断できる。
【0097】
他方、監視データである時間tにおけるヘリウム温度T
H(t)と給気温度T
IN(t)並びに温度監視時間インターバルΔt後のヘリウム温度T
H(t+Δt)と給気温度T
IN(t+Δt)は、同時に表示装置25に画像表示され(ステップ108)、作業員の日常の検査業務の一項目としてのモニタリングに供される。このとき、
図16に示すように、各測定量の平均値を一致させたマルチ表示とすれば、両温度の差異(相対差)が拡大して行く傾向を複数のグラフの乖離状況として視覚的且つ直感的に容易に把握することができる。この表示装置25のモニタリングにおいて、
図16に示すように、給気温度T
INが低下したにもかかわらずヘリウム温度T
Hの上昇がみられれば、作業員は、視覚的且つ直感的に明らかな異変、すなわちガス漏洩が発生したと判断できる。即ち、ヘリウムの漏洩を判断する根拠・情報として活用できる。
【0098】
ステップ105において上述の関係が成立しない場合及びステップ106においてノイズであると判断される場合には、ステップ104の前に戻り、監視データの監視を続行する。
【0099】
また、ステップ106においてノイズでないと判断された場合には、ヘリウムガスの漏洩と判断する(ステップ107)。そして、警告手段26あるいは表示装置25などに警告音や警告メッセージなどを出力させる(ステップ108,109)。
【0100】
つまり、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとからキャニスタの内底部近傍のヘリウム温度T
Hを推測し、給気温度T
INの低下にも拘わらず、ヘリウム温度T
Hが上昇する傾向がみられるときに不活性ガス(ヘリウムガス)の漏洩があったものと判断する。
【0101】
次いで、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの実測温度データに連動する(言い換えると、それらの実測温度データが用いられて算定される)不活性ガスの漏洩に関連する物理量として、キャニスタ底面から空気(即ち、キャニスタ底面下方の雰囲気。具体的には、コンクリート容器との間に存在する冷却空気)に放出される熱流束q
3を利用したガス漏洩検知装置の一実施形態を説明する。
【0102】
本実施形態にかかるガス漏洩検知装置においては、給気温度T
INの変動を考慮したものとして構成させているものであって、
図27に示すように、記憶部24に格納されるガス漏洩検知プログラム29の実行によって、コンピュータ20に、第1の温度センサ13及び第2の温度センサ14の温度計測装置19からキャニスタ底部温度T
B及び給気温度T
INを読み込むデータ受部21aと、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
IN及び空気側の熱伝達係数h
aを用いてキャニスタ底部から外の空気に伝わる熱流束q
3を算出する熱流束計算部21Gと、監視期間t内における通常時における熱流束q
30(基準熱流束q
30)を算出する基準熱流束計算部21Hと、熱流束q
3から給気温度T
INの変動の影響を除いた熱流束変動q
3’を算出する熱流束変動計算部21Iと、キャニスタの初期内圧と監視期間時の発熱量よりガス漏洩を判断する閾値熱流束変動q
3’
sを算出する閾値熱流束計算部21Jと、熱流束変動q
3’を監視対象として設定しその変化を監視する監視対象データ設定部21Kと、熱流束変動q
3’の変化を監視する熱流束変化監視部21Lと、閾値熱流束変動q
3’
sよりも熱流束変動q
3’が大きくなったときにガス漏洩と判定するガス漏洩判定部21Mとして機能させ、ガス漏洩推定手段21を実現させている。
【0103】
ガス漏洩検知プログラム29は、同時に、コンピュータ20を、監視対象である熱流束変動q
3’を表示装置25に常時表示させる表示制御部22としてコンピュータを機能させる。因みに、この表示は、特にコンピュータによる演算処理を行わずとも現存のデータロガーのモニターを使用すれば実施できるし、データロガー附属のソフトをパソコンにインストールすることでも容易に表示できる機能である。また、表示の切り替えは、市販のデータロガーのモニターの使用、あるいはパソコンにインストールされたデータロガー附属のソフトで容易に実行できる一般的な機能である。尚、図中の符号23は制御部(中央処理装置)、26は警告手段、27は入力部、28はメモリである。
【0104】
ここで、キャニスタ内の使用済燃料は、年数が経つとともに崩壊熱が低下するために、崩壊熱の減少によりキャニスタ内部のヘリウム温度T
Hが低下して行く。それに伴い、キャニスタ底部温度T
Bも低下する。この経年による崩壊熱減少に起因するキャニスタ内部の温度低下は、小さな低下率ではあるが、漏洩率が小さな場合には、検知判断を誤る要因となるので、考慮することが好ましい。そこで、この崩壊熱低下に伴う経年温度低下は、本監視システムにおいて、許容値として組み込んでおくことが好ましい。例えば、データの見直し期間t
0を定め、見直し期間t
0の経過毎に基準熱流束q
30を見直し、ガス漏洩を判断する閾値熱流束変動q
3’
sを算出し直して、決定することが好ましい。データの見直し期間t
0は、崩壊熱の減少による発熱量の減少に由来するものであることから、発熱量の減少が明らかに表れる期間、例えば1年とか2年といった期間であることが好ましい。
【0105】
以下に、ガス漏洩検知プログラム29による、キャニスタ底面から空気に放出される熱流束q
3を利用したガス漏洩監視並びに漏洩判断を行う機能を
図28に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0106】
まず、第1及び第2の温度センサ13,14で検出したキャニスタ底部温度T
B及び給気温度T
INを温度計測装置19から読み込む(ステップ201)。
【0107】
次に、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
IN及び空気側の熱伝達係数h
aを用いてキャニスタ底部から外の空気に伝わる熱流束q
3を算出する(ステップ202)。例えば、コンピュータによる、数式3の演算処理によって、熱流束q
3が算出される。ここで、空気側の熱伝達係数h
aは、数式7に基づいて算出される。
【0108】
次に、監視開始後の健全状態における、ある時点での基準熱流束q
30を決定する(ステップ203)。通常時の基準キャニスタ底部温度T
B0、基準給気温度T
IN0を決め、基準熱流束q
30を算出する。キャニスタ底部温度T
B、給気温度T
INといった温度は、ガス漏洩が生じていないかぎりは、一定の温度差を保ったまま、日変動をするものと考えられる。よって、モニタリング時の適当な時刻を決めて、その時刻の各温度を基準点として熱流束を算出し基準熱流束として設定すれば良い。この時間は、任意であり、例えば本発明者が行った実験では、ヘリウムガス漏洩開始時点よりも96時間前の値を採用したが、この時間に特定の意義はない。
【0109】
さらに、給気温度の変動によるばらつきを補正した熱流束変動q
3’を求める(ステップ204)。本実施形態では、例えば、q
3’=(q
3−q
30)+αT
in’を演算して求める。
【0110】
また、初期のキャニスタ閉じ込め内圧(使用済燃料を入れて、He置換するときに計られる値)と使用済燃料の監視期間時の発熱量より、ヘリウムガス漏洩と判断する閾値としての熱流束変動q
3’
sを決定する(ステップ205)。ここで、発熱量は、貯蔵期間と燃料の種類が分かれば、その崩壊熱を解析コードで算出することができる。本実施形態においては、熱流束q
3が明らかに大きくなるという熱流束の有意な上昇を検知した場合に、キャニスタ内部の温度が上昇したこと即ちヘリウム漏洩が発生したと判断できることを利用したものである。このため、「熱流束q
3が明らかに大きくなる」と判断するための何らかの比較基準・閾値熱流束変動q
3’
sが必要となる。ここで、閾値熱流束変動q
3’
sは、熱流束が給気温度T
INの変動の影響を大きく受けることから、通常時において、データを蓄積し、予め給気温度T
INの影響を考慮した処理が必要になる。その処理は、例えば給気温度の変動分ΔTに一定の補正係数αをかけたものを加算したものであり、
図18に示すような状態となるものである。この図において、熱流束変動幅は、例えば±5.0W/m
2を許容範囲として閾値を+15.0W/m
2に設定し、熱流束がその閾値を超えた場合、漏洩と判断とすることができる。勿論、この閾値は、前述の数値に限られるものではないし、初期内圧によっても異なる。例えば、ケース2のCFSキャニスタのような初期内圧が1.5気圧と、ケース1のCFSキャニスタよりも高い場合には、±10.0W/m
2を許容範囲として、閾値を+30.0W/m
2に設定されることもある。
【0111】
次いで、熱流束変動q
3’を監視データとして設定し、熱流束変動q
3’を監視する(ステップ206)。そして、定量的な判断として、(q
3’>q
3’
s)が成立するか否かを常時監視する(ステップ207)。この関係が成立する場合、次にそれがノイズのような一時的な現象であるか否かをチェックする(ステップ208)。ノイズであるか否かの判断は、例えば、突出したデータが現れた場合に、その前後データと比べて、一定温度の差異がある場合は、ノイズと判断することができる。例えば、
図18に例示する熱流束変動q
3’のグラフ上に表れるひげのように突出したデータはノイズと容易に判断できる。また、ノイズは、サンプリングタイムを変えることでも除去できるので、この場合には、このステップ208は必要としないこととなる。
【0112】
他方、監視データである熱流束変動q
3’は、同時に表示装置25に画像表示され(ステップ210)、作業員の日常の検査業務の一項目としてのモニタリングに供される。この表示装置25のモニタリングにおいて、
図18に示すように、熱流束変動q
3’の上昇がみられれば、作業員は、視覚的且つ直感的に明らかな異変、すなわちガス漏洩が発生したと判断できる。即ち、ヘリウムの漏洩を判断する根拠・情報として活用できる。
【0113】
ここで、(q
3’>q
3’
s)が成立しない場合、若しくは成立してもノイズである場合には、監視期間tが、データの見直し期間t
0より長いかどうかを確認する(ステップ212)。監視期間tがデータ見直し期間t
0よりも短い場合は、「異常なし」として、ステップ206に戻り、監視を続行する。他方、監視期間tがデータ見直し期間t
0より長い場合は、ステップ203に戻る。つまり、データの見直し期間t
0を経過していれば、貯蔵開始時から定期的に更新されている通常時温度データベースから最新の通常時温度データを読み出し、通常時の基準キャニスタ底部温度T
B0、基準給気温度T
IN0を見直し、基準熱流束q
30を再算出し(ステップ203)、熱流束変動q
3’の再計算(ステップ204)、閾値熱流束変動q
3’
sの再決定(ステップ205)、監視データq
3’の再設定・監視を続行する(ステップ206)。
【0114】
他方、ノイズでないと判断されれば、漏洩と判断する(ステップ209)。そして、警告手段26あるいは表示装置25などに警告音や警告メッセージなどを出力させる(ステップ210,211)。このとき、表示装置25では、監視データである熱流束変動q
3’の上に重ねて「ガス漏洩」のメッセージを告知するようにしても良い。
【0115】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば上述の実施形態では、ヘリウム温度T
Hと給気温度T
INを監視データとしたガス漏洩検知手法、あるいは熱流束変動q
3’を監視データとしたガス漏洩検知手法ヘリウムガスの漏洩を検出する装置を挙げて本発明にかかる主に放射性物質密封容器のガス漏洩検知方法を説明したが、これに特に限られるものではなく、温度計測装置19から出力される第1の温度センサ13と第2の温度センサ14との測定温度データを取り込み、キャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとを比較監視し、キャニスタ底部温度T
Bが上昇し始めると共にキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの間に温度差が生じ、尚且つその温度差(相対差)が時間経過と共に拡大し、その後同温度差が保たれる傾向を示すときに不活性ガスの漏洩があったものと判断するガス漏洩推定手段としてコンピュータで実現させるようにしても良い。尚、ガス漏洩検知システムとしては、コンピューターが漏洩と判断する条件を満たしたところで、アラーム発信だけを実施するようにしても良いが、検知システムとしての安全対策としては、異常がないことを確認する意味において、温度時系列のリアルタイムモニタリングを備えることが好ましい。即ち、監視データであるキャニスタ底部温度T
Bと給気温度T
INとの変化を表示装置25に画像表示したり、ガス漏洩と判断したときにメッセージ表示したり、あるいは警告音や警告発光などの様々な警告行動をコンピュータ20に実行させるように構成しても良いことは言うまでもない。