特許第6816408号(P6816408)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6816408ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816408
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20210107BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210107BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20210107BHJP
   C08G 75/0231 20160101ALN20210107BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L101/00
   C08K3/013
   !C08G75/0231
【請求項の数】5
【全頁数】52
(21)【出願番号】特願2016-168120(P2016-168120)
(22)【出願日】2016年8月30日
(65)【公開番号】特開2018-35229(P2018-35229A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】荒木 俊
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 創
(72)【発明者】
【氏名】小川 智
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/020142(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148929(WO,A1)
【文献】 特表2015−528525(JP,A)
【文献】 特開2016−164250(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/161321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/16
C08K3/00−13/08
C08G75/00−75/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
下記一般式(1−1)又は下記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、前記主鎖の末端に結合した、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む末端基と、を有すること
前記末端基が、下記一般式(3−1b)、(3−2b)、(3−3b)、(3−4b)、(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される基であること、
を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【化1】
【化2】
〔式中、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表す。
ただし、一般式(1−1)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であり、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−である。〕
【化3】
〔式中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar5bは、アリーレン基を表す。〕
【化4】
〔式中、Rは、直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar6bは、アリーレン基を表す。〕
【請求項2】
請求項1に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品。
【請求項3】
高熱伝導性材料用途、二次電池用ガスケット材料用途、水廻り用途、電気・電子部品用途、電気自動車部品を含む自動車部品用途、内装用材料用途、精密部品用途、フィルムまたは繊維用途である、請求項記載の成形品。
【請求項4】
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を配合して溶融混練するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
下記一般式(1−1)又は下記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、前記主鎖の末端に結合した、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む末端基と、を有すること
前記末端基が、下記一般式(3−1b)、(3−2b)、(3−3b)、(3−4b)、(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される基であること、
を特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【化5】
【化6】
〔式中、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表す。
ただし、一般式(1−1)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であり、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−である。〕
【化3】
〔式中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar5bは、アリーレン基を表す。〕
【化4】
〔式中、Rは、直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar6bは、アリーレン基を表す。〕
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂及びその製造方法、並びに、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下「PPS樹脂」と略すことがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下「PAS樹脂」と略すことがある。)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
従来、ポリフェニレンスルフィド樹脂は、例えば、p−ジクロロベンゼンと、硫化ナトリウム又は水硫化ナトリウムと、水酸化ナトリウムとを原料として、有機極性溶媒中で重合反応させる溶液重合により製造されている(例えば、特許文献1参照)。現在市販されているポリフェニレンスルフィド樹脂は、一般にこの方法により生産されている。
【0004】
しかしながら、当該方法は、モノマーにジクロロベンゼンを用いることから、合成後の樹脂中に残存するハロゲン濃度が高くなる傾向にあった。また、高温高圧・強アルカリという過酷な環境下で重合反応を行う必要があるため、接液部に高価・難加工性のチタン、クロム又はジルコニウムを用いた重合容器を使用する必要があった。
【0005】
そこで、重合モノマーにジクロロベンゼンを用いることなく、かつ、温和な重合条件で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法が知られている。例えば、特許文献2には、ポリアリーレンスルフィド樹脂を合成する前駆体として溶媒可溶性のポリ(アリーレンスルホニウム塩)が開示されている。ポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、メチルフェニルスルホキシドのようなスルフィニル基を1つ有するスルホキシド(以下、「1官能性スルホキシド」ということがある。)を酸存在下で単独重合させる方法により製造される(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【0006】
1官能性スルホキシドの単独重合によりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法の場合、樹脂が有する構成単位は、原料である1官能性スルホキシドの構造により決定される。したがって、使用の目的等に応じて、ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する構成単位を変更する場合には、原料である1官能性スルホキシドの設計から取り組むことが多い。しかし、使用できる1官能性スルホキシドの選択肢は少なく、ポリアリーレンスルフィド樹脂の構成単位を変更できる範囲は実質的に非常に限られる。
【0007】
更に、これらの製造方法により製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、末端に反応性の高い官能基がないため、ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の他樹脂との反応性に乏しく、樹脂としての機能性が不十分であった。
【0008】
スルフィニル基を2つ有するスルホキシド(以下、「2官能性スルホキシド」ということがある。)である1,4−ビス(メチルスルフィニル)ベンゼンを五酸化二リン及びトリフルオロメタンスルホン酸の存在下、種々の芳香族化合物と反応させる方法が、非特許文献1に開示されている。この方法によれば、芳香族化合物を変更することで、スルフィド基を有する多様なポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することが可能である。しかし、この方法では、十分に高い分子量の樹脂を得ることが困難である。更に、これらの製造方法により製造されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、末端に反応性の高い官能基がないため、他樹脂との反応性に乏しいものであった。このため、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂を含む樹脂組成物は機械的強度、特に耐冷熱衝撃性が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,354,129号明細書
【特許文献2】特開平10−182825号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】JOURNAL OF MACROMOLECULAR SCIENCE Part A−Pure and Applied Chemistry、Volume 40、Issue 4、p.415−423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、構成単位の設計の自由度が高く、しかも十分に高い分子量を有し、かつ、反応性の高い官能基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いて、機械的強度、特に耐冷熱衝撃性に優れた成形品となりうる樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を成形して得られる機械的強度、特に耐冷熱衝撃性に優れた成形品、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは種々の検討を行った結果、末端に特定官能基を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を得る工程と、当該ポリ(アリーレンスルホニウム塩)を脱アルキル化又は脱アリール化し、ポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程と、を含む製造方法により、末端に特定官能基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が、優れた機械的強度、特に耐冷熱衝撃性を有する成形品となりうる樹脂組成物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
下記一般式(1−1)又は下記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、前記主鎖の末端に結合した、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む末端基と、を有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
〔式中、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表す。
ただし、一般式(1−1)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であり、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−である。〕に関する。
【0016】
すなわち、本発明は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形して得られる成形品、に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、構成単位の設計の自由度が高く、しかも十分に高い分子量を有し、かつ、反応性の高い官能基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いて、機械的強度、特に耐冷熱衝撃性に優れた成形品となりうる樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を成形して得られる機械的強度、特に耐冷熱衝撃性に優れた成形品、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ポリマー合成例1bで得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(1708cm−1の位置)はカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークである。
図2】ポリマー合成例2で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3551cm−1及び3500〜3300cm−1の範囲の位置)はヒドロキシ基のO−H伸縮振動の吸収ピークである。
図3】ポリマー合成例3で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3365cm−1の位置)はアミノ基のN−H伸縮振動の吸収ピークである。
図4】ポリマー合成例4で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3552cm−1の位置)はヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークである。
図5】ポリマー合成例4で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(1687cm−1の位置)はカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークである。
図6】ポリマー合成例5で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3555cm−1の位置)はヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークである。
図7】ポリマー合成例5で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3433cm−1及び3377cm−1位置)はアミノ基のN−H伸縮振動の吸収ピークである。
図8】ポリマー合成例6で得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(1707cm−1の位置)はカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークである。
図9】ポリマー合成例7bで得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3567cm−1の位置)はヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークである。
図10】ポリマー合成例7bで得られたポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(1681cm−1の位置)はカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークである。
図11】ポリマー合成例8bで得られたポリ(p−フェニレンチオ−p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(3454cm−1の位置)はヒドロキシ基のO−H伸縮振動の吸収ピークである。
図12】ポリマー合成例8bで得られたポリ(p−フェニレンチオ−p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)を赤外吸収スペクトルで測定したチャートである。矢印(1684cm−1の位置)はカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、
ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂が、
下記一般式(1−1)又は下記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、前記主鎖の末端に結合した、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基を含む末端基と、を有することを特徴とする。
【0021】
【化3】
【0022】
【化4】
〔式中、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表す。
ただし、一般式(1−1)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であり、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−である。〕。
【0023】
このポリアリーレンスルフィド樹脂は、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基(以下「特定官能基」ということがある。)を含む末端基を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を得る工程と、当該ポリ(アリーレンスルホニウム塩)を脱アルキル化又は脱アリール化し、ポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程と、を含む製造方法により得られる。
【0024】
本明細書において、「ヒドロキシ基」又は「カルボキシ基」の語は、ヒドロキシ基又はカルボキシ基のみならず、ヒドロキシ基又はカルボキシ基が脱プロトン化して陰イオンとなったもの、ヒドロキシ基又はカルボキシ基のプロトンがイオン交換されたものをも包含するものとする。ヒドロキシ基又はカルボキシ基は、水溶液等の極性溶媒中で容易に脱プロトン化して陰イオンを形成するだけでなく、プロトンがリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、又はカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等を含む強塩基でイオン交換されたものが容易に形成するためである。
【0025】
ポリ(アリーレンスルホニウム塩)及び製造方法
一実施形態に係るポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、下記一般式(1−2)で表される構成単位を含む主鎖、又は一般式(2−2)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した特定官能基を含む末端基、を有する。ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の主鎖は、実質的に、下記一般式(1−2)で表される構成単位又は一般式(2−2)で表される構成単位のみから構成されていてもよい。特定官能基を含む末端基は、式(1−2)又は(2−2)で表される構成単位に直接結合していることが多い。
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
一般式(1−2)又は(2−2)中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を有していてもよいアリール基を表し、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表し、Xは、アニオンを表す。
【0029】
一般式(2−2)で表される構成単位は、下記一般式(5−2)で表される構成単位であってもよい。
【0030】
【化7】
【0031】
式中、R及びXは、式(1−2)と同様に定義され、Ar、Ar及びAr9bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表す。すなわち、式(5−2)においてAr、Ar及びAr9bがそれぞれ1,4−フェニレン基であるとき、式(2−2)において、Arが4,4’−ビフェニレン基で、R2bが−S−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基である場合に相当する。
【0032】
一実施形態に係るポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、例えば、(a)特定官能基を有する芳香族化合物の存在下で、下記一般式(1−3)で表されるスルホキシドと下記一般式(1−4)で表される芳香族化合物とを反応させる工程(以下、工程(a)という)、
又は、
(b)特定官能基を有する芳香族化合物の存在下で、下記一般式(2−3)で表される芳香族スルホキシドを(単独)重合させる工程(以下、工程(b)という)、を有する製造方法により得られる。
【0033】
工程(a)に使用されるスルホキシドは、下記一般式(1−3)で表される化合物であり、2つのスルフィニル基を有する。
【0034】
【化8】
【0035】
一般式(1−3)中、R、Ar、Ar及びZは、それぞれ、上記の一般式(1−2)又は(2−2)のR、Ar、Ar及びZと同様に定義される。
【0036】
一般式(1−3)で表されるスルホキシドは、例えば、下記一般式(1−5)で表される化合物を酸化剤等と反応させることにより酸化させることで得ることができる。
【0037】
【化9】
【0038】
一般式(1−5)中、R、Ar、Ar及びZは、上記の一般式(1−2)又は(2−2)のR、Ar、Ar及びZと同様に定義される。
【0039】
酸化剤は、特に制限されず種々の酸化剤を使用することができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸素、オゾン、有機ペルオキシド、過酸化水素、硝酸、m−クロロペルオキシ安息香酸、オキソン(登録商標)、四酸化オスミニウム等を使用することができる。
【0040】
一般式(1−5)で表される化合物(スルフィド化合物)は、必要に応じて、下記一般式(1−6)で表される化合物とジメチルジスルフィド等とを用いて、Yで示されるハロゲン原子とメチルチオ基等とで置換反応させることで、合成することができる。
【0041】
【化10】
【0042】
一般式(1−6)中、Yは、ハロゲン原子を表し、Ar、Ar及びZは、一般式(1−2)又は(2−2)と同様に定義される。Yは、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等であり、塩素原子であることが好ましい。
【0043】
一般式(1−3)、(1−5)又は(1−6)で表される化合物において、Ar及びArは、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン等のアリーレン基であってもよい。Ar及びArは、同一であっても異なってもよいが、好ましくは同一である。
【0044】
Ar及びArの結合の態様は特に制限されるものではないが、アリーレン基中、遠い位置でY及びZと結合するものであることが好ましい。例えば、Ar及びArがフェニレン基である場合、Ar及びArは、パラ位で結合する単位(1,4−フェニレン基)及びメタ位で結合する単位(1,3−フェニレン基)であることが好ましく、パラ位で結合する単位がより好ましい。得られる樹脂の耐熱性及び結晶性の面で、Ar及びArは、パラ位で結合する単位で構成されることが好ましい。
【0045】
Ar又はArで表されるアリーレン基が置換基を有する場合、置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。
【0046】
一般式(1−3)で表される化合物としては、例えば、4,4’−ビス(メチルスルフィニル)ビフェニル、ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]エーテル、ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]スルフィド、ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]スルホン、ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]ケトン、2,2−ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。これらの化合物は単独で、又は組み合わせて使用することができる。
【0047】
としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、並びに、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。更に当該アリール基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を、芳香環に結合した置換基として1〜4個の範囲で有していてもよい。
【0048】
工程(a)において使用される芳香族化合物は、例えば、下記一般式(1−4)で表される。
【0049】
【化11】
【0050】
一般式(1−4)中、R2aは、水素原子、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、−Ar4a、−S−Ar4a、−O−Ar4a、−CO−Ar4a、−SO−Ar4a又は−C(CF−Ar4aを表し、Ar3a及びAr4aは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基を表す。R2aが、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基の場合、その例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。Ar3a又はAr4aで表されるアリール基が置換基を有する場合、当該置換基は、アルキル基(メチル基等)、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。Ar3a及びAr4aとしては、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。当該アリール基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基及びスルホ基から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。Ar3a及びAr4aは、同一であっても異なってもよいが、好ましくは、同一である。
【0051】
一般式(1−4)で表される化合物としては、例えば、ベンゼン、トルエン、ビフェニル、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ジフェニルスルホン、ヘキサフルオロ−2,2−ジフェニルプロパン等が挙げられる。これらの化合物のうち、結晶性の観点から、ビフェニル、ジフェニルスルフィド又はジフェニルエーテルが好ましい。より高分子量体としてポリアリーレンスルフィド樹脂を得る観点から、ジフェニルスルフィドが好ましい。ジフェニルスルフィドは融点が低く、それ自体溶媒として機能することが可能であり、反応温度の制御等の観点からも好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点を低下させる観点から、ジフェニルエーテルが好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐熱性を向上させる観点から、ベンゾフェノンが好ましい。非晶性のポリアリーレンスルフィド樹脂を得る観点から、ジフェニルスルホン又はヘキサフルオロ−2,2−ジフェニルプロパンが好ましい。ポリアリーレンスルフィド樹脂を非晶性とすることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂の成形加工性及び透明性を向上させることが可能である。
【0052】
工程(b)に使用される芳香族スルホキシドは、下記一般式(2−3)で表される化合物であり、スルフィニル基と芳香族環を有する。
【0053】
【化12】
【0054】
一般式(2−3)中、R及びArは、上記の一般式(1−2)又は(2−2)のR及びArと同様に定義され、R2aは、上記の一般式(1−4)のR2aと同様に定義される。
【0055】
工程(b)において、式(2−3)の芳香族スルホキシドとして、下記一般式(5−3)で表される芳香族スルホキシドを用いることで、式(5−2)で表される構成単位を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を得ることができる。
【0056】
【化13】

一般式(5−3)中、Rは、式(2-3)と同様に定義される。Ar及びArは、式(5−2)と同様に定義される。Ar9aは、置換基を有していてもよいフェニル基を表す。
【0057】
一般式(2−3)で表される芳香族スルホキシドは、例えば、下記一般式(2−4)で表される化合物を酸化剤等と反応させることにより酸化させることで得ることができる。
【0058】
【化14】
【0059】
一般式(2−4)中、R及びArは、上記の一般式(1−2)又は(2−2)のR及びArと同様に定義され、R2aは、上記の一般式(1−4)のR2aと同様に定義される。
【0060】
酸化剤は、特に制限されず種々の酸化剤を使用することができる。酸化剤としては、例えば、過マンガン酸カリウム、酸素、オゾン、有機ペルオキシド、過酸化水素、硝酸、メタ−クロロペルオキシ安息香酸、オキソン(登録商標)、四酸化オスミニウム等を使用することができる。
【0061】
一般式(2−4)で表される化合物(スルフィド化合物)は、必要に応じて、下記一般式(2−5)で表される化合物とジメチルジスルフィド等とを用いて、Yで示されるハロゲン原子とメチルチオ基等とで置換反応させることで、合成することができる。
【0062】
【化15】
【0063】
一般式(2−5)中、Yは、上記の一般式(1−6)のYと同様に定義され、Arは、一般式(1−2)又は(2−2)のArと同様に定義され、R2aは、上記の一般式(1−4)のR2aと同様に定義される。
【0064】
一般式(2−3)で表される芳香族スルホキシドとしては、例えば、メチルフェニルスルホキシド、メチル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホキシド等を用いることができる。これらの化合物のうち、メチル−4−(フェニルチオ)フェニルスルホキシドが好ましい。芳香族スルホキシドは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0065】
一実施形態に係るポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、特定官能基を有する芳香族化合物(以下、「末端変性剤」ということがある。)の存在下で、スルホキシドを反応させて得られる。
【0066】
このような特定官能基を有する芳香族化合物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で特に限定されることはなく、芳香族環に直接結合した特定官能基を有していてもよいし、芳香族環を置換している2価の有機基に結合した特定官能基を有していてもよい。
【0067】
より具体的には、特定官能基を有する好ましい芳香族化合物としては、下記一般式(3−1a)、(3−2a)、(3−3a)、(3−4a)、(3−5a)又は(3−6a)で表される芳香族化合物が挙げられる。
【0068】
【化16】

式中、Rは直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar5aは、アリール基を表す。
【0069】
としての炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキレン基としては、例えば、メチレン、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキシレン、2−メチル−1,3−プロピレン、2−エチル−1,3−プロピレン、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン、2,2−ジメチル−1,4−ブチレン、1,10−デシレン等を挙げることができる。Ar5aとしては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。
【0070】
(3−1a)、(3−2a)、(3−3a)、(3−4a)、(3−5a)又は(3−6a)で表される芳香族化合物の具体例としては、安息香酸、フェニルプロピオン酸、フェニルヘキサン酸、フェニルイソ酪酸、フェニルマロン酸、フェノール、N−フェニルグリシン、N−ベンジルイミノ二酢酸、及びアニリンが挙げられる。
【0071】
特定官能基を有する好ましい芳香族化合物としては、下記一般式(4−1a)、(4−2a)、(4−3a)又は(4−4a)で表される芳香族化合物も挙げられる。
【0072】
【化17】

式中、Rは、直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar6aは、アリール基を表す。
【0073】
としての炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。アルキレン基としては、例えば、メチレン、1,2−エチレン、1,3−プロピレン、1,4−ブチレン、1,6−ヘキシレン、2−メチル−1,3−プロピレン、2−エチル−1,3−プロピレン、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン、2,2−ジメチル−1,4−ブチレン、1,10−デシレン等を挙げることができる。Ar6aとしては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等の構造を有するアリール基が挙げられる。
【0074】
一般式(4−1a)、(4−2a)、(4−3a)又は(4−4a)で表される芳香族化合物は、例えば、下記化学式で表される化合物であってもよい。式中、Rは、式(4−1a)等と同様に定義される。
【0075】
【化18】
【0076】
前記工程(a)の反応において、前記一般式(1−3)で表されるスルホキシドと前記一般式(1−4)で表される芳香族化合物とを反応させてポリ(アリーレンスルホニウム塩)を得た後、特定官能基を有する芳香族化合物を反応系に加えて反応させることもできる。特定官能基を有する芳香族化合物の存在下で、前記一般式(1−3)で表されるスルホキシドと前記一般式(1−4)で表される芳香族化合物とを反応させることが、工程の更なる簡略化に優れる点から好ましい。
【0077】
同様に、前記工程(b)の反応において、前記一般式(2−3)で表される芳香族スルホキシドを反応させてポリ(アリーレンスルホニウム塩)を得た後、特定官能基を有する芳香族化合物を反応系に加えて反応させることもできる。特定官能基を有する芳香族化合物の存在下で、前記一般式(2−3)で表される芳香族スルホキシドを反応させることが、工程の更なる簡略化に優れる点から好ましい。
【0078】
工程(a)又は工程(b)の反応は、酸存在下で行われることが好ましい。酸は、有機酸、無機酸のいずれであってもよい。酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、青酸、テトラフルオロほう酸等の非酸素酸;硫酸、リン酸、過塩素酸、臭素酸、硝酸、炭酸、ホウ酸、モリブデン酸、イソポリ酸、ヘテロポリ酸等の無機オキソ酸;硫酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、プロトン残留ヘテロポリ酸塩、モノメチル硫酸、トリフルオロメタン硫酸等の硫酸の部分塩若しくは部分エステル;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、コハク酸、安息香酸、フタル酸等の1価若しくは多価のカルボン酸;モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、モノフルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸等のハロゲン置換カルボン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸等の1価若しくは多価のスルホン酸;ベンゼンジスルホン酸ナトリウム等の多価のスルホン酸の部分金属塩;五塩化アンチモン、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛、塩化銅、塩化鉄等のルイス酸等を挙げることができる。これらの酸のうち、反応性の観点から、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸の使用が好ましい。これらの酸は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
工程(a)又は工程(b)の反応は脱水反応のため、脱水剤を併用してもよい。脱水剤としては、例えば、酸化リン、五酸化二リン等のリン酸無水物;ベンゼンスルホン酸無水物、メタンスルホン酸無水物、トリフルオロメタンスルホン酸無水物、パラトルエンスルホン酸無水物等のスルホン酸無水物;無水酢酸、無水フルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸等のカルボン酸無水物;無水硫酸マグネシウム、ゼオライト、シリカゲル、塩化カルシウム等を挙げることができる。これらの脱水剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
工程(a)又は工程(b)の反応には、適宜溶媒を使用することができる。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ノルマルヘプタン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;スルホラン、DMSO等の含硫黄系溶剤;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
工程(a)又は工程(b)の反応は、反応が適切に進行するように、条件を適宜調整することができる。反応温度は、−30〜150℃の範囲であることが好ましく、0〜100℃の範囲であることがより好ましい。
【0082】
上記工程(a)により得られるポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、下記一般式(1−2)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、特定官能基を含む末端基、を有する。
【0083】
【化19】
【0084】
一般式(1−2)中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を有していてもよいアリール基を表し、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表し、Xは、アニオンを表す。
【0085】
Ar3b及びAr4bは、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン等のアリーレン基であってもよい。Ar3b及びAr4bは、同一であっても異なってもよいが、好ましくは同一である。アニオンを表すXとしては、例えば、スルホネート、カルボキシレート、ハロゲンイオン等のアニオンが挙げられる。一般式(1−2)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基で、R2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であることが好ましい。Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基、R2bが−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−であることが好ましい。
【0086】
一般式(1−2)で表される構成単位において、Ar3b及びAr4bの結合の態様は特に制限されるものではなく、一般式(1−3)のAr及びArの結合の態様と同様の考えを適用し得る。
【0087】
Ar3b又はAr4bで表されるアリーレン基が置換基を有する場合、置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。ただし、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bが置換基を有するアリーレン基である一般式(1−2)の構成単位の割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化度及び耐熱性の低下をより抑制する観点から、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)全体の10質量%以下の範囲であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
上記ポリ(アリーレンスルホニウム塩)が有する構成単位は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の使用の目的等に合わせて、例えば、一般式(1−3)で表されるスルホキシドと一般式(1−4)で表される芳香族化合物との組み合わせを変更することにより、適宜選択することができる。
【0089】
一方、上記工程(b)により得られるポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、下記一般式(2−2)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、特定官能基を含む末端基、を有する。
【0090】
【化20】
【0091】
一般式(2−2)中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を有していてもよいアリール基を表し、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Xは、アニオンを表す。
【0092】
一般式(2−2)中、R、R2b、Ar及びXは、一般式(1−2)のR、R2b、Ar及びXと同様に定義される。
【0093】
更に、原料に前記一般式(3−1a)、(3−2a)、(3−3a)、(3−4a)、(3−5a)又は(3−6a)で表される芳香族化合物を用いて製造されたポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、下記一般式(3−1b)、(3−2b)、(3−3b)、(3−4b)、(3−5b)又は(3−6b)で表される末端基を有することができる。
【0094】
【化21】
【0095】
式中、Rは直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar5bは、アリール基を表す。
【0096】
原料に前記一般式(4−1a)、(4−2a)、(4−3a)又は(4−4a)で表される芳香族化合物を用いて製造されたポリ(アリーレンスルホニウム塩)は、下記一般式(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される末端基を有することができる。
【0097】
【化22】

式中、Rは、直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar6bは、アリール基を表す。
【0098】
Ar5b及びAr6bのアリール基は、アリール基に置換基が結合したアリーレン基も含みうる。
【0099】
一般式(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される末端基としては、例えば、以下の化学式で表される基が挙げられる。式中、Rは、式(4−1a)等と同様に定義される。
【0100】
【化23】
【0101】
ポリアリーレンスルフィド樹脂及び製造方法
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、前記一般式(1−1)で表される構成単位又は前記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基(特定官能基)を含む末端基と、を有する。
【0102】
【化24】
【0103】
【化25】
【0104】
一般式(1−1)又は(2−1)中、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表す。
【0105】
式(2−1)で表される構成単位は、下記一般式(5−1)で表される構成単位であってもよい。
【0106】
【化26】

式中、Ar、Ar及びAr9bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表す。すなわち、式(5−1)においてAr、Ar及びAr9bがそれぞれ1,4−フェニレン基であるとき、式(2−1)において、Arが4,4’−ビフェニレン基で、R2bが−S−Ar4b−で、Ar4bが1,4−フェニレン基に相当する。
【0107】
一実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂は、下記一般式(1−2)で表される構成単位又は下記一般式(2−2)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、特定官能基を含む末端基と、を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を、脱アルキル化又は脱アリール化する工程を有する製造方法により得られる。
【0108】
【化27】
【0109】
【化28】
【0110】
一般式(1−2)又は(2−2)中、Rは、炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を有していてもよいアリール基を表し、R2bは、直接結合、−Ar4b−、−S−Ar4b−、−O−Ar4b−、−CO−Ar4b−、−SO−Ar4b−又は−C(CF−Ar4b−を表し、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表し、Zは、直接結合、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−を表し、Xは、アニオンを表す。
【0111】
一般式(5−1)で表される構成単位を含む主鎖を有するポリアリーレンスルフィド樹脂は、例えば、上記一般式(5−2)で表される構成単位を含む主鎖を有するポリ(アリーレンスルホニウム塩)を、脱アルキル化又は脱アリール化する工程を有することにより得られる。
【0112】
前記ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の脱アルキル化又は脱アリール化は、例えば、以下の反応式で表されるように進行すると考えられる。
【0113】
【化29】
【0114】
かかる工程では、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤を使用することができる。脱アルキル化剤又は脱アリール化剤は、求核剤又は還元剤を含む。求核剤としては、含窒素芳香族化合物、アミン化合物、アミド化合物等を用いることができる。還元剤としては、金属カリウム、金属ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、ヒドラジン等を用いることができる。これらの化合物は、1種を単独で、又は2種以上を併用してもよい。
【0115】
含窒素芳香族化合物としては、ピリジン、キノリン、アニリン等が挙げられる。これらの化合物のうち、汎用化合物であるピリジンが好ましい。
【0116】
アミン化合物としては、トリアルキルアミン、アンモニア等が挙げられる。
【0117】
アミド化合物としては芳香族アミド化合物、脂肪族アミド化合物を用いることができる。脂肪族アミド化合物は、例えば、下記一般式(4)で表される化合物で表される。
【0118】
【化30】
【0119】
一般式(4)中、R11、R12及びR13は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基を表し、R11とR13は結合して環状構造を形成していてもよい。炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。
【0120】
一般式(4)で表される化合物は、例えば、下記反応式(1)又は(2)で表されるようにして、スルホニウム塩の硫黄原子と結合するアルキル基又はアリール基を脱アルキル化又は脱アリール化する、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として機能すると考えられる。
【0121】
(反応式1)
【0122】
【化31】
【0123】
(反応式2)
【0124】
【化32】
【0125】
更に、当該脂肪族アミド化合物は、芳香族アミド化合物に比べ水への混和性が高く、反応混合物の水洗によって容易に除去可能である。このため、脂肪族アミド化合物を用いた場合、芳香族アミド化合物を用いた場合に比べ、ポリアリーレンスルフィド樹脂中の脂肪族アミド化合物の残存量をより低減することができる。
【0126】
このように脂肪族アミド化合物を脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として用いることは、樹脂加工する際等のガス発生を抑制し、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の品質向上及び作業環境の改善、更には金型のメンテナンス性をより向上させることができるため好ましい。また、脂肪族アミド化合物は有機化合物の溶解性にも優れることから、当該脂肪族アミド化合物の使用は、反応混合物からポリアリーレンスルフィドのオリゴマー成分を容易に除去することも可能にする。その結果、ガス発生の一因にもなり得る当該オリゴマー成分を、当該脂肪族アミド化合物により除去することで、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の品質を相乗的に向上させることができる。
【0127】
このような脂肪族アミド化合物としては、例えば、ホルムアミド等の1級アミド化合物、β−ラクタム等の2級アミド化合物、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素等の3級アミド化合物等を用いることができる。脂肪族アミド化合物は、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の溶解性及び水への溶解性の観点から、R12及びR13が脂肪族基である脂肪族3級アミド化合物を含むことが好ましく、3級アミド化合物の中でもN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0128】
脂肪族アミド化合物は、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として機能するほか、溶解性に優れることから反応溶媒として用いることもできる。よって、脂肪族アミド化合物の使用量は、特に制限されるものではないが、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の総量に対し、下限が1.00当量以上の範囲であることが好ましく、1.02当量以上の範囲であることがより好ましく、1.05当量以上の範囲であることが更に好ましい。脂肪族アミド化合物の使用量が、1.00当量以上であれば、ポリ(アリーレンスルホニウム塩)の脱アルキル化又は脱アリール化をより十分に行うことができる。一方、上限は100当量以下であることが好ましく、10当量以下であることがより好ましい。反応溶媒として脂肪族アミド化合物のみを用いてもよいし、これとトルエン等の他の溶媒を併用してもよい。
【0129】
本実施形態に係るポリ(アリーレンスルホニウム塩)と脂肪族アミド化合物とを反応させる際の条件は、脱アルキル化又は脱アリール化が適切に進行するように、適宜調整することができる。反応温度は、50〜250℃の範囲であることが好ましく、80〜230℃の範囲であることがより好ましい。
【0130】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を水、水溶性溶媒又はこれらの混合溶媒で洗浄する工程を更に含んでもよい。このような洗浄工程を含むことにより、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂に含まれる脱アルキル化剤又は脱アリール化剤等の残存量をより確実に低減することができる。この傾向は、脱アルキル化剤又は脱アリール化剤として、脂肪族アミド化合物を使用した際に一層顕著となる。
【0131】
洗浄工程を経ることにより、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂中の脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の残存量をより確実に低減することが可能である。樹脂中の脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の残存量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂と脱アルキル化剤又は脱アリール化剤等の他の成分とを含む樹脂の質量を基準として、1000ppm以下の範囲であることが好ましく、700ppm以下の範囲であることがより好ましく、100ppm以下の範囲であることが更に好ましい。樹脂中の脱アルキル化剤又は脱アリール化剤の残存量を1000ppm以下とすることにより、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の品質に対する実質的な影響をより低減できる。
【0132】
かかる洗浄工程において使用する溶媒は、特に制限されるものではないが、未反応物を溶解させるものであることが好ましい。溶媒としては、例えば、水、塩酸、酢酸水溶液、シュウ酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;アセトニトリル等のニトリル系溶媒等;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の含ハロゲン溶剤等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの溶媒のうち、反応試薬の除去及び樹脂のオリゴマー成分の除去の観点から、水又はN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0133】
上記洗浄工程を経て得られた反応生成物は、必要ならば塩基性化合物を含んだ水溶液を用いて塩基処理して、ポリアリーレンスルフィド樹脂の分子構造中に存在するヒドロキシ基又はカルボキシ基を金属塩に置換させてもよい。
【0134】
前記塩基処理の温度条件は5〜100℃の範囲が挙げられるが、ポリアリーレンスルフィド樹脂中の末端金属塩量を増大させ、かつ、分子量低下を防止する点から特に15〜80℃の範囲の温度であることが好ましい。前記塩基処理工程の際のpHは、塩基処理工程後において3.0〜10.0の範囲に制御されることが好ましく、ポリアリーレンスルフィド樹脂中の末端金属塩含有量が高まる点から6.0〜8.0の範囲に制御されることがより好ましい。pHの測定方法は、例えば、スラリーに対して酸を添加する場合には該スラリーをろ過したろ液のpHを測定する方法が挙げられ、ろ過後の固形分であるポリアリーレンスルフィド樹脂に対して塩基処理する場合には、所定の塩基濃度の水溶液を用いて洗浄を繰り返して得られたろ液を全て混合した洗浄ろ液のpHを測定する方法を挙げることができる。
【0135】
前記塩基処理に用いる塩基性化合物としては、水溶液中で強塩基性を示す化合物であることが好ましく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム;炭酸カルシウム;リン酸ナトリウム等を用いてもよい。
【0136】
上記工程(a)により得られるポリ(アリーレンスルホニウム塩)を使用して、一実施形態に係る製造方法により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、下記一般式(1−1)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、特定官能基を含む末端基と、を有する。
【0137】
【化33】
【0138】
一般式(1−1)中、R2b、Ar、Ar、Ar3b及びZは、すでに定義したとおりである。一般式(1−1)において、Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基、かつR2bが直接結合であるとき、Zは、直接結合、−CO−、−SO−又は−C(CF−であることが好ましい。Ar、Ar及びAr3bが1,4−フェニレン基、R2bが−Ar4b−、かつAr4bが1,4−フェニレン基であるとき、Zは、−S−、−O−、−CO−、−SO−又は−C(CF−であることが好ましい。
【0139】
一般式(1−1)で表される構成単位において、Ar、Ar、Ar3b及びAr4bの結合の態様は特に制限されるものではなく、一般式(1−2)、(1−3)及び(1−4)のAr及びArの結合の態様と同様の考えを適用し得る。
【0140】
Ar、Ar、Ar3b及びAr4bで表されるアリーレン基が置換基を有する場合、置換基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10の範囲のアルキル基、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。ただし、Ar、Ar、Ar及びAr4bが置換基を有するアリーレン基である一般式(1−1)の構成単位の割合は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化度及び耐熱性の低下をより抑制する観点から、ポリアリーレンスルフィド樹脂全体の10質量%以下の範囲であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0141】
上記ポリアリーレンスルフィド樹脂が有する構成単位は、樹脂の使用の目的等に合わせて、例えば、一般式(1−3)で表されるスルホキシドと一般式(1−4)で表される芳香族化合物との組み合わせを変更することにより、適宜選択することができる。
【0142】
前記一般式(1−1)で表されるポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度は、70〜200℃の範囲であることが好ましく、80〜170℃の範囲であることがより好ましい。樹脂のガラス転移温度は、DSC装置により測定される値のことを示す。
【0143】
前記一般式(1−1)で表されるポリアリーレンスルフィド樹脂の融点は、100〜400℃の範囲であることが好ましく、150〜370℃の範囲であることがより好ましい。樹脂の融点は、DSC装置により測定される値のことを示す。
【0144】
一方、上記工程(b)により得られるポリ(アリーレンスルホニウム塩)を使用して、一実施形態に係る製造方法により得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、下記一般式(2−1)で表される構成単位を含む主鎖と、主鎖の末端に結合した、特定官能基を含む末端基と、を有する。
【0145】
【化34】
【0146】
一般式(2−1)中、R2b及びArは、すでに定義したとおりである。
【0147】
前記一般式(2−1)で表されるポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度は、70〜200℃の範囲であることが好ましく、80〜170℃の範囲であることがより好ましい。樹脂のガラス転移温度は、DSC装置により測定される値のことを示す。
【0148】
前記一般式(2−1)で表されるポリアリーレンスルフィド樹脂の融点は、100〜400℃の範囲であることが好ましく、150〜370℃の範囲であることがより好ましい。樹脂の融点は、DSC装置により測定される値のことを示す。
【0149】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の特定官能基を含む末端基は、下記一般式(3−1b)、(3−2b)、(3−3b)、(3−4b)、(3−5b)又は(3−6b)で表される基であることが好ましい。これらの末端基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂は、樹脂組成物の製造時におけるシランカップリング剤、又はエポキシ樹脂等の他樹脂との相溶性が良い。樹脂組成物から得られる部材に、異材に対する優れた密着性を付与することもできる。
【0150】
【化35】

式中、Rは直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar5bは、アリール基を表す。
【0151】
ポリアリーレンスルフィド基の特定官能基を含む末端基は、下記一般式(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される基であってもよい。これら末端基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂も、樹脂組成物の製造時におけるシランカップリング剤、又はエポキシ樹脂等の他樹脂との相溶性が良い。樹脂組成物から得られる部材に、異材に対する優れた密着性を付与することができる。
【0152】
【化36】

式中、Rは、直接結合又は炭素原子数1〜10の範囲のアルキレン基を表し、Ar6bは、アリール基を表す。
【0153】
Ar5b及びAr6bのアリール基は、アリール基に置換基が結合したアリーレン基も含みうる。
【0154】
一般式(4−1b)、(4−2b)、(4−3b)又は(4−4b)で表される末端基としては、例えば、以下の化学式で表される基が挙げられる。式中、Rは、式(4−1a)等と同様に定義される。
【0155】
【化37】
【0156】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂のハロゲン含有量は、900ppm以下であることが好ましく、500ppm以下であることがより好ましい。
【0157】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂のナトリウム含有量は、100ppm以下であることが好ましく、50ppm以下であることがより好ましい。ナトリウム含有量がこのような範囲にあるポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることにより、耐薬品性に優れた成形品を作製することができる。
【0158】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂のMw(質量平均分子量)は、1,000〜100,000の範囲であることが好ましく、5,000〜80,000の範囲であることがより好ましい。
【0159】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂の加熱時のガス発生量は、0.2質量%以下の範囲とすることができ、好ましくは0.15質量%以下の範囲とすることができる。加熱時のガス発生量を抑制することができることにより、作業環境の改善等に寄与することができる。さらに、成形時に金型の汚れを抑えることができ、生産性が向上する。
【0160】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、1種又は2種以上の無機質充填剤を含有することができる。無機充填剤を含有することにより、高剛性、高耐熱安定性の組成物が得られる。無機充填剤としては、例えばカーボンブラック、炭酸カルシウム、シリカ及び酸化チタン等の粉末状充填剤、タルク及びマイカ等の板状充填剤、ガラスビーズ、シリカビーズ及びガラスバルーン等の粒状充填剤、ガラス繊維、炭素繊維及びウォラストナイト繊維等の繊維状充填剤、並びにガラスフレークが挙げられる。ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンブラック、及び炭酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の無機質充填剤を含有することが特に好ましい。
【0161】
無機充填剤の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは5〜200質量部の範囲、更に好ましくは15〜150質量部の範囲である。無機質充填剤の含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の機械的強度保持の点でより優れた効果が得られる。
【0162】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、熱可塑性樹脂、エラストマー、及び架橋性樹脂から選ばれる、ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の樹脂を含有することができる。これら樹脂は、無機質充填剤とともに樹脂組成物中に配合することもできる。
【0163】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物に配合される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、シリコーン樹脂、及び液晶ポリマー(液晶ポリエステル等)が挙げられる。
【0164】
ポリアミドは、アミド結合(−NHCO−)を有するポリマーである。ポリアミド樹脂としては、例えば、(i)ジアミンとジカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、(ii)アミノカルボン酸の重縮合から得られるポリマー、及び(iii)ラクタムの開環重合から得られるポリマー等が挙げられる。ポリアミドは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0165】
ポリアミドを得るためのジアミンの例としては、脂肪族系ジアミン、芳香族系ジアミン、及び脂環族系ジアミン類が挙げられる。脂肪族系ジアミンとしては、直鎖状又は側鎖を有する炭素原子数3〜18の範囲のジアミンが好ましい。好適な脂肪族系ジアミンの例としては、1,3−トリメチレンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカンメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、1,13−トリデカメチレンジアミン、1,14−テトラデカメチレンジアミン、1,15−ペンタデカメチレンジアミン、1,16−ヘキサデカメチレンジアミン、1,17−ヘプタデカメチレンジアミン、1,18−オクタデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0166】
芳香族系ジアミンとしては、フェニレン基を有する炭素原子数6〜27の範囲のジアミンが好ましい。好適な芳香族系ジアミンの例としては、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフォン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジ(m−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、4,4'−ジ(p−アミノフェノキシ)ジフェニルスルフォン、ベンジジン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジエチル−5,5'−ジメチルジフェニルメタン、4,4'−ジアミノ−3,3',5,5'−テトラメチルジフェニルメタン、2,4−ジアミノトルエン、及び2,2'−ジメチルベンジジンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0167】
脂環族系ジアミンとしては、シクロヘキシレン基を有する炭素原子数4〜15の範囲のジアミンが好ましい。好適な脂環族系ジアミンの例としては、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンメタン、4,4'−ジアミノ−ジシクロヘキシレンプロパン、4,4'−ジアミノ−3,3'−ジメチル−ジシクロヘキシレンメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、及びピペラジンが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0168】
ポリアミドを得るためのジカルボン酸としては、脂肪族系ジカルボン酸、芳香族系ジカルボン酸、及び脂環族系ジカルボン酸を挙げることができる。
【0169】
脂肪族系ジカルボン酸としては、炭素原子数2〜18の範囲の飽和又は不飽和のジカルボン酸が好ましい。好適な脂肪族系ジカルボン酸の例としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、プラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0170】
芳香族系ジカルボン酸としては、フェニレン基を有する炭素原子数8〜15の範囲のジカルボン酸が好ましい。好適な芳香族系ジカルボン酸の例としては、イソフタル酸、テレフタル酸、メチルテレフタル酸、ビフェニル−2,2'−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルメタン−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4'−ジカルボン酸、ジフェニルスルフォン−4,4'−ジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、及び1,4−ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。更に、トリメリット酸、トリメシン酸、及びピロメリット酸等の多価カルボン酸を、溶融成形可能な範囲内で用いることもできる。
【0171】
アミノカルボン酸としては、炭素原子数4〜18の範囲のアミノカルボン酸が好ましい。好適なアミノカルボン酸の例としては、4−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、14−アミノテトラデカン酸、16−アミノヘキサデカン酸、及び18−アミノオクタデカン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0172】
ポリアミドを得るためのラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ζ−エナントラクタム、及びη−カプリルラクタムが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0173】
好ましいポリアミドの原料の組み合わせとしては、ε−カプロラクタム(ナイロン6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン6,6)、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、及びm−キシリレンジアミン/アジピン酸が挙げられる。これらの中でも、1,4−テトラメチレンジアミン/アジピン酸(ナイロン4,6)、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸、1,9−ノナメチレンジアミン/テレフタル酸/ε−カプロラクタム、又は1,9−ノナメチレンジアミン/1,6−ヘキサメチレンジアミン/テレフタル酸/アジピン酸から得られるリアミド樹脂が更に好ましい。
【0174】
熱可塑性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂の含有量がこれらの範囲にあることにより、耐熱性、耐薬品性及び機械的物性の更なる向上という効果が得られる。
【0175】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に含有されうるエラストマーとしては、熱可塑性エラストマーが挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー及びシリコーン系エラストマーが挙げられる。なお、本明細書において、熱可塑性エラストマーは、前記熱可塑性樹脂ではなくエラストマーに分類される。
【0176】
エラストマー(特に熱可塑性エラストマー)は、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有することが好ましい。これにより、接着性及び耐衝撃性等の点で特に優れた樹脂組成物を得ることができる。係る官能基としては、エポキシ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。係る官能基を有する熱可塑性エラストマーは、例えば、α−オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン−1等の炭素原子数2〜8の範囲のα−オレフィン類が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素原子数4〜10の範囲のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基、カルボキシ基、及び、式:R(CO)O(CO)−又はR(CO)O−(式中、Rは炭素原子数1〜8の範囲のアルキル基を表す。)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン−プロピレン共重合体及びエチレン−ブテン共重合体が、靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。
【0177】
エラストマーの含有量は、その種類、用途により異なるため一概に規定することはできないが、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜45質量部の範囲である。エラストマーの含有量がこれらの範囲にあることにより、成形品の耐熱性、靭性の確保の点でより一層優れた効果が得られる。
【0178】
本発明に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物中に含有されうる架橋性樹脂としては、2以上の架橋性官能基を有するものが挙げられる。架橋性官能基としては、エポキシ基、フェノール性水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシ基、酸無水物基、及びイソシアネート基などが挙げられる。架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びウレタン樹脂が挙げられる。
【0179】
エポキシ樹脂としては、芳香族系エポキシ樹脂が好ましい。芳香族系エポキシ樹脂は、ハロゲン基又は水酸基等を有していてもよい。好適な芳香族系エポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン−フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、及びビフェニルノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。これらの芳香族系エポキシ樹脂は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これら芳香族系エポキシ樹脂の中でも特に、他の樹脂成分との相溶性に優れる点から、ノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0180】
架橋性樹脂の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは1〜300質量部の範囲、より好ましくは3〜100質量部の範囲、更に好ましくは5〜30質量部の範囲である。架橋性樹脂の含有量がこれら範囲にあることにより、成形品の剛性及び耐熱性の向上という効果が特に顕著に得られる。
【0181】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、ヒドロキシ基又はアミノ基と反応し得る官能基を有するシラン化合物とを含有することができる。係るシラン化合物としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及びγ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシランカップリング剤が挙げられる。
【0182】
シラン化合物の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。シラン化合物の含有量がこれらの範囲にあることにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂と前記他の成分との相溶性向上という効果が得られる。
【0183】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤及び滑剤等のその他の添加剤を含有してもよい。添加剤の含有量は、例えば、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲であることが好ましい。
【0184】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法は特に制限なく、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分とを、粉末、ペレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンダーなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーダーなどの公知の溶融混練機に投入し、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは(該融点+10℃)以上となる温度範囲、より好ましくは(該融点+10℃〜該融点+100℃)となる温度範囲、さらに好ましくは(該融点+20〜該融点+50℃)となる温度範囲で溶融混練する工程を経て製造することができる。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。
【0185】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5〜500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50〜500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02〜5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。また、例えば、繊維状の充填剤や添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のトップフィーダーに替えて、サイドフィーダーから該押出機内に投入することもでき、形状保持と分散性を向上させることもでき好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1〜0.9の範囲であることが好ましい。中でも0.3〜0.7の範囲であることが特に好ましい。
【0186】
このようにして得られる本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、必須成分であるポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分とを前記含有量となるよう配合してなる溶融混練物であり、該溶融混練後に、公知の方法でペレット、チップ、顆粒、粉末等の形態に加工してから、必要に応じて100〜150℃の温度範囲で予備乾燥を施して、各種成形に供することが好ましい。
【0187】
上記製造方法により製造される本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂をマトリックス(海成分)とし、当該マトリックス中に、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー、及び2以上の架橋性官能基を有する架橋性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分ないし、それらに由来する成分が島状に分散した海島構造を有するモルフォロジーを形成するものであることが好ましい。
【0188】
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種の溶融成形に供することが可能であるが、特に離型性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されるものではなく、一般的な方法により成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは(該融点+10℃)以上の温度範囲、より好ましくは(該融点+10℃)〜(該融点+100℃)の温度範囲、さらに好ましくは(該融点+20℃)〜(該融点+50℃)の温度範囲で前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口から金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)〜300℃の温度範囲、好ましくは120〜200℃の温度範囲に設定すればよい。
【0189】
本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、単独で又は前記他の成分などの材料と組み合わせて、射出成形、押出成形、圧縮成形及びブロー成形のような各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形品に加工することができる。本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、加熱されたときのガス発生量が少ないことから、高品質の成形品の容易な製造を可能にする。
【0190】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤のうち、高熱伝導性を有するもの(以下、高熱伝導性無機質充填剤という)とを組合せることによって、熱伝導性に優れる成形品に加工することができる。高熱伝導性無機質充填剤としては、熱伝導率が20以上〔W/m・K〕の範囲のものが好ましいものとして挙げられ、例えば、酸化アルミニウム、酸化ベリリウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウムまたは窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、酸化亜鉛、硫化亜鉛等が挙げられ、これらを単独あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。その際、優れた熱伝導性を示すことから、高熱伝導性無機質充填剤の組成物中の割合は、成形品が高い熱伝導性を示すことから、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、10質量部以上の範囲であることが好ましく、かつ、成形性や成形品が高い機械的強度等を示すことから、300質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0191】
また、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、例えば、上述したポリアリーレンスルフィド樹脂と、上述した熱可塑性エラストマーとを組合せることによって、耐冷熱衝撃性に優れる流体用配管を含む水廻り用途の成形品に加工することができる。
【0192】
なお、流体用配管としては、例えばパイプ、ライニング管、袋ナット類、管継ぎ手類(エルボー、ヘッダー、チーズ、レデューサ、ジョイント、カプラー、等)、各種バルブ、流量計、ガスケット(シール、パッキン類)、など流体を搬送する為の配管及び配管に付属する各種の部品(流体用配管)が挙げられる。また、その他に水廻り用途としては、トイレ関連部品、給湯器関連部品、ポンプ関連部品、風呂関連部品等の水廻り用途に適した材料である。特に弁、栓といった開閉部品は、一般に恒常的に高応力負荷が係り、酸性或いはアルカリ性の洗浄剤及び特に冬場における冷気と熱水との温度差によるダメージが大きく、その結果長期に亘る使用が困難なため、本発明の組成物は、特にこの開閉部品の分野において有用である。
【0193】
さらに本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を電気自動車部品に用いると、加熱によるガス発生量を低減させることができるため、ガス成分である硫黄原子を含む低分子量化合物と銅などの金属材料(導電性材料)との接触を低減でき、その結果、高い電圧が繰り返し印加された場合であっても両者の反応を抑制でき、トリー(樹枝状の破壊痕跡)の発生や進展を抑制して、耐トラッキング性を向上させることも可能となる。その結果、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車に搭載する部品(以下、自動車部品という)などに用いることができるだけでなく、とりわけ高い安全性が要求される電気自動車分野、すなわち、リチウムイオン二次電池を備え、電気モーターを動力源とする、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)等に、例えば、パワーモジュール、コンバータ、コンデンサ、インシュレーター、モーター端子台、バッテリー、電動コンプレッサー、バッテリー電流センサー、ジャンクションブロック等を収納するケースなど、特にDLIシステムのイグニッションコイル用ケースなどとして好適に用いられる。
【0194】
その他、本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、リチウムイオン等の二次電池用ガスケット材料、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、OA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの寸法安定性を求められる精密部品を、例えば射出成形、圧縮成形、インサート成形により得るために用いることができる。また、本実施形態に係るポリアリーレンスルフィド樹脂組成物は、コンポジット、シート及びパイプ等のための押出成形、引抜成形等の各種成形加工用の材料、並びに、繊維又はフィルム用の材料として幅広く有用である。
【0195】
なお、本発明において、「1〜10」の範囲といった場合、1以上、かつ10以下の範囲を表すものとする。
【実施例】
【0196】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0197】
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造例〕
1.評価法
1−1.同定方法(各種NMR)
BRUKER製DPX−400の装置にて、化合物を各種重溶媒に溶解させて、各種NMRを測定した。
1−2、3.融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)
パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamondを用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40〜350℃の範囲まで測定を行い、融点を求めた。ポリマー合成例7、8で得られた樹脂に関しては、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40〜400℃の範囲まで測定を行い、融点及びガラス転移温度(Tg)を求めた。
【0198】
1−4.質量平均分子量
センシュー科学製高温ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)SSC−7000を用いて、質量平均分子量を測定した。平均分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
溶媒:1−クロロナフタレン
投入口:250℃
温度:210℃
検出器:UV検出器(360nm)
サンプル濃度:1g/L
流速:0.7mL/min
【0199】
1−5.赤外吸収スペクトル測定
日本分光株式会社製「FT/IR−6100」を用いて、赤外吸収スペクトル測定を測定した。合成した樹脂を330℃のホットプレートで加熱して溶融させ、急冷することで作製した非晶フィルムを測定サンプルとして用いた。ポリマー合成例7、8で得られた樹脂に関しては、400℃のホットプレートで加熱して溶融させ、急冷することで作製した非晶フィルムを測定サンプルとして用いた。
【0200】
2.モノマーの合成
以下に示す実施例では、下記の試薬を使用した。
・メチルフェニルスルホキシド:和光純薬工業株式会社
・チオアニソール:和光純薬工業株式会社、純度99%
・メタンスルホン酸:和光純薬工業株式会社、和光特級
・60%過塩素酸:和光純薬工業株式会社、試薬特級
・ピリジン:和光純薬工業株式会社、試薬特級
・ジクロロメタン:関東化学株式会社、特級
・クロロホルム:関東化学株式会社、特級
・n−ヘキサン:関東化学株式会社、特級
・酢酸エチル:関東化学株式会社、特級
・炭酸水素カリウム:和光純薬工業株式会社、試薬特級
・水酸化ナトリウム:関東化学工業株式会社、特級
・臭素:和光純薬工業株式会社、試薬特級
・ビス[4−(メチルチオ)フェニル]スルフィド:シグマアルドリッチ製 製品番号S203815−25MG
・硝酸(1.38):和光純薬工業(株)製、試薬特級、含量60〜61%の範囲、密度
1.38g/mL
・4,4’-ビス−メチルスルファニル−ビフェニル:シグマアルドリッチ製 製品番号S203807−25MG
・4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル:東京化成工業株式会社、純度>98%
・ヨードメタン:関東化学株式会社、特級
・ヨウ化銅:関東化学株式会社、純度>99%
・硫黄:関東化学株式会社
・炭酸カリウム:ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級
・N,N−ジメチルホルムアミド(脱水):関東化学株式会社、特級
・水素化ホウ素ナトリウム:関東化学株式会社
・セライト:和光純薬工業株式会社、No. 503
・tert‐ブチルリチウム(n‐ペンタン溶液)1.6mol/L:関東化学株式会社
・テトラヒドロフラン(脱水):関東化学株式会社
・ジフェニルジスルフィド:関東化学株式会社、特級
・塩化アンモニウム:ナカライテスク株式会社、ナカライ規格特級
・酸化リン(V)(5酸化2リン):和光純薬工業株式会社、和光特級
・N−メチル−2−ピロリドン(NMP):関東化学株式会社、特級
・フェニルプロピオン酸:東京化成工業株式会社、純度>98%
・フェノール:東京化成工業株式会社、純度>98%
・アニリン:東京化成工業株式会社、純度>98%
・ジフェニルスルフィド:和光純薬工業(株)製、和光特級
・サリチル酸:関東化学株式会社、特級
・m-アミノフェノール:和光純薬工業株式会社、和光一級
【0201】
(モノマー合成例1)
過塩素酸メチルフェニル[4−(メチルチオ)フェニル]スルホニウムの合成
【0202】
【化38】
【0203】
3つ口フラスコに、メチルフェニルスルホキシド100質量部に対し、チオアニソール120質量部を入れ、窒素雰囲気下にし、氷浴で5℃以下に冷却した。メタンスルホン酸2000質量部を10℃以下に保ちながら、反応溶液に加え、その後氷浴を外し、室温に温度を上げ、20時間攪拌した。その後、反応溶液を2000質量部の60%過塩素酸水溶液に投入し、1時間攪拌した。水を1000質量部、ジクロロメタンを1000質量部加えて、抽出/分液して、有機層を回収した。更に水層にジクロロメタン500質量部を加えて、有機層を回収する操作を2回行った。回収した有機層に無水硫酸マグネシウムを加えて脱水し、ろ過によってろ別した溶液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。その後、残った固体にジエチルエーテルを加えて再結晶し、ろ過によってろ別した固体を20時間減圧乾燥することで、過塩素酸メチルフェニル[4−(メチルチオ)フェニル]スルホニウムを収率75%にて得た。H−NMRによって、生成物ができていることを確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.49,3.63,7.40,7.65,7.78,7.85[ppm]
【0204】
(モノマー合成例2)
メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルフィドの合成
【0205】
【化39】
【0206】
3つ口フラスコに、過塩素酸メチルフェニル[4−(メチルチオ)フェニル]スルホニウム100質量部を入れ、窒素雰囲気下にし、ピリジンを500質量部添加して30分攪拌した。その後、反応溶液を100℃に昇温し、30分間攪拌した。反応溶液を3000質量部の10%HCl溶液に投入して、10分間攪拌した。その後、ジクロロメタンで抽出/分液して有機層を回収し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水し、ろ過によってろ別した溶液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。展開溶媒にヘキサン/クロロホルム=3/1を用いて、カラムクロマトグラフィーによって目的生成物を分離した。分離した目的生成物を含む溶液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、20時間減圧乾燥することで、メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルフィドを収率83%にて得た。H−NMRによって、生成物ができていることを確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.48,7.18〜7.23,7.28〜7.31[ppm]
【0207】
(モノマー合成例3)
メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルホキシドの合成
【0208】
【化40】
【0209】
3つ口フラスコに、メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルフィド100質量部に対し、炭酸水素カリウム86質量部、水800質量部、ジクロロメタン1000質量部を入れて30分間攪拌した。ジクロロメタン1000質量部に臭素69質量部溶解させた溶液を5分間かけて反応容器内に滴下し、30分攪拌した。反応溶液にKCl飽和溶液1リットル及びジロロメタン1リットルを投入し、抽出/分液によって有機層を回収した。残った水層にジクロロメタン1000質量部を加えて、有機層を回収する操作を2回行った。回収した有機層を水洗/分液し、無水硫酸マグネシウムを加えて脱水し、ろ過によってろ別した溶液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去した。残った固体にジエチルエーテルを加えて再結晶し、ろ過によってろ別した固体を20時間減圧乾燥することで、メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルホキシドを収率57%にて得た。H−NMR、13C−NMRによって、生成物が出来ていることを確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.71,7.34,7.39,7.46,7.52[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):46.0,124.5,128.5,129.7,133.0,133.5,141.5,144.3[ppm]
【0210】
(モノマー合成例4)
ビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]スルフィドの合成
【0211】
【化41】
【0212】
3つ口フラスコに、ビス[4−(メチルチオ)フェニル]スルフィド100質量部に対し、ジクロロメタン2,500質量部を加えて溶解させ、氷浴にて冷却した。反応溶液に硝酸(1.38)80質量部を少しずつ滴下し、室温下で72時間攪拌した。反応溶液を炭酸カリウム水溶液で中和し、ジクロロメタンにて抽出/分液操作を行い、有機層を回収した。無水硫酸マグネシウムにて有機層を脱水した。脱水した有機層をろ過後、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。酢酸エチルを展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーによって目的生成物を分離した。分離した目的生成物を含む溶液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去した後、減圧乾燥することでビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]スルフィドを収率30%にて得た。H−NMR測定により目的物が得られたことを確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.75,7.49,7.61[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):44.0,124.6,131.6,138.7,145.1[ppm]
【0213】
(モノマー合成例5)
ビス[4−(メチルスルフィニル)]ビフェニルの合成
3つ口フラスコに、4,4’-ビス−メチルスルファニル−ビフェニル100質量部に対し、クロロホルム10,000質量部を加えて40℃に加温した。液温40℃に維持しながら、反応溶液に硝酸(1.38)128質量部を少しずつ滴下し、その後40℃で24時間攪拌した。反応溶液を水酸化ナトリウム水溶液で中和し、固体が析出し、クロロホルムにて抽出/分液操作を行い、有機層と固体層を回収した。回収した有機層と固体層をロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。粗生成物を500質量部の水で3回洗浄し、固体分を回収した。更に得た固体分を3つ口フラスコに入れ、その固体分の80倍の塩化メチレンを加えて1時間還流した。その溶液を3時間掛けて除冷して室温に戻し、3日間室温下に置くことで結晶化させた。結晶固体をろ過にて分離し、減圧乾燥することでビス[4−(メチルスルフィニル)]ビフェニルを収率20%にて得た。H−NMR及び13C−NMR測定により目的物が得られたことを確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.79,7.76[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):44.0、124.2、128.2、142.6、145.5[ppm]
【0214】
(モノマー合成例6)
4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニルの合成
【0215】
【化42】
【0216】
3つ口フラスコに、4−ブロモ−4’−ヨードビフェニル100質量部、ヨウ化銅10質量部、硫黄300質量部、炭酸カリウム1,700質量部を入れ、フラスコ内を窒素置換した。フラスコにN,N−ジメチルホルムアミド(脱水)を20,000質量部加えた後、100℃で17時間攪拌した。その後、0℃で水素化ホウ素ナトリウム400質量部を加え、50℃で6時間攪拌した。続いて0℃でヨードメタン900質量部を加え、25℃で20時間攪拌した。攪拌後10%塩酸に反応溶液を注いで反応を停止し、セライトろ過、ジクロロメタンによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。ヘキサンを展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離した。分離した目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニルを収率43%で得た。H−NMR及び13C−NMRにより生成物を確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.52、7.32、7.43、7.48、7.54[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):15.9、121.5、127.0、127.4、128.5、132.0、136.8、138.4、139.6[ppm]
【0217】
(モノマー合成例7)
4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0218】
【化43】
【0219】
窒素置換した3つ口フラスコに、4−ブロモ−4’−(メチルチオ)ビフェニル100質量部、テトラヒドロフラン(脱水)4000質量部を加えた。−78℃下で反応溶液にtert‐ブチルリチウム(n‐ペンタン溶液1.6mol/L)400質量部を加え、1時間攪拌した。続いて、反応溶液にジフェニルジスルフィド100質量部を加え、25℃で3時間攪拌した。その後、反応溶液を塩化アンモニウム水溶液に注いで反応を停止し、ジエチルエーテルによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムで脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターにて溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。ヘキサンを展開溶媒としてカラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離し、目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去することで4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率73%で得た。H−NMR、13C−NMRにより生成物を確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.52、7.24−7.28、7.30−7.34、7.39、7.50[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):15.9、127.0、127.3、127.4、127.6、129.4、131.3、131.5、135.0、135.8、137.1、138.1、139.4[ppm]
【0220】
(モノマー合成例8)
4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルの合成
【0221】
【化44】
【0222】
ナスフラスコに、4−メチルチオ−4’−(フェニルチオ)ビフェニル100質量部、ジクロロメタン2000質量部を入れ、硝酸40質量部を加えた。反応溶液を25℃で3時間攪拌し、飽和炭酸カリウム水溶液にて中和し、反応を停止した。その後、ジクロロメタンによる抽出及び分液の後、有機層を無水硫酸マグネシウムにて脱水した。ろ過後、ろ液からロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで粗生成物を得た。クロロホルムを展開溶媒として、カラムクロマトグラフィーにより粗生成物を分離し、目的生成物を含む溶液を回収し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、減圧乾燥することで4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニルを収率72%で得た。H−NMR、13C−NMR、により生成物を確認した。
H−NMR(溶媒CDCl):2.77、7.30、7.35、7.39、7.43、7.52、7.71[ppm]
13C−NMR(溶媒CDCl):44.1、124.3、127.7、128.0、128.0、129.5、130.9、132.0、135.0、136.9、143.4、144.8[ppm]
【0223】
3.末端変性型ポリスルホニウム塩及びPAS樹脂の合成
(ポリマー合成例1a)
【0224】
【化45】
【0225】
セパラブルフラスコに、メチル4−(フェニルチオ)フェニルスルホキシド100質量部に対し、フェニルプロピオン酸3質量部を入れ、10℃以下に冷却しながらメタンスルホン酸800質量部及び五酸化二リン70質量部を加え20時間攪拌した。反応溶液をアセトン10,000質量部に投入し、析出した固体をろ過にて回収し、これをアセトン600質量部にて2回洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することで、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率97%にて得た。H−NMR、13C−NMRによって、生成物が出来ていることを確認した。
H−NMR(溶媒DMSO−d):3.77,7.59,8.03[ppm]
13C−NMR(溶媒DMSO−d):27.1,127.1,131.7,132.9,140.8[ppm]
【0226】
(ポリマー合成例1b)
【0227】
【化46】
【0228】
ナスフラスコにポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]100質量部に対し、N−メチル−2−ピロリドン800質量部を加えて、溶解させた。これを70℃にて8時間攪拌し、析出した固体をろ過にて回収した。得られた固体をオートクレイブに仕込み、800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて、230℃にて1時間攪拌した。ろ過にて固体を回収し、70℃の水1000質量部にて2回洗浄した。回収した固体を、120℃にて4時間乾燥することで目的のポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−1と表記することがある)を収率72%にて得た。
【0229】
得られた樹脂(PAS−1)について質量平均分子量を測定したところ、25,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は100℃、融点は274℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図1に示すように、1708cm−1の位置にカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0230】
(ポリマー合成例2a)
(ポリマー合成例1a)において、フェニルプロピオン酸の代わりにフェノール2質量部を用いたこと以外は同様の操作を行って、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率100%にて得た。その後、(ポリマー合成例1b)と同様の操作を行ってポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−2と表記することがある)を収率47%にて得た。
【0231】
得られた樹脂(PAS−2)について重量平均分子量を測定したところ、14,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は87℃、融点は277℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図2に示すように、3551cm−1及び3500〜3300cm−1の範囲の位置にヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0232】
(ポリマー合成例3)
(ポリマー合成例1a)において、フェニルプロピオン酸の代わりにアニリン2質量部を用いたこと以外は同様の操作を行って、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率100%にて得た。その後、(ポリマーの合成例1b)と同様の操作を行ってポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−3と表記することがある)を収率48%にて得た。
【0233】
得られた樹脂(PAS−3)について質量平均分子量を測定したところ、36,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は97℃、融点は264℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図3に示すように、3365cm−1の位置にアミノ基のN−H伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0234】
(ポリマー合成例4)
(ポリマー合成例1a)において、フェニルプロピオン酸の代わりにサリチル酸3質量部を用いたこと以外は同様の操作を行って、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率98%にて得た。その後、(ポリマー合成例1b)と同様の操作を行ってポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−4と表記することがある)を収率58%にて得た。
【0235】
得られた樹脂(PAS−4)について質量平均分子量を測定したところ、14,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は88℃、融点は277℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図4に示すように、3552cm−1の位置にヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークが認められ、図5に示すように、1687cm−1の位置にカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0236】
(ポリマー合成例5)
(ポリマー合成例1a)において、フェニルプロピオン酸の代わりにm−アミノフェノール2質量部を用いたこと以外は同様の操作を行って、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率97%にて得た。その後、(ポリマーの合成例1b)と同様の操作を行ってポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−5と表記することがある)を収率72%にて得た。
得られた樹脂(PAS−5)について質量平均分子量を測定したところ、25,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は91℃、融点は275℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図6に示すように、3555cm−1の位置にヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークが認められ、図7に示すように、3433cm−1及び3377cm−1の位置にアミノ基のN−H伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0237】
(ポリマー合成例6)
【0238】
【化47】
【0239】
セパラブルフラスコにビス[4−(メチルスルフィニル)フェニル]スルフィド100質量部を入れ、窒素雰囲気下にし、ジフェニルスルフィド60質量部、五酸化二リン100質量部、フェニルプロピオン酸2.5質量部を加えた。反応溶液を氷浴にて冷却後、メタンスルホン酸750質量部をゆっくり滴下して加えた。その後、反応溶液を室温まで昇温し、20時間攪拌した。反応溶液をアセトン10,000質量部に投入し、析出した固体をろ過にて回収し、これをアセトン600質量部にて2回洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することで、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム]を収率99%にて得た。その後、(ポリマー合成例1b)と同様の操作を行ってポリ(p−フェニレンスルフィド)(以下、PAS−6と表記することがある)を収率48%にて得た。
【0240】
得られた樹脂(PAS−6)について質量平均分子量を測定したところ、22,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は92℃、融点は275℃であった。また、赤外吸収スペクトルを測定したところ、図8に示すように、1707cm−1の位置にカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0241】
(ポリマー合成例7a)
【0242】
【化48】
セパラブルフラスコに、4−メチルスルフィニル−4’−(フェニルチオ)ビフェニル100質量部に対し、サリチル酸3質量部を入れ、10℃以下に冷却しながらメタンスルホン酸500質量部及び五酸化二リン50質量部を加え20時間攪拌した。反応溶液をアセトン10000質量部に投入し、析出した固体をろ過にて回収し、これをアセトン600質量部にて2回洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することで、ポリ{メタンスルホン酸メチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}を収率95%にて得た。
H−NMR(溶媒DMSO−d):3.84、7.63、7.86、8.04、8.14[ppm]
【0243】
(ポリマー合成例7b)
【0244】
【化49】
【0245】
ナスフラスコに、ポリ{メタンスルホン酸メチル4−[4−(フェニルチオ)フェニル]フェニルスルホニウム}100質量部を、N−メチル−2−ピロリドン800質量部に溶解させた。これを70℃にて8時間攪拌し、析出した固体をろ過にて回収した。得られた固体をオートクレイブに仕込み、800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて、230℃にて1時間攪拌した。ろ過にて固体を回収し、70℃の水1000質量部にて2回洗浄した。その後、洗浄した固体を120℃にて4時間乾燥することで、ポリ(p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)(以下、PAS−7と表記することがある)を収率45%にて得た。
【0246】
得られた樹脂(PAS−7)について質量平均分子量を測定したところ、10,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は155℃、融点は372℃であった。赤外吸収スペクトルを測定したところ、図9に示すように、3567cm−1の位置にヒドロキシ基の遊離O−H伸縮振動の吸収ピークが認められ、図10に示すように、1681cm−1の位置にカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0247】
(ポリマー合成例8a)
【0248】
【化50】
【0249】
セパラブルフラスコにビス[4−(メチルスルフィニル)]ビフェニル100質量部に対し、窒素雰囲気下でジフェニルスルフィド66質量部、五酸化二リン130質量部、サリチル酸2質量部を加えた。反応溶液を氷浴にて冷却後、メタンスルホン酸1300質量部をゆっくり滴下して加えた。反応溶液を室温まで昇温し、20時間攪拌した。反応溶液をアセトン10,000質量部に投入し、析出した固体をろ過にて回収し、これをアセトン600質量部にて2回洗浄した。得られた固体を減圧乾燥することで、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム−4’−チオメチル(ビフェニル)]スルホニウムを収率98%にて得た。
【0250】
(ポリマー合成例8b)
ナスフラスコに、ポリ[メタンスルホン酸メチル(4−フェニルチオフェニル)スルホニウム−4’−チオメチル(ビフェニル)]スルホニウム100質量部を、N−メチル−2−ピロリドン800質量部に溶解させた。これを70℃にて8時間攪拌し、析出した固体をろ過にて回収した。得られた固体をオートクレイブに仕込み、800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて、230℃にて1時間攪拌した。ろ過にて固体を回収し、70℃の水1000質量部にて2回洗浄した。その後、洗浄した固体を120℃にて4時間乾燥することで、ポリ(p−フェニレンチオ−p−フェニレンチオ−p,p’−ビフェニリレンスルフィド)(以下、PAS−8と表記することがある)を収率70%にて得た。
【0251】
得られた樹脂(PAS−8)について質量平均分子量を測定したところ、18,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は122℃、融点は330℃であった。また、赤外吸収スペクトルを測定したところ、図11に示すように、3454cm−1の位置にヒドロキシ基のO−H伸縮振動の吸収ピークが認められ、図12に示すように、1684cm−1の位置にカルボキシ基のC=O伸縮振動の吸収ピークの存在が認められた。
【0252】
(比較合成例1)
圧力計、温度計、コンデンサ−、デカンタ−を連結した撹拌翼付きジルコニウムライニ
ングの1リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記
する。)220.5g(1.5モル)、NMP29.7g(0.3モル)、47.43質
量%NaSH水溶液177.29g(1.5モル)、及び48.71質量%NaOH水溶
液123.18g(1.5モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで2
時間掛けて昇温して、水177.98gを留出させた後、釜を密閉した。その際、共沸に
より留出したp−DCBはデカンタ−で分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後、内温
を160℃に冷却し、NMP267.65g(2.7モル)を仕込み、230℃まで昇温
し、230℃で5時間撹拌した後、250℃まで40分で昇温し、250℃で1時間撹拌
した。冷却後、得られたスラリーを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、
濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。
この操作を4回繰り返し、濾過後、熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉
末状のPPS(以下、PAS−9と表記することがある) 154gを得た。
【0253】
得られた樹脂(PAS−9)について質量平均分子量を測定したところ、44,000であった。また熱分析を行った結果、ガラス転移温度(Tg)は92℃、融点は277℃であった。このことから、ポリフェニレンスルフィドが生成していることを確認した。
【0254】
実施例1〜11、比較例1〜4
〔ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(PASコンパウンド)の製造例〕
<原料>
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を調製するため、以下の材料を準備した。
【0255】
(充填剤・添加剤)
・エポキシシラン:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
・GF:ガラス繊維チョップドストランド(繊維径10μm、長さ3mm)
・エラストマー:住友化学製、ボンドファースト7L
・CF:ピッチ系炭素繊維、引張弾性率560GPa
・カーボンブラック:鱗片状黒鉛
・CaCO(炭酸カルシウム):丸尾カルシウム株式会社製、「カルテックス5」(粉末状、平均粒径1.2μm)
【0256】
<評価法>
[冷熱衝撃下での耐クラック性]
縦25mm、横40mm、厚さ10mmの鋼鉄製のインサートブロック部材の、前記部材縦方向の辺の中点同士を結び、前記部材横方向の辺に平行な直線上に、直径3.55mmの厚さ方向に平行な2個の貫通穴の直径の中心を有し、該貫通穴の直径の中心同士が前記直線の中点を中心にして20mm離れて配置されたインサートブロック部材を準備し、次いで、前記2個の貫通穴と射出成型用金型内部に設置された2本の鋼鉄製円柱形のピンとを用いて、前記インサートブロック部材が前記射出成型用金型の内部に保持されるように設置し、かつ、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを射出成型した後に、前記インサートブロック部材の外周全面が肉厚1mmのポリフェニレンスルフィド樹脂組成物で被覆されるように設計された射出成形金型を用いて、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物のペレットを射出成型し成型品を得た。得られた前記インサートブロック部材を内包するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成型品を用いて、気相式の冷熱衝撃試験機中で、「1サイクル;−40℃/0.5時間〜150℃/0.5時間」の冷熱サイクル試験を実施し、クラックが発生するサイクル数を記録した。測定試片数:n=5とし、その平均値を下記基準で評価した。
【0257】
10サイクル未満の範囲でクラック発生…ランク「E」
10以上、かつ100サイクル未満の範囲でクラック発生…ランク「D」
100以上、かつ200サイクル未満の範囲でクラック発生…ランク「C」
200以上、かつ500サイクル未満の範囲でクラック発生…ランク「B」
500サイクル以上の範囲…ランク「A」
【0258】
[PAS樹脂組成物のエポキシ樹脂との接着強度]
得られたペレットをシリンダー温度290〜320℃の範囲にし、また実施例7及び8については360〜410℃の範囲にし、住友−ネスタール社製射出成形機(SG75−HIPRO・MIII)に供給し、金型温度140℃、また実施例8については200℃に温調したASTM1号ダンベル片成形用金型を用いて射出成形を行い、ASTM1号ダンベル片を得た。得られたASTM1号ダンベル片を中央から2等分し、エポキシ接着剤との接触面積が50mmとなるように作成したスペーサー(厚さ:1.8〜2.2mm、開口部:5mm×10mm)を2等分したASTM1号ダンベル片2枚の間に挟み、クリップを用い固定した後開口部にエポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製2液型エポキシ樹脂、主剤:XNR5002、硬化剤:XNH5002、配合比は主剤:硬化剤=100:90)を注入し、135℃に設定した熱風乾燥機中で3時間加熱し硬化・接着させた。23℃下で1日冷却後スペーサーを外し、得られた試験片を用いて歪み速度1mm/min、支点間距離80mm、23℃下でインストロン社製引張試験機を用い引張破断強さを測定し、接着面積で除した値をエポキシ接着強度とした。
【0259】
<コンパウンドの作製と評価>
表1に示す配合組成で各原料を、タンブラーを用いて均一に混合した後、2軸混練押出機(TEM−35B、東芝機械)を用いて6ゾーンの各バレル温度の範囲が、実施例7及び8以外については290〜350℃になるように、実施例7及び8については360〜410℃になるように溶融混練して、ペレット状のコンパウンドを得た。評価結果を表1〜3に示す。
【0260】
【表1】
【0261】
【表2】
【0262】
【表3】
表1〜3に示される結果から明らかなように、ポリマー合成例1〜8のPAS樹脂を用いた実施例1〜11の冷熱衝撃下における耐クラック性は、比較合成例のPAS樹脂を用いた比較例1〜4に比して優れることが明らかとなった。また更にエポキシ接着性の点でも、比較合成例1のPAS樹脂を用いた比較例1〜4のものに比べ、実施例1〜11のものが優れることが明らかとなった。その理由は、確定した理論ではないものの、官能基をポリマー末端に有する効果により、エラストマーやフィラー等との密着性が改良されたことによるものと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12