(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子は、通常、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステルをケン化して得られるポリビニルアルコール系樹脂から得られる。本発明においては、得られるフィルムの延伸性や染色性を目的として、酢酸ビニルと、少量(通常、10モル%以下、好ましくは5モル%以下)の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、たとえば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンなどの炭素数2〜30のオレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和カルボン酸(例えば、塩、エステル、アミド、ニトリル等を含む)や不飽和スルホン酸、及びこれらの塩、エステル、アミドまたはニトリルなどを用いることができる。また、ケン化後の水酸基を化学修飾して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
【0017】
本発明においては、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−ジオール構造を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有する変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、(i)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(ii)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化及び脱炭酸する方法、(iii)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法、(iv)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法等により得られる。
【0018】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは10万〜30万、特に好ましくは11万〜28万、特に好ましくは12万〜26万である。かかる重量平均分子量が小さすぎるとポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られない傾向があり、大きすぎると偏光膜とする場合に延伸が困難となり、工業的な生産が難しくなる傾向がある。なお、本発明におけるポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−MALS法により測定される重量平均分子量である。
【0019】
本発明で用いるポリビニルアルコール系樹脂の平均ケン化度は、通常98モル%以上であることが好ましく、特に好ましくは99モル%以上、更に好ましくは99.5モル%以上、殊に好ましくは99.8モル%以上である。かかる平均ケン化度が小さすぎるとポリビニルアルコール系フィルムを偏光膜とする場合に充分な光学性能が得られない傾向がある。
ここで、本発明における平均ケン化度は、JIS K 6726に準じて測定されるものである。
【0020】
本発明の最大の特徴は、ポリビニルアルコール系樹脂として、平均粒径が600〜1,400μm、粒径分布の半値幅が800μm以下、
粒径500μm以下の粒子の含有割合が10重量%以下、粒径1,700μm以上の粒子の含有割合が10重量%以下、及び粒子形状が扁平率0.5以下である樹脂粒子を用いる点である。
【0021】
本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子の平均粒径は、600〜1,400μmであることが必要であり、特に好ましくは700〜1,400μm、更に好ましくは800〜1,300μmである。
かかる平均粒径が下限値未満では、水中もしくは水分を含んだ状態で粒子が凝集しやすく、かかる凝集体が配管内に付着しやすく本発明の目的を達成できない。また、凝集により水への溶解が困難となり、水溶液中にクラスターが残存しやすく本発明の目的を達成できない。かかる平均粒径が上限値を超えても、水への溶解が困難となり、水溶液中にクラスターが残存しやすく本発明の目的を達成できない。
かかる平均粒径を制御する手法としては、後述する通り、ポリビニルアルコール系樹脂の粉砕や乾燥を特定の条件で行う手法、ふるいにより粒子を選別する手法などが挙げられる。
【0022】
本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子の粒径分布の半値幅は、800μm以下であることが必要であり、特に好ましくは600μm以下、更に好ましくは500μm以下である。かかる粒径分布の半値幅が最大値を超えると、水への溶解温度や溶解時間の設定が困難となり本発明の目的を達成できない。
通常、かかる粒径分布の半値幅の最小値は100μmである。
かかる粒径分布の半値幅を制御する手法としては、後述する通り、ポリビニルアルコール系樹脂の粉砕や乾燥を特定の条件で行う手法、ふるいにより粒子を選別する手法などが挙げられる。
【0023】
本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子は、粒子形状が、扁平率0.5以下の粒子であることが必要であり、好ましくは扁平率0.4以下の粒子、殊に好ましくは扁平率0.3以下の粒子である。
かかる扁平率が高すぎると、水中もしくは水分を含んだ状態で粒子が凝集しやすく、かかる凝集体が配管内に付着しやすく本発明の目的を達成できない。
かかる扁平率を制御する手法としては、後述する通り、ポリビニルアルコール系樹脂の粉砕や乾燥を特定の条件で行う手法が挙げられる。
なお、本発明における扁平率は、粒子の長径をa、粒子の短径をbとした時に(a―b)/aで定義されるものであり、扁平率が小さいほど球や立方体に近く、逆に大きいほど平面状となる。
【0024】
更に、本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子は、粒径500μm以下の粒子の含有割合が10重量%以下であ
り、特に好ましくは7重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
かかる粒径500μm以下の粒子の含有割合が多すぎると、水中もしくは水分を含んだ状態で粒子が凝集しやすく、かかる凝集体が配管内に付着しやす
くなる。
かかる粒径500μm以下の粒子の含有割合を制御する手法としては、ふるいにより粒子を選別する手法などが挙げられる。
【0025】
更に、本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子は、粒径1,700μm以上の粒子の含有割合が10重量%以下であ
り、特に好ましくは7重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。
かかる粒径1,700μm以上の粒子の含有割合が多すぎると、水への溶解が困難となり、水溶液中にクラスターが残存しやす
くなる。
かかる粒径1,700μm以上の粒子の含有割合を制御する手法としては、ふるいにより粒子を選別する手法などが挙げられる。
【0026】
以下に、粒子形態を制御しながらポリビニルアルコール系樹脂粒子を製造する方法を説明する。上述した通り、本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステルをケン化して得られるが、以下、ポリ酢酸ビニルを使用した場合を例にとって説明する。精密な粒子形態の制御は、ケン化後の後処理段階から開始される。
【0027】
本発明
で用いるポリビニルアルコール系樹脂粒子は、下記工程(1)〜(4)を経て製造される。
工程(1)ケン化後のポリビニルアルコール系樹脂組成物を切断及び粉砕の少なくとも一方を行う工程。
工程(2)洗浄工程。
工程(3)乾燥工程。
工程(4)ふるい工程。
【0028】
まず、工程(1)に関して説明する。
ポリ酢酸ビニルのケン化は、通常、アルコール系溶剤などを溶剤とし、水酸化ナトリウムのメタノール溶液などのアルカリ溶液を用いて行われる。ケン化により合成されるポリビニルアルコール系樹脂は、溶剤、アルカリ
、酢酸、酢酸ナトリウムを含有するポリビニルアルコール系樹脂組成物として得られる。かかるポリビニルアルコール系樹脂組成物は、ゼリー状とすることができ、切断や粉砕が可能となる。
【0029】
本発明においては、粒径制御の点でゼリー状の組成物を切断することが好ましく、粒径分布のばらつき低減の点で縦と横に2段階で切断することが特に好ましく、粒子の形状制御の点で切断の間隔が1〜10mmで切断することが更に好ましい。
上記切断に際しては、スライサー、バンドソー、ラバーカッターなどの回転刃を用いた切断機を使用することが好ましい。
【0030】
上記粉砕を行う場合は、ビーズミル、ボールミル、ハンマーミル、ウィングミル、スクリーンミル、ロールミル、ジェットミル、撹拌ミルなどの公知の粉砕機を用いて行なうことができる。
【0031】
工程(2)の洗浄工程は、ポリビニルアルコール系樹脂組成物中の溶剤、アルカリ、酢酸、酢酸ナトリウムなどを除去する工程である。洗浄溶剤としてはアルコール系溶剤が好ましい。洗浄方法は、特に限定されず、切断及び粉砕の少なくとも一方を行った後のポリビニルアルコール系樹脂組成物を、洗浄溶剤と混合した後、遠心分離機やデカンタ分離機を用いて、洗浄液を除去すればよい。かくして、含水率10〜50重量%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキが得られる。
【0032】
次いで、工程(3)の乾燥工程に関して説明する。
ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキは乾燥機を用いて加熱することにより乾燥されるが、本発明においては、乾燥の一環として、より効率的に残存する酢酸メチルとメタノールを除去して純度を向上させる目的で、ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを水蒸気(スチーム)と接触させて湿式乾燥させることが好ましい。具体的には、缶内にウェットケーキを投入し、缶内でウェットケーキとスチームを接触させて、缶上部より共沸物を系外に排出すればよい。かかる湿式乾燥は、ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキから完全に水分を除去することは不可能であるが、ポリビニルアルコール系樹脂の含水量を数%のオーダーまで低減することが可能である。
【0033】
また、上記乾燥は、回転式ドライヤーや撹拌式乾燥槽などの公知の手法で行うことができる。
乾燥温度は70〜150℃とすることが好ましく、特に好ましくは80〜140℃である。かかる乾燥温度が低すぎると乾燥不足になる傾向があり、高すぎると樹脂が黄変する傾向がある。
乾燥時間は、1〜10時間が好ましく、特に好ましくは1〜5時間である。かかる乾燥時間が短すぎると乾燥不足になる傾向があり、長すぎると樹脂が黄変する傾向がある。
【0034】
最後に、工程(4)のふるい工程に関して説明する。
乾燥後、ポリビニルアルコール系樹脂はふるいにかけられる。ふるいは、JIS−Z−8801に準拠したものを、適宜使用することができる。具体的には、目開き22〜5,600μmのステンレス製金網が使用可能であり、複数のふるいを多数段重ねたふるい機を使用することもできる。本発明においては、粒径制御の点で、小さな目開きのふるいと、大きな目開きのふるいを併用することが好ましい。例えば、大きな目開きのふるいをパスした粒子を、小さな目開きのふるい上で捕集することにより、過大な粒径の粒子と過小な粒径の粒子を除去することができる。かかる手法により、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液(製膜原液)調製時の粒子の凝集を低減し、凝集体の配管への付着や配管閉塞を回避することができる。
【0035】
かかるふるい機は、特に限定されず、振動方式、重力落下方式、エアジェット方式、撹拌方式、超音波方式など公知のものを使用できるが、本発明においては、粒径制御の点で、振動方式が好ましく、特に、粒径分布低減の点で、円形状のふるいを用いて3次元振動するふるい機が好ましい。
【0036】
かくして本発明
で用いる偏光膜製造
用ポリビニルアルコール系樹脂粒子が得られる。
【0037】
次いで、
偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法を説明する。ポリビニルアルコール系フィルムは、本発明のポリビニルアルコール系樹脂粒子を用いて、下記工程(A)〜(D)を経て製造される。
工程(A)ポリビニルアルコール系樹脂粒子を水洗浄する工程。
工程(B)水洗浄後のポリビニルアルコール系樹脂粒子を遠心分離で脱水する工程。
工程(C)溶解槽でポリビニルアルコール系樹脂粒子の水溶液を調液する工程。
工程(D)ポリビニルアルコール系樹脂粒子の水溶液をキャスト法により製膜する工程。
なお、前述したポリビニルアルコール系樹脂粒子の製造において、充分な水洗浄が行われる場合は、上記工程(A)と(B)を省略することができる。
【0038】
上記工程(A)においては、前述したポリビニルアルコール系樹脂粒子を、残存する酢酸ナトリウムを除去するために水洗浄する。洗浄液となる水には、アルコールや界面活性剤などの補助成分が少量含まれていてもよい。
【0039】
工程(B)においては、水洗浄しスラリー状態となったポリビニルアルコール系樹脂粒子を、遠心分離機で脱水して含水率50重量%以下のウェットケーキとする。含水率が大きすぎると、工程(C)において、所望する水溶液濃度に調液することが困難になる傾向がある。前述した通り、ポリビニルアルコール系樹脂に粒径500μm以下の粒子が多い場合、樹脂の配管への付着や堆積が発生する。かかる不具合は、ウェットケーキ状態で最も発生しやすい。具体的には、遠心分離機出口から溶解槽へのSUS配管内で発生する。
【0040】
工程(C)においては、溶解槽に、水、得られたポリビニルアルコール系樹脂粒子のウェットケーキ、必要に応じて、グリセリンなどの可塑剤や界面活性剤などを仕込み、加温及び撹拌して溶解させる。かかる溶解は、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解槽中で水蒸気を吹き込んで行なうことが、溶解性の点で好ましい。かかる場合は、溶解槽中で水蒸気を吹き込み、槽内温度が40〜80℃となった時点で、撹拌を開始することが均一溶解できる点で好ましい。撹拌開始時の槽内温度が低すぎると、モーターの負荷が大きくなり、高すぎるとポリビニルアルコール系樹脂粒子の固まりができて均一な溶解ができなくなる傾向がある。更に、水蒸気を吹き込み、槽内温度が通常90〜100℃となった時点で、槽内を加圧し、槽内温度が130〜150℃となったところで水蒸気の吹き込みを終了して、0.5〜3時間撹拌を続け溶解を終了する。
【0041】
かかる溶解温度が低すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の充分な溶解が得られず、ポリビニルアルコール系フィルムの透明性が低下する傾向があり、高すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂粒子や界面活性剤の分解物が生じ、ポリビニルアルコール系フィルムの色相が悪化する傾向がある。
【0042】
かかる溶解時間が短すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂粒子の充分な溶解が行なえず、ポリビニルアルコール系フィルムの染色性が低下する傾向があり、長すぎると、ポリビニルアルコール系樹脂粒子や界面活性剤の分解物が生じ、ポリビニルアルコール系フィルムの色相が悪化する傾向がある。
【0043】
ポリビニルアルコール系樹脂粒子の溶解後は、所望する濃度となるように濃度調整が行なわれるが、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液の樹脂濃度は、好ましくは15〜60重量%、特に好ましくは18〜55重量%、更に好ましくは20〜50重量%である。かかる樹脂濃度が低すぎると、フィルムの乾燥負荷が大きくなる傾向があり、樹脂濃度が高すぎると、粘度が高くなりすぎて製膜が困難となる傾向がある。
【0044】
かくしてポリビニルアルコール系樹脂の水溶液が得られるが、得られたポリビニルアルコール系樹脂の水溶液は、脱泡処理することが好ましい。脱泡方法としては、静置脱泡やベントを有した多軸押出機による脱泡などの方法があげられる。ベントを有した多軸押出機としては、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0045】
工程(D)において、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液は、濾過された後、T型スリットダイからキャストドラムやエンドレスベルトなどのキャスト型に吐出及び流延されて、製膜される。得られたフィルムは、乾燥された後、幅方向両端部をスリットされ、ロールに巻き取られて製品となる。
【0046】
かくして
偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムが得られる。
【0047】
本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、厚さが60μm以下であることが好ましく、特に好ましくは30μm以下である。かかる厚さが、厚すぎると偏光膜の薄型化が困難となる傾向がある。
また、本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、幅4m以上であることが、生産性の点で好ましく、長さ4km以上であることが、生産性の点でより好ましい。
【0048】
本発明の
製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、ヘイズが0.3%以下であることが好ましく、特に好ましくは0.2%以下、更に好ましくは0.1%以下である。ヘイズが高すぎると、偏光膜の光線透過率が低下する傾向にある。かかるヘイズを低減する手法としては、前述したポリビニルアルコール系樹脂の粒子形状を制御する手法、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に界面活性剤を添加して溶解性を向上する手法、キャスト型の表面平滑性を向上する手法などが挙げられる。
【0049】
本発明の製造方法により得られる
偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムは、欠点が少なく、透明性や染色性に優れ、偏光膜の原反とし
て用いられる。
【0050】
以下、本発明の製造方法により得られる
偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜の製造方法について説明する。
【0051】
上記偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、ロールから巻き出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥などの工程を経て製造される。
【0052】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラなどを防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10〜45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1〜10分間程度である。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0053】
染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1〜100g/Lが適当である。染色時間は30〜500秒間程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0054】
ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂などのホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度10〜100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30〜70℃程度、処理時間は0.1〜20分間程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0055】
延伸工程は、一軸方向に3〜10倍、好ましくは3.5〜6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、30〜170℃が好ましい。更に、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0056】
洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1〜80g/L程度でよい。洗浄処理時の温度は、通常、5〜50℃、好ましくは10〜45℃である。処理時間は、通常、1〜300秒間、好ましくは10〜240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0057】
乾燥工程は、大気中で40〜80℃で1〜10分間行えばよい。
【0058】
本発明の
製造方法により得られる偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H
1)より、下式に従って算出される。
〔(H
11−H
1)/(H
11+H
1)〕
1/2
【0059】
更に、本発明の
製造方法により得られる偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0060】
かくして
、偏光膜が得られるが、本発明の
製造方法により得られる偏光膜は、偏光ムラの少ない偏光板を製造するのに好適である。
以下、かかる偏光板の製造方法について説明する。
【0061】
上記偏光膜は、その片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合されて偏光板となる。保護フィルムとしては、たとえば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイドなどのフィルムまたはシートがあげられる。
【0062】
貼合方法は、公知の手法で行われるが、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射することで行われる。
【0063】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、硬化して偏光板とすることもできる。
【0064】
本発明の
製造方法により得られる偏光膜や偏光板は、表示欠点や偏光ムラがなく偏光性能の面内均一性にも優れており、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパーなど)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
なお、例中「部」、「%」とあるのは、重量基準を意味する。
各物性について、次のようにして測定を行った。
【0066】
<測定条件>
(1)平均粒径(μm)
目開き1,700μm(10メッシュ)、1,400μm(12メッシュ)、1,000μm(16メッシュ)、850μm(18メッシュ)、500μm(30メッシュ)、250μm(60メッシュ)、150μm(100メッシュ)のステンレス製ふるいを用意し、この順で得られたポリビニルアルコール系樹脂100kgをふるいにかけていき、各ふるい上に残った樹脂量(kg)をW1700、W1400、W1000、W850、W500、W250、W150として、下記式から平均粒径(μm)を算出した。なお、目開き150μm(100メッシュ)をパスした粒子は微量であったため無視した。
平均粒径(μm)=(1,700×W1700+1,400×W1400+1,000×W1000+850×W850+500×W500+250×W250+150×W150)/100
【0067】
(2)粒径分布の半値幅(μm)
上述したW1700、W1400、W1000、W850、W500、W250、W150の中で、最も多い樹脂量をWmaxとし、ふるい上に残った樹脂量がWmax/2以上となる最大目開きMmax(μm)と最小目開きMmin(μm)から、下記式に従って粒径分布の半値幅(μm)を算出した。
粒径分布の半値幅(μm)=Mmax−Mmin
【0068】
(3)粒径500μm以下の粒子量(重量%)、粒径1,700μm以上の粒子量(重量%)
得られたポリビニルアルコール系樹脂100kgを、目開き500μmのふるいにかけて、パスした重量を粒径500μm以下の粒子量(重量%)とした。また、得られたポリビニルアルコール系樹脂100kgを、目開き1,700μmのふるいにかけて、オンした重量を粒径1,700μm以上の粒子量(重量%)とした。
【0069】
(4)扁平率
得られたポリビニルアルコール系樹脂から100粒の粒子を採取し、顕微鏡で測定して、平均値を扁平率とした。
【0070】
(5)ヘイズ(%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから50mm×50mmの試験片を10枚切り出し、日本電色社製ヘイズメーターNDH−2000を用いて測定し、10枚の平均値をヘイズとした。
【0071】
(6)偏光ムラ
得られた偏光膜から、長さ30cm×幅30cmの試験片を切り出し、クロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだのちに、表面照度14,000ルクス(lx)のライトボックスを用いて、透過モードで光学的な色ムラを観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
○…色ムラなし
×…色ムラあり
【0072】
(7)表示欠点(個)
得られた偏光膜から、長さ30cm×幅13cmの試験片を切り出し、15,000ルクス(lx)の環境下で目視検査し、100μm以上の表示欠点数(個)を測定した。
(8)単体透過率(%)
得られた偏光膜から、長さ4cm×幅4cmのサンプルを切り出し、自動偏光フィルム測定装置(日本分光社製:VAP7070)を用いて、単体透過率を測定した。
【0073】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系樹脂の製造)
パーオキシエステルを開始剤に用いて、メタノール中で酢酸ビニルを重合して、ポリ酢酸ビニルとした。得られたポリ酢酸ビニルの溶液から残存する酢酸ビニルを除去し、次いで、NaOHのメタノール溶液(NaOH濃度2%)を用いてケン化することにより、ポリビニルアルコール系樹脂組成物を得た。得られたゼリー状のポリビニルアルコール系樹脂組成物をベルトで搬送しながら、回転刃を用いて、縦横両方向に幅5mmで切断した後、スクリーンミルを用いて粉砕した。次いで、メタノールと酢酸メチルの混合液で洗浄を行い、遠心分離機で脱溶剤し、ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを溶剤置換スチーミング缶に投入し、スチームと接触させた後、回転式ドライヤーを用いて、100℃で2時間乾燥した。得られた粉末を、まず目開き1,400μmのふるいにかけて大粒径の粒子を除去し、次いで、目開き250μmのふるいにかけて小粒径の粒子を除去した。いずれのふるい作業も、円形状のステンレス製ふるいを用いて、3次元振動により実施した。得られたポリビニルアルコール系樹脂の粒子形態は表1に示される通りであり、重量平均分子量は142,000、ケン化度99.8モル%であった。
【0074】
(ポリビニルアルコール系フィルムの製造)
得られたポリビニルアルコール系樹脂1,000kgを、水12,000kgで洗浄した後、脱水して、水分率40%のウェットケーキを得た。水洗浄後のスラリーからウェットケーキの取り出しまでに、樹脂の配管への付着は観察されなかった。次いで、ウェットケーキ1,700kg、水2,300kg、可塑剤としてグリセリン120kgを加圧溶解缶に入れ、撹拌しながら150℃まで昇温して、樹脂濃度25%に濃度調整を行い、均一に溶解したポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。次いで、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイよりキャストドラムに流延して製膜した。最後に、得られたフィルムを、熱ロールを用いて乾燥を行い、両端部をスリットで切り落とし、巻き取ることによりロール状のポリビニルアルコール系フィルム(厚さ30μm、幅5m、長さ5km)を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性を表2に示す。
【0075】
(偏光膜の製造)
得られたポリビニルアルコール系フィルムを、水温25℃の水槽に浸漬して膨潤させながら、長手方向へ1.7倍に延伸した。次いで、ヨウ素0.5g/L、ヨウ化カリウム30g/Lよりなる28℃の水溶液中に浸漬し、長手方向へ1.6倍に延伸した。次いで、ホウ酸40g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(55℃)に浸漬し、ホウ酸架橋しながら、長手方向へ2.1倍に一軸延伸した。最後に、ヨウ化カリウム水溶液で洗浄を行い、その後、60℃で2分間乾燥して、総延伸倍率5.7倍の偏光膜を得た。得られた偏光膜の特性を表2に示す。
【0076】
<実施例2
、参考例1、2>
表1に記載された製造条件以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系樹脂を得た。得られたポリビニルアルコール系樹脂の粒子形態は表1に示される通りである。更に、実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムと偏光膜の特性を表2に示す。
【0077】
<比較例1>
表1に記載された製造条件以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系樹脂を得た。
得られたポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール系フィルム製造時の配管への付着が多く安定的にポリビニルアルコール系フィルムを連続製造することが困難であり、また水で溶解する際にダマになりやすいため均一に溶解することが難しかった。
【0078】
<比較例2>
表1に記載された製造条件以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系樹脂を得た。
得られたポリビニルアルコール系樹脂は、膨潤時に均一に膨潤させることが困難であり、水への溶解性が低下していた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
実施例1、2
で用いたポリビニルアルコール系樹脂は、平均粒径、粒径分布の半値幅が本発明の特定の範囲内にあるため、ポリビニルアルコール系フィルム製造時に配管への付着がなく、得られるポリビニルアルコール系フィルムは透明性に優れるものであった。
【0082】
一方、平均粒径が本発明の特定の範囲よりも低い比較例1
で用いたポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール系フィルム製造時の配管への付着が多く、ポリビニルアルコール系フィルムを安定的に連続製造することが困難であり、また水で溶解する際にダマになりやすいため均一に溶解することが難しく得られるポリビニルアルコール系フィルムの透明性が悪いものであった。また、粒径分布の半値幅が本発明の特定の範囲よりも広い比較例2
で用いたポリビニルアルコール系樹脂は、膨潤時に均一に膨潤させることが困難であり、水への溶解性が低下するために得られるポリビニルアルコール系フィルムの透明性が悪いものであった。
【0083】
そして、各々のポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光膜の偏光特性は、実施例1
、2が比較例1及び2よりも優れるものであった。
【0084】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。