特許第6816755号(P6816755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6816755
(24)【登録日】2020年12月28日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】ニッケル粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/26 20060101AFI20210107BHJP
【FI】
   B22F9/26 C
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-503427(P2018-503427)
(86)(22)【出願日】2017年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2017008562
(87)【国際公開番号】WO2017150717
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年11月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-41665(P2016-41665)
(32)【優先日】2016年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-75529(P2016-75529)
(32)【優先日】2016年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-75530(P2016-75530)
(32)【優先日】2016年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-251266(P2016-251266)
(32)【優先日】2016年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 佳智
(72)【発明者】
【氏名】平郡 伸一
(72)【発明者】
【氏名】高石 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山隈 龍馬
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/146989(WO,A1)
【文献】 特開平01−130724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種結晶を反応容器に供給し、前記反応容器に水素ガスを供給して、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元処理して硫黄品位が0.01重量%未満のニッケル粉を生成することを特徴とするニッケル粉の製造方法において、
前記還元処理が、ポリアクリル酸を0.5〜1.0g/リットル含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を反応容器に連続的に供給しつつ、
反応容器内の温度を150℃以上、185℃以下の範囲に制御し、
水素ガスの供給量を、反応容器内の内圧が2.5〜3.5MPaの範囲に維持されるように制御して生成したニッケル粉を含むニッケル粉スラリーを得た後、前記反応容器から前記ニッケル粉スラリーを抜出する際に、
前記反応容器の液量が一定となるように、
前記硫酸ニッケルアンミン錯体を含有する溶液と種結晶の供給量と、
前記ニッケル粉スラリーの排出量を調整して
前記反応容器内から前記ニッケル粉スラリーを抜出することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項2】
反応容器内に水素ガスを供給すると共に、前記反応容器内に硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種結晶を供給して、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元処理し、硫黄品位が0.01重量%未満のニッケル粉を生成するニッケル粉の製造方法において、
前記還元処理が、
硫酸アンモニウムとニッケル粉を含むスラリーを貯留させて前記反応容器内に液相部と気相部を構成し、前記反応容器内への水素ガスの供給による前記気相部の内圧制御と、
前記液相部への種結晶を含むスラリーとポリアクリル酸を0.5〜1.0g/リットル含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の連続的な供給と、
前記反応容器内の温度の150℃以上、185℃以下の範囲への制御と、
前記水素ガスの供給量を反応容器内の内圧が2.5〜3.5MPaの範囲に維持する制御を行いながら、生成したニッケル粉を含むニッケル粉スラリーを得た後、前記反応容器から前記ニッケル粉スラリーを抜出する際に、前記反応容器の液量が一定となるように、前記硫酸ニッケルアンミン錯体を含有する溶液と種結晶の供給量と、前記ニッケル粉スラリーの排出量を調整して前記反応容器内から前記ニッケル粉スラリーを抜出して前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元することを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【請求項3】
前記種結晶が、0.1〜100μmの範囲の平均粒径のニッケル粉を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項4】
前記種結晶が、0.1〜10μmの範囲の平均粒径のニッケル粉を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項5】
前記種結晶の添加量が、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルの重量に対し、1〜100重量%となる量の範囲であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項6】
前記還元処理に供される硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中の種結晶の重量に対し、0.5〜5重量%となる量の範囲でポリアクリル酸を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【請求項7】
前記還元処理が、前記反応容器内での還元処理反応時間を5分以上、120分以内になるように、前記種結晶を含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を前記反応容器に連続的に供給することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のニッケル粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は硫酸ニッケルアンミン錯体溶液からニッケル粉を得る方法で、高圧容器に連続的に溶液、水素ガスなどを添加し、かつ連続的にニッケル粉を排出・回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿式製錬プロセスを用いてニッケルの粉末を工業的に製造する方法として、特許文献1に示すように、ニッケルを含有する原料を硫酸溶液に溶解後、溶解液に含有する不純物を除去する浄液工程を経て、得た硫酸ニッケル溶液にアンモニアを添加してニッケルのアンミン錯体を形成させ、次いでこの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を高温・高圧の容器に入れ、水素ガスを供給して硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルを還元し、ニッケル粉を製造する方法が知られている。
【0003】
上記のような製造方法に際しては、高温・高圧の反応で行われることから、取扱いしやすさや装置コストの観点からバッチ式を用いた製造方法を用いることが多かった。しかしバッチ式の製造方法では、反応容器を開け、溶液を装入し、密栓して昇温し、温度と圧力を制御し、水素ガスを吹き込んで還元し、冷却し、反応物を取出す一連の操作を段階ごとに行う必要があり、多大な手間と時間を要し、稼働率が低くなり効率的ではなかった。さらに、反応前後の加熱途中や降温中の影響などが無視できず、この間にスケーリングと称する不均一な析出や粒径のばらつきが生じることがあり、特に粗大なニッケル粉が混じるなど不均一なニッケル粉が生成するとハンドリング時に設備の摩耗や閉塞を発生しやすくなって稼働率が低下させる事態が生じるなど、その影響や除去する手間の問題も重なって、反応稼働率の維持と製品品質を一定に保つのが難しかった。
【0004】
また、上記のバッチ式の方法で得たニッケル粉は、一般的な電解製錬で得られる板(シート)状の電気ニッケルに比較すると、不純物品質面での課題もあった。具体的には、ニッケルの国際的な取引市場であるLME(London Metal Exchenge)において高純度なグレードの認定を得るには、硫黄品位は0.01重量%以下であることが必要とされているが、バッチ式の方法を用いて得たニッケル粉では、上記の高純度のLMEグレードのスペックよりも硫黄品位が高くなる場合があり、電気ニッケルを完全に代替する用途に用いることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−140480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高温・高圧に保たれた反応容器に連続的に溶液と種結晶と水素ガスを供給してニッケル粉を生成させ、かつ連続的に生成した粉を排出・回収することで、高純度で十分に成長しつつ微細なニッケル粉を粒径のばらつきが少ない品質を維持しつつ、併せて高い反応稼働率を維持できる製造方法を提供とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の第1の発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種結晶を反応容器に供給し、その反応容器に水素ガスを供給して、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元処理して硫黄品位が0.01重量%未満のニッケル粉を生成することを特徴とするニッケル粉の製造方法において、その還元処理が、ポリアクリル酸を0.5〜1.0g/リットル含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を反応容器に連続的に供給しつつ、反応容器内の温度を150℃以上、185℃以下の範囲に制御し、その水素ガスの供給量を、反応容器内の内圧が2.5〜3.5MPaの範囲に維持されるように制御して生成したニッケル粉を含むニッケル粉スラリーを得た後、その反応容器からニッケル粉スラリーを抜出する際に、その反応容器の液量が一定となるように、硫酸ニッケルアンミン錯体を含有する溶液と種結晶の供給量と、ニッケル粉スラリーの排出量を調整して反応容器内からニッケル粉スラリーを抜出することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0008】
本発明の第2の発明は、反応容器内に水素ガスを供給すると共に、その反応容器内に硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種結晶を供給して、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元処理し、硫黄品位が0.01重量%未満のニッケル粉を生成するニッケル粉の製造方法において、その還元処理が、硫酸アンモニウムとニッケル粉を含むスラリーを貯留させて反応容器内に液相部と気相部を構成し、その反応容器内への水素ガスの供給による気相部の内圧制御と、液相部への種結晶を含むスラリーとポリアクリル酸を0.5〜1.0g/リットル含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の連続的な供給と、反応容器内温度の150℃以上、185℃以下の範囲への制御と、水素ガスの供給量を反応容器内の内圧が2.5〜3.5MPaの範囲に維持する制御を行いながら生成したニッケル粉を含むニッケル粉スラリーを得た後、その反応容器からニッケル粉スラリーを抜出する際に、その反応容器の液量が一定となるように、硫酸ニッケルアンミン錯体を含有する溶液と種結晶の供給量と、ニッケル粉スラリーの排出量を調整して反応容器内からニッケル粉スラリーを抜出して硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル錯イオンを還元することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0009】
本発明の第の発明は、第1及び第2の発明における種結晶が、0.1〜100μmの範囲の平均粒径のニッケル粉を用いることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
また、本発明の第の発明は、第1及び第2の発明における種結晶が、0.1〜10μmの範囲の平均粒径のニッケル粉を用いることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0010】
本発明の第の発明は、第1から第の発明における種結晶の添加量が、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケル重量に対し、1〜100重量%となる量の範囲であることを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【0011】
本発明の第の発明は、第から第の発明における還元処理に供される硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が、前記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中の種結晶の重量に対し、0.5〜5重量%となる量の範囲でポリアクリル酸を含むことを特徴とするニッケル粉の製造方法。
【0012】
本発明の第の発明は、第1から第の発明における還元処理が、反応容器内での還元処理反応時間を5分以上、120分以内になるように、種結晶を含む硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を反応容器に連続的に供給することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ニッケルの析出を伴う還元処理とその繰り返しによって、種結晶上にニッケルの析出物が形成、成長したニッケル粉を形成できると共に、大きさのばらつきが少ないニッケル粉を連続して得ることができる。
また、分散剤の効果により低硫黄品位で微細な粉状の析出物としてニッケル粉を溶液から抽出、回収でき、さらに、ニッケル粉の粒径と分散剤濃度の組み合わせによっては、球状で平滑な表面を持つ粗大なニッケル粉をも得ることができる。
本発明で製造したニッケル粉は、積層セラミックコンデンサーの内部構成物質であるニッケルペースト用途として用いることができる他、水素による上記還元処理を繰り返すことにより粒子を成長させ、高純度のニッケルメタルを製造することが可能な品質を維持しつつ高い反応稼働率を維持できる製造方法であって、工業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1に係るニッケル粉の光学顕微鏡写真(×50)である。
図2】本発明の実施例2に係るニッケル粉の光学顕微鏡写真(×100)である。
図3】本発明の実施例3に係るニッケル粉のSEM写真(×1000)である。
図4】本発明の実施例4に係るニッケル粉のSEM写真(×500)である。
図5】本発明の実施例4に係るニッケル粉の光学顕微鏡写真で、(a)は×50、(b)はその拡大写真(×100)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に種結晶を加え、連続的に供給しつつ加圧容器である反応容器に吹き込まれた水素ガスによる還元処理によりニッケル粉を製造し、そのニッケル粉を加圧容器から連続的に排出することを特徴とするニッケル粉の製造方法である。また、分散剤を使用することにより硫黄品位の低い高純度かつ均一で微細なニッケル粉を得ることができる。
以下、本発明のニッケル粉の製造方法を説明する。
【0016】
本発明に用いる硫酸ニッケルアンミン錯体溶液は、特に限定はされないが、ニッケルおよびコバルト混合硫化物、粗硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケル粉などから選ばれる一種、または複数の混合物から成る工業中間物などのニッケル含有物を、硫酸あるいはアンモニアにより溶解して得られるニッケル浸出液(ニッケルを含む溶液)を、溶媒抽出法、イオン交換法、中和などの浄液工程を施すことにより溶液中の不純物元素を除去して得られる溶液に、アンモニアを添加し、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液としたもの等が適している。
【0017】
本発明では、上記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に、種結晶を添加して混合スラリーを形成して還元処理に供されるものである。
ここで添加する種結晶は、平均粒径が0.1μm以上、100μm以下の粉末を用いることが好ましく、0.1μm以上、10μm以下であればより好ましい。
また、最終のニッケル析出物で不純物となって汚染することのない物質として、ニッケル粉を用いるのが好適である。この種結晶として使用するニッケル粉は、例えば上記硫酸ニッケルアンミン錯体溶液にヒドラジンなどの還元剤を添加することにより作製することができる。
【0018】
また、添加する種結晶の重量は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルの重量に対して1重量%以上、100重量%以下の量とすることが好ましい。1重量%未満では、不均一な析出を抑制する効果を十分に得ることができず、100重量%を超える量を添加しても効果に影響はなく、過剰な添加となる。
【0019】
次いで、混合スラリー中で種結晶を分散させるために、分散剤を添加することもできる。
ここで用いる分散剤としては、ポリアクリル酸塩であれば特に限定されないが、工業的に安価に入手できるものとしてポリアクリル酸ナトリウムが好適である。
分散剤を添加する場合、添加量は添加する種結晶の重量に対し0.5〜5重量%となる範囲が好適である。0.5%未満では分散効果が得られず、また、5%を超えて添加しても分散効果に影響はなく、過剰な添加となる。
あるいは、添加するポリアクリル酸は硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の液量に対して0.5〜1.0g/リットルの濃度になるように添加してもよく、その時に添加する種結晶は、平均粒径が0.1μm以上、10μm以下の種結晶が良い。
なお、本発明において、例えば上記の0.5〜5重量%の記述の「〜」は0.5重量%以上5重量%以下である、ことを示す。
【0020】
次に、種結晶あるいは種結晶と分散剤を硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に添加して形成した混合スラリーを、硫酸アンモニウムとニッケル粉を含むスラリーが貯留し、水素ガスによる内圧制御が成された耐高圧高温容器の反応槽内に連続的に装入し、反応槽内に混合スラリーが占有する液相部と気相部を形成する。或いは、種結晶を含むスラリー又は種結晶と分散剤を含むスラリー、及び硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を、硫酸アンモニウムとニッケル粉を含むスラリーが貯留し、水素ガスによる内圧制御が成された耐高圧高温容器の反応槽内に連続的に装入されて混合スラリーを形成し、反応槽内に混合スラリーが占有する液相部と水素ガスにより内圧制御された気相部を形成する。
【0021】
その後、連続的に装入状態にある反応槽内の混合スラリーが水素ガスによって硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に含まれていたニッケル錯イオンが還元され、添加した種結晶上にニッケルを析出させて成長したニッケル粉とすると共に、その成長したニッケル粉を含むスラリーであるニッケル粉スラリーを形成し、その成長したニッケル粉スラリーを連続的に排出する。
【0022】
このときの反応温度は、150℃以上、185℃以下の範囲が好ましい。150℃未満では還元効率が低下し、185℃を超える温度にしても反応への影響はなく、むしろ熱エネルギー等のロスが増加するので適さない。
【0023】
さらに、反応時の反応槽の気相部の圧力は2.5〜3.5MPaの範囲に維持することが好ましい。2.5MPa未満では反応効率が低下し、3.5MPaを超えても反応への影響はなく、水素ガスのロスが増加する。
【0024】
このような条件によるニッケルの析出を伴う還元処理によって、種結晶上にニッケルの析出物が形成、成長したニッケル粉が形成され、大きさのばらつきが少ないニッケル粉を連続して得ることができる。
また、分散剤の効果により低硫黄品位で微細な粉状の析出物としてニッケルを、溶液から抽出、回収できる。また、ニッケル粉の粒径と分散剤濃度の組み合わせによって、球状で平滑な表面を持つ粗大なニッケル粉を得ることもできる。
【0025】
以上のようにして製造したニッケル粉は、例えば積層セラミックコンデンサーの内部構成物質であるニッケルペースト用途として用いることができる他、上記水素還元を繰り返すことにより粒子を成長させ、高純度で取扱いに適した均一で20μm以下の微細なニッケルメタルを製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
【実施例1】
【0027】
内容積が190リットルの加圧容器(オートクレーブ)を反応槽に用い、この反応槽に硫酸アンモニウムを269g/L、ニッケル粉を100g/Lで含有する溶液スラリー90リットルを張り込み、蓋をして温度を185℃に保ち、次いで水素ガスを吹き込み圧力3.5MPaとして吹き込んだ。
【0028】
次に、その加圧容器に、1リットル当たり150gの硫酸アンモニウムとニッケル濃度が110g/Lの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液からなる始液を毎分1リットルの流量で、さらにスラリー濃度300g/Lのニッケル種晶スラリーを毎分0.25リットルの流量で添加し、還元処理を進めた。
なお、ニッケル種晶スラリーを構成する種結晶としたニッケル粉は、平均粒径が1μmのものを使用した。また、水素ガスは加圧容器の内圧力が3.5MPaを維持するように制御しながら吹き込んだ。
【0029】
加圧容器内の貯液量が90リットル±5リットルの範囲となるように制御しながら還元処理により生成したニッケル粉を含むニッケル粉スラリーを、加圧容器内から連続的に抜き出す運転を、4時間継続した。なお、反応容器内の還元処理反応時間は、始液及び種晶スラリーの投入からニッケル粉スラリーの抜き出しまでの75分間であった。
表1−1に示すように、その抜き出したニッケル粉スラリー中のニッケル濃度は0.28g/Lで、還元率(反応率)、すなわち水素ガスがニッケル粉の析出反応に用いられた割合は、99.6%であった。
【0030】
粒度分布は、表1−2に示すように、100μm〜300μmの割合が99%以上を占め、十分に成長したニッケル粉が得られた。
全体の粒度分布は、300μmを超えた割合は0.1%未満で、150μmを超え300μm以下であるものが91%、100μmを超え150μm以下であるものが8.3%、75μmを超え100μm以下であるものと45μmを超え75μm以下であるものがいずれも0.1%未満、45μm以下であるものが0.7%という分布を示した。
図1に示すように、粒子の形状は一定でなく凝集が見られるものの、粒度分布のばらつきが少ないニッケル粉を連続して製造できることを確かめた。なお、硫黄品位は0.062%となった。
【0031】
【表1-1】
【0032】
【表1-2】
【実施例2】
【0033】
実施例1と同じ反応容器を用い、この反応容器に、硫酸アンモニウムを205g/L、ポリアクリル酸濃度が1g/L、ニッケル粉を105g/Lの濃度で含有する溶液スラリー90リットルを張り込み、蓋をして内部の温度を185℃に保った。
【0034】
次いで水素ガスを反応容器の気相部に吹き込み、容器内の圧力を3.5MPaにした。
次に、この反応容器にニッケル濃度が83g/Lの濃度である硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と濃度120g/Lの硫酸アンモニウムからなる始液を毎分1リットルの流量で供給し、同時にスラリー濃度が150g/Lのニッケル種晶スラリーを毎分0.5リットルの流量で反応容器に連続して供給して還元処理を進めた。
なお、ニッケル種晶スラリーを構成するニッケル粉は、平均粒径が1μmのものを使用した。また、水素ガスは反応容器の内圧力が3.5MPaを維持するように制御しながら吹き込んだ。
【0035】
反応容器の貯液量が90リットル±5リットルの範囲となるように制御しながら還元処理済みスラリーを連続的に抜き出し、この運転を16時間継続した。抜き出した還元処理済みスラリーはヌッチェを用いてニッケル粉と濾液とに固液分離し、得たニッケル粉を洗浄し、真空乾燥した。なお、反応容器内の還元処理反応時間は始液及び種晶スラリーの投入からニッケル粉スラリーの抜き出しまでの60分間であった。
その還元率(反応率)、すなわち水素ガスがニッケル粉の析出反応に用いられた割合、は98.9%だった。
得たニッケル粉のD50であらわした平均粒径は5.2μmと上記実施例1よりは微細だったが、ばらつきは少なかった(図2参照)。さらに硫黄品位は0.003%となり、LMEグレードのスペックである0.01%を下回った低硫黄品位の高純度なニッケル粉が得られた。
【0036】
【表2】
【実施例3】
【0037】
実施例1と同じ構造で容量が90リットルの反応容器に硫酸アンモニウム205g/L、ニッケル粉105g/L、それにポリアクリル酸1g/Lの溶液90リットルを張り込み、温度185℃に保ち、水素ガスを吹き込み圧力3.5MPaとした。
【0038】
次に、この加圧容器にニッケル濃度が83g/Lの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と濃度が120g/Lで含有される硫酸アンモニウムからなる始液を、1リットル/分の割合で添加し、併せてスラリー濃度が150g/Lのニッケル種晶スラリーを0.5リットル/分の割合で添加した。また、始液の硫酸ニッケルアンミン錯体溶液にはポリアクリル酸1g/Lの濃度で添加して反応容器に供給した。水素ガスは加圧容器の圧力が3.5MPaとなるよう吹き込んだ。抜き出したニッケル粉スラリーを構成するニッケル粉の平均粒径は5.9μmであった。
【0039】
加圧容器の液量を90リットル±5リットルの範囲で管理しながらニッケル粉スラリーを連続的に抜き出し、この運転を12時間継続した。なお、反応容器内の還元処理反応時間は始液及び種晶スラリーの投入からニッケル粉スラリーの抜き出しまでの60分間であった。
このとき、還元率すなわち反応率は96.8%であった。
硫黄品位は0.003%となり、LMEグレードのスペックである0.01%を下回った。
粒径はD50で6.4μmであり、図3に見られるように非常に微細な粉を安定的に得ることができた。
【0040】
【表3】
【実施例4】
【0041】
実施例1と同じ容量90リットルの反応容器に、硫酸アンモニウム200g/L、ニッケル粉11g/L、およびポリアクリル酸0.1g/Lの始液90リットルを張り込み、温度185℃に保ち、水素ガスを吹き込み圧力3.5MPaとした。
【0042】
この反応容器にニッケル濃度が83g/Lの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と硫酸アンモニウム濃度360g/Lの組成の始液を1リットル/分の流量で添加し、また33g/Lの濃度のニッケル種晶スラリーを0.5リットル/分の割合で添加した。また水素ガスを加圧容器の圧力が3.5MPaを維持するように吹き込み、還元処理を進めた。
【0043】
反応容器内の貯液量が90リットル±5リットルの範囲のレベルになるように管理しながら反応容器から還元処理済みのニッケル粉スラリーを、連続的に抜き出す運転を6時間継続した。なお、33g/Lのニッケル種晶スラリーを構成するニッケル粉の平均粒径は53μmで、反応容器内の還元処理反応時間は始液及び種晶スラリーの投入からニッケル粉スラリーの抜き出しまでの60分間であった。
【0044】
還元率すなわち反応率は89.0%であった。
回収したニッケル粉の硫黄品位は0.01%となり、LMEグレードのスペックである0.01%を満たした。
また粒径はD50で78.0μmであり、十分に成長したニッケル粉が得られた。図4、5に示すように、そのニッケル粉の表面は非常に平滑で真球状の粒子となった。
【0045】
【表4】
【実施例5】
【0046】
内容積が190リットルでチタンを容器内壁にライニングした加圧容器(オートクレーブ)を反応容器(反応槽)に用い、この反応容器に、硫酸アンモニウムを205g/リットル、ポリアクリル酸濃度が1g/リットル、ニッケル粉を105g/リットルの濃度で含有する溶液スラリー90リットルを張り込み、蓋をして内部の温度を185℃に保った。
次いで水素ガスを反応容器の気相部に吹込み、容器内の圧力を3.5MPaにした。次に、この反応容器にニッケル濃度が83g/リットルの濃度である硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と硫酸アンモニウム濃度が120g/リットルである溶液を毎分1リットルの流量で供給し、同時に150g/リットルのニッケル粉スラリーを毎分0.5リットルの流量で反応容器に連続して供給した。
なお、ニッケル粉スラリーを構成するニッケル粉は、平均粒径が1μmのものを使用した。また、水素ガスは反応容器の内圧力が3.5MPaを維持するように制御しながら吹き込んだ。
【0047】
次に、反応容器の液量が90リットル±5リットルの範囲となるように制御しながらニッケル粉スラリーを連続的に抜き出し、この運転を16時間継続した。抜き出したニッケル粉スラリーはヌッチェを用いてニッケル粉と濾液とに固液分離し、得たニッケル粉を洗浄し、真空乾燥した。
【0048】
還元率(反応率)、すなわち水素ガスがニッケル粉の析出反応に用いられた割合、は98.9%だった。
得たニッケル粉は、D50で表した平均粒径で、5.2μmと微細なニッケル粉を安定的に得ることができた。
【0049】
(比較例1)
上記実施例1と同じ反応容器に、ポリアクリル酸を含まない以外は、同じ組成の溶液を同じ流量で連続して供給し、同じ条件で水素ガスにより還元し、ニッケル粉スラリーを得、このニッケル粉スラリーを固液分離してニッケル粉を得た。還元率すなわち反応率は99.6%であった。
【0050】
得たニッケル粉の粒度分布は100μm〜300μmの割合が99%以上を占めているが、全体の粒度分布としては、300μmを超えた割合は0.1%未満で、150μmを超え300μm以下であるものが91%、100μmを超え150μm以下であるものが8.3%、75μmを超え100μm以下であるものと45μmを超え75μm以下であるものがいずれも0.1%未満、45μm以下であるものが0.7%という分布を示し、本発明ほど微細なニッケル粉は得られなかった。
上記のように、本発明の方法を用いることで、微細なニッケル粉を連続して効率よく得ることができることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5