(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の白金及び酸化イリジウムを含有する電極は、流した電気量に比例して消耗するが、従来の電極では、触媒の消耗の進行の程度によって、生成される酸性電解水の次亜塩素酸濃度やpHにバラツキが生じてしまう等の問題があり、次亜塩素酸濃度とpHが安定した酸性電解水を得ることができなかった。
したがって本発明の目的は、次亜塩素酸の発生効率が良好であり、かつ生成される酸性電解水における次亜塩素酸濃度及びpHの経時変化を抑制することが可能な電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題が生じる原因について鋭意検討した。
例えば、白金塩やイリジウム塩等の混合液を電極基材にコーティングし、その後焼結を行うことにより形成される電極においては、焼結に伴い白金粒子の最外層に酸化白金が形成されることになるため、触媒層は
図1に示すように、白金、酸化白金、及び酸化イリジウムの混合層となっていた。上記触媒層は混合層であるがゆえに、触媒層表面における白金、酸化白金及び酸化イリジウムの含有量の比率は、電解により触媒層が消耗するにしたがって経時的に変化することとなる。電気分解反応は触媒表面と電解対象の水溶液との接触面にて生じるが、触媒層中に存在する白金、酸化白金、及び酸化イリジウムは、塩素発生効率、酸性電解水のpH上昇に対する影響、及び電解による消耗速度がそれぞれ異なるため、触媒層表面における白金、酸化白金、及び酸化イリジウムの含有量の比率が変化すると、電気分解の反応性にも変化が生じることになる。すなわち、触媒層表面における白金、酸化白金及び酸化イリジウムの含有量の比率が経時的に変化することにより、生成される酸性電解水の次亜塩素酸濃度やpHが不安定となり、それらをコントロールすることが困難であった。中でも酸化白金は、白金や酸化イリジウムと比較して、塩素発生効率が高い上に電解による消耗速度が速いため、上記不安定性の大きな要因となっていると考えられる。
【0009】
そこで、本発明者らは、触媒層を白金(酸化白金)と酸化イリジウムの混合層とするのではなく、白金を含有する白金含有層と酸化イリジウムを含有する酸化イリジウム含有層の2種類の層に分け、かつ、白金含有層が実質的に酸化白金を含有しないように、触媒層を形成することによって、生成される酸性電解水の次亜塩素酸濃度やpH値の経時変化を抑制できることを見出した。また、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が、電解中に実質的に変化しないように、触媒層を電極基材上に形成することによって、生成される酸性電解水中の次亜塩素酸濃度やpH値の経時変化を抑制できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.導電性金属を含む電極基材と、該電極基材上に形成される触媒層とを有する電解用電極であって、
前記触媒層が、白金を含む白金含有層と酸化イリジウムを含む酸化イリジウム含有層とを有しており、
前記白金含有層は、実質的に酸化白金を含有しない、
電解用電極。
2.電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないように、前記触媒層が前記電極基材上に形成された、前記1に記載の電解用電極。
3.前記触媒層における前記白金含有層と前記酸化イリジウム含有層の表面積の比率が1:9〜9:1である、前記1または2に記載の電解用電極。
4.前記触媒層は、前記白金含有層上に前記酸化イリジウム含有層が形成されてなる、前記1〜3のいずれか1に記載の電解用電極。
5.前記触媒層は、前記白金含有層及び前記酸化イリジウム含有層が前記電極基材上に形成されてなる、前記1〜3のいずれか1に記載の電解用電極。
6.前記触媒層は、前記白金含有層及び前記酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有する前記1〜5のいずれか1に記載の電解用電極。
7.前記白金含有層の白金含有率が95〜100質量%であり、前記酸化イリジウム含有層の酸化イリジウム含有率が40〜100質量%である前記1〜6のいずれか1に記載の電解用電極。
8.前記酸化イリジウム含有層が酸化タンタルを含む前記1〜7のいずれか1に記載の電解用電極。
9.前記酸化イリジウム含有層における酸化タンタルの含有率が60質量%以下である前記8に記載の電解用電極。
10.前記白金含有層及び前記酸化イリジウム含有層の膜厚がそれぞれ0.1〜10μmである前記1〜9のいずれか1に記載の電解用電極。
11.前記導電性金属が、チタン、タンタル、ジルコニウム及びニオブより選択される1種以上の金属である、前記1〜10のいずれか1に記載の電解用電極。
12.酸性電解水製造用である、前記1〜11のいずれか1に記載の電解用電極。
13.陰極を配置した陰極部と、陽極を配置した陽極部と、前記陰極部と前記陽極部の中間に隔膜とを配置した隔膜式電解装置であって、
前記陽極部に配置された陽極に使用する電極が、前記1〜12のいずれか1に記載の電解用電極である隔膜式電解装置。
14.塩化物を含む水溶液の電気分解により、酸性電解水を製造する方法であって、
前記13に記載の隔膜式電解装置を用いて、塩化物を含む水溶液を電解する、酸性電解水の製造方法。
15.陽極部の塩化物の濃度が0.01〜1.5wt%の範囲で電解する、前記14に記載の酸性電解水の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電極においては、白金を含有する白金含有層と酸化イリジウムを含有する酸化イリジウム含有層の2種類の層に分け、かつ、白金含有層が実質的に酸化白金を含有しないように触媒層を形成することによって、触媒の消耗に伴う酸性電解水中の次亜塩素酸濃度やpHの経時変化を抑制することができる。また、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないように、触媒層が電極基材上に形成されることにより、電極を電気分解に繰り返し用いることによって触媒の消耗が生じたとしても、生成される酸性電解水の次亜塩素酸濃度やpHにバラツキが生じることはなく、次亜塩素酸濃度やpHが安定した酸性電解水を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の電極の実施形態を詳細に説明する。
[電極]
本発明の電解用電極は、例えば、塩化物を含む水溶液の電気分解に用いられる。ここで塩化物とは、塩化物イオンを含有する化合物を意味し、例えば、塩化ナトリウム、塩酸、塩化カリウム等が挙げられる。中でも好ましくは、安全性とコストの観点から、塩化ナトリウムである。
水溶液中の塩化物の濃度は、好ましくは0.01wt%以上であり、より好ましくは0.02wt%以上、さらに好ましくは0.05wt%以上である。また、好ましくは1.5wt%以下であり、より好ましくは1.0wt%以下であり、さらに好ましくは0.5wt%以下である。上記範囲であることにより、水溶液中の塩化物イオンが十分であるため、電流効率が減少することを抑制でき、かつ電極寿命を長く保つことができる。
【0014】
また、塩化物を含む水溶液は、カルシウムやマグネシウム等の硬度成分が少ない軟水化された原水であることが好ましい。水溶液中の硬度成分は、好ましくは180mg/L以下であり、より好ましくは60mg/L以下である。水溶液中の硬度成分の濃度を上記範囲にすることにより、硬度成分が電極や隔膜に付着し電気分解の効率が劣化することを軽減できる。
【0015】
本発明の電極は、導電性金属を含む電極基材を有する。導電性金属とは、酸化物として導電性を有する金属であれば特に制限されない。例えば、チタン、タンタル、ジルコニウム、及びニオブ等のバルブ金属、チタン−タンタル、チタン−ニオブ、チタン−パラジウム、及びチタン−タンタル−ニオブ等のバルブ金属を主体とする合金または導電性ダイヤモンド(例えば、ホウ素をドープしたダイヤモンド)が好適である。より好ましくは、チタン、タンタル、ジルコニウム及びニオブより選択される1種以上の金属である。特に価格面と機械加工がやりやすい観点からチタンが好適である。
【0016】
電極基材の形状は、板状、網状、棒状、多孔板状などの種々の形状を取りえる。また、上記の金属、合金、導電性ダイヤモンドを、鉄、ニッケルなどのバルブ金属以外の金属または導電性セラミックスの表面に被覆させたものでもよい。
電極基材の厚みは、通常0.1〜20mmであり、好ましくは0.5〜2mmである。
【0017】
本発明の電極は、上記電極基材上に形成される触媒層を有しており、この触媒層は白金を含む白金含有層と酸化イリジウムを含む酸化イリジウム含有層を有する。
触媒層の構成としては、白金含有層及び酸化イリジウム含有層が積層されてなる場合、すなわち、白金含有層上に酸化イリジウム含有層が形成されてなるもの、あるいは酸化イリジウム含有層上に白金含有層が形成されてなるものが挙げられる。好ましくは、触媒層が白金含有層上に酸化イリジウム含有層が形成されてなる場合である。酸化イリジウム含有層上に白金含有層を形成した場合、酸化イリジウムの還元が発生する可能性があるためである。
また、触媒層は、白金含有層及び酸化イリジウム含有層が電極基材上に直接形成されてなるものでもよい。
また、触媒層は、白金含有層及び酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有していてもよいし、白金含有層及び/又は酸化イリジウム含有層を複数有していてもよい。なかでも、触媒層は白金含有層及び酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有しているのが好ましい。
また、触媒層のうち、白金含有層と酸化イリジウム含有層はそれぞれ、電極基材が有する面のうち、別々の異なる面上に形成されていてもよい。すなわち、電極基材のいずれかの面上に白金含有層が形成され、電極基材のうち白金含有層が形成された面を除く他の面上に酸化イリジウム含有層が形成されていてもよい。
【0018】
白金含有層は、例えば、塩化物を含む水溶液の電気分解において、陽極における次亜塩素酸の発生に対して良好な触媒活性を有する。
白金含有層は、白金を含有する。白金含有層の白金含有率は、好ましくは95〜100質量%であり、より好ましくは98〜100質量%であり、最も好ましくは100質量%、すなわち白金含有層が白金のみからなる場合である。
【0019】
白金含有層は、酸化白金を実質的に含有しない。ここで、白金含有層が酸化白金を実質的に含有しないとは、白金含有層は酸化白金を全く含有しないか、また含有したとしても白金含有層に含まれる白金が空気中の酸素を吸着することにより不可避的に存在する程度の場合をいう。空気中の酸素を吸着するのは白金含有層の表面に存在する白金であるため、空気中の酸素を吸着することにより不可避的に存在する程度の酸化白金の含有量は、白金含有層の表面に存在する酸化白金の含有量をXPS等の最表面分析により測定したときに、測定限界以下あるいは酸化白金の含有量が3質量%以下となる場合をいう。
上記したように、酸化白金は、白金や酸化イリジウムと比較して、塩素発生効率が高い上に電解による消耗速度が速いため、生成される電解水の次亜塩素酸濃度やpHが不安定となる要因となるが、本発明は白金含有層に含まれる酸化白金が上記範囲であることにより、次亜塩素酸濃度やpHがより安定した電解水を得ることができる。
【0020】
酸化イリジウム含有層は、白金含有層と同様に、塩化物を含む水溶液の電気分解において、陽極における次亜塩素酸の発生に対して良好な触媒活性を有する。酸化イリジウム触媒は、次亜塩素酸の生成効率が白金触媒と比較してより大きく、かつ、陽極における生成電圧(過電圧)が小さい。
酸化イリジウム含有層は、酸化イリジウムを含み、その他、酸化タンタル、酸化チタン等を含んでいてもよい。
【0021】
酸化イリジウム含有層における酸化イリジウム含有率は好ましくは40〜100質量%であり、より好ましくは60〜100質量%である。
【0022】
酸化イリジウム含有層は、好ましくは、酸化タンタルを含有する。酸化イリジウム含有層が酸化タンタルを含有することにより、逆電解に対して電極が高い耐性を得ることができる。具体的には、逆電解を行うと、酸化イリジウムが著しく減少するが、酸化タンタルを含有することによって、酸化イリジウムの減少を抑制することができる。
電解対象の水溶液にアルカリ土類金属、特にカルシウムイオンが含まれる場合、電解により陰極で水素が発生してpHが上昇すると、電極上や、電解装置が隔膜を有する場合には隔膜上に、炭酸塩や水酸化物等として析出するため、逆電解はこのような析出物を再溶解して除去するために行われる。
酸化イリジウム含有層における酸化タンタル含有率は、60質量%以下であることが好ましい。0〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明の電極は、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないように、触媒層が前記電極基材上に形成された電極であることが好ましい。
電気分解反応は、電極における触媒と水溶液との接触面にて生じるため、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないことによって、電気分解の反応性に変化が生じることがなく、電解水の次亜塩素酸濃度やpHの経時変化が生じることがない。
ここで、電極表面とは、触媒層において、電解対象である塩化物を含む水溶液と接触する面を示す。
また、電極における触媒層の上面以外の面は、上面の面積と比較して無視できるほど小さいため、触媒層の表面積は、触媒層の上面の表面積に近似できる。すなわち、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量を測定するには、触媒層の上面における白金と酸化イリジウムの含有量を測定することにより行うことができる。ここで、触媒層の上面とは、電極基材側の面と反対側の面をいう。
電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の測定は、例えば、XPS、EPMA、EDX、及び蛍光X線等の方法をあげることができる。
【0024】
電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が実質的に変化しないことにより、得られる酸性電解水における次亜塩素酸濃度を反映する有効塩素濃度とpHを制御することができる。例えば、塩化物イオン濃度が0.15wt%、液量24L(陰極側12L、陽極側12Lの隔膜式)、開始時の液温20℃、8A(電極電流密度:2.4A/dm2)の定電流電解で20分間の電解での条件で、有効塩素濃度が20〜50ppmの範囲内に抑えられ、かつpHが2.7以下の範囲内に抑えることが可能となる。より好ましくは、酸性電解水の有効塩素濃度が25〜35ppmの範囲内に抑えられ、かつpHが2.64以下の範囲内に抑えられることである。
【0025】
電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が「実質的」に変化しないとは、下記式(1)で示される白金の含有量の変化率が5%未満であり、かつ下記式(2)で示される酸化イリジウムの含有量の変化率が5%未満となる場合である。
白金の含有量の変化率={(電気分解後に電極表面における白金の含有量−電気分解前に電極表面における白金の含有量)/電気分解前に電極表面における白金の含有量}×100・・・式(1)
酸化イリジウムの含有量の変化率={(電気分解後に電極表面における酸化イリジウムの含有量−電気分解前に電極表面における酸化イリジウムの含有量)/電気分解前に電極表面における酸化イリジウムの含有量}×100・・・式(2)
【0026】
上記式のうち、「電気分解後」とは、電気分解により初期値の5%以上の膜厚減少が発生した時点以降をいい、「電気分解前」とは、電極製造後、電気分解前の初期状態をいう。
【0027】
白金の含有量の変化率は好ましくは3%未満であり、より好ましくは1%未満である。
酸化イリジウムの含有量の変化率は好ましくは3%未満であり、より好ましくは1%未満である。
【0028】
また、触媒層における白金含有層と酸化イリジウム含有層の表面積の比率は、1:9〜9:1の範囲内であることが好ましい。より好ましくは2:8〜8:2であり、さらに好ましくは2:8〜5:5である。さらに、白金含有層と酸化イリジウム含有層の表面積の比率を適宜調整することによって、生成される電解水中の次亜塩素酸濃度をコントロールすることが可能となる。例えば、実施例に示すように、酸化イリジウム含有層を白金含有層上に形成する際に、白金含有層に対する酸化イリジウム含有層が占める面積(上面の表面積)を上記範囲内で調整することによって、生成される電解水中の次亜塩素酸濃度をコントロールすることが可能となる。
【0029】
本発明の電極の好ましい態様としては、
図2に示すように、触媒層が白金含有層及び酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有している態様である。触媒層が白金含有層及び酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有するとは、例えば、
図2(a)に示すように、電極基材上に白金含有層が一層形成され、その白金含有層上の一部に酸化イリジウム含有層が一層形成される場合や、反対に、電極基材上に酸化イリジウム含有層が一層形成され、その酸化イリジウム含有層上の一部に白金含有層が一層形成される場合や、
図2(b)に示すように、電極基材上に直接白金含有層と酸化イリジウム含有層が一層ずつ形成される場合等が挙げられる。触媒層が白金含有層及び酸化イリジウム含有層をそれぞれ一層ずつ有していることにより、白金含有層や酸化イリジウム含有層を複数層有する場合と比較して、上面の表面積に対する側面の表面積の割合がより小さくなるため、触媒の消耗により生じる電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率の変動をより小さく抑えることができる。
【0030】
白金含有層の厚みは、通常0.1〜10μmであり、好ましくは0.1〜3μmであり、より好ましくは0.3〜1μmである。
酸化イリジウム含有層の厚みは、通常0.1〜10μmであり、好ましくは0.1〜3μmであり、より好ましくは0.3〜1μmである。
【0031】
触媒層、すなわち、白金含有層及び酸化イリジウム含有層の形成方法は、特に限定はないが、例えば、溶液中の金属成分を電極基材上で還元又は酸化させて析出させる電解めっき法、電極触媒となる金属成分を溶解した前駆体溶液を調整し、これを基材表面に塗布・焼成して固着する熱分解法、及び、プラズマ溶射法、CVD法、樹脂固定法等の乾式的な手法がある。
【0032】
触媒層のうち、白金含有層は、生成する酸化白金の濃度を低く抑えることができ、かつ低コストで形成可能のため、電気めっき法により形成することが好ましい。
また酸化イリジウム含有層は、低コストで形成可能なため、焼成法により形成することが好ましい。
上述のように、白金及び酸化イリジウムが混合された状態の触媒層が形成された従来の電極は、白金及び酸化イリジウムの混合物を焼結して形成するものであり、多くの白金が酸化されることにより酸化白金の濃度の高い触媒層が形成されていた。一方、本発明の電極においては、上記のように、酸化イリジウム含有層のみ焼結して形成し、白金含有層は電気めっきにより形成することが可能となるため、白金及び酸化イリジウムの混合物を焼結して触媒層を形成する従来の方法と比較して、白金含有層が有する酸化白金の割合を低減させることできる。
【0033】
電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないように、前記白金含有層と前記酸化イリジウム含有層が前記電極基材上に形成された電極の形態について、具体的態様を以下に説明する。なお、本発明の実施形態は以下の態様に制限されるものではない。
【0034】
図2(a)は、電極基材の一方の面(上面)の全面に白金含有層が形成され、白金含有層上の一定範囲に酸化イリジウム含有層が形成された態様である。電気分解が開始されると、
図2(a)の上面側(図中に示す)から、白金含有層及び酸化イリジウム含有層の消耗が開始する。ここで、白金含有層と酸化イリジウム含有層の消耗速度が異なっていても、白金含有層と酸化イリジウム含有層の消耗は、
図2(a)の上面側から電極基材側(図中に示す)の方向へ消耗されていくため、電解中、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率はほぼ一定に保たれることになる。なお、上述のように、白金含有層と酸化イリジウム含有層の側面(図中に示す)の表面積は、白金含有層と酸化イリジウム含有層の上面の表面積と比較してはるかに小さいため、無視できる。
【0035】
この態様においては、白金含有層上に形成された酸化イリジウム含有層は、白金含有層の上面側のうち、表面積の10〜90%の範囲を占めるように形成されたものであることが好ましい。より好ましくは表面積の20〜80%であり、さらに好ましくは表面積の20〜50%である。
【0036】
また、
図2(b)は、電極基材の上面に直接、白金含有層と酸化イリジウム含有層が形成された態様である。この態様も、上記
図2(a)に示す態様と同様に、白金含有層と酸化イリジウム含有層の消耗速度が異なっていても、白金含有層と酸化イリジウム含有層の消耗は、
図2(b)の上面側(図中に示す)から、基材側(図中に示す)の方向へ消耗していくため、電気分解中、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率はほぼ一定に保たれることになる。なお、上述のように、白金含有層と酸化イリジウム含有層の側面(図中に示す)の表面積は、白金含有層と酸化イリジウム含有層の上面の表面積と比較してはるかに小さいため、無視できる。
【0037】
この
図2(b)に示す態様においては、白金含有層の表面積に対する酸化イリジウム含有層の表面積の割合(酸化イリジウム含有層の表面積/白金含有層の表面積)が0.1〜9となるように、白金含有層と酸化イリジウム含有層が形成されることが好ましい。より好ましくは0.1〜1であり、さらに好ましくは0.2〜0.7である。
【0038】
上記例からもわかるように、電極表面における白金と酸化イリジウムの含有量の比率が電解中に実質的に変化しないとは、白金含有層及び酸化イリジウム含有層を有する触媒層において、触媒層から電極基材方向に対して垂直な任意の断面における、白金含有層と酸化イリジウムの表面積の比率が、実質的に一定となる場合を指す。
したがって、触媒層から電極基材方向に対して垂直な任意の断面における白金含有層と酸化イリジウムの表面積の比率が常に一定となる場合であれば、白金含有層及び酸化イリジウム含有層を有する触媒層の構成に特に制限はなく、当業者であれば適宜作製することが可能である。
【0039】
本発明の電極は、酸性電解水製造用として好適に使用できる。本発明の電極を用いることによって、酸性電解水のpH及び塩素濃度を調整することができる。特に本発明の電極は、pHが2.7以下であり、有効塩素濃度が20〜60mg/kg(ppm)である酸性電解水を製造するのに好適である。
得られる酸性電解水のpHや有効塩素濃度の測定方法としては、従来公知の方法を種々採用することができ、具体的には後述する実施例に記載する方法により測定することができる。
【0040】
[隔膜式電解装置]
本発明は、陰極を配置した陰極部と、陽極を配置した陽極部と、前記陰極部と前記陽極部の中間に隔膜とを配置した隔膜式電解装置であって、前記陽極部に配置された陽極に使用する電極が、上記電極である隔膜式電解装置を提供する。
【0041】
本発明の隔膜式電解装置としては、具体的には
図3に示すような二室型電解槽10を有する隔膜式電解装置1が挙げられる。二室型電解槽10は陽極11を配置した陽極部12と、隔膜13と、陰極14を配置した陰極部15とがこの順で構成されている。
陽極部12及び陰極部15の通液部16に、例えば、塩化物を含む水溶液が供給される。電気分解によって陽極部12で、次亜塩素酸を含むpHの低い酸性電解水が、陰極部15ではpHの高いアルカリ性電解水が生成される。
陽極部12に配置された陽極11に使用する電極は、上述した本発明の電極を使用する。
陰極部15に配置された陰極14に使用する電極としては、従来陰極に使用される任意の電極を使用することができる。
隔膜13は、従来公知のものを使用できる。例えば、陽イオン交換膜(Du Pont製Nafion、アストム製ネオセプタ等)を使用することができる。
隔膜式電解装置1は、その他にも
図3に示すように、電磁弁17、流量センサ18、逆止弁19、非電解物質供給ポンプ20、制御機器21、電解電源22、電解水取出導管23、24を備えていてもよい。
【0042】
[酸性電解水を製造する方法]
本発明はまた、上記電解装置を用いた塩化物を含む水溶液の電気分解により、酸性電解水を製造する方法を提供する。
【0043】
隔膜式電解装置1は、まず、二室型電解槽10に原水を供給する。原水は、電磁弁17及び流量センサ18により常に一定の流量で、陽極部12及び陰極部15に供給されるようになっている。また逆止弁19により原水の逆流を防いでいる。このとき原水には、非電解物質供給ポンプ20により被電解物質(塩化物を含む水溶液、例えば塩化ナトリウム水溶液)が添加される。
陽極部12及び陰極部15が原水で満たされたら、原水が陽極部12及び陰極部15に連続的に供給されながら、制御機器21が作動され電解水の生成が開始される。
制御機器21は、まず、原水を電解して電解水を生成する通常電解を開始する。このとき、制御機器21は電解電源22を制御して、陽極11及び陰極14の間に一定の電流が流れるように、定電流制御を行う。
【0044】
前記通常電解により、陽極部12では主として水の電解により酸素(O
2)が発生し、水素イオン(H
+)を生成すると同時に、電解質として添加された塩化ナトリウムから生成する塩素イオン(Cl
−)が酸化され塩素(Cl
2)、次亜塩素酸(HClO)等を含む酸性の電解水が生成する。また、陰極部15では主として水の電解により水素が発生すると共に、水酸イオン(OH
−)が生成し、アルカリ性の電解水が生成する。
【0045】
この結果、陽極部12側の電解水取出導管23からは酸性電解水が連続的に取り出され、陰極部15側の電解水取出導管24からは前記アルカリ性の電解水が連続的に取り出される。通常、電解において、陽極部12及び陰極部15に常に一定流量の原水が供給されるようになっているので、性状の安定した前記電解水を得ることができる。
このようにして、上記隔膜式電解装置1を用いて、塩化物を含む水溶液を電解することによって、酸性電解水を得ることができる。
【0046】
また、塩化物を含む水溶液は上述したものを使用できる。
本発明の隔膜式電解装置を用いた酸性電解水を製造する方法であれば、陽極部の塩化物の濃度が0.01〜1.5wt%の範囲で電解することが可能である。好ましくは、0.02〜1.0wt%の範囲であり、さらに好ましくは、0.05〜0.5wt%の範囲である。
【実施例】
【0047】
[試験例1]
(実施例1)
[電極の作製]
白金を99質量%含有する白金含有層をチタン基板上に形成し、酸化イリジウムを70質量%、酸化タンタルを30質量%含有する酸化イリジウム含有層を、白金含有層の面積の1/2(50%)を占めるように、白金含有層上で形成した電極を作製した。
具体的には、まず、Ti板についてアルミナパウダーによるサンドブラスト処理を行い、Ti板の表面を粗化した後、超音波脱脂液でTi表面を脱脂し、5wt%フッ化アンモニウム水溶液にてTi表面のエッチングを行った。その後、Ti板の1/2面積についてテープマスキングを行い、マスキングを行ったTi板をPtめっき液(Pt5wt%、硫酸50g/L、pH=1)中に入れて、0.5A/dm
2、15分の条件でPtの電気めっきを行うことで、Ti板の1/2面積について白金含有層を形成した。また、残りの1/2面積についてテープマスキング後、塩化イリジウム溶液(Ir5wt%、pH=1)をコーティングした。乾燥機内で100℃15分にて乾燥し、電気炉内で500℃30分にて焼成処理を行った。この塩化イリジウム溶液のコーティング、乾燥、熱処理を繰り返すことで、所定の酸化イリジウム含有層を形成した。これにより実施例1の電極を作製した。
【0048】
[電気分解]
実施例1の電極を陽極とした隔膜式電解装置を作製し、1L/分の速度で陰極液流量と陽極液流量比を1:1として、20℃の塩化ナトリウム水溶液(濃度0.12質量%)を流した。隔膜には、プラスチックの枠に整流桟の付いたものに、隔膜としてフッ素系の陽イオン交換膜を張ったものを使用した。そして、1セルあたり電流密度で2.4A/dm
2の電流を印加し、塩化ナトリウム水溶液の電気分解を連続して10時間行った。
電気分解前後において、実施例1の電極における白金含有層の表面に存在する酸化白金の割合をX線光電子分光(XPS)により測定した結果を表1に示す。また、電気分解前後において、陽極側より流出する液中の有効塩素濃度(FRCC)およびpHを測定した。有効塩素濃度(FRCC)は残留塩素計(HANNA製)を用いて測定し、pHはpHメーター(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した。その結果を表2に示す。さらに、電気分解前後において、下記式(1)、(2)により、白金の含有量の変化率と酸化イリジウムの含有量の変化率を算出した。その結果を表2に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
白金の含有量の変化率={(電気分解後に電極表面における白金の含有量−電気分解前に電極表面における白金の含有量)/電気分解前に電極表面における白金の含有量}×100・・・式(1)
酸化イリジウムの含有量の変化率={(電気分解後に電極表面における酸化イリジウムの含有量−電気分解前に電極表面における酸化イリジウムの含有量)/電気分解前に電極表面における酸化イリジウムの含有量}×100・・・式(2)
ここで、電気分解後とは、電気分解により初期値の5%以上の膜厚減少が発生した時点以降をいい、電気分解前とは、電極製造後、電気分解前の初期状態をいう。
【0049】
(実施例2)
酸化イリジウム含有層を、白金含有層の面積の1/4(25%)を占めるように、白金含有層上で形成したことを除いては、実施例1と同様に、実施例2の電極を作製し、当該電極を用いた塩化ナトリウム水溶液の電気分解を行った。実施例2の電極における白金含有層の表面に存在する酸化白金の割合を表1に示し、電解水の有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率の測定結果を表2に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0050】
(実施例3)
酸化イリジウム含有層を、白金含有層の面積の1/8(12.5%)を占めるように、白金含有層上で形成したことを除いては、実施例1と同様に実施例3の電極を作製し、当該電極を用いた塩化ナトリウム水溶液の電気分解を行った。実施例3の電極における白金含有層の表面に存在する酸化白金の割合を表1に示し、電解水の有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率の測定結果を表2に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0051】
(実施例4)
酸化イリジウム含有層を、白金含有層の面積の3/4(75%)を占めるように、白金含有層上で形成したことを除いては、実施例1と同様に実施例4の電極を作製し、当該電極を用いた塩化ナトリウム水溶液の電気分解を行った。実施例4の電極における白金含有層の表面に存在する酸化白金の割合を表1に示し、電解水の有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率の測定結果を表2に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0052】
(比較例1)
白金及び酸化イリジウムの混合物からなる触媒層をチタン基板上に形成した電極を作製した。具体的には、塩化白金酸結晶と塩化イリジウム酸結晶をエタノールに溶解した混合液を、チタン基板上にコーティングし、熱処理を行った。このコーティングと熱処理を繰り返して比較例1の電極を作製し、当該電極を用いた塩化ナトリウム水溶液の電気分解を行った。比較例1の電極における白金含有層の表面に存在する酸化白金の割合を表1に示し、電解水の有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率の測定結果を表2に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
この結果、実施例の電極においては、白金を含有する白金含有層と酸化イリジウムを含有する酸化イリジウム含有層の2種類の層に分けられているため、白金含有層が実質的に酸化白金を含有しないように触媒層が形成されており、その結果、電気分解の前後で電極表面の白金と酸化イリジウムの含有量の比率に変化はなく、かつ、生成される酸性電解水の次亜塩素酸濃度とpHの経時変化を低く抑えることができた。
一方、白金及び酸化イリジウムの混合物からなる触媒層をチタン基板上に形成した比較例の電極の場合、白金含有層における酸化白金の割合が大きく、電気分解の前後で電極表面の白金と酸化イリジウムの含有量の比率が、それぞれ5%を超えて変化しており、さらに、有効塩素濃度が顕著に減少しており、経時変化を抑えることができなかった。
【0056】
[試験例2]
(実施例5)
白金を99質量%含有する白金含有層をチタン基板上に形成し、酸化イリジウム70質量%とともに酸化タンタル30質量%を含有する酸化イリジウム含有層を、白金含有層の面積の1/2(50%)を占めるように、白金含有層上で形成した電極を作製した。
電解対象の水溶液として高硬度水を用いることにより加速試験を以下のように行った。
塩化物イオン濃度が0.15wt%、液量24L(陰極側12L、陽極側12Lの隔膜式)、開始時の液温20℃、8A(電極電流密度:2.4A/dm
2)の定電流電解で20分間の条件で電解(正電解)を行った後、30分間の逆電解を1セットとし、5セット行った。試験例1と同様に、有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率を測定した。その結果を表3に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0057】
(実施例6)
酸化イリジウム含有層が、酸化イリジウム99質量%以上含有し、酸化タンタルを含有しないように形成したことを除いては、実施例5と同様に電極を作製し、加速試験を行った。有効塩素濃度(FRCC)及びpH、並びに、電極表面の白金の含有量の変化率と酸化イリジウム含有量の変化率を測定した結果を表3に示す。なお、電気分解前後で5%以上の膜厚減少が発生したことを確認した。
【0058】
【表3】
【0059】
以上の結果により、酸化イリジウム含有層が酸化タンタルを含有することにより、逆電解に伴う酸化イリジウムの減少を抑制することができることがわかった。