(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂からなる樹脂成分aと、ポリエチレングリコールからなる樹脂成分bとを含む樹脂水溶液を、植物系材料に含浸させることにより、前記植物系材料を構成する繊維細胞間の水素結合を切断する処理工程と、
前記繊維細胞間の水素結合を切断した前記植物系材料を、成形キャビティ内に収容した後に加熱及び加圧し、前記植物系材料の前記繊維細胞間に剪断力を作用させて、前記繊維細胞同士の相互位置を変化させることにより前記植物系材料を流動させ、前記成形キャビティ内に充填すると共に、前記成形キャビティ内に充填された前記植物系材料を圧縮して賦形する、流動成形工程と、を備え、
前記樹脂水溶液が、前記樹脂成分a及び前記樹脂成分bを、重量比において[樹脂成分a]:[樹脂成分b]=1:0.05〜0.15の割合において含有するものであることを特徴とする植物系成形体の製造方法。
前記樹脂水溶液を含浸させた前記植物系材料を乾燥し、前記樹脂水溶液に含浸する前と比較して重量が60〜95%増加した乾燥後の前記植物系材料を、前記成形キャビティ内に収容することを特徴とする請求項1に記載の植物系成形体の製造方法。
前記処理工程では、圧力容器内において前記樹脂水溶液に前記植物系材料を沈めて前記圧力容器内を減圧状態に維持した後に、前記圧力容器内を加圧状態に維持することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物系成形体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、各種の木材や竹等の植物系材料を原料として用いてなる植物系成形体が、例えば建築用の床パネル、家具や調度品の構成材等として、広く用いられている。特に、近年の自動車業界においては、自動車の高級化志向の高まりに伴い、木材の質感(木質感)を有する自動車用内装部品が好まれる傾向にある。かかる状況に対応するように、木材等を原料として製造される、木材の如き質感を有する木質成形体が、自動車用内装部品の外板パネルや表面パネル等として、利用されるようになってきている。
【0003】
ここで、木質成形体としては、様々な製法に従って製造されるものが知られており、具体的には、木材の粉砕物やチップ等と熱可塑性樹脂材料とを混合してなる材料を、押出成形や加圧成形することによって製造されるものや、突板をインサート品として用いてインサート射出成形等を実施し、突板からなる表層部と樹脂製の基材部とが一体的に積層されてなるもの等が、知られている。このような押出成形や加圧成形、インサート射出成形等を利用して製造される木質成形体は、製造が容易であるという利点を有している。
【0004】
しかしながら、上述した製法に従って製造される木質成形体は、必然的に樹脂材料を多く含むものであるため、資源問題や環境問題の観点からは好ましいものとは言えず、また、木材と比較して重厚感や質感に欠ける、換言すれば木質感に欠ける、という欠点がある。加えて、突板を用いてインサート射出成形によって製造される木質成形体にあっては、突板より構成される表層部表面の耐傷付き性や耐水性、耐候性等の向上を目的として、透明な塗膜からなるカバー層(トップコート層)が突板表面に形成されることが一般的であり、かかるカバー層の存在が、木質感を更に低下させる要因となっている。
【0005】
このような状況下、特許第4502848号公報(特許文献1)や特許第4849609号公報(特許文献2)においては、流動成形と称される技術を用いた(植物系)成形体の製造方法及びそれにより得られる(植物系)成形体が開示されている。ここで、流動成形とは、金型等の成形キャビティ内に木材等の植物系材料を収容した後、かかる植物系材料を加熱及び加圧し、植物系材料の繊維組織を構成する死細胞である繊維細胞(セルロース)間に剪断力を作用させて、繊維細胞同士の相互位置を変化させることにより植物系材料を流動させながら、成形キャビティ内に充填すると共に、成形キャビティ内に充填された植物系材料を圧縮して、成形キャビティに対応した形状に成形し、以て、所定の形状を有する植物系成形体を製造する技術である。かかる流動成形を利用して製造される植物系成形体にあっては、従来より公知の他の製法に従って製造される植物系成形体と比較して、樹脂材料が何等用いられていないか、或いは樹脂材料が用いられていても、その使用量は、他の植物系成形体の製造方法と比較して極めて少ない量に抑えられる。そのため、流動成形によって得られる植物系成形体は、資源問題や環境問題に利するものであることに加えて、優れた木質感を発揮する等の利点を有しているのである。
【0006】
ここで、流動成形により植物系成形体を製造するに際しては、流動成形操作に先立ち、植物系材料を構成する繊維細胞間の水素結合を切断するための前処理が実施される。かかる前処理は、例えば、植物系材料の含水率を所定の値に制御したり、或いは樹脂材料等を植物系材料の繊維細胞の細胞壁内に含浸させることにより、水素結合によって架橋した繊維細胞の分子鎖の間に、水分子や樹脂材料の分子を吸着させることによって、繊維細胞間に形成されている水素結合を切断するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者等が、流動成形による植物系成形体の製造について鋭意、研究を進めたところ、従来の製造方法に従って得られる植物系成形体は、種々の問題を内在するものであることが判明した。具体的には、木材を原料として用いて、従来の流動成形操作に従って木質成形体を製造すると、最終的に得られる木質成形体が透明性を有するものとなり、木材の木目本来の色柄が失われ、木質感に乏しいものとなる恐れがあるのである。これは、従来の流動成形にあっては、原料たる木材の繊維細胞間に形成されている水素結合を切断するための前処理において、メラミン樹脂前駆体やフェノール樹脂が使用されるところ、それら樹脂材料の硬化物は、透明性が高い(光の透過率が高い)ものであり、また、屈折率についても木材と非常に近いものであることから、最終的に得られる植物系成形体が透明性を有することになると本発明者等は考えている。加えて、近年では、木質成形体を始めとする各種の植物系成形体に対して、従来以上の耐候性が求められているところ、従来の製造方法に従って製造される植物系成形体にあっては、耐候性の点において未だ解決の余地が残されているのである。
【0009】
ここにおいて、本発明は、上記した事情を背景として、また本発明者等が知得した事項に基づいて為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、植物系材料が本来的に有する質感が十分に確保されつつ、従来以上の優れた耐候性を発揮する植物系成形体を、有利に製造することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は、かかる課題を解決するために、繊維細胞間の水素結合を切断した植物系材料を、成形キャビティ内に収容した後に加熱及び加圧し、該植物系材料の繊維細胞間に剪断力を作用させて、該繊維細胞同士の相互位置を変化させることにより該植物系材料を流動せしめ、該成形キャビティ内に充填すると共に、該成形キャビティ内に充填された該植物系材料を圧縮して賦形する、流動成形操作により、植物系成形体を製造する方法にして、メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂からなる樹脂成分aと、ポリエチレングリコールからなる樹脂成分bとを含む樹脂水溶液を、植物系材料に含浸せしめることにより、該植物系材料を構成する繊維細胞間の水素結合を切断することを特徴とする植物系成形体の製造方法を、その要旨とするものである。
【0011】
なお、本発明に従う植物成形体の製造方法は、好ましい第一の態様において、前記樹脂水溶液が、前記樹脂成分a及び樹脂成分bを、重量比において[樹脂成分a]:[樹脂成分b]=1:0.05〜0.15の割合において含有する。
【0012】
また、本発明の製造方法は、好ましい第二の態様において、前記樹脂水溶液を含浸せしめた植物系材料を乾燥させ、該樹脂水溶液への含浸前と比較して重量が60〜95%増加した植物系材料を、前記成形キャビティ内に収容する。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う植物系成形体の製造方法においては、植物系材料の繊維細胞間に形成されている水素結合を切断するにあたり、メチレン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂と共にポリエチレングリコールをも含む樹脂水溶液を用いるところに、大きな技術的特徴が存するのである。そして、そのような特定の樹脂材料を含む樹脂水溶液を用いて植物系材料に対して前処理を実施し、その後、かかる前処理後の植物系材料を用いて流動成形により得られる植物系成形体にあっては、上記した所定の樹脂材料が、植物系材料の細胞間や細胞壁内に効果的に入り込んだ状態となっているところから、植物系材料が本来的に有する質感が十分に確保されつつ、従来以上の優れた耐候性を発揮するものとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に従って植物系成形体を製造するに際しては、先ず、植物系材料が準備される。ここで、植物系材料とは、植物によって合成された再生可能な有機性資源を意味するものである。本発明においては、後述する流動成形操作により成形することが可能な植物系材料であれば、如何なるものであっても使用することが可能であるが、特に有利に用いられるものとしては、木材、竹や草本等を例示することが出来る。また、木材としては、ヒノキ、アガチス、スギやウォールナット等の木材を、例示することが出来る。
【0016】
なお、本発明に係る製造方法は、成形キャビティ内において、植物系材料を構成する繊維細胞を移動させ、かかる繊維細胞の相互位置を変化させるものであるところから、本発明にて用いられる植物系材料の大きさ及び形状は、成形キャビティに収容することが可能な大きさ及び形状であれば、特に制限されるものではない。また、複数個の植物系材料にあっても、成形過程において個々の材料が細胞レベルで乖離し、その後に一体化せしめられることから、本発明においては、単一の植物系材料は勿論のこと、複数個の植物系材料であっても使用可能である。
【0017】
また、本発明に係る植物系成形体の製造方法は、植物系材料に、後述する所定の樹脂水溶液を含浸せしめる工程を有しているところ、かかる樹脂水溶液が植物系材料内に効果的に含浸するように、樹脂水溶液に含浸する前の植物系材料は、全乾状態であるものが望ましい。
【0018】
また、上述の如き植物系材料が準備される一方で、メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂からなる樹脂成分aと、ポリエチレングリコールからなる樹脂成分bとを含む樹脂水溶液が調製される。かかる樹脂水溶液に含まれる二種類の成分のうち、樹脂成分aは、植物系材料の繊維細胞間に形成されている水素結合の切断と共に、最終的に得られる植物系成形体の形状固定に大きく寄与するものである。また、樹脂成分bは、目的物たる植物系成形体において、透明化を防止し、植物系材料が本来的に有する質感を発揮せしめることに加えて、優れた耐候性の発揮に大きく寄与するものである。
【0019】
本発明において、樹脂成分aたるメラミン樹脂前駆体としては、後述する含浸操作により、植物系材料を構成する繊維細胞の分子鎖間に形成されている水素結合に吸着し、かかる水素結合を切断することが可能なものであれば、如何なるものであっても使用することが出来る。本明細書及び特許請求の範囲におけるメラミン樹脂前駆体とは、メラミンとホルムアルデヒドとの反応により生成するモノメチロールメラミンやジメチロールメラミン等のメチロールメラミン類の他、かかるメチロールメラミン類の縮合物、更には、それらメチロールメラミン類及びその縮合物からなる混合物をも含むものである。そのようなメラミン樹脂前駆体の中でも、本発明においては、重量平均分子量が2000以下であるものが有利に用いられる。重量平均分子量が2000を超えるメラミン樹脂前駆体にあっては、植物系成形体を構成する繊維細胞の分子鎖間に形成されている水素結合に、効果的に吸着しない恐れがあるからである。また、後述する含浸操作によって、メラミン樹脂前駆体が植物系材料の繊維細胞壁内に効果的に侵入するように、本発明においては、水溶性又は水分散性を有するメラミン樹脂前駆体が有利に用いられる。
【0020】
また、樹脂成分aとしてのフェノール樹脂についても、後述する含浸操作により、植物系成形体を構成する繊維細胞の分子鎖間に形成されている水素結合に吸着し、かかる水素結合を切断することが可能なものであって、熱硬化性のものであれば、如何なるものであっても使用することが出来る。そのようなフェノール樹脂の中でも、特に、重量平均分子量が200〜500程度のものが有利に用いられる。重量平均分子量が200未満のフェノール樹脂が加熱によって硬化しても、植物系成形体に対して十分な形状固定効果を付与できない恐れがあり、その一方で、重量平均分子量が500を超えるフェノール樹脂は、植物系材料の繊維細胞壁内への侵入が困難となる恐れがあるからである。また、メラミン樹脂前駆体と同様に、後述する含浸操作によって、フェノール樹脂が植物系材料の繊維細胞壁内に効果的に侵入するように、水溶性又は水分散性を有するフェノール樹脂が有利に用いられる。
【0021】
一方、本発明において用いられる、樹脂成分bたるポリエチレングリコールは、後述する含浸操作により、植物系材料を構成する繊維細胞の細胞壁内に侵入可能なものであれば、如何なるものであっても使用することが出来る。重量平均分子量が大きすぎるポリエチレングリコールでは、植物系材料の繊維細胞壁内に効果的に侵入しない恐れがあるため、本発明においては、有利には、重量平均分子量が2000以下のポリエチレングリコールが用いられる。
【0022】
上述した樹脂成分a及び樹脂成分bを用いて、樹脂水溶液が調製されることとなる。かかる調製にあたり、樹脂水溶液における各成分の濃度は、処理対象である植物系材料の種類や大きさ等に応じて適宜に決定されることとなるが、一般に、樹脂成分aについては、濃度が10〜50重量%となるように調製される。樹脂成分a(メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂)の濃度が低すぎると、植物系材料の繊維細胞壁内に侵入する樹脂成分aの量が少なくなり、かかる樹脂成分aによる効果を享受し得ない、具体的には、繊維細胞間の水素結合を効果的に切断することが出来ない恐れや、最終的に得られる植物系成形体において十分な形状固定化を図ることが出来ない恐れがある。その一方、樹脂成分aの濃度が高すぎると、植物系材料の繊維細胞壁内に侵入する樹脂成分aの量が多くなりすぎて、最終的に得られる植物系成形体の重量が過大となる恐れや、樹脂成分b(ポリエチレングリコール)の繊維細胞壁内への侵入を阻害する恐れがある。
【0023】
また、樹脂成分b(ポリエチレングリコール)は、重量比において[樹脂成分a]:[樹脂成分b]=1:0.05〜0.15の割合となる量において、樹脂水溶液に配合されることが好ましい。樹脂成分bの配合量を、樹脂成分aの1重量部に対して0.05重量部未満とすると、樹脂成分bによる効果を享受することが出来ない恐れがある。具体的には、最終的に得られる植物系成形体において、透明化を防止することが出来ず、植物系材料が本来的に有する質感を喪失させ、十分な耐候性を発揮することが出来ない恐れがある。一方で、樹脂成分bの配合量を、樹脂成分aの1重量部に対して0.15重量部を超える量とすると、最終的に得られる植物系成形体の重量が過大となる恐れや、樹脂成分a(メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂)の繊維細胞壁内への侵入を阻害する恐れがある。
【0024】
さらに、本発明においては、所定の成形キャビティ内に収容する前に、樹脂水溶液が含浸した植物系材料を乾燥させ、植物系材料に含まれる水を除去することが好ましいところ、かかる乾燥後の植物系材料の重量が、樹脂水溶液へ含浸する前の重量より、60〜95%増加するように、樹脂水溶液を調製することが好ましい。即ち、下記式で表される重量増加率が60〜95%となるように、樹脂水溶液を調製することが好ましいのである。下記式より算出される重量増加率が60%未満では、植物系材料内の樹脂成分a及び樹脂成分bの量が十分ではなく、その結果、それら各樹脂成分による効果を有利に享受することが出来ない恐れがあり、その一方、重量増加率が95%を超えると、最終的に得られる植物成形体の重量が過大となる恐れがある。なお、樹脂水溶液を含浸した植物系材料の乾燥は、大気中に放置するか、温風を吹き付ける等の手段により、植物系材料の重量が変化しなくなるまで継続されるものである。
(重量増加率)={(W−W
0 )/W
0 }×100(%) ・・・(式)
上記式において、Wは樹脂水溶液に含浸し、その後に乾燥させた植物系材料の重量 であり、W
0 は樹脂水溶液に含浸する前の植物系材料の重量である。
【0025】
なお、本発明は、樹脂成分aと樹脂成分bとを含む単一の樹脂水溶液を用いるものであるところ、それら樹脂成分を個々に含有する別個の樹脂水溶液を用いることは、得策ではない。例えば、植物系材料に、先ず樹脂成分aを含む樹脂水溶液に含浸せしめ、次いで、樹脂成分bを含む樹脂水溶液に含浸せしめようとする場合、樹脂成分bが植物系材料を構成する繊維細胞の細胞壁内に効果的に侵入しない恐れがあるからである。
【0026】
以上の如くして準備された植物系材料に、別途調製された樹脂水溶液を含浸せしめるに際しては、例えば、
図1に示されるような含浸装置10が用いられる。
【0027】
図1から明らかなように、含浸装置10は、圧力容器12を有している。この圧力容器12は、上方に開口する容器本体14と、かかる容器本体14の開口部を、開閉可能に且つ気密に覆蓋する蓋体16とを有している。そして、そのような圧力容器12の容器本体14内には、水槽18が設置されている。この水槽18内には、別途調製された、樹脂成分a及び樹脂成分bを含む樹脂水溶液が、所定の量において収容されている。
【0028】
また、容器本体14の側壁部には、排気パイプ20及び給気パイプ22が、容器本体14内に開口するように接続されている。そして、排気パイプ20の途中には、真空ポンプ24が設置されており、また、給気パイプ22は、コンプレッサ26に接続されている。かくして、圧力容器12内は、真空ポンプ24の作動によって減圧される一方、コンプレッサ26の作動によって加圧されるようになっている。なお、圧力容器12の内圧は、図示しないコントローラによって、真空ポンプ24とコンプレッサ26のそれぞれの作動が制御されることにより、所望の値にコントロールされるようになっている。
【0029】
そして、かくの如き構造を呈する含浸装置10を用いて、植物系材料(例えば木材)28に、樹脂成分a及び樹脂成分bを含有する樹脂水溶液30を含浸させる際には、水槽18に収容された樹脂水溶液30中に、植物系材料28を沈める。なお、
図1において、32は、植物系材料28が樹脂水溶液30の水面上に浮き上がってこないように、植物系材料28上に載置された重りである。
【0030】
植物系材料28を水槽18内の樹脂水溶液30中に沈めたら、圧力容器12の容器本体14を蓋体16にて気密に覆蓋した後、真空ポンプを作動させて、圧力容器12内を、例えば2.03×10
4 Pa(0.2atm)程度にまで減圧する。そして、その状態を所定時間(例えば、1分〜1時間程度)維持した後、真空ポンプを24を停止して、容器本体14内を常圧に戻す。その後、コンプレッサ26を作動させて、圧力容器12内を、例えば7.09×10
5 Pa(7atm)程度にまで加圧し、その状態を所定時間(例えば30分〜10時間程度)維持した後、コンプレッサ26を停止して、容器本体14内を常圧に戻す。これにより、樹脂成分a及び樹脂成分bを含む樹脂水溶液30を、植物系材料28の繊維細胞の細胞壁中に含浸させるのである。
【0031】
このように、植物系材料28に樹脂水溶液30を含浸させると、かかる樹脂水溶液30中の樹脂成分a(メラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂)の分子が、植物系材料28における繊維細胞(セルロース)分子鎖間の水素結合により架橋した部位に効果的に吸着し、かかる吸着により、繊維細胞間の水素結合が有利に切断されることとなるのである。なお、樹脂水溶液30中の樹脂成分b(ポリエチレングリコール)については、植物系材料28の細胞壁内に侵入し、細胞壁内に存在する自由水と入れ替わって細胞壁内に有利に存在せしめられることとなる。
【0032】
その後、植物系材料28を圧力容器12内から取り出し、好ましくは、乾燥処理が実施される。かかる乾燥処理は、例えば、植物系材料28を大気中に放置するか、植物系材料28に対して温風を吹き付けることにより、植物系材料28の重量が変化しなくなるまで継続されることとなる。
【0033】
本発明においては、以上の如くして繊維細胞間の水素結合が切断された植物系材料を用いて、従来より公知の流動成形操作に従い、植物系成形体が成形されるのであるが、上述したように、本発明に従って繊維細胞間の水素結合が切断された植物系材料にあっては、その繊維細胞壁内に、樹脂成分aたるメラミン樹脂前駆体及び/又はフェノール樹脂と、樹脂成分bたるポリエチレングリコールとが、効果的に存在せしめられているものである。それ故に、最終的に得られる植物成形体においては、1)流動成形過程における加熱によって樹脂成分aが硬化することにより、適度な機械的強度が付与されて、形状固定が有利に図られると共に、2)細胞壁内に樹脂成分bが存在していることにより、植物成形体において、透明化が有利に抑制され、植物系材料が本来的に有する質感が効果的に発揮されることに加えて、優れた耐候性をも発揮することとなるのである。
【0034】
なお、本発明において、流動成形操作は、植物系材料の種類や目的とする植物系成形体の大きさや形状等を考慮して、従来より公知の各種手法や条件等の中から適宜、好適なものを選択して、採用することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加えられ得るものであることが、理解されるべきである。
【0036】
植物系材料(木材)としてアガチス材を準備すると共に、メラミン樹脂前駆体(PEG換算の重量平均分子量:約350)の濃度が30重量%である水溶液(以下、メラミン樹脂前駆体水溶液という)を準備した。このメラミン樹脂前駆体水溶液を用いて、木材(アガチス材)の繊維細胞間の水素結合を切断するための樹脂水溶液として、1)メラミン樹脂前駆体水溶液に、重量平均分子量が600であるポリエチレングリコールを、メラミン樹脂前駆体の重量に対して5%に相当する量を添加(メラミン樹脂前駆体:ポリエチレングリコール=1:0.05)してなる水溶液(以下、樹脂水溶液αという)と、2)メラミン樹脂前駆体水溶液に、重量平均分子量が600であるポリエチレングリコールを、メラミン樹脂前駆体の重量に対して15%に相当する量を添加(メラミン樹脂前駆体:ポリエチレングリコール=1:0.15)してなる水溶液(以下、樹脂水溶液βという)とを、調製した。なお、以下においては、ポリエチレングリコールを含まないメラミン樹脂前駆体水溶液を、樹脂水溶液γという。
【0037】
3種類の樹脂水溶液のそれぞれを用いて、木材(アガチス材)を処理した。具体的には、
図1に示される含浸装置を用いて、樹脂水溶液を収容した水槽18内に木材を沈め、木材の上方に重り32を載置し、圧力容器12の容器本体14を蓋体16にて気密に覆蓋する。次いで、真空ポンプ24を作動させて、圧力容器12の内圧を2.03×10
4 Pa(0.2atm)まで減圧し、減圧状態を1分間、維持した後、真空ポンプ24を停止して、容器本体14内を常圧に戻した。その後、コンプレッサ26を作動させて、圧力容器12内を7.09×10
5 Pa(7atm)まで加圧し、その状態を60分間、維持した後に、コンプレッサ26を停止して、容器本体14内を常圧に戻した。
【0038】
各樹脂水溶液が含浸せしめられた木材に温風を吹き付け、重量変化がなくなるまで乾燥させた。
【0039】
以上の如くして準備された3種類の木材に対して、流動成形操作を実施して、大きさが100mm×80mm×3mmである矩形板状を呈する植物系成形体(木質成形体)を作製した。樹脂水溶液αによって処理された木材より成形された植物系成形体(木質成形体)を成形体Iと、樹脂水溶液βによって処理された木材より成形された植物系成形体(木質成形体)を成形体IIと、樹脂水溶液γによって処理された木材より成形された植物系成形体(木質成形体)を成形体III と、それぞれ示す。なお、流動成形操作において、成形型の加熱温度は175℃とし、加圧力は90tとした。そして、得られた3種類の植物系成形体(木質成形体)について、以下の測定及び評価を行なった。
【0040】
−透過率の測定−
各植物成形体(木質成形体)における、波長が370〜2500nmの光線に対する光線透過率を、分光光度計(株式会社日立ハイテクサイエンス製、商品名:U-4100)を用いて測定した。その結果を、
図2においてグラフとして示す。
【0041】
図2に示されるグラフより明らかなように、本発明に従って、メラミン樹脂前駆体と共にポリエチレングリコールが配合されてなる樹脂水溶液を用いて処理された木材を用いて、流動成形によって得られる成形体(成形体I、成形体II)にあっては、メラミン樹脂前駆体のみを含む樹脂水溶液を用いて処理された木材を用いて、流動成形によって得られる成形体(成形体III )と比較して、透明性が低いものであることが認められる。
【0042】
また、成形体II及び成形体III について、成形体の裏面から約10cm離れた位置に各色のLED(白色、黄色、緑色、赤色、水色、青色)を交互に配置し、そこにおいてLEDを点灯させ、成形体の表面より、LEDの光の見え方を目視で観察した。その結果、成形体III については、何れの色のLEDについても、成形体の表面より光が明確に視認されたのに対して、本発明に従って成形された成形体IIにあっては、成形体表面にはLEDの光が視認されないか、視認される場合でも著しく小さな光であることが、確認されたのである。
【0043】
さらに、成形体IIについて、湿冷熱試験を行なったところ、かかる試験後の成形体IIの表面には、クラックの発生が認められなかったのである。