【実施例1】
【0024】
図1は発明の第1の実施例の圧電素子の平面図を、
図2は
図1に示す圧電素子のA-A面における断面図をそれぞれ示している。
図2に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO
2)からなる絶縁膜2を介して、圧電薄膜3a、3bが積層形成している。本実施例では、両持ち梁構造とするため、
図1に示すように図面横方向に延びるスリット6が形成されている。圧電薄膜は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)を用いることができ、その結晶方位(圧電配向)は、積層形成されたそれぞれの圧電薄膜で同一方向となるように形成している。
【0025】
本実施例の圧電素子の構造について詳細に説明すると、圧電薄膜3aの裏面側に電極4a1と電極4a2が形成されており、電極4a1は配線電極5aに接続している。電極4a2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。また圧電薄膜3aの上面側であり圧電素子3bの下面側(膜間に相当)には、電極4b1と電極4b2が形成されており、電極4b2は配線電極5bに接続している。電極4b1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。さらに圧電薄膜3bの上面側には、電極4c1と電極4c2が形成されており、電極4c1は、配線電極5aに接続しており、電極4c2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
このように構成すると、電極4a1、圧電薄膜3a(第1の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C3(第3の圧電素子に相当)が、電極4c1、圧電薄膜3b(第2の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C4(第4の圧電素子に相当)、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4b1が重なりある領域で圧電素子C5(第5の圧電素子に相当)、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4b2が重なりある領域で圧電素子C6(第6の圧電素子に相当)が形成される。
【0027】
その結果、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4とが並列接続し、第2の圧電素子C2と第3の圧電素子C3の直列接続と第5の圧電素子C5と第6の圧電素子C6の直列接続とが並列接続する構成となり、配線電極5aと配線金属5bとの間に、これら並列接続された圧電素子が直列に接続した構成となっている。
【0028】
ここで、例えば第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2は、圧電素子を構成する電極4b1を共通に使用することで、対向する電極(それぞれ電極4a1、4a2)と重なり合っていない電極4b1の領域(延長部に相当)によって接続している。同様に第4の圧電素子C4と第5の圧電素子C5は、圧電素子を構成する電極4b1を共通に使用することで、対向する電極(それぞれ電極4c1、4c2)と重なり合っていない電極4b1の領域(延長部に相当)によって接続している。また第2の圧電素子C2と第3の圧電素子C3とは電極4a2により、第5の圧電素子C5と第6の圧電素子C6とは電極4c2により、それぞれ対向する電極と重なり合っていない電極4a2(延長部に相当)によって、あるいは電極4c2領域(延長部に相当)によってそれぞれ接続している。このような接続とすることで、圧電薄膜内にスルーホール等の圧電薄膜の変位に影響を与える接続手段を形成する必要がなくなる。
【0029】
また
図2から明らかなように、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4、第2の圧電素子C2と第5の圧電素子C5、第3の圧電素子C3と第6の圧電素子C6は、少なくとも各圧電素子を形成する領域においてそれぞれ、電極4b1および電極4b2の厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となっている。
【0030】
シリコン基板1の裏面側は、その一部を除去し空孔7が形成され、この空孔7内に電極4a1、4a2及び圧電薄膜3aが露出する構造となっている。この空孔7は、
図1に示すスリット6を通して、シリコン基板1の表面側と連通している。
【0031】
このように構成することで本実施例の圧電素子は、シリコン基板1(支持基板)に両端が支持された圧電薄膜に複数の電極対が形成された両持ち梁構造となっている。
【0032】
本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔7から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電薄膜を含む梁構造は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電薄膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0033】
図3は、音響圧力信号が印加され、圧電薄膜は変位した場合の一例を示している。この場合、2つの変曲点が発生し、圧電薄膜に対する応力の向きによって3つの領域に分けられる。例えば、領域1と領域3では下向きの凸状に湾曲変位し、第1の圧電薄膜3aには引張応力が、第2の圧電薄膜3bには引張応力が発生する。一方、領域2では上向きの凸状に湾曲変位し、第1の圧電薄膜3aには圧縮応力が、第2の圧電薄膜3bには引張応力が発生する。
【0034】
ところで、本実施例の圧電素子は、
図2に示すように、圧電素子C1と圧電素子C4とが、圧電素子C2と圧電素子C3の直列接続と圧電素子C5と圧電素子C6の直列接続とが、それぞれ並列に接続しており、さらに上下対称な構造としている。そのため、各領域1〜3それぞれで発生する電圧は、極性が逆で、同一の値となるため、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧は相殺される。
【0035】
その結果、音響圧力信号が印加されることに基づく各領域の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(P
a)に対する出力電圧(V
out)の比(V
out/P
a)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。
【0036】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をC
outとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(C
out・V
out2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよい。
【0037】
具体的には、長方形の両持ち梁の場合の寸法、各圧電薄膜の膜厚、電極の大きさの一設計例を示す。例えば、入力する信号が人間の音声とし、両持ち梁の共振周波数を20kHzとする。また、スマートフォンのような電子機器に搭載することを想定した平面寸法とする。両持ち梁の長さ(
図1のスリットの長さに相当)を0.7mm、幅(
図1の上下)を1.4mmとする。窒化アルミニウムからなる圧電薄膜3a、3bの厚さはともに0.5μm、モリブデンからなる電極4a1〜4c1、4a2〜4c2の厚さはいずれも0.1μmとする。電極4a1、4c1および4b2の支持端(空孔7の端部)からの延出長さは共に90μm、電極4b1、4a2および4c2の支持端から電極端までの長さは共に500μmとする。また、スリット6の幅は1μmとする。
【0038】
圧電薄膜3a、3bの厚さと両持ち梁(スリット)の長さは、次のように決定することができる。
図4は、信号雑音比の窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。なお、共振周波数を一定(20kHz)とし、梁の幅は1.4mm、スリット幅は1μmとした。またスマートフォンのような電子機器に実装する際に実装筐体の大きさにより制限されることを考慮し、空孔の容積は、3mm
2と比較的小さい値とした。また、スマートフォンのような小型の筐体の中に、本発明の圧電素子(音響トランスデューサ)の他に圧電素子の出力信号を処理するための増幅回路を実装する必要がある。そのため、許容される圧電素子のチップ寸法を考慮し、梁の長さは0.6mm、0.7mm、0.8mmとした場合について以下の検討を行った。
【0039】
図4に示すように、窒化アルミニウムからなる各圧電薄膜の膜厚を0.4μmより薄くした場合、信号雑音比は僅かではあるが改善する。しかしながら、空孔の音響コンプライアンスのために実質的音響電気変換係数が制限されるため、薄層化による改善効果は顕著ではなく、梁の長さに対する依存性は大きくないことがわかる。逆に圧電薄膜の厚さを厚くすると、信号雑音比は急激に低下する。また梁の長さに対する依存性も顕著となってくる。つまり、共振周波数を一定に保つためには、圧電薄膜の厚さを厚くする場合には梁の長さを長くする必要があることがわかる。
図4に示す例では、圧電薄膜の厚さを0.5μmとする場合には梁の長さを0.7mmとし、圧電薄膜の厚さを0.6μmとする場合には梁の長さを0.8mmとするのが好ましいことがわかる。
【0040】
次に、スリット幅について説明する。
図5は、マイクロフォンの主要な特性の一つである1kHzの感度を基準として100Hzの感度の低下割合とスリット幅との関係を示すグラフである。上記同様に、両持ち梁の共振周波数を20kHzとし、梁の長さを0.7mm、幅を1.4mm、空孔の容積は3mm
2とする。窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の厚さは0.4μm、0.5μm、0.6μmの場合について、スリット幅をとの関係を検討した。
【0041】
図5に示すように、圧電薄膜の厚さに対する依存性はほとんど見られず、スリット幅が1μmを超えると100Hzでの感度低下が顕著となってくる。周波数を100Hzより下げるとこの感度低下はさらに激しくなる。つまり、低周波数での感度低下を抑えるためには、スリット幅を1μm以下にする必要があることがわかる。
【0042】
以上のように、感度の増大を図るため、両持ち梁の長さや圧電薄膜の厚さ、スリット幅等を適宜調整して設定すればよい。
【0043】
本発明の圧電素子は、通常の半導体装置の製造方法を用いて形成することができる。
図6は、本実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。まず、シリコン基板1上に熱酸化法によりシリコン酸化膜(SiO
2)からなる絶縁膜2を形成する。絶縁膜2上に、厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4a1と電極4a2を形成する(
図6a)。
【0044】
その後全面に、厚さ0.5μmの窒化アルミニウム膜をスパッタ法により積層し、第1の圧電薄膜に相当する圧電薄膜3aを形成する。その後、圧電薄膜3a上に、厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4b1と電極4b2を形成する。さらに全面に、厚さ0.5μmの窒化アルミニウム膜をスパッタ法により積層し、第2の圧電薄膜に相当する圧電薄膜3bを形成する。厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4c1と電極4c2を形成する(
図6b)。
【0045】
圧電薄膜3a、3bの一部をエッチング除去し、電極4a1と電極4c1に接続する配線電極5aと、電極4b2に接続する配線電極5bを形成する。この配線電極5a、5bはアルミニウムからなり、通常のリソグラフ法により形成することができる(
図6c)。
圧電薄膜3a、3bの一部をエッチング除去する際、
図1に示すスリット6に相当する部分の圧電薄膜3a、3bの一部もエッチング除去して凹部を形成し、その底部に絶縁膜2を露出させておく。
【0046】
最後に、シリコン基板1の裏面の一部をドライエッチング法により除去し、露出する絶縁膜2の一部も除去することにより空孔7を形成する。空孔7内には、先に形成した電極4a1、電極4b1および圧電薄膜3aの一部を露出させる。この空孔7の形成により、スリット6を形成するために形成した凹部の底部に露出する絶縁膜2も除去され、圧電薄膜の表面側と裏面側とが貫通したスリット6が形成される。このスリット6により、圧電薄膜は、両持ち梁構造となる(
図6d)。
【0047】
以上、本実施例の圧電素子とその製造方法について説明したが、本発明は、圧電薄膜として窒化アルミニウムに限定されるものでないことは言うまでもない。表1は、代表的な圧電材料である窒化アルミニウム、窒化スカンジウムアルミニウム(Al
1-xSc
xN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)について圧電型マイクロフォンの特性に影響を与えるヤング率、横圧電歪係数などの材料定数を比較した表である。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す信号雑音比に対応する性能指数(FOM)は、結合係数(k
312)と損失角(tanδ)の比で表され、その値が大きい程、その値にほぼ比例した形で信号雑音比の向上が期待できる。表1に示すように、酸化亜鉛及びチタン酸ジルコン酸鉛に比べると窒化アルミニウムは6〜40倍性能指数が大きく、圧電トランスデューサに適した材料であることがわかる。また、窒化アルミニウムにスカンジウムを添加した窒化スカンジウムアルミニウム(Al
1-xSc
xN)は、窒化アルミニウムより横圧電歪係数が向上することが知られており、例えば、スカンジウムの比率を35%にした場合、性能指数が窒化アルミニウムより7倍程度向上することが期待できる。
【0050】
図7は、信号雑音比の窒化スカンジウムアルミニウム(Al
1-xSc
xN:x=0.35)からなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。
図4に示す窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフと比較すると、性能指数の7倍に相当する約8dBの信号雑音比の改善が期待できることがわかる。なお、膜厚依存性については、圧電薄膜の種類によらず同様の傾向を示すことも確認できた。具体的には、圧電薄膜の厚さを0.4μmとする場合には、梁の長さを0.6mm、圧電薄膜の厚さを0.6μmとする場合には梁の長さを0.7mm、圧電薄膜の厚さを0.7μmとする場合には梁の長さを0.8mmとするのが好ましいことがわかる。
【実施例2】
【0051】
次に本発明の第2の実施例について説明する。
図8は本発明の第2の実施例の圧電素子の断面図である。先に説明した
図2に示す圧電素子と比較して、誘電体膜8、電極4d1および電極4d2等を備えている点で相違している。
【0052】
すなわち、
図8に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO
2)からなる絶縁膜2を介して、圧電薄膜3a、誘電体膜8および圧電薄膜3bが積層形成されている。本実施例では、両持ち梁構造とするため、前述の
図1で説明したように図面横方向に延びるスリット6が形成されている。圧電薄膜は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)を用いることができ、その結晶方位(圧電配向)は、同一方向となるように形成している。
【0053】
本実施例の圧電素子は、圧電薄膜3aの裏面側に電極4a1と電極4a2が形成されており、電極4a1は、配線電極5aに接続している。電極4a2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。また圧電薄膜3aの上面側には、電極4b1と電極4b2が形成されており、電極4b2は、配線電極5bに接続している。電極4b1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。
【0054】
圧電薄膜3aおよび電極4b1、4b2上に、誘電体膜8が積層され、誘電体膜8上に電極4d1と電極4d2が形成されている。この電極4d1、4d2は、先に形成した電極4b1、4b2と同一の形状となっている。また電極4d2は、配線電極5bに接続し、電極4d1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている点も同一である。
【0055】
具体的には、誘電体膜8の上面側であり圧電素子3bの下面側(膜間に相当)には、電極4d1と電極4d2が形成されており、電極4d2は、配線電極5bに接続している。電極4d1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。さらに圧電薄膜3bの上面側には、電極4c1と電極4c2が形成されており、電極4c1は、配線電極5aに接続しており、電極4c2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0056】
このように構成すると、電極4a1、圧電薄膜3a(第1の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なりある領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)が、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C3(第3の圧電素子に相当)が、電極4c1、圧電薄膜3b(第2の圧電薄膜に相当)および電極4d1が重なり合う領域で圧電素子C4(第4の圧電素子に相当)が、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4d1が重なりある領域で圧電素子C5(第5の圧電素子に相当)が、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4d2が重なりある領域で圧電素子C6(第6の圧電素子に相当)が形成される。
【0057】
その結果、配線電極5aと配線金属5bとの間に、第1の圧電素子C1、第2の圧電素子C2および第3の圧電素子C3が直列接続する構成となる。同様に配線電極5aと配線金属5bに間に、第4の圧電素子C4、第5の圧電素子C5および第6の圧電素子C6が直列接続する構成となる。さらにこれらの直列接続された圧電素子の組が、並列接続した構成ともなっている。
【0058】
このように形成しても、
図8から明らかなように、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4、第2の圧電素子C2と第5の圧電素子C5、第3の圧電素子C3と第6の圧電素子C6は、少なくとも各圧電素子を形成する領域においてそれぞれ、誘電体膜8の厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となる構造となっている。
【0059】
シリコン基板1の裏面側には、その一部を除去された空孔7が形成され、この空孔7内に電極4a1、4a2及び圧電薄膜3aが露出する構造となっている。この空孔7は、
図1に示すスリット6を通して、シリコン基板1の表面側と連通している。
【0060】
このように構成することで本実施例の圧電素子でも、シリコン基板1(支持基板)に両端が支持された圧電薄膜に複数の電極対が形成された両持ち梁構造とすることができる。
【0061】
本実施例の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔7から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電薄膜を含む梁構造は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電薄膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0062】
しかし、第1の実施例同様、圧電素子C1と圧電素子C4が、圧電素子C2と圧電素子C5が、圧電素子C3と圧電素子C6が、それぞれ上下対称な構造となっているため、
図2で説明した場合と同様に、各領域それぞれで発生する電圧は、極性が逆で、同一の値となるため、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧は相殺することが可能となる。
【0063】
その結果、音響圧力信号が印加されることに基づく各領域の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(P
a)に対する出力電圧(V
out)の比(V
out/P
a)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。特に積層構造の最上層の圧電薄膜3bと最下層の圧電薄膜3aから圧電信号を取り出す構成となり、応力が相対的に大きな部分から圧電信号を取り出すため、信号雑音比はさらに改善されることが期待される。
【0064】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をC
outとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(C
out・V
out2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよいことも同様である。また、誘電体膜の厚さや材質は、所望の特性を得るために適宜選択すればよい。誘電体膜は窒化アルミニウムであっても良い。窒化アルミニウムを三層積層する場合には、それぞれの厚さは、0.33μmとすればよい。
【0065】
圧電薄膜の振動により湾曲変位するとき、変位の変曲点が2以上となるような場合には、上記実施例に限定されず、変曲点により区画される領域毎に圧電素子の数を増やしたり、各領域に複数の素子を配置するようにしても良い。
【0066】
ところで、本発明のような圧電素子を音響トランスデューサとして使用する場合、圧電素子から出力される信号を処理するための増幅回路が必要となる。一般的には別のシリコン基板上に集積回路を形成し、それぞれ別々の素子として実装基板に搭載される。本発明の圧電素子は、支持基板に例えば信号処理のための素子を形成しても何ら問題ない。その場合、圧電薄膜は層間絶縁膜として使用し、電極を配線金属して使用すれば良い。