特許第6819002号(P6819002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819002
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/083 20060101AFI20210114BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20210114BHJP
   H04R 17/02 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   H01L41/083
   H01L41/113
   H01L41/047
   H04R17/02
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-157111(P2016-157111)
(22)【出願日】2016年8月10日
(65)【公開番号】特開2018-26445(P2018-26445A)
(43)【公開日】2018年2月15日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
【審査官】 宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−225269(JP,A)
【文献】 特開2011−097311(JP,A)
【文献】 特開昭61−001279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/083
H01L 41/047
H01L 41/113
H04R 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板に両端が固定された圧電薄膜と、該圧電薄膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、
前記圧電薄膜は、少なくとも第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜を含む積層構造からなることと、
前記第1の圧電薄膜の一部を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子、第2の圧電素子および第3の圧電素子が形成されていることと、
前記第2の圧電薄膜の一部を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第4の圧電素子、第5の圧電素子および第6の圧電素子が形成されていることと、
前記第1の圧電素子、第2の圧電素子および前記第3の圧電素子は、前記両端の一端側から他端側へ順に並べて配置していることと、
前記第4の圧電素子、前記第5の圧電素子および第6の圧電素子は、前記両端の一端側から他端側へ順に並べて配置していることと、
前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子、あるいは前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子の組の圧電素子が並列に接続し、 前記並列に接続した圧電素子が直列に接続していることと、
前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子と前記第3の圧電素子が直列に接続し、前記第4の圧電素子と前記第5の圧電素子と前記第6の圧電素子が直列に接続し、前記直列に接続した2組の圧電素子が並列に接続していることと、
前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子とが上下対称に積層形成されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子において、
前記並列に接続した圧電素子の組は、前記第1の圧電薄膜あるいは前記第2の圧電薄膜の表面、裏面あるいは膜間に配置された前記圧電素子の電極から連続する延長部により直列接続されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載の圧電素子において、
振動により前記圧電薄膜が湾曲変位した場合に、該変位の変曲点により区画される領域毎に、少なくとも前記上下対称に積層形成された前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子あるいは前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子のいずれかが配置されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、
前記圧電薄膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子に関し、特に、高感度、低雑音の圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。また、MEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の振動変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。
【0004】
そこで、圧電薄膜で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0005】
ところで圧電素子では、音響圧力等がない場合に圧電薄膜の残留応力や温度変動が不要な信号として出力され特性を劣化させることが知られている。そこで、圧電薄膜の一端を自由端とする片持ち梁構造を採用することによって残留応力を解放する技術が開示されている(例えば特許文献1)。
【0006】
図9に、片持ち梁構造の圧電素子の断面図を示す。図9に示すように、支持基板となるシリコン基板1に、絶縁膜2を介して多層構造の圧電薄膜3a、3bが固定され、圧電薄膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電薄膜3bは電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。圧電薄膜および電極はそれぞれ長方形の平面形状を有しており、一端がシリコン基板1に固定され、他端が自由端となっている。また電極4aと電極4cは一方の配線電極5aに接続し、電極4bは別の配線金属5bに接続されている。
【0007】
このような圧電素子では、音響圧力等を受けて圧電薄膜3aが歪むとその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線金属5aと、電極4bに接続する配線金属5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電薄膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線金属5aと、電極4bに接続する配線金属5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0008】
ところで、片持ち梁構造とすることで圧電薄膜の残留応力が解放されるが、その結果圧電薄膜が反り、隣接する圧電薄膜の間隙(梁間ギャップG)や圧電薄膜(梁)側面と支持基板の実質的間隙の寸法が広がってしまう。このような設計値以上の間隙の発生は、圧電素子をマイクロフォンとして使用した場合、音響抵抗を低下させ、低周波感度低下等の特性劣化を招いてしまう。
【0009】
そこでこの問題を解消するため、圧電薄膜の形状を長方形とする代わりに三角形とし、例えば4個の三角形のそれぞれの頂点が中心に位置するように配置とすることで、圧電薄膜が反った場合でも、隣接する圧電薄膜にも同様の反りが発生し、結果的に隣接する圧電薄膜の間隙の寸法を大きく変化させない技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5707323号公報
【特許文献2】特表2014−515214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
圧電薄膜の残留応力に起因する特性劣化を防止するため、従来の圧電素子では圧電薄膜の形状を三角形とし、4個の三角形の頂点を中心に集めるように配置することで圧電薄膜の間隙の寸法を大きく変化させないことを可能とした。しかしながら、各三角形の梁それぞれの共振周波数を合わせるため、同一形状の三角形を組み合わせる必要があり、圧電型MEMS素子の外形が正方形に制限され、設計の自由度がなくなるという問題があった。本発明は、圧電薄膜の残留応力の影響を抑制するとともに外形が制限される問題を解消し、高感度で信号雑音比を改善した圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、支持基板に両端が固定された圧電薄膜と、該圧電薄膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、前記圧電薄膜は、少なくとも第1の圧電薄膜と第2の圧電薄膜を含む積層構造からなることと、前記第1の圧電薄膜の一部を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子、第2の圧電素子および第3の圧電素子が形成されていることと、前記第2の圧電薄膜の一部を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第4の圧電素子、第5の圧電素子および第6の圧電素子が形成されていることと、前記第1の圧電素子、第2の圧電素子および前記第3の圧電素子は、前記両端の一端側から他端側へ順に並べて配置していることと、前記第4の圧電素子、前記第5の圧電素子および第6の圧電素子は、前記両端の一端側から他端側へ順に並べて配置していることと、前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子、あるいは前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子の組の圧電素子が並列に接続し、前記並列に接続した圧電素子が直列に接続していることと、前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子と前記第3の圧電素子が直列に接続し、前記第4の圧電素子と前記第5の圧電素子と前記第6の圧電素子が直列に接続し、前記直列に接続した2組の圧電素子が並列に接続していることと、前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子とが上下対称に積層形成されていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子において、前記並列に接続した圧電素子の組は、前記第1の圧電薄膜あるいは前記第2の圧電薄膜の表面、裏面あるいは膜間に配置された前記圧電素子の電極から連続する延長部により直列接続されていることを特徴とする。
【0014】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載の圧電素子において、振動により前記圧電薄膜が湾曲変位した場合に、該変位の変曲点により区画される領域毎に、少なくとも前記上下対称に積層形成された前記第1の圧電素子と前記第4の圧電素子、前記第2の圧電素子と前記第5の圧電素子あるいは前記第3の圧電素子と前記第6の圧電素子のいずれかが配置されていることを特徴とする。
【0015】
本願請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、
前記圧電薄膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の圧電素子は、第1の圧電薄膜に形成する圧電素子と第2の圧電薄膜に形成する圧電素子とを上下対称に重なり合うように配置することで、重なり合う圧電薄膜の残留応力や温度変動に起因して発生する圧電電圧を相互に相殺して圧電薄膜の残留応力の影響を低減した上で、音響圧力等によって生じる第1の圧電薄膜による圧電電圧と第2の圧電薄膜による圧電電圧を重畳させることで出力信号のレベルを上げることを可能としている。
【0018】
また本発明によれば、圧電薄膜の両端を支持基板に固定する両持ち梁構造とすることで、圧電薄膜が大きく変形することが抑えられ、その形状も正方形に限定されず、設計の自由度を確保することを可能としている。
【0019】
さらにまた本発明によれば、圧電薄膜が振動により湾曲変形する際、その変位の変曲点により区画される領域毎に第1の圧電薄膜に形成する圧電素子と第2の圧電薄膜に形成する圧電素子との組を配置することで、区画された領域毎に、梁の延伸方向で生じる引張応力領域と圧縮応力領域とでそれぞれ圧電素子を分離し、それぞれの領域で発生する電圧信号を重畳するように接続することで、効率的に電気エネルギーに変換して取り出すことが可能となる。
【0020】
本発明によれば、圧電素子間の接続は圧電素子の電極を延長して行うことができ、圧電薄膜の変位に影響を与えるスルーホール等の接続手段を必要としない点でも、効率的に電気エネルギーに変換できるという利点がある。
【0021】
特に、本発明の圧電素子の圧電薄膜を音響圧力によって振動する厚さに設定し、音響トランスデューサとして使用した場合、高感度で信号雑音比の改善が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施例の圧電素子の平面図である。
図2】本発明の第1の実施例の圧電素子の断面図である。
図3】圧電素子に音響圧力信号が印加し、圧電薄膜が変位する場合の説明図である。
図4】信号雑音比の窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。
図5】マイクロフォン特性とスリット幅との関係を示すグラフである。
図6】本発明の第1の実施例の圧電素子の製造方法を説明する図である。
図7】信号雑音比の窒化スカンジウムアルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。
図8】本発明の第2の実施例の圧電素子の断面図である。
図9】従来の圧電型MEMS素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の圧電素子は、支持基板に圧電薄膜の両端を固定した両持ち梁構造としている。圧電薄膜は少なくとも2層の圧電薄膜を含む積層構造とする。それぞれの圧電薄膜には、その一部を挟み込むように電極を配置した圧電素子が複数個形成され、各圧電素子を並列あるいは直列に接続する構成としている。特に本発明では、各圧電素子は上下対称に重なり合うように配置している。本発明は上記の構成とすることで、上下対称に重なり合う圧電素子の出力により残留応力や温度変動により生じる圧電電圧が相互に相殺され、信号雑音比の向上を図っている。さらにまた、上下対称に重なり合う圧電素子の組を所定の位置に配置することにより、信号を効率的に取り出すことができる構成となっている。以下、本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合を例にとり詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は発明の第1の実施例の圧電素子の平面図を、図2図1に示す圧電素子のA-A面における断面図をそれぞれ示している。図2に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電薄膜3a、3bが積層形成している。本実施例では、両持ち梁構造とするため、図1に示すように図面横方向に延びるスリット6が形成されている。圧電薄膜は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)を用いることができ、その結晶方位(圧電配向)は、積層形成されたそれぞれの圧電薄膜で同一方向となるように形成している。
【0025】
本実施例の圧電素子の構造について詳細に説明すると、圧電薄膜3aの裏面側に電極4a1と電極4a2が形成されており、電極4a1は配線電極5aに接続している。電極4a2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。また圧電薄膜3aの上面側であり圧電素子3bの下面側(膜間に相当)には、電極4b1と電極4b2が形成されており、電極4b2は配線電極5bに接続している。電極4b1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。さらに圧電薄膜3bの上面側には、電極4c1と電極4c2が形成されており、電極4c1は、配線電極5aに接続しており、電極4c2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0026】
このように構成すると、電極4a1、圧電薄膜3a(第1の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C3(第3の圧電素子に相当)が、電極4c1、圧電薄膜3b(第2の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C4(第4の圧電素子に相当)、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4b1が重なりある領域で圧電素子C5(第5の圧電素子に相当)、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4b2が重なりある領域で圧電素子C6(第6の圧電素子に相当)が形成される。
【0027】
その結果、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4とが並列接続し、第2の圧電素子C2と第3の圧電素子C3の直列接続と第5の圧電素子C5と第6の圧電素子C6の直列接続とが並列接続する構成となり、配線電極5aと配線金属5bとの間に、これら並列接続された圧電素子が直列に接続した構成となっている。
【0028】
ここで、例えば第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2は、圧電素子を構成する電極4b1を共通に使用することで、対向する電極(それぞれ電極4a1、4a2)と重なり合っていない電極4b1の領域(延長部に相当)によって接続している。同様に第4の圧電素子C4と第5の圧電素子C5は、圧電素子を構成する電極4b1を共通に使用することで、対向する電極(それぞれ電極4c1、4c2)と重なり合っていない電極4b1の領域(延長部に相当)によって接続している。また第2の圧電素子C2と第3の圧電素子C3とは電極4a2により、第5の圧電素子C5と第6の圧電素子C6とは電極4c2により、それぞれ対向する電極と重なり合っていない電極4a2(延長部に相当)によって、あるいは電極4c2領域(延長部に相当)によってそれぞれ接続している。このような接続とすることで、圧電薄膜内にスルーホール等の圧電薄膜の変位に影響を与える接続手段を形成する必要がなくなる。
【0029】
また図2から明らかなように、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4、第2の圧電素子C2と第5の圧電素子C5、第3の圧電素子C3と第6の圧電素子C6は、少なくとも各圧電素子を形成する領域においてそれぞれ、電極4b1および電極4b2の厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となっている。
【0030】
シリコン基板1の裏面側は、その一部を除去し空孔7が形成され、この空孔7内に電極4a1、4a2及び圧電薄膜3aが露出する構造となっている。この空孔7は、図1に示すスリット6を通して、シリコン基板1の表面側と連通している。
【0031】
このように構成することで本実施例の圧電素子は、シリコン基板1(支持基板)に両端が支持された圧電薄膜に複数の電極対が形成された両持ち梁構造となっている。
【0032】
本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔7から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電薄膜を含む梁構造は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電薄膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0033】
図3は、音響圧力信号が印加され、圧電薄膜は変位した場合の一例を示している。この場合、2つの変曲点が発生し、圧電薄膜に対する応力の向きによって3つの領域に分けられる。例えば、領域1と領域3では下向きの凸状に湾曲変位し、第1の圧電薄膜3aには引張応力が、第2の圧電薄膜3bには引張応力が発生する。一方、領域2では上向きの凸状に湾曲変位し、第1の圧電薄膜3aには圧縮応力が、第2の圧電薄膜3bには引張応力が発生する。
【0034】
ところで、本実施例の圧電素子は、図2に示すように、圧電素子C1と圧電素子C4とが、圧電素子C2と圧電素子C3の直列接続と圧電素子C5と圧電素子C6の直列接続とが、それぞれ並列に接続しており、さらに上下対称な構造としている。そのため、各領域1〜3それぞれで発生する電圧は、極性が逆で、同一の値となるため、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧は相殺される。
【0035】
その結果、音響圧力信号が印加されることに基づく各領域の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(Pa)に対する出力電圧(Vout)の比(Vout/Pa)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。
【0036】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をCoutとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(Cout・Vout2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよい。
【0037】
具体的には、長方形の両持ち梁の場合の寸法、各圧電薄膜の膜厚、電極の大きさの一設計例を示す。例えば、入力する信号が人間の音声とし、両持ち梁の共振周波数を20kHzとする。また、スマートフォンのような電子機器に搭載することを想定した平面寸法とする。両持ち梁の長さ(図1のスリットの長さに相当)を0.7mm、幅(図1の上下)を1.4mmとする。窒化アルミニウムからなる圧電薄膜3a、3bの厚さはともに0.5μm、モリブデンからなる電極4a1〜4c1、4a2〜4c2の厚さはいずれも0.1μmとする。電極4a1、4c1および4b2の支持端(空孔7の端部)からの延出長さは共に90μm、電極4b1、4a2および4c2の支持端から電極端までの長さは共に500μmとする。また、スリット6の幅は1μmとする。
【0038】
圧電薄膜3a、3bの厚さと両持ち梁(スリット)の長さは、次のように決定することができる。図4は、信号雑音比の窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。なお、共振周波数を一定(20kHz)とし、梁の幅は1.4mm、スリット幅は1μmとした。またスマートフォンのような電子機器に実装する際に実装筐体の大きさにより制限されることを考慮し、空孔の容積は、3mm2と比較的小さい値とした。また、スマートフォンのような小型の筐体の中に、本発明の圧電素子(音響トランスデューサ)の他に圧電素子の出力信号を処理するための増幅回路を実装する必要がある。そのため、許容される圧電素子のチップ寸法を考慮し、梁の長さは0.6mm、0.7mm、0.8mmとした場合について以下の検討を行った。
【0039】
図4に示すように、窒化アルミニウムからなる各圧電薄膜の膜厚を0.4μmより薄くした場合、信号雑音比は僅かではあるが改善する。しかしながら、空孔の音響コンプライアンスのために実質的音響電気変換係数が制限されるため、薄層化による改善効果は顕著ではなく、梁の長さに対する依存性は大きくないことがわかる。逆に圧電薄膜の厚さを厚くすると、信号雑音比は急激に低下する。また梁の長さに対する依存性も顕著となってくる。つまり、共振周波数を一定に保つためには、圧電薄膜の厚さを厚くする場合には梁の長さを長くする必要があることがわかる。図4に示す例では、圧電薄膜の厚さを0.5μmとする場合には梁の長さを0.7mmとし、圧電薄膜の厚さを0.6μmとする場合には梁の長さを0.8mmとするのが好ましいことがわかる。
【0040】
次に、スリット幅について説明する。図5は、マイクロフォンの主要な特性の一つである1kHzの感度を基準として100Hzの感度の低下割合とスリット幅との関係を示すグラフである。上記同様に、両持ち梁の共振周波数を20kHzとし、梁の長さを0.7mm、幅を1.4mm、空孔の容積は3mm2とする。窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の厚さは0.4μm、0.5μm、0.6μmの場合について、スリット幅をとの関係を検討した。
【0041】
図5に示すように、圧電薄膜の厚さに対する依存性はほとんど見られず、スリット幅が1μmを超えると100Hzでの感度低下が顕著となってくる。周波数を100Hzより下げるとこの感度低下はさらに激しくなる。つまり、低周波数での感度低下を抑えるためには、スリット幅を1μm以下にする必要があることがわかる。
【0042】
以上のように、感度の増大を図るため、両持ち梁の長さや圧電薄膜の厚さ、スリット幅等を適宜調整して設定すればよい。
【0043】
本発明の圧電素子は、通常の半導体装置の製造方法を用いて形成することができる。図6は、本実施例の圧電素子の製造方法の説明図である。まず、シリコン基板1上に熱酸化法によりシリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を形成する。絶縁膜2上に、厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4a1と電極4a2を形成する(図6a)。
【0044】
その後全面に、厚さ0.5μmの窒化アルミニウム膜をスパッタ法により積層し、第1の圧電薄膜に相当する圧電薄膜3aを形成する。その後、圧電薄膜3a上に、厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4b1と電極4b2を形成する。さらに全面に、厚さ0.5μmの窒化アルミニウム膜をスパッタ法により積層し、第2の圧電薄膜に相当する圧電薄膜3bを形成する。厚さ0.1μmのモリブデン(Mo)膜をスパッタ法により積層し、通常のリソグラフ法によりパターニングを行い、電極4c1と電極4c2を形成する(図6b)。
【0045】
圧電薄膜3a、3bの一部をエッチング除去し、電極4a1と電極4c1に接続する配線電極5aと、電極4b2に接続する配線電極5bを形成する。この配線電極5a、5bはアルミニウムからなり、通常のリソグラフ法により形成することができる(図6c)。
圧電薄膜3a、3bの一部をエッチング除去する際、図1に示すスリット6に相当する部分の圧電薄膜3a、3bの一部もエッチング除去して凹部を形成し、その底部に絶縁膜2を露出させておく。
【0046】
最後に、シリコン基板1の裏面の一部をドライエッチング法により除去し、露出する絶縁膜2の一部も除去することにより空孔7を形成する。空孔7内には、先に形成した電極4a1、電極4b1および圧電薄膜3aの一部を露出させる。この空孔7の形成により、スリット6を形成するために形成した凹部の底部に露出する絶縁膜2も除去され、圧電薄膜の表面側と裏面側とが貫通したスリット6が形成される。このスリット6により、圧電薄膜は、両持ち梁構造となる(図6d)。
【0047】
以上、本実施例の圧電素子とその製造方法について説明したが、本発明は、圧電薄膜として窒化アルミニウムに限定されるものでないことは言うまでもない。表1は、代表的な圧電材料である窒化アルミニウム、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)について圧電型マイクロフォンの特性に影響を与えるヤング率、横圧電歪係数などの材料定数を比較した表である。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示す信号雑音比に対応する性能指数(FOM)は、結合係数(k312)と損失角(tanδ)の比で表され、その値が大きい程、その値にほぼ比例した形で信号雑音比の向上が期待できる。表1に示すように、酸化亜鉛及びチタン酸ジルコン酸鉛に比べると窒化アルミニウムは6〜40倍性能指数が大きく、圧電トランスデューサに適した材料であることがわかる。また、窒化アルミニウムにスカンジウムを添加した窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)は、窒化アルミニウムより横圧電歪係数が向上することが知られており、例えば、スカンジウムの比率を35%にした場合、性能指数が窒化アルミニウムより7倍程度向上することが期待できる。
【0050】
図7は、信号雑音比の窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN:x=0.35)からなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフである。図4に示す窒化アルミニウムからなる圧電薄膜の膜厚依存性を示すグラフと比較すると、性能指数の7倍に相当する約8dBの信号雑音比の改善が期待できることがわかる。なお、膜厚依存性については、圧電薄膜の種類によらず同様の傾向を示すことも確認できた。具体的には、圧電薄膜の厚さを0.4μmとする場合には、梁の長さを0.6mm、圧電薄膜の厚さを0.6μmとする場合には梁の長さを0.7mm、圧電薄膜の厚さを0.7μmとする場合には梁の長さを0.8mmとするのが好ましいことがわかる。
【実施例2】
【0051】
次に本発明の第2の実施例について説明する。図8は本発明の第2の実施例の圧電素子の断面図である。先に説明した図2に示す圧電素子と比較して、誘電体膜8、電極4d1および電極4d2等を備えている点で相違している。
【0052】
すなわち、図8に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電薄膜3a、誘電体膜8および圧電薄膜3bが積層形成されている。本実施例では、両持ち梁構造とするため、前述の図1で説明したように図面横方向に延びるスリット6が形成されている。圧電薄膜は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)を用いることができ、その結晶方位(圧電配向)は、同一方向となるように形成している。
【0053】
本実施例の圧電素子は、圧電薄膜3aの裏面側に電極4a1と電極4a2が形成されており、電極4a1は、配線電極5aに接続している。電極4a2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。また圧電薄膜3aの上面側には、電極4b1と電極4b2が形成されており、電極4b2は、配線電極5bに接続している。電極4b1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。
【0054】
圧電薄膜3aおよび電極4b1、4b2上に、誘電体膜8が積層され、誘電体膜8上に電極4d1と電極4d2が形成されている。この電極4d1、4d2は、先に形成した電極4b1、4b2と同一の形状となっている。また電極4d2は、配線電極5bに接続し、電極4d1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている点も同一である。
【0055】
具体的には、誘電体膜8の上面側であり圧電素子3bの下面側(膜間に相当)には、電極4d1と電極4d2が形成されており、電極4d2は、配線電極5bに接続している。電極4d1は、配線電極5bやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。さらに圧電薄膜3bの上面側には、電極4c1と電極4c2が形成されており、電極4c1は、配線電極5aに接続しており、電極4c2は、配線電極5aやその他の電極には接続せず、フローティング状態となっている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0056】
このように構成すると、電極4a1、圧電薄膜3a(第1の圧電薄膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なりある領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)が、電極4a2、圧電薄膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C3(第3の圧電素子に相当)が、電極4c1、圧電薄膜3b(第2の圧電薄膜に相当)および電極4d1が重なり合う領域で圧電素子C4(第4の圧電素子に相当)が、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4d1が重なりある領域で圧電素子C5(第5の圧電素子に相当)が、電極4c2、圧電薄膜3bおよび電極4d2が重なりある領域で圧電素子C6(第6の圧電素子に相当)が形成される。
【0057】
その結果、配線電極5aと配線金属5bとの間に、第1の圧電素子C1、第2の圧電素子C2および第3の圧電素子C3が直列接続する構成となる。同様に配線電極5aと配線金属5bに間に、第4の圧電素子C4、第5の圧電素子C5および第6の圧電素子C6が直列接続する構成となる。さらにこれらの直列接続された圧電素子の組が、並列接続した構成ともなっている。
【0058】
このように形成しても、図8から明らかなように、第1の圧電素子C1と第4の圧電素子C4、第2の圧電素子C2と第5の圧電素子C5、第3の圧電素子C3と第6の圧電素子C6は、少なくとも各圧電素子を形成する領域においてそれぞれ、誘電体膜8の厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となる構造となっている。
【0059】
シリコン基板1の裏面側には、その一部を除去された空孔7が形成され、この空孔7内に電極4a1、4a2及び圧電薄膜3aが露出する構造となっている。この空孔7は、図1に示すスリット6を通して、シリコン基板1の表面側と連通している。
【0060】
このように構成することで本実施例の圧電素子でも、シリコン基板1(支持基板)に両端が支持された圧電薄膜に複数の電極対が形成された両持ち梁構造とすることができる。
【0061】
本実施例の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔7から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電薄膜を含む梁構造は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電薄膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0062】
しかし、第1の実施例同様、圧電素子C1と圧電素子C4が、圧電素子C2と圧電素子C5が、圧電素子C3と圧電素子C6が、それぞれ上下対称な構造となっているため、図2で説明した場合と同様に、各領域それぞれで発生する電圧は、極性が逆で、同一の値となるため、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧は相殺することが可能となる。
【0063】
その結果、音響圧力信号が印加されることに基づく各領域の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(Pa)に対する出力電圧(Vout)の比(Vout/Pa)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。特に積層構造の最上層の圧電薄膜3bと最下層の圧電薄膜3aから圧電信号を取り出す構成となり、応力が相対的に大きな部分から圧電信号を取り出すため、信号雑音比はさらに改善されることが期待される。
【0064】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をCoutとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(Cout・Vout2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよいことも同様である。また、誘電体膜の厚さや材質は、所望の特性を得るために適宜選択すればよい。誘電体膜は窒化アルミニウムであっても良い。窒化アルミニウムを三層積層する場合には、それぞれの厚さは、0.33μmとすればよい。
【0065】
圧電薄膜の振動により湾曲変位するとき、変位の変曲点が2以上となるような場合には、上記実施例に限定されず、変曲点により区画される領域毎に圧電素子の数を増やしたり、各領域に複数の素子を配置するようにしても良い。
【0066】
ところで、本発明のような圧電素子を音響トランスデューサとして使用する場合、圧電素子から出力される信号を処理するための増幅回路が必要となる。一般的には別のシリコン基板上に集積回路を形成し、それぞれ別々の素子として実装基板に搭載される。本発明の圧電素子は、支持基板に例えば信号処理のための素子を形成しても何ら問題ない。その場合、圧電薄膜は層間絶縁膜として使用し、電極を配線金属して使用すれば良い。
【符号の説明】
【0067】
1:シリコン基板、2:絶縁膜、3a、3b:圧電薄膜、4a、4b、4c、4d:電極、5a、5b:配線電極、6:スリット、7:空孔、8:誘電体膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9