(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記沸点150℃以上のアルコール系溶媒(C)が、エチレングリコール、ジエチレングリコール又は分子量200〜400ポリエチレングリコールである請求項1に記載の接合体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
環境保護の観点から有害物の使用規制が産業上広く課されているが、とりわけ、実装材料においては欧州連合のRoHS指令の施行に基づいて、はんだ材料の鉛フリー化が強力に推進されてきた。その結果、従来のスズ−鉛共晶はんだ(融点183℃)を代替する接合用材料として、スズ−銀系またはスズ−銅系はんだが見出され、広く用いられるようになっている(融点220〜230℃)。しかしながら、耐熱性と伝熱性が求められるような実装、例えば大電流を制御するパワーデバイスを放熱ベースに接合するような用途では、250℃付近の高温条件下での信頼性が求められているが、スズ−鉛合金(融点238℃)に代わる性能の接合用材料が見出されておらず、未だに高含量の鉛を含むものが用いられているのが実情である。
【0003】
鉛を使用しない耐熱性の接合方法として期待されているのが、金属ナノ粒子を用いた接合技術である。100nm以下の金属ナノ粒子はバルク金属に比して重量あたり比表面積が格段に高いので、相互に融着して表面エネルギーを低下させようとする傾向が強く、バルク金属よりはるかに低い温度で粒子相互が融着しうる。量子サイズ効果(久保効果)と呼ばれるこの現象を応用し、融点を低下させる程度にまではんだを微粒子化して、無加圧条件下、350℃の温度で融着させる銀ナノ粒子を用いた接合用材料が開発された(特許文献1)。金属ナノ粒子を接合用材料として応用すれば、鉛フリーの接合技術となるため、銀ナノ粒子を利用した接合方法や接合用品の実用化検討が行われている。
【0004】
加熱によりバルク金属となると、再び溶融させるには相当の高温(バルク金属の融点)を要することから、金属ナノ粒子を用いた接合には250℃以上の高温条件下での高い信頼性が期待できる。すなわち、前述のパワー半導体の接合や、自動車のエンジンルームのような高温環境で用いられる回路実装用はんだに好適である。バルク材料の融点まで再溶融しないので、二次実装を行う場合に、接合が安定であるという性質も実用上の価値である。ハイブリッド自動車用パワー半導体装置の組立てにも応用が期待されている。
【0005】
しかしながら、金属ナノ粒子を用いた接合では、焼成時に溶媒の揮発に伴い発生するボイド生成を抑制するために加圧を行う必要がある。しかし、この加圧作業は接合作業の効率を大きく低下させる上に、チップ破損を招く原因にもなるため、無加圧接合が求められている。ボイド生成を抑制するために二段階の加熱を行う方法も検討されている(特許文献2)。しかしながら、当文献による接合では十分な接合強度を得るためには本焼成を350℃程度で行う必要がある上、被接合体の面積(接合部の面積)も6.25mm
2と小さく、車載用や産業用ロボット用途に使用が期待される16mm
2以上の被接合体の接合を行うことは困難である。350℃焼成では周辺部品に反りや湾曲を生じさせてしまうため、既存工程により接合を行うためには、無加圧条件下、250℃以下での低温接合を実現する必要がある。オキシジ酢酸のようなフラックス剤を添加することで接合温度を300℃以下に低下させる報告もあるが、接合基板に銀メッキ処理を行う必要がある等、実用性に劣っている(特許文献3)。また、200℃以下での低温接合例としてポリエチレンイミンとポリエチレングリコールの共重合体を銀ナノ粒子と複合化させた複合組成物を接合剤として用いた報告があるが(特許文献4)、2.5MPa程度の加圧を必要とする上、接合強度試験方法がセロハンテープ剥離試験である等、現実のパワー半導体製造工程を満足させる性能とは到底言えない。
一方で、上記した銀は、イオンマイグレーションが発生しやすく、配線短絡の要因になりやすいという弱点がある上、貴金属であることから低価格化が極めて困難である。そこで、銅ナノ粒子を利用した接合方法や接合用品の検討が行われ始めた(特許文献5)。
特許文献5の接合用材料は、銅ナノ粒子と銀ナノ粒子を併用することを特徴としており、金属ナノ粒子はそれぞれの金属は共に低分子アミンで保護されている。低分子アミンと金属ナノ粒子との相互作用は強いため、高温条件でなければナノ金属から低分子アミンが脱離せず、ナノ金属を十分に焼結させることができない。従って、十分な接合強度を得るためには、大気下で350℃といった高温条件下の接合が必要となる。
一方で、ポリエチレンオキシド等のポリマーを含有する保護剤を用いて無加圧、低温焼成で接合する方法が検討されている(特許文献6)。この方法では7mm
2の小面積被接合体の接合においては高い接合強度が得られるものの、16mm
2以上の面積を持つ被接合体の接合に関しては十分な接合強度が得られていない。
上述の通り、実用面において、16mm
2以上の面積を持つ被接合体を無加圧、低温焼成で接合可能な銅ナノ粒子接合材は高い有用性、産業界からの強い要請があるものの、十分な接合強度が達成できず、実用化の大きな妨げとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について説明する。まず、本発明の製造方法に使用する接合用材料の調製について述べる。
【0013】
<銅ナノ粒子>
本発明の銅ナノ粒子(B)は、後述のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合可能なものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは銅ナノ粒子、銀コア銅シェルナノ粒子、銅コア銀シェルナノ粒子などが挙げられる。なかでも、銅ナノ粒子がより好ましい。
上記、銅ナノ粒子は一次粒子径が1〜100nmのものが好ましいが、40〜80nmのものがより好ましい。
【0014】
<ポリエチレンオキシド含有有機化合物>
本発明で用いる保護剤(ポリエチレンオキシド含有有機化合物)中のポリエチレンオキシド部位は、沸点が150℃以上のアルコール系溶媒など本発明で用いる特定の溶媒との親和性に優れることから、銅ナノ粒子の凝集を強く抑制でき、銅ナノ粒子の高分散を可能とする。これは即ち、銅ナノ粒子が高密度に充填されている状態であるため、加熱処理による保護剤及び溶媒の分解除去に伴うボイド発生を起こさず、銅粒子同士のネッキング現象による高密度接合を可能とし、無加圧条件下での高強度接合を可能とする。また、本発明の保護剤を用いて合成した銅ナノ粒子は、保護剤存在量が2〜15%程度と少なく、接合時の銅粒子同士のネッキング現象を妨げず、且つ、接合後に有機成分がほとんど残らないため、高耐熱性接合剤として高い信頼性を有している。
本発明の接合用材料に含有される炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅ナノ粒子の例として、特許第4784847号公報、特開2013−60637号公報又は特許第5077728号公報に記載の方法で合成することができる。これらは、チオエーテル型(R−S−R’)化合物が銅粒子表面に対して適切な親和吸着効果と、加熱による迅速な脱離性を有することが特徴となっており、低温融着特性を示す金属ナノ粒子として開発されている。
これらの中でも、下記式(1)〜(3)で表されるチオエーテル型有機化合物であることが好ましい。
【0015】
<チオエーテル(R−S−R’)型有機化合物>
本発明の効果を説明する一例として、下記一般式(1)〜(3)で表されるチオエーテル型有機化合物が複合した銅ナノ粒子について詳述する。
【0016】
W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−X (1)
[W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−]
dY (2)
[W−(OCH
2CH
2)
n−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−S−R
a−]
tZ (3)
【0017】
〔式(1)、(2)及び(3)中のWはC
1〜C
8のアルキル基であり、nは4〜100の繰り返し数を示す整数であって、XはC
2〜C
12のアルキル基、アリル基、アリール基、アリールアルキル基、−R
1−OH、−R
1−NHR
2、又は−R
1−(COR
3)
m(但し、R
1はC
1〜C
4の飽和炭化水素基であり、R
2は水素原子、C
2〜C
4のアシル基、C
2〜C
4のアルコキシカルボニル基、又は芳香環上にC
1〜C
4のアルキル基又はC
1〜C
8のアルコキシ基を置換基として有していても良いベンジルオキシカルボニル基であり、R
3はヒドロキシ基、C
1〜C
4のアルキル基又はC
1〜C
8のアルコキシ基であり、mは1〜3の整数である。)であり、Yは硫黄原子と直接結合するものが炭素原子である2〜4価の基であって、C
1〜C
4の飽和炭化水素基又はC
1〜C
4の飽和炭化水素基が−O−、−S−若しくは−NHR
b−(R
bはC
1〜C
4の飽和炭化水素基である。)で2〜3個連結した基であり、dは2〜4の整数であり、R
aはC
2〜C
5のアルキルカルボニルオキシ基であり、Zは硫黄原子と直接結合するものが炭素原子である2〜6価の基であって、C
2〜C
6の飽和炭化水素基、C
2〜C
6飽和炭化水素基が−O−、−S−若しくは−NHR
c−(R
cはC
1〜C
4の飽和炭化水素基である。)で2〜3個連結した基、又はイソシアヌル酸−N,N’,N”−トリエチレン基であり、tは2〜6の整数である。〕
【0018】
前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は、溶媒親和部として機能する。このポリエチレンオキシドの炭素数は、8〜200のものを用いることが好適であり、炭素数8〜100のものを用いることがより好適である。
また、前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は炭素数が少ない程、有機成分が残りにくいため、炭素数8〜12程度のものが高い信頼性を有する接合剤としてより好ましい。
一方で、前記一般式(1)〜(3)中におけるエチレンオキシドを繰り返し単位として有する鎖状の官能基は炭素数50〜100程度のものが分散安定性に優れ、金属ナノ粒子を高分散させ、無加圧条件での接合強度を向上させる点で、より好ましい。
従って、使用場面に応じて炭素数を8〜200の範囲や、より好ましい炭素数8〜100の範囲で適宜調節することができる。
【0019】
前記一般式(1)〜(3)中のWは、工業的な入手の容易さ、および保護剤として使用したときの分散安定性の点から、直鎖状または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基であり、特に水性媒体中での安定性の観点からは炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましい。
【0020】
前記一般式(1)中のXがカルボキシル基、アルコキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基を部分構造として含む構造のものは、チオエーテル基と多座配位子を構成することが可能となるため、金属ナノ粒子表面への配位力が強くなるため好ましい。
【0021】
前記一般式(2)中のYがエーテル(C−O−C)、チオエーテル(C−S−C)を部分構造として含む構造のもの、前記一般式(3)中のR
aがメチレンカルボキシ基(−CH
2COO−)またはエチレンカルボキシ基(−CH
2CH
2COO−)であって、Zがエチレン基、2−エチル−2−メチレンプロパン−1,3−ジイル基、2,2−ビスメチレンプロパン−1,3−ジイル基であるものが最も好適である。
【0022】
<チオエーテル型有機化合物の製造方法>
前述のように、本発明においてチオエーテル型有機化合物は、前記一般式(1)〜(3)で表される化合物であることが好ましい。これらのチオエーテル型有機化合物を製造する方法について、以下詳述する。
【0023】
チオエーテル型有機化合物を簡便に製造する方法としては、例えばグリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)とチオール化合物(a2)とを反応させる方法が挙げられる。
【0024】
前記グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)は、下記一般式(4)で表すことができる。
【0026】
(式中、W、R
1、nは前記と同じである。)
グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)の合成方法としては、例えば、ルイス酸存在下、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルをエピクロロヒドリンのオキシラン環に付加開環させた後、生成するクロロヒドリン体を濃厚アルカリ中で加熱再閉環する方法、過剰のアルコラートや濃厚アルカリなどの強塩基を用いて、一段階で反応させる方法が挙げられるが、より高純度のポリエーテル化合物(a1)を得る方法としては、カリウムt−ブトキシドを用いてポリエチレングリコールモノメチルエーテルをアルコキシドとし、これとエピクロロヒドリンとを縮合させた後、加熱を継続してエポキシ環を再形成するGandourらの方法(Gandour,et al.,J.Org.Chem.,1983,48,1116.)を準用することが好ましい。
【0027】
前記グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)の末端オキシラン環を、チオール化合物(a2)で開環させて、目的とするチオエーテル型有機化合物を得ることができる。この反応はチオール基の求核反応を利用したものであるが、この反応については様々な活性化方法が挙げられる。
例えば、ルイス酸によるエポキシドの活性化による合成が広く行なわれており、具体的には酒石酸亜鉛や、ランタニド系ルイス酸を用いることが知られている。また、ルイス塩基を用いる方法もしばしば行われている。
【0028】
更に、フッ素イオンを塩基触媒として活用する方法はJames H.Clarkの総説に詳しく述べられている。Pensoらはこれをレジオセレクティビティーに優れるエポキシドの開環方法として応用しており、フッ化第四級アンモニウムを触媒とすることで穏和な条件下でチオールのエポキシドへの付加開環反応が進行することを報告している。
【0029】
特に本発明で用いるチオエーテル型有機化合物が高効率で得られる点からは、フッ素イオンを塩基触媒として活用する方法が好ましい。この方法を適用することによって、グリシジル基を末端に有するポリエーテル化合物(a1)とチオール化合物(a2)の反応後、特別な精製を行わなくても、チオエーテル型有機化合物を得ることができる。
【0030】
ポリエーテル化合物(a1)には様々なチオール化合物(a2)を反応させることができる。例としてアルカンチオール類、ベンゼンチオール類の他、ラジカル重合連鎖移動剤として汎用されているため入手が容易なチオグリコール、チオグリコール酸およびそのエステル類、メルカプトプロピオン酸およびそのエステル類などが挙げられる。チオリンゴ酸、チオクエン酸およびそれらのエステル類のようなメルカプトポリカルボン酸類を反応させてもよい。また、分子内に複数のチオール基を有する化合物、すなわちエタンジチオールの様なアルキレンジチオール類、トリメチロールプロパン=トリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリスリトール=テトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、ジペンタエリスリトール=ヘキサキス(3−メルカプトプロピオナート)なども同様に反応させ導入することが可能である。その結果得られる化合物は、分子内に複数のチオエーテル構造を持つので、銅系ナノ粒子に対し複数の領域によって親和性を発現しうる。
【0031】
一般式(1)〜(3)で表される構造を分子中に有する高分子化合物を得るために使用するチオール化合物(Q)は、一般に連鎖移動剤として使用されるチオール化合物を使用することができる。具体的には、チオグリコール、2−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロパノール、8−メルカプトオクタノール、2,3−ジヒドロキシプロパンチオール、2−メトキシエタンチオール、2−エトキシエタンチオール、2−ヘキシルオキシエタンチオール、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エタンチオール、2−ベンジルオキシエタンチオール、2−(4−メトキシベンジルオキシ)エタンチオール、2−フェニルオキシエタンチオール、2−(4−メトキシフェニルオキシ)エタンチオール、2−(2,4−ジメトキシフェニルオキシ)エタンチオール、6−(4−ヒドロキシメチルフェニルオキシ)ヘキサンチオール、2−アセトキシエタンチオール、2−ヘプタノイルオキシエタンチオール、2−オクタノイルオキシエタンチオール、2−オクタデカノイルオキシエタンチオール、2−イソブチリルオキシエタンチオール、2−ピバロイルオキシエタンチオール、チオグリコール酸、β−メルカプトプロピオン酸、7−メルカプトオクタン酸、2−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトコハク酸、およびこれらカルボン酸の無機塩、アンモニウム塩および有機アミンの塩、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸エチル、チオグリコール酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸エチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル、β−メルカプトプロピオン酸ドデシル、β−メルカプトプロピオン酸−2−(メトキシエチル)、β−メルカプトプロピオン酸−2−(メトキシエトキシエトキシ)、β−メルカプトプロピオン酸−2−(4−メトキシブトキシ)、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸−2−エチルヘキシル、β−メルカプトプロピオン酸−3−メトキシブトキシ、2−メルカプトエチルホスファート、2−メルカプトエチルホスフィン酸、2−メルカプトプロピルホスファート、2−メルカプトプロピルホスフィン酸、ω−メルカプトエトキシエチルホスファート、ω−メルカプトプロピルオキシプロピルホスファート、2−メルカプトエチルジメチルホスファート、2−メルカプトエチルホスフィン酸ジメチル、2−メルカプトエチルジエチルホスファート、2−メルカプトプロピルジエチルホスファート、2−メルカプトエチルジイソプロピルホスファート、2−メルカプトエチルジイソブチルホスファート、2−メルカプトエチルサルファート、2−メルカプトエチルスルホン酸、2−メルカプトプロピルスルホン酸、2−メルカプトエチルメチルサルファート、メチル 2−メルカプトエチルスルホナート、2−メルカプトエチルエチルサルファート、エチル 2−メルカプトエチルスルホナート、メチル 2−メルカプトプロピルスルホナート、エチル 2−メルカプトプロピルスルホナート、等があげられる。中でもチオグリコール、2,3−ジヒドロキシプロパンチオール、チオグリコール酸、β―メルカプトプロピオン酸、β―メルカプトプロピオン酸エチル、β―メルカプトプロピオン酸2−エチルヘキシルが、反応性、入手容易さおよび薄膜化した時の面平滑性の点から好ましく、β―メルカプトプロピオン酸メチルが最も好ましい。
【0032】
<炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅ナノ粒子の合成>
本発明の効果を説明する一例として、本発明の接合用材料に含有される炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物が複合した銅ナノ粒子の製造方法は、チオエーテル型有機化合物の存在下で、2価の銅イオン化合を溶媒と混合する工程と、銅イオンを還元する工程とを有することを特徴とするものである。
【0033】
2価の銅イオン化合物としては、一般的に入手可能な銅化合物が利用可能であり、硫酸塩、硝酸塩、カルボン酸塩、炭酸塩、塩化物、アセチルアセトナート錯体等が利用できる。0価の銅ナノ粒子との複合体を得る場合には2価の化合物から出発しても1価の化合物から製造してもよく、水分や結晶水を有していても差し支えない。具体的には、結晶水を除いて表現すれば、CuSO
4、Cu(NO
3)
2、Cu(OAc)
2、Cu(CH
3CH
2COO)
2、Cu(HCOO)
2、CuCO
3、CuCl
2、Cu
2O、C
5H
7CuO
2などが挙げられる。さらに、上記塩類を加熱したり、塩基性雰囲気に曝したりすることにより得られる塩基性塩、たとえばCu(OAc)
2・CuO、Cu(OAc)
2・2CuO、Cu
2Cl(OH)
3等は最も好適に用いることができる。これら塩基性塩は、反応系内で調製してもよいし、反応系外で別途調製したものを使用してもよい。また、アンモニアやアミン化合物を加えて錯体形成し、溶解度を確保してから還元に用いる一般的な方法も適用可能である。
これらの銅イオン化合物を、予めチオエーテル型有機化合物を溶解又は分散した媒体に溶解、または混合する。このとき用いることができる媒体としては、使用する有機化合物の構造にもよるが、水、エタノール、アセトン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンおよびそれらの混合物が好適に用いられ、水−エチレングリコール混合物は特に好ましい。
【0034】
チオエーテル型有機化合物の、各種媒体中における濃度としては、引き続き行なう還元反応の制御が容易になる点から、0.3〜10質量%の範囲に調整することが好ましい。
【0035】
上記で調製した媒体中に、前記銅イオン化合物を、一括又は分割して添加し、混合する。溶解しにくい媒体を使用する場合には、予め少量の良溶媒に溶解させておいてから、媒体中に添加する方法であっても良い。
【0036】
混合するチオエーテル型有機化合物と銅イオン化合物との使用割合としては、反応媒体中でのチオエーテル型有機化合物の保護能力に応じて適宜選択することが好ましいが、通常、銅イオン化合物1molあたりに、チオエーテル型有機化合物として1mmol〜30mmol(分子量2000のポリマーを用いる場合、2〜60g程度)の範囲で調製し、特に15〜30mmolの範囲で用いることが好ましい。
【0037】
引き続き、銅イオンの還元を、各種還元剤を用いて行なう。還元剤としては、ヒドラジン化合物、ヒドロキシルアミンおよびその誘導体、金属水素化物、ホスフィン酸塩類、アルデヒド類、エンジオール類、ヒドロキシケトン類など、氷冷温から80℃以下の温度で銅の還元反応を進行させることができる化合物であることが、沈殿物形成の少ない複合体を与えるため、好適である。
【0038】
銅イオンの還元において、具体的にはヒドラジン水和物、非対称ジメチルヒドラジン、ヒドロキシルアミン水溶液、水素化ホウ素ナトリウムなどの強力な還元剤が好適である。これらは、銅化合物を0価まで還元する能力を有するので、2価および1価の銅化合物を還元銅とし、有機化合物とナノ銅粒子との複合体を製造する場合に適している。
【0039】
還元反応に適する条件は、原料として用いる銅化合物、還元剤の種類、錯化の有無、媒体、チオエーテル型有機化合物の種類によって様々である。例えば、水系で酢酸銅(II)を水素化ホウ素ナトリウムで還元する場合には、氷冷程度の温度でも0価のナノ銅粒子が調製できる。一方、ヒドラジンを用いる場合には、室温では反応は遅く、60℃程度に加熱してはじめて円滑な還元反応が起こり、エチレングリコール/水系で酢酸銅を還元する場合には、60℃で2時間程度の反応時間を要する。このようにして還元反応が終了すると、有機化合物と銅ナノ粒子との複合体を含む反応混合物が得られる。
【0040】
このように調製した銅ナノ粒子は保護剤の効果により、水分を完全に除去して乾燥体粉末とした後に、再び溶媒を添加しても乾燥前の状態と同じように高分散させることが可能である。
【0041】
また、チオエーテル型有機化合物と前記媒体、および銅イオン化合物の混合液中にナノ銀を添加した混合液をあらかじめ調整し、次いで還元剤を添加して銅イオンを前記方法で還元させると、ナノ銀表面を銅が被覆した、銀コア銅シェルナノ粒子を得ることができる。
【0042】
また、逆にチオエーテル型有機化合物と前記媒体、および銀イオン化合物の混合液中にナノ銅を添加した混合液をあらかじめ調整し、次いで還元剤を添加して銀イオンを前記方法で還元させると、ナノ銅表面を銀が被覆した、銅コア銀シェルナノ粒子を得ることができる。
【0043】
<分散液の製造方法>
還元反応後は、必要に応じて金属化合物残渣、還元試薬残渣、余剰のポリエチレンオキシド含有有機化合物等を除く工程が設けられる。複合体の精製には、再沈殿、遠心沈降または限外濾過が適用可能であり、得られた複合体を含む反応混合物を洗浄溶媒、例えば水、エタノール、アセトンおよびこれらの混合物によって洗浄することで、前述の不純物を洗い流すことができる。
【0044】
<接合用材料の製造方法>
上述のように、銅ナノ粒子−有機化合物複合体は水分散体として得られるが、精製の最終段階において、複合体に洗浄用溶媒を加える代わりに、接合用材料として使い易い溶媒を加え、あるいは、媒体交換することにより、接合用材料としての適性を付与することができる。本発明で用いる接合用材料が、金属ナノ粒子の保護剤(上述の通り)及び後述の溶媒(C)として、熱還元効果を持つものを用いることで銅ナノ粒子表面の酸化皮膜を除去し、融着を進行させる。
【0045】
接合用材料は、材料中に含まれる銅濃度が高いほど高い接合強度を得ることができるが、一方で、材料を塗布、ディスペンサ、マスク印刷、スクリーン印刷等により、被接合部材間(接合部とも表記する場合がある)へ供給する必要があるので、その特性が好適となるよう粘度調整用の溶媒や添加剤を添加したり、材料中に含有する金属濃度を調整したりする必要がある。従って、印刷方式に見合った粘度範囲で最大の銅濃度となるように水分散体の銅濃度を調節する。一般的には50〜95%程度が、接合部への供給がし易い点で好適である。
【0046】
本発明の接合用材料は、100を超えて1000nm程度の粒子径を持つ金属ナノ粒子をさらに添加して使用することもできる。さらに添加する場合の金属ナノ粒子は、銀、銅などが挙げられる。
【0047】
本発明の接合用材料は、フラックス成分を加えることで、より一層の還元力を持たせて使用することもできる。
【0048】
このように調製した接合用材料は、密閉容器中で保存すれば、安定に保存できる。
【0049】
本発明の技術分野において実用上充分といわれる水準は、後述のせん断強度試験において、15MPa以上の強度が得られるものである。本発明の接合用材料は、無加圧条件下の接合においても15MPa以上の強度を発揮し、好ましくは20MPa以上の強度を発揮することができる。
【0050】
<本発明の溶媒(C)>
本発明で用いることができる溶媒(C)としては、沸点150℃以上のアルコール系溶媒を好適に用いることができる。
【0051】
ここで、沸点150℃以上のアルコール系溶媒は、具体的には、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコールなどの一官能アルコール型や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオールなどの二官能アルコール型や、プロパントリオール、ブタントリオール、ペンタントリオール、ヘキサントリオール、ヘプタントリオールなどの三官能アルコール型、プロパンテトラオール、ブタンテトラオール、ペンタンテトラオール、ヘキサンテトラオール、ヘプタンテトラオールなどの四官能アルコール型、ペンタンペンタオール、ヘキサンペンタオールなどの五官能アルコール型のものが挙げられる。また、ベンゼントリオール、ビフェニルペンタオール、ベンゼンペンタオール、シクロヘキサンヘキサオールなどの環状型の構造を有するアルコール化合物を用いることも可能である。それ以外にもクエン酸、アスコルビン酸等のアルコール基を有する化合物を用いてもよい。また、エーテル構造を含むアルコール誘導体である、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、分子量200〜400までのポリエチレングリコール等を用いることができる。
なかでも、より好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオールなどの二官能アルコール型の溶媒、分子量200〜400までのポリエチレングリコールなどのエーテル構造を含むアルコール誘導体が好ましい。
なかでも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、分子量200〜400までのポリエチレングリコールがさらに好ましい。
溶媒(C)の使用量は、金属に対し5〜50%の範囲であれば使用可能であり、5〜15%の範囲がより好ましい。
【0052】
<接合方法>
以下、接合方法について説明する。本発明の接合体の製造方法は、上述のようにして得られた接合用材料を、16mm
2以上の面積を有する複数の金属製部材の間に供給し、前記接合用材料が供給された被接合体を得る第一工程と、第一工程で得られた接合用材料が供給された被接合体を、焼成温度100〜200℃及び焼成時間2〜20分間の焼成条件での仮焼成に供する第二工程と、第二工程で得られた仮焼成後の被接合体を、接合温度での本焼成に供する第三工程とを含むものである。
【0053】
・第一工程
上述のように調製した接合用材料を、接合すべき複数の金属製部材の間に供給し、そのまま(加圧せず)又は僅かに加圧しながらマウントすることで、接合用材料が供給された被接合体を得ることができる。被接合体は、酸等の薬品、機械研磨、レーザー、プラズマ処理等で予め洗浄した金属製板材の上に任意量を供給し、金属製板材をそのまま、あるいは僅かに加圧しながらマウントすることで得ることができる。
本工程における「供給」は、マスクを用いたスキージ塗布、ディスペンサによる塗布、印刷機を用いた塗布などを用いることができ、マウントはマウンターなどの設備を用いて行うことができる。
ここで、本明細書中の表現を定義する。
本発明で用いる接合用材料が、接合すべき複数の金属製部材に供給された接合前の状態を「被接合体」と表現するものとする。そして、この被接合体を加熱して得られる、接合すべき複数の金属製部材が供給された接合用材料の焼結物と一体となったものを「接合体」と表現するものとする。接合すべき「複数の金属製部材」は、2以上の部材を接合するという意味であるが、いずれの部材も16mm
2以上(4mm×4mm以上(4mm角以上)という意味である)の面積を有するものであるときに、本発明は特に顕著な優位性を発揮する。接合用材料が「供給される部分の面積」としては、16mm
2以上であることが好ましい。なお、本発明で接合する対象は、16mm
2以上の面積を有する金属製部材であるが、上記の通り、「供給される部分の面積」が16mm
2以上となる場合は、基本的に、金属製部材の面積は、上記定義の通りとなるからである。
本発明で用いる接合用材料の性質上、本発明は接合用材料が供給される「供給される部分の面積」が16mm
2以上という比較的大きな面積を接合する場合を想定している。本発明は、近年の市場の要求により生じた、16mm
2以上の面積を有する部材の間をつなぐ検討過程で生じた新たな課題を抽出し、これを解決する方法を見出したものであり、特に「供給される部分の面積」の上限は制限されるものではないが、より好適には、16mm
2以上225mm
2以下であることが、市場要求を鑑みた実情から好ましい。
【0054】
・第二工程
本発明の第二工程の仮焼成温度は100〜200℃の範囲であれば好適であり、なかでも100〜150℃の範囲で行うことがより好ましく、仮焼成時間は2〜20分の範囲が好適である。また、仮焼成の温度及び時間は被接合体の面積に合わせて最適化することが好ましい。
第二工程の焼成温度への昇温速度は5〜80℃/minの範囲で行うことが好ましい。なかでも、実際の工程時間短縮の観点から、30〜60℃/minの範囲で行うことが好ましい。
このように、16mm
2以上という比較的大きな面積を接合する場合には、本焼成前に仮焼成を行い余剰分の溶媒を抜いてから本焼成を行うことで、溶媒の突沸を防止し、銅ナノ粒子間の密度を高め接合強度を大きく向上させる。
また、本工程において余剰分の溶媒が揮発する際に、銅ナノ粒子が溶媒中で高分散していることにより、銅ナノ粒子が部分的に偏ることなく均等に濃縮され、ボイドが発生することなく銅ナノ粒子間の密度が高まり、無加圧接合が可能となる。従って、本工程においては、溶媒(C)に高い分散性をしめす炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物(A)の存在が極めて重要である。
【0055】
・第三工程
本発明の第三工程(本焼成)における接合温度は、180℃以上で行うことができ、200℃以上で行うことが好ましい。一方、本焼成における接合温度の上限は、高温で行うほど強力に接合することが知られていることから特に限定されるものではないが、例えば800℃程度とすることができる。また、本焼成における接合温度は被接合体の材質により適宜調整されるべきものである。被接合体への負荷を鑑みると200〜250℃の範囲で行うことが好適であるが、250℃を超える温度で焼成を行うことで更に接合強度を向上させることもできる。
第三工程における接合温度(本焼成)への昇温速度は5〜80℃/minの範囲で行うことが好ましい。なかでも、実際の工程時間短縮の観点から、30〜60℃/minの範囲で行うことが好ましい。
本発明の方法によれば、焼成時の加圧が無くても十分な接合強度を得ることが可能であるが、前述の焼成温度で0.01MPa以上の微量の加圧を行うことにより更に接合強度を向上させることも可能である。
【0056】
<接合工程雰囲気>
上記工程は減圧雰囲気下、水素を含むフォーミングガス下、窒素雰囲気下又はギ酸を通過させて含ませたギ酸含有窒素の雰囲気で行うこともできる。
【0057】
接合のために加熱すると、250℃以下で銅ナノ粒子と複合しているポリエチレンオキシド部位及び金属配位部位は分解し揮発する。
【0058】
本発明において、接合すべき金属製部材としては、金属(合金、金属間化合物も含む。)が挙げられ、本発明では金、銀、銅又はニッケルがより好ましい。また、部材の形状等も、これらの粉末又はペーストが部材間に適切に配置できる限り、特に限定されない。
【0059】
<接合強度測定>
JIS Z−03918−5:2003「鉛フリーはんだ試験方法」に記載の方法で、上記の接合試験片にせん断力を印可し、接合強度を測定した。本明細書中、せん断強度試験ともいう。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により説明するが、あくまで一例であり、これらに限定されるべきものではない。特に断りのない限り「%」は質量基準である。
なお、
図1及び
図2の超音波映像図は、Sonoscan社製の超音波映像装置(C−SAM D−6000)を用いて得た。プローブは230MHzのものを用い、水中で行った。
【0061】
合成例1
<炭素数8〜200のポリエチレンオキシド含有有機化合物(チオエーテル型有機化合物(A1)〜(A4))が複合した銅ナノ粒子の合成>
酢酸銅(II)一水和物(3.00g、15.0mmol)、エチル 3−(3−(メトキシ(ポリエトキシ)エトキシ)−2−ヒドロキシプロピルスルファニル)プロピオナート〔ポリエチレングリコールメチルグリシジルエーテル(ポリエチレングリコール鎖の分子量200(炭素数8)、1000(炭素数46)2000(炭素数91)、3000(炭素数136))への3−メルカプトプロピオン酸メチルの付加化合物(前記ポリエチレンオキシド鎖の分子量によって、それぞれ、下記式で表されるチオエーテル型有機化合物(A1)、(A2)、(A3)、(A4)とする)(0.451g)
【0062】
【化2】
及びエチレングリコール(10mL)からなる混合物に、窒素を50mL/分の流量で吹き込みながら加熱し、125℃で2時間通気攪拌して脱気した。この混合物を室温に戻し、ヒドラジン水和物(1.50g、30.0mmol)を水7mLで希釈した溶液を、シリンジポンプを用いてゆっくり滴下した。約1/4量を2時間かけてゆっくり滴下し、ここで一旦滴下を停止し、2時間攪拌して発泡が沈静化するのを確認した後、残量を更に1時間かけて滴下した。得られた褐色の溶液を60℃に昇温して、さらに2時間攪拌し、還元反応を終結させた。
【0063】
<水分散液の調製>
つづいて、この反応混合物をダイセン・メンブレン・システムズ社製の中空糸型限外濾過膜モジュール(HIT−1−FUS1582、145cm
2、分画分子量15万)中に循環させ、滲出する濾液と同量の0.1%ヒドラジン水和物水溶液を加えながら、限外濾過モジュールからの濾液が約500mLとなるまで循環させて精製した。0.1%ヒドラジン水和物水溶液の供給を止め、そのまま限外濾過法により濃縮すると、2.85gのチオエーテル型有機化合物(A1)〜(A4)がそれぞれ複合した銅ナノ粒子の水分散液(a1)〜(a4)が得られた。水分散液(a1)〜(a4)中の不揮発物含量は16%、不揮発物中の金属含量は95%であった。銅ナノ粒子の一次粒子径はJEOL製の透過型電子顕微鏡、JEM1400を使用し、電圧200keVの条件下で撮影した画像から評価した。評価の結果、一次粒子径はそれぞれ、(a1)41、2nm、(a2)47.8nm、(a3)57.2nm、(a4)65.4nmであった。
【0064】
なお、ポリエチレンオキシド鎖の分子量が200のチオエーテル型有機化合物をチオエーテル型有機化合物(A1)、分子量が1000のものをチオエーテル型有機化合物(A2)、分子量が2000のものをチオエーテル型有機化合物(A3)、分子量が3000のものをチオエーテル型有機化合物(A4)とする。また、チオエーテル型有機化合物(A1)〜(A4)が複合した銅ナノ粒子の水分散液を、それぞれ(a1)〜(a4)とする。
【0065】
試験例1
上記の水分散液(a1)〜(a4)5mLをそれぞれ50mL三口フラスコに封入し、ウォーターバスを用いて40℃に加温を行いながら、減圧下、窒素を5ml/minの流速で流すことで、水を完全に除去し、銅ナノ粒子複合体乾燥粉末1.0gを得た。次に得られた乾燥粉末にアルゴンガス置換したグローブバッグ内で、30分間窒素バブリングしたエチレングリコールを0.1g添加した後、乳鉢で10分間混合することで不揮発分90%の銅ナノ粒子ペーストを得た。
得られた銅ナノ粒子ペーストを5mm角、厚さ50μmのステンレス製のマスクを用いて前述の直径30mm、厚さ1mmの銅板に金属ヘラを用いてスクリーン塗布した。その後、5mm角、厚さ0.3mmの銅板を塗布面にマウントし、窒素雰囲気下、無加圧条件下で、120℃で5分間仮焼成を行った後、本焼成を250℃で10分間行い接合した。昇温速度は、仮焼成時、本焼成時ともに43℃毎分で行った。その後、自然冷却を行うことで、銅板接合体(実施例1(使用した水分散液は(a1))、実施例2(使用した水分散液は(a2))、実施例3(使用した水分散液は(a3))、実施例4(使用した水分散液は(a4)))を得た。
【0066】
試験例2
上記水分散体(a3)を用いて、仮焼成温度を100℃、130℃、150℃、180℃、200℃でそれぞれ接合を行う以外は試験例1と同様にして銅板接合体(順に、実施例5、実施例6、実施例7、実勢例8、実施例9とする)を得た。
【0067】
試験例3
上記水分散体(a3)を用いて、仮焼成時間を2分、10分、20分としてそれぞれ接合を行う以外は試験例1と同様にして銅板接合体(順に、実施例10、実施例11、実施例12とする)を得た。
【0068】
比較試験例1
上記水分散体(a3)を用いて、仮焼成を行わずに、昇温速度を5℃/min、10℃/min、20℃/min、43℃/min、60℃/minとしてそれぞれ接合を行う以外は試験例1と同様にして銅板接合材(順に、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5とする)を得た。
【0069】
比較試験例2
上記水分散体(a3)を用いて、被接合体の面積を7mm
2として仮焼成条件を120℃,5分、仮焼成を行わずに昇温速度を43℃/minとしてそれぞれ接合を行う以外は試験例1と同様にして銅板接合体(順に、比較例6、比較例7とする)を得た。
【0070】
評価1
上記試験例1の銅板接合体(実施例1〜実施例4)を用いてせん断強度試験を実施した。結果を第1表に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
評価の結果、120℃で5分間の仮焼成を行うことでいずれの保護剤を使用した場合にも15MPaを超えるせん断強度を示した。特に、分子量が2000のポリエチレングリコール鎖を含有する保護剤を用いたものは高い接合強度を示し、せん断強度25MPaを超えた。
【0073】
評価2
上記試験例2の銅板接合体(実施例5〜実施例9)を用いてせん断強度試験を実施した。結果を第2表に示す。第2表中、実施例3(前記評価1にて実施)を参考のために併記する。
【0074】
【表2】
【0075】
評価の結果、100℃〜200℃で5分間の仮焼成を行うことで15MPaを超えるせん断強度を示した。
【0076】
評価3
上記試験例3の銅板接合体(実施例10〜実施例12)を用いてせん断強度試験を実施した。結果を第3表に示す。第3表中、実施例3(前記評価1にて実施)を参考のために併記する。
【0077】
【表3】
【0078】
評価の結果、120℃で2〜20分間の仮焼成を行うことで15MPaを超えるせん断強度を示した。
【0079】
<実施例と比較例との比較評価1>
上記比較試験例1の銅板接合体(比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5)を用いてせん断強度試験を実施した。結果を第4表に示す。なお、第4表中、実施例3(前記評価1にて実施)を参考のために併記する。本発明と、比較例1〜5との対比のためである。
【0080】
【表4】
【0081】
評価の結果、実施例3と、仮焼成を行わない以外は実施例3と同条件でおこなった比較例1との対比から明らかなとおり、仮焼成を行わない場合には十分な接合強度が得られなかった。また、仮焼成を行わない場合に昇温速度のみを変化させた場合を検討してみたが、いずれのサンプルにおいても十分な接合強度が得られなかった。このことは、仮焼成を行うことで高い接合強度をもつ接合体を得られることを示している。
【0082】
<実施例と比較例との比較評価2>
上記比較試験例2の銅板接合体(比較例6、比較例7)を用いてせん断強度試験を実施した。結果を第5表に示す。なお、第5表中、実施例3(前記評価1にて実施)を参考のために併記する。本発明と、比較例6及び7との対比のためである。
【0083】
【表5】
【0084】
評価の結果、被接合体の面積が小さい場合は、仮焼成を行わずに本焼成をおこなっても高い接合強度が得られた。また、被接合体の面積が小さい場合に仮焼成を行うと、せん断強度の低下が起こることから、この結果は被接合体の面積に合わせた温度プロファイルの最適化が重要であることを示している。