(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉を工業的に製造する方法として、ニッケルを含有する原料を硫酸溶液に溶解し、原料に含まれる不純物を除去する処理を行い、次いで、得られた硫酸ニッケルの溶液にアンモニアを添加してニッケルをアンミン錯体の形態とし、その硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を、例えば150℃〜250℃、2.5MPa〜3.5MPa前後の高温高圧下で水素ガスと接触させることで、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルを還元してニッケル粉を製造する方法がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
このような方法は、コンパクトな設備で高品質のニッケルメタルを効率的に得ることができる方法であるが、一方で、高圧容器を用いて反応を進めるため、工業的に有利な連続操業を行うことが難しいという問題があった。
【0004】
つまり、高温高圧の反応槽に原料や水素ガスを供給することは比較的容易に行えるが、一方で、排出する側が常時外気と開口していると、反応槽の内圧は容易に外気と同じとなり、高圧下での反応ができなくなる。このため、供給と排出のバランスを維持して反応槽内部の圧力を適正に調整する必要があった。
【0005】
従来、高温高圧下で連続反応を行うプロセスとして、例えば特許文献2に示すような、ニッケル酸化鉱石を硫酸と共にオートクレーブに装入し、250℃程度に加温して鉱石に微量含有されるニッケル等の有価金属を硫酸溶液中に浸出させ、その有価金属を回収する高圧酸浸出(HPAL)プロセスが知られている。
【0006】
HPALプロセスでは、オートクレーブ(反応槽)の吐出側に、フラッシュベッセル(降圧槽)及びフラッシュバルブ(排出弁)を設け、例えば、特許文献3や特許文献4に開示されているような制御を行い、反応槽の内部圧力を管理しながらフラッシュバルブの開閉を繰り返すことで、連続操業を実行している。
【0007】
このようなフラッシュベッセルやフラッシュバルブを用いた方法は、降圧時に発生する蒸気をエネルギーとして回収し、再び利用することのできる優れた方法である。しかしながら、HPALプロセスに示したような、高圧状態の反応槽を用いた連続操業を、上述した硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を水素還元してニッケル粉を得る錯化還元プロセスに適用することは、容易ではなかった。
【0008】
このことは、反応で生成するニッケル粉のメタルが微細であって、しかも硬いものであるために、反応槽から排出される際に配管やその配管に取り付けられた弁等の部材を摩耗しやすく、維持管理の費用と手間が大きく要するという問題があるためである。
【0009】
特に、反応槽から大気圧と同じ程度にまで降圧しようとすると、フラッシュバルブを通過するニッケル粉を含んだスラリーの流速は、音速に近い猛烈な速さに達し、摩擦力が著しく高まり、さらに吐出されて回収される際にフラッシュベッセルの内壁に衝突して損傷をおよぼす。
【0010】
また、錯化還元プロセスでは、溶液からニッケル粉が析出する途中の液が反応槽から排出されることがあるため、排出後の配管の内壁にも析出して閉塞の原因となったり、排出を制御する弁の内部に、析出あるいは噛み込んで弁の開閉ができなくなったりする事態が生じる。
【0011】
このため、頻繁に配管や弁を分解して洗浄する等のメンテナンスが欠かせず、長時間の連続反応を行うことは困難となり、工業的な連続操業の実例もなく、商業生産は反応槽から反応毎に液を入れ替えるバッチ反応が主流であり、生産性の向上が課題となっていた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0022】
≪1.ニッケル粉の製造方法≫
本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を反応槽に装入し、加圧下で水素ガスと接触させることによって溶液中にニッケルイオンをニッケルに還元して、ニッケル粉を含有するニッケル粉スラリーを得る方法である。
【0023】
具体的に、この製造方法では、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を反応槽に供給し、その反応槽の内部の温度を所定の範囲に維持しながら、連続的な水素ガスの供給により反応槽の内部における気相部の圧力を調整することによって、加圧下で硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンをニッケルに還元する。反応槽においては、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と共に種晶としてのニッケル粉を添加することができ、ニッケル粉との混合スラリーを反応槽に供給して水素還元反応を生じさせることによって、種晶としてのニッケル粉の表面に、還元生成したニッケルを析出させる。
【0024】
このような方法により、高い品質を有し、最適な形状のニッケル粉を、連続的な操業により効率的に製造することができる。
【0025】
(反応槽での水素還元反応について)
具体的に、
図1は、ニッケル粉の製造方法の流れを示す図であり、各種の処理槽への溶液等の流れを示す。
図1に示すように、この製造方法においては、先ず、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と、種晶としてのニッケル粉(ニッケル粉スラリー)との混合スラリーを、反応槽に供給する。そして、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種晶ニッケル粉との混合スラリーが装入された反応槽に、還元用の水素ガスを連続的に供給していく。
【0026】
硫酸ニッケルアンミン錯体溶液は、ニッケルをアンミン錯体の形態として含有する溶液であり、例えば、硫酸ニッケル(NiSO
4)溶液に、アンモニアガス又はアンモニア水(NH
4OH)を添加することによって得ることができる。
【0027】
硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を製造するにあたり、添加するアンモニアの濃度としては特に限定されないが、例えば、溶液中のニッケル濃度に対してモル比で1.9以上となるようにアンモニアを添加することが好ましい。これにより、溶液中のニッケルがアンミン錯体を形成せずに水酸化ニッケルの沈殿となってしまうことを防ぐことができる。
【0028】
種晶として添加するニッケル粉は、平均粒径が0.1μm以上300μm以下のものを用いることが好ましく、10μm以上200μm以下のものを用いることがより好ましい。種晶のニッケル粉の粒径が0.1μm未満であると、得られるニッケル粉が微細になり過ぎて、種晶としての効果が十分に発揮されない可能性がある。一方で、種晶のニッケル粉の粒径が300μmを超えると、粗大なものであるために、設備の摩耗を抑制する効果が得られず、またこのような粗大なニッケル粉を用意することは経済的に不利となる。
【0029】
種晶としてのニッケル粉は、市販品のニッケル粉を用いることができ、また、公知の方法により化学的に析出させたニッケル粉を分級して用いることができる。さらに、製造されたニッケル粉を繰り返して用いることもできる。なお、この種晶としてのニッケル粉は、原料である硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と共にスラリーポンプ等の供給装置を用いて連続して反応槽に供給される。
【0030】
反応槽の内部の温度、すなわち水素還元反応の反応温度としては、150℃以上250℃以下の範囲とする。また、好ましくは、150℃以上185℃以下の範囲とする。反応槽の内部の温度は、例えば、加温装置等により加温して調整し、維持する。反応温度に関して、反応温度が150℃未満であると、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンの還元効率が低下することがあり、一方で、反応温度が250℃を超えても、還元反応への影響はなく、むしろ反応槽に供給する水素ガスや熱エネルギーのロスが生じる。
【0031】
この製造方法においては、反応槽の温度を150℃以上250℃以下に維持した状態で、その反応槽内で溶液が満たされていない気相部に、水素ガスを連続的に供給する。このように水素ガスを供給することにより、その気相部の圧力が、例えば、2.5MPa以上3.5MPa以下の範囲となるようにする。具体的には、水素ガスを、例えばボンベ等から、反応槽内の気相部に直接吹き込む、あるいはスラリー内に吹き込む。
【0032】
気相部の圧力に関して、内部圧力が2.5MPa未満であると、ニッケルイオンの還元反応の効率が低下する。一方で、内部圧力が3.5MPaを超えるように高圧の条件にしても、還元反応への影響はなく、かえって供給した水素ガスのロスが増加する。
【0033】
このように、本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法では、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種晶ニッケル粉との混合スラリーに対して、水素ガスを吹き込んで所定の圧力に調整することによって、加圧下で、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に含まれるニッケルイオンをニッケルに還元する。これにより、種晶として供給したニッケル粉の表面に、還元生成したニッケルが析出するようになり、還元ニッケル粉を得ることができる。
【0034】
(ニッケル粉スラリーの取り出しについて)
次に、反応槽にて生成した反応後スラリーである、ニッケル粉を含有するニッケル粉スラリーを、反応槽から降圧槽に排出して取り出す。ニッケル粉スラリーは、反応槽内における加圧下での還元反応により生じたものであり、極めて高い圧力となっている。したがって、このようなニッケル粉スラリーを降圧槽に排出移送することで、その降圧槽にて徐々に減圧させ、例えば大気圧と同程度の圧力にする。
【0035】
反応槽と降圧槽とは、ニッケル粉スラリーを移送するための配管(排出配管)により連結されており、その排出配管を介して反応槽から吐出したニッケル粉スラリーが降圧槽に排出される。
【0036】
ここで、本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法においては、反応槽にて生成したニッケル粉スラリーを、排出配管を介して排出移送させた後、その排出配管に所定の圧力で洗浄液を供給して排出配管内部やその排出配管に設けられた弁を洗浄することを特徴としている。このような方法によれば、ニッケル粉スラリーの排出の過程で析出したニッケル粉やその他の析出物、弁に噛み込まれたニッケル粉等を洗浄除去することができ、その析出したニッケル粉等による配管や弁の摩耗や閉塞を効果的に防止することができる。これにより、メンテナンスの手間やコストを有効に低減することができ、また連続運転を可能として、生産性を向上させることができる。
【0037】
なお、洗浄液を用いた排出配管の洗浄については、後述する製造装置の構成についての説明と共に詳述する。
【0038】
(ニッケル粉スラリーからのニッケル粉の回収について)
降圧槽にてニッケル粉スラリーの圧力を大気圧まで減圧すると、次に、その降圧槽からニッケル粉スラリーを取り出し、固液分離槽に移送する。
【0039】
固液分離槽では、ニッケル粉スラリーに対して、公知の方法に基づく固液分離処理を施すことによってニッケル粉と濾液とに分離し、ニッケル粉を回収する。なお、詳しくは後述するが、ここで分離された濾液は、ニッケル粉スラリーを反応槽から降圧槽に移送するために排出配管の洗浄液として再利用することができる。
【0040】
≪2.ニッケル粉の製造装置≫
次に、ニッケル粉の製造方法を実施するための製造装置について、より具体的に説明する。本実施の形態に係るニッケル粉の製造方法においては、以下に詳述するニッケル粉の製造装置を用いて行うことができる。
【0041】
図2は、ニッケル粉の製造装置の構成の一例を示す図である。このニッケル粉の製造装置1は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を高圧下で水素ガスと反応させ、ニッケル粉を含有するニッケル粉スラリーを得る製造装置である。
【0042】
具体的に、ニッケル粉の製造装置1(以下、単に「製造装置1」ともいう)は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と水素ガスとを反応させる反応槽11と、反応槽11にて生成したニッケル粉スラリーを常圧まで降圧する降圧槽12と、反応槽11と降圧槽12とを接続してニッケル粉スラリーを排出移送する排出配管13とを備えている。また、この製造装置1においては、排出配管13に接続されて、その排出配管13に洗浄液を供給する洗浄配管14が設けられている。
【0043】
このように、ニッケル粉の製造装置1においては、排出配管13に接続された洗浄配管14が設けられていることにより、その排出配管13に洗浄液を供給して、排出配管13の内部や、排出配管13に設置されたバルブ等を効果的に洗浄することができ、動作不良を防止して安定した操業を可能にし、生産効率の向上を図ることができる。
【0044】
[反応槽]
反応槽11は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と水素ガスとを反応させる場となる。この反応槽11では、供給された水素ガスによって、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液中のニッケルイオンを還元してニッケル粉を生成させる反応が生じる。例えば、連続的な水素ガスの供給により、反応槽11内部の気相部の圧力を2.5MPa以上3.5MPa以下の範囲に調整し維持することによって、水素還元反応を生じさせる。
【0045】
反応槽11としては、所定の温度条件、圧力条件に調整し維持することができる加圧反応槽であれば、特に限定されない。例えば、オートクレーブ等を用いることができる。オートクレーブの材質としては、特に限定されず、例えば、SUS316LやSUS304L等のオーステナイト系ステンレス製のものを用いることができる。また、その大きさについても、原料となる硫酸ニッケルアンミン錯体溶液と種晶であるニッケル粉との混合スラリーの処理物量等に応じて適宜設定することができる。
【0046】
反応槽11には、少なくとも、原料である硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が装入される装入口11Aと、水素還元のための水素ガスが供給される水素ガス供給口11Bと、水素還元反応により生成したニッケル粉を含有するスラリー(ニッケル粉スラリー)を吐出(排出)する吐出口11Cとが設けられている。
【0047】
(装入口)
装入口11Aは、装入配管(図示しない)と接続されており、その装入配管により、例えば硫酸ニッケルアンミン錯体溶液の貯留槽と連結される。反応槽11においては、その装入配管を通って移送された硫酸ニッケルアンミン錯体溶液が、装入口11Aを介して内部に装入される。なお、この装入口11Aから装入される原料は、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液単独であってもよく、その錯体溶液に種晶ニッケル粉を予め混合させて得られた混合スラリーであってもよい。
【0048】
(水素ガス供給口)
水素ガス供給口11Bは、水素ガス供給配管21と接続されており、その水素ガス供給配管21により、例えば水素ガスボンベ等の水素ガス供給装置と連結される。反応槽11においては、その水素ガス供給配管21を通って供給された水素ガスが、水素ガス供給口11Bを介して内部に供給される。
【0049】
ここで、水素ガス供給配管21は、上述したように、水素ガスボンベ等と接続され、水素ガスを反応槽11内に供給するための配管である。この水素ガス供給配管21には、所定の位置にガス供給弁21aが設けられており、水素ガスの供給が制御される。なお、ガス供給弁21aとしては、水素ガスの供給のON(供給有り)、OFF(供給無し)を制御するON/OFFバルブでもよく、あるいは、水素ガスの供給量をコントロールすることが可能なコントロール弁であってもよい。
【0050】
(吐出口)
吐出口11Cは、反応槽11内での水素還元反応により生成したニッケル粉スラリーを、反応槽11から吐出させて排出するために吐出口である。この吐出口11Cには、後述する排出配管13が接続されており、吐出口11Cから吐出したニッケル粉スラリーが、その排出配管13を介して降圧槽12に排出移送される。
【0051】
[降圧槽]
降圧槽12は、反応槽11にて生成したニッケル粉スラリーを、例えば常圧まで降圧するための槽である。この降圧槽12は、例えば、フラッシュタンク(フラッシュベッセル)から構成される。
【0052】
降圧槽12には、例えばその天板の所定の位置に、反応槽11から排出されたニッケル粉スラリーを内部に装入するための装入口12Aが設けられている。この装入口12Aは、後述する排出配管13と接続されており、反応槽11からのニッケル粉スラリーがその排出配管13を通って移送され、装入口12Aを介して降圧槽12の内部に装入される。
【0053】
[排出配管]
排出配管13は、反応槽11と降圧槽12とを連結し、反応槽11にて生成したニッケル粉スラリーを降圧槽12に排出移送するための配管である。反応槽11から排出され、この排出配管13を通るニッケル粉スラリーは、高い圧力を保持した状態のものであり、その高い圧力のもと音速に近い流速で排出配管13内を流れ、降圧槽12に装入される。
【0054】
排出配管13には、少なくとも、反応槽11側の近傍に位置する吐出弁13aと、降圧槽12の近傍に位置するフラッシュ弁(フラッシュバルブ)13bとが設けられている。
【0055】
(吐出弁)
吐出弁13aは、反応槽11の吐出口11Cから吐出されるニッケル粉スラリーの吐出量、すなわち、排出配管13内を移送するニッケル粉スラリーの移送量を制御するための制御弁である。吐出弁13aとしては、ニッケル粉スラリーの移送のON(移送有り)、OFF(移送無し)を制御するON/OFFバルブでもよく、あるいは、ニッケル粉スラリーの移送量をコントロールすることが可能なコントロール弁であってもよい。
【0056】
(フラッシュ弁)
フラッシュ弁13bは、排出配管13内を通って移送されたニッケル粉スラリーを降圧槽12に装入する際における、その装入を制御するための制御弁である。反応槽11の内部圧力を適切に管理しながら、フラッシュ弁13bの開閉によりニッケル粉スラリーを降圧槽12に装入することで、連続的な操業を行うことを可能にする。フラッシュ弁13bとしては、ニッケル粉スラリーの降圧槽12への装入のON(装入有り)、OFF(装入無し)を制御するON/OFFバルブでもよく、あるいは、ニッケル粉スラリーの装入量をコントロールすることが可能なコントロール弁であってもよい。
【0057】
[洗浄配管]
洗浄配管14は、排出配管13に接続される配管であり、その排出配管13に洗浄液を供給する配管である。洗浄配管14は、例えば、排出配管13の所定の箇所(例えば、
図2中の「P」)に分岐を設けて接続されている。洗浄配管14の排出配管13上における接続箇所としては、特に限定されないが、吐出弁13aの近傍やフラッシュ弁13bの近傍とすることができ、また、反応槽11と降圧槽12とを連結させた排出配管13の中間位置とすることができる。
【0058】
洗浄配管14には、洗浄液供給弁14aが設けられている。洗浄液供給弁14aは、洗浄配管14を通って排出配管13に供給する洗浄液を収容した洗浄液槽等の近傍に設けられており、洗浄液の供給を制御する。洗浄液供給弁14aとしては、洗浄液の洗浄配管14を介した供給のON(供給有り)、OFF(供給無し)を制御するON/OFFバルブでもよく、あるいは、洗浄液の移送量をコントロールすることが可能なコントロール弁であってもよい。
【0059】
本実施の形態に係るニッケル粉の製造装置1では、このように、反応槽11からのニッケル粉スラリーを排出するための排出配管13に接続された洗浄配管14を備えており、その洗浄配管14を介して排出配管13に洗浄液を供給するようにしていることにより、排出配管13の内部や、排出配管1に設けられた弁(吐出弁13a、フラッシュ弁13b)等を洗浄することができる。これにより、排出配管13やフラッシュ弁13b等に析出したニッケル粉やその他の析出物を洗浄除去することができ、例えばそのフラッシュ弁13bの閉塞や噛みこみを効果的に防止することができる。
【0060】
洗浄液としては、特に限定されず、例えば水(洗浄水)等を用いることができる。またそのほか、降圧槽で常圧に降圧した際に発生した蒸気から熱を回収した後に生じたドレンを使用することができ、さらに、回収したニッケル粉スラリーを公知の方法で固液分離して得られた濾液を再利用してもよい。
【0061】
また、洗浄配管14には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを供給するための不活性ガス供給配管22が所定の位置で接続されている。この窒素ガス等の不活性ガスは、洗浄配管14及び排出配管13の内圧を調整して、その洗浄配管14から排出配管13に洗浄液を供給する際の圧力を調整するためのものである。不活性ガス供給配管22は、例えば窒素ガス等のガスボンベと接続されており、また、その所定の位置にガスの流量を調整するためのガス供給弁22aが設けられている。不活性ガスは、そのガス供給弁22aにより圧力が制御され、不活性ガス供給配管22を介して洗浄配管14に供給される。
【0062】
なお、洗浄液の圧力は、上述したような不活性ガスの供給により制御することに限られず、例えば、洗浄配管14に送液ポンプを接続して、その洗浄配管14内の洗浄液を加圧するようにしてもよい。また、上述した不活性ガス供給配管22を、洗浄配管14を接続させた洗浄液貯留槽に直接接続させて、その貯留槽内に不活性ガスを供給して所定の圧力で洗浄液を供給できるようにしてもよい。
【0063】
(洗浄配管を介した洗浄液の供給)
ここで、洗浄配管14には、反応槽11の内圧よりも0.2MPa以上1.0MPa以下の範囲で低い圧力の洗浄液を供給することが好ましい。また、より好ましくは、反応槽11の内圧よりも0.5MPa以上1.0MPa以下の範囲で低い圧力とする。なお、洗浄液の圧力は、上述したように、洗浄配管14に設けられたガス供給弁22aにより制御される。具体的に、反応槽11では水素ガスの供給により内圧が2.5MPa以上3.5MPa以下の範囲に維持されていることから、その反応槽11の内圧よりも0.2MPa以上1.0MPa以下の範囲で低い圧力、例えば、2.0MPa以上2.5MPa以下の圧力で洗浄配管14を介して洗浄液を供給する。
【0064】
洗浄液の供給圧力と反応槽11の内圧との差が0.2MPa未満であると、洗浄液の供給時における流速による除去力が小さくなり、十分な洗浄を行うことができない可能性がある。一方で、反応槽11の内圧との差が1.0MPaを超えて大きくても、洗浄効果はそれ以上に向上せず、むしろ洗浄により除去されたニッケル粉等によって配管や弁が摩耗したり損傷を受けたりする可能性がある。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
図2に模式的に示すような装置を用いてニッケル粉を製造した。すなわち、反応槽として、容量が200リットルのSUS316LやSUS304L等のオーステナイト系ステンレス製のオートクレーブを用い、硫酸ニッケルアンミン錯体溶液に対して水素ガスを連続的に供給し水素還元反応を生じさせた。また、降圧槽として、容量が1000リットルのフラッシュタンクを用い、反応槽で生成したニッケル粉のスラリーを装入して大気圧まで降圧した。そして、反応槽と降圧槽とを内径10mmの排出配管で連結した。なお、反応槽の吐出口には吐出弁を設け、また、降圧槽の天井部には降圧槽内へのニッケル粉スラリーの装入を制御するためにフラッシュバルブを設け、装入制御はバルブの開閉により行った。
【0067】
また、製造装置においては、排出配管の途中に分岐を設けて洗浄配管を接続し、その洗浄配管を介して洗浄液を排出配管に供給できるようにした。なお、洗浄配管は、排出配管において反応槽に近い側に分岐を設けて接続させた。また、洗浄配管に工業用水の配管を接続させ、洗浄液としての工業用水を洗浄液供給弁による供給制御のもとで供給した。さらに、洗浄配管に不活性ガスである窒素ガスを供給する供給配管を接続し、ガス供給弁による供給制御のもとに窒素ガスを供給できるようにした。
【0068】
このような製造装置を用いて、反応槽にニッケル濃度82.5g/Lの硫酸ニッケルアンミン錯体溶液を1.0L/分の流量で供給した。また、種晶として75μm以下のニッケル粉を33g/L含有するスラリーを0.5L/分の流量で供給した。
【0069】
また、反応槽の内部温度を185℃に維持し、水素ガスをボンベから吹き込んで反応槽の内部の圧力を2.5MPa〜3.5MPaの範囲に調整した。なお、反応槽内の溶液量が90リットルを維持するように、降圧槽の頂上部に取り付けたフラッシュバルブを断続的に開閉し、排出配管を介してニッケル粉スラリーを降圧槽内に抜き出した。
【0070】
ニッケル粉を抜き出した後、反応槽の吐出弁、次いでフラッシュバルブを順次閉めた。次に、洗浄配管に設けた洗浄供給弁を開けて、その洗浄配管を介して排出配管内に4リットルの洗浄液(工業用水)を供給し、その後洗浄液供給弁を閉めた。なお、洗浄配管及び排出配管の内部には1〜2リットルの空間が残るようにした。次いで、ガス供給弁を開けて、洗浄配管及び排出配管の内圧を、反応槽の内圧よりも0.5MPa〜1.0MPa低い2.0MPa〜2.5MPaの範囲に調整し、そのような圧力で洗浄液を排出配管に供給した。
【0071】
洗浄配管を介した洗浄液の供給のもと、フラッシュバルブを開けて排出配管及びフラッシュバルブを洗浄した。洗浄終了後、反応槽の吐出弁とフラッシュバルブを開けて、反応槽から降圧槽へのニッケル粉スラリーの排出を繰り返した。
【0072】
以上のような操業を6時間継続したが、フラッシュバルブや排出配管における摩耗や、ニッケル粉等の付着、噛み込みは発生せず、反応槽から降圧槽へのニッケル粉スラリーの抜き出しはトラブルなく安定して行うことができた。
【0073】
[実施例2]
洗浄配管を容量350リットルの洗浄液貯留槽に接続し、その洗浄液貯留槽に窒素ガス供給配管を直接接続させて窒素ガスを供給可能としたこと以外は、実施例1と同様の製造装置を用いて操業を行った。
【0074】
洗浄液には、実施例1による操業で降圧槽から回収したニッケル粉スラリーを、ヌッチェを用いて固液分離することで得られた300リットルの濾液を用いた。なお、その濾液を洗浄液貯留槽に貯留して洗浄液として使用した。また、洗浄液貯留槽に窒素ガスを供給して洗浄液貯留槽の内部圧力を2.0MPa〜2.5MPaの範囲に調整し、洗浄液が1回に4リットルずつ吐出されるように洗浄弁を制御し、洗浄配管を介して排出配管に洗浄液を供給した。
【0075】
以上のような操業を7時間継続したが、フラッシュバルブや排出配管における摩耗や、ニッケル粉等の付着、噛み込みは発生せず、反応槽から降圧槽へのニッケル粉スラリーの抜き出しはトラブルなく安定して行うことができた。
【0076】
[比較例1]
洗浄配管を設置しないものであること以外は、実施例1と同様の製造装置を用いて操業を行った。すなわち、排出配管に所定の圧力のもとで洗浄液を供給する機構を設けない製造装置を用いて操業を行った。
【0077】
実施例1と同様の条件で6時間の操業を行ったが、運転開始後1時間でフラッシュバルブの開閉が制御不能となり、反応槽から必要以上の量のニッケル粉スラリーが降圧槽に排出移送されてしまい、反応槽内の溶液量を90リットルに維持できず、運転を中断した。
【0078】
運転停止後、フラッシュバルブを観察したところ、ニッケル析出物や微小なニッケル粉が析出したり、バルブに噛み込まれていた。