特許第6819315号(P6819315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819315
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】圧電性酸化物ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/08 20060101AFI20210114BHJP
   G01R 29/22 20060101ALI20210114BHJP
   H01L 41/337 20130101ALI20210114BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20210114BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   H03H3/08
   G01R29/22 F
   H01L41/337
   H01L41/113
   B24B9/00 601G
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-10701(P2017-10701)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-121179(P2018-121179A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小池 孝幸
【審査官】 石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−224693(JP,A)
【文献】 特開2006−156895(JP,A)
【文献】 特開2008−139152(JP,A)
【文献】 特開2008−130831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/08− 3/10
H03H 9/145−9/76
B24B 9/00−19/28
G01R 29/00−29/26
H01L 41/00−41/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性酸化物ウェハの製造方法であって、
前記圧電性酸化物ウェハの分極方向に応じて決まる前記圧電性酸化物ウェハの表裏を制御装置が判定する表裏判定工程と、
前記圧電性酸化物ウェハの外周の面取り研削を行うべべリング工程と、を有し、
前記表裏判定工程は、前記べべリング工程の直前に実行され、
前記表裏判定工程では、前記制御装置は、前記圧電性酸化物ウェハの圧電効果によって生じた電圧の波形パターンを評価することで、前記圧電性酸化物ウェハの表裏を判定し、
前記表裏判定工程は、前記圧電性酸化物ウェハを前記べべリング工程へ自動搬送する工程を含み、
前記自動搬送する工程が中断された場合、前記表裏判定工程での判定結果にかかわらず、前記表裏判定工程がやり直される
製造方法。
【請求項2】
前記圧電性酸化物ウェハは、圧電性酸化物結晶から作られる、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記圧電性酸化物結晶は、36〜50°RY方位のタンタル酸リチウム結晶、又は、126〜128°RY方位のニオブ酸リチウム結晶である、
請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記表裏判定工程では、前記制御装置は、ピエゾ素子による力を前記圧電性酸化物ウェハに作用させること、或いは、波形測定器のプローブを前記圧電性酸化物ウェハの表面に接触させることで、前記圧電性酸化物ウェハの圧電効果による電圧を生じさせる、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
圧電性酸化物ウェハの製造方法であって、
前記圧電性酸化物ウェハの分極方向に応じて決まる前記圧電性酸化物ウェハの表裏を制御装置が判定する表裏判定工程と、
前記圧電性酸化物ウェハの表裏が逆転した状態で行われると、その後に表裏を反転させたとしても前記圧電性酸化物ウェハが良品となり得ない事態をもたらす不可逆工程と、を有し、
前記表裏判定工程は、前記不可逆工程の直前に実行され、
前記表裏判定工程では、前記制御装置は、前記圧電性酸化物ウェハの圧電効果によって生じた電圧の波形パターンを評価することで、前記圧電性酸化物ウェハの表裏を判定し、
前記表裏判定工程は、前記圧電性酸化物ウェハを前記不可逆工程へ自動搬送する工程を含み、
前記自動搬送する工程が中断された場合、前記表裏判定工程での判定結果にかかわらず、前記表裏判定工程がやり直される
製造方法。
【請求項6】
前記表裏判定工程では、前記制御装置は、前記圧電性酸化物ウェハの表裏配置が所望の表裏配置であるか否かを判定し、所望の表裏配置であると判定した場合、直後の不可逆工程で前記圧電性酸化物ウェハの表裏配置が所望の表裏配置となるよう、前記圧電性酸化物ウェハを前記直後の不可逆工程に自動搬送する、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記表裏判定工程では、前記制御装置は、前記圧電性酸化物ウェハの表裏配置が所望の表裏配置であるか否かを判定し、所望の表裏配置でないと判定した場合、前記圧電性酸化物ウェハの表裏を自動的に反転させた後、前記圧電性酸化物ウェハの表裏を再判定する、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項8】
前記表裏判定工程は、複数の前記不可逆工程のそれぞれの直前に実行される、
請求項5乃至7の何れかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性酸化物ウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電性酸化物結晶であるタンタル酸リチウム結晶(以下、「LT」とする。)及びニオブ酸リチウム結晶(以下、「LN」とする。)は、圧電性を有することから、表面弾性波(以下、「SAW」とする。)フィルタの材料として使用されている。SAWフィルタの需要は大きく、その市場は爆発的な成長を見せている。特に、携帯電話に代表される移動体通信用途の市場規模は大きい。
【0003】
LT、LNは、CZ法と呼ばれる引き上げ式の育成方法で育成される場合が多い。育成された結晶は、歪除去のためのアニール処理、分極を生じさせるためのポーリング処理(分極処理)を経て、加工工程へ引き渡される。加工工程では、円筒研削工程で最終製品よりも僅かに太めの円柱に加工され、ウェハリング工程でマルチワイヤーソーを用いて円板状のウェハに切断される場合が多い。
【0004】
円板状に切断されたウェハはべべリング工程で製品直径となるように仕上げられ、且つ、端面を面取り仕上げされる。その後、ラッピング工程での面研磨で表裏のダメージが除去されて所望の厚みとされる。そして、表面は鏡面、裏面は粗面となるように仕上げられる。裏面の粗面化は、バルクスプリアスを抑制するためであり、遊離砥粒によるラッピング、サンドブラスト等、様々な方法で実現される。表面の鏡面化は、コロイダルシリカによるメカノケミカル・ポリッシングを用いる場合が多い。
【0005】
その後、デバイスメーカーによる電極形成、チップ裁断、パッケージングを経て、SAWフィルタは完成する。LT、LNでできたウェハは直径3〜6インチのサイズが流通しており、厚みは0.2〜0.5mm程度が多い。
【0006】
SAWフィルタでは、結晶品質は言うまでもなく、結晶の方位も重要な項目の一つである。一般に、SAWフィルタでは、ウェハの主面がX軸と平行であり、且つ、ウェハの主面に垂直な軸とY軸のなす角度がLTの場合で36〜50°の範囲内であることが望ましいとされている。この角度は一般にYカットと呼ばれ、例えば42°RY(Rotation from Y-axis)のように表記される。LNの場合は、126〜128°RYが望ましいとされている。なお、ここでは、結晶のa軸をX軸、c軸をZ軸、X軸とZ軸に直交する軸をY軸とする。
【0007】
ところで、これらのウェハには表裏がある。LT、LNは、強誘電体であり、育成後の結晶はドメインと呼ばれる隣接した複数の領域で構成される。それらドメインは互いに逆分極の多分極状態を形成している。この状態はSAWフィルタとしては好ましくない。そのため、結晶はポーリング処理によって単分極化される。具体的には、分極方向(Z軸方向)に垂直な面の上下に電極が形成され、キュリー温度以上で加熱され、直流電場が印加された状態で徐冷される。ポーリング処理により+Z方向、-Z方向が決定される。
【0008】
36〜50°RYの範囲のLTウェハ、及び、126〜128°RYの範囲のLNウェハは、Z軸を横断するような姿勢のウェハである。そのため、分極方向に基づく表裏が存在する。この分極方向に基づく表裏は、SAWフィルタの特性に影響を及ぼすため、間違いがあってはならない。すなわち、ウェハの円板面の所望の側が確実に鏡面として仕上げられなければならない。1枚のウェハの鏡面側には数千個ものSAWフィルタが作製され、表裏間違いは莫大な損失へ繋がるためである。
【0009】
ここで問題となるのは、円板状に切断されたウェハは見た目では表裏の見分けが付かず、表裏の逆転が発生したことを作業者が認識できないという点である。そして、円板状に切断されたウェハの洗浄工程では、ウェハはウェハキャリアに整列されるが、そのハンドリングの際、或いは、洗浄後の抜き取り検査のときにウェハをウェハキャリアへ戻す際に表裏の逆転が発生する可能性がある。
【0010】
そこで、円板状に切断する前の円筒研削工程でサブ・オリフラを作製しておくという手法が用いられる場合がある。メイン・オリフラに対するサブ・オリフラの位置からウェハの表裏を判定できるためである。
【0011】
オリフラは、オリエンテーション・フラットの略称であり、ウェハの外周に作製される直線状の切り欠きを意味する。メイン・オリフラは、例えば、SAW(表面弾性波)の伝播方向を示す。36〜50°RY方位のLTウェハ、126〜128°RY方位のLNウェハでは、+X軸に垂直な面にメイン・オリフラを作製する場合が多い。
【0012】
円筒研削工程でサブ・オリフラを作製する場合、ベベリング工程前のサブ・オリフラの寸法(幅)が最大でも10mm程度に収まるようにサブ・オリフラが作製される。ベベリング加工による取り代は、加工負荷を考慮し、最低限に設定される場合が多いためである。
【0013】
なお、ベベリング工程では別の目的でサブ・オリフラが作製される場合がある。このサブ・オリフラは、SAWフィルタを実際に加工するデバイスメーカーの用に供するためのものである。デバイスメーカーがウェハを受領する段階では、ウェハは、表面が鏡面、裏面が粗面となっており、目視で表裏を見分けることができる状態にある。そのため、このサブ・オリフラは、表裏を判定するためではなく、品種を識別するために利用される。例えば、Yカットの角度に対応付けてサブ・オリフラの位置を定義すれば、Yカットの角度別の管理が容易となり、SAWフィルタ作製の際の品種取り違えミスを防止できる。このサブ・オリフラの幅は5〜10mmである場合が多い。
【0014】
べべリング工程でサブ・オリフラが作製されると、メイン・オリフラに対するサブ・オリフラの位置が確定してしまうから、ベベリング工程でのサブ・オリフラ作製の際は、表裏を所望の状態にしておかなければならない。サブ・オリフラの作製後に表裏間違いを発見したとしても、もはやサブ・オリフラを作製し直すことはできず、そのウェハは不良品となってしまうためである。
【0015】
また、ベベリング工程ではウェハの外周(端面)の面取りが行われる。そして、ウェハの表面側と裏面側とで面取り量に差が設けられる。SAWフィルタ用のウェハは、片面メカノケミカル・ポリッシング仕上げであり、表面のメカノケミカル・ポリッシングの取り代分だけ、ウェハ厚み方向の中心位置を裏面方向へシフトしておかなければならないためである。具体的には、表面のメカノケミカル・ポリッシング後、すなわちSAWフィルタ用のウェハとしての最終状態で、ウェハ端部の断面が上下均等のR形状をなすように仕上げられる必要があるためである。このR形状は、デバイスメーカーによるSAWフィルタの製造工程での機械搬送時のチッピング、割れ等を抑制するという重要な役割を担う。このことからも、ウェハの表裏間違いは取り返しがつかない事態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2014−224693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前述したように、分極方向に基づく表裏は、SAWフィルタの特性に大きく関係するため、間違いがあってはならない。1枚のウェハからは数千個ものSAWフィルタが作製され、表裏間違いは莫大な損失に繋がるためである。対策としては、結晶が円板状に切断される前の円筒研削工程でサブ・オリフラを作製しておき、後の工程でウェハの表裏を判別できるようにするという手法がある。しかし、現実には、サブ・オリフラを作製したとしても、円板状に切断されたウェハの洗浄作業での作業者の不注意、その後の抜き取り検査のときにウェハをウェハキャリアへ戻す際の人為的ミス等で表裏間違いは発生している。
【0018】
また、分極方向を直接判定できる発明として特許文献1に記載のものが挙げられるが、分極方向が判定された場合であってもその後の作業者によるウェハのハンドリングの際に表裏逆転が発生する可能性がある。そして、表裏が反転したままサブ・オリフラの作製、べべリング加工等が行われてしまうと、もはやそのウェハは不良品とならざるを得ない。すなわち、サブ・オリフラが作製された後で、或いは、べべリング加工が行われた後でウェハの表裏を判定できたとしても、そのウェハを良品として再生することはできない。
【0019】
そこで、本発明は、圧電性酸化物ウェハの表裏間違いに起因する取り返しのつかない事態の発生をより確実に防止できる圧電性酸化物ウェハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一実施形態に係る圧電性酸化物ウェハの製造方法は、前記圧電性酸化物ウェハの分極方向に応じて決まる前記圧電性酸化物ウェハの表裏を制御装置が判定する表裏判定工程と、前記圧電性酸化物ウェハの外周の面取り研削を行うべべリング工程と、を有し、前記表裏判定工程は、前記べべリング工程の直前に実行され、前記表裏判定工程では、前記制御装置は、前記圧電性酸化物ウェハの圧電効果によって生じた電圧の波形パターンを評価することで、前記圧電性酸化物ウェハの表裏を判定し、前記表裏判定工程は、前記圧電性酸化物ウェハを前記べべリング工程へ自動搬送する工程を含み、前記自動搬送する工程が中断された場合、前記表裏判定工程での判定結果にかかわらず、前記表裏判定工程がやり直される
【発明の効果】
【0021】
上述の手段により、圧電性酸化物ウェハの表裏間違いに起因する取り返しのつかない事態の発生をより確実に防止できる圧電性酸化物ウェハの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】圧電性酸化物ウェハの製造方法のフローチャートである。
図2】ウェハ製造装置の部分概略図である。
図3】表裏判定工程で実行される処理のフローチャートである。
図4】波形パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る圧電性酸化物ウェハ(以下、「ウェハ」とする。)の製造方法のフローチャートである。ウェハは、例えば、36〜50°RYの範囲のLTウェハ、126〜128°RYの範囲のLNウェハ等を含む。
【0024】
本実施形態の製造方法は、主に、結晶育成工程S1、アニール工程S2、ポーリング工程S3、円筒研削工程S4、ウェハリング工程S5、表裏判定工程S6、べべリング工程S7、ラッピング工程S8、裏面粗面化工程S9、及び表面鏡面化工程S10を有する。本実施形態の製造方法では、不可逆工程としてのベベリング工程S7の直前に表裏判定工程S6が行われる。すなわち、表裏判定工程S6の直後に不可逆工程としてのベベリング工程S7が行われる。
【0025】
不可逆工程は、ウェハの表裏が逆転した状態で行われると、その後に表裏を反転させたとしてもそのウェハが良品となり得ない事態をもたらす工程である。本実施形態のべべリング工程S7では、サブ・オリフラが形成され、メイン・オリフラに対するサブ・オリフラの位置が確定する。また、本実施形態のべべリング工程S7では、ウェハの端面の面取りが行われ、ウェハの表面側と裏面側とで面取り量に差が設けられる。そのため、ウェハの表裏が逆転した状態でべべリング工程S7が行われてしまうと、その後に表裏が反転されてから後続の工程が行われたとしてもそのウェハはもはや良品とはなり得ない。
【0026】
なお、本実施形態の製造方法では、ラッピング工程S8、裏面粗面化工程S9、表面鏡面化工程S10等の他の不可逆工程の少なくとも1つの直前に表裏判定工程S6が行われてもよい。
【0027】
「不可逆工程の直前に表裏判定工程S6が行われる」とは、その不可逆工程と表裏判定工程S6との間に別の工程が行われることがなく、且つ、人為的な作業が介在しないことを意味する。「表裏判定工程S6の直後に不可逆工程が行われる」についても同様である。
【0028】
また、表裏判定工程S6は、ウェハの表裏判定と直後の不可逆工程への自動搬送とを一体化された不可分の処理として含むようにしてもよい。ウェハの表裏判定が行われた後で手作業によるミスが発生するのを防止するためである。
【0029】
「不可分の処理」は、中断ポイントからの再開を許容しない処理である。例えば、ウェハの表裏判定と不可逆工程への自動搬送とが不可分の処理である場合、その不可分の処理が自動搬送中に一旦中断されると、その不可分の処理を継続させるには、ウェハの表裏判定がやり直される必要がある。すなわち、ウェハの表裏判定をやり直すことなく、中断された自動搬送を再開させることはない。
【0030】
次に図2を参照し、表裏判定工程S6とべべリング工程S7の詳細について説明する。図2は、上述の製造方法を実現するウェハ製造装置100の部分概略図である。具体的には、図2(A)はウェハ製造装置100の上面図であり、図2(B)はウェハ製造装置100の側面図である。
【0031】
ウェハ製造装置100は、主に、搬送部5、力付与機構20、面取り研削装置50、コンピュータ60、オシロスコープ70等を含む。
【0032】
搬送部5は、ウェハWを支持するステージ5a、ウェハWを真空吸着する吸着機構5b、リニアモータ5c、リニアモータガイド5d等を備える。
【0033】
搬送部5の吸着機構5bは、リニアモータ5cによりリニアモータガイド5dに沿って図2(A)の矢印AR1で示すように水平方向に移動する。具体的には、吸着機構5bは、真空吸着アーム5b1、エアシリンダ5b2、及び真空吸着アームシャフト5b3を含む。
【0034】
搬送部5は、リニアモータ5cによってウェハカセットのところまで吸着機構5bを移動させる。吸着機構5bは、ウェハカセット内のウェハWを1枚だけ吸着する。具体的には、搬送部5は、エアシリンダ5b2を駆動して真空吸着アームシャフト5b3を下方に伸長させ、真空吸着アームシャフト5b3の先端に取り付けられた真空吸着アーム5b1でウェハカセット内のウェハWを1枚だけ吸着させる。そして、エアシリンダ5b2を駆動して真空吸着アームシャフト5b3を上方に引っ込めた後、リニアモータ5cによってステージ5aのところまで吸着機構5bを移動させる。その後、吸着機構5bは、吸着していたウェハWをステージ5a上に置く。具体的には、搬送部5は、図2(B)の点線で示すように真空吸着アームシャフト5b3を下方に伸長させ、真空吸着アーム5b1が吸着していたウェハWをステージ5a上に置く。そして、真空吸着アーム5b1による真空吸着を解除する。ウェハWは、機械式クランプ、レーザーマイクロメータ等によるセンターリング機構によって芯出しが行われてもよい。
【0035】
その後、表裏判定工程S6が実行される。表裏判定工程S6では、ウェハWの圧電効果による電圧の波形パターンを評価することでウェハWの表裏が判定される。波形パターンの記録には波形測定器としてのオシロスコープ70が利用され、波形パターンの評価には制御装置としてのコンピュータ60が利用される。コンピュータ60には評価結果を表示できるディスプレイ60aが接続されている。オシロスコープ70のプローブは、圧電効果による電圧を発生させるために力付与機構20によってウェハWの上面に衝突させられる。力付与機構20は、例えば、吸着機構5bと同様、エアシリンダを主な構成要素として構成されてもよい。具体的には、オシロスコープ70のプローブは、エアシリンダが伸縮させるプローブシャフトに取り付けられ、そのプローブシャフトが伸長したときにウェハWの上面に接触するように構成される。また、オシロスコープ70のプローブは、エアシリンダ等によってウェハWの上面から所定の高さまで引き上げられた後で自然落下によりウェハWの上面に打ち付けられてもよい。また、オシロスコープ70のプローブは、スプリング等を介してプローブシャフトに取り付けられてもよい。ウェハWに過度の衝撃が加わるのを防止するためである。
【0036】
オシロスコープ70のプローブがウェハWに打ち付けられると、圧電効果による電圧が発生する。圧電効果による電圧は、ウェハWに接触しているオシロスコープ70のプローブを通じて検出される。圧電効果による電圧の変動は、マイクロ秒オーダーの短時間だけ継続するのみである。また、プローブとウェハWの接触時間が長いと余計なノイズを拾ってしまうおそれがある。そのため、プローブとウェハWの接触時間は、望ましくは、数10マイクロ秒〜数100ミリ秒となるように構成される。但し、オシロスコープ70のプローブは、圧電効果による電圧を発生させる前にウェハWに接触させられていてもよい。この場合、他の絶縁体がウェハWに打ち付けられるように構成される。
【0037】
或いは、圧電効果による電圧を発生させるために、特許文献1の結晶極性判定装置のようにピエゾ素子を用いてウェハWの周縁に振動を付与する機構が利用されてもよく、ウェハWに力を付与する他の任意の機構が利用されてもよい。なお、力付与機構20は、吸着機構5bと共に移動できるように構成されてもよい。ステージ5aが設置された場所以外の場所で表裏判定工程S6を実行できるようにするためである。
【0038】
本実施形態では、ウェハWは、ステージ5a上でオシロスコープ70のプローブによる打撃を受ける。プローブは力付与機構20によってウェハWを軽く打撃するように駆動される。打撃時におけるウェハWの圧電効果による電圧の波形はオシロスコープ70で記録される。オシロスコープ70は、同軸アナログケーブルを介してコンピュータ60に接続されている。同軸アナログケーブルは、例えば、フローティング状態とされてもよい。コンピュータ60は、ウェハWの圧電効果による電圧の波形を自動的に評価してウェハWの円板面の表裏を判定し、その判定結果をディスプレイ60aに表示する。例えば、コンピュータ60は、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置であるか否かを判定する。所望の表裏配置は、例えば、ステージ5a上に置かれたウェハWの上面が表面の場合をいう。ステージ5a上に置かれたウェハWの上面が裏面の場合を所望の表裏配置としてもよい。
【0039】
本実施形態では、コンピュータ60は、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置でないと判定した場合、すなわち、表裏間違いと判定した場合、その旨を知らせる警報を出力する。具体的には、ディスプレイ60a及びディスプレイ70aにその旨を表示する。警報音を鳴らしてもよい。また、ウェハ反転作業を促すプログラムを実行してもよい。例えば、ステージ5a上でウェハWを反転させるよう作業者に通知してもよい。反転されたウェハWに対しては、再び表裏判定工程S6が行われる。また、ウェハWを自動的に反転させてもよい。
【0040】
ここで図3を参照し、表裏判定工程S6で実行される具体的な処理の一例について説明する。図3は、表裏判定工程S6で実行される具体的な処理の一例を示すフローチャートである。コンピュータ60は、ウェハWがステージ5a上に位置付けられる度に繰り返しこの処理を実行する。
【0041】
最初に、コンピュータ60は、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0042】
ウェハWの表裏は、例えば、評価対象の波形パターンと参照パターンとを比較することで判定される。参照パターンは、ウェハWの圧電効果による電圧の所望の波形パターンであり、コンピュータ60に予め登録されている。
【0043】
参照パターンは、例えば、ポーリング処理直後の未加工のインゴット状態の結晶をオシロスコープ70のプローブで打撃したときにサンプリングされる電圧の波形パターンである。
【0044】
ここで図4を参照し、波形パターンについて説明する。図4はオシロスコープ70のディスプレイ70aに表示される、ウェハWの圧電効果による電圧の時間的推移(波形パターン)の例を示す。具体的には、図4(A)はステージ5a上に置かれたウェハWの上面が表面の場合の波形パターンを示し、図4(B)は上面が裏面の場合の波形パターンを示す。時刻t1は、ウェハWの上面にオシロスコープ70のプローブによる打撃が加えられた時刻を示す。
【0045】
図4に示すように、ウェハWの上面が表面の場合の波形パターンは、上面が裏面の場合の波形パターンに対して上下が逆転している。コンピュータ60は、この特性を利用してウェハWの表裏を判定できる。
【0046】
ウェハWの表裏は、一般的には、+Z方向を表とする場合が多い。そのため、図4(A)に示すようにプローブによる打撃の瞬間にマイナス電圧が発生する面を表面とする場合が多い。但し、図4(B)に示すようにプローブによる打撃の瞬間にプラス電圧が発生する面を表面としてもよい。
【0047】
ウェハWの表裏は、特許文献1の結晶極性判定装置のように、ピエゾ素子による振動の波形とその振動に応じて発生する電圧の波形の位相差と予め登録された基準位相差との比較に基づいて判定されてもよい。
【0048】
ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置であると判定すると(ステップS11のYES)、コンピュータ60は、ウェハWを面取り研削装置50へ自動搬送する(ステップST12)。例えば、コンピュータ60は、ステージ5a上に置かれたウェハWの上面が表面であると判定した場合に、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置であると判定する。そして、コンピュータ60は、搬送部5に対して制御信号を出力して吸着機構5b及びリニアモータ5cを動作させ、面取り研削装置50の投入口51を通じてウェハWを面取り研削加工室55内に設置された研削チャックステージ30aの上に位置付ける。
【0049】
一方、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置でないと判定すると(ステップS11のNO)、コンピュータ60は、表裏間違いを警告する(ステップS13)。例えば、コンピュータ60は、ステージ5a上に置かれたウェハWの上面が裏面であると判定した場合、或いは、その上面が表面であるか裏面であるか判別できない場合に、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置でないと判定する。そして、コンピュータ60は、ウェハWの表裏間違いが発生したことを知らせるテキストメッセージをディスプレイ60aに表示する。また、コンピュータ60は、スピーカから警報音を出力させてもよい。
【0050】
その後、コンピュータ60は、ウェハWを反転させる(ステップS14)。例えば、コンピュータ60は、搬送部5に搭載された不図示の反転機構を動作させてウェハWの上下を自動的に反転させる。表裏間違いを正すためである。反転機構は、真空吸着を用いた機構であってもよく、クランプを用いた機構であってもよい。コンピュータ60は、手作業によるウェハWの反転を作業者に促してもよい。
【0051】
その後、コンピュータ60は、ステップS11以降の処理をやり直す。例えば、コンピュータ60は、反転機構によってウェハWが自動的に反転された場合、ステップS11以降の処理を自動的に再開させる。或いは、コンピュータ60は、作業者が手作業でウェハWの上下を反転する場合、再開ボタンの押下等の作業者の入力操作に応じてステップS11以降の処理を再開させてもよい。
【0052】
このようにして、コンピュータ60は、ウェハWの表裏が逆転した状態のままでべべリング工程S7が行われてしまうのを確実に防止できる。そして、ウェハWの表裏間違いに起因する取り返しのつかない事態の発生をより確実に防止できる。
【0053】
なお、コンピュータ60による電圧の波形パターンの評価及びウェハWの表裏判定は省略されてもよい。電圧の波形パターンの評価及びウェハWの表裏判定は制御装置としてのオシロスコープ70で行われてもよいためである。この場合、その判定結果は、オシロスコープ70のディスプレイ70aに自動的に表示されてもよい。ディスプレイ70aは、その判定結果を表示するように手動で操作されてもよい。
【0054】
その後、べべリング工程S7が実行される。コンピュータ60は、例えば、ウェハWの表裏配置が所望の表裏配置であるか否かを判定し、所望の表裏配置であると判定した場合、べべリング工程S7でもウェハWの表裏配置が所望の表裏配置となるよう、図2(B)の実線矢印AR2で示すようにウェハWを面取り研削装置50のところに自動搬送する。
【0055】
具体的には、搬送部5は、エアシリンダ5b2を駆動して真空吸着アームシャフト5b3を下方に伸長させ、真空吸着アーム5b1でステージ5a上のウェハWを吸着させる。そして、エアシリンダ5b2を駆動して真空吸着アームシャフト5b3を上方に引っ込めた後、リニアモータ5cによって面取り研削装置50のところまで吸着機構5bを移動させる。その後、吸着機構5bは、面取り研削装置50の投入口51を通じ、吸着していたウェハWを面取り研削加工室55内に入れる。具体的には、搬送部5は、真空吸着アームシャフト5b3を下方に伸長させ、真空吸着アーム5b1が吸着していたウェハWを研削チャックステージ30a上に位置付ける。そして、真空吸着アーム5b1による真空吸着を解除する。
【0056】
面取り研削装置50は、ウェハWをベベリング加工する際にウェハWを保持するチャック部30、及び、ウェハWを研削する砥石部40を備える。チャック部30及び砥石部40は面取り研削加工室55内に設置される。
【0057】
チャック部30は、研削チャックステージ30a、研削チャックステージスピンドル30b、スピンドルモータ30c、リニアモータ30d、及びリニアモータガイド30eを含む。
【0058】
研削チャックステージ30aは真空吸着でウェハWを保持する。研削チャックステージ30aは、研削チャックステージスピンドル30bを介してスピンドルモータ30cに連結される。スピンドルモータ30cは鉛直軸回りに回転する。回転数は、例えば、1〜10RPM程度である。
【0059】
研削チャックステージ30aは、リニアモータ30dによりリニアモータガイド30eに沿って矢印AR3で示すように水平方向に移動する。
【0060】
研削チャックステージ30aに真空吸着で保持されたウェハWは、研削チャックステージ30aと共に水平方向へ移動させられ、砥石部40と接触する。
【0061】
砥石部40は、ダイヤモンド砥石40a、砥石スピンドル40b、及びスピンドルモータ40cを含む。
【0062】
ダイヤモンド砥石40aは、砥石スピンドル40bを介してスピンドルモータ40cに連結され、研削力を得るため高速で回転させられる。スピンドルモータ40cは鉛直軸回りに回転する。ダイヤモンド砥石40aの周速は、例えば、4〜6インチのタンタル酸リチウム結晶でできたウェハの場合で、1分間当たり400〜1200メートル程度である。
【0063】
ダイヤモンド砥石40aは所望のラウンド形状の砥石断面を備えており、べべリング加工と同時にウェハWの面取りを行うことができる。面取り研削装置50は、クーラントノズル56からクーラント57を噴射させながらべべリング加工を行う。なお、べべリング工程S7でサブ・オリフラを作製したり、メイン・オリフラのべべリング加工を行ったりするには、ウェハWの水平位置、リニアモータガイド30eを介した水平方向への移動距離をウェハWの回転角度毎に細かく調整すればよい。べべリング加工により、ウェハWは所望の直径に仕上げられる。
【0064】
ベベリング加工が終了すると、搬送部5は、図2(B)の実線矢印AR4で示すように、面取り研削加工室55内から投入口51を通じてウェハWを研削後ステージ58のところに自動搬送する。
【0065】
上述の構成により、本発明の実施形態に係る圧電性酸化物ウェハの製造方法は、圧電性酸化物ウェハの表裏間違いに起因する取り返しのつかない事態の発生をより確実に防止できる。
【0066】
以上、本発明を実施するための形態について詳述したが、本発明は上述のような特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0067】
例えば、ウェハ製造装置100は、ウェハ25枚を収納できるウェハカセットを複数セット用いてカセット・トゥ・カセットで自動運転してもよい。この場合、ウェハ製造装置100は、ウェハカセットからウェハWを取り出してステージ5a上へ移すロボットと、ステージ5aから研削チャックステージ30aへウェハWを移すロボットと、ベベリング加工後のウェハWを研削チャックステージ30aから研削後ステージ58へ移すロボットと、ベベリング加工後のウェハWを研削後ステージ58からウェハカセットへ戻すロボットと、ウェハカセットを交換するロボットを備えていてもよい。
【0068】
また、上述の実施形態では、表裏判定工程S6は、ウェハの表裏判定とその直後のべべリング工程S7への自動搬送とを一体化された不可分の処理として含む。ウェハの表裏判定が行われた後で手作業によるミスが発生するのを防止するためである。例えば、べべリング工程S7への自動搬送が一時停止ボタン等の操作により中断された場合、ウェハの表裏配置が所望の表裏配置であると既に判定されているときであっても、その後の自動搬送の再開が禁止されてもよい。この場合、ウェハの表裏判定がやり直される。真空吸着アーム5b1が吸着していたウェハが吸着解除ボタン等の操作により自動搬送中に取り外された場合についても同様である。
【実施例】
【0069】
上述の実施形態に係るウェハ製造装置100を利用し、42°RYの4インチLTウェハを10,000枚作製した。その結果、ベベリング工程S7の直前の表裏判定工程S6で表裏間違いと判定されたウェハは5枚であり、表裏間違いの発生率は0.05%であった。なお、表裏間違いと判定された5枚のウェハは、反転された後で再び表裏判定工程S6に投入され、最終的には良品として出荷可能となった。
【比較例】
【0070】
上述の実施形態に係るウェハ製造装置100を利用しない場合、すなわち、べべリング工程S7の直前に表裏判定工程S6を実行しない場合、ベベリング工程S7の直後での表裏間違いの発生率、すなわち、円板状に切断された後のウェハのハンドリングミスによる表裏間違いの発生率は、約0.05%であることが知れている。しかしながら、例えば新人又は経験の浅いオペレータが洗浄工程を担当する場合にはその発生率が上昇するおそれがある。また、例えばウェハキャリアの設置方向間違いは大量の不良品をもたらすおそれもある。本実施形態に係る圧電性酸化物ウェハの製造方法は、これらの要因の影響を受けず、表裏間違いのないウェハが確実に製造されるようにする。
【符号の説明】
【0071】
5・・・搬送部 5a・・・ステージ 5b・・・吸着機構 5b1・・・真空吸着アーム 5b2・・・エアシリンダ 5b3・・・真空吸着アームシャフト 5c・・・リニアモータ 5d・・・リニアモータガイド 20・・・力付与機構 30・・・チャック部 30a・・・研削チャックステージ 30b・・・研削チャックステージスピンドル 30c・・・スピンドルモータ 30d・・・リニアモータ 30e・・・リニアモータガイド 40・・・砥石部 40a・・ダイヤモンド砥石 40b・・・砥石スピンドル 40c・・・スピンドルモータ 50・・・面取り研削装置 51・・・投入口 55・・・面取り研削加工室 56・・・クーラントノズル 57・・・クーラント 58・・・研削後ステージ 60・・・コンピュータ 60a・・・ディスプレイ 70・・・オシロスコープ 70a・・・ディスプレイ 100・・・ウェハ製造装置 W・・・ウェハ
図1
図2
図3
図4