特許第6819322号(P6819322)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819322
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】酸化ニッケル微粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20210114BHJP
【FI】
   C01G53/04
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-15202(P2017-15202)
(22)【出願日】2017年1月31日
(65)【公開番号】特開2018-123019(P2018-123019A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】米里 法道
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/021974(WO,A1)
【文献】 特開2017−007893(JP,A)
【文献】 特開2016−164121(JP,A)
【文献】 特開2016−172658(JP,A)
【文献】 特開2001−032002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/04
C22B 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を得る中和工程と、前記水酸化ニッケル粒子を非還元性雰囲気中において850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成する第1熱処理工程と、減圧下において850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で前記酸化ニッケル粉末を熱処理する第2熱処理工程と、前記第1及び第2熱処理工程の際に形成され得る酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕する解砕工程とを含む硫黄品位50質量ppm以下の酸化ニッケル微粉末の製造方法であって、
前記第2熱処理工程の雰囲気圧力が大気圧より20kPa〜100kPa低いことを特徴とする酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリが水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム又はそれら両方であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項3】
前記中和工程では、反応液のpHを8.3〜9.0に制御することを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸ニッケル水溶液中のニッケル濃度が50〜150g/Lであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項5】
前記解砕工程が流体エネルギーによる解砕方法により行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項6】
前記解砕工程が乾式で行われることを特徴とする、請求項5に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項7】
前記解砕工程で得た酸化ニッケル微粉末の比表面積が3m/g以上4m/g未満、塩素品位が50質量ppm以下、総アルカリ金属の品位が100質量ppm以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【請求項8】
前記解砕工程で得た酸化ニッケル微粉末をレーザー散乱法で測定したD50が1μm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の酸化ニッケル微粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品や固体酸化物形燃料電池の電極に用いられる材料として好適な酸化ニッケル微粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ニッケル微粉末は、電子部品用材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料等の多様な用途に用いられている。例えば、電子部品材料としての用途では、酸化ニッケル粉末を酸化鉄、酸化亜鉛等の他の材料と混合した後、焼結することによりフェライト部品等を作製することが行われている。このフェライト部品のように、複数の材料の焼成により複合金属酸化物を製造する場合は、その生成反応は固相の拡散反応で律速されるので、当該材料はより微細であるのが一般的に好ましい。その理由は、微細であれば他材料との接触確率が高くなると共に粒子の活性が高くなるため、低温で且つ短時間の処理であっても反応が均一に進むからである。従って、上記のような複合金属酸化物の製造では、原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが効率向上の重要な要素となる。
【0003】
近年、フェライト部品は高機能化が図られており、不純物元素の低減が求められている。不純物元素の中でも特に塩素(Cl)や硫黄(S)は、電極に利用されている銀と反応して電極劣化を生じさせたり、焼成炉を腐食させたりすることがあるため、できるだけ低減することが望ましい。そこで、例えば特許文献1には、フェライト材料の原料段階におけるフェライト粉において、その硫黄成分の含有量をS換算で300〜900ppmにし、塩素成分の含有量をCl換算で100ppmにする技術が提案されている。このフェライト材料は、低温焼成においても添加物を用いることなく高密度化を図ることができ、これを用いて作製されたフェライト磁心及び積層チップ部品は、耐湿性と温度特性の優れたものにすることができると記載されている。
【0004】
酸化ニッケル粉末は、上記のフェライト部品等の電子部品以外にも用途が広がっており、例えば、低環境負荷及び省エネルギーの両面から新しい発電システムとして期待されている固体酸化物形燃料電池においても、その電極材料に酸化ニッケル粉末が用いられている。一般に、固体酸化物形燃料電池のセルスタックは、空気極、固体電解質及び燃料極からなる単セルが順次積層された構造を有している。この燃料極に、例えばニッケル又は酸化ニッケルと、安定化ジルコニアからなる固体電解質とを混合したものが用いられている。燃料極では発電時に水素や炭化水素等の燃料ガスにより還元されてニッケルメタルとなり、ニッケルと固体電解質と空隙からなる三相界面が燃料ガスと酸素の反応場となるため、上記のフェライト部品の場合と同様に原料となる粉体の粒径を小さくして微細にすることが発電効率向上の重要な要素となる。
【0005】
従来、酸化ニッケル粉末を製造する方法としては、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、水酸化ニッケル等のニッケル塩類又はニッケルメタル粉を、ロータリーキルン等の転動炉、プッシャー炉等のような連続炉、あるいはバーナー炉のようなバッチ炉を用いて、酸化性雰囲気下で焼成することによって作製することが一般的に行われている。例えば、特許文献2には、原料としての硫酸ニッケルを、キルンなどを用いて酸化雰囲気中で焙焼温度950〜1000℃未満で焙焼する第1段焙焼と、焙焼温度1000〜1200℃で焙焼する第2段焙焼とを行って酸化ニッケル粉末を製造する方法が提案されている。この製造方法によれば、平均粒径が制御され、且つ硫黄品位が50質量ppm以下である酸化ニッケル微粉末が得られると記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、450〜600℃の仮焼による脱水工程と、1000〜1200℃の焙焼による硫酸ニッケルの分解工程とを明確に分離した酸化ニッケル粉末の製造方法が提案されている。この製造方法によれば、硫黄品位が低く且つ平均粒径が小さい酸化ニッケル粉末を安定して製造できると記載されている。更に、特許文献4には、横型回転式製造炉を用いて、強制的に空気を導入しながら、最高温度を900〜1250℃として焙焼する方法が提案されている。この製造方法によっても、不純物が少なく、硫黄品位が500質量ppm以下の酸化ニッケル粉末が得られると記載されている。
【0007】
上記の乾式法に対して一部湿式法で酸化ニッケル微粉末を合成する方法として、硫酸ニッケルや塩化ニッケル等のニッケル塩を含む水溶液を、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリで中和して水酸化ニッケルを晶析させ、これを焙焼する方法も提案されている。例えば、特許文献5には、塩化ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケルを生成し、得られた水酸化ニッケルを500〜800℃の温度で熱処理して酸化ニッケルを生成し、得られた酸化ニッケルに水を加えてスラリーにした後、湿式ジェットミルを用いて解砕すると同時に洗浄することにより、硫黄品位及び塩素品位が低く且つ微細な粒径の酸化ニッケル粉末を得る方法が提案されている。この方法は水酸化ニッケルを焙焼する際に陰イオン成分由来のガスの発生が少ないため、排ガス処理は不要となるか若しくは簡易な設備でよく、よって低コストでの製造が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−198213号公報
【特許文献2】特開2001−032002号公報
【特許文献3】特開2004−123488号公報
【特許文献4】特開2004−189530号公報
【特許文献5】特開2011−042541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2〜4の製造方法によりある程度硫黄品位が抑えられた微細な酸化ニッケル粉末を得ることができるが、これら製造方法のいずれにおいても、硫黄品位を低減するために焙焼温度を高くすると粒径が粗大になり、また粒子を微細にするために焙焼温度を下げると硫黄品位が高くなるという欠点があり、粒径と硫黄品位を同時に最適値に制御することは困難であった。また、加熱する際に大量のSOを含むガスが発生し、これを除害処理するために高価な設備が必要になるという問題も抱えている。
【0010】
更に、酸化ニッケル粉末を電子部品用として、特にフェライト部品用の原料として用いる場合は、硫黄の含有量を単に低減するだけでなく、硫黄の含有量を所定の範囲内に厳密に制御することが求められることがある。すなわち、酸化ニッケル粉末を電子部品用材料として用いる場合は、粒径の微細化と不純物の低減に加えて、硫黄の含有量の厳密な制御が必要になることがある。しかしながら、特許文献5の酸化ニッケル粉末の製造方法は、原料に塩化ニッケルを用いていることから硫黄の低減は可能であるが、硫黄品位を所定の範囲内に制御することは困難であった。また、湿式解砕しているため、その後工程として必要な乾燥工程にコストがかかる上、乾燥時に凝集する虞があった。
【0011】
このように、従来の酸化ニッケル粉末の製造方法は、微細な粒子径を有すると共に、塩素品位が低く且つ硫黄品位が制御された酸化ニッケル粉末を得るのは困難であり、更なる改善が望まれていた。本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、含有量の制御された微量の硫黄を含み、不純物品位、特に塩素品位が低く、且つ粒径が微細であって、電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な酸化ニッケル微粉末の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するため、熱処理時に大量の有害ガスが発生しない製造方法である、ニッケル塩水溶液を中和して得た水酸化ニッケルを焙焼して酸化ニッケル微粉末を製造する方法について鋭意研究を重ねた結果、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和し、得られた水酸化ニッケルを所定の条件で熱処理することで、硫黄品位が制御され、不純物品位、特に塩素品位が低い微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の酸化ニッケル微粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液をアルカリで中和して水酸化ニッケル粒子を得る中和工程と、前記水酸化ニッケル粒子を非還元性雰囲気中において850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成する第1熱処理工程と、減圧下において850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で前記酸化ニッケル粉末を熱処理する第2熱処理工程と、前記第1及び第2熱処理工程の際に形成され得る酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕する解砕工程とを含む硫黄品位50質量ppm以下の酸化ニッケル微粉末の製造方法であって、記第2熱処理工程の雰囲気圧力が大気圧より20kPa〜100kPa低いことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フェライト部品などの電子部品材料や固体酸化物形燃料電池の電極材料として好適な、硫黄品位が50質量ppm以下に制御され、不純物品位としての塩素品位が50質量ppm以下、ナトリウム品位が100質量ppm未満と低い微細な酸化ニッケル微粉末を、大量の塩素やSOガスを発生させることなく容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る酸化ニッケル微粉末の製造方法について説明する。この酸化ニッケル微粉末の製造方法は、硫酸ニッケル水溶液をアルカリによって中和して水酸化ニッケル粒子を得る中和工程と、得られた水酸化ニッケル粒子を炉内に装入し、非還元性雰囲気中において850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で熱処理して酸化ニッケル粉末を生成する第1熱処理工程と、該炉内を減圧雰囲気にして850℃を超え1050℃未満の熱処理温度で熱処理する第2熱処理工程と、該第1及び第2熱処理工程の際に形成され得る酸化ニッケル粉末の焼結体を解砕して酸化ニッケル微粉末を得る解砕工程とを有している。
【0016】
上記の通り本発明の実施形態に係る製造方法においては、中和工程においてアルカリで中和するニッケル塩水溶液の原料に硫酸ニッケルを使用する。これにより原料に他のニッケル塩を用いる場合と比べ、後工程の第1熱処理工程や第2熱処理工程で熱処理温度を高温化しても酸化ニッケル粉末の粒子径が大きくなるのを抑えることが可能となり、その結果、微細で且つ硫黄品位が制御された酸化ニッケル微粉末を得ることができる。すなわち、原料に含まれる硫黄成分の効果により、熱処理温度が粒径に及ぼす影響を抑えることができ、その結果、微細な粒径を維持したまま熱処理温度によって酸化ニッケルの硫黄品位を制御できることを本発明者は見出した。しかも、本発明の実施形態の製造方法は、原料に塩化ニッケルを用いないため塩素が混入する虞がなく、原料に不可避的に含まれる不純物以外は実質的に塩素を含有しない酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0017】
上記方法で微細な粒径の酸化ニッケル粉末が得られる明確な理由は不明であるが、硫酸ニッケルの分解温度は848℃と高温であるため、水酸化ニッケル粒子の表面や界面に硫黄成分が硫酸塩として巻きこまれ、これが酸化ニッケル粉末の焼結を高温まで抑制していると考えられる。
【0018】
上記熱処理により水酸化ニッケル結晶内の水酸基が脱離して酸化ニッケル粉末が生成されるが、その際、熱処理温度を適切に設定することによって、粒径の微細化と硫黄品位の制御が可能である。具体的には、第1熱処理工程において、水酸化ニッケルの熱処理温度を850℃を超え1050℃未満、好ましくは860〜1000℃の温度範囲とし、第2熱処理工程において、減圧下で熱処理温度を850℃を超え1050℃未満、好ましくは860〜1000℃の温度範囲にする。これらの条件で熱処理することによって、解砕工程で解砕された後の酸化ニッケル微粉末の硫黄品位を50質量ppm以下に制御でき、且つ比表面積を3m/g以上4m/g未満にすることができる。
【0019】
尚、粒径と比表面積には、下記の式1の関係があるので、比表面積によって粉体がどの程度微細であるか判断することができる。
[計算式1]
粒径=6/(密度×比表面積)
但し、上記式1の関係は粒子が真球状であると仮定して導き出されたものであるため、上記式1から得られる粒径と実際の粒径との間にはいくらかの誤差を含むことになるが、比表面積が大きいほど粒径が小さくなることが分かる。次に、本発明の実施形態に係る酸化ニッケルの製造方法を工程毎に詳細に説明する。
【0020】
(中和工程)
先ず中和工程では、原料としての硫酸ニッケルの水溶液にアルカリを添加して得た反応液中で中和反応を行って水酸化ニッケルを得る工程である。この反応液中の濃度や中和条件等は公知の技術が適用できる。原料として用いる硫酸ニッケルやアルカリは、最終的に作製される酸化ニッケル微粉末が電子部品用や固体酸化物形燃料電池の電極用として用いられることから、腐食を防止するため、それら各々に含まれる不純物が100質量ppm未満であることが望ましい。
【0021】
硫酸ニッケル水溶液中のニッケルの濃度は、特に限定されるものではないが、生産性を考慮すると、ニッケル濃度で50〜150g/Lが好ましい。この濃度が50g/L未満では生産性が悪くなる。一方、150g/Lを超えると水溶液中の陰イオン濃度が高くなりすぎ、生成した水酸化ニッケル粒子中の硫黄品位が高くなるため、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末中の不純物品位が十分に低くならない場合がある。
【0022】
中和に用いるアルカリとしては、特に限定されるものではないが、反応液中に残留するニッケルの量を考慮するとアルカリ金属の水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム又はそれら両方がより好ましく、コストを考慮すると水酸化ナトリウムが特に好ましい。また、アルカリは固体又は液体のいずれの形態で硫酸ニッケル水溶液に添加してもよいが、取扱いの容易さから水溶液を用いることが好ましい。
【0023】
均一な特性の水酸化ニッケル粒子を得るためには、反応槽内において十分に撹拌されている液に、予め調製しておいたニッケル塩水溶液である硫酸ニッケル水溶液とアルカリとをいわゆるダブルジェット方式で添加して反応液とするのが有効である。即ち、反応槽内に硫酸ニッケル水溶液及びアルカリ水溶液のうちのいずれか一方を入れておき、そこにもう一方を添加して反応液とするのではなく、反応槽内において十分に攪拌されている液中に、好適には攪拌しながら硫酸ニッケル水溶液とアルカリとを同時並行的に且つ連続的に乱流状態で添加して反応液とする方式が有効である。その際、反応槽内に予め入れておく液は、純水にアルカリを添加し、所定のpHに調整したものであるのが好ましい。
【0024】
上記の反応液は、中和反応時のpHを8.3〜9.0の範囲内に設定することが好ましく、この範囲内でpHをほぼ一定に保つことが特に好ましい。このpHが8.3より低いと、水酸化ニッケル中に残存する硫酸イオンなどの陰イオン成分の濃度が増大し、これらは後工程の第1熱処理工程で焼成する際に、大量の塩酸やSOとなって炉体をいためるため好ましくない。逆に、このpHが9.0より高くなると、得られる水酸化ニッケルが微細になりすぎ、この水酸化ニッケルを含むスラリーの濾過が困難になることがある。また、後工程での第1熱処理工程において焼結が進みすぎ、微細な酸化ニッケル微粉末を得ることが困難になることがある。
【0025】
尚、中和反応時のpHを9.0以下にすると反応後の水溶液中に僅かにニッケル成分が残存することがあるが、この場合は、上記中和工程での中和反応による晶析の後、該水溶液のpHを10程度まで上げることによって、これを固液分離した後の濾液中のニッケルを低減することができる。前述したように中和反応時のpHは一定に保つのが好ましく、具体的にはその変動幅が設定値を中心として絶対値で0.2以内となるように制御することが好ましい。pHの変動幅がこれより大きくなると、不純物が増大したり、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が低下したりするおそれがある。
【0026】
中和反応時の液温は、一般的な中和反応時の温度で特に問題はなく、室温で行うことも可能であるが、水酸化ニッケル粒子を十分に成長させるために50〜70℃に調整するのが好ましい。水酸化ニッケル粒子を十分に成長させることで、水酸化ニッケル粒子中に硫黄が過度に含有されるのを防止することができる。また、水酸化ニッケル粒子中へのナトリウムなどの不純物の巻き込みを抑制でき、これにより最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の不純物品位を低減することができる。この液温が50℃未満では水酸化ニッケル粒子の成長が十分ではなく、水酸化ニッケル粒子中への硫黄及び不純物の巻き込みが多くなるおそれがある。逆に、液温が70℃を超えると、水の蒸発が顕著になり、水溶液中の硫黄及び不純物濃度が高くなるため、生成した水酸化ニッケル粒子中の硫黄品位及び不純物品位が高くなることがある。
【0027】
上記中和反応の終了後、析出した水酸化ニッケル粒子を例えば濾過により固液分離して回収する。回収した濾過ケーキは、次の第1熱処理工程で処理する前に洗浄することが好ましい。洗浄はレパルプ洗浄とすることが好ましく、その洗浄に用いる洗浄液としては水が好ましく、純水が特に好ましい。洗浄時の水酸化ニッケル粒子と水との混合割合は特に限定されるものではなく、硫酸ニッケルに含まれる陰イオン、特に硫酸イオン、及びアルカリ金属成分が、十分に除去できる混合割合とすればよい。
【0028】
具体的には、水酸化ニッケルに対する洗浄液の量は、残留陰イオンやアルカリ金属成分等の不純物が十分に低減でき且つ水酸化ニッケル粒子を良好に分散させるため、50〜150gの水酸化ニッケル粒子に対して洗浄液1Lを混合するのが好ましく、100g程度の水酸化ニッケル粒子に対して洗浄液1Lを混合するのがより好ましい。尚、洗浄時間については、処理条件に応じて適宜定めることができ、残留不純物を十分に低減可能な時間とすればよい。1回の洗浄で陰イオン及びアルカリ金属成分が十分に低減されない場合は、複数回繰り返して洗浄することが好ましい。特に、アルカリ金属成分は次工程の第1熱処理工程や第2熱処理工程における熱処理ではほとんど除去できないため、この洗浄によって十分に除去することが好ましい。
【0029】
(第1熱処理工程及び第2熱処理工程)
上記中和工程の次に行われる第1熱処理工程及び第2熱処理工程は、上記中和工程で得られた水酸化ニッケル粒子を熱処理して酸化ニッケル粉末を得る工程である。第1熱処理工程では、非還元性雰囲気中において、850℃を超え1050℃未満の温度範囲で、好ましくは860〜1000℃の温度範囲で熱処理を行う。この熱処理時の雰囲気は、非還元性雰囲気であれば特に限定されないが、経済性を考慮すると大気雰囲気とすることが好ましい。また、熱処理の際に水酸基の脱離により発生する水蒸気を効率よく排出するため、十分な流速を持った気流中で行うことが好ましい。尚、第1熱処理工程の熱処理を行う装置には、一般的な焙焼炉を使用することができ、後工程の第2熱処理工程の熱処理をも実施できるように、減圧設備を備えた炉であってもよい。
【0030】
次の第2熱処理工程では、炉内を減圧下とし、850℃を超え1050℃未満の温度範囲で、好ましくは860〜1000℃の温度範囲で熱処理を行う。この熱処理時は、炉内雰囲気を大気圧より20〜100kPa低い圧力、すなわちゲージ圧で−20〜−100kPaGの減圧下にする。この条件で熱処理を行うことにより、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位をより一層低減することができる。尚、この第2熱処理工程の熱処理を行う装置は、炉内を減圧することができる設備を備えた炉であれば、公知の熱処理装置を用いることができる。
【0031】
ところで、水酸化ニッケル粒子に含まれる硫黄成分は、前述したように主として硫酸ニッケルの形態であるが、この硫酸ニッケル(NiSO)は下記式2の反応により分解される。
[式2]
2NiSO→2NiO+2SO+O
【0032】
上記式2より、熱処理雰囲気の酸素分圧が低くなること、つまり熱処理時に減圧雰囲気にすることでこの反応が促進され、第1熱処理工程の熱処理後に残留する硫酸ニッケルなどの硫黄成分を良好に分解することができる。その結果、得られる酸化ニッケル微粉末の硫黄品位より一層低減する。この第2熱処理工程の熱処理時の炉内の気圧が−20kPaGよりも高くなると、硫酸ニッケルなどの硫黄成分の分解反応が良好に進行せず、第2熱処理工程の熱処理を行っても酸化ニッケル微粉末の硫黄品位がほとんど低減しないことがある。逆に炉内の気圧を−100kPaGよりも低くしてもよいが、その減圧のための設備コストが高くなるので経済的ではない。
【0033】
これら第1及び第2熱処理工程の熱処理温度が1050℃以上では、硫酸ニッケル等の硫黄成分の分解が進行しすぎるため、上記焼結の抑制効果が不十分になり、温度による焼結促進が顕著になる。その結果、第1熱処理工程や第2熱処理工程の熱処理によって得られる酸化ニッケル粉末同士の焼結が顕著になり、後工程の解砕工程において酸化ニッケル粉末の焼結体の解砕が困難になり、解砕できたとしても所望の比表面積を有する微細な酸化ニッケル微粉末が得られなくなる。逆に、上記水酸化ニッケルの熱処理温度が850℃以下の場合は、硫酸ニッケル等の硫黄成分の分解による硫黄成分の揮発が不十分となり、水酸化ニッケル中に硫黄成分が残留するため、酸化ニッケル微粉末の硫黄品位が50質量ppmを超えてしまう。熱処理時間は、上記の熱処理温度や熱処理が施される水酸化ニッケル粒子の量等の処理条件に応じて適宜設定することができるが、最終的に得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積が3m/g以上4m/g未満となるように設定すればよい。
【0034】
上記熱処理条件で熱処理した後の酸化ニッケル粉末は、前述した硫黄成分の効果により、微細であって焼結していても容易に解砕することができる。よって、最終的に粉砕して得られる酸化ニッケル微粉末の比表面積は、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積に対して約1.5〜2.5m/g増加する程度である。従って、熱処理後の酸化ニッケル粉末の比表面積で判断して熱処理条件を設定することができる。すなわち、解砕前の酸化ニッケル粉末の比表面積が0.5〜1.5m/gとなるような条件で熱処理することが好ましい。このように、本発明の実施形態の製造方法は、熱処理温度を上記範囲で設定することにより、硫黄品位と比表面積を容易に制御できる。
【0035】
(解砕工程)
第2熱処理工程の次に行われる解砕工程は、上記第1及び第2熱処理工程の熱処理の際に形成され得る酸化ニッケル粒子の焼結体を解砕する工程である。上記第1熱処理工程では、水酸化ニッケル結晶中の水酸基が離脱して酸化ニッケルの粒子が形成されるが、その際、粒径の微細化が起こると共に、硫酸成分により抑制されてはいるものの、高温の影響で酸化ニッケル粒子同士の焼結がある程度進行する。この焼結体を破壊するため、解砕工程では熱処理後の酸化ニッケルに対して解砕処理を行い、これにより酸化ニッケル微粉末を得るものである。
【0036】
一般的な解砕方法としては、ビーズミルやボールミル等の解砕メディアを用いたものや、ジェットミル等の解砕メディアを用いない流体エネルギーによる解砕方法があるが、本発明の製造方法においては、後者の解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。なぜなら、解砕メディアを用いると解砕自体は容易となるものの、ジルコニア等の解砕メディアを構成している成分が不純物として混入するおそれがあるからである。特に、電子部品用として酸化ニッケル微粉末を用いる場合には、解砕メディアを用いない解砕方法を採用することが好ましい。
【0037】
低減すべき不純物がジルコニウムのみであるならば、解砕メディアにジルコニア等のジルコニウムを含有しないものを用いて解砕することで対処することができるが、この場合であっても解砕メディアから他の不純物が混入し、結果的に低不純物品位の酸化ニッケル微粉末が得られにくくなるので好ましくない。また、ジルコニウムを含有しない解砕メディア、例えば、イットリア安定化ジルコニアを含有しない解砕メディアは強度や耐摩耗性が十分でなく、この観点からも解砕メディアを用いない解砕方法が望ましい。
【0038】
解砕メディアを用いない解砕方法としては、粉体の粒子同士を衝突させる方法や、液体などの溶媒により粉体にせん断力をかける方法、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いる方法等がある。粉体の粒子同士を衝突させる解砕装置としては、例えば、乾式ジェットミルや湿式ジェットミルがあり、具体的には前者にはナノグラインディングミル(登録商標)や、クロスジェットミル(登録商標)、後者にはアルティマイザー(登録商標)、スターバースト(登録商標)等を挙げることができる。また、溶媒によりせん断力を与える解砕装置としては、例えば、ナノマイザー(登録商標)等があり、溶媒のキャビテーションによる衝撃力を用いた解砕装置としては、例えば、ナノメーカー(登録商標)等を挙げることができる。
【0039】
上記解砕方法のうち、粉体の粒子同士を衝突させる方法が、不純物混入の虞が少なく、比較的大きな解砕力が得られることから特に好ましい。このように、解砕メディアを用いることなく解砕を行うことにより、解砕メディアからの不純物、特にジルコニウムの混入が実質的にない微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。尚、湿式解砕では解砕後に必要に応じて行う乾燥時に再凝集をするおそれがあるため、乾式解砕がより好ましい。本発明の実施形態に係る製造方法では、硫酸ニッケルを原料とするため、洗浄による塩素除去を行う必要がない。従って、乾式解砕を行うことが可能であり、この場合は乾燥工程を省略することが可能であるため、コスト的にも有利である。解砕条件には特に限定がなく、通常の条件の範囲内での調整により容易に目的とする粒度分布を有する酸化ニッケル微粉末を得ることができる。これにより、フェライト部品などの電子部品材料として好適な分散性に優れた微細な酸化ニッケル微粉末を得ることができる。
【0040】
(酸化ニッケル微粉末の物性)
以上説明した工程からなる製造方法により作製される本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末は、原料から不純物として混入する以外に塩素が混入する工程を含まないので、塩素品位が極めて低い。加えて、硫黄品位が制御されると共に、ナトリウム等の総アルカリ金属の品位が低く、比表面積も大きい。具体的には、硫黄品位が50質量ppm以下、塩素品位が50質量ppm以下、総アルカリ金属の品位が100質量ppm以下である。また、比表面積は3m/g以上4m/g未満である。従って、電子部品用、特にフェライト部品用の材料や固体酸化物形燃料電池の電極用材料として好適である。尚、固体酸化物形燃料電池の電極用材料としては、硫黄品位が100質量ppm以下であることが好ましい。
【0041】
また、上記した本発明の実施形態の酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、マグネシウム等の第2族元素を添加する工程を含まないので、これらの元素が不純物として含まれることは実質的にない。更に、解砕メディアを使用せずに解砕する場合はジルコニアも含まれなくなるので、ジルコニア品位及び第2族元素品位を30質量ppm以下にすることができる。
【0042】
更に、本発明の実施形態の製造方法により作製される酸化ニッケル微粉末は、レーザー散乱法で測定したD50(粒度分布曲線における粒子量の体積積算50%での粒径)を好ましくは1μm以下に、より好ましくは0.2〜0.6μmにすることができる。尚、レーザー散乱法で測定したD50は、電子部品等の製造の際、他の材料と混合されるときに解砕されて小さくなるが、この解砕によって比表面積が大きくなる可能性は低いため、酸化ニッケル微粉末自体の比表面積が大きいことがより重要である。更に、本発明の実施形態に係る酸化ニッケル微粉末の製造方法においては、湿式法により製造した水酸化ニッケルを熱処理するため、有害なSOが大量に発生することがない。従って、これを除害処理するための高価な設備が不要であることから、製造コストを低く抑えることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等によってなんら限定されるものではない。尚、以下の実施例及び比較例における塩素品位の分析は、酸化ニッケル微粉末を塩素の揮発を抑制できる密閉容器内にてマイクロ波照射下で硝酸に溶解し、硝酸銀を加えて塩化銀を沈殿させ、得られた沈殿物中の塩素を蛍光X線定量分析装置(PANalytical社製 Magix)を用いて検量線法で評価することによって行った。また、硫黄品位の分析は、硝酸に溶解した後、ICP発光分光分析装置(セイコー社製 SPS−3000)によって行った。ナトリウム品位の分析は、硝酸に溶解した後、原子吸光装置(日立ハイテク社製 Z−2300)により評価することによって行った。酸化ニッケル微粉末の粒径は、レーザー散乱法により測定し、その粒度分布から体積積算50%での粒径D50を求めた。また、比表面積の分析は、窒素ガス吸着によるBET法により求めた。
【0044】
[実施例1]
先ず、邪魔板とオーバーフロー口を具備する攪拌機構付きの容量2Lの反応槽を、純水と水酸化ナトリウムとからなるpH8.5に調整した水酸化ナトリウム水溶液2Lで満たし、十分に攪拌した。他方、硫酸ニッケルを純水に溶解してニッケル濃度120g/Lのニッケル水溶液を調製した。また、12.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用意した。これらニッケル水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを、上記反応槽内の水溶液のpHを8.5を中心としてその変動幅が絶対値で0.2以内となるように調整しながら該水溶液に同時並行的且つ連続的に添加して混合した。
【0045】
このようにして、中和反応により水酸化ニッケルの析出物を連続的に生成させ、該析出物を含むスラリーをオーバーフローにより回収した。尚、ニッケル水溶液は5mL/分の流量で添加することによって、水酸化ニッケルの反応時間を約3時間に調整した。この時、ニッケル水溶液と水酸化ナトリウム水溶液は、供給ノズル出口部において各々乱流になっていた。また、反応槽内では液温を60℃とし、攪拌羽により700rpmで撹拌した。上記のオーバーフローにより回収したスラリーに対してヌッチェによる濾過と保持時間30分の純水レパルプを10回繰り返して、水酸化ニッケル濾過ケーキを得た。この濾過ケーキを、送風乾燥機を用いて110℃の大気中にて24時間乾燥し、水酸化ニッケルを得た(中和工程)。
【0046】
上記中和工程で得た水酸化ニッケル500gを大気焼成炉に装入し、雰囲気温度900℃の大気で3時間かけて熱処理して酸化ニッケル粒子を得た(第1熱処理工程)。得られた酸化ニッケル粒子の硫黄品位は110質量ppmであった。次に、上記第1熱処理工程で得た酸化ニッケル350gを雰囲気焼成炉に装入し、大気圧との差圧を示すゲージ圧が−50kPaとなるように調整した減圧雰囲気の下、雰囲気温度900℃で2時間かけて熱処理して酸化ニッケル粒子を得た(第2熱処理工程)。次に、上記第2熱処理工程で得た酸化ニッケル粒子から分取した300gをナノグラインディングミル(徳寿工作所製)にてプッシャーノズル圧力1.0MPa、グラインディング圧力0.9MPaにて粉砕した(解砕工程)。
【0047】
得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄(S)品位が45質量ppm、塩素(Cl)品位が50質量ppm未満、ナトリウム(Na)品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.0m/g、D50は0.44μmであった。
【0048】
[実施例2]
第2熱処理工程のゲージ圧力を−90kPaとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が25質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.9m/g、D50は0.46μmであった。
【0049】
[実施例3]
第2熱処理工程の熱処理温度を910℃とした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が18質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は3.7m/g、D50は0.60μmであった。
【0050】
[比較例1]
第2熱処理工程の熱処理を大気、つまりゲージ圧力を0kPaで行った以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が104質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.3m/g、D50は0.42mであった。
【0051】
[比較例2]
第2熱処理工程の熱処理温度を910℃とした以外は比較例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が100質量ppm、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.1m/g、D50は0.58μmであった。
【0052】
[比較例3]
第2熱処理工程のゲージ圧力を−10kPaとした以外は実施例1と同様にして酸化ニッケル微粉末を得ると共に分析を行った。得られた酸化ニッケル微粉末は、硫黄品位が95質量ppm未満、塩素品位が50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満であった。また、比表面積は4.1m/g、D50は0.43μmであった。
【0053】
上記実施例1〜3及び比較例1〜3において得られた酸化ニッケル微粉末の硫黄品位、塩素品位、ナトリム品位、比表面積及びD50を、第1熱処理工程後の硫黄品位及び第2熱処理工程の熱処理条件(焙焼温度及び雰囲気圧力)と共に下記の表1にまとめて示す。
【0054】
【表1】
【0055】
上記表1の結果から分かるように、全ての実施例において、硫黄品位が50質量ppm以下に制御されている上、塩素品位は50質量ppm未満、ナトリウム品位が100質量ppm未満となっている。また、比表面積は3.0m/g以上4.0m/gに収まっており、所望の大きさの酸化ニッケル微粉末が得られていることが分かる。これに対して、比較例1〜3では、第2熱処工程での雰囲気圧力が本発明の要件から外れているため、硫黄品位又は比表面積の少なくとも一方が、電子部品材料として好適な範囲内となっていない。また、比較例1〜3の酸化ニッケル微粉末の硫黄品位は、第1熱処理工程の熱処理後の酸化ニッケル粉末の硫黄品位(110質量ppm)と大きく変わらないことも分かる。