特許第6819451号(P6819451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6819451大型合成石英ガラス基板並びにその評価方法及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819451
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】大型合成石英ガラス基板並びにその評価方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 20/00 20060101AFI20210114BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20210114BHJP
   G03F 1/60 20120101ALI20210114BHJP
【FI】
   C03B20/00 K
   C03C19/00 Z
   G03F1/60
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-92330(P2017-92330)
(22)【出願日】2017年5月8日
(65)【公開番号】特開2018-188332(P2018-188332A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2019年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 洋行
(72)【発明者】
【氏名】渡部 厚
(72)【発明者】
【氏名】原田 大実
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正樹
【審査官】 長谷川 真一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−230893(JP,A)
【文献】 特開2012−111664(JP,A)
【文献】 特開2004−029735(JP,A)
【文献】 特開2006−176341(JP,A)
【文献】 特表2009−516832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00− 5/44
C03B 8/00− 8/04
C03B 19/12−20/00
C03B 23/00−35/26
C03B 40/00−40/04
C03C 15/00−23/00
G03F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対角長が1000mm以上、厚さが5〜30mmの矩形の大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の、上記表面又は裏面の各辺から10mm以内の領域を除いた矩形の範囲である有効範囲において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように、かつ有効範囲の全体に、いずれかの評価領域が位置するように、上記有効範囲のいずれか一方の対向する2辺と、他方の対向する2辺と平行な2直線とで区切られ、上記一方の対向する2辺に沿った長さが100〜300mmの領域として設定したとき、基板面全体における平坦度が、上記表面及び裏面のいずれも、30μm以下であり、かつ上記複数の評価領域の各々の評価領域内の平坦度が3μm以下であることを特徴とする大型合成石英ガラス基板。
【請求項2】
各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積が、各々の評価領域の面積の50〜98%であることを特徴とする請求項1記載の大型合成石英ガラス基板。
【請求項3】
各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で、両評価領域内の各々の平坦度の差が0.8μm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の大型合成石英ガラス基板。
【請求項4】
対角長が1000mm以上の大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の有効範囲において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように設定する工程、
各々の評価領域において、該評価領域内の平坦度を測定する工程、及び
各々の評価領域において、評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差を算出する工程
を含むことを特徴とする大型合成石英ガラス基板の平坦性の評価方法。
【請求項5】
請求項記載の評価方法により、大型合成石英ガラス基板の平坦性を評価する工程、
得られた平坦度及び平坦度の差に基づいて研磨量を決定する工程、及び
決定された研磨量に従って大型合成石英ガラス基板の表面又は裏面を局所研磨する工程
を含むことを特徴とする大型合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型合成石英ガラス基板並びにその評価方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フォトリソグラフィーによるパターンの微細化が進んでおり、それに伴いマスク原料となる合成石英ガラス基板に対しての高平坦化の要求も高まっている。基板の平坦度の規格は、従来は、基板の表面又は裏面全体の値で決められるのが一般的であった。しかし、フラットパネルディスプレイなどをはじめ、ディスプレイの大型化によりマスクの大面積化が進んでいる分野では、基板面全体の平坦度が低いことに加え、基板面内の平坦度のばらつきの低減も重要となっている。基板面内の平坦度のばらつきを評価する方法としては、基板内を複数の領域に分割して、その各領域内のローカルフラットネスを比較する手法(特開2004−200600号公報(特許文献1))がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−200600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マスクの原料基板は、高平坦であることが重要であるが、基板全体の平坦度が一定の規格内であっても、全体の平坦度にばらつきがあり、不均一で局所的に凹凸の勾配が大きい箇所がある場合、基板上への薄膜の成膜時のムラや、マスクを用いた露光時の焦点ばらつきにつながる。特開2004−200600号公報(特許文献1)記載の方法の場合は、ウェハ表面を複数領域に区切り、各領域の平坦度を目標とする形状に近づけるための評価に用いているが、各領域同士は重なり合わずに独立しており、領域間にまたがる局所的な凹凸勾配など、各領域間の平坦性については評価していない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高平坦であり、基板面内の局所勾配が小さく、精度の高い露光を可能にするマスクの原料基板となる大型合成石英ガラス基板並びにその評価方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、マスクの原料基板となる大型合成石英ガラス基板の有効範囲について、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように設定して、各々の評価領域内の平坦度の情報、更には、一の評価領域内の平坦度と、一の評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差の情報に基づいて、平坦性を評価することが有効であり、その評価結果に基づき研磨量を決定し、局所研磨して原料基板を製造すれば、高平坦であり、基板面内の局所勾配が小さく、精度の高い露光を可能にするマスクの原料基板となる大型合成石英ガラス基板を提供できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、以下の大型合成石英ガラス基板並びにその評価方法及び製造方法を提供する。
[1] 対角長が1000mm以上、厚さが5〜30mmの矩形の大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の、上記表面又は裏面の各辺から10mm以内の領域を除いた矩形の範囲である有効範囲において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように、かつ有効範囲の全体に、いずれかの評価領域が位置するように、上記有効範囲のいずれか一方の対向する2辺と、他方の対向する2辺と平行な2直線とで区切られ、上記一方の対向する2辺に沿った長さが100〜300mmの領域として設定したとき、基板面全体における平坦度が、上記表面及び裏面のいずれも、30μm以下であり、かつ上記複数の評価領域の各々の評価領域内の平坦度が3μm以下であることを特徴とする大型合成石英ガラス基板。
] 各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積が、各々の評価領域の面積の50〜98%であることを特徴とする[1]記載の大型合成石英ガラス基板。
] 各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で、両評価領域内の各々の平坦度の差が0.8μm以下であることを特徴とする[1]又は[2]記載の大型合成石英ガラス基板。
] 対角長が1000mm以上の大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の有効範囲において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように設定する工程、
各々の評価領域において、該評価領域内の平坦度を測定する工程、及び
各々の評価領域において、評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差を算出する工程
を含むことを特徴とする大型合成石英ガラス基板の平坦性の評価方法。
] []記載の評価方法により、大型合成石英ガラス基板の平坦性を評価する工程、
得られた平坦度及び平坦度の差に基づいて研磨量を決定する工程、及び
決定された研磨量に従って大型合成石英ガラス基板の表面又は裏面を局所研磨する工程
を含むことを特徴とする大型合成石英ガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高平坦で、かつ基板面内の局所勾配が小さい大型合成石英ガラス基板が得られ、このような大型合成石英ガラス基板を用いて大型フォトマスクを作製し、これをパネル露光に使用することにより、CD精度(寸法精度)の向上や、微細パターンの露光が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】評価領域の区切り方の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。
マスクの原料基板となる大型合成石英ガラス基板は、直接法又は間接法により製造した合成石英ガラスブロックを、ワイヤーソーなどにより所定の厚さに切断し、外形加工を行って所定のサイズとし、その後、研削工程、ラップ加工工程、粗研磨工程、精密研磨工程などを経て製造される。このようにして得られた大型合成石英ガラス基板の形状は、対角長が1000mm以上であり、矩形であることが好ましく、厚さが5〜30mmであることが好ましい。大型合成石英ガラス基板の対角長の上限は、通常3500mm以下である。大型合成石英ガラス基板の基板面全体における平坦度は、表面及び裏面のいずれも、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。また、大型合成石英ガラス基板の平行度は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは10μm以下である。
【0011】
大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の各々において、その有効範囲とは、大型合成石英ガラス基板の外周縁部を除く範囲であり、通常、基板面の外周縁から10mm以内の領域を除いた範囲である。例えば、矩形の大型合成石英ガラス基板の場合は、各辺から10mm以内の領域を除いた矩形の範囲となる。
【0012】
本発明においては、大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の有効範囲において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように設定する。例えば、有効範囲の全体に、いずれかの評価領域が位置するように設定する。評価領域の区切り方は、例えば、矩形の大型合成石英ガラス基板の場合、図1に示されるように、基板面Sの有効範囲Eのいずれか一方の対向する2辺と、他方の対向する2辺と平行な2直線(この平行な2直線には、他方の対向する2辺自身も含まれる)で区切ることができる。この場合、全ての評価領域が、矩形で、かつ一方の対向する2辺に沿って、評価領域1、2、3、…nの順で配列されることとなり、各々の評価領域の一方の対向する2辺に沿った長さが100mm以上、特に150mm以上で、300mm以下、特に250mm以下とすることが好適である。この長さは、全ての評価領域で同一である、即ち、同じピッチで設定することが好ましい。評価領域が配列される上記一方の対向する2辺は、基板の長辺側及び短辺側のいずれでもよいが、例えば、加工ツールの移動方向や平坦度測定時の軸方向など、加工量の計算や平坦度測定に対して評価しやすい方向であることが好ましい。
【0013】
評価領域間の重なり度合いが高いほど、評価領域の総数が多くなり、高平坦で基板面内の局所勾配の小さな大型合成石英ガラス基板を得るために有利であるが、評価及び加工に時間がかかる。一方、評価領域間の重なり度合いが低ければ、評価領域の総数が少なくなり、評価及び加工にかかる時間は短くなるが、高平坦で基板面内の局所勾配の小さな基板を得る観点においては、その効果が低下してしまう。そのため、目標とする平坦性や加工時間に応じて適切な重なり度合いを選択することになるが、上記観点からは評価領域間の重なり度合いは、各々の評価領域において、好ましくは全ての評価領域に共通して、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積が、各々の評価領域の面積の50%以上、特に60%以上、とりわけ70%以上で、98%以下、特に90%以下、とりわけ80%以下となるようにすることが好ましい。例えば、有効範囲の一方の対向する2辺側(この場合は短辺側)が800mm、有効範囲の他方の対向する2辺側(この場合は長辺側)が900mm、一方の対向する2辺に沿った長さ(ピッチ)が200mm、各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積を50%とした場合は、各々の評価領域の他方の対向する2辺に平行な中心線が、一方の対向する2辺に沿って100mm間隔で配列する評価領域1、2、3、…7の合計7(n=7)の評価領域が設定されることになる。
【0014】
有効領域全体、及び各々の評価領域の平坦度、平行度の測定は、大型合成石英ガラス基板の基板面を垂直(重力方向)にして保持した状態で、大型合成石英ガラス基板の表面及び/又は裏面を測定すればよい。平坦度の測定には、市販のフラットネステスターを、平行度の測定は、マイクロメーターを用いることができる。なお、本発明において、平坦度とは、対象とする面の最小2乗平面を基準面とし、基準面と、実際の面(測定された座標に基づく面)の凸部分との距離の最大値、及び基準面と、実際の面(測定された座標に基づく面)の凹部分との距離の最大値との和である。
【0015】
本発明によれば、各々の評価領域内で、好ましくは全ての評価領域において、平坦度が3μm以下、特に2.5μm以下、とりわけ2μm以下である大型合成石英ガラス基板を提供することができる。また、本発明によれば、各々の評価領域で、好ましくは全ての評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で、両評価領域内の各々の平坦度の差が0.8μm以下、特に0.5μm以下である大型合成石英ガラス基板を提供することができる。
【0016】
本発明においては、上述したように評価領域を設定して、大型合成石英ガラス基板の平坦性を評価することができる。具体的には、対角長が1000mm以上の大型合成石英ガラス基板の表面及び裏面の一方又は双方の有効範囲、好ましくは有効範囲の全体において、複数の評価領域を、評価領域同士が一部重なり合うように設定し、各々の評価領域において、評価領域内の平坦度を測定し、更に、必要に応じて、各々の評価領域において、評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差を算出すればよい。
【0017】
また、このような評価方法により、大型合成石英ガラス基板の平坦性を評価し、得られた平坦度に基づいて、更には、得られた平坦度の差に基づいて、研磨量を決定し、決定された研磨量に従って大型合成石英ガラス基板の表面又は裏面を局所研磨することにより、高平坦で、かつ基板面内の局所勾配が小さい大型合成石英ガラス基板、例えば、上述したような、評価領域内の平坦度が3μm以下、特に2.5μm以下、とりわけ2μm以下、更には、上述した評価領域間の平坦度の差が0.8μm以下、特に0.5μm以下の大型合成石英ガラス基板を製造することができる。
【0018】
平坦度の測定結果から、各々の評価領域の平坦度に基づいて研磨量を決定する方法として具体的には、以下のような方法が挙げられる。まず、設定した各々の評価領域について、1番目の評価領域の平坦度が目標の平坦度を超える場合、例えば3μmを超える場合は、その評価領域内での凸部分を加工除去して目標の平坦度以下、例えば2.5μm以下にするために必要な研磨量を決定する。一方、1番目の評価領域の平坦度が目標の平坦度以下の場合、例えば3μm以下の場合は、研磨量を0(ゼロ)として、2番目の評価領域に移行する。次に、2番目以降の評価領域においても、順に、1番目の評価領域と同様にして、研磨量を決定する。そして、上記の方法により各々の評価領域で研磨量を決定することを繰り返して、全ての評価領域において研磨量を決定し、評価領域が重なり合う部分については、その重なり部分を含む各々の評価領域の研磨量の平均値を、それらが重なり合う部分における研磨量として、全ての評価領域全体に亘って研磨量を集計する。
【0019】
更に、各々の評価領域の平坦度の差に基づいて追加の研磨量を決定してもよい。この場合、追加の研磨量は、測定された平坦度の実測値により決定してもよいが、上述した各々の評価領域の平坦度に基づいて決定した研磨量で研磨した後の基板面の形状をシミュレーションし、このシミュレーション結果による評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差を算出することもできる。
【0020】
この場合、まず、設定した各々の評価領域について、1番目の評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差を算出し、この差が目標の差を超える場合、例えば0.5μmを超える場合は、両評価領域内での凸部分について、目標の平坦度の差にするために必要な追加の研磨量を決定する。一方、1番目の評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差が目標の差以下の場合、例えば0.5μm以下の場合は、追加の研磨量を0(ゼロ)として、2番目の評価領域に移行する。次に、2番目以降の評価領域においても、順に、1番目の評価領域と同様にして、追加の研磨量を決定する。そして、上記の方法により各々の評価領域で追加の研磨量を決定することを繰り返して、全ての評価領域において追加の研磨量を決定し、全ての評価領域全体に亘って追加の研磨量を集計する。更に、必要に応じて、上述した各々の評価領域の平坦度に基づいて決定された研磨量と合算する。
【0021】
決定された研磨量に従って局所研磨する方法としては、例えば、大型合成石英ガラス基板の基板面を水平にして保持した状態で、加工ツールが大型合成石英ガラス基板上を移動することにより局所的な研磨加工を行う装置にて、必要な研磨量に応じて基板上の加工ツールの移動速度を変化させることにより、局所的に研磨加工することができる。加工ツールは、例えば、回転軸と、基板に研磨部材を押圧する機構を有する円盤状の研磨プレートが挙げられ、この場合、研磨プレートに、研磨布などの研磨部材を、必要に応じてゴムシートなどの弾性体を介して貼り付け、加工液を供給しながら基板と接触させることにより研磨することができる。研磨プレートの材質としては、ステンレス鋼(SUS)、アルミ合金、チタン、真鍮から選ばれる金属が好ましい。研磨プレートの直径は、好ましくは100mm以上、特に300mm以上で、好ましくは800mm以下、特に600mm以下である。なお、加工の際、目標とする研磨量の分布に応じて、適切な大きさの研磨プレートに変更して加工を行ってもよい。例えば、評価領域内の平坦度と、その評価領域と重なる他の評価領域内の平坦度との差が大きい部分については、比較的狭い範囲で、凹凸の勾配が大きいため、加工除去をより精密に制御すべく、加工ツールの大きさをより小さなものに変更して加工を行うことが好ましい。
【0022】
研磨布は、例えば、不織布、スウェード、発泡ポリウレタンなどから選ばれ、接着剤により加工ツールに固定して使用する。接着剤は、研磨中に研磨布と研磨プレート又は弾性体とが分離しない程度の接着強度を有するものであれば特に制限されず、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などが挙げられる。加工液としては、水に炭化ケイ素、アルミナ、酸化セリウム、コロイダルシリカなどから選ばれる研磨砥粒を混合した液を用いることができる。
【0023】
なお、局所研磨工程の後、大型合成石英ガラス基板の平坦性を再度評価してもよく、評価の結果、目標とする平坦度、更には目標とする平坦度の差が得られていない場合には、この評価結果に基づいて改めて研磨量を決定して、再び局所研磨工程を行って、最終的に目標とする平坦度、更には目標とする平坦度の差となるように、平坦性の評価と局所研磨とを繰り返すことができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0025】
[実施例1]
ラップ加工により両面を粗研磨した後に精密研磨を行い、基板面のサイズが1600mm×1800mm、厚さ17.2mm、表面全体の平坦度が20μm、裏面全体の平坦度が22μm、基板全体の平行度が15μmの大型合成石英ガラス基板を原料基板として用意した。平坦度はフラットネステスター(黒田精工(株))、平行度はマイクロメーター((株)ミツトヨ製)で測定した(以下の平坦度測定及び平行度測定において同じ。)。
【0026】
原料基板の平坦度及び平行度の測定結果から、まず基板表面及び裏面全体の平坦度を10μm以内、平行度を10μm以内とするための研磨量を決定した。その後、基板面を水平に保持した原料基板上を加工ツールが移動することにより局所的な研磨を行う加工装置にて、決定した研磨量に応じて基板上のツールの移動速度を変化させて研磨加工を行い、厚さが17.0mm、表面全体の平坦度が9μm、裏面全体の平坦度が12μm、基板全体の平行度が10μmの中間品基板を得た。
【0027】
次に、中間品基板の基板面の表面及び裏面の各辺から10mm以内の領域を除いた有効領域について、長さ1780mmの長辺側の2辺(一方の対向する2辺に相当)と、1580mmの短辺側の2辺(他方の対向する2辺に相当)に平行な2直線とで区切られた、長辺側の2辺に沿った長さが280mmの評価領域を、各々の評価領域の短辺側の2辺に平行な中心線が、長辺側の2辺に沿って順に10mm間隔で配列する合計151/片面の評価領域を設定した。この場合、各々の評価領域において、評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積は、各々の評価領域の96%である。
【0028】
次に、各々の評価領域内の平坦度を測定し、更に、各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で、両評価領域内の各々の平坦度の差(以下、単に、「平坦度の差」という。)を算出した。そして、各々の評価領域内の平坦度が3μm以下、平坦度の差が0.5μm以下の大型合成石英ガラス基板を得るために、結果を評価したところ、評価領域内の平坦度が3μmを超えている評価領域は15領域であり、平坦度の差が0.5μmを超えている評価領域は7領域であった。
【0029】
次に、各々の評価領域内の平坦度を3μm以下にするために必要な研磨量を算出した。まず、各々の評価領域内の平坦度の測定結果を基に、評価領域毎に、その評価領域内で最も凹んだ位置(最低点)を基準にして、この基準の高さより2.5μm以上高い部分を研磨部分として必要な研磨量を決定した。そして、得られた各々の評価領域毎の研磨量を集計することにより、基板全体の研磨量を決定した。この際、評価領域が重なり合う部分については、その重なり部分を含む各々の評価領域の研磨量の平均値を、それらが重なり合う部分における研磨量とした。
【0030】
次に、平坦度の差を0.5μm以下にするために必要な追加の研磨量を算出した。まず、平坦度の差の算出結果を基に、平坦度の差が0.5μmを超える評価領域間で、それらの評価領域内で最も凹んだ位置(最低点)を基準にして、この基準の高さより0.4μm以上高い部分を研磨部分として必要な研磨量を決定した。そして、得られた各々の評価領域毎の研磨量を集計することにより、基板全体の追加の研磨量を決定した。
【0031】
次に、各々の評価領域内の平坦度から決定された研磨量、及び平坦度の差から決定された追加の研磨量に基づき、円盤状の研磨プレートを有する加工ツールが移動することにより局所的な研磨を行う加工装置を用いて、中間品基板の基板面の表面及び裏面を局所研磨した。なお、平坦度の差から決定された追加の研磨量が適用される評価領域においては、比較的狭い範囲での凹凸の勾配が大きいので、研磨量及び範囲をより精密に制御すべく、直径200mmの研磨プレートを用いて研磨し、それ以外の評価領域においては、直径400mmの研磨プレートを用いて研磨した。
【0032】
その結果、表面全体の平坦度が8μm、裏面全体の平坦度が10μm、基板全体の平行度が9μm、評価領域内の平坦度が最大2.3μm、平坦度の差が最大0.4μmの大型合成石英ガラス基板が得られた。
【0033】
[実施例2]
ラップ加工により両面を粗研磨した後に精密研磨を行い、基板面のサイズが800mm×900mm、厚さ13.2mm、表面全体の平坦度が15μm、裏面全体の平坦度が17μm、基板全体の平行度が12μmの大型合成石英ガラス基板を原料基板として用意した。
【0034】
原料基板の平坦度及び平行度の測定結果から、まず基板表面及び裏面全体の平坦度を10μm以内、平行度を10μm以内とするための研磨量を決定した。その後、基板面を水平に保持した原料基板上を加工ツールが移動することにより局所的な研磨を行う加工装置にて、決定した研磨量に応じて基板上のツールの移動速度を変化させて研磨加工を行い、厚さが13.0mm、表面全体の平坦度が9μm、裏面全体の平坦度が10μm、基板全体の平行度が9μmの中間品基板を得た。
【0035】
次に、中間品基板の基板面の表面及び裏面の各辺から10mm以内の領域を除いた有効領域について、長さ880mmの長辺側の2辺(一方の対向する2辺に相当)と、780mmの短辺側の2辺(他方の対向する2辺に相当)に平行な2直線とで区切られた、長辺側の2辺に沿った長さが280mmの評価領域を、各々の評価領域の短辺側の2辺に平行な中心線が、長辺側の2辺に沿って順に50mm間隔で配列する合計13/片面の評価領域を設定した。この場合、各々の評価領域において、評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で両者が重なる面積は、各々の評価領域の82%である。
【0036】
次に、各々の評価領域内の平坦度を測定し、更に、各々の評価領域において、その評価領域と重なる他の評価領域のうち最も近いものとの間で、両評価領域内の各々の平坦度の差を算出した。そして、各々の評価領域内の平坦度が3μm以下、平坦度の差が0.5μm以下の大型合成石英ガラス基板を得るために、結果を評価したところ、評価領域内の平坦度が3μmを超えている評価領域は2領域であり、平坦度の差が0.5μmを超えている評価領域は存在しなかった。
【0037】
次に、各々の評価領域内の平坦度を3μm以下にするために必要な研磨量を算出した。まず、各々の評価領域内の平坦度の測定結果を基に、評価領域毎に、その評価領域内で最も凹んだ位置(最低点)を基準にして、この基準の高さより2.5μm以上高い部分を研磨部分として必要な研磨量を決定した。そして、得られた各々の評価領域毎の研磨量を集計することにより、基板全体の研磨量を決定した。この際、評価領域が重なり合う部分については、その重なり部分を含む各々の評価領域の研磨量の平均値を、それらが重なり合う部分における研磨量とした。
【0038】
次に、各々の評価領域内の平坦度から決定された研磨量に基づき、直径300mmの円盤状の研磨プレートを有する加工ツールが移動することにより局所的な研磨を行う加工装置を用いて、中間品基板の基板面の表面及び裏面を局所研磨した。
【0039】
その結果、表面全体の平坦度が7μm、裏面全体の平坦度が8μm、基板全体の平行度が9μm、評価領域内の平坦度が最大2.8μm、平坦度の差が最大0.4μmの大型合成石英ガラス基板が得られた。
【符号の説明】
【0040】
1、2、3、n 評価領域
E 有効範囲
S 基板面
図1