(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
含フッ素共重合体(a)を含有する組成物からなる含フッ素樹脂層を備えるフィルム(A)を熱処理して、プリント基板用材料を得るプリント基板用材料の製造方法であって、
前記フィルム(A)は、前記含フッ素樹脂層からなるフィルム(A1)、または、耐熱性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に前記含フッ素樹脂層が直接積層した接着フィルム(A2)であり、
前記含フッ素共重合体(a)は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が280〜320℃であり、かつ372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が2g/10分以上であり、
前記フィルム(A)の熱処理は、下記MFR(I)に対する下記MFR(II)の比[MFR(II)/MFR(I)]が0.05〜0.5となるように、かつ、下記MFR(II)が10g/10分以下を満たすように、250℃以上、かつ、前記含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度で行われることを特徴とするプリント基板用材料の製造方法。
MFR(I):熱処理前の含フッ素樹脂層の372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度。
MFR(II):熱処理後の含フッ素樹脂層の372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度。
前記含フッ素共重合体(a)が、前記官能基として少なくともカルボニル基含有基を有し、前記カルボニル基含有基が、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、および酸無水物残基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のプリント基板用材料の製造方法。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法でプリント基板用材料を製造したあと、前記プリント基板用材料の前記含フッ素樹脂層に金属層を直接積層する、金属積板の製造方法。
耐熱性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、含フッ素共重合体(a)を含有する組成物からなる含フッ素樹脂層が直接積層した接着フィルム(A2)と、前記含フッ素樹脂層の少なくとも1層に直接積層した金属層とを有する金属積層板前駆体を熱処理して、金属積層板を得る、金属積層板の製造方法であって、
前記含フッ素共重合体(a)は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が280〜320℃であり、かつ372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が2g/10分以上であり、
前記熱処理は、下記MFR(V)に対する下記MFR(VI)の比[MFR(VI)/MFR(V)]が0.05〜0.5となるように、かつ、下記MFR(VI)が10g/10分以下を満たすように、250℃以上、かつ、前記含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度で行われることを特徴とする金属積層板の製造方法。
MFR(V):熱処理前の含フッ素樹脂層の372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度。
MFR(VI):熱処理後の含フッ素樹脂層の372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度。
前記含フッ素共重合体(a)が、前記官能基として少なくともカルボニル基含有基を有し、前記カルボニル基含有基が、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、および酸無水物残基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の金属積層板の製造方法。
耐熱性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、含フッ素樹脂層が直接積層した接着フィルムと、前記含フッ素樹脂層の少なくとも1層に直接積層した金属層とを有する金属積層板であって、
前記含フッ素樹脂層は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する含フッ素共重合体を含有する組成物からなり、372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が10g/10分以下であり、
前記接着フィルムの150〜200℃における線膨張係数が0〜25ppm/℃の範囲である、金属積層板。
請求項6、または7〜10のいずれか一項に記載の製造方法で金属積層板を製造したあと、前記金属層をエッチングしてパターン回路を形成する、プリント基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「溶融流れ速度(Melt Flow Rate、以下、MFRともいう)」は、372℃、49Nの荷重下で測定された値である。
「直接積層」とは、他の層を介さずに、2つの層が直接接して積層していることを意味する。
「構成単位」とは、モノマーが重合することによって形成された該モノマーに由来する単位を意味する。構成単位は、重合反応によって直接形成された単位であっても、重合体を処理することによって該単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。
「含フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有するモノマーを意味し、「非含フッ素モノマー」とは、分子内にフッ素原子を有しないモノマーを意味する。
「主鎖」とは、鎖式化合物の主要な炭素鎖であり、炭素数が最大となる幹にあたる部分を指す。
「カルボニル基含有基」とは、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を含む基をいう。
【0012】
〔第1の態様〕
本発明の第1の態様は、特定の含フッ素共重合体(a)を含有する組成物からなる含フッ素樹脂層を備えるフィルム(A)を熱処理して、プリント基板用材料を得る、プリント基板用材料の製造方法である。
フィルム(A)は、含フッ素樹脂層からなるフィルム(A1)、または、耐熱性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に含フッ素樹脂層が直接積層した接着フィルム(A2)である。
第1の態様では、熱処理前の含フッ素樹脂層の溶融流れ速度をMFR(I)とし、熱処理後の含フッ素樹脂層の溶融流れ速度をMFR(II)としたとき、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度で、MFR(I)に対するMFR(II)の比[MFR(II)/MFR(I)]が0.05〜0.5となるように、かつ、MFR(II)が15g/10分以下を満たすように、熱処理を行う。
第1の態様の製造方法は、上記の熱処理をする工程(以下、工程(I)ともいう。)によりプリント基板用材料を製造したあとに、プリント基板用材料の含フッ素樹脂層に金属層を直接積層して、金属積層板を製造する工程(以下、工程(II)ともいう。)、金属層をエッチングしてパターン回路を形成してプリント基板を製造する工程(以下、工程(III)ともいう。)、形成されたパターン回路上に、はんだごてを使用してはんだ付けする工程(以下、工程(IV)ともいう。)を有していてもよい。
【0013】
(フィルム(A))
フィルム(A)は、含フッ素樹脂層からなる単層のフィルム(A1)、または、耐熱性樹脂フィルムの少なくとも一方の面に含フッ素樹脂層が直接積層した多層の接着フィルム(A2)である。
【0014】
<含フッ素樹脂層>
含フッ素樹脂層は、含フッ素共重合体(a)を含む組成物を成形した層である。
含フッ素樹脂層の成形に用いる含フッ素共重合体(a)は、MFRが2g/10分以上である。MFRが2g/10分以上であれば、該含フッ素共重合体(a)は溶融流動性を示し、溶融成形可能である。
含フッ素共重合体(a)のMFRは、2〜1000g/10分が好ましく、2〜100g/10分がより好ましく、2〜30g/10分がさらに好ましく、5〜20g/10分が最も好ましい。MFRが上記範囲の下限値以上であると、含フッ素共重合体(a)は成形加工性に優れ、含フッ素樹脂層は表面平滑性、外観に優れる。MFRが上記範囲の上限値以下であると、含フッ素樹脂層は機械強度に優れる。
また、含フッ素共重合体(a)は、MFRが、2〜15g/10分であると、はんだごてに対する耐熱性が向上する傾向がある。
【0015】
MFRは、含フッ素共重合体(a)の分子量の目安であり、MFRが大きいと分子量が小さく、MFRが小さいと分子量が大きいことを示す。含フッ素共重合体(a)の分子量、ひいてはMFRは、含フッ素共重合体(a)の製造条件によって調整できる。たとえばモノマーの重合時に重合時間を短縮すると、MFRが大きくなる傾向がある。一方、MFRを小さくするためには、含フッ素共重合体(a)を熱処理して架橋構造を形成し、分子量を上げる方法;含フッ素共重合体(a)を製造する際のラジカル重合開始剤の使用量を減らす方法;等が挙げられる。
【0016】
含フッ素樹脂層の成形に用いる含フッ素共重合体(a)の融点は、280℃〜320℃であり、295℃〜315℃が好ましく、295℃〜310℃が特に好ましい。
含フッ素共重合体(a)の融点が上記範囲の下限値以上であると、耐熱性に優れ、後述のプリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、熱による含フッ素樹脂層の膨れ(発泡)を抑制できる傾向にある。
含フッ素共重合体(a)の融点は、当該含フッ素共重合体(a)を構成する構成単位の種類や含有割合、分子量等によって調整できる。たとえば、後述する構成単位(m1)の割合が多くなるほど、融点が上がる傾向がある。
【0017】
含フッ素共重合体(a)は、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基(以下、官能基(i)ともいう。)を有する。官能基(i)を有することにより、含フッ素共重合体(a)を含有する含フッ素樹脂層は、後述の耐熱性樹脂フィルムおよび金属層に対して良好に密着し、接着層として作用する。
官能基(i)は、含フッ素共重合体(a)の主鎖末端および側鎖の少なくとも一方に位置することが好ましい。含フッ素共重合体(a)が有する官能基(i)は1種でも2種以上でもよい。
【0018】
含フッ素共重合体(a)は、官能基(i)として少なくともカルボニル基含有基を有することが好ましい。
カルボニル基含有基は、構造中にカルボニル基(−C(=O)−)を含む基であり、たとえば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシル基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基、等が挙げられる。
前記炭化水素基としては、たとえば炭素数2〜8のアルキレン基等が挙げられる。なお、該アルキレン基の炭素数は、カルボニル基を含まない状態での炭素数である。アルキレン基は直鎖状でも分岐状でもよい。
ハロホルミル基は、−C(=O)−X(ただしXはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。すなわち、ハロホルミル基としてはフルオロホルミル基(カルボニルフルオリド基ともいう。)が好ましい。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、直鎖状でも分岐状でもよく、炭素数1〜8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基またはエトキシ基が特に好ましい。
【0019】
含フッ素共重合体(a)中の官能基(i)の含有量は、含フッ素共重合体(a)の主鎖炭素数1×10
6個に対し10〜60000個が好ましく、100〜50000個がより好ましく、100〜10000個がさらに好ましく、300〜5000個が特に好ましい。官能基(i)の含有量が上記範囲の下限値以上であると、含フッ素共重合体(a)を含む含フッ素樹脂層と、耐熱性樹脂フィルムおよび金属層との間の密着性がより優れたものとなり、上記範囲の上限値以下であると、低い加工温度で耐熱性樹脂フィルムに対する高度の密着性が得られる。
前記官能基(i)の含有量は、核磁気共鳴(NMR)分析、赤外吸収スペクトル分析等の方法により、測定できる。たとえば、特開2007−314720号公報に記載のように赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、含フッ素共重合体(a)を構成する全構成単位中の官能基(i)を有する構成単位の割合(モル%)を求め、該割合から、官能基(i)の含有量を算出することができる。
【0020】
含フッ素共重合体(a)としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」ともいう。)に基づく構成単位(m1)と、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーに基づく構成単位(m2)と、含フッ素モノマー(ただし、TFEを除く。)に基づく構成単位(m3)とを含有する共重合体が好ましい。
ここで、構成単位(m2)の有する酸無水物残基が官能基(i)に相当する。
含フッ素共重合体(a)は、主鎖末端基として官能基(i)を有していてもよい。主鎖末端基としての官能基(i)は、アルコキシカルボニル基、カーボネート基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、フルオロホルミル基、酸無水物残基等が好ましい。これらの官能基は、含フッ素共重合体(a)の製造時に用いられる、ラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等を適宜選定することにより導入できる。
【0021】
構成単位(m2)を形成する、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーとしては、無水イタコン酸(以下、「IAH」ともいう。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」ともいう。)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」ともいう。)、無水マレイン酸等が挙げられる。これらは、1種、又は2種以上用いてもよい。
上記のなかでも、IAH、CAH、およびNAHからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。この場合には、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11−193312号公報参照。)を用いることなく、酸無水物残基を含有する含フッ素共重合体(a)を容易に製造できる。
IAH、CAH、NAHのなかでは、耐熱性樹脂フィルムとの間の密着性がより優れる点から、NAHが好ましい。
【0022】
構成単位(m3)を形成する含フッ素モノマーとしては、重合性二重結合を1つ有する含フッ素化合物が好ましい。く、たとえばフッ化ビニル、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」ともいう。)、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」ともいう。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」ともいう。)等のフルオロオレフィン(ただし、TFEを除く。)、CF
2=CFOR
f1(ただしR
f1は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基。)、CF
2=CFOR
f2SO
2X
1(ただしR
f2は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、X
1はハロゲン原子又は水酸基。)、CF
2=CFOR
f3CO
2X
2(ただしR
f3は炭素数1〜10で炭素原子間に酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基、X
2は水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基。)、CF
2=CF(CF
2)
pOCF=CF
2(ただしpは1又は2。)、CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4(ただしX
3は水素原子又はフッ素原子、qは2から10の整数、X
4は水素原子又はフッ素原子。)、及びペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1、3−ジオキソラン)等が挙げられる。
【0023】
これら含フッ素モノマーのなかでも、VdF、CTFE、HFP、CF
2=CFOR
f1、及びCH
2=CX
3(CF
2)
qX
4からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、CF
2=CFOR
f1、又はHFPがより好ましい。
CF
2=CFOR
f1としては、CF
2=CFOCF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
3、CF
2=CFO(CF
2)
8F等が挙げられ、CF
2=CFOCF
2CF
2CF
3(以下、「PPVE」ともいう。)が好ましい。
CH
2=CX
3(CF
2)
qX
4としては、CH
2=CH(CF
2)
2F、CH
2=CH(CF
2)
3F、CH
2=CH(CF
2)
4F、CH
2=CF(CF
2)
3H、CH
2=CF(CF
2)
4H等が挙げられ、CH
2=CH(CF
2)
4F、又はCH
2=CH(CF
2)
2Fが好ましい。
【0024】
含フッ素共重合体(a)は、構成単位(m1)と構成単位(m2)と構成単位(m3)との合計モル量に対して、構成単位(m1)が50〜99.89モル%で、構成単位(m2)が0.01〜5モル%で、構成単位(m3)が0.1〜49.99モル%であることが好ましく、構成単位(m1)が50〜99.4モル%で、構成単位(m2)が0.1〜3モル%で、構成単位(m3)が0.5〜49.9モル%であることがより好ましく、構成単位(m1)が50〜98.9モル%で、構成単位(m2)が0.1〜2モル%で、構成単位(m3)が1〜49.9モル%であることが特に好ましい。
各構成単位の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(a)が耐熱性、耐薬品性に優れ、含フッ素樹脂層が高温での弾性率に優れる。
特に、構成単位(m2)の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(a)の有する酸無水物残基の量が適切な量となり、含フッ素樹脂層は、耐熱性樹脂フィルムおよび金属層との密着性に優れる。また、高温領域での線膨張係数が低減される後述の効果が充分に得られる。
構成単位(m3)の含有量が上記範囲内であると、含フッ素共重合体(a)は成形性に優れ、含フッ素樹脂層が耐屈曲性等の機械物性により優れる。各構成単位の含有量は、含フッ素共重合体(a)の溶融NMR分析、フッ素含有量分析及び赤外吸収スペクトル分析等により算出できる。
【0025】
なお、含フッ素共重合体(a)が構成単位(m1)と構成単位(m2)と構成単位(m3)とからなる場合、構成単位(m2)の含有量が、構成単位(m1)と構成単位(m2)と構成単位(m3)との合計モル量に対して0.01モル%とは、該含フッ素共重合体(a)中の酸無水物残基の含有量が含フッ素共重合体(a)の主鎖炭素数1×10
6個に対して100個であることに相当する。構成単位(m2)の含有量が、構成単位(m1)と構成単位(m2)と構成単位(m3)との合計モル量に対して5モル%とは、該含フッ素共重合体(a)中の酸無水物残基の含有量が含フッ素共重合体(a)の主鎖炭素数1×10
6個に対して50000個であることに相当する。
構成単位(m2)を有する含フッ素共重合体(a)には、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーが一部加水分解し、その結果、酸無水物残基に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、マレイン酸等。)に基づく構成単位が含まれる場合がある。該ジカルボン酸に基づく構成単位が含まれる場合、該構成単位の含有量は、構成単位(m2)に含まれるものとする。
【0026】
含フッ素共重合体(a)は、上述の構成単位(m1)〜(m3)に加えて、非含フッ素モノマー(ただし、酸無水物残基と重合性不飽和結合とを有する環状炭化水素モノマーを除く。)に基づく構成単位(m4)を有していてもよい。
非含フッ素モノマーとしては、重合性二重結合を1つ有する非含フッ素化合物が好ましく、たとえばエチレン、プロピレン等の炭素数3以下のオレフィン、酢酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられる。これらは、1種、又は2種以上用いてもよい。上記のなかでも、エチレン、プロピレン、又は酢酸ビニルが好ましく、エチレンが特に好ましい。
含フッ素共重合体(a)が構成単位(m4)を有する場合、構成単位(m4)の含有量は、構成単位(m1)と構成単位(m2)と構成単位(m3)との合計モル量を100モルとした際に、5〜90モルが好ましく、5〜80モルがより好ましく、10〜65モルが最も好ましい。
【0027】
含フッ素共重合体(a)の全構成単位の合計モル量を100モル%とした際に、構成単位(m1)〜(m3)の合計モル量は60モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましく、68モル%以上が最も好ましい。好ましい上限値は、100モル%である。
【0028】
含フッ素共重合体(a)の好ましい具体例としては、TFE/PPVE/NAH共重合体、TFE/PPVE/IAH共重合体、TFE/PPVE/CAH共重合体、TFE/HFP/IAH共重合体、TFE/HFP/CAH共重合体、TFE/VdF/IAH共重合体、TFE/VdF/CAH共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/IAH/エチレン共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
4F/CAH/エチレン共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/IAH/エチレン共重合体、TFE/CH
2=CH(CF
2)
2F/CAH/エチレン共重合体、等が挙げられる。
【0029】
含フッ素共重合体(a)は、常法により製造できる。
官能基(i)を有する含フッ素共重合体(a)の製造方法としては、たとえば、(1)重合反応で含フッ素共重合体(a)を製造する際に、官能基(i)を有するモノマーを使用する方法、(2)官能基(i)を有するラジカル重合開始剤や連鎖移動剤を用いて、重合反応で含フッ素共重合体(a)を製造する方法、(3)官能基(i)を有しない含フッ素共重合体を加熱して、該含フッ素共重合体を部分的に熱分解することで、反応性官能基(たとえばカルボニル基。)を生成させ、官能基(i)を有する含フッ素共重合体(a)を得る方法、(4)官能基(i)を有しない含フッ素共重合体に、官能基(i)を有するモノマーをグラフト重合して、該含フッ素共重合体に官能基(i)を導入する方法、などが挙げられる。特に、含フッ素共重合体(a)の製造方法は(1)の方法が好ましい。
重合の条件等としては、たとえば特開2014−224249号公報の段落[0034]〜[0039]に記載したものが挙げられる。
【0030】
含フッ素樹脂層は、含フッ素共重合体(a)を含む組成物を成形したものである。該組成物に含まれる含フッ素共重合体(a)は1種でも2種以上でもよい。
含フッ素樹脂層中の含フッ素共重合体(a)の含有量(すなわち、含フッ素共重合体(a)を含む組成物中の含フッ素共重合体(a)の含有量。)は、含フッ素樹脂層と耐熱性樹脂フィルムおよび金属層との密着性の点で、含フッ素樹脂層の総質量に対し、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。該含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。
【0031】
含フッ素共重合体(a)を含む組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、含フッ素共重合体(a)以外の樹脂を含有してもよい。
含フッ素共重合体(a)以外の樹脂としては、電気的信頼性の特性を損なわない限り特に限定されるものではないが、たとえば含フッ素共重合体(a)以外の含フッ素共重合体、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。含フッ素共重合体(a)以外の含フッ素共重合体としては、たとえばテトラフルオロエチレン/フルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
含フッ素共重合体(a)以外の樹脂としては、電気的信頼性の観点から、含フッ素共重合体(ただし含フッ素共重合体(a)を除く。)が好ましい。この場合、該含フッ素共重合体の融点が280℃以上320℃以下であると、耐熱性に優れ、後述のプリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、熱による含フッ素樹脂層の膨れ(発泡)を抑制できる傾向にある。
含フッ素共重合体(a)を含む組成物は、含フッ素共重合体以外の樹脂を含有しないことが、含フッ素樹脂層の低誘電率、低誘電正接等の優れた電気特性を維持する点から好ましい。
【0032】
含フッ素共重合体(a)を含む組成物は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、誘電率や誘電正接が低い無機フィラーが好ましい。該無機フィラーとしては、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、ガラスバルーン、炭素バーン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。無機フィラーは1種、又は2種以上を併用してもよい。
無機フィラーは、多孔質でも非多孔質でもよい。誘電率や誘電正接がさらに低い点で、多孔質であることが好ましい。
無機フィラーは、含フッ素共重合体(a)への分散性の向上のために、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等の表面処理剤による表面処理が施されてもよい。
無機フィラーを含有する場合、無機フィラーの含有量は、含フッ素共重合体(a)100質量部に対して0.1〜100質量部が好ましく、0.1〜60質量部がより好ましい。
【0033】
含フッ素樹脂層の厚みは、接着フィルム(A2)においては、1〜200μmが好ましい。屈曲性を要求されるフレキシブルプリント基板に用いられる場合は、1〜50μmが好ましい。高温のはんだごて耐性の観点からは、1〜20μmが好ましく、3〜20μmがより好ましく、3〜15μmが特に好ましい。含フッ素樹脂層の厚みは、フィルム(A1)においては、3〜3000μmが好ましく、3〜500μmがより好ましく、5〜300μmが特に好ましい。
含フッ素樹脂層の厚みが上記範囲の上限値以下であると、後述のプリント基材材料、後述の金属積層板および後述のプリント基板の各厚みを薄くできる。上記範囲の上限値以下であると含フッ素樹脂層が耐熱性に優れ、後述のプリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、熱による含フッ素樹脂層の膨れ(発泡)等を抑制できる傾向にある。含フッ素樹脂層の厚みが上記範囲の下限値以上であると、電気絶縁性に優れる。
なお、耐熱性樹脂フィルムの両面に含フッ素樹脂層が設けられている場合、含フッ素樹脂層の厚みは、両面における合計の厚みではなく片面における厚みである。
本明細書において各種フィルム、層の厚みは、マイクロメーター等により測定される。
【0034】
含フッ素樹脂層は、耐熱性樹脂フィルムの片面のみに積層しても両面に積層してもよい。接着フィルムの反りを抑制する、電気的信頼性に優れる両面金属積層板を得る等の点では、耐熱性樹脂フィルムの両面に含フッ素樹脂層が積層していることが好ましい。
耐熱性樹脂フィルムの両面に含フッ素樹脂層が積層している場合、各含フッ素樹脂層の組成(含フッ素共重合体(a)の種類、任意成分の種類および含有量等。)や厚みは同じでも異なってもよい。接着フィルム(A2)の反りの抑制の点では、各含フッ素樹脂層の組成や厚みは同じであることが好ましい。
【0035】
<耐熱性樹脂フィルム>
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムでも多層フィルムでもよい。ただし、耐熱性樹脂フィルムは、含フッ素重合体を含まない。
本明細書において、耐熱性樹脂とは、融点が280℃以上の高分子化合物、またはJIS C 4003:2010(IEC 60085:2007)で規定される最高連続使用温度が121℃以上の高分子化合物を意味する。
耐熱性樹脂としては、たとえば、ポリイミド(芳香族ポリイミド等。)、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン(ポリエーテルスルホン等。)、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶ポリエステル等が挙げられる。
【0036】
耐熱性樹脂フィルムは、たとえば、耐熱性樹脂、または耐熱性樹脂を含む樹脂組成物を、公知の成形方法(キャスト法、押出成形法、インフレーション成形法等。)によって成形する方法等で製造できる。耐熱性樹脂フィルムは、市販品を用いてもよい。耐熱性樹脂フィルムの表面、たとえば含フッ素樹脂層と積層する面に表面処理が施されてもよい。表面処理方法としては特に限定されず、コロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法のなかから適宜選択できる。
【0037】
耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミドフィルムが好ましい。ポリイミドフィルムは、ポリイミドから構成されるフィルムである。ポリイミドフィルムは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤を含有してもよい。
【0038】
ポリイミドフィルムを構成するポリイミドは特に限定されない。熱可塑性を有さないポリイミドでも、熱可塑性ポリイミドでもよい。ポリイミドとしては、たとえば、芳香族ポリイミドが好ましい例として挙げられる。中でも、芳香族多価カルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。
【0039】
ポリイミドは、一般的に、多価カルボン酸二無水物(又はその誘導体)とジアミンとの反応(重縮合)によって、ポリアミック酸(ポリイミド前駆体)を経由して得られる。
ポリイミド、特に、芳香族ポリイミドは、その剛直な主鎖構造により溶媒等に対して不溶であり、また不融の性質を有する。そのため、先ず、多価カルボン酸二無水物とジアミンとの反応により、有機溶媒に可溶なポリイミド前駆体(ポリアミック酸、又はポリアミド酸)を合成し、このポリアミック酸の段階で様々な方法で成形加工が行われる。その後ポリアミック酸を加熱もしくは化学的な方法で脱水反応させて環化(イミド化)しポリイミドとされる。
【0040】
上記芳香族多価カルボン酸二無水物の具体例としては、たとえば、特開2012−145676号公報の段落[0055]に記載されたものが挙げられる。
芳香族ジアミンの具体例としては、たとえば、特開2012−145676号公報の段落[0057]に記載されたものが挙げられる。
【0041】
ポリイミドフィルムが含有してもよい添加剤としては、誘電率や誘電正接が低い無機フィラーが好ましい。該無機フィラーとしては、含フッ素共重合体(a)を含む組成物の説明で挙げたものと同様のものが挙げられる。無機フィラーは1種、又は2種以上を併用してもよい。
無機フィラーは、多孔質でも非多孔質でもよい。誘電率や誘電正接がさらに低い点で、多孔質であることが好ましい。
無機フィラーは、ポリイミドへの分散性の向上のために、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等の表面処理剤による表面処理が施されてもよい。
無機フィラーを含有する場合、ポリイミドフィルム中の無機フィラーの含有量は、ポリイミドに対して0.1〜100質量%が好ましく、0.1〜60質量%がより好ましい。
【0042】
耐熱性樹脂フィルムの厚みは、3〜2500μmが好ましく、屈曲性を要求されるフレキシブルプリント基板に用いられる場合には、3〜50μmが好ましく、5〜25μmがより好ましく、6〜25μmが特に好ましい。耐熱性樹脂フィルムの厚みが上記範囲の下限値以上であると、電気絶縁性に優れ、上記範囲の上限値以下であると、接着フィルム(A2)の全体の厚みを薄くすることができる。
【0043】
接着フィルム(A2)において、耐熱性樹脂フィルムの厚みは、含フッ素樹脂層の厚みよりも厚いことが好ましい。つまり、含フッ素樹脂層の厚みは、耐熱性樹脂フィルムの厚みよりも薄いことが好ましい。これにより、後述のプリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、熱による含フッ素樹脂層の膨れ(発泡)をより効果的に抑制できる。
耐熱性樹脂フィルムの厚みは、含フッ素樹脂層の厚みの1倍超が好ましく、1.25倍以上25倍以下がより好ましく、1.66倍以上8.3倍以下が特に好ましい。
【0044】
<フィルム(A1)の厚みおよび製造方法>
フィルム(A1)の厚みは、上述の含フッ素樹脂層の厚みであり、上記範囲が好ましい。フィルム(A1)は、常法により製造できる。たとえば含フッ素共重合体(a)をそのまま、または含フッ素共重合体(a)と必要に応じて使用される他の成分とを配合して混練して樹脂組成物とし、押出成形、インフレーション成形等の公知の成形法によりフィルム状に成形することにより含フッ素樹脂フィルムが得られる。
【0045】
<接着フィルム(A2)の厚みおよび製造方法>
接着フィルム(A2)の全体の厚みは、3000μm以下が好ましく、屈曲性を要求されるフレキシブルプリント基板に用いられる場合は100μm以下が好ましい。中でも高屈曲性が要求される用途においては、5〜50μmが好ましい。接着フィルム(A2)の全体の厚みが薄いほど、フレキシブル性が向上する。また、単位面積当たりの質量が軽くなる。
【0046】
接着フィルム(A2)は、耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に含フッ素樹脂層を積層することにより製造できる。含フッ素樹脂層は、官能基(i)に起因した接着性を有する。そのため、接着剤を使用せずに耐熱性樹脂フィルムに含フッ素樹脂層を直接積層できる。
【0047】
含フッ素樹脂層の積層方法は、耐熱性樹脂フィルムと含フッ素樹脂層とを直接積層できる方法であれば特に限定されないが、接着フィルム(A2)の電気特性や耐熱性向上等の観点から、熱ラミネート法、または押出しラミネート法が好ましい。
熱ラミネート法では、予め成形された含フッ素樹脂フィルムと耐熱性樹脂フィルムとを重ね、熱プレスすることでそれらのフィルムをラミネートする。
押出しラミネート法では、含フッ素共重合体(a)またはこれを含む組成物を溶融して、フィルム状に押し出したものを、耐熱性樹脂フィルムにラミネートする。
含フッ素樹脂フィルムの成形は、上述の常法により実施できる。
含フッ素樹脂フィルムの表面、たとえば耐熱性樹脂フィルムと積層する面に、表面処理が施されてもよい。表面処理方法としては特に限定されず、コロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の表面処理方法のなかから適宜選択できる。
【0048】
熱ラミネート法における熱プレス条件としては、温度は295〜420℃が好ましく、300〜400℃がより好ましい。圧力は0.3〜30MPaが好ましく、0.5〜20MPaがより好ましく、1〜10MPaが最も好ましい。時間は3〜240分間が好ましく、5〜120分間がより好ましく、10〜80分間が最も好ましい。熱プレスは、プレス板、ロール等を用いて行うことができる。プレス板としては、ステンレス鋼板が好ましい。
【0049】
(工程(I))
工程(I)は、フィルム(A)を熱処理し、プリント基板用材料を得る工程である。
工程(I)においては、熱処理前のフィルム(A)の有する含フッ素樹脂層のMFRをMFR(I)とし、熱処理後の含フッ素樹脂層のMFRをMFR(II)とした時に、MFR(I)に対するMFR(II)の比[MFR(II)/MFR(I)]が0.05〜0.5となるように、かつ、MFR(II)が15g/10分以下を満たすように、熱処理を行う。また、熱処理の温度は、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度とする。
このようにフィルム(A)を熱処理して得られたプリント基板用材料を備えるプリント基板は、高温でのはんだリフローの際や、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けた際に、変形しにくく、反りが改善される。この理由は、以下のように考えられる。すなわち、フィルム(A)を熱処理することにより、フィルム(A)が有する含フッ素樹脂層の剛性が向上すると考えられ、含フッ素樹脂層の線膨張係数が下がる。その結果、プリント基板において、含フッ素樹脂層と後述の金属層との線膨張係数の差が小さくなり、特に高温領域(150〜200℃)での反り等の変形が改善されると考えられる。また、上記熱処理により、フィルム(A)が有する含フッ素樹脂層の貯蔵弾性率も向上する傾向にあることが判明した。貯蔵弾性率は、剛性の指標であり、貯蔵弾性率が高い含フッ素樹脂層は反り等の変形が生じにくいと考えられる。
また、近年では、プリント基板には、150℃を超える環境で使用されることも想定されるようになってきている。たとえば、国際公開第2011/077917号には、車載用電子機器に用いられるフレキシブルプリント基板は、150℃程度の高温環境に繰り返し晒されることが記載されている。また、車載用電子機器以外のデバイス、たとえば、高速処理を行うことができるCPU(Central Processing Unit)を有するノートパソコンやスーパーコンピュータ等においても、さらなる小型化、軽量化を図るためフレキシブルプリント基板が用いられることが増えている。このようなデバイスにおいても、CPUが発する熱により、フレキシブルプリント基板は高温環境に繰り返し晒される。これに対して、上述のようにフィルム(A)を熱処理することにより、フィルム(A)が有する含フッ素樹脂層の線膨張係数を下げ、含フッ素樹脂層と後述の金属層との線膨張係数の差を小さくできる。よって、これらの用途にプリント基板を使用した場合であっても、含フッ素樹脂層と金属層との線膨張係数の差に起因したプリント基板の反り等の変形を抑制できる。
【0050】
工程(I)では、[MFR(II)/MFR(I)]が0.05〜0.4となるように熱処理することが好ましく、0.05〜0.35となるように熱処理することがより好ましく、0.1〜0.3となるように熱処理することが特に好ましい。[MFR(II)/MFR(I)]が上記範囲内であると、熱処理が適度であり、含フッ素樹脂層の線膨張係数を充分に下げることができる。また、含フッ素樹脂層の貯蔵弾性率もより高まる傾向にある。[MFR(II)/MFR(I)]が上記範囲の上限値を超えると、熱処理が不充分となり、上記範囲の下限値未満であると、熱劣化(含フッ素樹脂層の分解等。)が進行する。
【0051】
工程(I)では、MFR(II)が15g/10分以下を満たすように熱処理することが好ましく、10g/10分以下を満たすように熱処理することがより好ましく、5g/10分以下を満たすように熱処理することが特に好ましい。MFR(II)が上記上限値以下であると、含フッ素樹脂層の線膨張係数が充分に低減される。
また、工程(I)では、MFR(II)が0.5g/10分以上を満たすように熱処理することが好ましく、1g/10分以上を満たすよう、熱処理することがより好ましく、1.5g/10分以上を満たすように熱処理することが特に好ましい。MFR(II)が上記下限値以上であると、後述の工程(II)で含フッ素樹脂層に金属層を直接積層する際の加工性に優れる。
【0052】
フィルム(A)が上述のフィルム(A1)である場合、得られたプリント基板用材料(すなわち、熱処理後のフィルム(A1)。)の貯蔵弾性率は、650MPa以上が好ましく、800MPa以上がより好ましく、900MPa以上が特に好ましい。また、貯蔵弾性率は、5000MPa以下が好ましく、2000MPa以下がより好ましく、1500MPa以下が特に好ましい。貯蔵弾性率が上記下限値以上であると、プリント基板用材料の剛性がより優れ、線膨張係数がより低下する傾向にある。貯蔵弾性率が上記上限値以下であると、屈曲性が求められるフレキシブルプリント基板用途として有用である。
このようにして製造されたプリント基板用材料において、含フッ素樹脂層に含まれる官能基(i)は、工程(I)の熱処理を経ることにより減少はしているが、残存している。
すなわち、製造されたプリント基板用材料(含フッ素樹脂層)は、官能基(i)を有する含フッ素共重合体を含有する組成物からなり、372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が15g/10分以下である。また、製造されたプリント基板用材料における含フッ素樹脂層の貯蔵弾性率は、熱処理により通常650MPa以上とされ、800MPa以上が好ましく、900MPa以上がより好ましい。
【0053】
本明細書において、貯蔵弾性率は、動的粘弾性装置「DMS6100」(セイコーインスツル社製)を用い、引っ張りモードが、周波数1Hzの条件で、2℃/分で昇温し、23℃において測定した貯蔵弾性率の値である。
【0054】
フィルム(A)が上述の接着フィルム(A2)である場合、得られたプリント基板用材料(すなわち、熱処理後の接着フィルム(A2)。)の150〜200℃における線膨張係数は0〜25ppm/℃が好ましく、10〜23ppm/℃がより好ましい。このように高温領域での線膨張係数が上記上限値以下であると、上述の反り等の変形をより抑制できる。また、線膨張係数が上記下限値以上のプリント基板用材料であれば上記熱処理により得られやすい。
このようにして製造されたプリント基板用材料において、含フッ素樹脂層に含まれる官能基(i)は、工程(I)の熱処理を経ることにより減少はしているが、残存している。
すなわち、製造されたプリント基板用材料(耐熱性樹脂フィルムおよび含フッ素樹脂層の積層体。)の含フッ素樹脂層は、官能基(i)を有する含フッ素共重合体を含有する組成物からなり、372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が15g/10分以下である。また、製造されたプリント基板用材料の150〜200℃における線膨張係数は、熱処理により通常0〜25ppm/℃とされ、10〜23ppm/℃が好ましい。
【0055】
本明細書において、線膨張係数は、4mm×55mmの短冊状に裁断したサンプルをオーブンにて250℃で2時間乾燥させてサンプルの状態調整を行ってから、SII社製熱機械分析装置(TMA/SS6100)を用いて測定した値である。具体的には、空気雰囲気下、チャック間距離20mm、2.5gの負荷荷重をかけながら、30℃から250℃まで5℃/分の速度でサンプルを昇温し、サンプルの線膨張に伴う変位量を測定する。測定終了後、150〜200℃における線膨張係数を求める場合には、150〜200℃のサンプルの変位量から、150〜200℃での線膨張係数(ppm/℃)を求める。
【0056】
[MFR(II)/MFR(I)]およびMFR(II)は、工程(I)における熱処理温度を調整する方法、熱処理時間を調整する方法、これらを組み合わせる方法等により、制御できる。
熱処理温度は、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度であって、[MFR(II)/MFR(I)]およびMFR(II)が上記範囲内となる温度であればよく、260℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度であることが好ましい。熱処理温度が上記範囲の下限値以上であれば、熱処理が短時間で済み、プリント基板用材料の生産性に優れる。上記範囲の上限値以下であれば、プリント基板用材料の熱劣化(含フッ素樹脂層の分解等。)を抑制できる。
熱処理時間は、たとえば1〜360時間が好ましく、3〜336時間がより好ましく、6〜192時間が特に好ましい。
【0057】
熱処理設備としては特に限定されず、たとえば熱風循環式乾燥機、ウィケット乾燥機、トンネル型乾燥機、赤外線乾燥機など種々の乾燥機が挙げられる。
【0058】
(工程(II))
工程(II)は、工程(I)で得られたプリント基板用材料のフィルム(A1)または接着フィルム(A2)の具備する含フッ素樹脂層に、金属層を直接積層し、金属積層板を得る工程である。含フッ素樹脂層は、官能基(i)に起因した接着性を有する。そのため、接着剤を使用せずに含フッ素樹脂層に金属層を直接積層できる。
【0059】
プリント基板用材料が接着フィルム(A2)を用いて製造され、耐熱性樹脂フィルムの両面に含フッ素樹脂層が積層したものである場合、金属層は、一方の含フッ素樹脂層に積層しても両方の含フッ素樹脂層に積層してもよい。
【0060】
金属層としては、特に限定されず、用途に応じて適宜設定し得る。後述のプリント基板を、たとえば電子機器・電気機器用途に用いる場合、金属層としては、銅若しくは銅合金、ステンレス鋼若しくはその合金、ニッケル若しくはニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる金属箔を挙げることができる。かかる用途において一般的なプリント基板では、圧延銅箔、電解銅箔といった銅箔が金属層に多用されており、本発明においても好ましく用いることができる。
金属層の表面には、防錆層(たとえばクロメート等の酸化物皮膜)や耐熱層が形成されていてもよい。また、含フッ素樹脂層との密着性を向上させる為に、金属層の表面にカップリング剤処理等を施してもよい。
金属層の厚みは、特に限定されず、プリント基板の用途に応じて、充分な機能が発揮できる厚みであればよい。
【0061】
金属積層板は、含フッ素樹脂層に金属層を形成する金属箔を貼り合わせ、直接積層することにより製造できる。
含フッ素樹脂層と金属箔との貼り合わせは、公知の方法により行うことができる。たとえば、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理によって、含フッ素樹脂層と金属箔とを貼り合わせることができる。装置構成が単純であり保守コストの面で有利であるという点から、含フッ素樹脂層と金属箔との貼り合わせは、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置を用いた熱ラミネートにより行うことが好ましい。
「一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置」とは、材料を加熱加圧するための金属ロールを有している装置であればよく、その具体的な装置構成は特に限定されるものではない。
【0062】
上記熱ラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる金属積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することが好ましい。
保護材料としては、熱ラミネート工程の加熱温度に耐え得るものであれば特に限定されず、非熱可塑性ポリイミド等の耐熱性プラスチックフィルム、銅箔、アルミニウム箔、SUS箔等の金属箔等を好適に用いることができる。中でも、耐熱性、再利用性等のバランスが優れる点から、非熱可塑性ポリイミドフィルムがより好ましく用いられる。また、厚みが薄いとラミネート時の緩衝並びに保護の役目を充分に果たさないおそれがあるため、非熱可塑性ポリイミドフィルムの厚みは75μm以上が好ましい。また、この保護材料は必ずしも1層である必要はなく、異なる特性を有する2層以上の多層構造でもよい。
【0063】
上記熱ラミネート手段における被積層材料(すなわち、フィルム(A1)または接着フィルム(A2)と金属層を形成する金属箔。)の加熱方式は特に限定されるものではなく、たとえば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る公知の加熱手段を用いることができる。同様に、上記熱ラミネート手段における被積層材料の加圧方式も特に限定されるものではなく、たとえば、油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等、所定の圧力を加えることができる公知の加圧手段を用いることができる。
【0064】
上記熱ラミネート工程における加熱温度、すなわちラミネート温度は、含フッ素樹脂層のガラス転移温度(Tg)+50℃以上の温度であることが好ましく、含フッ素樹脂層のTg+100℃以上がより好ましい。Tg+50℃以上の温度であれば、含フッ素樹脂層と金属層とを良好に熱ラミネートすることができる。またTg+100℃以上であれば、ラミネート速度を上昇させてその生産性をより向上させることができる。
なお、含フッ素樹脂層のTgは、含フッ素樹脂層を構成する樹脂(すなわち、含フッ素共重合体(a)、または含フッ素共重合体(a)を含有する組成物。)のTgを示すものとする。
【0065】
また、ラミネート温度は、420℃以下であることが好ましく、400℃以下がより好ましい。接着フィルム(A2)において、耐熱性樹脂フィルムの片面または両面に設けられた含フッ素樹脂層は、金属層に対する接着性を有する。そのため、熱ラミネートを低温で行うことができる。よって、熱ラミネートを高温で行うことにより金属積層板に残留歪みが発生し、エッチングして配線を形成する際、および部品を実装するためにはんだリフローを行う際等に現れる寸法変化を抑制できる。
【0066】
上記熱ラミネート工程におけるラミネート速度は、0.5m/分以上が好ましく、1.0m/分以上がより好ましい。0.5m/分以上であれば十分な熱ラミネートが可能になり、1.0m/分以上であれば生産性をより一層向上することができる。
上記熱ラミネート工程における圧力、すなわちラミネート圧力は、高ければ高いほどラミネート温度を低く、かつラミネート速度を速くすることができる利点があるが、一般にラミネート圧力が高すぎると得られる金属積層板の寸法変化が悪化する傾向がある。また、逆にラミネート圧力が低すぎると得られる金属積層板の金属層の接着強度が低くなる。そのためラミネート圧力は、49〜490N/cm(5〜50kgf/cm)の範囲内であることが好ましく、98〜294N/cm(10〜30kgf/cm)の範囲内であることがより好ましい。この範囲内であれば、ラミネート温度、ラミネート速度およびラミネート圧力の三条件を良好なものにすることができ、生産性をより一層向上することができる。
上記ラミネート工程におけるフィルム(A)の張力は、0.01〜4N/cm、さらには0.02〜2.5N/cm、特には0.05〜1.5N/cmが好ましい。張力が上記範囲を下回ると、ラミネートの搬送時にたるみや蛇行が生じ、均一に加熱ロールに送り込まれないために外観の良好な金属積層板を得ることが困難となることがある。逆に、上記範囲を上回ると張力の影響が強くなり、寸法安定性が劣ることがある。
【0067】
工程(II)では、前述の一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置のように、連続的に被積層材料を加熱しながら圧着する熱ラミネート装置を用いることが好ましい。この熱ラミネート装置では、熱ラミネート手段(一対以上の金属ロール等)の前段に、被積層材料を繰り出す被積層材料繰出手段を設けてもよいし、熱ラミネート手段の後段に、被積層材料を巻き取る被積層材料巻取手段を設けてもよい。これらの手段を設けることで、上記熱ラミネート装置の生産性をより一層向上させることができる。上記被積層材料繰出手段および被積層材料巻取手段の具体的な構成は特に限定されるものではなく、たとえば、フィルム(A)や金属層、あるいは得られる金属積層板を巻き取ることのできる公知のロール状巻取機等を挙げることができる。
さらに、保護材料を巻き取ったり繰り出したりする保護材料巻取手段や保護材料繰出手段を設けると、より好ましい。これら保護材料巻取手段・保護材料繰出手段を備えていれば、熱ラミネート工程で、一度使用された保護材料を巻き取って繰り出し側に再度設置することで、保護材料を再使用することができる。また、保護材料を巻き取る際に、保護材料の両端部を揃えるために、端部位置検出手段および巻取位置修正手段を設けてもよい。これによって、精度よく保護材料の端部を揃えて巻き取ることができるので、再使用の効率を高めることができる。なお、これら保護材料巻取手段、保護材料繰出手段、端部位置検出手段および巻取位置修正手段の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の各種装置を用いることができる。
【0068】
(工程(III))
工程(III)は、工程(II)で得られた金属積層板の金属層をエッチングしてパターン回路を形成し、プリント基板を得る工程である。
エッチングは、たとえば塩化銅溶液、硝酸等の酸性溶液;アルカリ溶液等のエッチング液を用いた化学エッチング(湿式エッチング)等の常法で行うことができる。
得られたプリント基板は、可撓性のあるフィルム(A)を用いて製造されると、フレキシブルプリント基板として使用できる。
【0069】
(工程(IV))
工程(IV)は、工程(III)で得られたプリント基板のパターン回路上に、はんだごてを使用してはんだ付けする工程である。
工程(IV)は、はんだのみをパターン回路上にたとえば球状に載置する工程でも、はんだとともに電子部品等を実装する工程でもよい。
工程(III)で得られたプリント基板は、上述の工程(I)を経て製造されたものであり、該プリント基板の有する含フッ素樹脂層は、線膨張係数が小さい。そのため、工程(IV)において高温のはんだごてが押し付けられても、反りが生じにくい。
【0070】
〔第2の態様〕
本発明の第2の態様は、金属積層板前駆体を熱処理して金属積層板を得る、金属積層板の製造方法である。
金属積層板前駆体は、第1の態様で説明した接着フィルム(A2)と、接着フィルム(A2)の有する含フッ素樹脂層の少なくとも1層に金属層が直接積層したものである。
第2の態様では、熱処理の前の含フッ素樹脂層のMFRをMFR(V)とし、熱処理の後の含フッ素樹脂層のMFRをMFR(VI)としたとき、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度で、MFR(V)に対するMFR(VI)の比[MFR(VI)/MFR(V)]が0.05〜0.5となるように、かつ、MFR(VI)が15g/10分以下を満たすように、熱処理を行う。
第2の態様の製造方法は、金属積層板前駆体を熱処理する工程(以下、工程(V)ともいう。)により、金属積層板を製造したあとに、金属積層板の金属層をエッチングしてパターン回路を形成してプリント基板を製造する工程(以下、工程(VI)ともいう。)、形成されたパターン回路上に、はんだごてを使用してはんだ付けする工程(以下、工程(VII)ともいう。)を有していてもよい。
【0071】
(金属積層板前駆体)
金属積層板前駆体は、接着フィルム(A2)と、該接着フィルム(A2)の有する含フッ素樹脂層の少なくとも1層に金属層が直接積層した板である。
接着フィルム(A2)の構成、製造方法等は、第1の態様で説明したとおりである。
金属層の構成等は、第1の態様の工程(II)で説明したとおりである。
金属積層板前駆体の製造において、接着フィルム(A2)の有する含フッ素樹脂層の少なくとも1層に金属層を直接積層する具体的方法としては、第1の態様の工程(II)で説明したような、たとえば一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)を用いた公知の貼り合せ方法が挙げられる。また、接着フィルム(A2)が、その両面に含フッ素樹脂層を有する場合、金属層は、一方の含フッ素樹脂層に積層しても両方の含フッ素樹脂層に積層してもよい。
【0072】
(工程(V))
工程(V)は、金属積層板前駆体を熱処理し、金属積層板を得る工程である。
工程(V)においては、熱処理を行う前の金属積層板前駆体の有する含フッ素樹脂層のMFRをMFR(V)とし、熱処理を行った後の含フッ素樹脂層のMFRをMFR(VI)とした時に、MFR(V)に対するMFR(VI)の比[MFR(VI)/MFR(V)]が0.05〜0.5となるように、かつ、MFR(VI)が15g/10分以下を満たすように、熱処理を行う。また、熱処理の温度は、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度とする。
このように金属積層板前駆体を熱処理して得られた金属積層板を備えるプリント基板は、高温でのはんだリフローの際や、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けた際に、変形しにくく、反りが改善される。この理由は、以下のように考えられる。すなわち、金属積層板前駆体を熱処理することにより、金属積層板前駆体を構成する接着フィルム(A2)の含フッ素樹脂層の剛性が向上すると考えられ、含フッ素樹脂層の線膨張係数が下がる。その結果、プリント基板において、含フッ素樹脂層と金属層との線膨張係数の差が小さくなり、特に高温領域(150〜200℃)での反り等の変形が改善されると考えられる。また、上記熱処理により、接着フィルム(A2)が有する含フッ素樹脂層の貯蔵弾性率も向上する傾向にあることが判明した。貯蔵弾性率は上述のとおり剛性の指標であり、貯蔵弾性率が高い含フッ素樹脂層は反り等の変形が生じにくいと考えられる。
また、上述のとおり、近年では、プリント基板には、150℃を超える環境で使用されることも想定されるようになってきている。金属積層板前駆体を上述のように熱処理することにより、金属積層板前駆体を構成する接着フィルム(A2)の含フッ素樹脂層の線膨張係数を下げ、含フッ素樹脂層と金属層との線膨張係数の差を小さくできる。よって、これらの用途にプリント基板を使用した場合であっても、上述のように含フッ素樹脂層と金属層との線膨張係数の差に起因したプリント基板の反り等の変形を抑制できる。
【0073】
工程(V)では、[MFR(VI)/MFR(V)]が0.05〜0.4となるように熱処理することが好ましく、0.05〜0.35となるように熱処理することがより好ましく、0.1〜0.3となるように熱処理することが特に好ましい。[MFR(VI)/MFR(V)]が上記範囲内であると、熱処理が適度であり、含フッ素樹脂層の線膨張係数を充分に下げることができる。また、含フッ素樹脂層の貯蔵弾性率もより高まる傾向にある。[MFR(VI)/MFR(V)]が上記範囲の上限値を超えると、熱処理が不充分となり、上記範囲の下限値未満であると、熱劣化(含フッ素樹脂層の分解等。)が進行する。
【0074】
工程(V)では、MFR(VI)が15g/10分以下を満たすように熱処理することが好ましく、10g/10分以下を満たすように熱処理することがより好ましく、5g/10分以下を満たすように熱処理することが特に好ましい。MFR(VI)が上記上限値以下であると、含フッ素樹脂層の線膨張係数が充分に低減される。
また、工程(V)の熱処理により、MFR(VI)が0g/10分となってもよいが、多層基板を作製するために更に熱プレス等の溶融加工を行う点からは、0.5g/10分以上を満たすように、熱処理することが好ましく、MFR(VI)が1.0g/10分以上を満たすように、熱処理することがより好ましく、MFR(VI)が1.5g/10分以上を満たすように、熱処理することが特に好ましい。
【0075】
得られた金属積層板における接着フィルムの150〜200℃における線膨張係数は0〜25ppm/℃が好ましく、10〜23ppm/℃がより好ましい。このように高温領域での線膨張係数が上記上限値以下であると、上述の反りをより抑制できる。また、接着フィルムの線膨張係数が上記下限値以上の金属積層板であれば上記熱処理により得られやすい。
このようにして製造された金属積層板において、含フッ素樹脂層に含まれる官能基(i)は、工程(V)の熱処理を経ることにより減少はしているが、残存している。すなわち、製造された金属積層板(耐熱性樹脂フィルム、含フッ素樹脂層および金属層の積層体。)の含フッ素樹脂層は、官能基(i)を有する含フッ素共重合体を含有する組成物からなり、372℃、49Nの荷重下で測定された溶融流れ速度が15g/10分以下である。また、製造された金属積層体における接着フィルム(耐熱性樹脂フィルムおよび含フッ素樹脂層の積層体。)の150〜200℃における線膨張係数は、熱処理により通常0〜25ppm/℃とされ、10〜23ppm/℃であることが好ましい。
【0076】
[MFR(VI)/MFR(V)]およびMFR(VI)は、工程(V)における熱処理温度を調整する方法、熱処理時間を調整する方法、これらを組み合わせる方法等により、制御できる。
熱処理温度は、250℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度であって、[MFR(VI)/MFR(V)]およびMFR(VI)が上記範囲内となる温度であればよく、260℃以上、かつ、含フッ素共重合体(a)の融点よりも5℃以上低い温度であることが好ましい。熱処理温度が上記範囲の下限値以上であれば、熱処理が短時間で済み、金属積層板の生産性に優れる。上記範囲の上限値以下であれば、金属積層板の熱劣化(含フッ素樹脂層の分解等。)を抑制できる。
熱処理時間は、たとえば1〜360時間が好ましく、3〜336時間がより好ましく、6〜192時間が特に好ましい。
【0077】
熱処理設備としては特に限定されず、たとえば熱風循環式乾燥機、ウィケット乾燥機、トンネル型乾燥機、赤外線乾燥機など種々の乾燥機が挙げられる。
【0078】
(工程(VI)および工程(VII))
工程(VI)は、工程(V)で得られた金属積層板の金属層をエッチングしてパターン回路を形成し、プリント基板を得る工程である。
工程(VII)は、工程(VI)で得られたプリント基板のパターン回路上に、はんだごてを使用してはんだ付けする工程である。
工程(VI)は、第1の態様の工程(III)と同様にして行うことができ、工程(VII)は、第1の態様の工程(IV)と同様にして行うことができる。
このようにして得られたプリント基板は、可撓性のある接着フィルム(A2)を用いて製造されると、フレキシブルプリント基板として使用できる。
【0079】
〔作用効果〕
第1の態様および第2の態様において、上述の含フッ素樹脂層は、官能基(i)を有する含フッ素共重合体(a)を含有し、耐熱性樹脂フィルムや金属層に対して良好に密着する。そのため、含フッ素樹脂層が接着層として作用し、熱硬化性接着剤等の接着剤を使用せずに、耐熱性樹脂フィルムと金属層とを積層できる。
また、接着層として含フッ素樹脂層を用いているため、接着層に熱硬化性接着剤を用いた場合に比べて、耐熱性、屈曲性、電気的信頼性等に優れる。
また、含フッ素共重合体(a)は、熱可塑性ポリイミドに比べて誘電特性(誘電率、誘電正接等)が低く電気特性に優れる。そのため、含フッ素共重合体(a)を含有する含フッ素樹脂層が金属層と直接積層することにより、信号伝送速度が速く、伝送損失が低いプリント基板を得ることができる。
【0080】
また、第1の態様では、工程(I)における熱処理の対象をフィルム(A)とし、第2の態様では、工程(V)における熱処理の対象を金属積層板前駆体としており、熱処理対象のフィルム(A)および金属積層板前駆体は、いずれも含フッ素樹脂層を有する。含フッ素樹脂層は、官能基(i)を有する含フッ素共重合体(a)を含有するため、これらを熱処理することにより、含フッ素共重合体(a)の分子間および分子内で架橋構造が形成され、含フッ素共重合体(a)の主鎖の分解反応と該分解反応に起因する含フッ素樹脂層の脆化が抑制されると考えられる。そのため、第1の態様におけるプリント基板用材料の高温領域での線膨張係数、および第2の態様における金属積層板の有する接着フィルム(A2)の高温領域での線膨張係数が低減されると推察できる。架橋構造は、官能基(i)が熱により活性ラジカルを発生することで分子内および分子間で共有結合が生じ、その結果、形成されるものと推察できる。仮に、官能基(i)を有しない含フッ素共重合体を含有する層を熱処理した場合には、架橋構造が形成されにくい。そのため、主鎖の分解反応が架橋反応よりも優先的に進行する等し、上述の高温領域での線膨張係数は低減されにくいと考えられる。
【0081】
さらに、第1の態様では、金属層を積層する前のフィルム(A)に対して熱処理(工程(I))を行う。この場合、フィルム(A)として、耐熱性樹脂フィルムを備えた接着フィルム(A2)を用い、該耐熱性樹脂フィルムがその吸湿性により水分を多く含んでいたとしても、該熱処理(工程(I))時に水分がスムーズに耐熱性樹脂フィルムおよび含フッ素樹脂層から抜けやすい。そのため、プリント基板を高温ではんだリフローしたり、該プリント基板に高温のはんだごてを押し付けたりした際に、水分による発泡が生じにくいという効果が得られる。
一方、第2の態様では、接着フィルム(A2)に金属層が積層した、金属積層板前駆体に対して熱処理(工程(V))を行う。この場合、理由は明らかではないが、第1の態様のように金属層を積層する前のフィルム(A2)に対して熱処理を行う場合よりも、高温領域での線膨張係数を低減する効果が大きい。
【実施例】
【0082】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
なお、例1、3、5、6、7〜13は実施例であり、例2、4、14〜16は比較例である。
<評価方法>
以下の方法により、各種測定、試験および評価を行った。
(1)共重合組成
含フッ素共重合体(a)の共重合組成は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析および赤外吸収スペクトル分析により測定したデータから算出した。
(2)官能基(i)の含有量
以下のようにして、含フッ素共重合体(a)における、官能基(i)を有するNAHに基づく構成単位の割合を求めた。
含フッ素共重合体(a)をプレス成形して200μmのフィルムを得た。赤外吸収スペクトルにおいて、含フッ素共重合体中のNAHに基づく構成単位における吸収ピークは、いずれも1778cm
−1に現れる。該吸収ピークの吸光度を測定し、NAHのモル吸光係数20810mol
−1・l・cm
−1を用いて、NAHに基づく構成単位の割合(モル%)を求めた。
前記割合をa(モル%)とすると、主鎖炭素数1×10
6個に対する反応性官能基(酸無水物残基)の個数は、[a×10
6/100]個と算出される。
【0083】
(3)融点
示差走査熱量計(セイコー電子社製、DSC装置)を用い、含フッ素共重合体(a)を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度(℃)を融点とした。
(4)MFR
メルトインデクサー(テクノセブン社製)を用い、372℃、49N荷重下で直径2mm、長さ8mmのノズルから、10分間(単位時間)に流出する含フッ素共重合体(a)の質量(g)を測定した。
【0084】
(5)線膨張係数(ppm/℃)
4mm×55mmの短冊状に裁断したサンプルをオーブンにて250℃で2時間乾燥させてサンプルの状態調整を行ってから、熱機械分析装置(SII社製、TMA/SS6100)を用いて測定した。具体的には、大気中、チャック間距離20mm、2.5gの負荷荷重をかけながら、30℃から250℃まで5℃/分の速度でサンプルを昇温し、サンプルの線膨張に伴う変位量を測定した。測定終了後、50℃〜100℃間のサンプルの変位量から、50〜100℃での線膨張係数を求め、100℃〜150℃間のサンプルの変位量から、100〜150℃での線膨張係数を求め、150℃〜200℃間のサンプルの変位量から、150〜200℃での線膨張係数を求めた。
【0085】
(6)比誘電率
下記する例3および例4の各接着フィルムについて、23℃、50%RHにおいて、スプリットポスト誘電体共振器法(SPDR法)により周波数2.5GHz、10GHz、20GHzにおける各周波数の比誘電率を求めた。測定に使用した機器類は、QWED社製の公称基本周波数2.5GHzタイプスプリットポスト誘電体共振器、キーサイト社製ベクトルネットワークアナライザーE8361C及びキーサイト社製85071Eオプション300誘電率算出用ソフトウェアである。
【0086】
(7)貯蔵弾性率
動的粘弾性装置(セイコーインスツル社製、DMS6100)を用い、引っ張りモード、周波数1Hzの条件で、2℃/分で昇温し、23℃における貯蔵弾性率を測定した。
【0087】
〔製造例1〕
構成単位(m2)を形成するモノマーとしてNAH(無水ハイミックス酸、日立化成社製)を、構成単位(m3)を形成するモノマーとしてPPVE(CF
2=CFO(CF
2)
3F、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、旭硝子社製)を用いて、含フッ素共重合体(a−1)を以下のように製造した。
まず、369kgの1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(「AK225cb」、旭硝子社製、)と、30kgのPPVEとを、予め脱気された内容積430Lの撹拌機付き重合槽に仕込んだ。次いで、この重合槽内を加熟して50℃に昇温し、さらに50kgのTFEを仕込んだ後、該重合槽内の圧力を0.89MPa/Gまで昇圧した。
さらに、(ペルフルオロブチリル)ペルオキシドを0.36質量%の濃度でAK225cbに溶解した重合開始剤溶液を調製し、重合槽中に該重合開始剤溶液の3Lを1分間に6.25mLの速度にて連続的に添加しながら重合を行った。また、重合反応中における重合槽内の圧力が0.89MPa/Gを保持するようにTFEを連続的に仕込んだ。また、NAHを0.3質量%の濃度でAK225cbに溶解した溶液を、重合中に仕込むTFEのモル数に対して0.1モル%に相当する量ずつ連続的に仕込んだ。
重合開始8時間後、32kgのTFEを仕込んだ時点で、重合槽内の温度を室温まで降温するとともに、圧力を常圧までパージした。得られたスラリをAK225cbと固液分離した後、150℃で15時間乾燥することにより、33kgの含フッ素共重合体(a−1)の造粒物を得た。該含フッ素共重合体(a−1)の比重は2.15であった。
含フッ素共重合体(a−1)の共重合組成は、TFEに基づく構成単位/NAHに基づく構成単位/PPVEに基づく構成単位=97.9/0.1/2.0(モル%)であった。含フッ素共重合体(a−1)の融点は300℃であり、MFRは17.2g/10分であった。含フッ素共重合体(a−1)の官能基(i)(酸無水物基)の含有量は、含フッ素共重合体(a−1)の主鎖炭素数1×10
6個に対して1000個であった。
【0088】
〔製造例2〕
含フッ素共重合体(a−1)の造粒物を、750mm巾のコートハンガーダイを有する30mmφの単軸押出機を用いてダイ温度340℃で押出成形し、厚み12.5μmの含フッ素樹脂フィルム(以下、フィルム(1)という。)を得た。フィルム(1)についてMFR(MFR(I))を測定したところ、16.9g/10分であった。
【0089】
〔製造例3〕
引取速度を変更した以外は製造例2と同様の方法により、厚み50μmの含フッ素樹脂フィルム(以下、フィルム(A1−1)という。)を得た。フィルム(A1−1)についてMFR(MFR(I))を測定したところ16.9g/10分であった。
【0090】
〔製造例4〕
フィルム(1)と、厚み25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、製品名「カプトン100EN」)とを、フィルム(1)/ポリイミドフィルム/フィルム(1)の順序で積層し、温度360℃、圧力1.3MPaの条件で10分間プレスして、3層構成の接着フィルム(A2−1)を得た。
この接着フィルム(A2−1)から、一方のフィルム(1)を剥離し、該フィルム(1)のMFR(I)を測定したところ16.7g/10分であった。
【0091】
(例1)
製造例3で得られたフィルム(A1−1)を表1に示す条件(温度、時間)で熱処理した。熱処理後のフィルム(A1−1)のMFR(II)および線膨張係数の測定を行った。結果を表1に示す。
また、熱処理後のフィルム(A1−1)について、赤外吸収スペクトル分析をし、NAHに由来する酸無水物残基が残存していることを確認した。
【0092】
(例2)
製造例3で得られたフィルム(A1−1)を熱処理せず、線膨張係数の測定を行った。結果を表1に示す。なお、便宜上、表1のMFR(I)およびMFR(II)の欄に、熱処理を行っていないフィルム(A1−1)のMFRを記載している。
【0093】
(例3)
製造例4で得られた接着フィルム(A2−1)を表1に示す条件(温度、時間)で熱処理した。熱処理後の接着フィルム(A2−1)の線膨張係数および比誘電率の測定を行った。結果を表1に示す。
また、熱処理後の接着フィルム(A2−1)から、一方のフィルム(1)を剥離し、該フィルム(1)のMFR(II)を測定した。結果を表1に示す。また、剥離したフィルム(1)について、赤外吸収スペクトル分析をし、NAHに由来する酸無水物残基が残存していることを確認した。
【0094】
(例4)
製造例4で得られた接着フィルム(A2−1)を熱処理せず、線膨張係数および比誘電率の測定を行った。結果を表1に示す。なお、便宜上、表1のMFR(I)およびMFR(II)の欄に、熱処理を行っていない接着フィルム(A2−1)におけるフィルム(1)のMRFを記載している。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示すように、熱処理を行った例1によれば、熱処理を実施しなかった例2と比較して、各温度範囲での線膨張係数が低下した。また、同様に、特定の条件で熱処理を行った例3によれば、熱処理を実施しなかった例4と比較して、高温領域(150〜200℃)において、線膨張係数が低下した。また、比誘電率は、熱処理を実施しなかった例4と比較して、熱処理を実施した例3の方が、周波数20GHzにおいて低い値を示した。この結果から、熱処理により、フッ素樹脂の有する電気的特性(低誘電率)が高周波ではより改良されることが分かった。
【0097】
〔製造例5〕
フィルム(1)と、厚み25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、製品名「カプトン100EN」)と、厚み12μmの電解銅箔(福田金属箔粉社製、「CF−T4X−SVR−12」、表面粗さ(Rz)1.2μm)とを、電解銅箔/フィルム(1)/ポリイミドフィルム/フィルム(1)/電解銅箔の順序で積層し、温度360℃、圧力1.3MPaの条件で10分間プレスして、両面に金属層を有する金属積層板前駆体を得た。
この金属積層板前駆体から、両面の金属層をエッチングにより除去した後、一方のフィルム(1)を剥離し、該フィルム(1)のMFR(V)を測定したところ16.7g/10分であった。
【0098】
(例5、例6)
製造例5で得られた金属積層板前駆体を表2に示す各条件(温度、時間)で熱処理し、金属積層板を得た。
熱処理後の該金属積層板から、両面の金属層をエッチングにより除去して得られたフィルム(1)/ポリイミドフィルム/フィルム(1)の線膨張係数の測定を行った。結果を表2に示す。
また、熱処理後の該金属積層板から、両面の金属層をエッチングにより除去した後、一方のフィルム(1)を剥離し、剥離した該フィルム(1)のMFR(VI)を測定した。結果を表2に示す。
また、例5、例6において、フィルム(1)について、赤外吸収スペクトル分析をし、NAHに由来する酸無水物残基が残存していることを確認した。なお、比較のために、表2には上記例4も併記した。
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示すように、熱処理を行った例5、例6によれば、熱処理を実施しなかった例である例4と比較して、各温度範囲での線膨張係数が低下する傾向が認められた。また、特に、高温領域(150〜200℃)での線膨張係数の低下が大きかった。その結果として、例5、例6では、熱処理により各温度範囲間における線膨張係数の差異が小さくなり、線膨張係数の熱安定性が示された。
【0101】
(例7〜14)
製造例1で得られた含フッ素共重合体(a−1)の造粒物をプレス成形し、80mm×80mm×0.25mm±0.05のプレス成形品を得た。成形は、メルト熱プレス機「ホットプレス二連式」(テスター産業社製)を用い、350℃、10MPa、プレス時間5分の条件で行った。
得られた成形品から、長さ30mm、幅5mm、厚み0.25±0.05mmの板状のサンプル片を切り出し、表3に示す各例の条件(温度、時間)で、熱処理を実施した。熱処理後のサンプル片(プリント基板用材料に相当)について、MFR(II)および貯蔵弾性率を測定した。なお、例14は熱処理を実施せずに、貯蔵弾性率を測定した。結果を表3に示す。
【0102】
(例15、例16)
含フッ素共重合体(a−1)のかわりに、PFA−1(TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、融点305℃、MFR13.6g/10分、旭硝子社製、製品名「Fluon PFA 73PT」、カルボニル基を有しない。)を用い、例7〜14と同様にしてプレス成形品を得て、表3に示す条件(温度、時間)で、熱処理を実施した。熱処理後のサンプル片について、MFR(II)および貯蔵弾性率を測定した。なお、例15は熱処理を実施せずに、貯蔵弾性率を測定した。結果を表3に示す。
【0103】
【表3】
【0104】
表3に示すように、熱処理した例7〜13によれば、熱処理を実施しなかった例14と比較して、23℃での貯蔵弾性率が向上した。貯蔵弾性率は、上述のとおり剛性の指標であるため、特定の条件で熱処理することによって剛性が高まり、反り等の変形が生じにくくなることが示唆された。
なお、23℃での貯蔵弾性率の値が大きければ高温での貯蔵弾性率の値も大きくなり、23℃での貯蔵弾性率の値が小さければ高温での貯蔵弾性率の値も小さくなる。そのため、例7〜13によれば、高温での剛性も優れ、高温での線膨張係数が低下し、高温での反り等の変形も生じにくくなることが示唆された。
また、カルボニル基を有しないPFA−1を用い特定の条件で熱処理した例16は、熱処理をしない例15よりもむしろ貯蔵弾性率が低下しており、向上が認められなかった。これは、PFA−1はカルボニル基含有基を有さず、そのため、熱処理を行っても架橋構造が形成されないことに起因すると考えられる。