特許第6819612号(P6819612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6819612
(24)【登録日】2021年1月6日
(45)【発行日】2021年1月27日
(54)【発明の名称】塗装体および建築外装部材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20210114BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20210114BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20210114BHJP
   C09D 127/14 20060101ALI20210114BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20210114BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20210114BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20210114BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20210114BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
   B32B27/30 D
   B32B27/18 A
   C09D127/16
   C09D127/14
   C09D133/00
   C09D7/48
   C09D7/61
   C09D175/04
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-556447(P2017-556447)
(86)(22)【出願日】2016年12月15日
(86)【国際出願番号】JP2016087427
(87)【国際公開番号】WO2017104762
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2019年8月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-247664(P2015-247664)
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100121393
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊
(72)【発明者】
【氏名】江畑 志郎
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−218325(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/137286(WO,A1)
【文献】 特開平05−086320(JP,A)
【文献】 特開2015−000875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B05D 7/24
C09D 7/48
C09D 7/61
C09D 127/14
C09D 127/16
C09D 133/00
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と下塗り塗膜と下記中塗り塗膜と下記上塗り塗膜とをこの順に有する塗装体。
中塗り塗膜:顔料、ポリフッ化ビニリデンおよび(メタ)アクリル樹脂を含有し、前記ポリフッ化ビニリデンと前記(メタ)アクリル樹脂との質量比(前記ポリフッ化ビニリデンの質量/前記(メタ)アクリル樹脂の質量)が50/50〜90/10である中塗り塗料から形成された、塗膜。
上塗り塗膜:以下の(1)〜(3)を含む上塗り塗料を硬化してなる塗膜。
(1)水酸基またはカルボキシ基を有する含フッ素重合体
(2)前記含フッ素重合体を硬化させる硬化剤
(3)無機系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤
ただし、前記上塗り塗料が非フッ素系樹脂を含む場合、前記含フッ素重合体と前記非フッ素系樹脂の質量比(含フッ素重合体の質量/非フッ素系樹脂の質量)は86/14〜99/1である。
【請求項2】
前記上塗り塗膜の伸び率が50〜200%である、請求項1に記載の塗装体。
【請求項3】
前記上塗り塗膜の破断応力が5.0〜40.0MPaであり、前記上塗り塗膜のガラス転移温度が−15〜40℃である、請求項1または2に記載の塗装体。
【請求項4】
前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、水酸基またはカルボキシ基を有するモノマーに基づく単位と、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位とを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項5】
前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、水酸基を有するモノマーに基づく単位と、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位とを含み、水酸基価が20〜200mg/KOHである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項6】
前記鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位の含有量が、前記含フッ素重合体の全単位に対して、30モル%以上である、請求項4または5に記載の塗装体。
【請求項7】
前記硬化剤が、イソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を有する硬化剤である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項8】
前記顔料が酸化チタンを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項9】
前記下塗り塗膜が、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂を含む塗料から形成された塗膜である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項10】
前記基材が金属板である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の塗装体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の塗装体を含む、建築外装部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装体および建築外装部材に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂塗膜を有する塗装金属板(フッ素樹脂塗装金属板)は、耐候性に優れており、建築外装部材など、メンテナンスフリーの要求が高い分野で利用されている。
近年、メタリック塗装金属板等の高い意匠性が求められる用途において、各種の顔料を配合した塗膜を有するフッ素樹脂塗装金属板の需要が急速に拡大している。
特許文献1には、「1)鋼板(塗装原板)と、2)鋼板の表面に形成された下塗り塗膜(プライマー塗膜)と、3)下塗り塗膜の上に形成され、アルミニウム粒子および着色顔料を含有する中塗り塗膜(着色メタリック塗膜)と、4)中塗り塗膜の上に形成され、酸化チタン粒子を含有する上塗り塗膜(クリヤー塗膜)とを有する」塗装鋼板が開示されている。このように、特許文献1においては、中塗り塗膜の鮮やかな塗色を長期間維持するために上塗り塗膜が用いられており、特許文献1の実施例欄においてはポリフッ化ビニリデンおよびアクリル樹脂を含む上塗り塗膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−86505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年、フッ素樹脂塗装金属板はその用途の広がりから、種々の特性が要求されている。
例えば、フッ素樹脂塗装金属板には、従来よりも優れた耐候性が求められている。より具体的には、屋外等で長期間使用した際にも、塗膜が剥離しにくいことが求められている。
本発明者らは、特許文献1に記載のフッ素樹脂塗装金属板の耐候性について検討した結果、長期間暴露試験によって塗膜の剥離が生じやすいことが確認され、その耐候性は昨今求められるレベルに到達していないことを知見した。
また、フッ素樹脂塗装金属板には、耐プレッシャーマーク性に優れることも求められる。プレッシャーマークとは、フッ素樹脂塗装金属板をコイル巻き状態や積み重ねた状態で保管した際、塗膜面に強い圧力がかかり、塗膜の表面状態(例えば、光沢等)が変化する現象をいう。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、耐候性に優れ、かつ、耐プレッシャーマーク性に優れる塗装体の提供を目的とする。
また、本発明は、上記塗装体を含む建築外装部材の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来技術の問題点として、上塗り塗膜の耐候性が不十分であり、上塗り塗膜を透過した紫外線により中塗り塗膜が劣化している可能性があることに着目して、鋭意検討を行った。その結果、いわゆる3コートの塗装体であって、顔料、ポリフッ化ビニリデンおよびアクリル樹脂を含む中塗り塗膜上に、所定の上塗り塗料を硬化してなる上塗り塗膜を形成した塗装体が、この問題を解決できることを見出した。
つまり、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
[1]基材と下塗り塗膜と下記中塗り塗膜と下記上塗り塗膜とをこの順に有する塗装体。
中塗り塗膜:顔料、ポリフッ化ビニリデンおよび(メタ)アクリル樹脂を含有し、前記ポリフッ化ビニリデンと前記(メタ)アクリル樹脂との質量比(前記ポリフッ化ビニリデンの質量/前記(メタ)アクリル樹脂の質量)が50/50〜90/10である中塗り塗料から形成された、塗膜。
上塗り塗膜:以下の(1)〜(3)を含む上塗り塗料を硬化してなる塗膜。
(1)水酸基またはカルボキシ基を有する含フッ素重合体
(2)前記含フッ素重合体を硬化させる硬化剤
(3)無機系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤
【0008】
[2]前記上塗り塗膜の伸び率が50〜200%である、[1]の塗装体。
[3]前記上塗り塗膜の破断応力が5.0〜40.0MPaであり、前記上塗り塗膜のガラス転移温度が−15〜40℃である、[1]または[2]の塗装体。
[4]前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、水酸基またはカルボキシ基を有するモノマーに基づく単位と、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位とを含む、[1]〜[3]のいずれかの塗装体。
[5]前記含フッ素重合体が、フルオロオレフィンに基づく単位と、水酸基を有するモノマーに基づく単位と、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位とを含み、水酸基価が20〜200mg/KOHである、[1]〜[3]のいずれかの塗装体。
[6]前記鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位の含有量が、前記含フッ素重合体の全単位に対して、30モル%以上である、[4]または[5]の塗装体。
[7]前記硬化剤が、イソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を有する硬化剤である、[1]〜[6]のいずれかの塗装体。
[8]前記顔料が酸化チタンを含む、[1]〜[7]のいずれかの塗装体。
[9]前記下塗り塗膜が、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂を含む塗料から形成された塗膜である、[1]〜[8]のいずれかの塗装体。
[10]前記基材が金属板である、[1]〜[9]のいずれかの塗装体。
[11]前記[1]〜[10]のいずれかの塗装体を含む、建築外装部材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐候性に優れ、かつ、耐プレッシャーマーク性にも優れた塗装体を提供できる。
また、本発明によれば、上記塗装体を含む建築外装部材も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の塗装体および建築外装部材の好適態様について詳述する。
なお、本明細書においては、モノマーが重合することで直接形成される単位と、モノマーの重合によって形成される単位の一部を化学変換することで得られる単位とを総称して「単位」という。本発明において、重合体の各単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められるが、各モノマーの仕込量から推算することもできる。
また、(メタ)アクリル樹脂とはアクリル樹脂とメタクリル樹脂の総称であり、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の総称であり、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートの総称である。
【0011】
まず、本発明の従来技術を比較した特徴点について詳述する。
本発明の一つの特徴点は、塗装体の上塗り塗膜を所定の含フッ素重合体、硬化剤および紫外線吸収剤を含有する上塗り塗料を硬化してなる塗膜とした点が挙げられる。本発明者らは、本発明の効果が得られる理由を以下のように推測する。なお、この推測によって本発明の範囲は、限定的に解釈されない。
【0012】
本発明者らが、従来技術において塗膜の剥離が生じやすい原因について検討した結果によれば、主な原因として、上塗り塗膜に含まれるアクリル樹脂が塗装体外部から入射する紫外線によって分解劣化を起こすことが挙げられる。また、他の原因として、上塗り塗膜に含まれるポリフッ化ビニリデン自体の劣化も挙げられる。
そこで、本発明においては、水酸基またはカルボキシ基を有する硬化性の含フッ素重合体を用いて上塗り塗膜を形成して、上記のような問題が生じるのを抑制している。
なお、塗膜剥離の他の原因としては、中塗り塗膜と上塗り塗膜との間での界面劣化も挙げられる。そこで、本発明においては、上塗り塗膜に紫外線吸収剤を含有させ、上塗り塗膜に入射する紫外線を上塗り塗膜で吸収させて、中塗り塗膜まで紫外線が到達しにくくしている。その結果として、中塗り塗膜中の(メタ)アクリル樹脂の分解劣化を防ぎ、界面劣化を抑制している。
なお、従来技術の態様において、中塗り塗膜に含まれる顔料が酸化チタンを含む場合、紫外線が中塗り塗膜に到達すると、酸化チタンの光触媒効果による酸化反応で、中塗り塗膜と上塗り塗膜との間での界面劣化がより促進されてしまう。それに対して、本発明の塗装体においては、上述したように、中塗り塗膜に紫外線が到達しにくい為、中塗り塗膜に酸化チタンが含まれていても、中塗り塗膜の劣化、それに伴う中塗り塗膜と上塗り塗膜との間での界面剥離が起こりにくい。
また、上塗り塗膜を製造する際に、所定の硬化性の含フッ素重合体を用いるため、塗装体の耐プレッシャーマーク性に優れることを、本発明者らは知見している。特に、後段で詳述するように、上塗り塗膜の伸び率を所定の範囲にした場合には、耐プレッシャーマーク性がより優れることを知見している。
【0013】
以下では、まず、本発明の塗装体における各部材(基材、下塗り塗膜、中塗り塗膜、上塗り塗膜)について詳述し、その後、塗装体の製造方法について詳述する。
【0014】
本発明における基材は、特に限定されず、セメントコンクリート、自然石、ガラス、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等から構成される無機系基材、アクリル樹脂、ポリカーボネート、FRP、樹脂強化コンクリート等から構成される有機系基材を、用途や目的に応じて使用できる。
なかでも、家電製品、家具、建材および自動車部品などの外装部材用途において、基材は、鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等の金属板(金属基材)が好ましく、鋼板がより好ましい。
【0015】
鋼板の種類は、特に限定されず、亜鉛めっき鋼板(電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき)、合金化亜鉛めっき鋼板(溶融亜鉛めっき後に合金化処理した合金化溶融亜鉛めっき)、亜鉛合金めっき鋼板(溶融亜鉛−マグネシウムめっき、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき、溶融亜鉛−アルミニウムめっき)、溶融アルミニウムめっき鋼板、溶融亜鉛−ケイ素めっき鋼板、電気亜鉛−鉄めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケルめっき鋼板、電気亜鉛−クロムめっき鋼板、これらの組み合わせの多層めっき鋼板またはステンレス鋼板等を使用できる。
【0016】
金属板(例えば、鋼板)を基材とする場合、塗膜密着性や耐食性を向上させる観点から、その表面に化成処理皮膜が形成された鋼板を使用するのが好ましい。化成処理被膜は、塗布クロメート処理、電解クロメート処理、クロムフリー処理およびリン酸塩処理等の化成処理法によって形成できる。
【0017】
本発明における下塗り塗膜は、塗装体の塗膜密着性と耐食性に寄与する。
下塗り塗膜を構成する成分は、特に限定されず、有機樹脂が好ましい。下塗り塗膜は下塗り塗料から形成された塗膜であり、下塗り塗料は有機樹脂を含む塗料が好ましい。下塗り塗料に含まれる有機樹脂は硬化性樹脂であってもよく、その場合には下塗り塗膜は硬化性樹脂の硬化物からなる有機樹脂を含む。
下塗り塗料に含まれる有機樹脂は、基材(または、化成処理皮膜)および中塗り塗膜に対する密着性の観点から、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂が好ましい。
また、有機樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
下塗り塗膜には、防錆顔料が含まれていてもよい。
防錆顔料としては、特に限定されず、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等が挙げられる。
【0019】
下塗り塗膜の膜厚は、特に限定されず、0.5〜20μmが好ましい。膜厚が下限値以上であれば、下塗り塗膜の密着性および耐食性が向上しやすい。一方、膜厚が上限値以下であれば、下塗り塗膜表面上において柚子肌状なる外観不良の発生を抑制でき、かつ、焼き付けにより下塗り塗膜を形成する際に下塗り塗膜表面上における不良(ワキ)の発生を抑制できる。
【0020】
下塗り塗膜は、有機樹脂や任意の顔料などを含む下塗り塗料を基材の表面に塗工し、焼き付け(乾燥・硬化)する方法で形成できる。
下塗り塗料の塗工方法は、特に限定されず、刷毛塗り、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、コンマコーター法が挙げられる。
また、焼き付け温度は、基材の到達板温で200〜250℃が好ましく、焼き付け時間は、20〜100秒が好ましい。
【0021】
本発明における中塗り塗膜は、顔料、ポリフッ化ビニリデンおよび(メタ)アクリル樹脂を含有する中塗り塗料から形成された塗膜である。中塗り塗膜は、塗装体の意匠性を向上させる。
【0022】
中塗り塗料には、ポリフッ化ビニリデン(以下、「PVDF」とも称する)が含まれる。本明細書において、PVDFは、実質的にCH=CFに基づく単位からなる単独重合体を意味するが、本発明の効果を損なわない範囲において、CH=CF以外のモノマーに基づく単位を含む共重合体であってもよい。
また、中塗り塗料に含まれる(メタ)アクリル樹脂は、PVDFと相溶性を有する、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂または熱硬化性(メタ)アクリル樹脂が好ましい。(メタ)アクリル樹脂は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体や共重合体からなり、(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーに基づく単位を含む共重合体であってもよい。熱硬化性(メタ)アクリル樹脂の場合は、水酸基やカルボキシ基等の官能基を有する共重合体からなることが好ましく、この場合には通常硬化剤と組み合わせて使用される。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、炭素数6以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートやそれ以外のアルキル(メタ)アクリレート、フルオロアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
(メタ)アクリル樹脂としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数6以下のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体や共重合体、該アルキル(メタ)アクリレートを主としたこれら以外のモノマーとの共重合体が好ましい。特にメチルメタクリレートの単独重合体、メチルメタクリレートを主とする他のアルキルメタクリレートとの共重合体が好ましい。
【0023】
中塗り塗料におけるPVDFと(メタ)アクリル樹脂との質量比(PVDFの質量/(メタ)アクリル樹脂の質量)は、50/50〜90/10の範囲内(言い換えれば、1〜9の範囲内)であり、塗装体の耐候性および耐プレッシャーマーク性の少なくとも一方がより優れる点(以後、「本発明の効果がより優れる点」とも称する)から、55/45〜85/15が好ましい。上記質量比が50/50未満の場合、塗装体の耐候性に劣り、特に、上塗り塗膜と中塗り塗膜との界面剥離が生じやすい。上記質量比が90/10超の場合、中塗り塗膜の下塗り塗膜および上塗り塗膜に対する密着性、ならびに、中塗り塗膜の加工性が劣る。
【0024】
中塗り塗料は、顔料を含有する。顔料としては、着色顔料、体質顔料、光輝顔料、防錆顔料が挙げられ、中塗り塗膜の意匠性(着色、ツヤ、メタリック、パール、グラデーション加飾等)、塗装作業性、中塗り塗膜の強度等の要求特性に応じて、適宜選択して使用される。
顔料としては、特に酸化チタンが好ましい。前記のように中塗り塗膜に含まれる顔料が酸化チタンの場合、従来中塗り塗膜と上塗り塗膜との間での界面劣化が生じやすかったが、本発明では、界面劣化が生じ難いことより、汎用の顔料である酸化チタンの使用が可能になる。
【0025】
着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、チタンイエロー、酸化鉄系顔料、群青、コバルトブルー、酸化クロム、スピネルグリーン、クロム酸鉛系顔料、カドミウム系顔料等の無機顔料、モノアゾイエロー等のアゾ系顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド等の縮合多環系顔料の有機顔料が挙げられる。
【0026】
体質顔料としては、タルク、マイカ、硫酸バリウム、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0027】
光輝顔料としては、アルミニウム粉顔料、ニッケル粉顔料、金粉、銀粉、青銅粉、銅粉、ステンレス鋼粉顔料、マイカ(雲母)顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料、金属コーティングしたガラス粉、金属コーティングしたマイカ粉、金属コーティングしたプラスチック粉、鱗片状酸化鉄顔料等が挙げられる。
【0028】
防錆顔料としては、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛マグネシウム、リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム、シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、リン酸ジルコニウム、トリポリリン酸2水素アルミニウム、酸化亜鉛、リンモリブデン酸亜鉛、メタホウ酸バリウム等が挙げられる。
【0029】
中塗り塗膜は、中塗り塗料を下塗り塗膜の表面に塗布し、焼き付け(乾燥・硬化)する方法で形成される。
なお、中塗り塗料には、溶剤が含まれていてもよい。溶剤の具体例としては、アルコール系溶剤、飽和炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤等が挙げられる。
中塗り塗料の塗布方法は、上述した下塗り塗料の塗布方法から、適宜選択すればよい。
また、焼き付け温度は、基材の到達板温で240〜260℃が好ましく、乾燥時間は、20〜600秒が好ましい。
【0030】
中塗り塗膜の膜厚は、特に限定されず、1〜60μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。膜厚が下限値以上であると、中塗り塗膜のデザイン性(着色、ツヤ等)に優れる。一方、膜厚が上限値以下であると、中塗り塗膜表面上において柚子肌状なる外観不良の発生を抑制でき、かつ、焼き付けにより中塗り塗膜を形成する際に中塗り塗膜表面上における不良(ワキ)の発生を抑制できる。
【0031】
本発明における上塗り塗膜は、以下の(1)〜(3)を含む上塗り塗料を硬化してなる塗膜である。
(1)水酸基またはカルボキシ基を有する含フッ素重合体
(2)前記含フッ素重合体を硬化させる硬化剤
(3)無機系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤から選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤
【0032】
本発明における含フッ素重合体は、水酸基またはカルボキシ基を有する。含フッ素重合体は、水酸基のみを有していてもよく、カルボキシ基のみを有していてもよく、水酸基とカルボキシ基の両方を有していてもよい。
【0033】
含フッ素重合体が水酸基のみを有する場合、含フッ素重合体の水酸基価は、架橋密度の観点から、20〜200mgKOH/gが好ましく、40〜100mgKOH/gが特に好ましい。この範囲において、上塗り塗膜の柔軟性、上塗り塗膜と中塗り塗膜との密着性等が向上しやすい。
含フッ素重合体がカルボキシ基のみを有する場合、含フッ素重合体の酸価は、架橋密度の観点から、5〜100mgKOH/gが好ましく、10〜80mgKOH/gが特に好ましい。この範囲において、上塗り塗膜の柔軟性、上塗り塗膜と中塗り塗膜との密着性等が向上しやすい。
なお、酸価と水酸基価は、それぞれ、JIS K 0070−3(1992)の方法に準じて、テトラヒドロフラン(THF)溶液に、一定量の樹脂を溶解させ、フェノールフタレインを指示薬として、KOH/エタノール溶液にて滴定し、測定される。
【0034】
本発明の効果がより優れる点で、含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位1」とも称する)と、水酸基またはカルボキシ基を有するモノマーに基づく単位(以下、「単位2」とも称する)と、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位(以下、「単位3」とも称する)とを含むことが好ましい。
【0035】
単位1は、フルオロオレフィンに基づく単位である。
フルオロオレフィンとは、エチレンに結合している水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換された化合物を意味する。フルオロオレフィンは、フッ素原子以外の置換原子または置換基を有していてもよい。
フルオロオレフィンとしては、CH=CF、CF=CHF、CF=CFCl、CF=CF、CF=CFCF等の炭素数2〜6のフルオロオレフィンが挙げられる。なかでも、CH=CF、CF=CF、CF=CFCF、CF=CFClが好ましく、耐候性の点からCF=CFCl、CF=CFがより好ましく、CF=CFClがさらに好ましい。
単位1は、1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0036】
単位2は、水酸基を有するモノマーに基づく単位、またはカルボキシ基を有するモノマーに基づく単位である。
単位2が有する水酸基またはカルボキシ基は、後述する硬化剤との間で反応可能な基であり、上塗り塗膜中で架橋構造を形成するために用いられる。
単位2は、1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0037】
水酸基を有するモノマーとしては、水酸基と重合性基(好ましくは、ラジカル重合性基)とを有する化合物であれば、特に限定されず、たとえば、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルカルボン酸ビニルエステル、ヒドロキシアルキルアリルエーテル、ヒドロキシアルキルカルボン酸アリルエステル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。水酸基を有するモノマーとしては、ヒドロキシアルキルビニルエーテルが好ましく、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシメチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等の炭素数6以下のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキルビニルエーテルがより好ましく、共重合性に優れ、形成される上塗り塗膜の耐候性が優れる観点から、4−ヒドロキシブチルビニルエーテルが特に好ましい。
【0038】
カルボキシ基を有するモノマーとしては、カルボキシ基と重合性基(好ましくは、ラジカル重合性基)とを有する化合物であれば、特に限定されず、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、クロトン酸、ウンデセン酸、およびβ−カルボキシエチルアクリレートが好ましく、形成される上塗り塗膜の耐候性が優れる観点から、クロトン酸およびウンデセン酸が特に好ましい。
【0039】
また、本発明における含フッ素重合体は、カルボン酸ビニルエステルに基づく単位を含む重合体をケン化して得られる水酸基を有する重合体であってもよく、水酸基を有するモノマーに基づく重合体に多価カルボン酸またはその無水物を反応させて得られるカルボキシ基を有する重合体であってもよい。
【0040】
単位3は、炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーに基づく単位である。なお、鎖状アルキル基とは直鎖状または分岐状のアルキル基である。また、アルキル基には水酸基やカルボキシ基等の官能性基を有しない。
含フッ素重合体が、単位3を含むことにより、上塗り塗料の被塗布物(中塗り塗膜)への濡れ広がり性、上塗り塗膜の柔軟性、上塗り塗膜と中塗り塗膜との密着性等が向上しやすい。また、後述する上塗り塗膜の伸縮率を好適な範囲内に調整しやすい。
アルキル基の炭素数は、上記観点から、2〜11が好ましく、2〜10がより好ましい。
単位3は、1種が単独で含まれていてもよく、2種以上が組み合わせて含まれていてもよい。
【0041】
炭素数2〜12の鎖状アルキル基を有するモノマーの具体例としては、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、アルキルアリルエーテル、アルキルアリルエステル、アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。本発明の効果がより優れる点から、炭素数2〜12のアルキル基を有する、アルキルビニルエーテルが好ましい。
【0042】
含フッ素重合体には、単位1、単位2および単位3以外の単位(以下、「単位4」とも称する)が含まれていてもよい。
単位4としては、炭素数3以上の環状炭化水素基を有するモノマーに基づく単位が挙げられる。前記モノマーとしては、シクロヘキシルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0043】
本発明における含フッ素重合体中の全単位に対する単位1の比率は、20〜80モル%が好ましく、30〜70モル%がより好ましい。単位1の比率が下限値以上であれば、上塗り塗膜の耐光性がより優れる。上限値以下であれば、上塗り塗膜の伸び率が向上しやすく、上塗り塗膜と中塗り塗膜との密着性が優れる。
【0044】
また、本発明における含フッ素重合体中の全単位に対する単位2の比率は、0.5〜60モル%が好ましく、1〜50モル%がより好ましい。単位2の比率が下限値以上であれば、上塗り塗膜と中塗り塗膜との密着性に優れる。上限値以下であれば、上塗り塗膜の耐水性が低下しにくい。
【0045】
また、含フッ素重合体中の全単位に対する単位3の比率は、0.5〜60モル%が好ましく、1〜50モル%がより好ましく、30〜50モル%がさらに好ましい。単位3の比率が下限値以上であれば、上塗り塗膜の伸び率が向上し、塗装体の加工性が向上する。上限値以下であれば、上塗り塗膜の耐候性が向上しやすい。
【0046】
なお、含フッ素重合体が単位4を含む場合、含フッ素重合体中の全単位に対する単位4の比率は、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、0モル%超である。なお、本発明の効果がより優れる点、特に後述する上塗り塗膜の伸縮率を好適な範囲内に調整する観点から、含フッ素重合体は単位4を含まないのが好ましい。
【0047】
本発明における含フッ素重合体の製造方法は、特に限定されず、単位1、単位2および単位3を形成し得るそれぞれのモノマーを、ラジカル開始剤の作用により共重合させる方法が好ましい。重合形態は、特に限定されず、重合溶剤を使用する溶液重合、懸濁重合、乳化重合等を採用できる。
重合時の反応温度は、0〜130℃が好ましい。反応時間は1〜50時間が好ましい。
【0048】
重合溶剤としては、エタノール、ブタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤、n−へキサン、n−ヘプタン等の飽和炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤が挙げられる。また、これらの溶剤を混合して使用してもよい。
【0049】
ラジカル重合開始剤としては、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、パーオキシカーボネートエステル、ジアシルパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド等が挙げられる。
【0050】
本発明における硬化剤は、前記含フッ素重合体の水酸基またはカルボキシ基と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物からなる。官能基は、硬化条件下で活性化するようにブロック化された官能基であってもよい。水酸基またはカルボキシ基と反応する官能基としては、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基、メチロール基、アルキルエーテル化メチロール基、ヒドラジド基、β−ヒドロキシアルキルアミド基が挙げられる。
1種の硬化剤が有する官能基の種類は、特に限定されず、通常は1種である。
また、1種の硬化剤が1分子中に有する官能基の総数は、特に限定されず、通常は2〜40であり、好ましくは2〜30である。
硬化剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
イソシアネート基を有する硬化剤は、イソシアネート基がブロック化されていない多価イソシアネート化合物である。多価イソシアネート化合物としては、芳香核に直接結合したイソシアネート基を有しない多価イソシアネート化合物が好ましい。具体的には、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレントリイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族多価イソシアネート化合物、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン等の脂環族多価イソシアネート化合物、m−キシレンジイソシアネート、p−キシレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物が挙げられる。
また、イソシアネート基を有する硬化剤としては、多価イソシアネート化合物の変性体も挙げられ、具体的には、ウレタン変性体、ウレア変性体、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体、アロファネート変性体、カルボジイミド変性体等が挙げられる。多価イソシアネート化合物の変性体は、イソシアヌレート変性体、ビューレット変性体およびウレタン変性体が好ましく、イソシアヌレート変性体がより好ましい。
【0052】
ブロック化イソシアネート基を有する硬化剤としては、上記多価イソシアネート化合物のイソシアネート基がブロック化剤でブロック化された化合物が挙げられる。なお、ブロック化イソシアネート基は、硬化時の加熱等により脱ブロックされ、イソシアネート基となって反応する。具体的には、多価イソシアネート化合物とブロック化剤(アルコール、カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム、有機酸エステル等)とを反応させて得られる、ブロック化イソシアネート基を有する化合物が挙げられる。
【0053】
アルコキシシリル基を有する硬化剤の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等の4官能性アルコキシシラン、トリエトキシビニルシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の3官能性アルコキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等の2官能性アルコキシシランが挙げられる。
カルボジイミド基を有する硬化剤の具体例としては、ユニオンカーバイト社製の「UCARLNK」、日清紡社製「カルボジライト」等が挙げられる。
オキサゾリン基を有する硬化剤の具体例としては、日本触媒社製「エポクロス」等が挙げられる。
エポキシ基を有する硬化剤の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
メチロール基やアルキルエーテル化メチロール基をする硬化剤の具体例としては、メチロールメラミン、ブチルエーテル化メチロールメラミン、メチロール尿素、ブチルエーテル化メチロール尿素等が挙げられる。
ヒドラジド基を有する硬化剤の具体例としては、ジカルボン酸ジヒドラジド、脂肪族ジヒドラジン等が挙げられる。
β−ヒドロキシアルキルアミド基を有する硬化剤の具体例としては、エムスケミー社製「プリミドXL−552」が挙げられる。
【0054】
本発明における硬化剤は、含フッ素重合体の種類に応じて適宜選択されるのが好ましく、水酸基を有する含フッ素重合体であれば、イソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を有する硬化剤を選択するのが好ましく、カルボキシ基を有する含フッ素重合体であれば、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基またはβ−ヒドロキシアルキルアミド基を有する硬化剤を選択するのが好ましい。この場合、耐候性と耐プレッシャーマーク性に優れるだけでなく、後述する上塗り塗膜の破断応力値の好適な範囲内に調整しやすい。
【0055】
本発明における紫外線吸収剤は、無機系紫外線吸収剤、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤から選択される少なくとも1種の紫外線吸収剤であり、塗膜における分散性の観点から、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤およびシアノアクリレート系紫外線吸収剤から選択される少なくとも1種の有機系紫外線吸収剤が好ましい。
紫外線吸収剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
無機系紫外線吸収剤の具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄等が挙げられる。また、樹脂に対する分散性を向上するために多層構造を有する紫外線吸収剤も使用でき、例えば、特開平10−292056号公報に記載の不定形シリカ−酸化セリウム−ベース顔料の3層構造を有する複合体粒子からなる紫外線吸収剤も使用できる。
【0057】
サリチル酸エステル系紫外線吸収剤の具体例としては、フェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等が挙げられる。
【0058】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、イソオクチル−3−〔3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル〕プロピオネート(BASF社製「TINUVIN384」)、2−(3−ドデシル−5−メチル−2−ヒドロフェニル)ベンゾトリアゾール(BASF社製「TINUVIN571」)、2,2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェノールエチル)フェノール(BASF社製「TINUVIN900」)等が挙げられる。
【0059】
ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤の具体例としては、2−(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−ヒドロキシフェニルと[(C10〜C16、主としてC12〜C13のアルキルオキシ)メチル]オキシランとの反応生成物(BASF社製「TINUVIN400」)、2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)−4,6−ビス−(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと(2−エチルヘキシル)−グリシド酸エステルとの反応生成物(BASF社製「TINUVIN405」)、2,4−ビス[2−ヒドロキシ−4−ブトキシフェニル]−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(BASF社製「TINUVIN460」)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(例えば、BASF社製の「TINUVIN1577」)、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン(BASF社製「TINUVIN479」)等が挙げられる。
【0060】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤の具体例としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0061】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤の具体例としては、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、メチル−2−シアノ−3−メチル−3−(p−メトキシフェニル)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
本発明において、上塗り塗料中の、含フッ素重合体、硬化剤、紫外線吸収剤およびそれら以外の任意成分(硬化触媒、顔料、光安定剤、表面調整剤、顔料分散剤、消泡剤、増粘剤、密着改良剤、つや消し剤等)の組成は、特に限定されない。
含フッ素重合体の含有量は、上塗り塗料中の全固形分に対して、10〜80質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましい。含フッ素重合体の含有量が下限値以上であれば、塗装体の耐候性がより優れる。含フッ素重合体の含有量が上限値以下であれば、塗工に最適な上塗り塗料の粘度を設計しやすい。
【0063】
硬化剤の含有量は、含フッ素重合体に対して、1〜40質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。硬化剤の含有量が下限値以上であれば、充分な架橋により強靭な上塗り塗膜が得られやすい。硬化剤の含有量が上限値以下であれば、上塗り塗膜の伸び率が向上したり、硬化時の上塗り塗膜の発泡を抑制しやすい。
【0064】
紫外線吸収剤の含有量は、含フッ素重合体に対して、0.1〜15質量%が好ましい。紫外線吸収剤の含有量が下限値以上の場合、塗装体の耐候性がより優れ、屋外等で塗装体が長期間使用された際にも、上塗り塗膜の剥離が生じにくい。紫外線吸収剤の含有量が上限値以下の場合、加熱硬化により上塗り塗膜を形成した際に、上塗り塗膜中において、黄変等の色調変化の不良が生じにくい。
【0065】
任意成分として、例えば、上塗り塗料に顔料を添加する場合、顔料の含有量は、上塗り塗料における顔料以外の固形分100質量部に対して、50〜500質量部が好ましく、100〜400質量部がより好ましい。
【0066】
上塗り塗料に硬化触媒を添加する場合、硬化触媒の含有量は、硬化剤に対して、0.001〜10.0質量%が好ましい。硬化触媒の含有量が下限値以上であれば、触媒効果が得られやすい。硬化触媒の含有量が上限値以下であれば、硬化触媒の残存による塗膜耐水性の低下を抑制しやすい。
【0067】
上塗り塗料は、任意成分として、非フッ素系樹脂を含有してもよい。非フッ素系樹脂としては、フッ素原子を含まない、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂は、その反応性基に応じて、前記のような硬化剤やそれ以外の硬化剤と組み合わせて使用されることが好ましい。非フッ素系樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の非フッ素系樹脂が好ましい。非フッ素系樹脂は、上塗り塗膜の外観、機械特性、上塗り塗料の塗工時の作業性等の要求特性に応じて、任意に使用できる。
なお、非フッ素系樹脂を使用する場合には、含フッ素重合体と非フッ素系樹脂の質量比(含フッ素重合体の質量/非フッ素系樹脂の質量)は86/14〜99/1が好ましい。
【0068】
上塗り塗料は、上述の含フッ素重合体、硬化剤、紫外線吸収剤および任意成分を混合して製造できる。各成分の混合順序は、特に限定されない。
混合の方法も、特に限定されず、ボールミル、ペイントシェーカー、サンドミル、ジェットミル、ロッキングミル、アトライター、三本ロール、ニーダー、遊星攪拌機、攪拌子とマグネティックスターラーを使用した攪拌、高速ホモジナイザー、ディスパー、二軸攪拌機等を用いて混合できる。
【0069】
また、上塗り塗料が溶剤を含む場合、上塗り塗料の塗工性を向上できる。溶剤としては、アルコール系溶剤、飽和炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アミド系溶剤が挙げられる。また、これらの溶剤を混合して使用してもよい。
【0070】
上塗り塗料の固形分の含有量は、溶解性、塗工条件等に応じて決定すればよく、具体的には、固形分の含有量は、溶剤を含む上塗り塗料に対して、20〜95質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましい。固形分の含有量が上限値以下であれば、上塗り塗料の流動性が確保され、上塗り塗料の塗工が容易になり易い。固形分の含有量が下限値以上であれば、上塗り塗料を塗工した後の焼き付け(乾燥・硬化)が容易となり、溶剤を加熱除去した際に上塗り塗膜表面における不良(ワキ)の発生を抑制し易い。
【0071】
本発明における上塗り塗膜は、中塗り塗膜の表面の表面に上塗り塗料を塗工し、焼き付け(乾燥・硬化)する方法で形成できる。
上塗り塗料の塗布方法は、上述した下塗り塗料の塗布方法から、適宜選択すればよい。
また、焼き付け温度は、基材の到達板温で10〜250℃が好ましく、30〜240℃がより好ましく、50〜230℃がさらに好ましい。乾燥時間は、10秒〜24時間が好ましく、11秒〜10時間がより好ましく、12秒〜1時間がさらに好ましい。
【0072】
上塗り塗膜の膜厚は、特に限定されず、1〜60μmが好ましく、5〜40μmがより好ましい。膜厚が下限値以上の場合、耐候性に優れた上塗り塗膜が得られやすい。一方、膜厚が上限値以下の場合、上塗り塗膜表面上において柚子肌状なる外観不良の発生を抑制でき、かつ、焼き付けにより上塗り塗膜を形成する際に上塗り塗膜表面上における不良(ワキ)の発生を抑制できる。
【0073】
本発明における上塗り塗膜の伸び率は、特に限定されず、50〜200%が好ましく、60〜150%がより好ましい。伸び率が上記範囲内であれば、塗装体の加工性がより優れる。また、塗装体を搬送する場合に、接触傷の発生を抑制できる。
なお、ここで上塗り塗膜の伸び率とは、前述する上塗り塗料を単独で塗膜とした際の伸び率であり、伸び率とは、JIS K 7127(1999)に準拠した方法で測定した上塗り塗膜の破断伸び(%)をいう。
【0074】
本発明における上塗り塗膜の破断応力は、特に限定されず、5.0〜40.0MPaが好ましく、10.0〜30.0MPaがより好ましい。破断応力が上記範囲内であれば、耐プレッシャーマーク性がより優れる。また、塗装体を搬送する場合に、接触傷の発生を抑制できる。
なお、ここで破断応力とは、JIS K 7127(1999)に準拠した方法で測定した上塗り塗膜の破断応力(MPa)をいう。
【0075】
本発明における上塗り塗膜のガラス転移温度は、特に限定されず、−15〜40℃が好ましく、−10〜35℃がより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内にあれば、気象条件が厳しい地域(寒暖の差が激しい地域)でも、上塗り塗膜にクラックが発生しにくい。
なお、ガラス転移温度は、熱機械分析装置(TMA)を用いた引張り荷重法により測定した上塗り塗膜のガラス転移温度(℃)をいう。
【0076】
上述した伸び率、破断応力、ガラス転移温度を発現する上塗り塗膜の好適な態様としては、含フッ素重合体として、単位1と単位2と単位3とを含み、水酸基価が20〜200mg/KOHである、水酸基を有する含フッ素重合体を使用し、硬化剤として、イソシアネート基またはブロック化イソシアネート基を有する硬化剤を使用する態様が挙げられる。前記態様における含フッ素重合体と硬化剤のより好ましい態様は、それぞれ前述したとおりである。
【0077】
本発明の塗装体は、種々の用途に適用できる。例えば、家電製品、家具、建材および自動車部品などの外装部材、道路部材(ガードレールやポール、表示板等)、屋根材、船舶の外装材、航空機の外装材、電力装置部材などが挙げられる。特に、基材として鋼板を使用して得られる塗装鋼板は、上記用途(特に、建築外装部材)に好適に適用できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
(合成例1:含フッ素重合体(A)の製造)
内容積2500mLのステンレス鋼製撹拌機付き耐圧反応器に、キシレン832gと、エタノール238gと、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル(以下、「HBVE」とも称する)129gと、エチルビニルエーテル(以下、「EVE」とも称する)325gと、炭酸カルシウム11gと、t−ブチルパーオキシピバレート(以下、「PBPV」とも称する)3.5gとを仕込み、窒素による脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次に、CF=CFCl(以下、「CTFE」とも称する)660gを上記反応器に導入して徐々に昇温し、反応液の温度を65℃に維持しながら反応を続けた。10時間反応させた後、反応器を水冷して反応を停止した。該反応液を室温まで冷却した後、未反応モノマーをパージし、得られた反応液を珪藻土で濾過して固形物を除去した。次に、キシレンの一部とエタノールを減圧留去により除去し、56mg/KOHの水酸基価を有する含フッ素重合体(含フッ素重合体(A))のキシレン溶液(不揮発分50%)を得た。
【0080】
(合成例2:含フッ素重合体(B)の製造)
内容積2500mLのステンレス鋼製撹拌機付き耐圧反応器に、キシレン590gと、エタノール170gと、HBVE129gと、EVE206gと、シクロヘキシルビニルエーテル(以下、「CHVE」とも称する)208gと、炭酸カルシウム11gと、PBPV3.5gとを仕込み、窒素による脱気により液中の溶存酸素を除去した。
次に、CTFE660gを上記反応器に導入して徐々に昇温し、反応液の温度を65℃に維持しながら反応を続けた。10時間反応させた後、反応器を水冷して反応を停止した。該反応液を室温まで冷却した後、未反応モノマーをパージし、得られた反応液を珪藻土で濾過して固形物を除去した。次に、キシレンの一部とエタノールを減圧留去により除去し、52mg/KOHの水酸基価を有する含フッ素重合体(含フッ素重合体(B))のキシレン溶液(不揮発分60%)を得た。
【0081】
(上塗り塗料(I)の製造)
含フッ素重合体(A)のキシレン溶液(不揮発分50%)120gに、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体であるイソシアヌレート変性HDI(日本ポリウレタン社製「コロネートHX」)11.8gと、キシレン80gと、硬化触媒としてジブチルチンジラウレート(キシレンで4〜10倍に希釈して4.2gとしたもの。)と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤1(BASF社製「TINUVIN384」)4.8gと、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤1(BASF社製「TINUVIN400」)2.4gとをさらに加えて混合し、上塗り塗料(I)を得た。
【0082】
(上塗り塗料(II)の製造)
含フッ素重合体(B)のキシレン溶液(不揮発分60%)100gに、硬化剤としてイソシアヌレート変性HDIの10.7gと、キシレン100gと、硬化触媒としてジブチルチンジラウレート(キシレンで4〜10倍に希釈して4.2gとしたもの。)と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤1の5.0gと、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤1の2.5gとをさらに加えて混合し、上塗り塗料(II)を得た。
【0083】
(上塗り塗料(III)の製造)
ポリフッ化ビニリデン(Arkema社製「カイナー500」、水酸基価0mg/KOH)42.0gに、アクリル樹脂(ダウ・ケミカル社製「PARALOID B−44」)18.0gと、イソホロン84.0gと、キシレン42.0gと、ジメチルホルムアミド14.0gと、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤1の5.0gと、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤1の2.5gとを加えて混合し、上塗り塗料(III)を得た。
【0084】
<塗膜(上塗り塗膜)の評価>
ガラス基板の表面に、上塗り塗料(I)を乾燥後の塗膜の厚み(以下、単に「乾燥膜厚」という。)が20μmとなるように塗布し、ガラス基板ごと160℃の熱風乾燥炉中で20分間保持して、乾燥・硬化させることにより塗膜を形成して、塗膜付試験板を得た。その後、塗膜をガラス基板から剥離し、剥離した塗膜を日本工業規格JIS K 6251に規定されたダンベル状1号形に打ち抜いて塗膜試験片(SI)を得た。
【0085】
上塗り塗料(I)の代わりに上塗り塗料(II)を使用した以外は実施例1と同様の手順に従って塗膜試験片(SII)を得た。
【0086】
上塗り塗料(I)の代わりに上塗り塗料(III)を使用し、乾燥・硬化条件を250℃、10分とした以外は実施例1と同様の手順に従って塗膜試験片(SIII)を得た。
【0087】
<破断応力および伸び率>
作製した各塗膜試験片(SI)〜(SIII)の破断応力および伸び率を、JIS K 7127(1999)に準拠した方法で測定した。
具体的には、オリエンテック社引っ張り試験機(機種;RTC−1310A)を用いて、各塗膜試験片(SI)〜(SIII)を引張り速度50mm/分で引っ張り、各塗膜試験片の破断時の破断応力および伸び率を算出した。試験は、23℃、60%RHの環境下で行った。結果を表1にまとめて示す。
【0088】
<ガラス転移温度(Tg)>
作製した各塗膜試験片(SI)〜(SIII)のガラス転移温度(Tg)を、熱機械分析装置TMA/SS150(セイコーインスツルメント製)を使用して測定した。試験方法は引張り荷重法とした。昇温速度を10℃/分、荷重49mNとし、各塗膜試験片の伸び率が急変する温度をガラス転移温度(℃)とした。結果を表1にまとめて示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(中塗り塗料の製造)
メチルメタクリレート系重合体からなる(メタ)アクリル樹脂(ダウ・ケミカル社製「PARALOID B−44」;樹脂固形分100%)10.0gに、酸化チタン顔料(デュポン社製「タイピュア R960」;酸化チタン含有量:89質量%、被覆金属:シリカ、アルミナ)40.0g、イソホロン32.7g、キシレン13.0g、およびジメチルホルムアミド4.3gを加え、さらに、直径1mmのガラスビーズ100gを加えて、ペイントシェーカーで2時間混合物を撹拌した。撹拌後、濾過を行ってガラスビーズを取り除き、顔料組成物を得た。
次に、上記顔料組成物41.1gに、ポリフッ化ビニリデン(Arkema社製「カイナー500」;樹脂固形分100%)25.9g、およびイソホロン33.0gを加えて混合し、中塗り塗料を得た。
【0091】
[実施例1]
厚さ0.8mmのリン酸亜鉛処理メッキ鋼板上に、エポキシ樹脂(日本ファインコーティング社製「ファインタフC800Pプライマー」)および前記(メタ)アクリル樹脂を含む下塗り塗料を乾燥膜厚5μmになるよう塗布し、到達板温200℃で焼き付けて、下塗り塗膜を形成した。
次に、下塗り塗膜上に、上述の中塗り塗料を乾燥膜厚が30μmになるように塗布し、250℃で10分間焼き付けることにより中塗り塗膜を形成した。
次に、中塗り塗膜上に、上塗り塗料(I)を乾燥膜厚が10μmになるように塗布し、160℃で20分間焼き付けることにより上塗り塗膜を形成し、塗装金属板を得た。
【0092】
[実施例2]
上塗り塗料(I)の代わりに上塗り塗料(II)を使用した以外は、実施例1と同様の手順に従って、塗装金属板を得た。
【0093】
[比較例1]
上塗り塗料(I)の代わりに上塗り塗料(III)を使用し、上塗り塗膜を形成する際の焼き付け条件を160℃で20分間から250℃で10分間とした以外は、実施例1と同様の手順に従って、塗装金属板を得た。
【0094】
<耐プレッシャーマーク性>
それぞれの塗装金属板の耐プレッシャーマーク性を次の方法で評価した。鏡面仕上げしたステンレス鋼板を、29kPaの圧力で、塗装金属板の上塗り塗膜面上に押し付け、60秒間保持した。その後、ステンレス鋼板を取り除き、室温で3時間放置後、上塗り塗膜上の圧着痕の有無を観察した。その結果は以下の基準に従って評価した。結果を表2にまとめて示す。なお、実用上は「△」以上が使用可能であり、「○」が好ましい。
○:圧着痕は見られなかった。
△:かすかに、圧着痕が見られる
×:圧着痕が見られた。
【0095】
<促進耐候性試験>
それぞれの塗装金属板について、促進耐候性試験を行った。試験は、Accelerated Weathering Tester(Q−PANEL LAB PRODUCTS社製、モデル:QUV/SE)を用い、5000時間暴露後の塗膜剥離の有無を観察した。その結果は、以下の基準に従って評価した。結果を表2にまとめて示す。なお、実用上は「○」が使用可能である。
○:塗膜剥離が観察されなかった。
×:塗膜剥離が観察された。
【0096】
<実暴露試験>
それぞれの塗装金属板について、実暴露試験を行った。試験は、沖縄県那覇市の屋外に設置した塗装金属板の塗膜面が、南面45°になるように設置し、設置開始から5年後の塗膜剥離の有無について、以下の基準に従って評価した。結果を表2にまとめて示す。なお、実用上は「○」が使用可能である。
○:塗膜剥離が観察されなかった。
×:塗膜剥離が観察された。
【0097】
【表2】
【0098】
表2に示すように、本発明の塗装金属板は、耐プレッシャーマーク性に優れ、さらに、促進耐候性試験および実暴露試験の結果は良好で、耐候性に優れていた。
実施例1と実施例2とを比較すると、上塗り塗料(I)を用いた塗装金属板の方が、上塗り塗料(II)を用いた塗装金属板より耐プレッシャーマーク性に優れていた。
実施例1および2と比較例1とを比較すると、ポリフッ化ビニリデンおよびアクリル樹脂を含む塗料を用いて形成された上塗り塗膜を有する金属板である比較例1については、耐プレッシャーマーク性は良好であったが、促進耐候性試験および実暴露試験の結果、塗膜の剥離が生じ、耐候性が昨今求められるレベルになかった。
比較例1の剥離面の塗膜について、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)分析装置を用いて評価した結果、アクリル樹脂の分解に起因したカルボニル基の消失を確認した。これは、促進耐候性試験および実暴露試験により、アクリル樹脂の光劣化や酸化チタンによる光触媒劣化等により、各塗膜間の界面が劣化し、塗膜の剥離が発生したためと考えられる。
なお、2015年12月18日に出願された日本特許出願2015−247664号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。