(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持ガラス基板、貫通孔を有するガラス基板、高周波フィルタのキャップ材、および半導体バックグラインド用のサポートガラスから選ばれる1種である請求項1に記載のガラス基板。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
まず、
図1、2を参照して、本発明の一実施形態のガラス基板を用いた積層基板の一例について説明する。なお、ここで説明する積層基板およびその製造工程は一例であり、これに限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態のガラス基板を用いた積層基板30の断面図である。
図1に示す積層基板30は、本発明の一実施形態のガラス基板G1と、素子基板10とが積層されている。ガラス基板G1は、支持基板として用いられる。ガラス基板G1と素子基板10との間には、接着層および/または剥離層を有していてもよい。例えば、接着層および剥離層の機能を備えた吸着層20が形成される。素子基板10は、樹脂等の封止材により包埋された半導体チップ(例えば、シリコンチップ)を有している。
【0020】
例えば、本発明の一実施形態のガラス基板G1には、吸着層20を間に介して、半導体チップが貼り合わされる。半導体チップ上に封止材が形成され、封止材により半導体チップが包埋された素子基板10を得る。例えば、100℃〜400℃の温度で、半導体チップ上に樹脂を充填して封止材が形成される。このようにして、ガラス基板G1と素子基板10とが積層された積層基板30が得られる。
【0021】
その後、積層基板30は、素子基板10とガラス基板G1とに分離される。分離された素子基板10は、適宜他の支持基板と貼り合わされ、以降の工程に供されてもよい。また、分離されたガラス基板G1は、適宜再生処理が施され、支持基板またはその他の用途に利用できる。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態のガラス基板を、ファンアウト型のウェハレベルパッケージ用の支持基板として用いる製造工程の一例を示す断面図である。
【0023】
支持基板(第1の支持基板)G100に、吸着層120を間に介して複数の半導体チップ102を貼り合わせる(
図2(A)参照)。
吸着層120は、接着層でもよく、剥離層でもよく、接着層および剥離層を兼ねていてもよい。また、吸着層120は、単層でもよく、複数層でもよい。吸着層120は、例えばシリコーン樹脂で形成される。半導体チップ102は、例えばシリコンチップである。半導体チップ102は、アクティブな面が支持基板G100側に配置される。
【0024】
複数の半導体チップ102上に、複数の半導体チップ102を包埋するように封止材104を形成する。支持基板G100と素子基板110とが積層された積層基板(第1の積層基板)130が得られる(
図2(B)参照)。
【0025】
封止材104は、例えば樹脂により形成される。複数の半導体チップ102上に樹脂を充填し、例えば100℃〜400℃の熱処理により、複数の半導体チップ102を包埋する封止材104を得る。
【0026】
支持基板G100として本発明の一実施形態のガラス基板を適用した場合、後述するように、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11ppm/℃〜16ppm/℃、30℃〜220℃での平均熱膨張係数α2が10ppm/℃〜15ppm/℃と比較的高い。ここで、素子基板110は、半導体チップ102が樹脂等の封止材により包埋された構造である。素子基板110の平均熱膨張係数は、樹脂の割合にもよるが、比較的高くなりやすい。例えば、封止材としてよく用いられるエポキシ樹脂やポリイミドは、100℃〜200℃での平均熱膨張係数αが30ppm/℃程度である。本発明の一実施形態のガラス基板は、平均熱膨張係数αがガラスとしては高いため、樹脂により封止材を形成するための熱処理工程で、積層基板130に発生する残留歪を抑制できる。支持基板G100と素子基板110との間に配置された吸着層120による熱膨張係数への影響は、吸着層120が支持基板G100および素子基板110と比べて十分に薄いため無視できる。
【0027】
支持基板G100と素子基板110とを分離する(
図2(C)参照)。
例えば、紫外線を、支持基板G100を通して吸着層120に照射することにより、支持基板G100と素子基板110とが分離される。分離された支持基板G100は、支持基板に再利用してもよく、その他の用途に利用してもよい。
【0028】
分離された素子基板110は、吸着層122を間に介して支持基板(第2の支持基板)G140と貼り合わせられる。支持基板G140と素子基板110とが積層された積層基板(第2の積層基板)150が得られる(
図2(D)参照)。
【0029】
素子基板110は、半導体チップ102のアクティブな面が支持基板G140の反対側になるように配置される。吸着層122は、吸着層120と同様のものを用いればよい。
【0030】
支持基板G140は、本発明の一実施形態のガラス基板を用いてもよく、その他のガラス基板を用いてもよく、ガラス以外の材料からなる基板(例えば、半導体基板、金属基板など)を用いてもよい。支持基板G140として本発明の一実施形態のガラス基板を用いた場合は、後述する配線を形成するための工程などで熱処理を行う際、積層基板150に発生する残留歪を抑制できる。なお、支持基板G140と素子基板110との間に配置された吸着層122による影響は、吸着層122が支持基板G140および素子基板110と比べて十分に薄いため無視できる。
【0031】
素子基板110の半導体チップ102に電気的に接続される配線を形成した後、素子基板110と支持基板G140とを分離する。
【0032】
配線は、素子基板110の支持基板G140が積層された面と反対側の面に、銅線等により形成されればよい。素子基板110と支持基板G140との分離は、
図2(C)と同様に行えばよい。分離された支持基板G140は、適宜再生処理を施して、再利用できる。
【0033】
分離された素子基板110は、半導体チップ102毎に個片化され、複数の半導体デバイスを得ることができる。
【0034】
本発明の一実施形態のガラス基板は、支持基板G100と支持基板G140との一方、または支持基板G100と支持基板G140との両方に適用される。
【0035】
[第1の実施形態]
次に、本発明の一実施形態のガラス基板について説明する。
本発明の一実施形態のガラス基板は、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11〜16ppm/℃である。α1は、11.5ppm/℃超が好ましく、11.8ppm/℃以上がより好ましく、12.0ppm/℃以上がさらに好ましく、12.5ppm/℃以上が特に好ましく、13ppm/℃以上が最も好ましい。また、α1は15ppm/℃以下が好ましく、14.5ppm/℃以下がより好ましく、14.2ppm/℃以下がさらに好ましく、14ppm/℃以下が特に好ましい。
【0036】
また、本発明の一実施形態のガラス基板は、30℃〜220℃での平均熱膨張係数α2が10〜15ppm/℃であることが好ましい。α2は、11.0ppm/℃以上が好ましく、11.5ppm/℃以上がより好ましく、12ppm/℃以上が特に好ましい。また、α2は14.5ppm/℃以下が好ましく、14ppm/℃以下がより好ましい。
【0037】
50℃〜350℃のα1が上記範囲内であれば、ガラス基板と樹脂を含む部材(例えば半導体チップを有する素子基板)とが積層された状態における熱処理工程で、ガラス基板および樹脂を含む部材に発生する残留歪を抑制できる。また、得られる積層基板の反りを防止できる。さらに、30℃〜220℃のα2が上記範囲内であれば、上記残留歪の抑制、並びに積層基板の反り防止の効果がよりいっそう得られる。
【0038】
ここで、50℃〜350℃および30℃〜220℃での平均熱膨張係数α1、α2とは、JIS R3102(1995年)で規定されている方法で測定した、熱膨張係数を測定する温度範囲が50℃〜350℃または30℃〜220℃である平均熱膨張係数である。
【0039】
本発明の一実施形態のガラス基板は、母組成として、
SiO
2 :55%〜75%、
Al
2O
3 :2%〜15%、
MgO :0%〜10%、
CaO :0%〜10%、
SrO :0%〜10%、
BaO :0%〜15%、
ZrO
2 :0%〜5%、
Na
2O :0%〜20%、
K
2O :5%〜30%、
Li
2O :0%〜5.0%、
を含み、
アルカリ金属酸化物の合計含有量が10%〜30%であり、
アルカリ金属酸化物の合計含有量を、SiO
2の含有量で除した値が0.50以下であり、
Na
2Oの含有量を、Na
2OとK
2Oとの合計含有量からAl
2O
3の含有量を引いた値で除した値が0.90以下であり、
50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11ppm/℃〜16ppm/℃である。
【0040】
SiO
2はガラスの骨格を形成する成分である。したがって、上述したいずれの形態のガラス基板も以下の要件を満足することが好ましい。SiO
2の含有量が55%以上であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、耐熱性、耐候性が良好となる。SiO
2の含有量は、57%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、63%以上が特に好ましく、65%以上が最も好ましい。一方、SiO
2の含有量が75%以下であれば、ガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎず、溶融性が良好となる。溶融性が良好であれば、低い温度でガラスを溶融できるため、ガラス溶融時の燃料の使用量を抑えられ、溶融窯が損傷しにくい。SiO
2の含有量は、74%以下が好ましく、73%以下がより好ましく、72%以下が特に好ましい。
【0041】
Al
2O
3の含有量が2%以上であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、耐候性、耐熱性が良好となり、ヤング率が高くなる。Al
2O
3の含有量は、3.5%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、4.5%以上がさらに好ましい。一方、Al
2O
3の含有量が15%以下であれば、ガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、失透温度を低くでき、安定して成形できる。さらには、ヌープ硬度が高くなりすぎず、加工レートを良好に保つことができる。Al
2O
3の含有量は、14%以下が好ましく、13%以下がより好ましく、12%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましく、7%以下が最も好ましい。
【0042】
本発明の一実施形態のガラス基板は、SiO
2およびAl
2O
3の合計含有量が60%以上であれば、酸性溶液およびアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなるため、好ましい。SiO
2およびAl
2O
3の合計含有量は62%以上がより好ましく、63%以上がさらに好ましく、65%以上が特に好ましい。一方、SiO
2およびAl
2O
3の合計含有量は80%以下であれば、ガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、平均熱膨張係数が低くなり過ぎないため、好ましい。また、ヌープ硬度が高くなりすぎず、加工レートを高く保つことができる。SiO
2およびAl
2O
3の合計含有量は79%以下がより好ましく、78%以下がさらに好ましく、77%以下が特に好ましく、74%以下が最も好ましい。
【0043】
MgOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となるため、含有することが好ましい。また、MgOを含有することにより、耐候性が向上し、ヤング率が高くなるため好ましい。MgOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上がいっそう好ましく、4%以上が特に好ましく、5%以上が最も好ましい。MgOの含有量は、耐失透性の観点からは10%以下であり、8%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0044】
CaOは必須成分ではないが、含有することによりガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が向上する。そのため、CaOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。CaOの含有量は、耐失透性の観点から10%以下であり、9%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。
【0045】
SrOは、必須成分ではないが、含有することによりガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、耐候性が向上し、熱膨張係数を高くすることができる。光弾性定数を低下させる効果もある。そのため、SrOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましい。SrOの含有量は、耐失透性の観点から10%以下であり、9%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。
【0046】
BaOは、必須成分ではないが、含有することによりガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。さらに、熱膨張係数を高くすることができる。また、特に光弾性定数を低下させる効果がある。そのため、BaOの含有量は0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましく、2%以上がさらに好ましく、3%以上が特に好ましく、5%以上が最も好ましい。一方で、比重が高くなるため、ガラスが重くなる。そのため、BaOの含有量は、15%以下であり、10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、7%以下が特に好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態のガラス基板において、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量は0.1〜20%が好ましい。上述の範囲であれば、ガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となり、耐候性が向上する。MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量は、0.5%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。一方、MgO、CaO、SrO、およびBaOの合計含有量が20%以下であれば、HCl、HFなどの酸性溶液およびNaOHなどのアルカリ性溶液に対する化学的耐久性が高くなる。また、失透温度を低くでき、安定して成形できる。MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、10%以下が特に好ましい。
【0048】
ZrO
2は、必須成分ではないが、含有することによりガラスの化学的耐久性が向上する。そのため、ZrO
2の含有量は、0.2%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましい。一方で、多量に含有させすぎると、溶融時に溶け残りが発生する、失透温度が上がる等、製造特性を悪化させるおそれがある。そのため、ZrO
2の含有量は5%以下であり、4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。
【0049】
Na
2Oは、必須成分ではないが、含有することにより、溶融時のガラスの粘性を下げる。また、熱膨張係数を著しく高くすることができる。そのため、Na
2Oの含有量は、3%以上が好ましく、4%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましく、6%以上がいっそう好ましく、7%以上が特に好ましく、9%以上が最も好ましい。一方、Na
2Oの含有量が20%以下であれば、耐候性を下げることなく、熱膨張を高くすることができる。Na
2Oの含有量は18%以下が好ましく、17%以下がより好ましく、16%以下がさらに好ましく、15%以下が特に好ましい。
【0050】
K
2Oは溶融時のガラスの粘性を下げる成分である。また、熱膨張係数を著しく高くすることができる。K
2Oの含有量は、5%以上であり、6%以上が好ましく、7%以上がより好ましく、8%以上がさらに好ましく、9%以上が特に好ましく、10%以上が最も好ましい。一方、K
2Oの含有量が30%以下であれば、耐候性や、耐酸性などの化学的耐久性を悪化させることなく熱膨張係数を高くすることができる。K
2Oの含有量は、28%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、19%以下が特に好ましい。
【0051】
Li
2Oは、必須成分ではないが、含有することにより熱膨張係数を高くすることができる。一方、Li
2Oの含有量が5.0%以下であれば、イオンマイグレーションにより信頼性を低下させることなく、熱膨張係数を高くすることができる。Liイオンは、イオン半径が小さく、各種熱処理を行った際に、ガラス基板から配線層やシリコンチップへのイオンマイグレーションの可能性が高くなる。そのため、Li
2Oの含有量は、4%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。
【0052】
本発明の一実施形態のガラス基板は、アルカリ金属酸化物の合計含有量(R
2O(Rはアルカリ金属であり、Li、Na、Kなどである))が10%〜30%である。アルカリ金属酸化物は、Li
2O、Na
2O、K
2Oなどであり、Na
2O、K
2Oが好ましい。アルカリ金属酸化物の合計含有量は15%以上が好ましく、17%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。また、アルカリ金属酸化物の合計含有量は26%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、23%以下が特に好ましい。
【0053】
本発明の一実施形態のガラス基板において、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量は10%〜30%が好ましい。上述の範囲であれば、熱膨張係数を高くすることができ、所望の熱膨張係数を得ることができる。さらに、30%以下とすることで、化学的耐久性が高いガラス基板を提供することができる。Na
2OおよびK
2Oの合計含有量は15%以上が好ましく、17%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。また、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量は26%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、23%以下が特に好ましい。
【0054】
本発明の一実施形態のガラス基板は、アルカリ金属酸化物の合計含有量を、SiO
2の含有量で除した値(R
2O/SiO
2)が0.50以下であり、0.4以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。R
2O/SiO
2を0.5以下とすることにより、ガラス基板の耐候性が良好となる。また、R
2O/SiO
2は、熱膨張係数を高くするという観点で、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。
【0055】
本発明の一実施形態のガラス基板は、Na
2Oの含有量を、Na
2OとK
2Oとの合計含有量からAl
2O
3の含有量を引いた値で除した値(Na
2O/(Na
2O+K
2O−Al
2O
3))が0.90以下であり、0.80以下が好ましく、0.70以下がより好ましい。[Na
2O/(Na
2O+K
2O−Al
2O
3)]が0.90以下であれば、熱膨張係数を有意に高めることができる。
ガラス中にAl
2O
3を含有させると、非架橋酸素を低減させて耐候性は向上させることができるが、熱膨張係数は低下させる傾向がある。したがって、非架橋酸素に対して結合するアルカリ種を最適化して、熱膨張係数を高めることが好ましい。アルカリ種としては、NaとKとが挙げられる。NaとKとを比較すると、Naは、電場強度が大きいため熱膨張係数を向上させる力が小さい。非架橋酸素を生じさせる実効的なアルカリ酸化物量は、[Na
2O+K
2O−Al
2O
3]に相当する量となるため、熱膨張係数を高くするためには、[Na
2O+K
2O−Al
2O
3]に対するNa
2Oの比率は小さい方が好ましい。また、[Na
2O/(Na
2O+K
2O−Al
2O
3)]は、耐候性を悪化させないという観点で、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態のガラス基板は、B
2O
3を含有してもよい。B
2O
3を含有すると、ガラス溶融時の粘性が高くなり過ぎずに溶融性が良好となる。また、失透温度を低くでき、安定して成形できる。さらに、ヤング率が高くなり、ガラス基板を製造する際の徐冷工程において発生するガラス基板の反りや割れを抑制できる。B
2O
3の含有量は、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。一方で、B
2O
3は熱膨張係数を下げる成分であるため、B
2O
3の含有量は、5%以下が好ましく、4%以下がより好ましく、3%以下が特に好ましく、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0057】
本発明の一実施形態のガラス基板は、SnO
2、SO
3、ClおよびFから選ばれる一種以上を含有してもよい。SnO
2、SO
3、ClおよびFを含有すると、泡の発生を抑制してガラス基板を製造できるため、ガラス基板に含まれる泡が少なくなる。
【0058】
本発明の一実施形態のガラス基板は、粘性や平均熱膨張係数を調整するためにZnOを含有してもよい。ZnOを含有させる場合は、2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0059】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス基板の化学的耐久性やヤング率を向上させるために、Y
2O
3、La
2O
3およびTiO
2から選ばれる一種以上を含有させてもよい。しかし、その合計含有量は、2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態のガラス基板は、紫外線透過率を高くするために、還元剤を含有させてもよい。還元剤としては、炭素、コークス等が挙げられる。還元剤を含有させる場合、その合計含有量は2%以下が好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下が特に好ましく、0.2%以下が最も好ましい。
【0061】
本発明の一実施形態のガラス基板は、脈理、着色等を考慮すると、V
2O
5、P
2O
5、CeO
2、Y
2O
3、La
2O
3、およびTiO
2を実質的に含有しないことが好ましい。
【0062】
本発明の一実施形態のガラス基板は、環境負荷を考慮すると、As
2O
3、およびSb
2O
3を実質的に含有しないことが好ましい。また、安定してフロート成形することを考慮すると、ZnOを実質的に含有しないことが好ましい。
【0063】
本発明の一実施形態のガラス基板において、各酸化物の含有量の割合の関係を表した下記式(1)によって求められる値は、110〜160が好ましい。
0.507×(SiO
2の含有量)−1.112×(Al
2O
3の含有量)+0.709×(MgOの含有量)+0.534×(CaOの含有量)−0.108×(SrOの含有量)+1.832×(BaOの含有量)+4.083×(Na
2Oの含有量)+4.449×(K
2Oの含有量)−4.532×(ZrO
2の含有量)…………(1)
【0064】
式(1)は、ガラス組成と50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1との関係を表す回帰式である。この回帰式は、SiO
2の含有量、Al
2O
3の含有量、MgOの含有量、CaOの含有量、SrOの含有量、BaOの含有量、Na
2Oの含有量、K
2Oの含有量、およびZrO
2の含有量がそれぞれ異なる約100個のガラスにおいて、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1を測定することにより得た。式(1)の値が110〜160であれば、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1を11ppm/℃〜16ppm/℃の範囲にしやすい。
【0065】
式(1)の値は、115以上が好ましく、118以上がより好ましく、120以上がさらに好ましく、125以上が特に好ましい。一方、式(1)の値が160以下であれば、熱処理工程で積層基板に発生する残留歪を小さくしやすい。式(1)の値は150以下が好ましく、145以下がより好ましく、142以下がさらに好ましく、140以下が特に好ましい。
【0066】
本発明の一実施形態のガラス基板において、各酸化物の含有量の割合の関係を表した下記式(2)によって求められる値は、100〜150が好ましい。
1.135×(SiO
2の含有量)−0.741×(Al
2O
3の含有量)+2.080×(MgOの含有量)+0.293×(CaOの含有量)−1.307×(SrOの含有量)+1.242×(BaOの含有量)+2.056×(Na
2Oの含有量)+2.464×(K
2Oの含有量)−2.982×(ZrO
2の含有量)…………(2)
【0067】
式(2)は、ガラス組成と30℃〜220℃での平均熱膨張係数α2の関係を表す回帰式である。この回帰式は、上述のガラス組成と50℃〜350℃での平均熱膨張係数α2の関係を表す回帰式(1)と同様に得た。なお、平均熱膨張係数の測定温度は30℃〜220℃とした。式(2)の値が100〜150であれば、30℃〜220℃での平均熱膨張係数α2を10ppm/℃〜15ppm/℃の範囲にしやすい。
【0068】
式(2)の値は、102以上が好ましく、110以上がさらに好ましく、115以上がより好ましく、120以上がさらに好ましい。一方、式(2)の値が150以下であれば、熱処理工程で積層基板に発生する残留歪を小さくしやすい。式(2)の値は145以下が好ましく、140以下がより好ましい。
【0069】
本発明の一実施形態のガラス基板は、素子基板との間に紫外線により分離される吸着層(剥離層)が配置される場合がある。その場合は、ガラス基板を通して紫外線を照射することにより、積層基板からガラス基板が分離される。
【0070】
本発明の一実施形態のガラス基板の厚さ1mmにおける波長360nmの透過率は、15%以上が好ましい。ガラス基板の波長360nmの透過率が15%以上であれば、紫外線を照射することにより、積層基板からガラス基板を容易に分離できる。ガラス基板における波長360nmの透過率は、20%以上がより好ましく、25%以上がさらに好ましく、30%以上が特に好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態のガラス基板の失透温度は、1150℃未満が好ましい。失透温度が1150℃未満であれば、安定して成形できる。失透温度は、1100℃以下がより好ましく、1050℃以下がさらに好ましく、1030℃以下がいっそう好ましく、1000℃以下が特に好ましく、980℃以下が最も好ましい。ガラスを製造するにあたり、失透温度は低い方が製造特性がよく、ガラスとして安定であることが示唆される。失透温度とは、白金製の皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行い、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラス表面および内部に結晶が析出しない温度の最大値である。
【0072】
本発明の一実施形態のガラス基板の失透粘性(η
TL)は、10
3.8d・Pa・s以上が好ましい。失透粘性が10
3.8d・Pa・s以上であれば、安定して成形をすることができる。失透粘性は、10
4.0d・Pa・s以上がより好ましく、10
4.2d・Pa・s以上がさらに好ましい。
【0073】
本発明の一実施形態のガラス基板は、熱伝導率を高くし、溶融性を良好とするためには、酸化物基準の質量百万分率表示で、Fe
2O
3の含有量は、200ppmを超えて1000ppm以下が好ましい。Fe
2O
3の含有量が200ppmを超えていれば、ガラス基板の熱伝導率を高くし、溶融性を良好とすることができる。Fe
2O
3の含有量が1000ppm以下であれば、可視光の吸収が小さく、着色しにくい。Fe
2O
3の含有量は300ppm以上がより好ましく、400ppm以上がさらに好ましく、500ppm以上が特に好ましい。Fe
2O
3の含有量は、800ppm以下がより好ましく、700ppm以下がさらに好ましく、600ppm以下が特に好ましい。
【0074】
本発明の一実施形態のガラス基板における、Fe
2O
3に換算した全鉄中のFe
2O
3に換算した2価の鉄の質量割合(%)(以下、Fe−Redoxという)は、20%以上が好ましい。Fe−Redoxが20%以上であれば、ガラス基板の波長400nm以下の光の透過率が高くなる。その結果、ガラス基板を通して剥離層に照射される紫外線が多くなるため、積層基板からガラス基板を容易に分離することができる。Fe−redoxは25%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、40%以上が特に好ましい。
【0075】
本発明の一実施形態のガラス基板のヤング率は、60GPa以上が好ましい。ヤング率は、超音波パルス法により測定された値である。ヤング率が60GPa以上であれば、ガラス基板を製造する際の徐冷工程において発生するガラス基板の反りや割れを抑制できる。また、半導体チップとの接触や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制できる。ヤング率は、62GPa以上がより好ましく、65GPa以上がさらに好ましい。ヤング率は、80GPa以下が好ましい。ヤング率が80GPa以下であれば、ガラスが脆くなることを抑制し、ガラス基板の切削時の欠けを抑制できる。ヤング率は、75GPa以下がより好ましく、72GPa以下がさらに好ましい。
【0076】
本発明の一実施形態のガラス基板の厚さは、2.0mm以下が好ましい。厚さが2.0mm以下であれば、ガラス基板と半導体チップとを貼り合わせた積層基板を小型化できる。ガラス基板の厚さは、1.5mm以下がより好ましく、1.0mm以下がさらに好ましく、0.8mm以下が特に好ましい。また、ガラス基板の厚さは、0.1mm以上が好ましい。厚さが0.1mm以上であれば、半導体チップとの接触や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制できる。また、ガラス基板の自重たわみを抑制できる。ガラス基板の厚さは、0.2mm以上がより好ましく、0.3mm以上がさらに好ましい。
【0077】
本発明の一実施形態のガラス基板の一つの主表面の面積は、30cm
2〜4500cm
2が好ましい。ガラス基板の面積が30cm
2以上であれば、多数の半導体チップを配置でき、後に個片化して得られる半導体デバイスの取り数を多くできるため、生産性が向上する。ガラス基板の面積は、70cm
2以上がより好ましく、170cm
2以上がさらに好ましく、300cm
2以上が特に好ましく、700cm
2以上が最も好ましい。ガラス基板の面積は、4500cm
2以下であれば、ガラス基板の取り扱いが容易になる。また、貼り合わせる半導体チップとの接触による破損や、ガラス基板の運搬時の周辺部材との接触による破損を抑制できる。ガラス基板の面積は、3500cm
2以下がより好ましく、2500cm
2以下がさらに好ましく、1700cm
2以下が特に好ましく、800cm
2以下が最も好ましい。
【0078】
本発明の一実施形態のガラス基板は、形状は特に限定されず、円形であってもよく、矩形であってもよく、ガラス基板の端にノッチやオリフラがあってもよい。円形の場合、外周の一部が直線であってもよい。なお、円形とは真円に限らず、直径が同一の真円からの寸法差が50μm以下である場合を含む。ガラス基板が円形の場合は、既存の半導体基板と形状が同一または類似であるため、半導体基板を取り扱う設備での流動性がよく好ましい。ガラス基板が矩形の場合は、半導体チップを無駄な隙間なく配置することができる。その結果、半導体デバイスの取り数を増やすことができるため好ましい。
【0079】
本発明の一実施形態のガラス基板が円形である場合において、ガラス基板の直径は、7cm以上が好ましい。直径が7cm以上であれば、ガラス基板と素子基板との積層基板から、多くの半導体デバイスを得ることができ、生産性が向上する。直径は10cm以上がより好ましく、15cm以上がさらに好ましく、20cm以上が特に好ましく、25cm以上が最も好ましい。直径は50cm以下であることが好ましい。直径が50cm以下であれば、ガラス基板の取り扱いが容易である。直径は45cm以下がより好ましく、40cm以下がさらに好ましく、35cm以下が特に好ましい。
【0080】
本発明の一実施形態のガラス基板が矩形である場合において、一辺は30cm以上が好ましく、40cm以上がより好ましく、50cm以上がさらに好ましく、60cm以上が特に好ましい。また、長方形が好ましい。長方形の場合、短辺は上述の数値が好ましく、長辺は40cm以上が好ましく、50cm以上がより好ましく、60cm以上がさらに好ましく、70cm以上が特に好ましい。
【0081】
本発明の一実施形態のガラス基板の密度は、3.00g/cm
3以下が好ましい。密度が3.00g/cm
3以下であれば、ガラス基板が軽量となり、ガラス基板の取り扱いが容易になる。また、ガラス基板の自重によるたわみを低減できる。密度は、2.80g/cm
3以下がより好ましく、2.70g/cm
3以下がさらに好ましい。また、密度は、2.30g/cm
3以上が好ましい。密度が2.30g/cm
3以上であれば、ガラスの硬度(例えばヌープ硬度やビッカース硬度)が高くなり、ガラス表面に傷をつき難くすることができる。密度は、2.35g/cm
3以上がより好ましく、2.40g/cm
3以上が特に好ましい。
【0082】
本発明の一実施形態のガラス基板のβ−OHは、0.05mm
−1〜0.65mm
−1であることが好ましい。β−OHは、本発明の一実施形態のガラス基板中の水分含有量を示す指標である。β−OHを0.05mm
−1以上にすることによって、ガラス基板を製造する際の泡の発生を抑制でき、得られたガラス基板の泡が少なくなる。β−OHは、0.1mm
−1以上がより好ましく、0.15mm
−1以上がさらに好ましく、0.17mm
−1以上が特に好ましい。一方、β−OHを0.65mm
−1以下にすることによって、耐熱性を高めることができる。β−OHは、0.55mm
−1以下がより好ましく、0.5mm
−1以下がさらに好ましく、0.45mm
−1以下が特に好ましい。ここで、β−OHは、以下の式により求められた値である。
β−OH(mm
−1)=−log
10(T
3500cm
−1/T
4000cm
−1)/t
上記式において、T
3500cm
−1は、波数3500cm
−1の光の透過率(%)であり、T
4000cm
−1は、波数4000cm
−1の光の透過率(%)であり、tは、ガラス基板の厚さ(mm)である。
【0083】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス基板の表面に、厚さ0.1nm〜1000nmのLi、Na、Kなどのアルカリ金属成分に対してバリア性能を有する薄膜(以下、バリア膜ともいう)を有してもよい。バリア膜としては、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、酸窒化ケイ素膜、酸化アルミニウム膜、酸化ジルコニウム膜、酸化チタン膜、酸化タンタル膜、フッ化マグネシウム膜から選ばれる単層膜、またはこれらの膜が2層以上からなる多層膜などが挙げられる。また、バリア膜の成膜方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばスパッタ法やCVD法、蒸着法、ゾルゲル法、原子層堆積法(ALD法)などが挙げられる。バリア膜を形成することで、Li、Na、Kといったアルカリ金属成分の溶出を防止し、基板表面の変質(ヤケ)を抑制することができる。
【0084】
本発明の一実施形態のガラス基板は、ガラス基板の少なくとも一つの主表面に遮光膜を有することが好ましい。ガラス基板の主表面に遮光膜が形成されることで、ガラス基板や積層基板の検査工程において、ガラス基板や積層基板の位置を検出しやすい。ガラス基板や積層基板の位置は、ガラス基板や積層基板に光を照射することによる反射光で特定され、検出される。ガラス基板は光を透過しやすいため、ガラス基板の主表面に遮光膜を形成することにより、反射光が強くなり、位置を検出しやすくなる。遮光膜は、Tiを含むことが好ましい。
【0085】
本発明の一実施形態のガラス基板のガラス転移点(Tgとも記す)は、420℃以上が好ましい。Tgが420℃以上であれば、熱処理工程でガラス基板の寸法変化を抑制できる。Tgは、440℃以上がより好ましく、460℃以上がさらに好ましく、480℃以上が特に好ましい。
【0086】
本発明の一実施形態のガラス基板において、粘度が10
2d・Pa・sとなる温度(以下、T
2とも記す)は、1500℃以下が好ましい。T
2が1500℃以下であれば、溶融性が良好である。T
2は、1450℃以下がより好ましく、1400℃以下がさらに好ましく、1380℃以下が特に好ましい。
【0087】
本発明の一実施形態のガラス基板において、粘度が10
4d・Pa・sとなる温度(以下、T
4とも記す)は、1100℃以下が好ましい。T
4が1100℃以下であれば、成形性が良好である。T
4は、1050℃以下がより好ましく、1025℃以下がさらに好ましく、1000℃以下が特に好ましい。
【0088】
本発明の一実施形態のガラス基板は、化学強化されていてもよい。化学強化されたガラス基板であれば、ガラス基板の強度が向上し、接触などでガラス基板が破損するのを防ぐことができる。
本発明の一実施形態のガラス基板は、化学強化されていなくてもよい。化学強化されていないガラス基板であれば、ガラス基板が反るのを有意に防ぐことができる。
【0089】
次に、本発明の一実施形態に係る積層体について説明する。
本発明の一実施形態の積層体は、上記積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成される。本発明の一実施形態の積層基板を、例えば、半導体バックグラインド用のサポートガラスとして用いる場合に、積層基板の厚さを薄くするために、ガラス基板とシリコン基板とを貼り合わせた後に、ガラス基板を研磨する。
【0090】
本発明の一実施形態の積層体は、積層基板を構成するガラス基板に他のガラス基板を貼り合わせることにより形成されているため、ガラス基板を研磨する代わりに他のガラス基板を剥離することによって、積層体の厚さを薄くすることができる。例えば、任意の厚さのガラス基板を有する積層基板に対して、該ガラス基板の半分の厚さのガラス基板2枚を有する積層体は、ガラス基板の1枚を剥離することによって、研磨せずとも積層基板の厚さよりも薄くすることができる。また、任意の厚さのガラス基板を有する積層基板のたわみ量は、該ガラス基板の半分の厚さのガラス基板を2枚積層した積層体のたわみ量よりも大きい。所望の厚さのガラス基板を所望の枚数積層して積層体を形成することで、積層体のたわみ量を小さくすることができる。
【0091】
次に、本発明の一実施形態のガラス基板の製造方法について説明する。
本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、溶融、清澄、成形、徐冷、および切断の各工程を経る。
【0092】
溶融工程では、所望のガラス組成となるように原料を調製し、原料を溶融炉に投入し、好ましくは1450℃〜1650℃程度に加熱して溶融ガラスを得る。
原料には酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物が使用され、塩化物のようなハロゲン化物なども使用できる。溶融工程や清澄工程で溶融ガラスが白金と接触する工程がある場合、微小な白金粒子が溶融ガラス中に溶出し、得られるガラス板中に異物として混入してしまう場合があるが、硝酸塩原料はこの白金異物の溶出を防止する効果があるため、使用することが好ましい。硝酸塩としては、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウムなどを使用できる。硝酸ストロンチウムを使用することがより好ましい。原料の粒度は、溶け残りが生じない程度の数百ミクロンの大きな粒径の原料から、原料搬送時の飛散が生じない、二次粒子として凝集しない程度の数ミクロン程度の小さな粒径の原料まで、適宜使用できる。造粒体の使用も可能である。原料の飛散を防ぐために、原料含水量も適宜調整可能である。また、β−OH、Feの酸化還元度またはレドックス[Fe
2+/(Fe
2++Fe
3+)]などの溶融条件も適宜調整できる。
【0093】
清澄工程として、減圧による脱泡法を適用してもよい。また、本発明の一実施形態のガラス基板は、清澄剤としてSO
3やSnO
2を用いることができる。SO
3源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の硫酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の硫酸塩がより好ましく、中でも、CaSO
4・2H
2O、SrSO
4、およびBaSO
4が、泡を大きくする作用が著しいため好ましい。減圧による脱泡法における清澄剤としては、ClやFなどのハロゲンを使用するのが好ましい。Cl源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれる少なくとも1種の元素の塩化物が好ましく、アルカリ土類金属の塩化物がより好ましく、中でも、SrCl
2・6H
2O、およびBaCl
2・2H
2Oが、泡を大きくする作用が著しく、かつ潮解性が小さいため、特に好ましい。F源としては、Al、Mg、Ca、SrおよびBaから選ばれた少なくとも1種の元素のフッ化物が好ましく、アルカリ土類金属のフッ化物がより好ましく、中でも、CaF
2が、ガラス原料の溶融性を大きくする作用が著しいため、より好ましい。
【0094】
成形工程では、溶融ガラスを溶融金属上に流して板状にしてガラスリボンを得る、フロート法が適用される。
徐冷工程では、ガラスリボンを徐冷する。
切断工程では、徐冷後、ガラスリボンを所定の大きさに切断し、ガラス基板を得る。
【0095】
本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良等は本発明に含まれる。
例えば、本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、成形工程で、フュージョン法やプレス成形法などを適用して溶融ガラスを板状にしてもよい。
【0096】
また、本発明の一実施形態のガラス基板を製造する場合、白金坩堝を用いてもよい。白金坩堝を用いた場合、溶融工程は、得られるガラス基板の組成となるように原料を調製し、原料を入れた白金坩堝を電気炉に投入し、好ましくは1450℃〜1650℃程度に加熱し、白金スターラーを挿入し1時間〜3時間撹拌して溶融ガラスを得る。
【0097】
また、切断して得られたガラス基板を、例えばTgよりも50℃程度高い温度となるように加熱した後、室温状態まで徐冷してもよい。このようにすることで、得られるガラス基板の残留歪を取り除くことができる。
【0098】
また、本発明の一実施形態に係るガラス基板は、貫通孔を有するガラス基板(ガラスインターポーザ;GIP)として用いてもよい。GIPを用いる貫通ガラスビア(TGV)技術では、例えば、200℃〜400℃の温度でGIPの一方の主表面にシリコン基板が貼り合わされ、GIPの他の一方の主表面に、ポリイミド樹脂に銅等により配線して構成される配線基板が貼り合わされ、シリコン基板と配線基板とはガラス基板の貫通孔を介して銅線等により接続される。なお、ガラス基板からのアルカリ成分の拡散を防ぐために、貫通孔を有するガラス基板の表面に絶縁層を形成してもよい。
【0099】
本発明の一実施形態に係るガラス基板は、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11〜16ppm/℃であるので、GIPとして用いた場合に、熱処理工程でガラス基板、素子基板、配線基板、および配線に発生する残留歪を小さくできる。
【0100】
また、本発明の一実施形態に係るガラス基板は、SAWやFBARなどの高周波フィルタのキャップ材として用いてもよい。
例えば、本発明の一実施形態に係るガラス基板を、SAWフィルタのキャップ材に適用する場合を説明する。キャップ材は、内部に隙間を確保するように、圧電性基板(例えば、LiTaO
3)と積層され、積層基板を構成する。圧電性基板の一方の主表面上には、櫛歯電極が設けられている。キャップ材は、櫛歯電極が隙間に位置するように、圧電性基板と積層される。キャップ材と圧電性基板の接合部には、適宜接合材を設けてもよい。SAWフィルタの製造においても、配線や半田バンプを形成する際などに熱処理が行われる。圧電性基板として代表的に用いられるLiTaO
3単結晶基板は、平均熱膨張係数(結晶ZX方向の平均値)がおよそ12ppm/℃である。キャップ材に本発明の一実施形態のガラス基板を適用することで、熱膨張係数の差を小さくすることができるため、熱膨張係数のミスマッチによる変形・破損などを防ぐことができる。特に、SAWフィルタの場合は、積層基板の変形により櫛歯電極の配線ピッチが変化すると、周波数特性が悪くなるなどの不良が起こり得る。本発明の一実施形態のガラス基板を適用することで、製品としての不良を防止でき、信頼性を向上できる。
【0101】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態のガラス基板は、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO
2の含有量が55%〜75%、K
2Oの含有量が5%〜30%、Li
2Oの含有量が0%〜5.0%であり、Na
2Oの含有量を、Na
2OとK
2Oの合計含有量からAl
2O
3の含有量を引いた値で除した値が0.90以下であり、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が12.0ppm/℃〜16ppm/℃である、半導体パッケージ用の支持基板である。
上記のようなα1の範囲とすることで、貼り合わせる側の熱膨張係数がより高い場合でも、支持基板として好適に機能することができる。
第2の実施形態のガラス基板には、第1の実施形態の構成を適宜組み合わせることができる。なお、具体的な構成の説明は第1の実施形態の説明が準用できるため、省略する。
【0102】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態のガラス基板は、ヌープ硬度が500以下であり、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11ppm/℃〜16ppm/℃である、半導体パッケージ用の支持基板である。
ガラス基板を半導体パッケージ用の支持基板として使用する場合、対象物と良好に貼り合わせるために、最適な板厚偏差が求められることが多い。ガラス基板の板厚偏差の調整には、研削・研磨などの加工が行われる。研削・研磨などの加工を行う場合、ガラス基板の硬度は低いことが好ましい。ガラス基板の硬度が低い方が、加工レートが高くなり、板厚偏差の調整のスループットが向上するからである。特に、本発明の一実施形態のガラス基板のように、熱膨張係数が高い場合は硬度が低い方が好ましい。熱膨張係数が高いガラス基板は、加工レートを高めるために研削・研磨の負荷を高めると、温度が上昇し、局所的に熱応力が発生し、割れる恐れがある。したがって、熱膨張係数が高いガラス基板は、硬度(例えばヌープ硬度やビッカース硬度)がより低いことが好ましい。
【0103】
ヌープ硬度を500以下とすることで、ガラス基板の加工レートを十分高くすることができる。ヌープ硬度は、480以下がより好ましく、460以下がさらに好ましい。一方で、ヌープ硬度が低すぎるとガラス基板が傷つく、ガラス基板が欠けてプロセス中にガラスの破片が混入し、その後に流動されるガラス基板に傷がつくことにより強度の低下や外観不良を起こすなどの恐れがある。そのため、ヌープ硬度は、400以上が好ましく、420以上がより好ましい。ヌープ硬度が400以上であれば、ガラス基板表面に傷をつき難くすることができる。
【0104】
第3の実施形態のガラス基板には、第1の実施形態および/または第2の実施形態の構成を適宜組み合わせることができる。例えば、第3の実施形態のガラス基板は、母組成として、
SiO
2 :55%〜75%、
Al
2O
3 :2%〜15%、
MgO :0%〜10%、
CaO :0%〜10%、
SrO :0%〜10%、
BaO :0%〜15%、
ZrO
2 :0%〜5%、
Na
2O :0%〜20%、
K
2O :5%〜30%、
Li
2O :0%〜5.0%、
を含むことで、高い熱膨張係数を有し、ヌープ硬度が十分に低いガラス基板とすることができる。
なお、具体的な構成の説明は第1、2の実施形態の説明が準用できるため、省略する。
【0105】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態のガラス基板は、光弾性定数が10〜26nm/cm/MPaであり、50℃〜350℃での平均熱膨張係数α1が11ppm/℃〜16ppm/℃である、半導体パッケージ用の支持基板である。
【0106】
光弾性定数Cは、12nm/cm/MPa以上が好ましく、13nm/cm/MPa以上がより好ましい。また、光弾性定数Cは、25nm/cm/MPa以下が好ましく、23nm/cm/MPa以下がより好ましく、20nm/cm/MPa以下が特に好ましい。
光弾性定数Cを10nm/cm/MPa以上とすることで、ガラス基板の自重たわみを抑えることができる。その結果、ガラス基板を半導体パッケージ用の支持基板として用いた際に、たわみによる搬送工程の不良などを防ぐことができる。光弾性定数Cが10nm/cm/MPa以上であれば、SrOやBaOといった成分を多くしすぎる必要がないため、ガラスの比重が大きくなりすぎ、ガラス基板がたわむなどの不良を防ぐことができる。また、失透性が高くなるのを防ぐことができる。
光弾性定数Cを26nm/cm/MPa以下とすることで、複屈折を十分小さくすることができる。具体的には、光弾性定数Cが26nm/cm/MPa以下であれば、樹脂との熱膨張係数差によりガラス基板に応力が発生した場合やガラス基板に残留応力が存在した場合でも、ガラス基板の複屈折を十分小さくできる。特に熱膨張係数が11ppm/℃以上と高いガラス基板は、熱膨張係数が低いガラス基板と比べて、残留応力が大きくなる恐れや生成する熱応力が大きくなる恐れがある。したがって、熱膨張係数が11ppm/℃以上と高いガラス基板は、複屈折を十分小さくするため、熱膨張係数が低いガラス基板に比べて光弾性定数をより小さくすることが好ましい。複屈折を十分小さくすることで、コヒーレント光であるレーザ光を照射する工程(厚さの精密センシング、剥離工程)での不良を防ぐことができる。
【0107】
第4の実施形態のガラス基板には、第1の実施形態、第2の実施形態および/または第3の実施形態の構成を適宜組み合わせることができる。例えば、第4の実施形態のガラス基板は、母組成として、
SiO
2 :55%〜75%、
Al
2O
3 :2%〜15%、
MgO :0%〜10%、
CaO :0%〜10%、
SrO :0%〜10%、
BaO :0%〜15%、
ZrO
2 :0%〜5%、
Na
2O :0%〜20%、
K
2O :5%〜30%、
Li
2O :0%〜5.0%、
を含むことで、高い熱膨張係数を有し、好ましい範囲の光弾性定数を有するガラス基板とすることができる。
なお、具体的な構成の説明は第1、2および3の実施の形態の説明が準用できるため、省略する。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。例1〜10、12〜17、19〜24は第1の実施形態の実施例であり、例11、18、25は第1の実施形態の比較例である。例1〜10、12、15〜17、19〜24は第2の実施形態の実施例であり、例11、18、25は第2の実施形態の比較例である。また、例13〜15、17、21〜24は第3の実施形態の実施例であり、例25は第3の実施形態の比較例である。また、例14、18、22、23は第4の実施形態の実施例であり、例25は第4の実施形態の比較例である。
【0109】
表1および表2に示すガラス組成となるように、珪砂等の各種のガラス原料を調合し、該目標組成の原料100%に対し、酸化物基準の質量百分率表示で、硫酸塩をSO
3換算で0.1〜1%、Clを0.1〜1%添加し、白金坩堝を用いて1550〜1650℃の温度で3時間加熱し溶融した。
溶融にあたっては、白金スターラーを挿入して1時間撹拌し、ガラスの均質化を行った。次いで、溶融ガラスを流し出し、板状に成形後、板状のガラスをTgよりも50℃程度高い温度の電気炉に入れ、1時間保持した後、冷却速度1℃/分で電気炉を降温させ、ガラスが室温になるまで冷却した。
【0110】
得られたガラスの50℃〜350℃の平均熱膨張係数(単位:ppm/℃)、30℃〜220℃の平均熱膨張係数(単位:ppm/℃)、密度(単位:g/cm
3)、ヤング率(単位:GPa)、Tg(単位:℃)、T
4(単位:℃)、T
2(単位:℃)、および失透温度(単位:℃)を測定し、表1および表2に示した。以下に各物性の測定方法を示す。
【0111】
(平均熱膨張係数)
JIS R3102(1995年)に規定されている方法に従い、示差熱膨張計(TMA)を用いて測定した。測定温度範囲は、50℃〜350℃および30℃〜220℃とした。
【0112】
(密度)
泡を含まない約20gのガラス塊を用い、アルキメデス法により密度を測定した。
【0113】
(ヤング率)
厚さ0.5〜10mmのガラスについて、超音波パルス法によりヤング率を測定した。
【0114】
(Tg)
JIS R3103−3(2001年)に規定されている方法に従い、TMAを用いてTgを測定した。
【0115】
(T
4)、(T
2)
回転粘度計を用いて粘度を測定し、粘度が10
4d・Pa・sとなるときの温度T
4(℃)を測定した。また、粘度が、10
2d・Pa・sとなるときの温度T
2(℃)を測定した。
【0116】
(失透温度)
白金製皿に粉砕されたガラス粒子を入れ、一定温度に制御された電気炉中で17時間熱処理を行った。そして、熱処理後の光学顕微鏡観察によって、ガラス表面および内部に結晶が析出しない温度の最大値を失透温度とした。
【0117】
(ヌープ硬度)
ヌープ硬度は、鏡面研磨した、ガラスを試料として用い、JISZ2251:2009に従って、試験力100gf(0.9807N)で試験を行った。
(光弾性定数)
窯業協会誌vol.87No.10(1979)p519 に記載の円板圧縮法にて測定した。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
例1〜10、12〜17、19〜24は、十分に高い熱膨張係数を有することがわかった。また、例1〜10、12、15〜17、19〜24はより高い熱膨張係数を有し、半導体パッケージ用の支持基板により好適であることがわかった。例13〜15、17、21〜24は、半導体パッケージ用の支持基板に好適であるヌープ硬度を有していることがわかった。例14、18、22、23は、半導体パッケージ用の支持基板に好適である光弾性定数を有していることがわかった。